井口健二のOn the Production
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2012年03月25日(日) 女ドラゴン、先生を流産…、ベルフラワー、ムッシュ・ラザール、ビースト・ストーカー、㊙…市場、座敷わらし、愛と誠+Hungover

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『女ドラゴンと怒りの未亡人軍団』“楊門女将”
11世紀の中国・宗時代の実話に基づき、古典文学や京劇でも
知られる物語を、ジャッキー・チェンのプロデュースで映画
化した女性アクション作品。香港ショウ・ブラザースによる
1972年超大作『14アマゾネス/王女の剣』のリメイク。
時は11世紀、北方の異民族・西夏軍の侵攻によって中国・宗
の王朝は脅かされていた。その頃、北の最前線である天門関
には楊宗保将軍が派遣されていたが、10万を誇る西夏軍の攻
撃に兵力も尽き陥落の時を迎える。
その楊将軍の生家・楊家からは長年多くの武将を戦場に送り
出してきたが、常に激戦地に赴く武将たちは次々に倒れ、今
や14人の未亡人と宗保将軍の1人息子が残るだけだった。そ
して宗保将軍の妻穆桂英は息子文広には官吏になって欲しい
と願っていたが…
朝廷から、文広を兵馬大元帥に任じ、1万の兵を率いて西夏
軍と戦えとの勅命が伝達される。敵は10万、この死地に赴く
に等しい命令に、ついに楊家の女たちが立ち上がる。

出演は、結婚出産で女優業を一時休んでいたセシリア・チャ
ンを始め、そのセシリアとは1999年『星願/あなたにもう一
度』でも悲恋を演じたリッチー・レンが将軍役で再共演。さ
らに『グリーン・デスティニー』のチェン・ペイペイ、『西
太后』などのリウ・シャオチン、JAC出身の大島由加里な
どが脇を固めている。
脚本と監督は、ショウ・ブラザースで300本を超える作品の
音楽を担当し、その他にプロデューサーや俳優、カースタン
トまでこなすというフランキーチャン。因に監督も1990年代
に金城作品などを手掛けているベテランだ。
中国、香港ではそれぞれのラジー賞にノミネートされた怪作
という触れ込みの作品だが、現地の目の肥えた観客はいざ知
らず、僕の目にはそれほどの作品には思えなかった。それは
確かに投石機や巨大な弓、大槌などしっちゃかめっちゃかな
ところはあるが、香港映画は元々こんなのが定番だったよう
にも思える。
それより14人もの女性戦士が、それぞれ剣や槍、棍棒などの
様々な武器を駆使して戦う姿は中々で、そのアクションシー
ンなどはそれなりに楽しめたものだ。それに朝廷の横暴など
が何となく描かれているのも面白く感じられた。


『先生を流産させる会』
2009年に愛知県で起きた実話に基づくという作品。扇情的な
題名からかなりの問題作と予想させたが、実際はかなり節度
のある描き方で、さほどの違和感もなく鑑賞のできる作品だ
った。
物語の舞台は、現代ならごく普通と言える中学校。クラスに
はスケ番気取りの女子もいて多少手を焼かせるが、それより
問題なのは、娘がスケ番グループの一員なのに、全てを学校
のせいにしてしまうモンスターペアレントの母親の方だ。
そんなクラスの女性担任が妊娠する。その情報に嫌悪感を募
らせるスケ番グループの女子たち。そして彼女たちは「先生
を流産させる会」を結成し、先生の給食に毒物を混入するな
ど計画を実行し始める。
それに対して教師は、女性として母親として真向から事態に
立ち向かおうとするが…
実際の事件では、教育委員会は「あくまで稚拙な悪戯」とい
う見解で事態を納めたようだが、ネット上などではもっと厳
重な処分を求める声も多かったという。しかし本作は、さら
に根本的な部分から事件を見つめ直そうという作品だ。
そこには上記のモンスターペアレントのような現在の教育現
場の抱える様々な問題が提起され、さらにそこで今の教師た
ちの取るべき態度がアンチな部分も含めて描かれている。そ
れは真摯な作品とも言えるものだ。
その一方で本作では、深刻な問題提起を緩和しようとする思
いなのか、多少ホラー的な味付けも施され、1976年のスペイ
ン映画『ザ・チャイルド』のような感じにも捉えることがで
きた。これは監督の見識のようにも感じられた。

出演は、教師役をインディペンデント映画で活躍中の宮田亜
紀。生徒役は全員が映画初出演で小林香織、高良弥夢、竹森
菜々瀬らが演じている。
脚本と監督は、短編作品で各地の映画祭で上映を果たしてい
る内藤瑛亮の長編第1作になるようだ。本作は、昨年のカナ
ザワ映画祭、ドイツ・ニッポンコネクション、そして今年の
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭などでも公式上映さ
れている。

『ベルフラワー』“Bellflower”
2011年のサンダンス映画祭に正式出品され、同年のパリ国際
ファンタスティック映画祭の最優秀作品賞を皮切りに、シッ
チェス・カタロニア、マラガなどの国際ファンタスティック
映画祭でも受賞を果たした作品。
舞台は、ロサンゼルス・ユニヴァーサルスタジオの北西に位
置するノース・ハリウッド。そのベルフラワー通り界隈に暮
らすウッドローとエイデンはウィスコンシン州から引っ越し
てきた親友同士。
そんな2人は、『マッド・マックス2』の敵役ヒューマンガ
スに憧れ、終末が来たら火炎放射器を搭載した車で世界を支
配することを夢見ている。そのため威力の強い火炎放射器を
作ろうと日夜実験に余念がない。
しかしある日、バーで酒を飲んでいた2人はコウロギの早食
いコンテストにウッドローが参加、敢えなく破れたことから
ミリーとコートニーという女性たちと親しくなる。そしてミ
リーの誕生日に花を贈ったウッドローは…

製作・脚本・監督・編集・主演のエヴァン・グローデルは、
実際にウィスコンシン州から映画制作を夢見てカリフォルニ
アに移住し、仲間と共に短編映画をネットに公開して評判と
なり、ミュージックヴィデオなどを経て本作で長編デビュー
を飾っている。
その作品は、若者のかなり無軌道な生態を写したものだが、
それは現代アメリカの若者の実態の反映でもあるのだろう。
それが火炎放射器というのはかなり過激だが、それに対する
共感が上記の受賞の理由のようにも思える。
出演者は主に監督の友人たちのようだが、中でコートニー役
のレベッカ・ブランデルは、テレビシリーズ『クリミナル・
マインド』などにゲスト出演の経歴があるようだ。
また撮影には2KのHDカメラを改造した特製の機材が使用
されているようだが、そのせいか画像の一部が蹴られたり、
一部のシーンでピントが甘くなっているのは気になった。た
だしそれは監督が望んだフィルムライクの画像にはなってい
る感じだったが…。
その他にも火炎放射器や、映画の後半に登場する1972年型ビ
ュイック・スカイラークを改造した《ザ・メデューサ》など
も自作のようで、それらに掛ける意気込みはかなり感じられ
たところだ。


『ぼくたちのムッシュ・ラザール』“Monsieur Lazhar”
カナダのジニー賞で作品賞など6部門を独占し、アメリカ・
アカデミー賞では外国語映画部門にノミネートされたカナダ
・ケベック州の作品。
カナダのフランス語圏ケベック州の小学校を舞台に、クラス
の担任が教室で自殺したことに始まるいろいろが出来事が描
かれる。
物語の始まりは先生の自殺。その姿は最初に教室に入ろうと
した生徒によって発見され、学校側は直ちにカウンセラーの
派遣などの手を打つが、発見した生徒には隠された事情があ
るようだ。
一方、教師不足で後任の決められない校長の前に、アルジェ
リアで教師の経験があると称する男性が現れる。そして校長
はその男性を雇うが、男性の授業のやり方は古臭く、また男
性自身にも何か事情があるようだ。
そんな状況の許で、徐々に事の真相が明らかになって行く。
生徒と教師の問題は先に『先生を流産させる会』を紹介した
ところだが、最近何となく同様のテーマの作品が多いような
気もする。と言っても本作の場合は、アルジェリア問題など
特殊な背景もあって、それは多少趣も異なるものだ。
そこには、恐らくは宗教の問題なども絡むのだろうが、本作
ではその辺はあまり深くは描かれない。それは現地の人には
自明のことだからなのか、それともその問題を語りたくなか
ったのかは不明だが、その辺の面映ゆさは感じるところだ。
しかしいずれにしても、個人の問題から国際問題までもが微
妙に絡まり合う、正に現代が描かれている作品と言えるのだ
ろう。その辺が世界の各地で受賞を続ける所以であるのかも
知れない。

脚本と監督は大学で国際関係学などを学んだ後にドキュメン
タリー監督となり、その後に映画監督に転身したフィリップ
・ファラルドーの第4作。日本では映画祭などでの紹介しか
なったようだが、カナダでは数多くの受賞に輝いている人の
ようだ。
出演者も日本では知られていない俳優ばかりだが、主人公の
男性教師を演じるフェラグは実際にアルジェリア出身の舞台
俳優、また生徒役のソフィー・ネリッセとエミリアン・ネロ
ンは共にCMなどでも活躍する子役だそうだ。

『ビースト・ストーカー/証人』“証人”
2010年10月紹介『密告・者』のニコラス・ツェー、ニック・
チョン共演、ダンテ・ラム監督による2008年の作品。元々本
作の評判から『密告・者』が製作されたという原点に当たる
作品だそうだ。
物語は壮絶なカーアクションから始まる。そこで逃亡者の車
に並走する刑事の乗った車に横合いから別の車が激突する。
それでも逃亡者の車を追い詰めた刑事は、銃撃戦の末に逃亡
者を取り押さえるが…
その逃亡者には宝石強盗と警備員殺害の嫌疑が掛けられてい
たが、その証拠は現場に落ちていた1滴の血液だけだった。
そして裁判は女性検事の手で進められているが、その裁判を
控えてシングルマザーである検事の娘が誘拐される。犯人の
要求は証拠の破棄。
その誘拐事件の現場に居合わせた刑事は、単独で調査を開始
する。しかしそこには、逃亡者逮捕の際のいろいろな確執が
渦巻いていた。そして誘拐犯にも執拗に犯行を遂行する理由
があった。
事件の発端はかなり強引な感じもして、そこにはもう少し経
緯の説明があっても良いような気もしたが、結論としてはそ
の強引さが物語の全体のトーンでもあり、そういう作品とし
て納得できるものになっていた。
そして演出は、最初から最後までハイテンションの連続で、
一時も目が離せないという感じの作品。1時間49分の上映時
間だが、その時間があっという間に過ぎてしまう。しかもそ
れで全てが完璧に描かれていた。

共演は、2006年6月紹介『孔雀』のチャン・チンチュー。ポ
ストチャン・ツィイーとも呼ばれた彼女だが、本作では立派
に母親役を演じていた。因に彼女は、2005年9月紹介ツイ・
ハーク監督の『セブンソード』にも出ていたそうだ。
他には『密告・者』や2006年2月紹介『SPL』などの名脇
役リウ・カイチーが要所を締めている。
サイコ的な犯人像や壮絶なカーアクション、それに携帯電話
情報からの推理など、現代映画の様々な要素が見事に合体さ
れた作品だ。


『㊙色情めす市場』
『㊙女郎市場』
1970年代に一世を風靡したとも言える日活ロマンポルノ。そ
の1100本にも及ぶ作品群の中から32本がセレクトされ、日活
創立100周年の記念企画として特集上映される。その中から
6本の試写が順次2本ずつ行われることになった。
その最初は、1974年田中登監督作品(めす)と1972年曾根中
生監督作品(女郎)。何となく似た題名の2本だが関連する
ものではなく、前者は製作当時の大坂旧赤線街を舞台にした
娼婦もの、後者は品川宿を舞台にした時代劇仕立ての作品と
なっている。
その前者は、オールカラーが売りだったロマンポルノでは珍
しいパートカラー作品で、大阪ドヤ街に暮らす娼婦の日常が
描かれて行く。そこには知恵遅れの弟や、同業の母親や、ヤ
クザやそのヤクザに騙される若い男女などがいて様々な人間
模様が写し出される。
その背景には、建設の進む高速道路や、その一方で健在な路
面電車、さらに大坂城や通天閣など、今の目で観るとノスタ
ルジックな風景も次々に登場して、特に大阪に詳しい人が観
たら堪らない風景ばかりなのではないかとも思わせた。

主演は芹明香。他に花柳幻舟、宮下順子、絵沢萠萌子、萩原
朔美らが出演している。脚本はロマンポルノを数多く手掛け
たいどあきお。
後者は、昨年12月紹介『幕末太陽伝』と同じ品川宿の女郎屋
を舞台にしたコメディタッチの作品で、少し頭は薄いが名器
の持ち主の生娘を中心に前者とは打って変ってのどたばた劇
が演じられる。社会性はないがこれもロマンポルノという感
じの作品だ。

主演は片桐夕子。他に五條博、益富信孝、山口明美、加納愛
子、あべ聖らが出演。脚本は昨年12月紹介『ツィゴイネルワ
イゼン』などの田中陽造が担当していたようだ。
なお上映はニュープリントという触れ込みだが、画面には擦
り傷などもかなり多く、修復されているものではない。最近
のディジタル上映ではフィルム傷など生じないのになってい
るが、その辺にも時代が感じられた。
一般上映は5月12日から東京渋谷のユーロスペース他、全国
順次ロードショウとなるようだ。

『HOME愛しの座敷わらし』
2010年2月紹介『誘拐ラプソディー』などの原作者荻原浩が
2007年1〜11月の朝日新聞に連載し、2008年の直木賞候補に
もなった連作小説の映画化。テレビシリーズ『相棒』の刑事
役で人気を不動にした水谷豊がホームドラマを切望し実現さ
せた作品だそうだ。
物語の中心は、とある一家の父親。彼は東京の食品会社で開
発研究者だったが、新製品の開発でミスをしたらしく、岩手
県の営業部門に移動になってしまう。そんな父親が住居に選
んだのは、田園地帯に建つ藁葺屋根の古民家だった。
その一家には妻と娘と息子と少し痴呆気味の母親がいて、娘
は前の学校で苛めにあっていたらしく、息子は喘息が治った
ばかりでまだ運動は制限されている。しかし、そんな一家が
引っ越してきた古民家には、住民に幸運をもたらすという座
敷わらしがいた。
映画は巻頭で大自然の広がる中をワゴン車の走って行く様子
が描かれ、やがてその車が到着するのは見事な曲屋。実は先
日テレビで「座敷わらし」の特集番組を観ていて、その出現
するシチュエーションが正にこの通りだったものだ。
そして一家が到着するなりちょっとした怪異現象が起き、や
がてそれは一家を翻弄し始めるのだが…。物語の中では「座
敷わらし」の由来なども紹介され(そこに「しゃぼん玉飛ん
だ」の歌が流れるのは…)、暖かさの中に厳しさが巧みに織
り込まれていた。
一家が「座敷わらし」を認知する過程も巧みだし、その状況
での父親の存在など、正しくホームドラマが展開される。フ
ァンタスティックなシーンもきれいに決まっており、日本映
画には珍しく丁寧な造りの作品だった。

共演は、安田成美、2010年12月紹介『ウルトラマンゼロTHE
MOVIE』などの濱田龍臣、2011年3月紹介『大木家のたのし
い旅行』などの橋本愛、草笛光子。他に、飯島直子、草村礼
子、テレビ『13歳のハローワーク』などの沢木ルカ、菅原
大吉、長嶋一成、高島礼子。
さらにベンガル、梅沢富美男、石橋蓮司、段田保則、宇津井
健らが脇を固めている。また、座敷わらしを演じているのは
岡部珠奈という子役のようだ。
監督は『相棒』シリーズやその劇場版も手掛けた和泉聖治、
脚本は大河ドラマ『義経』などの金子成人、音楽も『相棒』
シリーズの池頼広が担当している。

『愛と誠』
1973−76年に「少年マガジン」誌に連載された梶原一騎原作
漫画の実写映画化。なお同原作からは連載当時にも映画化や
テレビドラマ化などがあったが、本作はそれを2009年2月紹
介『ヤッターマン』などの三池崇史監督が40年ぶりに復活さ
せるものだ。
因に本作では先に内覧試写が行われており、それを観た人た
ちからは「かなり凄いよ」という話を聞かされていた。そし
て試写に先立って行われたは会見では、主演の妻夫木聡、武
井咲から爆笑トークも聞かれるなど、かなり弾けた作品であ
ることは予想された。
映画の巻頭には、原作の通りネルー首相が娘に宛てた手紙文
が掲げられ、そして物語の始まりは信州蓼科高原。そこでの
早乙女愛と大賀誠の運命的な出会いがプロローグとして描か
れる。さらに話は1972年の新宿西口へと繋がって行く。
そこに登場した誠は、いきなり西城秀樹の「激しい恋」を歌
い出し喧嘩相手と共に踊り捲る。因に楽曲は1974年のものだ
が、西城は同年『愛と誠』の第1回映画化に主演していたも
のだ。
そんな調子で、早乙女愛の大賀誠に捧げる過激な片思いが描
かれ、そこに次々に1970年代の楽曲が挿入されて歌と取りが
展開されて行く。ただし先の会見によると、これはミュージ
カルではなく、ただ登場人物たちが当時の歌を歌っているだ
けなのだそうだ。
でもまあ、これは当時を懐かしむにはこの上のない構成で、
そこは監督が、「自分たちにとって聖書でもあった原作を、
当時の想いのままに描きたかった」という言葉の通りのよう
にも思えるものだ。

共演は、斎藤工、大野いと、安藤サクラ、前田健。他に加藤
清史郎、一青窈、余貴美子、井原剛志、市村正親。特に安藤
のスケ番姿は迫力があったし、一青が実に嬉しそうに歌い踊
るシーンは微笑ましかった。
脚本は、2008年5月紹介『同窓会』などの宅間孝行、音楽は
2006年8月紹介『地下鉄に乗って』などの小林武史、振り付
けをパパイヤ鈴木が担当している。因に映画に歌と踊りを入
れるのは宅間のアイデアだったそうだ。
映画の中ほどに後2、3曲欲しかったという感じはしたが、
それでは上映時間が長くなり過ぎたのかな。でもまあ、全体
的にはこれでありかなという感じの作品だった。ただ途中の
釣堀のシーンで、背景に走る電車が21世紀仕様だったのは、
もう少し気を使って欲しかった感じはしたが。

        *         *
 2010年4月と2011年5月紹介の酔っ払い映画『ハングオー
バー』“The Hungover”シリーズの第3作を2013年5月24日
に全米公開するとワーナーが公式に発表した。
 この計画に関しては前2作の主演者のブラッドリー・クー
パーがすでに何度も口にしていたようだが、今回は映画会社
が正式に発表したものだ。因に前2作は、R−レイトのコメ
ディでは史上空前の5億7500万ドルを全世界で稼ぎ出してい
るのだそうだ。
 そしてワーナーでは、前2作に共演したエド・ヘルムズ、
ザック・ガリファナキス、ジャスティン・バーサとも出演交
渉を進めていることを報告している。もちろん監督のトッド
・フィリップス、脚本のジョン・ルーカス、スコット・モー
アらも同様のはずだ。それにもう1人の出演者も欠かせない
だろう。
 それにしても前2作で3人組の内の2人が結婚してしまっ
ているが、今回はその3人目かそれとも…。それにラスヴェ
ガス、タイ・チェンマイと続いた次の舞台がどこになるかも
楽しみだ。
 なおこの公開にともないワーナーでは、“300”の続編の
全米公開日を2013年8月2日とすることと、当初5月10日に
予定されていたエイリアン侵略映画“Pacific Rim”の全米
公開日を7月12日に変更することも併せて発表している。
 まだ3月で来年夏の話は早すぎるけど、お楽しみはまだま
だ続くのだ。



2012年03月18日(日) B&W、[●REC]³ 、ウルトラマンサーガ、隣る人、ハローゴースト、残酷な弓、ハングリー・ラビット、ミッドナイトFM+Dark Tower

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『ブラック&ホワイト』“This Means War”
2000年の『チャーリーズ・エンジェル』や、2009年5月紹介
『ターミネーター4』などのMcG監督によるコメディ調のス
パイアクション。
主人公はCIAの最前線で活動する凄腕捜査官コンビのFD
Rとタック。ところが彼らは香港で行われた作戦で失敗し、
危険な主犯兄弟の弟を死なせ、兄には逃げられてしまう。そ
してその責任を問われた2人は内勤に廻される。
一方のヒロインは恋焦がれる男の後を追ってロサンゼルスに
来たものの、その男にはあっさり振られ、でも未練たらたら
の中で暮らしていた。しかし都会の水は彼女に成功をもたら
してはいるようだ。
そんな彼女が正体も知らずにコンビと別々に出会い、それぞ
れと恋をしてしまう。しかもどちらかを選ぶことのできない
彼女に対して、状況を知った2人は紳士協定を結び正々堂々
と彼女を争うことを約束するのだが…
何と2人は、内勤の立場を利用しスパイテクニックを駆使し
て互いの動向を探り、互いに出し抜く方策を練り始める。と
ころがそんな彼らの背後には、香港で取り逃がした犯人が弟
の復讐を誓って迫っていた。

出演は、CIAコンビ役に2009年『スター・トレック』など
のクリス・パインと、2003年『ネメシス/STX』などのト
ム・ハーディ。それにヒロインには、昨年12月紹介『恋人た
ちのパレード』などのリース・ウィザー・スプーンが扮して
いる。
他には、1999年『ノッキング・オン・ヘブンズ・ドア』の脚
本・主演などのティル・シュヴァイガー、ベストセラー作家
でもあるチェルシー・ハンドラー、それに1993年『TINA』で
ティナ・ターナーを演じたアンジェラ・バセットらが脇を固
めている。
脚本は、2010年1月紹介『シャーロック・ホームズ』などの
サイモン・キンバーグ。また原案と共同脚本のティモシー・
ダウリングは、2010年8月紹介『ナイト&デイ』のリライト
を担当した人だそうだ。
McGは『ターミネーター4』も悪いとは思わなかったが、本
作のようなコメディ調のアクションはより本領を発揮するよ
うだ。ハリウッドのコメディは日本ではなかなか受け入れら
れないが、本作のようなアクションが絡むとそれは別もの。
まあ、お気楽に楽しんで観る映画と言いたい作品だ。

『[●REC]³ ジェネシス』“[REC]³ Génesis”
2008年3月と2009年10月にそれぞれ紹介した[●REC]シ
リーズの第3作。なお邦題の●は、前2作では赤い丸で録画
モードの表示ランプを示していたと思うが、本作ではそれが
血痕のように表現されている。
第1作はPOVの到達点と言って良い作品で、それを発展さ
せた第2作では、何とそれがマルチカメラに展開されてその
巧みさにも舌を巻いた。そしてその第3作は、第1作ほぼ同
じ時系列の設定で、別の場所での事件が描かれる。
その本作は、第1作の事件がテレビ中継されている時刻の郊
外の結婚式場が舞台。大勢の招待客と結婚式の模様が、ホー
ムヴィデオやプロの持ち込んだステディカムなどで撮影され
て行く。
そんな招待客の中に犬に噛まれたという中年男性がいて、彼
を噛んだ犬は第1作に登場した少女の飼犬だったようだ。そ
してその男性から異変が起き始め、その模様がヴィデオカメ
ラに記録されて行くが…
第1作、第2作はPOVの極致と言えるものだったが、そこ
からの発展形である本作の巧みさもこれは見事な作品になっ
ている。そして本作では前2作ではあまり描かれなかった人
間ドラマが導入され、それもニヤリとさせられたところだ。
特に、物語の中心となる新郎と新婦のドラマは従来のこの種
の作品ではなかなか描き切れなかったものを正面から扱って
おり、またその展開がちゃんと本作のテーマに沿ったものに
なっているのも感心した。

出演者は殆ど知らない俳優だが、中に2011年6月紹介『ペー
パー・バード』にも出ていたディエゴ・マルティンが出演し
ている。また第2作にはノンクレジットだが、全3作に共通
したキャラクターもいるようだ。
脚本と監督は前2作では共同監督の片割れを務めていたパコ
・プラサ。今回の監督は単独(その経緯は2010年5月9日付
で報告している)で、共同脚本には第1作のルイソ・ベルデ
ホが復帰している。
また、エンドクレジットによるとストーリーボードは、第2
作と同じくJun Matsuuraが担当していたようだ。
因に、前2作の共同監督のもう1人のジャウマ・バラゲロは
本作ではクリエイティヴ・プロデューサーという肩書きでサ
ポートに回っているが、彼には先に報告しているようにシリ
ーズ最終話となる第4作の監督が発表されている。

『ウルトラマンサーガ』
2009年11月紹介『ウルトラ銀河伝説』、2010年12月紹介『ウ
ルトラマンゼロ』に続く、ウルトラセブンの息子ゼロを主人
公にしたシリーズの第3作。
第2作で宇宙が多数のパラレルワールドで成立していること
が設定され、本作では前作で別の宇宙に残ることになったウ
ルトラマンゼロが、宇宙からの呼び声に応じて別宇宙の地球
に赴くところから物語が始まる。
一方、元の宇宙の地球人はウルトラマンダイナが最後の戦い
で敵と共に時空のねじれの中に消えた後は復興を遂げ、在火
星の基地には新たな隊員も配属されていた。その中の1人タ
イガ・ノゾムは天才的な戦略家だったが…。
突如襲っていた敵との戦いで別宇宙に飛ばされたタイガは、
人類の大半が姿を消して荒廃仕切った地球に辿り着く。そこ
でゼロとタイガは合身するが、タイガにはウルトラマンを受
け入れないトラウマがあるようだ。
そしてそこにはウルトラマンコスモス=春野ムサシも現れ、
彼らは僅かに残った子供たちを守る女性ばかりの地球防衛隊
と共に、圧倒的な敵との戦いに臨むことになる。しかし、そ
の地球にはかつてダイナもいたはずだった。
ダイナ以後の未来世界を背景にしつつ、現代の地球に似た世
界での戦いが描かれる。そこで描かれるビル群の中での戦い
のシーンなどは、昔からのファンにはこれぞ円谷特撮と言い
たくなる懐かしさも感じさせた。

出演はタイガ・ノゾム役にDAIGOと、杉浦太陽、つるの
剛士。またAKB48の秋元才加、宮澤佐江、梅田彩佳、増
田有華らが脇を固め、さらに黒部進、森次晃嗣、団時朗の元
ウルトラマンや布川敏和らの旧レギュラーが登場。そして、
東国原英夫が声優でゲスト出演している。
監督は『ダイナ』以降のシリーズを多数手掛けているおかひ
でき。特技監督は2006年『日本沈没』などの三池敏夫。脚本
は『ティガ』以降のシリーズで最多数を手掛けているという
長谷川圭一が担当した。
物語の中では、パラレルワールドを横断するさらに巨大な敵
の存在も仄めかされており、このシリーズはまだまだ続きそ
うだ。なお、マスコミ試写は2Dで行われたが、3月24日か
らの一般上映はウルトラマン初の3Dでも行われる。

『隣る人』
児童養護施設「光の子どもの家」で8年間に渡って取材され
たドキュメンタリー。
かつては孤児院と呼ばれたその施設は、法律の制定によって
名称が決まったようだ。しかしその名称は一般にはまだ浸透
していない。そんな児童養護施設は全国に約580施設。そこ
には約30000人の子供たちが生活している。
本作はそういう施設の1つで取材されている。それは災害や
事故、家庭の事情など、様々な理由で親と一緒に暮らせなく
なった子供たちの、正にドラマとしか言えない日々の姿が写
し出されて行く。
題名の「隣る人」とは、「光の子どもの家」の施設長だった
菅原哲男氏の造語で、聖書の中でイエスが述べたサマリア人
のエピソードに拠る。それは「絶対の窮地にある人に手を差
し伸べる人」ということのようだ。
ただし菅原氏の考えはそこからさらに一歩進んで、その「隣
る人」を子供たちの心に内在させられれば、その子供たちは
立派な大人になると考える。そしてそれを実践しているのが
「光の子どもの家」だ。
しかしそれは様々な葛藤を抱えた子供たちだから一朝一夕に
行くものではないし、さらに一部には現存する親の姿が様々
な影を落とす。その中で映画は、主にムツミとマリナという
2人の子供と彼女らに寄り添うマリコさんという保育士に焦
点が当てられている。
その他にも、幼児のコウキと保育士のタカコさん、小学生の
マイカと保育士のマキノさんらの関係も描かれるが、そこに
は身勝手な親に振り回される子供や、施設自体が抱える問題
なども浮き彫りにされる。
それにしても、この種の作品を観ているといつも感じるのは
職員の人たちの懸命の姿だ。しかも本作では単に仕事として
だけではない本人たちの心情も描き出され、それは痛々しい
ものにもなっていた。
こういう子供たちを生み出す社会の問題もあるが、その子供
たちを支え続ける人々の姿にも心を留めたいものだ。
監督は、フリー映像ジャーナリストとしてアフガニスタンの
空爆の様子などを取材してきた刀川和也。本作は初監督作品
となる。また撮影には、2010年3月紹介『アヒルの子』の小
野さやかが協力していた。

『ハロー!?ゴースト』“헬로우 고스트”
いまだに2001年『猟奇的な彼女』のと言われてしまうチャ・
テヒョン主演によるゴーストがテーマのファンタスティック
・コメディ。
主人公は児童養護施設で育ってきた若者。幼い頃から家族も
周囲に親しい人もいない環境で育ち、今でもその孤独感は募
る一方だ。そのため何度も自殺を図っているが、その度、何
故か救われてしまう。
そんな彼がついに一時的な呼吸停止の状態まではなるが、そ
れでも死ぬことはなかった。ところがその後から彼にはゴー
ストが観えるようになる。そんな彼の周囲にいたのは、エロ
爺とヘヴィスモーカーの中年男、それに泣き女と大喰いの小
僧。
しかも除霊師に訊くと、彼が死ねないのはそのゴーストたち
のせいで、彼らの願いを叶えればゴーストは去るという。そ
こでゴーストたちの想いを聞き出し、その願いを叶えるため
の行動が始まるが…
そこにホスピスに看護師として務める女性などが絡んで、涙
と笑いの物語が展開されて行く。それは常人には観えないゴ
ーストとの会話など定番の笑いも満載だが、さすがに韓国映
画は一味違うという感じの捻りが見事な作品だった。

共演は、2009年1月紹介『映画は映画だ』などのコ・チャン
ソク、2010年10月紹介『ハーモニー』などのチャン・ヨンナ
ム、2010年5月紹介『グッドモーニング・プレジデント』な
どのイ・ムンス。さらに、2009年『TSUNAMI』などのチョン
・ボグン。そして『ハーモニー』で映画祭の新人女優賞など
も受賞したカン・イェウォンがヒロインを演じている。
脚本と監督は、過去にチャ・テヒョン主演作品なども手掛け
た脚本家のキム・ヨンタク。本作が監督デビュー作となって
いるようだ。なお、作品中で主人公が5人のゴーストを背負
って歩くシーンはCGIではないそうで、その辺の演出も巧
みに感じられた。
たまたま同じ日に『隣る人』と続けて試写を観ることになっ
た。本作は特に児童養護施設の問題を扱ったのではないが、
そこに描かれている内容には繋がるものも感じられ、そこに
流れる暖かさも感じられたものだ。

『少年は残酷な弓を射る』
            “We Need to Talk About Kevin”
イギリスで女性文芸賞の最高峰とされるオレンジ賞を受賞し
た原作の映画化。その映画化を、2002年『モーヴァン』で各
地の受賞に輝いたリン・ラムジー監督が9年ぶりの第3作と
して完成させた。
主人公は、赤ペンキの浴びせられた郊外の廃屋のような家に
住む1人の女性。彼女が道を歩くと罵声が浴びせられ、突然
近寄ってきた女に頬を張られたりと、彼女への嫌がらせは尋
常ではない。それは彼女の息子に原因があるようだ。
その息子が犯した最悪に事件に向き合わなければならなくな
った母親。実はその息子は望まれた子ではなかった。そして
誕生の時から付き纏うそんな思いが、母子関係を負のスパイ
ラルに陥れ、重大な事件へと導く。
物語の前提には多少特殊な部分もあるけれど、現代社会で子
育てを経験した人なら誰もが感じる恐怖が描かれた作品。そ
れは加害者であれ被害者であれ、世界中で日常のように起き
ている恐怖。しかも「家の子に限って」というのは親として
常に付き纏う心配だ。
そんな思いが巧みに描かれる。物語の舞台はアメリカだが、
敢えて事件に銃を持ち出さない辺りに作者の思いも感じられ
る。これは親にとっては普遍的な物語とも言える。そんな親
なら誰しもが身に詰まされる物語が描かれる。

出演は、2008年2月紹介『フィクサー』でアカデミー賞助演
女優賞を受賞し、本作の製作総指揮も兼ねるティルダ・スウ
ィントン。夫役には2003年2月紹介『シカゴ』で助演賞候補
になったジョン・C・ライリー。そして息子役には、本作で
イギリス・インディペンデンテ映画賞の候補になったエズラ
・ミラーが扮している。
映画には救いもあまり感じられず、現実の厳しさが中心に描
かれたものになっている。しかし描かれているのは事件に関
ってしまった母子のやるせない姿であり、底流にあるのはや
はり親子の情のように感じる。
どんな状況にあっても、またどんな経緯があっても、結局は
親子なんだというのが物語の最も言いたかったことのように
も感じられた。それでは甘過ぎるのかも知れないが、そのく
らいの気持ちは現代社会の中でも見出したいものだ。


『ハングリー・ラビット』“Seeking Justice”
2008年9月紹介『バンク・ジョブ』などのロジャー・ドナル
ドスン監督が、2011年7月紹介『ドライブ・アングリー』な
どのニコラス・ケイジの主演で制作したアクション・スリラ
ー。
主人公はニューオリンズ在住の高校教師。チェリストの妻と
共に倹しく暮らしていた彼を突然の悲劇が襲う。練習を終え
て帰宅途中の妻が暴行され、瀕死の重傷で病院に運び込まれ
たのだ。その病床の傍で激しく動揺する主人公に謎の男が声
を掛ける。
その男はサイモンと名告り、犯人を突き止めていると語ると
共に、主人公が望めば犯人への報復を代行すると告げる。そ
の犯人はレイプの常習犯で、警察に突き出しても裁判では被
害者に負担が掛かるだけ、対価は後でちょっとした手伝いを
頼むだけだとも。
その言葉に最初は逡巡した主人公だったが、帰ろうとするサ
イモンを思わず呼び止めてしまう。その結果は…。
法が裁けない凶悪犯を法に替って打ち倒す。ヒーローコミッ
クスの多くがこの図式で展開されているものだが、本作はそ
こに新たな側面を照らし出したとでも言えそうな作品だ。そ
れをハリウッド1のコミックスコレクターを自称するケイジ
が演じるのも面白い。

共演は、2011年11月紹介『アニマル・キングダム』などのガ
イ・ピアース、2005年12月紹介『メルキアデス・エストラー
ダの3度の埋葬』などのジャニュアリー・ジョーンズ、TV
ドラマ『LOST』などのハロルド・ペリノー。
なお撮影は実際にニューオリンズで行われ、映画の後半に登
場するショッピングモールの廃虚は、ハリケーンカトリーヌ
で被災しそのままになっているものだそうだ。他にもスーパ
ードームのモトクロスや高速度路でのスタントなどが織り込
まれている。
因に本作の情報は2008年4月15日付で紹介しており、その際
にはトビー・マクガイアの主演で、題名は“Hungry Rabbit
Jumps”となっていた。その後に主演と題名も変更になった
ようだが、その名残りなのだろう製作者にはマクガイアも名
を連ねている。
また本作は、ケイジの映画デビュー30周年の作品になるよう
だ。

『ミッドナイトFM』“심야의 FM”
2006年11月紹介『ファミリー』などのスエ主演によるサスペ
ンス・スリラー。
主人公は長年に渡り深夜番組を続けてきた人気の女性DJ。
しかしシングルマザーでもある彼女は、障害を持つ娘の治療
のため渡米を決意し最後の放送の日を迎える。ところがそん
な彼女の携帯に脅迫電話が架かってくる。
それはベビーシッターを頼んだ妹とその娘、そして我が子の
いる自宅から架かってきたものだった。そして主人公は、取
り敢えずは犯人の要求通りの曲を掛け始めるが…
2009年5月に紹介した韓国映画の『セブンデイズ』も、同様
のシングルマザーが娘を誘拐されるのだったが、その作品が
7日間だったのに比べると本作は1晩の話でそれだけ話は濃
密になる計算だ。
といっても、本作の舞台は放送局と自宅とその他の少数だか
ら、物語の広がりという点では少し負けているかな。しかし
主人公と犯人以外に関りを持つ人物が多く登場してそれだけ
話は変化に富んだものにはなっている感じだ。

共演は、2008年8月紹介『ファン・ジニ』などのユ・ジテ、
2011年2月紹介『生き残るための3つの取り引き』などのチ
ョン・マンシクとマ・ドンソク。そして娘役はイ・ジュナと
いう子役だそうだ。
監督は、2000年『JSA』などの美術監督を務めたキム・サ
ンマン。映画監督は2作目で、1作目はコメディだったそう
だが、元々コメディは得意でなく悔いが残ったとの。本人は
本作のようなサスペンスが好みのようで、それなりの演出を
している。
また脚本は、キム・フィという人のオリジナルからサンマン
が改訂しているが、元々はもっと大量殺人だったものをサス
ペンスの要素を高めるために少数にしたのこと。また後半に
はカーチェイスが追加されたりもしているようだ。
ただ、犯人の性格付というか動機と行動が合致していない感
じで、特に最後の展開は犯人が最初から想定していたものと
は思えず、偶然こうなると言うのには多少無理が生じている
感じはした。まあ観ている間は気にはならなかったが。

        *         *
 昨年8月14日付で製作の延期を報告したスティーヴン・キ
ング原作“The Dark Tower”の映画化が、以前計画を進めて
いたユニヴァーサルを離れ、ワーナーに移されることが報告
された。
 これは製作会社のイマジン・エンターテインメイントから
の情報によるものだが、それによるとユニヴァーサルは正式
に手を引き、ワーナーがその後釜として交渉されているとの
ことだ。またこの移転にともない製作規模などは維持される
とのことだが、因にユニヴァーサルの計画では3本の映画化
とテレビシリーズを展開するとしていたもので、実現すれば
かなりの規模の作品となる。
 物語は西部劇を思わせる世界を背景にしたもので、そこで
gunslingersと呼ばれた男たちの最後の生き残りが、世界の
中心とされる塔を目指す旅が7巻に渡って描かれる。しかも
そこにはキングの他の著作がいろいろと関わり、キングの集
大成ともされる作品なっている。
 そしてその映画化の計画は、元々キングとアキヴァ・ゴー
ルズマン主宰でワーナーに本拠を置く製作会社のウィード・
ロードと、ブライアン・グレーザーとロン・ハワード主宰で
ユニヴァーサルが本拠のイマジンとの共同で進められていた
もので、今回ユニヴァーサルが下りてワーナーに移るという
のは必然のようだ。従って監督には依然としてハワードの起
用が発表されているものだ。



2012年03月11日(日) キラー・エリート、サイタマノラッパー3、決闘の大地で、キリング・フィールズ、ジョン・カーター、三重スパイ+製作ニュース

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『キラー・エリート』“Killer Elite”
1980年代の国際情勢を背景に、暗躍する暗殺者の姿を描いた
実話に基づくとされる作品。
物語の発端は1980年メキシコ。主人公のダニーは、師匠のハ
ンターと共に権力者の暗殺を敢行するが、権力者の車に同乗
していた目撃者となり得る少女に向かって引き金を引くこと
ができなかった。
このことから引退を決意したダニーは、オーストラリアの荒
野に身を潜め、彼の素性を問わない恋人の女性と共に静かに
暮らしていた。しかし1年後、彼の元に1通の手紙が届く。
そこには捕えられたハンターの写真が同封されていた。
その写真を脅迫と判断したダニーは、手紙に指示されたアラ
ビア半島オマーンの砂漠へと向かう。そして彼がハンターの
命と引き換えに依頼されたのは、英国特殊部隊SASの元メ
ムバーの暗殺だった。最強と言われるSASの、しかも組織
に守られた標的への挑戦が始まる。

出演は、『トランスポーター』シリーズなどのジェイスン・
ステイサム、2009年3月紹介『ザ・バンク』などのクライヴ
・オーウェン、そしてオスカー俳優ロバート・デ・ニーロ。
さらに、2000年『M:I-2』などのドミニク・パーセル、今年
第5シーズン目を迎えた人気シリーズ“Chuck”でヒロイン
を務めているイヴォンヌ・ストラホフスキー、2011年11月紹
介『アニマル・キングダム』などのベン・メンデルソーンら
が脇を固めている。
物語は、サーの称号を持つ作家のラヌルフ・ファインズが、
1993年に発表したノンフィクション“The Feather Men”に
インスパイアされたもの。原作にはSASの元メムバーたち
による秘密組織の存在が暴露されているが、イギリス政府は
それを全面否定しているものだそうだ。
因に、SASのオマーン内戦への関与は公式に知られている
ものだが、映画はその後の情勢を描いている。しかもそこに
は秘密組織Feather Menの暗躍が描かれ、イギリス社会の今
まで知られていなかった新たな闇が登場するものだ。
SASと言えば、アメリカ陸軍デルタ・フォースの手本とも
なった精鋭部隊で、従来はその活躍が英雄的に描かれること
も多かったが、その裏ではこんなことも行っていたという…
正に現実にありそうな物語だ。

しかもその映画化に、英米を代表する3人のスター俳優が顔
を揃えているのだから、そのリアルさも抜群と言える作品だ
った。

『サイタマノラッパー(SR3)/ロードサイドの逃亡者』
2010年5月紹介『サイタマノラッパー2』の続き。
第2作だった前作は、第1作のキャラクターが狂言回し的に
登場はするものの、主人公は別に設定されて単独でも観るこ
とができるものだった。それに対して本作は、第1作に登場
して第2作には出てこなかったキャラクターのその後を描く
もので、第1作との関りはかなり強い。
しかし物語は、そのキャラクターが落ちて行く人生の中で、
もがき苦しむ姿を描いて行くもので、それ自体にはさほど前
との関りはないから、本作の巻頭で描かれた説明を観れば大
体了承できるものだった。従って本作も単独で鑑賞できるも
のだ。
ただし展開は、音楽シーンでの成功を夢見て東京に出てきた
若者がやくざ紛いのグループに取り込まれ、甘言に振り回さ
れる姿を描くもので、正直なところはあまり心地良いもので
はない。
そして若者は故郷にも帰れず栃木に辿り着くが、そこでも凋
落は止まらず、ついには重大犯罪にも手を染めてしまう…。
それはそれなりに社会的なテーマも含んでいるが、結局のと
ころ真の悪は野放しのままで、それはどうかなあとも思って
しまった。
でもまあ主人公の若者の過ちはそれなりの決着に至るから、
それはそれで了解するしかないのだろう。しかし真の悪にも
それなりの制裁が加えられれば、もっとすっきりとした話に
なったような気もするが。
それと肝心のラップがクライマックスなのは良いのだが、こ
れはできればその前のコンサート会場でやって欲しかった。
つまり窓越しではなく、舞台の上と下とでの掛け合いになれ
ばもっと盛り上がったのではないかとも思えたものだ。
そして最後、去り行く友に向かって「しっかり勉強して帰っ
て来いよ」という括りになれば、もっと恰好よく納まった気
もするが…

出演は第1作に出ていたという奥野瑛太、それに全3作に登
場の駒根木隆介と水澤伸吾。
さらに舞台出身で映画デビューの斉藤めぐみ。他に、2010年
8月紹介『桜田門外ノ変』などの永澤俊矢、2011年6月紹介
『ムカデ人間』などの北村昭博、たけし軍団のガンビーノ小
林、そして美保純らが脇を固めている。

『決闘の大地で』“워리어스 웨이”
今年1月紹介『マイウェイ』などのチャン・ドンゴンの主演
によるアメリカ西部が舞台のちょっとファンタスティックな
要素もあるアクション作品。
なお、本作はアメリカのデータベースではニュージーランド
作品となっており、オリジナルタイトルは“The Warrior's
Way”とされているが、主演と監督以下の主要なスタッフは
韓国人で占められており、僕のサイトでは韓国映画として扱
うことにする。
物語の始まりは韓国。互いの殲滅を目指してきた2つの陣営
の一方が勝利し、主人公は最強の戦士となる。しかしそれま
での最強の戦士を倒したとき、彼はその傍らにいた幼い敵陣
営の姫を殺すことができなかった。
そのため味方からも追われることになった主人公は、赤ん坊
の姫を連れてアメリカの西部へと逃れるが、そこにはまた別
の戦いが待ち受けていた。そして彼の背後には、韓国からの
刺客の軍団も迫ってくる。
まあお話は単純明快。主人公には「子連れ狼」の雰囲気もあ
ってコミックスの原作でもあるのかと思ったが、脚本はオリ
ジナルのようだ。そんな主人公をドンゴンが気持ち良く演じ
ている。

そしてそのドンゴンの周囲を、2006年7月紹介『スーパーマ
ン・リターンズ』などのケイト・ボスワース、『POTC』
シリーズのジョフリー・ラッシュ、2007年4月紹介『鉄板英
雄伝説』などのトニー・コックスらが固めている。
さらに2009年6月紹介『30デイズ・ナイト』などのダニー
・ヒューストン、2008年11月紹介『三国志』などのティ・ロ
ンらが出演。
脚本と監督は、ニューヨーク大学映画科を卒業後、韓国国際
大学芸術学部の創設に関り教鞭も取ったというイ・スンム。
すでに数多くの作品で脚本を手掛け、映画賞も受賞している
脚本家の満を持しての監督デビュー作となっている。
また、撮影には2007年10月紹介『ユゴ|大統領有故』などの
キム・ウヒョンが当る一方、VFXは2007年9月紹介『イン
べージョン』などのジェイスン・ピチォ−ニが担当し、アク
ション監督を2011年6月紹介『AVN』の下村勇二が担当す
るなど、国際的な陣容も集められている。
なおアクションには日本刀による剣戟シーンが多く登場し、
ドンゴンはなかなかの剣捌きを見せていた。


『キリング・フィールズ/失踪地帯』
               “Texas Killing Fields”
『アバター』のサム・ワーシントン、2011年6月紹介『シャ
ンハイ』などのジェフリー・ディーン・モーガン、それに、
『ヒューゴの不思議な発明』のクロエ・グレース・モレッツ
が共演するクライムサスペンス作品。
物語の舞台は、テキサス州のガルベストン湾に臨むテキサス
・シティ。その郊外にはキリング・フィールズと呼ばれる湿
地帯があり、そこは遺棄された死体の発見が困難な犯罪の温
床にもなっていた。
そんな町の警察に務める2人の刑事、地元出身熱血型のマイ
クと、ニューヨークから来た冷静なブライアンは、連続する
少女失踪事件を追っていたが、遺体は湿地帯に遺棄されたの
であろうその事件の手掛かりはなかなか掴めなかった。
その一方でブライアンは、湿地帯の近くに住む心に傷を持つ
少女リトル・アンを気に掛けていたが、男癖の悪い母親にも
疎まれるアンはいつも1人で町を彷徨っていた。そしてその
アンが失踪する。
刑事の勘でアンが事件に巻き込まれたと判断したブライアン
は、ただちに犯人が携帯電話を使った湿地帯に向かうが…

共演は1月紹介『ヘルプ・心がつなぐストーリー』の演技で
アカデミー賞助演女優賞にノミネートされたジェシカ・チャ
スティン。他に、2011年7月紹介『デビルクエスト』などの
スティーヴン・グレアム、2011年8月紹介『ウィンターズ・
ボーン』や1990年『ツイン・ピークス』のシェリル・リーら
が脇を固めている。
脚本は、2006年12月紹介『デジャ・ヴ』などのアソシエート
プロデューサーを務めたドナルド・F・フェラローンが、製
作者のマイクル・マンと共に長年温めてきたもので、実在の
地域での60年に渡る犯罪記録の実話に基づいているとのこと
だ。
そして監督は、製作者マンの実の娘のアミ・カナーン・マン
が担当。父親譲りの女性とは思えない骨太な演出ぶりだが、
時折見せるなるほどと思わせる優しさが素晴らしい効果を上
げていた。

『ジョン・カーター』“John Carter”
SFファンには懐かしいエドガー・ライス・バローズ原作の
冒険ファンタシーが、ウォルト・ディズニーの生誕110周年
記念作品として超大作で映画化された。
物語の発端は1881年。1人の若者が、大金持ちだが人嫌いの
叔父ジョン・カーターから緊急の呼び出しを受ける。しかし
彼が叔父の邸宅に駆けつけたとき、すでに叔父の遺体は外か
らは開けられない霊廟に納められた後だった。
そして叔父の日記を託された若者は、そこに綴られた驚異の
物語を知ることになる。それは遡ること13年前の1868年。元
南軍の英雄だったカーターは、新たに創設された騎兵隊から
の誘いも断わり、アリゾナの荒野を彷徨っていた。
そんなカーターは、ある事情から騎兵隊とアパッチ族の双方
に追われ、逃げ込んだ洞窟の奥で何者かに襲われる。そして
昏倒したカーターが目覚めたのは、赤茶けた大地の広がる見
知らぬ土地。しかもそこでカーターは驚異的なジャンプ力を
身に付けていた。
ということでジョン・カーターの火星での大冒険が始まるの
だが…。何というか、昔読んだバローズの印象と何処となく
違う。それは昨年12月に紹介したときにも薄々感じてはいた
のだが、映画化に当って補充された心理描写が印象を変えて
しまっている感じだ。
ただまあ、日本でもアメリカでもいまさらバローズなんて…
という観客は多いのだろうし、新たなファンタスティック・
アドヴェンチャーとして観て貰えればそれで良いのだろう。
こんなことに引っ掛かるのは年寄りだけとしたい。

出演は、2006年9月紹介『スネーク・フライト』などのテイ
ラー・キッチュ、2008年5月紹介『BUG』などのリン・コ
リンズ。他に、ウィレム・デフォー、サマンサ・モートン、
マーク・ストロング、トーマス・ヘイデン・チャーチらが脇
を固めている。
また『スパイ・キッズ』シリーズで弟ジュニ・コルテス役の
ダリル・サバラが、原作者エドガー・ライス・バローズの役
で登場している。
映画製作の経緯などは、サイトの2002年5月1日付第14回や
2007年2月1日付第128回などでも紹介しているので参照し
て欲しいものだが、兎にも角にも映画化の第1作は、原作発
表100周年の年に完成された訳で、続く第2作にも期待した
いものだ。

『三重スパイ』“Triple agent”
今年2月紹介『ある秘密』と同じく、「フランス映画未公開
傑作選」と題されて初公開される3作品の内の1本。2010年
に他界したエリック・ロメール監督(1986年『緑の光線』で
ヴェネツィア映画祭金獅子賞受賞)による2003年の作品。
物語の舞台は1930年代のパリ。1922年のソ連成立により生じ
た多くの亡命者を受け入れたフランスの首都では、国政選挙
での共産政党の躍進と隣国ドイツでのナチスの台頭、さらに
スペイン内戦などが世間の話題となっている。
そんなパリに住む主人公は、元はロシア白軍の将校で現在は
在仏ロシア軍人協会に事務員として務めている。その彼には
ギリシャ人で画家の妻がいて、彼自身は共産主義にもファシ
ズムにも距離を置く温厚そうな紳士だった。
ところが夫妻の住むアパートの階上の部屋に急進的な共産主
義者の一家が入居し、妻を通じて交流が始まったことから物
語は動き始める。その一家を夫は自分を監視に来たスパイと
疑い、その頃から夫の出張が頻繁になり、妻は夫の行動にも
疑問を抱き始める。
そしてついに夫は、自分は諜報活動に従事していると告白す
るのだが…。
映画の巻頭には、「実話に基づく話だが、描写には想像を含
む」とのテロップが掲載され、物語は実際の事件にインスパ
イアされたもののようだ。しかも事件は未解決のもので、そ
の動機なども解明されていないという謎に包まれたもの。
それで、そのスコブリン事件というのがフランスでどれほど
著名なものかは知らないが、かなり非情なスパイの姿が見事
に描かれた作品と言えるものだ。また1930年代のパリを克明
に再現した背景や、要所に挿入されるニュース映像なども巧
みに構成されていた。
それにしても、第2次大戦前の混乱ぶりが見事に描かれた作
品で、歴史に興味のある人にはかなりそそられる作品といえ
そうだ。

出演者は、日本ではあまり知られている人は少ないが、主人
公の妻を演じたカテリーナ・ディダスカロウは、1984年夏期
ロサンゼルスオリンピックの際に、アテネで行われた聖火の
採火式で巫女を務めた女性だそうだ。
なお、「フランス映画未公開傑作選」ではもう1本。2010年
に他界したクロード・シャブロル監督の『刑事ベラミー』も
上映される。この作品は、昨年の東京国際映画祭でも特別上
映されたが、その時も今回もスケジュールの都合で観ること
が叶わなかったものだ。
        *         *
 今回も製作ニュースを少しまとめて紹介しよう。
 まずは、『ヒューゴの不思議な発明』なども手掛けるGK
フィルムスから、リック・ヤンシー原作のヤング・アダルト
SF3部作“The 5th Wave”の映画化権を獲得したことが発
表された。
 物語は、異星人の侵略を生き延びた10代の少女を主人公に
したもので、彼女が異星人に拉致された兄弟を捜す旅が中心
とされる。しかもこの侵略者の体型が地球人に似ているらし
く、少女は偽装して異星人の社会に潜入するようだ。そして
その旅にはやはり異星人に偽装した少年も加わり、そこには
三角関係のロマンスも描かれるらしい。
 という物語の3部作が映画化されることになるものだが、
本作の製作にはトビー・マクガイアが主宰するマテリアル・
ピクチャーズも参加しており、さらにソニー・ピクチャーズ
が共同出資と配給権の交渉を行っている。つまり映画が完成
したらソニーを通じて日本でも公開されるようだ。
 因に原作者のヤンシーは、2005年に発表したこれも3部作
の第1作となった“The Monstrumologist”という作品が、
児童文学の最高賞の1つとされるカーネギー・メダルの最終
候補に残ったとのことで、この作品もハリウッドでの映画化
が期待されているものだ。
 そして今回の映画化に関しては、原作の出版前に交渉が行
われたもののようで、Amazonで調べても原作本は見ることが
できなかった。
 一方、今回の映画製作に参加するマクガイアは、近年GK
フィルムスとの関係を深めているようで、すでに2003年11月
紹介『シービスケット』などのゲイリー・ロス脚本・監督に
よる“Outback”と言うSF作品の計画が進められている。
この作品にはキャリー・マリガンの主演も予定されているよ
うだ。
        *         *
 続いてはワーナーから、アルカイア・エンターテインメン
トというコミックスの出版社から発行されている全4巻のミ
ニシリーズ“Lucid”の映画化権を獲得し、2009年5月紹介
『天使と悪魔』などの脚本家・製作者アキヴァ・ゴールズマ
ンの許で進めることが発表されている。
 このコミックスは、放送中のTVシリーズ“True Blood”
などに出演する俳優のマイクル・マクミランが物語を執筆し
たもので、その内容は2009年Comic-conでの紹介によると、
「もしもハリー・ポッターが成長してCIAに入ったら」と
いうもの。
 因に第1巻は昨年6月に出版されているが、魔法が実在す
る世界を舞台に超自然現象を操る敵と戦う秘密捜査官の活躍
が描かれているようだ。そしてその作品の映画化権を、昨年
最終話の公開を終えた『ハリー・ポッター』シリーズの配給
元のワーナーが獲得したものだ。と言ってもまさか続編とし
て映画化することはないと思うが、同系統の作品ということ
では宣伝戦略なども面白く展開されそうだ。
        *         *
 お次はディズニーの計画で、2010年1月25日付と4月4日
付でも紹介した“Maleficent”のオーロラ姫を、2011年6月
紹介『スーパー8』などのエリ・ファニングが演じることが
発表された。
 この作品は、1959年にディズニー・アニメーションで製作
された『眠れる森の美女』の物語を、姫を眠らせた魔女の側
から描くもので、脚本には2010年3月紹介『アリス・イン・
ワンダーランド』のリンダ・ウルヴァートンが起用され、主
人公の魔女役をアンジェリーナ・ジョリーが演じることも発
表されていた。そして今回は眠らされるオーロラ姫をファニ
ングが演じることになったものだ。
 因にダコタ・ファニングの妹でもあるエリは、2007年1月
紹介『バベル』の頃から注目していたが、昨年の作品では正
に女優としての風格も備わってきた感じで、このタイミング
でのオーロラ姫は絶好の配役と言えそうだ。特にジョリーと
の共演は期待ができる。
 なお、監督には当初名前の挙がっていたティム・バートン
に代って、『アリス』でアカデミー賞を受賞したプロダクシ
ョンデザイナーのロバート・ストームバーグの起用が発表さ
れており、本作で監督デビューとなるようだ。
        *         *
 最後にもう1人俳優の情報で、クリント・イーストウッド
監督がワーナーで進めている“A Star is Bone”のリメイク
にトム・クルーズの出演が検討されている。
 オリジナルは1937年にジャネット・ゲイナー、フレデリッ
ク・マーチの共演で映画化され、その後、1954年にジュディ
・ガーランド、ジェームス・メイスン、1976年にもバーブラ
・ストレイサンド、クリス・クリストファースンで製作され
た物語が、今回は人気歌手のビヨンセの主演で計画され、そ
の相手役にクルーズの名前が挙がっているものだ。
 因にこの相手役には今までに、クリスチャン・ベール、ヒ
ュー・ジャックマン、レオナルド・ディカプリオも検討され
たそうだが、最終的にワーナーはクルーズに絞り込んだとの
こと。
 ただしクルーズは、現在はユニヴァーサルでジョセフ・コ
シンスキー監督の題未定のSF映画に出演しており、その後
にはダグ・リーマン監督で“All You Need Is Kill”という
作品が予定されている。しかしこの内のリーマン監督作品は
ワーナーで製作されるもので、この辺で調整が行われる可能
性があるようだ。



2012年03月04日(日) 虹色ほたる、宇宙戦艦ヤマト2199、ミッドナイト・イン・パリ、私の叔父さん、ソウル・サーファー、ベイビーズ、ロボット+製作ニュース

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『虹色ほたる』
インターネットのホームページに連載していた小説が評判を
呼んでデビューしたという小説家川口雅幸のデビュー作を、
テレビアニメ『ワンピース』のシリーズディレクターなどを
務める宇田鋼之介監督がアニメーション化した作品。
主人公は、小学校の高学年くらいの男子。その少年が山間の
ダムを臨む森に昆虫採集にやってくるところから物語は始ま
る。しかし父親に教えられたらしい採集の方法は、少年には
中々上手く行かないようだ。
そんなとき不思議な老人に出会った少年は持参の飲物を分け
与えるが、やがて帰ろうとした少年は、老人が予告した出水
に巻き込まれてしまう。そして失神した少年がふと目を覚ま
すと、そこは谷間に村落の広がる山の中腹だった。
しかも従兄弟と自称する少女の家に招じ入れられた少年は、
そこが1977年と知り、再び現れた老人からは現代に戻す手続
きが済むまで、その場所に留まるよう言われてしまう。こう
して少年には思いがけない1977年の夏休みが始まる。
それは、昆虫採集に打ち上げ花火、夜店、夏祭り、友情、そ
して淡い初恋など、現代では体験できないような素晴らしい
日々だったが…。やがてその場所に隠された秘密が明らかに
なって行く。
1977年というと、アメリカでは『スター・ウォーズ』が公開
された年で、自分的にはそれほど大昔という感じではないの
だけれど、世の中はこんなに変わってしまったのだというこ
と改めて感じてしまう作品だった。
確かに当時の生活はこんな感じだったのかもしれない。それ
が現代とは掛け離れて違って見えるのは、その時代を体験し
てきた者には、その間に失ったものを考えると、何とも遣る
瀬無い感じもしてしまった。

脚本は、2007年4月紹介『夕凪の街、桜の国』や2009年5月
紹介『刺青/匂ひ月のごとく』などの国井桂。また、音楽を
松任谷正隆、主題歌を松任谷由実が担当している。
ただ物語の展開では、少年の父親と少女の遭遇した出来事の
関係が明確でなく、これでは被害者のはずの少年の父親が加
害者にも見えてしまう。また結末も時代設定をもう少し明白
にしないと、これだけでは観客の多くにその意味が伝わらな
い感じがした。
でもまあ、最近の日本のアニメーションではこんな感じの作
品が多いから、これはこれで良いのかも知れないが、やはり
物語は明確に伝えて欲しいとは感じてしまうところだ。


『宇宙戦艦ヤマト2199』
1974年放送されたテレビアニメの第1作がオリジナルと同じ
全26話の構成でリメイクされ、その第1話、第2話が第1章
として4月7日より全国10館の映画館でイヴェント上映され
る。その試写が行われた。
1974年のオリジナルの第1話は、その年の8月に開催された
SFフェスティバルの会場でも上映され、その時の観客席の
興奮ぶりは結構鮮明に憶えている。しかし本放送は日曜日の
夜、しかも裏番組が実写の特撮もので、個人的にはあまり注
目することはなかった。
しかし作品はその後に高い評価を呼び、今では日本のアニメ
ブームの先駆者とも呼ばれているようだが、上記の理由で僕
自身にはあまり思い入れがある訳ではない。このため以前に
はどちらかというと批判的なコメントをしていたこともあっ
たものだ。
そんな作品だが、今回見直してみると、物語的には若者の成
長を描いたsagaであり、内容的にはあるものを捜すquestで
あって、これらは1974年の放送当時より、今の方が理解され
やすいのではないかとも思えるものだ。
ただし、以前のブームの頃にも気になった好戦的で戦争を是
とする思想テーマ的なところは変わっておらず、その点には
今回も辟易させられた。でもこれは単にオリジナルを踏襲し
ているだけであって、今の制作者たちに特別な考えなどはな
いのだろう。
その物語はオリジナルと殆ど変わっておらず、当時は拙速で
言葉の足りなかった部分が、今回はちゃんと埋められている
感じだ。ただ、戦艦大和を母体とする意味などはオリジナル
の方がちゃんと説明されていたような気がしたが、覚え違い
だろうか。

いずれにしても、総監督を務める出渕裕を始めとする今回の
クリエーターたちが最大のリスペクトを払って本作のリメイ
クに当っていることは間違いない。それはエンドクレジット
に宮武一貴や加藤直之の名前がある辺りでも感じられた。
なおシリーズは各25分で上記のように全26話で構成され、上
記した第1章の公開後は、4話ずつを6章に分けて順次イヴ
ェント上映(第2章は6月30日公開)する計画。テレビ放送
はその計画の終了後の2013年以降に考えているとのことだ。

『ミッドナイト・イン・パリ』“Midnight in Paris”
先週受賞式の行われたアメリカアカデミー賞で、ウッディ・
アレンが脚本賞と監督賞の候補になり、1987年の『ハンナと
その姉妹』以来の脚本賞に輝いた作品。
主人公はアメリカではそこそこの人気もある脚本家。しかし
彼自身の夢は小説家になること。そんな主人公が、婚約者と
その両親と共にパリに観光にやってくる。そして一目でその
街が好きになった主人公は、ここが自分の居場所だとの感覚
を抱く。
そんなある夜、街を1人彷徨った主人公がとある街角で午前
0時の鐘の音を聞いたとき。彼の目前に現れたのはピカピカ
に磨かれた箱形のプジョー。その乗客たちからパーティに誘
われた主人公は、そこで思いも寄らない体験に遭遇する。
登場するのは、コール・ポーター、ゼルダ&スコット・フィ
ッツジェラルド、ジョセフィン・ベイカー、ファン・ベルモ
ンテ、アーネスト・ヘミングウェー、ガートルード・スタイ
ン、パブロ・ピカソ、ジューナ・バーンズ、サルバドール・
ダリ。
さらに、ルイス・ブニュエル、マン・レイ、T・S・エリオ
ット、アンリ・マティス、アンリ・ド・トゥルーズ=ローレ
ック、ポール・ゴーギャン、エドガー・ドガ。そして1人の
女性の登場が彼に重大な決意を促す。

アレン自身は、脚本家及び映画俳優としてデビューを飾った
1965年『何かいいことないか小猫チャン』の撮影でパリを訪
れた際に、この街に魅了されたのだという。それはちょうど
本作の主人公と同じ気分だったようだ。
しかし多くの映画の関係者がそのままパリに留まったのに対
して、ニューヨークっ子の彼は帰国してしまった。そのこと
を今でも悔いているのだそうだ。そんなアレンのパリに対す
る尽きせぬ想いが素敵なファンタシーになって観客に提示さ
れている。
出演は、主人公を2010年12月紹介『幸せの始まりは』などの
オーウェン・ウィスンが演じる他、キャシー・ベイツ、エイ
ドリアン・ブロディ、カーラ・ブーニ、マリオン・コティヤ
ール、レイチェル・マクアダムス、マイクル・シーンらが共
演。
まさに珠玉のパリ賛歌という感じの作品だが、そこに甘辛い
人生への教訓が含まれているのも、ウディ・アレンならでは
のものだ。

『私の叔父さん』
2006年12月紹介『棚の隅』の原作者・連城三紀彦が直木賞を
受賞した短編集「恋文」に収められた作品の映画化。叔父と
姪という世間的には禁忌とされる恋愛を巡って18年の歳月が
様々な想いを描いて行く。
物語の発端は現代。主人公はカメラマンとして活躍する中年
の独身男性。その男性の家に彼の姉の孫で男性の孫姪に当る
少女が大学受験のため逗留した最後の日、少女は主人公に向
かって「叔父さん、母さんのことが好きだったでしょう。証
拠もある」と言い出す。
その証拠とされる5枚の写真に隠されていた秘密とは…そし
てその少女が取った意外な行動は…。主人公の胸に18年前の
日々が去来し、その想いは主人公にとある決断を求めること
になる。
犯罪(道ならぬ恋がそうであるかどうかは別にして)の起き
ないミステリーといった感じの作品。主人公の胸に去来する
想いや写真に秘められた想いの謎解きが、物語を巧みに彩っ
て観客をぐいぐいと引っ張って行く。
原作を含む短編集は1984年の直木賞を受賞したもので、その
作品がほぼ30年を経て映画化された。しかしその作品は決し
て古さを感じさせるものではなく、多少のノスタルジーを感
じさせながら切ない物語が展開される。

主演は、2010年2月紹介『誘拐ラプソディー』などの高橋克
典。共演は、2008年3月紹介『受験のシンデレラ』などの寺
島咲。他に、長谷川初範、鶴見辰吾、松原智恵子、新人の松
本望らが脇を固めている。
脚本と監督は2002年『竜二Forever』などの細野辰興。細野
監督と主演の高橋は2002年の作品を撮った際に次回作の約束
をし、以来10年を掛けて実現した作品ということだが、その
10年が熟成をもたらしたとでも言えそうな作品だ。
特に現在と18年前を演じ分ける高橋と、その18年の歳月を映
像化した監督の演出も巧みに感じられる作品だった。

『ソウル・サーファー』“Soul Surfer”
2003年10月、1990年生まれ13歳の少女サーファーが練習中に
サメに襲われて片腕を失う。しかし少女はその事故から僅か
2カ月後には海に戻り、全米規模の大会にも出場した。そん
な少女サーファーの姿を描いた実話に基づく作品。
正直には片腕の少女サーファーの姿を想像すると、それは流
行り言葉で言うとキモイ感じがした。その一方で、上記の話
は衝撃的ではあるけれど普通に美談な訳だし、そこに隠され
た真実だってそれほど期待できそうにない。
それこそ、日本映画によくあるお涙頂戴にされたら目も当て
られなくなってしまいそうなお話だ。したがって試写を観に
行くには多少の思い切りが必要だった。しかし観終えたとき
の満足感は、最近ではあまり感じていなかったものだ。
それは、例えば事故が起きてから病院に搬送されるまでの緊
迫感など、矢継ぎ早の演出の巧みさなどは『ER』などの参
考があるとは言え見事なもので、さらに主人公自身の転機と
なるシーンの描き方も納得できるものになっていた。
しかもそれが実話ベースとは思えないほど感動的で完璧なも
のなのだ。これにはこの転機を彼女に与えた周囲の人たちの
存在もあるのだが、そんな環境の素晴らしさも見事に描かれ
ていた。

主演は、2007年12月紹介『テラビシアにかける橋』などのア
ナソフィア・ロブ、母親役を2002年11月紹介『スコルピオン
の恋まじない』などのヘレン・ハント、父親役を2003年4月
紹介『エデンより彼方に』などのデニス・クエイド。
他には、2006年8月紹介『もしも昨日が選べたら』などのロ
レイン・ニコルスン、2003年『ピーター・パン』では主役を
演じたジェレミー・アンプター、カントリー歌手のキャリー
・アンダーウッドらが脇を固めている。
脚本、監督、製作は、2006年にオハフ島が舞台の少女プロサ
ーファーを主人公にしたTVシリーズ“Beyond the Break”
なども手掛けているショーン・マクナマラ。なお脚本には、
他に10人ほどが絡んでいたようだ。

『ベイビーズ』“Bébé(s)”
2009年4月にアメリカ、ナミビア、モンゴル、日本の4カ国
でそれぞれ誕生した4人の赤ん坊が、各自歩み始めるまでの
約1年間を追ったドキュメンタリー。
言葉も喋らず、2足歩行もしない赤ん坊というのは、言って
みれば小動物と同じようなもので、それは愛らしいのが当然
の被写体ということになる。それを写した本作は、正直ずる
い作品だろう。
しかも作品はナレーションを一切排し、字幕も名前と地名だ
けで余分の情報は殆どなし、そして映像では、赤ん坊の寝顔
や愛らしい仕種や、少し大きくなってからは兄弟や同じ位の
他の赤ん坊と遊ぶ姿などが描かれている。それはもう子育て
経験した者や、周囲で赤ん坊に接したことのある者には堪ら
ない映像が綴られているものだ。
因に余分な情報が殆ど提供されないのは、映像を観ただけで
観客に何かを感じてほしいという監督の意図によるのだが、
作品を観る限りにおいては、何というか可愛らしさ先に立っ
て、それだけで終ってしまいそうな感じだ。
とは言え、アメリカと日本に対するナミビアとモンゴルは、
明らかに生活のレヴェルが異なっているもので、その辺がこ
の作品を観ていて何かを感じるとすれば、それは充分に感じ
ることはできた。
ただし会場で配られたプレス資料を観ると、ナミビアの子供
はこの出演によって医者に診てもらうことが出来。また出演
料は将来の子供のために取って置かれるとのことで、それは
彼の人生を変えてしまうものかも知れない。
そんな重要な情報を映画だけでは知ることができない。それ
も不思議な作品と言える。もちろん通常の作品であっても、
状況を知っているか否かで評価が一変してしまうようなもの
もあるのだから、それはそれもありということなのだろう。
赤ん坊と言えば最近インターネット上で怪しげな対話をする
赤ん坊の画像が話題になっていたが、その画像は僕の目から
するとかなりグロテスクで不快感のあるものだった。それに
比べると本作はさすがに子供たちを飛び切り可愛く捉えてい
る。
それを観るだけでも価値のある作品と言えそうだ。考えれば
いろいろなことも浮かんでくるが、それ以上のとやかくは言
えない感じの作品でもある。


『ロボット』“எந்திரன”
昨年の東京国際映画祭に『ラジニカーントのロボット(仮)』
の題名で出品された作品が、今度は一般公開されることにな
り試写が行われた。
ただし映画祭での上映時間は170分だったものが、今回上映
されたのは139分に再編集されている。この短縮は日本の興
行事情によるもののようだが、その事情は制作者側にも了承
されていることがプレス資料にも謳われていた。
物語は近未来のロボット開発に関るもので、中心となるのは
新たな「神経回路」を開発したロボット研究者。その回路を
組み込んで開発したアンドロイド型ロボットは、ほぼ完璧な
働きをするようだ。
そして研究者は、そのロボットの実用化の承認を政府機関に
申請するのだが、その機関は彼のライヴァルである教授に牛
耳られており、その教授は難癖を付けて承認を妨害する。し
かもその教授は「神経回路」の秘密も狙っていた。
斯くして研究者と教授の確執のドラマが展開され、そこに研
究者の婚約者の話などが絡まり、さらに研究者とそっくりの
風貌を持つロボットによる、人間技では不可能な大活躍のア
クションが繰り広げられる。
上記の短縮の具体的な内容は、映画祭での上映を観ていない
ので定かではないが、本作を観る限りは物語の展開に問題は
感じられなかった。ただしSFファンとしては本筋に関係な
いような部分の拘わりも気になるものだ。
上映された中でも「アシモフの3原則」への言及なども観ら
れたが、他にどんなエピソードがあったのか気になる。因に
本作の一般公開が成功したら、完全版の公開も可能になると
のことなので、それには期待したいものだ。

主演は、1998年『ムトゥ踊るマハラジャ』などのラジニカー
ント。共演は元ミス・ワールド第1位で、1999年『ミモラ−
心のままに』などのアイシュワリヤー・ラーイ。インド映画
らしく2人が踊るシーンもふんだんに登場する。
最近ハリウッド映画のVFXでもクレジットにインドの会社
の名前がよく登場するが、本作の成立にはそんな背景もあり
そうだ。しかしアクションシーンなどは多少そのVFXに頼
り過ぎな感じもして、この辺はリアルか荒唐かのメリハリが
欲しい感じもした。

とは言え今は本作をヒットさせて、完全版の日本公開に繋げ
たいものだ。
        *         *
 今回は少しページを残したので、制作ニュースをいくつか
お伝えしたい。
 まずは、何度かお伝えしているピーター・ジャクスン監督
の“The Hobbit”に関してProduction Videoが公開されてい
る。(http://www.facebook.com/PeterJacksonNZ?ref=ts)
 それによると、2部作の撮影は127日を掛けて行われてお
り、これは『LOTR』の全3部作の撮影期間が133日だっ
たのに比べて長くなっているようだ。それについて監督は、
「前の時より皆10歳も年を取ったからね」とのことだが、撮
影開始直前の監督の入院などもあったから、それなりに慎重
に進めらているのかも知れない。
 ただし映像を観る限りは、かなりの山岳地帯での撮影など
も行われているようで、監督も元気そうな姿で登場している
から、撮影は順調に行われているのだろう。このまま製作が
進んで、今年12月14日の第1部“The Hobbit: Unexpected
Journey”と、来年12月13日の第2部“The Hobbit: There
and Back Again”の公開は間違いなさそうだ。
 それにしてもこのProduction Videoはすでに第6回になっ
ているものだが、ジャクスン監督のVideoで思い出すのは、
2005年『キング・コング』の撮影中の4月1日に公開された
“The Son of Kong”の撮影を開始したという映像。そこで
は、シナリオの表紙から絵コンテ、さらに俳優たちが登場す
る撮影風景まであるという凝りに凝ったものが配信されてい
た。今回のProduction Videoを観ていて、ふと今年もそんな
「作品」も期待したくなった。
        *         *
 お次は“The Day of the Triffids”。実はこの情報につ
いては2010年10月3日付でも一度報告しているものだが、今
回は新たに製作会社として、サム・ライミ監督主宰のGhost
House Picturesの参加が発表されている。
 因に前回の報告では、製作者は『トランスフォーマーズ』
のドン・マーフィの名前が挙がっていたものだが、それに加
えてサム・ライミが協力するとのことだ。そして前回の報告
では、3Dでの製作が謳われていたものだが、その後のドン
・マーフィには昨夏の『DSM』の成功からも期待が高まる
ところで、そこにさらにライミの協力は正に鬼に金棒という
感じだろう。
 また今回は、ニール・クロスという脚本家の起用も発表さ
れており、製作準備は着実に進められているようだ。なおこ
の脚本家はBBCで3シーズン目を迎える“Luther”という
人気シリーズを手掛けており、さらにギレルモ・デル・トロ
の製作でジェシカ・チャスティンが主演する“Mama”という
ホラー作品も担当し、Variety紙が選ぶ「注目すべき10人の
脚本家」の1人にも名前が挙げられている俊英のようだ。
        *         *
 最後は続編の計画で、1986年トニー・スコット監督、トム
・クルーズ主演『トップ・ガン』の続編“Top Gun 2”の脚
本に、2010年11月紹介『ザ・タウン』のピーター・クレイグ
の起用が発表されている。 実は、この計画も昨年10月頃に
第1報が伝えられていたものだが、その時には別の脚本家の
名前が挙げられていた。ところがその脚本家が一向に執筆に
着手せず、やむなく新たな脚本家の採用が決まったというこ
とだ。
 なお続編にはスコット監督とクルーズの参加も期待されて
いるものだが、その正式発表はまだのようだ。
 もう1本、今年のアカデミー賞で主題歌賞に輝いた『ザ・
マペッツ』“The Muppets”にも続編の計画が発表されてい
る。
 この作品は日本では5月に公開予定のようだが、マペッツ
と人間が共存している世界を描いているそうで、かなりファ
ンタスティックな内容のようだ。配給元のディズニーではす
でに情報の発信も開始しており、試写も近々始まるようなの
で、試写を観たらまた報告することにしよう。


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井口健二