TOI,TOI,TOI!


2005年02月18日(金) Karl Dall

私の好きなドイツ人の芸能人でKarl Dallという人がいる。

多分60歳ぐらいと思われるが、話が面白いおっさんで、しょっちゅうテレビで見かける。
この人の片方の目はほとんど開いていない。

こないだ、芸能人たちが昔どんな音楽を聞いてたか語る、という番組をたまたま見ていて、カールダルも出ていた。
カールダルは若い頃からテレビに出てて、当時はコミックバンドのボーカルとして一世を風靡したとか。
その頃から目は開いていない。でも本人がそれを気にしていない。当時の写真の表情を見てもよく分かる。

司会者が「男前!モテたでしょうね!」というようなことを言い、そのあとで、ところでその目は・・・という話題になった。

片目が開かないのは生まれつきで、
でも21歳のときに手術で治せるという話が出たという。

「21歳になるころには、僕はすでに”いい人”と”悪い人”を見分けられるようになっていたんだ。

だから手術をする必要はなかった」


たったこれだけで全てが伝わった。胸につーんと来た。

つまりきっと思春期ぐらいまではいろいろと思い悩んだのだろう。私から見たって当時の彼は男前で、悩む必要なんてないように見えるが、障害というものには大きさも小ささもなく、本人にとってでかければ、それはでかいのだ。

そして、先天性の障害と闘うのは、子供だからこそ大変なのだ。精神的に未熟だからこそ、子供は子供なのだ。子供の神経というのは繊細だ。大人のような図太さはない。

顔というのは、隠しようがない。人と話すときにはそこに相手の顔がある。毎日毎日がその繰り返しだ。

ええと、何を隠そう私は口唇口蓋裂である。
この病名で分からない人には、みつくち、兎唇といえば通じるだろうか。
生後1年目と5歳のときと、2回手術をした。そして成人になったらもう一度仕上げの手術をするのが普通らしい。その手術を私はしていない。
私はこの全ての自分についての事実を、2年前に知った。私はすでにドイツにいた。

そのときはでかいショックを受け、3日ほど一歩も外に出なかったのだが、同時に、すでにドイツ人に影響されて性格の変革が始まっていた私は、ふて寝してても意味がないと思い、周りの人たちにせっせと話をしたのだった。

「手術する必要なんてなし。その顔が伸子の顔で、ほかの顔になったら伸子じゃない。」とエファ。

師匠も「子供のときに受けた手術は奇跡的な成功なのではないか。そこまで目立たなくなっている例は見たことがない。そして個人的には手術には反対だ」とはっきり言ってくれた。

ドイツ人の、こういうときの反応がしっかり返せるところは、一枚上手だと思う。日本人同士とはまた違った意味でのやさしさ、というものを感じる。
少なくとも、25年間もその事実を伝える勇気も出せずに、なーなーにしてきたうちの両親と比べたら、何枚も何百枚も上手だ。

この人たちに囲まれて過ごせるなら、このままでいいかなと思う。カールダルの気持ち、よく分かる。

http://www.karl-dall.de


  
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