井口健二のOn the Production
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2012年04月29日(日) 道、シグナル、ザ・マペッツ、崖っぷちの男、だれもがクジラを愛してる、ヘソモリ、この空の花、ブレーキ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『道−白磁の人−』
2011年8月紹介『MADE IN JAPAN−こらッ!−』などの高橋
伴明監督が、日韓文化交流の掛け橋となった林業技師・浅川
巧の姿を描いた作品。
時は1914年、日韓併合から4年が経ったある日、浅川は京城
(現ソウル)にやってくる。彼は山梨の農業学校を卒業後、
営林署で樹木の育成に従事し、各国支配の下で荒らされた朝
鮮半島の山林を復活させるためにやってきたのだ。
その地には先に小学校教諭の兄夫妻と母親も暮らしており、
兄は朝鮮磁器の収集も行っていた。そんな中で朝鮮総督府の
林業試験場に勤務する浅川だったが、無理に日本杉や西洋杉
の植林を推進する試験場の方針には疑問も感じていた。
そして朝鮮人の職員と共に山林で種子を集め、研究を続ける
浅川は徐々に朝鮮文化への造詣も深めて行く。中でも注目し
たのは独特の暖かさを感じる白磁だったが、高貴な青磁に比
べて庶民的な白磁は2束3文で売られる存在だった。
第2次大戦以前の朝鮮半島で日本政府が行う民族差別に苦し
む人々。そんな戦前の日本人による様々な悪行が、浅川の目
を通して描かれて行く。

出演は、2010年3月紹介『孤高のメス』などの吉沢悠、韓国
ドラマで活躍のペ・スビン、他に、酒井若菜、塩谷瞬、市川
亀治郎、堀部圭亮、田中要次、大杉漣、手塚理美らが脇を固
めている。
高橋監督は、2004年12月紹介『火火』でも陶磁器を扱ってい
たが、今回はその製造ではなく製品を通して日韓両国の民間
レヴェルでの交流が描かれる。しかもその舞台のほとんどは
韓国で、日韓併合から日本の敗戦までの様子が丁寧に描かれ
たものだ。
因に、日本映画で第2次大戦の終りは「終戦」として描かれ
ることが多いが、本作では明確に「敗戦」が描かれており、
それは韓国が舞台だからこそ出来るもので、その点でも高橋
監督の仕事は評価したいところだ。

なお撮影には、ハプチョンやプアンの映像テーマパークが使
用され、またVFXなどのポストプロダクションは今年1月
紹介『超能力者』も手掛けたCJ Powercastで行われるなど、
製作はほぼ韓国側で行われている。これにより本作には韓国
映画振興委員会の支援も決定しており、同委員会が外国映画
の支援を行うのは初めてのことだそうだ。

『シグナル 月曜日のルカ』
2002年の「小説すばる」新人賞を受賞した関口尚による同名
原作の映画化。
物語の舞台は田舎町の映画館。東京の大学に通っている主人
公は、夏休み学資稼ぎの目的で故郷に建つ映画館で映写技師
のアルバイトに応募する。それは時給1500円という田舎では
破格の仕事だったが、それに先立って館主から3つの約束を
させられる。
その職場にはルカという先輩の映写主任がいたが、その女性
主任は映画館に住み込み、過去3年間は館の外に出たことが
ないという。その女性の過去を訊かないのが館主との約束の
1番目だった。
こうして始まった主人公のアルバイトには、映写機へのフィ
ルムの掛け替えや配送されたフィルムの準備など様々な仕事
があり、その練習やいざとなっての失敗などいろいろな事が
起きて行く。そしてその中から徐々にルカの過去が明らかに
なって行くが…
2006年11月5日付「東京国際映画祭コンペティション」で紹
介した『魂萌え!』でも映画館の映写室のシーンが出てきた
が、本作ではさらに本格的にフィルム上映までの手順などが
紹介されている。それは上映のディジタル化が進む中で今し
か写せないシーンだ。
それはともかく、映画には現代若者の風俗みたいなものも織
り込まれて、ミステリアスな「月曜日のルカ」の物語が展開
される。それは最近多い若者風俗の映画とは少し違う、何処
かノスタルジックな雰囲気も漂う物語だった。

出演は、新人の三根梓と2010年6月紹介『スープ・オペラ』
などの西島隆弘、それに前回紹介『苦役列車』などの高良健
吾。他に、井上順、宇津井健、2011年5月紹介『スノーフレ
ーク』などの白石隼也らが脇を固めている。
原作者の関口は作家デビューの前に映写技師のアルバイトを
していたことがあるそうで、その頃に観た映画でストーリー
テリングなどを学んだのだそうだ。そんな作者の思い出など
がほど良くブレンドされた作品とも言えそうだ。
なお新人女優の演技は、台詞などはまだ堅い感じがしたが、
西島と高良が良くカヴァーしていた。それに撮入前の練習に
1カ月掛けたという映写機の操作は中々様になっていて、そ
の努力は買えた。

女優は「ダイアモンドの瞳」というキャッチフレーズのよう
だが、次には2012年4月紹介『シグナル』の…と書きたいも
のだ。

『ザ・マペッツ』“The Muppets”
先日のアメリカアカデミー賞で主題歌賞を受賞したMuppets
Studio製作の最新作。
以前は『セサミストリート』の他にも、『マペットショー』
『フラグルロック』などのテレビシリーズで一世を風靡した
とも言えるマペッツだが、1990年に創始者ジム・ヘンスンが
急逝して以降、特に21世紀に入ってからは目立った作品はな
かった感じだ。
本作はそんなマペッツが久々に大集合した作品で、カエルの
カーミットやミス・ピギーらテレビでも人気のキャラクター
たちが、凋落した人気の復活を目指して人間たちをも巻き込
んだ大冒険を繰り広げる。
物語の発端はとある田舎町スモールタウン。その町で育った
ウォルターは、兄のゲイリーと大の仲良しだったが、何処か
自分が違っていることを感じていた。そんなある日、テレビ
で『マペットショー』を観たウォルターはその世界に憧れを
持つ。
やがて成長した兄弟は、今でも大の仲良しだったが、ゲイリ
ーの恋人のメアリーはウォルターばかり気に掛けるゲイリー
がちょっと不満だった。そして恋人同士のロサンゼルス旅行
にも、ウォルターが付いてきてしまう。
それでも最初にマペット・スタジオを訪問した3人は、そこ
が過去の栄光からは観る陰もない廃虚と化していることを知
る。しかも、その土地が石油王に狙われていることを知った
3人は豪邸に1人寂しく暮らすカーミットを訪ね、マペッツ
の復活を訴える。
こうして石油王に権利が移転する期日までに、その契約書を
無効にするための大作戦が開始されるが…。それには全国、
さらに全世界に散らばったマペッツの仲間たちを再結集する
必要があった。

出演は、4月紹介『バッド・チーチャー』にも出ていたジェ
イスン・シーゲル。因に脚本も手掛けるシーゲルは、2008年
11月紹介『寝取られ男のラブ♂バカンス』でマペッツのゲス
ト出演を成功させており、本作はそれに続いてのマペッツと
の共演になっている。
共演は、2009年11月紹介『ジュリー&ジュリア』などのエイ
ミー・アダムス。他に、2011年5月紹介『テンぺスト』など
のクリス・クーパーらが脇を固めている。
さらにアラン・アーキン、ザック・ガリファナキス、ウーピ
ー・ゴールドバーグ、セレーナ・ゴメス、ミッキー・ルーニ
ーらがゲスト出演。またジャック・ブラックはかなり重要な
役で出ているがアンクレジットだそうだ。
そしてマペッツはカーミット、ミス・ピギーに加えて、フォ
ジー、アニマル、ゴンゾ、スウェーデン・シェフ、ドクター
・ティースらが大挙して出演。また、ちょっと毛色の変った
マペッツたちも出演している。
映画の中ではマペッツ映画の第1作“The Muppets Movie”
を思い出させるシーンもあり、長年のファンには正に贈り物
という作品。すでに続編の計画も進行しているようだ。


『崖っぷちの男』“Man on a Ledge”
今月紹介『タイタンの逆襲』などのサム・ワーシントンの主
演によるかなり捻りの利いたサスペンスアクション。
その男は、ニューヨーク・マディソン街に建つ名門ルーズベ
ルト・ホテルの21階に部屋を取り、ルームサーヴィスで食事
の後、食器に付いた指紋を丁寧に拭い、「潔白な身で逝く」
という書き置きを残して窓の外に立つ。
その姿は直ちに通行人の目に止まって野次馬が集まり始め、
警察が出動し巨大エアマットなどの準備が始まる。一方、部
屋に入った警察に男は女性刑事の名前を告げる。彼女は自殺
阻止の説得役だったが、直前に起きた警官の自殺を阻止でき
なかった。
その経緯と書き置きの内容からマスコミも動き始め、路上や
上空からの報道合戦も開始される。そんな中、女性刑事が到
着して説得が始まるが、やがて男は宝石強盗などで検挙され
た元警察官と判明。そして男は「街の黒幕に填められた」と
主張し始める。
ところがその陰では別の事件も動き始めている。さらにその
事態に気付いた黒幕は警察に男の射殺を命じるよう画策を始
める。果たして窓際に立つ男の真の狙いは何なのか…事件は
思わぬ方向へと進んで行く。
『トランスフォーマーズ』の製作者でもあるロレンツォ・ボ
ナヴェンチュラは、警察で使われる原題名の言葉を耳にし、
その言葉から映画を作れないかと考えたのだそうだ。従って
本作の物語は全くのフィクション、そんな作り物の面白さに
溢れている。
そこには、警察内部の腐敗やそんな警察を牛耳る黒幕や、さ
らに『ミッション:インポッシブル』並の作戦なども登場し
て、正にとことん観客を楽しませる物語が展開されて行く。
これこそ娯楽映画の真骨頂という作品だ。

共演は、2011年6月紹介『スリー・デイズ』などのエリザベ
ス・バンクス、今年1月紹介『第九軍団のワシ』などのジェ
イミー・ベル。さらに2006年9月紹介『敬愛なるベートーヴ
ェン』などのエド・ハリス。
またテレビで人気を博し本作で映画デビューのジェネシス・
ロドリゲス、2010年2月紹介『ハート・ロッカー』などのア
ンソニー・マッキー、2005年11月紹介『サウンド・オブ・サ
ンダー』などのエド・バーンズらが脇を固めている。
脚本は、主にテレビで活躍するパブロ・F・フェンヤヴェン
シュ、監督はドキュメンタリー出身で本作で劇映画デビュー
を飾ったアスガー・レスが担当した。

『だれもがクジラを愛してる。』“Big Miracle”
1988年、アラスカ北極海の氷原で起きた実際の出来事に基づ
いた作品。
映画の物語は、アラスカの北極圏の町バローに駐在していた
レポーターが、氷原に閉じ込められた3頭のクジラを発見す
るところから始まる。
その様子は全国ネットのニュースでも紹介されるが、そこは
開氷面から8kmも離れ、肺呼吸のクジラはその間を潜水で抜
けることは出来なかった。しかも寒波の来襲で今開いている
部分も閉じてしまう恐れがあり、そうなるとクジラには窒息
死しかないのだ。
一方、バローの町の近郊では自然保護区を廃止して石油開発
を行う計画が進んでいた。そのため町に来ていた環境保護団
体の代表は、PRのチャンスとばかりクジラの救助を訴え、
その声は全国に広がり始める。
その救助の方法は、石油開発会社が所有する大型の砕氷機を
州兵が操縦するヘリコプターで現場まで運び、氷原に水路を
作るというものだったが…。環境保護団体と開発会社、それ
ぞれの思惑に大統領選挙を控えるホワイトハウスまでもが動
き始める。
出来事の結末は僕自身はっきり憶えていたが、そこまでの経
緯にこんなことがあったとは…。当時のアメリカ国内や世界
情勢なども絡んで壮大なヒューマンドラマが展開される。

出演は、ドリュー・バリモア、2011年1月紹介『お家をさが
そう』などのジョン・クラシンスキー、2010年11月紹介『バ
ーレスク』などのクリスティン・ベル、2007年4月紹介『ゾ
ディアック』などのダーモット・マロニー、2009年6月紹介
『3時10分、決断のとき』などのヴィネッサ・ショウ。
さらに本人は自然保護活動家だという1998年『プライベート
・ライアン』などのテッド・ダンソン、アラスカ・イヌピア
ック族のジョン・ヒガヤック、アーマック・スウィーニーら
が脇を固めている。
監督は、2009年4月紹介のドリュー・バリモア主演作『そん
な彼なら捨てちゃえば?』も手掛けたケン・クワピス。脚本
は、2006年9月紹介『シャギー・ドッグ』などのジャック・
アミエル&マイクル・ベグラーが担当した。
物語は、後半でソ連の砕氷船エニセイ号が救助に向かうが、
艦船がアメリカ領海に入る際に星条旗を掲げるシーンや最後
に氷原に乗り上げて氷を砕くシーンなど、実際のままのもの
が再現され、それは当時を知るものには特に感動的なシーン
に仕上がっていた。
また映画には「ゴードン・ゲッコーみたいだ」という台詞が
登場し、映画ファンにはその前年に『ウォール街』が公開さ
れていたことを思い出させてくれた。

なお、撮影はほぼ全編がアラスカで行われているそうだ。

『ヘソモリ』
福井県に1500年続く紙漉きの伝統を背景に県内でオールロケ
されたファンタシー作品。
主人公は福井県で伝統の紙漉きを継承している親子。しかし
紙漉きの傍ら武術の鍛練にも余念がない。そんな親子が守る
紙漉き工場の壁には、鳥居をあしらったちょっと不思議な家
紋が掲げられていた。
そしてお話は数10年前。山で遊んでいた男の子5人組はクマ
に追われて山奥に入り、祠に守られた謎の穴を発見。その穴
に入った5人組は、代々主人公の家に伝わるある秘密に遭遇
することになる。
ヘソモリ…それは日本のヘソを守る人たち。そのヘソとは…
過去1500年の各時代に通じるタイムトンネルだった。そして
主人公の一家は、そのヘソが悪用されないように守ってきた
のだが、現代に至ってその秘密を知る他者が現れる。
小松左京氏が1963年に発表した「御先祖様万歳」などSFで
は同種の作品は多数あると思われるが、今回紙漉きの伝統と
絡ませたアイデアはそれなりに買えるものだ。それはもしか
して、紙漉きの伝統を紹介する目的が先にあったのかもしれ
ないが。
SFファンから観れば、物語の展開はお手軽とも言えるもの
だが、これが小松氏が以前に語った「SFの拡散と浸透」の
典型のような気もしてくる。小松氏の小説も一般誌の「別冊
サンデー毎日」に発表されたものだ。

出演は、永島敏行、渡辺いっけい、石丸謙二郎、中村育二、
佐野史郎。他に、谷村美月、烏丸せつこ、村田雄浩、若林豪
らが脇を固めている。また福井県無形文化財の和紙職人・岩
野平三郎氏が特別出演している。
脚本と監督は、TVCMディレクターの入谷朋視。監督は北
海道の出身だが、2009年の福井広告賞TVCM大賞を受賞す
るなど「第2の故郷」と呼ぶほど地元とは縁の深い人のよう
で、そんな福井に対する思いの込められた作品のようだ。
物語のキーとなる護符に描かれた星は五芒なのに、アナの蓋
に付けられているのは六芒星であるなど、ちょっと疑問に感
じる部分もあったが、続編を期待させる結末など、いろいろ
気になる作品ではあった。


『この空の花』
大林宣彦の脚本・監督で、新潟県長岡市の花火を題材にした
Movie Essayと称する上映時間2時間40分の作品。
物語の語り手は熊本県天草在住の女性新聞記者。その女性記
者が2011年夏という背景の許、いくつかの取材目的で新潟県
長岡市を訪れる。そこでは大災害の年に花火大会を開催する
か否かで揉めていた。
その頃、彼女のかつての恋人でその地で高校教師をしている
男性は、生徒が書いた「まだ戦争には間に合う」という台本
を河川敷で上演する準備に奔走していた。一方、女性記者は
地元新聞に同じ題名の連載記事を執筆する記者を訪ねる。
こうしてタクシー運転者や地元記者の案内で長岡市を探訪す
る女性記者は、第2次大戦や中越地震などにまつわる長岡市
の過去を探訪して行くことになる。そして河川敷では芝居の
リハーサルが始まっていた。
物語の全体の流れは、女性記者と高校教師の関係ということ
になるが、Movie Essayと称されている通り、映画は女性記
者の巡り会う様々な事象に目を向け、特に戦争に対する多く
の事柄が語られる。
その中では、長崎の前に行われたファットマン型模擬爆弾の
投下に直撃され亡くなった一家の話や、河川敷の芝居でも再
現される空襲の模様などかなり凄惨な物語が、巧みな語り口
で判りやすく描かれている。
特に、4.5tを超える重量の模擬爆弾が、爆発しなくても直径
20mの穴を穿ち、そこを通りかかった一家に死をもたらした
という話は、現地では碑も建てられているようだが、一般の
人はほとんど知ることなかったものだ。
このように映画では、今まで我々が知ることもなかった様々
な戦争の悲劇が語られ、それは被害者面するものではなく、
しかししっかり後世に伝えるべきもののように感じられた。
因に模擬爆弾は全国に50発近く投下されているようだ。

出演は監督のお陰か、松雪泰子、高嶋政宏を始め、柄本明、
片岡鶴太郎、藤村志保、富司純子など枚挙に暇のないほどの
錚々たる顔触れが集まっている。その中で、一輪車世界大会
優勝者という新人の猪俣南が、役柄も良いが演技の新鮮さで
も目を引いた。

『ブレーキ』“Brake”
ふと目が覚めると、疾走する車のトランクに置かれた透明な
箱の中…という、究極の状況に陥った男の姿を描いたサスペ
ンス作品。
男が閉じ込められているのは、中で体が回せる程度の大きさ
の透明な箱。その目の前にはカウントダウンする電光計時が
あり、その表示が4分を刻むごとに彼の置かれたシチュエー
ションは変化するようだ。
そして箱の中にはCB無線機があり、最初は別の場所で同様
の状況に置かれている男と繋がり、バンドを替えると近くを
走行中らしいトラックの運転手に繋がる。さらに箱の中には
1枚の絵葉書があり、その裏には「情報をよこせ」と書かれ
ていた。
プレス資料にも2010年9月紹介『リミット』の題名が記され
ていたが、シチュエーションはかなり似通っている。ただし
先の作品に比べると危機感では多少緩い感じがする。しかし
手を変え品を変えの主人公を襲う仕掛けの多様さが、興味を
引く展開となる。
その物語の途中では、このシチュエーションにはちょっと辻
褄の合わない展開もあるのだが、それは多分結末への伏線と
いうことなのだろう。この伏線は最終的にそれなりの意味を
持つものだ。

出演は、2011年11月紹介『インモータルズ』などのスティー
ヴン・ドーフ。彼は本作の製作総指揮も務めている。
他には、テレビ『グレイズ・アナトミー』にレギュラー出演
中のカイラー・リー、2008年1月紹介『シスターズ』に出演
のJR・ボーン、2010年7月紹介『インセプション』などの
トム・べレンジャーらが脇を固めている。
脚本は、映画の編集部門出身のティモシー・マニヨン。脚本
では本作がデビュー作のようだ。監督は、最近ではテレビド
キュメンタリーを多く手掛けているが、1990年代に3本の劇
映画が記録されているゲイブ・トーレス。劇映画は久々のよ
うだ。
いかにも作られたシチュエーションでの展開には、名作『プ
リズナー』を連想させるところもあり、『リミット』ほどの
息苦しさはないから、これなら閉所恐怖症の人にも楽しんで
貰えるかな?



2012年04月22日(日) ミッシングID、孤独なツバメたち、一枚のめぐり逢い、MY HOUSE、フェイシズ、フライペーパー!、Hell、ラム・ダイアリー+Sin City

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
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『ミッシングID』“Abduction”
『トワイライト』シリーズで人気者になったテイラー・ロー
トナーの単独主演によるサスペンス・アクション作品。
主人公は自分は普通だと思っている高校生。しかし夜ごとに
目の前で女性が殺される夢を観て精神科医の治療も受けてい
る。そんな彼が学校の宿題で同級生の女生徒と共にネットを
閲覧していたとき、彼は行方不明者の捜索サイトに自分の幼
い頃の写真を発見する。
それまでも目の前で殺される女性が母親と感じていた主人公
は、そのことを両親と称してきた男女に問い詰めるが…。突
然素性の不明な男たちが侵入し、男女が殺害され、主人公は
女生徒と共に逃亡を余儀なくされる。
そこにはCIAと名告る男からの電話も掛かり始め、様々な
協力者も現れる。そして主人公は、父親と名告っていた男か
ら格闘技の術も叩き込まれていた。

共演は、ミュージシャンのフィル・コリンズの娘で昨年7月
紹介『プリースト』などのリリー・コリンズ、『ハリー・ポ
ッター』シリーズにも出演したジェイスン・アイザックス、
2008年2月紹介『ジェイン・オースティンの読書会』などの
マリア・ベロ。
さらにアルフレッド・モリナ、シガーニー・ウィーヴァー、
スウェーデン版『ミレニアム』に主演のミカエル・ニクヴィ
スト、2010年1月紹介『バッド・ルーテナント』などに出演
のデンゼル・ウィティカーらが脇を固めている。
監督は、1991年『ボーイズ’ン・ザ・フッド』で史上最年少
(24歳)のオスカー監督賞候補になったジョン・シングルト
ン。脚本は、本作がデビュー作だが短編映画監督でもあるシ
ョーン・クリステンセンが担当した。
製作に『ジェイスン・ボーン』シリーズを手掛けるパット・
クローリーが参加しており、本作もその流れを継ぐ作品とい
う宣伝がされている。確かに自分のアイデンティティーを探
すという点では同じ傾向の作品だ。
ただし本作では主人公が高校生という、さらに微妙な設定と
なっており、脚本はその点を極めて巧みに消化していた。こ
の脚本家には今後も注目したいところだ。


『孤独なツバメたち』
ブラジルからの出稼ぎ労働者の子として日本で生まれたり、
幼い頃に日本に連れてこられ、日本で成長した日系ブラジル
人の若者たちを追ったドキュメンタリー。
2008年のリーマンショック以降、破綻した日本経済の中で多
くの海外からの出稼ぎ労働者が解雇され、日系ブラジル人労
働者の多くが帰国した。そこには日本で生まれ育った子供た
ちも数多く存在した。
作品は、浜松学院大学の学生と日系ブラジル人の若者たちを
中心に設立されたMinority Youth Japanを通じて製作され、
同大学教授の津村公博が監督・撮影・プロデューサーとして
参画。さらに2006年の劇映画『ハリヨの夏』などの中村真夕
の監督・撮影・編集によって完成されている。
映画の内容では、リーマンショック以前の浜松での状況に始
まり、ショック以降の両親と一緒にブラジルに戻らざるを得
なかった子供たちの暮らし振りが、ブラジルでの取材も含め
て描かれる。
そこには、日本で生まれ育ったにも拘らず、日本国籍を持た
ないために義務教育の恩恵も受けられず、中卒若しくは中学
中退で働き始めたまだ若い男女の、その給与からは税金も支
払われていたのに同等の権利を得られない法律の理不尽さな
ども描かれる。
そんな彼らを搾取し続けた日本社会の素顔は、僕自身も含め
た日本人に対して厳しく突きつけられる現実の姿なのだ。
しかしそんな状況の中で暮らした彼らが、日本で中卒ゆえに
受けた差別の悔しさなどを糧にブラジルに帰って勉学に励む
姿などは、日本での経験が活かされているとも言えるし、そ
んな向上心がこれからのブラジルを支えるのかも知れない。
さらに日本でヒップホップダンスに興じていた若者が、祖国
のスラム街ファヴェーラで子供たちを集めてチームを作り、
それで世界大会に出場し日本に凱旋する夢を語ったり、また
日本に残した恋人を想う姿などは、様々なドラマも感じさせ
るものだ。
しかも彼らが、日本やブラジルに帰ってからの苦労を、祖先
がブラジルに渡った頃の苦労に比較して話す姿は、今の日本
人に一番失われてしまったものがそこに息づいている感じも
抱かせた。


『一枚のめぐり逢い』“The Lucky One”
2004年11月紹介『きみに読む物語』などのニコラス・スパー
クス原作小説の映画化。
物語の始まりは中東と思われる戦場。そこで主人公は女性の
写った1枚のスナップ写真を拾う。それは瓦礫の中で日光を
反射して彼の目に止まったものだが、それを拾いに行った彼
の直前までいた場所が爆撃され、彼は九死に一生を得る。
そしてその後も彼に幸運をもたらした1枚の写真を胸に帰国
した主人公は、その写真の主を求めて町々を訪ね歩き、遂に
その女性の所在を突き止めるが…。バツ1でシングルマザー
の彼女にその事実を告げる機会を失ってしまう。
それでも胸に秘密を抱えたまま女性の経営する犬の訓練施設
で働き始めた主人公は、徐々に彼女との生活にも魅かれて行
く。しかしそこには様々な障害も待ち受けていた。
スパークス原作の映画化は、1999年の『メッセージ・イン・
ア・ボトル』以来数々観ているが、まあ正直に言ってメロド
ラマの典型。ベストセラーや大ヒット映画の理由は判るが、
それが僕の琴線に触れることは中々無かった。
しかし本作では、プロローグの戦闘シーンに始まって、写真
に秘められた謎の設定などが他の作品よりは面白く感じられ
たもので、それなりに楽しんで観ることが出来た。ただしラ
イヴァルとの絡みなどは多少やりすぎかなとは感じたが。

主演は、2011年12月紹介『ニュー・イヤーズ・イブ』などの
ザック・エフロンと、サイトでは2005年7月15日付の第91回
などで製作情報を紹介し、2011年に全米公開された“Atlas
Shrugged”などに主演の新進女優テイラー・シリング。
他に、2011年10月紹介『宇宙人ポール』などのブライス・ダ
ナー、同年2月紹介『キラー・インサイド・ミー』などのジ
ェイ・R・ファーガスン、数多くの人気シリーズにゲスト出
演している子役のライリー・トーマス・ステュアートらが脇
を固めている。
脚本は2011年6月紹介『リメンバー・ミー』のウィル・フェ
ッタース。監督はオスカー候補になった1996年『シャイン』
や、2007年8月紹介『幸せのレシピ』などのスコット・ヒッ
クスが担当した。

『MY HOUSE』
今月初めにドキュメンタリーの『モバイルハウスのつくりか
た』を紹介している建築家・坂口恭平の原作をドラマ化し、
2010年4月紹介『BECK』などの堤幸彦が監督した作品。
脚本は、堤演出のテレビドラマ『スシ王子!』などの佃典彦
が担当した。
元々監督が2007年に雑誌に載った建築家の紹介記事を見て映
画化を思い付き、その後は建築家自身にも会って5年掛けて
作り上げた作品。その間に堤監督は『銀膜版スシ王子!』や
『20世紀少年』3部作なども撮っており、その裏でしっかり
練られた作品のようだ。
物語は、名古屋の公園に小屋を建てて生活しているホームレ
スが主人公。その小屋は追い立てが来れば何時でも分解して
移動できるようになっており、映画は1台の自転車で運んで
きた部品で小屋を組み立てるシーンから始まる。
そんな主人公が金を稼ぐ手段は空缶集め。毎日朝夕4時間づ
つを掛けて町を巡り、放置された空缶などを回収している。
そして集めた空缶はアルミ相場なども参考にして回収業者に
持ち込み、日々の稼ぎを得る。
そんな主人公の周囲には素性の不明な女性や画伯と自称する
老人、さらに元は教師という男性らがホームレスとして暮ら
している。そして行政から派遣される係官との応対や、集め
た空缶を盗もうとする輩、ホームレス狩りなども描かれる。
それは悪天候の日も続けられる1日8時間の労働など、生活
としては楽なものではないが、主人公は何より自由を謳歌し
ている。そんなホームレスの哲学みたいなものも描かれてい
る作品だ。
因に主人公の名前は鈴本。これが『モバイルハウス』に登場
する鈴木氏であることは明らかだが、映画の中で主人公が行
っている空缶集めや、それに纏わるエピソードなども鈴木氏
の体験に基づくようだ。

出演は、名古屋在住フォークシンガーのいとうたかお。その
脇を石田えり、木村多江、板尾創路、それに本作のオーディ
ションで選ばれた愛知県在住の中学生の村田勘らが固める。
なお映画に登場する小屋は坂口氏の設計によるものだそうだ
が、先に『モバイルハウス』を観ているとその構造などが実
に判りやすかった。逆に、『モバイルハウス』では判らなか
った部分が本作で理解できることもあり、この2作は併せて
観るのが正解のようだ。

『フェイシズ』“Faces in the Crowd”
ミラ・ジョヴォヴィッチ主演で、シリアルキラーの顔を見た
ものの、その後の衝撃で相貌失認=人の顔が判別できない症
状に陥ってしまった女性の恐怖を描いた作品。
主人公は、小学校で低学年を受け持つ女性教師。独身生活を
エンジョイしているが、付き合っている男性のプロポーズを
待っている身でもある。そんな彼女が親友の女性2人と飲ん
での帰宅中。シリアルキラーの犯行を目撃してしまう。
そこで犯人の顔を見た主人公は息を潜め隠れるのだが、無情
にも携帯電話が鳴りだし、犯人に追い詰められた彼女は橋か
ら転落して頭を打ってしまう。そして昏睡から醒めた彼女の
前には見知らぬ男女が心配そうに顔を覗き込んでいた。
そこにいたのは婚約者と親友の女性2人。しかし彼女は人の
顔を判別できない症状に陥っていたのだ。こうして目撃した
犯人が目の前にいても判別できない…前代未聞の恐怖が彼女
を襲い始める。そして犯人の魔の手が徐々に迫っていた。

監督は、2002年12月紹介『ブラディ・マロリー』などのジュ
リアン・マニャ。本作は学生時代に心理学の授業で「相貌失
認」という症状を聞いて以来温めてきたアイデアだそうで、
監督は自ら脚本も執筆しているものだ。
共演は2006年11月紹介『ラッキーナンバー7』などのセバス
チャン・バーツ、2011年12月紹介『ウォーキング・デッド』
などのサラ・ウェイン・キャリーズ、テレビ『スターゲイト
SG−1』などのマイクル・シャンクス。
さらに2009年4月紹介『トランスポーター3』に出演のデイ
ヴィッド・アトラクチ。そして2006年12月紹介『マリー・ア
ントワネット』にも出ていたマリアンヌ・フェイスフルらが
出演している。
ただし主人公が顔の判別を出来ないという設定なので、主な
登場人物は複数の俳優によって演じられており、映画データ
ベースの配役表はかなり面白かった。
犯人の顔の判別が出来ないことによるサスペンスが中心の作
品だが、そんな状況でも強く生きようとするヒロインが巧み
に描かれており、さらにそれによって生じる様々な現象など
も興味深く描かれていた。


『フライペーパー!』“Flypaper”
2010年4月紹介『ハングオーバー!』で世界的な大ヒットを
記録したジョン・ルーカスとスコット・モーアのコンビによ
る脚本を、2004年3月紹介『ホーンテッド・マンション』な
どのロブ・ミンコフ監督が映画化した作品。
主演は、2004年8月紹介『ツイステッド』などのアシュレイ
・ジャッドと、本作の製作も兼ねる2008年1月紹介『魔法に
かけられて』などのパトリック・デムプシー。
その事件は閉店間際の銀行で始まる。両替客の相手をしてい
た女性銀行員の前で銃声が鳴り銀行強盗が現れるのだが、何
と強盗団は2組。片やハイテクを駆使し大金庫を狙う3人組
と、他方はアロハにサンダル履きでATMを狙う2人組が鉢
合わせしたのだ。
そんな予想外の事態に2組は対峙するのだが、その時、客の
1人が射殺されてしまう。そして慌てる強盗団に対して両替
客が、それぞれの狙いが違うなら別々にやればいいと提案。
2組は銀行内にいた人々を2階のオフィスに監禁し、それぞ
れの仕事を始めるが…彼らの作業は次々に不測の事態に見舞
われて行く。
一方、オフィスに監禁された両替客らは事件の推移に疑問を
感じ始め、各所に散らばる証拠などから徐々に事件の裏に隠
された真相に近付いて行く。その真相とは!

共演は、2005年12月紹介『シリアナ』などのティム・ブレイ
ク・ネルスン、2005年2月紹介『コンスタンティン』などの
プルイット・テイラー・ヴィンス、『ハングオーバー!』シ
リーズのジェフリー・タンバー。そして今年のオスカー助演
女優賞に輝いたオクタビア・スペンサー。一癖も二癖もある
連中が脇を固めている。
ルーカス、モーアの脚本は『ハングオーバー!』より以前に
書かれていたものだそうで、監督は『ハングオーバー!』の
公開前にコンビと出会い、準備を進めていた。しかしかなり
際どい題材に製作資金が中々集まらなかったようだ。
そんなときにデムプシーの主演が決り、彼が製作者にも名を
連ねて計画を推進、さらには『ハングオーバー!』の大ヒッ
トもあって映画化が実現したようだ。つまり内容的には脚本
家コンビの前作よりさらに際どい訳で、そんな際どい笑いが
満載の作品になっている。

『HELL』“Hell”
2009年11月紹介『2012』などのローランド・エメリッヒ
監督が製作総指揮を務め、監督の祖国であるドイツの若手映
画人に協力して完成させた近未来サヴァイヴァル作品。
舞台は2016年。太陽活動の変調によって平均気温が10度上昇
し、水が涸れ、草木も枯れて地球全体が砂漠のようになって
しまった世界を背景に、若い男女のサヴァイヴァル劇が展開
される。
物語の中心は恋人の運転する車で妹と一緒に山岳地帯を目指
している女性。そこに行けば清水の沸く洞窟もあると考えら
れている。そしてガソリンが乏しくなり、立ち寄ったスタン
ドで1人の男が合流する。
やがて車は山路に差し掛かり、道を塞いで倒れていた鉄塔を
排除しようとしていたとき、乗っていた妹ごと車が何者かに
持ち去られる。それでもハンディトーキーで妹がまだ近くに
いると判断した女性はその救助に向かうが…
男2人も捕えられ、1人になった女性の前に老女の住む農場
が現れる。その老女は息子に協力させると申し出るが、農場
には何か秘密があるようだった。

主演は、2007年8月紹介『4分間のピアニスト』などのハン
ナ・ヘルツシュプルング。他に、2011年4月紹介『アンノウ
ン』に出演のスタイプ・エルツェッグ、1997年『ブリキの太
鼓』などのアンゲラ・ヴィンクラーらが脇を固めている。
脚本と監督はティム・フェールバーグ。長編監督は初めての
ようだが、過去には2本の短編と10人の共同監督による作品
が記録されている。その内の1人が今回の脚本に参加してい
るようだ。そして本作では映画祭の新人監督賞も受賞してい
るものだ。
舞台は、『マッドマックス』などと同様のPost Apocalypse
(終末世界)だが、オーストラリアやハリウッド映画とは少
し違った終末感が描かれている。それは多少どぎつい面もあ
るが、この方が現実に近いかなとも思わせるものだ。

東京での公開は6月30日より、昨年リメイク版が公開された
1978年『発情アニマル』のリバイバル公開(6月19日から)
に続けてシアターN渋谷にてレイトショウ上映される。

『ラム・ダイアリー』“The Rum Diary”
2005年に他界したアメリカのジャーナリスト・作家ハンター
・S・トムプスンの原作を、トムプスンの親友であり、事実
上の葬儀委員長も務めた俳優ジョニー・デップが、自らの製
作会社インフィニタム・ニヒルの第1回作品として製作・主
演で映画化した作品。
舞台は1960年代のプエルトリコ。ニューヨークの喧噪を逃れ
てこの地にやってきた主人公は、作家と称して地元の新聞社
に職を求める。そしてその履歴書や推薦状は嘘と見抜かれる
が、彼は記者として雇われることになる。
その新聞社には、豪放なカメラマンや社には滅多に顔を出さ
ない記者などもいて、主人公はそんな彼らとルームシェアし
て南国の暮らしを始める。それは自家製の密造ラム酒にも浸
ったものだった。
そんな中、とあるパーティの取材中に海で泳ぐ美女に目を留
めた主人公は、パーティ主催者のリゾート開発業者とも知り
合いになる。しかしそれは新聞社も牛耳る開発業者の企みに
加担することだった。
こうして主人公は、有象無象が蠢く南国の裏を目撃すること
になる。そして新聞社にも廃刊の危機が迫っていた。
原作はトムプスン自身の実体験にも基づいているようだが、
原作者は若い頃に書き上げた原稿をそのままトランクの底に
仕舞っていたそうだ。それを自宅に遊びに行ったデップが発
見し、その場で出版を促し映画化も検討したとなっている。
従ってデップにとっては最も愛着のある原作かも知れない。
その映画化は原作者の存命中には実現しなかったが、デップ
は脚本・監督に久しく現場を離れていたブルース・ロビンス
ンを引っ張り出すなど、万全の体勢でそれに臨んでいる。

共演は、2011年6月紹介『ザ・ウォード』などのアンバー・
ハード、2011年3月紹介『世界侵略:ロサンゼルス決戦』な
どのアアロン・エッカート。さらに2010年10月紹介『キック
★アス』などのマイクル・リスポリ、リチャード・ジェンキ
ンス、ジョヴァンニ・リビシらが脇を固めている。
デップは、本来の主人公よりは少し年上かも知れないが、ヘ
ヴィなメイクもなくほぼ素顔の登場で若々しく演じている。
これでさらにファンになる人も増えそうだ。
        *         *
 2005年7月紹介『シン・シティ』の続編が、前作も手掛け
たロベルト・ロドリゲス監督の手で進められ、今年夏の撮影
で計画されていることが報告された。
 オリジナルは、2007年3月紹介『300』などのフランク
・ミラー原作によるグラフィックノヴェルに基づくもので、
2005年の映画化では、ロドリゲスとミラーが共同製作、共同
脚本、共同監督で名を連ねていた。
 ところがアメリカ監督協会の規定では、1本の映画の監督
の名義は1人のみとされ、共同監督は認めないという横やり
が入り、公開はそのまま行われたものの、それに異議を唱え
たロドリゲスは最終的に監督協会を脱退することになってし
まう。
 とは言え現実的には協会員でなくとも映画を監督できない
訳ではなく、その影響は少ないと観られていたが…。実は映
画会社の中でパラマウントは監督協会との結び付きが深く、
同社は自社作品に協会員以外の監督は認めないとしていた。
 しかも丁度この時、パラマウントではロドリゲスの監督で
“A Princess of Mars”の計画が進められており、協会を脱
退したロドリゲスはこの計画から降板せざるを得なくなって
しまったものだ。
 そして結局パラマウントは映画化を諦め、その権利を回収
したディズニーが今年『ジョン・カーター』を公開したもの
だが、正にその年に『シン・シティ』の続編が動き出すのも
不思議な巡り合わせと言えそうだ。
 なお続編は“Sin City: A Dame to Kill For”の題名で、
脚本は、ミラーと2006年『デパーテッド』でオスカー受賞の
ウィリアム・モナハンが担当し、監督はロドリゲスの単独と
なるようだ。



2012年04月15日(日) 苦役列車、ジョルダーニ家、グレイヴ・E、ジョイフル♪ノイズ、彼女について知ることのすべて、ブライズM、王朝の陰謀、白い指+Carrie

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『苦役列車』
第144回(2010年下期)芥川賞を受賞した西村賢太原作小説
の映画化。
主人公は、港で日雇いの荷役労働者として働く男性。ある日
彼は、職場に向かう集合バスの中で、専門学校に入学し上京
してきたという同い年の若者と出会う。そして何となく気の
合った2人は、一緒に酒を飲む仲になる。
そんな主人公は、古本屋でアルバイトをしながら大学に通っ
ているという苦学生の女性に目を付けていたが、若者の仲立
ちで彼女と友達になることができる。そして3人で海に行っ
たりするようになるが…
主人公の背景にはいろいろなものがあって、それが徐々に明
らかになって行く。
今回の試写はほぼ内覧だったようで、プレス資料もほとんど
用意されていなかった。そのため原作者の経歴などはネット
で検索したが、この物語の背景部分がほぼ実生活に基づいて
いるようで、そのことに衝撃を受けた。
そんな衝撃的な背景を持つ物語だが、それは特に嫌みに感じ
ることもなく、普通とは言えないかも知れないけれどさぼど
の違和感もなく、丁寧な演出で1980年代後半の青春映画とし
て見事に映像化されていた。

主演は2008年4月紹介『百万円と苦虫女』などの森山未來。
なお森山の前作『陸の魚』は内容的な部分でこのサイトには
アップしなかったが、森山の演技は優れていると感じてはい
たものだ。
共演は、2011年12月紹介『きつつきと雨』などの高良健吾と
AKB 48の卒業を発表した前田敦子。高良の爽やか振りは健在
で森山の欝々とした感じと好対照を演じている。また前田は
難しい役柄ではなかったが良い感じに演じていた。
脚本は2011年9月紹介『女の河童』などのいまおかしんじ。
監督は同年3月紹介『マイ・バック・ページ』などの山下敦
弘が担当している。
1976年生まれの監督の演出は、1944年生まれ原作者の前作の
時は、1949年生まれの僕には何処か違和感があったが、本作
の原作者は1967年生まれで脚本家も1965年生まれということ
では、時代感覚もうまく捉えられていた感じだった。
そんな時代の青春が丁寧に描かれた作品と言えそうだ。

『ジョルダーニ家の人々』“Le cose che restano”
2005年6月紹介『輝ける青春』のサンドロ・ペトラリアとス
テファノ・ルッリの脚本による現代イタリアを背景にした家
族の物語。なお脚本家には『輝ける青春』の前に“La vita
che verra”という1960年までが背景の作品があり、本作で
3部作の完結となるようだ。
物語の中心はローマに暮らす夫婦と3男1女の一家。長男は
外交関係の公務員で紛争地帯に派遣されている。長女は結婚
しているが心理関係の医療に従事し、いろいろな心に悩みを
抱える人たちのケアに当っている。
その長女が妊娠し、長男の帰国も重なって一家は集まること
になる。そこには建築家を目指す学生の次男や天真爛漫な末
弟の姿もあった。しかしその末弟が事故で帰らぬ人となる。
そして一家の崩壊が始まる。
そこでは悲嘆に暮れたまま施設に収容を余儀なくされる母親
や、そんな妻を尻目に不倫を続ける父親。また優秀なのに自
分の将来に不安を抱く次男、ある事情を抱えている長男。
さらには、長女の患者で戦場からの帰還者や、イラクからの
難民の女性などの物語が添えられ、一家を巡る現代を反映し
たドラマが展開されて行く。
『輝ける青春』は上映時間366分におよぶ大作の映画だった
が、本作はさらに399分の上映時間で、実は本国では100分づ
つ4回のミニシリーズでテレビ放送されたもののようだ。因
に3部作の1作目もミニシリーズと記録されている。
という作品だが、『輝ける青春』を期待して行くと、第1部
のメロドラマ的な展開に唖然とさせられた。しかしその後に
は、イタリアが関っている国際紛争の問題や、難民問題、さ
らにそこに巣くう社会問題なども描かれ、さすがという感じ
の作品になっていた。
また家族の老齢化の問題なども描かれ、むしろ今の日本人に
は、本作の方が『輝ける青春』より判り易いだろうとは思わ
れる作品だ。特に次男が再開発に関る孤児院の跡地に描かれ
る問題は心に響くものがあった。

出演者は、イタリアのテレビで活躍する俳優が中心のようだ
が、中には2010年2月紹介『ドン・ジョヴァンニ』に出演の
ロレンツォ・バルッチとエンニオ・ファンタスティキーニ、
2010年9月紹介『シチリア!シチリア!』に主演のフランチ
ェスコ・シャンナらが脇を固めている。
監督は、ヴェネチア映画祭の出品歴などがあるジャンルカ・
マリア・ダヴァレッリが担当した。

『グレイヴ・エンカウンターズ』“Grave Encounters”
「墓場の遭遇」と題された超常現象の真相を探る番組のスタ
ッフが遭遇したという設定のPOVによるフェイクドキュメ
ンタリー。
その調査の対象は1895年から1960年まで運営されていたとい
う精神病院跡の廃虚。そこでは精神医学の発達する以前にか
なり過激な治療も行われていたという。そして1940年代には
ロボトミー手術も頻繁に行われていたようだ。
さらにそのロボトミー手術を率先していた医師が、反抗した
患者グループに惨殺される事件も発生したという。そんな廃
虚に24時間の予定で撮影隊が入り、要所に定点カメラも設置
し、さらに手持ちカメラで撮影が開始される。そして惨劇が
始まる。
映画では、プロローグにプロデューサーと称する男性が登場
し、局に送られてきたヴィデオだという解説が付けられる。
しかもその第6回だと言うのだが…。
僕の映画を観る時の態度としては、基本的に物語の整合性が
気になる質と言える。その目で観ていると、本作のような作
品はかなり気分が退いてしまうものだ。それは例えば番組と
して編集されているという設定なのに、途中でやらせが暴露
されているとか。
また、局にヴィデオが送られてきたのなら定点カメラのヴィ
デオの回収などの経緯もあるはずだが、本作ではその辺もウ
ヤムヤにされたまま。これは2月紹介『アポロ18』もそう
だったが、その辺の詰めの甘さは感じてしまうところだ。
因に、僕の中では評価の高い『●REC』でも回収の経緯は
示されないが、あの作品では最初から番組などという説明も
されないもので、その辺を割り切っているところがうまいと
も言える。
つまりわざわざプロローグを付けているところが考えの浅さ
でもあるし、その辺が詰めの甘さとも言える。それに、上記
のやらせの暴露などは単なる思いつきの最たるところとも言
えるものだ。
ただし本作では、上記の点を除けば恐怖シーンの演出などは
比較的しっかりと作られていた感じで、特に挿入されるアー
カイヴ映像などは良く出来ていた。またVFXなどもそれな
りに巧みだった感じだ。
その辺では、こちらはサイトにはアップしなかったが、昨年
8月頃に試写の行われた“The Speak”などよりはしっかり
していた。ただし8月の作品ではヴィデオ回収の経緯はちゃ
んとしていたが。

脚本と監督はザ・ヴィシャス・ブラザース。彼らはミュージ
ックヴィデオ出身のようで、その片割れは、過去にYouTube
で削除されるまでに300万アクセスを記録したという問題映
像の制作者だそうだ。

『ジョイフル♪ノイズ』“Joyful Noise”
2003年2月紹介『シカゴ』でオスカーにノミネートのクイー
ン・ラティファと、1980年公開『9時から5時まで』などの
ドリー・パートンの共演によるゴスペルコーラスを主題にし
た音楽映画。
背景は現代。ジョージア州の小さな町パカショーは不況の中
で衰退していた。そんな町の唯一の希望は町の教会の賛美歌
コーラスが全国大会で優勝すること。しかしその夢はいつも
州大会までで、コーラス団の存亡も取り沙汰されている。
そんな中で長年コーラスの指導をしてきた町の実力者の男性
が亡くなる。そしてコーラス団の指導は前指導者の妻ではな
く、アスペルガー症候群の息子を抱える女性に託される。
その新指導者にはリードも務められる娘がいて、一方の前指
導者の未亡人の許に都会で暮らしていた孫の青年が帰ってく
る。そして2人の若者はコーラス団の改革を志すが、新指導
者は伝統的なゴスペルに固執していた。

共演は、2008年12月紹介『ザ・クリーナー』に出演のキキ・
パーマー、ブロードウェイの“Bonnie and Clyde”にクライ
ド役で出演中のジェレミー・ジョーダン。
他に2010年4月紹介『小さな命が呼ぶとき』などのコーニー
・B・バンス、2009年6月紹介『キャデラック・レコード』
などのデクスター・ダーデン。さらにカントリーソングの殿
堂入りも果たしているクリス・クリストファースンらが脇を
固めている。
なお挿入される歌曲は、伝統的なゴスペルからスティービー
・ワンダーやマイクル・ジャクスンまで、様々なアレンジで
多彩な楽曲が披露される。またドリー・パートンは、本作の
ために新曲も書き下ろしているそうだ。
ゴスペルコーラスであるから、宗教的な背景も色濃い作品だ
が、それは別としてコーラス物として充分に楽しめた。それ
にいまさら肌の色を超えたでもないのだろうが、若いカップ
ルの、それなりに障害もあるラヴストーリーも楽しめたもの
だ。

それにしても、1946年生まれのパートンが、1970年生まれの
ラティファを相手に歌いまくるシーンは圧巻だった。

『彼女について知ることのすべて』
佐藤正午の原作小説の映画化。その脚本と監督は2009年8月
紹介『行旅死亡人』などの井土紀州が手掛けた。因に井土監
督は瀬々敬久監督のピンク映画にも参加しており、本作では
エロス・ノワールというコピーも付けられている。
主人公は実家暮らしの教職員。一応将来を約束した同僚教員
もいて、親の車で彼女を迎えに行き、一緒に買い物をして半
同棲のような生活を楽しんでいる。ところがある日、買い物
に来たスーパーの喫煙所で1人の女性と話したことから運命
が動き始める。
そこに出てきた婚約者はその女性の高校時代の同級生と言う
が、その態度は女性を嫌っていることが明白だった。そんな
ことにも興味を持った主人公は、偶然友人が女性の務める病
院に入院していたこともあって、その女性に接近して行く。
その結末は…
まあ、単純に言って男の下心が主人公を泥沼に引き摺り込ん
でいくような物語で、しかも映画では多少単純化され過ぎて
いる感じもするが、それなりにありそうな男女の姿が描かれ
ていたようだ。

出演は、2010年9月紹介『海炭市叙景』などの三浦誠己と、
元TBS「王様のブランチ」のレポーター(といってももう
14年も昔のようだ)の笹峯愛。笹峯はスクリーンデビューと
なっている。
他に、2008年12月紹介『ラーメン・ガール』などの朴昭煕。
2010年5月紹介『結び目』などの赤澤ムック、2010年12月紹
介『学校をつくろう』などの中村憲刀、『行旅死亡人』にも
出演の長宗我部陽子らが脇を固めている。
拳銃の不法所持では学校の先生は懲戒免職を免れないように
も感じるが、まあ最近の教育現場は甘くなっているのかな。
それとも拳銃を湖に投げ捨てて証拠が上がらなかったのかも
知れないが、倫理的にはどうかなとは思ってしまう。これは
まあ話の本筋ではないが。
出演者はスター級ではないがそこそこ実力者と見做せる顔ぶ
れで、その中で笹峯の艶技は頑張っていたと言えるのかな。
ただその演出は1970年代のロマンポルノとあまり変っておら
ず、その辺はもう少し目新しさも欲しい感じではあった。


『ブライズメイズ』“Bridesmaids”
2010年2月紹介『ローラーガールズ・ダイアリー』にも出演
していたSNL出身の女優クリスティン・ウィグが、主演と
オスカーにもノミネートの脚本と製作も務めた女性の本音?
映画。
主人公は、長年の夢だったケーキ屋を開業したものの敢え無
く休業に追い込まれてしまった女性。そんな女性が幼馴染み
の結婚式で式を取り仕切るmaid of honorに選ばれ、自らの
境遇にも合わせた質素な式を目指すのだが…、幼馴染みは成
り上がりのセレブだった。
そして一緒にbridesmaidsに選ばれた中にはセレブのお友達
もいて、bachelorette partyの行き先や結婚式の運営などで
熾烈な主導権争いが勃発する。そんな中で主人公の精神状態
はどんどん落ち込んで行き…
「女同士の親友なんて有り得ない」というのは、男女のどち
らが言い出した言葉か知らないが、本作はそんな中から生ま
れる真の友情や主人公の再生などが描かれた作品になってい
る。これこそが女性の本音と言えるのかな。
それにしても、ウッグの脚本は男性の目からは唖然とするよ
うな下ネタの満載で、本作はそのテーマから2011年5月紹介
『ハングオーバー!!』とも比較されるが、R指定の同作を上
回る怪作になっている。因に本作もアメリカではR指定の作
品だ。

共演は、2011年1月紹介『お家をさがそう』などのマーヤ・
ルドルフ、同年6月紹介『インシディアス』などのローズ・
バーン、2003年1月紹介『ホワイト・オランダー』に出演の
メリッサ・マッカーシー。
他に2009年8月紹介『パイレーツ・ロック』に出演のクリス
・オダウド、2010年3月紹介『アリス・イン・ワンダーラン
ド』などのマット・ルーカス。それに2011年8月紹介『ラブ
&ドラッグ』にも出演し本作が遺作になったジル・クレイバ
ーグらが脇を固めている。
監督はテレビ『ザ・オフィス』シリーズでエミー賞監督賞に
ノミネートされたポール・フェイグ。製作は2008年11月紹介
『無ケーカクの命中男』などの監督のジャド・アパトーが担
当した。
なお本作のエピソードは、共同製作と共同脚本を手掛けたア
ニー・ムモーロの実体験に基づくものだそうだ。

『王朝の陰謀』“狄仁杰之通天帝国”
日本ではハヤカワ・ポケミスなどで紹介されているオランダ
の作家ロバート・ファン・ヒューリックの小説「ディー判事
シリーズ」でも知られる中国唐代に実在した宰相・狄仁傑を
主人公にしたかなりファンタスティックな作品。
元々この主人公に関しては、清代に作者不明で「狄公案」と
いう物語も出版されているとのことで、中国版「シャーロッ
ク・ホームズ」とも称され、中国ではかなり人気の高い人物
のようだ。
そして本作の物語は、紀元689年の唐王朝の時代。都・洛陽
では天にも届く巨大な仏像「通天仏」の建立が進んでいた。
ところがそれを視察に来た高官の人体が突然発火するという
怪事件が発生。しかも同様の事件が連続する。
これに対し時の執政者・則天武后は信頼する国師のお告げを
聞き、お告げに従った武后は政権を非難して投獄されていた
ディー判事を呼び戻す。そして事件解決の任に当らせるが、
それには監視役として武后の側近のチンアルと司法官のペイ
も伴われていた。
こうして武后に任じられた3人は怪事件の謎に挑むが…。そ
れは王朝を巡って武后の政敵など様々な陰謀が渦巻くものだ
った。
因に狄仁傑は、史実でも仕えていた武則天が仏教に溺れない
よう、大仏の建立を中止させたことがあるそうだ。また狄仁
傑自身が武則天からは「国老」と呼ばれていたそうで、物語
はその辺も踏まえて作られているようだ。

出演は、アディ・ラウ、2011年10月紹介『1911』などの
リー・ビンビン、2008年10月紹介『戦場のレクイエム』など
のダン・チャオ。さらに2004年9月紹介『2046』などの
カリーナ・ラウ、2011年3月紹介『孫文の義士団』などのレ
オン・カーフェイらが脇を固めている。
監督は、2005年9月紹介『セブンソード』などのツイ・ハー
ク。本作では1991年『天地黎明/ワンス・アポン・ア・タイ
ム・イン・チャイナ』以来となる2度目の香港電影金像賞の
監督賞を受賞している。
物語では洛陽の地下に構築された冥府のような暗黒世界も登
場し、ファンタシーと呼んでも良いような展開が用意されて
いる。そしてその中で、サモ・ハンが武術指導を担当した見
事なアクションも描かれるものだ。


『白い指の戯れ』
『花芯の刺青 熟れた壷』
すでに2回4本を紹介している日活創立100周年記念企画で
上映される作品群の中から、今回は1972年村川透監督作品と
1976年小沼勝監督作品の試写が行われた。
村川監督の前者は、東京の渋谷や新宿を舞台にした集団スリ
団と関りを持つようになった女性が主人公の物語。喫茶店で
声を掛けられた男性と付き合い始めた主人公が、徐々にその
組織に取り込まれて行く姿が描かれる。

主演は本作がデビュー作の伊佐山ひろ子。それにミュージシ
ャンとしても人気の高かった荒木一郎。因に本作は、荒木が
1969年に強制猥褻致傷の容疑で逮捕身柄送検(不起訴)され
て以降の作品となっている。
映画では渋谷駅前の六本木通りと明治通りの角に建つ喫茶店
が何度も登場し、その窓からは渋谷パンテオンの入った東急
文化会館や、東邦生命ビル(現・渋谷クロスタワー)の工事
現場の見えるのが懐かしかった。
また新宿の紀伊国屋書店内で撮影された万引きのシーンなど
もあって、当時はこんな撮影も可能だったのだと改めて感心
もした。さらに映画には1970年以降の若者の往き所のない苛
立ちようなものも描かれ、その時代を生きた自分には懐かし
さ以上のものが感じられた。
小沼監督の後者は、東京下町を舞台にした紙人形師の女性と
その娘の愛憎劇で、娘が知り合った男性を巡って母親と娘が
艶技を繰り広げる。そしてそれが女性の全身を彩る刺青の図
柄へと繋がって行く。

出演は、谷ナオミ、北川たか子、花柳幻舟。そして彫り師役
を蟹江敬三が演じている。
なおこの作品では、歌舞伎役者による船乗り込みのシーンが
登場し、その場所は隅田川のように見えたが、本作が製作さ
れた1976年当時に東京でこのようなことが行われていたとは
知らなかった。
船乗り込みは元々は関西の歌舞伎の行事で、道頓堀を中心に
1979年、52年振りに復活したその1回目には小松左京氏も乗
り込んだものだ。それがその3年前に東京で行われていたよ
うなのだが…。できたらこの詳細も知りたくなった。

試写会は今回までだが、5月12日からの一般公開では紹介し
た6本を含む全32本が上映される。その中では、製作当時に
は過激な暴力描写などで公開が中止された曾根中生監督作品
『白昼女狩り』の本邦初公開も行われるとのことだ。
        *         *
 MGMが、1976年に公開したスティーヴン・キング原作の
ホラー作品『キャリー』“Carrie”のリメイクを計画し、そ
の主演に2011年5月紹介『モールス』などのクロエ・グレー
ス・モレッツが発表されている。
 オリジナルは、ブライアン・デ・パルマの監督で、主人公
キャリー役のシシー・スペイセクを一躍スターの座に押し上
げたものだが、当時のスペイセクは27歳、それが高校3年生
を演じていたのは演技力も抜群の感じだった。
 それに対して今回のモレッツは1997年生まれ、今夏に予定
の撮影時でも15歳で、高校3年生というにはまだ若い感じだ
が、果たしてどのような物語が展開されるのか、興味津々の
作品になりそうだ。
 脚本は、テレビ『グリー』などのロベルト・アギーレ=サ
カーサ。監督には1999年『ボーイズ・ドント・クライ』など
のキムバリー・ピアースの起用が発表されている。
 全米公開は2013年3月15日からソニーの配給で行われる。



2012年04月08日(日) バトルシップ、君への誓い、バッド・ティーチャー、紙兎ロペ、屋根裏部屋のマリアたち、ワンドゥギ、ムサン日記、タイタンの逆襲

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『バトルシップ』“Battleship”
実は3月22日に試写を観ていたが、日本が世界に先駆けての
公開のため、ユニヴァーサル本社からの要請で情報の露出が
抑制され、こんなに面白い作品なのに何も語れないフラスト
レーションにも苛まれていた作品。その禁止令がようやく解
除された。
物語の発端は数年前、NASAの研究者が意外に近いところ
に生物の可能性のある惑星を発見し、ハワイ島の通信基地か
ら特別に設計された強力な通信衛星を使って、惑星に向けた
友好のメッセージが送信される。
それから数年後、ハワイ島沖の海域では日本の自衛隊艦船も
参加する環太平洋合同演習(=Rimpac)が実施されていた。
その最中、演習海域に宇宙からの飛来物が着水し、合同演習
の司令官はその近くにいた日米の駆逐艦3隻を調査に向かわ
せる。
ところが突然その飛来物が発したシールドによってハワイ島
を含む海域が封鎖され、その内部には日米の駆逐艦3隻のみ
が取り残される。そして飛来物からは巨大な爆雷や車輪状の
攻撃機が次々に繰り出され、日米の駆逐艦に襲いかかる。
こうしてシールド内の3隻は、この強大な敵に日米共同で立
ち向かうことになるが…。その指揮官の間にはそれ以前から
の確執もあった。

出演は、日本では同日公開される『ジョン・カーター』にも
主演のテイラー・キッチュが米駆逐艦の副艦長を演じ、対す
る自衛艦々長役には、2011年5月紹介『マイティ・ソー』な
どの浅野忠信が扮している。
他にリーアム・ニースン、2011年12月紹介『メランコリア』
などのアレクサンダー・スカルスガルド。さらにモデル出身
のブルックリン・デッカー、歌手のリアーナらが共演。
脚本は、2010年12月紹介『RED』などのエリック&ジョン
・ハーバー。監督は、2008年7月紹介『ハンコック』などの
ピーター・バーグが担当した。
映画の展開はとにかく面白い。それはかなり無茶なシーンも
あって、突っ込みどころも満載なのだが、それがすべて許し
てしまえるほどの正しくエンターテインメント、大人も子供
も楽しめる作品になっている。
また、日本のコミックスやアニメにオマージュを捧げている
ようなシーンも多数あって、それは物語の舞台がパールハー
バーであることも含めて、日本に向けた敬意の現れのように
も感じられた。そこで日米の俳優が共演しているものだ。
因に題名は「戦艦」の意味になるが、現在世界中に戦艦と呼
ばれる艦船は存在しないのだそうだ。それでも題名通りの展
開になるところが本作の素晴らしさだと、一緒に試写を観た
兵器オタクの友人が話してくれた。
また敵が繰り出す車輪状の攻撃機は、実は本作の原作となる
ハスボロ社のゲーム盤で使用されるピンの頭を模しているの
だそうで、その辺のこだわりなども知れば知るほど面白くな
る作品のようだ。

そして本作のプロモーションでは、4月2日に米軍横須賀基
地に入港中の原子力空母ジョージ・ワシントンの飛行甲板上
での監督とキャストによる記者会見が開催された。この会見
への出席には事前の登録とパスポートも必要という特別なも
のだったが、僕は幸い昨年のタイ遠征の際に作ったパスポー
トが功を奏して参加することができた。
その会見では、海軍オタクを自称する監督から、「荒唐無稽
な話でも兵士の動きなどには不自然さのない演出を心掛けた
た」との発言もあり、その辺の心遣いが映画の良好な雰囲気
に繋がっていることも再確認できたものだ。
また会見場への行き帰りに通った艦内動線の傍には、映画で
よく観る海図に艦船の模型を並べた作戦室があったり、巨大
なジョージ・ワシントンの頭部彫刻の飾られたハンガーベイ
があったりして、それらを垣間見ることもできた。
それにしても艦内は、巨大な船体にも関らず階段などは考え
ていた以上に狭くて急な造りで、機材を抱えたカメラマンた
ちは昇降にかなり苦労させられていたようだ。そんな艦内に
入れたことも貴重な体験になった。この機会を与えてくれた
関係者には感謝したい。
映画の日本公開は4月13日から。1カ月遅れのアメリカ公開
では、コカコーラ社が全社挙げてのプロモーションでバック
アップするとのことで、この春最大の話題作になることは間
違いない。その作品が、日本では一早く観られるものだ。

『君への誓い』“The Vow”
交通事故で自分との関係の記憶を失った妻を取り戻すため、
あらゆる努力を傾注した夫の姿を描く実話に基づく作品。
物語の始まりで、愛し合って結婚した2人は雪道の車内で将
来の相談をしている。そんな2人の乗った乗用車に大型車が
追突し、妻はフロントガラスに激突して脳に障害を負ってし
まう。そして意識不明の状態から目覚めた妻は夫との関係の
記憶を失っていた。
しかも妻は、家出して一人暮しを始めた両親との確執も記憶
しておらず、さらに彼女の方から振ったはずの元婚約者との
経緯も覚えていなかった。そのため両親の許を訪ねたり、元
婚約者にも会いに行ってしまう妻に対して、夫はなす術も失
ってしまうが…
アルツハイマー型の記憶喪失の話は何本か観ているが、こち
らはもっと根元的な記憶喪失のお話。ただし夫を忘れて別れ
た元婚約者に頼ってしまう話などは、2005年7月紹介『私の
頭の中の消しゴム』にも出てきたものだ。
しかし本作は、そんな中にいつか記憶を取り戻すかもしてな
いという希望の持てるところが、ハリウッド的とも言える作
品になっている。

出演は、妻役に『シャーロック・ホームズ』のアイリーン・
バトラー役と言うより、本作の関連では2004年11月紹介『き
みに読む物語』のレイチェル・マクアダムス。夫役には今年
1月紹介『第九軍団のワシ』などのチャニング・テイタムが
扮している。
他に、2度のオスカーに輝くジェシカ・ラング、2010年9月
紹介『デイブレイカー』などのサム・ニール、『アンダーワ
ールド』シリーズなどのスコット・スピードマンらが共演。
監督は、2009年テレビドラマ『グレイ・ガーデンズ』でラン
グにエミー賞主演女優賞をもたらしたマイクル・スーシー。
脚本は、2009年4月紹介『そんな彼なら捨てちゃえば?』な
どのアビー・コーンとマーク・シルヴァースタインが担当。

『バッド・ティーチャー』“Bad Teacher”
キャメロン・ディアスが、周囲に居たらかなり迷惑な反面教
師を演じる教育問題がテーマのドラマ作品。
主人公は、とある公立中学に現れた女教師。しかし彼女は、
教師としての自覚は0で、頭にあるのは玉の輿に乗ることだ
け。そして授業は、初日から生徒にヴィデオ鑑賞だけという
手抜きのし放題だ。
そんな彼女の当面の目的は豊胸手術。その費用の捻出のため
生徒の募金をくすねたりしていた彼女は、やがて州内テスト
でクラスが1位になったら特別ボーナスが支給されることを
知る。そこで彼女が取った手段は…
何しろ服装は淫らだし、喋れば顰蹙を買うような発言を連発
する。さらにやっていることは、犯罪すれすれというかむし
ろ犯罪そのもの。そんな「悪徳教師」をディアスが小気味よ
く演じている。

共演は、2010年10月紹介『ソーシャル・ネットワーク』など
のジャスティン・ティンバーレイク、2008年11月紹介『無ケ
ーカクの的中男』などのジェイスン・シーゲル。さらに昨年
9月紹介『私だけのハッピーエンディング』などのルーシー
・パンチ、テレビの人気番組『ザ・オフィス』のフィリス・
スミスらが脇を固めている。
脚本は、『ザ・オフィス』のプロデュースも務めたジーン・
スタブニツキーとリー・アイゼンバーグ。監督は、ローレン
ス・カスダンの息子のジェイク・カスダンが担当。
教育委員会に観せたら間違いなく100%俗悪映画の烙印だろ
うが、現場の教師に観せたら…意外と共感も得られるものか
も知れない。そんな正に教育現場の本音が描かれている感じ
の作品でもある。
僕自身も最初の内はオイオイという感じで観ていたが、最後
には主人公に拍手を贈りたくもなった。そんな下手をすれば
反感を買ってしまうような主人公を、ディアスが絶妙のバラ
ンスで演じていた。


『紙兎ロペ』
『三丁目の夕日』などの制作会社のROBOTと映画館チェーン
のTOHOシネマズの共同企画「GIFT MOVIE PROJECT」の第1弾
として、2009年〜2011年に全国のTOHOシネマズで上映された
ショートアニメーションシリーズの長編劇場版。
下町を舞台に、シリーズでは映画館に着くまでのてんやわん
やを綴っているという主人公のペーパークラフト兎ロペと、
その兄貴分の栗鼠のアキラ先輩が、夏休み最後の1日を巡っ
て大冒険を繰り広げる。
その日は朝から学校のプールに侵入し、ラジオ体操にも参加
した2匹だったが、突然アキラ先輩が夏休みの宿題で一番手
間の掛かる自由研究に着手していないことを思い出す。しか
もアキラ先輩は、壊してしまった姉貴のピアスをその日の内
に直すことも厳命されていた。
そんな2匹は、まずは自由研究としてツチノコの捕獲を目指
すことにするのだが、その途中で宝石の付いたピアスも入手
してしまう。しかしそれは彼らを大変な冒険に巻き込むこと
になる。
とまあお話は在来りなものだし、キャラクターもペーパーク
ラフトというアイデアは面白いが、アニメーションがCGI
ならもっと克明にもできるはずで、特に優れているという感
じではない。
しかし本作の魅力はそこにあるのではなく、ロペとアキラ先
輩の何とも言えない掛け合いが、いわゆる漫才調でもなく、
子供同士の自然な会話という感じで、そのムードが懐かしい
というか堪らないものになっていた。
でも多分実際の子供はこんな会話はしないのだろうが、その
雰囲気が何ともほのぼのとして良い感じなのだ。それにアク
ションの絡むギャグもなかなか秀逸だった。
僕自身は最寄りのシネコンがユナイテッドシネマズなので、
本作のオリジナルのショートアニメーションは観たことがな
かったが、このムードでしかも映画館に行こうという内容が
上映されたら、映画の鑑賞前には気分が良いだろうとは想像
できたものだ。

声優は、ロペ、アキラ先輩などメインのキャラクターは監督
でもある内山勇士が1人で演じており、他にAKB48の篠
田麻里子、ふかわりょう、バカリズムなどがゲスト出演して
いた。因に篠田はシリーズにも出演していたそうだ。
脚本と監督は、内山と「星新一ショートショート劇場」など
の青池良輔。その他に内山はキャラクターデザインと声を担
当し、青池はアニメーション演出とアートディレクションを
担当している。

『屋根裏部屋のマリアたち』“Les femmes du 6ème étage”
パリのアパルトマンを舞台に、その地上階に暮らす富裕層の
主人と、屋根裏部屋に住むスペインから出稼ぎに来ているメ
イドたちの交流を描いたヒューマンドラマ。
物語の時代は1962年。主人公は祖父が創業した証券会社を運
営する金融マンの男性。その主人公はパリのアパルトマンに
妻と共に暮らしていたが、少し前まで女主人として君臨して
いた姑が亡くなり、妻はその痕跡を消そうと躍起になってい
るところだ。
そして結婚以前からいたフランス人メイドを追い出し、その
後釜にスペインから来たばかりの若い女性を雇い入れる。そ
の女性は同じ建物の屋根裏部屋に、他の出稼ぎのメイドたち
と共に暮らしていた。
そんなある日、母親の部屋を片づけていた妻は、夫に家財を
屋根裏部屋に運んでくれるよう依頼する。そして初めて屋根
裏部屋に足を踏み入れた主人公は、そこにいたメイドたちの
暮らしに目を見張る。
当時のフランスは、アルジェリア戦争が終結し、パリには隣
国スペインからフランコ政権の弾圧を逃れた人々が多数流入
していた。しかしブルジョアの主人公たちにはそのような認
識は薄く、その常識がメイドたちによって覆されて行く。
そんな時代背景も持った作品だが、映画自体は堅苦しいもの
ではなく、会社経営などにストレス一杯の主人公が、ふと体
験したメイドたちの大らかな生活振りに感動し、自分自身を
取り戻して行く。そんな素敵なヒューマンドラマが、ユーモ
アもたっぷりに描かれていた。

出演は、主人公の金融マン役にフランソワ・オゾン監督の新
作などにも出演しているファブリス・ルキーニ。
他に、2010年7月紹介『プチ・ニコラ』などのサンドリーヌ
・キベルラン、2004年3月紹介『dot the i』などのナタリ
ア・ベルベケ、2007年2月紹介『ボルベール』などのカルメ
ン・マウラらが脇を固めている。
脚本と監督は、脚本家・俳優としても実績のあるフィリップ
・ル・ゲイが担当した。

『ワンドゥギ』“완득이”
韓国チャンヒ青少年文学賞を受賞し、70万部を売り上げるベ
ストセラーになったキム・リョリョン原作小説の映画化。
主人公は18歳の高校生。父親は身体に障害を持つキャバレー
芸人だが、仕事場だったキャバレーが潰れ、同居の「叔父」
と共に行商の仕事に出掛ける。そして家に残された主人公に
は近所に住む担任の男子教師が何かとちょっかいを出す。
その教師は、学校でも主人公の家庭環境を暴くなど目障りな
存在だったが、やがて主人公も知らなかった母親の所在を教
えるなど、さらに深く主人公の生活に立ち入ってくる。
そんな主人公の周囲には、優等生の女子学生やいつも主人公
を怒鳴りつける近所の親父や、その妹の武侠小説作家や、さ
らに主人公が通い始めたキックボクシングジムの連中などが
いて、貧しくて苦しいけれど、何処か夢や希望の見える物語
が綴られる。

出演は、2009年1月紹介『アンティーク』などのユ・アイン
と、昨年5月紹介『チョン・ウチ』などのキム・ユンソク。
他に、2010年8月紹介『義兄弟』に出演のパク・スヨンとイ
・ジャスミン。
また、2010年10月紹介『黒く濁る村』などのキム・サンホ、
2008年4月紹介『シークレット・サンシャイン』などのパク
・ヒョンジュ。さらに新進女優のカン・ピョルらが脇を固め
ている。
脚本と監督は、2002年チャ・テヒョン主演『永遠の片思い』
でデビューしたイ・ハン。普遍的な題材をユニークな視点で
描くとされる監督の本作は4作目となるものだ。
なお本作は、韓国では2011年10月に公開され、350万人を動
員する大ヒットを記録したもの。日本では、東京は4月28日
から新宿武蔵野館にて、後日紹介する『ちりも積もればロマ
ンス』との2作連続で「ときめき☆花美男パラダイス」と題
して公開される。
まあ、主演のユは以前からイケメンとされているようだが、
物語は「パラダイス」と呼ぶには多少厳しい現実も描かれて
いる。でも主人公の暮らす環境は、厳しい中にも素敵な友情
などに恵まれ、これはこれでパラダイスかなとも思える作品
だった。


『ムサン日記〜白い犬』“무산일기”
韓国内にすでに2万人以上が暮らしているとされる北朝鮮か
らの脱北者の生活振りを描いた作品。
主人公は脱北して1年目の男性。脱北者が収容される「ハナ
院」での適応訓練は終了したものの、まだ「身辺安全」と称
する地元警察による監視は付いている状態だ。そして監視役
の刑事には仕事の斡旋などもしては貰えるが、差別もあって
その生活は厳しい。
そんな中で主人公はポスター貼りとビラ配りの仕事から、や
がてカラオケ店でも働くようになる。その店は主人公が訪れ
たキリスト教会で賛美歌のコーラス隊にいた女性が店長を務
めていた。そしてその女性に好意を持つ主人公だったが…
一緒に住んでいた脱北者の兄貴分の男が故郷への闇送金でト
ラブルに巻き込まれ、その累は主人公にも及びそうになる。
そんな主人公の傍には、街で拾ったチンド犬とプンサン犬の
ミックスの白い犬が寄り添っていた。
最初の内は世間との付き合いも避けている主人公が徐々にそ
の生活を変えて行く。しかしそれは自分自身を失ってしまう
かも知れない悲しさに溢れたものだ。そんな決断に主人公は
迫られて行く。
かなり厳しい最後のシーンは、それが主人公の選んだ道を示
しているようだ。それは彼が捨ててしまったものの大きさを
ヒシヒシと感じさせるものにもなっていた。そしてそれは到
底ハッピーエンドとは言えなかった。

製作・脚本・監督・主演はパク・ジョンボム。物語は、脱北
者の友人の姿にインスパイアされたものとのことで、その友
人の境遇が物語には色濃く反映されているようだ。その思い
が集約された結末とも言える。

共演は、2010年11月紹介『戦火の中へ』などのチン・ヨンウ
クと、2010年『ポエトリー』などのカン・ウンジン。因に本
作は韓国では2010年の公開で、本作の演技によりカンの『ポ
エトリー』への出演が決ったそうだ。
始めは英雄視された脱北者も2万人を超えると関心も薄れ、
政府の支援などの負担も大きくなる。そんな脱北者の生活振
りは韓国でも知られていないことが多かったそうで、本作に
よってその実態が明らかにされた面もあるようだ。


『タイタンの逆襲』“Wrath of the Titans”
2010年4月紹介『タイタンの戦い』の続編。前作に登場した
ペルセウス役のサム・ワーシントン、ゼウス役のリーアム・
ニースン、ハデス役のレイフ・ファインズ。さらにポセイド
ン役のダニー・ヒューストンらが再結集し、ギリシャ神話の
世界が再訪される。
物語の背景は前作から数年後の時代。前作の戦いに勝利した
ペルセウスは、人間界に留まり漁師としての暮らしを続けて
いた。その間には妻を亡くし、1人息子を男手1つで育てて
いたようだ。そして息子には戦士の道は歩ませないようにも
していた。
ところが冥界の王ハデスが再び力を増し、今回はゼウスの息
子アレスも加担してかつてゼウスらが封じたクロノスの再興
が目論まれる。この事態にゼウスはペルセウスの許を訪れ、
神々と協力して戦うことを頼むのだが…
やがてアレスらによってゼウスが捕えられ、冥界の牢獄の前
に繋がれたゼウスからはクロノスを復活する力が奪われて行
く。そしてキメラが人間界を襲い始め、ペルセウスには父ゼ
ウス救出の天命が与えられる。

共演は、アンドロメダ役に2009年12月紹介『サロゲート』な
どのロザムンド・パイク。またアレス役に2008年2月紹介の
『バンテージ・ポイント』や12月紹介『チェ28歳の革命』
などに出演のエドガー・ラミレス。
さらに『POTC』などのビル・ナイ、2010年4月紹介『プ
リンス・オブ・ペルシャ』などに出演のトビー・ケベル、そ
して新作『ホビット』にも出演のジョン・ベルらが脇を固め
ている。
監督は、2011年3月紹介『世界侵略:ロサンゼルス決戦』な
どのジョナサン・リーベスマン。2010年12月紹介『かぞくは
じめました』などのグレッグ・バーランティの原案に基づく
脚本は、新人のダン・マゾーと2011年4月紹介『赤ずきん』
などのデイヴィッド・レスリー・ジョンスンが担当した。
前半のキメラの襲撃シーンなどは、CGIだが正しくハリー
ハウゼンを髣髴とさせる演出になっており、クライマックス
のクロノスの動きにもハリーハウゼンが感じられた。ハリー
ハウゼンが続編を作っていたら正しくこうなっていただろう
と思わせる作品だ。
なお本作にもブーボーはちゃんと「出演」しているが、もし
第3作があったら彼にももっと活躍して欲しいものだ。



2012年04月01日(日) 相馬看花、モバイルハウス、オレンジと太陽、キリマンジャロ、ブラック・ブレッド、コラボ・モンスターズ、ブラックパワー、赫い髪

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『相馬看花−第一部 奪われた土地の記憶』
2009年6月紹介『花と兵隊』や、今年1月紹介『311』に
も同行していた松林要樹監督が、改めて福島原発災害の被災
地区で取材した作品。
作品は、2011年3月11日午後2時48分の東京世田谷にある監
督の自宅3畳間から始まり、4月3日、支援物資を運ぶ友人
のトラックに同乗して被災地に向かった監督によって取材が
開始される。
そこで監督は地元南相馬市の市議会議員を務める女性と知り
合い、警戒地区に指定された自宅近所のパトロールに向かう
女性議員に同行する。そこは津波も到達せず一見平穏そうに
見えるが、住民の居ない家の玄関が開いていたり、窓ガラス
が破られている家もある。
そんな被災地の現状が描かれ、やがてそれは恐らく女性議員
の政治基盤であったのであろう仲間と開いた地元産品の直販
所を再訪する姿や、仲間の中で唯一亡くなった女性を追悼す
る姿などに繋がって行く。
そして原発立地への歴史に踏み込み、そこでは太平洋戦争以
前に軍の飛行場が在ったという話や、その土地を何時の間に
か西武の堤が手に入れ、原発の誘致に繋げていったという背
景なども語られる。
さらに、当時は原発反対を唱えると共産主義者と見做される
という風潮から、反対運動が封じ込まれていった経緯や、当
時それによって職を得たという人々などが取材され、彼らが
一様に無念さを滲ませる姿などが写し出される。
その一方で監督は、実際に被災者の一員となって避難所暮ら
しを開始し、彼らと寝食を共にしながら取材を続けて行く。
そこは多少「良いのか?」という感じはしたが、それでこそ
語られた部分も在ったようにも思えたものだ。
なお映画では他に、女性議員が結婚式を挙げたという「相馬
野馬追」にも関わる相馬小高神社の惨状や、その前に咲き誇
る桜の姿。さらに東京で逮捕者も出た「反原発」デモの様子
や「記者クラブ」に所属していない監督への取材不許可の状
況なども描かれている。

僕は、1月の『311』の紹介の最後で「福島原発に関して
は再度取材すべし」と書いておいたが、それはちゃんとやっ
てくれていたようだ。そして本作はまだその第1部。松林監
督は『花と兵隊』の時も取材に2年半以上を費やしたようだ
が、今回はさらに長丁場の取材が続きそうだ。

『モバイルハウスのつくりかた』
2008年2月紹介『船、山にのぼる』などの本田孝義監督が、
「建てない建築家」と呼ばれているらしい早稲田大学建築学
科卒業の建築家坂口恭平の姿を追ったドキュメンタリー。
坂口は2004年に路上生活者の住居を写した写真集が評判にな
り、その後の2009年には自らも多摩川の河川敷での生活を体
験しているそうだ。そして今回のモバイルハウスは、2010年
11月に建設を開始した。
総製作費は26,000円。室内は2畳ほどで床下に4個の車輪を
付けて移動可能にし、駐車場などに法律上の問題なく置くこ
とができる。ただし実際の路上走行は問題が在るらしく、完
成品の移動にはトラックを使用していた。
さらにソーラーパネルと自動車用蓄電池を装備し、シガーラ
イターを繋いでそこに接続可能な機器が使用できる。その接
続可能な機器には、照明器具はもちろんPCや携帯電話の充
電も可能なようだ。
という多摩川河川敷でのモバイルハウスの建設というか製作
の様子から、それを吉祥寺の駐車場に運搬して設置する様子
などが描かれている。
ただし、この運搬を行ったのは2011年3月12日だそうで、そ
の被災地の様子などは判り始めている時期のようだが、建築
家はこのモバイルハウスの製作で得た知識を被災地に持って
行こうとはしない。
それどころか彼は、福島原発の状況が伝わるとさっさと故郷
の熊本に引っ越してしまう。そして現在は‘ゼロセンター’
という団体を立上げて「新国家の樹立」を宣言し自ら初代内
閣総理大臣を名告っているそうだが…
実際の‘ゼロセンター’でも当初は福島被災者を受け入れた
ものの、途中で投げ出したとか、本人の言い分はいろいろあ
るだろうが、全体的に胡散くささが感じられる人物像が描か
れていた。

本田監督は、2003年12月紹介『ニュータウン物語』でも思想
的な描写は避ける感じだったが、本作でもその面は巧みに避
けている。しかし全体的に雰囲気が伝わってくるのは、これ
も手腕なのかとも思わせるものだった。

『オレンジと太陽』“Orange and Sunshine”
1618年に始まり、1970年まで続けられていたというイギリス
とオーストラリアを繋ぐ隠された歴史を描いた実話に基づく
ジム・ローチ監督作品。
映画の始まりは1986年、イギリスノッティンガムでソーシャ
ルワーカーの職にあった主人公の許に1人の女性が現れる。
オーストラリアから来たというその女性は、子供の頃にイギ
リスから移住したが、祖国での自分の身元が一切判らないと
訴える。
実はその前に主人公は、突然オーストラリアから存在すら忘
れていた弟の手紙が届いたという女性の話を聞いており、そ
の2つを結び付けた主人公は調査を開始する。しかしそれは
イギリス−オーストラリア両国政府も関ったおぞましい歴史
を紐解くことになる。
福祉の名の許に行われた児童移民。その歴史は17世紀に始ま
り、最初はアメリカに向け、その後はニュージーランド。カ
ナダ、ローデシア、そしてオーストラリアに向けて、13万人
もの子供が親にも知らされないまま送られていた。
しかもそれは、オーストラリア向けには「オレンジと太陽」
の国という甘言に彩られていたが、その実態は奴隷に等しい
ものであり、特に宗教系の孤児院では過酷な労働を10数年間
続けさせた挙げ句に、その間の生活費などが負債として科せ
られたという。
この事実を知った主人公は、最初は単独でオーストラリアに
暮らす元孤児たちの身元調査に乗り出し、やがてそれは社会
的な支援も得られるようになって行く。しかしその一方で特
に宗教関係者からの妨害や嫌がらせも激しくなって行く。

監督は、2010年12月紹介『エリックを探して』などのイギリ
スの名匠ケン・ローチ監督の息子で、以前はドキュメンタリ
ーを手掛けていた。そして本作も最初はドキュメンタリーで
描こうとしたが、中心となる人物の人柄に触れ、ドラマ化に
踏み切ったとのことだ。
そしてその映画化にはケン・ローチ監督のスタッフなども加
わり、さらには昨年のオスカーに輝く『英国王のスピーチ』
なども手掛けたオーストラリアの映画会社も加わって英豪合
作映画として完成されている。
主演は、昨年12月紹介『戦火の馬』などのエミリー・ワトス
ン。他には共に『LOTR』に出演のオーストラリア人俳優
のデイヴィッド・ウェナム、ヒューゴ・ウィーヴィングらが
脇を固めている。
因に本作に描かれた事実に関しては、本作の撮影中の2009年
11月と2010年2月にオーストラリアとイギリス両国の首相に
よる公式の謝罪が行われたそうだ。

『キリマンジャロの雪』“Les neiges du Kilimandjaro”
ヴィクトル・ユゴーの長編詩「哀れな人々」に着想を得て、
1997年『マルセイユの恋』などのロベール・ゲディギャン監
督が、妻で『マルセイユ…』や2005年5月紹介『クレールの
刺繍』などの女優アリアンヌ・アスカリッドと共に老境の夫
婦の姿を描いた作品。
夫は長年労働組合の委員長として労働者の生活を守るために
働いてきた。しかし会社側から提示されたリストラ案を受け
入れ、その退職者をくじ引きで選ぶ方式で自らも退職者に選
ばれてしまう。
こうして失業者になった夫は孫と遊んだり、庭に作り掛けだ
った東屋を完成させたりしていたが…。そんな夫妻の結婚記
念日を親戚や元の同僚たちが祝ってくれ、その席で「キリマ
ンジャロへのガイド付きツアー」がプレゼントされる。
ところがその数日後、自宅で弟夫婦とトランプを楽しんでい
たとき、突然2人組の強盗が押し入ってきて、ツアーの切符
と滞在費の現金、それにATMカードなどが強奪される。し
かし在る偶然から、夫は犯人を発見するのだが…
映画ではフランス社会党の創設者ジャン・ジョレスの名が英
雄のように語られるが、現実の労働者の境遇はの英雄の名も
霞まされる程に厳しいものだ。そんな中でも夫が労組に関係
していた夫妻はそれなりの年金で小市民的な生活は維持され
ている。
しかし夫妻を襲った事件は、さらに厳しい現実に夫妻を直面
させることになる。そしてその先に見えてくるものは…

共演は、『マルセイユの恋』や2005年1月紹介『ロング・エ
ンゲージメント』などのジャン=ピエール・ダルッサン。
他に、『マルセイユの恋』のジェラール・メイラン、2003年
10月紹介『かげろう』などのグレゴワール・ルフランス=ラ
ンゲ、2009年11月紹介『ユキとニナ』などのマリリン・カン
トらが脇を固めている。
厳しい現実の描かれた作品だが、物語的にはかなり甘く感じ
るところもあって、全てを容認できる作品ではなかった。た
だしそれは原作詩のもたらしたものでもあり、これもまたド
ラマということだろう。物語はそこに至るまで人間模様を描
いているものだ。


『ブラック・ブレッド』“Pa negre”
スペイン内戦を背景にした多少ファンタスティックなムード
も持つ作品。スペイン・ゴヤ賞で9部門を受賞し、カタルー
ニャ・ガウディ賞では13部門に輝いた。また先のアメリカ・
アカデミー賞外国語映画部門の予備選考では、ペドロ・アル
モドバル監督の『私が、生きる肌』(今年2月紹介)を差し
置きスペイン代表に選ばれている。
舞台は1940年代のスペイン・カタルーニャ。その森で事件が
発生する。それを目撃した少年は、「ピトルリウア」という
ダイングメッセージを聞くが、それはその森に住むと言われ
る魔物のことだった。
その少年の父親は左派に属し常に理想を語っていたが、その
父親に事件を殺人と判断した警察から嫌疑が掛けられること
になる。そして父親は姿を消し、少年は安全のため祖母の家
に預けられることになるが…
その少年の周囲には、少年の母親に色目を使う町長や、少年
を養子にしよう画策する金持ち夫妻など様々な大人たちがお
り、その中で徐々に事件の全貌が明らかになって行く。しか
しそれは少年にも厳しい現実を突きつけることになる。
映画の中では1944年のカレンダーが壁に貼られていて、その
時代であることが明らかになるが、描かれる雰囲気には中世
の感じもして、それがファンタスティックなムードも醸し出
している。
しかし物語自体は、スペイン内戦後の右派(勝ち組)と左派
(負け組)の確執を背景にしたもので、その辺は映画を観て
いれば理解はできるが多少複雑な面も存在していた。そんな
中での無垢な少年の姿が描かれている。

脚本と監督は「スペインのデヴィッド・リンチ」とも称され
るアウグスティ・ビジャロンガ。確かにダークなイメージの
絵作りなどにはリンチのようなムードが漂うが、背景として
いる事象の重みというか、基盤になるものがリンチとは異な
るものだ。
出演は、本作で見出されゴヤ賞新人男優賞なども受賞したフ
ランセスク・クルメ。本作でゴヤ、ガウディ賞の他、サン・
セバスチャン国際映画祭の女優賞にも輝いたノラ・ナバス。
2007年4月紹介『パンズ・ラビリンス』などのルゼ・カザマ
ジョ。
さらに、本作でゴヤ賞新人女優賞とガウディ賞助演女優賞に
も輝いたマリナ・コマス、『パンズ・ラビリンス』や2010年
9月紹介『Ricky』などのセルジ・ロペスらが脇を固め
ている。

『コラボ・モンスターズ!!』
日本唯一のトラッシュ・カルチャーマガジンという「TRASH-
UP!!」の提供で製作された2005年『稲妻』の西山洋市監督、
2010年8月紹介『making of LOVE』の古澤健監督、1996年の
『女優霊』や『リング』シリーズの脚本家=高橋洋の監督に
よる短編3作品。
西山監督の『kasanegafuti』は、三遊亭圓朝原作の怪談話を
現代を舞台に描いた作品。ただし監督自身は「髷を着けない
時代劇」と称しているようで、原作の雰囲気を残したドラマ
が展開される。
と言っても、原作は口演すると8時間に及ぶという大作。本
作はその中の「豊志賀」の下りだけを描いているが、それで
も30分程度にするには無理があった感じだ。特に因果応報の
経緯が唐突で、豊の変貌もこれだけでは納得できない。
有名な原作だから知っておけというのが監督のスタンスなの
かも知れないが、そういう観客だけではないものだ。同じ題
材では中田秀夫監督の『怪談』(2007年5月紹介)もあり、
いまさらという感じもした。

出演は、前回紹介した『先生を流産させる会』の宮田亜紀。
何かに取り憑かれたような演技はこの人の得意技?
古澤監督の『love machine』は先の紹介作品にも通じる恋愛
関係を描いた作品。主人公は恋愛が本能という男性で、次々
に女性を乗り換える行状が描かれるが…。最後に多少捻りが
あるのも先の紹介作品に通じていた。
コメディとしてのセンスも悪くないし、作品としては楽しめ
た。ただ結末に関してはそれを先に示唆するシーンが無かっ
たようで、もちろんそれはあからさまであってもいけないの
だが、もう少し何かヒントは欲しかった感じだ。

出演は、2008年2月紹介『泪壺』などの小島可奈子。今回も
奔放な演技を存分に見せてくれる。因に古澤監督は、2011年
4月『アベック・パンチ』も紹介しているが、ちょっと泥臭
い感じの演出は監督の持ち味としていいのかな。
高橋監督の『旧支配者のキャロル』は、今回3作品の中では
一番見応えがあった感じだ。
物語の舞台は、今回の試写会も行われた東京渋谷の映画美学
校。そこで学んでいた生徒たちの卒業制作が始まり、1人の
女子生徒が監督に選ばれる。そして彼女は厳しい教師だった
女優に主演を依頼するが…
題名に在る通りの、旧支配者である教師への生徒だった監督
の挑戦が描かれる。そこでは若い才能を叩き潰そうとする教
師の態度や生徒間の確執なども描かれ、正に熾烈な闘争が繰
り広げられる。
3作品の中では1番長い47分の作品だが、その間が全く目を
離せない緊張感で綴られ、これは強烈な作品だった。それは
苛烈な映画制作の現場が描かれるが、そこに映画に対する愛
情が感じられるのも良いものだった。

出演は、2009年3月紹介『腐女子彼女。』などの松本若菜。
他に中原翔子、津田寛治らが脇を固めている。
なお3作品は3本立てで5月12日から、映画美学校に併設の
オーディトリアム渋谷でレイトショウ公開される。

『ブラックパワー・ミックステープ』
“The Black Power Mixtape 1967-1975”
原題の通りの時代にスウェーデンのジャーナリストグループ
によって撮影されたフィルムが約30年振りに発見され、その
フィルムに基づいて制作されたドキュメンタリー。
1960年代の半ばには‘Black is beautiful’という言葉と、
1968年のメキシコオリンピックで突き上げられた黒手袋の拳
と共に世界を揺るがせた「ブラックパワー」が、やがて麻薬
によって衰退して行くまでの10年間が描かれる。
そこにはキング牧師やマルコムX、さらにアンジェラ・デイ
ヴィスやストークリー・カーマイクルらも登場してその時代
が描かれて行く。因にキング牧師とマルコムXはアーカイヴ
映像だが、デイヴィスとカーマイクルに関しては独自のイン
タヴューも含まれている。
それはその時代に学生から社会人になっていった僕自身を含
む団塊の世代の人にとっては、懐かしくもあり、いろいろな
記憶も蘇ってくる作品だった。
ただし本作に関しては当時これが撮影された経緯などが明確
でなく、当時番組として放送された物なのかどうか、特に残
されていたのが編集された作品か、素材だけだったのかなど
も知りたかったところだ。
というのも今回公開される作品には、現代の主にミュージシ
ャンによるコメンタリーが付けられていて、それが当時の状
況を正しく伝えていると思えない。大体ほとんどが1970年以
降の生まれで、当時を知るはずもない連中なのだ。
そんなコメンタリーが、当時の制作者の意図を歪めている可
能性も否定はできない。確かにブラックパワーを担うべき黒
人青年の多くがヴェトナム戦争に駆り出され、そこで麻薬漬
けにされてパワーが失われたというのは面白い論調だが…
それと映画の最後に出てくるブラックモスリムの話などは、
もっと丁寧に描かれてもいいのでは無いかとも感じられた。
この部分こそはその後の検証も必要だったようにも思えるも
のだ。
仮に当時番組として放送されたものが在るのならそのオリジ
ナルも観てみたい。因に本作の日本公開版の上映時間は92分
だが、スウェーデンでは100分で公開されたようだ。


『恋人たちは濡れた』
『赫い髪の女』
前回に続いて日活創立100周年の記念企画として上映される
往年の日活ロマンポルノ32本の中から今回は神代辰巳監督作
品2本の試写が行われた。
前回の2本は多少捻った感じの作品だったが、今回は正にロ
マンポルノと呼びたくなる男女の絡みが描かれた2本で、さ
すが神代監督作品という感じがした。とは言え多少の時代臭
さは感じられたが、それはノスタルジーという感じのもので
はなかった。
その前者は湊町の映画館を舞台にした1973年の作品で、その
町にふらりと訪れた男の素性を巡って男女が交錯して行く。
恐らくはかなり奔放になってきていた若者文化を背景に、も
しかすると今より大らかな性が描かれている。
それは、最近観られる性描写が男女の行為と言うより、ただ
の道具として扱われている感じを持つことが多いことから、
本作ではかえって純粋さが感じられるようにも思えたのかも
知れない。

出演は、中川梨絵、絵沢萠子、薊千露、大江徹、堀弘一。脚
本は神代と鴨田好史が書いている。
後者は1979年の作品で、中上健次が前年に発表した小説を原
作としている。物語は建設現場で働く男がふと現れた女性と
一緒に暮らすようになる。男は同僚に女をあてがったり、そ
の同僚の男は別の女と駆け落ちしたり、周囲ではいろいろこ
とが起きて行くが…

出演は、宮下順子、石橋蓮司、亜湖。他に、阿藤海らが共演
していた。
2作品は6年違いで制作されているが、前者と後者では男と
女の立場が逆になっている感じで、その辺は面白くも観られ
た。脚色は、2003年11月9日付「東京国際映画祭(後半)」
で紹介した『ヴァイブレータ』などの荒井晴彦が担当してい
る。
40年前には間違いなく新鮮だった作品も、さすがに色褪せた
感じは否めない。ただ内容的には今の時代にも通じるものと
思えるし、理解して観ることはできるのだが、如何せん背景
の風景などに時代臭があり過ぎなのだ。
ただしそれは、僕自身がその時代に生きていたせいなのかも
知れないもので、その辺が今の観客にどのように迎えられる
のか、その点にも興味が湧いてきた。


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井口健二