日々雑感
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2002年09月08日(日) 『谷内六郎展覧会』

古本屋で『谷内六郎展覧会』(新潮文庫)がそろっているのを見つける。5冊シリーズのうち「春」は手元にあるので、「冬・新年」「夏」「秋」と購入。もうひとつ「夢」は後で買いにくることにする。嬉しい。

実家にこの文庫シリーズがあり、大好きでよく読んでいた。しかし、いつの間にか一冊、また一冊と消えていって(本には、そういうことがよくある)、残ったのは「春」一冊のみ。文庫自体も絶版になっているらしい。

「週刊新潮」の表紙で知られる谷内六郎さんの画文集。絵はもちろんだが、添えられた文章もすばらしくよい。1ページにも満たない短い文章なのだが、それだけで一編の詩、随筆、あるいは短編小説、何しろ完成された密度の濃い作品を読むような気にさせられる。

「童画」「メルヘン画」などと言われることが多く、確かにそうではあるのだが、絵にも文章にも、それらの言葉からつい連想してしまうような甘さは全然ない。子どもの頃は、訳のわからないものがたくさんあった。名前や解釈が与えられる前の、混沌とした世界の恐ろしさ。夕暮れの街の得体のしれない不安、お祭りの不気味さ、海鳴りや風の音の不思議、それらが「訳のわからない」ままに描かれている。子どものまなざしを借りながら(絵の中に登場するのは、ほとんどが子どもである)、感傷ではなく、もっと透徹した目で世界の底知れない深みを見つめている。改めて読み返しながら、すごいなあと思う。

夕方、実家から荷物が届く。開けてみると、家の匂いがする。


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