日々雑感
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2001年11月30日(金) 「なつかしい」

調べものがあって中央図書館へ行く。電車に乗って数駅。平日の午後だが人が多い。安部公房の『死に急ぐ鯨たち』があったので借りる。

帰りは歩く。図書館からうちの最寄り駅までは緑道がつづいている。細い道の両脇には木々が並び、春には桜が咲く。藪の中から猫が出てくることもある。この道は以前川が流れていたところを埋め立てたあとらしい。ゆるやかに蛇行しながらつづく道に、かつての川の姿を想う。

今日は風が強く、空気もなんだかぼやぼやしている。嵐がやってくる前みたいだ。葉っぱもたくさん舞っている。

いつもの銭湯へ行く。銭湯の隣には小さな豆腐屋があって、おじいさん、おばあさんの二人が切り盛りしている。日が暮れると白熱灯がともって、ぼんやりした光の中に豆腐やおから、がんもどき、厚揚げなどが浮かび、お客さんも集まってくる。昼間はあまり感じないのだが、夕方頃にこの店の前を通ると、いつもなつかしい感じがする。

「なつかしい」って何だろう。かつて知っていたもの、けれども今はここにないものに対する感情か。しかし、過去に一度も見聞きしたことのないものに対して「なつかしい」と感じることも確かにある。(「この曲は何かなつかしいかんじ」とか「なつかしい風景」とか)そのとき、そのものの後ろに私たちは何を見ているのだろう。いつかインプットされた記憶が刺激されているのだろうか。

辞書をひいたら「なつかしい」の語義として「心がひかれて手放したくない」というものがあった。(古語ではそれが一般的だったのか。そのあたりは勉強不足)「なつく」という動詞の形容詞化と聞いて何となく納得する。何かに対して親近感を抱くときにも「なつかしい」という言葉はあてはまるのだ。

今でも、何かを好もしくおもうときに無意識に「なつかしい」という言葉を使っているのかもしれない。そうした感情と過去や記憶とのつながりなど、気になる。


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