「聞いた?A沢さんのこと」
出勤して開口一番、Yさんに尋ねられる。
「え?何のこと?」
全く予想もつかないが、他店に異動して行って、あまり関わりのない人が話題にのぼると言ったらあまりいいことではないに決まっている。
「昨日ね、仕事中に倒れて亡くなったんだって」
あまりのことに朝から悪ふざけも過ぎる、と思うほど驚いたあたしは、
「えーっ・・・?」
と驚きの声しか出なかった。
「救急車で運ばれる途中に亡くなったらしいわよ」
あたしが入社したときの衣料の統括マネージャーだったA沢さん。
入社したばかりの頃、何かと声をかけてくれたり、お客が来ない売り場で、手持ち無沙汰にしているあたしに、厳しく商品整理を教えてくれたり、普段はお茶らけてばかりなので、親しみやすく、誰からも慕われている人だった。
会うたびにニコニコとしていたその笑顔、
「売り場に一歩出たらあなたたちは女優なの!どんなに悲しいことや嫌なことがあってもそんなことはお客様には関係ない。にこやかにしていなくちゃいけないの!それが接客業って言うものだし、それができない、苦手だって言うなら、接客業は向いてないの」
接客のレクチャーの時に、熱弁を振るっていたその姿を思い出す。
生前、
「どうせ死ぬならポックリ逝きたいなあ」
と言っていた、と言う話を聞き、本当にポックリ逝っちゃったんだね、洒落になってないよ、笑えないし、とバイトの女の子と話した。
短い間に本当にいろんな事を教えていただいた。
優しく、時には厳しく。
思い出すと涙がこぼれそうになる。
でも、泣くのはやめよう。泣いたらきっと叱られる。
笑顔で売り場で働くことが良い供養になるだろうから。
心からご冥福をお祈りいたします。
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