井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2010年09月26日(日) ラスト・ソルジャー、シチリア!シチリア!、リミット、神の子どもたちはみな踊る、カウントダウンZERφ、Looney Tunes+製作ニュース

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ラスト・ソルジャー』“大兵小将”
紀元前227年の中国、春秋戦国時代を背景にしたジャッキー
・チェン原案・製作総指揮・武術指導・主演による作品。
諸侯が領地を奪い合い、各地で戦いが絶えなかった中国の戦
国時代。その時代の中で鳳凰山に攻め込んだ衛の軍勢が梁の
軍隊の待ち伏せに遭い、両軍は激しい戦闘の末に互いにほぼ
全滅してしまうという出来事が発生する。
ところがその戦場で、1人の梁の兵士が戦闘中は死んだ振り
をして過ごし、戦いが終わるや起き上がっていろいろ物資を
漁り始める。そしてその兵士は、あろうことか深手を負って
戦う術のない衛の将軍を見付けてしまう。
そこで、敵将を生きたまま連れ帰れば多額の報奨金が貰える
と考えた兵士は、将軍を治療しつつ帰国の道を辿り始める。
しかしそこには山賊と化した農民の群れや謎の美女、さらに
は衛の捜索隊なども徘徊している。しかもその捜索隊は将軍
の救出ではなく暗殺を狙っていた。
こうして、名もなき兵士と敵将という不釣合いな2人の旅が
始まるが、本来は農民で戦いのない世界を願う兵士と、戦場
は名誉を全うする場所とする将軍の考えはことごとく対立。
それでも迫り来る難局には2人の協力も必要になって…

この兵士にチェンが扮し、敵将役を台湾出身のミュージシャ
ンで、2007年アン・リー監督『ラスト・コーション』などに
出演のワン・リーホンが演じている。他に、韓国出身で中国
で活躍するソロダンス・アーティストのユ・スンジュンらが
共演。
監督は、2008年に発表したアクションコメディがチェンの目
に留まり、CMの撮影などに起用されていたというディン・
シェン。北京電影学院の出身で2001年に監督デビューしたも
のの、その後も学院で演出法を学んだという俊英が初の大作
に挑んでいる。
大掛かりな戦闘シーンにはCGIも使われている感じだが、
1対1の対決シーンなどではチェンらしいちょっとコミカル
でアクロバティックなアクションも随所に織り込まれ、壮大
な歴史絵巻に彩を添えている。
なお結末には、戦っていた衛、梁、両国の末路が紹介され、
戦争の空しさが見事に表わされた作品にもなっていた。


『シチリア!シチリア!』“Baarìa”
昨年10月23日付東京国際映画祭の報告でも紹介したイタリア
の名匠ジョゼッペ・トルナトーレ監督による2009年の作品。
映画祭では『バーリア』の原題のまま上映された作品が一般
公開されることになり、改めて試写が行われた。
物語は、上記の報告でも書いたが1930年代から80年代までの
近世イタリア史を、シチリア島パレルモ市の郊外に位置する
「バゲーリア」の町を舞台に描いたもの。因に原題は、トル
ナトーレ監督が生れ育ったこの町の愛称だそうだ。
そして映画では、監督の父親世代の人物を主人公にして、貧
しい家庭の次男として生まれた少年が、家から羊飼いの奉公
に出されたり、牛を買ってミルクの行商をしたり…。それが
やがて市会議員になり国会議員に立候補するまでの波乱万丈
の人生が描かれる。
その間には、宝物が隠されていると言われる伝説の三枚岩や
怪奇な彫像の並ぶ邸宅、黒い蛇の夢に割れた卵の予言など、
いろいろファンタスティックな要素もあって、2時間31分の
上映時間をたっぷりと楽しませてくれた。
なお、上記の紹介文では2時間45分と書いたが、これは映画
祭のカタログに拠ったもので、現行の海外データベースでは
いずれも2時間30分前後となっている。ただ映画祭中の上映
スケジュールでは2時間39分の時間枠だったものだが、その
辺の真偽はもはや確かめようもない。

出演は、パレルモ出身の俳優で本作が映画初主演作となるフ
ランチェス・シャンナ、同じくシチリア島カターニャ生れの
国際モデルで本作が映画デビューのマルガレット・マデ。
他に、昨年11月紹介『抱擁のかけら』などのアンヘラ・モリ
ーナ、2005年5月に『輝ける青春』の題名で紹介した『青春
の輝き』などのルイジ・ロ・カーショ、ベテラン女優のリナ
・サストリらが共演。
さらに2007年6月紹介『題名のない子守歌』などのミケーレ
・プラチド、2004年5月紹介『トスカーナの休日』などのラ
ウル・ボヴァ、それにモニカ・ベルッチらの多彩なゲスト出
演も楽しめる。
また、根っからの映画好きのトルナトーレ監督作品というこ
とで、今回も映画関係のトリビアは沢山登場するが、劇中の
主人公が収集している映画フィルムの断片の中に、『アルゴ
探検隊の大冒険』が含まれていたのはうれしかった。


『リミット』“Buried”
ふと目が覚めたら砂漠に埋められた箱の中…、という極限状
態に置かれた男の運命を描いた作品。
登場人物は、イラクで生活物資の輸送に従事していた民間人
のトラックドライヴァー。ある日、業務中を何者かに襲われ
て失神し、目覚めると、彼がいるのはときどき隙間から乾い
た砂が流れ込む小さな箱の中だった。
そんな彼の手元にあるのはジッポとiPhone…、他にもいろい
ろあるようだが、身動きもままならない小さな箱の中ではそ
れを入手するのも大変だ。そしてジッポの明かりの中で主人
公は、猿ぐつわや縛られていた縄を解き、iPhoneで外部との
連絡を試みるが…
主人公はアメリカ人、背景がイラクということでは、当然、
国防総省やFBIなどにも連絡はするのだが、なかなか思う
ような行動は起こしてもらえない。その内、犯人が箱の中に
iPhoneを残した理由も判り始める。
埋葬した棺桶を掘り返すと、その内側が掻き毟られていたと
いう話は、ホラーの題材として昔からある話だが、相手が中
東のテロリストとなると話もいろいろ捻りが利いてくる。そ
んな題材を上手く描いた作品と言えそうだ。

本作で事実上の唯一の出演者となるのは、昨年8月に紹介し
た『あなたは私の婿になる』でサンドラ・ブロックの相手役
を務めていたライアン・レイノルズ。狭い箱の中だけという
究極のシチュエーションの中で、見事な演技を繰り広げてい
る。
脚本は、2005年に“An Uzi at the Alamo”という作品を脚
本、監督、主演で発表しているクリス・スパーリング。本作
が事実上初の商業作品と思われるが、いろいろ細かい点まで
考慮された良くできた作品だ。
そして監督はスペイン出身、2007年に“Contestante”(The
Contestant)という作品が評判になり、本作でハリウッドに
招請されたロドリゴ・コルテス。緊張感の維持された演出は
見事で、次回作にはシガニー・ウィーヴァー主演作が予定さ
れているとのことだ。
閉所恐怖症の人には絶対にお勧めしないが、2004年『ソウ』
で始まったソリッド・シチュエーション・スリラーの究極の
形としても見事と言える作品だ。


『神の子どもたちはみな踊る』
           “All God's Children Can Dance”
『1Q84』の村上春樹が、阪神淡路大地震とオウムサリン
事件の間の1995年2月を背景として描き、2002年に発表した
連作短編集の中の1篇。その作品がアメリカ映画として映画
化された。
主人公は「神の子」と呼ばれる青年。狂信的な母親の許で、
幼い頃からそう信じ込まされて成長してきた。そして青年に
なった彼には恋人もできるが、彼女がいくらせがんでも彼は
結婚に踏み切ることは出来ない。何故なら自分は「神の子」
であるから。
そんな青年の日常と、現実の父親であるかも知れない特徴を
持つ男と遭遇したことに始まる青年の行動などが描かれる。
そしてその間には、青年が成長するまでのいろいろな出来事
がフラッシュバックで提示されて行く。
そこには狂信的な母親との歪んだ関係も描かれる。と言って
も、まあ何と言うかその内容はかなり雲を掴むような話で、
それが最初に書いた2つの出来事で自己の存在意味を見失っ
た当時の人々の心情を描いているようだ。

出演は、ニューヨーク大芸術学部で学び現在は教鞭も取って
いるというジェイスン・リュウ、『ツイン・ピークス』など
のジョアン・チェン。それに、ナスターシャ・キンスキーの
娘で本作が映画デビューのソニア・キンスキー、香港生れで
『ラッシュアワー』シリーズなどのツィ・マーらが共演して
いる。
脚本は2006年8月紹介『エリー・パーカー』などのスコット
・コフィ、監督はCMなどを手掛け本作が長編デビュー作の
ロバート・ログバル、また製作には2009年8月紹介『脳内ニ
ューヨーク』などのシドニー・キンメルと、2007年1月紹介
『バベル』などのスティーヴ・ゴリンが当っている。
原作は上記の状況下での人々の曖昧模糊とした感じが描かれ
た作品とのことで、その映画化も掴み所がない感じのものに
なっている。ただ映画化では舞台をアメリカに移しており、
1995年というよりは現代にも通じる作品に仕上がっている感
じだ。
上映時間は85分であまり長くはないが、何か不思議なムード
の漂う作品で、原作のファンにはそんな雰囲気を楽しむこと
もできそうだ。


『カウントダウンZERφ』“Countdown to Zero”
『不都合な真実』で2007年アカデミー賞の長編ドキュメンタ
リー部門を受賞した製作スタッフが、今回は核兵器廃絶につ
いて描いたドキュメンタリー。
オバマ大統領は今年5月に核削減計画を発表したが、本作で
は、広島・長崎に至る核兵器開発の歴史から、核兵器テロの
可能性、さらには核拡散によって人類が直面している危機的
な現状などが判りやすく説明されている。
ただ、作品の最終的なテーマは核廃絶のはずだが、本作では
テロリストによる核攻撃の可能性から説き起こし、その恐ろ
しさが身近に理解されるよう巧みに展開されている。そこに
は多少の論点のすり替えもあるが、内容の重大さを考えると
それも許容の範囲だろう。
特に、オウム真理教がロシアの核兵器の購入を目論み、実際
にロシアの関係者と接触までしていたという事実は、日本人
にも他所ごとではなく感じさせるところで、この部分は日本
での宣伝には是非有効に利用して貰いたいものだ。
このようにテロから説き起こされた作品は、続いて核物質の
ずさんな管理について描く。つまり現状では兵器となる量の
核物質の製造は国家レヴェルの事業だが、その管理のずさん
さが個人でも必要な量を入手できる現実を描き出す。
そしてこの辺りまではテロリストとの関係も含めた話だが、
そこから本作では、北朝鮮やイランなどの国家による核拡散
の問題を描いて行く。つまりここからが本来のテーマである
核兵器の廃絶の話になるのだが、そこまでの展開が実に判り
やすく描かれていた。
それに続いて本作では、1963年の映画『博士の異常な愛情』
を引き合いに偶発的な核戦争の危険についても描く。ここで
は人為的なミスから自然現象、マイクロチップの不具合まで
様々な実例が示されるが、それは正に核戦争が起きなかった
ことの方が偶然と言えるものだ。
というように核の危険性及びその廃絶を訴える作品だが、そ
の間にはカーター元アメリカ大統領、ゴルバチョフ元ロシア
大統領を始め、ムシャラフ元パキスタン大統領、ブレア元イ
ギリス首相、デクラーク元南ア大統領など様々な証言者が、
今なすべきことを語り掛けている。

日本は人類史上唯一の核兵器による攻撃を受けた国家だが、
その現状は、核兵器に対して最も無関心な国民及び政府のい
る国でもありそうだ。そんな日本人の目を覚ます切っ掛けに
もなって欲しい作品だ。

“Looney Tunes”
8月15日付でワーナーの新作に短編アニメーションが併映さ
れていることを紹介したが、『キャッツ&ドッグズ』に併映
されていたのは“Coyote Falls”という題名の作品だった。
そして9月12日付で紹介した『ガフールの伝説』にも“Fur
of Flying”という作品が併映されている。
その作品は前回と同じ“Wile E.Coyote and Road Runner”
の1篇となっているが、今回は頭部に装着するプロペラ形の
飛行装置が登場するもの。これでまたコヨーテは性懲りもな
くロードランナーを追い掛けるが…という展開だ。

ただ今回は、前回がキャラクターをセルアニメ風に表現して
いたのに対してCGI風に描かれており、脚本家(トム・シ
ェパード)も監督(マシュー・オキャラハン)も同じスタッ
フなのにいろいろと試みられているようだ。因にこの2人は
今年はもう1本“Rabid Rider”というバッグズ・バニーが
主人公らしい作品も制作したとされている。
最近のシネコンでは、映画の前に予告編が上映されるのにも
文句を付ける観客が居るそうだが、昔は本編の前にニュース
や短編が上映されるのが決まり事だったもの。そんな映画館
文化も大切にしたいものだ。
        *         *
 今回、ちょっと多めの製作ニュースはキャスティングの話
題から。
 まずは続報で、9月5日付でも報告した“Journey 2: The
Mysterious Island”について、マイクル・ケインとの出演
交渉が最終段階に入っていると報じられた。
 この作品に関しては、すでに前作からジョッシュ・ハッチ
ャースンの再演と、ブレンダン・フレーザーに替ってドウェ
イン・ジョンスンの出演(主人公の母親のボーイフレンドと
いう役柄だそうだ)が発表されており、物語は、ジュール・
ヴェルヌ原作の『神秘島』に基づくとされているもの。それ
ならケインが演じるのはネモ船長か…?となるところだが、
報道では主人公の行方不明になっている祖父とのことだ。
 因に『神秘島』の映画化では、レイ・ハリーハウゼン特撮
=ダイナメーションによる作品『SF巨大生物の島』が記憶
されるものだが、今回もその巨大生物はいろいろ登場するよ
うで、情報ではケインが巨大な蜜蜂に追い掛けられるという
アクションシーンも予定されているとか。
 撮影は3Dで10月から開始の予定になっており、ケインの
出演も直に正式発表となるだろう。出来ればハリーハウゼン
に敬意を表した作品にもなって欲しいものだが…
        *         *
 お次は、6月6日付で報告した“Sherlock Holmes 2”に
関して、日本でも今年公開された『ミレニアム』シリーズに
主演したスウェーデン女優ノオミ・ラパスの出演が発表され
ている。
 この続編に関しては、前作からホームズ役のロバート・ダ
ウニーJr.、ワトソン役のジュード・ロウ、イレーネ役のレ
イチェル・マクアダムスらの再演がすでに報じられているも
のだが、そこに新参加するラパスの役柄は果たしてホームズ
の敵か味方か。物語の詳細は一切明かされていないが、一部
にはフランスのジプシー役との噂もあるようだ。
 この他、宿敵モリアティ教授の配役も気になるが、さらに
ホームズの兄マイクロフトが新登場するとの情報もあり、ガ
イ・リッチー監督の再登板で年内撮影開始、2011年12月全米
公開を目指す新作には、いろいろ興味が湧くところだ。
        *         *
 一方、ラパスがリスベット・サランデルに扮したスウェー
デン映画“Man som hatar kvinnor”に対しては、『シンド
ラーのリスト』のスティーヴン・ザリアン脚本、デイヴィッ
ド・フィンチャー監督によるハリウッドリメイク“The Girl
with the Dragon Tattoo”が進行中だが、そのリスベット役
に、今年5月9日紹介の『エルム街の悪夢』に主演していた
ルーニー・マーラの起用が発表されている。
 因に、リメイクでも注目を浴びそうなリスベットの配役に
は、女性パンク歌手なども含めていろいろな候補が噂されて
いたものだが、2012年のオスカー候補も狙えるとされる役柄
には、それなりに実績のある女優が選ばれたようだ。とは言
えオリジナル版を観ても相当に体当たりの演技が要求される
役柄だが、ラパスより6歳若いアメリカの女優にもオスカー
を狙えるような演技を頑張ってもらいたい。
 その他には、主人公ミカエル・ブルムクヴィスト役にダニ
エル・クレイグ、ミカエルを雇うマルティン・ヴァンゲル役
には『天使と悪魔』などのステラン・サースガード、編集長
のエリカ・ベルジェ役にロビン・ライトらの主要キャスティ
ングも発表されており、こちらは2011年12月21日の全米公開
を目指して、今秋スウェーデンでのロケーションから撮影が
開始されるようだ。
        *         *
 もう1本は、アルフォンソ・キュアロン監督が進めている
“Gravity”と題された宇宙SF作品で、主人公の女性宇宙
飛行士役の女優選びが難航している。
 実はこの作品については、今年の春頃から情報は挙がって
いたのだが、当初主演にはアンジェリーナ・ジョリーが予定
されていたものの、ここで書こうとした矢先に降板が判明。
そのため紹介の機会を逸してしまった。ところが最近その配
役に、スカーレット・ヨハンソン、ブレイク・ライヴリー、
ナタリー・ポートマン、さらにサンドラ・ブロックといった
名前まで挙がってきている。
 脚本は、キュアロン監督と2008年12月に紹介した『パッセ
ンジャーズ』などのロドリゴ・ガルシア、それに監督の息子
のジョナスが手掛けたもので、何かの事故で主人公以外の乗
員が全員居なくなってしまった宇宙ステーションを舞台に、
そこでのサヴァイヴァルが描かれるようだ。
 なお製作はワーナーで、製作費は8000万ドルが計上され、
3Dでの撮影が予定されている。また共演者にはロバート・
ダウニーJr.が先に発表されているものだ。
 そして当初はアンジーが主演することになっていたものだ
が、脚本の改訂中に監督サイドとの意見が一致しなくなった
とのことで、現在は共演者も脚本も決まった状態で主演女優
捜しが行われている。したがって、撮影にはダウニーJr.の
スケジュールなど、いろいろ制限が生じそうだが、ワーナー
としては2012年の全米公開を期待しているようだ。
        *         *
 最後に新規の情報を1つ。
 ペンギンブックス傘下のダットン・ジュヴナイルから11月
30日にハードカヴァーで出版されるアリー・コンディ原作の
“Matched”と題されたヤングアダルト向け未来小説につい
て、ディズニーがパラマウントとの争奪戦の末に、その映画
化権を獲得したようだ。
 この小説は、元は高校の英語教師で既婚、3人の子持ちと
いう女性作家の処女作のようだが。その物語は社会によって
職業や結婚相手、死ぬ場所まで決定されるという未来社会を
描いたもの。主人公は18歳の誕生日に行われる儀式によって
その全てが決定されるはずだったのだが、それがなぜか三角
関係を生み出してしまう…、となっている。
 物語の前半だけ読むとデストピアもののように観えるが、
後半まで読むとその社会が三角関係を生み出すようで、主人
公がそれに順応しているのなら、それはデストピアでもなさ
そうだ。因に、アメリカの芸能紙の報道では、ディズニー版
“Twilight”という言い方もされていたが、確かに三角関係
に縺れ込む辺りは、そういうことにもなる。
 そしてディズニーでは、この映画化の製作を昨年4月紹介
『セブンティーン・アゲイン』や、今年5月紹介『ラスト・
ソング』などを手掛けたジェニファー・ギボットとアダム・
シャンクマンのコンビに任せており、まさにヤングアダルト
向けの作品が誕生しそうだ。
 なお原作は3部作になる予定とのことで、原作者は来年の
秋に出版される第2巻の原稿もすでに執筆中。ディズニーで
は当然映画のシリーズ化も期待しているものだ。



2010年09月19日(日) 白いリボン、クロッシング、ストーン、海炭市叙景、うまれる、フード・インク、美女と野獣3D+他

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『白いリボン』
  “Das weisse Band-Eine deutsche Kindergeschichte”
1913年、第1次世界大戦の直前のドイツの片田舎を舞台に、
そこで起きた不可解な事件を描いた作品。2001年の『ピアニ
スト』でカンヌ映画祭では次点となるグランプリを獲得して
いたミヒャエル・ハネケ監督が、本作でついに最高賞のパル
ムドールに輝いた。
ハネケ監督作品には賛否両論が多く、2008年9月紹介『ファ
ニー・ゲーム U.S.A.』のオリジナルが1997年のカンヌで
上映されたときには、途中で退席する者も続出したとされて
おり、僕自身も何本か観た作品では途中で居たたまれなくな
る感じも味わってきた。
しかし本作に関しては、「ハネケ初の親しみやすい作品」な
どとも呼ばれていたもので、ただそれが本当に良いことかは
迷うところだが…。実際に観た映画はそんな夾雑な評価など
吹っ飛んでしまうような圧倒的な作品だった。
上映時間2時間24分、モノクロ映像で綴られる本作は、正に
映画とは何かを考えさせてくれる作品だ。
物語の発端は、第1次世界大戦直前のある日、大地主の男爵
によって支配される片田舎の村で開業するドクターが、帰宅
途中で落馬して大怪我を負うところから始まる。それはドク
ターの家に向かう途中の道に見えないように張られた針金が
原因だった。
しかしその事件の犯人も判明しない内に、今度は男爵が経営
する製材所で女性が亡くなる事故が発生する。それは仕事場
の老朽化を放置した経営者に責任があるようにも見えた。こ
うして男爵と村人の確執が高まる中で、男爵の息子が行方不
明になる。
こんな事件が次々に発生し、その容疑者が捕まったりもする
のだが、どこか儀式めいた雰囲気も漂う事件の全容はなかな
か明らかになって行かない。
そんな物語が、ドクターの一家や男爵の一家、その家令の一
家、さらに村の牧師の一家や小作人の一家、村の学校の教師
や男爵の家に乳母としてやってきた女性などの成人や子供た
ちも巻き込んで繰り広げられて行く。

配役は、主にハネケ作品には常連の俳優たちが出演している
が、本作の注目は各家の子供たちで、7000人以上のオーディ
ションの中から当時の時代の顔をした子供たちが選ばれて出
演している。
そしてハネケの発言によれば、1933年、45年の大人たちが、
この映画の描く第1次世界大戦直前の時代の子供たちなのだ
そうだ。


『クロッシング』“Brooklyn's Finest”
ニューヨークのブルックリン地区を舞台に、3人の警察官が
それぞれの正義のために活動する姿を描いた作品。今年3月
全米公開されて『アリス・イン・ワンダーランド』に次ぐ興
行2位に輝き、DVDでは販売、レンタルなどの部門で3冠
を達成したとのことだ。
登場するのは、新たに誕生する子供のために金が必要な特殊
部隊の隊員と、麻薬組織の潜入捜査を続けている刑事、そし
て今まで何の手柄を立てることもなく22年を無事に過ごし、
定年退職まで7日に迫っているパトロール警官。
そんな3人のいるブルックリン地区で、警察官が誤って大学
院に通う優秀な黒人青年を射殺する事件が発生する。その事
件の沈静化に躍起となる警察幹部。そんな時、潜入捜査官の
いる組織のボスが刑期を終えて出獄してくる。
そこで警察幹部は、そのボスの再逮捕で警察批判の目を逸ら
せようとし、潜入捜査官に罠を仕掛けることを命じるが…そ
れまで全く出会うこともなかった3人の運命が交錯する。

この3人の警察官を、イーサン・ホーク、ドン・チードル、
それにリチャード・ギアが演じて、正に苦悩する男たちのド
ラマが展開される。それにしてもこの作品の場合は、観客は
神の目となって全てを判っている状態で物語が進むのだが、
それによってより深く彼らの苦悩が理解されるのは、見事な
脚本と言えるものだ。
その脚本は、映画科学生時代に作った作品がハリウッド映画
祭に正式招待されるなどしたものの、その後はニューヨーク
地下鉄に就職していたというマイケル・C・マーティンが、
負傷による療養で出来た時間に書き上げたというもの。
その脚本から、2003年8月紹介『ティアーズ・オブ・ザ・サ
ン』や、2004年7月紹介『キング・アーサー』などのアント
ワン・フークアが製作総指揮も兼ねて監督している。
上記の3人を囲む共演者は、ウィズリー・スナイプス、エレ
ン・バーキン、ウィル・パットン、ヴィンセント・ドノフリ
オ、リリ・タイラー。かなり渋目の配役が見事なアンサンブ
ル劇を繰り広げる。
映画は巻頭から衝撃的な映像で始まり、観るものをぐいぐい
と引き込んで行く。上映時間は2時間12分の作品だが、観て
いる間は全く時間を感じさせず、映像の迫力で押し切られる
感じの作品だった。


『ストーン』“Stone”
ロバート・デ・ニーロ、エドワード・ノートン、ミラ・ジョ
ヴォヴィッチ共演による宗教を背景とした人間ドラマ。
デ・ニーロが演じるのは刑務所の仮釈放管理官。仮釈放を求
める受刑者と面談して仮釈放審査会へ送る書類を作成するの
が彼の仕事だ。そのため彼は受刑者に対して事件のことや受
刑者自身の心情などいろいろな事柄を執拗に聞いて行く。
実はそんな管理官も、すでに定年を間近にして長年続けてき
た仕事に対していろいろ欝積しているものもあるようだ。そ
の管理官の前にノートン扮する11年の刑期で服役して8年目
を迎えた受刑者の男が現れる。
その男は、最初は管理官に対して反抗的な態度を見せたりす
るが、やがてとある宗教を持ち出して管理官に自分の心境の
変化をアピールし始める。その一方で男はジョヴォヴィッチ
扮する自分の妻に、管理官に接近して懐柔するように指示も
しているのだが…
本作のアメリカ公開時の宣伝コピーは、‘Some People Tell
Lies. Others Live Them’というものだったそうだ。その嘘
を吐いているのが誰かというのがポイントになる作品だが、
果たして受刑者の男は本当に宗教に帰依したのかどうか、そ
の判断が難しい。
実際、管理官には紛れもなく嘘を吐いている部分があるのだ
し、さらに管理官と43年連れ添った妻(舞台女優のフランシ
ス・コンロイが扮している)の人生は嘘の塊であったかも知
れない。そんな夫婦に比べると、受刑者とその妻の方がよほ
ど純粋に生きているようにも見えてしまうものだ。
というような物語が、アメリカでは無数にある宗教番組の音
声と共に綴られて行く。この音声は当然フェイクだと思われ
るが、かなりインチキ臭い発言もあって、つまり宗教自体が
嘘…という感じにも取れてしまいそうな作品でもある。

脚本は、2005年“Junebug”という作品が評判になったアン
ガス・マクラクラン。元々が劇作家だそうで、2005年の作品
が評判になった後、プロデューサーから求められて自作の台
本の中から一番映画化に向きそうな作品を脚本に仕上げたも
のとのことだ。
そして監督は、1998年“Praise”という作品でトロント映画
祭やオーストラリア批評家協会賞を受賞しているジョン・カ
ラン。前作の2006年“The Painted Veil”(サマセット・モ
ーム原作、エドワード・ノートン製作主演)に続いてノート
ンと組んでいる。
また刑務所のシーンは、ミシガン州のジャクソン刑務所で撮
影されており、デ・ニーロとノートンは実際の管理官や受刑
者に取材して役作りをしているとのこと。特にノートンは、
その取材に基づいて脚本の改稿から演出の修正、音楽の選定
にまで意見を述べているそうだ。
なお本作は、今年3月紹介『ザ・エッグ』、4月紹介『ボー
ダー』に続く「男のドラマ」の括りで宣伝されるものだが、
前の2作に比べるとアクションというよりは心理劇…という
ほどでもないが、ちょっと不思議なテイストの作品になって
いた。


『海炭市叙景』
1949年函館の生まれで、文學界新人賞、新潮新人賞、さらに
芥川賞に5回、三島由紀夫賞の候補にもなったが一度も受賞
を果たせず、1990年に41歳で自死した作家・佐藤泰志の死後
に出版された連作短編集からの映画化。
元々原作は、作者が東京での作家生活に疲れて、一時故郷の
函館に転居した際に、職業訓練学校に通いながら構想したも
のとのことで、そんな原作者の心情のようなものも色濃く感
じられる物語が展開されている。
物語の舞台は、港や造船所があり、路面電車が走り、山から
市街の夜景を見下ろす展望台もある北国の町=海炭市。その
町に暮すいく組かの家族の生活ぶりを追って、それらの家族
が背負ういろいろな問題が描かれて行く。
その1組目は、慎ましく暮す兄妹。造船所に勤めていた兄が
失職し、年を越す金も乏しくなるが、大晦日の夜2人は山の
展望台に向かう。2組目は、再開発の進む地区で、猫や鶏、
山羊に豚まで飼って暮す老女。市の職員が引っ越しを斡旋す
るが老女は聞き入れない。
3組目は、プラネタリウムで働く男性の一家。妻が水商売で
働き始め、外泊までするようになって一家は崩壊寸前だ。4
組目は、ガス屋の事業を継いだ男の一家。新規の事業が上手
く行かず、再婚の妻は1人息子を虐待している。
そして5組目は、路面電車の運転手。父親の命日が近づいた
日、町で東京で暮している息子の姿を見掛けるが、息子は家
に寄りつこうとしない。原作では18組描かれている内の5組
の家族に焦点を当ててその物語が映画化されている。
その相互の物語は、多少行き交う部分もあるが、アンサンブ
ル劇と呼べるほどではなく、正しく連作短編という感じ。た
だもう少し上手く整理されていれば、それなりのアンサンブ
ル劇になったかもしれないが、現行の作品は却ってそれが小
手先のような印象にもなっている。
それに上記の原作者の環境のせいか、物語の全体は息苦しく
なるほどにその行き場のないものになっている。それに各物
語が解決策や決着を描かないのは、題名通りの「叙景」とい
うことになるが、それも観客に重くのしかかってくる。

監督は、2008年10月紹介『ノン子36歳』などの熊切和嘉。
同じ北海道は帯広生まれの監督が北国の生活を丁寧に描いて
いる。
出演は、谷村美月、加瀬亮、三浦誠己、南果歩、小林薫、山
中崇、それに熊切作品には3本目の竹原ピストル。他に伊藤
裕子、あがた森魚らが出演している。
なお本作は、10月に開催される第23回東京国際映画祭のコン
ペティション部門に選出されている。他にも、原作者の佐藤
泰志が東京で暮していた国分寺界隈で、作品に関連するさま
ざまなイヴェントが計画されているようだ。

『うまれる』
1973年の生れ、29歳の時にカナダに渡って映画製作を学び、
帰国後はフリーでテレビドキュメンタリーやプロモーション
ヴィデオの制作を行っていたという映像クリエーターの豪田
トモが、2008年に撮影を開始した子供の誕生をテーマにした
ドキュメンタリー。
出産をテーマにしたドキュメンタリーでは8月に『弦牝』と
いう作品を紹介しているが、本作では最初に「胎内記憶」の
話題が出されるなど、正しく子供の誕生に焦点の合わされた
作品になっている。
そしてそこには、母親の虐待を受けて育った妻と両親の不仲
を観て育った夫という、子供時代の喜びを知らずに育った夫
妻が、子育てに不安を感じながらも新たな命の誕生を待ちわ
びる姿を中心に、死産を経験した夫妻や障害を持って生まれ
た子供を育てる夫妻など、様々な子供の誕生を経験した親た
ちの姿が綴られて行く。
それは、僕自身が多少ドラマティックな経緯も含め、子供の
誕生にも立ち会って子育ても経験した者には、その当時を思
い出させてくれるものだし、それによってその時の感動も呼
び覚まされる作品と言うこともできる。
ただし、これを子供を持ったことのない人たちが観てどのよ
うに感じるのか。特に本作では、死産や障害を持って生れた
子供のこと、さらには出産時の痛みなども強調され過ぎてお
り、いたずらに出産の恐怖心を煽るような気がして、その辺
が気になった。
これは『弦牝』の紹介の時にも書いたが、僕はラマーズ法を
勉強し妻の出産に立ち会った経験者として、妻が本作の妊婦
ほど痛がった記憶がない。それに作中で腹式呼吸をするとい
う発言も胸式呼吸で痛みを散らすとしたラマーズの教えと異
なるものだった。
また本作にも『弦牝』と同じ産科医が登場してコメントを述
べているが、この人の提唱する伝統的出産というのが、「痛
くなければお産じゃない」という古来の因習に捉らわれてい
る感じがするし、さらに病院出産をあえて否定するような論
調も気になった。
正直なところは、もっと普通な子供の誕生を喜ぶ作品を観た
かった。でもそれでは商品としての映画にならなかったのか
な。平凡の中にこそ最高のドラマが潜んでいるような気もす
るのだが。


『フード・インク』“Food, Inc.”
2006年にリチャード・リンクレーター監督が映画化した『フ
ァーストフード・ネイション』の基になったドキュメントを
発表したエリック・シュローサーが共同プロデューサーを務
めるドキュメンタリー。
前作もシュローサーが製作にタッチしているが、その作品は
ドキュメンタリーでは撮影が困難としてドラマ化されたもの
だ。しかし結局それが不満だったのか、今回はその困難な撮
影に挑んでいる。
実は、その前作は、僕も試写は観たがサイトにはアップしな
かったものだ。その時に手元に残した記事を読み返すと、前
作では食の安全性から違法移民まであれもこれも取り込みす
ぎている点が、印象として纏まりがないと感じたようだ。
その点で本作では、内容は食の安全性と、食品企業の横暴に
絞られているからそれなりに纏まりのある作品にはなってい
る。ただそれが、遺伝子組み替えと特許侵害、それに結託す
るアメリカ政府の動きとなると、ちょっと日本人の我々とは
距離が置かれてしまう。
でもまあ日本の食の多くはアメリカに頼っていることを考え
ると、これも日本人が知っておかなければならないこととも
言える。それに風評被害でテレビタレントを訴える何て話に
なると、かなり身近にも感じられるものだ。
さらにアメリカ産大豆の種子の大半が遺伝子組み替え技術に
よっているという事実には、日本で売られている食品に「遺
伝子組み替えの材料は使っていません」と表示されているこ
とにも疑問が生じてきた。

食に関するドキュメンタリーもいろいろ観させてもらってき
たが、僕自身の評価としては2009年4月に紹介した『キング
・コーン』が一番面白かったかな。本作でもコーンに関する
問題も取り上げられるが、そこだけに絞った作品の方が良い
のは当然だろう。
おそらく本作でも、大豆や牛肉、養鶏、養豚などに1つ1つ
テーマを絞っても、それぞれ見応えのある作品になったと思
われるし、本作をプロローグとして、そんな作品を1本ずつ
作ってもらいたい感じもした。
結局、作品に纏まりがないという点では、2006年作品の時と
同じだったような感じだが、その内容ではドキュメンタリー
である分、衝撃的な作品になっていた。


『美女と野獣/ディズニーデジタル3D』
                 “Beauty and Beast”
1991年に発表されてアニメーション作品としては初(2001年
以降は長編アニメーション賞が創設されたので、事実上の史
上唯一)のアカデミー作品賞候補に挙げられた名作が、2D
−3D変換されて再公開される。
物語は改めて書く必要があるかどうか判らないが、フランス
の伝承民話に基づくもので、傲慢な性格から魔女の不興を買
い野獣に変身させられた王子の前に現れた娘が、最初はその
容姿に驚くものの徐々に愛を育み、真心の愛によって呪いを
解く…というお話。
そして本作の製作では、1985年の『ヤング・シャーロック』
で初めて本格的なCGIアニメーションを手掛けたジョン・
ラセターがディズニーと組み、劇中のクライマックスの一つ
とも言える舞踏場のシーンを制作したことでも注目されたも
のだ。
その作品が、今回は『トイ・ストーリー1、2』に続いての
3D化されて再公開されるものだが、本作の場合、元のシー
ンのほとんどはセルアニメーションで制作されていることか
ら、その3D化にも注目が集まった。
その結果は、セルの味わいも残した見事な3D化が行われて
いるもので、それは背景などに書き割り的な印象を持つ人も
いるかも知れないが、セルの味わいという点ではこれがベス
トのものだと言える。
それは、実はエンディングロールの背景で各キャラクターの
見事な3Dの線画が登場していることからも判るもので、技
術的にはもっと完璧な3D化も可能だったものを、あえてこ
の線で留めた。それがセルの味わいを残すという選択だった
とも思われた。
となると、今度は元がCGIで作られた舞踏場のシーンが気
になってくるが、待ち遠しくさえ感じられたそのシーンは、
これは全体が見事な3Dで描かれていた。特に視点がキャラ
クターの周囲を回るシーンにはオリジナルでも感激したが、
今回もその感動は変らなかった。
フルCGIの3Dアニメーションを見馴れてきた目には、ち
ょっと違った味わいも感じられる。それがまたちょっと新鮮
な感じもする今回の再公開と言えそうだ。

なお本編の試写の前に、先日のサンディエゴ・コミコンで上
映された“TRON: Legacy”の7分間のフッテージも3Dで上
映された。
こちらは1982年の作品から約30年ぶり続編と言うことになる
が、前作と同じようなディスクを使ったゲームや、ラインの
イルージョンが美しいバイクなども登場して、前作と同様の
世界がフル3Dで再現されることになりそうだ。

        *         *
 今回は製作ニュースではないが、昨年の東京国際映画祭で
上映され10月26日付で紹介した『牛は語らない/ボーダー』
というスロヴァキアの作品が、来年のアメリカアカデミー賞
外国語映画部門に向けたスロヴァキア代表作品に選ばれたこ
とが報道された。
 この作品に関しては、上記の紹介文でも書いたように僕は
不完全な形でしか鑑賞できなかったもので、僕自身もう一度
ちゃんと鑑賞したいとも思っている。何とか本選の候補にも
選ばれて、出来れば受賞して日本公開の道が開かれることを
期待したい。
 因にこの作品はすでにチェコのイフバラで昨年開催された
国際ドキュメンタリー映画祭で最優秀東欧作品にも選ばれて
いるそうで、せめてアカデミー賞の最終候補には残ってもら
いたいものだ。ただまあ、基本的にこの作品はドキュメンタ
リーではないし、外国語映画といってもほとんどせりふは出
てこない作品だったが…。
        *         *
 次回は、休日等の関係で紹介できる映画が少なくなりそう
なので、製作ニュースを少しまとめて報告する予定です。



2010年09月12日(日) パートナーズ、Ricky、大奥、君へのメロディー、アイルトン・セナ、アメリア、ガフールの伝説、人生万歳

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『パートナーズ』
1頭の盲導犬を巡っての人々の繋がりを描いたドラマ。
父親の別居&兄の引き篭もりで崩壊しかかっている一家と、
ライヴ中の事故で視力を失ったミュージシャン。そしてワー
キングプアから特別の目標もなく盲導犬の訓練士になった男
性。そんな人々が1頭の犬から繋がりを生み出して行く。
映画の前半では、1頭の盲導犬の誕生までの過程が、子犬の
出産からパピーウォーカー、訓練の模様、さらに盲導犬とし
ての活動の始まりまで、それに関わる人間の営みなども含め
て、かなりのテンポでそつなく描かれて行く。
そして後半では、盲導犬及び視覚障害者自身を取り囲む状況
や盲導犬の引退。またペットとして飼われている犬の現状な
ども含めて、現実の犬と人間との関わりの直面している問題
が、かなり厳しい視線でも描かれている。
盲導犬を巡る作品では、過去に『クイール』や『ベルナのし
っぽ』など、ある意味お涙頂戴的な感動作が作られてきたが
本作はもっと現実的に盲導犬の現状を描いたもので、この種
のテーマもようやくここまで描けるようになってきたと思わ
せる作品だった。
しかも盲導犬誕生までの手順が、ある種のマニュアル的にも
描かれており、それは判りやすく学ぶことのできる作品にも
なっていた。そこには幾度も繰り返される飼い主との別れな
どもあって、特に小学生ぐらいの子供たちにも観てもらいた
い作品だ。

出演は、テレビ『キッズ・ウォー』などの浅利陽介、2004年
『ゴジラFINAL WARS』などの大塚ちひろ、1999年生まれで映
画初出演の近藤里沙。なお2007年に歌手デビューもしている
大塚は、ロックから弾き語りのバラードまで歌唱も披露して
いる。
その他、夏八木勲、熊谷真実、川上麻衣子、村田雄浩、根岸
季衣らが共演。
脚本は、2003年11月「東京国際映画祭」で紹介した『ヴァイ
ブレータ』などの荒井晴彦と、2005年『男たちの大和』など
の井上淳一。監督は、テレビで「火曜サスペンス」などを数
多く手掛けてきた下村優が映画初監督を飾っている。
なお本作は、日本盲導犬協会の全面協力の下、現役の盲導犬
や訓練犬、PR犬など合計30頭の犬たちの出演と、実際の施設
を使っての撮影が行われているそうだ。

『Ricky』“Ricky”
2004年2月紹介『スイミング・プール』や、2007年10月紹介
『エンジェル』などのフランソワ・オゾン監督による2009年
ベルリン映画祭コンペティション出品作品。
実は本作に関しては、2008年3月1日付第154回で製作情報
を紹介しているが、その作品がようやく日本公開されること
になった。その物語は、紹介文でも書いたように、普通の夫
婦の家庭に、ちょっと普通でない子供が誕生する…というも
のだ。
ということで、さてその誕生した子供の普通でなさというの
は…、それは映画を観て戴くこととしたいが、まあこに似た
お話は欧米の映画では過去にもいろいろ名作もあるし、特に
目新しいという感じではない。
ただオゾン監督は、その成長過程も丁寧に描いていて、オゾ
ン監督自身のデザインによるというその育って行く様は、多
少のグロテスクさも加味しながら納得できるように表現され
ていた。特にその色合いは監督の指示だそうだ。
特殊な能力を持った幼児を育てることの大変さは、スティー
ヴン・キング原作の『炎の少女チャーリー』などでも描かれ
ているが、本作ではそれがユーモラスにも展開されている。
しかもそれが現代を背景にしている点では、いろいろと面白
く描かれていた。

なお、主演のアレクサンドラ・レミーは先の紹介時には経歴
が判らなかったが、フランスのテレビでは人気のコメディエ
ンヌとのことだ。それに共演は『パンズ・ラビリンス』など
のセルジ・ロペス。
また、タイトルロールを演じるのは生後数ヶ月というアルチ
ュール・ペイレ、さらにその幼い姉役を演じるメリュジーヌ
・マヤンスは撮影当時は8歳だったそうだが、この尋常では
ないシチュエーションを見事な演技で支えている。
元々はイギリス人の作家ローズ・トレメインの短編小説を原
作としているそうだが、オゾンはそこから、2005年7月紹介
『ふたりの5つの分かれ道』でも協力を得たエマニュエル・
ベルンヘイムと共に、その根底にある物語から掘り返した脚
本に仕上げている。
なお本作の製作には、『アメリ』などを手掛けたクローディ
・オサールが新たなタッグを組んでおり、オゾンとの顔合せ
がこの方向で進むなら、今後も期待が持てそうだ。

『大奥』
2004年に連載が開始され、2009年手塚治虫文化賞マンガ大賞
の受賞に続いて、2010年には海外の文学賞ジェームズ・ティ
プトリーJr.賞を日本人で初めて、またコミックスとしても
初めて受賞したよしながふみ原作からの映画化。
疫病によって男性の人口が著しく減少したという設定の江戸
時代を背景に、徳川幕府も女性中心、さらには将軍も女性と
いう状況で、本来なら女性が集められる後宮であった大奥に
容姿端麗な男子が集められて…という物語が展開される。
正直に言って、原作を読まずにこのストーリーを聞いたとき
は、世継ぎを生ませるための大奥にいくら男性を集めても、
肝心の世継ぎを生めるのは女性の将軍だけだから、話が成立
しないのでは…?と考えていた。
しかし映画を観ていると、なるほどこの展開ならそれも有り
得ると思えてきた。それは原作がちゃんとその辺まで考えて
作られているということのようで、原作者の構想では、徳川
300年、15代の将軍が最初を除いてほぼ全員女性という歴史
が描かれるとのことだ。
そして今回映画化されたのは、第8代将軍徳川吉宗の時代。
暴れん坊将軍としても知られる吉宗が女性であっても、直系
ではない紀州徳川家からの将軍就任という経緯は同じで、同
様の改革を断行する姿が描かれて行く。
ただし、本作の舞台は大奥、描かれるのはそこでの男同士の
友情や嫉妬、妬み、さらには謀略など…。その一方で剣道に
よる対決シーンや市井の話なども織り込んで、巧みな物語が
展開されて行くものだ。
それにしても、巻頭のシーンで女性だけが活動している市中
の風景などは、思いも掛けない迫力で描かれており、その後
に続く男性だけの大奥風景と見事な対比を見せていたり、映
画作品としても見応えのある作品になっていた。

出演は『硫黄島からの手紙』などの二宮和成、『日本沈没』
などの柴咲コウ。共演に堀北真希、大倉忠義、中村蒼。他に
玉木宏、倍賞美津子、竹脇無我、和久井映見、阿部サダヲ、
佐々木蔵之介らが脇を固めている。
脚本は、よしなが原作『西洋骨董洋菓子店』のアニメ版も手
掛けている高橋ナツコ、監督は2003年『木更津キャッツアイ
日本シリーズ』などの金子文紀が担当した。
二宮、大倉というジャニーズ系の共演で、単なるアイドル映
画に観られる心配もあるが、本作はIFの世界を描いたSF
としてもしっかり作られており、SFファンが楽しめる作品
になっていた。


『君へのメロディー』
日本出版販売製作/配給、『テニスの王子様』俳優の主演、
サイエンスホールでの有料試写も予定されている作品という
ことで、これはいつものBL物かなと思って観に行った試写
会だったが、今回はちょっと毛色が変っていた。
物語は、主人公が訪れた病院で記憶喪失の少女と出逢うこと
から始まる。その入院以来病院から出たことがないという少
女を主人公は外出に誘うが、その途中で聞こえてきた音楽に
少女は異常な反応を示す。そして次に病院を訪れたとき、少
女は姿を消していた。
やがて主人公はとあるペンションで働いている少女を捜し出
し、そのペンションを訪ねて自分もそこで働くようになる。
そこには交通事故で心や身体に傷害を負った人たちが一緒に
暮らしていた。
こうして傷害を負った人々と一緒に過ごすようになった主人
公だったが、そこにはいろいろな問題が影を潜めていた。
という物語の展開に、フラッシュバックなどがいろいろ挿入
されて、多少はトリッキーな作品に仕上げられている。ただ
まあ時間軸を入れ替える手法は最近の映画の流行りでもある
し、見馴れていればこの結末は多少の捻りはあっても予想の
範囲だろう。
つまり僕としては最初に書いたようにBL物でなかったほう
が驚きだったかも知れない感じだが、でも久々の純愛ものと
いうことでは、出演者もそれぞれ頑張っていたし、共演陣も
そこそこで悪い作品ではなかった。

出演は、『テニ王』出身で本作が映画初主演の佐藤永典、同
じく『テニ王』出身で本作が映画デビューの佐々木喜英、モ
デル出身で今年7月紹介『おにいちゃんのハナビ』に出演し
ていたという岡本玲。特に佐藤は、ピアノの演奏や岡本との
連弾なども披露している。
他に、渋江譲二、落合恭子、貴山侑哉、江口のりこ、霧島レ
イカ、小木茂光らが共演。
脚本は、2007年9月紹介『コンナオトナノオンナノコ』など
の佐藤有記、監督は昨年2月紹介『虹色の硝子』などの横井
健司が担当している。
作品のテーマは純愛なので、この後の記述は末節になるが、
このような傷害を持つ人たちを集めていての、ペンションの
オーナーの準備の無さには多少の疑問も感じた。でもまあ、
現実はこんな程度なのかな…とも思えたが。


『アイルトン・セナ−音速の彼方へ−』“Senna”
1994年5月1日、34歳の若さでこの世を去ったブラジル出身
F1レーサー=アイルトン・セナの生涯を、彼の死後に設立
されてブラジルの貧困家庭に対する教育援助を行っている慈
善団体アイルトン・セナ財団の全面協力の許に描いたドキュ
メンタリー。
1960年3月21日、サンパウロの資産家の家庭に生まれたセナ
は、4歳でレーシングカートを始めてヨーロッパでのカート
選手権などにも出場。やがて20歳で再度ヨーロッパに渡り、
F1レーサーを目指した活動を開始する。
そして1984年、弱小のトルーマン・チームからデビューした
セナは、6戦目のモナコGPで並み居る強敵の中、予選は13位
でスタートするものの、次々に先行車を追い抜き、瞬く間に
2位に上り詰める。
ところが32周目、トップのアラン・プロストに追い付いたと
ころでレースは豪雨を理由に突然の中止、セナはプロストを
抜くチャンスを与えられぬまま1位の座を逃す。それは以後
のセナが死ぬまで続くプロストとの因縁の始まりとなった。
こうして1994年5月1日までのセナの足跡が、当時登場した
ばかりのオンボードカメラを含むレースの映像や家族が撮影
したプライヴェートの映像と、当時のセナ本人の発言や関係
者の証言などと共に綴られて行く。
なお映像はアーカイブのみで、それに対する証言などの音声
は全てナレーションの形式で挿入され、正に当時の模様が再
現される仕組みとなっている。つまり映像では当時の様子の
みが写し出されているものだ。
そしてそこに写し出されるのは、政治や国籍に振り回され、
思い描いた通りの夢の世界には居られなかったセナの悲劇と
も言える。さらにそこには、ライヴァルだったプロスト及び
FISA会長ジャン=マリー・バレストルに対するかなり辛
辣な表現もされていた。
それはもちろん、本作がセナ寄りに描かれた作品であること
にもよるが、政治という表現でプロストとバレストルの徒な
らぬ仲にも言及する辺りは、今後に問題を残しそうな雰囲気
も漂うものだ。

因に本作は、今年完成されたばかりの映画で、日本では10月
8日から世界最速での先行公開が予定されている。また、こ
の映画の興行収益の一部はアイルトン・セナ財団に寄付され
るとのことだ。

『アメリア−永遠の翼』“Amelia”
1937年、成功すれば史上初となる航空機による世界一周、そ
の最後の関門であったパプア=ニューギニアから太平洋上の
給油地ハウランド島に向かう途中で消息を絶った女性飛行家
アメリア・イアハートの半生を描いた作品。
アメリアは1897年カンザス州の生まれ、子供の頃から大空に
憧れ、1921年24歳でパイロットのライセンスを取得、1926年
航空機で大西洋を渡った初めての女性となる。ただしこのと
き彼女は操縦はさせてもらえなかった。
しかしそれでも彼女の偉業は大評判となり、ニューヨークで
の歓迎パレードや大統領との面会、さらにジョージ・パット
ナムの企画で出版した書籍もベストセラー。そしてパットナ
ムの企画する講演会などを次々にこなし、たちまちセレブの
地位を獲得する。
さらにファースト・ウィミンズ・エア・ダービーへの参加や
女性パイロット団体の設立、数々のスピード記録の達成など
の偉業の末、1931年にパットナムと結婚。その翌年にはリン
ドバーグ以来5年ぶり、女性では初の大西洋横断単独飛行に
も成功する。
その後も彼女は大空への挑戦を止めず、数々のスピード記録
や高度記録、長距離飛行の記録などを達成して行く。そして
1937年、彼女は史上初の航空機による世界一周への挑戦を始
めるが…
正直に言って、結末の判っている物語を観ていることには多
少の心構えも必要かも知れない。しかし1930年代の大恐慌の
最中のアメリカで、人々の希望の星となった女性の活躍を観
ることは、今の時代にもそれなりの光明を点してくれるよう
にも思えるものだ。

出演は、アメリア役に本作の製作総指揮も兼ねるヒラリー・
スワンク、パットナム役にリチャード・ギア。他に、ユアン
・マクレガー、『アリス・イン・ワンダーランド』のミア・
ワシコウスカらが共演している。
監督は、2002年6月紹介『モンスーン・ウェディング』など
のミーラー・ナーイル。当時の記録映像やそのフェイク映像
なども巧みに挿入して、アメリア本人と彼女の生きた時代を
見事に再現している。
実話の映画化なのでその背景などもいろいろ調べられるが、
日本軍との関係などネガティヴな部分は排され、また最近の
発見などにも言及はされておらず、極力アメリア本人の素晴
らしさを歌い上げている。それが今の時代には必要な作品と
も言えるものだ。


『ガフールの伝説』
   “Legend of the Guardians: The Owls of Ga'Hoole”
ミリオンセラーを記録しているというキャスリン・ラスキー
原作の児童向け冒険ファンタシーの映画化。高貴なフクロウ
の王国が邪悪な組織に脅かされたとき、おとぎ話の存在と思
われていたガフールの勇者たちが立ち上がる。
この物語を、『300』などのザック・スナイダー監督がア
ニメーションには初挑戦で映画化。そのアニメーション制作
は、2006年11月紹介『ハッピー・フィート』でアカデミー賞
長編アニメーション作品賞に輝いたアニマル・ロジック社が
手掛けているものだ。
主人公は、父親の語る勇者たちの物語にいつも目を輝かして
いるフクロウの少年。彼には現実的な兄と幼い妹がいた。そ
んなある日、主人公と兄は誤って地上に転落し、地上からは
飛び立つ力のない2羽がおたおたしているところを、謎の一
味に拉致される。
2羽を拉致したのは「純血団」と名告る組織で、彼らはフク
ロウの行動力を奪う邪悪な手段を使ってフクロウの王国の支
配を狙っていた。それは主人公が聞かされていたガフールの
勇者たちの王国のことだった。
その「純血団」をからくも抜け出した主人公は、その危険を
知らせるべく伝説のガフールの勇者たちのいるという未知の
フクロウの王国を目指して飛び立つが…
お話自体は正に児童向けという感じで、映画も最初の内はそ
の違和感のようなものに捕えられる。しかしそこから展開さ
れる冒険が、これが見事なアクションとアドヴェンチャーの
連続で、気が付くとその世界に違和感なく入り込めていたも
のだ。
多分それはスナイダー監督の演出力にも拠るのだろうが、こ
れは本当にしてやられたという感じの作品だった。児童向け
の原作でしかもアニメーション。それをここまでに仕上げる
監督の手腕には感服した。

なお日本公開は吹き替えが中心になると思われるが、オリジ
ナルの声優にはヘレン・ミレン、サム・ニール、ジェフリー
・ラッシュ、ヒューゴ・ウィーヴィングら錚々たる顔ぶれが
並ぶ。
また、主人公役の声優には、2008年5月紹介『アクロス・ザ
・ユニバース』などのジム・スタージェス、他に、今年4月
紹介『ブライト・スター』のアビー・コーニッシュらが声の
共演をしている。
「純血団」には明らかにナチスの陰が観えるし、作品自体は
戦い(戦争)を描いているものではあるが、そこに人間の姿
がないことで、何か純粋に描かれているようにも観える作品
だった。


『人生万歳!』“Whatever Works”
2005年『マッチ・ポイント』以来、ヨーロッパで映画作りを
続けていたウッディ・アレンが、久しぶりにニューヨークに
戻って発表した作品。しかもアレンの監督作品では40本目の
記念の作品となるようだ。
物語の主人公は、かつてはノーベル賞候補になりながらも、
今ではニューヨークの下町で1人暮し初老の物理学者。その
経歴のせいかかなりの皮肉屋で、いつもブツブツ何かを話し
続けている。その言葉は、実は映画の観客に向けられたもの
だ。
そんな彼の生活に、ある日突然1人の若い女性が迷い込んで
くる。南部出身で子供の頃からミスコンへの出場を続けてき
たという彼女は、しばらく居させてくれと彼に頼み込み、や
むなく共同生活が始まる。ところがあろうことか彼女が彼を
理想の男性と思い込み…。
こうして年齢も知能指数もかけ離れた2人の恋愛物語が始ま
るが、そこに田舎から両親まで現れて話はますます大混乱と
なる。いやその混乱ぶりは、これは映画を観てのお楽しみと
言えるくらいのものだ。
皮肉屋の老人と若い女性との関係には、バーナード・ショウ
だったか、アインシュタインだったかと、マリリン・モンロ
ーの話を思い出すところだが、多分アレンはそんなことも踏
まえて見事な物語を描いている。
しかも本作は、実は1970年代に書き上げていながらお蔵入り
になっていた「幻の脚本」に基づいているのだそうで、正に
アレンに油の乗り切った頃の作品を思い出させてくれる物に
もなっている。

とは言え、アレンの分身でもある主人公の冗舌さは、スタン
ダップ・コメディアン出身のアレンの面目躍如という感じで
もあるが、これをきっちりと演じられる役者というのも大し
たもので、その役は、現代のアメリカコメディ界を代表する
1人とも言われるラリー・デイヴィッドに任されている。
共演は、2003年8月紹介『SIMONE』や2008年5月紹介『アク
ロス・ザ・ユニバース』などのエヴァン・レイチェル・ウッ
ド。他にパトリシア・クラークソン、ヘンリー・カヴィル、
エド・ペグリーJr.らが脇を固めている。
なおアレンの次作は、再びロンドン舞台の“You Will Meet
a Tall Dark Stranger”、続けて“Midnight in Paris”と
いう作品も撮影完了しているようだ。
        *         *
 今回は紹介した映画が多かったので、製作ニュースはお休
みします。



2010年09月05日(日) ロストパラダイス・イン・トーキョー、ロビン・フッド、信さん、バイオハザードIV、デイブレイカー、エクリプス+製作ニュース

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ロストパラダイス・イン・トーキョー』
実績の上がらないマンション営業の男性とアキバアイドルで
風俗嬢の女性。そんな東京の片隅にいるであろう男女の姿を
描いた作品。
主人公の幹生は、父親が亡くなって知的障害者の兄実生を自
分のアパートに引き取らなくてはならなくなる。そしてその
兄の性処理のため、幹生はデリヘル嬢を手配する。やってき
たのはマリンと称する女性。彼女はアキバアイドルとしても
活動していた。
そのマリンは、兄弟の様子に何かを感じたのか、何くれとな
く2人の生活に加わってくるようになる。一方、彼女はアキ
バアイドルとしてドキュメンタリー作家の取材を受けていた
が、その取材も彼らの生活に影響を与えて行く。
アキバアイドルの風俗嬢とマンションの営業、ある種の東京
の顔とも言える彼らが、都会の片隅で、1人でしか生きられ
ない、でも1人だけでは生きられない、そんなディレンマに
も似た状況を過ごしている。
都会で1人暮らしをしている若者の多くは孤独だと思う。そ
んな孤独な生活の中に知的障害者の兄が入ってくる。しかし
主人公は、最初は兄を彼らの父親が死ぬ迄していたように、
部屋に閉じ込めて世間の目に触れないようにしてしまう。
ところが、そこに風俗嬢が呼ばれたことで世間との繋がりが
発生し、彼らの生活に新たな変化が訪れる。それは放ってお
いても何時かはそうなったことなのかも知れないが、そこに
は何かの切っ掛けが必要だったのだろうし、その切っ掛けは
そう簡単に得られるものでもない。
他人とのコミュニケーションの上手くできない若者たちがも
がき苦しんでいる。そんな若者の心情が巧みに描かれた作品
とも言えそうだ。

出演は、昨年12月紹介『ランニング・オブ・エンプティ』な
どの小林且弥、2008年12月紹介『ラーメンガール』に出てい
たというウダタカキ、それに新進の舞台女優で昨年6月紹介
『童貞放浪記』にも出ていたという内田慈。また奥田瑛二が
キーとなる役で出演している。
監督は、若松孝二、行定勲などの作品に参加し、本作が長編
デビューとなる白石和彌。脚本は、監督と今年1月紹介した
『ソラニン』の高橋泉が共同で執筆している。
なお本作は、昨年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で受賞し
ている他、ロッテルダム、釜山、ドバイなどの国際映画祭に
正式出品されたそうだ。

『ロビン・フッド』“Robin Hood”
2000年度のアカデミー主演男優賞を受賞した『グラディエー
ター』以来、ラッセル・クロウ主演、リドリー・スコット監
督による5度目のコラボレーションとなる作品。
最近では2006年『プロヴァンスの贈りもの』、 07年『アメリ
カン・ギャングスター』、08年『ワールド・オブ・ライズ』
と立て続けにコンビを組んでいる2人の新作は、『グラディ
エーター』ほど昔ではないが、13世紀初頭のイギリスが舞台
の時代劇になった。
物語の発端は1199年。十字軍遠征からの帰路にあったイギリ
スのリチャード獅子心王がフランスで戦死する。この状況に
遠征軍に弓手として参加していたロビンは、いち早く軍を抜
け出し仲間と共にイギリスを目指す。
ところがその行路で、ロビンらは王冠の早期帰還を目指した
騎士団がフランス軍に襲われる現場に遭遇、王冠をフランス
軍から奪還すると共に、騎士団を率いて瀕死の重傷を負った
ノッティンガム領主の息子からは、1本の剣を父の許に届け
てくれと託される。
こうして王冠と共に帰国したロビンは、領主の息子に代って
ジョン失地王の載冠を目撃、その後にノッティンガム領主に
剣を送り届けるが、そこでは思いもかけぬ展開がロビンを待
ち受けていた。
こうして、イギリス−フランス間の戦いやジョン王と北部領
主たちとの対立、さらにマグナカルタ(大憲章)の起草など
の英国史を踏まえながら、マリアンとの出会いや、リトル・
ジョンら仲間たちの参集などロビン・フッド伝説の前日譚が
描かれる。
ロビンが十字軍帰りという設定は、1991年のケヴィン・コス
ナー主演、ケヴィン・レイノルズ監督作品でも描かれていた
が、今回はさらにイングランド国内の状況も取り込んでより
史実に近い物語に仕立てられた。
といってもロビン・フッドは元々が架空の人物ではあるが、
そこにジョン王、イザベラ、ウィリアム・マーシャルなどの
実在の人物を配して、特にマグナカルタとの関わりなどが巧
みに描かれている。

脚本は、1997年『L.A.コンフィデンシャル』でアカデミー
脚色賞受賞、他に『ミスティック・リバー』や『グリーン・
ゾーン』なども手掛けるブライアン・ヘルゲランド。自ら監
督した『ROCK YOU!』でも中世イギリスを描いた脚本家が、
今回も巧みな時代劇を生み出した。
共演はケイト・ブランシェット、ウイリアム・ハート、マッ
クス・フォン・シドー。また、昨年2月紹介のフランス映画
『美しい人』に主演していたレア・セドゥーがフランス国王
の姪イザベラ役で出演している。

『信さん−炭坑町のセレナーデ』
昭和30、40年代の九州福岡の炭坑町を舞台にした太宰治賞受
賞作家・辻内智貴による原作からの映画化作品。
主人公の守は、都会での結婚生活に破れた母親と共に炭坑町
に引っ越して来た。その町は母親の故郷でそこで母親は洋裁
店を開店する。そしてその町には、朝鮮人の家族や炭塵で胸
を病んだ採炭夫の一家などがいて、皆が寄り添うように暮ら
していた。
そんな町で守は小学校に通い始めるが、ある日、悪餓鬼に絡
まれているところを採炭夫の一家の息子に救われる。収入の
乏しいその一家で、息子の信一(信さん)はいつも給食費の
盗難などの疑いをかけられていたが、それでも彼は雄々しく
生きていた。
そんな切っ掛けで信さんとの友情を深めた守は、母親から注
がれる愛情の許、信さんやその仲間たちとの日々を過ごして
行くが、やがて石炭産業の斜陽化など社会の荒波が彼らの生
活を脅かし始める。そして…
昭和30、40年代は僕も義務教育を受けていた時分で、多分こ
の映画の主人公たちとあまり変らない世代なのだろう。僕自
身は関東にいたから環境などは異なるが、この映画に描かれ
るエピソードの多くは正に実時間で見聞きした出来事に相当
するものだ。
その意味でこの作品にはノスタルジーというか、こんな大変
な時代を生きてきたのだという感慨も湧いてくる。カラーテ
レビやクーラーもなくて生活の水準自体が今ほど豊かではな
かった時代の物語だ。
過ぎ去ってみれば何ということもないことかもしれないが、
その時代にいたら正しく一所懸命に生きなければならなかっ
た。そんな時代の片隅にいた人々の喜びや哀しみが丁寧に描
き出されている。

出演は、守役に池松壮亮、信一役に石田卓也、守の母親役に
小雪。他に、柄本時生、光石研、村上淳、中尾ミエ、岸辺一
徳、大竹しのぶらが共演。この内の池松、光石、中尾は福岡
県の出身で地元の方言もお手のものだったようだ。
また監督の平山秀幸も福岡県の出身で、監督にとっても満を
持しての作品のようだ。脚本は、平山監督とは1998年『愛を
乞うひと』でも協力した鄭義信が執筆している。
なお撮影には、「九州・山口の近代化産業遺産群」として世
界遺産への登録も進められている現存の炭鉱や炭住の跡が使
用されており、ほとんどのシーンの背景は、VFXではない
実写のようだ。

『バイオハザードIVアフターライフ』
             “Resident Evil: Afterlife”
2002年にスタートしたカプコンのヴィデオゲームを原作とし
た映画化シリーズが第4作を迎えた。
そのシリーズ第4作は、オリジナルのゲームを生み出した日
本の東京渋谷から開幕する。そこはバイオハザード禍の発症
の場所でもあったようだ。そしてその場所には、元凶アンブ
レラ社の一大拠点が所在し、その中枢へのアリスの襲撃が物
語の始まりとなる。
その襲撃を終えたアリスは、前作の最後に示された安息の場
所とされるアルカディアの地点を訪れる。しかし、そこには
半ば記憶を失ったクレアがいるだけだった。そこでクレアと
共に再び南下したアリスは、ロサンゼルスの刑務所に立てこ
もった人々と合流する。
そのアンデッドに取り囲まれた刑務所の屋上から観える港に
は、アルカディアという船名の書かれた巨大な船体が浮かん
でいた。果たしてアリスたちはアンデッドの群れを突破し、
その船に辿り着くことができるのか…?

第1作の監督で、その後2作は脚本と製作に回っていたポー
ル・WS・アンダースンが、本作では監督に復帰。『アバタ
ー』で開発された最新の3Dカメラを使って、2Dからのコ
ンバートではないフル3Dでの製作が行われている。
因にこの3D撮影は、試写の翌日に行われた記者会見での発
言によると、「従来なら距離を置いたパンチでもカメラアン
グルの工夫で当っているように観せられたが、3Dでは誤魔
化しが利かない」のだそうで、実際に出演者が指を骨折する
などかなり厳しかったようだ。
出演は、主演のミラ・ジョヴォヴィッチ、前作に引き続いて
のアリ・ラーター、それに本作から『プリズン・ブレイク』
で人気のウェントワース・ミラーが参加している。
他には、2008年8月紹介『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』
などのショーン・ロバーツ、昨年11月紹介『サロゲート』に
出演のボリス・コジョー、またシリーズ第2作に登場して注
目されたシエナ・ギロリー扮するジル・ヴァレンタインも再
登場していた。
なお、上記記者会見でのジョヴォヴィッチの発言では、「シ
リーズが第13作を迎えても出演していたい」とのこと、また
現在妊娠中のラーターも、「次世代に引き継げるくらい頑張
りたい」とのことで、シリーズはまだまだ続きそうだ。
またファンならニヤリのミラーの初登場シーンには、脚本を
読んだ本人も嬉しくなったそうだ。


『デイブレイカー』“Daybreaker”
人類のヴァンパイア化が進んで真正な人間の数が極端に減少
したら、人間の生き血しか食料のないヴァンパイアはどうす
ればいいのか…。吸血鬼映画が次々公開される中で、正に新
機軸の作品が登場した。
物語は、すでに人間の数が“絶滅危惧種”と言われるまでに
減少した2019年が舞台。主人公はそんなヴァンパイア化した
世界でも人間の心を持ち、生き血の摂取は最小限に留めなが
ら食料用の代用血液の研究を続けている科学者。
その一方で彼の勤める会社は、兵士を雇って野に隠れた人間
を捕獲し、飼育して生き血を絞ってヴァンパイアに供給する
事業の元締めでもあった。しかし捕獲される人間の数も減少
し、生き血の供給が枯渇する日も近づいていた。
そんなある日、主人公は逃亡する人間を援助したことから人
間グループの接触を受ける。そこにはヴァンパイアから人間
に戻ったと称する男がいて、その復帰のメカニズムを科学者
の彼に研究してほしいと依頼してきたのだ。
そして自らも人間に戻りたいと願う主人公はその研究に協力
することになるが…
太陽光に当ると燃え尽きて灰になってしまうヴァンパイアが
昼間も行動できるようにするためのいろいろなアイテムなど
のギミックや、ヴァンパイアなのに人間に協力する政治家な
どの政治風刺的なものも含めて、いろいろな要素の盛り込ま
れた作品だ。

脚本と監督は、2003年に自主製作で“Undead”という作品を
発表しているマイクル&ピーター・スピエリッグ兄弟。その
作品が17の映画祭で上映されるなど評判を呼び、アメリカ/
カナダの配給を手掛けたライオンズ・ゲート社と契約して本
作が実現された。
そして製作された本作には、主演に1997年『ガタカ』などの
イーサン・ホーク、共演者にはウィレム・デフォー、サム・
ニールらのベテランを招いて、しっかりとした作品が作られ
ている。
人間に戻る方法やその後の展開などには、もう少し丁寧な説
明をして欲しかった感じもするが、SFファンなら納得でき
る範囲だろうし、それなりの捻りもあって面白く観ることが
できた。宣伝もSFアクションスリラーで押してくれるよう
で、11月の公開が楽しみだ。


『エクリプス/トワイライト・サーガ』“Eclipse”
昨年1月に紹介した『トワイライト−初恋−』に続くシリー
ズの第3弾。実は第2弾の『ニュームーン』も昨年公開され
ているが、その際には試写が行われず紹介ができなかった。
そこで今回は、前2作のDVDも添付されて試写状が届いた
ものだ。
物語は、第1作でヴァンパイア族のエドワードとの恋に落ち
た少女ベラが、彼からは吸血鬼にすることを拒絶されたまま
その恋を育んで行く。しかし吸血鬼はモンスターと自戒する
エドワードは彼女を置いて去ってしまう。
そして第2作では、彼女の幼馴染みでヴァンパイアとは対立
するオオカミ族の若者ジェイコブが彼女に恋心を打ち明ける
が、ベラの気持ちは変ることがなく、やがて彼女の許にエド
ワードも戻って来るという展開だった。
そして第3作では、ベラのために恋人を殺されたと思い込む
凶悪な吸血鬼のヴィクトリアが、ベラへの復讐のために新た
なヴァンパイア軍団を生み出すと言う展開で、ベラを守るた
めにはエドワードたちにも新たな結束が必要になって…と進
んで行く。

元々の原作が少女小説ということでお話はかなり甘目なもの
だが、そんなお話でも相当にハードなアクションと、CGI
も使ったVFXをちりばめれば、とにかく観られる作品には
なっているものだ。
特にフィル・ティペットのスタジオが手掛けたオオカミ族の
CGIは、主人公らとの大きさの対比も良くて、さすがに動
物ものには手慣れている感じがした。そしてそれらが絡むア
クションシーンもかなりの出来映えだった。
出演は、クリステン・スチュアワート、ロバート・パティン
ソン、テイラー・ロートナーらのレギュラーに加えて、前作
から登場のダコタ・ファニングや、本作からはブライス・ダ
ラス・ハワードも参加して、正にハリウッドの若手の競演と
いう感じになってきた。
監督は、昨年6月紹介『30デイズ・ナイト』などのデイヴ
ィッド・スレイド。前作とは多少異なる雰囲気の作品だが、
ヴァンパイアのテーマは同じということで、スピード感溢れ
るアクションを今回も見事に演出している。
因にシリーズ最終章となる“Breaking Dawn”の製作には、
2005年5月紹介『愛についてのキンゼイ・レポート』などの
ビル・コンドン監督の契約が発表され、2011年、12年の2年
連続=2部作の公開予定で準備が進められているようだ。
        *         *
 今回の製作ニュースは、少し前に何度か話題にしたこの人
の新たな情報から。
 2005年11月1日付の第98回では“Monstrous Memoirs of a
Mighty McFearless”と、翌年11月1日付第122回でも別の計
画を紹介した新人作家のアーメット・ザッパと、2004年11月
紹介のドリームワークス・アニメーション作品『シャーク・
テイル』などの脚本家マイクル・ウィルスンの2人が共同で
執筆した“Monster Witness Relocatin Program”という脚
本に対して、ディズニーがその映画化権の獲得を発表した。
 と言っても、具体的な内容に関しては現在は全く秘密にさ
れているものだが、それ以前のザッパの傾向からすればその
内容がファンタシーであることは間違いないだろう。そして
この映画化に、ウィル・スミスのオーヴァブロック・エンタ
ーテインメントが参加、『ベスト・キッド』のジェイデン・
スミス主演による映画化の可能性が高いとのことだ。
 ザッパの作品では、先に契約された“Monstrous…”も幼
い兄妹が主人公とされていたが、本作もその流れからは離れ
ていないようだ。そこにスミスが参加すると今後の動きも早
そうだが、ここで勢いを付けて“Monstrous…”の映画化も
早く実現してほしいものだ。
        *         *
 後は続編の話題まとめて紹介しておこう。
 その1本目は、今年7月25日付で少しだけ触れたワーナー
製作“Clash of the Titans 2”に関して、監督に来年3月
コロムビアから“Battle: Los Angeles”が公開されるジョ
ナサン・レイベスマンと契約したことが発表された。この続
編に関しては、主演のサム・ウォーシントンがペルセウスを
再演することは期待されているが、監督のルイス・ルテリエ
の降板は報告されていたもので、今回の監督発表で製作準備
も進み始めそうだ。因に今回の製作は、3Dカメラを用いた
フル3Dで行われる予定だそうだ。
 続いては、今年6月6日付でも報告した“Journey to the
Center of the Earth”の続編に関して、“Journey 2: The
Mysterious Island”という題名とドウェイン・ジョンスン
の共演が発表されている。この計画に関しては、前作に主演
したブレンダン・フレーザーの降板が報告されていたものだ
が、共演のジョッシュ・ハッチャースンの再登板は発表され
ており、今回は別の叔父さんと冒険することになりそうだ。
それにしても題名は…、物語はヴェルヌの原作に緩やかに基
づくとされている。
 お次は、8月20日に全米公開された“Piranha 3D”にも続
編の計画が発表されている。因にこの作品は1978年に始まっ
たシリーズの最新作という位置付けになっているそうで、と
いうことは次は第4作になるのかな。ただし、こちらもアレ
クサンドル・アジャ監督の降板は決まっているようで、後は
エリザベス・シュー、ヴィング・レーム、リチャード・ドレ
イファス、クリストファー・ロイドらの名前が並ぶキャスト
がどれだけ戻ってくるかになりそうだ。3Dでの製作は継続
される。
 トム・クルーズとパラマウントの確執が注目されたシリー
ズ第4作となる“Mission: Impossible IV”に関して、主演
するクルーズの相手役として、『ハート・ロッカー』でオス
カー候補も勝ち取ったジェレミー・レンナーの登場が発表さ
れた。この計画では、パラマウント側が思い切った若返り策
を採るのではないかという情報もあったようだが、とりあえ
ずは安定路線で進められることになったようだ。なお『3』
を監督したJ・J・エイブラムスは今回は製作に下がり、監
督には今年5月9日付でも報告したようにアニメーション監
督ブラッド・バードの起用が発表されている。全米公開日は
2011年12月11日に決定されたようだ。
 最後にもう1本、2001年から03年に3本製作された“Spy
Kids”の第4作が計画され、前作からはアレクサ・ヴェガ、
カーラ・グギノの再演と、新たにジェシカ・アルバの出演が
噂されている。ただしアントニオ・バンデラスとダリル・サ
バラの情報はなく、第4作は女性中心の物語になりそうだ。
脚本と監督はロベルト・ロドリゲス。第4作には“All the
Time in the World”という副題も付けられていて、タイム
トラヴェルの絡むお話になるようだ。主演のヴェガは1988年
生まれ、いまさらキッズとはちょっと言えない年齢になって
いるが、主人公は主人公として頑張ってもらいたいものだ。
因に今回情報のないサバラは、2012年公開予定のディズニー
の超大作“John Cater of Mars”に原作者エドガー・ライス
・バローズ役で出演している。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二