井口健二のOn the Production
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2007年02月28日(水) ボルベール、ラブソングができるまで、石の微笑、チャーリーとパパの飛行機、ルネッサンス、暗黒街の男たち、輝ける女たち

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ボルベール<帰郷>』“Volver”
『トーク・トゥ・ハー』のペドロ・アルモドバル監督が、昨
年のカンヌ映画祭で脚本賞に輝いたスペイン映画。主演のペ
ネロペ・クルスは、アメリカ映画アカデミーの主演女優賞に
もノミネートされた。
監督の生地でもあるラ・マンチャ地方。強い風が吹き、死者
の甦りの話も普通に語られる。そして、精神病患者の発生率
も国内一という。そんな土地柄を背景に、女性たちの数奇な
物語が展開する。
主人公は、幼い頃に両親の許から離れて育った女性。だから
彼女には自分の娘への思いが人一倍だった。その娘が殺人を
犯してしまう。その罪を隠すために奔走する母親。しかしそ
れが思わぬ事態を引き起こす。
一方、彼女には幼い自分を手放した両親との間に確執があっ
たが、その両親もすでに亡くなって久しい。ところが、その
母親が甦ったらしいという噂が近所で立ち始める。幽霊は現
世に残した思いを遂げるために甦るというのだが…
アルモドバルは、今、最も自由に映画を撮れる監督と言われ
ているそうだ。そういう監督だからこそ自由自在に描けた故
郷への想い、そんな感じのする作品だ。
幽霊が普通に語られる何てことは、それ自体が変な話なのだ
が、その変な話を見事に物語にして、母子3代にわたる愛憎
が語られていく。そこには誤解や不知やいろいろなものが介
在するが、それが和解に向けて見事に作用して行く。
しかも、物語全体はコメディタッチでユーモラスに描かれて
いる。まあ中心に殺人という重い題材があるから、コメディ
にしないと描き切れなかったのだろうが、それを実に軽やか
に描いているのにはさすがという感じがした。脚本賞も納得
できる作品だ。
共演者は、母親役にカルメン・マウラ、娘役にヨアンナ・コ
バ。他に、ロラ・ドゥニヤス、ブランカ・ポルティージョ。
主要な登場人物が全部女性というのも素敵なところだ。
なお、原題は「帰郷」の意味とのことだが、1930年代に発表
されたタンゴの名曲から採られたものだそうで、その歌も劇
中で重要な意味を持って歌われている。

『ラブソングができるまで』“Music and Lyrics”
ヒュー・グラントとドリュー・バリモア共演のロマンティッ
クコメディ。
主人公は、1980年代に大ヒットを飛ばしたポップグループで
セカンドヴォーカルだった男。トップヴォーカルがソロ活動
で人気が出たためにグループは解散し、彼もソロデビューは
するが失敗した。
そんな彼に、昔の彼のファンだったという人気女性歌手から
新曲の依頼が来る。だがそれは、6日後にレコーディングす
るアルバムに入れたいという無茶な注文。しかも、作詞は出
来ないとする彼に用意された作詞家は、ちょっと使えそうに
ない奴だった。
そんな時、彼の部屋の観葉植物の手入れをしにきた女性が、
彼の口ずさんだ出だしの詩に、独言で続きを付けてみせる。
それを聞いた主人公は彼女に続きの作詞を依頼するのだが…
彼女にはそういうことをしたくない理由があった。
人生の黄昏時に再び栄光を取り戻したい男性と、過去の過ち
に囚われて前に進めない女性。そんな2人がお互いを見つめ
あって、新たな世界へ1歩を踏み出そうとする。映画が人生
の応援歌であるとするなら、その見本のような作品だ。
脚本監督は、サンドラ・ブロック主演の『トゥー・ウィーク
ス・ノーティス』を手掛けたマーク・ローレンス。同作に出
演したグラントともう一度組みたいと考えてこの脚本を執筆
したとのことだ。
しかし、出演依頼をしたとき、今まで楽器も歌も経験がない
グラントは出演を渋ったそうだ。ところが、その様子に脈が
あると踏んだ監督は、さらに歌と演奏の場面を増やしてしま
ったと言うのだから、グラントも大変な監督に捕まったとい
うところだろう。
一方、バリモアはちょうどコロムビアからワーナーへプロダ
クションを移したところで、その第1作に選んだものだが、
彼女も今まで歌声を披露したことはない。でもそんな2人に
見事なデュエットまでさせてしまうのだから…監督の手腕に
脱帽というところだ。
なお映画では、巻頭に主人公のアイドル時代のPVという設
定の映像があって、これが、映像から歌の内容から、ダンス
の振り付けや挿入される寸劇に至るまで、実に当時の雰囲気
で作られていて面白い。当時を懐かしむ意味でも良くできた
作品だった。
また、グラントは1小節ずつ指の動きをマスターして行くと
いう手法の特訓で、見事なピアノの弾き語りを披露してくれ
る。その他の歌のシーンや人気女性歌手のコンサートの場面
など、音楽映画としても見事に成立しているものだ。
他の出演者では、『キャプテン・ウルフ』のブラッド・ギャ
レット、『オースティン・パワーズ』のクリスティン・ジョ
ンストン。また、女性歌手の役でヘイリー・ベネットという
新人が幸運なデビューを飾っている。

『石の微笑』“La Demoiselle d'honneur”
1930年ロンドン生まれの女流ミステリー作家ルース・レンデ
ルの原作“The Bridesmaid”を、同じ1930年パリ生まれの映
画監督クロード・シャブロルが映画化した2004年の作品。
単純に計算して監督74歳のときの作品だが、主演に1974年生
まれのブノア・マジメルと、1983年生まれのローラ・スメッ
トを据えて、若々しいというか、瑞々しいというか、見事な
感性に溢れた作品を作り上げている。
母子家庭に育ち、真面目に生きてきた青年が、妹の結婚式で
運命的な出会いをする。その女性もまた、彼に運命的な繋が
りを感じると言う。しかし、その女性の発言にはどこか尋常
でないものがある。そして彼女は、愛の証として彼に殺人を
犯すことを求める。
青年は、真面目とは言っても決して初だった訳ではない。し
かしそんな彼が彼女には翻弄され、どんどん深みに填って行
く。もちろんミステリー小説の映画化ではあるのだけれど、
全くの虚構とは言い切れないような、不思議な感覚の作品だ
った。
実際、虚言癖ともつかないこの女性の発言は、最近の若者で
は「ない」とは言い切れない感じもする。また、最近報道さ
れる若者の無軌道さなども聞くと、こんなことは実際に起き
ていても不思議ではないという感じもする物語だ。
原作は1998年に発表されたもののようだが、実に今風の物語
だし、またそれを見事に今風の感覚で映画化した作品と言え
る。しかもそれを、1930年生まれの原作者と監督の2人がや
ってのけているのだ。
なお主演のマジメルは、『クリムゾン・リバー2』や『スズ
メバチ』を過去に紹介しているが、その前の『ピアニスト』
ではカンヌの最優秀男優賞も受賞している実力派。一方、ス
メットはジョニー・アリディの娘だそうだが、ちょっと古典
的な風貌の裏に異常さを秘めた演技は見事なものだった。
因に監督は、ミステリーではヒッチコックと比較されること
が多いようだが、それは「迷惑ではないが嬉しくもない」そ
うだ。ただし、「ヒッチコックを思い出すと言われるのは良
い。でも、アラン・スミシーを思い出すと言われる方がもっ
と良い」のだそうで、この発言にも若々しい洒落っ気を感じ
るものだ。

『チャーリーとパパの飛行機』“L'Avion”
主人公のシャルリーは自転車が欲しかった。でも、久しぶり
に帰宅したパパが持ってきたのは、大きな白い模型飛行機。
だから喜んではくれない息子の態度に、パパは「徹夜で作っ
たのに」と呟きながら、飛行機を息子の手の届かないタンス
の上に置く。
そして、「次は必ず自転車を持って帰ってくる」と書き置き
して、仕事に戻って行ったパパだったが、そのパパが事故で
亡くなってしまう。ところがその夜、パパの模型飛行機が勝
手に動き始める。しかもそれはシャルリーと意思が通じてい
るかのように…
少年と白い模型飛行機=空を飛ぶものという連想で、僕はこ
の映画を見ながらアルベール・ラモリス監督の“Le Ballon
Rouge”(赤い風船)を思い出していた。孤独な少年と赤い
風船の心の交流を描いた1956年の作品は、当時ジャン・コク
トーも絶賛した名作だ。
本作は、中編のラモリス作品より物語も複雑だし、エピソー
ドも盛り沢山で、ラモリス作品の詩情のようなものは、現代
的な物語の中では希薄になってしまうが、大空への憧れのよ
うな部分など、何となく似た感じが嬉しかった。
因に本作は、コミックスを原作にしているそうだが、その原
作も読んでみたくなったものだ。
監督のセドリック・カーンは、過去には、A・モラヴィアの
『倦怠』やシムノンのサスペンスなども手掛けているという
ことで、そこから考えるとかなり思い切った作品と言える。
でも子供を主人公に据えて、しっかりとそれを描いているの
には感心した。
ただし、邦題はチョコレート工場の影響か『チャーリー…』
だが、これは当然英語読みな訳で、フランス人の少年は、僕
が見たときは字幕でも「シャルリー」と呼ばれていた。しか
しこれでは混乱が生じてしまいそうで、やるなら字幕も統一
して欲しいものだ。
確かフィンランド映画の『ヘイフラワーとキルトシュー』の
ときは、お母さんが「ヘイナハットゥ」と呼んでいても、字
幕は「ヘイフラワー」だったはずで、それくらいはやっても
問題ないと思うが。
なお、音楽の担当はガブリエル・ヤレドという人だが、これ
にちょっと『ドラゴンクエスト』のダンジョン風の曲があっ
て、それがまたそういう雰囲気のシーンで流されるので、そ
れも嬉しくなった。

『ルネッサンス』“Renaissance”
1998年に“Maaz”という短編作品で高い評価を受けたという
クリスチャン・ヴォルクマン監督の初長編作品。モーション
・キャプチャーを利用したアニメーションで、墨と空白の木
版画のような映像の中、近未来のアクションドラマが展開す
る。
時は2054年。舞台はパリ。街角には巨大企業アヴァロン社の
ヴィジュアル広告が氾濫し、人々を健康的な理想の世界へと
誘っている。そのアヴァロン社でトップクラスの女性研究員
が誘拐される。その捜査が始められるが、そこには謎の影が
付き纏う。
その女性研究員は、先にアヴァロン社を引退した研究者の身
辺を洗っていたらしい。そしてそこから人類の未来を揺るが
す陰謀が明らかにされて行く。
この捜査官の声を新007のダニエル・クレイグが演じ、他
に『ブレイブハート』のキャサリン・マコーミック、『エイ
リアン』のイアン・ホルム、『ブラジル』のジョナサン・プ
ライスらが声の共演をしている。
因に本作では、モーション・キャプチャーを利用したという
ことだが、『モンスター・ハウス』等のように声優が演技も
しているものではなく、演技は他の俳優が担当して、声だけ
を彼らが吹き込んでいるものだ。
50年後のパリの風景などはCGIで描かれ、そこに俳優の動
きをキャプチャーしたキャラクターが填め込まれる。そこを
カメラ(視点)が自在に移動して映像が演出されており、こ
れはモーション・キャプチャーの威力と呼べる。
床が透通しの空中回廊に設けられた会社幹部の部屋など、現
実には不可能な背景も登場してアニメーションの楽しさも満
喫させてくれる。このモーション・キャプチャーやその後の
映像処理には、IBMが全面協力してコンピュータ等の機材
を提供したとクレジットされていた。
『シン・シティ』や『スキャナー・ダークリー』など、実写
かアニメーションか区別の付き難いものが増えてきたが、そ
の中では間違いなくアニメーションと言える作品。でも、今
後この手の作品が増加すると、そろそろ線引きをしっかりし
てもらいたくなる。
なお本作は、昨年アヌシー国際アニメーション映画祭でグラ
ンプリを受賞。アメリカではアカデミー賞長編アニメーショ
ン部門の選出リストにも入っていた。北米地区はディズニー
が配給権を獲得し、ミラマックス名義で公開されたようだ。

『暗黒街の男たち』“Truands”
フランスの暗黒街を舞台に、アラブ系やイタリア系などの組
織が交錯する中、男たちのドラマが展開する。
フィルム・ノアールというのはフランス映画の伝統的なジャ
ンルだったが、最近では香港などを舞台にしたアジア系のノ
アールが台頭してきた。でもそこには、アンディ・ラウも良
いけれど、やはりアラン・ドロンがいて欲しかった訳で、そ
の跡を継ぐのが本作のブノア・マジメルのようだ。
マジメルは『石の微笑』にも出ているが、実は映画を見てい
る間、僕は全然それに気付かなかった。確かにスチールを見
比べると同じ人物なのだが、そのくらい見事に演じ分けてい
たという感じのものだ。
物語は、何かの刑期を終え出獄した若者が、暗黒街のボスに
取り入ってその道を歩み出すところから始まる。そして多少
の事件は起きるものの、それなりに順調にことは進んで行く
のだが…。ある日些細なことでボスが逮捕され、一気に物事
が流動化する。
こうして、血で血を洗う抗争が勃発するのだが、これがかな
り強烈な演出で描かれる。
正直に言ってフィルム・ノアールをそれほど見ているわけで
はないが、昔の映画ではここまで強烈な描写は出来なかった
だろうと思われる作品ではある。それほどにどぎついと言う
か、これが現代なのだろうという感じはしてしまう作品だ。
監督は、猟奇的な犯罪映画などを撮ってきたようだが、ブラ
イアン・デ・パルマを敬愛しているということで、なるほど
なという感じはしてしまう。ただ、デ・パルマのようにトリ
ッキーな感じではなく、もっとストレートに物事を追求する
人のようだ。
マジメルの他には、『プロヴァンス物語』などのフィリップ
・コベールがボス役で登場して重厚な演技で他を圧倒する。
作品的にはコベールが主演だと思うが、宣伝はマジメル中心
でというところだろう。でも彼らの演技はまた見たいと思え
るものだ。

『輝ける女たち』“Le Heros de la Famille”
カトリーヌ・ドヌーヴ、エマニュエル・ベアール、ミュウミ
ュウの共演で、ニースの街に建つ「青いオウム」というキャ
バレーを舞台にした愛憎ドラマ。
主人公のニッキー(ジェラール・ランヴァン)は、昔はテレ
ビのレギュラー番組も持っていたマジシャン。幼い頃にアル
ジェリアから亡命し、「青いオウム」のオーナー(クロード
・ブラッスール)を父親のように思って来た。
その彼には、今は疎遠の元妻アリス(ドヌーヴ)との間にニ
ノという息子がおり、一方、幼馴染みで芸人仲間のシモーヌ
(ミュウミュウ)とは一夜の情事で生まれたマリアンヌとい
う娘がいた。そして今は「青いオウム」でのショウが唯一の
仕事だったが…突然そのオーナーが死去してしまう。
この事態に主人公は、店は息子同然の自分が引き継ぐものと
思うのだが、オーナーの遺言は彼ではなく、ニノとマリアン
ヌに店を譲るというものだった。しかも堅気の2人は店を閉
めると言い出す。そこにアリスも現れて、主人公は二進も三
進も行かなくなってしまう。
人生の大転換期、しかも過去には経緯が五万とある。そんな
過去を徐々に紐解きながら、登場人物たちは自らの進むべき
道を見付けて行く。
もちろん描かれる世界がかなり特殊だから、一概に参考にな
るものではないが、でも人は常に前に進んでいなければなら
ないという人生観は見事に描かれている。
キャバレーのショウシーンなども、華やかに再現されている
し、歌姫を演じたベアールが吹き替えなしで歌う名曲の数々
も楽しめる。なおべアールは、『8人の女たち』でも歌声を
披露しているが、歌手という役柄で本格的に歌うのは本作が
初めてだそうだ。
ドヌーヴのちょっと嫌みな元妻の演技も迫力満点で面白かっ
たし、ミュウミュウのちょっと引き気味の素朴な演技も素晴
らしかった。因にミュウミュウは、フランス映画のセザール
賞主演賞の受賞を1回辞退した他、9回のノミネートを誇っ
ている人だ。

なお、今回紹介した『石の微笑』、『チャーリーとパパの飛
行機』、『ルネッサンス』、『暗黒街の男たち』、『輝ける
女たち』は、3月15日開催のフランス映画祭で上映される作
品。またフランス映画祭では、以前に紹介した『情痴アヴァ
ンチュール』と『恋愛睡眠のすすめ』も上映される。



2007年02月20日(火) ゴーストライダー、ダウト、フライ・ダディ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ゴーストライダー』“Ghost Rider”
初代は1950年に登場したというマーヴルコミックスの人気ヒ
ーローの映画化。と言っても今回の映画化は、1972年に登場
した2代目の方を主人公にしたものだが、でも初代の話もち
ゃんと登場する。
主演のニコラス・ケイジは、ハリウッド一のコミックスコレ
クターと言われているようだが、何故か今まで彼自身がコミ
ックスヒーローを演じることはなかった。そのケイジが満を
持して挑んだ作品ということだ。
主人公のジョニー・ブレイズはスタントライダー。その仕事
は尊敬する父の跡を継いだものだったが、彼は若い頃に悪魔
と契約するという過ちを犯していた。その契約は長く履行さ
れないでいたが、ある日、再び彼の前に悪魔が現れる。
悪魔の命令は、地獄からの逃亡者を倒し、奴らを地獄へ戻す
こと。そのため彼はゴーストライダーへと変身し、炎のバイ
クを駆って夜の街を疾走する。
自ら悪魔の手先でありながら悪魔と闘う。ちょっと矛盾した
感じだが、悪魔の側にもいろいろ事情があるわけで、その辺
は判らないでもない。しかも、悪魔との契約のおかげで、普
段は不死身というのは、それなりに魅力的なキャラクターで
はある。
ただし、今回は地獄からの逃亡者が4人もいて、それを全部
倒すものだから、それぞれの対決があっという間で、ちょっ
と淡泊な感じはした。まあシリーズ第1作では、主人公のキ
ャラクターの説明にも時間が掛かるし、仕方ない面もあるの
だが…
とは言え、主人公が演じるド派手なスタントや、炎のバイク
の疾走シーンなどにはそれなりの快感もあるわけで、そんな
ものを満喫できれば、それでも良いのではないかという感じ
の作品だ。それに物語の設定にも破綻がなくて、納得できる
ものだった。
ヒロインは、『最後の恋のはじめ方』のエヴァ・メンデス。
また、主人公と契約を結ぶ大悪魔メフィスト役に、ライダー
と名が付けばこの人ということでピーター・フォンダ。さら
に西部劇のヴェテラン、サム・エリオットが成程という役で
出ている。
一昨年の『コンスタンティン』、昨年の『イーオン・フラッ
クス』と、毎年この季節にはちょっと捻ったファンタシーが
公開されるのが定番になってきた。それぞれ、出演者らの思
い入れがたっぷりの作品で、この流れが根付いてくれると面
白いと思うのだが…
なおエンディングには、主題歌としてGhost Riders in the
Skyが流れるが、懐かしさ一杯で嬉しくなった。

『ダウト』“Slow Burn”
大都会の犯罪組織と利権争いを巡るサスペンスミステリー。
レイ・リオッタが主演と製作総指揮も兼ね、共演にはLLク
ールJが本名のジェームズ・トッド・スミスでクレジットさ
れている。
脚本監督は、『ホワイトハウスの陰謀』等の脚本家で、本作
で監督デビューしたウェイン・ビーチ。2005年のトロント映
画祭で正式上映され絶賛を浴びた作品だそうだ。
主人公は、市長選への出馬も噂されるとある大都会の地方検
事。しかしその街には、犯罪組織や人相も不明の黒幕などが
おり、それらを一掃することが市長選勝利への鍵となってい
る。しかも街の繁華街の近くの広大な公団所有地を巡る利権
も動いている。
そんなある日、彼の片腕とも言える女性検事補が殺人の現行
犯として逮捕される。彼女はレイプされそうになっての正当
防衛を主張するのだが…彼女を信じて捜査を進めようとする
主人公の前に、彼女の意外な側面を見せつける証言者が現れ
る。そして午前5時に何かが起きるという謎の情報が飛び交
い始める。
原題の意味は良く判らないが、邦題はその通り、つまり登場
人物の誰が真実を話し、誰が嘘を吐いているのか、最後の最
後まで一寸先も判らないという展開の作品だ。その辺の面白
さはたっぷりとある。
ただまあ、何しろ主人公は振り回されっぱなしで、その間リ
オッタのまぬけ面が繰り返し出てくるということになると、
こんな奴が地方検事で市長選にも出るのか?という気分にも
なってしまうところで、適役は間違いないが…という感じで
はあった。
スミス以外の共演者では、『エンタープライズ』でバルカン
人トゥポル役のジョリーン・ブレイロック、『キンキーブー
ツ』のドラッグクィーン役でゴールデン・グローブ賞候補に
もなったキウェテル・イジョフォーなど。人種問題などもう
まく取り入れられた作品だ。
製作は、『ショートサーキット』の2作に出演していたフィ
ッシャー・スティーヴンス。最近別の作品でも製作者として
名前を見掛けたが、頑張っているようだ。
なおエンドクレジットによると、本編中に『エンタープライ
ズ』の映像が出ていたようだが、確認できなかった。

『フライ・ダディ』(韓国映画)
在日韓国人作家の金城一紀原作による映画化。
同じ原作からは、2005年に岡田准一、堤真一主演による日本
での映画化があり、実はその時にも試写状はもらっていたが
時間の都合で観られなかった。今回は、韓国での映画化をよ
うやく観ることが出来たものだ。
主人公は中年サラリーマン。妻と一人娘の家族がいて、そろ
そろ部長に昇進も夢ではない順風満帆の男だ。ところがその
一人娘がカラオケで暴漢に襲われる。そしてその入院先に男
が訪ねてきて、謝罪もそこそこに高飛車な示談を申し出る。
実はその犯人は、高校のボクシングチャンピオンを目指して
おり、その将来を危うくするような事件が明るみに出ること
を恐れていたのだ。その上、相手は主人公の勤め先まで調べ
上げ、政治力まで使った圧力を掛けてくる。
その状況に、一旦は折れてしまった主人公だったが、家族を
守れなかったという後悔の念が残り続ける。しかも娘は、身
体の傷は癒えても、対人恐怖のために外出できないという心
の傷で、退院が出来なくなる。
この事態に主人公は、犯人への復讐を誓って、犯人の通う高
校に乗り込むが、犯人のところにたどり着く以前に別の生徒
の一撃で倒されてしまう。しかしその父親の意気を感じた生
徒たちが復讐への協力を申し出る。こうして父親の猛特訓が
始まる…というものだ。
この父親役を2005年9月に紹介した『ビッグ・スィンドル』
等のイ・ムンシクが演じ、彼を特訓する高校生を、日本映画
の『ホテル・ビーナス』がデビュー作というイ・ジュンギが
演じている。なお、イ・ムンスクは、撮影前に体重を15kg増
やして中年男を演じ、半月の撮影中にその体重を元に戻した
と言うことで、その風貌の変化が見事だった。
日本での映画化がどのようなものであったかは判らないが、
堤の主演だと最初からそこそこ強そうな感じもするが、イ・
ムンスクの前半の容姿は小太りで、確かに小心者の雰囲気が
ある。それが見事に変身して行くのだから、本当に映像から
納得できる感じだった。
それに、やはり自分が娘を持つ父親としては、この主人公の
心情も良く判るもので、さらにその後の頑張りぶりには心底
から感銘してしまうところがある。しかもその頑張りが、実
に巧みに映像化されていて、その辺も見事な作品だった。
コメディタッチで、いわゆる感動作というものではないが、
こういう作品のほうがずっと素直に感動できる気がした。



2007年02月15日(木) 第129回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 まずは、前々回候補を紹介したVESAwardsの受賞作の報
告から。
 2月11日に発表された受賞作は、まずVFX主導の映画に
おけるVFX賞が“Pirates of the Caribbean: Dead Man's
Chest”、VFX主導でない映画におけるVFX賞は“Flags
of Our Fathers”、単独のVFX賞は“Pirates…”で対象
はFlying Dutchman号のシーンだそうだ。
 また、実写映画におけるアニメーションキャラクター賞は
“Pirates…”のデイヴィ・ジョーンズ、アニメーション映
画におけるキャラクター賞は“Cars”のメーター。さらに背
景賞、ミニチュア賞、合成賞はすべて“Pirates…”が受賞
作で、特殊効果賞は“Casino Royale”となった。
 結局、“Pirates…”が6冠に輝き、候補になった部門は
全部受賞しているものだが、ヒットの具合から観てもこれは
順当なところだろう。その中では唯一特殊効果賞の“Casino
Royale”が一矢報いたとも言えそうだが、元々この部門には
“Pirates…”が候補になっていないのだから仕方がない。
ただし、ここでの特殊効果の定義も良く判ないところで、多
少釈然としない感じは残るものだが。
 なお、映画以外の各VFX賞は、TVムーヴィ/ミニシリ
ーズが“Nightmares and Dreamscapes”、テレビシリーズは
“Battlestar Galactica”、VFX主導でないテレビシリー
ズは“ER”、コマーシャルが“Travelers”、ミュージック
ヴィデオは“U2 and Green Day”、ヴィデオゲームはPS3
用の“Fight Night Round 3”等となっていた。
 また、元ILMの大ベテラン、デニス・ミューレンが長年
の業績に対して贈られるジョルジュ・メリエス賞を受賞し、
そのプレゼンターにジョージ・ルーカスが登場したそうだ。
        *         *
 以下は、製作ニュースを紹介しよう。
 『ハンニバル・レクター』シリーズの最新作にして殺人鬼
の生い立ちを描いた“Hannibal Rising”の全米公開が2月
9日に始まった製作者のディノ・デ=ラウレンティスから、
次々に新たな計画が発表されている。
 それによると、まず“…Rising”はパリに本拠を置く出資
者と結ばれた3本の契約に基づく第1作なのだそうで、この
後には、コリン・ファースとベン・キングズレー主演でロー
マ時代を背景にした歴史物の“The Last Legion”と、ヘイ
デン・クリスチャンセンの主演で、ヨーロッパにペストが蔓
延していた頃のイタリアを舞台にしたロマンティック・アド
ヴェンチャーの“Virgin Territory”という作品が、すでに
撮影完了。この3本に対しては、合計で1億6000万ドルの製
作費が投入されたとのことだ。
 一方、ディノはモロッコにあるCLAという撮影所の一部
を買収したそうで、ここでは当初バズ・ラーマン監督による
“Alexander the Great”を撮影する予定だったが、現在は
そのスタジオで“…Rising”のピーター・ウェバー監督によ
る“Barbarella”のリメイクを検討しているようだ。1968年
にロジェ・ヴァディムの監督、ジェーン・フォンダ主演で映
画化されたフランス製コミックからのリメイクは、一時はド
リュー・バリモアが主演を熱望していたものだが、そちらの
計画はどうなったのだろうか。因にディノは、この作品を、
「大宇宙を舞台にした女性版ジェームズ・ボンド」と位置づ
けているようで、この発言からはシリーズ化もありそうだ。
 さらに、ラーマン監督による“Alexander”の計画もまだ
継続して話し合われており、この他、殺人クジラが登場する
題未定の海洋パニックの脚本が3月に上がってくるそうだ。
 なお、大作映画を製作し続けることについて、ディノは、
「多くの映画製作者は、映画製作のために一番重要なのは、
資金の調達だと考えているようだが、正しいアイデア、正し
い脚本があれば、金は簡単に集まってくるものだ」と、その
秘訣を語っている。元盟友だったカルロ・ポンティ亡き後、
1919年生まれの製作者は、まだ意気軒昂のようだ。
        *         *
 昨年公開の『ワールド・トレード・センター』を手掛けた
製作者のマイクル・シャムバーグとステイシー・シャーが、
新たにパラマウントと結んだ優先契約により、“The Devil
in the White City”という作品の映画化を進めることを発
表した。
 この作品は、エリック・ラースンが執筆したベストセラー
ノンフィクションに基づくもので、1893年に開催されたシカ
ゴ世界博を背景に、その会場近くのホテルで発生した連続殺
人事件の謎を追っている。そこには、博覧会やそのホテルの
建設に関った建築家ダニエル・H・バーンハムと殺人鬼H・
H・ホームズの意外な関係も描かれているというものだ。
 この原作に関しては、実は2003年に当時パラマウント傘下
だったトム・クルーズとポーラ・ワグナーのために映画化権
が取得され、一時は『K−19』のキャスリン・ビグロウの
製作・監督で進められていた。しかし、ビグロウとクルーズ
/ワグナー間の創造上の意見の相違を理由に頓挫、2004年に
は映画化権も失効していた。そして昨年にはクルーズ/ワグ
ナーも同社を去ったものだが、今回はシャムバーグとシャー
が改めて権利の取得をパラマウントに依頼して、再度の獲得
が行われたということだ。
 2002年にハリスン・フォード、リーアム・ニースンが共演
した『K−19』は、1961年のソ連原子力潜水艦での原子炉
事故を描いたノンフィクションの映画化だったもので、その
アプローチは悪くはなかった記憶している。今回の計画でビ
グロウ監督との関係がどうなっているかは判らないが、ノン
フィクションの映画化に実績のある製作者の登場は期待され
るところだ。それに1893年の時代背景をどのように映像化し
てくれるかにも、興味津々という感じがしてくる。
        *         *
 2004年にワーナー配給の『ポーラー・エクスプレス』、昨
年はソニー配給の『モンスター・ハウス』を成功させ、現在
はパラマウント配給で“Beowulf”を製作しているロバート
・ゼメキス主宰のImageMovers(名称は変わるようだ)が、
新たにディズニーと提携し、今後はディズニー傘下でパフォ
ーマンス・キャプチャー(この名前も変わるかも知れない)
を駆使した3D映画の製作を進めることが発表された。
 因に、パフォーマンス・キャプチャーの技術自体はソニー
・イメージワークスとの共同で開発されたもので、ソニー・
アニメーションでもサーファーの動きをキャプチャーして、
ペンギンにサーフィンをさせる“Surf's Up”が今年6月に
公開されるものだが、今回の動きに対するソニー側の反応は
報告されていないようだ。
 とまあ、ここまでは単純なプロダクションの移籍話だった
のだが、この動きに対して、ディズニー側から新たな噂が流
れ始めた。それは、前回紹介した“John Carter of Mars”
の映画化を、このシステムで行うというものだ。
 これまでの動きでは、この映画化にはピクサーと、ディズ
ニー本社のアニメーション部門が関っているとされ、いずれ
もアニメーションでの製作は、実写に拘わるバローズの遺族
の納得を得られていないというものだった。しかし、これが
パフォーマンス・キャプチャーでなら、バローズの遺族も納
得しやすそうだし、一方、かなり荒唐無稽なバローズの世界
も、実現可能になる。しかも、3Dでの映画化ということに
なるものだ。
 つまり、ピクサーのCGIアニメーションか、ディズニー
本社の2Dアニメーションかだったものが、新たにパフォー
マンス・キャプチャーによる3D映画という方向性が出てき
たもので、『ポーラー…』では限りなく実写に近づけられる
ことを示しているこのシステムでなら、遺族の賛同も得られ
る可能性がありそうだ。それに3Dという目新しさも権利者
には良いアピールになる。
 ということで、“John Carter of Mars”の3D映画化が
期待できそうだが、そうなると監督はロバート・ゼメキスと
なるものかどうか、『ロジャー・ラビット』や『バック・ト
ゥ・ザ・フューチャー』、それに『コンタクト』のゼメキス
なら、最適任という感じもするところだが…
 なお、ピクサー=ディズニー関連の情報では、前回も紹介
した“Toy Story 3”の脚本に、『リトル・ミス・サンシャ
イン』を手掛けたマイクル・アーントが契約したことも発表
されている。同作ではアカデミー賞の候補にもなっている脚
本家には期待したい。
 ただし、シリーズの前2作を手掛けて、昨年『カーズ』で
監督に復帰したピクサー代表のジョン・ラセターは、今回は
直接タッチしないとのことで、監督は別人になるようだ。ま
たトム・ハンクス、ティム・アレンらの声優たちは、先にデ
ィズニーが計画を進めた時点ですでに出演が了承されていた
もので、今回の計画変更でもそれはOKのようだ。
 因にピクサー作品では、前回紹介した“WALL-E”の計画が
2008年6月27日公開とされており、“Toy Story 3”の公開
予定は2009年6月となるものだ。
        *         *
 没後18年を経た今でも、日本を含めた世界中で人気の高い
超現実派の画家サルヴァドール・ダリの伝記映画が3本計画
されている。
 その1本目は、『ロード・オブ・ウォー』などのアンドリ
ュー・ニコル監督による“Dali & I: The Surreal Story”
という作品で、ダリの画商だったスタン・ロウリーセンとい
う人の自叙伝に基づき、画家晩年の最も超現実的だった時期
を描くというもの。監督が2002年に発表した『シモーヌ』に
主演していたアル・パチーノが画家を演じて、6月開始で、
ニューヨークやスペインで撮影を行うとなっている。
 2本目は、1988年にアラン・アーキンが主演した『キャプ
テン・ザ・ヒーロー』などのフィリッペ・モラの監督による
“Dali”で、モラ監督が2年前から写真家のロバート・ウィ
ティカーと共に準備を進めてきたというもの。ウィティカー
の撮影による数1000枚のダリの写真が参考にされている。ま
た、先輩画家ピカソとの関係も含めた画家の生涯を描くとい
うことで、この作品も6月に製作が開始され、プラハ、バル
セロナ、ニューヨークでの撮影が予定されている。
 そして3本目は、製作者のデイヴィッド・パーマットが、
これも2年ほど前から進めていた“Goodbye Dali”という作
品で、この作品は、1995年製作の“Miami Hustel”という作
品に出演歴のある俳優のアラン・リッチが、若い頃の画商を
していた時期に実際にダリと過ごした日々をコミカルに描く
というもの。2004年にリッチがヤニフ・ラッズと共に執筆し
た脚本を映画化するもので、2005年10月にパーマットが計画
を発表していた。
 以上の3本は、それぞれ作品の傾向は違うようだし、それ
ぞれの製作者たちも画家に対する見方が違えば作品は別のも
のになるとして、お互いの調整はまったく考えていないよう
だが、観客としては、どれを観るべきか悩むところだ。
 ヒッチコック監督の『白い恐怖』の幻想シーンに作品が登
場したり、『ミクロの決死圏』の宣伝にも協力した画家は、
いろいろと映画人の興味を引くようだ。
        *         *
 第117回で紹介した“Rush Hour 3”にも出演のロマン・ポ
ランスキーが、次回の監督作品として、製作費1億3000万ド
ルを要するとされる“Pompeii”の準備を開始した。
 この作品は、ロバート・ハリスの原作小説を映画化するも
ので、ローマ時代を背景にヴェスヴィオス火山噴火の前後を
ドラマティックに描いたスリラーとされている。主人公は、
ローマ帝国が建設した水路の修理を依頼された若い職人。と
ころが彼は、仕事をして行く内に、自分が政治とロマンスの
網に絡まれていることに気付く…というもの。そして物語は
火山の噴火までの3日間を描いて行くというものだ。
 ポランスキーの古代史物というのは珍しい感じがするが、
実際に本人も「今までは自分の器ではない」と考えていたよ
うだ。「しかしこの作品はスリラーであって、しかもハリス
の本はすべて読み通したが、彼は実に丁寧にリサーチを行っ
て、克明な作品を作り上げている。私は脚本を書くことへの
誘惑を止められなかった」として、この作品を手掛ける理由
を説明している。また、1974年の自身の代表作にも絡めて、
「『チャイナタウン』にも繋がりがあるんだ。水の利権を巡
る話だからね」とも発言したということだ。
 一方、この作品では大量のVFXを使うことになるが、そ
れについては、「これ見よがしのVFXを使うことは好きで
はない。でも、『戦場のピアニスト』にも約200のCGIが
使われているし、『オリバー・ツイスト』ではそれが400以
上もあるんだ。いつも何か少し違ったことにチャレンジする
のが、自分を前に進めて行くことになると思う」と、新しい
ことへの挑戦を楽しんでいるようだ。
 因にポランスキー作品で、『ローズマリーの赤ちゃん』や
『チャイナタウン』は、テントポールという言葉が出来る以
前のイヴェントピクチャーだったという評価はあるようだ。
しかし、現実に彼の最大の興行収入作品は、『ピアニスト』
の3200万ドルだということで、その4倍の製作費を掛ける今
回の作品は、正にポランスキーの最大の挑戦になりそうだ。
        *         *
 マーティン・スコセッシ監督の『ディパーテッド』に続編
の計画が紹介されている。
 この計画については、まず俳優のマーク・ウォールバーグ
が発言したもので、それによると、オリジナルの『インファ
ナル・アフェア』と同じく前日譚と後日談が計画されている
そうだ。そして後日談では、新しいキャストが組まれるとし
ており、その中にはロバート・デ=ニーロや他にも数人が話
し合われているとのことだ。それに対して前日譚には前のキ
ャストが戻るとしている。
 一方、リメイク版の脚本を手掛けたウィリアム・モナハン
からも、スコセッシに続編の提案をしたとの報告がされてお
り、監督も3部作とすることには前向きとの情報もある。ス
コセッシが後2本も監督するかどうかは流動的だが、製作者
としては全部に関るつもりようだ。オリジナルと違えた結末
がどうなるか…面白くなりそうだ。
 実のところは、1月18日に行われたディカプリオとスコセ
ッシ監督の来日記者会見では、監督からかなりイレギュラー
な発言も飛び出して、その紹介は控えているところがあるも
のだが、首尾良く続編が作られたら、その時にはその辺の状
況をはっきりと監督に聞いてみたいところだ。
        *         *
 昨年第109回では、“Into the Mirror”という題名で紹介
した超自然現象物のホラー作品が“Mirrors”と改題され、
この映画化に、『24』が日本でも絶大な人気を誇っている
キーファー・サザーランドの主演が発表された。
 この作品は、日本では昨年公開されたフランス製スプラッ
ターホラー『ハイ・テンション』のアレクサンドル・アジャ
監督が、ホラー映画『サランドラ』のリメイクに続くハリウ
ッド進出第2作として準備していたもので。物語は、元警官
でモールのセキュリティ担当者の主人公が、鏡の前ばかりで
起きる怪死事件を追う内に、鏡の中にいる超自然の存在を発
見し、奴らと対決することになるというもののようだ。
 元々は昨年秋の撮影が計画されていたが、出演者が決まら
ずにいたもので、そこにサザーランドの主演とは待っていた
かいがあったと言える。なおサザーランドのスケジュールで
は、4月まで『24』のシーズン6を撮影し、5月1日から
主にルーマニアで行われる本作の撮影に参加、これが6月半
ばまで行われて、7月にはシーズン7の撮影に入るというこ
とだ。因に、製作総指揮も兼任しているシーズン7と8まで
の出演料は、4000万ドルに達する見込みだそうだ。
 サザーランドの映画出演は、昨年公開された『ザ・センチ
ネル/陰謀の星条旗』以来となる。
        *         *
 後は短いニュースをまとめて紹介しておこう。
 前回も紹介した『ハムナプトラ』シリーズの第3弾に、ジ
ェット・リーの出演が発表され、題名も仮題として“Mummy:
Curse of the Dragon”というものが使われているそうだ。
前回の報告にもあった「新規なミイラ男」というのにリーの
可能性が高そうだが、ドラゴンとは…という感じだ。なおロ
ブ・コーエンはまだ監督のようだ。
 1985年にジョン・ヒューズが監督した“Weird Science”
(ときめきサイエンス)をリメイクする計画が持ち上がって
いる。オリジナルは、コンピューターで理想の女性を作り上
げた若者2人が、怪しげな魔法によってその女性を現実化し
てしまうというもの。この理想の女性を、前年公開の“The
Woman in Red”で注目を浴びたケリー・ルブロックが演じ、
魔女物の変形という感じで面白かった作品だ。今回の計画で
はジョニー・ローゼンタールが脚本を契約し、ユニヴァーサ
ルが製作する。監督はまだ決まっていないようだが、ルブロ
ックをしのぐ女優の発見が大事という意見も多い。
 『ナルニア国物語』の第2弾“Prince Caspian”の撮影準
備は大分進んできているようだが、同じウォルデン・メディ
アからもう1作C・S・ルイスの原作で、“The Screwtape
Letters”という作品の計画が発表された。この原作は、日
本ではキリスト教系の新教出版社というところから翻訳が出
ているものだが、老練な悪魔が新米の悪魔に人間の誘惑法を
伝授するという内容で、かなり宗教色の強い作品のようだ。
それをどう映画化するかが、映画人の腕の見せ所だが、因に
2001年にアメリカで再刊されたペーパーバックは100万部を
売った実績があるそうだ。
 昨年5月に映画紹介で取り上げたサム・ライミ主宰ゴース
トハウス製作の『ブギーマン』に、続編“Boogeyman 2”が
計画され、その出演者に『ソウ』シリーズのトービン・ベル
が発表された。なお、脚本は前作の夫妻に替ってブライアン
・シーヴという人が担当しているが、ゴーストハウスの担当
者に言わせると、これが尋常でなく恐いのだそうだ。監督に
はジェフ・ベタンコートという人が起用されている。
 一方、『ソウ2』『3』を監督したダレン・リン・ボウス
マンには、シリーズを離れて“Repo! The Genetic Opera”
という作品の計画が発表されている。この作品は、テレンス
・ゼドゥニックとダレン・スミスが執筆した脚本を映画化す
るもので、内容はヒトクローンの問題を扱った近未来物とい
うことだ。製作は『ソウ』シリーズのツイステッドとライオ
ンズゲイト。因に、ボウスマンは『ソウ3』の記者会見で、
“Saw 4”からは自分は製作者に下がるとして、別の監督の
起用を示唆していたものだ。
 最後に、『ターミネーター』シリーズを手掛ける製作者の
アンディ・ヴァイナが、1973年に映画化されたリチャード・
バックのベストセラー“Jonathan Livingston Seagull”を
CGIアニメーションでリメイクする計画を発表している。
オリジナルの映画化は、カモメの視点で撮影された実写の映
像を編集し、それにジェームズ・フランシスカス、ジュリエ
ット・ミルズらの台詞を付けたもので、考えてみたら一昨年
の『皇帝ペンギン』の元祖のような作品だった。それをリメ
イクするものだが、ヴァイナはドキュメンタリーを意識して
いる訳ではないようで、『シュレック』のような作品にした
いと発言している。どうなりますか。



2007年02月10日(土) ボビ−、恋愛睡眠のすすめ、恋しくて、鉄人28号、かちこみ!、モンゴリアン・ピンポン、ポイント45、忍者

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ボビ−』“Bobby”
1968年6月5日。ロサンゼルスにあるアンバサダーホテルの
1日を描いた作品。この日の深夜を少し回った頃、カリフォ
ルニア州での予備選挙に勝利したロバート・F・ケネディ上
院議員が、このホテルの厨房で暗殺される。
この年の秋の大統領選でニクソンが圧勝し、アメリカが退廃
に向かって行く幕開けの歴史的な1日を描いた作品。しかし
映画は、政治的な背景や歴史的意義などはほとんど語らず、
当時の市民の生活を克明に再現したものだ。
そこでは、黒人の地位は向上したがまだ差別されているメキ
シコ人の問題や、蔓延し始めたLSD、高齢者の処遇問題、
空疎になり始めた夫婦間の問題などが描かれて行く。
もちろんテト攻勢の始まったヴェトナム戦争や、兵役逃れの
話なども出てくるが、大半は当時のヒット曲に載せて当時の
市民生活が描かれているものだ。
脚本、監督を手掛けたエミリオ・エステヴェスは、6歳の時
に深夜テレビで暗殺を知り、父親のマーティン・シーンを起
こしに行った記憶があるそうだ。そしてケネディ家の支援者
だった父親と共にホテルの現場も訪れたという。
そんなエステヴェスが、自らの宿命として作り上げたとも言
える作品。従って、映画ではロバート・F・ケネディの演説
や発言が、当時のニュースフィルムなどから多数引用され、
ある意味ケネディの政治姿勢や思想などを再確認する作品に
もなっている。
しかし、その後の民主党内の混乱がニクソン共和党大統領を
生んでしまうのだから、政治的背景などはあまり語りたくな
いという心情はあったのだろう。そのため、市井の人々の暮
らしぶりをノスタルジックに再現しているかも知れないが、
映画としては多少中途半端になったことは否めない。
でも、それを、アンソニー・ホプキンス(製作総指揮も務め
ている)、シャロン・ストーン、デミ・モーア、イライジャ
・ウッド、リンジー・ローハン、ヘレン・ハント、ウィリア
ム・H・メイシー、クリスチャン・スレーター、ヘザー・グ
ラハム、アシュトン・カッチャー、ローレンス・フィッシュ
バーン、フレディ・ロドリゲス、マーティン・シーン、ハリ
ー・ベラフォンテらの集団劇で描き出すのだから、それは見
ものとも言えるものだ。
当時サイケデリックと呼ばれたLSD感覚の映像再現など、
当時を知るものとしてはなかなか面白いシーンもあったし、
懐メロ満載の音楽も楽しめた。それでよしとしたい作品だ。
ただし、題名の「ボビー」というのは、ロバート ボブ ボ
ビーの愛称なのだから、Fの上にルビとして打つのは誤解を
招くのでやめてほしいものだ。因にこのFは、兄はフィッツ
ジェラルド、弟はフランシスのイニシャルのようだ。

『恋愛睡眠のすすめ』“La Science das rêves”
『ヒューマンネイチュア』、『エターナル・サンシャイン』
のミシェル・ゴンドリー監督による第3作。前の2作は共に
チャーリー・カウフマン脚本によるものだったが、本作では
初めて自身の脚本を映画化している。
前2作もかなり捻ったというか、ファンタスティックな展開
が楽しめる作品だったが、本作も夢想と現実が交錯するとい
うもので、さらにファンタスティックというか、面白い展開
になっている。
ガエル・ガルシア=ベルナル扮する主人公は、メキシコで成
長したが、一緒に暮らしていた父親が亡くなったため、母親
の暮らすパリに引っ越してくる。そして母親が大家をしてい
るアパートに住み、母親が紹介してくれたデザイナーの仕事
に就くのだが、その仕事はデザイナーとは名ばかりの写植の
貼り付け係で腐りきる。
一方、アパートの隣の部屋にシャルロット・ゲインズブール
扮する女性が引っ越してきて、主人公は彼女を気に入るが、
シャイでなかなか思いを伝えられない。その上、彼は自分に
都合の良い夢だけを見られる手法を考え出し、そこでは仕事
も恋もうまく行く夢想世界を生み出すのだが…。それが現実
とごっちゃになり始めて…
この夢想世界の映像化には、ペーパークラフトを使ったミニ
チュアや、ぬいぐるみの人形アニメーションなども登場し、
ファンタスティックと言うか、いろいろ味わいのある映像が
展開する。そんなところも面白い作品と言えるものだ。
それに夢想と現実の交錯がかなり複雑で、その謎解きも面白
かった。この辺は『エターナル…』のカウフマン脚本が影響
しているとも言えそうだ。『エターナル…』も2回見たが、
この作品もそうなりそうだ。
なお、プロローグで、過去(past)とパスタを引っかけた駄
洒落に気が付いた。主人公がフランス語は喋れないという設
定で、せりふは英語、スペイン語、フランス語が交錯してお
り、言葉による仕掛けが他にもあったかも知れない。字幕で
はその辺はあまり良く判断できなかったが。

『恋しくて』
TBSテレビのオーディション番組「イカ天」で話題になっ
た沖縄県石垣島出身のバンドBEGINのエッセイを基に、
『ホテル・ハイビスカス』の中江裕司が脚色、監督した地元
高校生バンドの成長を描いた作品。
『ホテル…』では、目茶苦茶元気の良い沖縄の小学生が主人
公だったが、今回の主人公は高校生。でも、今回も前作の主
人公同様、出演者のほとんどは素人の地元の子たちがオーデ
ィションで選ばれている。
主人公の栄順と加那子は幼馴染み。小学生の時に加那子が少
し離れた祖母の家に引っ越したため、高校入学で再会したと
いう設定のようだ。そして、栄順は加那子の兄セイリョウが
突然思い付いた学園祭のバンドに参加することになる。
加那子とセイリョウは、クラブ歌手で自ら店を経営する母親
と暮らしているが、母親の歌に惚れて結婚したとされる父親
は、歌を捜しに行くと出かけたまま音信不通になっている。
以来、加那子は歌うことができない。
一方、バンドは牛小屋や灯台で練習を続け、やがて県内のバ
ンド大会に出演して、優勝者に与えられる東京進出を夢見る
ことになるが…
セイリョウ役を演じる石田法嗣は、『戦国自衛隊1549』
などにも出ているプロの若手俳優だが、その他のバンドのメ
ンバーとなる4人はいずれも沖縄生まれの素人。しかし、特
に加那子を演じる山入端佳美の溌溂とした姿や、栄順を演じ
る東里翔斗の、まさに石垣島出身のナイーブさは見事に映画
に映し込まれている。
それに、石垣島で全て順撮りで撮影された自然の美しさは、
沖縄のすばらしさを満喫させてくれるものだ。
ただし正直に言って、このバンドの実力には疑問を感じた。
実は、一緒に出てくる他のバンドが無茶苦茶うまいのだ。そ
れに対して、この実力だけで勝ち抜けたというのには多少無
理を感じてしまうもので、ここにも何か脚本上の工夫が欲し
かったように思えた。
もちろんこれには、結末とのバランスもあるものだが、別に
最後が全国優勝である必要もないし、東京に行く話は彼女と
の関係では必要なものだが、そこも何か一工夫できたように
も思えた。
実は、以前にも高校生が全国大会を目指す作品があって、そ
の時も途中の展開に無理があるように感じた。もちろん作品
のテーマは、彼らの成長を描くことであるから、その間の展
開は話でしかないのだが、それでもそこに疑問を感じると、
テーマの良さも消えてしまう。
話の途中でなら多少の無茶は許されるから、『逆境ナイン』
ほどではなくても、何かの工夫が欲しかったところだ。


『鉄人28号〜白昼の残月』
2004年にテレビ東京の深夜枠で放送された今川泰宏監督によ
るアニメーションの劇場版。
横山光輝の原作からは、すでに幾度か実写やアニメーション
による映像化があったが、今川監督は、あえて物語を現代化
せず、昭和30年代初頭を時代背景とし、突如現れた鉄人28号
を負の遺産として描き込んで話題となった。
その路線をそのままに長編劇場版として製作されたこの作品
も、さらに大きな負の遺産を登場させ、まだ戦後が終ってい
なかった時代を見事に描き出したものだ。
物語は、すでに鉄人28号が完全復活して少年探偵金田正太郎
がそれを駆使している状況から始まる。
ところがある日、都心で巨大な不発弾が見つかり、鉄人がそ
の回収作業中、謎のロボット兵団が現れる。そして、鉄人が
苦戦を強いられたとき、1人の青年が正太郎からリモコンを
奪い、見事な操縦で敵を一掃する。その青年は金田ショウタ
ロウと名告り、自分が真の操縦者だと言うのだが…
このショウタロウの正体と、不発弾の巨大な破壊力の謎、そ
して鉄人と不発弾との関係など、幾多の謎を孕みながら物語
は展開して行く。
実は僕は、今川版のアニメーションは飛び飛びにしか見てい
ないのだが、正しくレトロという感じの作り込みは、最近の
ロボットアニメーションとは一線を劃した鉄人のデザインに
マッチして、すばらしい雰囲気を出していると感じた。それ
に物語も、戦後の時代背景の中で、見事にそれにマッチした
ものだったと覚えている。
そして今回の劇場版も、自分がぎりぎり覚えている傷痍軍人
や春日八郎の「お富さん」といった時代を見事に描き出した
ものだ。また描かれる物語は、もしかしたらあったかも知れ
ないパラレルワールドとして、見事に作られている。
それにこの物語によって、鉄人が新たな進化を遂げるという
展開も、納得できるものとなっていた。
なお、主題歌はテレビシリーズのときと同じく、旧作の主題
歌を千住明が編曲したものだが、それ以外の劇中の音楽を、
伊福部昭作曲のクラシック曲で構成しており、それも素晴ら
しい効果を上げている。

『かちこみ!〜ドラゴン・タイガー・ゲート』“龍虎門”
香港で35年以上連載されているという伝説的コミックスの映
画化。
時代背景は、ちょっとデフォルメされた現代。武道場の「龍
虎門」は、親を失った子供たちなどを集め、正しい人の道を
教えながら武芸の鍛練を進めさせていた。
主人公のタイガーはそこで兄貴分として慕われていたが、あ
る日、仲間と出かけた街のレストランでチンピラたちの横暴
に腹を立て、彼らを秒殺してしまう。そして仲間の1人が拾
った金印を持ち帰ったために、再び襲われることになる。
そこで主人公は、滅法強いドラゴンと名告る男と拳を交える
が、彼こそは、昔主人公が人の道を教えられた生き別れの異
母兄だった。しかし何故ドラゴンは組織にいるのか。
そして龍虎門には、羅刹門と名告る組織からの刺客が現れ、
道場主だった叔父が殺され、看板を奪われてしまう。この事
態にタイガーは、地方から龍虎門への入門を求めてきたター
ボと共に、強大な敵に闘いを挑むことになるが…
このタイガーを『PROMISE』のニコラス・ツェー、ド
ラゴンをアクション監督も務める『ブレイド2』のドニー・
イェン、ターボを『頭文字D』などのショーン・ユー。さら
にヒロインを『2046』などのドン・ジェが演じている。
街の風景などにはCGIも使用されて、ちょっと異形な雰囲
気も醸し出しているが、格闘シーンになると、何とも激烈な
アクションが展開する。そのアクションは、イェンの師匠ユ
エン・ウーピンから直伝の見せることに徹したもので、特に
1人対多数の乱闘シーンは見応えがあった。
まあ、正直に言って、この映画はこのアクションさえ楽しめ
ればいいもので、それはのべつ幕無しに登場してくる。これ
だけのアクションシーンを作り出すだけでも、これは大変だ
と思わせるものだ。
監督は、イェンがアクション監督を務めた香港映画『SPL
/狼よ静かに死ね』などの脚本家でもあるウィルソン・イッ
プ。また、音楽を川井憲次が担当している。

『モンゴリアン・ピンポン』“緑草地”
一昨年の東京国際映画祭「アジアの風」部門で紹介された作
品。その時は、スケジュールの都合で見られなかったが、幸
い日本公開されることになった。
原題の通り、ただ緑の草地が広がる内モンゴル自治区の草原
地帯。主人公のビリグは、そんな草原の一角に建つパオで、
両親と姉と祖母と共に暮らしていた。
ビリグには、同年代のダワーとエルグォートゥーという仲間
がいて、それぞれ馬やバイクで草原を我が庭のように遊び回
っていた。そんなビリグが、ある日、川に水を汲みに行った
とき、川上から流れてきたらしい1個の白い球を見つける。
それは軽くて、中には何も入っていない球だったが、大人に
見せてもそれが何だか誰も判らない。ただお祖母ちゃんは、
川上に住む神様の宝だと教えてくれるのだが…そんな1個の
ピンポン球を巡って、就学直前の男の子の冒険が始まる。
そのピンポン球が原因で、親に心配を掛けてしまったり、年
上の連中から嫌がらせをされたり、とにかくいろいろな出来
事が起きてくる。そんないろいろな出来事が、広大な草原の
中のゆったりとしたリズムで描かれて行く。
「ゆったりとしたリズム」とは書いたが、この手の作品でよ
くある鈍いテンポと言うのではない。実際映画は、いろいろ
なエピソードが次々に起こるのでテンポは速いのだが、何と
言うか見ていて心が休まるような「ゆったりとしたリズム」
なのだ。
監督のニン・ハオは、中国・山西省の出身で内モンゴルの人
ではないようだ。その監督もこの雰囲気に憧れて作品を作っ
たということで、そんな外から見ている雰囲気が、同じく部
外者である観客にも、ちょうど良い感じで共感されるのかも
知れない。
巻頭と最後には、モンゴル特有のホーミィが流れ、全体的に
ヒーリングという言葉が合うような作品にもなっている。
しかし内容的には、そろそろ定住を考えているらしい父親の
姿や、主人公の成長の様子などが上手く捉えられており、映
画作品としてのレヴェルはかなり高いと言えるものだ。
因に監督は、この後の作品ではアンディ・ラウが提唱した新
人監督育成プロジェクトFOCUS: First Cutsの支援を受け、
現在は、ハリウッドのエージェントと契約して国際的に活躍
の場を広げているそうだ。

『ポイント45』“.45”
『バイオハザード』シリーズのミラ・ジョヴォヴィッチ主演
で、ドメスティック・ヴァイオレンスを扱ったドラマ。
舞台はニューヨークのヘルズキッチン。吹き溜りのようなこ
の街で、ミラ扮するキャットは、故買屋のアルと共に暮らし
ていた。アルは何かというと暴力に訴えるタイプで、周囲か
らも良くは思われていないが、それに楯突く危険を犯すよう
な奴もいなかった。
キャットも、実は「彼のアレがすごく大きいの」と言うこと
で、腐れ縁のように離れることができない。その彼女には、
海辺に家を建てて住みたいという夢があるが、ほとんどその
日暮らしの故買屋の生活では、それは夢でしかなかった。
そんな中で彼女は、アルに隠れて商売を少し広げようとして
いたが、それがばれたとき、アルの激しい暴力がキャットを
襲う。そしてその惨状をを見かねたキャットの友人たちが、
ソーシャルワーカーに助けを求めるが…
日本公開ではR−15指定を受けている作品で、以前だったら
ぼかしが入ったはずの際どい場面や、暴力シーンもかなり激
しく描写されている。そういう映画ではあるが、かと言って
興味本位だけで作られているかと言うと、そうでもないよう
に見えてくる。
実際、スペシャルメイクはあっても、VFXは一切なしのジ
ョヴォヴィッチの体当たりの演技は、程度の差はあるかも知
れないが、こういうことが現実に起きているということ訴え
ているようにも見えてくるものだ。
人気シリーズとはちょっと違ったジョヴォヴィッチが楽しめ
る作品。結末は多少甘いようにも感じられるが、そこは娯楽
作品だから、これで良いのだと言うところだろう。
共演は、アル役に『ソウ3』のアンガス・マクファーデンの
他、『ブレイド』のスティーヴン・ドーフ、『サンタクロー
ズ3』のアイーシャ・タイラー、『サイレントノイズ』のサ
ラ・ストレンジ。
監督は、脚本家出身で本作が監督デビュー作となるゲイリー
・レノン。脚本が良くまとまっているし、配役に固定的な顔
ぶれを集めているので、演出も無難という感じだった。

『忍者』“終極忍者”
日本の映画配給会社アートポートの出資で、2004年に日本・
香港・中国の合作で製作されたアクション作品。
日本から格闘家の魔裟人、『爆裂都市』の白田久子が出演、
大陸出身で『カンフーハッスル』などに出ていたホワン・シ
ェンイーや、香港のテレビなどで人気者のウォン・ジーワー
らが共演している。
どんなウィルスにも効くという究極のワクチンが開発され、
そのワクチンを悪の組織が狙う。つまりこのワクチンを確保
した上で、危険なウィルスをばらまき、ワクチンを必要とす
る政府に高値で買わせようという魂胆だ。
ところがそのワクチンは、超合金の小箱に納められ、その開
け方はワクチンを開発した博士しか知らなかった。しかもそ
の博士を、ワクチンを奪いに行った組織の手先が殺してしま
う。しかし組織は、博士がもしもの時にはコピーという男の
殺害を命じていたことを突き止める。
つまりこのコピーという男が小箱を開ける方法を知っている
らしい。そこでコピーを確保しようとする組織の忍者と、博
士の命令通りコピーの殺害を狙う女忍者、それにコピーの命
を守りたい女忍者らが入り乱れ、三つ巴の闘いが始まる。
この組織の忍者を魔裟人が演じ、殺害を狙う女忍者を白田、
守る女忍者をホワン、さらにコピーをウォンが演じている。
なお魔裟人と白田のせりふはすべて中国語に吹き替えられて
いたものだ。
実は映画の物語では、伊賀と甲賀の闘いというのも裏側にあ
って、それなりの物語が進む。それで魔裟人と白田なのかと
も思ったが、せりふは中国語だし、何故伊賀と甲賀なのかは
良く判らなかった。
でもまあ、どのみち荒唐無稽な話ではあるし、一方、アクシ
ョンシーンにはジャッキー・チェンのアクションチームのス
タッフなども参加しているということで、白田も果敢にワイ
ヤーアクションに挑戦して、それなりに様になるアクション
を展開していた。
脚本と監督は、『八仙飯店之人肉饅頭』などで知られるハー
マン・ヤウ。さすがベテランの作品らしく、物語はしっかり
しているし、演出もそつなく決まっている感じだった。
なお、白田は今年のミスインターナショナル日本代表に選ば
れているそうだ。



2007年02月01日(木) 第128回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回は、恒例のアカデミー賞候補の報告から。
 すでに報道されているが、今年の作品賞には、“Bable”
“The Departed”“Letters from Iwo Jima”“Little Miss
Sunshine”“The Queen”の5本が候補となっている。『硫
黄島からの手紙』の選出には正直嬉しい驚きを感じたが、す
でに試写等で観せてもらった中では、個人的な好みとしては
『バベル』が一番感動もしたし、ゴールデングローブに続い
ての受賞を期待したいものだ。
 この他は、SF/ファンタシー系の作品を中心に見て行く
と、オリジナル脚本賞にギレルモ・デル=トロ監督のダーク
ファンタシー“Pan's Labyrinth”(同作は他に、美術、外
国語映画、撮影、作曲、メイクアップ部門の候補にもなって
いる)。脚色賞にアルフォンソ・キュアロン監督による終末
物の“Children of Men”(他に、撮影、編集賞)がそれそ
れ選ばれている。
 また、候補作3本で定席の視覚効果賞は“Pirates of the
Caribbean: Dead Man's Chest”(他に、美術、音響、音響
編集賞)と、“Poseidon”“Superman Returns”。同じくメ
イクアップ賞は“Pan's Labyrinth”の他、“Apocalypto”
(他に、音響、音響編集賞)“Click”となっている。
 これらの中では、“Pan's Labyrinth”が頑張っている感
じだが、日本では『トゥモローワールド』の題名で先行公開
された“Children of Men”が、予想以上の健闘をしている
ことにも驚かされた。また、“Apocalypto”はメル・ギブス
ン監督の舌禍にもめげずという感じだが、最終的な判断はど
うなるだろうか。
 因に、メイクアップ賞は、前回予備候補の紹介で疑問を呈
した2作品は落選したものだが、“Click”(邦題:もしも
昨日が選べたら)の選出には納得というところだ。それから
『POTC:DMC』の視覚効果賞はかなり固そうだが、他
の部門は、昨年度ナンバー1ヒットの名に掛けて全て蹴散ら
せるかどうか、それぞれの対決が面白そうだ。
 一方、長編アニメーション部門は“Cars”(他に、主題歌
賞候補にもなっている)“Happy Feet”“Monster House”
の3本となった。前回の紹介では5本選ばれると書いたが、
実はその後でリュック・ベッソン監督の“Arthur and the
Invisibles”が、映画アカデミーの規定するアニメーション
シーンが75%以上という条件に合わないことが判明、それが
除かれた結果、公開本数が15本となり、2002年以来の5本候
補は今年も叶わなかったものだ。
 受賞式は現地時間の2月25日。今年はどんな結果が待って
いるのだろうか。
        *         *
 以下は製作ニュースをお届けしよう。
 まずは待望のニュースで、ディズニーがエドガー・ライス
・バローズ原作のSFファンタシーシリーズ“John Carter
of Mars”のシリーズ映画化を目指して、映画化権の交渉を
バローズの遺族と行っていることが明らかにされた。
 この原作の映画化に関しては、2002年第14回以来、パラマ
ウントで進められていた計画を度々報告してきたものだが、
2005年の第97回で紹介したジョン・ファヴロウ監督の起用が
発表されて以後の情報が跡絶えていた。そしてついにパラマ
ウントが保持していた映画化権が期限切れになったようで、
その権利の獲得にディズニーが動いているというものだ。
 この原作シリーズとディズニーの関係については第14回に
も書いているように長い歴史があったものだが、パラマウン
トが権利を保持していた5年間は、ディズニーにとっては何
だったのだろうか…。それはともかく、権利が確定したら、
第126回にも書いたように、2012年の原作発表100周年を目指
して、ぜひとも早急な製作を進めてもらいたいものだ。
 因に、パラマウントでは、ロベルト・ロドリゲス、ケリー
・コンラッド、ジョン・ファヴロウらの監督が計画にタッチ
していたものだが、それ以前のディズニーの計画では、ジョ
ン・マクティアナン監督の名前もあったとされている。これ
らの名前では、基本的に実写での映画化が目指されていたと
考えられるが、実は今回の映画化権の交渉には、ピクサーが
加わっているという情報もあるようだ。
 そうなるとCGIアニメーションでの映画化の可能性も高
くなるが、交渉に当っているバローズの遺族は、実写での映
画化を強く希望しているとも伝えられる。いずれにしても、
バローズが創造した火星の生物やキャラクターの映像化には
CGIは欠かせないもので、実写と合成でやるにしても、ピ
クサーの参加は心強いものだ。
 後は、脚本と監督に誰が選ばれるか、注目して見ていきた
い。
        *         *
 お次は、前回の記事の続報ということにもなるが、ジョニ
ー・デップがワーナーで進めている“Shantaram”の映画化
に、インド出身の女性監督ミラ・ネアの起用が発表された。
 この作品については、2004年の第73回から紹介しているも
のだが、昨年の第113回で紹介したように一時監督に予定さ
れていたピーター・ウェアが創造上の意見の相違を理由に降
板を表明し、計画が頓挫していた。しかし前回報告したよう
に製作者たちは今年10月の撮影開始を目指して準備を進めて
いたもので、この計画に待望の後任監督が決定したものだ。
 監督のミラ・ネアは、日本では2002年に公開された『モン
スーン・ウェディング』の監督として知られるが、ニューデ
リーの出身。ただしハーヴァード大学で映像学を学んだとい
う才媛で、インド代表に選ばれた同作品は、2001年のヴェネ
チア映画祭で金熊賞にも輝いている。そして2004年には、リ
ーズ・ウィザースプーン主演で製作された“Vanity Fair”
という作品でアメリカに進出。さらに“The Namesake”とい
う作品が、今年3月9日全米公開の予定になっている。
 その監督が、インドも舞台となるこの作品で里帰りするこ
とになるもので、“Salaam Bombay!”という作品をデビュー
作とする彼女が発揮する「欧米監督とは異なる視点」には、
製作を担当するグラハム・キングも大いに期待を寄せている
ようだ。
 オーストラリアの麻薬中毒患者が、世界一厳重と言われた
監獄を脱獄し、あるときはインドのムンバイで医師となり、
さらにアフガニスタンの反政府ゲリラに身を投じるという、
グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツの原作は、『ミュンヘ
ン』などのエリック・ロスが脚色を担当、今年の秋からの撮
影が予定されている。
        *         *
 続いてはシリーズ物の情報をいくつか紹介しよう。
 まずは、今年5月に第3作が公開される“Spider-Man”に
ついて、3部作で終了するか否か不明だったシリーズ第4作
の脚本を、第1作を手掛けたデイヴィッド・コープに交渉し
ていることが報告された。
 これは、先に行われた第3作の初号試写を見たコロムビア
の首脳が、その直後に動いたというもので、この情報が事実
とすれば、シリーズの継続は決定したと考えていいものだ。
因にコープは、前回も紹介したように“Indiana Jones”の
第4作の計画にも参加しているが、今年の夏に撮影が計画さ
れているその脚本は、当然すでに完成していなければいけな
いもので、当面“Spider-Man”への参加の支障になるもので
はない。
 ただし、主演のトビー・マクガイア、キルスティン・ダン
スト、ジェームズ・フランコの3人は、いずれも3作までの
契約を結んでいたもので、その契約を延長することは、特に
3人がその後にブレイクしたことを考慮すると契約金だけで
膨大な額になる。
 一方、監督のサム・ライミも、本人が続けて手掛けたいと
する希望は常々公表していたものだが、仮に本人が希望して
も契約金は釣り上がるのが決まりだそうで、これも監督とし
ては破格の金額になる可能性があるようだ。しかも監督は、
主演の3人とのリレーションシップを一番大事と考えている
ようで、監督の希望が叶うためにはそれこそ天文学的な契約
金が積まれることになりそうだ。
 これに対して、第1作と第2作の合計で、すでに10億ドル
を突破している全世界興行収入の額がどう判断されるかとい
うことになる。
 なお、シリーズの第2作と第3作の脚本は、アルヴィン・
サージェントが手掛けていたものだが、そこにコープが再登
板するということは、単なる延長戦が求められているもので
はなく、コープが自ら第1作で敷いた路線を大幅に転換する
ことも予想される。またそれをさせるためにコープの再登板
がある訳で、それがマクガイアらの期待に沿えることも重要
なポイントになりそうだ。
 コロムビア側は第4作の公開を、2009年か2010年に希望し
ているということだ。
        *         *
 お次は、日本では『ハムナプトラ』シリーズとして公開さ
れる“The Mummy”の第3弾について、ロブ・コーエン監督
が交渉されていることが報告された。
 この計画については、第119回でも紹介したが、その時に
報道されていたジョー・ジョンストン監督はキャンセルされ
た模様で、替ってコーエンの名前が出てきたものだ。しかし
コーエン監督と言えば、『ワイルドスピード』や『XXX』
での評価が高いものだが、いずれもその続編は進めたものの
途中降板しており、今回第3作に名前が出てくるというのは
不思議な感じもするところだ。
 またコーエン監督は、近作の『スティルス』でもメカフェ
チぶりを発揮していたが、ちょっとレトロな時代背景を持つ
このシリーズでどんな展開を見せるかにも興味が湧く。でも
まあ、本人がやると言えばそれはそれで楽しみなことで、こ
れは大いに完成が期待されるものだ。
 一方、マイルズ・ミラーと共に脚本を執筆したアル・ゴー
フの発言によると、「物語は、リックとエヴィの子供アレッ
クスが重要なキーとなるもので、極めてファミリーなストー
リーが展開される。ミイラ男も新規なものが登場する」との
こと。この展開でのコーエン監督の手腕にも期待したい。
 因に、主演のブレンダン・フレーザーとレイチェル・ワイ
ズは、まだ契約はしていないものの出演に向けての話し合い
は行われているとのことで、再演は間違いないようだ。撮影
は今年の夏、公開は2008年夏に予定されている。
        *         *
 第4作、第3作と来て、次は第2作と言えるのかどうかち
ょっと判らないが、ワーナーから正式のゴーサインが出され
た“Spuperman Returns”の続編について、第1作も手掛け
た脚本家のマイクル・ドハーティの発言が紹介された。
 それによると、第2作はアクション中心の物語になるとい
うことだ。これは監督のブライアン・シンガーも考えていた
ことだそうで、「“X-Men”の続編の“X2”がそうであった
ように、あるいは“Star Trek−The Motion Picture”に対
する続編の“Wrath of Khan”のように、第1作では設定の
基礎を作るために苦心をするが、第2作からはその束縛を逃
れて自由にアクションを繰り広げられる」とのことだ。
 実際ドハーティは、シンガーと共に“X-Men”から“X2”
への流れも作り上げてきたということだが、「この作業は実
に簡単なことだ」とも語っている。また、シンガーの頭の中
には、「“Wrath of Khan”のような展開がある」というこ
とのようで、確かロンドンのプレミアでは、クリプトン星の
3悪人の1人ゾッド将軍の再登場を予告するTシャツを着た
スタッフがいたとの情報もあったが、その可能性はかなり高
くなったようだ。
 ケヴィン・スペイシーのレックス・ルーサーと、ケイト・
ボスワースのロイス・レーンの去就も気になるところだが、
とりあえず第2作はアクション満載の作品となりそうだ。
        *         *
 以下は新しいニュースを紹介する。
 まずは2005年にディズニーと合併したピクサーが、新体制
になってからの初めての計画として、“WALL-E”という作品
を2008年6月27日に全米公開することを発表した。
 この作品は、『トイ・ストーリー2』でジョン・ラセター
との共同監督を務め、2003年の『ファインディング・ニモ』
でオスカーを受賞したアンドリュー・スタントンが監督する
もので、詳しい内容は極秘とされているが、最近株主に配ら
れた資料によると、主人公は若いロボットということだ。そ
してこのロボットが、宇宙の彼方にある家族の住む家を探す
物語との情報もあり、また配られた資料の画像では背景が火
星のようだという意見もあった。
 因にピクサーからは、今年6月に“Ratatouille”という
作品が全米公開されるが、この作品がディズニーとの旧契約
の最後の作品だったようで、来年の“WALL-E”からが新体制
での作品となるものだ。そして2009年には“Toy Story 3”
の計画も発表されている。
 なお、この第3作に関しては、一時はディズニーが独自に
製作するという発表もあったものだが、合併後にラセターが
ディズニー・アニメーションのトップの座に就いたことで、
ディズニーの計画はキャンセルされ、新たにピクサーで進め
られることが発表されている。
 これに加えて、上述した“John Carter of Mars”となる
訳だが、こうなると早ければ2010年にも火星(バルスーム)
での冒険が見られることになりそうだ。
        *         *
 お次はゲームの映画化ではないが、ゲームファンには気に
なる計画で、ヴィデオゲームの『ドンキー・コング』を巡る
2人のゲーマーの対決を描いたドキュメンタリー“The King
of Kong”の配給権をニューラインの姉妹会社のピクチャー
ハウスが獲得し、併せてドキュメンタリーをドラマ化するリ
メイク権をニューラインが契約したことが報告された。
 この作品は、1999年に『パックマン』で史上初めての完全
スコアを記録したことでも知られるプロゲーマーのビリー・
ミッチェルと、ミドルスクールの理科教師スティーヴ・ウィ
ーブの対決を描いたもので、事の起こりはウィーブが、20年
近くも前にミッチェルが打ち立てた『ドンキー・コング』の
最高得点87万4300点を、94万7200点という驚異的なスコアで
打ち破ったことから始まったようだ。
 そしてこの2人のちょっと常軌を逸した対決の模様が、ド
キュメンタリー監督セス・ゴードンの手で映像化され、1月
に開催されたスラムダンス映画祭に出品されたもので、この
情報がニューラインのリチャード・ブレナーに報告され、そ
の面白さに20回も見たというブレナーからトップのトビー・
エメリッヒに進言されて、直ちに契約が進められたというこ
とだ。
 なお、ドキュメンタリーは今年の夏に全米公開の予定で、
さらにドラマ化は、ゴードンの監督で直ちに進めるとされて
いる。因に、ウィーブの記録樹立は、それ自体がゲーム界で
はビッグニュースだったということで、今回の映画化も公開
されれば、注目を浴びることは間違いなしのものだそうだ。
        *         *
 後半は短いニュースをまとめておこう。
 5月公開の“Spider-Man 3”では悪役ヴェノムを演じてい
る俳優のトッファー・グレイスが、自らの製作総指揮と出演
で、“Source Code”と題されたタイムトラヴェル物のSF
作品をユニヴァーサルで計画している。実はこれ以上の内容
に関する情報は公表されていないものだが、脚本を執筆した
ベン・リプリーは、すでに“In Vitro”というホラー作品が
フォックスと契約され、“Red Cell”というスリラー作品を
ニューラインと契約しているということで、それなりの実力
はありそうだ。期待したい。
 続報で、スティーヴ・カレルとアン・ハサウェイの主演で
進められている“Get Smart”の映画化に、ドウェイン“ザ
・ロック”ジョンスンと、テレンス・スタンプの出演が発表
された。ザ・ロックの役柄は23号と呼ばれる新キャラクター
で、“Superman Returns”の続編ではゾッド将軍の再演も期
待されるスタンプは悪のリーダー役だそうだ。なお、製作は
2月3日に開始され、ロサンゼルス、ワシントンDC、それ
にモスクワでの撮影が予定されている。
 次も続報で、マーヴルが進めている自主製作映画の第1弾
“Iron Man”に、ロバート・ダウニーJr.とテレンス・ハワ
ードに続いてオスカー女優のグウィネス・パルトロウの出演
が発表された。役柄はヴァージニア・ポットという名前で、
主人公が着用する戦闘スーツを開発した企業家の個人アシス
タントというもの。『恋に落ちたシェークスピア』で1998年
の主演賞を受賞した女優にコミックスの映画化は、ちょっと
不似合いな感じもするが、派手目のアクション作品であって
も、キャラクターにはしっかりした背景を付けたいという製
作者の考えからパルトロウの起用が決まったそうだ。撮影は
3月に開始される。
 もう1本、マーヴル・コミックスの話題で、新たに“Luke
Cage”という作品の映画化が計画され、その主演に、『ワ
イルド・スピード2』や『フライト・オブ・フェニックス』
のタイリーズ・ギブスンが予定されていることを、本人が公
表している。この作品は、ヒーロー的にはPawer Manという
名前で活躍するようだが、主人公はニューヨーク・ハーレム
の出身。友達と行ったちょっとした犯罪で彼だけが捕まり、
刑務所で科学的実験が施される。一方、その場を逃れた友人
は、やがてギャングのボスとなる。そして、2人が共に愛し
た女性を巡って対決の時がやってくる…というもの。シリー
ズ名は“Luke Cage, Hero for Hire”というそうだ。なお、
この作品では、『ワイルド・スピード2』のジョン・シング
ルトンが監督を手掛けることも発表されている。
        *         *
 最後にちょっと気になる情報で、『レディ・イン・ザ・ウ
ォーター』のM・ナイト・シャマラン監督が新たに執筆した
脚本に対して、メイジャー各社が拒否反応を示し、映画化が
暗礁に乗り上げているということだ。
 この作品は、タイトルが“The Green Effect”、あるいは
“Green Planet”というもので、人類が自然を征服しようと
して引き起こす、環境破壊による大災害を描いているという
ことだ。しかしこの脚本に対して、すでにユニヴァーサル、
パラマウント、ワーナー、ソニーが契約しないことを表明、
フォックスだけが話し合いには応じているものの、脚本の大
幅な書き直しを要求しているということだ。
 『シックス・センス』以来、常に引く手あまただったシャ
マラン監督だが、昨年の『レディ…』の躓きでは一気に信用
を無くしてしまったようで、差し当たっては、前回紹介した
“Avatar: The Last Airbender”がパラマウントで進められ
てはいるが、これも直ぐというものではなく、その前にやり
たかった企画ということのようだが、ちょっと実現は難しく
なりそうだ。
 なおシャマランは、『レディ…』では、ラズベリー賞の作
品、監督、脚本と助演男優賞の4部門に、個人でノミネート
されているものだ。


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井口健二