井口健二のOn the Production
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2006年10月31日(火) ソウ3、DEATH NOTE(後編)、マウス・タウン、悪夢探偵

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ソウ3』“Saw III”
ソリッド・シチュエーション・スリラーという新たなジャン
ルを作り出したとまで言われた『ソウ』シリーズの第3弾。
第1作、第2作を手掛けたリン・ワネルの脚本を、第2作の
原案監督を務めたダーレン・リン・バウズマンの演出で映画
化した。
第1作では、大きなバスルームという限定された空間に閉じ
込められた2人の男のサヴァイバル劇が演じられ、第2作で
は、1軒の家に閉じ込められた8人の男女のサヴァイバル劇
が演じられた。
その第1作では、ジグソウと名告る仮面の男が犯人とされた
が、第2作ではそこに協力者のいることも明らかにされた。
そして第3作では、その協力者と共に新たな殺人ゲームが展
開されるものだが…そのターゲットは2人で、その点では原
点に戻った感じのものだ。
実際、第2作は、第1作には関っていないバウズマンのオリ
ジナル脚本を、ワネルが続編として書き直したもので、その
意味では傍系作品。それを今回はワネルの脚本で原点に戻し
た訳で、流れとしてはこれが正しいものということになる。
そして今回のターゲットは、不倫に走って家を顧みなくなっ
ている優秀な女性外科医と、3年前に息子を交通事故で失っ
たが、その加害者が微罪とされたことから復讐の念に凝り固
まった男性。その2人にジグソウは、あることを教えようと
するのだが…
第1作も第2作も、ターゲットとされた人々は、それぞれ心
に闇を持っているという設定で、その心の闇が事件に巻き込
まれる理由とされた。しかし、前2作ではその部分はあまり
明確にされなかった。今回は、その部分のドラマから周到に
描かれて行く。
正直に言って、第1作は学生出身のクリエーターたちによる
粗削りな作品という感じだったが、第2作では他人の脚本を
見事に続編に焼き直した手腕に驚き、今回第3作でその見事
な脚本には、脚本家ワネルが本物だったという想いがした。
それに監督のバウズマンも、第2作で新人だったとは思えな
いほどの見事な演出を繰り広げる。試写後の会見でバウズマ
ンは、現場は映画学校のようだったと発言していたが、撮影
監督などにはベテランを起用したスタッフ体制が、功奏した
というところのようだ。
それにしても、見事に進化している。たった3作目、しかも
3年間で新たな映画作家の誕生を目の当りにした感じだ。そ
の意味でも楽しめるシリーズだった。
ただし、繰り返される惨劇の映像は、これも前2作以上に過
激に進化しているので、体調不良の人にはお勧めできない。
実際にアメリカではレーティングでかなり揉めたようだが、
日本でも4回の映倫試写の末、ようやく4カ所の画面を少し
暗くして、血糊の赤色を弱くすることで、当初のR−18指定
からR−15に変更してもらえたそうだ。
従って、日本での上映はノーカットで行われる。会見の席で
バウズマンは、日本の検閲がこの程度に納めてくれたことに
感謝したいと語っていた。
なお、会見での発言によると、シリーズは今後も続くことに
なるようだ。

『DEATH NOTE The Last Name』
人気コミックス原作の映画化で、初夏に前編が公開されて話
題となった作品の後編。
名前を書くだけでその相手に思い通りの死をもたらす死神の
ノートを巡って、法で罰し切れない犯罪者に死を送り届ける
キラと名告る人物と、そのキラ捜索のために国際刑事警察機
構から送り込まれた天才犯罪分析官Lとの攻防を描く。
そして今回は、第2のノートの存在と、キラが拒否した死神
の目をも持つその新たな所有者を巡っての意外な展開も描か
れる。果たして、捜査チームに乗り込んだキラと、Lとの対
決の結末は…
前作は、正義感で始めたはずのキラが徐々に自分の力に酔っ
て、大量殺戮者になって行くドラマが描かれ、それは映画と
しても面白かった。
しかし後編では、そのようなドラマは希薄にされ、どちらか
というとコミックス的な活劇が主体に描かれる。それはそれ
で、コミックスの人気の理由もそこにあるのだから構わない
が、映画ファンにはちょっと物足りないかもしれない。
しかしこの作品のファンにとっては、そんなことはどうでも
良いことだし、特に今回は、原作では一番の人気キャラと言
われる弥海砂に対するちょっとSMチックな描写も、日本の
一般映画にしてはそれなりに描いているから、これにはファ
ンも満足することだろう。
ただし、僕は原作を読んではいないが、結末は原作とは違え
られているようだ。その結末は、冷静に考えればこうなるし
かないものだが、物語の展開の流れの中でこの結末が提示さ
れたことによる呆気なさは否めない。
結局、観客はその流れの中で見ているのだから、この結末で
カタルシスが得られるかどうかに疑問は残る。ハリウッドで
のリメイクも噂に上っているようだが、ハリウッド版での結
末がどうなるか、そこにも興味が引かれるところだ。

上映時間は2時間20分。かなりの長さだが、何しろ次から次
にいろいろな展開が生じていくから、それはスピーディーで
見ている間は飽きさせない。
それに、物語の主題はキラとLとの対決だが、それを彩るの
が、海砂であったり、高田清美であったりと、結構女性が多
いのも魅力的だ。その女性たちの描写に結構時間を割いてい
るのが上映時間の長さに反映しているもので、これは仕方が
ないとも言える。
まあ、デスノートのルールの整合性など、突っ込みどころは
多々ある作品だが、見ている間は楽しませてくれるし、見終
えてから話題にできる要素がいろいろあるのも、それなりに
良いことのように思える。
映画館を出てからも楽しめる作品と言えそうだ。

『マウス・タウン/ロディとリタの大冒険』
                   “Flushed Away”
ドリームワークス・アニメーションとアードマン共同製作に
よるCGIアニメーション。
ドリームワークスとアードマンは、2000年に公開された『チ
キンラン』以来の提携関係にあるが、2005年公開の『ウォレ
スとグルミット』までの2作品は、アードマン製作の作品を
ドリームワークスが配給しているものだった。それに対して
今回は、両社からそれぞれの所属監督が投入されての本格的
な共同作品となっている。
元々はアードマンで、『チキンラン』にも登場したネズミの
キャラクターを発展させたいという企画が進められ、それに
ドリームワークスで進んでいたネズミを主人公にした企画が
合体したということだが、舞台設定がどんどん大きくなって
従来のクレイアニメーションでは処理し切れなくなり、つい
にCGIで制作することになったそうだ。
物語は、大きなお屋敷に住むペットネズミのロディが、ある
家人のいない日に下水管からドブネズミに侵入される。そこ
で、そいつを騙してトイレに流してしまおうとするのだが、
逆に自分が流され(flushed away)てしまう。
こうしてロンドンの地下世界にやってきたペットネズミは、
大家族を支える勝ち気な雌ネズミのリタと出会い、彼女の協
力で何とか元の家に戻ろうとするのだが…その陰では、ガマ
ガエルによる卑劣な陰謀が進められていた。
これに、フランスから来たガマガエルの従兄弟や、ガマガエ
ルの手下となっているネズミの凸凹コンビなどが加わって、
下水道の交錯する地下世界での大冒険が始まる。
さらに物語には、『ファインディング・ニモ』から007ま
で、いろいろなパロディが満載されている。
そして各キャラクターの声優に、ロディ=ヒュー・ジャック
マン、リタ=ケイト・ウィンスレット、ガマガエル=イアン
・マッケラン、従兄弟=ジャン・レノ、手下=アンディ・サ
ーキス、ビル・ナイなどという錚々たる顔ぶれが揃っている
のも聞きものだ。
映像では、アードマン特有の口の大きなキャラクターがその
ままCGI化されている他、シークェンスの流れの中にちょ
っとした留めカットが入るなど、クレイアニメーションの雰
囲気を丁寧に再現している。
来日記者会見で監督は、「手法は気にせず楽しんで欲しい」
と言っていたが、もちろん見ている間は気になることではな
い。ただ、この作品がクレイアニメーションの歴史を背景に
誕生したことも確かな訳で…
その点について会見で僕がした質問に対して、アードマン所
属の監督からは、「もっとキャラクターに親密な作品には、
手造りのクレイの温もりは欠かせないので、その伝統は残し
て行く」との回答が出されていた。
なお、この作品は東京国際映画祭で特別招待作品として上映
されたものだが、実は事前に行われた内覧試写では、一部未
完成の部分があるという情報だった。しかし映画祭で上映さ
れたのは、エンディングなどの欠けていた部分も補充された
完成ヴァージョンということで、これが正真正銘のワールド
プレミアだったようだ。

『悪夢探偵』
ローマ映画祭とプサン映画祭でワールドプレミアされた塚本
晋也監督の新作。春に行われた撮影完了記者会見では、ヴェ
ネチアに出したいと言っていたが、それには間に合わず、ロ
ーマの直前にようやく完成したということだ。
同じ会見で監督は、「映画の編集には、作品を悪くしようと
する力が働くので、それに対抗するのは大変だ」と語ってい
たが、正に本作は焦らずじっくりと完成された作品というと
ころだろう。
物語は、他人の夢に侵入できる能力を持った男が主人公。し
かしそれは、恐怖に満ちた悪夢を共有することにもなるもの
で、主人公自身はそんな能力を持ってしまったことを呪って
いる。
そんなある日、若い女性の惨殺死体が発見される。それは状
況から自殺と見られたが、続けて中年の男性が自宅のベッド
で、自ら首を掻き切って死ぬ事件が発生。その様子は、悪夢
にうなされ、その命じるままに首を切ったとしか思えないも
のだった。
その事件を捜査する捜査班には、本庁からやってきた女性刑
事がいた。彼女はキャリア組での軋轢に疲弊して自ら転属を
願い出たものだったが、いきなりオカルト面からの捜査を命
じられて面食らう。しかし事件はますますオカルトチックな
様相を見せ始め…
こうして彼女は、悪夢探偵と遭遇する。そして彼女は、事件
解決のために自らがその悪夢を見て、彼女の見る悪夢に侵入
することを依頼するのだが…
出演は、悪夢探偵に松田龍平、女刑事に歌手のhitomi(予想
以上の出来)、他に、安藤政信、大杉漣、原田芳雄。そして
悪夢を操る謎の男に塚本監督本人が扮している。
物語はシリーズ化も予定されているものだ。その第1作とし
て本作では、設定も簡潔に説明されているし、またシリーズ
全体のコンセプトであろうスプラッターの部分も見事なもの
で、満足できる作品に仕上がっている。
作品は、『エルム街の悪夢』の流れを汲むものだが、『エル
ム…』では描き切れなかった悪夢が人を殺す様子なども納得
できるように描かれており、その点では一歩リードという感
じもするものだ。
ただ本作では、実際の悪夢との対決になってからがちょっと
あっけなく、ここでもう少し何か欲しかった感じだが、そこ
はシリーズの第1作ということで、設定の説明などにも時間
が割かれているから仕方がないところだろう。それもあって
今回は敵役を監督本人が演じているのかも知れない。

監督は、ほかの作品も作りつつ、節目々々にこのシリーズを
作っていきたい意向とのことだが、それなら次の節目を楽し
みに待ちたいものだ。でも、できたら第2作は、少し早めに
作った方が、効果はあるように思えるが。


(東京国際映画祭のコンペティション及びアジアの風部門で
上映された作品の紹介は、11月5日頃に掲載する予定です)



2006年10月20日(金) 映画監督って何だ!、TANNKA、モンスター・ハウス、父親たちの星条旗、手紙、ナイトメアー・ビフォア・クリスマス−3D

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『映画監督って何だ!』
日本映画監督協会創立70周年記念映画と銘打たれた作品。
1970年施行の新著作権法第29条における「映画の著作権は映
画製作者に帰属する」という条項について、施行以来反対運
動を続けている日本監督協会の主張を、インタヴューや再現
ドラマを通じて検証したプロパガンダ作品。
映画の著作権の帰属については、1970年当時に問題にされた
ことは記憶にあるが、その後に何の進展もなかったというこ
とにまず驚かされた。この点は協会の運動不足が否めない感
じだ。それがようやく反対の意思表示をした作品を作り上げ
たというものだ。
その反対の根拠として、実は1970年法以前に施行されていた
1931年改正による旧著作権法では、「映画の著作権は最初に
監督に帰属し、その完成と同時に映画会社に移る」とする解
釈が成立していたということは改めて認識した。
本作では、その著作権法が、1970年の法改正に向けた国会審
議の中で歪められて行く過程が、国会議事録に基づく再現ド
ラマの中で克明に描かれている。その再現ドラマを始め、著
作権法を解説するコントなどが、約200人の映画監督のメイ
演技で演じられたものだ。
映画監督といっても、テレビのレポーターやコメンテーター
などで知った顔も多く、その人たちはそれなりの演技をして
いるから、見ていてわっと言うようなところはなかった。
ただし、五所平之介監督作品の脚本を3人の監督が独自の解
釈で撮り直し、監督の独自性を示すという試みは、準備不足
なのか多少無理があるように感じたし、江戸時代の長屋を舞
台にした法律の説明コントも、かえって判り難くしているよ
うにも感じられた。
これに対して、国会の再現ドラマは思いが込められているせ
いかかなりの熱演ぶりだ。中でも、藤本真澄東宝社長の審議
委員会での証言のシーンなどは、後で全面否定される部分も
含めて、こんな詭弁がまかり通っていたのかと驚かされた。
それでも結局は、共産党も含めた全会一致で法案は可決され
てしまうのだから、ここでも監督協会の力不足が再認識され
てしまう。今なら発言力のある監督も多いし、今からでもも
っと声を上げるべきではないのか、そんなことも感じた。
なお、藤本証言は、「戦後、映画製作者は戦犯として訴追さ
れたが、監督でその嫌疑をかけられた者はいない」とするも
の、しかしこれは、実際には戦犯ではなく、企業家に対する
公職追放の話で、それも3年で解除されたそうだ。
それに対して、「『黒い雪』や『愛のコリーダ』で監督は被
告席に立ったが、映画製作者は一人も訴追されなかった」と
言う意見にはなるほどと思わされた。
なお、エンディングでは、宇崎竜童が歌うラップによる日本
映画の題名100本以上を綴った主題歌が流れ、これはかなり
面白かった。

『TANNKA』
歌人の俵万智が読売新聞に連載した処女小説の映画化。
この原作から作詞家の阿木燿子が脚色し、映画監督デビュー
を飾った作品。
女性フリーライターとして活躍する主人公は33歳。不倫では
あるが男性カメラマンと9年越しの関係を持ち、仕事も恋も
充実した日々を送っていると思っている。ところがそこに若
い男性が現れ、彼の情熱に惑う彼女は、やがて自分の生き方
にも疑問を持ち始める。
僕は男だから描かれている女性の心理には判らないところが
多いが、結局彼女は、今回のことがなければ、不倫のまま満
足して一生を送れたのだろうか。確かに『地下鉄に乗って』
の常盤貴子の役もそんな女性のように思えるが、女性はこれ
に納得できるのかな?
男性の観客としては、そんなことを考えながら見終えた作品
だが、恐らく僕などは想定外の観客なのだろうし、本作は女
性が見て共感を呼ぶことができれば、それで充分なものだろ
う。その点は、残念ながら僕には判断できないところだ。
なお物語の要所には、過去に俵が発表した短歌の中からそれ
ぞれマッチしたものが選ばれて挿入されており、その感覚は
なかなか良いものだった。
主演は黒谷友香。その年上の恋人に村上弘明、年下の恋人に
黄川田将也が共演。特にモデル出身で、『SHINOBI』
などにも出ている黒谷のR−15指定を受けた体当たりの演技
には迫力があった。他に、高島礼子、西郷輝彦、萬田久子、
中山忍、本田博太郎。
また、音楽を阿木の夫の宇崎竜童が担当しており、アラビア
風の音楽をつけているが、この音楽に合わせたベリーダンス
は、もう少し見せてほしかったところだ。
我が家は読売新聞を購読しているので、原作は連載当時に気
になったが、男女の三角関係(triangle=トライアングル)
の物語に対して、わざわざ『トリアングル』と題名を振る感
覚に鳥肌が立って、読む気が起こらなかったものだ。
今回の映画化で、その題名を変えてくれたことにはほっとし
たが、ローマ字でNを重ねるのは何の意味なのだろう。ワー
プロではそうするが、後が母音でなければ1回で「ん」に変
換されるし、母音の時も「’」を付けるのが普通の表記法だ
ったと思うのだが?

『モンスター・ハウス』“Monster House”
ロバート・ゼメキスのイメージ・ムーヴァースとスティーヴ
ン・スピルバーグのアムブリンの共同製作によるCGIアニ
メーション。
とある住宅地の一角に建つ、見るからに恐ろしげな雰囲気の
漂う家。その家の住人は、芝生に入った子供たちを追い払っ
たり、飛び込んだおもちゃを取り上げたりして、子供が家に
近づくことを徹底して嫌っていた。
主人公は、その家の向かいに住む12歳のDJと幼友達のチャ
ウダー、そして名門校に通う優等生のジェニー。家が怪しい
と睨んで監視を続けていたDJは、チャウダーのバスケット
ボールが飛び込んだのをきっかけに、ついにその家が生きて
いることを発見する。
ところが警察や大人たちは、当然のようにそんなことは信じ
てくれない。しかもいろいろな経緯から、彼らは3人だけで
その家の謎を突き止めなければならなくなる。こうして、テ
ィーネイジャー直前、子供時代最後のハロウィンの大冒険が
始まる。
ゼメキス監督が、2004年にトム・ハンクスを主演に迎えて発
表した『ポーラー・エクスプレス』と同じく、俳優の演技を
モーションキャプチャーにより取り込んで製作されたCGI
アニメーション。
『ポーラー…』の時は、キャラクターも俳優に似せたため、
パフォーマンスキャプチャーという方式名も付けられたが、
今回は前作ほど俳優をそのまま取り込んではおらず、そのた
めか、技術紹介でも単にモーションキャプチャーとされてい
たようだ。
ただし、老人役のスティーヴ・ブシェミは、キャラクターも
かなり本人に似ている感じだし、演技も忠実に採られている
ように見えたものだ。しかし、その他のキャラクターは、一
般的なアニメキャラの雰囲気で描かれている。
実際の話、お子様向けの作品だし、これを『ポーラー…』並
みにリアルにすると、大林監督の『HOUSE』ようにかな
りグロテスクな作品になりそうで、その辺は周到に計算して
作られている感じだ。
なお、日本公開は来年1月13日だが、その際、関東は舞浜、
多摩、浦和美園の3館で昨年の『チキン・リトル』と同じ方
式による3D上映も行われる。試写会は2Dだったが、一種
胎内巡りの映像は、3Dにすると迫力はかなりすごそうだ。

『父親たちの星条旗』“Flags of Our Fathers”
第2次大戦末期の大激戦地・硫黄島を舞台に、ピュリツァー
賞を受賞し、銅像にもなっている有名な写真の誕生を巡る物
語と、その写真の登場人物であったために一躍英雄とされて
しまった男たちの戸惑いを描いた作品。
実際、この時の合衆国は、戦争資金が底を尽き、後一カ月も
したら日本の和平を申し入れなければならなかった状態だっ
たが、この一枚の写真が疲弊しかけていたアメリカ人に戦勝
意識を呼び起こし、彼らを最大限に利用した宣伝イヴェント
の効果もあって140億ドルもの国債を発行。戦争を勝利に導
いた功労者だったとも言われる。
逆に言えば、彼らとこの写真がなければ、広島、長崎に原爆
が落とされずに済んだかも知れないということにもなりそう
だ。
しかもこの写真が、実は摺鉢山に最初に旗を立てた兵士たち
のものではなく、ある意味やらせであったという事実や、英
雄として迎えられた3人の兵士たちがその事実を言えないた
めに苦しむ姿が丁寧に描かれ、戦争に賭けてその中で踊り続
ける政治家たちの愚かさも浮き彫りにしている。
原作は、写真に写され生き残った3人の内の1人、衛生兵ジ
ョン・ブラッドリーの息子によって書かれたものだが、実は
彼の父親は、生前には戦場でのことを息子には話したがらな
かったそうだ。そんな父親鋸とを、亡くなった後に取材して
纏められた作品という。
僕の父親もそうだが、戦場にいて本当の戦争を知っている人
たちは、戦争のことを口にはしたがらないようだ。そんな重
い口の奥にあった本当の戦争とそれを取り巻く政治や社会の
状況を描いた作品。
今年の春、会見嫌いのクリント・イーストウッドが日本では
初めて登壇した記者会見で、戦争の愚かさを強調していたこ
とを思い出し、監督の意志を再確認できる作品だった。
なお撮影は、現地の硫黄島でも行われているが、俳優のいる
シーンの多くはアイスランドで撮影されている。そして、島
の周囲を埋め尽くす艦船は全てディジタル・ドメイン制作の
CGIによるもので、その豪勢さは戦争が如何に金を浪費す
るものか、そんな感じも伝わってくる映像だった。
本作は東京国際映画祭のオープニングを飾った後、10月28日
から日本公開され、その後には同じイーストウッド監督によ
る日本軍側を描いた作品『硫黄島からの手紙』が12月8日の
公開となる。
今回の作品は、厳密には戦争を描いた映画ではないとも言え
る。しかし12月公開の作品では、正に戦争を描かざるを得な
いもので、そこで如何に戦争の愚かしさを描き切れるか、次
の作品も注目される。

『手紙』
『秘密』『変身』などの映画化作品でも知られる東野圭吾原
作の映画化。
上記の2本はいずれもファンタスティックなテーマを含んで
いたものだが、本作はその様な作品とは打って変わって、強
盗殺人の罪で無期懲役となっている兄を持つ男性の姿を描い
た、ある種の社会派ドラマとも言えるものだ。
主人公の兄は、空き巣のつもりで入った家で帰宅した家人と
遭遇し、刃物で反撃されて、その刃物で相手を刺殺してしま
う。そこには偶然の要素も多分に見られるが、罪名は強盗殺
人。それは無期懲役以上の罰を避けられない犯罪だった。
しかも弟にとってその兄は、両親のいない環境で自分に学が
なく苦労しために、弟にだけは大学進学をと、身体を壊して
まで働いてくれた人であり、たった一度の過ちが取り替えし
のつかない事態になってしまったことも明らかだった。
しかし、その兄が服役してからは、数多くの差別が弟の身に
降りかかる。そのため弟は、幾度も仕事場を追われ、住まい
を追われ続けている。物語は、そんな兄弟の間で交わされる
手紙の形式で始まる。そしてその手紙がいろいろなドラマを
生み出して行く。
そんな弟に対する差別が、理不尽なものであることは誰の目
にも明らかなものだ。しかし世間ではそんな差別がまかり通
っていることも明らかな事実だ。物語の中ではネットによる
卑劣な書き込みの話も登場するが、これなどは茶飯事に目に
するものだ。
かと言って、自分がそのような差別に対して何をしているか
と言われると、何も答えられないことも事実だろう。逆にそ
んな差別に逢わないよう汲々としているのが現実というとこ
ろだ。この作品はそんな差別に対する憤りが見事に描かれた
作品だ。
ただし物語は、主人公たちに対しても甘い目を向けているも
のではない。そこにある厳しい現実との対比は、主人公たち
にも非があることを明確にし、その中での救いは、自己が生
み出さなくてはいけないものであることも語っている。
最後に、ほんの少しだけの光明は描かれるが、主人公たちに
は厳しすぎる物語であるかも知れない。作者自身、映画化さ
れるとは思わなかったということだが、今の時代に、誰かが
言わなくてはいけないことをちゃんと言ってくれた、そんな
作品のように思えた。

『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス−3D』
         “The Nightmare Before Christmas:3D”
ティム・バートンの原案とキャラクターデザインで1993年に
発表された人形アニメーション作品の3Dヴァージョンによ
る再公開。
本作のオリジナルについては、2004年9月29日付で10周年記
念再公開の時に紹介しているもので、内容的にはその時の紹
介の通りだが、今回は既存2D作品の3D化ということで、
3Dファンにとっては一見の価値がある作品と言える。
後からの3D化では、夏に公開された『スーパーマン・リタ
ーンズ』のIMax上映でも一部行われたが、今回はオリジ
ナルが人形アニメーションなので、その立体化は撮影時のも
のを再現することになる。
因に人形アニメーションの作家たちは、常々3Dでないこと
を残念に思っているのだそうで、そんな作家たちの思いも伝
わってくる作品と言えるものだ。なお本作の3D化に当って
は、当時のスタッフたちの承認を得ながら作業が行われた。
その作業の苦労などはいろいろ伝えられているが、こればか
りは見てもらわないと何の価値もない生じないものだ。
日本公開は10月21日からだが、関東地区は、舞浜、多摩、浦
和美園の3カ所だけ。なぜ都心で行われないのか理由が判ら
ないが、チャンスがあったらぜひ見てほしい。



2006年10月15日(日) 第121回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 最初はちょっとショッキングなこの話題から。
 “Star Wars Saga”を完結させたジョージ・ルーカスが、
「もはや大作映画を作る意志はない」とする爆弾発言をした
ことが報じられた。
 この発言は、ルーカスが母校のUSC映画学校に総額1億
7500万ドルの寄付を行ったセレモニー(旧USC Film School
をSchool of Cinematic Arts at USCに変更することも発表
された)後のインタビューで飛び出したもので、「仮に2億
ドルの資金があったら、60本の2時間ドラマを作る。そして
それを有料テレビやダウンロードで売る。大作映画は製作費
が掛かり過ぎて、リスクが大きい」と答えたとのことだ。
 またルーカスは、「ブランドを創ろうとするなら、サイト
を持って、そこに訪れる人々を満足させる作品で満たさなけ
ればならない。それには量が重要だ。もしそんなに創れない
と言うなら、あなたが本当に幸運で、やるべきことが本当に
判っていればそれでも可能かも知れない。しかしそれには、
多大な失敗も有り得るということだ」とも語ったようだ。
 確かにここ数年、ハリウッドの大作路線は、作品のぶつけ
合いで全作品が成功する訳には行かなくなってきているが、
それにしても『SW』の大成功で富と名声を得た人の発言と
しては寂しい限りだ。
 ただし、“Indiana Jones 4”については、「15年も関わ
ってきたから、これは完成させる。スティーヴン(スピルバ
ーグ)と僕はずっと一緒に作業を続けきて、皆がハッピーに
なれる何かを作り上げたいと思っている。それは多分近い内
に何かの形で発表できると思う」とのことだ。
 またルーカスフィルムでは、第2次大戦中の黒人航空兵の
姿を描いた“Red Tails”という計画も進めているそうで、
この2作と現在テレビ向けに進められている“Star Wars”
の実写シリーズについては、ルーカスの製作総指揮で作り上
げるとしている。さらに、現在はテレビ向けの製作を行って
いるルーカス・アニメーションでは、長編を製作する計画も
あるようだ。
 しかし、ルーカスフィルムが製作する2作品と、テレビ版
の“Star Wars”シリーズが完了したら本人は半ば引退した
いとしており、引退後には、「自然界の神秘を描いた小さい
映画」を監督したいという計画も語っていたそうだ。
 因に、上記のセレモニーには、スピルバーグとロバート・
ゼメキスも出席して、祝砲の発射やUSCマーチングバンド
によるファンファーレの演奏など、同校の歴史の中でも最大
の感謝の意思表示が行われたとのことだ。
        *         *
 お次は、前回もMGMの動向を紹介したが、そのMGMと
は1973年以来行動を共にしてきたユナイテッド・アーチスツ
(UA)の名前を復活させる動きが出てきた。
 UAは、元々は1919年にメアリー・ピックフォード、ダグ
ラス・フェアバンクス、D・W・グリフィス、それにチャー
リー・チャップリンの4人が当時のハリウッド体制に対抗し
て、芸術家の権利を守るために設立した映画会社だった。こ
のため多くの映画作家たちが、UAの名の許に映画配給を行
うなど、商業主義に走らない経営はアメリカ映画の良心のよ
うにも見られていたものだ。
 ところが1973年、当時同社の経営権を持っていた親会社の
トランスアメリカから、ハリウッドの老舗MGMが製作した
作品の配給を手掛けることが発表されたのを機に、当時のU
Aの経営陣だったアーサー・クリムとロバート・ベンジャミ
ンが独立してオライオンを設立。これにより求心力を失った
UAは、さらに1980年の『天国の門』の失敗による損失を回
復できず、1981年に当時のMGMのオーナーだったカーク・
カーコリアンによって、逆にMGMに買収される形で併合さ
れ、今日に至ったものだ。なお、当初はMGM/UAという
ロゴマークも使われていたが、それも何時の間にかMGMの
みになってしまっていた。
 そのUAの名称に対して、MGM株を売却してソニーによ
る買収に協力したカーコリアンや、元パラマウント経営者の
フランク・マンクーソらが買い取りを申し出ているもので、
その価格は4−5億ドルが提示されているとのことだ。因に
この金額は、カーコリアンがソニーに売却したMGM株の額
に比べると少額だが、実は現在ソニー本社で問題になってい
るパソコン用充電池のリコール費用に匹敵するもので、その
辺が微妙なところだ。
 なおUAの名称に関しては、過去にはフランシス・コッポ
ラやハーヴェイ・ワインスタインらも買い取りの交渉を行っ
た経緯があり、それだけ期待される名前ではあるが、果たし
て『黄金狂時代』『真昼の決闘』『ウェスト・サイド物語』
『アニー・ホール』『レインマン』などの名門復活となるか
どうか。しかも今回の交渉は名称だけで、再映画化権等は対
象とされていない。従って、007等の本来UAが持ってい
たシリーズも、その権利はMGMに残され、あくまで名称だ
けを復活して、ここから新しい歴史を刻むことになる。旧経
営陣が設立したオライオンも、1991年の『羊たちの沈黙』を
最後にすでになく、新UAにどのような経営方針が建てられ
るかにも興味が湧くところだ。
        *         *
 続いては続報で、2004年3月1日付の第58回で紹介した元
エル誌の編集者ジャン=ドミニーク・ボウビイが、全身麻痺
の状態で、片目の瞬きだけで綴った自伝“The Diving Bell
and the Butterfly”の映画化について、9月にフランスで
撮影が開始された。
 この映画化では、前の紹介の時にはユニヴァーサルがジョ
ニー・デップ主演で計画を進めていることを報告した。しか
し、デップ本人も出演を希望して、製作者としては願っても
ない状況ではあったものの、そのスケジュールは各社の大作
に押されて来年以降まで一杯という状況。ついにその製作時
期を待てなくなった製作者が、今年の春に彼の出演を断念す
ることを発表し、デップもこれを了承していた。
 これにより、ユニヴァーサルも手を引くことになったが、
製作者は独自にフランス・パテ社の傘下で製作を進めること
とし、パテが所有するプロダクションとフランス3シネマと
いうプロダクションの共同製作、それにカナル・プラスの協
力で撮影開始に漕ぎ着けたものだ。
 なお、デップに代わる主演は『ミュンヘン』などに出てい
るマチュー・アマルリーク。共演には、『フランティック』
のエマニュエル・セニア、『あるいは裏切りという名の犬』
のアンヌ・コンシニ、さらにマックス・フォン=シドーらを
迎えての撮影開始となっている。
 監督は、前回の報告から変わらず『バスキア』のジュリア
ン・シュナベル。脚本も代ってはいないと思うが、台詞はフ
ランス語になるようだ。
        *         *
 次も良く似た状況で、今年3月1日付の第106回で紹介し
たラッセル・クロウ主演、ジェームズ・マンゴールド監督の
“3:10 to Yuma”(決断の3時10分)のリメイクについて、
10月23日からニュー・メキシコでの撮影が発表されている。
 そしてこの計画も、前回は1957年のオリジナルを製作した
コロムビアでの計画として紹介したものだが、こちらは製作
費が掛かり過ぎるとの理由で6月にキャンセルされて、その
後をライオンズゲイトが引き継ぎ、製作費5000万ドルで実現
となったものだ。
 なおコロムビアの判断では、クロウの主演で西部劇は成功
が確信できない。そのクロウの出演料が製作費のかなり部分
を占めているのが問題としていた。しかし、そのクロウは製
作者にも名を連ねているもので、監督としては彼を外す訳に
は行かなかったようだ。因にマンゴールドは、コロムビアと
は優先契約を結んでいて、最初に同社に企画を持って行かな
ければならないという状況にあるが、実は『君につづく道』
の時も、当初はコロムビアで進めていたものの、キャンセル
されてフォックスに移した経緯がある。
 しかしマンゴールドは、「製作を進めるか否かは会社の判
断だから、それについて自分がとやかく言うことはない。そ
れで映画が作れなくなるものではないし、今後もコロムビア
との契約は維持する」とのことだ。実際、今回の作品も、映
画化権の問題ではコロムビアでなければ立上げられなかった
もので、同社がキャンセルすることで他社での製作が可能に
なる。従ってマンゴールドとしては、その辺の状況をうまく
利用したとも言えるようだ。
 オリジナルは、グレン・フォードとヴァン・ヘフリンの共
演で、護送を待つ悪党とその監視を頼まれた農夫の、列車の
到着を待つ間の虚々実々の駆け引きを描いた異色西部劇。今
回の脚本は、『ワイルド・スピード2』のデレク・ハースと
『コレテラル』のスチュアート・ビーティが手掛けている。
 また作品には、クリスチャン・ベイル、ピーター・フォン
ダ、グレッチェン・モル、ダラス・ロバーツ、ベン・フォス
ターらの共演も発表されている。
        *         *
 お次は、7月15日付の第115回で紹介した“I Am Legend”
の3度目の映画化について、ウィル・スミスの相手役に、ブ
ラジル人女優のアリス・ブラーガの出演が発表されている。
 なお、ブラーガは2002年の“City of God”に出演してい
たということで、その後アメリカに進出して、最近ではトラ
イベカ映画祭で上映されたブレンダン・フレイザー、モス・
デフ共演の“A Journey to the End of the Night”などに
も出演している。また、ブラジル映画の“Lower City”や、
ディエゴ・ルナと共演した“Solo Dios sade”という作品の
公開が控えているようだ。
 なお、前回この作品については物語の改変を心配したが、
今回の発表に添えられた記事によるとアキヴァ・ゴールズマ
ンがリライトした脚本では、それぞれ孤立して生き残った3
人の人間が登場するということで、ブラーガもその3人の内
の1人とされている。従って、前回報告したジョニー・デッ
プと併せて3人が出揃う訳だが、実は今回の記事ではデップ
の名前は全く出ておらず、一部にはすでにキャンセルされた
との情報もあるようで、その辺は全く定かでないところだ。
 ただし、フラシス・ローレンス監督による撮影は、今秋ニ
ューヨークで開始となっており、デップが出ないとすると、
その代りの男優も発表されていなければいけない時期のはず
で、その情報がないのも解せないところだ。
        *         *
 題名が出たついでに報告しておくと、2004年8月1日付の
第68回で紹介した“City of God”の続編と言われる“City
of Men”のアメリカ公開が、前作も手掛けたミラマックスの
配給で2007年に行われることが発表された。
 ただしこの作品は、今まで続編として紹介されていたもの
の、登場人物などのオリジナルとのつながりはあまりなく、
以前の記事にも触れられていたテレビシリーズの登場人物を
中心にしたものになっているようだ。また監督もテレビシリ
ーズのエピソードを担当したパウロ・モレリとなっており、
脚本はエレナ・ソワレス、前作の監督のフェルナンド・メイ
レレスは製作者とされている。
 因に、以前の紹介では、オリジナルの登場人物から2人は
同じ俳優が登場するとされていたものだが、当時に計画され
ていた作品とのつながりも不明だ。しかし、内容的には前作
と同じく、過酷な生活環境の中で描かれる、誠実さと政治力
と生き残りの物語ということで、その点でのつながりは多く
あるとされている。従って、この作品を続編として公開する
かどうかは微妙なようだ。
 なお、前作をミラマックスで配給したのは、当時のトップ
で昨年独立したワインスタイン兄弟の契約によるものだった
が、今回は現トップのダニエル・バツェックが前職のブエナ
・ヴィスタインターナショナル時代に同社の置かれたイギリ
スでの配給権を確保していたもので、そのつながりからミラ
マックスでのアメリカ配給が決まったようだ。そしてこの配
給権は、イギリス、ニュージーランド、オーストラリア、南
アフリカにも及ぶということだが、残念ながら日本は含まれ
ていないものだ。
 従って、この作品の日本公開についても、どこかの配給会
社が買ってくれることを期待しているものだが、さらにテレ
ビシリーズは、アメリカではサンダンスチャンネルで放送さ
れているもので、以前の情報ではCGIアニメーションを使
ったエピソードもあるとのこと、そのテレビ版もいつか見て
みたいものだ。
        *         *
 マット・デイモンとベン・アフレックの提唱で開始された
新人発掘のためのProject Greenlight(PG)については、
すでに何度か紹介しているが、2004年8月1日付第68回で報
告した第3回脚本部門の優勝者パトリック・メルトン、マー
カス・ダンスタンの受賞作“Feast”についても、ワインス
タイン兄弟の独立騒ぎなどで1年近く遅れたものの、ディメ
ンション配給で9月末に全米公開されたようだ。
 これにより、過去3回の受賞作はいずれも一般公開された
ことになるものだが、さらに今回の優勝者2人に対しては、
彼らが新たに執筆した2本の脚本についても、ディメンショ
ンの資金提供と配給で製作することが発表されている。
 その1本目は、“Midnight Man”と題されたもので、内容
は企業家誘拐の顛末を描いた作品とのこと。またこの作品で
は、コンビの片割れのダンストンが監督デビューすることも
発表されている。さらに2本目は、“The Neighbor”という
題名のスリラーだということだ。
 しかし、2000年から隔年で行われてきたはずのPGだが、
第4回の年に当る今年は、今のところ公式サイトにも情報は
なく、どうなっているのか気になるものだ。一昨年の第3回
については、ファイナリストの3本が、いずれも製作に向か
っていることを、第74回と第84回の記事で紹介しおり、これ
らについてのその後の情報はないものの、PGが注目のプロ
ジェクトであることに変わりはない。順調に継続されている
ことを祈りたいものだが。
        *         *
 ジュリア・ロバーツの主演作として、パラマウントがブラ
ッド・ピット主宰のプランB向けに映画化権を獲得したエリ
ザベス・ギルバートの回想録“Eat, Pray, Love”の計画が
発表されている。
 この作品は、夫と大きな自宅のある生活を手に入れ、子供
を産むことが夢だった女性が、ある日、それが自分の本当に
欲しかった生活ではなかったことに気付き、辛い離婚の末、
自分自身を発見するための世界を巡る旅に出るというもの。
ベストセラーにもなったこの原作には、出版以来多数の女優
から主演希望の手が上がっていたようだが、今回は原作者が
「ロバーツの主演でなら」として映画化権の設定を許可した
ということだ。
 脚色と監督は、昨年プランBの製作により“Running With
Scissors”という作品で監督デビューしたライアン・マー
フィ。因にマーフィは、“Nip/Tuck”などのテレビ番組のク
リエーターとしても知られるが、現在はプランBで“4oz.”
というシリーズを進めており、それに併せて昨年9月1日付
第94回で紹介したメリル・ストリープ主演でウォーターゲー
ト事件当時のホワイトハウスの内幕を描く“Dirty Trick”
を準備中。そしてそれが済み次第、今回の作品に取り掛かる
計画ということだ。
 従って、製作時期などは未定だが、撮影は、少なくとも世
界の4カ国を回るかなり大掛かりな作品になるようだ。
        *         *
 アカデミー賞作品賞を受賞した『クラッシュ』の監督で、
『父親たちの星条旗』の脚色にも参加しているポール・ハギ
スの次期監督作品として、トミー・リー・ジョーンズ、シャ
ーリズ・セロン共演による“The Garden of Elah”という計
画が進められている。
 この作品は、Playboy誌のアメリカ版に掲載された“Death
and Dishonor”と題するマーク・ボアルの署名記事を映画
化するもので、記事は真実に基づくとされている。そしてこ
の記事の映画化権は、昨年ワーナーがハギスの要請を受けて
獲得していたということだ。
 内容は、イラク戦争の最前線から帰国した直後に、無断外
出のまま行方不明になったとされる息子の失踪の謎を追う退
役軍人の父親を描くもの。実話では、レニー・デイヴィスと
いう退役陸軍々人の父親がその真実を解き明かすものだが、
その真実は、帰国後もバグダッドの危険地帯にいるという幻
覚から離れられない同僚兵士によって息子が殺されたという
結末になるものだ。
 そしてこの物語をハギスの脚色、監督により映画化するも
ので、配役は、ジョーンズの父親役、セロンは彼を助ける地
方警察の女性刑事役となっている。なお、ハギスはテキサス
に赴いてロケ地のスカウティングも行っており、年内に撮影
開始の予定ということだ。アメリカ公開は、ワーナー傘下の
インディペンデンスが行う。
 なおハギスの計画では、4月1日付第108回で紹介したリ
チャード・クラーク原作による9/11もので、“Against
All Enemies”という作品がコロムビアで先に予定されてい
たが、その前にこの作品を手掛けることになったものだ。
        *         *
 最後にSF/ファンタシー系の話題を2つ紹介する。
 まずは、前回紹介した“War Games 2”の続報で、この続
編の脚本を、1984年に公開されたサーフィン映画のパロディ
作品“Surf II”(因に“Surf I”という作品はない)など
のランダル・ベイダットが担当し、監督にはテレビシリーズ
“Charmed”などのスチュアート・ギラードの起用が報告さ
れた。監督などの格から言って、テレビ放送かDVD直販の
可能性は高そうだが、お話は、10代のハッカーがオンライン
ゲームで遊んでいる内、テロ対策の戦略構築のために設置さ
れた政府のコンピューターに侵入してしまうというもので、
それなりにオリジナルの流れを踏襲して現代化した作品にな
りそうだ。撮影は11月半ばに開始の予定だが、出演者などの
情報はまだないようだ。
 もう一つは、これはまさかという感じだが、ディズニーの
インサイダー情報として、“Pirates of the Caribbean”の
第4作の計画が進んでおり、しかもこの第4作では、オーラ
ンド・ブルーム扮するウィル・ターナーが死んでしまうとい
うことだ。なお情報によると、「第4作の物語は現在検討中
のものだが、すでに投資家は集まっている。また第4作では
ターナー以外の比較的重要でないキャラクターもかなり整理
されることになる」というものだ。この報道に対してネット
の書き込みでは、「第2作ではジャックも死んでいるし、す
ぐ生き返るのではないか」という意見もあったようだが、そ
れだと第5作も作られることになる。元々の情報では第3作
の後は前日譚をやるという話もあったものだが、その辺との
つながりがどうなるかも気になるところだ。



2006年10月10日(火) バタリアン5、日本心中、オープン・シーズン、ファースト・ディセント、Brothers of the Head、氷の微笑2、あるいは裏切りという名の犬

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『バタリアン5』
   “Return of the Living Dead: Rave to the Grave”
春に『4』を紹介した時にも書いたように、本作は2本撮り
で製作されたもので、言ってみれば本作はその後編のような
ものだ。ただし、流れは一応つながっているものの、前作か
ら継続した展開はほとんどなく、前作を見ていなくても問題
はない。
また、前作は化学研究所を舞台にして、ちょっと『バイオハ
ザード』の亜流のような感じの部分もあったが、今回は学園
が舞台で、前作以上にティーンズホラーの様相を呈してきて
いるものだ。
物語の発端は、いつものように薬品の入ったドラム缶の移動
から始まる。それを組織に売りつけようとした科学者は失敗
し、その間に別のドラム缶が学園に運び込まれる。そしてゾ
ンビの大量生産。こうして生み出されたゾンビの群れが若者
たちを襲い始める。
『4』の紹介では、オリジナルに比べてパロディの要素が少
ないと書いたものだが、本作に至っては、もはや本格的にゾ
ンビ物と作ろうという意志が感じられてきたものだ。その点
では前作よりホラーとして良い感じになってきている。
実際、本作のクライマックスで、若者たちが集まるハロウィ
ンパーティをゾンビの群れが襲うという展開は、定番だが規
模が大きくて、それなりに面白いものにも感じられた。
なお物語の舞台はアメリカだが、撮影はルーマニアで行われ
たもので、このパーティシーンの撮影は、ロケハン中に見つ
けたというチャウシェスク時代に建てられた野外劇場で行わ
れている。この半ば廃虚と化した劇場の雰囲気はなかなか良
い感じだった。
正直に言って、前作は多少評価に窮するところもあったが、
今回はB級ホラーとしてはそれなりに見られる作品になって
いるようにも感じた。映画の終わり方は『6』も期待させる
感じだったが、この調子で続けてくれるならそれも良しとい
うところだろう。
なお出演は、前作に引き続いてのピーター・コヨーテ、ジョ
ン・キーフ、コリー・ハードリクトらだが、考えてみたらこ
の連中、特に若い2人は前作で同じ目に逢っているはずで、
本作で全くその経験が活かされていないのは、多少解せない
感じだ。

『9.11-8.15 日本心中』
1994年に昭和天皇を主題とした版画シリーズを発表して物議
を醸した画家・大浦信行が、美術評論家・針生一郎を主役と
して2001年に発表した映画『日本心中』を再構築し、新たに
重信メイ(重信房子の娘)を加えて戦後日本の一側面を描い
たドキュメンタリー。
監督は過去の作品から見て左翼系の人と思われるが、この作
品では、針生と重信の2人の目を通して、日本の左翼運動の
あり方を問うているようにも思える。
しかも、それが意図的かどうかは判らないが、針生と鶴見俊
輔ら左翼の論客と呼ばれる人たちとの恥ずかしいまでに薄っ
ぺらで実のない対話と、重信と韓国の反戦詩人・金芝河との
見事な対話を対比させることで、日本の左翼の現状が見えて
くる感じもするものだ。
実際、この映画に出てくる日本側の大半の連中が、到底民衆
の心など捕えられないような空論を繰り広げているのに対し
て、重信や金の真摯に現在を捉え、未来を展望しようとする
姿は、日本の左翼運動に絶望している者にとってはわずかな
光明のようにも見えた。
2時間25分の上映時間は、最初はかなりしんどくなりそうな
感じで始まったが、重信の登場から後半の金との対話のシー
ンは、その内容の深さに思わず身を乗り出してしまうような
見事なものだった。
中でも、金が「実は若い頃には爆弾製造で手配されていた」
と言い出した辺りは、単純に反戦詩人=無抵抗と思っていた
僕にはちょっと衝撃でもあった。
さらに映画は、画家でもある監督の目を通して、藤田嗣治の
「アッツ島玉砕」に始まる反体制絵画の流れを追うなど、戦
中・戦後の反体制運動の流れを、今まで僕が知らなかった側
面からも描いており、それもまた興味深く見られた。
なお、映画に登場する重信メイは、父親がパレスチナ人とい
うことだが、一見モデルかと思うような美貌で、これでもう
少し日本語が滑らかになったら、左翼運動のシンボルにもな
りそうな感じもした。
それと、彼女の思い出話しに添えて出てくる母子のスナップ
写真では、重信房子が全くの母親の笑顔を見せている1枚が
あり、この人にもこんな一面があったのだと、改めて思って
しまったものだ。

『オープン・シーズン』“Open Season”
ソニー・ピクチャーズが新たに設立したアニメーション部門
ソニー・ピクチャーズ・アニメーションの第1回作品。
アニメーションの制作は、『スパイダーマン』などのVFX
を手掛けるソニー・イメージワークスで、同社はすでに『ポ
ーラー・エクスプレス』のアニメーション制作を行っている
が、同作はワーナーが配給したものだ。
全米250紙に連載を持つという漫画作家スティーヴ・モーア
の原作を、原作者自身が製作総指揮にも入ってアニメーショ
ン化した作品で、狩猟解禁日(Open Season)の北米の森林
で起きる大騒動が描かれる。
主人公は、グリズリーベアのブーグ。子供のときから森林レ
ンジャーのベスの手で育てられたブーグは、ベスと共にステ
ージで芸をするなど、丸っ切りの甘えん坊のペット熊だった
が、今では身体も大きくなり、そろそろ森に帰す時期だと考
えられていた。
そして狩猟解禁の前日、レンジャーに反抗的な猟師のショウ
が、「車の前に飛び出してきた」と称してヘラジカのエリオ
ットをボンネットに縛り付けて現れる。ブーグはそのエリオ
ットの逃亡に手を貸すが、その夜、ブーグの暮らすガレージ
にエリオットが現れて…
結局、森に帰すことになったブーグは、ヘリコプターで森の
奥深くの、猟師も簡単には現れないところで放される。そこ
にはエリオットや、その他の森の住人たちがいて、ブーグは
早速森の掟に戸惑わされることになる。そして、森に猟師の
銃声が響き始める。
声優は、ブーグ役をマーティン・ローレンス(石塚英彦)、
エリオットがアシュトン・カッチャー(八嶋智人)、ベスに
デブラ・メッシング(木村佳乃)。試写は日本語吹き替え版
だったが、それぞれ自然な感じで悪くはなかった。
他は、大体プロの声優が担当しているが、パフィーやケミス
トリーといったミュージシャンのゲストもある。またケミス
トリーは日本版の挿入歌と主題歌も担当しているものだ。
なお台詞は、動物同士では会話が通じるが、人間と動物の間
は通じていないもので、特にベスとブーグの間では、お互い
通じあっているようにも見えるが、微妙に食い違っていると
ころが絶妙に演出されている感じがした。
映像はCGIによるいわゆる3Dアニメーションだが、背景
などには2Dの雰囲気が残されていて、ちょっとほっとする
絵柄の感じだった。他にもキャラクターの動きを手書きアニ
メーションのように変形する新技術なども採用されているよ
うだ。そのせいか、全体的に今までのCGアニメーションと
はちょっと違う感覚を覚えた。
物語的には、夏公開の『森のリトル・ギャング』と同じく、
人間界との境界近くに暮らす動物たちの話だが、『森の…』
よりももっと山奥を舞台にしたもので、自然回帰への志向が
より強く感じられた。それにしても、アニメーションの製作
本数は、実写作品に比べて当然桁違いに少ないものだが、そ
の割りにテーマが重なるのは妙な感じだ。

『ファースト・ディセント』“First Descent”
「初めての滑降」。アラスカの前人未踏の斜面に挑むプロス
ノーボーダーの雄姿を記録しながら、スノーボードの歴史を
描いたドキュメンタリー。
アラスカでの滑降に参加するのは、40代から18歳までの4世
代に渡る面々。基本的にはヘリコプターで山頂に降り立ち、
切り立った斜面を滑走するまでのことだが、ゲレンデしか知
らない若者2人に対する雪崩発生時の人命救助の訓練など、
山中ならではの準備も描かれている。
その一方で、最近の25年間で急激に人気の高まったスノーボ
ードを取り巻く状況の変化などが、東京ドームで行われた競
技会の様子や、初の正式採用となった長野オリンピックなど
の記録映像も含めて、判りやすく解説されている。
それにしても、特に自然界を良く知る年長のボーダーたちの
山に対する真摯な態度が、この作品の味わいを見事なものに
している。それに対するトリノオリンピック金メダリストの
若い2人が、先輩たちの物凄い滑りを目の当りにして純粋に
感激しているシーンなども素晴らしいものだ。
映像の中にも出てくるが、初期には他のXスポーツなどと同
じく、スノーボードも若者カルチャーとして突っ張った部分
が強調されて紹介された時期もあったようだ。しかし、ゲレ
ンデは別として、実際の山での滑りには、そんな浮ついたも
のは介在できないことも明らかだ。
そんな中で、「こんな作業をするのは何年ぶりだ」とブツブ
ツ言いながらも、人手の少ない山中で各世代のチャンピオン
たちが並んで、キッカーと呼ぶ踏み切り台を作り、新雪の斜
面で雄大なジャンプを繰り広げる映像なども見事だった。
そして最後は、天候の問題などで一度は諦めた最強の斜面へ
の挑戦。その初めての滑降が作品を締め括っている。
出演は、トリノ金メダリストのショーン・ホワイトとハナ・
テーター、国家対抗のオリンピックに反対して長野を辞退し
たティリエ・ハーコンセン、本作の撮影まで長く消息不明だ
ったという伝説のボーダー=ショーン・ファーマー。他にニ
ック・ペラタ、トラビス・ライスなど、ボーダー界では名の
知れたトップスターが結集しているようだ。

『ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド』
               “Brothers of the Head”
ブライアン・オールディスが1977年に発表した同名の中編小
説の映画化。
この原作から、テリー・ギリアムの未完作品“The Man Who
Killed Don Quixote”にも参加した脚本家のトニー・グリゾ
ーニが脚色、同作の製作中断までを追ったドキュメンタリー
『ロスト・イン・ラ・マンチャ』を手掛けたキース・フルト
ン&ルイス・ペペ監督が2人の共同では初めての劇映画とし
て撮った作品。
1970年代のイギリスで活躍したと称する結合体双生児のギタ
リストとリードヴォーカルによるバンドThe Bang Bangの栄
光と挫折の物語を、監督らが過去の作品で培ったドキュメン
タリーの手法を駆使して映画化した。
映画は巻頭で、当時兄弟の映画を作ろうとしたが未完に終っ
たと称するケン・ラッセル監督や、原作者のオールディスが
登場して、思い出を語る場面から始まっており、特に映画が
未完に終ったという辺りは、ギリアム作品のことを思い出し
てしまうところだ。
そして兄弟の生い立ちから、父親によってプロモーターに売
られ、そのプロモーターの指図で、ギターを一から練習して
バンドを作り上げて行く過程が描かれる。そしてその過程で
近づいてくる女性や、その女性を巡る2人の関係の微妙な変
化が描かれて行く。
結合体双生児を描いた作品は、1999年の東京国際映画祭のコ
ンペティションに出品された“Twin Falls Idaho”や、ファ
レーリ兄弟監督の『ふたりにクギづけ』などいろいろ作られ
ているが、大抵はコメディタッチにして、深刻な部分を緩和
している感じだ。
しかし今回は、ドキュメンタリータッチでかなり深刻に描い
ており、特に女性を巡る問題はどの作品も扱ってはいるが、
今回はその切実さが種々の問題の原因になって行く人間模様
も描き出している。
ただし、ドキュメンタリータッチを通しているために、その
辺の心理描写があまり克明でないのは、痛し痒しというとこ
ろだ。
また、劇中で演奏される音楽の大半は、1974年当時から現役
という作曲家クライヴ・ランガーが手掛けたもので、当時の
音楽シーンを再現した楽曲が挿入されている。従ってサウン
ドトラックの音楽は全て新曲な訳で、そのCDにRemastered
と表記するのは、ちょっと悪乗りが過ぎるような気もするの
だが…
因に、オールディスの原作は未訳のようだが、柳下毅一郎さ
んの未訳作品紹介のサイトに詳細な解説が掲載されている。
できればこの機会に原作の翻訳も出てほしいものだ。

『氷の微笑2』“Basic Instinct 2”
1992年に、ポール・ヴァーホーヴェン監督、マイクル・ダグ
ラス、シャロン・ストーン共演で映画化されたサスペンス・
ミステリーの続編。
ストーン扮する美貌のミステリー作家キャサリン・トラメル
が、今回はイギリスロンドンで新たな事件に巻き込まれる。
物語の発端は、夜の町を高速で疾走する黒いスポーツカー。
運転しているのはトラメル。彼女は助手席の男の手を股間に
誘い、運転中にエクスタシーに達しようとしている。そして
その瞬間、車は河にダイヴ、その車から彼女は苛くも脱出す
るが…
助手席の男性がサッカーのスター選手であったために事故は
スキャンダルとなり、彼女の過去の事件の報告を受けた刑事
は、彼女の有罪立証に躍起となる。そして、裁判所は彼女の
精神鑑定を決定し、鑑定を精神科医のマイクル・グラスに依
頼する。
その鑑定結果として精神科医は、「彼女には非常に危険な性
癖があり、放免しないことが望ましい」と証言するのだが…
それでも優秀な弁護士の手で無罪放免となった彼女は、精神
科医を訪ね、彼に「危険な性癖」を治療してくれるように申
し入れる。
一方、精神科医は、過去に行った鑑定で「問題なし」とした
男が、その後に殺人を犯したことに苦しんでいた。しかも、
彼の離婚した妻の現恋人で雑誌記者の男が、その過去を暴こ
うとしていることを知らされる。その記事は、学内での昇進
を狙う彼の障害になるものだ。
そんなある日、元妻からの緊急の呼び出しで彼女の許に赴い
た精神科医は、そこで雑誌記者の惨殺死体を発見、その家に
はトラメルも出入りしていたことを知るが…
今回のストーンの相手役は、『コレリ大尉のマンドリン』な
どの英国俳優デイヴィッド・モリッシー。14年前は老練なダ
グラスにストーンが挑む感じだが、今回は年下の俳優を手玉
にとるという感じだ。それにしてもこの精神科医の役名には
笑った。
他には、刑事役に『ニュー・ワールド』などのデイヴィッド
・シューリス。また、精神科医の同僚役でシャーロット・ラ
ンプリングが共演している。
ジョー・エスターハスの創造した主人公を、14年ぶりに見事
に再生させた脚本は、『マドンナのスーザンを探して』のレ
オラ・パリッシュと、『背徳の囁き』のヘンリー・ビーン夫
妻。続編の計画は8年前に立上げられたが、以来一貫して関
与しているものだ。
監督は、スコットランド出身で、『メンフィス・ベル』のマ
イクル・ケイトン=ジョーンズ。スタイリッシュで手堅い演
出を見せている。
製作は、元のカロルコで前作も手掛けたマリオ・カサールと
アンドリュー・ヴァイナ。本作はMGMとの提携作品だが、
そろそろ本格的に活動再開という感じだろうか。

『あるいは裏切りという名の犬』“36 Quai des Orfevres”
パリ警視庁で次期長官の座を争う2人の警視。1人は人望も
厚く正義漢のレオ・ヴリンクス、もう1人は権力志向の野心
家ドニ・クラン。昔は親友だった2人は、1人の女性を愛し
たために道を分けた。その2人が、連続現金強奪犯を追って
危険な捜査を繰り広げる。
実話に基づくと言われる脚本は、自身が元警官でもある監督
のオリヴィエ・マルシャルが執筆し、その執筆には本作の主
人公と同様に、警察内の秩序維持のために不当に投獄された
経験を持つ元刑事のドミニク・ロワゾーが協力したというも
のだ。
パリ警視庁には、探索出動班(BRI)と強盗鎮圧班(BR
B)という2つの組織があり、両者は対立しながら事件の解
決に当っているという図式のようだ。そして実話では、BR
Bに問題が多発し、それを隠蔽するためBRIの刑事だった
ロワゾーが汚職で摘発された。
そのロワゾーは、服役中に家族も友も、警官の職や自尊心も
失ってしまったと言っているようだが、映画はその状況を丁
寧に追って行く。また、この作品は強盗事件の捜査中に殉職
した2人の刑事にも捧げられており、物語にはそれを思わせ
る人物も登場しているものだ。
正義漢と野心家の戦いというのはどんな社会にもあるものだ
ろうが、特に投獄などの権限を持つ警察では、一歩間違えば
大変なことにもなる。しかも、正義漢と言われている刑事の
方も、情報屋などの扱いでは多分に正義を逸脱していること
もある。そんな微妙かつ過激な物語が展開する。
ノアールと呼ばれた時代から、警察内部の闇の部分の物語は
フランス映画の定番の一つだが、本作はド派手な強盗団の襲
撃シーンに始まって猛烈な銃撃戦など、昔以上に過激な現実
が描かれているようにも感じた。もちろん全てが実話に基づ
くものではないだろうが。
出演は、レオ役に『隠された記憶』のダニエル・オートゥイ
ユと、ドニ役にジェラール・ドパルデュー。他にも現代フラ
ンス映画界を代表する俳優たちが登場する。また、『レイン
マン』などのヴァレリア・ゴリノや、先日『ファントマ』を
再見したばかりのミレーヌ・ドモンジョらが共演。
なお本作は、ロバート・デ=ニーロがアメリカ版のリメイク
権を取得しており、レオ役デ=ニーロ、ドニ役ジョージ・ク
ルーニー、脚色を『クラシス・オブ・アメリカ』のディーン
・シーガリス、監督を『チョコレート』『ネバーランド』の
マーク・フォスターで、来年にも製作の予定とのことだ。



2006年10月01日(日) 第120回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずは前回、今年の夏の主演作が大記録を達成したことを
報告したジョニー・デップの新情報で、デップ主宰の製作プ
ロダクション=インフィニタム・ニヒルが、ダーク・ホース
コミックスから出版されているグラフィックノヴェル“Rex
Mundi”の映画化権を獲得し、自らの製作主演で映画化を進
めることを発表した。
 原作は、宗教改革が行われず、宗教裁判所が権限を持ち続
けている1933年のヨーロッパを背景にしたもので、その世界
ではカソリック教会がヨーロッパ各国の後ろ楯となって隆盛
を極め、他の国々はすべて植民地となっている。さらにその
世界では、魔法も現実に存在しているというものだ。
 そして、その世界でデップが演じる主人公は、ある司祭の
死を巡る捜査を進める病理学者。その謎を解き明かす内、彼
は聖杯の秘密に近づいて行くという物語。原作者はアーヴィ
ド・ネルスンとエリック・ジョンスン。実は作者のネルスン
が今年の初め頃に行われたインタヴューで、もし自作が映画
化されるならジョニー・デップ主演が良いと発言し、それを
聞きつけたデップ本人か彼のスタッフが原作本を入手。デッ
プ自身が原作を読んで映画化権の獲得に動いたようだ。
 殺人事件とカソリック教会の秘密という展開では、『ダ・
ヴィンチ・コード』とも比較される作品のようだが、原作は
ベストセラー小説より3年も前に発表されている。また物語
の展開には、オカルト的な側面もあるとされており、大体、
上記の舞台設定からして、ベストセラー小説とは全く異なる
ことは明白だろう。
 なお今回の発表では、脚色を『ファイト・クラブ』のジム
・ユルスに依頼したことも報告されており、脚本家からは、
「ちょっと暗いタッチの『レイダース/失われた聖櫃』のよ
うな感じにしたい」というコメントも寄せられていた。従っ
て、製作準備はすでにスタートしているもので、撮影は、早
ければ来年の後半にも期待されているようだ。
 また原作には、今回報告された聖杯を巡る物語の他にも、
キリスト自身に関わるものなど、複数の物語があるようで、
シリーズ化も期待できそうだ。
        *         *
 ソニーに買収されて以来、007を除いては大きな作品を
発表していなかったハリウッドの老舗MGMが、買収後の手
続きも完了していよいよ映画製作に本格復帰となりそうだ。
 そしてその手始めとして、ここ数年以内に公開する製作費
1.5〜2億ドルを投入するいわゆるテントポール作品の計画
を発表。その中には“Terminator 4”や“The Thomas Crown
Affair 2”と共に、“The Hobbit”も含まれているという
ことだ。
 ただし“The Lord of the Rings”3部作の前日譚となる
“The Hobbit”の映画化に関しては、実はニューラインから
も、ピーター・ジャクソンの総指揮の許、来年に撮影すると
いう情報が流されており、元々この計画では、1970年代に製
作されたアニメーション作品の権利を継承するMGMの立場
をどうするかが問題になっていたものだが、果たして今回の
両社の情報が共同製作を意味するのか、独立に2本作ること
になるのか、現時点では明瞭ではないようだ。
 因に“The Lord of the Rings”のアニメーションでは、
1978年のラルフ・バクシ監督作品が有名だが、実はその前年
の1977年には、アーサー・ランキン、ジュール・バス製作監
督による“The Hobbit”がアメリカNBCの委託で製作され
ている。また1980年には、同じくランキン=バスの製作で、
東映動画が動画製作を担当した“The Return of the King..
A Story of the Hobbit”も、アメリカABCの委託で製作
されているものだ。この内のどの部分がMGMの権利になっ
ているかは知らないが、出来れば円満に事が運んで欲しいと
思うところだ。
 また“The Thomas Crown Affair 2”に関しては、2004年
11月15日付第75回で“The Topkapi Affair”という計画を紹
介しているが、それとの関係はどうなっているのだろうか。
それに“Terminator 4”に関しては、前の“Terminator 2”
はソニー傘下のトライスターが配給したものだったが、巡り
巡って戻ってきたという感じだ。といっても日本での公開権
は東宝東和が持っているものだが。
 この他、MGMでは全部で6本のテントポール作品の計画
が進められているということだ。今回、その詳細は明らかで
はないが、元々MGMとコロムビアの関係で言えば、MGM
は大作映画会社、コロムビアはプログラムピクチャーの会社
という棲み分けだったから、そのMGMの大作路線の復活は
ソニーにとっても心強いところだろう。
 なおこの他にMGMでは、“Species 4”“WarGames 2”
“Into the Blue 2”“Legally Blonde 3”“Cutting Edge
3”などの作品も、テレビ、もしくはDVD直販向けに製作
を進めており、この内、宇宙から来た恐怖のDNAが活動を
再開する“Species 4”は10月にメキシコで撮影開始。また
現ドリームワークス製作代表ウォルター・F・パークスが執
筆した脚本で、マシュー・ブロデリック主演、ジョン・バダ
ム監督により1983年に映画化された“WarGames”の続編は、
前作で大暴走した軍事戦略コンピュータのその後を描いて、
11月に撮影が開始される。
        *         *
 続けて、“The Hobbit”にも関わっているはずのピーター
・ジャクソン監督の情報で、“Temeraire”と題された歴史
ファンタシー・シリーズの映画化権を自費で契約、その思い
を語っている。
 このシリーズは、作家のナオミ・ノヴィックが、ナポレオ
ン戦争時代を再構築した世界を背景に進めているもので、そ
の世界では、ドラゴンを駆る空軍が登場し、現実とは異なる
様相の戦争が行われている。そして主人公は、元はイギリス
海軍大佐だったが、ある日、だ捕したフランス艦の艦内で中
国皇帝からナポレオンに贈られたドラゴンの卵を発見、その
卵が目の前で孵化し、彼は海軍の経歴を棄て、Temeraireと
名付けたドラゴンの乗手となるというもの。
 この作品について監督は、「自分が興味を持っている二つ
のこと、ファンタジーと歴史、その両方の想いを満足させて
くれる作品だ。ナポレオン戦争でドラゴンが活躍する姿を見
るのが待ち切れない。これこそ僕がやりたかった映画だ」と
語り、また、「これらの本を読んでいて、心の目に彼らが甦
ってくるのを見た。美しく描かれた物語で、新鮮で、オリジ
ナルで、テンポが速いだけでなく、本物の心を持った素晴ら
しい登場人物たちがいる」とも語っている。これから映画化
の実現に向けて最大限の努力をするということだ。
 ただし、原作は3巻本ということだが、監督はまだそれを
3部作で映画化するか、1本にまとめるかも決めていない。
また、ヴィデオゲームなど他のメディアへの展開も考慮して
いるとも言われている。しかし、映画会社が目を付ける前に
権利を確保する必要から、今回の契約に踏み切ったというこ
とで、それだけ思い入れも大きいようだ。
        *         *
 リュック・ベッソン主宰のヨーロッパ・コープが製作する
“Ruby Tuesday”と題されたアニメーション作品に、ローリ
ング・ストーズのミック・ジャガーが共同製作として参加。
ストーンズの楽曲が作品を彩ることになった。
 この作品は、ディズニーがIMaxで公開した『ファンタジア
2000』の中で「組曲・火の鳥」を手掛けたポール&ジータン
・ブリッツィー兄弟が監督しているもの。ニューヨークを舞
台にシングルマザーの女性が幸せを探す姿が描かれている。
そしてその背景に12曲のストーンズの楽曲が流されるという
ことだ。なおジャガーの共同製作の条件には、この楽曲の使
用も含まれている。
 ジャガーは、1992年に公開された未来SF映画『フリージ
ャック』などに俳優として出演し、最近では自らジャッグド
・フィルムスというプロダクションを持つなど、元々映画に
は積極的だったものだが、このような形で関るのは珍しいこ
とになりそうだ。世界配給はヨーロッパ・コープが担当し、
公開は2008年の冬に予定されている。
        *         *
 なお、ストーンズと映画の関係では、キース・リチャーズ
の“The Pirates of the Caribbean: At Worlds End”への
出演も話題になっていたが、その撮影はすでに完了したと報
告されている。その現場にリチャーズは酔っ払って現れ、演
技の指示をしたときには、「俺に指示するなら、俺を選んだ
ことが間違っている」とうそぶくなど大物ぶりを発揮したよ
うだが、撮影自体は順調に行われたということだ。
 それからこの作品の副題に関し、最近“At World's End”
というのが多く見られるようだが、公式発表は第118回に報
告した通りで、一体どうなっているのだろうという感じだ。
        *         *
 設立当初から所属していたコロムビアを離れ、新たにワー
ナーとの優先契約を結んだドリュー・バリモアのフラワー・
フィルムスが、その切っ掛けとなった作品“He Loves Me”
の脚本のリライトに、『羊たちの沈黙』のテッド・タリーの
起用を発表した。
 この作品は、ジョイス・ブラトマンのオリジナル脚本によ
るもので、その脚本は昨年12月にワーナーと契約された。そ
してその主演を希望したバリモアが、ワーナーへの移籍を進
めたともされている。そのリライトにタリーが起用されるも
ので、『羊…』のような鋭い切れ味が期待されるところだ。
なおタリーの言によると、物語は「現代における背信を描い
た緊張感で一杯のセクシースリラー」ということで、現代に
強力な警鐘を鳴らすものになるようだ。
 なお、ワーナーとバリモアでは、すでにヒュー・グラント
共演のロマンティックコメディ“Music & Lyrics By”と、
エリック・バナ共演“Lucky You”の2作を製作しており、
来年2月、3月に相次いで公開する予定になっている。
 一方、脚本家のタリーは、“The Reckoning”という作品
の脚色をパラマウントで行った他、ドリームワークス製作の
“Shrek”the Third”も担当しているものだ。
        *         *
 “The Pirates of the Caribbean”の話題が何度も出てく
るが、ディズニーランドのアトラクションをベースに大成功
を収めた同作に続いて、今度は“Jungle Cruise”の映画化
が進められることになったようだ。
 ガイドの説明を聞きながらボートに乗ってジャングルの中
を進んで行くこのアトラクションは、東京ディズニーランド
でも人気の一つと思われるが、元々は1955年、アナハイムに
最初のディズニーランドがオープンしたときに作られた22の
オリジナルアトラクションの一つで、すでに50年以上も人気
を保っているものだ。
 その初代のアトラクションが満を持して映画化となるもの
だが、『カリブの海賊』と同じく船で巡るアトラクションと
いうことで、その捻り方が注目される。なお脚本には、前回
“The Mummy”の第3作にも名前の出ていたアルフレッド・
ゴーフとマイルズ・ミラーが契約しているようだ。
 因に、ディズニーランドのアトラクションの映画化では、
2002年にクリストファー・ウォーケンらの出演と、ハーレイ
・ジョエル・オスメントらの声優で、佳作との評価もされる
『カントリー・ベアーズ』と、2003年にエディ・マーフィが
主演した『ホーンテッド・マンション』がそれぞれ作られて
いて、同じ2003年の『パイレーツ・オブ・カリビアン』で大
爆発となったものだ。
        *         *
 2004年4月15日付第61回などで、競作になっていることを
紹介した歌手ジャニス・ジョプリンの伝記映画の企画の一方
で、“The Gospel According to Janis”の映画化が、つい
に11月13日に撮影開始されることが報告された。
 この競作では、パラマウントが歌手と同郷のルネ・ゼルウ
ィガーを主演に据えてジャニス本人の歌声の使用権も取り付
けて進める一方で、ジャニスの遺族らが同じレコード会社の
後輩歌手のピンクを主演に計画を進め、以前の報告の時点で
は、遺族側の企画が一歩リードという感じだった。しかし、
遺族側の企画で監督を務めるペネロピー・スフィーリスが手
掛けた脚本は、製作費を拠出する映画製作者の賛同を得られ
ず、この時点で企画は頓挫していたようだ。
 その遺族側の企画に対して、元ローリング・ストーン誌の
ライターだったデイヴィッド・ダルトンが参加、実際にジャ
ニスのツアーに同行して当時の模様をカヴァーストーリーに
まとめたこともある作家が、自らの体験を投影してスフィー
リスの脚本をリライトし、その脚本で進めることが決定した
ものだ。なお監督はスフィーリスが引き続き担当する。
 そして主演のジャニス役には、ピンクに替って、“Elf”
でウィル・フェレルと共演したズーイー・デシャネルの起用
が発表された。因に、『イカとクジラ』などを手掛けた製作
者のピーター・ニューマンは、この主役には歌える女優か、
演技のできる歌手の起用を決めていたが、デシャネルは過去
4カ月の間、ヴォイスコーチについてトレーニングを積み、
ジャニスの音域に匹敵する声を完成させて、製作者の期待に
応えられる歌える女優が誕生したということだ。
 製作費は1000万ドルで進められる。ただし、作者の役を演
じる男優はこれから選考されるようだ。
 また、対抗馬のゼルウィガーの計画は、パラマウントから
はすでに断念の発表がされているものだが、女優は今も演じ
ることを熱望しているそうで、製作会社のレイショアでは、
『ニクソン』などのスティーヴン・リヴェルとクリストファ
ー・ウィルキンスンに脚本のリライトを依頼し、その脚本を
セットにして新たな配給会社を探すとしている。
        *         *
 5月15日付第111回で報告したマーヴル・コミックスが直
接行う映画製作の第1弾“Iron Man”で、主人公のトニー・
スターク役に、『スキャナー・ダークリー』などのロバート
・ダウニーJr.の出演が発表された。
 “Elf”『ザスーラ』のジョン・ファヴロー監督で進めら
れているこの映画化では、同じマーヴル原作の『スパイダー
マン』がトビー・マクガイアで成功したように、アクション
映画は未経験だが実力のある俳優の起用が検討されていた。
しかし、配給がパラマウントに決まったこともあって、一時
は本人が希望したトム・クルーズの主演もかなり可能性があ
ったようだ。ところが、トラブルのお陰でその線は消滅し、
新たにダウニーが発表されたものだ。
 なお、原作の主人公のスタークは、大金持ちの企業家に誘
拐され、その企業家が発明したスーパーパワーの得られるス
ーツを着用させられるもので、その前までのスタークはアル
中でどうしようもない男に描かれているようだが、今回の映
画化ではその部分は飛ばして、直接アイアンマンの活躍から
始めることになるようだ。そして前日譚に関しては、続編以
降のお楽しみにするとなっている。
 製作費には平均で1億6500万ドルが計上され、本作の撮影
は来年2月に開始。公開は2008年5月に予定されている。
        *         *
 ついでにパラマウントの情報で、トム・クルーズの主演で
展開してきた“Mission: Impossible”シリーズは、クルー
ズの契約解除で主人公を失ってしまった訳だが、折角の大ヒ
ットシリーズをそのまま消滅させるのは脳がない。そこで、
パラマウントでは何としても続編を実現したいとして、その
主役に、何とブラッド・ピットの起用が検討されているとい
うことだ。
 元々このシリーズの設定は、「不可能作戦」を実行する組
織を描いたもので、オリジナルのテレビシリーズでも、第1
シーズンと第2シーズン以降ではリーダーが代ったという経
緯もある。従って、クルーズが演じたイーサン・ハントも、
一作戦のリーダーでしかない訳だから、それが交代すること
は全く問題ないものだ。
 とは言え、クルーズが演じてきた役柄を引き継ぐには、そ
れなりのスターの格が必要な訳だが、その点でブラッド・ピ
ットなら申し分ないし、また、昨年公開された『Mr.&Mrs.
スミス』も好評価を得ており、さらに彼が主宰するプロダク
ションのプランBが、ワーナーからパラマウントに移籍した
こともあって、このシリーズの主演には持ってこいという感
じのようだ。
 ただし、ピットを後釜に据えるにはそれなりのものを用意
する必要があるが、内部情報によると出演料には4000万ドル
以上を用意する準備がされているということだ。もしこれが
実現すると、当然ハリウッドスターでは史上最高額となるも
ので、その点でも注目を集めることになりそうだ。
        *         *
 後は短いニュースをまとめておこう。
 ジム・カヴィーゼルが、TWCで進められているSFアク
ション作品“Outlander”の主演をオファーされていること
が報告された。この作品は、ヴァイキングが活躍している時
代を背景に、事故で地球に不時着した異星人が、誤って護送
していた肉食のエイリアンを取り逃がし、ヴァイキングと協
力してそれを倒すというもの。発端だけを聞くと『ウルトラ
マン』に似ている感じもするが、まさか変身はしないだろう
し、舞台も中世ではかなり違う展開だろう。それにしても、
カヴィーゼルが演じるのは不時着した異星人なのかな。ダー
ク・バックマンとハワード・マッケインの脚本で、マッケイ
ンが監督する。他にはジャック・ヒューストンとソフィア・
マイルズらが共演。撮影は10月にニューファンドランドとノ
ヴァ・スコシアで開始される。
 続報で、2月15日付第105回で紹介したロザリオ・ドース
ン原作のコミックス“O.C.T.: Occult Crimes Taskforce”
の映画化権がTWC傘下のディメンションと契約され、ドー
スンの主演で映画化が進められることになったようだ。物語
は、ニューヨーク市警の女性刑事が、父親の死の謎を追う内
に、大都会に潜む邪悪な勢力と対決して行くというもの。そ
してこの企画は、最初にスピーク・イージーという出版社で
コミックスの製作が進められ、ドースンの執筆した物語に、
トニー・シャスティーンが絵を付けてイメージコミックスか
ら6月に出版された。そのコミックスの映画化が行われるも
ので、映画化は、ドースンとシャスティーン、それにドース
ンと共にエピソードを執筆しているデイヴィッド・アッチス
ンが製作を担当して行うということだ。
 因に、このコミックスの企画では、ジョニー・デップの原
作で“Caliber”と題された西部劇版アーサー王物語という
作品もあったはずだが、どうなったのだろうか。
 最後に、『ドッグヴィル』のラース・フォン・トリアー監
督が、次回作に“Antichrist”というホラーを撮ると発表し
た。物語は、この世は神はでなく悪魔によって創造されたと
いう理論に基づくものだそうで、詳細は不明だが、監督の過
去の作品から考えると、かなり絶望的な厳しい内容になりそ
うだ。しかもホラーと宣言しているのも気になるところだ。
『マンダレイ』に続くアメリカ3部作の完結も楽しみだが、
このホラー作品にも期待したい。


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井口健二