| 2014年10月26日(日) |
想いのこし、さらば愛の言葉よ |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『想いのこし』 岡田将生と広末涼子がポールダンサーを演じることが話題に なっている、死後の霊魂を題材にしたファンタシー色の濃い 作品。 岡田が扮する主人公は、ダフ屋のバイトでその日暮らしを続 けているような典型的なダメ男。そんな男が大枚を稼いだ浮 かれ気分で車道に飛び出し、交通事故を引き起こす。その事 故で彼自身は無事だったのだが。 その事故に巻き込まれたのは、広末扮する女手一つで息子を 育ててきた女性らポールダンサー3人とそのマネージャー。 1人は結婚間近だったり、現世にいろいろと未練のある4人 の霊魂が主人公の前に現れる。 そして最初の内は戸惑っていた4人も徐々に状況を把握し、 主人公を通してだけ現世につながりを持てると知った4人は 彼を利用して現世に残した想いを叶えようとし始める。その 行動に最初は理解できない主人公だが…。 共演は、2010年5月紹介『君が踊る、夏』などの木南晴夏、 「ゼクシイ」のキャンペーンガールで本作が映画デビューの 松井愛莉、2008年9月紹介『カフェ代官山2』で主人公の子 供時代を演じていた巨勢竜也、それに鹿賀丈史。 監督は、テレビで『JIN−仁−』シリーズなどを手掛けた 平川雄一郎。脚本は、舞台演出家でもあり、2010年に本作の 原作『彼女との上手な別れ方』を発表した岡本貴也。原作者 自らの脚色ということだ。 原作者でもある脚本家は、早稲田大学大学院で物理学修士号 も取得しているということで、それなりの想いもあってのこ のテーマと言うことになりそうだ。それで作品自体はファン タシーとして巧みに作られている。 同様のテーマでは、日本映画でも『黄泉がえり』『ツナグ』 などいろいろ作られていて、後者は平川監督の作品でもある ようだが、いずれも試写では観ていなかった。でもまあ元を 糺せば『ゴースト/ニューヨークの幻』があるものだ。 そんな中で、一番の問題は如何にして霊魂が現世に物理的な 影響を与えるかという点になるのだが、本作の処理は流石に 巧みに作られている。それはまあSFファンでもないと混乱 するかもしれないが、これはこれで辻褄は合っていた。 その他に話題の岡田と広末のポールダンスは、多分グリップ などを使っているのだろうが、それなりに観られるものには 成っていたかな。写し方などもう少し工夫も欲しかったが、 過去の同様の作品よりは良かったと言えそうだ。 公開は11月22日から、全国ロードショウとなる。
『さらば、愛の言葉よ』“Adieu au langage” フランス・ヌーヴェルヴァーグの旗手とも呼ばれたジャン= リュック・ゴダール監督が、齢80歳を超えて3Dに挑戦した 作品。 物語は男女の出会いと葛藤を描いたもので、この物語自体に さほどの意味合いは感じられなかった。しかしそれを描き出 す3Dの映像はかなり強烈で、そこにこそゴダールの狙いが あることは容易に判る作品だ。 因に本作の試写会は、特別にハリウッドメジャー日本支社の 試写室を借りて実施されていたが、これは3D以外での上映 が一切禁止されていためだそうだ。それくらいにゴダールが 3Dのこだわった作品と言えるだろう。 その3D映像でゴダールは、本来なら掟破りとも言える表現 にも挑戦している。それは何と左右のカメラで別々の被写体 を撮るというものだ。 そこで一瞬は二重露光のような奇妙な感覚になるが、気付い て左右片方ずつウィンクしながら見るようにすると、そこで は別々の被写体が見えてくる。しかもそれがドラマに併せて 表現されるのも新しい感覚だった。 この辺は、正にヌーヴェルヴァーグの実験映画の感覚が再現 されているという感じだった。またその一方で、本作では映 像のかなりの部分にソラリゼーションの処理が施されていた りもしている。 しかしこれは単純に処理すると左右の映像が不一致になって 3D効果は得られなくなってしまうはずのもので、それがち ゃんと見えるのは、相当の技術的なバックアップもあったと 思われるものだ。 という作品だが、これらの要素の全てを融和させて読み解く のは至難の業とも言える。それはAdieu=Ah dieuという言い 換えに関るものであったり、正に観る者によって様々な捉え 方が出来るものだろう。 しかもSFファン的には、劇中クリフォード・D・シマック の『都市』が引用されたり、A・E・ヴァン・ヴォークトの シリーズ第3作“La fin du Ā”の表紙絵が出てくるなど、 いろいろ考えさせられる。 奥が深いかどうかも判らないが、ヌーヴェルヴァーグの巨匠 は年を取っても途轍もない問題作を提供してくれたようだ。 なお本作は、今年のカンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞 した他、映画に登場した印象的な犬に与えられるパルム・ド ッグ賞にも輝いた。 公開は2015年1月、東京はシネスイッチ銀座ほか、全国順次 上映となる。
| 2014年10月19日(日) |
ハーメルン、天国はほんとうにある/神は死んだのか/サン・オブ・ゴッド、刺さった男/スガラムルディの魔女 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ハーメルン』 西島秀俊主演でファンタシーの要素もあるドラマ作品。劇場 では昨年公開された作品だが、今度はDVD&Blu-rayでの発売 が決まり、改めてサンプルDVDで鑑賞した。 実はこの作品は昨年公開時の試写会でも見させて貰ったが、 ファンタスティックな雰囲気は心地よく感じられたものの、 全体的な物語を把握できず。ホームページでの紹介を諦めて しまった。そんな作品を再度鑑賞したものだ。 物語の舞台は田園に建つ木造の小学校の校舎。歴史も感じさ せるその建物が取り壊されることになったが、その敷地から 土器などが出土したようで、その調査のため県の博物館から 男性の職員が派遣されてくる。 その男性はその小学校の卒業生だったが、実は彼には小学生 時代の胸に秘めた思い出があった。そんな主人公の記憶が、 校舎で暮らしながらその保全に心を砕いてきた老校長の写し 続けた8�丱侫�ルムと共に甦る。 その8�丱侫�ルムの中には、主人公の記憶にも残るからくり 時計の映像や校庭で演じられた人形芝居の場面もあり、その 人形芝居では笛を吹く少女が手を奪われるが…、という摩訶 不思議な物語が展開されている。 そしてさらに閉館した映画館を守っている老人や、その老人 と戦争にまつわる物語などが織り込まれて、現代に置いたら 時代遅れと言われてしまうのかな、そんな昭和を生きた人々 の物語が綴られて行く。 共演は倍賞千恵子、それにベテラン俳優の坂本長利、守田比 呂也。他に水橋健二、内田春菊、小松政夫、風見章子らが脇 を固めている。 脚本、監督、編集は2005年『美式天然』でトリノ国際映画祭 グランプリ受賞の坪川拓史。本作は2007年『アリア』がカザ フスタン・ユーラシア映画祭で中央アジア最優秀作品に選ば れて以来6年ぶりの第3作となる。 物語は秋と冬の2つの季節を背景に描かれているものだが、 そのコントラストも鮮やかな時間軸の間に、こちらも幾つか の時間軸を有する8�丱侫�ルムが挟まることで些か複雑な構 成になっている。 それらが以前の試写会の時に僕を混乱させていたものだが、 じっくり観直せばその辺の混乱は容易に解消される。それは DVD&Blu-rayでの鑑賞に向いているとも言えるが、むしろ素 直に鑑賞する方が適切な物語だったようだ。 それにしても挿入される人形芝居は、これだけでもじっくり 鑑賞してみたい感じもする作品だった。 DVD&Blu-rayは11月19日に、発売元キュリオスコープ、販売 元ポニーキャニオンでリリースされる。 なお同梱の【特典映像】には、予告編やメイキングなどと共 に人形芝居の全編も含まれているようだ。
『天国はほんとうにある』“Heaven Is for Real” 『神は死んだのか』“God's Not Dead” 『サン・オブ・ゴッド』“Son of God” クリスマスが近いからというのでもないだろうが、キリスト 教関連の映画の試写会が立て続けに行われた。 1本目は実話に基づくとされる作品。田舎町の教会で神父を 務める男性の幼い息子が内臓疾患で緊急手術を受ける。その 手術は困難なもので、一時は医師も見放さざるを得ない状況 となるが…。 奇跡的に回復した息子は、突然父親に天国でイエスに会った と言い始める。その言葉に最初は半信半疑の父親は、学者な ども訪ねて息子の言葉の真意を探ろうとするが、やがて息子 の言葉が真実と確信するようになる。 しかし息子の言葉を広めようとする父親の行動は、彼が神父 であるが故に周囲の反発を買うことにもなってしまう。 原作本は全世界で900万部以上のベストセラーとのことで、 その作品から、1996年『ブレイブハート』でオスカー脚本賞 候補にもなったランダル・ウォレスが脚色監督を務めた本作 も、全米で9000万ドルのヒットを記録した。 出演は、2010年5月紹介『ラスト・ソング』などのグレッグ ・キニア、同年1月紹介『シャーロック・ホームズ』などの ケリー・ライリー、そして息子役を新人のコナール・コラム が演じている。 事前には宗教的な意味合いはかなり強いと思われる作品で、 試写の前には多少構える気分もあった。しかし作品自体は特 異な息子に親がどう対処するかという、ある種の普遍的な物 語でもあって、その気持ちで観ることができた。 それにキリスト教的な天国というのが、一体どんなものかと いうのも観られ、宗教と無関係な僕にもさほど神経を尖らす こともなく鑑賞できる作品だった。宗教家にどうかは判らな いが、これはエンターテインメントだ。 それに対して2本目はかなり宗教的な意味合いの強い作品。 これはアメリカの大学などで現実に起きている事象にインス パイアされた物語とのことだが。多少観ていて辟易する場面 もある作品だった。 実際にこの出来事は明らかなパワーハラスメントで、このよ うなことが現実に起きていることも信じ難いものだ。ただし 映画の中で行われるディベートはかなり軟弱で、僕はもっと 真剣な宗教論争を期待したので少し残念だった。 そして3本目は、これは王道の作品。実はアメリカで全10回 で放送されたテレビシリーズの後半5回分をダイジェストに したものだが、信者ではない僕でも知っている救世主の話が 次々に登場する。 公開は、最初の2本が12月13日から、東京はヒューマントラ ストシネマ渋谷、大阪はシネリーブル梅田他。2本立てでは ないが同じシネコンの別々のスクリーンを使っての同時上映 という仕掛けで全国順次ロードショウとなる。 3本目は、来年1月10日から、新宿ピカデリー、丸の内ピカ デリー他で全国公開の予定だ。
『刺さった男』“La chispa de la vida” 『スガラムルディの魔女』“Las brujas de Zugarramurdi” 2005年7月紹介『800発の銃弾』などのスペインの鬼才ア レックス・デ・ラ・イグレシア監督による2012年と2013年の 作品が纏めて公開されることになった。 イグレシア監督は、1993年の長編デビュー作が近未来を背景 にしたものであったり、ホラー作品も何本か手掛けていて、 どちらかと言うとジャンル系の映画監督と呼べるようだ。 そんな監督の1本目は、過って工事現場から突き出した鉄筋 の上に転落し、頭部を貫かれて身動きができなくなった男の 話。男は以前にはヒットCMコピーも手掛けた宣伝マンで、 そんな男の緊急事態にいろんな連中が近づいてくる。 主演は、『シュレック』シリーズのスペイン語吹き替え版で ドンキーを担当しているというコメディアンのホセ・モタ。 妻役をサルマ・ハエックが演じているのも注目される。 絵柄には2001年11月紹介『ノー・マンズ・ランド』(2002年 オスカー受賞作)に似たところもあって、ジャンル系とは少 し違うかな。ただし反戦テーマのオスカー作品に対して本作 ではマスコミにその矛先が向けられている。 それに対して2本目は、ジャンル色が諸に出ている魔女物の 怪作。物語の始まりは、マドリッドの繁華街で実行されたド 派手な強盗劇。その犯人の1人は離婚した妻の許にいる幼い 息子との面会日で、何と子連れで強盗を行っていた。 そんな一味はいろいろ手違いの末、父子ともう1人が奪った 大量の指輪と共に逃亡し、さらにタクシーをハイジャックし て国境を目指すことになるが…。その行程には伝説の魔女の 村があった。 出演は、スペインではかなり多くの作品に出ているウーゴ・ シルヴァとマリオ・カサス。この2人が間抜けな強盗を演じ る。そして、2007年2月紹介『ボルベール<帰郷>』などカル メン・マウラ、本作後に監督と結婚したカロリーナ・バング らが魔女役を演じている。 なお本作の一般公開の前に、東京では10月上旬に開催された ラテン・ビート映画祭に合わせて監督夫妻が来日し、歓迎の パーティに招待された。 そのパーティでは、前半で『スガラムルディの魔女』の抜粋 上映に監督がコメントするというイヴェントが行われたのだ が、何と上映が始まると監督の眼は画面にくぎ付けでMCの 質問にもほとんど答えない。 代って女優の奥さんが答えていたが、上映が終わると監督は 「時間をくれたらあと25%は良くできる」と発言。この種の イヴェントは何度か観ているが、この監督ほど自分の作品に 思い入れがあると感じる人も珍しかった。 まあそういう監督と言うことで、彼の作品はこれからも興味 を持って観ていきたいものだ。 公開は11月22日から、東京はヒューマントラストシネマ渋谷 他で、2作品同時の全国順次ロードショウとなる。
| 2014年10月12日(日) |
TATSUMI、うまれる2、ブラック・ハッカー、マエストロ! |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『TATSUMI マンガに革命を起こした男』“Tatusmi” 2011年10月31日付「第24回東京国際映画祭」で紹介した作品 がようやく日本でも一般公開されることになり、マスコミ試 写が行われた。因に監督のエリック・クーは今年の東京国際 映画祭で部門審査員を務めることになっており、映画祭での 特別上映も行われるものだ。 作品は1957年に劇画という名称を考案し、「劇画の父」と呼 ばれる日本の漫画家辰巳ヨシヒロを題材にしたもの。2008年 に出版された辰巳の自伝的作品『劇画漂流』を主軸に置き、 敗戦後の日本の風俗を描いた5本の短編劇画と共にアニメー ションで映像化されている。 その冒頭では「手塚治虫・七回忌」の模様が描かれ、辰巳が 師と仰ぐ手塚氏への憧憬が表明される。その会場を辰巳は途 中で退席するが、それは手塚氏亡き後の日本漫画界の行く末 を案じたからのようだ。実は僕もこの会に出席していたが、 僕はそのようなことを到底考えていなかった。 そして映画は、広島の原爆に関る短編作品『地獄/HELL』の アニメーションに繋げられる。この作品で辰巳と監督は人間 の業について描き切るが、それは原爆が残した影を巡る凄ま じくも切ない物語だ。そしてこの作品だけでも辰巳を再評価 しなくてはいけない気持ちにさせられた。 他に映画では、『いとしのモンキー/BELOVED MONKEY』『男 一発/JUST A MAN』『はいってます/OCCUPIED』『グッド・ バイ/GOOD-BYE』が映像化されているが、いずれもいろいろ な局面での男の生き様のようなものが描かれており、それぞ れが男の自分にはガツンとくる作品だった。 監督と脚本も手掛けたエリック・クーは、1997年のカンヌ映 画祭ある視点部門と、2008年のコンペティション部門にも招 待されたシンガポールの俊英で、本作では2011年のある視点 部門に再び招待された。因に同年の東京国際映画祭ではアジ アの風部門で上映され、スペャルメンションに輝いている。 作品の国籍はシンガポールになっているが、作品中の言語は 日本語で、そのナレーションと主要な登場人物6役の声優を 別所哲也が担当している。他に原作者の辰巳ヨシヒロも登場 する。 実は3年前の映画祭で鑑賞した時には、『地獄/HELL』の印 象が強烈に残って、他の作品や本編の部分はほとんど吹き飛 んでしまっていた。それで今回は再度鑑賞したが、作品に対 する印象はあまり変わらなかった。 冒頭の作品は依然として強烈な印象で、他の作品も見事だが それを超えることは監督も意図していないようにも思える。 ただし監督の発言によると、ヨーロッパの上映では『はいっ てます/OCCUPIED』がかなり受けたそうだ。 公開は11月15日から、東京は角川シネマ新宿ほかで全国順次 ロードショウとなる。
『うまれる ずっと、いっしょ』 2010年9月紹介『うまれる』の豪田トモ監督が、子供の誕生 だけではない人間の営みを記録したドキュメンタリー。 前作からは障害を持つ子供を育てる一組の家族だけが続けて 登場し、重度の障害を持ちながらも両親の愛情に支えられて 医師の常識を超える成長を続けている姿が記録されている。 それは人の営みをも超えた崇高な姿にも見えた。 その他にはつい最近に長年連れ添った妻を亡くした夫と、血 の繋がらない息子との生活の中で新たに実子の誕生を迎える 男性の姿も描かれる。この内の前者に関しては、一般的な生 活をしていれば半数の人間にあり得る事だが…。 後者では、かなりドラマティックな展開が丁寧な取材で記録 されている。しかもその対象の一部が幼い子供というのは、 児童心理学の面からも相当に慎重な取材が求められたと思う が、その背景取材も含めて適切と感じられた。 実のところ前作に関しては、上記の紹介記事を読み返しても 僕自身がネガティヴな態度で作品に接していたことが思い出 されるが。本作に関してはそのような気分は払拭され、心底 から良い作品と言える。 それは多少あざとい演出もあって、その場面では試写会場で も涙している人もいたようだったが。僕自身はそんな直截的 な部分よりも、登場する男性たちの全てが見せる前向きな態 度に感動を覚えていた。 特に、前作に引き続いてその成長を見守ることになったお子 さんの父親が見せる決意の表情には、僕自身が子供に対して 良い父親だったか否かということの想いも含めて、自分自身 を振り返る想いにも捉われていた。 この一家に関しては、これは不謹慎な言い方に聞こえるとは 思うが、最期まで記録を続けて欲しいものだ。それを僕らに 観せることはできなくとも… そして登場するもう1人の男性に関しては、子供の誕生・成 長とは対極の出来事が描かれるが、僕自身が登場する人物と 同じ年齢に達していると、何とも身に詰まされるものが描か れていた。 そこには懺悔や悔恨など様々な思いが去来するが、僕自身に は妻が健在の内にその思いの一部でも払拭するような努力が 求められているようで、これからの人生に目標が与えられた ような気分にもなっていた。 監督に関しては、前作の試写は性別も知らずに観ていたが、 今回は女性プロデューサーと結婚したとの情報も得て成程と 納得もした次第。前作では今一歩踏み込めなかった部分に、 本作では踏み込めている感じがした。 ナレーションを樹木希林が担当。それぞれの家族に寄り添う ような口調も素敵だった。 公開は11月22日から、東京はシネスイッチ銀座ほかで、全国 順次ロードショウとなる。
『ブラック・ハッカー』“Open Windows” 2013年11月紹介『グランドピアノ』などのイライジャ・ウッ ドがコンピュータネットワークに振り回される男性を演じる スペイン=アメリカ合作のサスペンス作品。 主人公は女優の追っ駆けサイトを主宰している男性。彼のサ イトは、レア写真の掲載などで�癸韻凌裕い鮓悗辰討い襪茲� だ。そんな実績が認められたのか、彼には女優と直接逢える というチャンスが訪れる。 ところが、女優の新作の記者会見が行われた街で指定された ホテルに到着した主人公は、思い掛けない事態に巻き込まれ る。突然彼が持参したPCがハッキングされ、やむなくその 指示に従った主人公は女優の不倫現場を目撃。 しかも不倫相手に事態を察知された主人公はハッカーの指示 でその場を逃れることになるが…。次々襲い掛かる危機を辛 くもかわし続ける主人公は、やがてその裏に隠された恐ろし い陰謀の存在を知ることになる。 そんな展開の中に、隠しカメラや公共ネットワークへのハッ キングなどPCを介在する様々なテクノロジーが加味され、 正にスクリーンから一瞬も目を離せないサスペンスドラマが 構築されて行く。 脚本と監督は、2007年“Los cronocrímenes”という作品が ハリウッドでリメイク進行中というスペインの俊英ナチョ・ ヴィガロンド。因にこの作品は『バタフライ・エフェクト』 のような限定的なタイムトラヴェルを描いているそうだ。 共演は、アメリカでかつて�癸吋櫂襯離好拭爾量召鰺澆靴い� まにしたというサーシャ・グレイ。その後はスティーヴン・ ソダーバーグにも認められた女優で、本作にポルノシーンは ないがそれなりの艶技は観せている。 他にヴィガロンド監督や、2006年10月紹介『氷の微笑2』に 出ていたというニール・マスケルらが脇を固めている。 映像的にはそれなりに面白いと感じるし、コンピュータテク ノロジーの面でもいろいろ考えられている印象は持つ。ただ それに対する人間関係の方がごちゃごちゃし過ぎの感じで、 これはもっとシンプルで良かったのではないかな。 しかもそれが二転三転のどんでん返しというのは、脚本を書 いている本人は了解できていても、それを観客に理解できる ように描かないと無意味なもの。本作にはそんな独りよがり な部分が感じられた。 特に事件の主謀者が誰で、その意図や目的が何だったのか、 その辺ぐらいはもっと明確にして欲しかったところだ。でも 次の作品には期待したくなる監督ではあった。 公開は11月22日から、東京はヒューマントラストシネマ渋谷 の他、ユナイテッド・シネマ豊洲など全国のユナイテッド・ シネマを中心にロードショウされるようだ。
『マエストロ!』 2006年12月紹介『神童』などのさそうあきら原作コミックス の映画化でクラシック音楽の演奏をテーマにした作品。 物語の背景は経営が破綻して解散に追い込まれた交響楽団。 団員の中で優秀な者は他の楽団に移籍したが、希望の叶わな かった「負け組」も数多く残されている。そして主人公は、 楽団史上最年少でコンサートマスターの重責を担った逸材だ が、希望した海外の楽団からは不採用の返事が届く。 そんな主人公の許に、突然楽団の再結成とコンサート実施の 案内が届く。ところが指定された練習場に行ってみると、そ こは廃業した町工場の跡で、しかも半信半疑の楽団員の前に 現れたのは名も知らず風体もおかしな謎の指揮者。その上そ の指揮者は奇矯な演奏指導を開始する。 この指導には多くの楽団員が反発するが…。さらには指揮者 が連れてきたプロ経験のないフルーティストの少女もいて、 練習場は喧噪の渦と化す。しかし謎の指揮者は「ここは闘い の場」と宣言し、その熱血の指導は徐々に楽団員の闘争心に 火を着ける。 出演は松坂桃李、西田敏行、それにシンガーソングライター で映画初出演にしてヒロインを務めたmiwa。ヒロイン役の演 技は途中少し覚束ない部分もあったが、全体的には合格点だ ろう。 他に古館寛治、大石吾郎、濱田マリ、河井青葉、池田鉄洋、 モロ師岡、島田久作、松重豊。さらに宮下順子、中村ゆり、 石井正則、でんでんらが脇を固めている。 脚本は、今年1月紹介『魔女の宅急便』などの奥寺佐渡子、 監督は2010年12月紹介『毎日かあさん』などの小林聖太郎が 担当した。 『神童』の映画化が公開された頃は、テレビドラマの発信で クラシック音楽がテーマの作品がブームになっていた。その ブームは沈静した感じもするが、2012年12月紹介『さよなら ドビュッシー』や、昨年には題名が『リトル・マエストラ』 という作品も全国公開されている。 実は昨年の作品については、試写は観せて貰ったがここには アップしなかったものだ。それは何と言うか作品の全体にお いてクラシック音楽の演奏に対する心構えができていないよ うな、単なるブームの後追いをしているだけの感じがして、 正直なところは多少鼻についてきたりもしていた。 しかし本作を観ていて、これは本物、若しくは本物の感じが 味わえる作品だと思えた。演奏される曲目はベートーベンの 「運命」とシューベルトの「未完成交響曲」の2曲だけ、そ の2曲の演奏を完成させて行く過程が、織り込まれる様々な 人間ドラマと共に見事に描かれて行く。 その進歩して行く過程。また様々なテクニックなどが巧みに 物語に織り込まれて、学べる点も数多くあったし、さらには エンターテインメントとしても優れた作品になっていた。ま た後半の「運命」の演奏が始まった途端、「あれ、おかしい ?」と思えた自分も嬉しかった。 公開は来年1月31日から、全国ロードショウが予定されてい る。
| 2014年10月05日(日) |
6才のボクが、大人になるまで。ダムネーション |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『6才のボクが、大人になるまで。』“Boyhood” 2006年9月紹介『スキャナー・ダークリー』などのリチャー ド・リンクレーター監督が、制作に12年を費やして描いた少 年の成長ドラマ。 主人公は、物語の始まりで6歳の少年。テキサスの田舎町で 母親と姉と共に暮らしていたが、突然母親がヒューストンの お祖母ちゃんの家に引っ越すと言い出す。それは母親がもっ と収入の良い仕事に就けるよう大学で勉強するためだった。 こうして一家はあたふたと出発する。 そんな主人公には父親もいるが、アラスカかどっかに行った ままで母親とはすでに離婚しているようだ。しかし突然お祖 母ちゃん家にやってきてキャンプに誘ってくれたりもする。 一方、母親は大学で出会った教授と再婚を果たす。その教授 にも2人の子供がいて4人の子供たちは仲良くなるが… 両親の離婚に引っ越し、さらには上昇志向の強い母親の進学 と再婚。そして新しい家族との交流や軋轢など、正に家族に 振り回される少年の飛んでもない成長期が描かれる。そこに 大統領選挙なども絡んで、これはアメリカの縮図と言っても 良い物語なのかもしれない。 出演は、6歳から18歳まで本作の主人公を演じたエラー・コ ルトレーン。母親役には今年2月紹介『チャールズ・スワン 三世の頭ン中』などのパトリシア・アークェット、時々現れ る父親役に2013年4月紹介『フッテージ』などのイーサン・ ホーク、そして主人公の姉役に監督の娘のローレライ・リン クレーター。 リンクレーター監督は1993年の『恋人たちの距離』に始まる 3部作を2013年『ビフォア・ミッドナイト』まで20年掛けて 完成させているが、それらはその時々に物語が創作されたも のだろう。それに対して本作は当初からの長期計画で、ある 程度の展開は想定されていたと思われる。 しかしそれが監督の思惑通りに進んだのかな。特に2008年の 大統領選挙戦までのそれなりにハイテンションな展開から、 その後は一気に落ち着いた作風になっているのは気になった ところだ。勿論主人公がアーティスティックな指向になった ことが原因であることは認めるが… この監督の心境の変化が、民主党大統領への期待と新大統領 に裏切られたことへの挫折に起因するようにも思えて、僕に は何となく痛々しくも感じられた。本作はベルリン映画祭で 銀熊賞(監督賞)を受賞しているが、果たしてそれは監督の意 に沿うものだったのだろうか? 公開は11月14日からロードショウが予定されている。
『ダムネーション』“DamNation” アメリカ合衆国の全土に7,5000基以上あると言われる河川を 堰き止めるダム。そのダムを環境破壊の元凶として除去する ことを目指す人々の活動を描いたドキュメンタリー作品。 作品の冒頭で、コロラド川フーヴァーダム竣工当時のものと 思われるダム建設を称える米大統領の演説の音声が流れる。 しかしそのダムが、実際にはその建設当時の目的とされた水 力発電や治水、灌漑などの役にたっておらず、さらには重大 な環境破壊を引き起こしている。 そんな現実を捉えて合衆国では、すでに無用とされたダムを 除去する事業が進められている。とは言え、既得権益の塊の ようなダムの除去が一朝一夕に進んだ訳はなく、そこに至る 歴史や、現状ではそのアピールのためのカヌーでの川下りや ダムにグラフィティを描く活動なども紹介される。 それはまあ地道な活動というか、一部には法律に触れるもの もあるものだが、そんな行為が徐々に人々の意識に変革を与 えて行ったのだ。 そしてその結果が本作に繋がるものだが、その作品の見どこ ろは、何と言っても迫力あるダム破壊の映像。その映像には 隠しカメラで撮影されたというものもあるとされているが、 何たってダムの基部にダイナマイトを仕掛けて、一気に大穴 を開けてしまうのだから…。 以前のテレビ番組などでは、再開発のために既存のビルを爆 破してしまうという映像もよくあったが、アメリカ人のやる ことは全く途轍もない。 ただし、当初はダムの上部から徐々に削岩機などで破壊して 行く手法も採られたが、それだとダム湖に堆積した泥などが 残され、その撤去にも時間や労力が掛かる。それなら基部に 穴を開ければ一気に泥なども流されてしまうということで、 このアイデアが生まれたのだそうだ。 とは言うものの、こんなことを日本のダムでやったら、下流 域に飛んでもない被害が及ぶのだろうな。そんなことを思い ながら映像を眺めていた。 逆に言えば、そんなことができるほどの辺鄙な場所にあった ダムが治水や灌漑、水力発電にしてもその場所からの送電の 問題があったことは容易に理解できるし、そんな無用の長物 を除去して自然環境を復興させることの意義も間違いなく理 解できる。 しかしこの理論を日本にそのまま適用して良いか否か、単純 にこの作品の展開を鵜呑みにして良いものかどうか。作品の サイトには数多くの識者という人たちのコメントが寄せられ ていたが、僕には諸手を挙げては賛成しかねる意見もあるよ うに感じられた。 特に水力に替える発電の問題は、狭い国土の日本では即原発 推進にも繋がるもので、その危険な論調が看過できない感じ もした。まあ中にはダムも原発も反対などという単純な論調 もあったようだが。 ところでダムが抱える問題点として本作では、サケの遡上な どの環境問題の他に、アメリカ原住民の歴史的な遺物の水没 なども語られるが、その辺は多少意向は異なるがダム建設に 伴って水没する地域社会での反対運動など、日本でも似た事 態の起きていたことが記憶されるものだ。 しかし歴史的遺物などはダムが無くなって復旧するものでも なく、失ってしまったものの大きさがこれによって際立つ効 果は認めてもこれを直ちにダムの除去に繋げることはできな い。それにサケの遡上にしても、それが復旧する保証はまだ 得られていないものだ。 それよりも上述のコロラド川では河口域での塩害問題など、 ヌード写真と共に語るには語り切れない深刻な環境破壊も起 きているもので、その辺が語られないことには些か製作者の 意図も考えさせられた。 同様のことは日本でも、建設秘話の映画化が最近リメイクも された「黒部川第四ダム」ではダム湖周囲の樹木の立ち枯れ 問題なども起きており、これらも踏まえたもう一段真剣な作 品も求めたくなったものだ。 公開は11月22日から、東京は渋谷アップリンクほかでロード ショウされる。
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