日記

2003年10月19日(日) 『ひよ』



トリック見てたらこんな時間に!(笑)
いえ…見るの初めてだったので、つい見入ってしまい……。


こんばんわ、本日の日記は最高クラスに手抜きです。萌黄です。
へたへた書いていたオリジ話をはっつけただけ。最悪。
でも。これで、行くことが出来ます。
ここにまだアップしてないのもありますし。数は多少揃いました。
綺麗に文章整えて、題名つけたらあのカフェへ行こう。
置かせて貰えるようお願いにあがろう。

それにしても題名もう少し凝った方が良かったのかもしれません。
ま、でもたまにはこんなのも。
書くたびに文体が変わっているように思うのは気のせいでないはず。
不安でどうしようもありませんが、今はまごまごしながらも書きます。
さりげなく先日の鋼を既に三回見てたりしますが書きます。
―…ちくしょうどうしてあの子こんな可愛い……。
あんな弟欲しいです。居たら絶対抱きつき魔と化します(笑)
まさに『♪ほほほおずりしたくなるでしょ』な、状態。
アル可愛いーアルマイラヴー、アル中上等ー。

そんなこんなで(謎)またもオリジ。長め?
凝りもせずにはると夕立。珍しく夕立が優位ぽい。
喉の奥で弾ける泡は夏のとおい日。



『ひよ』

 ぼうっとして、行き先の定まらない視線が、ちろちろ足元あやうげに彷徨っている。少し潤んだ目は雲に霞む宇宙と同じ色。やたらに熟れた林檎によく似たほっぺはまるで、雪の中におっこちたみたいで。
 ふらゆらと、よくよく見ていなければ分からないくらい、普段とわずかに違った動きで、黒髪巻き毛が揺れる。風の気紛れだろうかと思い過ごしてしまいそうなそれに、彼はじっと耳を澄ました。
 そして。うっすらと開かれた、ぶどうの一粒だって通れないくらいにひらかれた、くちびるから。本日何度目かしれないふかい吐息が零れ落ちたとき。くん、と。夕立は彼女の腕を引いた。

「だいじょうぶ?」
 はるを人の流れから引っぱり出し、側にあった建物の軒下へ入るやいなや、すぐさまそう問う。ちょっと身を屈めて、背中にがやがやを負って。彼女と目の高さがぴったり合うようにして。よくよく眺めてみた黒曜石は、熱を閉じ込めすぎていつもよりずっとずっと鈍いひかり。
 いきなりひっぱられて。いきなり質問されて。ぼんやりしていたはるも、流石にびっくりしたのか、急には言葉が出てこない。ただ、あまりに夕立が心配げな眼差しで、こちらをのぞきこんでくるから。彫刻みたく動かない、ほてった眼は、いっしょうけんめ彗星を呼び戻そうとする。
 ゆっくりではあったけれど、すこしずつ、瞳が研ぎ澄まされてゆく。しずしずと晴れてゆく群雲。
「うん……へいき」
 口の端をゆるゆると上げてみても、その力ないさまにこれっぽっちも説得力はなくて。真空を照らす細い炎のような輝きだって、風にゆらゆらのひとりぽっちろうそくみたく、たよりない。
 彼女ががんばりやさんなのはよく知っている夕立だけれど、どうにもおかしな様子なはるが、自分に対しても平気だと笑ってくるのには、ちょっと困ってしまう。どう見たって平気なんかじゃあないのに!
だからつい彼は眉のしっぽをちょっぴし下げて、ほんのり弱り顔になってしまった。そしてつい、指も伸ばしてしまった。

 ぽてり。

 いきなり、頭の上にのっかった『何か』に、はるはきょん、と睫をはばたかせた。ややうつむきかげんなので、それが何であるかはよく見えないのだけれど。おおきな、そしてあったかくて、つめたい、『何か』。ふらくらする意識を錨みたいに繋ぎ止めて、そっと手を引いて抱き留めてくれるみたいな。『何か』を辿って、ゆるゆると見上げた先には。
「……やっぱりだ」
 はるの頭に、ぽふん、と片方の手の平を置いて。弱り顔の夕立が、溜め息を織り上げた声を、ヴェールみたくふうわり被せかけた。眉のしっぽはちっとも上がりそうにない。
「髪、すっごく熱いよ。こんな太陽の下で、帽子してなかったから」

 ふわふわほんわりはるの髪。帽子なんて束縛もなく、のんびり風に泳ぐ髪。でもいくらほんのり灰色がかっているといっても、やっぱりばっちし彩りは黒。ぢりぢり攻め立ててくるお日様光線を撥ね返すこともなく、ひたすらに受け止めすぎてしまった。それこそ炎天下の車でめだまやきができてしまうあの原理で。
 ほっぺが冬りんご色のルビーだったのも。宙が水面に沈んでいたのも。ずうっとぽんやりしていたのも、ぜぇんぶこれが理由。
 くつくつにゆだってしまった、おなべのたまごな訳。

 彼の手は、じわじわと伝わってくる、つややかな黒髪の熱をぐんぐん吸い取ってゆく。めったに触れることなんてない彼女の髪の、なめらかすぎる手触りには随分びっくりしてしまったけれど。驚くよりも先に、言わなきゃいけないことの方が、喉をうごかさせた。
「このままじゃあ熱中症になっちゃうよ?ちゃんと予防しないと」
 どうにか事態を打ち破れないかと、頭を捻ってみる彼。でもそうそう素晴らしい案がぴこん!と都合よく現れるわけもないので困りもの。考え込む夕立の前で、はるはしゅんみりして元気のない表情。それは申し訳なさのためなのか、のぼせたあたまの所為なのかは分からない。でもいつもからは考えられないくらいしょんぼりしているのだけは分かる。
 そんな中。彼はふと思い付いて、自分の被る、ベージュのテラピンチにそっと手を伸ばしてみる。はるに似合うかどうかは、敢えて考えないようにしてみて、何とか彼女とウルトラバイオレットを遮る盾にはなれやしないかなあ、なんて考えた末。これを被せてみては?と思い至った。でも。
「僕の帽子で構わないなら貸すけど…」
「っダメ…!いいの、わたしはだいじょうぶだから」
 さっきまですっかりしゅんとしていたはるが、いかにも慌てた様子と声で夕立の手を止めさせた。はっとした顔つきで、急に全てを鮮明にさせる。まるで体でふつふつくすぶっていた熱が、全部言葉になって出てきたみたいに。軽く背伸びまでして、お願いと彼に言う。
 彼女の変わりっぷりに夕立は少し目を見張る。でも、それでもまだ、引き下がるわけにはいかなかった。だって、さっきから、ずっと。はるの落ち着かない息遣いは、ちっとも治りやしないのだから。

 ひょこり、と体をちっちゃくして。相手の真正面に、自分があるようにして。熱でぐらぐらな彼女の瞳にすらりと入り込むと、いきなりくすり、と口の端に笑みを乗せた。うずまき銀河に手を伸ばした。
「あまいソーダ飲みに行こう」

 いきなりのお誘い。前置きも何もなし。はたで誰かが聞いていたなら、なんのことやらと、きっと頭の上に疑問符のっけるに違いない。しかもかなりの数のを。
 でもはるは、一瞬まばたきを停止させただけで。ぱちり、と大きく一回、瞼をうごかしただけで。
 次に目を見開いたときには、彼女がいだく真空の宙に、ちかり!と何光年ぶりかの星が届いた。おそろしくゆっくりと彼を見上げると、すっかり干上がってしまった白い細い喉を、こくり、とうごかしてみる。

「あまいソーダ…あの、メロンソーダ色したソーダのお店?」
「そう。真っ赤すぎるチェリーが沈んでるソーダのお店。地下にある」
「下の道通って行くの?」
「そしたら暑くないし。あたま、さませると思うけど」

 すっかりゆだってしまったはるのあたまでも、そのお店の様子はすぐさま思い出せた。カフェと呼ぶにはややレトロすぎる、一軒の喫茶店。
 店内の調度もマスターも、空気さえもセピア色を帯びていて。ふたりが生まれるずっと前から同じなのだろう雰囲気は、店がそこにある、というより、存在がそこに根っこみたく生えているように感じさせた。
 ドアにある古びた真鍮のベル。すべすべした濃い飴色のテーブル。曇りガラスのちっちゃなグラス。眠りすぎのワイン色した椅子。どれもこれもがいちいちめずらしくておもしろかった地下の喫茶店のこと。
 でもそこで何より鮮やかに思い出せるびっくりなことは、ソーダ事件。ごく普通にソーダを注文したのに、ことりと出された、その店でソーダという名を冠したものの、まあなんて過激な色だったこと!
 頼んだはるだけでなく、一緒にいた夕立さえも目を奪われてしまうほどのクリア・グリーン。いっそメロンソーダと言われたほうが納得してしまいそうな代物。しかもその水底で海賊の財宝みたく、妖しく光るのは、これまたありえないくらい深紅のチェリー。おもちゃの指輪についてる、おっきいキャンディみたいなだった。
 ここまでくると、もはやびっくりよりもおかしさのほうが先に立ってしまって。ふたりはそのアナーキーなソーダをすっかり気に入ってしまい、物静かな店内で涙ながら、必死に笑いをこらえたのだった。

「長い間行ってなかったし。熱とりがてら行かない?」
 優しい眼差しを更にやわらげながら。いたわりの影をはるにもたらした彼の言葉に、はるは少し間を取った後、こくんと頷いた。
 地下に至る通路へ向かい、階段を降り。その間ずっと彼女に太陽の侵略の手が及ばないようにし続けた夕立へ対し、はるはずくり、と胸に鈍く痛いものを感じた。前ゆく彼の帽子を見ながら、つらいものを感じた。
 ぼんやりとしたあたまに浮かぶのは数日前のこと。


 ああ。どうしたらいい?どれにすればいい?
 とっかえひっかえ、手当たり次第。あちこちのものに指を伸ばしてみる。けれど向こうからじろじろ見てくる店員さんの目の、何て痛いこと。
 いったい、どれを選べばいいの?盛んに突き刺さってくるトゲトゲ視線の攻撃に、ほんのり半泣きになりながらも、彼女は手を休めることが出来ない。だって探しているものが一向に見つからないのだから。
 けれど彼女自身にも、何を探しているのやらだんだん分からなくなってきてしまった。ただ、ひとつっきりでいい、たったいっこでいいから、欲しいだけだったのに。日よけの帽子を買おうとしただけだったのに!

 携帯便利なテラピンチ?夏限定のクラッシャーハット?セーラー風なベレー帽?形がきりりなキャスケット?彼のお気にな八つ接ハンチング?まさか!

 考えれば考えるほどこんぐらがってしまって。どれがいいのかと思いは蔦になるばかり。確かに彼女の髪は帽子に向いてはいない、ふわふわいつも奔放に舞うくるくる巻き毛。それを押さえつける役は、髪留めが一手に担っていて。帽子の出る幕はあまりなかったりするので。けれどこの夏はひどく太陽が元気なものだから、どうしても帽子が欲しかった。彼も心配して、何か被ったほうが良いよ、と数日前言ってくれたのだし。
 でもこうして鏡の前で次々と被ってはみるけれど、どれもこれも彼女のお望みに叶うものではなくて。ワガママ?とは思いつつも決して条件は譲れない。ひとつだって。だから彼女はずっと探し続けた。
 ああ。どうしたらいいの?どこにあるの?

 わたしの髪を押さえられて。しっかりお日様をさえぎって。
 でも、彼をさえぎることのない、帽子は。

 はるの頭よりずっと高い場所にある、彼の顔。会話するとき、彼女は首をぐぐうっと上げなきゃいけないので、かなり大変なのだけれど、きちんと相手を見て話すためなら、それも苦にならない。
 けれど太陽光線をきっかり遮断する大きな帽子の大きなつばは、同時に彼をも遮断してしまう。試着しているうち、そのことに初めて気付いた。突然思い知った事実に彼女はすっかり慌ててしまったのだ。

 で。そのあげく。結局帽子は買えずじまいで。現在のぼせたあたまで地下を彼と歩いている。こんな理由で夕立が帽子を貸す、と言ってくれたのを断ってしまって、凄く胸が痛む。そりゃ、彼が熱中症になっては大変、というのもあったのだけれど。第一原因はこれだったから。
 ずっとずっと支えてくれているのに。裏切っている気がして。苦しくて。でも彼は笑って、あまいソーダにいざなってくれて。だから決めた。冷たいソーダが潤してくれれば、熱に口付けて取り去ってくれれば。ふたりでさんざ笑った、あのソーダを挟めば、きっと言える気がした。
 そんなうちに、彼の手が磨り減ったドアに手をかけた。カラン、と真鍮のベルが幾度目ともしれない役割を果たす。鐘の音と共に、はるは声を鳴らした。夕立のシャツを引っ張る。ぽ、と涼やかな真空に典雅な熱。
「あのね。」


 その後。軽やかな笑い声が響き。しばらく彼女はベージュのぶかぶかテラピンチを被り、彼はいつもよりもうちょい身を屈めて話をしていた。
 もちろんふたりの間に、メロンソーダ色のソーダを挟んで。


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