寄り道、小道、ひとりの帰り道。 角度が違うだけでこうも開けた広大マップ。
こんばんわ、いい加減にしろってなくらいオリジです。萌黄です。 何をしているのかと自分でも思うのですが足が向かうのはどうしても。 日に日におかしくなってゆくのを感じます。 いつからこんなになってしまったのか…と、茫然としつつ思いますけれども。 それを抱いてしまった自分はもうどうしようもないので。 きっと一番良いのは、ぼろぼろに血を流しながらも、 にっこり笑ってやさしい話を書くことなのだろうなあ。 偉大なるおじさんたちもそうでしたから。 痛いことなどなにもありません。こんな絶対的な庇護のもとにありながら。 ただ。書く。 凄い凄いしあわせものなのですから!!(笑)
凝りもせずにはると夕立。短。季節は今頃、秋の入り口。 冷えた風よりまろやか温度。やや埃かぶったセピア・アトモスフィア。 『これ聴きながら見直し作業してた』と葵嬢に言った所。 あかんがな!と言われました。 まあ、確かにガバはどうかと自分でも思いました(笑)だんだだんだだだ。 LOVE IS ORANGEにしときなさいとも言われました。 でもあんなに可愛くないですこのふたり。それにフレンチじゃないし(重要)
『いまはむかし』
う゛ー、む゛ぅー。 さっきから途切れ途切れに聞こえてくるのはこんなのばっかし。決しておっきな声ではないので、というか声とも呼べないささいなものなので、さして気になることでもないのだけれど。 何か話をしていても、時折思い出したように首をさすって。頭をくきくきゆわして。しかもそれらの行動が、ほんのり弱り顔のままされていようものなら、そりゃあ多少なりとも気になってしまっても無理はない。ちらりとわずかに目を遣ってから、彼は五線譜の上で行きあぐねていた鉛筆を、所在なさげにくるりと一回、まわしてみる。
やや働きすぎの空調の中、ダンジョンみたいな図書館で。ふたりは向かい合って座っている。古い本の香りで、むせ返ってしまいそうなのは、埃っぽいだなんてつまらない理由だけじゃないはず。もちろん頚椎の調子が悪いことの説明にもなりはしない。夕立はぺらぺら片手でページを繰りながら軽く流し読みをしていたが、ふとその手を止めた。かたん、と小さな音を立てて鉛筆が机に転がる。 「首、どうかした?」 ふたり以外に閲覧室を使っている人は見当たらなくても、図書館という場所柄、どうしてもつい声を押さえ気味にしてしまいつつ、問い掛ける。視線だけを少し上げてみると、目の前の彼女はまた首筋に手を添えていた。うー、と小さく呟いていたけれど、ちょっと照れたみたいに口の端を上げてみてから本をぱたりと閉じて、くるんと宙を彼に向けた。 「あのね。最近、うつぶせ寝してるの」 「うつぶせ寝?」 おうむ返しにする夕立に、そう、と頷く。きょとんとした様子の彼を前に、はるは最後に一回だけ力いっぱい、ぷるる!と強くかぶりを振ってみる。けれども何故か頭のてっぺんあたりは両手で押さえたままで。 双眸をぎゅうっと閉じて、元気にぶんぶか横振りあたま。その勢いで肩に零れる黒髪巻き毛をふるふるさせたさまはまるで、水を被って毛がぺしょんとなっちゃった犬がシャワーをまき散らすのみたいだった。そして、そんな風に見えてしまった自分に、彼は軽く口元を緩ませた。だって、あまりにぴったりだったものだから。彼女には申し訳ないけれど。 ふう、と一息ついたことから察するに、はる本人は今の行動でとても落ち着けたらしい。あんなことで首のんじんじする感覚が消えるわけではないだろうけれど、なんとなくすっきりしたのだろう。ぽたぽたな雫は彼女から今のところ消え失せたみたいで。質問の雨を一滴も降らさずに待っている彼に、ゆっくり瞳を微笑ませた。
「こないだから、髪の分け目を変えてみたの」 「あ。それか。道理でこの頃、何か雰囲気が違うなあと思ったよ」 よいしょ、と机におじぎするような体勢を取ると、先ほどからずっと押さえっぱだった頭頂部を、夕立に見えるようにしてみる。灰色の黒の中をすらりと走る、真新しい白い道に、彼は納得しきりの様子で頷いた。 髪の分け目が白いのは、日焼けしていないということ、つまり分け目を変えたてだということ。確かに言われて見れば、はるの豊かな髪を二分していた一本道は、いつもよりちょっと左にずれた位置に移転工事されていた。舗装にはまだもうちょい時間がかかりそう。 何かな?何だろう?口では上手く言い表せない、けれどどうにも感じる違和感。ここ数日さいなまれていたその感覚の正体がようやく判明して、夕立はやや堆積していた吐息を感嘆に衣替えしてから解き放った。 うすぼんやりながらも、微妙な変化に彼は気付いていてくれて。妙に感心しながらも、目元をやさしくやわらげながら見つめてくれて。それがはるにはとても嬉しいらしく、にこり、と粉砂糖の雪みたいに微笑う。
「でもね、分けるのはいいのだけれど、維持するのがすごく大変で」 「クセがついちゃってるんだろうね。ずっとずっとそうだったから」 「うん。ちょっとでも油断すると、すぐ戻っちゃう」 「だからさっきも、頭振るとき押さえてたんだ」 夕立の指摘に、そうなの、と答えると、彼女はゆっくりと色んな苦労を指折り数えてゆく。そして彼は、そのひとつひとつに相槌を打ったり頷いたりしつつ、静かに表情をほどいてゆく。時折、くすぐったげな笑みをこらえるようにしながら。 髪洗うときは、シャワーに道が流されて大慌てだとか。ドライヤーする際は細心の注意を払っての真剣勝負だとか。この間なんてコンセントにドライヤーを差した途端、スイッチがオンになったままになっていたせいで、いきなり突風にあおられあわあわしたとか。いつもは親しい友達みたいな秋風も、今ばかりはライバルだとか。自分でも時々どこが分け目だったかこんぐらがってしまうのだとか。 当人は真面目至極で述べているのだけれど、夕立は笑みを誘われて仕方がない。何とか押し込めようとはしても、目の前ではるは、こくりと小首を傾げながら真剣にひとつずつ指を折っていて。その様子がまるきりこどもみたいで、やっぱり花のいざないはひたすらに蝶を呼び続ける。口の端や目元に宿る微笑の欠片は消えそうにない。
しかしふいに。はるの表情が曇った。先ほど首をさすっていたときのような弱り顔になって、ぴんと伸びた六本目の指をじいっと見つめたまま、溜め息を織り上げると、重々しく右手の親指を折った。 「寝るときは…うつぶせ寝でないと、いけないの」 「分け目が変わっちゃう?」 「うん…寝相、悪いみたいで。あおむけだと、髪がくちゃくちゃ」 「それを防止するため慣れないうつぶせ寝して、首を痛めたんだね」 「ほら、うつぶせ寝だと動き回れないでしょ?くちゃくちゃしないの」 「成る程。でも、そんなにくちゃくちゃになるものかなあ」 ふたりでしばらく、あおむけ寝における髪くちゃくちゃ論議に花が咲くも、そんなに長くも続かない。それはふとした夕立の質問に、はるが答えたことから。ぴたりと討論会はひとやすみして、閲覧室に戻る静寂。 そのときふたりははじめて、やや声のヴォリュームが上がっていたことに気が付いた。ちょっとわざとらしく、夕立はこほむと咳きひとつすると、音量を潜めて言葉を続けた。 「じゃあ、あおむけ寝のとき、髪は頭の下に敷いて寝てるんだね」 「うん。まくらとわたしの間」 だから朝起きると大惨事にくちゃくちゃ、と呟きながら付け加える。それを聞いてしばし彼は片手をおとがいに当て、視線を落とし、考え込む体勢。どうしたのかと、はるは下から表情をのぞきこもうと机にほっぺをむにーとくっつけようとするも、その必要はすぐになくなった。夕立が顔を上げたのだ。彼は真っ直ぐはるを見据えると、ゆっくり言った。
「あのさ、それじゃあさ、髪を枕の上にして寝たら?」
へ?と目を丸くしているはるに詳細を伝える。身振りも加えて。彼は自分の、少し伸びすぎたココア色の髪を、うなじからそっとかきあげるように持ち上げてみせる。ほら、昔の都で、お姫さまが寝るときにしてたみたいにさ、と言葉でも補足しつつ。 古い京では、お姫さまはみな長い髪をしていた。洗髪にふうふう言うような、身の丈よりも長いの。だから床に就く際には、枕元に箱をひとつ置いて、そこに髪をまとめておいといてから、すうすう眠りに落ちた。 あんなに長いわけではないけれど、はるの髪もそこそこだから。こんな風にしてみたら、くちゃくちゃにはならないし、首も痛くならないし。と夕立は思ったのだった。で、見つめる先の彼女の様子はというと。
「あ。」
一言零して。目をぱちくりして。停止。 どうやら、髪を上げるという概念がなかったらしく、まさにウロコがぽろりな感じみたいで。 解き放たれた真空に、きらりと一筋、千年ぶりの流れ星。
直後、消え果てしないくすくす笑い。数日後、首の痛みは消えました。
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