| 2025年02月23日(日) |
ネムルバカ、花まんま、JOIKA 美と狂気のバレリーナ |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ネムルバカ』 原作者の石黒正数が29歳の時(2008年)に書き始めた青春コミ ックスを、2021年『ベイビーわるきゅーれ』が話題となった 坂元裕吾監督が同世代の28歳で映画化した作品。 大学の女子寮で共同生活をしている2人の女子大生。1人は 大学に入ったものの将来の目標もなく、ただ日々を過ごして いる。しかしもう1人は3人の男子を従えたバンドで音楽に 打ち込み、今やメジャーデビューも夢ではない状況だ。 そんな2人だが、普段は居酒屋で酒を酌み交わし、時にはラ イヴで青春を発散し、またはバイトで面倒な客を相手にやや こしい愚痴を聞いたりもしている。そしてバイト先の店長か らは怪しげな誘いもある。 そんな女子大生の日常が描かれて行く。 出演は乃木坂46の久保史緒里と2017年3月紹介『ReLIFE リライフ』などの平祐奈。他にスーパー戦隊シリーズ「騎士 竜戦隊リューソージャー」の綱啓永、「暴太郎戦隊ドンブラ ザース」の樋口幸平。 さらにお笑いコンビ「ロングコートダディ」の兎、ロックバ ンド「the dadadadys 」の儀間陽柄、2020年『弱虫ペダル』 などの長谷川大、2023年『ゴジラ-0.1』などの高尾悠希。そ れに吉沢悠、伊能昌幸らが脇を固めている。 物語自体は何となくありものっぽい感じだが、これが青春な のだろうし。僕自身の大学生時代はもう50年以上も前のこと になるが、それでも周囲にはプロの作家を目指す仲間なども いて、そんな青春時代を懐かしむ感じもした。 それと試写状を見た時にはバンド活動という文言があって、 何となく乃木坂の久保がその役かと思っていたら、平がそっ ちという意外性も良かった。実際に平はギター演奏や歌唱も よく頑張っていたものだ。 そして彼女が歌う映画のタイトルと同名の楽曲は、その成立 の過程の話なども面白くて、それなりの名曲のようにも聞こ えてきた。そんなことも含めて巧みに作られた青春ドラマが 描かれていたものだ。 現代の青春や学生生活がどんなものかは知らないが、僕自身 にとっては懐かしさもあって、良くできた青春ドラマと感じ られた。少なくとも暴力や抗争に明け暮れるようなドラマよ りは良い。 公開は3月20日より、東京地区はTOHOシネマズ日本橋、新宿 ピカデリー、渋谷シネクイント、アップリンク吉祥寺他にて 全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社ポニーキャニオンの招待で試写 を観て投稿するものです。
『花まんま』 原作者の朱川湊人が2005年の直木賞を受賞した短編集からそ の表題作を、2023年4月紹介『水は海に向かって流れる』や 2002年4月紹介『パコダテ人』などの前田哲監督で映画化し た作品。 主役は幼くして両親を亡くした兄妹。父親は妹がまだ1歳の 時に事故死し、母親は兄が高校生の時に他界した。そして兄 は、父親が残した妹を守れという言葉を胸に懸命に働き、大 学に行った妹が学者肌の男と結婚式を迎えるまでになった。 ところがそんな妹の結婚相手が訪ねてきた式の前々日。職場 にいるはずの妹が姿を消す。そして引っ越し荷物を調べた兄 は、ある幼い頃の記憶を甦らせる。それは親を心配させない ため絶対に秘密と兄妹で誓い合ったものだった。 こうして記憶をたどる兄の前に、驚愕の事実が明らかになっ て行く。 出演は鈴木亮平、有村架純。他に鈴鹿央士、ファーストサマ ーウイカ、安藤玉恵、オール阪神、オール巨人、板橋駿谷、 田村塁希、小野美音、南琴奈、馬場園梓。そして六角精児、 キムラ緑子、酒向芳らが脇を固めている。 試写状に「遠い昔にふたりで封印したはずの<秘密>」という 文言があって、実はちょっと下世話な展開も予想してしまっ た。しかし物語はある種のファンタシーというかSFと言え るものでもあって、実に見事な展開となっていたものだ。 しかもそれが、ファンタシーという点では最近の流行りに近 いものではあるが、タイトルにもなっている小道具の扱いの 上手さで試写会場では自分も含めてかなりの涙が流されるよ うな感動の作品になっていた。 それはこういう事象を事前に知っているか否かという点にも 繋がってくるが、正直に言って自分がSFファンで、この手 の出来事の存在を知っていたことにも感謝したものだ。まあ 最近はテレビ番組でも扱われる話だが。 因に原作の短編小説は主人公の子供時代だけを描いているそ うで、映画のストーリーはその最期に付記された数行を基に 膨らませたものとのこと。脚本のクレジットには北敬太とあ るが実在者ではなく、監督らが作り上げたもののようだ。 それにしても見事な映画作品が作られている。東映京都撮影 所の製作で、監督以下キャストも含めて関西ネイティヴの作 りも嵌っている作品だ。 公開は4月25日より全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社東映の招待で試写を観て投稿す るものです。
『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』“Joika/The American” 2012年にアメリカ人女性としては初めて世界最高峰とされる ボリショイ・バレエ団に入団したジョイ・ウーマックの実話 に基づく作品。 ウーマックはワシントンD.C.にある名門バレエ・アカデミー でロシア・バレエを学び、頭角を表して15歳でボリショイ・ アカデミーに入学を許される。そしてロシアに渡りバレエ団 への入団を目指すが、それは簡単な道程ではなかった。 そこには厳しい指導で生徒を震え上がらせる女性教官や見事 な資質を持ったライヴァルなど、様々な存在が彼女の行く手 を阻む。それでも一歩一歩進んで行く彼女の前に最大の試練 が訪れる。果たして彼女はそれを乗り切れるか? 出演は2021年スティーヴン・スピルバーグ版の『ウェストサ イド・ストーリー』に出ていたというタリア・ライダーと、 2014年6月15日付「フランス映画祭2014」で紹介『バツイチ は恋のはじまり』などのダイアン・クルーガー。 他にロシア連邦の構成国タタルスタン共和国タタル国立歌劇 場のプリンシパルで、2018年11月03日付「東京国際映画祭」 で紹介『ホワイト・クロウ』のルドルフ・ヌレエフ役を演じ たオレグ・イヴェンコ。 脚本と監督は2015年にチェスの早指しチャンピオンを描いた 『ダーク・ホース』で多数の賞に輝いたニュージーランド出 身のジェームス・ネピア・ロバートスン。実在の人物を描く ことに長けた監督がまたしても名作を生み出したものだ。 そして監督はウーマック本人にも協力を仰ぎ劇中演じられる バレエシーンの振り付け、さらには主人公のバレエシーンの 吹き替えも演じさせている。またナタリア・オシポワらバレ エ界のレジェンドも本人役で登場するという作品だ。 タイトルの「ジョイカ」は女性教官が主人公を呼ぶときの発 音だが、他の人物らは「ジョイ」と呼び掛けている。ここで 語尾の「カ」はロシア語では「・・ちゃん」というようなも ので、そういう意味合いで使われているものだ。 因にこの「カ」の意味は1970年の「国際SFシンポジウム」 で来日したロシア人通訳に聞いたものだが、酒のウォッカが 「水ちゃん」だと聞かされた翻訳家の矢野徹氏が「ロシア人 の酒の強さが判る」と感心していたのを思い出した。 本作にもそんな酒のシーンは描かれていた。 公開は4月25日より、東京地区はTOHOシネマズシャンテ他に て全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社ショウゲートの招待で試写を観 て投稿するものです。
| 2025年02月16日(日) |
あめだま、ノーバディズ・ヒーロー、ファレル・ウィリアムス、サスカッチ・サンセット、太陽の運命、ハッピー☆エンド |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『あめだま』 3月2日に発表される第97回アメリカ・アカデミー賞🄬 短編 アニメーション部門に東映アニメーションとしては初めての ノミネーションを果たした上映時間21分の作品。 主人公は他人とのコミュニケーションが苦手で、いつもビー 玉でひとり遊びをしている少年。そんな少年が駄菓子屋でい ろんな模様の入った数個の飴玉を手に入れる。そしてその飴 玉の1個を口に入れてみると…。 少年の頭の中に突然ある声が聞こえてくる。それは隣の部屋 にいた飴玉の模様と同じ模様を持ったあるものの声だった。 つまりその飴玉はそれを口に入れると同じ模様のものの声が 聞こえる魔法の飴玉だったのだ。 しかもそれは生物だけでなく、置かれた物体の声だったりも する。こうして少年はいろいろなものの声を聞き取り、その 思いに沿った行動ができるようになって行く。そしてその行 動が少年を成長させて行く。 原作は2020年に「アストリッド・リンドグレーン賞」を受賞 した韓国の児童文学作家ペク・ヒナによる同名作と『ぼくは 犬や』。その原作から『ふたりはプリキュア』シリーズなど の西尾大介監督と鷲尾天プロデューサーが作り上げた。 またアニメーション制作は『THE FIRST SLAM DUNK』などの ダンデライオンアニメーションスタジオが担当。声優は、嶋 陽大、長谷川義史、岩崎ひろし、山路和弘、渡辺いっけい、 雨蘭咲木子らという作品だ。 映画の製作に当っては実際に韓国にロケに行き、その撮影素 材を基にCGアニメーションの制作を行っている。それによ って韓国でもちょっと昔の風景が見事に再現されているよう だ。従って映像にはハングルが溢れている作品だ。 短編アニメーション部門の他の候補作は“Beautiful Men” “In the Shadow of the Cypress”“Wander to Wonder” “Beurk !” となっているもので、他の作品は観ていないの で僕の評価はできないが、IMDbでの評価は一番高い。 子供の成長を描いた作品ということでは見事で、僕自身は非 常に気に入っているが、とは言えアカデミー会員の評価基準 は全くわからないので、それが受賞に繋がるかは全く不明。 でも多くの人に観て貰いたい作品ではある。 一般公開は未定のようだが、出来れば受賞して特別上映にで も漕ぎ着けて欲しいものだ。 なおこの紹介文は、製作した東映アニメーション株式会社の 招待で試写を観て投稿するものです。
『ノーバディズ・ヒーロー』“Viens je t'emmène” 2025年1月紹介『ミゼリコルディア』のアラン・ギロディ監 督による日本未公開3作品の2本目。本作は2022年のベルリ ン国際映画祭パノラマ部門のオープニングを飾ったものだ。 物語の始まりは男が道端に立つ女に言い寄るところから。そ の女は娼婦で客待ちをしていたのだが、男は迎えの車が来た のもかまわず強引に連絡先のメモを女に手渡す。すると帰宅 した男の許に電話が架かってくる。 こうして男女は関係を持ち始めるが、男のテクニックが気に 入ったのか金は払わないとする男に女は連絡を取り続ける。 そんな男女の関係に、嫉妬深い女のパートナー、さらに逢瀬 を紡ぐホテルのフロントなどで話が展開して行く。 そこに爆弾テロが発生し、過激派と疑われるアラブ人の若者 が男の住むアパートに侵入。さらにはホテルのフロントの若 い女性、若者の処遇に迷う男の住むアパートの隣人らが入り 乱れて、かなり飛んでもない物語が繰り広げられる。 出演はジャン=シャルル・クリシェ、ノエミ・ルヴォウスキ ー、イリエス・カドリ、ミシェル・マジエロ、ドリア・ティ リエ。本作がデビュー作というイリエス・カドリ以外はそこ そこの出演歴のある俳優が並んでいる。 所謂艶笑コメディという部類の作品になるが、そこで語られ る爆弾テロの意外な真相や性別、人種、民族に関わるマイノ リティの問題など、現代社会が抱える様々な問題を巧みに織 り込んだ展開も見事と言える作品だ。 しかも性行為などはかなりリアルに描かれ、これは監督自身 がインタヴューで「ポルノグラフィーの復権が目的の一つ」 と語っているもので、この辺の捉え方も凡庸な監督とは一線 を画していると言える。 しかもそんな種々雑多な情報を我々日本人のような部外者に も判りやすく描いているのも見事で、民族間の問題など複雑 な社会情勢が巧みに描かれているのも秀逸に感じられた。監 督が現代フランス映画の旗手とされるのも頷ける作品だ。 民族間の問題などは日本人にはなかなか判り難いが、その点 には学びもある作品だった。日本の近い将来を暗示する作品 でもある。 公開は3月22日より、東京地区は渋谷のシアター・イメージ フォーラム他にて全国順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社サニーフィルムの招待で試写を 観て投稿するものです。
『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』 “Piece by Piece” 音楽家として数々のヒット曲を発表し、自らのファッション ブランドを生み出すと共にルイ・ヴィトンのクリエイティヴ ・ディレクターとしてランウェイショーを手掛けるなど、多 岐に活躍するアーチストの半生を特別な手法で描いた作品。 内容は、1970年代に生まれた孤独だった少年がやがて音楽の 才能に目覚め、友人とバンドを組んで徐々に音楽で頭角を現 して行くというもの。この程度は他にもあるかなと思うが、 本作ではここに錚々たる顔ぶれの証言が加わる。 その顔ぶれはスヌープ・ドッグ、ケンドリック・ラマー、ジ ャスティン・ティンバーレイク、グウェイン・ステファニー ら、音楽には疎い僕でも知っているような名前が並んでいる ものだ。 そして彼らがファレル・ウィリアムスの偉大さを語ってくれ るのだが、何とそのインタヴューやその他の彼の半生の映像 が全て2014年2月紹介『LEGOムービー』のようなブロック玩 具の造形で描かれている。 監督は2013年オスカー受賞作『バックコーラスの歌姫たち』 などのモーガン・ネヴィル。受賞作はここでの紹介は割愛し たが試写を観て優れた音楽ドキュメンタリーだったと記憶し ておりドキュメンタリーの実績は充分な監督の作品だ。 そんな監督が本作では何とも奇想天外な作品を作り上げたも ので、これはもしかして最初は実写のドキュメンタリーで制 作して後付けでレゴ🄬 ムーヴィ化したのかとも疑ったが、イ ンタヴューの受け答えでは最初からの企画だったようだ。 まあ単純にはインタヴューのシーンが多い作品なので、それ では単調だと考えられたのかもしれないが、正直にはレゴ🄬 の造形が面白くて、インタヴューがしっかりと頭に入ってこ ないような印象にもなってしまった。 ただそんな中でファレル・ウィリアムス本人がかなりSFに 造詣のある人のようで、『スター・トレック』や『カール・ セーガンのコスモス』なども引用されているのには大いに興 味を惹かれたものだ。 なお映画の製作はレゴ🄬 社の協力の許に行われているものだ が、実際の造形はCGIで行われているようで、これにはレ ゴ🄬 化ソフトみたいなものがあるのかな? 公開は4月4日より全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社パルコの招待で試写を観て投稿 するものです。
『サスカッチ・サンセット』“Sasquatch Sunset” 北米大陸に生息するとされる未確認生物サスカッチの生態を 描き、2018年10月紹介『ヘレディタリー/継承』などのアリ ・アスターが製作総指揮を手掛けたという作品。 舞台は広大な森林地帯。そこで暮らすサスカッチ=通称Big Footの群れが登場するキャラクターとなる。そして物語はと ある年の春に始まる。そこで1頭のオスがある切っ掛けで発 情してしまうが…。 季節は巡って夏。メスが自分の身体に異変を感じる。そして 群れの行く手に赤いペンキで描かれた「×」印を発見し、さ らに舗装された道路にも遭遇する。その風景に興奮する彼ら だったが、やがて別れが生じる。 そして秋。メスと幼い息子だけになった群れはキャンプ用の テントを発見。そこである出来事に興奮したメスは破水。新 たな生命が誕生する。しかしそこには野獣の捕食者の影も近 付いていた。 さらに冬。遠くに山から煙が上がるのを発見。彼らは仲間へ の呼び掛けの叫びを発するが、応えはない。そして進んで行 く彼らの前にBig Footの姿を描いた看板が出現する。その看 板に向かっても叫ぶ彼らだったが…。 脚本と監督は、2014年に菊地凛子主演『トレジャーハンター ・クミコ』を手掛けたデヴィッド&ネイサン・ゼルナー。幼 少期にレナード・ニモイがMCを務めた番組でサスカッチに 興味を持ったという兄弟が、その思いを実現した作品だ。 そして出演は、脚本を最初に読み製作の手掛かりも提供した という2010年10月紹介『ソーシャル・ネットワーク』などの ジェシー・アイゼンバーグ。 それに2010年12月紹介『ランナウェイズ』などのライリー・ キーオ、2013年2月紹介『オズはじまりの戦い』などの出演 者でスタントマンのクリストフ・ジジャック=デネク。また 監督のネイサンも出演している。 サスカッチというのは元々が未確認生物だからその生態など は全く不明。従ってここに描かれる展開も全て想像の産物だ が、監督兄弟は他の野獣生物などの行動を参考に愛情を込め てその姿を作り上げている。 それはかなり下品な面もあるが、全体的には愛すべき姿とし て描かれた。しかし描いている内容は登場する音響機器など の様子から少し前の時代かな。そしてタイトルのサンセット =日没からは悲しい現実も想像させる作品だ。 公開は5月23日より、東京地区は新宿ピカデリー他にて全国 ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社アルバトロス・フィルムの招待 で試写を観て投稿するものです。
『太陽(ティダ)の運命』 2019年6月30日付題名紹介『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯』などの佐古忠彦監督が再び問う沖縄 の現実を描いたドキュメンタリー。 以前紹介の作品は戦後と呼ばれた時代の沖縄史を描いた作品 で、実はコロナ禍で僕は観られなかったが2021年には『生き ろ島田叡―戦中最後の沖縄県知事』で日本帝国支配下の沖縄 史も佐古監督は描いている。 そして本作では1972年の本土復帰以降の沖縄の苦難の歴史が 第4代沖縄県知事・大田昌秀と第7代沖縄県知事・翁長雄志 の姿を通じて描かれている。それはタイトルにある「運命」 というより「宿命」に近い沖縄県民の叫びだ。 大田は社会学者、沖縄戦研究者の立場から革新統一候補とな り、1990年に県知事に当選した。そして1995年に米兵による 少女暴行事件が発生し、「日米地位協定」の見直しを訴えて 橋本龍太郎首相から「普天間基地返還」の言質を得る。しか し県内移設などの条件からその実現は叶わなかった。 これに対して翁長は保守の立場から大田県政を批判、大田を 退陣に追い込むが、那覇市長時代に辺野古埋め立てを強行す る安倍政権と対立。自らの支持母体だった自民党とも対峙し て保革の対立を乗り越えた選挙戦で2014年に当選する。 つまりこの2人は、立場は真逆でありながら結果として基地 の返還と県外移設を唱えるもので、これこそが「運命」とい うより「宿命」と呼べるものだと僕には思えるのだ。それに しても事態がここまで拗れる原因は、単純過ぎるほど単純だ と思えるのだが。この単純さが暗礁にもなってしまう。 いやはや、辺野古埋め立ての問題は今までにも2023年11月紹 介『沖縄狂想曲』や琉球放送製作のドキュメンタリーなどで 理解していたつもりだったが、こうも単純な裏切りの上に成 立しているとは思わなかった。 それにしても現代戦において日本の国土防衛に沖縄の基地は ほとんど意味がないものであって、にも拘らず沖縄の米軍基 地に自民党がここまで固執するのにはそれなりの利権がある のかな? その辺ことは本作を観ても判らないままだった。 まあ判っても意味はないのだろうけど。 公開は3月22日より那覇市桜坂劇場で先行上映の後、東京地 区は4月19日から渋谷ユーロスペース他にて全国順次ロード ショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社インターフィルムの招待で試写 を観て投稿するものです。
『ハッピー☆エンド』 群馬県前橋市で緩和ケア・萬田診療所を営む萬田緑平医師を 通じて、末期がん患者などの緩和ケアの実際を描いたドキュ メンタリー。 末期がんの治療に関しては胃婁や抗がん剤治療など診療報酬 の確保を目的とした人間性を疑うような医療が行われて、僕 自身は延命治療の拒否は行うつもりだが、世間的にはそうは いかない実情もあるのかもしれない。 そんな中で治療か死かの二者択一と思われる医療に第3の道 を示してくれるのが本作で紹介される緩和ケアだ。それは医 療用の麻薬などを用いて患部に伴う痛みなどを緩和し、それ によって穏やかに死期を迎えるまでを過ごすというもの。 それはもちろん病気を治す訳ではないから、これを治療とい うには抵抗があるのかもしれないが、人が人としての尊厳を 保ったまま最期を迎えるには理に適った方法と思える。しか しそこには様々な抵抗もあるようだ。 その抵抗の1番目は緩和ケアに使用される医療用の麻薬とい うことだが、それは多分医療用のモルヒネだがそれはかなり 以前から手術後などに使用されていたもの。それが今更抵抗 の要素になっているとは思わなかった。 でもまあモルヒネという言葉にも抵抗があるのなら、ヒロポ ンがいつの間にか覚醒剤になったように呼び名を変えればい いような気もするもので、そんなところにも訳の分からない 抵抗組織がいるのだろうな。 そんな医療に関する不自然な抵抗は、COVID-19ワクチンへの アンチな言論からも身に染みて理解しているところだ。そん な抵抗にもめげずに緩和ケアを勧める医師の姿が描かれてい る。 とは言っても本作が主にレンズを向けているのは医師よりも 患者の方で、そこには緩和ケアによって満足の行く生涯を終 えられた患者たちの姿が描かれる。そしてそこに緩和ケアを 実践した樹木希林さんの言葉も添えられる。 正直に言って本作の全体の流れは緩和ケアのCMのような趣 もあるが、緩和ケアという選択肢を周知させるためにも本作 の価値はあるようにも思えた。自分も後期高齢者になって、 こういう情報を知れたことには感謝したい気持ちだ。 監督は、以前には学校給食の問題を描いてきたというオオタ ヴィン。ナレーションに佐藤浩市と室井滋。エンディングに ウルフルズの『笑えればV』をフィーチャーした作品だ。 公開は4月18日より、東京地区はシネスイッチ銀座、アップ リンク吉祥寺他にて全国順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給する新日本映画社の招待で試写を観 て投稿するものです。
| 2025年02月09日(日) |
私の親愛なるフーバオ、教皇選挙、プロフェッショナル |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『私の親愛なるフーバオ』“안녕, 할부지” 2016年に韓国にやってきた2頭のジャイアントパンダ。その 番の間で2020年に誕生した史上初の韓国生まれのフーバオ。 その個体が4歳になり規定によって中国に帰るまでの最後の 日々を追ったドキュメンタリー。 日本では1972年に日中国交正常化記念で中国から贈呈された カンカンとランランが最初。その後は1967年と72年にフェイ フェイとホアンホアンが来日して、その2頭の間で1986年誕 生のトントンは2000年死亡まで日本で過ごした。 しかし近年はワシントン条約によって絶滅危惧種の国際取引 が禁止され、中国国外での飼育は研究・繁殖のための貸与の みとされる。このため誕生した子供は一定の期間を経ると中 国へ返還されることになっている。 そんな事情で中国に返還されることになった仔パンダの最後 の日々が記録された作品だ。とは言うものの被写体の中心は フーバオの誕生から成長を見守ってきた飼育員たちの姿で、 特に別れが迫ってからの様子が描かれる。 それでなくてもジャイアントパンダは、その愛くるしい姿や 仕草などで韓国でも人気だったようだが、実際にフーバオは 韓国で初めて誕生した子供ということで、人気は絶大だった ようだ。従ってその騒ぎはかなりのものとなる。 それに対して飼育員たちは仔パンダを送り出すための様々な イヴェントを用意。そして検疫のための隔離期間前の最後の 一般公開の日には、広い園内が観客でぎっしり埋まるほどの 盛況となり、多くの人が別れの涙を流すことになる。 そんなフーバオを囲む人々の姿が記録されている。 監督は、数多くの映画、TVドラマ、ミュージックヴィデオ などを手掛けるシム・ヒョンジュンと、インディペンデント 映画、CM、ミュージックヴィデオなどを手掛けるトーマス ・コー。 この2人にヴェテラン撮影監督のキム・スルギとチョ・ヨン スが参加。さらにハリウッド映画でも活躍しているアニメー ション監督のイ・ギョンホも加わって94分の作品が作り上げ られている。 実はフーバオ誕生の前には死産などの苦い経験もあったよう で、そんな経緯の後に生まれた子供には一層の愛着があった ことは理解できる。とは言うものの日本ではここまでセンチ メンタルにはならないかな。 まあ日本の場合はそれまでに日本で生まれて天寿を全うした トントンのような存在もあるから、仔パンダの中国への帰還 はそれなりの話題にはなるが、今では比較的冷静に観られて いる気がする。 でもこの映画を観ていると、本当はこれくらいにセンチメン タルになってもいいのかな、という気はしてきた。因に本作 の製作費は3000人を超える人々のクラウドファンディングで 賄われたということで、その熱意も感じる作品だった。 公開は4月18日より、東京地区は新宿武蔵野館、ヒューマン トラストシネマ有楽町、シネリーブル池袋他にて全国ロード ショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社ファインフィルムズの招待で試 写を観て投稿するものです。
『教皇選挙』“Conclave” ローマ法王が逝去した後の20日以内に始められる教皇選挙。 本来は密室で行われるその内情を2011年7月紹介『ゴースト ライター』などの原作者ロバート・ハリスが綿密な調査の許 に描いた小説の映画化。 ローマ法王が心臓発作で突然の死去、その教皇選挙は法王の 側近だった首席枢機卿の指揮で行われることになる。そして 世界中から 100名を超える枢機卿がローマに参集し、密室で の選挙が始まるが…。 物語は前法王が内密に任命していたという謎の枢機卿の登場 など、開幕からいろいろな波乱を含んだ展開となるが、そこ で有力な候補は3名の枢機卿。しかしリベラル派と保守派の 対立や過去のスキャンダルの暴露も勃発。 さらにはイスラム過激派による爆弾テロなど、正しく現代を 象徴するような出来事が次々に起こり始める。そんな事態を 首席枢機卿は次々と捌き、ようやく次のローマ法王の選出に 漕ぎ着ける。果たして選ばれた人物は? 出演は『ハリー・ポッター』シリーズでヴォルデモート役の レイフ・ファインズ、『ハンガー・ゲーム』シリーズでフリ ッカーマン役のスタンリー・トゥッチ、2014年11月紹介『イ ンターステラー』などのジョン・リスゴー、2012年1月紹介 『最高の人生をあなたと』などのイザベラ・ロッセリーニ。 さらに世界規模のオーディションで選ばれたカルロス・ディ エス、2009年3月紹介『ザ・バンク 堕ちた巨像』などのル シアン・ムサマティ、2004年9月紹介『赤いアモーレ』など のセルジオ・カステリットらが脇を固めている。 監督は2022年 Netflix版『西部戦線異状なし』などを手掛け たエドワード・ベルガー、脚本は2012年2月紹介『裏切りの サーカス』などのピーター・ストローハン。2人は製作総指 揮も担当し、原作者のハリスも製作に名を連ねる作品だ。 教皇選挙は立候補制ではなく、単純な互選で2/3の得票を 得られるまでやるというのだから、これは時間が掛かるのも 当然だろう。日本語では「根比〜べ」などと揶揄気味に呼ば れるその模様が描かれる。 そこに上に例記したような様々な事象が矢継ぎ早に襲い掛か るのだから、これは観ていて飽きさせない。しかもその結論 がここにあるとは…、正に現代を鏡のように映し出した作品 と言えそうだ。キリスト教会も真っ青かな? 公開は3月20日より、東京地区はTOHOシネマズシャンテ他に て全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社キノフィルムズの招待で試写を 観て投稿するものです。
『プロフェッショナル』 “In the Land of Saints & Sinners” 1974年のアイルランドを舞台に、1952年生まれのリーアム・ ニースンが伝説の殺し屋に扮するシニアアクション。 主人公は従軍の後にある事情から元締めに誘われて殺し屋に なった男。その手口は標的を拉致した後に森の空き地に連れ て行き、自分で穴を掘らせて殺害するというもの。何とも残 忍な手口だ。 そんな男が寄る年波に疲れ、引退を考え始める。ところがそ んな男が、いつも立ち寄る酒場で店主の女性の幼い娘を見た 時、違和感を覚える。そしてその原因の若い男を最後の仕事 として殺害するが…。その男は過激派の一味だった。 こうして主人公とIRA過激派との壮絶な戦いが始まる。映 画は巻頭でIRA過激派による爆弾テロが描写され、その残 忍さから主人公には必殺仕事人のようなイメージも与えられ る仕組みになっている。 そんな物語がアイルランドの荒野を舞台に繰り広げられる。 共演は2012年2月紹介『きっとここが帰る場所』などのケリ ー・コンドン。他にジャック・グリーソン、キアラン・ハイ ンズ、デズモンド・イーストウッド、コルム・ミーニーらが 脇を固めている。 監督は、クリント・イーストウッドの製作会社マルパソ・プ ロダクションズ所属で1995年『マディソン郡の橋』以降の作 品で助監督を務めてきたロバート・ローレンツ。脚本はマー ク・マイクル・マクナリーとテリー・ローンという作品だ。 人は沢山死ぬし何とも殺伐とした話だが、主人公の人間性み たいなもので救われるのかな。物語の展開は西部劇のような 趣もあるが、舞台がアイルランドで敵がIRA過激派という ことで、テイストは全く違う作品になっている。 でも、主人公が立ち寄る酒場でフィドルの演奏があったり、 最後の決闘のシーンは正しく西部劇の流れだろう。イースト ウッドの血筋がここに活かされているような感じもした。原 題にも意味を感じる作品だ。 それにしてもIRAって今の人に判るのかな? 以前は結構 映画で扱われることも多かったけど、今回は久しぶりにその 名前を聞いた気もした。とは言えこれが世界の歴史の一部な のだし、それくらいは解って観に来て欲しいものだ。 公開は4月11日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷他にて 全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社AMGエンタテインメントの招 待で試写を観て投稿するものです。
| 2025年02月02日(日) |
風に立つ愛子さん、けものがいる、ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男、うしろから撮るな 俳優織本順吉の人生 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『風に立つ愛子さん』 2012年『石巻市立湊小学校避難所』を発表した藤川佳三監督 が、その避難所で出会った村上愛子さんを継続して取材した ドキュメンタリー。 2024年「座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル」コン ペティション入選作品。 上記の前作の試写も観ているものだが、3・11に取材したド キュメンタリーは当時すでに何本も存在して、その中にはか なり衝撃の作品も多かったことから前作の紹介は割愛してし まったようだ。 そんな作品の続編とも言える本作だが、中には前作のリピー トもいろいろあって当時の状況が思い出されるような作品で もあった。その意味では、当時のことを忘れないで欲しいと いう意図も感じられる作品だ。 そして本作に登場する愛子さんは、その素性もいくらか明か されるが生涯独り身だったようで、避難所では却って家族が できたようだったとも明かす。それは災害のお陰だから避難 所では「津波様」と言って怒られたとも屈託なく語る。 そんな愛子さんは避難所の閉鎖後は仮設住宅に移り、それか ら7年後に復興住宅に転居する。そんな日々に合わせて愛子 さんの人生なども語られる。さらには災害の時の悲惨な状況 も語られる。 それらは比較的穏やかな調子でユーモアも込めて語られるの だったが、復興住宅への引っ越しの際にボランティアで手伝 いに来ていた人の一言が愛子さんを爆発させる。その真意は 監督も計りかねるとしているものだが…。 それは正しく魂の叫びのようでもあり、この作品が語るべき だったことを全て絞り出しているかのようでもあった。しか しそれはこの作品をある意味全否定するものであるかもしれ ない。そんなドキュメンタリーの難しさも感じさせた。 それを敢えてさらけ出している監督の意思も感じられる。僕 は第三者としてこの作品を観せてくれたことに感謝するし、 第三者に向けてこの作品は発信し続けなければいけないとも 感じた。当事者には苦しいことなのだろうけど。 災害国家日本では、まだまだ続く試練なのかもしれない。 公開は2月22日より、東京地区はポレポレ東中野他にて全国 順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社ブライトホース・フィルムの招 待で試写を観て投稿するものです。
『けものがいる』“La bête” 1961年の映画『回転』の原作者としても知られるイギリスの 作家ヘンリー・ジェイムズの短編小説『密林の獣』をモティ ーフに、2014年6月15日付「フランス映画祭2014」にて紹介 『イヴ・サンローラン』などのベルトラン・ボネロ監督が描 いた時空を超える叙事詩的な作品。 プロローグはグリーンバックで演技をする女優のメイキング 的な映像。そこから様々な時代に飛んで物語が展開される。 その始まりは2044年。AIが支配する近未来社会では人間の 感情が不必要と判断されているようだ。 そんな中で主人公は要職に就くために感情除去の処置を受け ることを承認する。そのためDNAに刻まれた前世のトラウ マを解消すべく過去の記憶へのアクセスが試みられ、1910年 代のパリの社交界が再現される。 そこで主人公は1人の男性と出会い、夫のいる身でありなが らその男性に惹かれて行く。しかし彼女には大きな災害の予 感が付き纏っていた。そしてそれは予言者によって指摘され てもしまう。 次に主人公が訪れるのは2014年のロサンゼルス。そこで彼女 は豪邸の留守番をしているが、そこにも同じ男性が現れる。 しかしここでも予感が付き纏い、それはネットの占いサイト の女性に指摘される。 そんな3つの世界が交錯し、彼女は過去のトラウマを直視す ることで感情の消去を達成しようとするのだが…。 出演は上記のボネロ監督作品や2015年11月紹介『007/ス ペクター』などのレア・セドゥ。2020年1月12日付題名紹介 『1917命をかけた伝令』などのジョージ・マッケイ。 他にアフリカ系俳優のガスラジー・ラマンダと、2015年3月 紹介『Mommy マミー』などのグザヴィエ・ドラン監督が共同 プロデューサーと声の出演も行っている。 原作がどういう内容かは知らないが、本作は問題なしのSF 作品に仕上がっている。とは言うもののSF映画として面白 いかというとちょっと微妙かな。狙いがSFにないことは確 かで、監督が敢えてSFっぽくしなかったのは理解する。 ただ何か肝になるものが物足りないかな。未来に対する何と は無しの恐怖みたいなものが描かれていると思うけど、そこ にもう少し具体性が欲しかった。そんな気分にさせられる作 品だった。 公開は4月25日より、東京地区はヒューマントラストシネマ 有楽町、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷 他にて全国順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社セテラ・インターナショナルの 招待で試写を観て投稿するものです。
『ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男』 “Führer und Verführer” プロパガンダの天才でナチスの宣伝相として総裁ヒトラーの 虚像を作り上げたヨーゼフ・ゲッベルスの姿を、残された音 声や様々な映像、そして傍証から推測される「したであろう 発言」を基に描いたドラマ作品。 映画の始まりは1945年3月20日。ヒトラーとユーゲントとの 面会の映像をチェックするゲッベルスは、総裁の指先の震え を視認、その公開を禁止する。そして「これは事実」と反論 する部下に対し「真実は私が決める」と言い放つ。 このプロローグは正しくこの映画の本質を語るものだ。ここ から映画は1938年3月15日のナチス=ドイツによるオースト リア併合の時点に遡り、ヒトラーのウィーン到着を劇的に盛 り上げるゲッベルスの手腕が披露される。 そしてゲッベルスによるヒトラーの虚像生成の手口が繰り広 げられて行くものだが、その一方でゲッベルスが嵌った本妻 と愛人との愛憎劇や、それを利用しようとするヒトラー側近 たちとの確執なども描かれる。 その一方で戦況は徐々に悪化して行くのだが…。 配役は、ゲッベルス役に 100本以上の舞台と映画に出演して ドイツ語圏で最も多彩な俳優の1人とされるロベルト・シュ タットローバー。 ヒトラー役は舞台出身で1998年のヨーロッパ映画シューティ ングスター賞に選ばれたというフリッツ・カール。そしてゲ ッベルスの妻役に2005年ヨーロッパ映画シューティングスタ ー賞受賞のフランツィスカ・ワイズ。 日本では馴染みのない名前が並んでいるが、何れも実力者揃 いの配役のようだ。 映画の中ではチェコスロヴァキアやソ連との関係で、当初は 外交で進めようとしていた交渉が武力行使の戦争へと進んで 行く様なども描かれ、日本の歴史教育では教えられない話も いろいろと登場する。 そしてそれに並行してユダヤ人迫害へと至る道筋も描かれて 行くが、本作ではそのほとんどが台詞だけで描かれており、 従来の作品で多く見られたアウシュヴィッツの実際の様子な どは描かれない。 それはゲッベルスの人物像を描くには不必要と見做されたの だろうが、ユダヤ人重視の映画界では意外な感じもした。で もこれが当事者であるドイツ映画人の見識なのだろう。ハリ ウッド映画人の見識とは違うものだ。 公開は4月11日より、東京地区はヒューマントラストシネマ 有楽町、新宿武蔵野館他にて全国順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社アットエンタテインメントの招 待で試写を観て投稿するものです。
『うしろから撮るな 俳優織本順吉の人生』 2019年3月に他界した俳優織本順吉の最晩年を、織本の実娘 で放送作家・テレビディレクターの中村結美監督が撮影・構 成したドキュメンタリー。 織本はゴルフ好きが昂じて1990年に那須に居を構え、そこで 元は俳優仲間だった夫人と2人暮らしをしていたようだ。し かし2013年頃から認知症の疑いが出始め、夫人との間でトラ ブルが生じ始める。 このため娘である監督が呼ばれ、最初は医師から言われた運 転をしないなどの注意事項を守らない父親に証拠を突き付け る目的で父親の行動を撮影し始めたのだそうだ。そこにはし たことをしなかった平然と言い張る父の姿もあった。 それでも生涯俳優を目指す織本には出演の依頼もあり、映画 の最初は大宮駅頭で迎えの車を待つ織本の姿から始る。とこ ろが台詞憶えの良さが自慢だった織本は台詞で閊えるように なる。そんな姿も映画は捉えて行く。 一方で織本は、俳優は台詞を忘れることも仕事の内だと唱え る。これは恐らく認知症を審査する医師に過去の台詞を聞か れたことへの反論のようだが、確かに演じた役柄をいつまで も引き摺っていては次の仕事に入って行けないのだろう。 これと同様のことは別の俳優がインタヴューで答えているの を見たことがあるが、一辺倒の診断方法では判断の出来ない 事象もあるものだ。そんなある意味、現代の医学への疑問も 呈されていた。 そんな織本の生活ぶりが記録されて行くが、ふと監督は父が 老いを演じているのではないかと思うときもあったそうだ。 それはタイトルにもなっている織本の発言にもあるが、不用 意な姿を撮られたくない俳優の意思でもあるようだ。 そして最後の出演となった作品では臨終を迎える姿を残し、 さらに本作において老いを演じ切る。役者冥利というか、正 しく大往生という感じの「俳優織本順吉の人生」を描いた作 品だった。 でもまあ自分自身が老境と呼ばれる年代の身としてはかなり 切実に感じられるシーンも多く、鑑賞しながらいろいろと考 えさせられた。そんな学びもあり、これを公開してくれたご 一家には僕からも感謝を捧げたい気持ちだ。 公開は3月29日より、東京地区は新宿K's cinemaにてロード ショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社パンドラの招待で試写を観て投 稿するものです。
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