お茶の間 de 映画
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2004年11月18日(木) 「クロウ/飛翔伝説」これほど切なく哀感漂う詩的な仇討ち物語が他にあろうか。プロヤスらしい美意識と愛に溢れている。

『クロウ/飛翔伝説』【The Crow(カラス)】1994年・米
監督:アレックス・プロヤス
原作:ジェームズ・オバー
脚本:デイヴィッド・J・スコウ
   ジョン・シャーリー
撮影:ダリウス・ウォルスキー
音楽:グレーム・レヴェール

俳優:ブランドン・リー(エリック)
  アーニー・ハドソン(アルブレヒト巡査)
  マイケル・ウィンコット(悪の親玉ダラー)
  ロシェル・デイヴィス(サラ)
  デイヴィッド・パトリック・ケリー(Tバード)
  バイ・リン(ダラーの女)
  ローレンス・メイソン(ティンティン)
  マイケル・マッサー(ファンボーイ)
  ソフィア・シャイナス(エリックの婚約者シェリー)
  アンナ・トムソン(サラの母ダーラ)
  ジョン・ポリト(質屋ギデオン)
  トニー・トッド(ダラーの側近グランジ)

ストーリー用ライン


いつか、どこかの荒廃しきった都市。
時はハロウィン(万聖節)を翌日に控えた10月30日。
近年は忌まわしくも「悪魔の日」などと呼ばれるようになった。
犯罪組織が大がかりな放火を繰り返すからだ。

今夜も昨年と同じように街のあちこちに火の手があがり、荒んだ街を焼く炎が夜空を焦がす。
そしてあちこちで罪なき人々が殺戮される。

若い愛し合うカップル、エリックとシェリーも、犠牲者となった。
エリックは撃たれ、墜落して即死。
シェリーは輪姦されナイフで切りつけられ、苦しんだ果てに帰らぬ人となった。
2人は明日、挙式の予定だったのに。無惨に荒らされた部屋に、
純白の花嫁衣装が哀しく遺されていた・・・・。

巡査のアルブレヒトはこの悲惨な現場に駆けつけた少女、サラを
保護した。サラはろくでなしの母親のかわりにあの2人が家族同然に可愛がってくれていたのだった。

警察はまるで捜査などする気がない。
アルブレヒトは落胆する。

一年が過ぎた夜。
死の国の使者、カラスに導かれ、エリックは冷たい土の下から蘇った!!
カラスに導かれ、廃墟となった我が家にたどり着いたエリック。
蘇る忌まわしい記憶。

エリックは復讐の鬼と化した。
黒装束に着替え、道化のように白塗りに黒で化粧をすると、
カラスの導きに従って、愛しいシェリーを辱め惨殺した者たちを
地獄に送るため、夜空を翔け、路地を影のように走る!

やがて、チンピラたちの背後に浮かび上がる犯罪組織。
街を裏で牛耳るダラー一味を壊滅するまで、この復讐は終わらない!!

エリックの心は闇より暗かった。
だが、こんな汚れた街で、澄んだ魂のまま逞しく生きていたサラに再会する。
サラを守るためにも、悪を滅ぼさねば。

腐敗しきった警察組織からはじき出された正義漢、アルブレヒト元巡査の協力も得て、エリックは風のように悪を斬ってゆくのだが、
不死身のはずのエリックに弱点があることを、ダラーの女に
見破られてしまう・・・!!

救われない魂に安らぎのときは訪れるのだろうか・・・・。

コメント用ライン


ブルース・リーの遺児、ブランドン・リーの撮影中の事故死により、これが彼の遺作となってしまった。享年28歳。
作品は彼に捧げられている。

復讐ものは映画の伝統的ジャンルの1つだが、
大きくわけて、ドラマ系(頭脳戦で社会的に破滅させる、あるいは追いつめて殺す)と、アクション系(直接、武力行使で殺す)にわかれる。

そして、ドラマ系は大抵、重苦しいシリアスで陰惨な方向性の
ものが多くなる。
アクションの場合、ひたすら深刻にバイオレンスと非痛感を極めるか(「マッドマックス」「ブルドッグ」系)、胸くそ悪ぃ奴らをブっとばせぇ!と
ハデハデな銃撃戦や笑える武器の登場でコミカルな方向にもっていく爽快系(「デスペラード」系)に大きく二分される。

この「クロウ/飛翔伝説」は、悪役が凶悪というよりむしろ、人間離れした不気味さ(金が目当てではない愉快犯)で、そこはやっぱりアメコミの悪役だなぁと楽しい感じだが、主人公はひたすらに
哀感が漂う。

他の作品と明らかに違うのは、やはり正義の主人公が、生身でもなく、科学的な能力を身につけた超人でもなく、限りなく神秘的な
「棺桶から生き返った死者」だというところ。
ゾンビだが、腐ってもいないし身のこなしは(初めをのぞき)、
闇を縫うカラスのごとく流麗で、闇の妖精のごとし。

ダークヒーロー、エリックは生前、恋人が愛撫してくれたエリックとしての顔を捨て、容赦なき地獄の使者となるべく白塗りの化粧をし、復讐のために立ち上がる。

ブーツに皮のロングコートという闇の使者の出で立ちだが、
空を舞う死に神のように軽やかで鋭い流麗な身のこなしに
見惚れてしまう。

ドスン!ドカン!というゴツいマッチョマンの足音ではない。
オルタナティヴ、グランジミュージックに乗って駆け抜ける。

銃撃戦もあり、二丁拳銃使いのシーンもあるが、不思議と絶妙に
軽やかだ。その軽やかさは、血しぶきを極力避ける監督のセンスかもしれない。

目玉をえぐりとるなど残忍なシーンは、描写されない。
レイプシーンも、目を覆いたくなるほど酷いことがあったのだと十二分に推測させながら、生々しい現場は描かない。

「ダークシティ」といい、本作といい、プロヤス監督の創る
近未来テイストだがレトロな街並み、夜陰が支配する闇の世界を
舞台としたダーク・ファンタジーは実に美しい。

美意識と愛のある映画は素晴らしい。

この映画が、荒んだおどろおどろしい復讐劇に終わらないのは、
「愛」が全面に押し出されているからだ。
「死者への変わらぬ愛(サラの、エリック&シェリーへの愛、エリックのシェリーへの愛)」「死してなお、自分(エリック)が生きている者(サラ)から愛されている切ない喜び」「死者からの愛(シェリーも死してもなおエリックを愛している、2人は死の世界からも、サラを見守っていることを推測させるラスト)」

不覚にも美しく温かいラストシーンに泣けてしまった。
カラスの名演にも拍手である。

ブランドンの非業の死と重なって、全編が濃厚なタナトスに支配されている作品だが、微塵の不吉さも忌まわしさも残らない。

白塗りに黒メーク、貞子よろしくすだれのように垂れた夜露に
濡れた髪。よく考えるとかなり怖いはずだし、可笑しくすらあるはずの風貌なのに(他の誰かがやったらば)、
ブランドン・リーの圧倒的な「悲しみ」のオーラと演技力が、
コミカルにも気色悪くも感じさせない。

表情を殺すための化粧が、かえって嘆きの強さを伝えている。

「デスペラード」のようにギターを抱えたミュージシャンだが、
エリックはロッカー。エレキギターだ。
(ちなみに、エレキギターやギターケースから銃弾飛び出たりはしませんよ〜)


ほとんど彼のシーンは撮り終えていたので、デジタル合成で
完成させたという。空砲のはずの銃に実弾が混ざっていたという
なんとも怪しげな「事故」で帰らぬひととなってしまった
ブランドンへの追悼の想いが、丁寧な編集から伝わってくるようだ。

驚いたことに、まだDVD化されていない。
かほどに美しい作品、是非DVD化して後生に残してほしい。
アマゾンで、DVD化されたらお知らせする、というフォームがあったので申し込んだ。
時期は未定ではあるいが、まったく計画がないってわけでもないようだ。


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ルー [MAIL] [HOMEPAGE]

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