夕方、開けた窓から緑の匂いがする。こんな匂いのしていた、いろんな日のことを思い出す。学校からの帰り道。旅先の街路樹。あとからあとから流れ出してきて止まらない。しばし呆然としてしまう。近所の金魚屋に新しく出目金の水槽が増える。黒い小さな出目金。そういえば小さい頃、縁日の金魚すくいでは、赤い金魚に混じってまばらに泳ぐ出目金ばかり狙っていた。あれもたしか、こんな匂いのする夕方のことだった。