奥さんが胃の手術をし、介護しなくてはならず、長期休暇を取ることになり、役職を降りた元マネージャーが売り場に復帰した。
大掛かりな開腹手術後だけに、そうそう容易に体力が回復するわけでもなく、完全に健康体と呼べるようになるまではまだまだ時間がかかりそうだ。それでも、できる範囲で家事に取り掛かっているようで、元マネは早番のみの勤務での復帰だ。
元マネの後任は30代前半の人で、始終動き回っており、居所をつかむのが難しい。
若さゆえのフットワークの良さか、と最初こそ好意的に見ていたのだが、動き回っている割には彼がなにをしているのか皆目見当がつかない。
内線電話を携帯しているから、と言って、行く先も告げずに売り場を離れ、どこで何をしているのかわからない状態。売り場が混む時間でも、自分の作業があればそちらを優先させる、そのマイペースぶりに売り場の皆が少々辟易し始めた。
K嬢はマネージャーが不在の間、庶務をこなし、代行としてがんばってきたのだが、新しいマネージャーが来て、ほっと肩の荷を下ろしたと思ったのに、彼が全く雑用関係をやらないので、結局今までどおりやらなくてはならなくなり、人が増えたのに残業が増える、と言うおかしな現象にも見舞われている。
元マネは復帰してひとこと目に、
「どう?誰かと誰かがケンカしてるとかそう言うことはない?」
と尋ねてきた。
「僕がいない間に、何が心配かって、人間関係が一番心配でねえ」
久しぶりの社会復帰で、自分がペースを取り戻す方が大変だと思うのだが、元マネはまずは全体を見回している。
「お休みとかどうなの?きちんと取れてる?」
有休も、土日の休日設定も快くやってくれた元マネと違い、今度のマネージャーは有休を申請したら露骨にいやな顔をされた。
もちろん土日に休みを設定してくれるなんてこともない。
「僕のほうからも言っておくけど、どんどん遠慮しないで申請して構わないんだからね」
マネージャー職を降り、立場としては近くなったのだけれど、その配慮はマネージャー然としている。
それが年齢・経験によるものなのか、といえば、もって生まれた気質だと思う。
入社して丸4年になるというのに、いまだに商品に関しての知識があやふやな所があるあたしに、いろいろと教えてくれる。
今のあたしがあるのは彼のおかげといっても過言ではない。
願わくば次回の異動で、残って欲しいものだが、元マネとしては自宅から近い店舗に異動できるのが良いのだろう。
いつまでも甘えてはいられないなあ。
一緒にいられる間にできるだけいろんなことも吸収しておかなければ。
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