井口健二のOn the Production
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2014年08月31日(日) ザ・マペッツ2/ワールド・ツアー、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ザ・マペッツ2/ワールド・ツアー』
               “Muppets: Most Wanted”
2012年4月紹介『ザ・マペッツ』の続編。前作と同じくニコ
ラス・ストーラーの脚本、ジェームズ・ボビンの監督で、故
ジム・ヘンスンが創造したマペッツのキャラクターたちが、
今回は世界狭しと大暴れする。
映画の始りは前作のエンドマーク。この意表を突くオープニ
ングから直ちに「続編を作ろう」という歌がスタートする。
因にその歌の途中で「本当は7本目だけどね」という台詞が
挟まるのは、長年のファン向けのサーヴィスかな。
そんな仲間と共にショウを続けたいと盛り上がるマペッツの
面々の前に、今度はワールドツアーをプロモートしたいとい
う男が現れる。そこでその話に乗る面々。ところがその頃か
らリーダー・カーミットの様子がおかしくなる。
それでもベルリン、マドリッドなど各地のショウをこなして
行くマペッツの面々だったが、実は毎回のショウが行われる
会場の隣には美術館や博物館が所在し、ショウの時間に合せ
て凶悪な強奪事件が起きていた。
それはリーダーと思われていたのがカーミットにそっくりの
凶悪な犯罪蛙コンスタンチンで、奴はプロモーターと共にそ
の犯罪を実行していたのだ。一方、本物のカーミットはシベ
リアの刑務所に収監されていたが…

出演は、カーミット、ミス・ピギー、ゴンゾ、ウォルターら
のマペッツの面々。ヘンスンは亡く、フランク・オズも参加
はしていないが、その後を継ぐ若手たちが大いに頑張ってい
るようだ。
それに対する人間の俳優は、テレビドラマの“The Office”
でゴールデン・グローブ賞受賞のリッキー・ジャーヴィス、
“Modern Family”でエミー賞受賞のタイ・バーレル、“30
Rock”でゴールデン・グローブ受賞のティナ・フェイ。アメ
リカのテレビで人気の顔触れが揃っている。
と言っても本作の出演者はそれだけではなくて、要所々々に
登場するゲストが観客を楽しませる。そこにはまず女性陣で
はセリーヌ・ディオン、レディ・ガガ、サルマ・ハエック、
クロエ・グレース・モレッツ。
男性陣では、トニー・ベネット、トム・ホランダー、トビー
・ジョーンズ、フランク・ランジェラ、レイ・リオッタ、ジ
ェイムズ・マカボイ、ダニー・トレホ、スタンリー・トゥッ
チ、クリストフ・ヴァルツ。
まあお話は他愛ないものだけど、『アナと雪の女王』も手掛
けたクリフトフ・ベック作曲によるミュージカルシーンは、
特にシベリアの刑務所の場面では強面の男優たちが歌ったり
踊ったりの大騒ぎ。そんなものも楽しめる作品なのだ。

公開は9月6日から、幕張のシネマイクスピアリ、イオンシ
ネマむさし村山で劇場上映の他、オンデマンドでも同時配信
される。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』
              “Guardians of the Galaxy”
『スパイダーマン』から『アベンジャーズ』まで、数多くの
スーパーヒーローシリーズを手掛けるマーヴェル・スタジオ
が繰り出す新シリーズ。
物語の始まりは1980年代初頭の地球。携帯オーディオがまだ
カセット式のウォークマンだった時代。そのウォークマンを
愛用する少年がUFOに拉致される。それから20年後、1人
の若者がある宝物を狙って荒廃した惑星に降り立っていた。
そして若者はその宝物を手に入れるが…
果たしてその宝物は銀河を支配する力を秘めたもので、その
宝物を巡って暴君の率いる軍隊や盗賊団や宝物コレクターな
どが入り乱れての争奪戦が始まる。それに対して主人公は、
収監された牢獄で巡り合った連中を纏め、銀河を守る働きを
始めてしまう。
チームプレイで戦うヒーローものは、日本では「戦隊もの」
でお馴染みだが、マーヴェルからも先に『アベンジャーズ』
が公開された。でもすでにヒーロー像が確立したメムバーを
集めた『アベンジャーズ』に対して、本作は左程の特殊能力
を持つでもない連中の寄せ集めで…
この設定が原作コミックスを知らない日本の映画ファンにど
のように作用するか判らないが、取り敢えず予備知識も何も
なしで観られることは確かだから、お気楽な気持ちで映画館
に来てもらいたい作品だ。そして本作のエンディングロール
の後には続編も予告されている。
映画の中では、胸にCCCPと書かれた宇宙服姿のライカ犬がう
ろうろしているなど、オールドファンにはニヤリとする仕込
みもあり、さらに最後に登場するキャラクターは…。こいつ
が次回作の敵なのかな? これは映画ファン的にはかなりの
問題作になりそうだ。

主演は今年4月紹介『her/世界でひとつの彼女』に出てい
たというクリス・プラット。共演に2012年6月紹介『コロン
ビアーナ』などのゾーイ・サルダナ、元WWEチャンピオン
で2013年12月紹介『リディック/ギャラクシー・バトル』な
どのデイヴ・バウティスタ。
他に、2012年12月紹介『世界にひとつのプレイブック』など
のブラッドリー・クーパー、『リディック』シリーズなどの
ヴィン・ディーゼルが重要な役柄を担当。さらにグレン・ク
ローズ、ジョン・C・ライリー、ベニチオ・デル・トロらが
脇を固めている。
脚本と監督は、2007年11月紹介『スリザー』などのジェーム
ズ・ガン。ガンは2002年7月紹介の大ヒット作『スクービー
・ドゥー』の脚本も務めたが、スマートなコメディセンスが
本作でも発揮されている。これは日本の観客にも受けそうな
部類だ。
公開は9月13日から、2D/3Dで全国一斉のロードショウ
となる。



2014年08月24日(日) イフ・アイ・ステイ〜愛が還る場所〜、Frankie & Alice

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『イフ・アイ・ステイ〜愛が還る場所〜』“If I Stay”
2011年12月紹介『ヒューゴの不思議な発明』や、2013年10月
紹介『キャリー』などに主演のクロエ・グレース・モレッツ
がチェロの演奏に天分を発揮する少女を演じるファンタシー
の要素も強く持つ作品。
アメリカのヤングアダルト小説作家ゲイル・フォアマンが、
2009年のNAIBA Book of the Year Awards(アメリカ版本屋
大賞)受賞の自作を自らの製作により映画化した。
モレッツが演じるのは、17歳でチェロの演奏に天分を発揮す
る少女。両親は元パンクロッカーで、彼女はそういう環境の
中で成長したが、自身はクラシックの演奏でジュリアード音
楽院を目指すまでになっている。そして彼女にはロック歌手
を目指すボーイフレンドもいた。
ところがある日、不幸な事故に巻き込まれた彼女は生死の境
を彷徨うことになる。そんな彼女の耳元には看護士が囁く、
「生き還るには、強くそう思うこと」という声が聞こえてく
る。こうして意識不明で看護される自分の身体を見つめなが
ら、彼女は自らの過去を振り返るが…。
主人公には愛するボーイフレンドもいて、生還を強く望むの
は当然と思えるのだが、周囲から見えるのとは違った様々な
現実が彼女の心を引き裂いて行く。果たして彼女は生還の道
を見出すことができるのか、それともその思いを諦め天国へ
と旅立ってしまうのか?
不慮の事故で生死の境を彷徨うという展開は、トリッキーで
はあるが現代なら誰にでも起こり得る、ある種の「現実」的
なものかもしれない。そこに本作ではさらに実に巧みな人間
ドラマを展開して、単にトリッキーなテーマだけに終らせな
い見事な物語を描き出している。
その
脚本を担当したのは、2010年2月紹介『ローラーガール
ズ・ダイアリー』などのショーナ・クロス。前作は自作原作
の脚色だったが、2作とも若い女性の心の機微を巧みに映し
出した作品と言えそうだ。その脚本にモレッツが見事に応え
ている。
監督は、数多くのテレビドラマやドキュメンタリーを手掛け
てきたR・J・カトラー。長編劇映画は初監督のようだが、
的確で無駄のない演出が物語の全体を引き締めている。実際
にカットバックの多用と各シーンの緊張感が、本来なら甘い
かもしれない物語を上の次元に引き上げている感じだ。
共演は、2013年7月紹介『ワールド・ウォーZ』などのミレ
イユ・イーノス、2012年6月紹介『スノーホワイト』に出て
いたというジェイミー・ブラックリー、同じく『シャーク・
ナイト』に出ていたというジョシュア・レナード。それにス
テイシー・キーチらが脇を固めている。
劇中にはモレッツがチェロを弾くシーンが何度も登場して、
その指や弓のさばきなどがどれほどのものなのかは素人目に
は判らないが、その中での他の楽器とのセッションのシーン
は、作曲とアレンジの良さが物語の展開にマッチして、感動
を覚えるものになっていた。
その
音楽は、2010年1月紹介『恋するベーカリー』などのヘ
イター・ペレイラが担当している。
アメリカでも8月22日に公開されたばかりの作品。日本での
公開は10月11日から、全国ロードショウとなる。

『Frankie & Alice』“Frankie & Alice”
2006年8月紹介『サイレント・ノイズ』などのジョフリー・
サックスの監督で、オスカー女優のハリー・ベリーが多重人
格の女性を演じる実話に基づく作品。
舞台は1973年のロサンゼルス。売れっ子ストリッパーのフラ
ンキーは、エキゾティックな風貌と簡単には男を寄せ付けな
い聡明さでダンサー仲間の女性たちからも憧れの目で見られ
る存在だった。ところがそんな彼女の周囲では不可解な出来
事が次々に起きていた。
それは、例えば楽屋に置かれた新聞のクロスワードが完璧に
解かれていたり、貯金が大幅に減って代わりに買った覚えの
ないドレスがワードローブに架かっていたり…。そして身に
覚えのない傷害罪で逮捕された彼女は、刑務所へ行くか精神
病院に入院かの選択を迫られる。
こうして精神病院に入院したフランキーは1人の男性セラピ
ストと出会う。オズという名のその男性は医者としては医療
現場を離れて研究が専門だったが、フランキーのセラピーを
行ったオズは程無くして彼女の中の別の人格に気付き、彼女
を対象とした研究に没頭して行く。
そしてついにオズの前に表れた人格はアリスと名乗り、人種
差別主義を表明するアリスはフランキーの人格を消滅させ、
その座を奪うことを目論んでいた。こうして人格の対決に巻
き込まれたオズは、フランキーの過去に多重人格の原因を求
め、彼女の過去を探り始めるが…。
物語は彼女の過去を巡って、ある種の謎解きの興味も引く作
品に仕上げられている。

共演は、2011年11月紹介『メランコリア』などラース・フォ
ン=トリアー監督作品の常連で、2011年5月及び2013年12月
紹介『マイティー・ソー』シリーズなどのステラン・スカル
スガルド。他にも配役はあるが、事実上この2人による作品
だ。
宣伝文には現代版「ジキルとハイド」という言葉が使われて
いるが、本作は「解離性同一性障害」を描いたもので、年配
の映画ファンならジョアン・ウッドワードがオスカー主演女
優賞に輝いた1957年の『イブの三つの顔』か、最近の人なら
ダニエル・キースの『ビリー・マリガン』を挙げる方が適切
のような気がする。
その解離性同一性障害の女性の実話に基づく物語を、本作で
はその実話に魅了されたベリーが自ら映画化権を取得して熱
演しているものだが、果たしてその出来栄えは正直に言うと
ベリーの演技力に頼り過ぎたのではないかと思える。
その演技は本作でゴールデングローブ賞の候補になったほど
のものではあるが、その演技で女性の状況を充分に描き切れ
たかどうか。そこにもっとドラマティックな展開もあったの
ではないか。そんなことも考えてしまった。
でもまあ
ベリーの熱演は観られるし、ファンにはそれで充分
と言える作品ではある。
公開は9月20日より、東京はヒューマントラストシネマ有楽
町ほかで、全国順次ロードショウとなる。



2014年08月17日(日) 愛しのゴースト、 LUCY/ルーシー

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『愛しのゴースト』“พี่มาก..พระโขนง”
1999年第12回東京国際映画祭コンペティションに出品され、
2001年に日本でも公開されたタイ映画『ナンナーク』の物語
を再映画化した作品。
初めての子を身籠った妻ナークを村に残し徴兵で戦場に赴く
夫マーク。その夫が瀕死の重傷を負った頃、妻は産気づき、
その出産は難産となる。その後、夫は奇跡的に回復し戦友と
共に故郷に帰ってくる。そこでは赤ん坊を抱いた妻が迎えて
くれたが、村人の態度は妙によそよそしかった。
「ナンナーク」、若しくは「プラカノーンのメー・ナーク」
と呼ばれる物語は、現在はタイの首都バンコクの一部となる
ワット・マハーブットに伝わる民話で、戦場に赴いた最愛の
夫を思う妻が霊魂になってもその思いを遂げようとし、夫も
またその思いに応えようとする物語。
本来、難産で亡くなった女性の霊は悪霊とされ、ワット・マ
ハーブットに実在するメー・ナーク廟には霊を鎮めるための
供え物が絶えないようだが。一方で出征した兵士の留守を霊
になっても守ったという物語から、出征前の軍人が留守宅の
安全を願う場所ともなっているそうだ。
その物語は過去にも何度も映画化があるものだが、1999年の
映画祭で鑑賞した作品では、映画の中で夫と妻が「ナーク、
マーク」と呼び交わす台詞がタイ語独特のイントネーション
の持つ切なさで、これはもう本当に心に沁みる作品だったと
記憶している。
因にこの時の作品は、本国タイでは『タイタニック』を超え
る大ヒットになったと伝えられている。
という物語に対して本作は、リメイクというか再度の映画化
となるものだが、今回の原題は『ピー・マーク』、つまり前
作が妻の視点で描かれたのに対して本作は夫の側から描いて
いる。しかもそこには戦友も介在するから、その右往左往す
る様がかなりコミカルにも描かれたものだ。
そして本作は、本国タイでは『アナと雪の女王』を超える大
ヒットになっているそうだ。

出演は、2009年に日本公開された『ミウの歌』などのマリオ
・マウラーと、資生堂のモデルを務めたこともある本作がデ
ビュー2作目というダビカ・ホーン。脚本と監督は、2006年
日本公開された『心霊写真』などのバンチョン・ピサンタナ
クーンが手掛けている。
正直に言って『ナンナーク』のしっとりとした雰囲気が好き
だった者には、コミカルなテイストが多少違和感かな。でも
まあそんな繰り言を抜きにすれば、感涙というより微笑みが
浮かぶ本作の展開は受け入れられるかもしれない。特に結末
は拍手というところだろう。

公開は10月18日から、東京はシネマート六本木、ヒューマン
トラストシネマ渋谷ほかで、全国上映となる。

『LUCY/ルーシー』“Lucy”
リュック・ベッソン監督がスカーレット・ヨハンソンを主演
に迎えて描き出した新感覚のSF作品。
ヨハンソンが演じるのはルーシーという名の女。台北で遊ん
でいた彼女が危ない事件に巻き込まれる。それはアタッシュ
ケースをホテルにいる韓国人の男に届けるという簡単な仕事
から始まるが…。
次に彼女が命じられたのは、新型ドラッグの包を体内に隠し
ヨーロッパに飛ぶというもの。ところがはずみで包が破れ、
彼女の体内を新型ドラッグが回り始める。それは飛んでもな
い副作用を彼女にもたらした。
元々人類には持っている脳の10%しか使っていないという説
があり、母胎から胎児に注がれるホルモンより抽出されたと
いうその新型ドラッグには、脳の未踏の部分を覚醒させる作
用があったのだ。
こうして脳が覚醒されたことによる新たな能力を身に着けた
ルーシーは、新型ドラッグの蔓延を阻止し、同時に彼女が選
んだ脳学者の前で自らが脳の限界に挑む道に邁進する。その
先に観えた人類の究極の姿とは…

共演は、モーガン・フリーマン、1999年『シュリ』や2004年
8月紹介『酔画仙』などのチェ・ミンシク。他に2012年11月
紹介『砂漠でサーモン・フィッシング』などのアマール・ワ
ケド、2013年6月紹介『ウォーム・ボディーズ』などのアナ
リー・ティプトンらが脇を固めている。
映画の前半では、登場人物の行動の間に、ドキュメンタリー
映画から抜粋されたような自然界の動物の行動が挿入され、
それはなかなか巧みで面白い構成となっていた。それが映画
の後半になると、一気にSFにのめり込んで行く。
そのSFマインドは完璧とも言えるもので、それはファンの
目からすると爽快でもあった。でも試写会場では、今年5月
紹介の『トランセンデンス』にも意味が判らないという声が
聞こえたようで…。
これでまた「SFは判らない」という評判が立ちそうなのも
心配なところだ。ただ本作に関してはベッソン監督は確信犯
だと思えるから、これも了解としておきたい。5月の作品も
本作もSFファン的には判り易い作品なのだが…。
もっとも本作では『2001年宇宙の旅』へのオマージュと思え
るものが大量に提示されるが、ここまで来るとリスペクトと
いうより呪縛に近いものも感じてしまうところで、SF映画
ファンとしては多少面はゆい感じではあった。
まあその辺もベッソン監督の狙いなのかな。

公開は8月29日から、東京はTOHOシネマズ日本橋他で、全国
ロードショウとなる。



2014年08月10日(日) 監視者たち、ある優しき殺人者の記録

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『監視者たち』“감시자들”
監視カメラの映像及び現場での目視により容疑者の追跡を行
う警察内特殊組織・監視班と、姿なき完全犯罪組織との闘い
を描いたサスペンス作品。
ソウル地下鉄の中で若い女性が中年の男性を尾行している。
それは男性の一挙手一投足まで監視し記憶するという徹底的
なものだ。一方、同じ頃のソウルの街では凶悪な強盗事件が
発生していた。その事件は犯罪集団によって実行されたが、
陰の黒幕は計画を危うくした男を容赦なく粛清する。
こうして新たに監視班に加わった若い婦警は、最初の任務と
して強盗犯を追うことになる。しかし実行犯の男たちは巧み
に監視カメラの死角を通り、なかなかその正体を突き止める
ことができない。そんな中で、実行犯の逃亡を支援した男が
浮かび上がり、監視班は男を追い始めるが…。
と、ここまで映画を観ていて僕は猛烈な既視感に襲われてい
た。それもその筈で、実はこの作品は2008年12月に紹介した
ジョニー・トー製作による香港映画『天使の目、野獣の街』
の韓国版リメイクだったのだ。そして上記の展開までは、実
に詳細にオリジナルを再現していた。
元々このオリジナルは上記の紹介を読んで貰えば判る通り、
当時の僕はその作品を絶賛していた。そのためその印象の強
さから直ちに既視感を生んでいたものだが。今回のリメイク
では、さらにその作品の完成度は高められていた。これはオ
リジナルに魅せられた者には望外の喜びだ。
しかも本作では、オリジナルの上映時間が90分だったのに対
して約2時間に拡大され、新たな事件やその後の展開などが
補充されている。これはオリジナルに対して続編を希望した
僕にはさらなる贈り物と言えるもので、実際にオリジナルで
モヤモヤしていた部分がこれで解消されもした。

出演は、2012年12月紹介『王になった男』などのハン・ヒョ
ンジュ、2013年5月紹介『ザ・タワー 超高層ビル大火災』
などのソル・ギョング。それに2005年7月紹介『私の頭の中
の消しゴム』などのチョン・ウソン、人気アイドルグループ
2PMのイ・ジュノらが共演している。
さらにオリジナルの主演者のサイモン・ヤムがカメオ出演し
ているのも、粋な計らいと言う感じがした。

監督は、チョ・ウィソク、キム・ビョンソという2人の共同
になっており、2002年に韓国では異例の26歳で監督デビュー
したというチョが脚本と俳優の演技を担当、2012年2月紹介
『青い塩』などの撮影監督を務めたキムが、追跡劇や強盗シ
ーンなどのヴィジュアルに溢れた演出を手掛けている。
公開は9月6日から、東京ではシネマート新宿、シネマート
六本木、さらに大阪、愛知、北海道、福岡、沖縄などで全国
ロードショウとなる。
韓国版リメイクと言うと2012年7月紹介『凍える牙』や、そ
の他にも映画祭上映で『リング』や『黒い家』なども観てい
るが、いずれもオリジナルより優れた作品に観えた。それが
日本映画だけでなく、香港映画にも発揮されたという感じの
作品だ。


『ある優しき殺人者の記録』
今年3月紹介『コワすぎ!』などの白石晃士監督が韓国で撮
影した最新作。因に白石監督は、POVの第一人者と呼ばれ
ているそうで、さらに本作では86分間ワンカットという触れ
込みにもなっている。
物語は女性記者に架かってきた1本の電話から始まる。その
電話は18人を殺害したとされる逃亡中の連続殺人鬼からのも
ので、実は記者はその犯人と幼馴染だった。しかし幼い頃に
起きたある事件が、彼の精神を狂わせたのだという。
その電話で殺人鬼は、廃屋のマンションで会いたいというこ
と。その場所に日本人のカメラマンを1人だけ同行させて、
一部始終をノーカットで記録することを要求する。こうして
指定の場所に彼女らが着くところから映画は始まる。
やがて携帯電話の指示でマンションの部屋に向かった2人は
殺人鬼と遭遇。さらに殺人鬼が報道以上の殺人を犯している
ことを知る。しかしその犯行は神の啓示によるもので、それ
はある崇高な目的に向かうものだと説明されるが…
その目的を達成するためには、あと2人分の殺人が必要で、
その生け贄には日本人のカップルが狙われていた。こうして
殺人鬼と主人公たち、それに日本人カップルの三つ巴の闘い
が開始される。果たしてその結末は?
因に白石監督は、超暴力性とエロス表現でも知られているそ
うで、映画はスペシャルメイクや手品のようなトリックにも
彩られた作品になっている。そして結末は、僕にとっては期
待の通りと言うか、これは納得できるものになっていた。

出演は、2013年5月紹介『クソすばらしいこの世界』などの
キム・コッピ、韓国テレビに芸歴を刻むヨン・ジェウク、そ
してカメラも兼任の白石監督。さらに劇団ポツドールの米村
亮太朗、元グラビアアイドルの葵つかさらが共演している。
宣伝チラシには「この結末は、誰にも予測できない。」とあ
るが、映画の中で某コミックスに由来する事実に気付くと、
これは予測可能なものになる。しかもそれが明確に踏襲され
ていることにも僕は嬉しくなった。
これには白石監督の意外な側面も観られた訳だが、これを観
せたことで今後は監督の作風が変わるかな? とも考えてし
まうところだ。

公開は9月6日より、東京は新宿バルト9ほか、大阪、名古
屋、博多などでロードショウとなる。
また、8月27日〜31日に大分県で開催の湯布院映画祭におい
て特別試写が行われ、28日の上映には主演のキム・コッピ、
白石監督の来場もあるそうだ。



2014年08月03日(日) “Equals”記者会見

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
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※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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“Equals”記者会見
 今回は、8月2日に東京で行われたハリウッド映画の記者
会見の模様を報告する。
 この作品は、リドリー・スコットが主催するScott Freeと
2012年12月紹介『エンド・オブ・ザ・ワールド』などを手掛
けてきたIndian Paintbrushが共同製作をしているもので、
その撮影が8月5日から日本国内で行われる。
 ただし本作は2015年の全米公開は発表されているが、日本
は配給会社もまだ決まっていないとのこと。従って記者会見
も、背景にタイトルだけ記された演壇にスタッフ・キャスト
が並んで質疑応答が行われるという、いたってシンプルなも
のだったが。とは言え実績のあるこの2社の作品なら、早晩
日本配給も発表されることになりそうだ。
 そして会見には、製作総指揮のマイク・プラスと監督のド
レイク・ドレマス。それに主演者として『トワイライト』サ
ーガのクリステン・スチュワートと、『Xメン』シリーズや
2013年6月紹介『ウォーム・ボディーズ』などのニコラス・
ホルトが登壇した。この2人の顔合わせなら、日本公開も間
違いなしと言えそうだ。
 因にドレマス監督は、劇場公開は日本未紹介のようだが、
2011年に発表された“Like Crazy”という作品(DVD題名
今日、キミに会えたら)はアントン・イェルチン、フェリシ
ティ・ジョーンズ、ジェニファー・ローレンスらの共演で、
若手の登竜門とも言われるサンダンス映画祭の審査員大賞を
受賞している。
 その監督の新作は、コレクティヴと呼ばれる未来社会のお
話。そしてその社会に暮らしているのは、「イコールズ」と
呼ばれる新人類たち。彼らは平和的で、冷静で、公正で、礼
儀正しく、従ってコレクティヴの社会は平穏で、何者にも犯
されることのない完璧なものだった。
 ところがその社会を新たな疫病が襲う。その病は新人類が
遠い昔に失ったはずの恐怖心や絶望感などの感情を呼び起こ
し、さらに愛情を呼び覚ます。そのため病に罹った者は直ち
に強制収容施設に送られ、彼らは二度と戻ってこない。それ
は誰も口にすることのない社会の暗部だった。
 そんな社会に暮らすサイラスはある日、自分に感情が芽生
えていることを気付く。そのため社会ののけ者になるうこと
を恐れるサイラス。しかしそこにニアという女性が現れる。
彼女は元々感情を持ち、それを隠す術を知っていた。だがそ
の2人の出会いが新たな問題を引き起こす。

 共演は、2012年7月紹介『プロメテウス』などのガイ・ピ
アース、2012年12月紹介『世界にひとつのプレイブック』な
どのジャッキー・ウィーヴァー。この顔触れが日本で撮影す
るものだ。
 なお記者会見の説明では、物語はドレマス監督のアイデア
に基づくようだが、映画化の脚本には、2010年1月紹介『月
に囚われた男』などネイサン・パーカーがクレジットされる
ようだ。『月に…』もダンカン・ジョーンズのアイデアをあ
のように仕上げたもので、その手腕は期待される。
 内容的には、ジョージ・オーウェル原作『1984年』の
流れをくむディストピアもののようだが、会見で監督らは、
「物語の舞台はユートピアだ」と強調しており、そのユート
ピアが日本を舞台に撮影されるものだ。因に製作総指揮のプ
ラスは、「世界中にロケハンをして日本に決めた」と話して
いた。
 実際に海外の映画データベースなどでは、『1984年』
が下敷きとしているものも見掛けられたが、会見で受けた僕
の印象では1976年の映画“Logan's Run”(邦題:2300年未
来への旅)の方が浮かんだもので、その辺のことは完成作品
を観てから改めて論じたいものだ。
 それにしても日本を舞台にしてどのようなユートピアが描
かれ、そこからどのような人間ドラマが生み出されるのか、
公開が待たれる作品になりそうだ。


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井口健二