井口健二のOn the Production
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2012年06月24日(日) 闇金ウシジマ、これは映画、ハイザイ、フクシマからの風、ディクテーター、メリダとおそろしの森、コロンビアーナ、フランス映画祭短編集

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『闇金ウシジマくん』
2011年小学館漫画賞を受賞した真鍋昌平原作漫画の実写映画
化。なお本作は2010年10月にテレビの深夜ドラマ化もされて
おり、本作はそのドラマ化と同じ山田孝之が主人公の丑嶋を
演じている。
その丑嶋が関る今回の物語は、大学生主体でイヴェントを仕
掛ける若い男を描く。彼自身は学生ではないが、イケメンの
男子学生を組織し、そこに群がる女性たちを利用して企業の
パーティなどを盛り上げる。その人脈で伸し上がるのが彼の
夢だ。
そしてもう1人。母親が丑嶋の取り立てに追われている若い
女性。彼女自身は僅かなアルバイト料でささやかな暮らしに
満足していたが、母親の借金の返済から徐々に金の稼げる危
ないアルバイトに進んでしまう。
そこに謎の男・肉蝮や暴走族の総長・石塚、美人局の根岸ら
が絡んで、丑嶋と警察、弁護士との関係や、若い男が主催す
るパーティ・イヴェントの裏側で進行する金を巡る様々な事
件が描かれて行く。

共演は林遣都、大島優子。他に崎本大海、やべきょうすけ、
岡田義徳、ムロツヨシ、鈴之助、内田春菊、市川隼人、片瀬
那奈、黒沢あすか、新井浩文。さらに金田明夫、古舘寛治ら
が脇を固めている。
製作、脚本、監督はテレビシリーズでの企画、製作、脚本、
演出も手掛けた山口雅俊。映画の監督は初めてのようだが、
2011年9月紹介『スマグラー』の企画、製作、脚本なども手
掛けている。また本作の脚本には今年2月紹介『幸運の壺』
の福間正浩も名を連ねている。
映画の始まりは如何にも拝金主義の若者風俗のような描き方
で、それはかなり嫌みな部分を見事に描き出す。そしてそこ
に丑嶋が登場してその嫌みな部分を打っ飛ばす。そんな感じ
が映画の全体のトーンになっている。
それは、現代の若者風俗に対する批判のようでもあり、それ
なりに良識も感じさせるものになっていた。その点では僕は
本作に悪い感じは持たなかったし、むしろ共感を覚える感じ
だった。


『これは映画ではない』“این فیلم نیست‎”
2007年5月紹介『オフサイド・ガールズ』で、ベルリン国際
映画祭のグランプリを受賞したイランの反体制映画監督ジャ
ファール・パナヒが映画製作を禁じられた自宅軟禁中に制作
した「映画ではない」作品。
監督は、2010年3月に新作映画の制作準備中を拘束され、同
年12月「イラン国家の安全を脅かした罪」により、6年間の
懲役と、20年間の映画製作の禁止、出国禁止、マスコミとの
接触禁止という一審判決を受け、現在は自宅軟禁中。
本作は昨年3月の火祭りの夜に自宅内で撮影され、完成され
た作品はUSBファイルに納められてとある知人の手で国外
に持ち出され、昨年5月のカンヌ国際映画祭でプレミア上映
された。
作品の内容は、監督が友人のミルタマスブ監督を自宅に呼ぶ
ところから始まり、過去に準備していた脚本の朗読や、床に
テープで間仕切りをして一部を演じてみせるシーンなど。さ
らにそこに現れる闖入者やペットのイグアナ、窓からの風景
などが写されている。
その撮影は、もしかしたら周到に準備された演出かも知れな
いが、映画の中では偶然のように見えるものになっている。
しかしその中では現政府に対するプロテストの意志も明白に
見えるものだ。
前回紹介の『オロ』の中でもチベットの反体制映画監督のこ
とを書いた。その監督の作品は観ていないが、紹介文による
と作品の全体的な構成は街頭インタヴューを纏めたもののよ
うだ。
それに対して本作は実に様々な要素を持った内容で、そこに
は単なるプロテストだけではない芸術的な要素も含まれてい
る。その芸術的なものが「イラン国家を脅かす」かどうか、
政府はそれまでも禁止するのか、そんな理不尽さも見事に描
かれている。

なお監督は2011年10月の控訴審でも破れ、現在は自宅軟禁中
だが近々収監の恐れもあるようだ。収監されたら懲役6年、
当然その間は本作のような作品も撮れない訳で、監督の今後
にも不安が募るものだ。

『ハイザイ〜神さまの言うとおり〜』
今年3月開催された沖縄国際映画祭の長編プログラムLaugh
部門に出品された作品。
物語の舞台は、沖縄県北谷町にある観光スポット・デポアイ
ランド。アメリカ西海岸を模したらしいカラフルなショッピ
ングモールの中にある占いショップを起点に、3組の男女の
物語が交錯する。
その1組目は、占いショップで万引きをしようとしたアラサ
ー女性と、親分から占い師を拉致してこいと命じられた若い
組員。女性は万引きを隠すために店主だと嘘を吐き、組員に
拉致されてしまう。そして女性は言葉巧みに組員を懐柔しよ
うとするが…
2組目は、東京からやってきた代理店勤務の男とその彼女。
占いショップが閉店でモールをぶらつく男の頭に小石がぶつ
けられる。それを昔つきあった沖縄女性のサインと思った男
は、気もそぞろになるが…
3組目は高校生の女子2人。その1人がこっくりさんで余命
10年と出てしまい、気分直しにモールに出掛けてきたが、彼
女には10の数字がつきまとう。そして周囲で事件も起き始め
るが…。こんな3組の物語が、相互に微妙に交錯しながら展
開されて行く。
タイトルは、沖縄方言の「ハイサイ」(=挨拶の言葉)と、
「天の配剤」のダブルミーニングのようだが、副題を考える
と後者の意味合いの方が強いようだ。そんなちょっとミラク
ルも入った物語が展開される。

出演は、2011年6月紹介『極道めし』などの落合モトキと、
2010年6月紹介『ちょんまげぷりん』などのともさかりえ。
2010年3月紹介『瞬』に出演の深水元基と、2011年『シャッ
フル』などの吹田早哉佳。
それに沖縄のダンスボーカルユニット「ラッキーカラーズ」
のAlisaとMIINA。他に漫才コンビ笑い飯の西田幸治、本作の
音楽も担当するスネオヘアーらが脇を固めている。
映画の中では、落合とともさかの物語が雨天の乗用車の中と
いうほとんど動きの取れない状況での会話劇で、心理描写や
伏線などもあって巧みに作られている。その他の物語も面白
いが、映画の中心はこの部分と言えそうだ。

脚本は、株式会社電通で「かっぱ寿司宇宙人シリーズ」など
を手掛ける泉尾昌宏、監督はその泉尾と、沖縄でTVCMを数多
く手掛ける福永周平が担当した。

『フクシマからの風/第一章 喪失あるいは蛍』
東京電力福島第1原子力発電所による被災者の姿を追ったド
キュメンタリー。
映画は住民集会での発言の模様から始まる。そこでは、避難
したくても家畜を置いて行けない酪農家の窮状や、避難勧告
に対する自治体の対応の遅れに対する非難、不信感などが色
濃く描き出される。そしてお決まりの土下座。
そこからカメラは昨年春夏の時点での福島原発の周囲に暮ら
す人々の姿を追って行く。そこには野草や薬草を移植し育て
ながら研究している老人や、被災後に妻を亡くしてドブロク
作りが唯一の楽しみという老人。
さらに1970年代から自給自足の村造りをすすめ、毎年夏祭り
をしてきたという壮年男性。そして3年前に夫を亡くし、以
前に暮らしていた被災地の山間の家に戻って来て、蛍の棲む
里を復活したいと考える女性などが登場して、それぞれの今
を証言する。
そして、樹上に生み付けられたモリアオガエルの卵や青々と
した木々の美しさなど、自然が人間に与えてくれた素晴らし
い景色が映像としてもスクリーンに定着されている。しかし
そこには原子力災害の影が忍び寄っている。
取材先のいくつかが、後日の再取材では人影が見られないの
は住民の強制避難によるためなのか、その辺は本作ではまだ
明らかにされていない。しかしそこに漂う無気味な雰囲気は
伝わってくる。その謎は「第二章」で明らかにされるのか?
国が自己の責任の所在を明らかにしないまま、次々に原発の
再稼動を進める理由は何なのか、ましてや昨年以降、原発な
しで多少の不便はあっても人々の基本的な生活に問題は生じ
ていない現状で、敢えて再稼動をする理由とは…
本作の題名は、東京に住む筆者にとってはかなりブラックな
感じにも取れるものだ。実際に作品の内容もそんなブラック
な側面も感じさせる。恐らくこれは確信犯的に付けられてい
るのだろう。「フクシマ」が片仮名なのにもそれが感じられ
た。

監督は、2002年に青森県六ヶ所村の原子力施設問題を描いた
『田神有楽』を発表している加藤鉄。元々は加藤哲の名前で
劇映画も発表していた1951年生まれの監督が描く作品は、今
も取材が続いているようだ。

『ディクテーター 身元不明でニューヨーク』
                   “The Dictator”
2007年4月紹介『ボラット』などのサシャ・バロン・コーエ
ン製作、脚本、主演による猛毒の爆笑コメディ。コーエンは
2008年1月紹介『スウィーニー・トッド』や2011年12月紹介
『ヒューゴの不思議な発明』などの俳優でもあるが、本作こ
そが彼の本領だ。
主人公は、とある大陸の北東部に位置するイスラム国の独裁
者。彼が治める国は産油国だが、核開発疑惑があるため輸出
は禁止されている。しかし独裁者はハリウッドのセレブを寝
室に招くなど何処吹く風の豪華な生活だ。
とは言え、側近の進言で国連総会で演説をすることになり、
一躍ニューヨークへと向かうのだが、そこには飛んでもない
陰謀が待ち構えていた。こうしてトレードマークの髭を奪わ
れ、身元不明で街に放り出された独裁者は…
映画では、最初に「金正日に捧ぐ」というテロップが掲げら
れ、正にそういう感じの横暴な独裁者の姿が描かれる。しか
もそこに民主化を餌にした陰謀などが描かれるのは、矛先が
独裁者だけではないところにもあるものだ。

共演は、1983年『ガンジー』でオスカー受賞、『ヒューゴの
不思議な発明』などのベン・キングズレー、2011年1月紹介
『ヨギ&ブーブー』などのアナ・ファリス。他に2007年『ト
ランスフォーマー』などのミーガン・フォックス、エドワー
ド・ノートン、ジョン・C・ライリーら多彩なゲスト出演も
あったようだ。
監督は『ボラット』も手掛けたラリー・チャールズ、脚本に
も、コーエンに加えてアレック・バーグ、デイヴィッド・マ
ンデル、ジェフ・シェウファーらの『ボラット』のスタッフ
が名を連ねている。因に脚本家の3人は元『ハーヴァード・
ランプーン』のライターだそうだ。
なお、本作はすでに公開された全米を含む世界25カ国でNo.1
ヒットを記録したが、同時に世界の11カ国で上映禁止処分に
もなっているそうだ。そんな猛毒の作品だが、まあ日本人に
はそれほど切実にならずに笑えるかな。
それに物語の全体に良い意味の人間性が描かれているのも、
気に入ったところだ。

『メリダとおそろしの森』“Brave”
1986年にスティーヴ・ジョブスの資金提供によりルーカス・
フィルムのCGI部門が独立して誕生したPixar社の25周年
記念となる作品。
物語の背景は中世の王国。その王国の王女として生まれたメ
リダは、幼い頃の誕生日プレゼントに弓矢をねだるような活
発な女の子だ。しかし母親は、しっかりした教養とマナーを
身に付けることを願い、メリダの行動にはいろいろと注文を
付ける。
そしてついにメリダの婚約を進めることにし、慣例に従って
王国を治める3人の領主の息子の競技会を開催して結婚相手
を選ぶことにするのだが…。まだ結婚など先のことと考える
メリダはこっそり城を抜け出してしまう。
そして運命を示すと言われる鬼火の後を付けて森の奥に進ん
で行ったメリダは、怪しげな小屋を発見。小屋にいた老婆を
魔女と見破ったメリダは、運命を変えるあるものを手に入れ
る。しかしそれはある呪いの品でもあった。
2006年以降はディズニーの傘下となっているPixar社だが、
ディズニーの定番とも言えるプリンセスストーリーを描くの
は今回が初めて。ただしPixar作品の物語はすべてオリジナ
ルの方針に基づき、本作ではちょっと型破りなプリンセスが
登場する。
しかし物語の根底には家族の絆や、家族を守るために行動が
描かれ、そこにちょっとした魔法が加わるのは、正にディズ
ニーのプリンセスストーリーの定番という感じに仕上げられ
ていた。

脚本は、1991年『美女と野獣』も手掛けたブレンダ・チャッ
プマンの原案から、チャップマンと、今年3月紹介『ジョン
・カーター』などのマーク・アンドリュース、2006年6月紹
介『カーズ』に参加のスティーヴ・パーセル、1994年『ライ
オン・キング』などのアイリーン・メッキが執筆。
監督は、アンドリュースとチャップマン、それにパーセルが
共同で当っている。
オリジナルの声優は、1996年『トレインスポッティング』や
2008年3月紹介『ノー・カントリー』などのケリー・マクド
ナルド、他に、エマ・トンプスン、ビリー・コノリー、ロビ
ー・コルトレーン、ジュリー・ウォルターズらが脇を固めて
いる。
また日本語版は、主人公に大島優子が初挑戦するようだ。

『コロンビアーナ』“Coolombiana”
1990年『ニキータ』、1994年『レオン』の流れを汲むリュッ
ク・ベッソン/少女アクションドラマの最新作。ただし本作
のベッソンは製作・脚本のみで、監督には、2003年8月紹介
『レッド・サイレン』などのオリヴィエ・メガトンが起用さ
れている。
始まりは1992年。父親がマフィアの幹部だった少女カトレア
は、目の前で家族を惨殺される。しかし彼女自身は機転を利
かせて窮地を脱出、父の託した品を持って生き延びる。そし
て父親の指示通りシカゴの叔父の許に身を寄せた少女は、マ
フィアへの復讐を誓う。
それから15年後。非合法な暗殺の仲介者だった叔父の許で訓
練を積んだカトレアは、どんな場所にも潜入して依頼を実行
する、優秀な暗殺者となっていた。その彼女の犯行の捜査に
はFBIも動いていたが…

主演は、2009年『アバター』でヒロイン=ネイティリを演じ
たゾーイ・サルダナ。10代の頃からダンスも学んできたとい
う女優が見事なアクションを演じている。因に彼女の次回作
は、ウーラを再演する『スター・トレック』の続編だ。
共演は、2008年12月紹介『チェ』2部作などに出演のジョル
ディ・モリャ、2011年6月紹介『スリーデイズ』などのレニ
ー・ジェームズ、ポップ歌手シルヴィー・ヴァルタンの息子
で、今年2月紹介『マンイーター』などのマイクル・ヴァル
タン。
そしてもう1人の注目は、プロローグで9歳のカトレアを演
じたアマンドラ・ステンバーグ。本作でスクリーンデビュー
の1998年生まれだが、この後には全米で大ヒット中の『ハン
ガー・ゲーム』にも出演している。
そのステンバーグが登場する最初のアクションシークェンス
は、フランス発祥のスポーツ「パルクール」の第1人者ダヴ
ィッド・ベルの指導の許、スタントの多くも彼女自身が演じ
ているそうだ。
それに応えて主演のサルダナも、イスラエル発祥の近接格闘
術「クラヴマガ」を主体としたアクションのほとんどを自ら
演じている。他にも『ミッション・インポッシブル』顔負け
のトリッキーな展開も満載された1時間48分の作品だ。


『フランス映画祭・短編集』
今週開催された「フランス映画祭2012」で上映された短編集
について報告しておく。実は今回は短編集の事前の試写が行
われず、報告が事後になってしまったが、内容的にはファン
タシー系の作品もあるので記録として残すものだ。
「ビンぞこメガネ」
視力障害でぶ厚いレンズのメガネを懸けなくてならなくなっ
た少年の話。彼はメガネを懸ければ普通にものが見えるが、
実はメガネを外しても見えるものがあった。それは彼に別の
世界を見せてくれたが…

「宇宙からの巨大生物の襲撃」
物語の開幕はカラフルなフレンチミュージカルだが…。歌い
踊りながら街に出たカップルの前に、モノクロ映像の殺人光
線を発射しまくる巨大生物とゾンビの群れが現れる。そして
カラフルなカップルはモノクロの博士に助けを求めるが…
博士の名前がクォーターマスだったり、カラーの人物の台詞
はフランス語でモノクロの人物は英語など、いろいろ凝った
構成も楽しめる作品。巨大生物の造形や動きもそれなりに考
えられたものだったようだ。

「ラスト・ワゴン」
背景は郊外の高速道路の建設現場のようだ。そこに寝泊まり
して働く3人の男たちは互いの不満をぶつけながら仕事に従
事していたが、そんな彼らの前に現場主任が現れ、人員の削
減を宣言する。荒涼とした西部劇のような背景の中で男たち
のドラマが展開する。

「踏切警手」
とある田舎の踏切。そこで警手を務めるお婆さんは、ヴァイ
オリンを弾きながら牛と一緒に暮らしていたが、ある日、通
過する列車を止めてみようといろいろな手段を試みる。しか
しなかなか上手くは行かなかったが…

「人間運送」
主人公は、父親と2人息子で運送業を営む一家の末弟。しか
し段ボールばかりの運搬に嫌気の差した主人公は父親からの
独立を宣言し、新しい事業を開始する。それは思わぬ波紋を
広げて行く。人の暖かさが感じられる素敵な作品だ。

「近日公開」
映画の予告編を模した形式で1人の女性と2人の男性の関係
が描かれる。ただしその予告編は1本ではなく、それは恋愛
映画だったり、ホラー映画だったり、その度ごとにトーンも
変えて飛んでもない人生ドラマが描かれる。

今年のフランス映画祭に関しては、先に何本か紹介したが、
今年の上映作品は長編が11本と今回紹介の短編集となってい
る。その長編に関しては9作品を紹介したが、残る内の『最
強にふたり』は東京国際映画祭に出品されており、昨年10月
30日付で紹介した。
そしてもう1本の『リヴィッド』は、実はファンタシー系の
作品なのだが、この作品の試写はスケジュールが合わず観ら
れなかった。しかしこの作品は今年9月の日本公開が決定し
ており、その際に改めて試写を観て紹介させてもらうことに
する。
        *         *
 製作情報はヤングアダルト・シリーズの映画化の話題で、
まずはカサンドラ・クレア原作“The Mortal Instruments”
が、リリー・コリンズ、『トワイライト・サーガ』のジェイ
ミー・キャムベル・ボワーらの共演で進められている。
 内容は、10代の普通の少女が自分は悪魔と戦う戦士である
ことに目覚めるというもの。映画化は2004年3月紹介『エー
ジェント・コーディ』などのハラルド・ツァート監督の許、
ソニー傘下のスクリーン・ジェムズで行われる。
 もう1本、2006年12月1日付第124回などで紹介したマイ
クル・スコット原作“The Alchemyst”の映画化が、オース
トラリアのアムプコ社で進められることになった。
 2007年にスタートした原作は、今年5月に全6巻が完結し
たようだが、当所から計画された映画化がようやく進むもの
だ。因にアムプコ社は、『LOTR』などのWETAワークショ
ップと提携しており、VFX満載の映画化が期待される。



2012年06月17日(日) カンフーようちえん、A・スパイダーマン、るろうに剣心、オロ、アニメ師、白雪姫と鏡の女王、Beyond the ONEDAY、スリーピング タイト

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
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『マクダルのカンフーようちえん』“麥兜响噹噹”
2005年11月紹介『マクダル/パイナップルパン王子』などの
香港の大人気キャラクター・マクダルを描いた長編アニメー
ションの第4作。なお、本作製作にはゲームのSEGAが参
加しており、映像には大幅にCGIが採用されている。
お話は、マクダルを女手一つで育ててきたマダム・マクが、
ついに一大決心をして、1人息子を人里離れた武当山「カン
フーようちえん」に預け入れるというもの。
そこでマクダルは初めて母の許を離れ、その寂しさを厳しい
鍛練で紛らわせせながら学んで行くが…。
これにマクダルのずっと祖先の発明家の残した遺品の話や、
「カンフーようちえん」の園長先生の昔の話などが絡んで、
最後はマクダルも出場する「国際武術大会」の話へと繋がっ
て行く。そしてその背景には、三峡ダムなどが描かれて行く
ものだ。
展開にはギャグがあったり、かなりシュールな部分もあった
りして、それは大人の観客でも楽しめるようになっている。
ただ、以前に紹介した作品ではそれなりに世俗風刺的な部分
もあったように記憶しているが、今回はその辺は多少薄れて
いたようだ。

また今回は日本語版で公開が行われるようで、その吹き替え
の声優には、2010年6月紹介『ちょんまげぷりん』などの鈴
木福、2010年7月紹介『おにいちゃんのハナビ』などに出演
の剛力彩芽。他に、前田美波里、なべおさみらいわゆるタレ
ントが登場している。
今回の作品は、基本的にお子様向けの色合いが強いが、中に
は往年のカンフースターを思わせるキャラクターなども登場
して、逆にその辺は日本だとどの年代にアピールできるのだ
ろうかと思ってしまったりもする。それはさすが香港作品と
いう感じもしたが…。
他にもチョウ・ユンファやユエン・ウーピンといった名前も
登場していたようだ。因に、その2人が組んだ『グリーン・
デスティニー』でチョウの演じていたのが、本作の幼稚園が
流れを汲む武当派の剣士だったそうだ。
さらに三峡ダムの様子や、マクダルの先祖が残した奇想天外
な発明品などなど、それは大人にも楽しめる仕掛けもあり、
その辺は大きな気持ちで楽しみたい感じもした。また、常に
前向きなマクダルの姿などは、今の日本の大人に見て貰いた
いところでもあった。
ただ全部吹き替えだと、子連れでない大人には多少映画館に
入り辛いのが問題ではあるが。


『アメイジング・スパイダーマン』
              “The Amazing Spider-Man”
2002年5月の紹介に始まるサム・ライミ監督による『スパイ
ダーマン』が、2007年4月紹介の第3作までで完結とされ、
本作はキャストスタッフも一新された新シリーズの第1弾。
最近のハリウッド映画ではこの種のリメイクを、rebootと呼
んでいるものだ。
実はこの通算第4作となる本作に関しては、ライミ監督も前
シリーズに繋がる新3部作の計画を提案していた。しかしそ
の提案は却下され、代って進められたのが本作。その点が事
前には多少気掛かりな作品だった。
それは特にライミ監督の前シリーズが、如何にもアメリカン
・コミックスという感じの映画化で、それをそのままでは意
味がないし。一方、『バットマン』を『ダークナイト』にし
たようなトーンの変更は、本シリーズには似合わないような
気がしていた。
そこで1月には来日記者会見で映像の一部を観ているが、そ
の際には前シリーズと似たトーンで安心はしたものの、そこ
に新しいものが描けるのかという不安も大きくなっていた。
しかも物語的にも不安になる情報が届いていたものだ。
という気持ちで試写を観に行ったものだが、観ての感想は…
これは見事にしてやられたという感じだった。それはライミ
版ほどに派手ではないし、ビルの間を縦横無尽という感じで
もないのだけれど、その描き方が巧みで正に主人公との一体
感が生み出されている。
さらにアクションの展開にも感動が盛り込まれているのには
感心してしまった。それはライミ版とは違う新たなトーンと
言えるもので、『ダークナイト』とも違う新規なアメリカン
・コミックスの世界が誕生したようだ。

出演は、2010年12月紹介『わたしを離さないで』などのアン
ドリュー・ガーフィールド、2012年1月紹介『ヘルプ』など
のエマ・ストーン。他に、『ハリー・ポッターと死の秘宝』
などのリース・イーヴァンズ。さらにマーティン・シーン、
サリー・フィールドらが脇を固めている。
脚本は、2007年4月紹介『ゾディアック』などのジェームズ
・ヴァンダービルトと、前シリーズ第2作、第3作を手掛け
たアルヴィン・サージェント、それに『ハリー・ポッター』
シリーズのほとんどに関ったスティーヴ・クローヴスが担当
している。
監督は、2009年『(500)日のサマー』が評判を呼び本作が長
編第2作のマーク・ウェブが担当した。
僕は前シリーズのような勢いのある作品も好きだが、本作の
ようなエモーショナルな作品にも良さを感じる。これに続く
新シリーズの展開も楽しみになってきた。


『るろうに剣心』
週刊少年ジャンプに1994年から1999年まで連載され、1996年
1月から1998年9月まではテレビアニメとして放映もされた
和月伸宏原作漫画の実写映画化。
物語は明治時代が背景。幕末期には人斬り抜刀斎と呼ばれた
剣の達人を主人公に、新たな世を生き抜いて行く人々の姿が
描かれる。
その始まりは戊申戦争。そこで圧倒的な強さで敵を薙ぎ倒し
倒幕派の勝利を見届けた抜刀斎は、自ら刀を大地に突き立て
姿を消す。そして10年後、東京に現れた流浪人の緋村剣心は
町に貼られた抜刀斎の人相書きに眉を顰る。
その剣心はやがて町の道場に身を寄せるが、成り行きは「不
殺の誓い」を立てながらも、道場を守る若い女剣士や事件の
鍵を握る謎の女、そして町の喧嘩屋らと共に、剣心を悪徳貿
易商への戦いに巻き込んで行く。

主演は、2007年『仮面ライダー電王』や2010年4月紹介『BE
CK』などの佐藤健。因に本作は原作発表から13年経っての映
画化だが、俳優佐藤の登場が本作の映画化に踏み切らせたと
言われている。それは主人公の二面性は基より、漫画特有の
台詞を違和感なく使えるキャラクターでもあったようだ。

また相手役には今年3月紹介『愛と誠』などの武井咲。他に
吉川晃司、蒼井優、2011年7月紹介『一命』に出演の青木崇
高、テレビ『13歳のハローワーク』などの田中偉登。さらに
奥田瑛二、江口洋介、香川照之らが脇を固めている。
脚本と監督はNHK『龍馬伝』などの大友啓史。その『龍馬
伝』で佐藤は岡田以蔵を演じていた。本作はその大河ドラマ
にも繋がる題材だが、もっと庶民の目線で無器用だが必死に
生きている男女の姿を、原作コミックスを再現する剣戟アク
ションと共に描き出したものだ。

そしてアクション監督は、ドニー・イェンの許で香港映画の
アクション監督も務め、香港スタントマン協会の唯一の日本
人会員とされる谷垣健治が担当している。ワイアーなども巧
みに使った剣戟アクションはなかなかの見物だった。
なお、本作の製作はワーナー・ブラザース。原作はアニメも
含めて海外での評価も高いとのことで、当然本作にも海外配
給の可能性はある。そこで日本のチャンバラが『グリーン・
デスティニー』のようでは堪らないが…。
その点で言えば本作は、見事に日本映画のチャンバラがアク
ションとして成立している感じがした。しかも漫画の荒唐無
稽なアクションを実写映画で再現するのは至難の技だが、本
作はその点も見事にクリアしていると思えたものだ。
原作はこの後、京都編などに繋がって行くものだが、その続
編も期待したくなる作品だった。


『オロ OLO.The boy from Tibet』
2002年に『モゥモ チェンガ』という作品を発表している岩
佐寿弥監督が、再びチベット難民の姿を追ったドキュメンタ
リー。
前作の主人公は本作の後半にも登場するお婆さんだったもの
だが、本作の主人公は少年。彼は6歳の時に両親と別れてヒ
マラヤを越え、現在はインド北部の町ダラムマサラで、チベ
ット亡命政府が運営するチベット子ども村に暮らしている。
その子ども村とは、中国では消し去られようとしているチベ
ット語やチベット文化を子供たちに教え継承させる目的で、
ダライ・ラマ14世の意向により1960年に設立されたものだ。
そこで学ぶ少年を通して、全世界に15万人いるとされるチベ
ット難民の姿が描かれる。

チベット問題に関しては、2009年3月『雪の下の炎』や同年
1月『風の馬』などを紹介しているが、それ以前には1997年
にブラッド・ピット主演の『セブン・イヤーズ・イン・チベ
ット』などもあって、その頃はそれなりに世界の関心もあっ
たものだ。
しかしその後は中国政府の弾圧は続いているに関らず、国際
間ではあまり大きな問題として取り上げられることは少なく
なっている。そんなチベット問題に再び目を向けるチャンス
になろうと思われる作品だ。
また本作の後半には、2008年にチベットで映画を制作したと
いう罪で逮捕収監され、現在も服役中の映画監督ドンドゥッ
プ・ワンチェンの家族も登場し、オロ少年と交流する姿も捉
えられている。
チベット問題は、単純に文化も言葉も異なる外国による侵略
支配であって、当然国際舞台でも糾弾されるべきものだが、
2008年の北京五輪が免罪符だったかのように世界は口を噤ん
でしまったもので、今この映画が再び世論に訴えることを願
いたいものだ。

なお本作の公開に関連して、東京渋谷ではチベット関連映画
の特集上映も6月16日から開催されている。そこでは上記の
2作品や2008年にドンドゥップ・ワンチェン監督が発表した
『恐怖を乗り越えて』も上映される。今一度、チベット問題
を考えたい。

『アニメ師/杉井ギサブロー』             
今年5月紹介『グスコーブドリの伝記』の脚本・監督を手掛
けた杉井ギサブローの足跡を辿ったドキュメンタリー。
杉井は1940年生まれ、1951年に日本公開されたディズニーの
『バンビ』を観て以来アニメーションを志すようになり、や
がて東映動画に入社、1958年日本初の総天然色長編漫画映画
『白蛇伝』に参加する。
その後は虫プロに入社、手塚治虫の下で『鉄腕アトム』『ど
ろろ』『悟空の大冒険』、そして『千夜一夜物語』などを手
掛けて行く。さらに1969年にはグループ・タックの設立に参
加するも10年に渡る放浪の旅を実行。その後に『銀河鉄道の
夜』などを発表する。
という杉井の人生を、本人や手塚氏のアーカイブ映像を含む
関係各氏へのインタヴューで検証し、さらに新作『グスコー
ブドリの伝記』制作の経緯なども紹介されている。そこには
杉井が関った数多くの作品の一部の映像も紹介されているも
のだ。
それはまあ、手塚氏の映像などは懐かしいものだし、挿入さ
れる映像の数々もすぐには観られないものもあって、その辺
では今の若いアニメファンには観ておいて欲しい映像が満載
の作品となっている。
従って作品としてはその点で評価できるものと言える。ただ
肝心の杉井氏本人にどれだけ迫れたかというと、特に10年に
渡る放浪の経緯なども曖昧だし、またフルアニメーションか
らリミットアニメーションに移行した際の葛藤なども、ちゃ
んと聞けているとは思えなかった。
それは確かに杉井氏本人のはぐらかしなどもあるのだが、ほ
とんどが街頭での問わず語りのようなインタヴューのやり方
では、最初から本音を聞くことを放棄しているという感じも
したものだ。
とは言え、杉井氏とは無関係に虫プロの実態が当時の製作費
の具体的な数字なども含めて語られているのは興味深かった
ところで、本作の石岡正人監督には、その辺を検証する別の
ドキュメンタリーも期待したくなった。


『白雪姫と鏡の女王』“Mirror Mirror”
2008年5月紹介『落下の王国』などのターセム・シン・ダン
ドワール監督によるグリム童話の再話による映画化。前々回
紹介の『スノーホワイト』に続く「グリム童話」発表200年
記念の作品。
物語は、白雪姫の継母である鏡の女王=魔女の語りで展開さ
れる。その話は白雪姫が如何にムカツク存在であるかや、王
室の財政を立て直すための考えなどだが…。そんな中、絶好
のタイミングで隣国の王子が現れる。
そこで王子との結婚を企む一方、目障りな白雪姫には人食い
がいると言われる森への追放が命じられる。こうして森に追
放された白雪姫は七人の小人と巡り会う。そして小人たちの
指導で戦いの訓練を受けた白雪姫は…
現時点ではどうしても『スノーホワイト』との比較をせざる
を得ないが、先の作品がVFXなども導入してど派手に来て
いるのに対しては、本作は比較的シンプル。しかしターセム
監督らしい外連もあってこれもまた楽しめた。
それに七人の小人の存在などは先の作品以上に毒がある感じ
だが、その一方で子供も楽しめるようなギャグもあるなど、
もしかすると本作の方がファミリー向きかとも思えるような
作品だった。

出演は、語り手でもある女王役に悪役は初めてというジュリ
ア・ロバーツ。白雪姫役にはミュージシャンのフィル・コリ
ンズの娘で、今年4月紹介『ミッシングID』などのリリー
・コリンズ。
他に、2011年12月紹介『J・エドガー』などのアーミー・ハ
マー、2006年3月紹介『プロデューサーズ』などのネイサン
・レーン、『LOTR』でボロミア役のショーン・ビーンら
が脇を固めている。
脚本は、メリッサ・ウォーラックの原案から2011年11月紹介
『マシンガン・プリーチャー』などのジェイスン・ケラーと
2007年7月紹介『プロヴァンスの贈り物』などのマーク・ク
ラインが担当した。
また音楽を,1995年『ポカホンタス』などでアカデミー賞4
回受賞のアラン・メンケンが担当し、衣裳デザインは1992年
『ドラキュラ』で受賞した石岡瑛子が担当。今年1月に亡く
なったデザイナーの映画では遺作になったようだ。

『Beyond the ONEDAY〜Story of 2PM & 2AM〜』
韓国発、2つの男声K-popグループ2PM & 2AMの主に日本での
活動を記録したドキュメンタリー。
popグループのドキュメンタリーでは、今年1月に「AKB48」
のものも紹介しているが、いずれもファン向けに作られたも
のであり、ファン以外の人間には何とも言えない作品という
ところだ。
ただ、「AKB48」の作品が震災などで社会的な側面を出して
いたのに対し、本作では彼らが日本人でないことを配慮した
のか、そのような側面を出せていなのは残念と言える。僕と
してはそういった面でもあれば評価もしやすかったと思える
が、それは仕方がない。
しかしその分、個々の彼ら自身に迫れていることはファンに
は最高のプレゼントだろう。それを共有できないのは僕の方
の問題だ。
とは言え、作中でナレーションが多用されているのは、これ
は彼らが日本人でないことによるコミュニケーション不足の
結果かと思えてしまうところで、この辺はファンにとっては
残念な感じにも写りそうだ。まあそこまでは感じないかも知
れないが。
なお監督の大道省一は、映画のmakingなどを多く手掛けてい
る人のようだが、彼はプレス資料の中では、1964年の『ビー
トルズがやって来る ヤア!ヤア!ヤア!』を引き合いに出
している。
しかしリチャード・レスター監督の作品が、俳優も起用した
フェイクドキュメンタリーであるのに対して、本作はもっと
真面目で真摯な作品だ。ただしその辺の監督の揺れが本作に
も少なからず影を落としているような感じもした。
正直にはその辺が中途半端な感じもしてしまうものだ。これ
は監督にとっては理想の作品ではないようにも感じてしまう
し、多分もっとやりたかったことはあるのだろう。監督には
再度その辺を期待したいものだ。
なお試写で渡されるプレス資料は、特にそのintroductionで
は、本来はその作品の成立の経緯などが紹介されるものだ。
ところが本作のそれは、映画の制作には関っていない人物が
書いたもので、従って韓国のグループのドキュメンタリーが
何故日本で制作されたのかなどの経緯が判らない。ドキュメ
ンタリーはその制作の経緯が重要な面もあり、その辺はちゃ
んとして欲しかった。


『スリーピング タイト 白肌の美女の異常な夜』
                 “Mientras duermes”
2003年3月と2009年10月紹介『●REC』などのジャウマ・
バラレロ監督による新たな方向性を持った作品。元々監督は
ホラー畑の人のようだが、本作はホラーとは違う世界が描か
れている。
物語の舞台はバルセロナのとあるマンション。そこで管理人
として働く主人公は、「自分は幸せになる方法を知らない」
と考え、常に自殺も考えているような、少し精神を病んでい
る感じの男だ。
そしてそのマンションに住むヒロインは1人暮らしで、部屋
には身体を休めに帰ってくるだけという生活だったが…。そ
のベッドの下には管理人の立場を悪用して部屋に入り込んだ
主人公が身を潜めていた。
こうしてヒロインが寝息を立てるのを持った男は、さらに薬
品を使って彼女を昏睡させ、昏睡した彼女の身体を慰め始め
る。しかもそれは徐々にエスカレートしていった。
テーマとしては2007年10月紹介『眠れる美女』にも共通する
ものがあるが、1961年に川端康成が執筆しドイツでも映画化
された物語は、スペインで新たな展開を迎えたようだ。それ
は人間の本性とも違う現代の闇となっている。
しかも物語の進行の中では、サスペンスや謀略なども適度に
盛り込まれ、さらにホラー的な演出など、正にエンターテイ
ンメントの集大成のように描かれている。これがバラゲロ監
督の真骨頂と言えるものだ。

出演は、2009年8月紹介ジム・ジャームッシュ監督の『リミ
ッツ・オブ・コントロール』にも出演のルイス・トサルと、
トサルとは2009年“Celda 211”という作品で共演している
マルタ・エトゥラ。
脚本は、バラゲロ監督の2005年『機械仕掛けの小児病棟』の
story editorなども務めているアルベルト・マリーニ、また
storyboard artistは、『●REC』と同じくJun Matsuura
が務めている。
なお本作は、2012年のカタルニア映画アカデミー・ガウディ
賞で、監督賞、脚本賞、主演男優賞を含む主要6部門を独占
し、他に主演女優賞など9部門の計15部門にノミネートされ
たそうだ。
        *         *
 イラストのサイトです。
http://www.pixiv.net/member.php?id=3856438
 よろしければ観てあげて下さい。



2012年06月10日(日) フランス映画祭2012、農家の嫁/ちょっとエッチな生活体験/セカンドバージンの女、王様とボク、シャーク・ナイト、ただ君だけ、工事中

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「20thアニバーサリー/フランス映画祭2012」
6月21日〜24日に有楽町朝日ホールほかで開催される映画祭
の上映作品はすでに何本か紹介しているが、全部で12本もあ
るので残りは纏めて紹介させて貰う。
『A HAPPY EVENT(仮)』“Un heureux événement”
2010年4月紹介『アデル』でヒロインを演じたルイーズ・ブ
ルゴワンの主演による女性にとって一番ハッピーであるはず
の出来事を描いた作品。
僕は約30年前、妻の出産に立ち会うために「お産の学校」に
通ったのが学歴の最後になるものだが、その経験を踏まえる
と、出産という一大イヴェントが実に巧みに描かれた作品だ
った。恐らく経験のある女性なら納得してみられる作品だろ
う。
ただ、多少ネガティヴなのが男性の僕としては気になったと
ころで、女性の目ではどうなのかその辺は僕には不明なとこ
ろだ。
なお映画では、主人公が映画ファンで様々なDVDのタイト
ルが登場してその蘊蓄が語られたり、またカップルがテレビ
を観ているシーンでは『宇宙大作戦』の巻頭ナレーションが
フランス語で聞けるのも、マニアとしては面白かった。

(2012年冬公開予定)

『プレイヤー』“Les infidèles”
今年2月紹介『アーティスト』でオスカーに輝いたジャン・
デュジャルダンが、自らの原案で主演、共同監督、製作、脚
本も務めた作品。
映画ではデュジャルダン扮するお調子者プレイボーイの、正
直に言って僕の目からはかなり退いてしまう放蕩生活が描か
れる。ただそれが若い男性には憧れかも知れず、その辺はい
い加減親父になってしまった僕には理解の外のものだった感
じだ。
なお作品は、デュジャルダンや共演者でもあるジル・ルルー
シュを含む7人の監督によるオムニバスになっていて、それ
が様々なシチュエーションでのどたばたを描き出す。そのど
たばたが楽しめる観客には、これも良い作品だろう。

(6月23日から一般公開)

『スリープレス・ナイト』“Nuit blanche”
昨年トロント映画祭で絶賛され、ハリウッド・リメイクも決
定しているというアクション作品。
主人公は、同僚と組んでマフィアの麻薬を強奪した刑事。し
かしそれがばれ息子が拉致される。その息子を取り戻すため
彼はマフィアのアジトの巨大ナイトクラブに乗り込むが…。
そこに彼の行動を怪しんだ別の刑事たちも乗り込んでくる。
こうして巨大クラブ内の限定された空間を舞台に、眠れぬ一
夜のノンストップ・アクションが展開される。フランス映画
らしいと感じさせる部分もある作品で、ハリウッドがそれを
どう料理するかも楽しみだ。
(2012年9月公開予定)

『ミステリーズ・オブ・リスボン』“Mystères de Lisbonne”
19世紀ポルトガルの人気作家カミロ・カステロ・ブランコの
原作を、昨年70歳で亡くなったラウル・ルイス監督が映画化
した上映時間267分の作品。本作にはルイ・デリュック賞作
品賞も授与された。
主人公は孤児院で暮らす少年。名前だけで苗字を持たない少
年は神父に両親のことを尋ねる。そこで神父は裕福な侯爵夫
人を少年に引き合わせるが…。嫉妬深い夫の侯爵は、妻に別
の男児がいると知るや無法者を雇い、子供とその父親の殺害
に向かわせる。
こうしてポルトガル、フランス、イタリア、ブラジルを舞台
にした壮大な冒険の物語が展開されて行くが…
元々は1時間6回のミニシリーズで製作された作品だが、そ
れが物語のアブリッジなしに4時間半の作品として再編集さ
れているようだ。余りにたっぷりとした作品だが、物語は堪
能できる。
(今秋公開予定)

『愛について、ある土曜日の面会室』
“Qu'un seul tienne et les autres suivront”
毎週土曜日は刑務所の面会日。その面会室には様々な人が受
刑者に会いに訪れる。その中から3人の男女の物語が描かれ
る。
その1人目は、女子サッカーのチームに所属する少女。彼女
は練習帰りに出会った若者と親しくなるが、その若者が刑務
所に入ってしまう。しかし未成年の彼女は面会を申請するこ
とができず、やむなく町で出会った男性に助けを求めるが…
2人目は、アルジェリア人の女性。息子がフランスで殺害さ
れ、その原因を探るためにフランスに入国する。しかし刑務
所にいる犯人に被害者の母親が面会する術はない。そこで彼
女が採った行動は…
そして3人目は、最近は何をやっても上手く行かない青年。
彼は偶然出会った男性からある仕事を依頼され刑務所に向か
う。それは彼に一攫千金の金をもたらすものだったが…。
これら3つの物語の交錯のさせ方も見事で、映画を堪能させ
てくれた。

なお脚本と監督は1981年生まれのレア・フェネール。過去に
は4本の短編を発表し、本作が長編デビュー作だが、本作で
ルイ・デリュック賞新人監督賞を受賞している。
(2012年冬公開予定)

『私たちの宣戦布告』“La guerre est déclarée”
主演・監督のヴァレリー・ドンゼッリと共演のジェレミー・
エルカイム。実生活でも以前は夫婦だったという2人の実体
験に基づく作品。
愛し合って結婚した2人の間に誕生した子供。しかしその子
供の成長には何処かおかしいところがあった。そこで医師が
行った精密検査の結果は、ラブロイド腫瘍という難病。そし
てその難病は外科手術も可能だが、その手術の成功率は10%
と説明される。
子供の難病というのは親にとってこれほど辛いものはない。
そんな辛い状況を実際に当事者であった俳優たちが自ら演じ
ている。これはある意味究極の作品と言えるのだ。そしてそ
の状況は確かにそうなのだろうと思わせるものであり、リア
ルだった。
(今秋公開予定)

『アーネストとセレスティーヌ』“Ernest et Célestine”
2000年に他界したベルギーの絵本作家ガブリエル・ヴァンサ
ン原作「くまのアーネストおじさん」シリーズからのアニメ
ーション映画化。
くまのアーネストとこねずみのセレスティーヌ。2人の出会
いなどが、詩情とアクションもたっぷりに描かれている。
セレスティーヌは全寮制の歯科学校に暮らすお絵描きの好き
な女の子。寮長は毎夜恐ろしい腹ぺこくまの話をするが、彼
女自身はくまと友達になれると信じている。そんな彼女はあ
る日、義歯にするためのくまの歯を探しにくまの町に出かけ
るが…
一方、アーネストはお腹が空いて堪らない。そこで町に出て
お金や食べ物を恵んで貰おうとするが、なかなかうまく行か
ない。そしてゴミ缶を漁っていたアーネストは、缶に閉じ込
められていたセレスティーヌを発見する。
しかしその出会いは、2人に飛んでもない冒険を招くことに
なってしまう。
原作のシリーズは全20巻+番外編1冊に及ぶものだが、2人
の出会いについてはその最終巻と番外編だけで触れられてい
るようだ。その原作を僕は手にしていないが、その出会いは
セレスティーヌが乳児の時とされているようで、本作とは少
しニュアンスが違う。
従って本作の物語はオリジナルのものなのかも知れないが、
くまのアーネストの優しさとセレスティーヌの可愛らしさは
存分に味わえる作品になっていた。しかも作品には数々の実
験的なシーンも盛り込まれて、これは原作を知らない観客に
も楽しめるものになっている。

監督は、2009年“Panique au village”でオースティン・フ
ァンタスティック・フェストのアニメーション賞など数々の
受賞に輝くステファン・オビエとヴァンサン・パタール、そ
れに2008年“La queue de la souris”でカートゥーン・フ
ォーラム・ヨーロッパのグランプリを受賞したパンジャマン
・ルネールが参加している。
優しさで一杯のアーネストと、ちょっとおしゃまなセレステ
ィーヌの絶妙の掛け合いが、暖かく観客を包み込んでくれる
ような作品で、そこに冒険やアクションもあり、正に珠玉の
アニメーションと呼べる作品だ。
なお本作は、フランス映画祭で特別上映されるもので、試写
の時点では一般公開は決まっていないが、試写会場には各社
の配給担当者が訪れ、日本での一般公開の可能性が出てきて
いるようだ。

『農家の嫁−三十五歳、スカートの風』
『ちょっとエッチな生活体験−接吻5秒前』
『セカンドバージンの女−通り雨』
「Love and Eros CINEMA COLLECTION 2nd “summer”」と題
されたシリーズで公開される3作品。因にこのシリーズでは
2010年に6作品が公開されており、2012年は今後に秋、冬、
春と3本ずつ計12作品が予定されているそうだ。
1本目は、農家に嫁いだ女性が主人公。若い頃にはアイドル
にも憧れていた彼女は、平凡な生活から脱却しようと「モー
ニング娘。」の募集ポスターの貼られたダンス教室に通い始
める。そんな彼女に1次合格の通知が届き、一躍東京を目指
す冒険の旅が始まるが…。

監督は、今年2月紹介『寒冷前線コンダクター』などの金田
敬。主演は、2008年2月紹介『泪壺』などの嘉門洋子。他に
2012年『テルマエ・ロマエ』に出演の勝矢、2011年8月紹介
『タナトス』などの吉岡睦雄らが脇を固めている。
2本目は、一見男と見間違うようなボーイッシュな女の子が
主人公。上京してすぐにバックを盗まれ、無一文の彼女は公
園で遅刻した少年モデルと間違われる。そして強引に仕事を
させられた彼女は才能を見せ、次の仕事も依頼されるが…。
それは彼女が少年として生きることだった。

監督は、1999年ピンク大賞ベストテンで第1位を獲得してい
る田尻裕司。主演は元日テレフォトジェニックの浜田翔子。
他に2009年8月紹介『ちゃんと伝える』などの笠原秀幸。さ
らに緒川凛、中村有志らが脇を固めている。
3本目は、弁護士の妻だったがレイプに遭い生活が一変して
しまった女性と、常に優秀な兄と比較されてまともな生活を
送れない若者。そんな2人が出会い、新しい何かが始まろう
とするが…

監督は、2010年7月紹介『花と蛇3』などの成田裕介。主演
はAV女優の丸純子。共演は2009年『ワカラナイ』などの小
林優斗。他に今年2月紹介『寒冷前線コンダクター』などの
宮川一朗太らが脇を固めている。
3作はポルノではないが女優はちゃんと脱いでいるし、演技
力も無い訳ではない。従ってそれなりに落ち着いてみること
のできる作品だった。
その3本の中では2本目が女優も可愛くてよかったかな。
3本目も物語にちょっと捻りがあってそれなりに観られた。
それに比べると1本目はもう少し捻りが欲しかったかな。で
もまあ何れもそれなりと言える作品で、残り9本にも期待し
たいものだ。


『王様とボク』
1992年に刊行されたやまだないと原作コミックスの映画化。
大人になりたくない若者たちの切ない青春が描かれる。
物語は主人公の誕生パーティから始まる。そのパーティは主
人公の幼い時からの友人の家で開かれており、そこに恋人と
共に来ていた主人公は、モリオという名前を何度も叫んでい
たようだ。
そしてシーンは、6歳の時から昏睡状態が続いていた少年が
12年ぶりに目を覚ましたというニュース報道に続いて行く。
その少年こそが主人公の叫んでいたモリオらしいのだ。そし
てその少年のいる病院を恋人と共に訪ねた主人公は…

出演は、2009年『侍戦隊シンケンジャー』などの松坂桃梨、
2011年2月紹介『高校デビュー』2009年『仮面ライダーW』
などの菅田将暉、2011年10月紹介『指輪をはめたい』などの
二階堂ふみ。そして2008年2月紹介『カフェ代官山』などの
相葉裕樹。
他に、松田美由紀、舞台『銀河英雄伝説』などの中河内雅貴
らが脇を固めている。なお相葉は昨年改名したようだが、以
前のちょっとチャライ感じが消えて、少し陰のある役どころ
をしっかり演じていた。
脚本と監督は、2011年6月紹介『極道めし』などの前田哲。
なお脚本には原作者のやまだないとも名前を連ねている。
主題は最初にも書いたように、大人になりたくない若者たち
の精神状態を描くもので、そこに6歳のまま精神的な成長の
無い幼馴染みが出現して、その中での若者たちの葛藤が描か
れて行く感じのものだ。
しかしそれが映画としてあまり巧みには描かれていない感じ
がした。それは特に主人公と目覚めたモリオとの交流があま
り深くは描かれていないこともあり、全体に中途半端な感じ
になる。さらに将来への展望が得られないことも不満には感
じられた。
それは原作による部分も多いようで、原作者はそれで納得し
ているのかも知れないが、何処か自己満足に終ってしまって
いる感じもする。確かに未来に展望の無い現代では、この結
末も仕方ないのかも知れないが…。後は観客に委ねると言い
たいのだろうか。


『シャーク・ナイト』“Shark Night 3D”
2006年5月紹介『ポセイドン』や2005年開始『ホステル』シ
リーズなどの製作者クリス・ブリッグスと、2009年9月紹介
『ファイナル・デッドサーキット』などのデイヴィッド・R
・エリス監督が組んだホラー・サスペンス。
なお本作の試写は2Dで行われたが、上映のスクリーンには
しっかりと上記の原題が表示されたものだ。
物語の舞台はアメリカ南部のとある湖。人里離れたその湖畔
に建つ別荘に主人公のサラと大学の仲間たちがやってくる。
その別荘はサラの一家のものだったが、彼女自身は3年間そ
こを訪れていなかった。
しかし、目の前に広がる湖の景色は訪れた男女が恋を語り合
うには絶好の場所。こうして思い思いにヴァカンスを楽しみ
始めた仲間たちだったが…。突如、彼らを湖にはいるはずの
無いサメが襲い始める。
ということで、プロローグは『ジョーズ』を思い出させる情
景に始まって、その後は次々に襲い掛かるサメの恐怖が描か
れる。しかもそれが、パニックではなくホラーとして描かれ
ている作品だ。

主演は、2008年“Superhero Movie”のサラ・パクストン。
他にもウェス・クレイヴン製作の“The Last House on the
Left”など、顔に似合わずジャンル映画が好きな女優のよう
だ。
共演者には、2007年5月紹介『ゴースト・ハウス』などのダ
スティン・ミリガン、2009年“The Butterfly Effect 3”に
主演のクリス・カーマックらが名を連ねている。またサメの
操演とVFXは1997年『アナコンダ』などのウォルト・コン
ティが手掛けた。
携帯電話が圏外なのはともかく、固定電話や無線設備もない
別荘という設定は多少無理がある感じだが、それ以外の人間
模様などはそれなりに有りそうという感じだし、特に主人公
たちがいかに反撃するか…という辺りの興味もうまく作られ
ていた。
それと今回は2Dでしか観られていないが、2009年作品でも
3Dを体験済みのエリス監督の演出はかなり物が飛び散って
いる感じで、これは3Dでも楽しみたくなったものだ。


『ただ君だけ』“오직 그대만”
2005年1月紹介『スパイダー・フォレスト』などのソン・イ
ルゴン監督が、2007年12月紹介『アドリブ・ナイト』のハン
・ヒョウンジと、2009年1月紹介『映画は映画だ』のソ・ジ
ソブの共演で描いたラヴストーリー。
主人公は一時は将来を属望された元ボクサー。しかし彼は、
今では夢を捨てミネラルウォーター配達のアルバイトで暮ら
している。そんな男が夜間の駐車場の管理人の仕事を始めた
日、管理室に1人の女性が現れる。
彼女は前の管理人の知り合いだったが、盲目で管理人が替っ
たのも知らずに入り込んだのだ。こうしてその女性と言葉を
交わすようになった主人公は、彼女のためにまた夢を観るこ
とを考えるが…。ある事実が彼を危険な道へと駆り立ててし
まう。
チャールズ・チャップリンの1931年の名作『街の灯』をモテ
ィーフにしたという切なくも暖かい物語が展開される。
監督の以前の作品の紹介文の中で、僕は「監督は生真面目な
人なのだろう」というようなことを書いていた。それがその
作品の時は多少物足りなくも感じられたものだが、本作では
それが良い方に作用している感じがした。
そのため本作は間違いなしの純愛ラヴストーリーなのだが、
そこに一本筋が通っている、そんなリアリティに溢れる作品
に仕上げられていた。しかも『街の灯』を実に巧みに現代の
ソウルを舞台に描いているものだ。
そして共演者の中で、主人公が闘う相手役には2006年ヘヴィ
級チャンピオンのウィ・スンペが登場し、またヒロインの同
僚役では実際に視覚障害を持つ俳優が出演してヒロインの演
技の手助けなどもしているそうだ。

他にカン・サンイル、パク・チョルミン、オ・クァンノク、
さらに韓国で「美しい中年」と呼ばれるチョ・ソンハが普段
とは違った役柄で共演している。
また撮影には、2009年8月紹介『母なる証明』などのホン・
クンピョ撮影監督とチェ・チョルス照明監督が参加。シーン
ごとに見事な映像を作りあげている。
その他に今年1月紹介『超能力者』などのクァク・ジェヨン
とファン・ヒョンギュンが特殊メイクを担当し、同じく『超
能力者』のチョン・ドアンが物語のキーとなるアクションの
VFXを担当して、物語のリアリティを高めている。

『工事中』“En construcción”
2010年5月紹介『シルビアのいる街で』などのスペインの名
匠ホセ・ルイス・ゲリン監督の作品8本を揃えた映画祭が、
6月30日より渋谷のシアターイメージフォーラムで開催され
ることになり、2001年製作の本作の試写が行われた。
作品は、バルセロナ郊外で進められる大規模再開発の様子を
数年に渡り記録したもので、その工事現場に隣接して暮らす
人々の生活や工事に携わる職人たちの仕事ぶり、さらに入居
してくる人たちの様子などが記録されている。
ゲリン監督のドキュメンタリー作品は、2009年10月20日付で
『イニスフリー』という作品を紹介しているが、本作もその
時と同じで何か監督の製作意図が掴み切れなかった。しかし
本作はゴヤ賞の最優秀ドキュメンタリー賞を受賞しており、
現地での評価は高いものだ。
それでの評価の理由を考えてみると、恐らくは工事の記録に
託けて人々の日常が描かれている点に注目ができそうで、そ
の点では確かに巧みに作られている感じがした。ただし、以
前の紹介作と同じく老人の繰り言が続くのは多少退いてしま
ったが。
その他、若い兵士と娼婦のシーンなどはヤラセを疑うが、こ
こでは社会的な問題などを感じるべきなのだろう。しかし全
体的にその映像の意図などは僕には掴み切れなかった。もち
ろん社会格差などが問題の根底に在ることは理解するが。

なお映画祭では、1983年の監督長編処女作『ベルタのモチー
フ』、1997年『影の列車』、2007年『シルビアのいる街で』
の創作ノートともいえる同年『シルビアのいる街の写真』、
最新作の2010年『ゲスト』、2011年『メカス×ゲリン』も上
映される。
また映画祭に際してはゲリン監督が来日し、初日から3日間
は各作品の上映後に1回ずつ監督の解説トークも予定されて
いるようだ。その後は4週間に渡って各週4本ずつ週替りで
の上映が行われる。
因に、映画祭のチラシに掲載された蓮實重彦氏の文章による
と、ゲリン監督の作品は「映画のあるかないかの核心へと見
るものを誘い込む」のだそうだ。確かにその通りでそれには
僕も納得するところだ。



2012年06月03日(日) ユナイテッド、Green Days、ウォーキングデッド2、籠の中の乙女、アイアンガール、足立正生、スノーホワイト、アベンジャーズ+Mad Max

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『ユナイテッド−ミュンヘンの悲劇』“United”
1958年2月、UEFAチャンピオンズカップでユーゴスラビ
アに遠征したイングランドのサッカーの名門マンチェスター
・ユナイテッドを襲った悲劇を描いた作品。
物語の中心は、名将マット・バズビー監督の許でアシスタン
ト・コーチを務めるジミー・マーフィと、後にはイングラン
ド代表としても活躍しチームでは歴代1位の得点王で、バロ
ンドールにも輝いたボビー・チャールトン。
その物語は1956年9月、入団3年目でいまだ出場機会のない
ボビーがジミーに教えを請うところから始まる。当時は薄給
で女性の前では職業も隠す選手たちだったが、ジミーの科す
単調な練習メニューに真面目に取り組むボビーには10月スタ
メンが告げられる。
こうしてオールドトラッド・スタジアムのピッチに立ったボ
ビーは見事2得点で勝利に貢献。その後はレギュラーに定着
したボビーは「バスビー・ベイブス」の一員としてチームの
FAリーグ2連覇にも貢献する。
そして1958年、前季のリーグ優勝チームとしてチャンピオン
ズカップに進出したマンUは1月のホーム戦に勝利し、2月
のベオグラードに乗り込む。ところがイングランド協会はリ
ーグ戦の優先を厳命。チームはチャーター機でのトンボ帰り
が必要となるが…
雪の降り頻るミュンヘンの飛行場で悲劇が起きてしまう。離
陸に失敗したチャーター機が大破し、チームは主力選手7人
を失ったのだ。その時のボビーは奇跡的に軽症だったが、心
の傷は深く大きかった。
一方、留守を守っていたジミーには監督が重傷を負ったこと
と、チームの存続が難しいことが告げられる。しかし協会か
らは次戦の延期を認める決定が届けられ、ジミーはチームの
存続を賭けた戦いを始めることになる。

出演は、ジミー役に2011年10月紹介『フライトナイト』での
ピーター・ヴィンセント役などのデイヴィッド・テナント。
ボビー役には2009年1月紹介『THIS IS ENGLAND』などのジ
ャック・オコンネル。バズビー監督役には今年1月紹介『マ
リリン/7日間の恋』などのダグレイ・スコットが扮してい
る。
脚本と監督は、それぞれテナント主演のテレビドラマ『ドク
ター・フー』を手掛けるクリス・チブナル(脚本)とジェー
ムズ・ストロング(監督)が担当した。
野球の歴史はハリウッドが好んで映画にしてきたものの一つ
だが、イギリス映画界もようやく自国のスポーツに気付いた
ようだ。

『Green Days−大切な日の夢』“소중한 날의 꿈”
5月26日から6月15日まで東京・新宿K'sシネマで開催中の
「真!韓国映画祭2012」で上映される13作品の1本で、制作
に11年が掛けられたという手書きアニメーション作品。
主人公は田舎の学校に通う女子生徒。ある日、彼女のクラス
にソウルからの転校生が入ってくる。その転校生はちょっと
すかした感じだったがセンスも良く主人公にとっては憧れる
存在だった。そしてある切っ掛けで2人は親しくなるが…
一方、主人公には校舎の屋上から飛行実験をしている男子生
徒の姿も気になっていた。
物語には黒猫も魔女も飛空船も出てこないけれど、そんなも
の以上に親しみの持てる物語が展開される。そこには主人公
の夢やちょっと厳しい現実の姿などもあって、それは誰もが
体験する青春の1ページが描かれていた。
物語の背景となる年代は特定されていないが、試写の後に行
われたQ&Aでの監督の発言によると、1970年代が想定され
ているようだ。それは、現代の大人と若者が共通にノスタル
ジーを感じられる時代とのことだった。
そこで中に使われている歌もその時代の韓国でのヒット曲の
ようだが、そこにはいわゆるK-popではない曲が選ばれてお
り、それも現代の大人と若者が共通にノスタルジーを感じら
れるもののようだ。
それらの曲は僕には馴染みのないものだったが、それでも何
となく懐かしさを感じられる楽曲で、その辺には日韓の共通
する何かがありそうな感じもした。そんな親近感も得られる
作品だった。

なお本作は、韓国では興行形態の問題などから3日間で公開
が打ち切られたそうだ。しかしその上映が芸術専門映画館や
地方では市民の上映会などによって続けられ、徐々に国民的
支持が広がったとのこと。
そのため上映では、監督が感謝の気持ちを込めてプレゼント
を用意しており、今回の試写会で僕は制作に使用された手書
きの作画紙と鉛筆を受け取った。そんな監督の心遣いも感じ
る作品だった。
監督は、アン・ジェフンとハン・ヘジン、脚本は2005年4月
紹介『初恋のアルバム』などのソン・ヘジン。声優は、テレ
ビドラマ『美男<イケメン>ですね』などのパク・シネと、
2006年5月紹介『僕の、世界の中心は、君だ。』などに出演
のソン・チャンウィらが担当している。

『ウォーキング・デッド:シーズン2』
            “The Walking Dead: Season 2”
昨年12月に紹介したシーズン1(全7話)に続くシーズン2
(全13話)をDVDで鑑賞した。
前シーズンの最後で都会を脱出した生存者のグループは、最
後の望みの綱と考えられる軍の基地を目指しているが、ハイ
ウェイの走行は放置された自動車の列に阻まれる。そこでU
ターンを検討していた彼らの許にウォーカーの群れが押し寄
せて来る。
その群れを車体の下などに隠れてやり過ごそうとしたグルー
プだったが、ウォーカーの一部がそれに気付き、森に逃げた
グループの1人が行方不明になってしまう。その行方を探す
主人公たちはやがて人里離れた農園に暮らす一族と遭遇する
が…
シーズン2はほぼこの農園を舞台にして、極限状態に生きる
人々の新たな人間模様が描かれて行く。そこにはシーズン1
から続く危険な三角関係や、新たに誕生する恋愛も描かれ、
そして人々には究極の選択も迫られる。
背景にあるのはゾンビが徘徊する異常なシチュエーションだ
が、そこに描かれるのは盲信や嫉妬など人間が持つ普遍的な
姿だ。しかもそれらが異常なシチュエーションの中で、そこ
から遊離することなく描かれる。その点がこのシリーズの見
事なところだ。

主演はシーズン1に引き続いて2003年4月紹介『ギャングス
ターNo.1』などに出演のアンドリュー・リンカーン、2011年
7月紹介『ゴーストライター』などに出演のジョン・バーン
タル、今年4月紹介『フェイシズ』などに出演のサラ・ウェ
イン・コーリーズ。
他に、2006年5月紹介『サイレントヒル』などのローリー・
ホールデン、韓国ソウル出身のスティーヴン・ユン、1999年
生まれのチャンドラー・リッグスらがレギュラー出演。今回
はユン扮するグエンにもかなり見せ場が用意されていた。
またシーズン2からは、2006年3月紹介『カサノバ』などに
出演のローレン・コーハン、2006年7月紹介『グエムル』で
米軍医役を演じていたスコット・ウィルスンらが新登場して
いる。
なお本シーズン2は、日本では6月にDVDリリースされる
ものだが、さらにアメリカでは今秋からのシーズン3の放送
も決定されている。シーズン2の最終話にはその予兆も描か
れた。

『籠の中の乙女』“Κυνόδοντας”
2009年に製作、カンヌ国際映画祭の「ある視点部門」グラン
プリやアメリカアカデミー賞外国語映画部門ノミネートにも
輝き、日本ではR18+指定で公開される問題作。
物語の舞台は広い芝生の庭やプールもある邸宅。その家で、
年頃の姉妹と弟の3人はなに不自由のない暮らしを送ってい
る。そこには定期的に弟の性を処理する女性もやってくる。
しかしその女性のもたらすものは、徐々に姉妹弟に変化を与
えて行く。
そこには映画のヴィデオなども持ち込まれるのだが、例えば
「ゾンビ」は「黄色い花」と言い換えられるなど、姉妹弟に
は外部の俗悪なものは排除されるように監督されている。そ
して姉妹弟には、犬歯が抜けたら家を出られると教えられて
いたが…
現代に生きる親たちが子供を不浄な世間から隔離したいとい
う気持ちを持つのは、自分も子育てをした親として理解でき
る。そんな人間の心の隙を突いた作品というところだろう。
それをファンタシーにせずにリアルに描き切った作品とも言
える。

脚本と監督は、1973年ギリシャ・アテネ生まれのヨルゴス・
ランティモス。長編の監督は3本目のようだが、2004年アテ
ネ・オリンピック開会式/閉会式の演出にも関ったそうだ。
そして昨年製作された新作“Alpeis”ではヴェネッツア映画
祭の脚本賞を受賞している。
因に監督は、本作のアイデアを「未来の家庭」について考え
ていたときに思いついたのだそうで、映画の中には多少その
ような雰囲気も感じられた気もする。ただしこの情報は映画
を見た後で知ったので定かではないが。

出演はいずれもギリシャの舞台出身で、監督の新作にも出演
しているアンゲリキ・パプーリァ、パンクバンドのボーカル
でもあるというマリア・ツォニ、自ら舞台演出も手掛けると
いうクリトス・パサリス。
他に、2006年12月紹介『パパにさよならできるまで』の演技
で映画祭の最優秀男優賞を受賞しているクリストス・ステル
ギオグルと、スイス出身のミシェル・ヴァレイ、監督の舞台
などに出演のアンア・カレジドゥらが脇を固めている。
かなり過激な内容で、嫌悪感を催す人もいるかも知れない。
が、僕が過去に見てきたその種の作品の中では最も納得して
観られた作品と言える。それは僕自身の気分的なものもある
かも知れないが。

『アイアン・ガール』
AV女優がアクション映画に挑戦したことでも話題になって
いるポスト・アポカリプス風の作品。
物語の背景は未来とも過去ともつかない終末世界。とある草
叢で1人の若い女性が3人の男に拉致されそうになったとこ
ろを、特異な衣装を身に纏った女戦士に救出される。そして
女性は女戦士を仲間たちの暮らす場所に連れて行く。
その場所では1人の老人によって率いられた数人の若い男女
が暮らしていたが、彼らの生活は辺りに徘徊する暴力集団に
よって脅かされていた。そこでグループの若者たちは女戦士
に戦い方の教えを請うが…
お話は極めて定番の善対悪の戦いを描くもので、そこに女戦
士の出自の謎などが絡むが、それもまた定番という感じのも
のだ。ただしワイアーなども使ったアクションはそれなりの
ものになっており、そこは主演女優もかなり頑張っていたよ
うだ。

主演はAV女優の明日花キララ。本作が上映されたカンヌ映
画祭の紹介記事ではヌード封印とされていたが、サーヴィス
ショットはあったようだ。共演は2010年8月紹介『ゴスロリ
処刑人』などの秋山莉奈、2011年2月紹介『ナナとカオル』
などの栩原楽人。
他に2008年4月紹介『ハブと拳骨』などの虎牙光輝、2008年
『炎神戦隊ゴーオンジャー』の古原靖久、2000年『未来戦隊
タイムレンジャー』の城戸裕次らが脇を固めている。
脚本と監督は、BSドラマやヴァラエティ番組、CMなどを
手掛けている長嶺正俊。アクション映画は初めてのようだ。
そこでアクション監督には1984年『宇宙刑事シャイダー』な
どの柴原孝典が招請されている。
また音楽は、ロックバンドCASCADEの楽曲のほぼ全てを手掛
けるギタリストのMASABHIが担当している。
ワイアーアクションはそれなりに処理されていたようだが、
それなら背景の高圧線も写らないようにして欲しかった。ま
た、ヒロインが避けた銃弾の弾着も欲しいなど、いろいろ注
文は付けたいところだが、取り敢えずは第2作を実現して貰
いたいものだ。


『美が私たちの決断をいっそう強めたのだろう/足立正生』
“Il se peut que la beauté ait renforcé notre
              résolution - Masao Adachi”
6月21日〜24日に東京有楽町朝日ホールほかにて開催される
「フランス映画祭2012」での上映作品の1本。
日本の映画監督、脚本家であり、同時に日本赤軍に合流して
国際指名手配された革命の闘士でもある足立正生を描いたド
キュメンタリー作品。
足立は、1963年日大芸術学部の在籍中に制作した学生映画で
注目され、退学後の1966年に監督デビュー、同年には大島渚
監督の『新宿泥棒日記』の脚本にも参加。1971年に若松考二
監督らと共にパレスチナに渡る。
その後は日本赤軍に合流して岡本公三らと共に国際指名手配
され、1997年に逮捕抑留。その刑期を2000年に満了して日本
に強制送還され、日本では旅券法違反による罪で執行猶予付
きの判決が下された。
本作は、その足立の現在の姿や足跡などをフランス人監督が
纏めたものだが、作品の中では首都高速の霞ヶ関トンネルを
行くフロントの映像に、タルコフスキーの『惑星ソラリス』
と同じだという解説が入るなど、監督自身の1970年代の検証
のような感じもした。
そして足立は、インタヴューの答で「政治も芸術も同じだ」
と言い切り、1939年生まれで70歳を過ぎても、今なお滾るも
のを感じさせてくれる。それは一方では1970年代を「成功し
なかった革命」と総括する見識も持つものだ。
僕自身は足立氏より10歳若く、1970年は正に挫折の塊だった
ものだが、それを「成功しなかった」と総括して次に進むこ
とはできなかった。それは単に敗残でしかなかったもので、
その気分が連合赤軍事件などに繋がって行く。
しかしそれを、単に「成功しなかった」と言い次に突き進ん
だ足立氏には、敬服以外の何の言葉も浮んでこないものだ。
若者文化の中から「革命」という言葉が消えて久しいが、足
立氏の言葉の中に次に続いて行く力を感じさせてくれた。

本作の監督は1954年生まれのフィリップ・グランドリュー。
なお本作に関しては、今秋渋谷アップリンクでの公開が決ま
っている。

『スノーホワイト』“Snow White and the Huntsman”
ディズニーアニメーションでも著名な『白雪姫』の物語を、
ダーク・ファンタシーとして描き直した作品。企画製作は、
そのディズニーで『アリス・イン・ワンダーランド』を手掛
けたジョー・ロスが担当した。
物語の舞台はヨーロッパ中世の王国。その王国で健やかに育
っていた王女スノーホワイトの運命は、母親である王妃が他
界し父王が妖艶な美貌を持つ女性ラヴェンナを後妻を迎えた
ことから激変する。その女性は妖術を操る邪悪な魔女だった
のだ。
とまあ、物語の開幕はほぼ童話の通りだが、童話では森でス
ノーホワイトを殺してくるように命じられたハンターの設定
が少し変わって、原作では姫を殺せずに置き去りにしたハン
ターが本作では積極的に姫を訓練し闘士に育て上げる役割と
なる。
そしてスノーホワイトとハンターは揃って魔女への反旗を翻
すのだ。その脇には姫を思う王子や七人の小人も登場はする
が…。一方、魔女の狙いが美貌を保つための姫の心臓である
など、その辺はかなりダークな展開とされている。

出演は、スノーホワイトに『トワイライト・サーガ』などの
クリスティン・スチュワート、ラヴェンナに2004年8月紹介
『モンスター』でオスカー受賞のシャーリズ・セロン、そし
てハンターには、2011年5月紹介『マイティ・ソー』のクリ
ス・ヘムスワークが扮している。
また、今回紹介『ユナイテッド』に出演のサム・フランクリ
ン。さらにボブ・ホスキンス、イアン・マクシェーン、レイ
・ウィンストン、ニック・フロスト、トビー・ジョーンズら
が脇を固めている。
原案と脚本は、本作が長編第1作のイヴァン・ドハーティ。
その脚本に、2010年1月紹介『幸せの隠れ場所』でオスカー
候補になったジョン・リー・ハンコックと、2011年6月紹介
『シャンハイ』などのホセイン・アミニが手を加えている。
監督は、本作で長編デビューだがコマーシャル・フィルムや
ヴィジュアル作家として実績のあるルパート・サンダースが
担当した。
因に、原作となるグリム童話は1812年に発表されたそうで、
本作はその200周年の映画化になるものだ。

『アベンジャーズ』“The Avengers”
4月25日に全米公開され、すでに5億ドルの興行収入を達成
して『タイタニック』『アバター』にも迫る勢いとされるマ
ーヴェルコミックスの映画化。
登場するのはアイアンマン、ハルク、マイティ・ソー、キャ
プテン・アメリカ。すでに各自のシリーズでも展開されてい
るスーパー・ヒーローたちが一堂に会して、異次元から押し
寄せる強大な敵に立ち向かう。
それぞれスーパー・ヒーローの活躍を最後まで観ている人は
判っているように、各作品の最後では謎の男が登場してシー
ルドに参加して欲しいという要請が伝えられていた。それは
今までは唯の言葉でしかなかったものだが、今回は遂にそれ
が発動する。
しかしそこは個性豊かなスーパー・ヒーローたちの話、その
結集は容易には進まない。そこに様々な要素が絡み合って、
遂には共同が達成されるまでの物語が描かれて行く。そして
その取り纏め役になるのが新登場のブラック・ウィドウとい
う布陣だ。

出演は、アイアンマン/トニー・スタークにロバート・ダウ
ニーJr.、キャプテン・アメリカ/スティーヴ・ロジャース
にクリス・エヴァンス、ソーにクリス・ヘムスワース、そし
てハルク/ブルース・バナーには2011年2月紹介『キッズ・
オールライト』などのマーク・ラファロが扮している。
さらに新登場のブラック・ウィドウ/ナターシャ・ロマノフ
にスカーレット・ヨハンセン、ホークアイ/クリフト・バー
トンに2010年2月紹介『ハート・ロッカー』でオスカー候補
になったジェレミー・レナーが扮し、またサミュエル・L・
ジャクスン、トム・ヒドルストン、グウィネス・パルトロウ
らが各シリーズから登場している。
それにしても豪華絢爛という感じの出演者だが、各シリーズ
に起用した若手俳優が成功を納め、それを要所に配されたベ
テランが引き締める感じで、この戦略は見事なものだ。それ
らの要素が絡まってのアメリカでの大成功と評価したい。
映画のストーリーは2008年7月紹介『インクレディブル・ハ
ルク』などのザック・ペンが執筆し、脚本と監督は、テレビ
“Buffy the Vampire Slayer”などを手掛けてきたジョス・
ウェドンが担当した。
なおそれぞれのシリーズでは、“Iron Man 3”“Thor 2”は
2013年、“Captain America 2”は2014年に次回作の公開が
予定されているようだ。そして大ヒットした本作の続編も当
然期待されているものだ。
        *         *
 最近では、2010年5月9日付で報告したシリーズ第4作と
なる“Mad Max: Fury Road”について、今年7月から撮影が
始まるとの情報が伝えられた。
 この情報は、何と女優のシャーリズ・セロン(前回キャン
セルと書いたのは誤りだったようだ)からもたらされたもの
で、セロンが「3週間後にナミビアに出発して、7月半ばに
撮影が開始される。今はものすごく興奮しているの。3年も
待たされたけど、ようやくその時が来たわ」と語ったとのこ
とだ。
 ただし、今のところ彼女以外からの情報はないようだが、
いくら何でもセロンクラスからの発言なら間違いはないだろ
う。
 なおセロン以外の出演者では、今年2月紹介『裏切りのサ
ーカス』などのトム・ハーディ、2010年4月紹介『タイタン
の戦い』などのニコラス・ホルト、2007年9月紹介『ブレイ
ブワン』などのゾーイ・クラヴィツらの共演が報告されてい
る。


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井口健二