井口健二のOn the Production
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2012年01月29日(日) 桃まつり5、長ぐつをはいたネコ、誰も知らない基地のこと、311、レンタネコ、孤島の王、超能力者+Oscar/nomination

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『桃まつり〜すき〜』
2008年2月、2009年1月、2010年1月にそれぞれ紹介した女
性監督たちによる短編作品集「桃まつり」の2012年版の試写
を観せて貰った。因に昨年は開催されなかったとのことで、
今回は5回目(初回は僕が観ていない)になっている。  
その2012年版は「すき」をテーマに、各々3本×3プログラ
ムの計9作品が3月17日から渋谷のユーロスペースにて公開
される。
「壱のすき」
『帰り道』(監督・竹本直美):監督の作品は第1作から全
作を鑑賞させて貰ったが、演出も構成も安定している。本作
は第1作にちょっと似たところがあって、それが今年の場合
は3/11以降の日本人皆が感じた故郷回帰の心情にマッチし
ているものだ。
都会で働いてきた女性がやむを得ず戻ってきた故郷の風景の
中、ふと幼い頃を思い出す、そんな心情が丁寧に描かれてい
る。出演者にベテラン俳優を持ってきたのはちょっとずるい
感じもするが、その安定感が特に短編映画には良い感じを与
えていた。

『フィガロの告白』(監督・天野千尋):夏休みの1日、秘
密基地に集まった中学男子4人組は女子の話で盛り上がり、
それぞれ意中の女子に告白を決行するが…。出演している子
役たちの演技も自然で、演出は短編らしくテンポも軽快でリ
ズム感もあり、結末も良い感じだった。

『the place named』(監督・小森はるか):ソートン・ワ
イルダーの戯曲「我が町」をもとに、その第3幕を稽古して
いる劇団員と、彼らの心象とも言える田舎町に暮らす女性の
姿が交互に描かれる。オリジナルの芝居は知らなかったが、
途中でその舞台の設定が理解されると作品の印象がかなり変
わってくる。不思議な感覚の作品だった。

「弐の好き」
『春まで十日間』(監督・ステファニー・コルク):3/11
を背景に、海外にいて被災地に住む家族を心配する女性の心
情が描かれる。その心情は、主に女性が被災地の母親の留守
番電話に吹き込むメッセージで綴られるが、そこから観えて
くるものがかなり深く、それはなかなか巧みな作品に感じら
れた。

『口腔盗聴器』(監督・上原三由樹):かなり際どい内容の
作品で、女性監督だと知らなかったら少し考えてしまうとこ
ろかもしれない。でもまあこのような設定で、操っていると
思っている側が、実は操られているというのは面白くはある
ものだ。ただし結末がちょっと何なのか…。DVDを借りて
見直したが意味が良く判らなかった。

『最後のタンゴ』(監督・熊谷まどか):監督の作品歴を観
て、『ロールキャベツの作り方』という作品を2004年12月紹
介の『Movies-High #5』で観せて貰っていることに気がつい
た。そのときも上手いと思ったが、今回もかなり洒落た作品
だ。特に途中のホラーめかした辺りが僕的には好ましい感じ
がした。

「参のすき」
『さめざめ』(監督・星崎久美子):この監督の作品も09年
9月紹介『ゼロ年代全景』の中で観ている。内容的にはその
ときの作品と似ているようにも感じるが、この監督の継続的
なテーマなのかな。前半のポストイットで会話するという展
開は、男女の本音がストレートに出ている感じでかなり面白
かった。

『LATE SHOW』(監督・佐藤麻衣子):雑居ビルの屋上に置
かれたプロジェクターで映画を上映している若者と、そのビ
ルの前の道に屯するバイカーの少女の姿を描いた作品。昨年
10月に紹介したアミール・ナデリ監督の『カット』にも同じ
ようなシーンがあったが、ビルの屋上には独特の雰囲気があ
るものだ。それはいいがお話が良く判らなかった。

『SAI-KAI』(監督・名倉愛):チンピラやくざの男が幼馴
染みと再会する。しかしそれは2人の運命を左右するドラマ
の幕開けだった。かなり大きなドラマをよくこの時間に納め
たものだと感心する。でも結局はお話を繋いでいるだけとい
う感じは否めない。この物語はもっとしっかり時間を掛けて
描くべきもののように感じた。

以上、上映時間はプログラムごとに75分前後のものだが、内
容的には番号を追う順に少しずつ重くなっている感じかな。
気軽に楽しむなら「壱」、いろいろ観たいのなら「弐」、ド
ラマを観るなら「参」がお勧めというところだ。

『長ぐつをはいたネコ』“Puss in the Boots”
2004年6月紹介『シュレック2』に登場して人気者になった
欧州民話のキャラクターを主人公にしたスピン・オフ作品。
同じ民話からは東映動画でも1969〜76年に3作品が製作され
ているが、本作とは全く関係がない。
物語の舞台は、古い町が点在する荒野。因に設定はシュレッ
クの世界より少し南の土地だそうだ。その荒野でプス(長ぐ
つをはいたネコ)はある事情からお尋ねものになっていた。
そんなプスが魔法の豆の噂を耳にするところから物語は開幕
する。
その魔法の豆からは天空の城に続く豆の木が育ち、そこには
金の卵を生むガチョウがいる。そのガチョウを手に入れれば
一生を楽に暮らせるというものだ。ところがその魔法の豆を
狙っている奴がもう1人いた…。
ということで、本作では「ジャックと豆の木」をモティーフ
にした物語が展開され、そこに友情や裏切りなどの様々なド
ラマが繰り広げられる。『シュレック』もそうだが、お子様
向けと思って観ていると意外と深い物語に唸ってしまうもの
だ。

声優は、日本公開では吹き替えが中心になりそうだが、僕は
何とか内覧で観させて貰ったもので、プス役のアントニオ・
バンデラスを始め、2003年12月紹介『レジェンド・オブ・メ
キシコ』でも共演しているサルマ・ハエック。
さらに2010年11月紹介『デュー・デート』などのザック・ガ
リフィアナキス、2011年4月紹介『ファースター』などのビ
リー・ボブ・ソーントン、2004年2月紹介『スクール・オブ
・ロック』などのエイミー・セダリスらが脇を固めている。
監督は、『シュレック』シリーズの第1作のストーリー・ア
ーティストを務め、2007年の『シュレック3』では監督も担
当したクリス・ミラー。シリーズを知り尽くした監督がスピ
ンオフのキャラクターを存分に操っている。

『誰も知らない基地のこと』“Standing Army”
日本と同じく第2次世界大戦の敗戦国であり、戦後70年近く
経っても日本と同様にアメリカ軍による基地占領が続けらて
いるイタリアの若手監督が、アメリカ駐留軍の意味を問い掛
けたドキュメンタリー。
アメリカの小学生が歴史の時間に最初に習うことの一つは、
イギリスの駐留軍に苦しんだ植民地アメリカの住民が起こし
た独立戦争の意義なのだそうだ。そのアメリカは、現在公表
されているだけで世界の約40カ国に700箇所以上の駐留基地
を設置している。
それは第2次大戦の敗戦国である日本、イタリア、ドイツは
勿論、アフガニスタンから旧ソ連圏までの世界中が網羅され
ている。それは第2次大戦後の冷戦に始まって、冷戦終結後
は麻薬組織やテロ対策など常に理由を付けて占領が続いてい
るものだ。
1961年にアイゼンハワー前大統領は、その退任演説の中で産
軍共同体の危険性に触れ、彼らを絶対に暴走させてはならな
いと訴えたとのことだ。しかしその跡を継いだケネディはキ
ューバ危機を契機にベトナムへと突き進んでいった。
アイゼンハワーは共和党、ケネディは民主党。その民主党の
オバマも海外軍の撤収どころか軍事費は増強される一方。ブ
ッシュはただの馬鹿だったが、むしろアイゼンハワーのいた
共和党の方が現実をよく理解していたのかな。
作品では、主に沖縄の普天間と、基地のため原住民2000人が
故郷を追い出されたインド洋のディエゴ・ガルシア、それに
新基地の建設が強行されるイタリアのビチェンツィアなどが
取材されているが、何処も住民の訴えは政府によって圧殺さ
れているようだ。
ただし、日本の基地問題では「おもいやり予算」などは話を
複雑にしないためか言及されていないし、1992年にアメリカ
軍基地を撤去させたフィリピンなども取材されていない。さ
らにヨーロッパではドイツが取材されていないのも物足りな
くは感じられた。
今アメリカの産軍共同体が狙っているのは、基地の恒久化で
あり、それは恒久的な戦争の継続、そのために産軍共同体は
あらゆる手段を駆使している。実は最近、某アメリカ映画を
観ていて同じようなことを考えたが、それはあながち僕の妄
想でもないようだ。


『311』
震災と原発暴走から2週間後の東北を4人のドキュメンタリ
ストが撮影した作品。
その取材は何を撮影しようという目的も持たずに、ただ現地
を観ておきたいという考えのみで始まった。そして最初は放
射能検知器を携えて福島に向かうが、装備が不十分であるこ
となどを認識して以後は震災被災地に向かう。
そこでは、すでに数多くの取材でも報じられた津波による惨
状や避難民の姿などが写し出されて行く。そして彼らは、多
くの学童や保護者たちが津波に飲まれた石巻市立大川小学校
に辿り着く。
昨年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映され、会場が
怒号と賞賛の声に包まれたという問題作。事前にそういう情
報を聞き、さらに巻頭で物見湯山のように出掛けて行く彼ら
の姿には、災害直後の報道で「おもしれえ」と発したレポー
ターを思い出した。
それは福島でガイガーカウンターの数値が跳ね上がって行く
様子を伝える声にも感じられたが、その声は津波の惨状を前
には少なくなって行く。そして小学校の跡地で子供の姿を探
す母親たちを前にして、ついに言葉は失われてしまう。
その小学校では、校庭で教師が点呼を取っているときに津波
が襲ったのだという。そこで取材された母親は、「先生を無
視して子供を連れて山に逃げた親子は助かった。自分は仕事
で迎えに行けなかった」と言った後で、「でも、(自分が)
行っていても、先生の指示にしたがって、一緒に津波に飲み
込まれたと思う」と語る。
しかしそれは、子供を助けられなかった自分への言い訳だろ
う。そんな母親の無念さが画面から伝わってきたとき、僕は
涙が止まらなくなってしまった。
今回上映される作品は、山形で上映された作品より2分短く
編集されているようだ。それでどんなシーンがカットされた
のかは判らない。もっと不埒なシーンがあったのかも知れな
い。しかし僕はこの母親たちの無念を伝えただけでも賞賛に
値すると思った。

これは今後に語り継ぐべき内容を描いた作品だと思う。ただ
し福島原発に関しては、再度準備を整えて取材するべきだ。
本作の制作者たちにはそれを望みたい。

『レンタネコ』
2010年4月紹介『トイレット』などの荻上直子監督による最
新作。本作で再度ベルリン国際映画祭への正式出品が決まっ
たようだ。
「レンターネコ、ネコ、ネコ。寂しい人に、猫、貸します」
という口上でレンタネコ屋を営む女性を狂言回しに、都会に
暮らす人々の姿が描かれる。
登場するのは、夫と愛描に先立たれた老婦人に、単身赴任か
ら漸く家族の許に帰る日の近い中年男性、自分に自信の持て
ないレンタカー屋の受付嬢。そしてもう1人と、主人公の隣
に住む怪しい主婦。
ただし猫を借りるには審査があって、そこでの主人公との遣
り取りからいろいろなドラマが展開される。しかしそこは荻
上監督らしく、本当にちょっとした普段の出来事が巧みに優
しく描かれているものだ。
ただ、以前の作品に比べると、少しドラマティックかな。そ
れはオムニバス風の構成にも拠るのかも知れないが、少し演
出も凝っていたようにも感じられた。それが従来のファンに
どう取られるか多少気になるが、僕にはこれも好ましく感じ
られた。

出演は市川実日子、草村礼子、光石研、山田真歩、田中圭、
小林克也。2006年1月紹介『かもめ食堂』からは小林聡美、
もたいまさこは抜けたが、2007年9月紹介『めがね』からの
市川、光石が常連組。
他に、2010年5月紹介『サイタマノラッパー2』などの山田
と、2010年7月紹介『七瀬ふたたび』などの田中、それに小
林が新加入している。因に、山田と田中は2011年12月紹介の
『アフロ田中』でも共演していた。
という出演者の顔ぶれだが、実は猫好きには人間の演技など
どうでも良くなってしまう。特に主人公の自宅のシーンで、
俳優の後ろでじゃれ合っていたり、画面の端をさっと横切ら
れたりすると、ついそちらに目が行ってしまうのだ。
ただし本作の人間ドラマは会話劇が中心で、目が他に行って
いても問題は少ない。監督もその辺は心得て作っているよう
な感じもした。
とにかく猫好きには堪らない作品だ。

『孤島の王』“Kongen av Bastøy”
本国ノルウェーでは2010年に公開され、大ヒットを記録した
上に、その年の同国の映画賞で8部門にノミネート、その内
の作品賞、脚本賞、助演男優賞、音楽賞を受賞した衝撃のド
ラマ作品。
1900年から1970年まで運営されたというオスロ南方のバスト
イ島に所在した非行少年矯正学校を舞台に、その実話に基づ
いた作品。1915年、その矯正学校に送られてきた1人の少年
がその過酷な環境の下で過ごした日々が描かれる。
そこには様々な罪を犯した11〜18歳の少年たちが収容されて
いた。そこで彼らに課せられるのは、徹底した自由の剥奪と
過剰な抑圧。そんな環境の中で彼らは学校側の言う正しい人
間に矯正されて行く。しかし10代の少年にとってそれは過酷
すぎる環境だった。
主人公のキャラクターはフィクションのようだが、描かれる
事件は史実に基づくようだ。そして矯正学校はその後も運営
されているのだから、多分その事件によって改善は行われた
のだろう。そんなある意味、歴史を動かした少年たちの行動
が描かれている。
それにしても、冬の北欧の吹雪の中の野外作業や凍てついた
海の風景など、見るからに過酷な少年たちの生活ぶりがこれ
でもかとばかりに描かれ、その衝撃度も最大な作品と言える
ものになっていた。

出演は、オスロ国立アカデミー出身、1987年生まれのベンヤ
ミン・ヘールスターと、1年以上掛けたオーディションで見
出されたという1990年生まれのトロン・ニルセン。いずれも
瑞々しい演技を見せてくれる。
他に、2011年12月紹介『メランコリア』や前回紹介『ドラゴ
ン・タトゥーの女』にも出ていたステラン・スカルスガルド
(この人の苗字はいろいろに表記されるが、どれが正しいの
かな)が出演して見事に作品全体を引き締めている。
監督は、ロンドン国際映画学校出身のマリウス・ホルスト。
1995年のデビュー作がベルリン映画祭で受賞している他、本
作が4作目の俊英。本作ではスペイン・バレンシア国際映画
祭での金賞など、数々の映画祭での受賞にも輝いているよう
だ。

『超能力者』“초능력자”
現代のソウルを背景に、超能力者同士の戦いを、韓流スター
のカン・ドンウォンとコ・スの共演で描いた作品。
その超能力は眼力で人の行動を自在に操るというもの。しか
しその持ち主はその能力ゆえに幼い頃から真面な暮しをする
ことができなかった。こうしてその男は、超能力を悪用する
犯罪者になっていたが…。ある日、彼はその超能力に抵抗す
る男と遭遇する。
その抵抗者は、その日まで自分にそんな能力があることすら
知らなかったが、危険な犯罪者との遭遇が彼の中に使命感を
呼び起こす。そして2人の超能力者の間で壮絶な戦いが開始
される。
単純明快な正義と悪の戦いという図式の作品だが、何せ正義
側の能力が悪人の超能力に抵抗できるだけだから、これはか
なり不利な戦いだ。でも、実際こんなものだろうなあ…と思
わせるものもあり、それなりにリアルな感覚で楽しめた。

脚本と監督は、2006年7月紹介『グエムル−漢江の怪物−』
の演出部に参加していたというキム・ミンソク。短編映画で
は受賞歴もあるという若手の本作が長編デビュー作になって
いる。
共演は、その『グエムル』に出演していたピョン・ヒポン。
他に、オーディションで見出された新星チョン・ウンチェ。
さらに本業は医大生のアブダドと通訳のエネス・カヤという
2人の外国人がコメディリリーフとして活かされている。
なお本作は、2011年5月紹介『チョン・ウチ』、2010年8月
紹介『義兄弟』などのカン・ドンウォンには、2010年11月の
入隊前の最後の作品となったもので、彼は現在兵役中だそう
だ。
また、クライマックスシーンの撮影は大型台風が襲来する最
中で行われ、このシーンで主人公らの背景に写る異様な空模
様には、CGIなどで描かれたのはない本物が撮影されてい
るそうだ。

ただし、その他のCGI=VFXは、韓国大手映画会社CJ
エンターテインメントのディジタル部門が手掛けていたよう
だ。
        *         *
 以下は、1月24日に発表されたアメリカアカデミー賞の最
終ノミネートから気になる部門を紹介しておこう。
 まず今年は9作品となった作品賞は、原題のアルファベッ
ト順に“The Artist”『ファミリー・ツリー』“Extremely
Loud & Incredibly Close”『ヘルプ』『ヒューゴの不思議
な発明』“Midnight in Paris”『マネーボール』『ツリー
・オブ・ライフ』『戦火の馬』(なお、本ページで紹介した
作品は邦題にしました)
 長編アニメーション賞は、“A Cat in Paris”“Chico &
Rita”“Kung Fu Panda 2”『長ぐつをはいたネコ』『ラン
ゴ』。何とパラマウント配給作品が3本に海外作品が2本と
いう布陣で昨年の同社の頑張りがここでも判るという感じに
なった。因に“A Cat in Paris”は昨年のフランス映画祭で
上映されたもので、その際に観られなかったのが悔やまれる
作品だ。
 メイクアップ賞は、『アルバート・ノッブス』(昨年11月
30日付「東京国際映画祭《コンペティション部門》で紹介)
『ハリー・ポッターと死の秘宝 Part2』“The Iron Lady”
予想通り『死の秘宝』が残ったが、まさか受賞は…?
 視覚効果賞は、『死の秘宝』『ヒューゴ』『リアル・ステ
ィール』“Rise of the Planet of the Apes”『ランスフォ
ーマーズ:ダークサイド・ムーン』。こちらも大体予想取り
だが、実際は初めの2本の一騎討ちのような感じがする。
 因に『ヒューゴ』は監督賞、脚色賞など今回最多の11部門
でノミネートされており、『LOTR王の帰還』に並ぶ最多
受賞記録を3Dで実現できるかというところだ。
 この他、主演女優賞では俳優で史上最多記録更新の17回目
となったメリル・ストリープに、『アルバート・ノッブス』
グレン・クローズ、『ヘルプ』のヴァイオラ・デイヴィス、
『ドラゴン・タトゥーの女』ルーニー・マーラ、『マリリン
・7日間の恋』のミシェル・ウィリアムスが挑戦することに
なっており、この戦いも面白そうだ。
 また、『アルバート・ノッブス』では映画祭で注目(11月
31日付記事参照)したジャネット・マクティアが助演女優賞
にノミネートされたのも嬉しいところだ。
 さらに長編ドキュメンタリーでは、ヴィム・ヴェンダース
監督の『Pina』がノミネートされており、その行方も気にな
る。
 受賞式はカリフォルニア州ロサンゼルスで、現地アメリカ
太平洋時間の2月26日午後4時から開催の予定だ。



2012年01月22日(日) AKB48、SHシャドウ・ゲーム、最高の人生を、第九軍団の、コーマン帝国、ファミリー・ツリー、種まく旅人、ドラゴン・タトゥー+Riddick

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『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on少女たちは傷つき
ながら、夢を見る』
社会現象とも言えるAKB48、その2011年を追ったドキュ
メンタリー。
同種の作品では2010年に公開されたものがあるようだが、そ
の作品は観ていない。元々このグループというか団体には、
総合プロデューサーの存在も含めて極めて作為的なものが感
じられ、あまり好きではなかった。従って試写も懐疑的な想
いで観に行ったものだ。
2011年の1年間が題材ということで、当然本作も3/11の話
題から始まる。しかもそこには、仙台で被災してその後に研
究生になったという少女もいて、これも作為しか感じられな
い開幕だった。
しかしその開幕で、被災地での災害支援の一環として架設の
舞台から集まった子供たちに向かって語りかけ笑顔を振りま
いて踊り、歓声を浴びる彼女たちの姿は、当然ことながら感
動的なものであり、そこに至る彼女たちの想いには涙腺も刺
激された。
そしてそれに続く、開催されていた頃には傍目で馬鹿騒ぎに
しか観えなかった「総選挙」や西武ドーム公演の舞台裏での
彼女たちの様子には、それは尋常でない何かが感じられるよ
うになってきた。
そこには、彼女たち自身も作品の中で語っているように、特
に初期の頃から参加しているメムバーたちの自覚の芽生えで
もあるように見えるし、それが3/11や去年1年間のいろい
ろなものを切っ掛けとして育まれていることを、この作品は
見事に描いている。
実は先日観ていたテレビのサッカー番組で、Jリーグ初期の
スター選手2人が、「最近の選手に自覚がない」ことを嘆い
ていたが、僕自身がJ2のチームを応援しているとそれを感
じてしまうところもある。
そんな想いで本作を観ていると、この自覚を生み出す切っ掛
けが今の若者たちに与えられていない、そんなことも考えて
しまった。「しらけ世代」なんて僕らが若い頃にも言われて
いたが、本作は、その「しらけ」社会へのメッセージのよう
にも感じられた。
なお3/11に際しては、AKB48からいち早く数億円の義
援金が拠出されたはずだが、そのことが作品の中で全く触れ
られていないのも、清々しく感じられた。


『シャーロック・ホームズ:シャドウ・ゲーム』
        “Sherlock Holmes: A Game of Shadows”
ガイ・リッチー監督、ロバート・ダウニーJr.主演、ジュー
ド・ロウ共演で、2010年1月に紹介した『シャーロック・ホ
ームズ』の続編。
時は1891年、イギリス国民は相次ぐ爆弾テロに怯えていた。
それは一般には反体制勢力の犯行と考えられていたが、ホー
ムズは違っていた。彼はそれらの事件の裏で1人の人物が暗
躍していると考えていたのだ。その人物とはジェームズ・モ
リアーティ教授。
コナン・ドイルの原作では、1893年発表の『最後の事件』に
登場し、ホームズ生涯最大の敵とされるモリアーティ教授の
陰謀を暴くべく、ホームズとワトスンはフランス、ドイツ、
スイスを股に掛けた追跡行を繰り広げる。
モリアーティ教授の姿は、前作にも謎の男として登場してお
り、続編が教授との対決になることは予想されていた。しか
も本作に登場する教授は、裏でヨーロッパ政界も操るなど原
作以上に強力で、正にその期待に違わぬ壮大な対決が繰り広
げられる。
そして映画では、前作でも使われた全てを予測して行動する
ホームズのイメージの描写様式が、見事なクライマックスを
盛り上げて行く。さらにアクションでは、前作同様のVFX
を駆使した華麗なシーンが展開されるものだ。

共演は、2008年12月紹介『ベンジャミン・バトン』や、昨年
6月に紹介『ザ・ウォード』などのジャレッド・ハリスと、
2009年10月紹介『ミレニアム/ドラゴン・タトゥーの女』な
どのノオミ・ラパス。
他に、前作に続いてのレイチェル・マクアダムス、ケリー・
ライリー、エディ・マーサン。さらに2005年7月紹介『銀河
ヒッチハイク・ガイド』などの出演者で、作家・監督でもあ
るスティーヴン・フライらが脇を固めている。
前作と同様、ホームズとワトスンの掛け合いなどはユーモア
たっぷりで笑わせてくれるが、その一方で、第1次世界大戦
前のヨーロッパの緊張感などもかなりシビアに描かれ、さす
がイギリス人監督の作品という感じのものになっている。
モリアーティ教授の登場や、アイリーン・アドラーの存在な
ど、正にシャーロック・ホームズのクライマックスという感
じの作品だ。


『最高の人生をあなたと』“Late Bloomers”
2007年10月紹介『ぜんぶ、フィデルのせい』のジュリー・ガ
ヴラス監督の第2作で、イザベラ・ロッセリーニとウィリア
ム・ハートを主演に迎え、老境に差し掛かった夫婦の機微を
描いた作品。因に前作は原作付きだったが、今回は自らのオ
リジナル脚本のようだ。
物語の舞台はロンドン。イタリアから来て建築家の夫と巡り
合い、結婚生活30年で3人の子供にも恵まれた元教師のメア
リーは、成功した夫が名誉ある受賞を果たしたその受賞式の
最中にふと不安に襲われる。
その不安は何の根拠もないものだったが、現在の生活がいつ
まで続けられるのか、自分の老後のことなど、考えれば考え
るほど不安は募って行く。そして相談した医師の勧めでスポ
ーツクラブに行ってみたりもするるが、それは若くない自分
を自覚するだけだった。
一方、夫は革新的な公共施設の建築で成功を納めていたが、
その彼に次に指示されたプロジェクトは老人ホームの建設。
しかしそれに納得できない彼は、事務所の若い連中が進める
プロジェクトに参加してみるが…
年齢に沿って老後のことを考え始めた妻と、いつまでも夢を
見ながら新たな挑戦を続けようとする夫。そんな2人の間に
少しずつ波風が立ち始める。自分と妻もこの夫婦と同じくら
いの年頃だから、まあいろいろな意味での共感はしきりの作
品だった。
因に監督は、父親のコスタ・ガヴラス監督が各地の映画祭で
回顧上映と共に迎えられるのを観て、本作の物語を思い付い
たそうだ。従ってアイデア段階は、父=夫の側だったと思う
のだが、完成された作品は何となく妻寄りでそんなものかな
あとも思ってしまった。
なお原題の直訳は「遅咲きの花」だが、これは成熟を意味す
る暗喩でもあるそうだ。そんな老境を迎えた妻の姿が描かれ
ている。
イザベラ・ロッセリーニは、1986年デヴィッド・リンチ監督
作品『ブルー・ベルベット』で、妖艶という言葉はこの人の
ためにあるのだとも思わせてくれたものだが、そんな彼女が
首の弛みを気にするシーンには、自分もそれだけ年を取った
ことを実感させられた。

僕の年代には、いろいろ考えさせられてしまう作品だった。

『第九軍団のワシ』“The Eagle”
紀元2世紀にローマ帝国が建設し、1987年に世界遺産にも登
録されたイギリス北部の旧跡ハドリアヌスの長城。その建設
の切っ掛けとなったとされるローマ帝国第九軍団失踪の謎を
題材として1954年に発表されたローズマリー・サトクリフ原
作の映画化。
その映画化を、2004年10月紹介『運命を分けたザイル』など
のケヴィン・マクドナルド監督が実現した。
イギリス北部に進撃した兵士5000人からなるローマ第九軍団
が忽然と姿を消したのは、西暦117年、それを脅威と感じた
ハドリアヌスはそれまでの世界征服の政策を転換し、122年
に長城を建設してローマ帝国の境と定める。
その20年後、長城警護の司令として現地に赴いた主人公は、
ブリトン人との闘いで負傷し、名誉退役を余儀なくされる。
そして彼が奴隷としたスコットランド人の若者と共に、かつ
て彼の父親が指揮し消息を絶った第九軍団の紋章を追って、
北部への旅を開始する。
物語の背景は、紀元2世紀のスコットランド。その神秘的と
も言えるハイランドの風景が、スコットランドの現地とハン
ガリーでのロケーションによって見事に再現され、謎に満ち
た第九軍団失踪の真相が描かれて行く。
因に物語自体はサトクリフの創作だが、第九軍団の失踪は史
実であり、その狭間が冒険物語として巧みに描かれている。
そして映画では当時の進駐軍の様子やブリトン(ケルト)人
の生活ぶりも再現され、それは一種ファンタシーのようにも
描かれていた。

出演は、2011年1月紹介『僕が結婚を決めたワケ』などのチ
ャニング・テイタムと、11月紹介『タンタンの冒険』で主人
公の声優を務めたジェイミー・ベル。他に、ドナルド・サザ
ーランド、マーク・ストロングらが脇を固めている。
脚本は、2003年11月紹介『すべては愛のために』などのジェ
レミー・ブロック。撮影は、2009年1月紹介『スラムドッグ
$ミリオネア』でオスカー受賞のアンニ−・ドット・マント
ルが手掛けて、素晴らしい情景を観せてくれている。
なお本作は、2011年2月27日付「バンコク遠征記(後編)」
の中でも触れた作品で、その時には観られなかった作品によ
うやく出会えたものだ。

『コーマン帝国』
   “Corman's World: Exploits of a Hollywood Rebel”
オスカーを授与するアメリカ映画芸術科学アカデミーから、
2009年に名誉賞を贈られた低予算映画の王者ロジャー・コー
マンの姿を、本人及び彼の許から巣立った数多くの映画人の
証言などで描き出したドキュメンタリー。
そのインタヴューに答えているのが、俳優のロバート・デ・
ニーロ、ジャック・ニコルスン、ピーター・フォンダ、ブル
ース・ダーン、ウィリアム・シャトナー、デイヴィッド・キ
ャラダイン、パム・グリア。
監督ではマーティン・スコセッシ、ロン・ハワード、ジョナ
サン・デミ、ポール・バーテル、ピーター・ボグダノヴィッ
チ、ジョー・ダンテ、ジョン・セイルズ。そして製作者のゲ
イル・アン・ハードなど。
この人たちが直接の門下生としていろいろな思い出を語り、
さらに監督のクエンティン・タランティーノ、ポール・WS
・アンダースン、イーライ・ロス、アーヴィン・カーシュナ
ーらがコーマンを讃える発言を行っている。
何とも錚々たる顔ぶれだが、そこでは普通のハリウッドでは
考えられない究極とも言える低予算映画の製作の様子や彼ら
が如何にしてコーマンに育てられたか、またコーマンの存在
が如何にハリウッドに影響を及ぼしたかなどが語られる。
その発言の多くは、僕の立場からするとすでに書物などで知
っていたことではあったが、それらがその当事者の口から直
接聞けるのは素晴らしいものだ。特にジャック・ニコルスン
が感激しながら語る姿は、受賞式などで見る彼からは想像も
できないものだった。
また、コーマン自身が自作の中で唯一のアート的作品と称す
る“The Intruder”については、当時初主演だったシャトナ
ーへのインタヴューを始め、フィルムクリップなども挿入さ
れて、日本未公開の作品がかなり克明に紹介されている。
さらにコーマンが製作を務める新作の撮影風景や、数多くの
映画人が集まったオスカー名誉賞の受賞式の模様など、正に
コーマンの業績を讃えることに専念したと言える作品。僕の
ような者には正しく最高の贈り物だった。

『ファミリー・ツリー』“The Descendants”
今年のゴールデン・グローブ賞で映画ドラマ部門作品賞と、
ジョージ・クルーニーが主演男優賞を受賞したファミリード
ラマ。
舞台は常夏の楽園ハワイ。しかしそこに住む人々には、必ず
しも楽園とばかりは言っていられない。ただしクルーニーが
演じる主人公は、カメハメハ大王に繋がる先祖伝来の広大な
土地を所有する一族の代表だったが…
突然、妻がボートの事故で意識不明の重態となり、今まで土
地の管理の仕事で家庭を省みなかった主人公に2人の娘の世
話が任せられる。その末娘はまだ現実の状況を知らせられな
い年頃であり、上の娘は親に反抗して別の島の寄宿学校に暮
らしていた。
そんな2人の娘との関係を再構築し、さらに信託期限が6年
後に切れる先祖伝来の土地の行方を巡って主人公の葛藤が繰
り広げられる。
映画では、巻頭で最初に書いたようなナレーションが流れる
と共に街を歩く老人の姿が写し出され、楽園の現実が突きつ
けられる。そんな何処の社会にも変わらないのであろう現実
が、風光明媚なハワイの大自然を背景に描かれて行く。

共演は、2人の娘を演じるのが2008年ブレイク・スルー賞受
賞のシャリーン・ウッドリーと、映画出演も演技も初めてと
いうアマラ・ミラー。他に若手のニック・クラウス、ベテラ
ンのボー・ブリッジス、昨年8月紹介『ラブ&ドラッグ』に
出演のジュディ・グリアらが脇を固めている。
製作、脚本、監督は、2004年『サイドウェイ』でオスカー脚
本賞受賞のアレクサンダー・ペイン。ハワイ在住の作家カウ
イ・ハート・ヘミングスの原作からの脚色には、俳優でもあ
るナット・ファクスンとジム・ラッシュも参加している。
因に、原作者はクルーニーをイメージして作品を執筆してお
り、本作では主人公の秘書役で出演しているそうだ。
一応、娘を育てた身としてはいろいろ考えさせられるところ
も多い作品だった。幸い自分はこういう状況に置かれること
はなかったが、それぞれの娘に母親の状態を知らせるシーン
は見事な演出もあり感動させられた。


『種まく旅人〜みのりの茶〜』
農林水産省の後援で、日本の農業を描いた作品。
一方の主人公は、農水省の大臣官房に席を置く官僚。しかし
彼は身分を隠し、日本中の農家を訪ね歩いて農業の現状を知
ることを自らの使命としていた。ところがそんな主人公に地
方自治体の農政局長の辞令が発せられ、彼は大分県臼杵市へ
とやってくる。
そしてもう1人の主人公は、ファッション会社に務めていた
デザイナーの女性。彼女は不況のあおりで仕事を辞め、父親
との確執もあって祖父の住む臼杵市へやってくる。そこで祖
父は無農薬栽培の茶園を営農していた。
こうして女性は、ある事情から無農薬の農業を始めなくては
ならなくなるのだが…。そこには農薬の使用による大量生産
を勧める農水省の方針や、効率を優先する大規模農業法人の
存在、さらに地方の役人行政の体質なども絡んでくる。
ということで、農水省の後援の割にはそれなりに農政批判み
たいなものも描かれている作品だが、全体的には想定範囲の
ストーリー展開で、特に感動を呼ぶというところもあまりな
い作品だった。
ただまあ、ある意味の農業の素晴らしさを紹介しているとい
う点では、恐らく地方で進んでいるのであろう農業離れを少
しでも前向きに是正したいという農水省の気持ちは伝わって
くる感じの作品でもあった。

出演は、陣内孝則、田中麗奈、吉沢悠、柄本明。他に、永島
敏行、石丸謙二郎、寺泉憲、中村ゆり、林美智子。さらに徳
井優、前田健らが脇を固めている。
監督は、2010年8月紹介『ふたたび』などの塩屋俊。農業ラ
イター青葉薫の原作からの脚本は、『釣りバカ日誌』シリー
ズや2003年5月紹介『さよなら、クロ』などに参加の石川勝
己が担当している。
映画では、臼杵独特の釜煎り茶という茶葉の製法なども紹介
され、それはなかなか興味のそそられるものだった。このよ
うな各地の特産品や独特の製法などが紹介できるのなら、そ
れをテーマにしてシリーズ化も面白いのではないかとも思え
たところだ。

『ドラゴン・タトゥーの女』
          “The Girl with the Dragon Tattoo”
2009年10月紹介のスウェーデン映画『ミレニアム/ドラゴン
・タトゥーの女』を、2010年10月紹介『ソーシャル・ネット
ワーク』のデイヴィッド・フィンチャー監督がハリウッドリ
メイクした作品。
内容については以前の紹介を見てもらいたいが…。実はその
短い紹介文でもすでに本作と相違がある。それは同じ原作か
ら脚色するに当っての取捨選択によるものだが、それがここ
まで違いを生じさせているのも面白いところだ。
その最も大きな違いは、スウェーデン版では40年前の事件の
謎解きに重きが置かれていたのに対して、本作ではその原因
となった聖書に基づく事件の解明の方に重点が置かれている
もので、その視点の違いには興味を引かれた。
しかもその部分は、スウェーデン人にとっては恥とされてい
る部分であるが、アメリカ人にとってそれは正に糾弾すべき
ものだったのだろう。そんな脚色の違いが物語の展開にも微
妙な異動を生じさせている。
それでスウェーデン版では謎解きの面白さが中心なのだが、
本作ではさらにその裏に潜む人間の業のようなものが炙り出
されて、それはまた興味深いものになっていた。正直なとこ
ろ、前作ではその辺が多少分り難かったが、本作でそれが明
確になった感じだ。

脚色は、1993年『シンドラーのリスト』でオスカー脚色賞を
受賞したスティーヴン・ザイリアン。昨年9月紹介『マネー
ボール』の脚色も手掛けたザイリアンは、本作の製作総指揮
も担当している。
しかし本作では謎解きの部分が物足りなくなったことも感じ
られるもので、できたら両方観ることが作品の理解をいっそ
う深めることになりそうだ。特にリスベット自身の問題は前
作の方が明確に描かれていた。

出演はダニエル・クレイグとルーニー・マーラ。2010年5月
紹介『エルム街の悪夢』と『ソーシャル・ネットワーク』に
も出ているマーラは、前2作のお嬢様的容姿からは想像ので
きない変貌ぶりで、スウェーデン版のノオミ・ラパスに劣ら
ない衝撃だった。
他には、クリストファー・プラマー、ステラン・サースガー
ド、スティーヴン・バーコフ、ロビン・ライトらが脇を固め
ている。
        *         *
 2010年2月14日付で計画だけ報告したヴィン・ディーゼル
主演“Riddick”シリーズの新作がようやく動き出した。
 シリーズ第3作となる新作のタイトルや詳細な内容などは
発表されていないが、前2作と同様デイヴィッド・トゥーイ
が監督と脚本も担当することになっている。
 また、2004年7月紹介の前作『リディック』にヴァーコと
いう役で登場したカール・アーバンの再登場が発表されてお
り、他に“Gattlestar Galactica”などに出演のケイティ・
スットクホフ、前々回紹介『BUNRAKU』に出演のジョーディ
・モラ、さらに若手のノーラン・ファンクらの共演が発表さ
れている。
 因に本作の撮影は1月19日に開始されているが、アーバン
は1月15日撮影開始の“Star Trek”続編のマッコイ役と掛
け持ち出演のようだ。さらに前作に登場したジュディ・ディ
ンチのような大物の名前はまだ出てきていないが、これもそ
の内にサプライズがあるかもしれない。
 ただ現状では公開時期などが未発表で、さらに配給系統も
発表されておらず、その辺が少し気になるところだ。



2012年01月15日(日) 昼下がりローマ、おとなのけんか、ジャックとジル、忘れられた夢、タッカーとデイル、51、レッド・ティアーズ、POV+Oscar/Makeup

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『昼下がり、ローマの恋』“Manuale d'amore 3”
2007年5月に『イタリア的、恋愛マニュアル』を紹介してい
るジョヴァンニ・ヴェロネージ監督、脚本によるシリーズの
第3弾。2005年製作の上記作品の後には、2007年に第2弾が
製作され、同作は『モニカ・ベルッチの恋愛マニュアル』の
邦題で公開されたようだ。
そして第3弾では、ローマの街に建つアパートを舞台に青年
と熟年、そして老境の3人の男性の恋愛事情が紹介される。
その1人目の主人公は青年弁護士。恋人と結婚してアパート
で一緒に暮らすことを夢見る彼は、トスカーナで進むゴルフ
場開発で土地の買収に応じない一家の説得に向かう。ところ
がそこで彼は飛び切りの美女に出会ってしまう。
2人目はテレビで人気者のニュースキャスター。妻も娘もい
るそんな彼が、出席したパーティで1人の女性と知り合いに
なる。そしてかなり積極的な女性と携帯番号を交換し、彼女
は精神科医と名告るのだが…
3人目は、アメリカからやってきた引退した大学教授。彼は
アパートの管理人や住人の女性たちと共にワインパーティを
楽しんでいたが、その席でパリに行っていた管理人の娘が突
然帰ってくることを知る。しかしその娘にはいろいろ秘密が
あるようだった。

こんな物語が、2005年6月紹介『輝ける青春』などのリッカ
ルド・スカマルチョ、シリーズ全作に出演のカルロ・ヴェル
ドーネ、そしてロバート・デ・ニーロ、モニカ・ベルッチの
配役で描かれる。
他に、2010年9月紹介『シチリア!シチリア!』に出演のミ
ケーレ・プラチドとラウラ・キアティ、2002年東京国際映画
祭で最優秀女優賞受賞のドナテッラ・フィノッキアーロらが
共演している。
僕自身は、年代的には後の2作の主人公に近いが、やはり物
語的には最初の作品に牽かれるかな。監督自身がトスカーナ
地方の出身とのことで、その風景や人々の描き方にも愛情が
籠もっているようにも感じられた。
ただし、2007年の紹介のときにも書いたが、イタリア人の恋
愛に対する情熱にはただ頭が下がるばかり、これは僕らには
真似できない。


『おとなのけんか』“Carnage”
昨年7月紹介『ゴーストライター』でベルリン国際映画祭・
監督賞受賞のロマン・ポランスキー監督による最新作。ポラ
ンスキーが1988年にパリで演出した『変身』の上演にも協力
した劇作家ヤスミナ・レザの原作でオリヴィエ賞、トニー賞
受賞の舞台劇の映画化。
物語の背景はニューヨーク。子供同士の喧嘩で相手に怪我を
負わせてしまった加害者側の子供の両親が、被害者側の子供
の家に謝罪にやってくる。そこで供述書を取り交わし、円満
にことが終りそうになった辺りから物語は開幕する。
そこでちょっとコーヒーでもとなるのだが…。そこに加害者
側夫妻の夫の携帯に会社からの連絡が入り始め、さらに被害
者側夫妻の夫の母親からの電話や、コーヒーと共に出された
ケーキなどが、互いの間に行き違いを生じさせ始める。
そして徐々に興奮が高まり、互いの本音が見え始めて…。最
初は如何にも冷静にことを済ませようとした2組の夫妻が、
被害者−加害者の間だけでなく、それぞれの夫婦間の諍いま
で噴出させてしまう。
自分はこんな風にはなりたくないなあ…とは思いつつも、人
間なんて所詮こんなものかなあ…とも思ってしまう。そんな
人生の機微ではないけれど、人間の本性みたいなものが巧み
に描かれた作品だ。

出演は、いずれもオスカー受賞者のジョディ・フォスター、
ケイト・ウィンスレット、クリストフ・ヴァルツ、それにノ
ミネーターのジョン・C・ライリー。プロローグとエピロー
グを除いて完全に4人だけの室内劇で、正に演技のぶつけ合
いという感じ。
因に、撮影は2週間の綿密なリハーサルの末に行われたそう
で、監督はその間に演出を完成させ、撮影ではカメラアング
ル等の撮影に専念して俳優には思う存分の演技をさせたとの
こと。そんなやりかたが見事に芝居を完成させている。
また映画用の脚色にはポランスキーとレザが共同で当ってお
り、これは万全の映画化だろう。特に舞台では再現できない
VFXを使ったシーンは、ワッやりすぎと思いながらも見事
に物語の転換点を演出していた。

それから、プロローグで物語の切っ掛けとなる少年を演じて
いるのはポランスキーの息子で、彼は父親が監督した2005年
『オリバー・ツイスト』への出演や、2007年11月紹介『潜水
服は蝶の夢を見る』では主人公の子供時代を演じていたそう
だ。

『ジャックとジル』“Jack and Jill”
アメリカではヒットメーカーだが、日本ではなかなか評価さ
れないコメディアン=アダム・サンドラー主演による2011年
11月11日全米公開の最新作。
ジャックは西海岸でCMプロダクションを興して成功してい
る実業家。その彼の家に故郷のニューヨーク・ブロンクスで
生まれ育った双子の妹ジルが感謝祭の休暇でやってくる。そ
の妹は良く言えば天真爛漫、悪く言えば相手の迷惑など全く
考えない野放図者で…
このジャックとジルをサンドラーがVFXを駆使した1人=
2役で演じ、ところ構わずやりたい放題の妹と、それに振り
回される兄を絶妙のコンビネーション(?)で演じている。
それはCGIも使って巧みに描かれたものだ。

共演は、2011年11月紹介『ダーク・フェアリー』などのケイ
ティ・ホームズ、それにアル・パチーノが本人役で登場し、
これは正に究極の怪演ぶりを見せる。他にジョニー・デップ
を始め数多くのセレブがカメオ出演しているようだ。
監督は、2003年3月紹介『ナショナル・セキュリティ』など
のデニス・デューガン。監督はテレビの『NYPDブルー』
などの他、映画ではサンドラーとも多数組んでいる。脚本は
サンドラーと彼の盟友のスティーヴ・コーレンによる。
サンドラーの作品では、2006年8月紹介『もしも昨日が選べ
たら』や同年3月紹介『ロンゲスト・ヤード』などは認める
のだが、本作のようなシチュエーション・コメディ路線のも
のはなかなか評価しづらい。
それは、特に笑いが下ネタになるのが僕を退かせてしまうと
ころで、折角そこまでは心地よく笑えていたものが、何でそ
うなるの? という気分にもさせられてしまう。
でもそれがアメリカではヒットの要因なのかな、本作も11月
の公開以来すでに興行収入は7000万ドルに到達し、昨年の全
米興行成績で47位を記録している。これは9月紹介『マネー
ボール』や12月紹介『ペントハウス』に匹敵するものだ。
まあかなり強烈なユダヤ人ネタもアメリカでは受けるのかも
知れないが。


『忘れられた夢の記憶』“Cave of Forgotten Dreams”
1994年に発見され、現在はフランス政府によって非公開とさ
れている南フランス・ショーヴェ洞窟の内部を、ヴェルナー
・ヘルツォーク監督が3Dカメラで撮影したドキュメンタリ
ー作品。
1879年に北スペインで発見されたアルタミラ洞窟や、1940年
にフランス南西部で発見されたラスコー洞窟に並ぶ洞窟壁画
の中でも、最も古い年代(紀元前3万2000年)が測定されて
いるショーヴェ洞窟の壁画が3Dで撮影されている。
ただし許可された撮影期間は6日間、1日4時間のみ、さら
に内部に入れるのは4人まで、機材は各人が手持ちできるも
のだけという厳しい条件では、普通に考えて満足の行く撮影
は出来るはずがない。本作はそんな悪条件の中での精一杯の
作品と言えそうだ。
しかしこの壁画が一般の目に触れる機会は現状では皆無であ
り、その一部が観られるだけでも貴重な体験が得られるもの
だ。それを達成したヘルツォーク監督らの関係者にはまず敬
意を表したい。
斯くしてかなり厳しい条件で撮影された作品だが、まず何で
わざわざ3Dなのか、という点に関しては、凹凸のある洞窟
壁面にその凹凸に沿って描かれた絵画を描写するにはこれし
か手段が無い。これは決して時流に乗った3D撮影ではない
ということだ。
そしてその壁面の凹凸に沿って描かれた壁画の躍動感は、正
に3万4000年前の原始の画家たちが描いた時の心情を観る者
に伝えてくれるものになっている。特にナレーションで「ア
ニメーションのよう」と表現される時間を追って重なり合う
絵の躍動感は見事なものだった。
因に、僕が子供の頃に観ていたテレビ番組の「ディズニーラ
ンド」では、アニメーションの歴史という回の中で、ウォル
ト・ディズニーがアルタミラの壁画に描かれた8本脚のバイ
ソンの絵でその歴史を紐説いたが、彼にもこの重なり合う絵
を観て欲しかった。
この他にも、様々な技法を駆使して描かれた素晴らしい絵の
数々が目の前に繰り広げられる様は、この洞窟の内部を実際
に見学して堪能させてくれた想いもした。これも3Dによる
効果と言えるものになっている。
ただ残念なのは、足場の組まれていないさらに深遠の洞窟が
撮影できないことで、ここには恐らくリモコンの飛空カメラ
も用意されたようだが、その使用は許可されなかったのだろ
う。いつの日かそんな深遠の映像にも許可される方法で挑ん
でもらいたいものだ。


『タッカーとデイル』“Tucker and Dale vs Evil”
森林の奥の湖水の辺を舞台にしたスプラッターホラー映画の
パロディ。
登場するのは、森林の奥の湖水の辺に念願の別荘=山小屋を
手に入れたタッカーとデイルの中年男性2人組と、その湖に
キャンプに来た男女の大学生グループ。彼らは湖に向かう途
中のGSで出会うが、その出会いは悲惨なものだった。
そして別々に湖に向かった2グループは、それぞれ休暇を楽
しむ準備を始め、準備が一段落した頃、大学生の1人の男子
が過去にその森で起きた惨劇の話を始める。しかしそんなこ
とは気にしない仲間たちは湖で泳ぎ始めるのだが…そこで事
件が起きてしまう。
そこから後は、あれよあれよの展開で次々に惨劇が繰り広げ
られ、2グループは互いに追い詰められて行く。そしてそれ
ぞれが絶対絶命の危機に立たされて行くが…。まあ互いに無
神経なところはあるが、それなりに納得の行く展開でお話は
進んで行く。
作品としては1974年“The Texas Chain Saw Massacre”(悪
魔のいけにえ)のパロディになるが、視点を加害者側にも置
いて、なおかつ全てを偶然の出来事とする構成を、見事に破
綻なく描いたもので、これは脚本としてもかなり練られたも
のと言える。

脚本と監督はイーライ・クレイグ。オスカー女優サリー・フ
ィールドの息子だそうだが、2004年に監督した卓球が題材の
短編コメディが各地で受賞に輝いての本作が2009年撮影の長
編デビュー作。その間は資金調達に奔走していたそうだ。
そして本作では、2010年モントリオールファンタジア国際映
画祭での審査員賞、シッチェス・カタロニア国際映画祭での
パンラマ部門作品賞など数々の受賞に輝いている。日本でも
2011年SKIPシティ国際Dシネマ映画祭で上映されて観客投票
第1位になったそうだ。
出演は、2011年7月に紹介『トランスフォーマーズ』などの
アラン・テュディック、2007年9月紹介『FLYBOYS』などの
タイラー・ラビン、そしてテレビシリーズ“30 Rock”に出
演のカトリーナ・ボウデン。なお彼女は“Piranha 3D”の続
編にも出ているようだ。
他に、2009年1月紹介『雷神』などに出演のフィリップ・グ
ランジャー、2006年『ファイナル・デッドコースター』など
に出演のジェシー・モスらが脇を固めている。
なお作品は、パロディと同時にちゃんとスプラッターもして
いるので、観る方はお気を付けください。しかもそれで笑い
取っているところが見事でもある作品だ。

『51 世界で一番小さく生まれたパンダ』
中国四川省・成都大熊猫繁育研究基地(通称パンダ基地)で
のパンダの繁殖と育成の模様を撮影したドキュメンタリー作
品。
2006年、そのパンダ基地で51gという史上最少体重(通常は
150g程度ある)で誕生し、その体重に合わせて51(ウー
イー)と呼ばれることになった仔パンダの成長を中心に、パ
ンダの繁殖に関る様々な問題を描く。
一般的にパンダは、ほぼ50%の確率で双子を産み、母親はそ
の内の丈夫な方の仔を選んで育てるのだそうだ。しかしここ
パンダ基地では、母親が見捨てた仔パンダは保育器に入れ、
交互に母親に抱かせて2匹とも育てることをしている。
このやり方に関しては以前に他のドキュメンタリーなどで知
っていたし、目新しいものではなかったが、そこからのウー
イーの成長ぶりや、他の母親と仔パンダの関りの記録は、今
まで知らなかったパンダの姿を様々に見せてくれるものにな
っていた。
中でも、死産や想像妊娠を経て人工授精でようやく身籠もっ
た母パンダが、それでも生れた仔パンダの姿に怯えて育児放
棄してしまう姿や、その放棄された仔パンダを乳母となって
育てるベテラン母パンダの姿。
また、初めての子供は育児放棄してしまったが、2度目の子
供はぎこちないながらも大事に育てている新米母親パンダの
姿。そんな正に人間でもありそうな母子の姿が次々に画面の
登場してくる。
その一方で見事に育って行くウーイーの姿が3年以上に渡っ
て記録されており、その愛くるしい姿から成長して少し気難
しくなる様子。それでも母親には甘えてしまう姿などには、
間違いなくパンダファンの心は鷲掴みにされるはずだ。

さらに作品では、今後の課題として繁殖したパンダを野生に
帰す研究などにも言及され、それは良く目の行き届いた作品
になっている。これは正に全てのパンダファンへの最高の贈
り物と言える。
ただし、エンディングに流される歌はこれで良いものかどう
か。この歌に多少の意見のある者としては疑問に感じた。制
作者にどのような思いがあるのかは知らないが、僕には正直
に言って不似合いな感じがする歌だった。


『レッド・ティアーズ』
2006年7月紹介『マスター・オブ・サンダー』などの倉田保
昭企画・製作・出演によるアクション作品。2008年6月紹介
『ギララの逆襲』などの加藤夏希の主演で、加藤がアクショ
ンに挑戦したということでも注目した。
物語は、東京で若い男性ばかりが被害者の猟奇的な連続殺人
事件が発生しているところから始まる。そんな中で若い男性
の失踪届を受け取った刑事は、届け出た女性が男性の失踪の
直前に携帯で撮影した女の姿を追い始める。
そしてその女が不良に絡まれているところを助けることにな
った刑事は、少し陰のある清楚な感じのその女と親しい付き
合いを始めてしまうが…
一方、彼のいる刑事部屋には単独捜査で実績を挙げるベテラ
ン刑事がいて、その刑事は連続殺人事件の第1発見者にもな
っていた。そんなベテラン刑事の周辺で、捜査に駆り出され
た刑事が殺され、その遺体の状況は連続殺人事件のものと同
じに発見される。
という展開なのだが、実は映画の後半は特殊造形の西村喜廣
も参加したスプラッター的なものになって行く。ところが、
物語をそこに持って行く必然性があまり感じられず、そこで
繰り広げられるアクションとの絡みもあまりうまく消化され
ていない。
これは多分、初期の企画段階では後半が先に考えられて、そ
こに向かって脚本が書かれたのだろうが、2011年10月紹介の
『月光ノ仮面』でもそうだったが、この辺のアイデアを繋ぎ
合わせる構成力が不足している感じがするものだ。
テーマ的には僕のテリトリーの作品だったが、これは残念な
作品と言わざるを得ない。

脚本・監督・撮影は、2008年11月紹介『斬〜KILL〜』の中で
唯一評価した『ハード・リベンジ・ミリー』シリーズなどの
辻本貴則。水野美紀にあれだけ頑張らせた演出を今回も観せ
て欲しかった。
因に本作は、倉田の映画出演100作目の記念作品とされてい
るものだが、プレス資料に掲載されたリストには、最初に書
いた作品以外で僕が以前に紹介した2009年4月『ラスト・ブ
ラッド』や昨年7月『レジェンド・オブ・フィスト』などは
漏れていたようだ。

なお本作は、昨年の東京国際映画祭《日本映画・ある視点》
部門に正式出品された。

『POV〜呪われたフィルム〜』
2006年9月紹介『椿山課長の七日間』などに出演の志田未来
と、2011年『もしドラ』に出演の川口春奈が実名で登場し、
番組に送られてきた視聴者投稿の「学校の怪談」ヴィデオが
本物の恐怖を巻き起こすという構成のホラー作品。
さらに映画は、番組収録の裏側を撮影したmakingという設定
で、最初はやらせと思わせる進行から、徐々に本物の恐怖に
巻き込まれて行く過程が、スタッフの持つヴィデオカメラに
よるPoint of viewで描き出される。
2009年12月紹介『パラノーマル・アクティビティ』や2008年
3月紹介『●REC』などでお馴染みになったPOVだが、
正直に言って物まねはなかなか上手く行った例がない。従っ
て本作に関してもその類という予想で、あまり期待しないで
観に行った。
しかし、さすが2000年『リング0』や2007年3月紹介『ドリ
ーム・クルーズ』などを手掛けた鶴田法男監督の作品は一味
違っていた。それは多分に感覚的な部分かも知れないが、観
ていてこの作品はホラーとして納得できたものだ。
お話は、怪異現象がヴィデオの中だけでなく、収録中のスタ
ジオでも起き始め、専門家を呼んで浄霊を行うことになる。
ところが専門家に悪霊のいるのはスタジオではないと指摘さ
れ、そこでヴィデオの撮影された学校に取材に向かうが…と
いう展開。
その展開は、ありそうと言えばありそうで、納得しながら観
ていられたものだ。そして学校では新たに拡大した展開が待
っているという、それは結構面白く描かれていた。因に脚本
は鶴田監督自身が手掛けている。
最後のカメラがどこから出現したのかなど、多少気になった
部分はあるが、概ね合格点と言えるだろう。ただしヴィデオ
の最後に写る映像にはもう少し期待したが、そこがはぐらか
されたのは多少残念ではあった。

以前は世界席巻したジャパニーズホラーも、最近は大手で製
作されることも少なくなっていたようだ。しかし本作は東宝
映像事業部が配給する作品で、それなりの規模での公開が期
待される。この勢いでまたブームを作り出して貰いたいもの
だ。
なお本作は、昨年開催された南アフリカ・ホラーフェスタと
ブエノスアイレス・ブラッドレッド映画祭でも公式上映され
たようだ。
        *         *
 アカデミー賞makeup部門の予備候補7作品が発表されてい
る。
 選ばれた7本は、“Albert Nobbs”“Anonymous”“The
Artist”“Gainsbourg:A Heroic Life”“Harry Potter and
the Deathly Hallows Part 2”“Hugo”“The Iron Lady”
で、僕はこの内の3本しか観ていないが、何となく平凡な感
じが強い。
 僕としては、ディカプリオとナオミ・ワッツを見事に老け
させた『J・エドガー』なども選ばれるかと思ったが、この
時点ですでに落選のようだ。まさか、いまさらヴォルデモー
ト卿に与えるとは思いたくないが、シリーズ最終作ではある
し、最終候補に残ったらセレモニーのパフォーマンスには出
てくるかな。
 最終ノミネートの発表は今月24日だ。



2012年01月08日(日) マイウェイ、はやぶさ遙かなる帰還、BUNRAKU+Star Trek,Oscar/VFX,VES Awards nominations


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『マイウェイ』“마이웨이”
2002年6月紹介『銀杏のベッド』などのカン・ジェギュ監督
の最新作。因に監督作品は、1999年の『シュリ』、2004年の
『ブラザーフッド』に続く4作目のものだ。
物語の背景は日本統治時代の韓国。両親と共に軍人の祖父の
許にやってきた足の速さが自慢の日本人少年は、その家の使
用人の韓国人の息子と速さ競うことになる。やがてそれは、
1940年開催予定だった東京オリンピックのマラソン代表も競
うことになるが…
その代表決定戦によって韓国人の青年は懲罰的に関東軍に徴
収され、日本軍の軍服を着ることになる。そしてノモンハン
に送られた韓国人青年は、司令官として現れた日本人青年と
再会し、共にソ連軍の捕虜となり、さらに対独ヨーロッパ戦
線に送られる。
斯くして日本軍、ソ連軍、ドイツ軍の軍服を着ることになっ
た日韓2人の、共にマラソンランナーを目指した青年たちの
数奇な運命が描かれる。
昨年最後に紹介したスピルバーグ監督の『戦火の馬』では、
1頭の馬がイギリス軍とドイツ軍の間で翻弄されたが、本来
意志の無い動物なら兎も角、意志を持った人間が如何にして
3つの軍服を着るようになるのか、その経緯にも興味を牽か
れる作品だった。
その経緯はなるほどと思わせたが、さらにそこから引き出さ
れる結末の見事さには、これは正にしてやられたという感じ
もする作品だった。しかもプロローグとの連携が見事に決ま
った作品とも言える。

出演は、2005年12月紹介『PROMISE』などのチャン・ドンゴ
ンと、2009年1月紹介『PLASTIC CITY』などのオダギリジョ
ー。さらに昨年11月紹介『運命の子』9月紹介『真少林寺』
などのファン・ビンビン。
他に昨年9月紹介『クイック!!』などのキム・イングォン、
2006年11月紹介『百万長者の初恋』などのイ・ヨニ。また、
日本側から、佐野史郎、夏八木勲、鶴見辰吾、山本太郎、浜
田学らが共演している。
軍隊の描き方がかなりステレオタイプなのは、日本軍もソ連
軍もドイツ軍も所詮は同じという監督の考えを反映したもの
だろう。軍隊という組織の愚かしさがそれによってより明瞭
化されていることも確かだ。
そんな愚かしさに翻弄されても夢と希望を持って打ち勝って
行く主人公たちの鮮烈な姿が描かれている。撮影は、韓国か
らヨーロッパ西岸(撮影はノルマンジーではないが)まで実
際にユーラシア大陸を横断して行われたようだ。


『はやぶさ 遙かなる帰還』
昨年11月にも3D作品の『おかえり、はやぶさ』を紹介した
が、それに続いて宇宙探査機「はやぶさ」に関った人々の姿
を描いたドラマ作品。
先に紹介した作品は人間ドラマの部分がフィクションだった
が、本作はノンフィクション作家・山根一眞の原作「はやぶ
さの大冒険」に基づくもので、その人間ドラマは実話に近い
もののようだ。
そして本作では、2003年5月9日鹿児島県内之浦での「はや
ぶさ」を搭載したロケットの打ち上げから、2010年6月14日
オーストラリア・ウーメラ砂漠でのカプセル回収までの出来
事が、取材した女性記者の目を通して描かれて行く。
その出来事は事実の通りなのだから、先に紹介した作品でも
本作でも変わりはないが、それぞれの事実関係の微妙な取捨
選択が物語を違うものにしている。それは特に主人公を先の
作品では技術者にし、本作では学者としたことで顕著なもの
になっている。
とは言え映画の眼目は人間ドラマではなく宇宙のミッション
になってしまうのだが、それを見詰める目の違いがそれぞれ
違う側面を描き出しているのは、面白く観ることもできた。
観客としては、出来れば両方観ることでより理解が進むこと
は確かだろう。
そして注目は、やはりカプセルの帰還と「はやぶさ」の最期
となるが、先の作品が3Dを活かしてある意味外連みたっぷ
りに描いたのに対して、本作では圧巻とも言える迫力で、こ
れも見応えのある感動的なものに仕上がっていた。

出演は渡辺謙、江口洋介、夏川結衣、小澤征悦、中村ゆり、
吉岡秀隆、石橋蓮司、藤竜也、山努。他に、嶋田久作、近
藤芳正、長嶋一成、モロ師岡、ピエール瀧らが脇を固めてい
る。渡辺家は親子でそれぞれの作品に関っている。
監督は2005年4月紹介『樹の海』がデビュー作の瀧本智行。
僕は監督の以後の作品を観ていないが、デビュー作に感動し
たことは記憶しているものだ。
公開は、本作が2月11日、先に紹介した3D作品が3月10日
からとなるが、本作で描かれていた部分が3D作品では省略
されていたり、その逆もあったりなので、出来れば両方観る
ことをお勧めしたい。

『BUNRAKU』“BUNRUKU”
2010年の東京国際映画祭で特別上映された作品が、日本でも
一般公開されることになった。そこで今回は試写の案内を貰
えなかったが、本作は気に入っている作品でもあるので、約
1年前の印象に基づいて紹介をさせてもらう。
物語の背景は、人類が絶滅の危機を経て銃器を捨てた世界。
しかし闘争そのものは無くならず、人々は暴力による恐怖支
配の下で暮らしている。そんなある町に列車が到着し、2人
の男が降り立つところから映画は開幕する。
その1人の白人はギャンブルの腕でその町の支配者に挑もう
としているが、元手となる金が不足しているようだ。そして
もう1人の日本人は支配者に奪われた家宝の紋章を取り返す
ためにその町に来ていた。
そんな2人が出会い、互いに闘って腕の立つことを証明した
2人は、やがて支配者と民衆との抗争に巻き込まれて行くこ
とになる。

出演は、2009年6月紹介『30デイズ・ナイト』などのジョ
ッシュ・ハートネットと、日本人ミュージシャンのGACKT。
他にウディ・ハレルスン、ケヴィン・マクキッド、ロン・パ
ールマン、デミ・モーア。さらに菅田俊、ハワイ出身の新人
の海保エミリらが脇を固めている。
物語は正しくアメコミ調のアクションで、映像的には2005年
7月紹介『シン・シティ』に似たテイストだが、フランク・
ミラー作品ほどアートではなく、ギミックに溢れた気楽に楽
しめる作品になっている。
しかし亜流と言われればそんな感じで、その辺で海外での評
価も余り高くないのかも知れない。でも、いまさら『シン・
シティ』でもないものだし、日本ではGACKTの人気も絡めて
新たな目で評価して欲しいものだ。
なお脚本、監督のガイ・モシェはイスラエル出身。監督は、
カンボジアでの子供売春を題材にした2007年公開“Holly”
という作品で、人身売買撲滅活動への貢献によりアメリカ国
務省の特別賞を受賞したとのこと。本作の設定にもそんな社
会派的な考えが背景にあるのかも知れない。
因に監督は、2007年の大河ドラマ『風林火山』に上杉謙信役
で出演していたGACKTを観てこの役をオファーしたそうだ。
       *         *
 新年最初の製作ニュースは、いよいよ今月半ばから撮影が
開始される“Star Trek 2”の話題で、カーク船長役のクリ
ス・ペイン以下、サイモン・ペッグ、アントン・イェルチン
らのブリッジ・クルーが再結集する一方で、新たな配役が発
表されている。
 そこでまず昨年11月末に報告した敵役のベネチオ・デル=
トロに関しては結局契約に至らず、その役には昨年12月紹介
『戦火の馬』に出演しているベネディクト・カムバーバッチ
というイギリス人俳優の起用が発表された。因にこの人は、
2010年から放送されている“Sherlock”で名探偵ホームズを
演じているそうだ。
 なおこの配役には、一時デル=トロと同じラテン系のエド
ガー・ラミレスという俳優が報告され、この俳優がリカルド
・モンタルバンにそっくりということで、1967年2月に放送
された第1シーズン第22話“Space Seed”と、映画シリーズ
の第2作にも登場したカーンが復活するのかという観測も挙
がったが、今のところそういう話ではないようだ。
 さらに今回の撮影には、2005年から2010年まで“Dr.Who”
に出演していたノエル・クラークも出演しており、サイモン
・ペッグと合わせてイギリス人俳優の進出も話題になってい
る。この他には、今年公開予定の“Men in Black 掘匹暴
ている女優のアリス・エヴァや、1987年『ロボコップ』など
のピーター・ウェラーの出演も報告されている。
 撮影は1月15日に開始され、全米公開は2013年5月17日の
予定だ。
        *         *
 お次はいよいよ激しくなってきた賞レースの情報で、今回
は昨年12月11日付で紹介したアカデミー賞VFX部門の2次
候補が発表されたので、それを報告しよう。
 残った10本は、“Captain America: The First Avenger”
“Harry Potter and the Death Hallows Part 2”“Hugo”
“Mission: Impossible - Ghost Protocol”“Pirates of
the Caribbiean:On Stranger Tides”“Real Steel”“Rise
of the Planet of the Apes”“Transformers: Dark of the
Moon”“The Tree of Life”“X-Men: First Class”となっ
た。
 今回のVFX部門は、パラマウントの頑張りが注目されて
いるが、10本に絞られても依然として同社は4本でトップ、
他はディズニー配給が3本、フォックスが2本、ワーナーが
1本と分けている。
        *         *
 続けてVES Awardsのノミネーションを報告する。なおこの
賞には、テレビやコマーシャルなどの部門もあるが、例年通
り映画部門のみを紹介しておく。
 VFX主導映画のVFX賞候補は、
『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』
『ハリー・ポッターと死の秘宝 Part2』
『POTC/生命の泉』
“Rise of the Planet of the Apes”
『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』
 VFX主導でない映画のVFX賞候補は、
“Anonymous”
『ヒューゴの不思議な発明』
“Sherlock Holmes: A Game of Shadows”
『ミッション:8ミニッツ』
『戦火の馬』
 長編アニメーション賞候補は、
『アーサー・クリスマスの大冒険』
『カンフー・パンダ2』
“Puss In Boots”
『ランゴ』
『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』
 実写映画におけるアニメーションキャラクター賞候補は、
『ハリー・ポッター』のドラゴン
『宇宙人ポール』のポール
“Rise of the Planet of the Apes”のCaesar
“The Thing”のEdvard/Adam
 アニメーション映画におけるアニメーションキャラクター
賞候補は、
“Puss In Boots”のPuss
『ランゴ』のランゴ
“Rio”のRio
『タンタンの冒険』のタンタン
 実写映画における背景賞候補は、
“Anonymous”のLondon
『ハリー・ポッター』のHogwarts
『マイティー・ソー』のHeimdall's Observatory
『トランスフォーマー』の155 Wacker Drive
 アニメーション映画における背景賞候補は、
“Puss In Boots”のThe Cloud World
『ランゴ』のMain Street Dirt
『タンタンの冒険』のBagghar
『タンタンの冒険』のDocks
『タンタンの冒険』のPirate Battle
 実写映画におけるヴァーチャル撮影賞候補は、
『ヒューゴの不思議な発明』
“Rise of the Planet of the Apes”
『マイティー・ソー』
『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』
 アニメーション映画におけるヴァーチャル撮影賞候補は、
『アーサー・クリスマスの大冒険』
『カーズ2』
『ランゴ』
『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』
 実写映画におけるモデル賞候補は、
『ハリー・ポッター』のHogwarts School Buildings
『ヒューゴの不思議な発明』のTrain Crash
『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』の
Parking Garage
『トランスフォーマー』のDriller
 実写映画における合成賞候補は、
『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』
『ハリー・ポッターと死の秘宝 Part2』
“Rise of the Planet of the Apes”
『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』
となっている。
 なお、邦題を書いたのは本サイトで紹介した作品で、それ
ぞれ『キャプテン・アメリカ』(8月21日)『ハリー・ポッ
ター』(7月10日)『POTC』(5月15日)『トランスフ
ォーマー』(7月17日)『ヒューゴの不思議な発明』(12月
25日)『ミッション:8ミニッツ』(8月28日と2012年1月
1日)『戦火の馬』(12月25日)『アーサー・クリスマスの
大冒険』(11月20日)『カンフー・パンダ2』(7月3日)
『ランゴ』(7月24日)『タンタンの冒険』(11月13日)
『宇宙人ポール』(10月9日)『マイティー・ソー』(5月
29日)『カーズ2』(7月24日)『ミッション:インポッシ
ブル』(12月4日)に紹介しているものだ。
 以上今年のノミネーションは11部門。昨年からは短編アニ
メーション賞とアニメ映画におけるエフェクトアニメーショ
ン賞が消えて、アニメーション映画における背景賞と、実写
及びアニメーション映画のヴァーチャル撮影賞がそれぞれ新
設された。
 受賞式は、2月7日にビバリーヒルズ・ヒルトンホテルで
開催される。          (この項1月9日更新)



2012年01月01日(日) シネマ歌舞伎・天守物語/海神別荘、マリリン・7日間の恋、ヘルプ・心がつなぐストーリー+年頭挨拶・ベスト10

明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『シネマ歌舞伎・天守物語』
『シネマ歌舞伎・海神別荘』
坂東玉三郎演出・出演による泉鏡花原作の幻想譚の舞台がH
D撮影され、シネマ歌舞伎の第15弾、第16弾としてそれぞれ
1月21日及び2月18日から全国公開される。
まず『天守物語』の舞台は姫路白鷺城。登場するのはその最
上階に住まう異形のものたち。舞台は幕開けでその天守から
侍女たちが釣りをしているという異様な光景が登場し、しか
も釣っているのは魚ではなく草花、餌は朝露と紹介される。
そんな最初から怪しい物語で、前半では天守を訪れた猪苗代
の亀姫との宴などが描かれ、後半では「生者は訪れてはなら
ぬ」との禁を破って天守に赴かざるを得なかった若い侍との
交流が描かれる。

出演は、天守夫人に玉三郎、若い侍に市川海老蔵。他に中村
獅童、中村勘太郎らが脇を固めている。
後半の天守にやってきた若い侍が魑魅魍魎に追われるシーン
などは、解り易く幻想的で楽しめる。しかし僕が目を見張っ
たのは巻頭のシーン。侍女たちが舞台の縁に釣り糸を垂れて
次々に草花を釣り上げるという情景には、一気に物語に引き
摺り込まれる感じがした。

元々の鏡花が著わした戯曲は、と書きが詩のようで具体的に
は書かれておらず、玉三郎はそこから感じ取ったものを舞台
に描いたとのことだが、そんな幻想的なシーンが見事に表現
されていた。
そして『海神別荘』は、海底の宮殿に住む公子が地上の美女
を見初め、彼女を海底に迎えようとするお話。美女の親には
公子の遣いが金品や漁獲を渡してそれを了解させるが、貢ぎ
物のようにされた美女本人は地上への未練を残している。
そして海底にやってきた美女に、公子は海底の素晴らしさと
自分の思いを伝え、美女を説得しようとするのだが…。そん
な舞台が、美術に天野喜孝が起用され、さらに伴奏音楽には
ハープが使われるなど、通常の歌舞伎とはかなり異なる趣で
描かれる。

出演は、公子役に市川海老蔵、美女役に玉三郎。他に市川門
之助、市川猿弥らが脇を固めている。
なお、玉三郎はこの2作と『夜叉ヶ池』を合せて泉鏡花3部
作と称しているようだが、残念ながら『夜叉ヶ池』の舞台は
シネマ歌舞伎では上映されない。しかし今回は『高野聖』が
第17弾として公開が決定しており、その作品も後日紹介でき
る予定だ。
つまりSF/ファンタシーのファンにとっては、日本幻想文
学の先駆者でもある泉鏡花の作品が3本連続で公開されるも
のであり、これはファンならずとも見逃せない上映になりそ
うだ。
また、これらの作品の上映では巻頭に玉三郎による解説が付
けられており、作品への理解がより進むように配慮がされて
いる。その玉三郎の思いが伝わる解説も聞き物だ。

『マリリン・7日間の恋』“My Week with Marilyn”
1956年、マリリン・モンローが自ら製作も手掛けた『王子と
踊り子』の撮影のために訪れたイギリスでの出来事を描いた
コリン・クラーク原作の映画化。
英国王室とも関わりのある名家の出身だった当時23歳の主人
公コリンは、映画界に憧れてローレンス・オリヴィエのプロ
ダクションを訪れる。そこではアメリカからマリリン・モン
ローを迎える新作の準備に大童だった。
そこで機転を利かせたコリンはプロダクションに迎え入れら
れ、モンローのイギリスでの宿舎の手配などに手際の良い働
きを見せる。そしてモンローが新婚の夫アーサー・ミラーと
共にロンドン空港に降り立ち、映画製作が開始されるが…
映画では、伝統的な演劇スタイルを守ろうとするオリヴィエ
と、最新のメソッド・アクティングを実践しようするモンロ
ーとの対立や、夫ミラーの裏切りに悩むモンローの姿など、
セックス・シンボルと謳われた女優の真実の姿が描かれてい
る。

コリン・クラークは後にドキュメンタリーの監督としても成
功した人だそうだが、本作はそのクラークの回想録を基に制
作されている。そのモンローがスターと自分自身のギャップ
に悩んでいたのは知られるが、本作はその中で最も美しく儚
い物語と言えそうだ。
出演は、2011年1月紹介『ブルーバレンタイン』でオスカー
候補になったミシェル・ウィリアムズと2008年2月紹介『美
しすぎる母』などのエディ・レッドメイン。他にケネス・ブ
ラナー、ジュリア・オーモンド、トビー・ジョーンズ、デレ
ク・ジャコビ。
さらに『ハリー・ポッター』シリーズのエマ・ワトスン、ジ
ュディ・ディンチらが脇を固めている。因に出演者の表記で
は、主要キャストの後に、WITH ワトスン AND ディンチとな
っており、ワトスンはデーム女優と並ぶ特別扱いだった。
監督は本作が長編デビュー作となるサイモン・カーティス、
脚本は1999年のピーボディ賞受賞作『デビッド・コパーフィ
ールド』をカーティス監督と共に手掛けたエイドリアン・ホ
ッジス。
なお撮影は、『王子と踊り子』が実際に撮影されたパインウ
ッド・スタジオを始め、モンローらが宿泊したホテルや訪れ
たウィンザー城、イートン大学などで行われ、当時の撮影風
景も見事に再現されている。

『ヘルプ・心がつなぐストーリー』“The Help”
アメリカ南部を舞台に、人種差別の中でも逞しく生きる黒人
メイドたちの姿を描いたキャスリン・ストケット原作小説の
映画化。因に原作は、新人作家の作品でありながらNYタイ
ムズのベストセラーリストに103週間連続でランクインされ
たそうだ。
主人公のスキーターは、南部ミシシッピー州ジャクソンの生
れの白人女性。幼い頃は黒人メイドに育てられ、彼女のこと
を実の親のように慕っていた。そんな主人公は東部の大学に
進学し、作家を志望して出版社への就職を目指すが、果たせ
ず故郷の町に帰ってくる。
そして応募した出版社からの勧めもあって地元の新聞社に就
職した主人公は、家事コラムの担当に配属され、知人宅の家
事万端を担当する黒人メイドに執筆の協力を求める。しかし
そこで主人公は黒人メイドの置かれた悲惨な境遇を目の当り
にすることになる。
こうして元々が人種差別に反対だった主人公は黒人メイドた
ちの置かれた境遇を本にまとめることを決意し、東部の出版
社の後押しもあって取材を開始するのだが…。
映画の途中で時代を特定できる出来事があり、ああこの時代
にもアメリカではまだこんなことが行われていたのだ…とい
う思いにさせられた。それはちょうど僕らがアメリカ文化の
恩恵に浴していた時代であり、その陰で人種差別はまだ厳然
と行われていたのだ。

そんな思いにも捉らわれた作品だったが、映画は辛辣なユー
モアや暖かい人情味に溢れ、全米の興行成績では第2位の初
登場から翌週1位にランクアップし、3週間で1億ドルを突
破したというのも頷ける作品になっている。
出演は、主人公に2010年5月紹介『ゾンビランド』などのエ
マ・ストーン、彼女はこの後に“The Amazing Spider-Man”
のグウェン・ステイシー役が控えている。
他に、2008年12月紹介『ダウト』でオスカー候補のヴァイオ
ラ・デイヴィス、2009年3月紹介『路上のソリスト』などの
クタヴィア・スペンサーらがメイド役で共演。
さらに、2007年4月紹介『スパイダーマン3』でグウェン役
を演じたブライス・ダラス・ハワード、前回紹介『英雄の証
明』のジェシカ・チャスティン、シシー・スペイセク、メア
リー・スティーンバージェンらが脇を固めている。
また老メイド役のシシリー・タイソンは、映画にも登場する
昼ドラ“Guiding Light”に初めてレギュラー出演した黒人
女優だそうだ。
脚本と監督は、長編作品は2作目だがその前に撮った短編が
世界各地の映画祭で受賞しているというテイト・テイラー。
実は原作者と同郷(ジャクソン出身)のテイラーは、原作が
60社から出版を拒否されていた頃に原稿を読み、出版されな
くても映画化すると約束していたそうだ。
        *         *
 以上で昨年末までに試写で観た作品の紹介は終り。
 昨年は359本の試写を鑑賞し、さらにサンプルDVDでの鑑賞
が12本と3本の特別映像などがあり、それらの合計374本の中
から350本ほどを紹介させていただきました。
(残りは諸般の事情で紹介を割愛しました)。
 他に東京国際映画祭関連で鑑賞した作品が26本と、確認の
ため2回観た作品が40本、一般公開で観た作品など紹介の対
象としなかった作品が10本あり、その総計は450本でした。
(なお東京国際映画祭関連の報告は現在執筆中で、近日中に
掲載の予定です)
 それでは恒例・僕の個人的なベスト10を発表します。対象
は2011年度に日本国内で一般公開された作品で、例年通りベ
スト10は、外国映画とSF/ファンタシー映画のそれぞれに
ついて選出してあります。

 外国映画
1 ブラック・スワン(2011年1月紹介)
2 ソーシャル・ネットワーク(2010年10月紹介)
3 英国王のスピーチ(2011年1月紹介)
4 ゴーストライター(2011年7月紹介)
5 ウィンターズ・ボーン(2011年8月紹介)
6 神々と男たち(2011年1月紹介)
7 エッセンシャル・キリング(2011年5月紹介)
8 ツリー・オブ・ライフ(2011年6月紹介)
9 トゥルー・グリット(2011年1月紹介)
10 ブルーバレンタイン(2011年1月紹介)
 自分で言うのもなんだが、余り特色のないベスト10になっ
てしまった。1〜3位はアカデミー賞も賑わした作品だが、
僕的にはこの順位だった感じだ。当初は第2位の作品の方が
上位のつもりだったが、最終的に後まで残った衝撃度で逆転
させたものだ。アカデミー賞では3位の作品が作品賞だった
が、それは無いだろうというのがテレビ中継を観ている時の
感想だった。この点では珍しく中継の解説者と意見が一致し
たものだ。
 4〜7位の作品は一昨年の東京国際映画祭ワールドシネマ
でも上映されていたもので、それぞれ2回観ての素晴らしさ
を確認することができた。特に4位作品の物語及び映像の素
晴らしさ、5−6位作品のテーマの衝撃度、7位作品の映像
美は、ここ何年かの中でも出色の作品群だったと言える。
 8位の作品はその時の紹介文を読んでいただければ、僕が
選んだ理由は理解していただけると思う。
 9、10位は、僕自身が面白く観ることのできた作品を選ん
だ。特に10位の作品はベスト10を選ぶためにウェブで年度の
公開作品の一覧を観ていて真っ先に書き出したもので、その
時には自分でも理由はよく解からなかったが、自分の紹介文
を読み返して納得できた。正に僕の心の琴線に触れた作品と
言えるものだ。

 SF/ファンタシー映画
1 ミッション:8ミニッツ(2011年8月紹介)
2 モンスターズ/地球外生命体(2011年6月紹介)
3 世界侵略:ロサンゼルス決戦(2011年3月紹介)
4 モールス(2011年5月紹介)
5 エンジェル・ウォーズ(2011年4月紹介)
6 大木家のたのしい旅行(2011年3月紹介)
7 ランスフォーマー/DSM(2011年7月紹介)
8 インシディアス(2011年6月紹介)
9 ミスター・ノーバディ(2011年2月紹介)
10 コンテイジョン(2011年10月紹介)
番外 こちら葛飾区亀有公園前派出所(2011年7月紹介)
 1位に選んだ作品は、年間で最もSFマインドを感じさせ
た作品と言えるもので、この作品に関しては後でもう少し書
かせて貰いたい。
 2、3位には似た感じの作品が並んでしまったが、全てが
手造りという第2位の作品の衝撃度は抜群だった。逆に3位
の作品は典型的なハリウッド大作だが、余分のことを全く感
じさせないシンプルさがSF作品として評価できる感じがし
たものだ。
 4位はここに挙げることのできなかった前年度公開のオリ
ジナルと合わせての評価としたい。また5位はクリエーター
が思い切りやりたいことをやったという感じの作品で、トリ
ッキーな物語と共に楽しめた。
 6位は今回唯一の日本映画となったが、無理にハリウッド
に対抗するのではなく、分をわきまえて日本的ファンタシー
を作り上げている。そんな感じが好ましかったものだ。
 7位にはハリウッドのフランチャイズ作品を久し振りに選
んだ。マーヴェルとワーナーのアメコミヒーローは、2008年
の『ダークナイト』で止めを刺された感じがしたものだが、
本作は元々アメコミではないし、特に前半の物語の捻りが満
足できたものだ。
 8位は本格ホラー作品。4位も一応はジャンル作品だが、
こちらは本格として楽しめた。日本映画でも物真似が続出の
スプラッターにはかなり食傷気味になってきたところでの、
この作品の登場は嬉しかった。
 9位は、まともな芸術映画だったのかも知れないが、SF
として充分に楽しめた。特に火星旅行が正面から描かれてい
たのは嬉しい驚きだったとも言える。そんな思いで9位に選
んでみた。
 10位はありがちな話で、実は年明けの公開になるイギリス
映画『パーフェクト・センス』(2011年11月紹介)の方が似
たテーマでは捻りもあって楽しめたのだが、ここ何年かよく
似た映画が続いている中では、最もテーマを真正面から捉え
ているということで評価したいと思った。
 そして番外として日本映画を1本選んでおく。この作品は
SF/ファンタシーではないが、映画を彩るCGIやVFX
の使い方が巧みだったもので、このようなCGIでござい、
VFXでございの作品は、日本映画ではなかなか成功しない
が、この作品は気持ち良く観られた。
 なお、外国映画とSF/ファンタシー映画で作品が重なっ
ていないのは、出来るだけ多くの作品を紹介したいと考えた
ためで、作品に優劣があるということではないので、その点
をご了承ください。
 と言うとで、SF/ファンタシー映画の1位の作品につい
てもう少し書かせてもらう。なお以下はほとんどネタバレな
ので、映画を観ていない方は気を付けてください。

『ミッション:8ミニッツ』“Surce Code”
この作品について、一般にはパラレルワールドものと思って
いる人が多いようだが、僕はそうではないと考えている。
確かに物語の中ではシステムの説明として「パラレルワール
ドのようなもの」という台詞があり、観客もそうだと思い込
まされるが、実はシステムが働いている間はそうであったと
しても、最終的に主人公が行くのは過去の世界であり、彼が
行ったのは歴史の改変なのだ。
僕がそう考える根拠は、仮に主人公の最後の行動がパラレル
ワールドでの出来事だったとしたら、主人公は8分の経過後
に元の世界に戻されたはず。しかしそうならなかったのは元
の世界、つまりその時点でのパラレルワールドが存在してい
なかったからに他ならない。
これをさらに説明すると、主人公が当初行っているミッショ
ンは、確かにシステム内に構築されるパラレルワールドでの
行動だ。ただしこの時点では時間を遡っているのではなく、
単に各時点以降に過去が再構築された世界で行動しているに
過ぎない。
しかし最後に主人公が向かうのは正しく時間を遡った過去の
世界だ。ではこのような時間旅行がなぜ可能になったかと言
うと、これはジャック・フィニイの『ふりだしに戻る』や、
1980年の映画『ある日どこかで』に描かれた精神的なタイム
トラヴェルが発動したと考えられる。こうして主人公は最後
に実際に時間を遡り、過去を改変してしまうのだ。
因に『ある日どこかで』の設定は明確ではないが、『ふりだ
しに戻る』では過去が改変されたことになっている。
ということで僕はこの作品を歴史改変ものと考えるのだが、
これではもう一つ別の問題が生じてしまう。それは主人公が
過去で乗り移った先の元の人格がどうなっているかというこ
とだ。
それについて僕は、一時的に隠れているものと考える。つま
り元の人格にとっては、主人公が乗り移ってきた時点で直ち
にその目的は了解できたはずで、しかも強い意志で乗り移っ
てきた人格に対抗できる手段も無かったと思われる。従って
元の人格は隠れざるを得なかった。
しかし主人公が目的を達成した後では、その元の人格が頭を
もたげてくる可能性はありそうだ。そうなると2重人格のよ
うなことになるが、ここでは現在翻訳されている『ペリー・
ローダン』シリーズに登場する「コンセプト」の様な状態に
なるのではないかと考えられる。
それともう1点、映画の中で主人公は次のミッションを待つ
自分に対して「君ならできる」という言葉を残しているが、
もしかするとこれは主人公がそう思っているだけの誤りかも
知れない。
つまりこの時点で次のミッションを待っている身体は意識が
ないが、これがミッションのために覚醒したら、その時に彼
の意識はその身体に戻されてしまうかも知れないのだ。その
場合には、彼にはミッションの意味が理解されているから、
それなりに手際よく達成して、その際に希望すれば過去を改
変することもできる訳であるが、そんな使命を彼は本来の身
体が滅びるまで続けなくてはいけないのかも知れない。

そんなことを考えてみたのだが、このようなことをつらつら
考えさせてくれることも、本作をSF/ファンタシー映画の
ベスト10の1位として認める理由でもある訳だ。
        *         *
 なお以下は個人的なことですが。前回も報告したように、
年末に医者から安静を命じられ、症状はそれなりに改善はし
てきていますが、いまだに痛みは残っている状態です。この
ため年賀状なども思うようにできておりませんので、失礼さ
せていただいた方にはお詫び申し上げます。
 今後の予定としては、新年の試写会は1月6日からにして
おりますので、それまでには回復したいと思っております。

 こんな調子で続ける予定ですので、本年もよろしくお願い
致します。


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井口健二