井口健二のOn the Production
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2015年02月22日(日) THE LAST GENESIS 〜40年の軌跡と奇跡〜、大津波3.11未来への記憶

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『THE ALFEE 40th Anniversary Film
        THE LAST GENESIS 〜40年の軌跡と奇跡〜』
今年1月紹介『TM NETWORK THE MOVIE』に続くLiveSpireで
公開されるミュージシャンを追ったドキュメンタリー。実は
2月21日に公開された作品だが、その前日の20日にようやく
本編を観ることができた。
内容は、前半の部分ではTHE ALFEEの初期からの歴史がその
時々のライヴの記録映像や楽曲と共に簡潔に紹介され、さら
に2013年バンド結成40周年を経て、後半は2014年のデビュー
40周年記念ツアーの模様が収められている。
その前半は時代ごとにテーマが付けられており、それは僕の
ようなファンではない者にも判り易い構成だった。さらに何
となく時代背景も感じられ、この種のドキュメンタリーでは
定番かもしれないが巧みな構成だった。
そして後半では2014年のツアーの様子が綴られて行くが、こ
こでは彼らを襲うアクシデントなども発生し、なかなかの展
開が用意されていた。これは正直ドキュメンタリーとしては
美味しい展開と言えるものだ。
またこの間には、彼らに所縁の人々へのインタヴューも挿入
され、研ナオコ、所ジョージから、加山雄三、さだまさし、
小室哲哉、槇原敬之、高橋みなみ、さらにはふなっしーまで
ヴァラエティに富んだ顔触れが登場する。
その一方で、彼らのツアーを支える裏方へのインタヴューも
行われ、照明や音響など長年に亙って彼らの舞台を作り続け
てきた人々の発言には、そこから後に出てくる舞台面を見る
目が変ってしまうくらいのものにもなっていた。
『TM NETWORK』の時にも書いたように僕自身は音楽には明る
くないので、今回も家人に鑑賞を付き合って貰ったが、元々
THE ALFEEのファンでもある家人も本作の出来には満足して
いたようだ。
僕自身は、純粋にドキュメンタリー作品として評価するが、
それがファンの目にどう映るかは判らなかったもので、その
点の評価は家人に準じることにする。因に鑑賞はファン向け
の特別上映会だったが、場内の雰囲気も良好だった。
ただ映画ファンとしては、所ジョージへのインタヴューで、
メムバーの坂崎幸之助が共演した1979年『下落合焼とりムー
ビー』の話が出ると期待したが、この話題はNGなのかな。
その点だけが少し残念だったところだ。

公開は2月21日から、東京はお台場シネマメディアージュ、
新宿バルト9ほか全国35館で上映中。その後も順次拡大予定
だが、各館の上映期間は2週間程度の限定のようだ。

『大津波3.11未来への記憶』
2011年3月11日に起きた大震災及び大津波、その爪跡を3D
カメラで記録したドキュメンタリー。
4年前の未曾有の大災害に関連してはもう何本のドキュメン
タリーを観たことか。スマホやデジカメなど動画撮影が簡便
になって記録される映像も多岐で豊富になっている。そんな
中での大災害はドキュメンタリーの格好の題材だった。
しかしそんなドキュメンタリーを何本も観てきて、正直には
どれも同じに観えてしまっている、そんな気分に捉われてい
ることも事実だったと言える。ましてや途中からは、関心が
福島に向き過ぎている感じもしていた。
勿論、僕自身が反原発の立場にいるから、福島に拘る問題に
は関心も向いてしまうが、それと同時に大津波での被災の跡
がどうなっていたか、それが伝わってきていなかった。そこ
が本作を観て一番に感じたところだった。
本作はそんな大津波での被災の爪跡を、2011年4月から3年
以上に亙って記録し続けたものだ。しかもそれが3Dという
特別な映像で描かれている。それは今までに観た2D映像と
は比べられない質感と現実感を伴っていた。
そんな中で語られるのは、目の前で失われた家族への追慕と
その思いを未来へ語り継いでいく覚悟だ。そんな被災者への
インタヴューが、最初は瓦礫ばかりが目立つ中から、徐々に
整地されて行く風景と共に3Dで描かれる。
それは改めて見ていても胸につらく突き刺さるものだし、そ
こに表される人間の姿は永遠に心に残り続けるものとして受
け止められた。そしてそれを語る人々の覚悟もひしひしと伝
わってくるものだった。
その一方で本作では、警察や海保や自衛隊などの公的な記録
も紹介される。そこでは津波が襲う中を命令を受けて発進し
て行く艦船の様子も伝えられ、その凄まじい緊迫感には正し
く現実を目の当たりにする感じもした。

脚本と監督は、2012年9月紹介『天のしずく』の河邑厚徳。
人間の営みを見つめるドキュメンタリストによる劇場公開は
第2作となるようだ。
ところで試写会の会場には本作の撮影監督で総合プロデュー
サーでもある智片通博氏が来場していて、上映後に話す機会
があった。氏はドキュメンタリーは「3Dで撮るべし」とい
う信念の持ち主で、それは僕も同感のものだ。
実はこの後にヨーロッパの山岳地帯を空撮したドキュメンタ
リーを観ていて、その中の何カットかが凹凸を俄かに把握で
きず戸惑ったもので、その点からもドキュメンタリーは3D
が適切と再確認した。
ただ氏は、昨年12月紹介した『ヴァチカン美術館』に関して
は「あそこまでやるのは…」という意見だったが、本作にお
いて記録映像を3D化するのは論外としても、切り抜きで挿
入される絵画は3D化しても…とは思ったところだ。

公開は3月10日に「国連防災世界会議」(仙台)と、3月11日
に「阪神・淡路大震災語り部のつどい」(神戸)でイヴェント
上映の後、一般公開は3月14日から仙台シネ・ラヴィータ、
神戸OSシネマズハーバーランド。さらに21日からは東京の
ヒューマントラストシネマ渋谷他で全国順次上映となる。



2015年02月15日(日) パパ遺伝子組み換えってなぁに?、マッド・ナース/ブライド・ウェポン/ニンジャ・アベンジャーズ

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』“GMO OMG”
日本では使用表示が義務付けられている遺伝子組み換え作物
に関して取材したドキュメンタリー。
原題のGMOとはgenetic modified organisms(遺伝子組み
換え生物)の略称で、本来的に作物に関してはgenetically
modified cropsの方が正しいものだが、合衆国を含め世界的
にもGMOの略称が通っているようだ。
そんなGMOに関して本作では、監督の息子が種子マニアと
いう設定でGMOに由来する種子の現状が紹介され、GMO
の巨大企業モンサント社が同社の製品を巡って世界中で展開
している所業などが報告される。
その一方で、GMOによって駆逐されそうになっている世界
の種子の保存を行っている組織などの紹介や、ノルウェー領
スヴァールバル諸島にある世界種子貯蔵庫の現地取材なども
織り込まれている。
ただ、作品全体としてはテーマが多岐に亘り過ぎてちょっと
散漫な印象かな。特にGMOの問題点に関しては、2009年に
フランスで行われたという実験の話が紹介されるが、これは
何となく歯切れが悪い感じがした。
因にこの実験に関しては、一昨年に公開の『世界が食べられ
なくなる日』でも紹介されていたが、そのドキュメンタリー
は問題点を原発に絡めて妙な色彩が付いていたもので、僕は
試写は観たが紹介に踏み切れなかったものだ。
さらに本音を言えば、日本では使用表示が義務付けられてい
るGMOが合衆国では現状野放しという状況があって、本作
はそれに対する警鐘の意味が強いようだ。その点は申し訳な
いが日本は部外者の話とも言える。
ただここでモンサント社の所業に関しては、早晩日本の行政
への圧力もあり得る話で、現実に今年1月に厚労省が発表し
た安全性に関するリストで、確認されたとする製品の大半が
モンサント社製という事実は考えてしまう。
個人的には僕自身が以前に特許業界にいて、モンサント社の
種苗特許を巡る係争での悪辣なやり方や、さらにそれを押し
通す強引さにも驚いたもので、その辺はもっと追求して欲し
かったところでもある。
いずれにしても問題は将来に繋がっているものであり、監督
には今後もこの問題を追及して行って欲しいと思うところ。
次回作に期待したい。

監督は、2010年に“Dive!”という作品が映画祭で受賞して
いるジェレミー・セイファート。前作に続いて製作、編集も
兼ねていて、本作は彼の第2作のようだ。
公開は4月25日から、東京は渋谷アップリンク、名古屋名演
小劇場ほかで、全国順次上映となる。
ところで原題“GMO OMG”の前半は上記の通りの略称だが、
後半はoh my Godの略だそうで、これは成程と思わされた。


『マッド・ナース』“Nurse 3D”
『ブライド・ウェポン』“In the Blood”
『ニンジャ・アベンジャーズ』“Ninja:Shadow of a Tear”
昨年12月に紹介した『余命90分の男』など49本が上映される
「未体験ゾーンの映画たち2015」のように、近年冬場の映画
館ではいろいろな特集上映が組まれている。
今回紹介するのは、その「未体験」に続きヒューマントラス
トシネマ渋谷で上映される「RED BAND」という特集の3本。
第1弾の『マッド・ナース』は、猟奇殺人鬼の看護婦が悪人
と思われる男たちを、魅惑的な姿態で次々に誘い出しては殺
害するというお話。因に、医療関係者が殺人に拘る確率は一
般人より高いそうで…
実は「RED BAND」の中で試写が行われたのは本作だけで、後
はサンプルDVDで鑑賞させて貰った。ところがこの唯一試
写の行われた作品が、僕が話した年配の評論家たちにはかな
り不評だった模様。
確かに殺される男たちは馬鹿すぎるし、描写も過激で辟易す
るシーンも多かったかな。でもまあ好きな連中にはそれが堪
らないらしく、若い人のブログなどでは評価しているものも
見受けられたようだ。僕は年配の方に属するが。

出演は2010年3月紹介『エンター・ザ・ボイド』などのパス
・デ・ラ・ウエルタ。監督は2012年に『THE DAY ザ・デイ』
という近未来終末物の作品が公開されているダグラス・アー
ニオコスキーが担当した。
原題を観ると判るようにオリジナルは3Dで公開されたよう
で、それならそれでまた意味も分かるような作品だった。
それで以下の2本はサンプルDVDを借りて鑑賞したものだ
が、正直にはこちらの試写をしてくれた方が年配には理解が
され易かったのではないかと思ったところだ。

第2弾の『ブライド・ウェポン』は、新婚旅行で中米を訪れ
たカップルの男性が事故に遭い、救急車で搬送されたまま行
方不明になるというお話。そこには裏の組織が絡んでいて、
さらにその手は警察にも及んでいるらしい。
この事態に残された花嫁は、真面な刑事の助けも借りて夫の
行方を追うのだが状況はさらに悪化して行く。こんな展開が
も中米のジャングルの見事な景観なども背景に進んで行き、
さらにこの新婦がとんでもないアクションも繰り広げる。

主演は、全米女子格闘技界でトップクラスの人気・実力を誇
るというジーナ・カラーノ。彼女は、2012年スティーヴン・
ソダーバーグ監督『エージェント・マロリー』で主演、また
2013年5月紹介『ワイルド・スピード6』にも出ていた。
他に、2009年7月紹介『サブウェイ123』などのルイス・
ガスマン、2011年7月紹介『プリースト』などのカム・ジガ
ンデーらが脇を固めている。
監督は2013年1月紹介『ダーク・タイド』などのジョン・ス
トックウェル、脚本は1995年『Mr.ダマー』などのベネット
・イェーリンが担当した。
物語は後半になかなかの展開があり、それはフィクションと
して面白いものになっていた。正直、試写はこちらを観せて
貰った方が良かったのではないかと思えるものだ。

第3弾の『ニンジャ・アベンジャーズ』もアクションが主題
の作品。主人公は甲賀流忍法を習得したアメリカ人。彼は学
んでいた道場の跡取り娘と結婚し道場の隆盛するが、そんな
時、妊娠した妻が暗殺される。
その妻子の復讐を誓った主人公は、かつてのライヴァルであ
り、今やミャンマーの麻薬組織を牛耳る男の犯行との確証を
掴み、単身男の居るミャンマーの奥地へと乗り込むが、そこ
には男の率いる軍団が待ち構えていた。

主演は柔道などの格闘技を極めたスタントマンで、アクショ
ン俳優として2012年9月紹介『エクスペンダブルズ2』など
にも出演するスコット・アドキンス。共演に2007年8月紹介
『ローグ・アサシン』などのケイン・コスギ。
さらに日本から2011年9月紹介『牙狼<GARO>』などの
肘井美佳、2012年10月紹介『北のカナリアたち』などの菅田
俊らが出演している。
こちらの話の捻りは、ちょっと捻りすぎかなとも感じたが、
本作ではアドキンスが唇を切ったまま演技をしているなど、
本気の感じが伝わってくる。物語上はそんな演出は不要なの
で、これは組打ちが過って入ってしまったのかな。
コスギも思い切りアクションを展開しているようで、これは
真剣勝負の作品のようだ。

公開は、第1弾が2月28日から、第2弾、第3弾は3月28日
からで、東京はヒューマントラストシネマ渋谷ほか、全国順
次ロードショウとなる。



2015年02月08日(日) バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)、振り子

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』
 “Birdman or (The Unexpected Virtue of Ignorance)”
2007年1月紹介『バベル』や、2011年4月紹介『ビューティ
フル』などのアレハンドロ・コンザレス・イニャリトウ監督
による最新作。それはかなりファンタスティックな要素や、
VFXも満載の作品だった。
イニャリトウ監督の前々作『バベル』では時間と空間が自在
に行き来し、その複雑な構成が話題になった。それに対して
本作は、何と1カメラによるノーカット風の構成。これには
のっけから驚かされた。
その物語の始りは楽屋で空中浮遊している男の姿。男は自作
の舞台公演を控えているが、共演者の男優に不満があった。
ところが男の思いが通じたかのように共演者が事故に遭い、
さらに男の望む男優がフリーとの情報が入る。
実は主人公は、過去にはアメコミヒーロー映画の主役で人気
を得たようだが、今回の舞台はそのイメージを払拭するため
のもの。しかし取材のマスコミなどには彼の意向は理解され
ず、何かと言うと過去のイメージが頭をもたげてくる。
そんな状況の許でリハーサルは再開されるが、現れた男優は
何かと新たな要素を芝居に持ち込みたがり、主人公はそれに
苛立ちながらも彼の実力は認めざるを得なかった。しかも、
ちょっと問題児の主人公の娘にも手を出そうとする。
そんな主人公の思いが高じたとき…、奇跡が起きる。
こんな物語が、時間の流れは多少飛んでいるが、映像的には
ほぼ最後のシーンまで連続性を保って、正しく流れるように
進んで行く。これはある種の実験的な作品と言えるのかな?
でも監督の狙いはそこにはなさそうだ。

出演は、2014年3月紹介『ロボコップ』などのマイクル・キ
ートン、2013年2月紹介『L.A.ギャングストーリー』などの
エマ・ストーン、2012年8月紹介『ボーン・レガシー』など
のエドワード・ノートン。
他に『ハングオーバー』シリーズなどのザック・ガリフィア
ナキス、2013年5月紹介『オブリビオン』などのアンドレア
・ライズブロー、2010年2月紹介『グリーン・ゾーン』など
のエイミー・ライアンらが脇を固めている。
と言う配役だが、僕と同好の人はすぐ判るように最初の3人
は1989年、92年の『バットマン』と、2008年の『インクレデ
ィブル・ハルク』、それに2012年、14年の『アメイジング・
スパイダーマン』のヒロインなのだ。
そんな3人が共演して、内容的にもかなりアメコミヒーロー
映画を皮肉ったようなセリフの飛び交う物語が展開される。
しかもそれが演じた俳優の実名で語られるのだから、好きな
人には楽屋落ち満載と言う感じでもある。
それらは揶揄のようにも取れるが、後半のVFXシーンなど
を観ていると、イニャリトウ監督は本心ではアメコミ映画を
やりたいんじゃないのかな。ちょっと歪んだ愛情みたいなも
のも感じられる。そんな気分にもなってきた。
前作の『ビューティフル』にもファンタスティックなものは
感じられたし、イニャリトウ監督なりにアメコミヒーローを
料理しても面白いものはできるのではないかな。ジャンルに
新風を吹き込むためにも期待したくなった。

公開は4月10日から、東京は日比谷のTOHOシネマズシャンテ
他、全国ロードショウとなる。

『振り子』
テレビの『あまちゃん』にも登場したパラパラ漫画の鉄拳が
テレビ番組の企画で作り、その後にYoutubeにアップされて
世界中で評価されたという物語を実写映画化した作品。
物語の中心は1組の男女。女子高生の女性が不良に絡まれて
いるところを通り掛った男性が助け、2人の交際が始まる。
やがて2人は結婚し娘も生まれるが、男性は事業に失敗し、
その心労もあってか女性は病に侵される。
そんなオリジナルのパラパラ漫画に描かれたストーリーに、
時代背景などに則したいくつかのエピソードが加えられ、そ
の時代に生きた庶民の男女の姿が描かれる。それは僕自身の
記憶に照らしても納得できる作品だった。

出演は、2012年2月紹介『高野聖』などの中村獅童、2014年
9月紹介『風邪(ふうじゃ)』などの小西真奈美。彼らの若
い頃を2014年3月紹介『A.F.O』などの石田卓也と2013年
11月紹介『赤々煉恋』などの清水富美加が演じる。
その脇を板尾創路、笛木優子、武田鉄矢、研ナオコ、松井珠
理奈、鈴木亮平、ダイアモンド☆ユカイ、武井壮、黒田アー
サー、サヘル・ローズ、小松政夫らが固めている。
脚本と監督はTBS制作局で『金スマ』などのチーフディレ
クターを務める竹永典弘。本作は放送局と吉本興業がタッグ
を組む「TV DIRECTOR’S MOVIE」としてTBSが製作、昨年
の沖縄国際映画祭に出品されて好評だったようだ。
元々がパラパラ漫画で3〜4分程度の物語だから、内容的に
は正直に言ってそれはベタなものだ。でもまあそのシンプル
さがいま時には心地よさにも昇華している感じかな。その辺
の演出はディレクターとして10年以上のキャリアだろう。
しかも原作には描かれていなかったいくつかのエピソードは
脚本家が付け加えたものだろうが、それがまたうまく物語に
嵌って作品全体を盛り上げている。特に原作のエンディング
に纏わる経緯は、巧みに胸を打つものになっていた。

「TV DIRECTOR’S MOVIE」としては2011年9月紹介『クロサ
ワ映画2011』の前作などが先にあるもののようだが、TBS
と言えば以前は「ドラマの」とも呼ばれていた放送局だし、
これからにも期待したい。
公開は2月28日から、東京は角川シネマ新宿、池袋シネマロ
サ、大阪はTOHOシネマズなんば他で、全国順次公開となる。



2015年02月01日(日) 神々のたそがれ

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『神々のたそがれ』“Трудно быть богом”
1981年公開『ストーカー』などの原作者としても知られるロ
シアのSF作家ストルガツキー兄弟の『神様はつらい』を、
2000年公開『フルスタリョフ、車を!』などのアレクセイ・
ゲルマン監督が13年の歳月を掛けて映画化した作品。
物語の舞台は地球を遠く離れた外宇宙の惑星。その惑星には
地球人と同じような人々が暮らしていたが、その文明は地球
より800年ほど遅れた中世のようなものだった。そこに調査
のため科学者の一団が派遣される。
その調査は原住民の暮らしを変えないよう密かに進められた
が、高い知識レヴェルの科学者たちは徐々に神のように崇め
られる存在となって行く。そして科学者たちは少しでも文明
が発展するよう助力を模索するのだが…
こうして20年が経過。しかし原住民たちの暮らしに変化は訪
れず、かえって発展を拒否するかのような反動化が起きる。
そして権力者たちの蛮行が繰り返され、その事態を科学者た
ちはただ傍観しているしかなかった。

出演は、2006年『ミッション・イン・モスクワ』などのレオ
ニド・ヤルモルニクと、『フルスタリョフ、車を!』で主演
を務めたユーリー・ツリーロ。その他のエキストラまで監督
が自分で選んだという配役。因に監督はエキストラとは言わ
ず前景俳優、中景俳優、後景俳優と呼んでいたそうだ。
原作は1964年に発表されたものだが、ゲルマン監督はその直
後から映画化を構想していたそうだ。そして1967年に共同制
作でデビューした監督は自らの長編第1作として1968年には
脚本の第1稿を完成させていた。
ところがこの年には、「プラハの春」として知られるチェコ
スロヴァキアの自由化に対するソビエト政府による弾圧及び
ソ連軍の侵攻が行われ、その状況を予言したかのような本作
の映画化は禁じられてしまう。
その後に原作は、1989年にストルガツキー兄弟も共同脚本に
参加する形でソ連=西ドイツなどの合作で映画化されるが、
原作者は製作途中でドイツ人監督との共同作業を放棄するな
ど散々な結果になった。
その原作が、1989年当時にストルガツキー兄弟も希望したと
言われるゲルマン監督によって2000年に再び着手されたもの
だが、製作は13年の長きに亘り、ゲルマン監督はその完成を
観ずに他界してしまった。
しかし作品はゲルマン監督の手で編集作業も完了し、音楽な
どのリミックス作業の直前まで行われていたということで、
その後を監督としての実績もある未亡人と監督デビューして
いる実の息子が引き継いで完成させたものだ。
とは言うものの上映時間177分の本作は、正直に言ってかな
り長い。これは上記のようにゲルマン監督自身の編集による
ものだが、果たしてそれは公開までも想定したものか否か。
完成品を観てそれを圧縮する可能性はなかったか…
ただ先日、本作をすでに鑑賞していたSF作家の山田正紀氏
と話す機会があり、その際に氏は「でも、主人公たちの遣る
瀬無さみたいなものは実感できるよな」とのこと。その意見
には僕も同感したものだ。
いずれにしても本作は、最初からディレクターズカットが観
られることになったもので、その作品は
間違いなく今年度の
SF映画ベスト10には選ばれるもの。SF映画ファンは必ず
観ておいて欲しい作品だ。
公開は3月21日から、東京は渋谷ユーロスペースほかにて、
全国順次ロードショウとなる。


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井口健二