井口健二のOn the Production
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2023年03月26日(日) 光をみつける、Rodeo/ロデオ、アダマン号に乗って、修験ルネッサンス

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『光をみつける』
全盲でヴァイオリン奏者/ヴィオラ奏者/作・編曲家/講演
家と称する穴澤雄介氏の姿を追った作品。
ジャンルとしてはドキュメンタリー映画だと思うが、副題に
「ヴァイオリニスト穴澤雄介からのメッセージ」とあり、正
しくそういう感じの作品だ。
プレス資料に記載のプロフィールによると、穴澤氏は1975年
の生まれ、生まれつき目と心臓が悪く幼い頃に心臓の手術を
複数回受け、心臓手術は成功したものの徐々に視力が減退、
高校生時代に完全に失った。
学歴は筑波大学付属盲学校高等部本科音楽科、同専攻音楽科
卒業。COVID-19禍以前は年間 150本以上のライブ活動の他、
学校関係を中心の年間30回以上の講演活動を行う、とある。
本作はそんな穴澤氏の姿を追う。
作品内容としては、配信番組と思しきスタジオでのお絵描き
への挑戦や、ナレーターを務めた舞の海秀平氏との対談、陶
芸への挑戦などの様子も描かれるが、作品の本質は副題にあ
る通りの穴澤氏のメッセージだ。
それは障害を持つ人だけでなく、健常者にも将来への希望を
持たせてくれるものであり、特に今の時代には傾聴に値する
重要なメッセージになっている。増してや自分の未来に不安
を抱えている若い人たちには、ぜひ聞いて貰いたいものだ。

監督は永田陽介。村上龍監督作品の海外での映画賞やセール
スに関ったという人のようだが、監督作品は初のようだ。
という作品だが、実はプレス資料には書かれていないが穴澤
氏が語る自身の人生が壮絶で、それにはまいってしまった。
しかもそれを淡々と笑いも交えながら語る。その強烈さにも
衝撃を受ける作品だった。
そんな中で、目が見えない恐ろしさとして駅のホームから転
落したこともあると軽く語るシーンもあるが、実は自分の娘
が視覚障碍者の世話をする仕事についていたことがあり、娘
からはホームからの転落なんて日常茶飯事と聞かされていた
ことも思い出した。
折しも大阪駅地下ホームの開設で、ホームドアのない線路を
貨物列車が轟音を挙げて通り抜ける映像を観ていて、この恐
怖は如何ばかりかとも思ってしまったものだ。多様性の時代
を目指して発信するべき作品と感じた。

公開は5月30日より、恵比寿の東京都写真美術館ホール他で
全国順次ロードショウとなる。

『Rodeo/ロデオ』“Rodéo”
2022年のカンヌ国際映画祭ある視点部門で、本作のために設
けられたとされるcoup de coeur du jury 賞を受賞したフラ
ンスの新星ローラ・キヴォロン監督の長編デビュー作品。
主人公はバイクに跨る為に生を受けたと言える女性。物語は
彼女が盗まれた自分のバイクを探すところから始まる。そし
てネットで売りに出ていたバイクを見付けた彼女は、巧みな
交渉でバイクを奪い返す。
そんな彼女は公道で曲芸のような乗車を披露するグループと
出会い彼らに接近するが、女性は仲間に入れないとあしらわ
れる。それでも徐々に仲間の信頼を得た彼女はバイク窃盗の
一味として仕事をこなすようになるが…。
グループのリーダーは収監中で、盗みの指示は携帯電話を通
じて行われ、獲物のバイクは仲間のガレージで改造され転売
されていた。その一方で彼女には、リーダーの妻子の面倒を
見る仕事も割り振られる。
そんな中で妻子の苦境を感じた彼女はとある大きな仕事を思
いつく。それが成功すれば、リーダーの妻子も自由になれる
筈だった。

主演は、監督が脚本を書く合間の気晴らしに観ていたインス
タグラムで見つけたというジュリー・ルドリュー。実際のバ
イカーだという女性が迫真の演技を見せている。他に脚本に
も参加のアントニア・ブルジらが脇を固めている。
パリ郊外育ちの監督は幼い頃から周囲にバイカーが多くいる
環境で育ったのだそうで、本作はそんな出自から自然に出て
きた物語のようだ。そして2016年に短編で同じくバイカーを
描いた“Au loin, Baltimore”を撮ったことから4年を掛け
て本作を描いている。
バイク映画というとアメリカや日本の映画では1000�侫�ラス
の大型が格好良いとされるが、本作に登場するのはヤマハや
ホンダなどの 500cc以下の車種がほとんど。実際ヨーロッパ
では、シティバイクとしてこの方が好まれているようだ。そ
んな現実味にもあふれた作品になっている。
ただ結末に関してはこれがベストだったのかな。ここは何か
常識に囚われているようで、理想を高く掲げている割には少
し物足りなくも感じてしまった。実際にプレス資料によると
別の結末も検討されたとあり、その結末に至るストーリーも
観たかったものだ。

公開は6月2日より、東京地区はヒューマントラストシネマ
渋谷、UPLINK吉祥寺他にて全国順次ロードショウとなる。

『アダマン号に乗って』“Sur l'Adamant”
2019年9月15日付題名紹介『人生、ただいま修行中』などの
ニコラ・フィリベール監督が、パリセーヌ川の左岸に設置さ
れたパリ中央精神科医療グループの一部を成すデイケアセン
ターを取材した日仏共同製作のドキュメンタリー。
川に浮かぶ木造船をモティーフに設計されたその施設には、
毎日朝から三々五々に人が集まってくる。そこには毎日来る
患者もいれば、定期的または不定期にくる患者もいる。そし
て毎週月曜日には、介護者と患者が一堂に会するミーティン
グが開かれ、日々のニュースの交換やその週に行う行事など
の検討が行われる。そんな様子が記録されている。
また施設で開催される絵画教室やギターやピアノなどの楽器
演奏、またギターに合わせてのヴォーカルなども披露される
が、患者特有の雰囲気はあるものの、ギターの演奏などはか
なりのテクニックが披露されるものだ。さらに絵画も見事な
ものが紹介される。そんな施設での日々の様子が、患者の中
に入り込んだ監督らによって克明に記録されている。
アメリカの映画評価サイトRotten tomatoesでは満足度100%
だそうだが、正直に言ってこれに適う被写体は他にはあり得
ないと言えるだろう。監督らはそれをただ記録しているだけ
のものであり、作為なども全く入る余地がない。つまりただ
写しただけで完璧な作品になってしまうものだ。もちろん編
集などの効果はあるがこれぞ映画の真骨頂だろう。
いやはや、これはずるいと言いたくなるような作品だった。

なお本作にはフィリベール監督とは20年来の交流を持つとい
う配給会社のロングライドが共同製作として参加している。
そして本作は2023年2月開催の第73回ベルリン国際映画祭に
おいて最高賞の金熊賞に輝いたもので、4月にパリでの一般
公開に続いて日本でも4月28日から緊急公開が決定。東京は
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他にて全国
ロードショウとなる。

『修験ルネッサンス』
2018年2月25日付題名紹介『熊野から』などの田中千世子監
督が、同作を含む三部作に続き紀伊半島を舞台に描いた紀行
ドキュメンタリー。
前三部作の舞台だった和歌山県新宮市に注ぐ熊野川、その源
流から紀伊山地を縦走して奈良県吉野川に至る熊野修験道。
それは飛鳥時代の役小角によって開設されたという日本最古
の修験の道だ。
しかし明治時代に修験道禁止令が発布されたことで荒廃し、
第2次大戦後に再興が始まったものの、多くの道は途切れて
いた。そんな歴史に埋もれた修験の道が昭和63年に復興。そ
こに至る道程や、以来35年を経た現状が紹介される。
実は田中監督自身は、2014年に三部作の第1作を撮った頃か
ら当地の修験に参加していたそうで、以来10年に亙って取材
を続け、2022年春に行われた峰入りまでが撮影されて本作が
完成されている。
ただし修験の行程の一部は現代でも結界門によって女人禁制
とされており、その部分は男性のカメラマンによって撮影さ
れているものだ。それによって熊野修験の全貌が記録される
に至っている。
田中監督の作品では、前作まではいろいろと社会問題も織り
込まれていたが、本作は明治期の禁止令などの話題はあるも
のの、社会問題というほどではなく、女人禁制に関しても事
実として描くに止まる。
その辺を敢えて追求しないのは見識だろうし、本作はそれよ
り修験道への誘いを主眼として描いているものだ。それを補
佐するためのちょっとした仕掛けも施されており、それらを
含めて納得のできる作品になっていた。

公開は5月27日より、東京は渋谷のシアター・イメージフォ
ーラムにてモーニングロードショウ。なお第1週の週末及び
第2週の木〜日曜日の上映ではトークショウも併せて開催さ
れることになっている。



2023年03月19日(日) ハロウィンTHE END、デスパレート・ラン、忌怪島/きかいじま、エスパーX探偵社、世界の終わりから

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『ハロウィンTHE END』“Halloween Ends”
1978年にジョン・カーペンターの監督、ジェイミー・リー・
カーティス主演によってスタートされたスラッシャーホラー
シリーズが遂に完結となったようだ。
実は、2019年3月17日付題名紹介『ハロウィン』は第1作の
正式な続編と称されていたようで、2021年にはその続編も公
開されていたのだが、COVID-19の影響などもあって観そびっ
てしまっていた。
そんな訳でちょっと中抜けの鑑賞になってしまったが、19年
紹介作で復讐の鬼と化していた女性主人公と殺人鬼との44年
越しの最後の戦いが繰り広げられることになる。しかもそこ
には別の要素も加わって中々深い物語になっていた。
物語の舞台は第1作から続くイリノイ州ハドンフィールド。
本作の物語の発端は2019年、ブギーマンの恐怖に震えるこの
街である事件が起きていた。それはベビーシッターの少年が
誤って子供を死に追いやってしまったのだ。
しかしその事件は事故として決着し、少年も刑事裁判で無罪
となっていたのだが…。世間の目は変わらず少年の心は苛ま
れて行く。そんな周囲の苛めが頂点に達したとき、ブギーマ
ンが復活してしまう。

共演はテレビ出身のアンディ・マティチェックと、Disney+
で「ハーディ・ボーイズ」に主演のローハン・キャンベル。
他に前作に続いてのウィル・パットン、ジェームズ・ジュー
ド・コートニー。さらに1978年作と同じ役で登場のカイル・
リチャーズらが脇を固めている。
脚本と監督は、リブート3部作を全て手掛けたデヴィッド・
ゴードン・グリーン。カーティスとカーペンターは製作総指
揮にも名を連ね、カーペンターは原案と音楽でも名前が記載
されている。
製作は、2009年12月紹介『パラノーマル・アクティビティ』
などのジェイソン・ブラム。ブラムは2015年6月紹介『パー
ジ』なども手掛けているが、2017年のTIME誌で「世界で最も
影響力のある100人」にも選ばれているそうだ。
1978年の第1作は、1974年『悪魔のいけにえ』と共にスラッ
シャーホラーの金字塔とされるものだが、ここまで続いてき
たということでは『ハロウィン』の方が一歩抜きんでていた
のかな。本作を観るとそんな感覚にもなった。

公開は4月14日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国
ロードショウとなる。

『デスパレート・ラン』“The Desperate Hour”
2010年7月紹介『ソルト』などのオーストラリア人監督フィ
リップ・ノイスが、2017年5月紹介『ダイバージェント』な
どのナオミ・ワッツを主演に向かえ、息子が通う高校で起き
た立て籠り事件にスマホ1台で立ち向かう母親の姿を描いた
作品。
その朝、息子の機嫌は悪かった。そんな息子の部屋に1杯の
コーヒーを置き、ジョギングに出かけた主人公は、少し先の
森の入り口で現場に急行するらしいパトカーとすれ違う。そ
れも気にせず森の中を走る主人公だったが…。
やがて同級生の母親から高校で何か起きていると知らされた
主人公は息子のスマホにメールを入れるが回答はない。そし
て息子が学校に向かったという情報を得た主人公は息子に電
話を掛けるが、それにも応答はなかった。
こんな状況が最初はジョギングをしながら、途中からは息子
の居る学校を目指して疾走しながら続いて行く。そしてさら
にスマホを通じて知らされる様々な情報や状況が物語を盛り
上げ、主人公の心を混乱させて行く。

ノイス監督はオーストラリアでスクリーンデビューを果たし
たワッツと何時か組みたいと思っていたそうだ。しかしCOVI
D-19の影響で映画撮影が想い通りにいかなくなったときに、
出演者が1人だけの展開を思いついた。
脚本は2010年9月紹介『リミット』などのクリス・スパーリ
ング。前作もライアン・レイノルズのほぼ1人芝居という作
品だったが、孤立無援のシチュエーションの中で見事としか
言えない物語が展開されている。
学校での乱射事件というのはアメリカなど対岸のニュースと
いう感じだったが、最近では日本の学校でも凶悪な事件が起
きているようで、こんな状況がいつ自分の身に降りかかって
くるかもしれないお話だ。
しかもそこに別の判断も入ってきてしまうのは、子を持つ親
としては正に恐怖が募る作品だった。そんな展開も以前のハ
リウッド映画では考えられなかったものが、最近の流れでは
もしかするととも思ってしまう。
そんな混乱に観客も陥れる巧みな脚本と言える。そして現代
アメリカで社会問題となっている状況に対するメッセージ性
も見事に描かれた作品だった。

公開は5月12日より、東京は新宿ピカデリー、イオンシネマ
板橋他にて全国ロードショウとなる。

『忌怪島/きかいじま』
2019年9月29日付題名紹介『犬鳴村』などの清水崇監督によ
るホラー作品。前作に続く『樹海村』『牛首村』はCOVID-19
の影響で未見だが、本作はその村シリーズが終っての新たな
展開の始りなのかな。
主人公は気鋭の脳科学者。そんな主人公は女性の脳科学者に
誘われ、彼女がチーフを務めるとある島の研究施設にやって
くる。ところが施設に彼女の姿はなく、彼女は不審な死を遂
げたと説明される。
そこで主人公は彼女が開発していた、その島をモデルとする
メタバースに入り込むが、突然システム障害が発生。辛くも
危険を回避するもそこには謎のバグが生じていた。そのバグ
を追って主人公らの捜索が始まる。
一方、その島には怨讐の伝説があり、その伝説が島民を恐怖
に陥れていた。島の伝説と最新のメタバース。それらが交錯
する恐怖の物語が展開される。

出演は“なにわ男子”西畑大吾、2019年5月26日付題名紹介
『ザ・ファブル』などの山本美月、2010年1月紹介『ソラニ
ン』などの伊藤歩、2019年8月4日付題名紹介『左様なら』
などの祷キララ。
他に「ジュノン・スーパーボーイ」グランプリの平岡祐太、
元乃木坂46の生駒里奈、2020年「キラメイジャー」の水石
亜飛夢、2018年8月5日付題名紹介『パパはわるものチャン
ピオン』などの川添野愛。さらに大場泰正、當真あみ、笹野
高史、大谷凛香、なだぎ武、吉田妙子らが脇を固めている。
メタバースと現実世界が交錯するという話は映像的にも面白
いからいろいろ作られていると思うが、そこに怨讐が絡むと
かなりヤバそうだ。ただそれがメタバースの構築とどう関係
するのかはもう少し詰めて欲しかったかな。
本作の場合はそこに男女の関係も絡んでくるようで、そこに
付け込んで怨念が突破してきたようにも思えるのだが、そこ
を描き切るのは難しいとしても、その理論的な部分をしっか
り構築して欲しかった感じはした。
でもまあこれがシリーズ化されたら、その辺の関係性も明確
になってくるのかな。うまくすれば新しいジャンルになるよ
うな気もするし、日本だけでなく世界中の怨念の絡む伝説と
メタバースを関連させた作品を観てみたいものだ。

公開は6月16日より、全国ロードショウとなる。

『エスパーX探偵社〜さよならのさがしもの〜』
1973年生まれ、2003年から多数の短編作品で受賞も果たして
いる木場明義監督が、自ら得意と称するSFやファンタシー
の要素を日常に注ぎ込んだコメディタッチの作品。
物語の背景は、様々な超能力を持つ人間が存在する世界。そ
こでは多くの超能力者が犯罪に加担していた。そんな中で主
人公は、殴られると相手の記憶などが読み取れるという能力
の持ち主。その能力で彼は探偵を開業していたが…。
そんなある日、彼の許に妹が超能力者の犯罪グループに入る
のを止めて欲しいという依頼が来る。そこで主人公は調査を
開始するが、そこに顔見知りの刑事が現れ、別件でそのグル
ープを追っているから邪魔をするなと警告される。
それでも調査を続けた主人公は、とんでもない殺人鬼の超能
力者と対峙することになってしまう。果たして主人公は、彼
の超能力でその危機を脱することができるのか。

出演は、劇団おぼんろ主宰で舞台の脚本演出も手がける末原
拓馬。他に2018年2月4日付題名紹介『Sea Opening シー・
オープニング』などの佐伯大地、2019年7月紹介『いなくな
れ、群青』などの岩井拳士朗らが脇を固めている。
超能力者と探偵というと、ちょっと違うけど1974年に映画化
もされた小松左京原作『エスパイ』辺りが思い浮かぶかな。
アメコミみたいなド派手な戦いでなくても、手軽に描けると
いう点では同旨の作品はいろいろありそうだ。
そんな中で本作は、扱われる超能力にいろいろ捻りがあって
それなりに楽しめた。それは主人公の能力にしても、副主人
公、さらに敵役の能力も、今までの超能力ものとは少し外し
てそれぞれ巧みに設定されていた。
またそれらを伏線として活用する展開もいろいろと巧みで、
この辺は監督が自ら得意と称するだけのことはあるとも感じ
られた。SF映画ファンとして納得できる作品だった。これ
なら続編も期待したいものだ。

公開は4月29日より、東京は池袋シネマロサ他にて全国順次
ロードショウとなる。

『世界の終わりから』
2009年2月紹介『GOEMON』などの紀里谷和明監督の最
新作で、監督するのは最後かもしれないとされる作品。
時代背景は2030年と設定された現代。主人公はそんな現代で
暮らす女子高校生。両親が交通事故で亡くなり、その後に祖
母も亡くなって、人生に絶望しかかっている状況だ。そんな
彼女の許に突然政府機関の者と称する男性が現れる。
その男性は彼女に最近見た夢を教えて欲しいと言い出し、混
乱する彼女に人類の未来のために協力して欲しいと頼み始め
る。そして彼女は戦国時代と思われる過去の世界で幼い女の
子と遭遇する夢を見たことを思い出すが…。
現代と過去、そして未来が交錯する壮大な物語が動き出す。

出演は、2018年8月5日付題名紹介『ギャングース』などの
伊東蒼。共演者には2022年5月紹介『ビリーバーズ』などの
毎熊克哉、2022年『レッドシューズ』などの朝比奈彩、同年
『流浪の月』などの増田光桜。さらに冨永愛、高橋克典、北
村一輝、夏木マリ、岩井俊二、市川由衣、又吉直樹らが脇を
固めている。
実は試写上映の後で紀里谷監督の挨拶があって、それによる
と映画の撮影は去年の夏に行われたが、脚本はその半年前ぐ
らいに書き始めたということだ。つまりそれはモスクワによ
るウクライナ侵攻が始まったころと言える。
本作はそんな状況が色濃く反映された物語とも言える。実際
に監督の言動はかなり厭世的な気持ちに捉われているように
も聞こえ、そんな気分が物語の根底にあるのかもしれない。
映画には救いもあるが、そう言い切れない部分もあった。
そんな気持ちが「最後の映画」宣言に繋がったのかもしれな
い。しかし『2001年宇宙の旅』の脚本を手掛けたアーサー・
C・クラークは、初めてスタンリー・クーブリック監督に面
会したときに、『博士の異常な愛情』を撮ったばかりの監督
がかなり厭世的で困ったそうだ。
そこを何とか切り替えさせて『2001年』に向かわせたという
ことだが、紀里谷監督も作品の傾向から観てSFがお好きな
ら、次は『2001年』のような作品で気分転換を図ってもらい
たいものだ。協力するSF作家なら色々いると思えるが。

公開は4月7日より、東京はシネスイッチ銀座、新宿バルト
9他で全国ロードショウとなる。



2023年03月12日(日) 妖怪の孫、NEVER MIND DA 渋さ知らズ 番外地篇、ノートルダム炎の大聖堂、aftersun/アフターサン、THE WITCH/魔女-増殖-

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『妖怪の孫』
先週紹介『Village/ヴィレッジ』の河村光庸プロデューサー
が企画し、2021年『パンケーキを毒見する』で現役総理大臣
が題材のドキュメンタリーを発表した内山雄人監督が手掛け
た「昭和の妖怪」の孫を巡るドキュメンタリー。
昭和の妖怪とは元内閣総理大臣岸信介のこと。安倍晋三は岸
の娘婿である安倍晋太郎の息子だが、リベラル派だった晋太
郎は岸の娘婿ではなく、自分は反戦を貫いた戦前の衆議院議
員安倍寛の息子だと主張していたということだ。
そんな安倍寛の孫が、如何にして妖怪の孫となってしまった
のか、本作はそんな政界の闇を描いたドキュメンタリーと言
える。そして本作では、安倍晋三が自民党政権における絶対
権力者となり得たシステムなども解説される。
そこでは統一教会との関係なども語られるが、まずは絶対的
に選挙に強かった安倍晋三の戦略が詳解される。ところが他
の部分では固有名詞も出される中で、大手広告会社という戦
略の心臓部の企業名は伏される。
これは一体どうゆうことなのか。先週の紹介文では硬派のプ
ロデューサーと紹介した河村光庸も、さすがにここだけには
対抗できなかったのか。それとも河村亡き後に腰砕けになっ
てしまったのか。そんなことも考えてしまう作品だった。
まあ自民党政治家の答弁の内容が、某テレビ局職員が言うよ
うに、この大手広告会社の指示に従っていることは明らかに
されていたが。
なお本作の中では、安倍の地元山口県での活動の様子も描か
れるが、その中で汚職談合の象徴とされるごみ焼却場の外観
が、先週紹介の作品に登場するごみ焼却場にそっくりで、し
かも丁寧にリサイクル場も併設されている。
実は先週の作品を観た時には単純な村社会の確執を描いた作
品と思っていたが、その裏にはさらに大きな権力も蠢いてい
たようで、先週の作品に対する認識が一層深まる感じもした
ものだった。
それにしてもこのような政治家が、今でも国家の英雄のよう
に扱われて選挙民の支持も引き継がれている。そんな歪んだ
選挙戦略を打破するためにも、今後は是非とも大手広告会社
との関係も追及した作品を期待したいものだ。

公開は3月17日より、東京は新宿ピカデリー他にて全国ロー
ドショウとなる。
なお本作は、『Village/ヴィレッジ』(4月21日全国公開)と
併せて観ることをお勧めしたい作品だ。

『NEVER MIND DA 渋さ知らズ 番外地篇』
ジャズベーシストの不破大輔を中心に1989年結成され、以後
は離合集散を繰り返しながら2019年に30周年を迎えたビッグ
バンドの歴史を、初期メムバーへのインタヴューや彼らとの
セッション、さらにアーカイヴ映像などを交えて映画化した
ドキュメンタリー。
元々は2019年の30周年記念で京都大学西部講堂にて行われた
ライヴの模様を映画化する計画が進められ、その制作に招か
れた佐藤訪米監督は映画に挿入するドラマ部分の撮影を準備
するも COVIDで敵わず。そこでバンドの初期を知る人たちに
インタヴューを求めたのだそうだ。
そこにバンドの中興期にキーボード・ヴォーカルで参加して
いた佐々木彩子をナヴィゲーターで招き、初期メムバーへの
インタヴューと彼らとのセッションを敢行する。それは先に
セッションの曲を決めてからインタヴューを行ったそうで、
本作を音楽映画にする意図だったと監督は語っている。
そんな形式でバンドの歴史が語られている作品だ。そこには
かなり飛んでもないエピソードも披露される。とは言うもの
の、恐らくバンドのファンには嬉しい作品なのだろうが、部
外者には少しハードルが高いかな。もちろん破天荒なミュー
ジシャンの生き様は垣間見られるが…。
なお当初企画されたライヴの映画も鋭意制作中だそうで、本
作はその姉妹編という位置づけのようだ。従って本作は特典
映像のようなものとも言える訳で、本編が完成したら是非見
せて貰いたいと思っているところだ。
なお出演者には不破、佐々木を始め、日本のジャズ界を彩っ
た錚々たるメムバーが顔を揃えているようだ。

公開は4月1日より、東京は新宿K's cinema他にて全国順次
ロードショウとなる。

『ノートルダム炎の大聖堂』“Notre-Dame brûle”
2019年4月15日、パリのシテ島に建つ聖堂を襲った災害を、
1981年『人類創生』などのジャン=ジャック・アノー監督が
綿密な調査に基づき、IMAX、Dolby Atmos の大迫力で再現し
た実録ドラマ。
災害自体は全世界で報じられたものだが、その現場ではどの
ような事態が起きていたのか。それらが巨大なセットで在り
し日の姿を再生した内部の様子や、CGIも駆使した見事な
映像で再現される。
さらに撮影では現地の周辺でのロケーション撮影は基より、
一部のシーンは現在も修復作業が進む現場での撮影も特別許
可で実施されたそうだ。そんな正しく渾身と言える映像が展
開される。
出火の原因は現在も特定はされていないようだが。本作では
漏電や作業現場での火の粉、さらにタバコの火の不始末や小
動物の介在まで、想定される状況が矢継ぎ早に提示されて、
観客の想像力とサスペンスを盛り上げる。
そして初動の遅れやシテ島での消火栓の不足など現実的な災
害発生の問題点も指摘される。実際に外部からの通報で消防
が動き始める状況や交通渋滞の様子など、災害の拡大の原因
も数多く指摘される。
このように映画では未来に向かっての警鐘なども描かれるも
のだが、映画が本当に描くのはその後にくる人間たちに活躍
の物語だ。そこには敢えて無名とされる消防士たちの身を挺
した活動が描かれる。
実はこの火災では、消防士など人的被害が殆んどなかったこ
とが事実として知られているものだが。にも拘らず聖遺物の
「いばらの冠」を始め膨大な数の歴史品の救出や鐘楼を守り
抜く様子には、正にサスペンスを追体験する感覚で見入って
しまった。
そしてその活動を見守る人々の様子では、SNSで募集され
たスマホなどで撮影された映像も実に巧みな手法で画面に挿
入される。特に群衆が讃美歌を合唱する姿には感動が極致に
高まる感覚も覚えたものだ。
その一方で、アーカイブ映像で描かれるマクロン大統領登場
のシーンでは、この人は本当に国民の信頼を得ていないのだ
なあという感覚も見事に描かれていたものだ。これも実話な
のだろうが。

公開は4月7日より、IMAXシアターの他にも全国の劇場にて
ロードショウされる。

『aftersun/アフターサン』“Aftersun”
1987年スコットランド生まれのシャーロット・ウェルズ監督
が、1990年代のトルコのリゾート地を背景に少女の成長を描
いた作品。
登場するのは11歳の少女と31歳の父親。普段は別々に暮らし
ているらしい2人は、娘の最後の夏休みを2人だけで過ごす
ためにその地にやってくる。ところがツインで予約したはず
のホテルの部屋がダブルベッドで用意されていたり…。
それでも父親が補助ベッドで寝るなど、何とかリゾート気分
には浸り始める。そして父親は持ってきたヴィデオカメラで
2人の旅を記録し始める。そんな父親を少し疎ましく感じな
がらもリゾート地を満喫する娘だったが。

出演は本作でオスカー・ノミニーとなったポール・メスカル
と、本作が映画デビュー作のフランキー・コリオ。他に振付
師で映像作家でもあるセリア・ロールソン・ホールらが脇を
固めている。
物語は、本作が長編デビュー作という女性監督の自伝的要素
もあるようだが、自分が娘を持つ父親としては物語の構成自
体に違和感を持ってしまう。おそらく自分ではこのように娘
を連れだすことはしないだろう。
そんなこともあって何となく乗れない作品だったが、特には
父親の状況が全く不明なのも気になったところで。それは娘
の目線で語られる物語だから仕方ないところではあるが、常
にもやもやした感じで観てしまったものだ。
増してやそれを20年後の娘の眼で検証するという設定も、映
画の中では明確に意味があったようにも思えず。大体そんな
ムードで描かれていることが評価の対象であったとしたら、
ちょっと映画に対する感覚が違うようにも感じた。
それは多分僕自身の方に問題があるのだろうが。僕にとって
は理解しがたい作品だったと言える。ただヴィデオカメラの
扱いや、とどめのファンタレモンの登場にはやられたという
感じはしたが。

公開は5月26日より、東京はヒューマントラストシネマ有楽
町、新宿ピカデリー他にて全国ロードショウとなる。

『THE WITCH/魔女-増殖-』“마녀 Part2. The Other One”
2018年5月紹介『V.I.P.修羅の獣たち』などのパク・フンジ
ョン監督が2018年に発表した『THE WITCH/魔女』の続編。
因に監督は〈魔女ユニヴァース〉を構築する意向だそうだ。
映画の開幕はとある秘密研究所で起きる大殺戮戦。その闘い
で生き残った1人の少女が雪の中を彷徨い歩いて行く。その
後を追う2つの組織。その追跡者はそれぞれそれなりの超能
力を持つメムバーだったが…。
生き残った少女はやがて1軒の農場に辿り着き、そこに暮ら
す姉弟によってつかの間の安息が与えられる。しかしその姉
弟は父親が遺した農場の土地を巡って地元の権力者との抗争
を抱えていた。
ところがその権力者が派遣した暴力集団を少女はあっという
間に殲滅してしまう。こうして暴力集団vs姉弟と少女。さら
に少女を追跡してきた2つの組織との4つ巴の戦いが勃発す
る。それは済州島の花火大会の日だった。

出演は1408人のオーディションで選ばれたというシン・シア
と、映画出演は2013年以来というパク・ウンビン。それにパ
ク監督とは2度目のコラボレーションというソン・ユビン。
他に2022年『キングメーカー大統領を作った男』などのソ・
ウンス、『V.I.P.』にも出演のイ・ジョンソク。また2009年
8月紹介『母なる証明』などのチン・グ。さらに前作にも登
場のチョ・ミンス、キム・ダミらが脇を固めている。
前作を知らずに見ていると、少女を追いかける2つの組織の
違いが良く判らなくて、互いに対抗しているようだが、その
一方は韓国語、他方は中国語を話しているのはそういう設定
のものなのかな。
超能力者の集団同士の戦いということでは X-Menなども思い
浮かぶが、様々な超能力が混淆するアメコミに比べると、あ
る種の肉弾戦に終始する本作は力は入ってしまうかな。ただ
見た目は繰り返しばかりになってしまうが。
まあいずれにしてもアメコミとは違ったユニヴァースが構築
されることは期待したいものだ。

公開は5月26日より、全国ロードショウとなる。



2023年03月05日(日) それでも私は生きていく、Village/ヴィレッジ、帰れない山、TAR/ター、サイド バイ サイド 隣にいる人

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『それでも私は生きていく』“Un beau matin”
2013年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドールに輝いた『アデ
ル、ブルーは熱い色』にて鮮烈な印象を残したレア・セドゥ
が主演し、現代パリに生きる女性の姿を描いて2022年カンヌ
でヨーロピアン・シネマ・レーベル賞を受賞した作品。
セドゥが演じるのは8歳の娘を抱えるシングルマザー。同時
通訳の仕事などで生活ぶりは問題ないようだが、元大学教授
で痴呆が始まっている父親の介護や、その生活の整理などで
何か虚しさを感じ始めている。
そんな折に彼女は1人の男性と再会する。彼は亡き夫の親友
で学術研究のために南極に行っていたという。そして研究者
の一家に育ったらしい彼女は、彼の人柄に惹かれて行くこと
になるが…。

脚本と監督は2013年3月10日題名紹介『グッバイ・ファース
トラブ』などのミア・ハンセン=ラヴ。本作では監督の希望
で35�丱侫�ルムによる撮影が行われており、撮影監督は監督
とは4度目のコラボレーションというドゥニ・ルノアールが
担当している。
共演は2007年7月紹介『エディット・ピアフ』でセザール賞
ノミネートのパスカル・グレゴリーと、2006年3月紹介『ぼ
くを葬る』で主演のメルヴィル・プポー。他にニコール・ガ
ルシア、カミーユ・ルバン・マルタン(子役)らが脇を固めて
いる。
物語は特に修羅場がある訳でもなく、むしろ主人公は感情を
表に出さない性格付けだから淡々と進んで行く。でもそれが
現実だろうし、そんな現実的な生活の一部が鮮やかに切り取
られた作品と言えそうだ。
僕自身は親の介護には立ち会わなかったからその現実は判ら
ないが、自分の年齢からするともはや介護される側に近い人
間だから、特に父親がどんどん老いて行く姿に色々と感じる
ところは多かったものだ。
そんな中で父親の蔵書を整理して行くシーンでは、「並んで
いる本が人生を表している」という台詞に、自分の蔵書はさ
して多くはないけれど、何か感慨を覚えるものもあった。そ
んな正に現実が巧みに描かれた作品とも言える。
演出では初めの方にちょっとケアレスなミスはあったが、全
体は落ち着いたトーンで、それが深みのあるフィルム撮影と
相まって、正にこれぞ映画という感じの作品に仕上げられて
いた。

公開は5月5日より、東京は新宿武蔵野館、シネスイッチ銀
座、UPLINK吉祥寺他にて全国順次ロードショウとなる。

『Village/ヴィレッジ』
2018年9月紹介『青の帰り道』などの藤井直人監督が、同作
にも出演の横浜流星を主演に招いて、因習に満ちた村社会の
現実を描いた作品。
物語の舞台は山の麓に田園の広がる村落。その村では伝統の
薪能も披露されている。そんな祭りの日に事件が起きる。村
民の男が自宅に放火して自殺したのだ。それから10数年後、
能舞台のある神社の裏山には巨大なごみ焼却場が建ち、田園
の広範囲はごみの集積場と化している。
そんな村で主人公は、リサイクルと称するごみの分別作業に
従事していたが、夜半に突然携帯が鳴り、集められた者たち
は恐らくは違法な産業廃棄物を集積場に埋め立てる仕事にも
従事していた。その仕事は過酷だが、生活のためには必要な
ものでもあった。
そんな村に、東京に出ていた1人の女性が帰ってくる。彼女
は東京には何もなかったと言って、過疎の村の村役場に勤め
始める。そんな彼女は主人公の幼馴染で、再会した彼女は村
が進める広報活動に主人公を誘う。それはごみ焼却場の意義
を世間に広めるというものだったが…。
その広報活動が功を奏し、村には徐々に観光客も集まるよう
になってくる。しかしそれは諸刃の剣でもあった。そして生
じる確執が再び事件を引き起こす。

共演は、黒木華、古田新太、中村獅童。他に2017年2月紹介
『無限の住人』などの一ノ瀬ワタル、2020年のデビュー作で
いきなり新人賞を総なめにしたという奥平大兼、ジャニーズ
Jr.HiHi Jetsの作間龍斗。さらに杉本哲太、西田尚美、木野
花らが脇を固めている。
企画、製作、製作総指揮は2012年7月紹介『かぞくのくに』
などの河村光庸。昨年6月他界した硬派のプロデューサーは
本作のクランクアップを見届けてから逝ったそうだ。
能舞台では『邯鄲』が演じられ、「一炊の夢」とされる故事
がモティーフになっている。しかしそれはあくまでも主人公
だけのことであり、その陰で蠢く社会悪の物語は、正しく骨
太な社会派のドラマが描かれているものだ。
そしてそんな物語がCGIやドローン撮影も駆使した迫力の
映像で描き尽くされている。
なお撮影監督は、あいみょんや
King Gnuなど錚々たるミュージシャンのPVを手掛ける川上
智之が担当した。
またポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』やジョン・ウー監督
の『レッドクリフ』なども手掛ける岩代太郎が担当した音楽
も聞きものになっている。
公開は4月21日より全国ロードショウとなる。

『帰れない山』“Le otto montagne”
2019年2月3日付題名紹介『ビューティフル・ボーイ』など
のフェリクス・ヴァン・ヒュルーニンゲン監督が、妻でもあ
る脚本家シャルロッテ・ファンデルメールシュとの共同監督
で挑んだ北部イタリアの山岳地方が舞台のパオロ・コニェッ
ティ原作小説の映画化。
普段は両親と北イタリアの都市トリノで暮らす少年と、イタ
リアアルプスの名峰モンテ・ローザ山麓の過疎の村で暮らす
少年。そんな2人が大自然の中で出会い友情を育む。しかし
大人の事情が2人の仲を引き裂き、特に都会の少年は家族と
も離れて村にも寄り付かなくなる。
それから歳月が流れ、父親の訃報で山にやってきた主人公は
幼い日の親友と再会し、主人公が離れた後の父親の様子など
を知ることになるが…。
幼い日々の大自然の中での冒険や危険、そして青年になって
再訪した過疎の村の厳しい現実。そんな厳しさに満ちた物語
が1.33:1の縦横比率の画面の中で、雄大かつ繊細に描かれ
て行く。
1.33:1の縦横比というのは1.85:1のIMAXよりもさらに縦
が長いことになるが、元々のサイレント時代の画面のサイズ
でもあるもので、安定感というか落ち着きのある映像が描か
れているようにも感じられた。
そんな画面の中に雄大なイタリアアルプスの景観と、繊細な
親子の物語が描かれている作品だ。物語自体には特に大きな
事件があるようなものでもないが、 147分の上映時間の中で
全てがどっしりと丁寧に描き尽くされている感じもした。

出演は、2017年4月紹介『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーク』で
ダヴィッド・ディ・ドナッテッロ賞の助演男優賞を受賞した
ルカ・マリネッリと、2018年3月4日題名紹介『ダリダ あ
まい囁き』などのアレッサンドロ・ボルギ。
他に2011年3月紹介『愛の勝利を』などのフィリッポ・ティ
ーミ、舞台出身でティーミとの共演歴も多いエレナ・リエッ
ティらが脇を固めている。
公開は5月5日より、東京は新宿ピカデリー、シネスイッチ
銀座、シネリーブル池袋他で全国ロードショウとなる。

『TAR/ター』“Tár”
2007年6月紹介『リトル・チルドレン』以来16年ぶりとなる
トッド・フィールド監督が、『LOTR』のガラドリエルなどの
ケイト・ブランシェットを主演に迎えて、ベルリン・フィル
で史上初となる女性首席指揮者の生き様を描いた作品。
主人公のリディア・ターはアメリカ5大オーケストラの首席
指揮者を歴任し、ついにベルリン・フィルの首席指揮者の座
も射止める。その間にはエミー賞、グラミー賞、アカデミー
賞、トニー賞も全て受賞し、正に叶わぬ夢はないと言われる
存在だった。
そんな彼女の最後の夢は、師であるバーンスタインも愛した
マーラーの交響曲の全曲録音であり、それも第5番を残すの
みとなっていた。しかしその録音の日が近づくにつれ、徐々
に焦燥が高まって行く。それでも出版予定の自伝のプロモー
ションなど、多忙は極めていたが…。
そんな中で1人の女性演奏家の死を切っ掛けに彼女への信頼
が揺らぎ始める。それでも強気に録音の準備を進める彼女の
周囲で、思い掛けない陰謀が渦巻き始める。果たして彼女は
その困難を切り抜けることができるのか?

共演は、2019年の“Portrait de la jeune fille en feu”
でルミエール賞受賞のノエミ・エルランと、2012年11月紹介
『東ベルリンから来た女』などのニーナ・ホス。そして実際
にチェロの奏者で19歳のソフィー・カウアーがキーとなる役
柄で大抜擢されている。
他に2012年5月紹介『プリンセス・カイウラニ』などのジュ
リアン・グローヴァー、2020年1月12日付題名紹介『1917命
をかけた伝令』などのマーク・ストロングらが脇を固めてい
る。
物語の中では『猿の惑星』や『地獄の黙示録』など、映画の
話題も巧みに取り込まれ、正に実話にような物語が展開され
て行くが、実は主人公は全くの架空の人物。しかしブランシ
ェットの巧みな役作りや、正にオーケストラの裏を知り尽く
したような助言者の協力で実話と見まごう作品に作り上げら
れている。
そのリアルさは海外の論評でも誤解する所があったようで、
ウィキペディアの紹介では始めに架空の人物だという記載が
されているほどだ。この映画作りの妙がトッド・フィールド
監督の真骨頂と言えるのかもしれない。

これぞ映画の醍醐味という感じの作品だった。
公開は5月12日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国
ロードショウとなる。

『サイド バイ サイド 隣にいる人』
別名義で2017年8月6日付題名紹介『ナラタージュ』などの
行定勲監督作品を手掛ける脚本家の伊藤ちひろが、同監督の
プロデュースの許で自らの原案・脚本により監督第2作とし
て発表した作品。因に、本作の企画は第1作より先にあった
そうだ。
主人公は霊魂が見えるという男性。それは死者の霊だけでな
く、遠く離れて暮らす人間の生霊もその思いが強ければ見え
るようだ。そんな主人公は自らの能力を使って人々が抱える
悩みやトラウマを解決し、人に癒しを与えてきた。
そして現在の彼自身は大自然に包まれた山里で、看護師の恋
人と彼女の妹と共に牧場の手伝いなどをしながら穏やかに暮
らしていたが…。ある日、遠くから届く異様な思いに心が騒
ぎだす。
その真意を確かめるためミュージシャンとして活動する昔の
友人のライヴ会場を訪れた主人公は、彼を巡って過去に起き
たある事件の真相を突き付けられる。それは彼自身が封印し
た過去の出来事だった。

主演は『ナラタージュ』にも出ていた坂口健太郎。共演は、
元乃木坂46の齋藤飛鳥、伊東監督の第1作にも出演の浅香
航大。他に2010年8月紹介『マザーウォーター』などの市川
実日子、子役の磯村アメリ。さらに茅島成美、不破万作、津
田寛治、King Gnu井口理らが脇を固めている。
テーマ的には、1999年のM・ナイト・シャマラン監督作品を
思い出すところが大きいかな。物語の展開自体は全く異なる
けれど、このテーマだと1999年作の結末がどうしても頭をよ
ぎってしまう。
その点でいうと本作ではその結末が極めて曖昧に感じられて
しまうのだが、それは監督の意図なのだろうか。もちろん同
じ結末にすることは避けたい気持ちは働くが、このように曖
昧だとそれをしてしまったのかという疑念も生じる。
ここはもっと明確な結末を、それが1999年作と同じであった
としても明示するべきだったような気がする。本作は仮に結
末が同じであったとしても、いろいろと面白い展開が期待で
きる作品のように思えるのだ。
その辺に妙に気を使ってしまったことが、本作の本来持って
いた意味も曖昧にしてしまった感じもするものだ。センスは
良いと感じていただけにちょっと残念な感じもした。

公開は4月14日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国
ロードショウとなる。


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井口健二