井口健二のOn the Production
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2008年02月24日(日) Girl's BOX、山桜、Swedish Love Story、船山にのぼる、花影、妻の愛人に会う、マンデラの名もなき看守、噂のアゲメンに恋をした!

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『Girl's BOX/ラバーズ・ハイ』
Girl's BOXというのは、レコード会社のavexが、2005年から
展開している女性アーティストによる音楽パフォーマンスの
ブランド名だそうで、本作はそこから生まれた映画作品とい
うことのようだ。
試写の始まる前に、宣伝担当の女性からは「可愛い女の子が
一杯出てきますから楽しんでってください」と言われたが、
まあそういうことがお目当ての作品なのだろう。
物語は、歌手を目指し、親の反対も押し切って上京してきた
若い女性が、オーディション詐欺に騙されたり、そこで出会
った女性に助けられたりしながら成長して行くというもの。
その舞台が、Girl's BOXと名付けられたクラブとなる。
そのクラブでは、カウンターの上に若い女性が立ち、ポール
を使ったパフォーマンスを見せながら酒の提供もして行く。
ただし客との直接的な接触は禁じられていたり、それなりに
健全なムードは保たれている。
そしてその場所で、ちょっと勝ち気なリーダーや、ロリコン
ファッションやちょっとセクシーな仲間たちと共に、主人公
の新たな暮しが始まる。そんな一種の夢のような物語が展開
して行くが、もちろんそこには厳しい現実も垣間見せる。
映画の全体は2000年に公開された『コヨーテ・アグリー』を
思い出させた。ジェリー・ブラッカイマーの製作で、マリア
・ベロが出演した作品は、この手の女性主導の映画ではトッ
プクラスのものだが、本作はそれをうまく日本向けにアレン
ジしたとも言えそうだ。
出演は、avexのオーディションで12万人から選ばれたという
ミュージシャンの長谷部優、元『忍者戦隊ハリケンジャー』
で『アクエリアンエイジ』にも出ていた長澤奈央。他に、嘉
陽愛子、斉藤未知、星井七瀬、紗綾。
さらに秋本奈緒美、『デスノート』の青山草太、『バベル』
の小木茂光らが脇を固める。
若い女性の出演者たちはそれなりに個性的だし、それを楽し
む分にはそれで充分とも言える作品。話の全体はかなり甘い
が、日本の、特に若い女性にはこの程度が適当とも思われる
ものだ。
試写の後で、宣伝担当の女性からは「こんなお店があったら
行ってみたいですよね」と言われたが、確かに…次はそんな
お店もavexで展開してくれるのかな。

『山桜』
藤沢周平の短編を『地下鉄(メトロ)に乗って』の篠原哲雄
監督が映画化した作品。
時は江戸時代の後期、北国庄内の小藩を舞台に、そこで暮ら
す一人の女性・野江の苦しい中にも、清々しく生き抜く姿が
描かれる。
野江は最初の夫に先立たれ、次に嫁いだ先の磯村は、実家よ
り格下だったが武士なのに蓄財に汲々としているような家。
そこで夫や姑からは「貰ってやった」と言われ、その一方で
「蔑むような目で見るな」とも言われ続けて暮らしていた。
そんな野江が、久々に許された叔母の墓参の帰路、満開に咲
いた山桜の枝を手折ろうとして一人の武士の助けを受ける。
その武士は手塚と名告るが、それは野江が磯村に嫁ぐ前に結
婚を申し込まれ些細な理由から断った相手だった。
そして手塚は野江に今の境遇を尋ねるが、野江は正直に答え
ることができなかった。
一方、藩方では藩が所有する原野の開発を巡って策謀が続い
ており、野江の父親はそれに反対だったが、磯村の夫らはそ
こから甘い汁を吸おうとしていた。
そして藩内の不満が高まる中、一つの事件が起きる。
篠原監督は、『地下鉄…』でも男性への思いを支えに不幸な
境遇に耐え続ける女性の姿を描いていたが、本作でもその視
線は変わらない。そして本作では、その主人公の野江を田中
麗奈が演じ、手塚を東山紀之が演じているものだ。
原作は24ページしかない短編とのことだが、本作ではそれを
庄内の自然の中で描き切ることで見事な長編映画に仕上げて
いる。それはまさに、山桜の花びら1枚にも神経を行き届け
させたとまで言われているものだが、CGIも使ったと思わ
れるその表現は見事だった。
それにしても、主人公の台詞がこれほど少ない映画も珍しい
だろう。これはもしかして、主人公たちの台詞は原作に書か
れたものだけなのではないかと思わせるくらいのものだが、
この難しい役柄を田中が見事に演じている。
特に田中の目の演技は、なるほど彼女が選ばれた理由が判る
というもの。篠原監督も田中も時代劇は初めての挑戦だった
そうだが、現代感覚も踏まえたその挑戦は見事に成功したと
言えそうだ。
共演は、篠田三郎、檀ふみ。さらに富司純子、高橋長英、永
島暎子、村井国夫ら、一つ一つの所作も丁寧な脇役陣が物語
の雰囲気を存分に高めている。

『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』
                “En Karlekshistoria”
2月10日付で紹介した『愛おしき隣人』のロイ・アンダーソ
ン監督が、弱冠26歳で発表した1969年のデビュー作。
なお本作は1971年に『純愛日記』の邦題で日本公開されてお
り、今回はそのディジタル・リマスター版。因に今回の邦題
は、国際的に使用される英語題名となっている。
ストックホルムを舞台に、15歳の少年と14歳の少女の恋物語
が描かれる。確か以前の公開時には、北欧の進んだ男女関係
が話題になったような気もするが、今では日本でもそれなり
にありそうな話という感じのものではある。
それは時代の変化ということにもなるのだろうが…ただし、
それを認めて育んで行こうとする社会の大らかさは、到底今
の日本が追いついている訳ではない。その北欧の大らかさが
この映画の素晴らしさであり、その辺の意識の違いは如何と
もしがたいものだ。
一方、この映画は少年と少女を中心に描いてはいるが、その
周囲の大人たちにも目は向けられている。そこには、アンダ
ーソン監督が現在も追求している「人間の置かれた状況に関
する茶番劇」といった視点がすでに目指されているようで、
いろいろ面白いエピソードも登場する。
特に少女の両親の物語は、当時のスウェーデンの状況も踏ま
えて描かれているだろうが、現代の日本にも通じそうなとこ
ろもあり、いろいろ考えさせられた。
とは言え映画の中心は少年と少女の恋物語な訳で、その部分
は、まあ子を持つ親としてはいろいろ考えてしまうところも
あるが、子の立場に立ってこんなふうに一途に初恋が遂げら
れたら、それはそれで素晴らしいこととも言えるだろう。
出演は、数千人の中から選ばれたというアン・ソフィ・シリ
ーンと、当時の著名女優の息子のロルフ・ソールマン。共に
デビュー作だが、2人とも現在も現役の俳優として、またソ
ールマンは監督としても活躍しているようだ。
それともう1人、この映画では当時美少年と歐われたビヨル
ン・アンドルセンもデビューを飾ってる。役柄は主人公の少
年の仲間というものだが、この作品の翌年にルキノ・ヴィス
コンティ監督の『ベニスに死す』に出演したもので、当時の
ファンの人には懐かしいものになりそうだ。
なお、この作品は1970年のベルリン映画祭に出品され、グラ
ンプリの金熊賞は逃したが、国際批評家賞など4冠を受賞し
ている。因にこの年はグランプリ受賞作はなかったものだ。

『船、山にのぼる』
2003年12月16日付で、『ニュータウン物語』という作品を紹
介している本田孝義監督によるドキュメンタリー。広島県の
江の川に作られたダム湖に沈む村を巡って、それを記念する
事業を実施する人たちの姿を記録した作品。
ダム湖に沈む村と言われると、先ず「ダム建設反対運動」が
思い浮かぶ。このダム建設でも反対運動はあったようだが、
この作品ではそれが終結するまでの経緯は簡潔に語られ、そ
こからの未来に向けた行動が中心に描かれる。
もちろん村が無くなるのは悲しいことだが、その文化を受け
継いで新たな歴史に向かって行こうとしている村人たちを如
何に励ますか、そのモニュメントとして計画は動き出す。
ところが、最初は建設省などの肝入りで始まった計画は途中
で消滅。しかしこの計画を始めた人たちは、独自に寄付を募
るなどしながら事業を継続して行くことになる。その経緯も
明確には語られないが、相当の努力が払われたことが想像さ
れるものだ。
でも、映画はそんな生々しいことは抜きにして、その計画の
ために頑張る人々を描いて行く。その目的は、ダム湖に沈む
12万本の木々の思い出を残すこと。そこで湖に沈む木を山か
ら切り出して船を作り、その船を常時の湖面より高い場所に
置くことが提案される。
つまり、ダムが完成すると、一度は試験湛水と呼ばれる常時
の湖面より高く極限状態にまで水を貯めるテストが行われる
ことがあり、その時に湖面に浮かべた船を所定の場所に移動
させて、水位が下がるとその高い場所に船が残るという計画
だ。
しかし、計画は容易に賛同が得られるものではない。そのた
め、計画をアピールするためにいろいろなイヴェントを行う
などの行動が開始され、それによって人々が団結して行く姿
も描かれる。
「船頭多くして船、山に登る」とは、本来は良い意味では使
われない諺だと思うが、ここではまさに多くの船頭によって
イヴェントが成し遂げられて行く。そんな素敵な物語が展開
されるものだ。
なお映画では、船づくりに並行して村の樹齢600年とも言わ
れる古木を移植する話も描かれる。その運搬も大変だったも
のだが、残念なことに映画ではその古木のその後が描かれて
いなかった。その辺がちょっと気にはなったが、その結果は
まだ出ていないのかな。

『花影』
1988年に大林宣彦監督の『異人たちとの夏』などを手掛けた
市川森一原作・脚本による日韓の男女を巡るちょっとファン
タスティックな要素もある物語。
主人公は在日3世の女性・五木尚美。宝飾デザイナーとして
人気のある彼女は、韓国の釜山に店を出す準備をしていた。
そして現地に交渉にやってきた彼女は、その足で祖先の墓参
りに行くが、そこで教え子と共に訪れていた美術教師の韓国
青年と出会う。
彼女は、デザイナーとして成功していたが、私生活では写真
家の男性と不倫関係にあり、やがてそれはスキャンダルとな
って仕事の足を引っ張り始める。そして人目を避ける彼女の
許に、彼女を「サンミ」と呼ぶ韓国青年からの手紙が届く。
ラヴストーリーではあるが、主人公の女性が結構我儘で、そ
んな我儘なヒロインを山本未來が良い雰囲気で演じていた。
一方の韓国青年役は、『Mr.ソクラテス』『ひまわり』のキ
ム・レウォン。またまた好漢ぶりを発揮している。
さらに、その母親役を『チャングムの誓い』のパク・ジョン
スが演じる他、日本側では、石黒賢、戸田恵子、笹野高史ら
が共演する。
監督は、相米慎二や黒木和男の助監督を長年務めてきた河合
勇人のデビュー作品。
物語は、実はちょっとファンタスティックの側面を有してい
て、それは有り勝ちなものではあるけれど、無理なく作られ
ている。特に後半、ヒロインが突然ハングルを喋り始めるの
が良い感じでもあって、この辺にファンタシーの要素を持っ
てくるのは大賛成だ。

脚本家にその意識があるかどうかは別として、こんな風にフ
ァンタシーを利用してもらえると嬉しくなる。これがベテラ
ンのうまさということなのかな。『レッドオクトーバーを追
え』のショーン・コネリーのようなところもあるが、小手先
を労さず、自然に物語に溶け込ませるのはすばらしくも感じ
られた。
なお、映画には釜山の桜が登場するが、これは戦前日本国に
よって植えられた染井吉野だそうで、当然戦後にほとんどが
伐採されたが、一部の韓国の人々の努力で残されたものだそ
うだ。そんな日韓の交流も心に留めたい作品だった。

『妻の愛人に会う』“아내의 애인을 만나다”
題名の通り、妻に不倫された夫が、その妻の愛人に会いに行
く話。
以前に東京国際映画祭で上映された東南アジアの映画で、妻
が突然行方不明になって、その足跡を妻の元愛人と共に辿る
話があったと思うが、妻の不倫というのも一般的な題材にな
ってきたようだ。
そこで本作の主人公の夫は、妻の愛人の男に話し掛ける最初
の言葉をシミュレーションするなど、万端整えて妻の愛人の
許へ向かうのだが。そんなことが簡単に出来るはずもなく、
愚図々々と話が進んでしまう。
一方の不倫男は、タクシーの運転手で本妻もいる。そしてそ
の男の車に客として乗り込んだ夫は、遠距離の行く先を告げ
て、2人は長時間を一緒に過ごすことになるのだが…
いわゆる韓流スターの出演もなく、お涙頂戴でもないこの作
品は、韓国映画としては異例の作品と言えるのだそうだ。し
かし、脚本段階で応募された韓国映画振興委員会の支援作品
に選出され、完成後は世界各地の映画祭に出品されて好評を
博したとされている。
結構ドライなユーモアも感じさせる作品だが、主人公たちの
行動はそれぞれ人間の本質を捉えたものでもあり、しかも全
体の雰囲気が実に良い感じで、登場人物に感情移入はあまり
出来ないが、面白く観ることは出来た。
また、ブラックコメディとも言えるこの作品は、時にシュー
ルであったり、いろいろな側面も有している。特にポスター
にもなっているスイカのシークェンスは見事なものだ。それ
らがバランスよく構成されていて、全体の映画の完成度も高
いものに観られた。
脚本・監督のキム・テシクは1959年生まれ、映画監督は本作
がデビュー作となるが、ソウル大学で映画を学び、その間に
日本映画学校に留学して日本映画の助監督で映画界入りして
いる。現在は主に日本や香港でCFディレクターとして活躍
しているそうだ。
多分、そんな経歴が普通の韓国映画とは違う感覚を生み出し
ているのだろう。でもこの感覚こそが世界に通じる感覚なの
だとも思える。日本で人気のいわゆる韓流映画とは一線を画
した作品だ。
なおこの作品は、12月に紹介した『黒い土の少女』などと共
に、2月から渋谷のシアター・イメージフォーラムで行われ
ている「韓国アートフィルム・ショーケース(KAFS)2008」
の1本として4月に上映される。

『マンデラの名もなき看守』“Goodbye Bafana”
1963年から90年まで、27年間に亙って投獄され続けたネルソ
ン・マンデラの看守を務めたジェームズ・グレゴリーの実話
に基づく物語。
マンデラの生地の近くで育ったグレゴリーは、子供の頃には
黒人の少年とも仲良く遊び、そのため彼らが喋るコーサ語も
自然と覚えていた。この知識が認められ、グレゴリーはマン
デラが収監された刑務所で、彼らの手紙の検閲を行う任務に
就くことになる。
そして妻と2人の子供と共に、ケープタウン沖のロベン島の
刑務所に着任したグレゴリーは、職員たちの住居街の一角で
暮らしを始める。ただしこの時のグレゴリーと妻は、典型的
な白人夫婦であり、アパルトヘイトによる恩恵を信じていた
が…
検閲のために読むマンデラの手紙や、マンデラと妻との面会
に立ち会う内、彼の心にはいつしかアパルトヘイトを始めと
する現政権が進める政策に対する疑問が生じ始める。
この作品は、マンデラが初めて公式に彼自身の姿を描くこと
を認めた作品ということだ。ただしこの作品はマンデラの功
績を描くものではない。それよりもこの作品では、アパルト
ヘイトの真の恐ろしさが明確に描かれているものだ。
それを体現しているのがグレゴリーの妻で、この妻は「黒人
と白人の区別は神様がお決めになった」と発言して憚らず、
2人の子供にもそういう教育を続けている。そして黒人を刑
務所に入れることによって自分たちが安全になると信じてい
るのだ。
この妻役を、『ナショナル・トレジャー』などのダイアン・
クルーガーが演じていて、これは見事に填っている。因に、
クルーガーは、存命の妻本人にも面会して役作りをしたそう
だが、このようなことを平気で言えた理由としては、「真相
を知る術が全くなかったため」と教えられたそうだ。
主人公のグレゴリー役は、『ダーウィン・アワード』などの
ジョセフ・ファインズ。またマンデラ役には、『24』など
のデニス・ヘウスバートが扮している。
日本人にとって南アフリカはあまりに遠い国であるし、アパ
ルトヘイトなども言葉としては知っていても、その実態はほ
とんど判らないのが普通だろう。そういう日本人にとってこ
の作品は貴重な知識を与えてくれるものだ。
出来ることなら文科省の特選にでもしてもらって、小学校な
どで子供たちにも見せられたらいいと思えるくらいのものだ
が、それは難しいのだろうか。

『噂のアゲメンに恋をした!』“Good Luck Chuck”
アメリカでは「コメディ界のアイコン」とも呼ばれるスタダ
ップ・コメディアンのデイン・クックと、『シン・シティ』
などのジェシカ・アルバの共演による、ちょっとファンタス
ティックな要素もあるロマンティック・コメディ。
主人公は、背も高く、どちらかと言うとイケメンの歯科医。
従って女性も比較的簡単にベッドまで付いてきてくれるのだ
が、なぜか結婚には至らない。
それどころか、ベッドを共にした女性がその直後に運命の人
と出会うことが続き、そして招かれた女性の結婚式で、彼は
結婚のラッキーチャームと紹介されてしまう。しかもそのこ
とがインターネットでも紹介されて、彼の診療所は一躍女性
客で満員となる。
一方、アルバが扮するのは多少ドジなところもある水族園の
ペンギン飼育担当者。ちょっとオタクっぽい弟と共に懸命に
働く姿に、主人公は一目惚れするが…。もし彼女と寝たら、
彼女は彼の許を去って別の運命の人を見付けてしまう?そん
な運命に逆らうため、彼は最大の努力を開始する。
実は主人公は子供の頃に、回転させた瓶の向いたところの女
の子とキスをする“スピン・ザ・ボトル”のゲームでゴスロ
リ衣裳のちょっと恐めの女の子を当ててしまい、キスを拒否
したことから、その子に「一生幸せになれない」呪いを掛け
れられていた。
もちろんそんな呪いは信じていない主人公だったが…。その
呪いの言葉も傑作で、一気にファンタスティックな雰囲気に
もなってしまう作品だ。

共演は、先に紹介した『燃えよ!ピンポン』の主演でも注目
したダン・フォグラー。こちらは整形外科医で、全くもてな
いけど女の裸は見放題という役をネチネチと演じている。他
に若手のロニー・ロスなど、アメリカの新しいコメディの顔
が並んでいる。
またアルバは、本格的なコメディは初挑戦だが、全てのシー
ンを代役なしの体当たりで演じたとのことで、撮影中あざだ
らけになったという彼女の演技も見ものだ。
ラヴコメ企画で、当初はPG-13狙いだったが、途中からR指
定に変更したというちょっと過激な面も持った作品で、台詞
から映像までそれなりのものが登場する。その分、奥歯にも
のが挟まったようなところもなく、大人には存分に楽しめる
作品ということだ。



2008年02月17日(日) ジェイン・オースティンの読書会、アクエリアンエイジ、あの空をおぼえている、美しすぎる母、フィースト、覆面ダルホ、ひまわり、泪壺

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ジェイン・オースティンの読書会』
             “The Jane Austen Book Club”
最近も『プライドと偏見』の映画化が話題になったジェイン
・オースティンの小説を題材に、現代に生きる男女の恋模様
を描いた2004年のベストセラー小説の映画化。
グループで同じ本を読んでその感想を述べあう。そんな読書
会は、昔はSFファンの間でもたまにやっていたものだが、
今、アメリカの中流階級ではそれが大ブームなのだそうだ。
本作は、そんなアメリカの状況を踏まえて描かれた物語。
このような読書会では、一般的には新作を取り上げることが
多いようだが、本作のテーマはあえてオースティン。200年
も前に書かれたアメリカ女性の間では定番とも言える6冊の
小説を巡って、現代の男女の物語が進んで行く。
読書会の中心人物は、すでに6回の結婚を経験して7回目を
物色中の女性。他には、独身主義で犬のブリーダーの女性、
夫の無関心で教え子に恋心が芽生えている高校教師、夫に裏
切られて別居中の女性と自由奔放なその娘、そして1人の青
年の計6人が集まる。
題材が定番の小説ということで読書会のシーンは深読みの連
発となる。でも物語は、原作を知らなくてもちゃんと理解で
きるように描かれており、さらにオースティンは初体験とい
う青年を中に置くことで必要なコメントが述べられるなど、
構成は巧妙なものだ。
そして、お互いの行動をオースティンの作品に準えて批判し
たり、またオースティンの作品が行動して行く上での決断の
ヒントになったりもする。それが上手くいったり、行かなか
ったり…という物語が展開して行く。
女性が中心の読書会に青年が紛れ込む(もちろん理由はあっ
て誘われるのだが…)というのも上手い展開だが、実はこの
青年の人物設定がSFファン。つまりSFは男性のものとい
う固定観念のような図式も背景に盛り込まれている。
しかもこの青年が誘われるきっかけになるのが、SF大会の
開かれているホテルでの出来事で、そこには、“Buffy the
Vampire Slayer”のコスプレをしたファンがうろうろしてい
たりという細かな描写も、こちらの壺に填るものだった。
その上この青年が、何とオースティンの読者に向かってル・
グインを勧めたりする。さらにアンドレ・ノートン、ジェー
ムズ・ティプトリーJr.といった名前が続けられると、こち
らもニヤリとしてしまうところだ。
というところで種明かしをしておくと、実はこの原作を書い
たカレン・ジェイ・ファウラーは、ネビュラ賞の短編部門を
受賞したこともある女性SF作家で、これはもうSFファン
の心がくすぐられるのも当然の作品なのだ。
出演は、読書会の6人に、キャシー・ベイカー、マリア・ベ
ロ、エミリー・ブラント、エイミー・ブレネマン、マギー・
グレイス、ヒュー・ダンシー。その他の配役では、リン・レ
ッドグレイヴが印象的な役柄で登場する。

『アクエリアンエイジ』
オリジナルカードゲームでは、国内No.1のシェアを持つとい
う同名のトレーディングカードのコンセプトに基づく物語の
映画化。
人類の遺伝子にはいくつかの隠された能力を発揮する特別な
ものがあり、それらの遺伝子を受け継ぐものたちがいる。
その遺伝子を受け継ぐのは、黒い羽根を持つ獣の一族ダーク
ロア、西洋魔術師のWIZ-DOM、東洋の秘術を受け継ぐ阿羅耶
識、予知能力やテレパシーを持つE.G.O.、そして白い羽根を
持ち天使の血を引くイレーザー。
しかし、これらの一族は古より覇権を争い、その争いは今も
続いている。そんな遺伝子を受け継ぐ若者たちが集い、また
対決する姿が描かれる。
主人公は高校生。ある日、バスケ部の先輩と共に帰宅途中の
倉庫街で、傷を負った少年と遭遇する。しかし少年はそのま
ま立ち去り、後を追った主人公たちはその影を見失う。
一方、ライヴハウスに逃げ込んだ少年は携帯電話で必死にど
こかに連絡しようとするが、ロックの喧噪に話が通じない。
そして人影の消えたライヴハウスの壁には、巨大な爪痕と漆
黒の羽根が残される。
やがて主人公は、彼自身が特別な遺伝子を受け継ぐものであ
ることを知らされ、世界の裏側で暗躍するものたちの存在を
教えられる。そこには、彼に協力しようとする別の一族の若
者もいるが、一族の大人たちはその考えを持たないようだ。
そしてその間にも、次々に各一族のものたちが襲われる事件
が続き…
まあ、『仮面ライダー』や『戦隊もの』とはちょっと違うけ
れど、大体その程度の物語が進んで行く。それを『テニスの
王子様』の桜田通や、『仮面ライダー響鬼』の栩原楽人らが
演じるのだから、そういうファン層のものだろう。
ただ、物語はこれがプロローグという感じで、本戦はまだ始
まらない。結局のところ、設定を説明するだけで時間が尽き
てしまっているもので、これから続きが作られるのかどうか
は判らないが、取り敢えずはゲームのプロモーションという
感じに留まっている。
映画の製作自体がそういう目的なのかも知れないが、どうせ
やるならもっと壮絶なバトルも観てみたかったし、正直には
ちょっと物足りなくも感じてしまったところだ。この映画が
ヒットしたら続きも作って貰えるのかな。

『あの空をおぼえている』
ジャネット・リー・ケアリー原作の“Wenny Has Wings”と
いう作品を、日本に舞台を移して映画化した作品。
主人公の一家は自然に包まれた田園の家に暮している。一家
には10歳の兄と6歳の妹がいて、母親の胎内には3人目も宿
っているようだ。そして一家の父親は町で写真館を開きなが
ら家族の写真を撮り続けている。そこには素晴らしい写真も
数多く写されていた。
そんな一家を悲劇が襲う。交通事故で兄が意識不明の重体に
なり、兄は臨死体験の末に奇跡的に回復するが、その日から
の一家の生活は灯の消えたようになってしまう。
特に父親は自分の行動を悔やむばかりで、家族を顧みること
もできない。そして回復した兄も自分の存在に疑問を持ち、
母親はそれなりの努力をしているが、一家の絆はばらばらに
なって行く。

どう書いてもネタバレを避けられない物語だが、映画は事実
関係が巧妙に隠されていて、それがドラマを作り上げる仕組
みになっている。しかも、そこに臨死体験や思い出などが交
錯するから展開はかなり複雑だが、脚本は上手く整理されて
混乱は生じていない。
そして物語の中では、オルフェウスとエウリュディケの神話
に準えて「死のトンネル」と呼ばれるトンネルに入って行く
話や、裏庭に作られた見事なツリーハウス、また臨死体験の
シーンなどが、大自然の背景の中で丁寧に描かれていた。
出演は、父親役に映画出演は7年ぶりという竹之内豊、母親
は水野美紀、そして兄に広田亮平、妹を吉田里琴。特に、明
るく無邪気な妹を演じる吉田は見事なものだ。他には、小池
栄子、中嶋朋子、品川祐、小日向文世などが共演している。
監督は、2004年実写版『鉄人28号』などの冨樫森。冨樫監
督では、以前に観させてもらっていた映画学校の上映会で、
生徒の出演による作品も観ているが、その指導力で今回の子
役たちも見事に演じさせているものだ。
そして本作のクレジットでは、その映画学校出身の俳優の名
前を見つけたのも嬉しかった。
もちろん感動作ではあるが、それ以外にも、監督のこだわり
がいろいろ見えてくる作品。そうした部分でも気持ち良く楽
しむことができた。

『美しすぎる母』“Savage Grace”
1986年エドガー賞Best Fact Crime Book部門を受賞した同名
原作の映画化。
1972年11月17日、ロンドンで起きた実の息子による母親殺し
事件。それは、1910年に史上初の人工樹脂と呼ばれるフェノ
ール樹脂の量産技術を発明し、ベークライトと名付けて巨万
の富を築いたベークランド一族の末裔を襲った悲劇だった。
母親の名前はバーバラ。ボストン近郊のあまり裕福ではない
家庭に生まれた彼女は、10代の頃に父親の自殺や兄弟の事故
死にも遭遇するが、後にはニューヨークの最も美しい10人の
女性の1人と呼ばれるようになる。そしてベークランド家の
跡取りであるブルックスと結婚する。
しかし、美しく、カリスマ性もあったと言われる女性も、身
分の差には勝てなかった。それでも彼女はベークランド家の
資産を利用して上流社会での生活を続ける。その生活ぶりは
優雅だったが、家庭内では夫との愛は冷えきり、息子のアン
トニーを溺愛するしかなくなって行く。
そのアントニーは、幼い頃は自信に満ちた理想的な少年だっ
が、やがて両親の間が冷えるに従って母親からは溺愛される
一方、父親からは軽蔑の眼差しで見られるようになる。そし
てドラッグに溺れ、同性愛の世界へと逃げ込んで行く。

この物語が、実際に一家が暮らしたニューヨーク、パリ、ス
ペインのカダケス、マジョルカ、そしてロンドンを背景に描
かれる。
身分差のある結婚など、何時の世にも普通に在りそうなもの
だが、この映画によると夫のブルックスにも偉大な発明家で
あった祖父に対するコンプレックスがあり、それが一家の崩
壊を助長していったようにも描かれている。物語は原作者の
調査の結果であり、それがすべて真実とは限らないが、結局
はそんなところなのだろう。
出演は、バーバラにジュリアン・モーア、アントニーにエデ
ィ・レッドメイン。また父親ブルックス役をスティーヴン・
ディレイン、アントニーの友人役をヒュー・ダンシーが演じ
ている。
監督は、1992年に『恍惚』という作品が評価されたトム・ケ
イリン。長編作品はそれ以来の第2作。因に今回の映画化で
は、原作の本に添えられた一家の写真を参考に製作を進めた
とのことで、これがセットや衣装だけでなく、演出の面でも
かなり重要視されたそうだ。

『フィースト』“The Feast”
2004年8月1日付第68回でも紹介したProject Greenlightか
らの映画化作品。
Project Greenlightは、元々はアカデミー賞脚本賞を受賞し
たベン・アフレックとマット・デイモンが提唱した新人発掘
プロジェクトで、ここからは2003年4月に紹介した『夏休み
のレモネード』が第1回作品として誕生している。
そのプロジェクトの第3弾として製作されたのが今回の作品
だが、上記のページでも紹介しているように、今回は初めて
ホラー作品が選ばれたものだ。しかもスプラッター。第1回
のヒューマンドラマとはえらい違いだが、それも映画という
ところだ。
物語は、荒野に面した地元の溜まり場のような酒場が舞台。
そこに傷を負った男が現れ、男はその場所に危険が迫ってい
ることを告げる。最初は半信半疑だった客たちも、男が持参
した恐ろしげな怪物の頭部を見て騒ぎ出すが、その直後に怪
物が襲ってくる。
映画は、登場人物のそれぞれに字幕でキャラクター設定を添
える形式で始まるが、ここから後は何しろ脚本家たちが過去
のホラー映画を研究して、今までなかった展開を見せること
に専念したというだけあって、かなり予想外に進められて行
くことになる。
そこには、かなりセオリー無視のものもあるが、それなりに
この手の映画を見続けてきた者にとっては、結構笑えるとい
うかニヤリとしてしまうものにもなっている。と言っても、
結局はスプラッターの面白さと言うことにはなるのだが…
それにしてもこれだけのスプラッターも久しぶりで、最近の
ホラー映画がちょっと技巧に走りすぎたり、VFXなどの技
術にも頼りすぎていた部分も考えると、それなりに初心に還
るというか、そういう面白さは感じられたものだ。
出演者に、『エイリアス』のバルサザール・ゲティ、『グレ
イス・アナトミー』のエリック・デイン、『THE OC』
のナヴィ・ラワットなどテレビの人気者が顔を揃え、さらに
クルー・ギャラガー、デュエイン・ウィティカーらのベテラ
ンが脇を固める。因に監督は、ギャラガーの息子だそうだ。
アメリカでは2006年9月に公開されたこの作品は、各地の映
画祭などでも評判を呼び、すでに続篇2本の製作も進んでい
るようだ。

『覆面ダルホ〜演歌の花道〜』“복면달호”
『猟奇的な彼女』などのチャ・テヒョンが、『僕の、世界の
中心は、君だ』以来2年ぶりに映画に復帰した歌謡コメディ
作品。
仲間と組んだバンドでロックスターを目指し、地方のキャバ
レーで歌っていた主人公のダルホは、彼の声を認めたという
ソウルの芸能プロに呼ばれてやってくる。
ところがそこはトロットと呼ばれる韓国演歌のプロダクショ
ン。しかも、間違って契約を結んでしまったダルホは、猛特
訓によりトロットの魂を植え付けられ、トロット歌手として
デビューすることになる。
しかし、昔の仲間に対する羞恥心や何やかやで、デビューの
ステージに覆面を付けて登場したダルホは、逆にそれが受け
て一気に人気が沸騰。そして覆面歌手ボンピルとしてトロッ
ト界のトップスターとなっていくが…
チャは元々歌手としてもヒット曲を持っているのだそうで、
そんなチャのキャラクターを存分に活かした作品と言えるよ
うだ。と言っても、何か有りそうなお話と思ってネットを検
索したら、本作は1997年公開の日本映画『シャ乱Qの演歌の
花道』の韓国版リメイクとされていた。
実際、製作者のイ・ギョンギュが日本留学中にオリジナル版
を観て惚れ込み、そのリメイクを実現させたというものだそ
うだが、お陰でチャは、『僕の…』に続けて日本映画からの
リメイクに主演することになってしまったようだ。
オリジナルもつんくの主演だったから、歌唱シーンはチャン
としていたと思われるが、本作のチャもロックからトロット
まで見事に歌いこなしている。特にトロットの臭い振りも付
けたステージシーンは、日本の演歌を連想させて理解しやす
くも感じられた。
また、同じ曲をロックとトロットをそれぞれの編曲で聞かせ
て、本当の歌の心を説明するシーンなども判りやすく作られ
ていたものだ。
ただ、この映画の字幕にはトロットという言葉が片仮名でそ
のまま登場するが、果たして日本の観客にこれで通じるもの
かどうか、映画を観ていれば直ぐに理解できるものではある
が、そこはちょっと気になったところだ。
共演は、若手女優のイ・ソヨン。トップ俳優と共演した前作
ではかなり大胆な演技も見せたようだが、本作では清楚な感
じもするちょっと訳ありのトロット歌手を好演している。
なお本作は、3月に東京と大阪で開催される「韓流シネマフ
ェスティバル2008春」の1本として上映される。

『ひまわり』“해바라기”
2006年11月20日付で紹介した『Mr.ソクラテス』などのキム
・レウォン主演による韓流ノワール作品。
刑務所から出所してきた男。その男が肌身離さず持ち歩く小
さなノートには、「2度と酒を飲まないこと、2度と喧嘩を
しないこと、2度と涙を流さないこと」という誓いと共に、
出所したらやりたいことのメモがぎっしりと書かれていた。
男は、とある町のひまわりという名の小さな食堂を訪れ、応
対に出た若い女性に、「昔は向かいに大きなひまわり畑が広
がっていた」と語る。その後、男は町で知り合いを訪ね歩く
が、男の過去は彼らから一目置かれる存在だったらしい。
やがて食堂に戻った男は、そこの女将から養子にと迎えられ
る。最初に応対した若い女性はその女将の娘で、ぶっきらぼ
うな態度はとるが反対ではなさそうだ。そして男の町での生
活が始まるが…
その町では、町の顔役が主導する再開発が進められており、
その地区で買収に応じていない最後の場所が食堂ひまわりだ
った。一方、その顔役の配下では、昔男の手下だった2人の
若者が地位を争っていた。
こうして、2度とヤクザの道に入らないと誓ってきた男は、
否応なしにその世界と対峙する羽目に陥って行く。
何度も映画化されてきたような話ではあるが、本作では後半
の主人公が追い詰められて行く状況が、尋常でなく強烈に描
かれる。結局、物語はこのように終らざるを得ないのかも知
れないが、その結末は強い余韻を残してくれるものだ。
基本的にヤクザ映画は好きではないし、日本映画でのそれは
ほとんど見てこなかったが、まったく綺麗事ではなく描かれ
たこの作品には、ある種の崇高な思いが感じられる気もする
ものだった。
共演は、若手注目女優のホ・イジェと、“四季”シリーズの
ベテラン=キム・ヘスク。一昨年公開された韓国では、観客
100万人以上を動員したヒット作だそうだ。
なお本作も、3月に東京と大阪で開催される「韓流シネマフ
ェスティバル2008春」の1本として上映される。

『泪壺』
渡辺淳一の同名の原作を、かつてピンク四天王の1人と呼ば
れた瀬々敬久監督が、小島可奈子、いしだ壱成、佐藤藍子を
主演に迎えて映画化した作品。
瀬々監督作品では、一昨年11月に谷崎潤一郎原作の『刺青』
の映画化を紹介しているが、それ以前にも2本ほど紹介して
きた。基本的にピンク映画の監督ということで、本作でも小
島のかなり大胆な艶技を見ることができる。
物語は、小島と佐藤が扮する姉妹といしだ扮する男性の交流
を描く。男性はある偶然から姉妹と出会い妹と結婚する。し
かし姉も男性に思いを寄せていた。その秘めた思いは妹の死
によって否応なく高まるが、男性は妻への愛情を持ち続けて
いる。
その妻への愛情は、妻の遺灰で白磁の壺を作らせるまでに至
るが、その壺には亡き妻の泪のような傷が生じていた。そし
て男性には別の女性も現れ、姉は発露を見いだせない思いに
さいなまれて行く。ここで小島の艶技となるものだ。
ということで、渡辺作品の映画化では『失楽園』もかくやと
いう展開になるのだが…
実は、僕が本作で注目したのは、原作には描かれていない過
去の物語が織り込まれているところだった。その部分はある
種ファンタスティックでもあり、それなりに良い感じがした
ものだ。脚本は、以前に瀬々監督の『肌の隙間』も手掛けて
いる佐藤有記が担当している。
ところが本作では、その創作された物語と小島の艶技とが、
水と油のように分離しているように感じられた。瀬々作品で
は『刺青』の時もかなり大胆な原作の改変が見られたが、谷
崎原作では元々がそういう話だったから、それはすんなりと
融合していたものだ。
それが渡辺原作でも、『失楽園』のように融合するはずなの
だが、何故か本作ではそれが上手く行っていない。
これは何と言うか、創作された青少年時代の物語が美しく描
かれすぎたためのようにも感じられるが、そればかりになる
と瀬々作品ではなくなってしまうことになるし、これは痛し
痒しというところだ。
いっそのこと、青少年時代のシーンでも一発やってしまって
いれば、それなりに纏まりも着いたとも思うのだが…そこま
で大胆にはできなかったのだろうか。そこはちょっと残念な
気もした。ただし本作では、瀬々監督の別の一面も見られた
ようで、それは面白かった。



2008年02月15日(金) 第153回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 次世代DVDの争いは、東芝HD-DVDの撤退で決着が着いた
ようだが、それはさて置き、ハリウッドも脚本家組合のスト
ライキが終結して動きが活発になってきた。今後のスケジュ
ールとしては、監督組合と映画テレビ製作者同盟(AMPT
P)との交渉はすでに妥結(これが脚本家組合のスト終結の
目安となった)、また俳優組合との交渉も近日中に開始され
るとのことで、夏に予定されていた両組合のストライキも回
避の可能性が高くなってきたようだ。これで昨年末から滞っ
ていた映画製作も順調になりそうだ。
 ということで、24日のアカデミー賞受賞式も例年通り行わ
れそうだが、今回は賞の関連で、前々回に候補作を報告した
第6回VES賞の結果(映画関係のみ)から報告しよう。
 まず受賞したのは、VFX主体の映画におけるVFX賞が
『トランスフォーマー』。VFX主体でない映画におけるサ
ポートVFX賞は『レミーのおいしいレストラン』。単独の
VFX賞は『トランス…』の砂漠のハイウェイ。
 また、実写映画でのアニメーションキャラクター賞は『パ
イレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』のデイヴ
ィ・ジョーンズ。アニメーション映画でのキャラクター賞は
『レミー…』のコレット。アニメーション映画でのFX賞は
『レミー…』の料理。
 さらに、実写映画での背景賞は『パイレーツ…』の渦潮。
ミニチュア賞は『トランス…』。合成賞も『トランス…』。
特殊効果(SFX)賞は『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士
団』と決まった。
 結局、『スパイダーマン3』は無冠に終ったが、『トラン
ス…』の4冠は見事なものだし、キャラクター賞と背景賞で
『パイレーツ…』に勝てなかったのは仕方ないところだ。一
方、アニメーション作品では『レミー…』が3冠で、どちら
も順当というところだろう。
        *         *
 続いては前回報告を忘れたアカデミー賞の候補作を紹介し
ておこう。
 先ず、VFX賞で最終3本に残ったのは、『ライラの冒険
/黄金の羅針盤』『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワール
ド・エンド』『トランスフォーマー』。まあ、『スパイダー
マン』と『ハリー・ポッター』は最初から無い訳だし、これ
はVES賞と比較しても順当なところだ。
 またメイクアップ賞は『エディット・ピアフ』“Norbit”
『パイレーツ…』。この内、“Norbit”は候補者が日本人で
あることでも話題になっている。さらに長編アニメーション
賞は『ペルセポリス』『レミー…』『サーフズ・アップ』が
3本の候補となった。『レミー…』以外はちょっと意外な感
じもしたが、いずれにしても受賞作は、他の評価から見ても
最初から決まっているようなものだ。
 この他の候補は作品別に見ていくと、『つぐない』が助演
女優、美術、撮影、衣裳、作曲、作品、脚色の7部門。『潜
水服は蝶の夢を見る』が撮影、監督、編集、脚色の4部門。
『魔法にかけられて』が歌曲賞5候補のうち3候補を独占。
『ライラの冒険』がVFX賞と美術賞。『告発のとき』が主
演男優賞。『君のためなら千回でも』が作曲賞。『エディッ
ト・ピアフ』がメイクアップ賞と主演女優賞、衣裳賞。『フ
ィクサー』が主演男優、助演男優、助演女優、監督、作曲、
作品、脚本の7部門。『レミー…』が長編アニメーション、
作曲、音響編集、音響、脚本の5部門。『シッコ』が長編ド
キュメンタリー賞。『スウィーニー・トッド』が主演男優、
美術、衣裳の3部門。『トランス…』がVFX賞と音響編集
賞、音響賞などとなっている。
 発表受賞式は、日本時間の2月25日に行われる予定だ。
        *         *
 ここからはいつもの製作ニュースを紹介しよう。
 まずは一般映画からで、最初はウィル・スミス主宰の製作
プロダクション=オーヴァーブルック・エンターテインメン
トから、今春出版予定の“The Billionaire's Vinegar”と
いう本の映画化権を獲得したことが発表された。
 この作品は、1985年にクリスティーズのオークションに懸
けられたワインの瓶に関するドキュメントで、そのワイン瓶
は億万長者のフォーブス一家が15万6000ドルで競り落として
史上最も高価なワイン瓶とされたが、その後に真贋論争が巻
き起ったものだ。
 これについてクリスティーズでは、その瓶の表面に書かれ
た“1787/ Lafitte/ Th.J.”の文字から、1787年の当時に全
権代表としてパリに赴任していた後の第3代アメリカ大統領
トーマス・ジェファーソンが買い集めたワインコレクション
の1本と鑑定したものだが…そこに至るまでにいろいろな謎
があったようだ。またこの件に関しては、昨年の9月発行の
New Yorker誌にもその調査の模様をまとめた記事が掲載され
ており、こちらはHBOでテレビ化が進められている。
 ただし、今回の発表ではスミスの出演は報告されていない
が、製作は『幸せのちから』と同様エスケープ・アーチスツ
との共同で行われるもので、同じ条件であればその可能性は
高くなる。因に物語は、調査を行った男性が主人公となって
いるそうだ。
 なおスミスの新作では、ピーター・バーグ監督で落ちぶれ
たスーパーヒーローに扮する“Huncock”が7月2日に全米
公開の予定。また、スミスとガブリエル・ムッチーノ監督が
再タッグを組むヒューマンドラマ“Seven Pounds”の撮影が
3月10日に開始されることになっている。
        *         *
 2006年公開の『スキャナー・ダークリー』などのリチャー
ド・リンクレーター監督が、若き日のオーソン・ウェルズの
登場する映画“Me & Orson Welles”の製作を進めている。
 この作品は、ロバート・カプロウの原作に基づくもので、
1930年代のニューヨーク演劇界を背景に、当時、弱冠22歳で
ウィリアム・シェークスピアの『ジュリアス・シーザー』を
脚色演出し、センセーションを巻き起こしたウェルズ率いる
マーキュリー劇場を描くもの。
 ただし物語はロマンス劇とされているもので、劇団員たち
がそのロマンスを繰り広げるようだ。そして主人公は、次の
舞台で小さな役を勝ち取った10代の学生。その若者を『ハイ
スクール・ミュージカル』や『ヘアスプレー』でも好演した
ザック・エフロンが演じる。また、相手役には『いつか眠り
につく前に』のクレア・デインズが発表されている。
 さらに、ウェルズ役は新人のクリスチャン・マッケイが演
じ、またその他の劇団員の役で、『シーホース』などのベン
・チャップリンらが共演する。
 因に原作者のカプロウはパロディ作家として知られている
ようで、本作もユーモアに満ちた作品のようだ。脚色と脚本
は『スキャナー…』などの第1助監督を務めたヴィンセント
・パルモJr.とホーリー・ゲント・パルモが担当し、撮影は
2月後半または3月上旬に開始される。
 なお、マーキュリー劇場は1937年6月に創立され、ファシ
ズムに傾斜した当時のイタリアを風刺した『シーザー』はそ
の年の後半に上演された。そして翌1938年には放送史に残る
『火星人来襲』が、この劇場からのラジオ番組として放送さ
れる。また、RKO映画の『市民ケーン』は1941年に製作さ
れるものだ。
        *         *
 ジョニー・デップの主演が予定されていた“Shantaram”
を製作中断に追い込まれたミラ・ナイール監督が、それに替
わる計画として4月撮影開始を目指し進めている“Amelia”
という作品に、ヒラリー・スワンクの主演が発表された。
 この作品は、1928年に史上初のアメリカ横断単独飛行を成
功させ、31年にはオートジャイロによる最高到達高度記録、
32年にはリンドバーグに次ぐ2人目の大西洋単独横断飛行、
35年に史上初のハワイからカリフォルニアまでの単独飛行を
成し遂げるなど、数々の飛行記録を樹立した女性飛行家アメ
リア・イアハートを描くもので、1937年7月2日、世界一周
飛行途上のニューギニア付近で消息を絶った彼女の生涯が描
かれる。
 その映画化にスワンクの主演が決まったものだが、アメリ
カや日本でも行動する女性の象徴のように言われるイアハー
ト役に、これはピッタリの配役と言えそうだ。脚本は、『レ
インマン』でオスカー受賞の他、最近では『モーツアルトと
クジラ』なども手掛けるロン・バスが担当している。
 因にイアハートは、女性の地位の向上を目指す団体の会員
としても貢献し、彼女が行方不明になった1年後には世界中
の航空科学技術を学ぶ女性たちを対象にした奨学基金が設立
されている。この基金では日本人を含む600人以上の女性が
支援を受けており、その中からはスペースシャトルの搭乗員
として活躍する女性も誕生しているとのことだ。
 また、イアハートの消息に関しては、当時の世界情勢から
日本軍による撃墜説などもあって、アメリカ人の日本に対す
る憎悪を掻き立てる道具としても利用されたりもしたようだ
が、近年搭乗機の残骸やキャンプの跡などが発見され、単な
る事故だったことが証明されたという話もあるようだ。
 ただしそれも明確ではないようで、従ってバスの脚本がど
こまで描いているかは判らないが、当時の金額で400万ドル
を費やし、アメリカ海軍や沿岸警備隊が個人に対するもので
は史上最高の捜索活動を行ったとされる捜索の模様は、ある
程度までは描いて欲しい感じもするものだ。
        *         *
 『ジェイン・オースティンの読書会』では、次ぎの読書会
のテーマとして挙げられるブロンテ姉妹の2番目エミリー・
ブロンテ原作による壮大な復讐劇『嵐が丘』の再映画化が、
2005年『ジャケット』などのジョン・メイベリー監督で進め
られることになった。
 1847年に初版が出版された原作の映画化では、1939年ウィ
リアム・ワイラー監督、ローレンス・オリヴィエ、マール・
オベロン共演による作品が有名だが、日本でも1988年に吉田
喜重監督が松田優作、田中裕子の共演で手掛けた他、1992年
にはレイフ・ファインズ、ジュリエット・ビノシュ共演の映
画化などもされている。そして今回は、2003年『真珠の耳飾
りの少女』を手掛けたオリヴィア・ヘトリードが脚色を担当
するもので、配役は未定だが撮影は今秋開始の予定となって
いる。
 製作は、『ローズ・イン・タイドランド』を手掛けたハン
ゥェイと、『ウォーターホース』などのエコッセ。因に両社
は、昨年アン・ハサウェイ主演でジェイン・オースティンの
伝記に基づく“Becaming Jane”を公開し、今年はイヴリン
・ウォー原作の“Brideshead Revisited”を製作しており、
文芸路線の一環として計画しているものだ。
 なお、メイベリー監督は、キーラ・ナイトレー、シエナ・
ミラー、キリアン・マーフィの共演で、早世したウェールズ
の詩人ディラン・トーマスを描いた“The Edge of Love”の
撮影が完了したところのようだ。
        *         *
 以下は、SF/ファンタシー系の情報を紹介しよう。
 『エルム街の悪夢』の殺人鬼フレディ・クルーガー役など
の俳優ロバート・イングランドが、『ライラの冒険/黄金の
羅針盤』にも出ていたクリストファー・リーを主演に迎え、
ロシアの文豪ニコライ・ゴーゴリの短編に基づくゴシック・
ファンタシーの映画化を監督する計画が発表された。
 作品名は“The Vij”。原作は『妖女』などの題名でも翻
訳されているようだが、18世紀に魔女狩りに遭った王女の呪
いの物語が描かれるものだ。因に同じ原作からは、1961年に
イタリアのマリオ・バーヴァ監督による映画化が『血塗られ
た墓標』の邦題で日本公開されている。
 なおイングランドは、1989年に“976-EVIL”という劇場映
画を監督しており、それ以来の新作となる“Killer Pad”が
すでに撮影を完了して今年全米公開の予定になっている。他
に『エルム街…』のテレビシリーズではエピソードの監督も
しているものだ。また、本作でイングランドは出演もするよ
うで、他にローマ在住のロシア人女優のオルガ・シュヴァロ
ヴァがヒロインを演じて、その他の出演者は選考中とされて
いる。
 撮影は4月にイタリア中部のラツィオ州で「滅びゆく町」
とも呼ばれる山岳都市のチヴィタ・ディ・バーニョレージョ
で行われる。このロケ地は、観光スポットとしても人気があ
るようだが、その素晴らしい風景の中で怪奇な物語が展開さ
れることになるようだ。
 1961年版を監督したバーヴァはイタリアン・ホラーの第1
人者とも呼ばれた人。そのバーヴァの出身地のイタリアで、
しかも原作を産んだロシアの女優を招き、さらに現代ホラー
俳優の第1人者のリーも出演するこの映画化は、ちょっと気
になる作品になりそうだ。
        *         *
 一方、『エルム街の悪夢』に関しては、マイケル・ベイ監
督が共同主宰するジャンル専門プロダクション=プラティナ
ム・デューン(PD)の製作で、2003年の『フレディvsジェ
イソン』以来となるシリーズの再開も計画されている。
 因にこのシリーズでは、過去に8本の劇場映画と2つのテ
レビシリーズが製作され、これらは製作元のニューラインで
『LOTR』以前の稼ぎ頭だったそうだ。そして今回の計画
では、PDはニューラインとの共同で製作を進めるもので、
脚本家組合のストライキが終結し次第、脚本家の選考を始め
るとしている。ということは、そろそろ脚本家も決まりそう
だ。
 この他にPDでは、2003年『テキサス・チェーンソー』の
マーカス・ニスペル監督を起用して、“Friday the 13th”
シリーズの再開も5月の撮影開始予定で準備を進めており、
さらに以前に紹介した“The Birds”のリメイクを、マーテ
ィン・キャンベル監督、ナオミ・ワッツ主演によりユニヴァ
ーサルで進めている他、デイヴィッド・ゴイヤー監督による
エクソシスト物のスリラーと、1987年キャサリン・ビグロウ
監督作品“Near Dark”(ニア・ダーク/月夜の出来事)の
リメイクを、ミュージックヴィデオ出身のサミュエル・バイ
ヤー監督で準備中とのことだ。
        *         *
 『ディスタービア』のD・J・カルーソ監督と、主演のシ
ャイア・ラブーフのコンビで、DC/ヴァーティゴ・コミッ
クスから刊行されていた“Y: The Last Man”の映画化の計
画が発表された。
 このコミックスは、2002年9月からほぼ月刊ペースで60巻
が発行されたもので、今年1月に最終巻が出版されて完結し
ている。物語はヨーリック・ブラウンという名のアマチュア
奇術師が、人類を含む全哺乳類の雄が1夜にして死滅した世
界で、唯一の生き残った男性(人間以外では、お供の雄猿も
1匹だけ生き残っているようだ)となり、いろいろな冒険を
繰り広げるというもの。
 当然、そこでは彼が生き残った理由を解明する謎解きも行
われるが、全体の物語では最初は子供じみていた主人公が、
徐々に真の男になってゆく成長も描かれているとのことで、
カルーソ監督はその成長の物語にも惹かれているそうだ。内
容だけチェックすると、あらぬ想像もしてしまいそうな展開
だが、かなり真剣な物語になるようだ。
 そして計画では、コミックスの最初の14巻までを第1作と
して映画化することになっており、これは最終的に3部作で
の映画化が目論まれているとのこと。脚本は、『ディスター
ビア』も手掛けたカール・エルスワースが担当しているが、
スト中は具体的な作業はできなかったものだ。
 なお映画化権は、2003年当時にニューラインが契約して、
この時はデイヴィッド・ゴイヤーと、『ザ・リング』などを
手掛けたバンダースピンクスが製作を担当することになって
いた。また、一時『アイ・ロボット』のジェフ・ヴィンター
が脚色を契約していたが、その契約は解除されたようだ。
 カルーソ監督とラブーフのコンビでは、ビリー・ボブ・ソ
ーントン、ミシェル・モナハン、ロザリオ・ドーソンらが共
演する“Eagle Eye”というスリラー作品が3月まで撮影中
となっており、その撮影中に監督とラブーフの話し合いがも
たれたとのこと。ただしラブーフには、“Trancefomers 2”
などの計画も目白押しで、すぐに実現できるかどうかは多少
心配なところだ。
        *         *
 新3部作となる“Terminator Salvation”の製作準備が進
み始め、その製作にジェームズ・キャメロンが関わっている
ことが報道された。
 この第4作に関しては、『チャーリーズ・エンジェル』な
どのMcG監督が準備を進めているものだが、先日そのMcG監
督がニュージーランドで新作“Avatar”の撮影を行っている
キャメロン監督に電話を掛け、話し合いがもたれたのだそう
だ。その際、キャメロン監督から現在“Avatar”に出演中の
オーストラリア人俳優サム・ワーティントンが推薦されたと
のことで、McG監督は新3部作の中で中心的な登場人物とな
るマーカスという役に彼の起用を決めたということだ。
 因に、ジョナサン・モストウが監督した『T3』にはキャ
メロンは全く関与しなかったが、この点について『T3』を
手掛けたプロデューサーとの間に確執が有ったせいとする報
道には多少疑問がある。実際には、当時のキャメロンは某映
画会社との契約で雁字搦めにされていたもので、他社の製作
には全く関与できなかった。その状況は今もあまり変ってお
らず、今回もアドヴァイス程度しかできないものだが、結局
モストウ監督はそのようなアドヴァイスを必要としなかった
だけのことで、McGがそれを求めたということだ。これをわ
ざわざ確執などということも、大人げないような感じがする
ところだ。
 なお、以前に紹介したように新3部作のジョン・コナー役
にはクリスチャン・ベールが噂されているが、さらにターミ
ネーター役にジョッシュ・ブローリンが期待されているとの
情報もあって、かなりの顔ぶれがそろいそうな感じだ。
        *         *
 最後は続報で、今年1月1日付第150回で紹介したサム・
ライミ監督の“Drag Me to Hell”に、アカデミー賞主演女
優賞にノミネートされているエレン・ページの出演が発表さ
れている。この作品は、『スパイダーマン』3部作を完走し
たライミ監督がホラーに回帰した作品とも紹介されているも
のだが、そこにオスカー候補とはなかなかのキャスティング
だ。因に『Xメン3』で壁抜け少女キティを演じ、現在20歳
のページは、今回受賞を逃しても将来性は抜群の有望株で、
その点でもこの配役は注目される。撮影は3月17日に開始の
予定だ。
 もう1本、昨年12月15日付第149回で紹介したベン・ステ
ィラー主演『ナイト・ミュージアム』の続編“Escape from
the Smithsonian”には、『魔法にかけられて』のエイミー
・アダムスの出演が発表されている。彼女の役が現実側か展
示物かは不明だが、スミソニアンにはアメリア・イアハート
も展示されているものだ。この他、『ニュースの天才』など
のフランク・アザリアが古代のファラオの役でキャスティン
グされており、またディック・ヴァン・ダイクが前作から引
き続き出演するようだ。
 本当の最後に速報で、ヒース・レジャーの急死で窮地に陥
っていたテリー・ギリアム監督の新作に、ジョニー・デップ
とジュード・ロー、コリン・ファレルの出演が報じられた。
3人で代役するということだが、これは大変なことになりそ
うだ。次回詳報する。



2008年02月10日(日) バンテージ・ポイント、カフェ代官山、愛おしき隣人、告発のとき、ラフマニノフ、ねこのひげ、恋の罠、チェスト!

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『バンテージ・ポイント』“Vantage Point”
アメリカ大統領暗殺をメインテーマにしたパズル的な要素も
あるアクション作品。
物語の舞台は、スペインの古都サラマンカ。ここで、アラブ
諸国と西欧の首脳が一同に会する歴史的な外交会議が開催さ
れようとしていた。その会議に先立ち、市の中心の建物に囲
まれた広場では、アメリカ大統領が市民への挨拶を行うこと
になっていた。
その模様を生中継で追うテレビ中継車。その中では、女性の
ディレクターがてきぱきと指示を出し、大統領の到着やデモ
隊の様子、市長の歓迎の挨拶などが順調に放送される。そし
て大統領が演壇に立ったとき、1発の銃声が鳴り響き大統領
が倒れる。
シークレットサーヴィスのバーンズは、以前の任務で大統領
への銃撃を身を挺して阻止し重傷を負い、その日が任務への
復帰の日だった。そして大統領が演壇に立つ直前、彼は一つ
の窓に不審な動きを見るが…
地元警察の刑事エンリケは、市長の警護のためにその広場を
訪れた。しかし彼がその広場を訪れたのには別の理由もあっ
た。そして彼の目の前で大統領が銃撃され、市長に駆け寄ろ
うとしたエンリケはバーンズに取り押さえられる。
このような全部で8つの視点からの物語が順番に展開されて
行く。しかもそれぞれの物語は11時59分を起点に、一々その
時点に戻って物語が繰り返して提示されて行くことになる。
このように複数の視点から物語を描いて行く手法は最近の流
行のようでもあるが、トリッキーな展開は、時に観客の理解
力などが試されることにもなる。しかし本作ではそのような
心配もなくストレートに物語を楽しめる。その作り方が特に
巧みに感じられた。
それに本作では、後半には見事なカーチェイスを含む大アク
ションも展開されるのだが、前半のトリッキーな展開からそ
こに持って行く過程の描き方も見事。また居合わせた旅行者
や地元の少女など、偶然の関係者を描く臨場感にも素晴らし
いものがあった。
出演は、テレビディレクターにシガーニー・ウィーヴァー、
バーンズにデニス・クウェイド、エンリケに2003年4月に紹
介した『ノボ/NOVO』のエドゥアルド・ノリエガ、大統
領にウィリアム・ハート、居合わせる旅行者にフォレスト・
ウィティカーなど。
製作は、『ワイルド・スピード』『トリプルX』から『アイ
・アム・レジェンド』まで手掛けるアクション専科のニール
・H・モリッツ。
なお、脚本のバリー・レヴィと、監督のピート・トラヴィス
は共に映画界では新人のようだが、編集を、2006年『カジノ
・ロワイヤル』などのステュアート・ベアードが手掛けてお
り、本作のキーポイントはこの辺にもありそうだ。

『カフェ代官山』
昨年3月に紹介した『きみにしか聞こえない』などの金杉弘
子脚本によるイケメン映画。
同じ脚本家の作品では、『スキトモ』と『そして春風にささ
やいて』も紹介しているが、最近のこの手の日本映画の中で
はそれなりに信頼できる作家だと注目している。特に『きみ
にしか…』の脚本は、SFとしての出来も良く僕は高く評価
しているものだ。
その金杉脚本による本作の物語は、亡き父親の跡を継ぐため
パティシエを志す青年が、父の盟友だったパティシエのいる
代官山のカフェを訪ね、修業を始めようとするというもの。
ところが、そのカフェは3人の若者が仕切っていて、肝心の
マスターは旅行に出たまま店にはいない。
そこで、「マスターがいないなら」と帰ろうとした青年は、
何故か店に引き留められる。そして何かと意味の無いターン
をするリーダーと、サーディンというミドルネームを持つパ
ティシエと、琴で占いをするウェイターと共に、その店で働
くことになる。
しかし青年には、彼ら3人の店での行動が理解できない。一
方、その店は日々常連客で賑わっているが、その客たちにも
それぞれ人生がある。そんな客たちや3人の仲間との交流の
中で、青年は成長して行く。
出演は、『スキトモ』『そして…』にも出ていた相葉弘樹、
それに大河元気、桐山漣、馬場徹という舞台版『テニスの王
子様』のメムバーたち。と言うことは、まあそれが目当ての
ファン層にはそれで充分というところなのかな。
物語も、『スキトモ』と同様、少女マンガ的な要素満載で、
50代後半のおじさんには理解し難い部分も多いが、少女コミ
ック〜レディスコミックのファン層には、これで充分と言え
るものなのかもしれない。
でも1本の映画としてみると如何せん話が甘すぎる。それに
今回は監督の演出力が弱い感じもして、全体的に何か中途半
端にも感じられた。本来ならもう少し締まりのある話になる
のだろうが、その辺が物足りなくも感じられたところだ。
それぞれのエピソードを細切れではなく、もう少し掘り下げ
て描いて欲しかった。そうすればもう少し何かが見えてきた
ような気がする。

とは言え、上に書いた条件の許ではこれでも充分なのかな。
その辺は僕には判断できないものだ。

『愛おしき隣人』“Du levande”
2003年2月2日付で紹介している『散歩する惑星』のロイ・
アンダースン監督によるそれ以来の新作。
前作同様、いろいろな出来事が脈絡無く提示されているよう
に見える作品。しかし、何人かの特定できる人物が繰り返し
登場するし、音楽が物語を繋いでいたりもする。その全体像
は俄には把握しにくいが、全体として何か微笑ましい物語が
展開しているものだ。
特に音楽は重要な意味を持たされているようで、最初のクラ
シカルな伴奏音楽から、ブラスバンド風、ロック調、あるい
はカントリー風などさまざまな音楽が、現実音であったり伴
奏であったり…さらには激しい雷雨の音響なども登場して、
いろいろな雰囲気を造り出す。
物語も現実と夢が交錯して、特にロックミュージシャンとそ
のファンのエピソードでは、かなり奇想天外な情景も描き出
される。そして最後は、これは正確に提示される訳ではない
が、見方によってはかなり衝撃的な画面で結ばれるものだ。
前作『散歩する惑星』もSF的な要素を含む作品だったが、
本作にもその傾向は見られる。その意味ではSFとしての評
価を下したいところだが、話がかなり巧妙に描かれていて即
断がし難い。
正直には、もう1度見直して自分の頭の中の整理もしたいと
ころだが、監督自身は本作を「人間の置かれた状況に関する
茶番劇」と称しているようで、脈絡の無い物語にはあまりそ
の意味の追求はできないようだ。
描かれるエピソードでは、テーブルクロスを引き抜こうとす
る男の話の中で、引き抜かれたテーブルクロスの下から現れ
るものに衝撃を受けた。この隠された現実?これが監督の描
きたかったテーマの一つであるのかも知れない。
結末を踏まえて敢えてSF的に解釈すれば、この物語の全体
はその全てが登場人物たちの一瞬の夢のようでもある。しか
し、それも僕の勝手な解釈なのだろう。

映画の全体はユーモアに溢れ、観ている間は何か心地よい雰
囲気を感じられる。そして、その感覚は観終えてからも持続
する。この感覚はすばらしいものだ。本作は昨年のカンヌ映
画祭「ある視点部門」で正式上映された。それがピッタリの
感じのする作品だ。

『告発のとき』“In the Valley of Elah”
『ミリオンダラー・ベイビー』『クラッシュ』が2年連続の
アカデミー賞作品賞に輝いた脚本家ポール・ハギスの新作。
ハギスは『クラッシュ』に続いて監督も手掛けている。
『硫黄島からの手紙』『父親たちの星条旗』『007/カジ
ノロヤイヤル』の脚本も手掛けるハギスは、ハリウッドでは
引く手あまたの人材と言える。そのハギスが敢えて次回作に
選んだのは、泥沼化するイラク戦争の現実を厳しく追求する
物語だった。
反戦思想の色も濃いその計画は、当初は政治姿勢を気にする
大手のスタジオからは敬遠されたようだ。しかし、クリント
・イーストウッドが支援を表明し、それによってようやく実
現に漕ぎ着けたとされる。
物語の主人公は、元military policeの退役軍人。その主人
公の許に、イラクの戦場から帰国した彼の息子が一時休暇で
町に出たまま基地に戻ってこないとの連絡が届く。息子の帰
国も知らされていなかった主人公は、不安に駆られその基地
のある町に向かう。
ところが基地での説明は要領を得ず、主人公は地元の警察に
も照会を求める。もちろん地元警察が軍の事件に関ることが
できないのは承知の上だ。そして無惨に焼かれた若者の遺体
が発見され、その犯行現場を巡って軍の警察隊と地元警察の
綱引きが始まる。
そんな中で、主人公は昔とった捜査の勘を発揮して、地元警
察の女性刑事に協力していくことになるが…それはやがて、
恐ろしい現実を彼に突きつけることになる。
現場を見ただけで状況を正確に把握する昔ながらの捜査官で
ある主人公の姿や、その一方で息子の携帯電話に残されてい
た画像データが徐々に復元されていく様子など、新旧の要素
が巧みに組み合わされて真実が明らかにされて行く。
『クラッシュ』は、複数の登場人物によるアンサンブルドラ
マだったが、今回はトミー・リー・ジョーンズの演じる退役
軍人が話の中心。そしてその物語に、シャーリズ・セロン扮
する女性刑事が絶妙に入ってくるもので、その展開のうまさ
にも唸らされた。
ジョーンズ、セロンの他に、スーザン・サランドンが共演。
また、ジェームズ・フランコ、ジェイソン・パトリック、ジ
ョシュ・ブローリンらも登場する。
アメリカ軍が進駐する中東イラクで今何が起きているのか、
エピローグで挙げられる星条旗の意味が深く心に突き刺さる
作品だった。

『ラフマニノフ〜ある愛の調べ〜』“Lilacs”
巻頭でライラックの咲き乱れる小路が描写され、ロシア革命
でアメリカに亡命した天才ピアニストにして作曲家=セルゲ
イ・ラフマニノフの苦悩を描くロシア映画。
1917年にアメリカに亡命したラフマニノフは、ピアノ制作者
のスタンウェイの支援のもと全米を巡る演奏ツアーを行って
大成功を納める。しかし、それによって作曲の時間を奪われ
たラフマニノフは、故国ロシアへの望郷の念と共に精神を乱
して行くことになる。
そんなとき、彼の許に匿名の贈り主からのライラックの花束
が届けられる。それは彼が子供の頃を過ごした家にも咲いて
いたものであり、彼を巡る3人の女性たちとの思い出にも繋
がるものだった。
ラフマニノフの子供時代は、父親が事業に失敗して破産、両
親の離婚など不遇なものだったようだ。しかし彼はピアノの
才能を認められ、音楽で生活していけるようになる。ところ
がそんな彼に1人の年上の女性が近づき、彼の人生は狂わさ
れる。
その年上の女性とはやがて別れるが、次に近づいてきたのは
マルクス主義を信奉する革命闘士の女性。だが、革命を認め
ないラフマニノフは彼女を認めることもできない。そんな彼
を、幼い頃から見詰める女性は別にいたのだが…
正に激動の時代を生きた天才の苦悩を描いた物語。特に始め
に描かれるカーネギーホールでの演奏会のエピソードは、こ
れから描かれる波乱の物語を予感させる。このつかみはうま
くできている感じがした。
その後もアメリカ各地での演奏会の様子は、移動シーンに当
時の鉄道やその他の記録映像を挟むなどして興味を引くよう
に描かれている。また演奏会そのもののシーンもそれなりに
丁寧に再現されていたようだ。
そして物語は、脚色された部分もあるが、大凡のエピソード
は事実に則したものとされており、それはドラマティックな
物語が展開するものだ。
ただ、アメリカのシーンでも台詞がすべてロシア語というの
は我慢するとしても、上映時間が97分と短いためか、劇中の
演奏のシーンがちょっと短いのは残念な気がした。他の作品
でもいろいろ聞かれるラフマニノフ作品とのことだが、失敗
作のシーンは別にしても、もう少し音楽を聞きたかった。

因にラフマニノフは、ドから1オクターブ上のソまで届く巨
大な手の持ち主で、ラフマニノフの和音と呼ばれる特別な奏
法も編み出したそうだ。それを聞いて、昔に観たアメリカの
テレビシリーズにそんなエピソードのあったことを思い出し
た。本作には全く関係のない話だが、そんな影響も残すほど
の人物だったようだ。

『ねこのひげ』
『力道山』や『THE JUON』などにも出演しているバ
イプレーヤーの大城英司が、自らの企画・製作・脚本・主演
で作り上げた作品。
それぞれが離婚あるいは別居して同棲を始めた男女の物語。
女性はキャリアウーマンで子供もいなかったが、男性は2人
の幼い子供を妻の許に残している。そんな男女と、彼らを見
守る周囲の人々の姿が、細かいエピソードの積み上げによっ
て描かれる。
作品は時間の前後が逆転して描かれたり、同じようなシーン
が男女のそれぞれにあったりと、いろいろトリッキーな構成
もされているが、全体的にはちゃんと整理されているという
か、良く練れらていて違和感もなく、気持ち良く観ることの
できる作品だった。
まあ、自分自身がこういう境遇にたち至ることはもはや無い
とは思うが、現実に離婚社会の現代を考えるとありそうな物
語ではあるし、そうなったところでの思いも拠らない事柄が
提示されて、なるほどなと思わされるところも多かった。
そういった意味では、いろいろ勉強にもなる作品だったとも
言えそうだ。実際、離婚が周囲に与える影響の深さなど、今
まで考えもしなかったことが提示されると、それなりに考え
てしまうところも多々あったものだ。
そんな事柄がうまく描かれた作品で、この脚本のどこまでが
実体験に基づいているか知らないが、丁寧な取材というか、
それなりの何かがあったのかなとは思わせる作品だった。つ
まりそれくらいに現実味が感じられた作品ということだ。
共演は、『愛の予感』などの渡辺真起子。他に、仁科貴、蛍
雪次朗、根岸季衣、藤田朋子、川上麻衣子ら現代日本映画の
バイプレーヤーたちが脇を固めている。
監督は、2000年に大城主演の『ある探偵の憂鬱』を自主製作
した矢城潤一。本作も自主製作の作品で、製作は2005年だが
2008年春に一般公開される。
ただ、本作はディジタルヴィデオで撮影され、公開もヴィデ
オで行われるようだが、試写会ではプロジェクターとの相性
もあるのか画質が芳しくなかった。特にハイライトの右側に
影響が出ていたようで、本上映がどうなるかは判らないが、
これはかなり気になった。

『恋の罠』“淫亂書生”(韓国映画)
2003年『スキャンダル』などの脚本家キム・デウによる初監
督作品。『シュリ』『ユゴ』などのハン・ソッキュが主演、
韓国では2週連続の興行第1位を記録、観客動員250万人を
越える大ヒットとなったそうだ。
韓国・李朝を時代背景に、実直と思われていた官吏が淫靡な
小説の戲作者となり、市井を席巻するベストセラーを作り出
す。ところがそれは王妃も巻き込んだ一大スキャンダルへと
発展し、飛んでもない事態を引き起こす。
一応の物語は知った上で試写会に出掛けたが、男性としては
思わずニヤリとする展開の連続で、予想した以上に面白い作
品だった。特に主人公がいろいろ淫乱な考えを捻り出すのが
愉快で、「いやあ、男って根っからスケベなんですね」とい
う感じのものだ。
このスケベ男を、ハンが実に楽しそうに演じているのも嬉し
くなった。共演は、王妃役に子役出身のキム・ミンジョン、
小説の版元役に『親切なクムジャさん』などのオ・ダルス、
さらに個性派俳優のイ・ボムスが挿絵画家を演じている。
主人公が挿絵画家に場面の説明をするシーンでは突然愉快な
VFXが使われたり、一方、かなり激しいアクションや拷問
シーンなども登場して、何しろ見せたいものはとことん追求
されている。
その他、当時の小説の流布の様子なども丁寧に描写され、ま
た李朝の豪華な衣裳や建物、いろいろな風物なども見事に再
現されている。特に提灯などを使った華麗な映像は、かなり
周到な準備の基に作り出されたもののようだ。
とは言うものの、物語は必要以上に重くすることなく、ある
種軽快に描かれている。それはハンのキャラクターによると
ころもありそうだが、正に第1級のエンターテインメントと
いう感じの作品だ。
因に、プレス資料には李朝と日本の春画に関する解説が載せ
られていたが、李朝の春画は日本のものに比べて写実的なの
だそうだ。そんな事実が物語の背景にもあるようで、その真
髄を追求しようとする主人公たちの行動にも頷けるところが
あったものだ。

『チェスト!』
小学生による鹿児島県錦江湾横断遠泳を背景に、訳ありの3
人の少年たちが成長して行く姿を描く。2006年の第8回日本
映画エンジェル大賞受賞企画の映画化。
自分が泳ぎが得意でないせいもあるが、どうもこの手の話は
引いてしまう。特に遠泳などと言われると、ああどうせ根性
・根性の話になるのだろうな、とも思ってしまう。
根性もコメディならなんとか許せるが、小学生の話では精神
論になるのが関の山、と言う先入観も生じるところだ。でも
映画には作りやすいし、作れば教育委員会などが推薦もして
くれそうで、それなりの評価も得やすいのがこの手の作品だ
ろう。
実際、エンジェル大賞は2002年第1回に2005年3月紹介した
『リンダリンダリンダ』が選ばれ、最近では去年10月紹介の
『全然大丈夫』が2004年第4回の受賞作だそうだが、それら
に比べるとずいぶん早く映画化されている。つまりそういう
企画ということだ。
と嫌みをいくつか書いてしまったが、「映画の食わず嫌いは
しない」が僕のコンセプトなので、この作品も観に行った。
で、観た感想はこれが意外と良かった。
まず本作で気に入ったのは、精神論がほとんど出てこない。
実際、この映画の中で精神論はある意味負けている。それで
も主人公たちが遠泳に立ち向かって行く姿が、それなりに子
供の目線でうまく描かれている感じがしたものだ。
そこには、離婚、リストラなどの社会的状況もそれなりに織
り込まれて、大人にも大人なりに理解できる物語になってい
た。まあ、多少くどいところもあるが、子供にも理解しやす
くすればこうなるのも仕方ないだろう。
ただ物語の設定で、3人のうち2人は遠泳に参加できない理
由が明白に描かれているのだが、肝心の主人公の理由があま
り納得できない。カナヅチというのがその理由というが、父
親が漁師でそれはないだろうというのが単純な印象で、ここ
にもう一つ何か明白な理由が欲しかったところではあった。

因に題名は、鹿児島地方で「気合いを入れるときのかけ声」
だそうで、最初は主人公が胸を叩いて使うのでchestの誤用
かとも思ったが、そうではなかったようだ。



2008年02月03日(日) 桃まつり真夜中の宴、フィクサー、燃えよ!ピンポン、アメリカを売った男、ブラブラバンバン、NAKBA、王妃の紋章

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『真夜中の宴』
プロデューサーなどの肩書きで、すでに映画業界に進出して
いる女性たちが集まって製作された短編集。公開はA、Bの
2プログラムに分けてそれぞれ6本ずつで行われるが、試写
会では1本ずつが未完成(?)で5本ずつが上映された。
全体の印象は、意あって力足らずなのか、全部が満足できる
という作品ではなかった。それに、撮影はいずれもディジタ
ルヴィデオ(DV)で行われているが、映画画質へのこだわ
りなのか、画面が妙に暗かったり薄ぼけていたりで、鑑賞に
は多少努力が要った。
その中で取り敢えず気に入ったのは、笹田留美監督・脚本・
主演の『座って!座って!』。実は、上映前に監督の挨拶が
あり、その時の印象と映画の中の印象のギャップもあって、
その辺でも感心したものだが、物語の纏まりも良く、会場で
数少ない笑い声の出た作品でもあった。
この作品は種も仕掛けもなくて、今回上映された10本の中で
は一番シンプルな作品かも知れない。しかし、そのシンプル
さが今回他の9作品に足りなかったのではないか、そんな感
じもしてきた。それは、今の日本映画の全体にも言えるよう
な気もするところだ。
その他では、大野敦子の『感じぬ渇きと』と『granite』の
2作が、水と火という対照的な題材を扱って気になったが、
特に前者で、海外の旱魃の話をここに持て来られても如何と
もしがたいもので、それが言いたいのなら、もっと別のやり
方があったのではないか。正に、意ばがりが先走っている感
じがしたものだ。
一方、竹本直美の『明日のかえり路』と『あしたのむこうが
わ』の2作は、共に父親と息子の関係を描いているが、これ
は自分が父親として違和感があった。特に後者では、敢えて
息子が死ぬ必要があったか、彼の息子は生きていてケーキ屋
が過去に息子を亡くしているという展開の方がドラマになっ
たような気もしたが…
去年は招待されなかったが、例年、年末にはNCWという映
画学校の学生さんたちによる短編の上映会を鑑賞してきた。
そこでも女性のクリエーターが増えてきて、中にはかなり注
目できる作品も登場している。
商業映画でも、昨年は『ゆれる』『めがね』『さくらん』な
ど女性監督による素晴らしい作品をいろいろ観させてもらっ
た。これからも女性監督の進出には期待したいものだ。

『フィクサー』“Michael Clayton”
主演のジョージ・クルーニーが今年のオスカー候補になって
いる作品。アメリカの法曹界を背景に、特別な業務に携わる
弁護士の姿を描く。
主人公のマイクル・クライトンは、中堅の法律事務所に所属
するベテラン弁護士。彼が携わる業務はその事務所の依頼人
が引き起こしたスキャンダルのもみ消し。それは、彼が業界
で長年培ってきた各方面とのコネクションがあってこそ可能
なものだった。
このため、彼の仕事は事務所内でも重宝がられていたものだ
が、彼自身はそんな裏の仕事には嫌気が差していた。しかし
ギャンブル好きの彼は、投資に失敗して多少やばい筋からの
多額の借金を抱えることになってしまう。
一方、彼の勤める法律事務所は、さらに大手事務所との合併
を画策しており、その手土産として公害企業に対する集団訴
訟での被告企業側の弁護の成功を目指していた。ところが、
その担当弁護士が突然おかしくなり、主人公はその始末をす
ることになるが…
この公害企業の法務担当者役を、『ライオンと魔女』で白い
魔女に扮したティルダ・スウィントンが演じ、彼女も助演賞
の候補になっている。また脚本と監督は、“Jason Bourne”
シリーズの脚本を手掛けたトニー・ギルロイ。監督はデビュ
ー作だが、本作で監督賞・脚本賞の候補にもなっている。
『エリン・ブロコビッチ』の逆で、本作は企業を守る側の弁
護士たちの物語、その内情が克明に紹介される。父親も監督
・脚本家のギルロイは、根っからの映画人のはずで、その彼
がどこからこの物語を思いついたのか判らないが、映画的に
実に面白く描かれていた。
実際にこのようなことが行われているか否かは判らないが、
あるかも知れないと思わせる展開は巧みで、正に映画を観た
という感じのする作品。その意味では存分に楽しめた。主人
公の周囲でいろいろ偶然が重なったりする部分はあるが、そ
れはそれというところだ。
それから、物語の中で主人公の息子が『王国と征服』と題さ
れたファンタシー小説を読んでおり、その内容もいろいろ紹
介される。これがかなりしっかりと設定も作られていたよう
で、監督には将来的にその映画化も期待したくなった。
その他、登場する企業のコマーシャルフィルムなどもちゃん
と作られており、いろいろ凝った作品になっている。

『燃えよ!ピンポン』“Balls of Fury”
今年はオリンピックイヤーということで、それに絡めてのス
ポーツコメディ。
ハリウッド映画のスポーツというと、野球やフットボール、
ホッケー、バスケットボールなどはありそうだが、個人戦で
はテニスがある程度のようだ。ましてや卓球となると、ほと
んど無く、プレス資料には『フォレスト・ガンプ』が挙がっ
ているだけだった。
因にデータベースで調べてみると、1970年『ファイブ・イー
ジー・ピーセス』や、2001年『ブロンドと柩の謎』なども挙
がっているが、どちらも観てはいるがそのシーンが記憶にな
い。なお、昨年アメリカでは大ヒットした“Knocked Up”も
挙がってきたが、さてどんなものなのだろう。
そんな卓球は、1988年のソウルオリンピックで正式種目とな
ったとのことで、本作の主人公は、弱冠12歳でそのアメリカ
代表に選ばれたという天才卓球選手。ところが、準決勝での
アクシデントで棄権とされ、メダルに手が届かなかった。
それから20年、ラスヴェガスの場末でマチネのショウに出て
いる主人公の許にエージェントが現れる。そのエージェント
は、裏社会で開かれている卓球世界選手権への出場を彼に求
めてくる。それは20年前、彼の父親の命を奪った男が主催し
ているものでもあった。
ところが、20年を経た主人公は華麗な技も錆付き気味。そこ
で中華街に住む伝説の師匠の許で卓球の極意を学び直すこと
になるが、そこには魅力的な女性の師範代がいて…
主演は、2005年のトニー賞で新人賞を受賞、映画の次回作で
はアルフレッド・ヒッチコックを演じる予定という注目の若
手ダン・フォグラー。共演は、『ヘアスプレー』のクリスト
ファー・ウォーケン、『シャークボーイ&マグマガール』の
ジョージ・ロペス、『M:i:III』のマギー・Q、『慕情』な
どのジェームズ・ホン。それにTV『ヒーローズ』で人気の
マシ・オカがゲスト出演している。
脚本は、『ナイト・ミュージアム』や、ヴィン・ディーゼル
主演『キャプテン・ウルフ』などのロバート・ベン・ガラン
トとトーマス・レモン。ガラントは、本作で監督デビューも
しているものだ。レモンは東ドイツ選手役で出演。
マギー・Qの華麗なカンフーアクションが展開されたり、負
けると泣き出す東洋人の少女卓球選手が出てきたり、アジア
の観客には受けそうな要素もいろいろ織り込まれている。そ
れにウォーケンも含めた出演陣が、実に楽しそうに演じてい
るのも良い感じの作品だった。
日本映画の『ピンポン』と同様、CGIを多用した作品で、
その辺に多少被るところはあるが、その他の要素もいろいろ
取り入れて、全体的にハリウッド映画らしい作品に仕上げら
れている。ピンポンの魅力も理解される日本では、アメリカ
以上のヒットを期待したいところだ。

『アメリカを売った男』“Breach”
2001年2月18日、「アメリカ合衆国史上最悪の情報災害」と
呼ばれたロバート・ハンセンFBI捜査官逮捕に至る2カ月
間の捜査を描いた実話に基づく作品。
FBIの訓練捜査官エリック・オニールは、正式捜査官を目
指して情報収集の任務に着いていたが、ある日上司から新設
の「情報管理部」勤務を命じられる。そこはFBIでNo.1と
も謳われるハンセン特別捜査官がトップとなる部署だった。
ところがオニールには、同時にハンセンの行動を監視する任
務が与えられる。ハンセンは性的に不信な行動があり、その
事実を把握せよという命令だったが…。オニールがいくら監
視しても、敬虔なクリスチャンのハンセンに怪しい素振りは
なかった。
やがてオニールはハンセンの家族にも紹介され、オニールの
妻のジュリアナも共に家族のつきあいを始めることになる。
しかしそれは、事情の伝えられないジュリアナの不信も買う
ことになってしまう。そしてその裏側では、捜査が着実に進
められていた。
オニール本人が特別コンサルタントとして参加し、FBIの
許諾の許に製作された映画とされる。脚本監督は、2003年の
ヘイデン・クリステンセン主演作『ニュースの天才』などの
ビリー・レイ。撮影の一部は、実際のFBIの建物の中でも
行われているそうだ。
従って、物語はかなり現実に近いものになっているようだ。
それは正に「事実は小説より奇なり」という感じの、緊迫感
に満ちた作品になっている。特に僅かの時間にハンセンの身
辺を探るシーンなどは、スパイ映画さながらのものだ。
ところがこの物語の中では、ハンセンが二重スパイになった
理由や切っ掛けなどは明白に示されない。実際に、20年間も
二重生活を送れたことにはそれなりの事情があるようにも思
えるのだが、その辺がはっきりしないのだ。
これはアメリカ人にしてみれば、国家的犯罪者の男の言い訳
など聞きたくもないというところかも知れないが、部外者の
日本人としてはその辺が釈然としなかった。
しかし実際のハンセン自身も、映画の中と同様、金のためと
いうこと以上には口をつぐんでいるようで、この辺は致し方
ないところでもあるようだ。まあ、実際のスパイの切っ掛け
というのはそんなものなのかも知れない。
ハンセン役はオスカー受賞俳優のクリス・クーパー。オニー
ル役に『父親たちの星条旗』などのライアン・フィリップ。
他に、ローラ・レニーらが共演。迫真の演技を繰り広げる。

『ブラブラバンバン』
週刊ヤングサンデーで1999年から連載された柏木ハルコ原作
コミックスの映画化。
音楽の演奏を始めるとその中にのめり込み過ぎて、時として
ちょっとエッチな暴走をしてしまう女学生ホルン奏者と、一
旦は廃部してしまった高校吹奏楽部の再建を巡る物語。
主人公は、中学で吹奏楽部にいたが、同級生の部員に告白し
たらあえなく振られ、吹奏楽で有名な学校に進学した彼女の
後は追わずにこの学校に来たという内気な少年。ところがこ
こで、無心にホルンを吹く1年上の女学生に出会ったことか
ら、彼の学園生活が変わり始める。
彼は、その先輩と共に演奏することを夢見て吹奏楽部の再建
に協力するが、さらに先輩を巡るライヴァルの出現と、その
ライヴァルを取り巻く女生徒たちがいろいろなドラマを繰り
広げる。
学園もので音楽というと、最近ではコーラスの『うた魂♪』
を紹介しているが、他にも『リンダ、リンダ、リンダ』とか
いろいろ紹介してきた。でも今回はテーマが吹奏楽というこ
とで、演奏される楽曲もラヴェルやボロディンなど、高校生
を感じさせるものが揃っていた。
そんな楽曲に合わせて物語が進行するものだが、ここでは、
ちょっとエキセントリックな女学生という設定にも変化があ
って、その彩りが面白く物語を見せていた。
主演は、ストリートダンサーからスカウトされたという福本
有希と、ミュージシャンでもある安良城紅。共に映画は初め
てのようだが、物語に填った演技を見せてくれる。共演は、
『ROBO☆ROCK』の岡田将生、『夜のピクニック』の
近野成美など。
さらにさとう珠緒、藤村俊二、森本レオ、原日出子、宇崎竜
童らが脇を固める。
ホルン独奏によるラヴェルの「ボレロ」に始まって、チャイ
コフスキーの「花のワルツ」、ボロディン「ダッタン人の踊
り」、ラヴェル「ダフニスとクロエ」など、いろいろな曲が
演奏される。
その演奏は、1曲を除いて専門の演奏家が吹き替えており、
音楽自体は聴き易く演出されている。でも出演者たちの指使
いなどもけっこう様になっていて、それは落ち着いて楽しめ
たものだ。特に、丘の上の演奏でパーカッションが入ってく
るところは感動的だった。
脚本・監督は、2001年『青の瞬間』がヒューストン国際映画
祭で受賞している草野陽花。プレス資料に掲載されたプロダ
クションノートを監督が書いているが、監督自らこれを書く
のは珍しいこと、それだけ気持ちの入っている作品と言えそ
うだ。

『NAKBA−パレスチナ1948−』
フォトジャーナリストの広河隆一の撮影・監督・写真による
パレスチナ難民の姿を描いたドキュメンタリー作品。
歴史の授業では、単に1948年に建国、その裏ではイギリスが
手引きしたとだけ教えられるユダヤ人国家の誕生。しかしそ
のとき、どうやってパレスチナ人を追い出したのかずっと疑
問だった。その疑問にかなり明白に答えてくれる、そんな感
じの作品だ。
1943年生まれの広河は1967年にイスラエルに渡り、ユダヤ人
パレスチナ入植者による社会主義的な共同体キブツで暮らし
ていた。彼がいた共同体はキブツダリアと呼ばれ、その近く
には白い石が散乱し、サボテンの生えた小高い丘があった。
しかしその場所の由来について、ユダヤ人たちは訊いても言
葉を濁していたそうだ。
そんな広河は、イスラエルによる周辺国への侵攻を目の当り
にして、ユダヤ人によるパレスチナ占領に反対するユダヤ人
の組織マツペンに参加する。そのマツペンの資料から、その
場所がかつてダリアトルーハと呼ばれたパレスチナ人の村の
跡であったことを知る。
1982年、レバノンのパレスチナ難民キャンプでの大虐殺を、
その直後に取材した広河は、その報道によってフォトジャー
ナリストとしての地位を確立する。そしてそのキャンプで出
会ったパレスチナ人一家の生活を追いながら、広河は入植地
に消えた村の調査を開始する。
その調査の過程で、そのような村がイスラエル全土で420も
あったことが判明。やがて、生き残りの村民たちの口から当
時の出来事が語られ始める。NAKBAとは、ヘブライ語で
「大惨事」という意味だそうだ。
1948年、その場所では、国家による「民族浄化」に等しい殺
戮が行われた。ホロコーストを生き延びたユダヤ人が、何故
そのようなことをできたのか。そんな疑問を挟みながら、そ
のNAKBAが今も続いている現実が綴られて行く。
取材は、2006年分まで写し出されるが、最近の部分でもパレ
スチナ難民キャンプの廃虚と化した惨状が描写されている。
それ以前の部分でも、生々しい遺体なども写し出され、いろ
いろな意味での現実が突きつけられる作品だった。
もっと「消えた村」のことを中心に編集して、それ以外のパ
レスチナ人姉妹の話などは別の作品にしても良かったような
気もする。しかし、それでは観客が制限されてしまいそうで
もあるし、この辺のバランスが良いのかも知れない。
より詳しく知りたい人には、写真展なども併せて開催される
ようだ。

『王妃の紋章』“満城尽帯黄金甲”
『HERO』『LOVERS』のチャン・イーモウ監督が描
き出す中国歴史絵巻。
西暦618−907年に栄えた前唐に対して、五代十国に織り込ま
れる後唐は923−936年の短命に終ってしまう。それは堕落と
戦争、政治的な陰謀に満ちた混乱の時代であった。しかしそ
の一方で、前唐の栄華を引き継ぐ宮殿は、黄金にあふれた豪
華絢爛の世界でもあった。
そんな宮殿を背景に、国王と王妃、前王妃の息子(皇太子)
と現王妃の息子(第2王子)などが、権力の座を目指して陰
謀や戦いを繰り広げる。
国王は、宮廷医に命じて病気がちの王妃にいろいろな煎じ薬
を飲ませていたが、その薬には謎があるらしい。一方、王妃
は優れぬ体調の中、重陽節の衣裳に付ける菊の刺繍を続けて
いるが、その刺繍にも何か秘密があるようだ。
その王妃は血の繋がらない皇太子と密会を続けており、皇太
子は宮廷医の娘と宮殿を脱出する相談をしている。そして、
北方の戦地から戻った第2王子は、国王から一言の忠告を受
けるが、再会した実母王妃の衰えた姿にショックを受ける。
監督は、アクションの中にも人間ドラマを描くことを目指し
たとしており、かなり濃密な人間ドラマが描かれる。しかし
物語の展開は明瞭で、特に本作では外交が絡まないから中国
の歴史を知らなくても判りやすいものになっている。因に、
映画に登場する王国は架空のものだそうだ。
そしてこの物語が、『アンナと王様』のチョウ・ユンファと
『SAYURI』のコン・リーの共演で映画化された。世界
の映画界で活躍する2人だが、意外なことに共演は初めてだ
そうで、それも話題になっている。
他に、チェン・カイコー監督『PROMISE』などに出演
のリウ・イェ、台湾出身の人気ポップスター=ジェイ・チョ
ウらが共演している。
正に豪華絢爛という感じの宮廷セットから、空中戦も登場す
る華麗なアクションシーン、そして数千の兵士が画面を埋め
尽くす大群衆シーンなど、中国映画の極致とも言える作品。
さすが北京オリンピックの総合演出も任せられたイーモウ監
督というところだ。
本作が見事な娯楽作品であることは間違いない。ただ、娯楽
アクション映画ももちろん良いのだけれど、これでは監督が
『初恋のきた道』に戻ることは当分できそうにないのかな。
ちょっとそんなことも考えてしまった。



2008年02月01日(金) 第152回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は新年早々のショックだったこの話題から。
 SF/ファンタシー系の映画ファンにもいろいろ馴染みの
あった2人の若手俳優が相次いで亡くなった。
 先は1月15日に亡くなったブラッド・レンフロー。レンフ
ローは、1994年の『依頼人』、1995年の『マイ・フレンド・
フォーエバー』などで知られているが、僕には1998年の東京
国際映画祭に出品された“Apt Pupil”(ゴールデン・ボー
イ)が印象に残る。イアン・マッケラン扮する元ナチの戦犯
を追い詰めながら、逆にそれに感化されて行く少年の姿は、
当時の世相も反映して恐ろしいくらいの迫真のものだった。
彼はこの演技で映画祭の主演男優賞も獲得したものだ。
 しかしその後は、麻薬絡みの事件で繰り返し逮捕されるな
ど私生活は乱れ続け、映画の仕事もあまり芳しいものは残し
ていない。最近では、2005年12月29日に紹介した『ジャケッ
ト』にも出演していたが、The Strangerという役名で、主役
級のものではなかった。ただ、現在ポストプロダクション中
の“The Informers”という作品は、『レス・ザン・ゼロ』
などのブレット・イーストン・エリスの原作で、作品紹介欄
にはvampireなどという単語も見えるもの。1983年のロサン
ゼルスを舞台にした群像劇とのことで、アンサンブルキャス
トの一員としての出演だが、海外での公開は今年の秋以降に
予定されており、映画祭などでの上映も期待したいものだ。
        *         *
 そして、もう1人は1月17日に亡くなったヒース・レジャ
ー。レジャーは、2005年の『ブローバック・マウンテン』で
アカデミー賞にノミネートされるなど、正にキャリアの絶頂
という感じだった。そのレジャーが敵役ジョーカーに扮した
『バットマン・ビギンズ』の続編“The Dark Knight”は、
すでに撮影完了しており、7月18日に全米公開が確定してい
る。日本公開は9月20日の予定だそうだ。
 しかし、続けて撮影に入っていたテリー・ギリアム監督の
“The Imaginarium of Doctor Parnassus”(第147回参照)
は、実写部分の撮影を終了して、これからVFXシーン用の
撮影となっていたもので、実はこの作品の製作続行がかなり
厳しくなっている。
 実際、ギリアム監督はかなりお手上げ状態のようで、急遽
信頼関係のあるジョニー・デップに応援を求めたという情報
もあったようだが、それも実現は難しそうだ。つまり、現実
と想像の世界が交錯する物語で、撮影はイギリスでの現実シ
ーンが終り、これからカナダ・ヴァンクーヴァの撮影所で想
像シーンの撮影となっていた。そこで、この想像シーンだけ
配役をデップに変えるというアイデアだったようなのだが、
デップにはすでにマイクル・マン監督の“Public Enemies”
の撮影が決まっていて、スケジュールが取れそうにない。
 因に、ヴァンクーヴァでのVFX撮影の予定は3月上旬ま
でとされていたものだが、一方“Public Enemies”の撮影開
始はシカゴで3月10日となっており、スケジュールはかなり
タイトになる。しかも、夏に予定されるストライキのことも
考えると撮影開始を遅らせる訳には行かず、シカゴとヴァン
クーヴァでは掛け持ちも難しい。
 ということでデップの出演が難しいとなると、レジャー/
デップ・クラスの俳優での代役は見付かりそうになく、製作
続行はかなり厳しいのが現実のようだ。ギリアム監督では、
2000年にデップ主演で進められていた“The Man Who Killed
Don Quixote”が、共演者ジャン・ロシュフォールの急病で
製作中止になって以来の、悪夢再来となってしまいそうだ。
一方、亡くなったレジャーも、今年のオスカー候補になって
いるエレン・ペイジを主演に迎えての監督デビューが計画さ
れていたようだが、それも観ぬ夢に終ってしまったものだ。
 なお、レジャーの死因は薬物の過剰な摂取とされており、
レンフローの死因は公表されていないが、彼の最近の行状か
ら見て同じ死因と考える向きが多いようだ。薬物の問題は、
アメリカ映画でもたびたび取り上げられ、国家的な大問題だ
と思うのだが、現在行われている大統領予備選挙でもあまり
争点になっているようにも見えず、一体どうしたことかと思
ってしまうところだ。
        *         *
 以下は、いつもの製作ニュースを紹介しよう。
 先ずは流れというのも何だが、前回クリスチャン・ベール
の共演を報告したマイクル・マン監督の“Public Enemies”
に、さらに『エディット・ピアフ』の演技でアカデミー賞に
ノミネートされているフランス人女優マリオン・コティアー
ルが出演し、ジョニー・デップ扮する銀行強盗犯ジョン・デ
リンジャーの恋人役を演じることが発表された。
 因にコティアールはかなりの長身ということで、デップの
恋人役には身長が心配だという声もあるようだが、オスカー
候補作では実は小柄だった歌姫を見事に演じていたもので、
その辺のことは了解済みだろう。ただし、前作の撮影もかな
り苦労したとは語っていたようだが…
 なお、コティアールは、WGAのストライキで製作延期と
なった“Nine”への出演が予定されていたもので、その替り
の出演となっているものだが、本人は、ジャヴィアー・バー
デン、ペネロペ・クルス、ソフィア・ローレンらと共演する
ミュージカル映画にもまだ期待を持っているそうだ。
 また今回の計画では他に、チャニング・テイタム、ジョン
・オーティス、ジョヴァンニ・リビシ、スティーヴン・ドー
フらがギャング側の配役で発表されている。この内、テイタ
ムとオーティスは、実はストライキの影響で製作中止に追い
込まれた“Pinkville”に出演予定されていたとのことで、
ストライキの影響は各方面にさまざまなようだ。
        *         *
 話が芋づる式になっているが、次は“Pinkville”が製作
中止に追い込まれたオリヴァ・ストーン監督の情報で、それ
に替る作品の計画が発表されている。
 作品の題名は“Bush”。現アメリカ大統領ジョージ・W・
ブッシュのこれまでの人生と、大統領としての職責を描く作
品になるということだ。因にストーンは、ブッシュ政権のイ
ラク侵攻政策には批判的な発言もしているようだが、映画は
アンチブッシュの視点で描かれるものではなく、ブッシュが
如何にして権力を握ることができたかなどの、ブッシュ自身
に迫った作品になるとしている。
 ただしストーンによると、敬虔なクリスチャンのブッシュ
大統領は、「神のご意志によって大統領になることを定めら
れていた」との発言もしているのだそうで、その神の意志が
イラク侵略に向かわせたという展開にもなるようだ。
 脚本は、1987年の『ウォール街』でもストーンに協力した
スタンリー・ワイザー。ワイザーは1年以上を掛けた綿密な
調査の上で、WGAのストライキの期限以前にこの脚本を仕
上げていたとのことで、“Pinkville”の製作中止決定後、
直ちに提案が行われたそうだ。
 なお本作の製作には、昨年11月15日付第147回で紹介した
ピーター・ジャクスン製作のSF映画“District 9”も手掛
けるQEDが2500万ドルの資金提供を契約しており、映画の
製作は問題なく行われそうだ。また主演には『ノーカントリ
ー』のジョシュ・ブローリンが期待されており、さらに撮影
スタッフには“Pinkville”に関っていた人たちを出来るだ
け起用したいとのことだ。
 ストーンは、1991年の『JFK』と95年の『ニクソン』で
もアメリカ大統領を描いており今回が3人目。大統領選挙の
年にどんな大統領を見せてくれるのだろうか。撮影は4月に
開始の予定で、公開は11月の大統領選挙の投票日前に行いた
いとしている。
 ただし、本作の配給会社は未定。“District 9”の配給は
ソニーが契約しているが、中止された“Pinkville”もMG
M/UA=ソニーだったもので、さてどうなるだろうか。
        *         *
 “James Bond 22”の仮題名で製作準備の進められていた
シリーズ最新作の撮影が1月3日に開始され、その公開題名
が“Quantum of Solace”になることが発表された。
 同名のイアン・フレミングの原作は、1960年に出版された
短編集“For Your Eyes Only”に納められたもので、オリジ
ナルはキューバ革命を背景にしてバミューダ諸島のナッソー
を舞台にした、サマセット・モームの作品のような人間関係
を描いた短編だそうだ。
 と言ってもこの物語が映画化されるものではなく、これは
あくまでも題名だけの採用。そして映画の物語は、正に前作
『カジノ・ロワイヤル』の最後のシーンの2分後から再開さ
れ、復讐に燃えるボンドはオーストリア、イタリア、そして
中南米へと冒険を繰り広げて行くとされている。
 主演は前作に引き続きダニエル・クレイグ。共演は、今回
の敵役ドミニク・グリーンに、『潜水服は蝶の夢をみる』の
マチュー・アマルリク、またウクライナ出身のオルガ・クリ
レンコがボンドガールとして登場、さらにイギリス人女優の
ジェンマ・アルタートンがMI6のエージェントに扮する。他
にジュディ・ディンチ、ジェフリー・ライト、ジャンカルロ
・ジャンニーニらも前作から引き続き登場。また前作でMr.
ホワイトを演じたジェスパー・クリステンセンもキャスティ
ングされている。
 監督は、『チョコレート』などのマーク・フォースター。
脚本は、ニール・パーヴィス、ロバート・ウェイドとポール
・ハギス。なおイギリスでは1500人規模のエキストラの募集
もされているそうで、かなり大掛かりな撮影も行われている
ようだ。そして撮影は4月29日にはオーストリア西部の古都
ブレゲンツに移動され、さらに5月10日まで行われて、公開
は今年11月7日に予定されている。
        *         *
 ピクサー+ディズニーの大元となった“Toy Story”の第
3作が製作されることは以前に紹介しているが、第2作の共
同監督を勤めたリー・アンクリッチの監督で2010年6月18日
の全米公開が予定される第3作に先駆け、第1作と第2作が
3D版で再公開されることが発表された。
 この計画は、『ナイトメア・ビフォー・クリスマス』と同
様の2Dのフィルムから3D化されるものだが、この3D化
の作業では、前2作を手掛けたジョン・ラセターが直接監修
をすることになっている。そして全米公開は、第1作の3D
版が2009年10月2日、第2作が10年2月12日となっており、
そのまま3D製作される第3作の公開に繋げられるものだ。
 なお、ピクサー社の2009年公開新作には、昨年7月1日付
第138回で紹介した“Up”が6月12日に予定されているもの
だが、その作品までは2D公開の予定で、それ以降は一気に
3D攻勢となりそうだ。
 一方、ディズニー社全体の3D計画では、昨年7月15日付
第139回で紹介したロバート・ゼメキス監督、ジム・キャリ
ー主演のパフォーマンス・キャプチャー作品“A Christmas
Carol”が、2009年11月6日の全米公開予定で撮影中の他、
今年11月26日の全米公開予定で“Bolt”というジャーマン・
シェパード犬が主人公のアニメーション作品の製作も3Dで
進められている。
 さらに、12月1日付第148回で紹介したティム・バートン
監督の“Frankenweenie”と“Alice in Wonderland”は、共
にまだプレプロダクションの段階だが、“Frankenweenie”
の公開は2009年12月、また“Alice…”は5月の撮影開始が
予定されており、こちらも3D攻勢は果敢に進められるよう
だ。
 いよいよ3D時代の本格開幕だが、昨年の12月には全国で
10館が一斉3D化されたとはいえ、まだまだ小規模な対応の
日本はこの先どうなるのだろうか。
        *         *
 ここからはSF/ファンタシー系の映画情報を紹介する。
 先ずは続報で、2006年11月15日付第123回で紹介したコー
マック・マッカーシー原作“The Road”の映画化が、ヴィゴ
・モーテンセン、シャーリズ・セロンの共演で進められるこ
とが発表された。
 この作品は、以前に紹介したように核戦争後の世界を舞台
としたもので、かなり厳しい状況の許、父親が息子を安全地
帯に連れていこうとする物語。その間にはかなりダークな現
実が描かれるとされる。そして前回の紹介では、大手映画会
社での製作は見送られたということだったが、今回の情報に
よるとアメリカ国内の配給が、TWCのジャンルブランド=
ディメンションと契約されたとのことだ。
 監督は、前回紹介から変らずオーストラリア出身のジョン
・ヒルコット。また脚色を、2004年にダニエル・クレイグ、
サマンサ・モートン共演で映画化された“Enduring Love”
(Jの悲劇)のジョー・ペンホールが担当している。
 なおモーテンセンは父親役、セロンは母親役だが回想シー
ンに登場するだけとのこと。また息子役には、撮影中の『X
−メン』のスピンオフ作品“X-Men Origins: Wolverline”
でローガンの若き日を演じるコディ・スミット−マクフィー
が出演予定とされている。他に、監督の前作に主演したガイ
・ピアースも出演者となっているようだ。
 マッカーシーの原作による『ノーカントリー』は、今年の
アカデミー賞で作品賞を含む8部門の候補になって賑わして
いるし、モーテンセンも主演賞候補になったところで、この
顔ぶれはかなり強力と言える。その強力な顔ぶれでかなり厳
しいと言われる内容の物語が、果たしてちゃんと映画化でき
るかどうか、期待して待ちたいところだ。
        *         *
 吸血鬼と狼人間との戦いを描く“Underworld”シリーズの
第3弾“Underworld: The Rise of the Lycans”については
昨年11月1日付第146回で紹介したが、現在撮影中の作品に
加えて第4弾の計画も進んでいることが報告された。
 計画されている物語についてはまだ極秘とされているが、
第3作までを作った上で必要になった物語とのことで、最初
の2作でケイト・ベッキンセールが演じた吸血鬼の女戦士セ
レーンと、スコット・スピードマンが演じた狼人間マイクル
・コルヴィンが再び登場する可能性が高そうだ。
 因に、当初の計画は第1作、第2作の後に前日譚を描くと
いう、現在進行中の計画の通りだったそうだが、その中から
新たな物語が誕生してきたとのことで、製作しているレイク
ショアの幹部は、「3作を踏まえた上での、最も強力な作品
になる」と期待を表明している。
 その作品にベッキンセールとレン・ワイズマンがどのよう
に関っているかは明確でないが、ワイズマンが参加すれば、
実生活でもパートナーのベッキンセールの参加も自動的に決
まるもので、再びあの女戦士の姿が見られるのは嬉しいこと
ではある。ただ、現状は第3作が撮影中な訳で、取り敢えず
はそれが終ってからの話になるものだ。
 マイクル・シーンが演じる狼人間のリーダー=ルシアンの
誕生を描く第3作は、前2作にも登場のビル・ナイ、シェー
ン・ブロリーに加えて、新たにソニアという役で『ナンバー
23』などのローナ・ミトラが参加。クリーチャー・デザイ
ナーのパトリック・タトポウロスの監督の許、2009年の公開
を目指して撮影が進められている。
        *         *
 コミックスの映画化で、2004年にリーアム・ニースン主演
の『愛についてのキンゼイ・リポート』などを製作したマリ
アド・ピクチャーズと、新興コミックス・クリエーター集団
のスタジオ407が提携を結び、その第1弾としてスタジオ
407が手掛けるホラー・コミックス“Hybrid”の実写映画
化を進めることが発表された。
 物語は、大学生のグループが夏休みの航海中に放棄された
トロール漁船を見つけるが、それは進化した魚ミュータント
の巣窟だったというもの。原作のストーリーは、編集助手と
して2002年“The Mothman Prophecies”(プロフェッシー)
などにも関ったピーター・ウォンが執筆したもので、コミッ
クスは6月に出版の予定、ウォンは映画化の脚本も手掛ける
ことになっている。
 まあ単純には、『エイリアン』の海洋版という感じの作品
になりそうだが、ホラーとしてどんな物語が展開されるか楽
しみだ。現状は複数の監督に脚本を提示中という段階で、監
督が決まれば今年の夏ごろの撮影開始を目指し、東南アジア
のタイ近海での撮影が計画されている。
 因にマリアド社では、この他にダリオ・アルジェント監督
が娘のアーシアを主演にしたホラー作品“La Terza madre”
や、ジリアン・アームストロング監督、キャサリン・ゼタ=
ジョーンズ、ガイ・ピアースの共演で、1926年当時のハリー
・フーディニの行動を描いた“Death Defying Acts”なども
手掛けており、いずれもちょっとファンタスティックな内容
の作品のようだ。また、今回の計画は第1弾ということで、
今後の計画も注目されるところだ。
        *         *
 あとは短いニュースをまとめておこう。
 今年のアメリカ・サンダンス映画祭に出品されたスペイン
映画“Los Cronocrimenes”のリメイク権をユナイテッド・
アーチスツ(UA)が獲得し、アメリカ映画“Timecrimes”
として製作することが発表された。物語は、訳もわからず過
去に引き戻された主人公が、森の中で裸の女と一緒にいる自
分の顔を持つ男を発見するというもの。そして、いろいろな
恐怖や、ドラマや、サスペンスのシーンがジグソウパズルの
ピースのように提示され、理解不能の物語が展開するものの
ようだ。それでなくても、論理的なストーリー展開が難しい
タイムトラヴェルものだが、物語はさらに複雑な展開をして
いるようで、果たして論理的なリメイクができるかどうか、
製作を担当するスティーヴ・ザリアンの手腕が試される。
 “Dragon Ball”の実写映画化は順調に進められているよ
うだが、同じく日本製コミックス=アニメの原作で以前から
期待されていた“AstroBoy”の映画化がついに動き出したよ
うだ。ただし、映画化はCGIアニメーションで進められる
もので、その監督に『マウスタウン』などのデイヴィッド・
バワーズの起用が発表されている。因にこの監督には、当初
『トイストーリー』などのアニメーターのコリン・ブラディ
が抜擢されていたが途中交代となっている。脚本は、『マダ
ガスカル』からのスピンオフで2005年製作“The Madagascar
Penguins in: A Christmas Caper”なども手掛けたマイクル
・ラチャンスが担当。因にラチャンスは、今年公開の“Kung
Fu Panda”や『森のリトルギャング』『シャーク・テール』
の製作などにも関っていたようだ。製作は、香港とロサンゼ
ルスに本拠を置くイメージ・スタジオ。同社は昨年公開され
た“TMNT”(『ニンジャ・タートル』のCGI長編版)の製
作も担当していた。
 最後にスウェーデンから“Metropia”と言う長編アニメー
ションと実写の合成作品が紹介されている。この作品は製作
に4年を費やしているということだが、石油の枯渇した未来
社会を描いているものだそうだ。そしてこの作品の声優に、
ジュリエット・ルイス、ヴィンセント・ギャロ、ウド・キア
らの出演が発表された。監督はタレク・サレー、映画の製作
費500万ドルで、2009年春の公開が予定されている。今年の
アカデミー賞長編アニメーション部門の候補にはフランスの
『ペルセポリス』が挙がったが、各国のアニメーションも力
が入り始めているようだ。


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井口健二