| 2004年06月14日(月) |
『キラキラカラットテクニカラー』 |
ああ。せかいがうつくしい。こんなに、こんなにうつくしい。 こんな感覚は去年の奇蹟の三月二十一日以来です。奇蹟の薔薇の冬の日の。
こんばんわ、本当に昨夜は話二つ書けてしまいました。もえぎです。 眠ったのは結局午前五時半だったので、いっそ今朝ですね(笑) でも、睡魔も襲ってこなかったのです。ひたすらに書いていました。 きっとフェイエリィを書くのは公式に反する悪いことなのだろうなあ、と感じながら。 公式の見解に果てしなく準ずるならば、EDの後ふたりはさよならなのでしょう。 システムの呪縛が解けて、ヒトは解放されたのですから。 けれどわたしはとてもあたまがわるいので。 あんなに必死に走って。あんなに相手をおもいつづけたふたり。 それら全てを『定められた』『操られていた』『単なるプログラム』とは思えないのです。 だって、そうでなければ何故ふたりは娘を作ろうとしたのか。
好きなのです。好きなのですよ。どうしようもないくらい。 世間様から石投げられるくらい悪いことであったとしても。 限りなくマイナーで『そんなの正しくない』と言われるとしても。 あのふたりがしあわせではいけませんか……? 軋んだ欠片は百億の。走ってゆけるのはふたりだと歌うではありませんか。 でも、ふたりにむけられるのは憎悪だけなのですか。 引き裂かれ続けてもなおいたみはつまびらかで薄れはしない羽。 あの凄絶ないたみを、わたしは、嗤えませんし疑えません。 わたしは愚かであたまがわるいのです。 でもあのふたりはわたしにとってのはてないもの。 だからこうして、まだ、物語を綴っているのです。
そんなこんなでお題です。昨夜せかせか書いていました。 今度はゼリーということで。うーんタイトルがちょっとまだぐらぐら…。 候補が二つありまして、いまだに決めかねているのです。 そのうちタイトル変えちゃうかもですね。 でも、このなんともいえず軽薄な感じのも、お気に入りです♪ 残り三つ。エピ2までに出来るかどうか。
『キラキラカラットテクニカラー』
きれいなまあるい瞳がふたつ、驚きに彩られたまま、ルビーに澄んだ硝子の向こうから覗き込んでくる。ぱちん、ぱちん、と幾度か瞬く間にも、しげしげと一身に何かを見つめることをやめようとはしない。 ―…いや。何かが、おかしい。 ひょいと軽い身のこなしで彼が立ち上がると、その前にあったいちごのゼリーがふるん、と揺れた。 彼は色硝子ごしにものを見ていたのではない。テーブルの上に置かれていた、なんとも見事にてらてら輝く、ゼリーそのものをじっくり眺めていたのだった。
「これはまた…壮観だな」 「でしょう?」 感心した様子でしみじみと呟きながら彼女に向き直ると、新たなゼリーの皿を手にしたエリィは、至極満足げな笑みを浮かべて返した。フェイの側まで歩いてくると、一足ごとに、鮮やかな銀朱色したゼリーがふるりと揺れる。そしてふたりは並ぶと、改めて目の前の卓を見やった。 フェイが感嘆の声を漏らすのも無理はない。エリィが自信たっぷりにおひろめするのも当然のこと。だって、そこを埋め尽くしているものの正体ときたら!
オレンジ、メロン、りんごにはちみつ。サイダー、レモン、いちごにココアにエトセトラ!宝石と呼ぶには少々安っぽいやもしれないけれど、それでも十二分につまびらかな色彩をばら撒くテーブルいっぱいのゼリーたち。そっくり返るくらいにつん、とすました輝石はそりゃ確かに綺麗。でも、このカラフルインチキジュエリーは、子供たちの目を満天の星のようにきらめかせることの出来る魔法を含んで、ふるふるきらきらさんざめく。 窓から降り注ぐ太陽の祝福を浴びて、ひややかに、なよやかに。ゼリーはその内側に星屑とおひさま粒子をいっしょくたに灯し続ける。
手近にあったあんずのゼリーを手に取ると、彼は緩く目を細めた。夕焼け色のあまいそれは、僅かにくすんで、身に帯びたひかりさえも少々物憂げに見えた。フェイは、そんな風に見えたことがまたおかしかったらしく、そっと笑みを深くした。 「これはきっと、ミドリたち、喜ぶだろうな」 「あら。大人だって嬉しいと思うわ」 ことり、とその手にあった皿を置くと、やわらかな反論。紫苑の瞳をこどもっぽく、くるりと芝居がかって動かして。くすくすと今にも零れてきそうなかすかな笑い声はまだ口の端に留まっている。 「だって、私も作ってて、とてもわくわくしちゃったもの」 こんなにきらきらするとは思っていなかったのよ、と、あまい指先の持ち主は笑う。ずっと冷蔵庫に閉じ込められっぱなしのカラフルご一行、やっとこさ固まって、陽光にその身をかざした途端、えもいわれぬ煌きを放ち始めたのだから。その光の最初の一筋を目撃したのは、よいしょ、と型から取り出した彼女。いきなりの出来事に、思わず息を呑み、そして次の瞬間口元を微笑みの弓にしてしまった。 その時の様子をくすくす楽しげに語るエリィに、彼もつられて笑みを零す。そしてちょっとだけ、その瞬間に立ち会えなかったことを悔しく思った。今度は絶対一緒に見ようと、心中密かに誓いながら。 「ともあれ、ご苦労様」 「いえいえ、どう致しまして。―…あ!そうそう、ねえフェイ」 彼のかけたねぎらいの言葉にそっと返していると、彼女はきゅうに手の平をぱん!と合わせて表情を輝かせた。ぶどうのゼリーよりもうんと透き通って、鮮やかに曇りない眼差しに、ほんのりいたずらっぽいものを乗せて。きょとんとしているフェイを残して、足音軽くぱたぱたとキッチンに戻ると、すぐさまぱたぱたと彼のもとへ戻ってきた。後ろ手に何やら隠した体勢で。 またも、くすくす。ひみつのもたらす悪甘さ。その蜜を少し楽しんでいるような様子の彼女は、やさしいやさしい企みをこれから今からごろうじましょう、と言わんばかりで。 「これはね、とっときのゼリーなのよ」 彼女はそれを早く伝えたくてうずうずしているだろうけれど、彼だって、それが何だか早く知りたくてわくわくしている。エリィの言葉は唇に人差し指をあてながら話しているような音だった。 「さあ、これはいったい何のゼリーでしょう?」
じゃんっ、と彼女が差し出したのは、花咲き乱れる春の庭が描かれた皿で。問題のひみつな一品は、その鮮やかな花々に対抗するでなく、服従するでなく、まるで同化するように一体となって、中心に鎮座すると共に全体の雰囲気を醸していた。 色は黄金。見目麗しい一片たりとも混じりけなしの。体内には無数の気泡を抱いて、それがまた太陽を浴びると、笑いさざめくようにして一斉にきらめきだす。まるで気紛れなはちみつのさざなみのようだ、と彼は思った。しかし困ったことに、投げかけられた問いに返すべき、このゼリーの名はとんと検討がつかなかった。 んー…と、しばしおとがいに手をやって、眉間にしわ寄せかねないしかつめらしさできらきら金色ゼリーとにらめっこを繰り広げる。そんなに真面目に考え込まなくても良かろうに、それでも彼は実に真剣に考え込む。彼女はもう慣れたもので、それこそ日輪のような微笑のまま、フェイをそっと見つめ、答えを待っていた。
「うーん…りんごにしては澄みすぎてるし、白ワインにしては濃すぎるし…」 「りんごはいちごの隣のものよ。白ワインは、そこの洋梨の入ったのね」 「金色のものって、そうそうないよな。しかもこんなに見事な黄金なんて」 「私も最初見たとき驚いたの。なんてきれいな黄金色かしら!って」 「そこに惹かれて、とっときのゼリーにしてみたのか?」 「ええ、そう。だって、とっときに相応しいきらきらゼリーでしょう?」 「うん。本当に綺麗だ―…あ!ひょっとして、スパークリングワインじゃないか?」 「ぶー。はずれ。でも、ちょっと近づいたかしら」 「近い、じゃなくて近づいた、か……余計悩む言い回しだな」 「でもノーヒントよりは良いんじゃない?」 「はじける金色、はじける、はじける……」 「しゅわしょわ、はじける、あまい金色……」 「分かったー!シャンパンだろっ!」 「ああ惜しい!すっごく惜しい!でも、ぶー。はずれ」
この後も、頭を抱えそうになりながら様々な名前を思いつくまま口にする彼と、なかなか出てこない正解にこちらも頭抱えそうになりながらも次々と回答にぺけをつけてゆく彼女の、真剣なのかおもしろがっているのかよく分からない問答は暫く続いた。 確かなのは、ふたりとも、最早正しい答えがどうこういうよりも、ふたりできゃらきゃらと騒ぎながら言葉で遊ぶのを楽しんでいるということ。とてもとてもささいで、ささやかで、他愛も無いことを今更のように。 そんな時間もいつかは終わり。数え足りないほどの名前(時にはとっぴょうしもない名前もいくつか含まれてはいたが)を搾り出した後で、遂に彼は降参した。でもまあ、このふたりの場合、勝ち負けどうこうの話ではないので、白旗もさほど意味を持つものではないのだけれど。ともあれ彼は苦笑と共に諦めて、彼女からの答えを求めた。 さてさて。この、稀有なる黄金を帯びたるゼリーは、一体何者なのか?と。
エリィはあえかな微笑を灯すと、すっ…と、彼にくっつきそうなくらい側までやってくる。両手で不思議のゼリーを奉げ持ったままだったのを、ふいに右手を離し、ふるりと揺れる黄金ゼリーの数センチ手前に止めた。ぴたり、と微動だにしない細い指は何かの合図を待っているようで。 「これはね」 ささやくように、ひそやかに。深海からひみつめいて放たれるひみつの正体。そっとフェイの瞳を覗き込むと、無限の深遠宇宙には、彼女自身の姿が見えた。真っ直ぐに、なんのてらいもなく見つめてくる彼の眼差しは、いつもいつでも変わらない。 だから彼女は視線をひとつに繋いだまま、艶やかに、くすぐったそうに微笑んだ。整えられた桜色の優美な爪が、そっと黄金の確かな水面に触れたかと思うと、真白き木蓮の指は、やわらかく彼の唇に添えられた。ぱ、とゼリーのほのかな甘味の残滓だけが、何かを呼び起こそうとするように彼の記憶に声をかけてくる。清涼な爽やかさ、重みのない甘さ、ああ何だろう。知っているのに!と。 そして彼女はちゃめっけさえ感じさせて福音を撒く。たまらないくらいの微笑をそのままに。 「シャンパンゴォルド・ジンジャーエール!」
ああ成る程と、悔しさをにじませもせず、感慨深げに彼は嘆息する。知っているのに分からない、もやもやとした気持ちが晴れただけで大変満足らしい。そして彼女も、彼がそうしてすっきりさっぱり満足している様子に、満足したらしい満面の笑みを咲かせた。 はい、残念賞ね、と。彼女は銀のスプーンを手に取ると、黄金ゼリーをひとすくい。ちょっと高い位置にある彼に向かってそれを差し出してみせる。そしたら彼の反応はいわずもがな。咄嗟の本能的な反応として、口をあーと開くと、当然そこへ入るのは。 ぱほん、と閉じた口の中で、はじけた残り香澄明感。それは疑いようも紛いようもなく、しっかりばっちりジンジャーエール。身をもって正解をおいしく確かめていると、自然、口角は嬉しげに上がってきてしまう。あまい魔法は誰にだって顕在。 答えを堪能する彼に、彼女は微笑む。彼女自身が味わっているかのように、嬉しそうに。
その日出された残念賞。それは、特賞も三等賞も、なんであっても同じものが出されてしまう、意味のない意味のあるなぞなぞだったそうな。
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