井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2024年10月27日(日) パリ・オペラ座「白鳥の湖」IMAX、いもうとの時間、イマジナリー

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『パリ・オペラ座「白鳥の湖」IMAX』
    “Swan Lake/Le Lac des cygnes Filmd for IMAX”
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー作曲によるバレエ
の最高峰ともされる演目を、ルドルフ・ヌレエフ振付を基に
2024年6月パリ・オペラ座で再演。その舞台をIMAX社が独自
に撮影した作品。
僕はバレエの公演を生では観たことも無い門外漢だが、この
名作に関しては2011年1月紹介『ブラック・スワン』などで
も聞き及んでおり、演目の様々な見どころなども知識として
は持っていたものだ。
そのせいもあってなのかスクリーンでの上映が始まりIMAXの
ロゴが終わった辺りからワクワク感と共に緊張が高まり、か
なり興奮もしてきていた。これがIMAXの臨場感ということな
のかな。そんな感覚を久しぶりに味わえた。
ストーリーは一般に知られた通りのもので、成人と妃選びの
祝宴を翌日に控えたジークフリート王子が悪魔の呪いで白鳥
に姿を変えられたオデット姫と出会い、呪いを解こうとする
が悪魔に妨害される…というもの。
そこにパロディでも有名になった4羽の白鳥の踊りや壮絶な
黒鳥の踊りなど様々な見せ場が挿入され、全体的には華麗な
群舞で物語が綴られて行く。それをヌレエフの高さのある壮
大な振り付けで演じているものだ。

出演は、2011年パリ・オペラ座バレエ団に加入、2021年6月
に同バレエ団でアジア人として初のエトワールに任命された
というパク・セウン。他にポール・マルク、パブロ・レガサ
ら総勢 150名とされる団員が舞台を彩る。
監督は2018年に『ボリショイ・バレエ in シネマ「コッペリ
ア」』も手掛けたイザベル・ジュリアンが担当した。
作品は、巻頭からジークフリート王子の横顔アップで入るな
ど映画的な演出も観られるが、全体的には客席からの視点を
一階席から上階席まで巧みに切り替えて、臨場感をそのまま
に観たいものを見せてくれる構成になっている。
そんな中での極め付きは天井カメラによる群舞や煙霧の演出
などの映像。これは客席からは絶対に観ることのできないも
のだが、正しく映像美に溢れたもので監督はこれを見せたか
ったのだろうと納得の映像だった。
そしてそれらがIMAXの大場面に展開される。因に画面の縦横
比はIMAX ratioとされているもので、IMAXスクリーンの全域
にフルサイズで投影されるものだ。

公開は11月8日より、全国のIMAXスクリーンで7日間限定の
ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東宝東和の招待で試写を観て投
稿するものです。

『いもうとの時間』
2024年9月に紹介した『拳と祈り−袴田巌の生涯−』に続く
日本の裁判所と警察・検察の闇を描いたドキュメンタリー。
本作の背景となる「名張毒ぶどう酒事件」に関しては2019年
1月13日付題名紹介『眠る村』でも報告しているが、今回も
また東海テレビ放送が新たな取材も含めて再検証を行ってい
るものだ。
因にこの事件を扱った東海テレビ製作のドキュメンタリーは
2012年『毒とひまわり』に始まって4作目となるが、第2作
の2016年『ふたりの死刑囚』では袴田巌死刑囚(当時)も共に
描かれ、その袴田氏には2024年10月無罪判決が確定した。
それに対して本事件では、「袴田事件」と同様に証拠とされ
る物品の捏造が指摘されているのだが、その科学的な鑑定は
全て無視され再審の道は開かれない。そして時間だけが空し
く過ぎて行く。

監督は第2作以降の3作を手掛ける鎌田麗香。ナレーション
は第1作から一貫して仲代達矢が務めている。なお仲代はそ
の間に事件を題材にした2013年1月紹介『約束』に主演もし
ている。
確か『ふたりの死刑囚』では名古屋高裁と名古屋高検の癒着
というかなれ合いぶりが指摘され、『眠る村』では一歩踏み
込んで事件の真犯人の追及が行われていたと思うが、本作で
はそれらの再考はせず、過ぎて行く時間が描かれる。
なお作中では無罪判決が確定した袴田氏のその後の様子も描
かれ、それは2024年9月紹介作では描かれなかった部分を補
完しているものだが、本件の死刑囚はすでに死去しており、
無罪となってもその喜びは描けない。
しかも本件では2024年1月に最高裁で特別抗告が棄却され、
死去した死刑囚本人に替わって唯一再審請求が可能な肉親で
ある妹もすでに94歳。その時間の限られていることが現実と
して描かれる。それは何とも言えない感覚だった。
冤罪は誰の身にも突然降りかかる可能性のあるものだし、い
ざ罪人となったら警察・検察が証拠を捏造してまでその罪を
押し付けてくる。そんな日本の現実が明確に描かれた作品と
言えるものだ。

公開は2025年1月4日より、東京地区はヒューマントラスト
シネマ有楽町、ポレポレ東中野他にて全国順次ロードショウ
となる。
なおこの紹介文は、配給協力ポレポレ東中野の招待で試写を
観て投稿するものです。

『イマジナリー』“Imaginary”
2023年4月紹介『ミーガン/M∃GAN』や2024年2月紹介
『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』など、上質の
ホラー映画を提供し続けているブラムハウス社が新たに公開
したホラー作品。
登場するのは絵本作家の女性とその夫、それに夫の連れ子の
2人の娘がいる4人家族。そんな家族が作家が幼い頃に暮ら
していた家に引っ越してくる。しかし作家自身は幼い頃にそ
の家を離れており、しかもその頃の記憶は曖昧だった。
それでも広い家に喜ぶ娘たちだったが…。幼い末娘が地下室
で古びたクマのぬいぐるみを見付けたことから事態が動き出
す。そのぬいぐるみは彼女の想像上の遊び友達となり、無邪
気な遊びを繰り広げるが、それが邪悪な色を持ち始める。

出演は、製作総指揮も兼ねる2022年『ジュラシック・ワール
ド 新たなる支配者』などのディワンダ・ワイズと、子役の
パイパー・ブラウン。他にテーゲン・バーンズ、トム・ペイ
ンらが脇を固めている。
さらに1976年版の映画『キャリー』で主人公を理解しようと
する女性教師を演じていたベティ・バックリーが、本作でも
キーとなる役柄で登場している。
脚本は2009年にディズニーで『プリンセスと魔法のキス』の
原案などを手掛けたグレッグ・アーブとジェイソン・オレム
ランド。そのオリジナルから2014年7月紹介『フライト・ゲ
ーム』で企画・総指揮などのジェフ・ワドロウが脚本・監督
・製作した。
タイトルからはイマジナリーフレンドを予想させるし、作中
でもそこへの言及は頻繁になされるが、そこからの意外な展
開に嬉しくなった。この辺のアイデアの勝利とも言えそうな
作品だ。
ただまあその展開自体は最近の流行りのような気もするが、
そんな部分も含めてブラムハウス社作品の先見というか、マ
ニア=ファンの心を捉える戦略みたいなものも感じさせてく
れる。安心して観ていられる作品だ。
しかも本作では、ホラー映画の定番であるコケ脅かしを極力
排除して、心理的にジワジワと迫る恐怖や想像力が痛みなど
を掻き立てる描写で、従来のホラーの在り方とは違う方向性
も試みている。それがまた上手い。
いずれにしてもブラムハウス社作品からは今後も目を離せな
いということだ。

公開は11月8日より、全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東宝東和の招待で試写を観て投
稿するものです。
        *         *
 なお次週は試写を観る予定がないので、次回の更新は再来
週となります。



2024年10月20日(日) 35年目のラブレター、追悼:西田敏行氏

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『35年目のラブレター』
家庭の貧困などで教育を受けず社会に出た男性が、定年後に
夜間中学で勉強して、長年連れ添った妻に自筆のラブレター
を贈ったという実話の映画化。
主人公の西畑保氏は1936年生まれ、和歌山県の山間部の炭焼
き小屋で育ち、貧困に起因する苛めのために小学校2年生か
ら不登校、このため読み書きはほとんどできなかった。そし
て10代前半から主に飲食店働き始めるが、そこでも字が読め
ないことで不遇な生活を余儀なくされる。
しかし一軒のすし屋の店主がその状況を見越した上で雇い入
れ、以後はすし職人一筋で人生を歩んエ行く。そして見合い
結婚もするが、そこでも読み書きができないことは隠してい
た。それがあるとき発覚することになる。それでも家庭を築
きあげた主人公が次に目指したのは…。

監督と脚本は、妻がニュースで観た実話に感動し、自ら企画
を立ち上げたという2019年4月7日付題名紹介『今日も嫌が
らせ弁当』や2017年12月紹介『レオン』などの塚本連平。
出演は笑福亭鶴瓶、原田知世、重岡大毅、上白石萌音、徳永
えり、ぎぃ子、辻󠄀本祐樹、本多力、江口のりこ、くわばたり
え。そして笹野高史、安田顕らが脇を固めている。
インターネットなどで調べてみると、映画のストーリーがほ
ぼ実話のままで、ほとんど脚色されていないことに驚かされ
た。これは実はに感動した監督自身が脚本も手掛けたことに
よる賜物だろう。
それは下手に第三者(他の脚本家)の目を入れなかったことに
もよるが、この物語に脚色の必要がないことは監督が一番判
っていたことなのだろう。それでもしっかりとドラマティッ
クな展開なのだから、その構成力にも感心した。
それに俳優たちの上手いこと。それにはいやはや見事に泣か
されてしまった。ドキュメンタリーからのドラマ化はいろい
ろあるけれど、僕は多分こういう実話の映画化を待望してい
たものだ。
1936年(昭和11年)生まれの人は知人にもいるけれど、正しく
戦前、戦中、戦後の激動の時代を生き抜いてきた訳で、そう
いう人たちの物語を今の時代に正しく伝えて欲しいものだ。
それが昭和世代の使命のようにも感じる。
でもまあこの映画は普通に感動できる作品だから、涙を流し
たいときに観るには最適な映画と言えそうだ。

公開は2025年3月7日より、全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東映の招待で試写を観て投稿す
るものです。
        *         *
追悼:西田敏行氏
西田敏行氏の訃報に接した。
僕は特に故人と知り合いだった訳ではないが、実は一度だけ
故人が出席した酒宴に同席したことがある。
それはもう40年以上も前のことになるが、SF作家クラブの
パーティの流れで豊田有恒氏の奥さんから四谷で行われる二
次会に誘われた。そこにはテレビ出演後のタモリ氏も来ると
いうことで僕は迷わずお供することにした。
その会場には筒井康隆氏や矢野徹氏、それに山下洋輔トリオ
などもいて、そこにタモリ氏とテレビで一緒だったという西
田敏行氏がやってきた。そこからの饗宴は、後日、西田氏が
タモリ氏の番組で、「あれは本当に楽しかった。またあんな
会に参加したい」と述懐していたくらいのものだ。
それは『エイリアン』をモティーフに、最後に生き残ったパ
イロットがウナギが食べたいと思い付き、爆発までのカウン
トダウンが続く中でドタバタを繰り広げるというもの。それ
をアドリブの応酬で止め処なく続ける2人の、正しく至芸を
堪能した思いが今でも鮮明に記憶されている。
その後に「また」の会があったかどうかは知らないが、芸能
人と呼ばれる人が次々亡くなる中で、そんな思い出を残して
くれた西田氏に感謝だし、心からの冥福を祈るものだ。本当
にお疲れさまでした。
なおこの時、僕はバーカウンターのスツールを回して、少し
高みからから観ていたのだが、そんな僕の隣に後から1人の
客が座った。その客は常連らしく、カウンターにいたママか
ら「あら三木先生」と声を掛けられ、見ると三木のり平氏が
そこに座っていた。
そしてママからは「同席されてはいかがですか」などと促さ
れていたが、そこは「いやぁ」などといって固辞され、暫く
して席を立たれたが、それまでは無言で2人の芸に聞き入っ
ている感じではあった。
三木氏もすでに故人だが、あの世でそんな話でもしていたら
面白いだろうな。そんな記憶も甦ってきた。     合掌



2024年10月13日(日) 私にふさわしいホテル、敵

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『私にふさわしいホテル』
2008年「オール読物新人賞」を受賞し、2018年には『伊藤く
んA to E』などの映画化もある柚木麻子が2012年に発表した
同名原作を、多くのヒットTVドラマとその劇場版などを手
掛けてきた堤幸彦監督で映画化した作品。
主人公は文芸雑誌の新人賞でデビューしたものの、その後は
鳴かず飛ばずの女流作家。その原因は受賞作が大御所作家に
酷評されたことにあると、本人は思っている。そんな主人公
が小説家の聖地「山の上ホテル」に自腹でやってくる。
するとそこに大手出版社の編集者で大学の先輩が訪ねてくる
が、彼の本来の訪問先は一つ上の階に缶詰めになっている大
御所作家の部屋だった。それでも彼の発言からある奇策を思
いついた主人公は大手誌の記念号への掲載を勝ち取る。
そんなことで作家活動が軌道に乗り始めた主人公だったが、
その前に再び大御所作家が立ちはだかる。そこで再び奇策を
発動した主人公だったが…。次々起こるどんでん返しを彩り
に文芸界の闇が描かれて行く。

出演は、2020年1月19日付題名紹介『星屑の町』などののん
と、田中圭、滝藤賢一。他に田中みな実、服部樹咲、�眄个�
かり、橋本愛、橘ケンチ、光石研、若村麻由美らが脇を固め
ている。
文芸界の隅っこに身を置いた者としてはこんなことあるかな
あという感想だが、僕が仕事を始めた頃はそれなりの後ろ盾
があったからこんな思いはしなくて済んだのかもしれない。
原作者は新人賞デビューだから実体験もあるのだろう。
ただまあ編集者のありように関してはニヤリとしてしまうと
ころはあって、確かにこんな御仁が沢山いる場所ではある。
そんな訳で結構面白く観ることができた。山の上ホテルの内
部をしっかりと観ることができたのも楽しめたものだ。
それから橋本愛の共演も、のんのいろいろな経緯を考えると
嬉しくなるよね。2人だけのシーンがしっかりと設けられて
いたのも拍手したくなるほど嬉しく感じられた。律儀な人た
ちなんだろうな。
そんなこんなで、いろいろなことが本当に嬉しくて楽しめる
作品だった。ただ最後にちょっと首を傾げるシーンはあった
が…単純なミスには見えないし、これは監督が観客に向けて
仕掛けたのかな? そんなことも楽しめた。

公開は12月27日より、全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社日活/KDDIの招待で試写を観て
投稿するものです。

『敵』
2006年11月紹介『パプリカ』などの筒井康隆が1998年に発表
した原作を、2017年2月紹介『美しい星』などの吉田大八が
脚本、監督した作品。
主人公は10年前に退職したフランス近代演劇史が専門の元大
学教授。20年前に妻に先立たれ、都内山の手の一軒家に暮ら
しているが、先々のことも計算済みで遺言状も書き、まずは
悠々自適という風情だ。
そんな主人公の家には男性の昔の教え子がリフォームなどの
手伝いに来てくれるし、女性の教え子を招いて手作りのディ
ナーを振舞ったりもする。そして長年の知人とはバーで飲む
こともある。そのバーには若い女子大生もいた。
そんな平穏な主人公の生活に、ある日「敵がやって来る」と
いう不穏なメールが届き始める。それと共にいろいろな妄想
が生じ始め、遂には亡き妻まで復活してくる。そして世界が
崩れ始める。

出演は映画主演は12年ぶりという長塚京三。他に瀧内公美、
河合優実、黒沢あすか、中島歩、カトウシンスケ、�眸�遊、
二瓶鮫一、�盒桐痢⇒L醋な盪辧�戸田昌宏、松永大輔、松尾
諭、松尾貴史らが脇を固めている。
作品は初号を観た原作者から「傑作です」との回答を貰った
そうだが、特に映画の前半はディテールにも凝っていて楽し
めるものになっている。しかし結末はちょっと呆気なさ過ぎ
るかな?
勿論原作者の意図もそこにある訳ではないから、あっけない
結末もそれを反映していることは理解するが。映画は映画と
しての何か大団円みたいなものが欲しかった気もしたかな。
それで原作者を納得させるのもハードルは高いが。
でもまあそんなことは抜きにして映画作品として面白いし、
俳優もそれをよく体現している作品ではある。とは言え筒井
作品の映画化は定番の作品は別として、つくづく難しいもの
だなあとも思えた。それをよくやってくれた作品だ。

公開は2025年1月17日より、東京地区はテアトル新宿他にて
全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ハピネットファントム・スタジ
オ/ギークピクチュアズの招待で試写を観て投稿するもので
す。
        *         *
 今回紹介の2作品は実は同じ日に同じ会場で連続で観たも
のだが、後者の原作者の筒井康隆氏は以前は上京時の定宿が
「山の上ホテル」で、僕は一度だけだが東京で集まっていた
SFファンでは呼ばれて会いに行った人も多かったものだ。
 偶然のことだが、そんな繋がりでこの2本立てには心惹か
れるものがあった。



2024年10月06日(日) 十一人の賊軍、大きな玉ねぎの下で、ニッツ・アイランド−非人間のレポートー

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『十一人の賊軍』
2002年に亡くなった脚本家笠原和夫氏が生前に企画したもの
の、その時の状況では映画化に至らなかった幕末の物語が、
2018年『孤狼の血』や2019年4月21日付題名紹介『凪待ち』
などの白石和彌監督によって実現された。
物語の舞台は越後の国で新潟湊を擁する新発田藩。徳川派の
奥羽越列藩同盟に属する長岡藩に隣接する小藩には同盟軍へ
の出兵も要請されていたが、若き城主は新政府軍に寝返るこ
とを模索していた。
そんな折、同盟軍は城主の真意を質すために軍使を送ると通
告。一方の新政府軍からも軍使の派遣が通知される。しかし
両軍が出遭えば戦闘は必至。この状況に新発田藩の家老はあ
る策略を思いつく。
それは山深い国境の峠で新政府軍の軍使を足止めして時間を
稼ぎ、その間に同盟軍を説得して追い返すというもの。その
数日間だけ峠の砦を守ればよい。そしてその任を我が娘の許
婚の武士に与える。
そこでその武士は、同盟軍に参加しない城主に不満を持つ剣
の使い手を引き入れ、様々な理由で死罪となり牢獄に繋がれ
ていた罪人たちに「成功したら無罪放免」と約束。彼らを率
いて峠へと向かうが…。

出演は山田孝之、仲野太賀。また歌舞伎役者の尾上右近、元
モーニング娘。で映画は初出演の鞘師里保。他に佐久本宝、
千原せいじ、岡山天音、松浦祐也、一ノ瀬颯、小柳亮太、本
山力。
さらに野村周平、田中俊介、松尾諭、音尾琢真、柴崎楓雅、
佐藤五郎、吉沢悠、駿河太郎、松角洋平、浅香航大、佐野和
真、安藤ヒロキオ、佐野岳、ナダル、木竜麻生、長井恵里、
西田尚美。そして玉木宏、阿部サダヲらが脇を固めている。
なお笠原和夫氏は映画化が頓挫した際に脚本を破り捨てたそ
うで、残っていたのは16ページのプロットのみ、本作の脚本
はそこから『孤狼の血』やTVドラマ『相棒』、配信ドラマ
『極悪女王』などの池上純哉が手掛けている。
史実では新発田藩はもっと簡単に新政府軍に寝返ったようだ
が、そこはフィクションの醍醐味というところだろう。そん
な展開の中で罪人軍団対新政府軍のかなり壮絶な戦いが繰り
広げられる。
それはアクション時代劇としても楽しめるものだ。そしてそ
こに長岡花火のルーツみたいなものがちらっと描かれるのも
嬉しく感じられた。他にも越後の国のいろいろな風物が織り
込まれているのも納得できた。

公開は11月1日より、全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東映の招待で試写を観て投稿す
るものです。

『大きな玉ねぎの下で』
爆風スランプが1985年に発表した同名の楽曲を基に、2024年
の若者と1989年の若者の青春を描いた作品。
物語の始りは1988年の田舎町で郵便局員が封書を配達する風
景。その封書は直接には会ったことのないペンフレンドから
のものだ。しかもそのペンパルの経緯にはちょっとした隠し
事もあった。
そして2024年では、夜はバー、昼はカフェという二重業態の
店舗で夜間に働く男性と昼間に働く女性。本来2人は出遭う
ことも無かったが、備品の二重発注などを避けるための業務
連絡ノートがその間を取り持ち始める。
そんな時代の違う2組のカップルは音楽の趣味が共通するこ
とを知り、それぞれの男性が武道館で行われるコンサートの
チケットを手に入れて、「大きな玉ねぎの下で」会うことを
計画するが…。

出演は神尾楓珠、桜田ひより。他に伊東蒼、藤原大祐、窪塚
愛流、瀧七海。さらに山本美月、中川大輔、伊藤あさひ、休
日課長、和田正人。そして江口洋介、飯島直子、西田尚美、
原田泰造らが脇を固めている。
映画化は2002年「文藝賞」受賞でデビューした中村航が原案
ストーリーを執筆。そこから2024年1月紹介『彼女はなぜ、
猿を逃がしたか?』などの高橋泉が脚色し、2018年5月紹介
『世界でいちばん長い写真』などの草野翔吾が監督した。
物語の展開はほぼ楽曲の内容に則しているのだが、ここで問
題は昭和末期の文通の状況をいかに21世紀に合わせるかとい
うこと。この点で映画は実に巧みにその状況を作り出し、さ
らにそこから派生する問題も見事にクリアしていた。
因に原作ストーリーを書いた中村航は芝浦工業大学工学部卒
だそうで、元々技術畑の人間が構築したストーリーは理詰め
というか技術的に端々まで納得できるように構築され、これ
はもうある種のSFと呼べる作品になっていた。
そしてそれを脚色し監督したのが上記の2人だから、こちら
も科学的に裏付けされた内容をしっかりと映画化できるスタ
ッフが集まったと言えそうだ。タイムマシンもタイムスリッ
プもしないけれど、これは時間テーマのSF映画だ。
因に男女が出遭う武道館コンサートの顛末も史実通りの出来
事だ。ただ一点、チケットぴあの発券店が藤沢南口というの
は湘南出身者の自分としては少し違和感かな。三浦からなら
もっと行き易い店があったと思うのだが。

公開は2025年2月7日より、全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東映の招待で試写を観て投稿す
るものです。

『ニッツ・アイランド−非人間のレポートー』
                   “Knit's Island”
メタバースに滞在する人々を、監督らが自らアバターとなり
メタバース内でインタヴューするというドキュメンタリー。
舞台となるのは〈DayZ〉と呼ばれるサヴァイヴァルゲームが
繰り広げられているネット上の島。そこには「ゾンビ」が徘
徊しており、アバターはその「ゾンビ」と闘いながら隠され
た食料などを発見して生き延びる…というものだそうだ。
そしてその世界ではアバター同士で音声によるチャットが可
能となっており、そんな世界に監督らはインタヴュアー、技
師、カメラマンとなって潜入、「撮影」を開始する。そこに
はゲームをするだけでない様々な「生き方」が存在した。

監督は、いずれもフランスのモンペリエ美術学校で2017年に
造形表現の修士号を取得したエキエム・バルビエ、ギレム・
コース、カンタン・レルグアルク。すでに同旨の短編作品も
発表している3人が本格的な長編に挑んだものだ。
実在のPCゲームが題材でその映像も登場する作品としては
2023年12月紹介『PLAY!』などもあったが、実際にその世界
に入ってのドキュメンタリーというのは確かに新機軸と言え
るのだろう。
そしてそこでは現実世界とは異なる考え方や倫理観なども登
場し、人間の二面性みたいなものも垣間見られる作品になっ
ている。確かに殺人や窃盗なども許される世界での発言なの
だから、現実とは違うものになるのは当然だが…。
ただ、作品がヴァーチャル環境に拘り過ぎたのかその世界の
設定などが判り難いのは気になったところ。「ゾンビ」との
闘いが主眼らしいが、突然空中浮遊したり、その辺のゲーム
の設定を明瞭にして欲しかった。
それが判らないと実際の戦場でのドキュメンタリーと変わら
ない訳で、逆に宗教が絡むあたりは『地獄の黙示録』を観て
いるのかと思ってしまったくらいのものだ。新機軸ではある
がゲームやメタバースの特性を生かし切ったか…?
いずれにしても新たなドキュメンタリーの舞台は開かれた訳
で、ここから新しい作品が生まれてくることも期待したいも
のだ。人間は新たな環境で如何に変貌するか、そんなことも
テーマになりそうだ。

公開は11月30日より、東京地区は渋谷シアター・イメージフ
ォーラム他にて全国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社パンドラの招待で試写を観て投
稿するものです。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二