井口健二のOn the Production
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2018年07月29日(日) バーバラと心の、ウルフなシッシ(テル・M、母さんが、DTC、止められるか、黙ってピアノ、純平、デス・W、日日是、僕の帰る、あのコの)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『バーバラと心の巨人』“I Kill Giants”
2010年のアイズナー賞にノミネートされ、2012年日本国際漫
画賞の第1位を獲得したジョー・ケリー原作、ホセ・マリア
・ケン・ニイムラ作画によるグラフィック・ノヴェルの映画
化。
主人公はウサギの耳のカチューシャを頭に付けた少し奇矯な
少女。両親はおらず、成人の姉とシューティングゲームに夢
中の兄と共に暮らしているが、生活は裕福ではない。しかし
彼女はある使命を帯びていた。
それはいつの日か彼女の住む町を襲う巨人を撃退すること。
そのため彼女は、家の周囲や学校、町の各所に罠や警報器を
設置し、いつも携帯するポシェットには往年のスポーツ選手
の名前を冠した最強のアイテムを装備していた。
そんな彼女は、学校では苛めに遭っているが意に介さない。
そしてスクールカウンセラーの言葉にも心は開かなかった。
ところが彼女を気にする転校生の少女が現れ、その少女には
少し心を開きかけた時…。

出演は、2016年6月紹介『死霊館 エンフィールド事件』に
登場し、ホラー映画ファンの間では新スクリームクイーンと
もされるマディソン・ウルフ。
その脇を、2015年1月紹介『JIMI:栄光への軌跡』などのイ
モージェン・プーツ、2016年9月紹介『スター・トレック』
などのゾーイ・サルダナ。さらにテレビの“Doctor Who”や
“Sherlock”にも出たというシドニー・ウェイドらが固めて
いる。
脚本は原作者のケリーが担当し、監督は、“Helium”という
作品で2014年のアメリカアカデミー賞短編ドラマ部門にノミ
ネートされたデンマーク出身のアナス・バルター。製作は、
2012年1月紹介『ヘルプ・心がつなぐストーリー』などのク
リス・コロンバスが務めた。
物語は、巨人が主人公の妄想なのか否かという点で終始する
が、映画的にはもう少し明確な結論が欲しかったかな。勿論
観客は理解するものだが、少しカタルシスが物足りない感じ
もした。
でもまあ日本アニメは大体がこんな感じだし、この辺が日本
文化の影響というところかもしれない。一方、主人公が装備
する最強のアイテムに関しては、これは成程と思わされたも
ので、これがアメリカ文化ということだ。
因にケン・ニイムラは、1981年マドリッド生まれ、スペイン
育ちでスペイン版のウィキペディアではスペイン人とされて
いた。

公開は10月より、東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国順次
ロードショウとなる。

『ウルフなシッシー』
2017年のTAMA NEW WAVE コンペティションで、グランプリ、
ベスト男優賞と、ベスト女優賞も受賞した大野大輔脚本、監
督、主演による作品。
登場するのはオーディションに落ち続けている女優と、新米
AV監督のカップル。今日も落選を通知されて女友達と飲み
会を開いている女優の許に監督が現れる。しかも居場所をス
マホのGPSで突き止めて。
この状況に女優が切れて言い争いが始まり、それは2人が自
宅に帰ってからも続いて行く。その止め処ない痴話げんかが
約80分間の上映時間の間中展開される。それは些細な行き違
いから2人の人生観まで多岐に亘ったものになる。
試写状の内容紹介からは、2人の住む1部屋だけを舞台にし
たソリッド・シチュエーション的なものを想定したが、実際
はそれ以前の設定もしっかりと描いて、それは丁寧に作られ
た作品だった。

女優役は、2017年4月23日題名紹介『獣道』に出演の根矢涼
香。他に真柳美苗、中村だいぞう、2011年10月紹介『ミツコ
感覚』などの本村壮平らが脇を固めている。
大野監督は、カナザワ映画祭2016で「期待の新人監督」に選
ばれているものだが、その際の『さいなら、BAD SAMURAI』
も自主映画製作の舞台裏を描いて、かなり本音がぶちまけら
れる作品だったようだ。
それに対して本作では、演劇界の舞台裏に加えて男と女の本
音みたいなものが丁寧且つ壮絶に描かれている。それは自分
が40年連れ添った妻との関係に照らしても成程なあと納得で
きるものだった。
ただし、この作品では言い分が男性側に偏っているような感
じがして、それは男性の観客としては納得できるものだが、
女性の観客にはどうなのだろう? その点がちょっと気にな
りはしたものだ。
まあ、現場のキャストやスタッフには女性もいるのだから、
その点の意見交換などはしているものと思うが。その点も含
めて、僕にこの様な感じを抱かせない工夫が欲しかったとは
言えそうだ。
なお映画の初めの方で、女優がオーディションの後に有料の
ワークショップに誘われるシーンでは、僕が以前に職安から
紹介された会社に面接に行ったら、面接もそこそこに講習会
の勧誘を受けたことを思い出し、ニヤリとしてしまった。
こんなことはあるものなのだ!

公開は9月15日より、東京は新宿K`cinemaにて連夜19:00か
ら、2週間限定のイヴニングロードショウとなる。

この週は他に
『テル・ミー・ライズ』“Tell Me Lies”
(ピーター・ブルック監督によって1968年に製作され、この
年のヴェネツィア国際映画祭では審査員賞などの評価を与え
られたものの、政治的な内容から各国での上映は見送られ、
一時はフィルムの紛失も伝えられた作品が発見、修復されて
日本初公開となる。製作年に僕は予備校生で、当時のことは
記憶にも残っているが。現時点でこの作品を観ていて、当時
の自分が何を考えていたのか、いろいろな想いが錯綜した。
実際に本作は「究極の反戦映画」と呼ばれているものだが、
結論としてヴィエトナム戦争は反戦運動によっては終らず、
北の攻勢で米軍が敗退するまで続いたもの。そんな虚しさも
改めて込上げてきた。今やヴィエトナム戦争も知らない子供
たちの時代だが、当時から続く沖縄占領基地は解消されず、
その返還運動も実らないままなのが、我々の過ごした半世紀
なのだ。公開は8月25日より、東京は渋谷シアター・イメー
ジフォーラム他で全国順次ロードショウ。)

『母さんがどんなに僕を嫌いでも』
(マイノリティへの理解を求め続ける作家・まんが家、歌川
たいじによる実体験に基づくコミックスエッセイの映画化。
主人公は家庭を顧みない父親と、子供に暴力を振う母親の許
に育ち、幼児期に施設に強制入所させられるなど虐待を受け
るが、血の繋がらない祖母のような女性に助けられる。しか
し両親の離婚によってその「祖母」と離れ離れになり、17歳
で家出。社会人となるもPTSDに悩まされ続ける。そんな彼が
演劇を志し、そこから支援してくれる仲間ができ、遂には母
親との再会を決意するが…。出演は太賀と吉田羊。他に森崎
ウィン、白石隼也、秋月三佳、木野花らが脇を固める。監督
は2013年公開『すーちゃん まいちゃん さわ子さん』などの
御法川修。壮絶な物語だが、報道などを観ると幼児の虐待死
など、今の時代にはそこら中にある話のようで、その現実を
考えると恐ろしくなった。公開は11月16日より、全国ロード
ショウ。)

『DTC 湯けむり純情篇 from HiGH&LOW』
(2017年10月29日題名紹介『HiGH&LOW』から派生の番外編。
SWORD 地区での官民入り混じった闘いが終結し、闘いに明け
暮れていた山王連合会のダン、テッツ、チハルは旅に出る。
ところが資金が尽きて転がり込んだ老舗旅館で、その店を仕
切る子持ち未亡人の女将を巡る人生模様に巻き込まれる。出
演は山下健二郎、佐藤寛太、佐藤大樹。ゲストに笛木優子、
駿河太郎と子役の新井美羽。その他にSWORD 地区の面々もい
ろいろな形で登場する。本作は松竹映画配給だが、オリジナ
ルではブランドイメージとはちょっと異なるド派手なアクシ
ョンが展開されていた。それが一転、本作では看板作品だっ
た『男はつらいよ』を思わせる人情ドラマで、企画のEXILE
HIROやるなあと思わせる作品だ。脚本はオリジナルを手掛け
てきた渡辺啓、上條大輔らで、監督もオリジナルの脚本に携
わってきた平沼紀久の長編デビュー作となっている。公開は
9月28日より、全国ロードショウ。)

『止められるか、俺たちを』
(若松孝二監督が逝去した2012年から6年ぶりに再始動した
若松プロダクション製作の作品。1969年を時代背景に、騒然
とした世相と当時の映画製作の模様が、実在の女性助監督の
目を通して描かれる。出演は門脇麦、若松作品の常連だった
井浦新。さらに山本浩司。他に満島真之介、渋川清彦、高良
健吾、寺島しのぶ、奥田瑛二らが脇を固めている。監督は、
若松プロ出身で2017年11月19日題名紹介『孤狼の血』などの
白石和彌。劇中には当時の若松プロ作品のクリップも多数挿
入され、映画ファンには贈り物という感じにもなっている。
なお当時の様子は2012年6月紹介のドキュメンタリー『足立
正生』でも観られたものだ。また新宿ゴールデン街の様子も
面白く再現されているが、ただ当時の風景を現在の新宿で写
しているのは、覚悟の上の描写なのだろうが、両方を知る者
には多少の違和感だったかな。公開は10月13日より、東京は
テアトル新宿他で全国順次ロードショウ。)

『黙ってピアノを弾いてくれ』
            “Shut Up and Play the Piano”
(2010年12月紹介『トロン:レガシー』の音楽を担当したダ
フト・パンクらとも共演するヒップホップ系シンガーソング
ライターでありながら、繊細なピアノ演奏でウィーン放送交
響楽団とステージでのパフォーマンスも繰り広げるミュージ
シャン、チリー・ゴンザレスの生き様と魅力に迫るドキュメ
ンタリー。中には本人へのインタヴューも挿入されるが、中
心はステージ・パフォーマンスで、だみ声をがなり立てるラ
ップやパンクロックからクラシカルなピアノ演奏まで、多彩
な才能が披露される。その一方で交響楽団のコンサートマス
ターからは「ピアノの実力は並」というような発言も収録さ
れ、呼応するように自宅で練習に励む姿なども紹介される。
製作者にはゴンザレス自身も名を連ねており、正に自身をさ
らけ出した作品と言えそうだ。でも思い上がった風もなく常
に真摯な態度なのは好感した。公開は9月29日より、東京は
渋谷シネクイント他で全国順次ロードショウ。)

『純平、考え直せ』
(2017年4月2日題名紹介『22年目の告白』などの野村周平
と、2017年2月26日題名紹介『破裏拳ポリマー』などの柳ゆ
り菜の共演で、直木賞作家・奥田英朗の同名小説を映画化。
現代の新宿歌舞伎町を舞台に、対立する組の幹部を狙う鉄砲
玉に指名された若者が、1丁の拳銃と数10万円の資金で行き
ずりの女と共に最後の時を過ごす。その模様が彼女の発信す
るSNSの投稿と共に描かれる。共演は2018年5月紹介『万
引き家族』などの毎熊克哉、2018年7月15日題名紹介『オズ
ランド』などの岡山天音、『仮面ライダー鎧武』の佐野岳。
他に下條アトムらが脇を固めている。監督は2009年7月紹介
『女の子ものがたり』などの森岡利行。SNSなど今風では
あるが、歌舞伎町の各所でロケした映像にはヌーヴェルヴァ
ーグの味わいも微かにあるかな? そんな映画ファンには、
内容も含め懐かしさも感じられる作品だ。公開は9月22日よ
り、東京は新宿シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)

『デス・ウィッシュ』“Death Wish”
(1974年に『狼よさらば』の邦題で公開されたブライアン・
ガーフィールド原作、マイクル・ウイナー監督、チャールズ
・ブロンスン主演のアクション作品を、2015年公開『グリー
ン・インフェルノ』などのイーライ・ロス監督、ブルース・
ウィリスの主演でリメイクした作品。犯罪都市と化したシカ
ゴを舞台に、妻を惨殺された敏腕外科医が復讐の鬼と化して
警察の手も届かない犯人に迫って行く。共演は、ビンセント
・ドノフリオとエリザベス・シュー、それにモデル出身のカ
ミラ・モローネ。オリジナルはニューヨークが舞台だったは
ずだが、今やシカゴも同じ状況のようだ。そんな高架鉄道の
走る都会で、観客の心を鷲掴みにする復讐劇が展開される。
でもまあ所詮は銃社会が背景で、そこに迎合的なのは致し方
ないのかな? なお、オリジナルは1994年に第5作まで作ら
れるヒットシリーズになったものだ。公開は10月19日より、
東京はTOHOシネマズ日比谷他で全国ロードショウ。)

『日日是好日』
(黒木華、樹木希林、多部未華子の共演で、茶道をテーマに
した森下典子原作エッセイの映画化。始りは25年前、20歳の
女子大生の主人公は、「本当にやりたいこと」が見つからな
いまま日々の生活を送っていた。そんな時、近所のただもの
ではないと噂のおばさんが茶道の先生と知った両親は、彼女
に入門を勧める。その勧めに乗り気でない主人公だったが、
同い年の従姉妹が乗り気になり、止む無く付き合いで行くこ
とに。それは最初は訳の判らない所作の決まり事の教えばか
りだったが…。やがてそれが彼女を支え、人生の機微を教え
ることになって行く。脚本と監督は2017年9月3日題名紹介
『光』などの大森立嗣。茶道は僕が子供の頃に母親が少しや
っていたことがあり、基本の基本みたいなものは心得ていた
が、そこから深度を増して行く展開が面白く。結構嵌って観
てしまった。和装姿の黒木と多部の共演も楽しめる。公開は
10月13日より、全国ロードショウ。)

『僕の帰る場所』
(2017年東京国際映画祭「アジアの未来」部門に出品され、
同部門の作品賞と、国際交流基金アジアセンター特別賞をW
受賞した作品。日本とミャンマーを舞台に、ある在日ミャン
マー人家族に起きた実話を基に描いたドラマ。登場するのは
東京の小さなアパートに暮らす母親と幼い兄弟。父親は入国
管理局に捕まっており、母親が拙い日本語で懸命に家族を支
えている。しかし父親の難民申請は中々受理されず、釈放の
見込みは薄い。そして父親の不在が子供たちにも影を落とし
ている。そんな中で母親は母国への帰国を考え始めるが…。
日本育ちの子供たちにはそれも過酷な選択だった。本作がデ
ビュー作の藤元明緒監督は、長年在日ミャンマー人の取材を
続け、その中から生み出された作品のようだ。しかし世界一
難民に厳しいとされる日本ではその表現も難しく、本作の完
成には5年の歳月が費やされている。公開は10月より、東京
はポレポレ東中野他で全国順次ロードショウ。)

『あのコの、トリコ。』
(白石ユキ原作同名少女コミックスの実写映画化。芸能界を
舞台に幼馴染みの三角関係が描かれる。頼、雫、昴の3人は
幼い頃から人気スターの夢を誓いあっていた。そして頼は雫
の危機を自らの手で救ったことで彼女の虜にもなっていた。
しかし雫と昴が次々オーディションに受かる中で頼は落選が
続き、引っ越しもあっていつしか夢を諦めていた。ところが
雫と昴の活躍を知り、2人の通う学園に転入を決意する。そ
れでもあまり目立たない頼だったが…。出演は、2018年3月
18日題名紹介『猫は抱くもの』の吉沢亮、2017年11月26日題
名紹介『悪と仮面のルール』の新木優子、2018年06月10日題
名紹介『きらきら眼鏡』の杉野遥亮。他に高島礼子、岸谷五
朗らが脇を固めている。脚本は2018年4月1日題名紹介『マ
マレード・ボーイ』などの浅野妙子、監督はテレビで数多く
のラヴコメを手掛け、本作で長編デビューの宮脇亮が担当し
た。公開は10月5日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2018年07月22日(日) ミッション:インポッシブル フォールアウト(愛と法、ウスケボーイズ、パーフェクトワールド、食べる女)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『ミッション:インポッシブル フォールアウト』
           “Mission: Impossible - Fallout”
往年のテレビシリーズから1996年に劇場版として再開された
トム・クルーズ主演、アクションシリーズの6作目となる最
新作。
物語の発端はロシアでのプルトニウムの盗難。大都市を破壊
できる原子爆弾3個分が行方不明となる。そこでイーサン・
ハントにその奪還が命じられる。しかしその作戦は失敗し、
ハントの許には監視役のCIA諜報員が送り込まれる。
一方、プルトニウムを手に入れた武器商人が取引に応じると
の情報にハントは交渉に臨むが、そこで提示されたのは前作
で捕えた敵対組織「シンジケート」の首領の奪還だった。し
かもその計画は目撃者を殲滅するという手荒なもの。
その事態にも何とか対処するハントたちだったが、首領は逃
亡し、プルトニウムも行方不明のまま。そしてそのプルトニ
ウムを使った原子爆弾が、思わぬところに仕掛けられたこと
が判明する。
果たしてハントたちは原子爆弾の爆発を止めることができる
のか…。ハントの元妻も巻き込む驚愕の事態が展開される。

共演はサイモン・ペッグ、ヴィング・レイムス。また前作か
ら続けて登場のレベッカ・ファーガスン、アレック・ボール
ドウィン。
さらに『スーパーマン』のヘンリー・カヴィル、『ブラック
パンサー』のアンジェラ・バセット。そしてミッシェル・モ
ナハン、ショーン・ハリス、ヴァネッサ・カービーらが脇を
固めている。
脚本と監督は、前作『ローグ・ネイション』に引き続いての
クリストファー・マッカリー。本シリーズでの監督の連投は
初めてだが、監督はその間の2016年10月紹介『ジャック・リ
ーチャー』の製作と、2017年7月紹介『ザ・マミー』では脚
本も務めており、クルーズとは正に盟友のようだ。
実は試写の翌日には監督と俳優らの記者会見も行われたが、
その際のクルーズの熱意が素晴らしかったもので、これは何
かをやり遂げたという雰囲気が横溢していた。特に前半と後
半にそれぞれ登場するIMAXのシーンはアクションの極致
とも言えるもので、その満足感は間違いなかった。
実際にはIMAXのシーンはこの2カ所だけで、わざわざそ
れを選んで観た人には物足りないかもしれないが、通常の人
間ドラマにIMAXの画角は不向きなもので、あえてこの手
法を採ることにも見識を感じるものだ。
これらの撮影秘話は他でも喧伝されると思うが、正しく映画
に賭ける情熱が溢れていると感じられる作品だった。そして
この情熱はまだ終ってはいないようだ。

公開は8月3日より、IMAXと3D/2Dの劇場にて全国
ロードショウとなる。

この週は他に
『愛と法』
(『Of Love & Law』の題名にて、2017年11月5日付「東京
国際映画祭」で紹介した作品の一般公開に向けた試写が行わ
れた。内容は前回紹介の通りだが、実は映画祭の上映では一
点疑問が生じ、その点を観直して確認した。それはエピロー
グに登場する人物に関してだが、初見でも判るものの、それ
が作中に明示されていたか否かが不明だった。そこで観直し
た結果は、作中で明示はなかった。勿論それは作品の良さを
損ねるものではないし、他の点でプライバシーなど微妙な問
題が存在することは認めるが、この点ぐらいはもう少し判り
易くしても良いのでは…とは感じた。ついでに言えば、この
問題に関してはこれだけで1本作れるほどのものだし、それ
を言えばこの作品に取り上げられた問題はそれぞれが独立し
て描いても良いと思えるほどのものばかり。それらの日本の
抱える問題が凝縮して描かれている。公開は9月下旬より、
東京は渋谷ユーロスペース他で全国順次ロードショウ。)

『ウスケボーイズ』
(2018年5月紹介『第二警備隊』の柿崎ゆうじ監督による長
編第2作。日本のワインを世界レベルにまで引き上げたとさ
れる麻井宇介の思想を受け継ぐ若者たちの姿を描き、小学館
ノンフィクション大賞を受賞した河合香織原作の映画化。学
生でワインの試飲会を開いていた主人公らは、フランス産と
日本産の飲み比べをして、フランス産に匹敵する日本ワイン
があることを知る。その生産者を訪ねた主人公らは彼の思想
に共鳴し、自ら日本のワイン生産に挑戦しようとするが…。
出演は渡辺大、出合正幸、内野謙太、竹島由夏。他に升毅、
萩尾みどり、清水章吾、柴俊夫、田島令子、大鶴義丹、柳憂
怜、伊吹剛、和泉元彌、伊藤つかさ、安達祐実、橋爪功らが
脇を固めている。監督は前作とずいぶん違った傾向の作品だ
が、どちらも実話に基づく話だし、何より監督のワインに対
する愛情が感じられる作品だ。公開は10月20日より、東京は
新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『パーフェクトワールド 君といる奇跡』
(障がいを抱える若者の恋愛事情を描いた有賀リエ原作、同
名コミックスを、EXILE 岩田剛典と杉咲花の主演で実写映画
化。杉咲演じる主人公はインテリアデザイン会社に就職し、
仕事先の飲み会で岩田扮する高校時代の先輩で初恋の彼と再
会する。建築士として活躍する彼との再会に彼女は心を躍ら
せるが、彼は事故で車椅子での生活を余儀なくされていた。
しかもその障がいにはさらに悪化の可能性もあった。そんな
境遇に2人は恋愛を躊躇するが…。共演は芦名星、マギー、
須賀健太。他に大政絢、伊藤かずえ、小市慢太郎、財前直見
らが脇を固めている。脚本は2011年公開『君の好きなうた』
などの鹿目けい子、監督も同作の柴山健次。ラヴストーリー
としてはかなり定番ではあるが、劇中には車椅子バスケット
ボールなども登場し、2020年のパラリンピックを控えて良い
タイミングの作品ではあるのだろう。公開は10月5日より、
全国ロードショウ。)

『食べる女』
(「食」と「性」がテーマの筒井ともみ短編集を、作者自ら
脚色し、小泉今日子、沢尻エリカ、前田敦子、広瀬アリス、
山田優、壇蜜、シャーロット・ケイト・フォックス、鈴木京
香共演で映画化。古びた日本家屋の古書店「モチの家」を営
み、食をこよなく愛する女主人の許に、恋や人生に迷える女
たちが夜な夜な集まり、様々なドラマを展開する。今の日本
映画を背負って立つような女優陣だが、相手役にはユースケ
・サンタマリア、池内博之、勝地涼、小池徹平、笠原秀幸、
間宮祥太朗ら、こちらも相応の顔触れだ。話は小泉、沢尻、
前田を中心に進み、各々のドラマは独立だが、巧みな構成で
繋がりも判り易い。男性の観客としてはそんなものかなあ、
と思う展開だが、女性の観客にはそれぞれに思い当たるもの
もあるのかな。いずれにしても女性がしっかりと強く描かれ
ているのも面白かった。監督は2006年10月紹介『手紙』など
の生野慈朗。公開は9月21日より、全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2018年07月15日(日) 1987(世界が愛した料理人、ボルグ、青夏、ダウンレンジ、いのちの、顔たち、リグレッション、太陽の、判決、オズランド、チューリップ)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『1987、ある闘いの真実』“1987”
1987年、全斗煥軍事政権下での民主化運動。その流れを大き
く動かした事件の全容を事実に基づいて描いた作品。
2007年10月紹介『ユゴ|大統領有故』で描かれた1979年の朴
正煕暗殺以降、軍事政権を継承した全斗煥は「防共」の名の
許に政敵への弾圧を強める。それに対しソウルでは学生運動
が民衆も巻き込んだ闘争へと発展する。
そんな中、防共機関の施設内でソウル大生の拷問死が発生。
それを隠蔽しようとする防共機関と、政府発表に疑問を持ち
調査を続行するソウル地検検事。さらに大統領令に反して真
実を掴もうとする報道機関が動き出す。
一方、民主化運動の象徴ともされる金泳三は北に通じたとい
う名目で防共機関からは国賊とされ、追及を逃れてソウルの
寺院に匿われていた。そんな彼の許に、同様の罪状で収監さ
れたジャーナリストからの記事が届く。
その記事の発表に至る経緯が、防共機関の施設に始まり、大
学の構内、ソウル地方検察庁、新聞社の編集部、さらに刑務
所内や寺院の境内など、様々な地点での緊迫のドラマで展開
される。

出演は、2011年5月紹介『チョン・ウチ』などのキム・ユン
ソクと、2017年2月26日題名紹介『トンネル』などのハ・ジ
ョンウ。他にソル・ギョング、ユ・ヘジンなど、主役級の顔
触れが並ぶ。
さらに2017年2月5日題名紹介『お嬢さん』などのキム・テ
リ、2017年7月紹介『隠された時間』などのカン・ドンウォ
ンらの若手も出演。脚本と監督は2014年『ファイ悪魔に育て
られた少年』などのチャン・ジュヌァンが手掛けた。
1970年生まれのジュヌァン監督は当時の運動に参加していた
とのこと。また主演のキム・ユンソクは、拷問死したソウル
大生と同じ高校の2年後輩だそうで、そんな思いが込められ
た作品のようだ。
しかし監督からシナリオを見せられたユンソクは、「映画が
公開されたら自分や監督の身に危険が及ぶ可能性がある」と
も思ったそうで、それでも主演を快諾したという映画に賭け
る信念も感じられる作品だ。
一方、1990年生まれのキム・テリは、当初は「デモで世の中
が変わるものだろうか?」と懐疑的だったそうだが。韓国の
政治変革にはよく登場するロウソク集会に自ら参加して、そ
の心情の理解に努めたそうだ。
2020年の東京オリンピックを2年後に控えて、軍事政権とは
言わなくても次々に強権を発動し、その官邸発表に追随ばか
りのマスコミなど、これを他山の石として良いのかとも思わ
せる状況が描かれる。

公開は9月8日より、東京はシネマート新宿他にて全国順次
ロードショウとなる。

この週は他に
『世界が愛した料理人』“Soul”
(ミシュランの三ツ星をスペイン史上最年少で獲得したとい
う料理人エネコ・アチャが、食の魂を知るために日本の料理
人を訪ねるスペイン製作のドキュメンタリー。登場するのは
東京銀座・京料理「壬生」の石田廣義、登美子夫妻。六本木
「日本料理 龍吟」の山本征治。そして「すきやばし次郎」
の小野二郎。この他、ジョエル・ロブションや服部幸應らが
和食についての解説をしてくれる。作品の中心となるアチャ
は2017年に六本木で「エネコ東京」をオープンさせており、
本作はそれも踏まえての和食探訪なのかな。ただし作品は、
当初“Fusion”の題名で制作されていたようで、それが現題
名になったのはそれなりの想いの変化も考えられそうだ。海
外製作の和食ドキュメンタリーでは、2012年12月紹介『次郎
は鮨の夢を見る』もあったが、日本人には少しこそばゆいか
な、そんな思いもする作品だ。公開は9月22日より、東京は
YEBISU GARDEN CINEMA他で全国順次ロードショウ。)

『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』
                   “Borg McEnroe”
(2014年公開『ストックホルムでワルツを』などのスベリル
・グドナソンと、2013年8月紹介『ランナウェイ/逃亡者』
などのシャイア・ラブーフ共演で、1980年、ウィンブルドン
決勝戦での熱戦を再現した実話に基づくドラマ作品。端正な
風貌と沈着冷静さで「氷の男」と呼ばれたビョルン・ボルグ
は20世紀初の5連覇に挑戦する。それに対するのは、不利な
判定に悪態をつくなど「悪童」の異名を持つジョン・マッケ
ンロー。この水と油のような2人が熱戦を繰り広げる。共演
は、2018年2月11日題名紹介『男と女、モントーク岬で』な
どのステラン・スカルスガルドと、2017年10月1日題名紹介
『ヒトラーに屈しなかった国王』などのツバ・ノボトニー。
また若き日のボルグを実子のレオが演じている。歴史的名勝
負の再現だが、映画ではそこに至る両者の心理なども克明に
描き、映画の醍醐味を感じさせる作品だ。公開は8月31日よ
り、東京はTOHOシネマズ日比谷他で全国ロードショウ。)

『青夏 きみに恋した30日』
(2018年2月11日題名紹介『ラーメン食いてぇ!』などの葵
わかなと、2015年公開『くちびるに歌を』などの佐野勇斗共
演で、南波あつこ原作、講談社「別冊フレンド」連載コミッ
クの映画化。親の都合で夏休みに1人で田舎に住む祖母の家
にやって来た都会育ちの女子高生が、家業を継ぐ決意の一見
クールだが心優しい男子高校生と出会い、夏休み限定の恋を
体験する。過疎の進む田舎町に未来はあるのか、そんなテー
マも内に込めつつ、定番と言えば定番の青春ドラマが展開さ
れる。共演は、2018年6月10日題名紹介『きらきら眼鏡』な
どの古畑星夏と、2017年7月紹介『宇宙戦隊キュウレンジャ
ー』などの岐洲匠。他に白川和子、橋本じゅんらが脇を固め
ている。脚本は、2017年12月3日題名紹介『プリンシパル』
などの持地佑季子。監督は、2017年3月紹介『ReLIFE』など
の古澤健が担当した。公開は8月1日より、東京は新宿ピカ
デリー他で全国ロードショウ。)

『ダウンレンジ』“Downrange”
(2002年3月紹介『VERSUS』などの北村龍平監督がハ
リウッドで撮った最新作。寂れた田舎道をドライヴ中の若者
グループの乗った車が突然パンクし、タイヤ交換をしている
と銃弾が転がり出る。そしてそれを契機のように彼らに向け
た狙撃が始まる。携帯電話は圏外で助けも呼べないまま、車
体だけを遮蔽物にしたサヴァイヴァル劇が展開される。出演
は殆んどが役名が付く役柄は初めての新人たちだが、途中に
出てくる家族の母親役は、元ミス・インターナショナル日本
代表で2012年の世界一に輝いた吉松育美が演じている。彼女
は現在ハリウッドで女優、スタントパースンとしても活躍し
ているようだ。北村監督の前作は2014年の『ルパン三世』に
なるようだが、同時期に海を渡った日本人監督のほとんどが
帰国した中では、唯一ハリウッドに居を構えて活動を続けて
おり、これからも応援したいものだ。公開は9月15日より、
東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『いのちの深呼吸』“The Departure”
(2013年の“After Tiller”という作品で、2015年にNews &
Documentary Emmy Awardsを受賞しているラナ・ウィルスン
監督が、岐阜県大禅寺で住職を務める根本一徹の姿を追った
ドキュメンタリー。住職は、元々が寺の公募に応募して職に
就いたという人だが、自分自身に照らして人の話を聞く内、
何時しか自殺志願者の最後の砦のような存在になって行った
ようだ。しかしそれらの訴えを聞くことが彼自身を苦しめ、
そのストレスによって健康が損なわれてしまう。そんな住職
の姿を3年半に亙って追った作品。ただ作品の主旨が住職自
身なのか、それとも住職の行っている活動なのか、その辺が
はっきりとせず。観終って何かモヤモヤとしたものが残って
しまった。実際に作品の中では住職の健康問題も解決せず、
相談に来た人が救われたのかどうかも判然としない。それで
も良いということなのだろうが…。公開は9月8日より、東
京はポレポレ東中野他で全国順次ロードショウ。)

『顔たち、ところどころ』“Visages Villages”
(1955年に長編デビュー作を発表、「ヌーヴェルヴァーグの
祖母」とも呼ばれる1928年生まれのアニエス・ヴァルダが、
参加型アートプロジェクト「Inside Out」で知られる34歳の
アーティスト、JRと共同監督を務めたロードムーヴィ風の
ドキュメンタリー。JRの活動は大きなカメラの絵の付いた
トラックに機材を積んでフランスの田舎を巡り、そこの住人
たちを巻き込んでアート作品を制作するというもので、その
様子がヴァルダとJRの会話を絡めて描かれて行く。それは
アートの記録としては面白いし、会話の中にはヌーヴェルヴ
ァーグ当時の思い出話などもあって興味深いものだが…。肝
心なところが僕には少し物足りなかったかな? でも本作は
2017年のカンヌ国際映画祭での最優秀ドキュメンタリー賞な
ど数々の受賞を重ねてはいるようだ。公開は9月15日より、
東京はシネスイッチ銀座、アップリンク渋谷他にて全国順次
ロードショウ。)

『リグレッション』“Regression”
(2001年12月紹介『アザーズ』などのアレハンドロ・アメナ
ーバル監督による2015年作で、1980年代から90年代初頭に掛
けてアメリカで突然巻き起こった悪魔崇拝の顛末を巡る実話
に基づくとされる作品。主人公の刑事は、少女が父親の虐待
を告発した事件を取り調べることになるが、当の少女も訴え
られた父親もどこか記憶が曖昧だった。そこで著名な心理学
者に協力を仰いだ刑事は、彼らの記憶を辿る内に事件が単な
る家庭内暴力ではないことに気付き、さらに町に秘められた
恐ろしい闇に迫って行くが…。出演はイーサン・ホーク、エ
マ・ワトスンとデヴィッド・シューリス。アメナーバル監督
の作品では『アザーズ』もかなりオカルティックだったが、
その前の『オープン・ユア・アイズ』が強烈だった。そんな
監督の新作はオカルト的ではあるがちょっと捻った内容で、
これも監督の頭の中の世界なのだろうか。公開は9月15日よ
り、東京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『太陽の塔』
(大阪府吹田市の千里万博公園に今も屹立するEXPO'70・大
阪万博のテーマ館の一部を基に、その制作者である芸術家、
岡本太郎について描いたドキュメンタリー。僕自身が大阪万
博には何度か訪れ、思い入れもあったので本作の題名には心
が騒いだ。しかし作品は前半こそ塔の建設に纏わる話題で綴
られるが、後半は芸術家本人の思想の検証などに終始し、し
かもそのほとんどが岡本氏と面識があったかどうかも不明な
人々の勝手な想像による発言の羅列で、作品の意図が判らな
くなった。勿論、岡本氏はこのような作品の対象になるべき
芸術家だし、塔が彼の代表作の一つであることは間違いない
が、本作の内容を考えると題名はむしろ『太陽の塔/明日の
神話』ではなかったか。そしてそれをやるならば、塔の建設
の話などは省いて、もっと真剣に人物論を描くべきだろう。
これではどちらもが物足りない。公開は9月29日より、東京
は新宿シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)

『判決、ふたつの希望』“قضية رقم ٢٣”
(2018年のアメリカアカデミー賞で、レバノン映画としては
初の外国語映画賞にノミネートされた作品。レバノンは中東
の中でもキリスト教徒が多い国とされるようだ。そんな社会
環境でキリスト教徒のレバノン人男性と、パレスチナ難民の
男性との口論が裁判沙汰となり、それが全国的な事件に発展
する。監督は、過去にはタランティーノ作品に関ったことも
あるというジアド・ドゥエイリ。本作が4作目の物語は監督
の体験に基づいているとのことだ。しかし宗教対立や難民問
題など、正直傍目にはかなり複雑な背景を伴う作品で、理解
するには相当の想像力を必要とする。しかも最後に語られる
事件のことなどは、僕らには理解しろと言われてもなかなか
難しいもので、そういうことなのだと納得するしかない。そ
れでもその重大さなどは充分に理解できるもので、ベネチア
国際映画祭などでの受賞も頷けたが。公開は8月31日より、
東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国順次ロードショウ。)

『オズランド 笑顔の魔法おしえます。』
(2012年9月紹介『パーティは♨銭湯からはじまる』などの
波瑠と、2014年10月紹介『ハーメルン』などの西島秀俊共演
で、地方の遊園地を舞台にしたヒューマンコメディ。主人公
は憧れの男子先輩の後を追って一流ホテルチェーンに就職し
た大卒女子。ところが受け取った辞令は系列の地方遊園地へ
の配属だった。それでもそこで優秀な成績を収めれば、希望
の部署への異動が叶うと知り張り切るが…。そこにはかなり
個性的な従業員たちがおり、特に直接の上司は次々に企画を
成功させ「魔法使い」の異名をとる人物だった。共演は岡山
天音、橋本愛。他に濱田マリ、柄本明らが脇を固めている。
原作は『海猿』などの小森陽一。ちょっと毛色の違った作品
だ。脚本は、2017年12月紹介『レオン』などの吉田恵里香。
監督は、テレビ出身で『劇場版SP』などの波多野貴文が手
掛けた。公開は10月26日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他
で全国ロードショウ。)

『チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛』
                    “Tulip Fever”
(フェルメールの絵画に着想を得たとされるデボラ・モガー
原作ベストセラー小説を、『ブーリン家の姉妹』のジャステ
ィン・チャドウィック監督と『恋におちたシェイクスピア』
のトム・ストッパード脚本で映画化した作品。世界最古の経
済バブルとされる17世紀の「チューリップ投機」を背景に青
年画家と豪商の若き妻の道ならぬ恋。それに巻き込まれた漁
師と小間使いの女性。彼らの運命がバブルに翻弄される。出
演は、2017年2月12日題名紹介『光をくれた人』などのアリ
シア・ヴィキャンデルと、2018年2月紹介『ヴァレリアン』
などのデイン・デハーン。さらに2015年公開『名もなき塀の
中の王』などのジャック・オコンネル、同々『シンデレラ』
などのホリデイ・グレインジャー。他にジュディ・デンチ、
トム・ホランダーらが脇を固めている。内容は往時の庶民の
生活が凝縮されたような感じで実に面白かった。公開は10月
6日より、東京は新宿バルト9他で全国ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2018年07月08日(日) マルセルの夏/マルセルのお城、かごの中の瞳(ブッシュウィック、ペギー・G、MEG、春画と日本人、愛しのアイリーン、スペースバグ)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『プロヴァンス物語 マルセルの夏』
               “La gloire de mon père”
『プロヴァンス物語 マルセルのお城』
               “Le château de ma mère”
1895年生―1974年没のフランスの小説家、劇作家、映画作家
であるマルセル・パニョルが、1957年に発表した自伝『少年
時代の思い出』を、1961年『わんぱく戦争』などのイヴ・ロ
ベールの脚色、監督により、1990年に2部作として映画化し
た作品。それが4Kリマスターにより再公開される。
その第1部で、小学校教師の父親とお針子の母親を両親に持
つマルセルは、幼い頃から読み書きが出来、学校から名門校
への推薦枠に選ばれる。だが勉強が厳しくなり、母親はあま
り賛成ではないようだ。
そして弟と妹も生まれた9歳の夏休み。一家は伯父夫妻と共
にラ・トレイユ(プロヴァンス)の自然の中に建つ家へとや
って来る。そこで野山で暮らす少年リリーと出会ったマルセ
ルは、大自然の素晴らしさを体感する。
その一方、父親も初めて手にした旧式の猟銃で大きな山鳥の
狩猟に成功するなど自然を満喫して行ったが…。やがて夏休
みも終わりの時を迎える。
そして第2部では、クリスマスと復活祭の休暇にもラ・トレ
イユにやってきた一家。そこでマルセルは少し異様な初恋と
失恋も体験する。それでも母親は毎週末のラ・トレイユ行き
を提案し、ちょっとした策略でそれを実現してしまう。
しかし列車の終着駅から徒歩4時間の道のりは幼い子供もい
る一家にはかなり過酷だった。そんな時、父親の教え子だっ
た運河の管理人に近道を教わるが…。

出演は、マルセル役のジュリアン・シアマーカと、リリー役
のジョリ・モリナス。2人はこの2作以外にはフィルモグラ
フィーが見つからなかった。他には2006年『裏切りの闇で眠
れ』などのフィリップ・コーベール、2007年『屋敷女』など
のナタリー・ルーセルらが脇を固めている。
また第2部には、2003年2月紹介『ロスト・イン・ラ・マン
チャ』などのジャン・ロシュホールが出演している。
原版は1991年の夏と年末に日本でも公開されているが、前編
は好評だったが、後編を観たという人が意外と少なかった。
それは後編を観ると確かに内容がかなりシビアで、少し心が
痛む作品のせいかもしれない。
しかしこれは20世紀初頭の現実なのだし、観客はその悲しみ
もしっかりと受け止めるべきものだろう。海外では第2部の
ポイントを高くしている紹介も多いようだ。
因に原作者の遺体はラ・トレイユの市営墓地に、両親と弟、
妻と共に埋葬されているが、その傍にはリリーの墓もあるそ
うだ。

公開は8月4日より、東京はYEBISU GARDEN CINEMA他にて、
2作同時ロードショウとなる。

『かごの中の瞳』“All I See Is You”
2017年4月9日題名紹介『カフェ・ソサエティ』などのブレ
イク・ライヴリーと、2018年5月紹介『ウィンチェスターハ
ウス』などのジェイスン・クラークの共演で、かなり捻りの
利いた夫婦関係のドラマ。
主人公は幼い頃に両親と同乗した交通事故で視力を失った女
性。夫の仕事の都合でタイで暮らしているが、視覚障害の上
に言葉も通じない生活はかなり大変そうだ。それでも彼女は
懸命に生きている。
そんな時、医師の診断で角膜移植をすれば視力回復の可能性
のあることが判り、しかも早速に手術のチャンスが訪れる。
そして手術は成功し、視力も徐々に回復し始めるが…。
最後に見たのは事故で死んだ両親の顔だった彼女は、視力の
回復に喜びを隠せない。しかしそんな彼女の周囲で様々な出
来事が起こり始める。その一方で彼女はギターを習い、ある
思いを込めた歌を作ろうとする。

共演は、2013年『フルートベール駅で』などのアナ・オライ
リー、2014年6月紹介『アイ・フランケンシュタイン』など
のイヴォンヌ・ストラホフスキー、2016年12月紹介『汚れた
ミルク』などのダニー・ヒューストンらが脇を固めている。
脚本と監督は、2014年3月紹介『ディス/コネクト』などの
マーク・フォースター。製作も兼ねての作品だ。
視力の回復して行く様子が視覚効果を駆使して描かれ、それ
は観客にも一緒に体験できるような感覚になっている。その
ヴィジュアルは、最近のCGI一辺倒のVFXとはちょっと
違った感覚で、少し懐かしさも感じてしまった。
事故で失った視力を手術で取り戻すという展開には、1977年
に大林宣彦監督が手塚治虫の原作を映画化した『瞳の中の訪
問者』を思い出したが。本作ではより現実的に夫婦の心のす
れ違いを描く。それはかなり際どい描写も含むものだ。
実は本作の試写は先週紹介のタイミングで行われたが、邦題
などの情報制限があり紹介を遅らせた。その先週分ではシア
ーシャ・ローナン主演の『追想』を題名紹介しているが、ど
ちらも夫婦関係のちょっとした行き違いを描いたものだ。
両作とも少し特殊なシチュエーションではあるが、夫婦間の
信頼など、基本的な部分は普遍的なものであり、現代にこう
いう機微を映画が描くことの意義も感じた。
それと本作では結末に多少議論を呼びそうだが、これも先週
題名紹介の『タリーと私の秘密の時間』と同様に、鑑賞した
後でいろいろ話し合って欲しいもの。さらにタイ、スペイン
にロケした風物も楽しめる作品になっている。

公開は9月より、東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国順次
ロードショウとなる。

この週は他に
『ブッシュウィック 武装都市』“Bushwick”
(2007年9月紹介『ヘアスプレー』などのブリタニー・スノ
ウと、2017年5月紹介『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシ
ー』などのデイヴ・バウティスタ共演で、見慣れた街が侵略
者に襲われる恐怖を描くサヴァイヴァルアクション。主人公
が祖母の住むNY近郊の地下鉄駅に降りた時、ホームには人
影がなかった。それでも気にせず改札口に向かう主人公だっ
たが、そこに火だるまの人間が転がり込んでくる。そして恐
る恐る出口から覗いた主人公の目に入ったのは、街中で繰り
広げられる戦闘シーンだった。それでも祖母の家に向かう決
意を固めた主人公は途中で屈強な男と出会い、徐々に事態も
判明してくるが…。物語は架空イヴェントものとして、それ
なりに巧みに作られている。原案と監督は、2015年12月紹介
『ゾンビスクール!』などのジョナサン・ミロとカリー・マ
ーニオン。公開は8月11日より、東京は新宿シネマカリテ他
で全国順次ロードショウ。)

『ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪』
           “Peggy Guggenheim: Art Addict”
(美術館で知られる富豪一族の女性が、その展示の中心とな
る現代美術をコレクションするに至る軌跡と、芸術家たちと
の交流を描いたドキュメンタリー。金持ちの芸術愛好なんて
所詮は鼻持ちならないものだが。本作の場合はそのスケール
が違うし、さらに彼女が居なければ陽の目を見なかったかも
しれない芸術家を見い出したことに関しては、ある種の痛快
さも感じる不思議なものになっている。その彼女に見い出さ
れた芸術家では、2003年に映画化されたジャクスン・ポロッ
クが有名なようだが、本作によるとオスカー俳優ロバート・
デ・ニーロの両親もその恩恵に与っていたそうで、俳優自身
がその様子を語る姿には映画ファンとして親しみを感じさせ
るものにもなっていた。作品は伝記用に生前録音されて長く
行方不明だったインタヴューに基づいており、中には新たな
認識もあるようだ。公開は9月上旬より、東京は渋谷のシア
ター・イメージフォーラム他で全国順次ロードショウ。)

『MEGザ・モンスター』“The Meg”
(アメリカのSF作家スティーヴ・オルテンが1997年に発表
したデビュー作で、その後シリーズ化もされている長編小説
の映画化。古代に生息した巨大鮫メガドロンがある事情から
現代に出現しパニックを引き起こす。発端は中国沖合の公海
上に作られた海洋研究施設。そこでは世界最深とされるマリ
アナ海溝の海底の下にさらに水域があるという仮説の許に、
その水域を探査する研究が進んでいた。そして遂に探査艇が
水域への侵入に成功するが、それは古代よりそこに生息して
いたメガドロンを外部におびき出すことになってしまう。し
かもテリトリーを犯された巨大鮫は人類に襲い掛かる。出演
はジェイスン・ステイサム、リー・ビンビン。他にルビー・
ローズ、TVシリーズ『ヒーローズ』のマシ・オカらが脇を
固めている。監督は、2004年12月紹介『ナショナル・トレジ
ャー』などのジョン・タートルトーブ。これも巨大生物もの
の一環かな? 公開は9月7日より、全国ロードショウ。)

『春画と日本人』
(2013年10月から2014年1月にロンドンの大英博物館で開催
された「大春画展」。その巡回展の日本での開催実現を巡る
ドキュメンタリー。イギリスでの展示にも「16歳未満保護者
同伴」の規定が設けられたそうだが、日本ではそれ以前に公
立の施設では開催そのものが拒否されたそうだ。それは当初
は好意的に進むものの、最後は何処かの反対で拒絶されると
いう。最終的には細川護熙氏が運営する永青文庫美術館で開
催されたが、そこに至る状況が描かれる。一方、本作では春
画そのものに対する研究者らの解説も実物に則しながら丁寧
に行われ、そこでは春画に対する認識を新たにすることもで
きた。正直には外国映画で日本人男性が‘Oh! UTAMARO’と
称される訳も明白に理解できたもの。実に興味深い作品だ。
なお本作は特別に上映を見せて貰ったが、プレス資料等はな
く、映画サイトにも情報は出ていない。公開の予定はあるよ
うなので、その時に改めて紹介したいものだ。)

『愛しのアイリーン』
(地方の農村を舞台にフィリピン妻を迎えた農家の跡取りを
巡る騒動を描いた作品。主人公は、畑仕事は老いた母親に任
せ、現金収入のあるパチンコ屋で働いている40代男性。同僚
の女性に食事に誘われ有頂天になるが、本気は困ると宣告さ
れる。そんな息子の不甲斐なさに業を煮やした母親がついに
詰ってしまうと、息子はふいと居なくなる。その留守中に認
知症だった父親が死去し、その葬儀の最中に息子が帰ってく
る。しかもフィリピン妻を連れて…。というお話だが、ここ
からの展開がかなり過激で、正直唖然としてしまった。でも
これがフィクションの面白さだし、こんなこともあるかな?
といった感じのお話だ。出演は、安田顕とフィリピン女優の
ナッツ・シトイ。他に木野花、伊勢谷友介、田中要次、品川
徹らが脇を固めている。脚本と監督は、2016年2月紹介『ヒ
メアノ〜ル』などの𠮷田恵輔。公開は9月14日より、東京は
TOHOシネマズシャンテ他で全国ロードショウ。)

『スペースバグ 7話〜12話』
(6月3日に紹介した作品の続き。前回宇宙ステーションを
辛くも脱出したコオロギ、クモ、ネムリユスリカの3匹は宇
宙連絡船で一路地球を目指すが、宇宙嵐に遭遇。操縦不能の
まま砂漠の惑星に不時着する。そこで破壊された宇宙船を発
見し、さらにミツバチのエレンと出会う。しかしその星には
3匹の後を追うカエルたちも辿り着いていた。こうして砂漠
の惑星での新たな冒険が始まる。どうもシリーズ全体のコン
セプトが6話ごとに新たな星に辿り着くようで、環境の違う
中での異なる冒険が展開される。話は様々なギミックも登場
してそれなりに楽しめるものだ。ただ今回の展開では、11話
と12話の間で話が少し飛んでいる感じで、それはまあ前後の
状況から補間することは出来るが、少し気になった。出来れ
ばこの先も紹介したいものだが、どうもサンプルDVDの作
成が順調でないようで、その場合はご容赦願いたい。公開は
7月8日より、東京はMXテレビで放映中。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。



2018年07月01日(日) 教誨師(タリーと私の秘密の時間、バンクシーを盗んだ男、追想、19歳の肖像、詩季織々、マイナス21℃、ディヴァイン・D、祈り)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『教誨師』
2018年2月に急逝した俳優の大杉漣が主演と共に初エグゼク
ティヴ・プロデューサーも務め、2009年12月紹介『ランニン
グ・オン・エンプティ』などの佐向大の脚本・監督で、死刑
囚にキリスト教の教えを説く牧師の姿を描いた作品。
巻頭では死刑囚に対する様々な規定などが紹介され、その中
で親族の他に主人公のような宗教関係者が面会出来ることが
明示される。そして映画は、拘置所内の一室で刑務官の立ち
会いの許、死刑囚と向き合う主人公が描かれて行く。
その主人公が相対するのは、暴力団の元組長という男や、世
間に拗ねてしまっているような男。またホームレス風の男。
さらに浪速のおばちゃん風の女性まで、様々な連中との面接
が続いて行く。
その中にはいつ刑を執行されるか判らない恐怖からか、妄想
を抱き始めているような人物も登場する。そんな連中をなだ
めたり、時には声を荒げたりもしながら宗教心を目覚めさせ
ようとする主人公が描かれて行く。
それと同時に、主人公がその仕事を始めるに至った自身の事
情も描かれ、そこには少しファンタスティックな味付けもな
される。その一方で、現実的な死刑の執行の手順なども紹介
される。

共演は、古舘寛治、光石研、烏丸せつこ。さらに舞台演出家
でもある玉置玲央。マーティン・スコセッシ監督の「沈黙−
サイレンス−」にも出演の五頭岳夫。佐向監督のデビュー作
に出演の小川登らが様々なキャラクターの死刑囚を演じる。
題名からは、最後に死刑囚が改心するような感動的な物語を
想像したが、脚本も手掛けた佐向監督はそのような生半可な
作品は指向せず、ある意味死刑制度そのものに向き合うよう
な作品をかなりドライな演出で描いている。
その制作態度は上記の『ランニング…』の紹介文を読み返し
ても、その頃から全く変っていないようだ。その才能を大杉
が見い出し、自らのプロデュースで本作を実現させたものだ
が、この顔合わせが1作で終ってしまうことも残念だ。
なお大杉は生前、熱烈な徳島ヴォルティスのサポーターであ
ったことでも知られるが、本作ではそこかしこにサッカーネ
タが振られていることも嬉しくなった。これは2017年12月紹
介『ホペイロの憂鬱』の脚本も手掛けた佐向監督のお蔭でも
あるかもしれないが、改めて大杉氏の冥福を祈りたくもなる
ものだった。

公開は10月6日より、東京は有楽町スバル座他にて全国順次
ロードショウとなる。

この週は他に
『タリーと私の秘密の時間』“Tully”
(2007年『JUNO』の脚本でオスカー受賞のディアブロ・
コーディと、監督賞の候補になったジェイスン・ライトマン
が、2012年2月紹介『ヤング≒アダルト』のシャーリズ・セ
ロンを再び主演に迎えた、かなり不思議な感覚のある作品。
主人公は仕事に家事に育児に完璧主義と揶揄されそうに働く
女性。しかし3人目が生まれ、過負荷状態となる。そこに夜
だけのベビーシッターとして若い女性がやって来る。彼女も
また全てを完璧にこなす女性だったが、さらに主人公の悩み
の相談相手としても優れていた。こうしていろいろな負担か
ら解放される主人公だったが、そこにはある秘密が隠されて
いた。この結末がいろいろ議論の的となる作品だが、僕はそ
の前の旧友との再会や、女性の自己紹介にもヒントがあるよ
うに感じた。共演は2017年10月紹介『ブレードランナー』な
どのマッケンジー・デイヴィス。公開は8月17日より、東京
はTOHOシネマズシャンテ他で全国順次ロードショウ。)

『バンクシーを盗んだ男』“The Man Who Stole Banksy”
(正体不明のグラフィティアーティストが、2005年と2007年
にヨルダン川西岸地区のパレスチナ側の分離壁に残した作品
について取材したドキュメンタリー。実は分離壁に描かれた
作品の一部がパレスチナ人には不評で、その壁面を切り出し
て持ち去った男がいる。それが本作の題名にもなっているも
のだが、映画ではグラフィティアートをイタリアの絵画修復
師が壁から分離して保存する手法なども紹介され、ストリー
ト芸術の全般に関るような作品にもなっている。ただ本作で
はそのいずれもが少し掘り下げが足りない感じで、全体的に
は物足りない感じもした。というかそれらがどれも僕には興
味深かったもので、それらの個々についてもう少し詳しく知
りたくもなったところだ。でもそれをやったら専門的過ぎて
つまらないのだろうな。まあ本作はヴァラエティ的には面白
いものだった。公開は8月4日より、東京はヒューマントラ
ストシネマ渋谷他で全国順次ロードショウ。)

『追想』“On Chesil Beach”
(2007年12月紹介『つぐない』でオスカー候補になったシア
ーシャ・ローナンが、再び同じ原作者イアン・マキューアン
のブッカー賞最終候補作に挑戦した作品。因に原作者は前作
に続いて本作でも製作総指揮を務めている。1960年代のイギ
リスを舞台に、新婚旅行で海辺のホテルにやって来た若いと
いうより、性に対して幼い男女の行き違いが描かれる。前作
でローナンが演じたのも幼さ故の過ちを犯す少女だったが、
本作でも彼女は幼さ故に陥穽に陥ってしまう。実は原作の発
表が2007年なので、これは前作の少女のその後なのかもしれ
ない。そして映画では過去の経緯などがフラッシュバックで
挿入され、さらにエピローグが描かれるのも前作に似た構成
になっている。共演は2017年12月17日題名紹介『ベロニカと
の記憶』などのビリー・ハウル。監督はテレビ出身で、本作
が映画デビューのドミニク・クック。公開は8月10日より、
東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国順次ロードショウ。)

『夏、19歳の肖像』“夏天十九歳的肖像”
(2013年11月紹介『光にふれる』などのチャン・ロンジー監
督が、ミステリー作家・島田荘司の1985年発表同名原作を、
舞台を台湾に移して映画化。交通事故で入院中の若者が病室
から見掛けた隣家の邸宅に住む女性に一目惚れし、望遠鏡を
入手して観察を続けるが…。その眼前でとんでもない事件が
発生する。やがて退院した若者は友人らと女性の周辺を調べ
るが。出演は2017年6月4日題名紹介『レイルロード・タイ
ガー』などのホアン・ズータオ。共演は2013年にドルフ・ラ
ングレン主演のSFアドヴェンチャー“Legendary”に出演
のヤン・ツァイユー。他にジャ・ジャンクー監督のカンヌ映
画祭・脚本賞受賞作『罪の手ざわり』などのリー・モンらが
脇を固めている。映画の発端からはヒッチコックの名作『裏
窓』を想起するが、当然物語は別物。本作では特に青春ドラ
マの味付けが巧みだった。公開は8月25日より、東京はシネ
マート新宿他で全国順次ロードショウ。)

『詩季織々』
(『君の名は。』を手掛けたアニメーション制作会社コスミ
ック・ウェーブ・フィルムが、中国の会社と組んで制作した
「衣食住」を各テーマとする3作品からなるオムニバス。監
督は中国の易小星と日本の竹内良貴、それに企画者でもある
李豪凌。北京、広州、上海を舞台に風景は変わるけれど、普
遍の青春ドラマが展開される。先週ピクサーアニメーション
を観た後で本作を観ると、世界で評価される日本のアニメー
ションの実力が理解できる。見方を変えると実写でもできる
とも思えるが、アニメーションのオブラートが観客の心に沁
みる感性を生み出している。そんなことに改めて気付かせて
くれる作品だった。特に「食」がテーマの最初の作品「陽だ
まりの朝食」は、登場するビーフンが日本の感覚とはちょっ
と違っているのだけれど、逆に印象に残った。他は「小さな
ファッションショー」と「上海恋」。公開は8月4日より、
東京はテアトル新宿他で3週間限定ロードショウ。)

『マイナス21℃』“6 Below: Miracle on the Mountain”
(スノーボードで遊覧滑走中に立ち入り禁止区域に侵入し、
軽微な装備で8日間、極寒の山中を彷徨い生還した元アイス
ホッケー選手の実話に基づくサヴァイヴァルを描いた作品。
主人公は禁止区域の看板を見ながらそこに入って行くが、そ
こでは天候によりホワイトアウトが生じるなど、想像以上の
危険が待ち構えていた。しかも携帯電話は圏外、さらに狼の
群れも現れる。そんな中で雪洞を掘ったり、水分摂取はビニ
ール袋に入れた雪を体温で溶かすなど、基本に忠実な行動が
彼の命を救う。とは言えこれは壮絶さでは究極だ。出演は、
2018年2月11日題名紹介『Oh Lucy!』などのジョシュ・ハー
トネット、2008年5月紹介『帰らない日々』などのミラ・ソ
ルヴィノ。それに2015年『ゾンビーワールドへようこそ』な
どのセーラ・デュモント。監督は2014年『ニード・フォー・
スピード』などのスコット・ウォー。公開は7月21日より、
東京は新宿シネマカリテ他で全国順次ロードショウ。)

『ディヴァイン・ディーバ』“Divinas Divas”
(1960年代、軍事政権下のブラジルでドラァグクイーンカル
チャーの黎明期を支えた人々の姿を描くドキュメンタリー。
独裁体制下では当然のように迫害される性的マイノリティた
ちが、女装により芸能の才を発揮させることで自らの生きる
道を見つけて行く。そんな彼らがデビュー50周年を記念して
再結集しライヴを敢行する。作品は久々のパフォーマンスに
悪戦苦闘するクイーンらの練習風景と、60年代の貴重な記録
映像によって綴られる。監督は、60年代から彼らに活動の場
を与え続けたナイトクラブのオーナーの孫娘で、女優として
も活躍するレアンドラ・レアル。幼少期に舞台の袖から観て
きたクイーンたちへのリスペクトを込めて描かれた作品だ。
映画に登場するパフォーマンス自体は、いわゆるキャバレー
芸程度で大したものではないが、彼らの生き様には見るべき
ものがある。公開は9月1日より、東京はヒューマントラス
トシネマ渋谷他で全国順次ロードショウ。)

『祈り』“ვედრება/Мольба”
(1967年、ジョージアがソビエト連邦の構成国だった時代に
同国の名匠テンギズ・アブラゼ監督によって作られた作品。
因に原題はフィルム上ではロシア語だが、母国のジョージア
語も表記しておく。物語は19世紀ジョージアの国民的作家ヴ
ァジャ・プシャベラの叙事詩を基に、ジョージア北東部の山
岳地帯に暮らすキリスト教徒とイスラム教徒の因縁の対決を
描く。そして敵味方を超えた人間の尊厳と寛容が描かれる。
映像はモノクロームで、内容は難解な作品だが、日本文化を
好み1994年に他界した監督は生前に日本人なら理解できると
思っていたようだ。確かに作品には初期の黒沢作品や小津作
品を思わせる味わいもある。その本作は製作から51年を経て
日本初公開となる。なお僕は都合により本作しか観ていない
が、上映は「祈り」3部作とされる1976年の『希望の樹』、
1987年の『懺悔』と同時に行われる。公開は8月4日より、
東京は岩波ホール他にて全国順次ロードショウ。)
を観たが、全部は紹介できなかった。申し訳ない。
なおこの週は他に2作品を観ているが、諸般の事情により、
紹介は次週以降に行うことにする。


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井口健二