井口健二のOn the Production
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2014年06月29日(日) ケープタウン、ライズ・オブ・シードラゴン

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ケープタウン』“Zulu”
フランスで数多くの受賞を果たしているキャリル・フェリー
が2008年に発表し、フランス推理小説大賞やミステリー批評
家賞などを受賞した作品の映画化。因に原作は著者の初めて
英語に翻訳された作品でもあるようだ。
物語の舞台は南アフリカ。アパルトヘイトの記憶も生々しい
この国の最大の都市で不可解な黒人惨殺事件が発生する。そ
の事件の捜査に当たるのは、ズールー族の出身で警部にまで
昇進している刑事アリのチーム。
一方その捜査チームには、酒と女にだらしなく、妻には見放
されて高校卒業を控える息子からも疎まれている白人刑事が
いた。彼は警察署長からクズと蔑まれているがその能力は抜
群でアリの信頼は厚かった。
そして事件は遺体の解剖から麻薬に関係することが判明し、
捜査は海岸地区根と向かう。ところがそこで刑事たちは思わ
ぬ反撃に遭遇。しかもチームの1人が殉職し、署長から睨ま
れていた白人刑事は停職処分に…。
実は映画では、その間の犯罪組織側の動きも描かれていて、
観客にはそれなりの事件の流れも把握されるのだが、物語は
そこからさらに驚愕の事態へと発展して行く。それが南アな
らではという感じなのは、成程と納得できる作品だった。

出演は、『POTC』『LOTR』などのオーランド・ブルームと、
2007年『ラストキング・オブ・スコットランド』でオスカー
受賞のフォレスト・ウィティカー。オーリーはかなり骨太の
役柄だ。
他に、南ア出身のコンラッド・ケンプ、コンゴ生まれで11歳
から南アで暮らしている黒人モデルのジョエル・カエンベ、
2008年4月紹介『スターシップ・トゥルーパーズ3』に出て
いたタニア・ファン・グランらが脇を固めている。
脚本と監督は、2011年2月紹介『ツーリスト』のオリジナル
のフランス映画“Anthony Zimmer”を手掛けたジェローム・
サル。なお脚本は、2006年10月紹介『あるいは裏切りという
名の犬』などのジュリアン・ラプノーとの共同による。
後半の展開はちょっとSFと呼んでもいいくらいのもので、
まあ一種の都市伝説なのだろうが、この国ではこんなことも
あるのかもしれない。それはかなり恐ろしい話だが、それな
りに納得はできたものだ。

公開は8月30日から、東京は新宿バルト9他で、全国ロード
ショウが予定されている。

『ライズ・オブ・シードラゴン 謎の鉄の爪』
“狄仁杰之神都龍王”
2010年製作、2012年に日本公開されたツイ・ハーク監督『王
朝の陰謀』に続く、元駐日オランダ大使でミステリー作家の
ロバート・ファン・ヒューリック原作による「判事ディー」
シリーズ映画化の第2弾。
時は西暦665年、唐朝末期。その時代の皇帝と皇后は敵国・
扶余との戦いに腐心していた。ところが送り出した兵10万の
水軍が謎の黒い影に襲われ、全滅の憂き目に遭う。この事態
に巷では龍王の怒りに触れたとの噂が立ち、人身御供として
美貌を謳われた花魁インが龍王の廟に幽閉される。
その一方で龍王の存在を信じない皇后は、大理寺(最高裁)
の長官ユーチに怪事件の解明を命じる。その猶予は10日間。
その間に事件が解決しない場合は長官自らが処刑されるとい
う過酷な命令だ。
ちょうどその頃、推薦状を携えた判事ディーこと狄仁傑は、
大理寺へ任官のため唐の都・洛陽に向かっていた。ところが
都に足を踏み入れるやディーは怪しい男たちの集団を発見、
直ちに追跡したディーはインの誘拐を阻止する。
しかしその場に表れた怪人にインの身柄を奪われ、その関係
を疑われたディーはユーチによって逮捕されてしまう。その
窮地を若き医官シャトーの協力で脱したディーは真相の解明
に乗り出すが…

シリーズの第2弾とは言っても、アンディ・ラウがタイトル
ロールを演じた前作より前の時代のお話で、本作での主人公
ディー役には2012年8月紹介『ハーバー・クライシス』など
のマーク・チャオが起用されている。
他に、2013年7月紹介『サイコメトリー〜残留思念〜』など
のキム・ボム、2012年7月紹介『画皮 あやかしの恋』の続
編で2013年公開『妖魔伝 レザレクション』などのウィリア
ム・フォンとチェン・クン。
さらに2010年11月2日付「東京国際映画祭」で紹介『ホット
・サマー・デイズ』などのアンジェラベイビー、『王朝の陰
謀』にも出演のカリーナ・ラウ、新人のケニー・リンらが脇
を固めている。
『男たちの挽歌』などを引っ提げてハリウッド進出も果たし
た監督のツイ・ハークだが、元々は『蜀山奇傳/天空の剣』
などVFXを多用した作品で評価を高めた人。本作はそんな
監督が思う存分作り上げたという感じの作品だ。
ただまあ、前作のアンディ・ラウ主演作のイメージを持って
いると、これはちょっと違うかなあという感じもしてしまう
が、本作は中国で大ヒットとのことなので、多分監督はこの
方針でシリーズ化を進めて行くことになりそうだ。

公開は8月。東京はシネマート六本木、シネマート新宿、大
阪はシネマート心斎橋ほかで、全国ロードショウとなる。



2014年06月22日(日) アバウト・タイム、イントゥ・ザ・ストーム、マレフィセント

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『アバウト・タイム愛おしい時間について』“About Time”
2003年12月紹介『ラブ・アクチュアリー』などのリチャード
・カーティス監督によるSFファンにはかなり微妙な感覚の
ロマンティックコメディ。
主人公はイギリス南部に住むちょっと内気な青年。彼は21歳
の誕生日に、父親から重大な事実を告げられる。それは一家
に生まれた男性にはタイムトラヴェルの能力がある…。彼は
教えられたまま少し過去に戻り、失敗の回避に成功する。
こうしてタイムトラヴェルの能力を会得した主人公は、様々
な失敗を修復してより良き人生を歩んで行くが、そんな中で
彼は理想の女性に出会う。そして最初のアタックで成功する
が、それは誤った選択かも知れなかった。

出演は、2010年12月紹介『わたしを離さないで』や、2012年
12月紹介『ジャッジ・ドレッド』にも出ていたドーナル・グ
リーソン。2012年4月紹介『君への誓い』などのレイチェル
・マクアダムス。
さらに、前々回紹介『アイ・フランケンシュタイン』などの
ビル・ナイ、2011年5月紹介『ハンナ』などのトム・ホラン
ダー、今年公開『ウルフ・オブ・ウォールストリート』など
のマーゴット・ロビーらが脇を固めている。
2005年3月紹介『バタフライ・エフェクト』はこの種の作品
の傑作だと思うが、本作はまさしくそのカーティス監督版。
『ラブ・アクチュアリー』さながらのシチュエーションの中
で、絶妙なタイムトラヴェルコメディが展開される。
と言ってもSFファンには微妙かな。せっかくの能力を持ち
ながら歴史を変えるでもなく、それを駆使して金儲けをする
のでもない。でも、こんな風にタイムトラヴェルを使ってい
る奴がいてもいいのかな。
そう考えると、これはカーティス監督流のSFに対する挑戦
状のようにも見えてきた。

公開は9月27日から、全国ロードショウが予定されている。

『イントゥ・ザ・ストーム』“Into the Storm”
2011年9月紹介『ファイナル・デッドブリッジ』のスティー
ヴン・クォーレ監督で、1996年ヤン・デ・ボン監督のヒット
作『ツイスター』を思い出させる最新VFXを駆使した竜巻
映画。
物語の舞台は、アメリカの中西部コロラド州シルバートン。
この町に巨大竜巻の脅威が迫り、その映像を至近距離で撮影
するべく重厚な機材で追跡するトルネードハンターや、アマ
チュアのネット投稿者らが集結する。
一方、その町の高校では卒業式が予定され、教頭はその準備
に追われていた。ところがそこに竜巻の襲来が通告され、さ
らに息子がガールフレンドと共に、その竜巻のコースにある
工場地帯に行っていることを知る。
こうして史上最大の竜巻が迫り来る中、家族の安否を求め、
その命を守るための究極のサヴァイヴァル劇が展開される。
そしてその竜巻の脅威が、トルネードハンターたちによって
記録されて行く。
因にVFXで再現される竜巻の映像は最新の研究成果を反映
したもので、上空で発生した竜巻が着地する瞬間など迫力の
映像が次々に登場する。地球温暖化の影響なのか、竜巻の脅
威は『ツイスター』の時代を上回っているようだ。

出演は、2012年12月及び2013年12月紹介『ホビット』シリー
ズなどのリチャード・アーミティッジ、2003年のP.J.ホー
ガン監督版『ピーターパン』でタイトルロールを演じたジェ
レミー・サンプター。
さらに2013年9月紹介『ウォーキング・デッド』シリーズに
レギュラー出演のサラ・ウェイン・キャリーズ、2010年4月
及び2011年5月紹介『ハングオーバー』シリーズのマット・
ウォルシュらが脇を固めている。
それにしても、これがVFXの進歩と言えるのだろうが、何
しろ映像化された竜巻が凄まじい。『ツイスター』の時も、
タンクローリーや牛が巻き上げられて行くシーンに驚嘆した
ものだが、今回の映像はそれを上回り必見。
お話は前半が多少もたもたするが、竜巻が襲来するとそんな
ものは一気に吹っ飛んで、正に想像を超える映像が展開され
ていた。それを観るだけで充分と言い切れる作品だ。

公開は8月22日から、東京は新宿ピカデリーほか全国ロード
ショウが予定されている。

『マレフィセント』“Maleficent”
1959年のディズニーアニメーション『眠れる森の美女』を、
同作の悪役であった魔女の視点から描いた実写作品。
物語は魔法界の住人であり守護者マレフィセントの若き日々
から始まり、その世界を掠奪者である人間から守る戦いが冒
頭で描かれる。しかしそんな中でマレフィセントは1人の人
間の少年と愛を誓うのだが…。
やがてその少年は人間界の王座に登り詰め、さらに王は魔法
界への侵略を推し進める。そして王家に姫が誕生した日。そ
の祝宴に現れたマレフィセントは幼い姫に最恐の呪いをかけ
てしまう。
オリジナルのアニメーションでは、姫の父王は能天気に描か
れていたが、原作とされる数多くの民話の中には国王が暴君
であったというお話もあるようで、本作はそんな点も巧みに
取り入れて語られているようだ。
とは言えその点を除くと、本作の物語は見事に1959年のアニ
メーションを下敷きにしたもので、そのキャラクターや展開
などには、観ていてニヤリとしてしまう部分が多々登場する
作品になっている。
これは、特にディズニーアニメーションのファンにお勧めの
作品と言えそうだ。

出演は、アンジェリーナ・ジョリーと、2011年6月紹介『ス
ーパー8』などのエル・ファニング、それに2013年5月紹介
『オン・ザ・ロード』などのサム・ライリー。
さらに2013年8月紹介『エリジウム』などのシャールト・コ
プリー、『ハリー・ポッター』シリーズなどのイメルダ・ス
タウントンらが脇を固めている。
因に、オーロラ姫の幼少期はアンジーとブラッド・ピットの
間に誕生したヴィヴィアン・ジョリー=ピットが演じている
が、これは角などのスペシャルメイクを施した魔女の姿に、
他の子役は泣き出してしまったからだそうだ。
そのスペシャルメイクは、大ヴェテランのリック・ベイカー
が手掛けている。
脚本は、『アリス・イン・ワンダーランド』などのリンダ・
ウールヴァートン。監督は2012年12月紹介『ライフ・オブ・
パイ』などのVFXを手掛け、本作で監督デビューを飾った
ロバート・ストロンバーグが担当した。
オリジナルのアニメーションを知っていればいるほど楽しめ
ると言える作品。そうでなくても楽しめるとは思うが、僕は
あらかじめ知っていて良かったと思えた。ただエンディング
に流れる歌声が今風なのはちょっと僕には気になったかな。

公開は7月5日から、2D/3D全国ロードショウとなる。



2014年06月15日(日) フランス映画祭2014

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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 6月27日から30日まで、東京は有楽町朝日ホール及びTOHO
シネマズ日劇にて開催される「フランス映画祭2014」の上映
作品の試写が行われたのでまとめて紹介する。
        *         *
『グレート デイズ! ―夢に挑んだ父と子―』
               “De toutes nos forces”
事前の案内では『フィニッシャーズ』という仮題で紹介され
ていたが、日本公開も8月に決定している作品で邦題が上記
になったものだ。
トライアスロン、その中でも最も過酷なアイアンマンレース
(スイム3.8km、バイク180km、ラン42.195km)に挑戦した父
子の物語。しかもその息子は障害者で、スイムはボート、バ
イクはタンデム、ランは車椅子での参加となる。
元々はアイアンマンレースの選手だった父親。しかし障害を
持った息子が誕生し、レースをあきらめてケーブルカー保守
の仕事に就く。ところが息子が思春期を迎えたころ、父親は
失業し、人生に向き合うことができなくなってしまう。
そんな父親の姿に不安と不満が鬱積する息子は、父親に人生
を取り戻させるため、アイアンマンレースに参加することを
要望する。だがそれは、特に高速で疾走するバイクでは死の
危険も伴う危険な挑戦だった。
オリンピック種目でもあるトライアスロンは、自分が応援し
ているチーム組織にも所属選手がいる関係でそれなりの興味
を持って観た。でも障害者の息子は父親におんぶにだっこな
だけで、最初は我儘にも見えたものだ。
でもそこからの展開が実に巧みで、後半はまさに感動の物語
になって行く。これは上手い作品だなあと感心も頻りの作品
になっていた。
因に上記の仮題は所定時間内にゴールに到達した選手に与え
られる称号で、アイアンマンではこれこそが名誉とのこと。
実はここで編集ミスに気付いたが、映画にはそれを超えての
感動がある。その辺の描き方も見事だった。

映画祭のオープニング作品。8月からの一般公開は、東京は
TOHOシネマズ日本橋ほかで、全国順次の上映となる。

『イヴ・サンローラン』“Yves Saint Laurent”
時代を変えたとも言われる伝説のファッションデザイナーの
姿を描いた作品。この作品は初めてYSL財団の公認を得て
製作されたものだそうだ。
クリスチャンディオールの許で道を歩み出した若者は、師匠
の死後、若くしてその遺志を継ぐことになる。そして頭角を
現したデザイナーはやがて自らのブランドを立ち上げ、それ
を世界的なブランドに築き上げて行く。
そんな天才デザイナーの姿を、彼に思いを寄せるトップモデ
ルの存在や彼自身の性癖なども赤裸々に描写しながら、その
生涯を描き上げて行く。しかもそこには財団の全面的な協力
の許、当時のファッションが全て現物で登場するものだ。
とは言うものの、当時を覚えているその目でここに登場する
ファッションを見ていると、ファッションに疎い男の目にも
やはり時代の変化は感じられるもので、それがまたファッシ
ョンの歴史を見る上では貴重な作品とも言えそうだ。
その一方で彼の性癖に関する描写では、これを財団がよくも
公認したものだと驚くほどの実像が描かれており、これも時
代の変化かなあとも感じてしまう。それを平気で描けるほど
に文化として定着したのかな。
もっとも日本のファッション評論家と称している中にもそれ
を装っている連中が多いが、本作を観ているとその本質の違
いは如実なもので、猿真似ではない実像が描かれているとも
言えそうな作品だ。

一般公開は9月6日より、東京は角川シネマ有楽町、新宿武
蔵野館、シネマライズ他、全国ロードショウとなる。

『バツイチは恋のはじまり』“Un plan parfait”
この作品も案内では“Fly Me to the Moon”という英語題名
になっていたが、上記の邦題になったようだ。因にこの邦題
はテレビタレントが付けたそうで…。
1度目の結婚は必ず失敗し、2度目で幸せになれるという呪
いを持った一家の女性が、10年付き合った最愛の男性との幸
せな結婚を目指し、まずその前にバツイチになる決意をして
大奮闘を繰り広げるというラヴコメディ。
2011年10月30日付「東京国際映画祭(1)」で紹介し、その
後の日本公開でも大ヒットした『最強のふたり』の製作スタ
ッフによる作品とのことで、なるほど比較的軽いテーマの割
にはシビアな視点も感じられた。
とは言え展開はかなりのドタバタ調で、その辺にはフランス
コメディの伝統みたいなものも感じられて、僕にはちょっと
ノスタルジックな感覚も生じた。しかもそれがまさに世界を
股にかけて繰り広げられる。
いや、正直には何と捉えてよいのか判らない作品なのだが、
取り敢えずは主演のダイアン・クルーガーの奮闘ぶりを見る
だけでも楽しめる作品。観れば面白く、それが楽しめること
だけは間違いない。

一般公開は9月20日より、東京はヒューマントラストシネマ
有楽町ほかにて上映となる。

『バベルの教室』“La cour de Babel”
パリ市内にある中等学校の適応クラス。そこに集まった11歳
から15歳までの人種も言語も異なる24人の生徒たちを追った
ドキュメンタリー。
教室には中東やアフリカ、さらに中国人の子供も居て、言葉
の違う子供たちが集まっているというもので、原題も同じと
思われる作品のタイトルには納得させられた。
とは言えこの年代の子供たちはそれなりにフランス語も喋れ
ているようで、聖書のような混乱が生じるものではないが、
各地の挨拶の言葉の意味を考えるシーンでは、同じ言葉を使
う中東とアフリカの間で確執が生じるなど、それなりに世界
情勢を反映している面も紹介される。
そんな子供たちが共同作業で映画作りをしたり、様々な活動
を通じて互いを理解して行く姿には、これこそが今の世界に
必要なことではないかという思いも生じてくる。
それにしても日本だと、アメリカンスクールがあったり、中
華学校や朝鮮学校など、それぞれの民族が独自の学校を開い
て子供の教育を行っているものだが、フランスではこのよう
な教育制度が整っているているという事実にも感心した。
ただし本作は、子供たちの姿を追うことを中心にしているた
め、この様な制度が生まれた背景などには触れておらず、上
記の日本の状況を考えた場合に、もっと何か得られるものが
あったのではないかという思いは残った。
また教室を指導する女性教師の奮闘ぶりなどは映画に表れて
いる以上のものがあるのでは…とも感じさせるが、その辺が
観ていて物足りなくは感じられた。それと作品の中で子供た
ちが制作した映画も機会があったら観てみたいものだ。

一般公開は、2014年晩秋に予定されている。

『友よ、さらばと言おう』“Mea culpa”
2009年12月紹介『すべて彼女のために』や、2011年7月紹介
『この愛のために撃て』のフレッド・カヴァイエ監督による
最新作。
前の2作品はいずれも夫婦愛を中心したものだったが、本作
の中心にいるのは2人の男性。元は同じ警察署で同僚の優秀
な刑事だった2人が、ある出来事から一方は服役し、家族か
らも見放される。しかしその家族に危機が迫った時…。
かなり骨太のアクションで、前の2作も主人公の活躍という
点ではアクションも激しかったが、本作ではさらにそこに磨
きがかかっている感じの作品だ。しかも映画の後半はTGV
の車内が舞台で、これが鉄道ファンには堪らなかった。
フランス国鉄が誇る高速列車であるTGVは、今までにも走
る姿などは登場していたが、ここまで車内が克明に描写され
たのは初めてではないかな。しかもそこでアクションが展開
されるのだから、これはもうワクワクし通しだった。
さらにはVFXを絡めたシーンもふんだんにあって、正しく
映画の中でTGVを堪能できる作品。もちろんアクション映
画としても一級の作品だし、微妙な人間関係など、様々な面
で優れたエンターテインメントと呼べるものだ。

一般公開は8月。東京は新宿武蔵野館ほか、全国順次ロード
ショウとなる。

『暗くなるまでこの恋を』“La Sirène du Mississipi”
フランソワ・トリュフォー監督、ジャン=ポール・ベルモン
ド、カトリーヌ・ドヌーヴ共演の1968年作品が、ディジタル
リマスターにより映画祭で上映される。
インド洋に浮かぶフランス領レユニヨン島。その島でタバコ
工場を営む主人公は、写真交換だけで知り合った女性を花嫁
として迎える。しかし現れたのは写真とは異なる風貌の女性
だった。
ところがその女性は、恥ずかしいから友人の写真を送ったと
告白し、それを信じた主人公は彼女と挙式するが…。それは
転落への第1歩だった。
原作はアメリカの推理作家コーネル・ウールリッチがウィリ
アム・アイリッシュ名義で発表した『暗闇へのワルツ』。悪
の道と判りながらも転落して行く男女の哀しい物語が綴られ
て行く。
フランス・ヌーヴェル・ヴァーグの旗手の1人とも称された
トリュフォーは1966年にはイギリスで『華氏451』を完成
させ、その2年後の本作ではベルモンド、ドヌーヴという当
時の2大スターを起用。正に絶頂期の作品と言える。
その本作では、トリュフォーが憧れるアメリカの監督アルフ
レッド・ヒッチコックを真似たかのようなロマンティック・
ミステリーを展開させ、これもトリュフォーの思い通りとい
う作品だろう。
撮影も南海の島から雪のアルプスまで縦横に行われており、
その豪華さにも目を見張る作品だった。

一般公開は10月11日より。「没後30年 フランソワ・トリュ
フォー映画祭」の一環として、東京は角川シネマ有楽町にて
3週間限定ロードショウとなる。

『スザンヌ』“Suzanne”
昨年の東京国際映画祭で紹介され、今年4月に一般公開され
た『アデル、ブルーは熱い色』のアブデラティフ・ケシシュ
監督による最新作。
上記の作品は一般公開時の試写で観させてもらったが、間違
いなしの話題作で、他でも取り上げられる機会は多いと思わ
れ、ここで宣伝しなくても良いだろうと判断した。その監督
の新作は前作にも増した問題作だ。
主人公は父子家庭に育った少女。強い絆で結ばれた妹と不器
用だが愛情一杯の父親と暮らしていたが、思春期になりふと
付き合った不良少年の子供を身ごもってしまう。そして転落
の人生が始まってしまうが…
自分自身が娘の成長を見守ってきた父親として、本作の父親
の心情は手に取るようだった。正直に言って娘にとって自分
の存在が如何様なものであったかは判らないが、一所懸命に
頑張る父親の姿は僕の胸を揺さぶるものだった。
ただし監督は女性で、その視点はあくまで娘の側にあるが、
それでもここに描かれる父親の姿は、僕にとっては全く他人
事ではないと考えさせられた。勿論本作の観客のターゲット
は女性が想定されており、その点での判断はできない。
しかし僕自身が子育てを終えた父親の立場で観て、本作は納
得し、感銘を受ける作品だった。

なお本作は映画祭の最終日(30日)に上映されるが、日本で
の一般公開は予定されていない。

『俳優探偵ジャン』“Je fais le mort”
2004年にキャラクターの生誕100周年記念として製作された
『ルパン』(Arsène Lupin)などのジャン=ポール・サロメ
監督によるノアール・コメディ。
主人公は若くして新人賞は受賞したものの、その後は思うよ
うな仕事に恵まれないまま中年になってしまった俳優。そん
な男がハローワークで紹介されたのは、俳優向きではあるが
ちょっと変わった仕事だった。
それは殺人事件の現場検証で死体を演じるというもの。報酬
もそれなり、しかも現場はリゾート地ということで、主人公
は気軽に現地に向かうのだが…、被害者の気持ちも理解して
演じると主張する主人公は予審判事と衝突を繰り返す。
そんな中で主人公は、徐々に事件の矛盾に気づき始める。
かなりドタバタ調の部分もあるコメディ作品だが、謎解きな
どはそれなりで楽しめた。でも多少中途半端かな。元々より
コメディに弱い日本では一般公開は決まっていないようだ。
どうせなら昔のルイドフィネスのようなぶっ飛んだ作品も観
たくなったものだ。

なお本作は映画祭の第3日(29日)に上映される。
        *         *
 この他に今年のフランス映画祭では、
『2つの秋、3つの冬』“2 automnes 3 hivers”
『ジェロニモ―愛と灼熱のリズム―』“Geronimo”
『素顔のルル』“Lulu femme nue”
『間奏曲はパリで』“La ritournelle”
という4作品も上映される。
 実はこれらの作品の試写も行われたのだが、ちょうどその
時期に体調を崩してしまい、観に行くことができなかった。
しかもこれらの作品は日本での一般上映が決まっておらず、
本来ならこれらの作品こそ押さえたかったのだが。
 ただし今年は、これら日本公開の予定のない作品を各地で
上映する計画があるとのことで、全国の映画ファンに観て貰
える機会があるのは喜ばしいことだ。従って余計にこれらの
作品を紹介しておきたかったのだが、申し訳ない。
 なお各地での上映に関しては、「フランス映画祭2014」の
公式ホームページでも紹介されているのでご参照ください。



2014年06月08日(日) アイ・フランケンシュタイン、ALL YOU NEED IS KILL、ドライブイン蒲生

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『アイ・フランケンシュタイン』“I, Frankenstein”
詩人の妻メアリー・シェリーが19世紀前半に発表した怪奇小
説に基づき、2003年11月紹介『アンダーワールド』の原作者
としても知られるケヴィン・グレヴィオーが新たに創作した
グラフィックノヴェルを映像化した作品。
物語の始まりは19世紀初頭。若き科学者ヴィクター・フラン
ケンシュタインは墓場から掘り出した死体を繫ぎ合わせて理
想の体を作り出し、そこに生命を吹き込むことに成功する。
しかしその生命体は怪物と化し、科学者への復讐を遂げた末
に北極圏へと姿を消す。
一方、地上では神の許を追われた堕天使と、神に遣わされた
ガーゴイルとの間で長い戦いが続いていた。しかし消耗戦に
終始したその戦いにはガーゴイル側の勝利が近づいていた。
ところがそこにヴィクター・フランケンシュタインの生命体
が200年を経た今も生存している事実が判明する。
それは堕天使側には起死回生の秘策となり得るもの。こうし
て200年を生き延びた生命体に新たな試練が開幕する。それ
は人類の存亡を賭ける究極の戦い。その戦いに、人間社会へ
の参加を拒否され、自らの人間性を否定せざるを得なかった
生命体が巻き込まれて行く。

主演は、2012年4月紹介『ラム・ダイアリー』や2013年4月
紹介『エンド・オブ・ホワイトハウス』などのアアロン・エ
ッカート。
これに2012年3月紹介『キラー・エリート』などのイヴォン
ヌ・ストラホフスキー、2003年2月紹介『LOTR/二つの塔』
などのミランダ・オットー、『POTC』シリーズなどのビル・
ナイらが共演し脇を固めている。
監督は、2009年6月紹介『30デイズ・ナイト』の脚本など
で知られるスチュアート・ビーティ。因にビーティは第2作
以降の『POTC』のストーリーなども手掛けており、監督は本
作が2作目とのことだ。
昔のホラー映画ファンだと、「フランケンシュタインは彼を
作り出した科学者の名前で、怪物には名前はない」と何度も
言った経験がある。そこにこの題名はかなり抵抗感があった
が、映画を観てなるほどと思わせるのは上手いところだ。
映画の製作フタッフには『アンダーワールド』の関係者も多
くいて、映画全体の雰囲気も似通う作品だが、これは物真似
ではなくそれが狙いの作品だろう。ただしお話自体は『アン
ダーワールド』ほどどろどろしていなくて判り易かった。

公開は9月6日から予定されている。

『ALL YOU NEED IS KILL』“Edge of Tomorrow”
「SFマガジン読者賞」を受賞したこともあるという桜坂洋
の原作を、トム・クルーズ主演、2002年11月紹介『ボーン・
アイデンティティー』以降の全3部作などを手掛けたダグ・
ライマン監督で映画化した作品。
物語の舞台は、異星人の攻撃が続いているヨーロッパ戦線。
ドイツに発した侵略は、地中を潜行して突如戦場に現れる敵
の戦法に翻弄され、地球人側の最前線はドーバー海峡にまで
後退しているようだ。
そんな中、地球連合軍の広報担当将校だった主人公はイギリ
スの司令本部を訪れる。ところがそこで司令官の不興を買っ
た主人公は、身分をはく奪された上に脱走兵として最前線に
向う突撃部隊に編入されてしまう。
こうして激戦の場に放り込まれた主人公は、何とか戦場を彷
徨う内に偶然敵の一体を倒すが…。その直後に襲撃されて死
んだはずの彼が目覚めたのは、自分が突撃部隊に編入される
直前の時点だった。
そんなことが何度か繰り返され、自分が時間ループにいると
知った主人公は徐々に戦線の奥に侵入。そこで伝説の女性兵
士に出会った主人公は、「今度目覚めたら私を探しなさい」
と命じられる。
果たして彼の存在は、地球を危機的な戦況から救うための切
り札となるものなのか?

共演は、2012年10月に紹介した同じく時間ものの『LOOPER』
にも出ていたエミリー・ブラント。本当は2006年『プラダを
着た悪魔』などの…と書くべきのようだが、今回もジャンル
作品に出ているというのは本人が好きなのかな?
他に、2002年10月紹介『フレイルティー/妄執』などのビル
・パクストン、『ハリー・ポッター』シリーズでマッドアイ
・ムーディ役などのブレンダン・グリースンらが脇を固めて
いる。
本作の展開で主人公の死はPCゲームにおけるリセットボタ
ンであって、つまりアクションRPGなどでいろいろな攻略
法を探りながら失敗したらリセットして最初からやり直す…
そんな気分が描かれている作品だ。
実際に原作者の桜坂はゲームマニアだそうだから、そんな中
から着想は得ているのだろう。そしてそれは小説や映画では
確かに珍しい展開だし、それが評価されてハリウッドの大作
にまで上り詰めたのは素晴らしいところだ。
ただし、その後に事情に精通した博士が登場したり、それに
よって劇的な進展がもたらされるのは、物語の展開としては
ちょっと安直な感じがしてしまうし、もっと別の話の進め方
があったのではないかとも考えてしまう。
他にも、最後の攻撃の前ではもっと主人公に葛藤があっても
よいようにも感じるが、所詮ライトノヴェルと言うことでは
この程度が読者に合わせたレヴェルなのだろう。もっともこ
の辺の話は原作にどこまで書かれているのか不明だが。
因に
映画の脚本は、1995年『ユージュアル・サスペクツ』で
オスカー受賞のクリストファー・マッカリーと、ライマン監
督の2010年『フェア・ゲーム』を担当したジェズ&ジョン=
ヘンリー・バターワースが手掛けている。
公開は7月4日から、2D/3Dで全国一斉のロードショウ
となる。

『ドライブイン蒲生』
2011年10月紹介『指輪をはめたい』の原作者でもある芥川賞
作家伊藤たかみによる同名の小説の映画化。
物語に登場するのは、街道沿いの寂れたドライブインに居る
蒲生家の姉弟。ドライブインは父親の経営だが、特にうまい
料理を出す訳でもなく客足は途絶えている。因に蒲生家は、
船客相手のくらわんか船の末裔だそうだ。
そんな蒲生家の父親はいつも飲んだくれて、それに反発する
姉は髪を染めヤンキーの道を歩んでいる。反発しても何もで
きない苛立ち…。そして妊娠した姉は家を飛び出す。そんな
一家は、周囲からバカと蔑まれ続けている。
やがてその父親が亡くなり、姉が幼娘を連れて帰ってくる。
久し振りの再会で言葉を交わす姉弟。その胸に去来するのは
何故か大嫌いだった父親の姿だった。そして葬儀の後、姉は
DV夫との最後の話し合いの席に向かう。

出演は、2012年10月紹介『横道世之介』などの黒川芽以と、
2010年10月紹介『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』など
の染谷将太。それに友情出演の永瀬正敏。他に猫田直、平澤
宏々路、吉岡睦雄、小林ユウキチらが脇を固めている。
監督は、永瀬の映画デビュー作『ションベン・ライダー』の
カメラマンだった田村正毅。本作は75歳での監督デビュー作
(たむらまさき名義)となっている。脚本は、たむらが撮影
を担当した『ゲゲゲの女房』などの大石三知子。
自分にも娘と息子の2人姉弟がいるから本作の親の立場は気
になるところだ。自分は周囲から蔑まれるようなことはして
いないと思うが、自分のしてきたことに対して子供たちが本
心で何を思っているかなどは判らない。
だからこの父親が無骨ながらも子供たちを愛しているのに、
それを子供たちに理解されない姿と言うのは、やはり胸に突
き刺さってくる作品だった。もちろん自分はこんなではない
と信じているにしても。
正直なところは、映画の前半は飲んだくれの父親とヤンキー
の娘という図式で、またそんな作品かという思いだった。し
かし映画が進むに連れ父親の無骨な愛情が仄かに見え始め、
それが物語に1本の筋を通して行く。
そんな微妙な家族の生き様が描かれた作品。それはある種の
昭和ノスタルジーであるのかも知れず、そんなことが昭和人
である自分には心地よさにも繋がったかも知れない。それが
若い観客にどのように伝わるのかは判らないが。

公開は8月2日から、東京は渋谷のシアター・イメージフォ
ーラム他、全国順次上映となる。



2014年06月01日(日) ブラジリアン・ホラー、インフェルノ 大火災脱出

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『デス・マングローブ ゾンビ沼』“Mangue Negro”
『吸血怪獣 チュパカブラ』“A Noite do Chupacabras”
『シー・オブ・ザ・デッド』“Mar Negro”
W杯の開幕も間近になる中、何とブラジリアン・ホラーと称
する3作品が連続公開されることになった。作品はいずれも
1977年生まれロドリゴ・アラガォン監督のもので、宣伝文に
「4tトラック1台分の血」と書く鮮烈なスプラッターだ。
『ゾンビ沼』は2008年の監督デビュー作。舞台はマングロー
ブ林に囲まれた小さな漁村。昔は沼で獲れる蟹や牡蠣などの
漁で活況だったようだが、水質汚染で沼の生物は壊滅、村も
不況に喘いでいる。そして僅かに獲れる沼の貝を食べた人々
に異変が起き始める。
登場するゾンビはロメロタイプで、その辺は好ましい作品だ
った。ただ物語にはゾンビ以外の要素も多々あって、ゾンビ
自体をもう少し丁寧に描いて欲しかったかな。とは言えゾン
ビ相手のスプラッターはそれなりに描かれており、その手が
好きな人には満足と言えそうだ。
『チュパカブラ』はデビュー作が各地の映画祭などで好評の
中、2011年に発表された作品。舞台はジャングルの奥の村。
その村では長年2つのファミリーが土地を巡って争っていた
ようだ。そんな村に都会に出ていた若者が妊娠した女性を連
れて帰ってくる。
ところが家畜の世話に出ていた若者の父親が惨殺死体で発見
され、若者の兄弟たちは相手ファミリーの仕業と思い込む。
こうして2つのファミリーの抗争が激化するのだが、実はそ
の事件には全く別の側面が隠されていた。題名のチュパカブ
ラは半魚人のようなクリーチャーで登場する。
『シー・オブ・ザ・デッド』は2013年の監督最新作。原題が
デビュー作に似ているが、デビュー作はウェブで翻訳すると
「暗い沼」、本作は「暗い海」となるようだ。で、お話もほ
ぼデビュー作の焼き直しだが、この作品も様々な要素が絡み
合って、かなり強烈な作品になっている。
ブラジル映画に関しては、僕の個人的には2002年11月4日付
「東京国際映画祭」で紹介した『シティ・オブ・ゴッド』の
印象があまりに強烈で、ドキュメンタリータッチの厳しい内
容のものという感覚になってしまう。
そんな目で観ると、今回の3作品にどこか共通するところも
あるのかな。『シティ・オブ・ゴッド』がただのアクション
ではないくらいの…、本作にもただのスプラッターではない
ような感覚は味わえた。
それに音楽に使い方などが、何となく昔の日本の怪獣映画を
観ているような感覚で、ノスタルジーではないけれど、何か
不思議な感覚にも囚われたものだ。因に個人的には、因習の
絡まった『チュパカブラ』が一番面白く感じられた。

公開は『チュパカブラ』が6月7日〜9日、『ゾンビ沼』が
6月10日〜13日、『シー・オブ・ザ・デッド』は6月14日〜
27日に、東京渋谷ユーロスペースにてレイトショウされる。

『インフェルノ 大火災脱出』“逃出生天”
4月に「初夏のパン祭り」を紹介したばかりのダニー&オキ
サイド・パン兄弟脚本・監督・製作による高層ビルパニック
/アクション作品。
舞台は中国広州の商業センタービル。登場するのはそのビル
にオフィスを構えるクンと広州消防隊に勤務するダーグン。
2人は兄弟で以前は同じ消防署に勤務していたが、弟のクン
は消防隊による人命救助に限界を感じて民間会社に転身した
後、自ら火災防衛の会社を設立したのだ。
一方、兄のダーグンも妻の妊娠を機に危険な任務の辞職願を
提出していた。ところがそこに高層ビル火災の一報が入る。
そのビルには転身以来疎遠だった弟のオフィスがあり、また
妻の通う産婦人科も所在していた。こうしてダーグンは最後
のそして最も危険に任務に向かうことになる。

ダーグンを演じるのは2012年12月紹介『奪命金』などのラウ
・チンワンと、クンを演じるのは2012年7月紹介『強奪のト
ライアングル』などのルイス・クー。現在の香港映画界を牽
引する二大スターの共演だ。
他にパン兄弟の出世作『The EYE』に主演したアンジェリカ
・リー、2012年11月紹介『ブラッド・ウェポン』などのクリ
スタル・リー、「初夏のパン祭り」中『冷血のレクイエム』
などのチョン・シウファイらが脇を固めている。
高層ビルパニックという内容情報でこの邦題を見ると、僕ら
の世代では特に片仮名の部分で、1974年『タワーリング・イ
ンフェルノ』を思い出してしまう。そんなことを気にしなが
ら作品を鑑賞していると、これが実にパニック映画の名作に
思いを寄せる作品だと理解できた。
実際に、2人の主人公がビジネスマンと消防隊長というのは
オリジナルと同じ(それが兄弟なのは監督たちの反映?)だ
し、火災の発端が電気系統であったり、その後も隣のビルか
ら空中の脱出路が作られるなど、オリジナルを意識した状況
が次々に登場する。特に結末にはニヤリとさせられた。
これはもはやパン兄弟による『タワーリング…』へのオマー
ジュ以外には考えられなくなったものだ。しかも結末では現
代には即さなくなった部分を、巧みにアレンジして現代化し
ている。
その一方で映像には、パン兄弟が名を上げたタイのスタッフ
が協力して、お得意の爆発シーンはそれは見事に描かれてい
る。さらにオリジナルの当時はなかったCGIの炎には、何
と言うか怪しい艶めかしさがあって、これもパン兄弟の演出
と言えそうだ。
物語には中国映画らしい人情味もたっぷりあり、最近は同種
の作品が他国からも公開されているが、本作はその中でも群
を抜く一級のエンターテインメントと言える作品だ。

公開は6月21日から、東京はシネマート六本木ほかで、全国
順次ロードショウとなる。


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井口健二