飛行時間
Nyari



 魔女と低空飛行

ここ数週間は、なんだか困った日々だった。

体も元気になって、季節も一年の中で最も美しい春がきてエネルギー全快で進んでいこうという時だったのに、気分がローで途方にくれてしまった。


なんて、もったいない…

と、思いながらも、低空飛行がせめて着地してしまわないようにハラハラしながらバランスを保ち過ごしていた。そして、身の回りにも不思議なことが続いた。

ローテンションのきっかけは、ひと月前の「Hexen Schuss」だったと思う。
「Hexen Schuss」は、ドイツ語で「魔女の一撃」という言葉。突然訪れる腰痛の事で、魔女が人間を懲らしめ脅かそうと思って一撃を飛ばしてきたということらしい。日本語では「ぎっくり腰」。

春の訪れを実感しながら、弾んだ気持ちで大学図書館での研究を再開していたところ、小さなくしゃみを立て続けに2回したらそのまま体が激痛と共に固まってしまった。その後、1週間家で絶対安静を余儀なくされてしまった。

外はお天気だというのに、室内での退屈で非生産的な時間の連続。

すっかり人生のやる気をそがれてしまう出来事だった。
「魔女の一撃」なんて誰が名付けたんだろうかとさんざん不満をいってみてもじっとしていなければならないことに変わりはない。

実際には、冬の間、病気の為に寝たきりで体を動かしていなかったことが原因なんだろうけれど、もし、魔女が驚きの一撃を打ち込んだのだとしたら、あまりにタイミングが悪く、本気で仕返しをしたい気持ちだ。

でも、魔女がどこに住んでいるのかわからない。

やっぱり、森かな?と思って冗談半分にドイツの地図を見てみるけれど、この国は森ばかりなのでどこの森のどの魔女に文句をいったものか検討もつかない。悔しさはつのるばかりだ。

けれど、魔女の攻撃はこれにとどまらなかった。

その後、腰痛が回復してからも、これまでやったことのないような失敗が次々に起きた。

キッチンにたてば、さわった食器がはじから次々に割れ、冷蔵庫を掃除しようとしたら、ヤケになっている気持ちもあったのだけれど、ささいな乱暴な力で冷蔵庫に穴をあけて壊してしまった。

泣きっ面にハチ。

気を取り直そうと、これも何かのチャンスだ!と新しい冷蔵庫を気分よく購入したら、届けに来た人の荒っぽい冷蔵庫の配置の仕方によって、台所から突然火がでて、そのまま私の髪の毛の一部が燃えてしまった。

自分の髪の毛から火が出ている様に腰が抜けるかと思う程だった。

幸いやけどはしなかったし、そんなことでもなければドイツ語で美容院にいってみようと思わなかったのだから結果としては、そうひどい事ではなかったけれど、ヤケになっている気持ちは、やがてどうにでもなってくれというものになった。

やるべき全てのことが遅れている。急がないと…。

そんな、予断の許さない状況に、なんだって魔女は私を選んだのか。


これ以上私を足止めしてどうしようというの?????


気持ちの焦りはやがて、とんでもない気分の落ち込みを運んできた。ともかくその後はヤケっぱちの日々だった。

独りでいるとなんだか危ない。どこからわいてくるのか、世をはかなむような考えが頭をよぎってしまったりする。完全に何かを見失っている。

なるべく友達と過ごすようにしたり、コンサートにでかけてみたり、平常心を取り戻すために気分転換を試みてみる。
う〜ん、う〜んと内側でうなりながら、なんとか日々をやり過ごす。



そうしている内にあることに気がついた。


状況は芳しくないし、気持ちのドンヨリした感じは留まることを知らないけれど、その事態を「大丈夫。やがて過ぎ去るよ、とにかく今はこらえよう。そのうち風向きが変わるから」と考えているもう一人の自分がいる。

これは、新しい出会いだ。

これまでは、なんだかもう何もかもうまくいかないし、気力もないし、ダメダダメダ!!という感情に見舞われると、その思いがどこまでも深まり、抱えきれなくなると、友人や家族に多大な迷惑をかけてきた。果ては、自分自身の肉体までも蝕んでしまうことが多かった。

大切に思ってくれる人々に牙を剥き、自分を信じる心を見捨て、ガルルル〜とうなった。


でも、新しく現れたもう一人の自分は、ニュータイプだった。

「なんか、辛いよねえ…」と心に寄り添い、「まったくねえ…なんだかねえ…春だというのに覇気に欠けてて困っちゃうね…ほんとにねえ…」
と、ただうなづいて、その状況を見守っている。

そういった落ち込みは、避けられずに訪れてしまうものだけれど、やがて過ぎ去るものでもあるという事を知っているようだ。頼もしい。

体と心を流れる「気」が滞ってしまったために失ってしまった時間、チャンス、様々な物。「あ〜あ…」という情けない気持ち。

それでも、明日がきて、明後日がきて、しあさってがきて、そうしてまた元気に満ちあふれた日々もやってくる。3年くらいのトータルで見てみたら、抱いた望み100の内25個くらいは、収穫している。

だから、大丈夫。

手に入れられなかった75個に嘆き悲しむ自分もいるけれど、25個に笑顔で満足する新しい自分もいる。


どこかで手ぐすねを引いている魔女がいたって大丈夫。


上空を高々と飛べないときも、高度を下げ、エネルギーの消耗を限りなくくい止めて、フラついたって飛んでいきます。



でもね、鷲鼻のおばあさん、あんまり意地悪ばかりしないでくださいよ。


青空の夏は、成層圏の上をグングン飛んでいきたいのです…。










*お知らせ*
移動の為、7月末まで「飛行時間」の更新をお休みします。


2004年06月03日(木)



 夏のクルージング






青空の夏がやってきました。

こんな日は、ヨットにのって出かけましょう。







おや?





岸の向こうで、シタアゴさんと、ギザテさんがなにやら話し込んでますよ。


何やら、真剣な様子。



 






あ、ヤワイガさんが、イチョウもってやってきました。

「何はなしてるの〜」










お?

ヤワイガさんの向こうから、シッポマワリさんも登場。

「ハーロー!」





 








 何やら皆さんお揃いで、とっても楽しそう。







  







  「隣のポンチさんがね…。」

  「ええ!?本当に…?」
 
  「いや、ニコリさんとこでもね…」

  「あらららら…」








さてさて、風が気持よくなってきました。



オシャレなお家が見えて来ましたよ。














住んでいるのは、この3人。













でも、なんだか浮かない顔付きですね、どうしたのかな?




え?三角関係?



あらま、それは穏やかじゃないですね。

むむむむむ…。








ルルルルリリ、ララララ〜♪
ルルララ、ズンチャッ、リリルルル〜〜♪♪






おやおや?なんだか素敵な歌声がして来ましたよ。






ああ!!!



キラキラスパンコールガールズだ!!!













わ〜嬉しいなあ、ファンだったんですよ。サインしてもらえるかな?

ドキドキ。




ふふふ。サイン、してもらっちゃいましたよ。

ルルルルル〜♪











 






あれ? ヤドカリさんじゃないの、どうしたの?溜息なんかついちゃって…



  

「ちょっと、聞いてくださいよ。
 ボカアね、人魚さんに、惚れちゃったんだ。
 でも人魚さん、つれなくてね…。」



「え?人魚さんに? そうだったの…。
 わかるなア。人魚さん、美人だもんねー。」







  人魚さん↓










 「人魚さんね、好きな人がいるっていうんだよ。 
  ナイトさんに、ホの字だから、ボクの気持には
  答えられないっていうんだ。
  こんなに好きなのに…。」


 「あー、ナイトさんかあ…、
  それは手強いライバルだねえ。
  ナイトさん、かっこいいもんねえ。
  こう、長髪をなびかせちゃってね。

  ま、元気出してね。」







 ナイトさん↓












ふむふむ、それにしても、ああ、それにしても、



みんな、いろいろあるんですね…。











辺りが暗くなってきましたよ。そろそろ、帰りましょうか。













楽しかったなあ。






さて、今夜は何をたべましょうかね…









2004年08月12日(木)



 秋の日に

日の短い、北風の季節がやってきた。


入れたてのコーヒーや、ココアの湯気が、どこまでも嬉しい。

街を行き交う人々が、背を丸めコートの襟を立てて足早にすぎていく。

木立のざわめきが冬の訪れをゆるやかに告げているみたいだ。



そして、私の内側にもまた、小さな変化がゆっくりと訪れようとしている。





29歳の今年の夏は、ドイツ北西部にある街、ミュンスターで、2ヶ月の間生涯忘れられないたくさんの大切な時間を過ごした。


ミュンスターは自転車の交通が発達していることで有名で、古い町並みが残されたカソリックの街であり、

私にとっては、

23歳のときに、初めて一人旅をした街であり、
26歳の時に、その街に暮らすドイツ人家族と出会い、
27歳の時に、彼らのもとに滞在して彼らと同じ言葉を学びはじめ、少しずつ、階段を上っていくようにして時間をかけて、仲良くなっていった街だ。



私は旅をしたり移動することが好きだけれど、たいていの場合は、珍しい風景や綺麗な風景の中に入り込んで、でも、むしろ日常の外側にいるもう一人の自分と出会う為の旅をすることが多い。


けれどこの街ではじめて、その土地に根をおろす人々と出会い、深く知り合い、そうして自分にとっての旅の持つ意味が変った。

もっと彼らと知り合いたいなあ、仲良くなりたいなあという気持ちを持つようになって、いつもいつも心のどこか片隅で、その気持ちを育てることの喜びを学んだ。
目の前に広がる、見知らぬ街の内側にある温もりを、心と体の両方で感じる事を覚えた。




小さな種が、心の中に思いがけずポツンと植えられて、少しずつ発芽して、時間をかけて他の何にも変えられない大好きな自分だけの植物に育っていく。



虫に食べられてしまわないように、

栄養が途絶えてしまわないように、

水が十分に行き渡っているように、

たくさんのお日様の光を浴びられるように、

ハラハラしながら守って、育てていく。


そして 時には、何かをすることよりも、
何もせず、ただ待つ事もまた、大事みたい。



のんびりと、待ってみる。



だって、その植物は、私が育てているものでもあるけれど、自分の力でも育っていこうとするものだから。




そうしたことが、大変であると同時に、たくさんの喜びを自分にもたらしてくれること。
私は今まで、まるで知らなかったんだ。





この夏、ミュンスターから日本で暮らす親友へ宛てた葉書に、こんな事を書いた。



「嬉しい日、楽しい日、寂しい日、がっかりする日、いろーんな日が駆け抜けていく中で、少しずつ、開いていきたい扉が見えてきたみたいだよ。」



その扉が、どんな形をしていて、どんな色で、そもそも、いったい何処に扉のノブがついているのか、今はまだ見えないけれど、きっと、まだ見た事もない素敵な扉なんじゃないかな。



ゆっくりと、待っていたい。




灯火は決して絶やさずに。

もし消えてしまっても、また、何度でも火を灯そう。







2004年09月24日(金)



 極北の海

どこまでも広がる青い空と、青い海、暖かな風。



ひとつの風景が、どんな気のきいた言葉や贈り物よりも、心の澱のすべてを洗い流し、果てしないエネルギーを与えてくれることがある。


2週間前の週末、1泊二日の短い旅だったけれど、
電車と船にゆられ片道6時間かけて、バルト海の島へ行って来た。

バルト海はドイツの北側に面した海で、シュトラールズンドという最北端の町から船にのると、リューゲン島とヒデンゼーという二つの島にいくことができる。そのうちの小さい方、ヒデンゼーに大好きな友達と訪れた。


週の半ば頃から、今度の週末は夏日になると聞いていた。


木曜日の早朝に「海に行かなくちゃ!」と思い立ち、朝7時に友達を叩き起こして、「お金払うから、一緒に海行って!」と頼んだ。

起きぬけの友達は、

「私の分のお金は払わなくていいよ。そのかわり、いくんだったらちゃんとホテル予約してね。
リゾートに行くならケチな貧乏旅行はお断りよ。
ご飯もレストランね。」

と注文をつけて、私に負けないくらいのウキウキした声で話にのってくれた。


数ヶ月後に帰国がせまり、果たすべき仕事がたまりにたまっていて一秒でもおしいのは私も彼女も同じだけれど、こんなとき、「え、海? いいねえ〜」とのってくれる頼もしい彼女が、私はとっても気に入っている。

そうこうして、私は友達との小旅行に向けてチケットとホテルの手配に早速とりかかった。
明後日には海にいけると思うと、心がワクワクとはなやぐ。

忙しい時期に2日間のロスが痛手でないといったら嘘になる。
そもそも、経済事情もかなりギリギリで暮す日々だ。


でも、楽しみは大切。


そして、友達のいう「バカンスするんだったらケチなのはいやよ。」というのが耳に響く。
島には、たぶんドイツ人しかいない。アジア人2人はとても目立つだろうなあと想像できた。


つまり、人に見られる。

そうなってくると、なんとなくプライドもくすぐられてくる。

目立って人にみられるんだったら、
アジアの美女2人が島に上陸っていうのがいいなあと夢想する。



「う〜ん、こうなったら2日休むのも3日休むのも一緒。お金は天下の回りもの!なんとかなる!」



気持ちを大きくもって、旅の前日から既にスケジュールはオフにし、ベルリンの目抜き通りへいって服という服を試着してまわった。
そして、シースルーの赤い花柄ワンピースと、水色のブラウスと、髪飾りを買った。

友達にも、「ホテルも取ったし、ちゃんとレストランも行く。だからオシャレしてきてね。コンセプトは、『美女2人海辺のバカンス』だからね。」
と伝えた。もちろん彼女はクスクス笑いながら、「オッケー。」と応えてくれた。



バルト海は、エメラルド色に澄んだ綺麗な海だった。
水面が陽光に照らされて幾千にもきらめく様や、海面を泳ぐ白鳥達に見とれるばかりだった。
島には誰もいない砂浜もあって、何をしててもウヒャヒャヒャと笑いがこぼれた。

私たちは、
「ここ、ほんとにベルリンと同じドイツかなあ〜、ありえないけど本当は、スペインだったりして。。。」
と、何度もつぶやいた。



島にはたくさんの緑があって、揺れる木漏れ日の道を歩くのがとても気持ちいい。
灼熱の日差しを浴びると、曇天の日々の中で、しらずしらずのうちに体内に生えていたカビが消えていくように感じられた。

並木道を行き来していると、何度も一人の可愛い少年が声をかけて来た。
5歳くらいだろうか。

「あのね、今ね犬がとおったでしょ、あの犬いじわるなんだ。だから嫌いなんだ。だから今、僕、柵をの中に入るの。」
「どこから来たの? ニホンてなあに?」
「僕ね今から、おしごとするの。このシャベルで、道路をきれいにするの。この車に土をのせるの。これ、僕のくるまなの。」

かしこそうな焦げ茶いろの瞳と、つなぎのズボンが印象的だった。

「ねえ、名前なんていうの?」

「僕、レオロッツローベ。」

「それ、全部名前なの? 名字なんていうの?」

「違うよ。名前はレオだよ。僕、レオ・ロッツ・ローベだよ。」

私も自分の名前を彼に教えた。
聞き慣れない名前が、彼には難しいみたいだった。
それから少年と別れて、ポツポツと気ままに散歩しながら、ふと思った。

さっきの男の子、なんだか不思議な出会いだったな。あの子、もう二度と会わないだろうけど、
でも、いつかまた会うかもしれない。
私、いつか男の子を産むかもしれない。そしたら、名前はレオかもしれないな...

どうしてだか、そんな事を考えた。
結婚する予定どころか、恋人もいないのに、真剣にそんな事を思って、笑いがこみあげた。



たった2日の短い短い旅。
とっても素敵な旅だった。



ベルリンに戻ってくると、またいつもの曇天の日々が待っていた。

友達に、「バルト海いってきたよ!海が綺麗だった!」と自慢するたびに、
「それはついてたね。その日はたまたま天気がよかったんだよ。
あそこも曇り空のときも多いんだ。曇っていて寒い日のバルト海は、荒涼としてるんだよ。
それにあの週末は、ベルリンだって最高のお天気だったんだよ。」
という返事が返ってきた。


そうか...別の時にいったら、あんな時間は過ごせなかったかもしれないのか...


ドイツでの暮らしは、時々夏日になったり、かと思うと、うそみたいに冬の日に舞い戻ったり、いつまでたっても衣替えのできない毎日だ。

空がグレー色なのが日常で、これとうまく付きあうのが日々をなるべく元気に生きるコツだな思う。そして、もう随分と慣れて来た。

天気の悪い日、寒い日は、その事に極力反応しないで、美味しいものをたべたり、自分を甘やかしてやり過ごす。
たまにある青空の晴れた日は、心の底から生きる喜びを感じる。



お天気の良い日というのがどれほど貴重で素敵な事なのか、私は今まで知らなかった。

そして、晴れでもドシャ振りでもないスモーキーな日常と向き合うには、
タフさとユーモアと、時に、思い切って優雅な一時を過ごしてみるのがすごく大切だという事も...。



明日からまた新しい一週間がはじまる。
例によって気候は芳しくないみたいだ。

でも、極北の海で見た抜けるような青さのように、
新鮮な心で生きよう。



よし、頑張るぞ!







2005年06月13日(月)
初日 最新 目次 MAIL