こしおれ文々(吉田ぶんしょう)

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2012年04月14日(土) 吉田サス劇【夏美】(第3部)第27話『階段を下りきったとき』


吉田サス劇【夏美】(第3部)

第27話『階段を下りきったとき』


『君が大学生を殺したんだろ?』


少女を逮捕するために
わざと自白させようと私は少女へ問いかけた


問いかけに対する回答までの時間



ほんの数秒の沈黙は
私と少女の心の距離が
いまだに遠く離れていることを
より一層感じさせる


【知りません・・・そんな人】



汚れなく透明感を持った頬が
若干左右に開き
白い前歯の奥から
少しイメージと違った嗄れた声が発せられた



自白しなかったことに
自分でも意外なほど驚かされた


あえて君が能力を使い
我々に対して
【自分が犯人であること】を
知らせている人間は
私の経験上ではあるが
犯人かどうかの問いに対し
あっさりと自白し

犯人まで辿り着く時間が
長かったなどと説教を始め
警察の無能さを上から目線で語り
挙句の果てに
自らのトリックを鼻高々に解説する


要するに
自分の能力の高さを自慢したくてたまらない
ナルシスとな人間が多い


しかし彼女は違う



自分が犯人であることを
我々に告げているにもかかわらず
私の問いに対し自白することはなかった


結局【大学生殺し】としては
連行することはできない


ただし少女は
違法に契約された携帯電話の
重用参考人であることには違いない


協力を要請し
任意同行として署へ連行することとなった


事情聴取に対し
違法契約の携帯電話については
多少なりに答えていたようだが

【大学生殺し】については
終始黙秘を貫き
拘留期間満了となった



違法な携帯電話に関しては
交際相手からもらい
親に隠れて
交際相手と連絡を取るために
使用していたが
違法であることは知らなかったという。


当然交際相手は
違法な携帯電話の売買及び所持等の
容疑で逮捕されたが、

彼女は
違法であることを知らず
未成年ということもあり
不起訴処分となった

結局はトカゲの尻尾切りが
行われただけで
本丸(彼女)の牙城を取り崩すどころか
大学生殺人事件に踏み込むことさえできなかった。



拘留期間が終わり
彼女が自宅へ帰る日がやってきた。


父親と名乗る男性が署に現れ
手続きを済ませ
彼女を連れて
玄関へと続く階段を下りていった。

階段を真横から眺める位置にいた私は
何も考えず
ただじっと二人を目で追っていた。



玄関のある1階まであと5段
・・・4段
・・・3段と

二人はうつむいているかのように
足元を見ながら下っていく。


彼女に声を掛けたあの日から
階段の最後の1段まで
彼女は表情を変えなかった。


それはむしろ
彼女が策士であることの
この上ない証拠だった。


警察に呼び止められ
警察に連行され
警察に拘留される


弱冠15歳の女の子が
表情一つ変えずに耐えうる状況ではない。


そんな彼女が
階段を下りきって1階に辿り着く

足元に向いていた顔は
正面の玄関に向かい


目を閉じ
いつもより長いまばたきで
目を開けたとき


ほんの一瞬
誰もが気付かないくらい短い時間ではあったが
口角が上がった


そう。

彼女は笑った。










管理人:吉田むらさき

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