井口健二のOn the Production
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2006年08月31日(木) Oiビシクレッタ、旅の贈りもの−0:00発、アダム、雨音にきみを想う、白日夢、もしも昨日が選べたら、待合室

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『Oiビシクレッタ』“O Caminho das Nuvens”
ブラジルの風景と言うと、直にはアマゾンのジャングルか、
リオデジャネイロの喧噪しか思い浮かばないが、2004年8月
に紹介した映画『ビハインド・ザ・サン』では、ちょっと砂
漠にも似た気候風土が背景になっていた。
この作品は、そんな地域が舞台になっている感じだ。
ブラジルの北東部、と言ってもプレス資料の地図で見るとア
マゾンよりは南で、つまりリオデジャネイロより北東の地域
を指すらしいが、ブラジルでも最も貧困と言われるその地域
の町から、4台の自転車に家族7人が分乗、リオを目指して
3200kmを走破した一家の物語。
現実にリオの市街地の外れには、北東部から移住した人々が
集まって住む地区があるそうだ。ただし、そこにいる人々の
大半は貨物トラックの荷台に揺られてやって来た。しかしこ
の一家は、父親が家族と離れることを拒み、一家で自転車を
漕いでリオを目指す。
因に、物語は実話に基づくが、実話の一家は自転車4台に家
族は8人だったそうだ。なお、邦題の『ビシクレッタ』とい
うのは自転車の意味だ。
そんな一家は、当然野宿で、路傍のサーヴィスステーション
などで夜を過ごすのだが、そこでは暖かく迎えられたり暴力
で追い出されたり、そんな現実が、それでも何となく明るい
一家の生活ぶりとともに語られて行く。
実は、父親は非識字者で、リオに行けば家族を平穏に養える
という夢ともつかない信念だけで進んで行くものだが、母親
は字も読めるし唄も歌えて、ギターを弾く次男とともに稼い
だりもできる。そんなちょっと歪な関係が余計に父親を駆り
立てる面もありそうだ。
そして家族の中では、ちょっと父親に似た性格の長男の存在
もドラマを造り出す。この父親と長男を演じるのは、『ビハ
インド…』では兄弟役で共演していたヴァグネル・モーラと
ラヴィ・ラモス・アセルダ。他に母親役で、1997年の『クア
トロ・ディアス』に出演のクラウジア・アレウが出ている。
映画は、ブラジルで国民的歌手といわれるロベルト・カルロ
スの音楽を随所の取り入れて描かれたもので、最後には本人
の姿も登場する。このことはこの映画が、それだけの支持を
受けて作られたことの証明でもあるようだ。またブラジルで
の試写会は、北東部出身者の大統領の前でも行われ、大統領
は感涙に咽んだそうだ。

『旅の贈りもの−0:00発』
大阪駅を月に1回だけ午前0:00に発車する企画列車。そ
れは行く先不詳のミステリートレインだが、9800円の往復切
符を買えば誰でも乗れる列車だった。
そんな列車に、ある者はたまたまそこに居合わせたことによ
る偶然から、またある者は忘れていた貰いものの切符を思い
出して、またある者は意を決して乗り込んでくる。そんな男
女5人を乗せた列車がたどり着いた先は…
ファンタシーを期待した人には、残念ながらそういう物語で
はない。しかし、描かれた物語は現代の寓話でもあり、充分
にファンタスティックなものだ。
たどり着いた先は、住民が「あの頃町」と自嘲気味に呼ぶ昔
栄えた湊町。北前船の風待ち港として立ち寄る舟人を暖かく
迎えた気風の残る町だが、若者の姿はほとんどなく、老人ば
かりが暮らす典型的な過疎の町。そこに、都会の喧噪に疲れ
た男女が降り立つ。
まあ、タイトルから推察されるように、男女はそこで人生を
見詰め直し、新たな人生に立ち向かって行く勇気を贈られる
わけだが、正直に言って物語は甘すぎるくらいに甘い。でも
そんな甘さが、唯々心地よいというのも良いものだ。
脚本は、(株)日本旅行での国内旅行企画を経て新版『ウルト
ラQ〜dark fantasy〜』などを手掛けた篠原高志。監督は、
平成版『ウルトラマン』シリーズでレギュラー監督を務めた
原田昌樹。如何にも「成程な」と思わせる作品だった。
なお撮影には、昭和33年製造の電気機関車EF58−150
と、昭和13年製造の一等展望車マイテ49−2が使用され、
これに客車スハフ12−702を挟んだ3両編成の列車が、
深夜の大阪駅を出発、夜が明けると海沿いの線路を走行する
姿が写されている。
また、車輪をアップにした固定カメラでは、ポイント通過の
様子も写されるなど、鉄チャン=鉄道マニアには大喜びの作
品とも言えそうだ。JR西日本の協力により製作された作品
で、すでに発売中の前売り鑑賞券には、映画に登場する硬券
切符形のものもあるようだ。
出演者では、健康上の理由で一時活動を休止していた歌手の
徳永英明が映画初出演、挿入歌で「時代」をカヴァーしてい
る他、新曲も披露している。また、サウンドクリエーターの
浅倉大介が音楽を担当している。

『アダム』“Godsend”
ロバート・デニーロの出演で、人クローンの問題をテーマに
した2004年作品。
生物の教師とプロカメラマンの夫妻の間に育った一人息子の
アダム。その8歳の誕生日の翌日、幸せだった一家を悲劇が
襲う。不慮の事故で息子が亡くなったのだ。そして葬儀の相
談に行った教会の出口で、夫妻は一人の遺伝子学者に呼び止
められる。
その学者の提案は、まだ保存されている遺体から細胞を採取
してクローンを造り出すこと。その成育には、母親の子宮も
利用して分娩は自然に行うというものだ。なお母体は、先の
息子の出産時に障害を受け不妊だったが、子宮の機能は問題
ないということだった。
もちろん、人クローンの実験は倫理に違反するものだ。その
倫理と、息子を取り戻したいという感情との狭間に揺れる夫
妻、だがついに提案を受け入れてしまう。そして生まれた赤
ん坊は、出産時の状況からして亡くなった息子と全く同じも
のだったが…
やがてその赤ん坊が8歳に成長し、過去のトレースではない
新たな道を歩み始めたとき、予想もしなかった事態が湧き起
こってくる。
正直に言って、この後の映画の展開はちょっと飛躍があり過
ぎの感じだ。これでは夫妻ならずとも裏切られた感じで一杯
になる。それがテーマだから仕方がないとは言っても、これ
はないだろうという感じもしてしまうものだ。
ただし、イギリス出身で2001年の『穴』などが話題になった
ニック・ハム監督は、この作品を見事にホラーに仕立て、細
かい描写などにはぞくぞくさせる要素をたっぷりと詰め込ん
でいる。そんな描写を楽しむ作品とも言えそうだ。
つまりこの作品は、メインのテーマはSFの領域だが、描か
れたものはホラーと呼んだ方が良いとも言える。SFからは
一、二歩、別の領域に踏み込みすぎた感じのする作品だ。

主人公の夫妻役は、『ふたりにクギづけ』のグレッグ・キニ
アと『ファム・ファタール』のレベッカ・ローミン。また、
新旧のアダム役を、『ウルトラ・ヴァイオレット』のキャメ
ロン・ブライトが演じている。

『雨音にきみを想う』“摯愛”
台湾のテレビで人気の若手俳優ディラン・クォが香港に招か
れて映画初出演した作品。相手役は、香港のアイドル歌手で
もあるフィオナ・シッ。香港の裏社会に暮らす男と、遺伝的
な病魔におびえる女を巡る恋愛ドラマ。
主人公の男は、表向きはバイクの修理屋のようだが、多分手
先が器用なのだろう、その特技(?)を活かしてこそ泥生活
を送っているようだ。そして女は、元世界的なヴァイオリニ
ストだった兄と、その幼い娘を助けて内職のような裁縫仕事
で細々と暮らしている。
彼女の兄は、中風で身体が不自由になり、当然ヴァイオリン
も弾けなくなった身体だが、その病の素は、彼女の身体や兄
の娘も遺伝的に持っているものと考えられている。しかし彼
女は、発病の切っ掛けとなる身体を冷やす危険を避けながら
健気に暮らしていた。
そんなある日、兄の娘が遊んでもらえない寂しさから町にさ
迷い出て、犯行現場から出てきた男と出くわしてしまう。そ
して少女の求めによって家に送ってきた男は…。こうして巡
り会った2人だったが、男は裏社会との繋がりが危険な状態
になっていた。
裏社会を背景としたいわゆる香港ノアールの系統の作品とい
うことになるのだろうが、この映画は派手なアクションや銃
撃シーンがあるものではなく、静かな雰囲気の中で展開して
行く。確かに特異なシチュエーションだし、メインとなる純
愛は他愛のないものだが…
物語全体の静かな雰囲気は、香港映画というより本土の映画
の感じがした。ジョー・マ監督は香港でコメディ作品のヒッ
トメーカーのようだが、本作ではコメディ要素はほとんど排
し、リアルな展開の中で見事なドラマを展開している。その
手腕は確かなものだ。
実際、余分な会話や描写を徹底的に刈り込んだ脚本編集は、
監督=演出家の手腕が問われるものだが、この作品はその点
でも成功している。特に、幼い少女をじっくりと撮った演出
には感心させられた。
共演は、元サッカー香港代表選手だったチャン・コキョン。
それに彼の娘役で名演技を見せてくれるチャン・チンユー。
香港も南方の土地だから、この映画のような豪雨は当然ある
のだろうが、何か新しい香港を見せてくれたような、そんな
感じもした。

『白日夢』
1964年製作、翌年発表される『黒い雪』で刑事裁判にまで発
展した猥褻論争を巻き起こす武智鉄二監督の劇映画第1作。
今年の秋、「武智鉄二全集」と称して10作品が連続上映され
る予定の1本。
僕は、この映画の製作当時は未成年だったから直接作品を見
ることはできなかったが、その後に出版されたキネマ旬報の
エロス特集号などでスチル写真を見て妄想を逞しくしていた
作品の1本だった。
物語は、谷崎順一郎の戦前に発表された戯曲に基づくが、映
画化は歯科医に治療に来ていた男性患者が抜歯のために麻酔
され、その中での夢想として描かれる。そこでは、歯科医の
前で大きく口を開ける女性がエロスを醸し出すのだ。
題名からして、かなりファンタスティックな内容を期待した
が、その展開は期待以上のものだった。それは今回はアヴァ
ンギャルドという言葉で括られるが、当時のフランスのヌー
ヴェルヴァーグが進もうとしていた道にも通じていたとも言
えそうだ。
男の夢想によって展開する物語だから展開は取り留めもない
し、その展開の中でいろいろなエロスの形が繰り広げられて
行く。その描写は、42年後の今にしても斬新なものだし、極
限的にファンタスティックなものでもある。
もちろん全体の雰囲気はレトロなものではあるけれど、モノ
クロ(パートカラー)の映像には鮮烈さと、何より新しい物
を造り出して行こうとする意欲に満ちあふれている。まさに
意欲的な作品で、その想いは今にもはっきりと伝わってくる
ものだ。
監督は1912年の生まれというから、当時52歳。42年前の52歳
は現代よりずっと老けた感じがしたはずだが、それでこの作
品は、いやその後も1987年まで作品(遺作は『白日夢2』と
言われる)を作り続けた原動力は…何がそうさせたかも考え
たくなる。
もちろん猥褻な作品だし、芸術的に描かれてはいるが、目的
が猥褻性であることは明白なものだ。しかもその猥褻さは、
42年後の今も充分に通用するものだった。
なお、クライマックスは銀座晴海通りでロケーション撮影さ
れており、イエナ書店などがちらっと写っていたのは懐かし
かった。

『もしも昨日が選べたら』“Click”
アダム・サンドラーの主演で、今年6月のアメリカ公開では
初登場第1位を獲得したファンタスティックコメディ。
主人公は、建築事務所に勤めるデザイナー。ケイト・ベッキ
ンセール扮する優しい妻と幼い息子と娘に恵まれているが、
才能の認められる彼には会社の要求も多く、自宅でも仕事に
追われる毎日。しかし彼には将来の事務所の共同経営者の席
も待っているのだ。
ところが、家庭を顧みなくなった彼には、妻も子供も愛想を
尽かし始めている。そして大きな仕事を抱えて帰宅した夜、
予想外の操作ばかり行う万能リモコンに業を煮やした主人公
は、深夜の町で新しい万能リモコンを買い求めるが…
終夜営業の量販店の奥に迷い込んだ主人公は、そこでクリス
トファー・ウォーケン扮する怪しい発明家然とした男から、
自分の人生を巻戻して見たり、フリーズや早送りもできる万
能リモコンを手に入れる。それは自己学習機能も付いた優れ
ものだった。
こうして、口うるさい妻の要求や渋滞の時間ロスを早送りし
たり、音声ミュートやバイリンガル機能を有効に使いこなす
ようになった主人公だが、そこには大きな落し穴が待ってい
た。物語としては、ディケンズの『クリスマス・キャロル』
を思わせるもので…と言ってしまうとネタばれになるが、そ
ういう感じの作品だ。
厳しい内容を、笑いのオブラートに包んで提示して見せるの
は、ハリウッドコメディの定番と言える作品でもある。
内容的には悪くないと思う。特に後半の自分が原因で人生が
ドツボに填って行く過程は、同じように忙しく働かされてい
る現代人にはドキリとさせられ、身に染みて感じる人も多い
だろう。その点では、サンドラー作品の中では日本人にも判
りやすい作品と言える。
中では日本人企業家集団が出てきたり、ヤンキース松井の映
像や、イチローの話題も飛び出すなど、ちょっと日本人を意
識しているとも言えそうな感じだ。もっとも、日本人の当事
者からすると、ちょっと苦笑いという感じでもあるが。
それと、飼犬がやたらマウンティングしたり、何かと下着を
見せるなど、ちょっと下品なギャグが目に付くのもサンドラ
ー作品の問題点で、特別な指定を受けていないからアメリカ
人には認められているのだろうが、日本人の感覚には…とい
うところもある。でもそういうことに目をつぶると…

本作は見事にファンタスティックで、またそれを支えるVF
Xなどの使用も見事に決まった作品と言える。特に、サンド
ラーやベッキンセールが若くなったり老けたりの特殊効果や
視覚効果は見事なものだ。
サンドラー作品の中でも、特にファンタシー物は、日本では
ちょっと評価されていない感じがする。実際、僕も評価して
いない作品もあるが、本作はその中では判りやすいし、とり
わけSFに理解のある人には受け入れてもらえそうな感じが
した。

『待合室』
富司純子と寺島しのぶが母娘初共演した作品。と言っても、
2人が演じるのは、主人公とその若い頃の役で、直接の顔合
せはないものだが。
東北岩手の小繋駅。東北新幹線の八戸営業開始により「いわ
て銀河鉄道」と呼ばれるようになった路線の小さな駅。その
駅はJRの寝台急行や貨物列車はノンストップ通過して行く
が、3両編成の旅客列車が地元の人たちの通勤通学の足とな
っている。
そこの待合室に置かれた数冊のノート。そこには駅を訪れた
人たちのいろいろな思いが綴られ、その綴られた文章に一つ
一つ返事を書く女性がいた。
映画の中でも語られるが、通りすがりの旅人が書いたものに
返事を書いても、それが読まれる可能性はほとんどない。で
もそこに書かれた事柄は、他の旅人の目に触れ、それがまた
別のドラマを作り上げているのかも知れない。
映画は、その返事を書き続ける女性の人生と、そこに記入を
して行く旅人のエピソードを綴りながら、岩手県でも北部に
位置するこの駅の周囲の四季が見事に写し出されて行く。
物語は、「命のノート」と呼ばれるそのノートの実話からイ
ンスパイアされたものだが、描かれるその女性の人生は、ど
こまでが実話でどこからがフィクションかは判らない。
とは言え、雪深い駅周辺の冬の風景は紛れもない実景だし、
そこで綴られる物語は、それはそれとして理解すればいいも
のだろう。ただし、全体に「死」が多く語られているのは気
になったところだが…
脚本は任侠シリーズなどを手掛けてきた板倉真琴。彼の監督
デビュー作でもある。
それにしても見事な雪景色で、それがまた見事に写されてい
る。撮影はフランス・トムソン社製のHDヴィデオカメラで
行われたようだが、白一色の雪景色の中の微妙な変化も良く
再現されていた。
ただし、僕の見た試写会では、2台の映写機の内の一方の画
面左側の1/4ほどのピントが甘くて、その効果を存分に堪
能できなかったのは残念だった。できたらしっかり管理され
た映画館で見てみたいものだ。



2006年08月20日(日) トンマッコル、サッド・ムービー、遙かなる時空〜、靴に恋する〜、地下鉄に乗って、地獄の変異、サイレントノイズ、ユアマイサンシャイン

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『トンマッコルへようこそ』(韓国映画)
題名のトンマッコルとは、「子供のように純粋な場所」とい
う意味のようだ。
時代は1950年。朝鮮戦争の最中、米軍は仁川に上陸し、ピョ
ンヤンに向けて侵攻を開始している。そんな中で補給路の調
査を行っていた米軍偵察機が行方不明となり、次いでその捜
索に向かった戦闘機も同じ空域で消息を絶つ。
一方、敗走を続けていた北朝鮮人民軍の兵士の一団が山岳地
帯に迷い込み、次々に遭難してついに3人だけとなった彼ら
の前に、ちょっと不思議な雰囲気を持った少女が現れる。彼
女は銃も知らないようだった。
そして、脱走した韓国軍兵士が2人。彼らもまた、山中で少
年に出会い。その案内で、とある山里に辿り着く。こうして
山里の村には、米、韓、北朝鮮の3軍の兵士が顔を揃えるこ
とになるが、その村には、一種不思議な雰囲気があった。
何しろその村には争いが存在しない。村人たちは、間違った
ことを言っても互いに穏やかにその間違いを訂正し、間違え
た方もすぐに非を認めるなど、言い争いさえ起こらない。そ
んな中で、韓国、北朝鮮の兵士たちは互いに銃を突きつけ合
うのだが…
殺伐とした現実世界の人間が桃源郷に紛れ込む。物語の形式
は、正しくジェームズ・ヒルトンの『失われた地平線』だろ
う。映画は、その舞台を朝鮮半島に代え、米、韓、北朝鮮の
3軍の兵士を主人公に描いたものだ。
韓国と北朝鮮の関係というのは、韓国映画の特殊性として常
に感じるところだが、逆に、この映画のように見事に利用さ
れると、誤解されることを承知で言えば、うらやましくも感
じてしまうところだ。
そして最後は南北の民族融和を歌い上げ、感動的な結末に繋
げて行く。結末は、こうなることが必然のものではあるが、
そこに持って行く展開の上手さがこの映画にはあるようにも
思えた。理詰めの展開という訳ではないが、確かに上手い展
開だ。
その結末は、かなりの規模のCGIも使用したもので、それ
も良くできていた。正直に言って戦闘を描く映画は好まない
が、この映画の展開には納得せざるを得ない。また、余韻と
いうか、いろいろな想像を掻き立てられる最後のワンカット
も素敵だった。

この映画の宣伝文の中に、「ポップコーンが空から降ってき
たら素敵だと思う?」というのがあるが、その通りのシーン
が作られているのも見事だった。
なお音楽を、宮崎アニメや北野作品でお馴染みの久石譲が担
当している。

『サッド・ムービー』(韓国映画)
題名通り悲しさに満ちあふれた作品。「愛は終る瞬間に一番
輝く」という観点から、4組の愛の終りを綴った作品。イギ
リス映画の『ラブ・アクチュアリー』が描いた恋の始まりに
対する結末編のような作品だ。
あざといと言ったらこんなにもあざとい作品はないだろう。
でも、それをカタログ的に見せることで、誰もがどれかを体
験しているような、そんないろいろな別れの姿が描かれる。
別れは誰かに責任のあるものではない…そんな観点で作られ
た作品とも言える。この作品には人の責任とは言えない別れ
が多く描かれている。でも、別れの当事者はそれでも責任を
感じざるを得ない。そんな悲しさが伝わってくる。

物語に登場するのは、テレビで手話通訳を務める女性と熱血
消防士、耳の不自由な女性と彼女の真の姿を描こうとする画
家の卵、自分の失恋に気付かないまま他人の恋の終りの演出
する男とその彼女、病に倒れた母親と幼い息子。
シチュエーションも様々だし、それが自分とかけ離れたもの
であっても、その中に描かれる物語には、そのどこかに自分
がいるような、そんな感じも抱かせる。その結末も、それぞ
れ予想はできてしまうが、それでもその描き方が上手い。
どれか一つを取り上げてねちねちと描かれたら、多分途中で
席を立ってしまいそうな物語だが、それらの物語を相互にう
まく連携させながら、見事に最後の瞬間に纏め上げて行く。
その構成の巧みさにも感心させられた。
特に、半分狂言回しのように登場するチャ・テヒョンが演じ
る他人の恋の終りの演出する男の存在が、それぞれの物語に
直接絡むことなく描かれることで、この物語の全体を象徴的
に見事に纏め上げている感じもした。
出演は、『僕の、世界の中心は、君だ』のテヒョンのほか、
『私の頭の中の消しゴム』のチョン・ウソン、『箪笥』のイ
ム・スジョン、『甘い生活』のシン・ミナ、『ビッグ・スウ
ィンドル』のヨム・ジョンアなど韓国映画を代表する男女優
が顔を揃えている。
恋は終る瞬間が一番輝くが、映画にはそれ以前の物語もたっ
ぷりと描かれている。

『遙かなる時空の中で〜舞一夜』
コーエーから発売中の女性向け恋愛ゲームを原作として、す
でに連載コミックスやテレビアニメにも展開している物語か
ら、劇場向に製作された新作アニメーション作品。
異界の京都・平安京を舞台に、タイムスリップした女1人、
男2人の現代の高校生が、平安京を怨霊から守る力となって
活躍するファンタシー・アドヴェンチャー。
主人公の女子は「竜神の神子」と呼ばれ、都を守る最後の拠
所とされるが、彼女自身にその自覚はない。こんな展開に始
まって、後は愚図愚図と責務を全うするまでが描かれる。
日本アニメーションはあまり観ないが、観た作品の殆どはこ
の展開だ。こんな同じ展開ばかりよくまあ描けるものだとも
思ってしまうが、それが受けているのなら仕方がない。しか
も、上の設定は殆ど説明されずに物語が始まってしまう。
この設定を説明しないのも、最近の日本のアニメーションの
特徴のようだ。実はシリーズでは設定を説明できるほど事前
に構想を練っておらず、行き当たりばったりの展開なので、
したくてもできないというのも、実情のようだが…
というのが僕の日本アニメーションに対する印象だが、この
作品もあまり変わることなく始まってしまう。ところが、こ
の作品では丁度良いタイミングで設定の説明が挿入された辺
りから、ちょっと雰囲気が変わってきた。
そして後半は、敵が怨霊となった経緯の物語などが手際よく
語られ、大団円に向かってテンポも軽快に演出されているも
のだ。怨霊との闘いもそれなりに描けているし、ファンタシ
ーの捉え方もまずまずのようにも感じられた。
それに平安京の描写も、実写ではなかなか得られない空間の
広がりのようなものも描かれていて、そんな雰囲気も好まし
い感じだった。
物語は究極の結末には至っていないし、続編が作られるのな
ら、また観てみたい感じもしたものだ。

『靴に恋する人魚』“人魚朶朶”
日本のヴァラエティ番組や、コマーシャルでも人気者だった
ビビアン・スーが母国の台湾で主演したメルヘンと呼ぶのが
相応しい作品。
香港の人気スター、アンディ・ラウがアジア地域の新しい才
能を発掘するために開始したプロジェクト=FFC(Focus
First Cut)の第1作で、本作は台湾のロビン・リー監督の
デビュー作ということだ。なお本作は、昨年の東京国際映画
祭でも上映された。
物語は、脚が不自由に生まれた少女が、手術でその不自由を
克服することから始まる。幼い頃から絵本が好きだった少女
は、声を奪われることを心配していたが、そのようなことも
なく…そして少女は成長し、素敵な恋をし、結婚もするが…
映画の全体は絵本の構成をモティーフにして、特に前半は、
説明のためのナレーションが絵本の文章のように語られ続け
る。本編に入るとそれは減るが、それでも随所に説明的な部
分がある。そんな絵本の雰囲気を見事に映像化した作品だ。
内容も、絵本を髱髴とさせるキャラクターやシチュエーショ
ンが登場して、素朴さと優しさに溢れた作品となる。そして
その雰囲気が、セットから撮影まで全てに統一された中で、
物語が展開して行く。
物語自体は他愛ないものではあるが、随所に絵本や童話のイ
メージが盛り込まれたり、特に、若い女性には魅力的な作品
になっていると思える。相手役は、『僕の恋、彼の秘密』や
『セブン・ソード』などのダンカン・チョウ。
なお主演のスーは、日本でのバラエティアイドルだった頃の
イメージとはかなり違って、主人公を透明感のある雰囲気で
見事に演じている。そこに、コミカルなシーンが無理なく挿
入されているのも素晴らしいところだ。
またスーは、台湾では作詞家としても活躍しているそうで、
本作では挿入歌とエンディングの歌を自らの作詞と唄によっ
て提供している。
FFCではこの後にも、マレーシア、シンガポール、香港、
中国などの新人監督を起用した作品を製作しており、これら
の作品も順次公開されることになりそうだ。

『地下鉄(メトロ)に乗って』
『鉄道員(ぽっぽや)』などの浅田次郎の原点とも言われ、
1995年吉川英治文学新人賞を受賞した原作の映画化。
始まりは現代。銀座線赤坂見附駅から半蔵門線永田町駅に続
く長い地下道を、重いキャリングケースを引きながら歩く中
年の男。しかし、ようやく辿り着いた半蔵門駅で地下鉄は不
通になっており、男は止むなく道を戻り始めるが…
ふと見掛けたセーター姿の若者に、若くして亡くなった兄の
面影を見た主人公は、思わず後を追い掛ける。そして見知ら
ぬ出口階段を昇ると、そこには、昭和39年、兄が死んだ日の
新中野の商店街が広がっていた。
こうして、時代をタイムスリップした主人公は、兄の死を阻
止するべく奔走し、そして横暴だった父の真の姿と、その時
代を見ることになるが…主人公はこの後も、現代と、昭和39
年と、太平洋戦争の末期や終戦後の混乱期などの時代を行き
来しながら、物語は綴られて行く。
タイムスリップの原因などは説明されないが、主人公が即座
にそれに順応してくれるのはSFファンとしてほっとすると
ころだ。さすが現代の人気作家の原作だけのことはある。本
作の本質はSFではないが、ちゃんとそれを踏まえての作品
というところだ。
それに、相談相手の男性が『罪と罰』を読んでいるのには、
思わずニヤリとした。この『罪と罰』は多分原作にもあるの
だろうし、物語的にちゃんと意味も持つものだが、同時期に
公開されるハリウッド製の似たテーマの作品のことを考える
とタイミングが良すぎる感じのものだ。
それはさて置き、映画はこれらの各時代を表現するため、今
はない映画館を含む新中野の商店街や、戦後の闇市などを見
事に再現して行く。特に、闇市の雑踏の再現は見事だし、ま
た、本作では東京メトロの全面協力を得て、駅中でのロケー
ションや古い銀座線車両の内装なども撮影されていた。
ただし、僕は東京にいて地下鉄もよく利用するし、赤坂見附
駅と永田町駅の間の地下道も何度も往復しているからこの物
語には入りやすかったが、そうでないとするとどうなのだろ
うか。その辺はちょっと心配になったところだ。
ある意味、地下鉄の路線の複雑さがテーマになった作品でも
ある訳だが、その複雑さが東京にいない人にどのように伝わ
るかも気になる。SFファンとしては、その路線の複雑さが
時空のゆがみを引き起こしたとも言いたくなるのだが…
それから物語の始まりを現代としてしまったのは、ちょっと
主人公たちの年齢設定に無理が生じるように感じた。実際、
演じている堤真一は1964年生まれと言うことだから、年齢的
には15年ほどずれることになる訳で、原作が発表された年な
らまだ良かったのだが…
それと、劇中に登場する青山一丁目駅のシーンは、ここは本
来土手式ホームだから、渋谷行きは車両の進む方向が逆のよ
うにも感じたのだが、見間違いだろうか?
と、いろいろ文句は言いつつも、SFファンで地下鉄好きの
僕にとっては本当に嬉しくなる作品だった。
なお、本作は編集を『殺人の追憶』などのキム・ソンミンが
行っており、日本人とはちょっと違う切れも感じられた。日
韓映画人の交流の賜物というのも嬉しい作品だ。

『地獄の変異』“The Cave”
鍾乳洞を舞台に繰り広げられる怪奇アクション。
事件の発端は30年前。当時は共産主義国家だったルーマニア
の山間部で、男たちの一団の乗った軍用トラックが、立入禁
止の標識の立てられたバリケードを突破、山路を侵入してく
る。彼らの狙いは、その奥にある廃虚となった教会。しかし
謎めいたモザイクの施された床を破壊して、彼らが入り込ん
だ地下の洞窟には、何やら異様な雰囲気が漂っていた…
そして30年後、地下生物を研究する学者たちが、倒壊した教
会の下に巨大な鍾乳洞の入り口を発見。その調査のため、中
米のユカタン半島で海底洞窟の調査に当っていたチームが招
請され、プロのサポートを受けた探検隊が鍾乳洞の調査を始
めることになるが…
アメリカ配給はソニー傘下スクリーン・ジェムズが行った作
品で、同社の系統で言うと、『アナコンダ』などの秘境モン
スターものに通じる感じだ。状況に詳しいプロがいて、その
サポートで行われる探検が、それでも恐怖の事態に陥るとい
う展開は共通している。
物語は、当然洞窟の中に怪物がいるものだが、本作ではその
怪物の設定にもちょっと捻りが在るのは面白かった。因に、
怪物のデザインは、『GODZILLA』から『サイレント
ヒル』までも手掛けるベテランのパトリック・タトポロスが
担当している。
それに加えて本作では、洞窟探検の様子をかなり丁寧に見せ
てくれる。そして、そこでのアクションも、潜水やフリーク
ライミングと盛り沢山。さらに美しく撮影された洞窟内の素
晴らしさは、鍾乳洞や洞窟探検が好きな人にも、ちょっとお
勧めしたくなるくらいのものだ。
なお、プレス資料などには解説がなかったが、洞窟内の撮影
にはユカタン半島の鍾乳洞が使われているものだ。つまり、
映画の物語ではユカタンからチームが呼ばれているが、実際
は撮影隊がユカタンに移動したというのも愉快なところだ。
ただし、水中シーンはブカレストの撮影所にフットボールの
グラウンドほどもあるプールを作って撮影したとのこと。そ
して、その洞窟内と水中シーンの撮影には高感度のHDカメ
ラが使用されて、素晴らしい効果を上げているものだ。

『サイレント・ノイズ』“White Noise”
EVP(Electronic Voice Phenomena)=電磁波を媒介とし
て死者の声が現世に伝えられる、という現象を描いた怪奇ド
ラマ。なお、真偽のほどは明らかではないが、映画の巻頭で
は、この現象に言及したとされる発明王エジソンの言葉も引
用されている。
最愛の人を不慮の事故で亡くしたとき、残された人が欲する
のは、失った人の声を、姿をもう一度を聞きたい、見たいと
いうこと。そして、その手段としてEVPの存在を知ったと
き、主人公の周囲に怪奇な現象が起こり始める。
昔のEVPは、多分音声中心だったのだろうが、現代ではこ
れがVTRに取って変わる。空きチャンネルの空電を録画し
たテープの映像と音声をコンピュータに取り込み加工しなが
ら、EVPを求めて行く。その過程も現代的でなかなか良い
センスだった。
因に、原題のwhite noiseというのは、電気用語では、対象
とする周波数帯域で、全ての周波数の信号を一様に含む雑音
のこと。逆にそこからは全ての信号(情報)が取り出せると
もされ、その中から反重力の原理を見つけ出すというSF短
編を、昔雑誌で読んだ記憶がある。
本作では、その中から死者の声と姿を取り出すというものだ
が…。まあ、上記の理論からすると、そんな設定も理解でき
ないことはない。ただし、本作は飽くまでもEVPという現
象が前提となっている作品だ。
従って、作品のジャンルとしてはホラーだが、科学的な側面
の捉え方からすると、SFと呼べないこともない。
主演はマイクル・キートン。それにチャンドラ・ウェスト、
デボラ・カーラ・アンガー、イアン・マクニースらカナダ、
イギリスの俳優が共演している。また、監督以下のスタッフ
は殆どイギリス人による、カナダ=イギリス合作映画だ。
キートンは、旧シリーズの『バットマン』で、最初の2作の
主人公を務めたが、ちょっと憂いのある雰囲気は本作にピッ
タリの感じがした。そのキートン自身は、「超常現象は信じ
ないが、主人公の心情は理解できる」として本作の出演を決
めたそうだ。その演技には、成程と思わせるものもあった。

『ユア・マイ・サンシャイン』(韓国映画)
韓国での実話を基にしたラヴ・ストーリー。
暴力を奮う夫から逃れ、生活のために身体を売るような仕事
もしてきた女性が、純愛を捧げる男性と出会い、過去を隠し
て結婚、幸せな生活を送ろうとする。しかし、そこに元の夫
が現れ、しかもその時、彼女はHIVのキャリアであること
が判明する。
時代は、韓国−日本W杯が開催された2002年。韓国チームの
ベスト4進出に韓国中が湧いているその陰で、HIVに感染
した女性に、それでも純愛を捧げた男性の物語。
監督は、ドキュメンタリー出身のパク・チンピョ。監督は事
件を報じた新聞記事を見て取材を開始、女性の裁判も傍聴、
実在の2人にも会って物語を作り上げたということだ。
その物語は、実話は50%ぐらいだそうだが、ドキュメンタリ
ータッチとドラマが見事に混交されたものだ。特に、ドキュ
メンタリストらしい飾り気の無さが、素朴な純愛という現代
では得がたい題材を見事に映画にしている。
物語自体は、状況から考えれば実にありそうなこと。日本で
も、作家と風俗穣の結婚話がベストセラーになったこともあ
るが、今の時代ではさらにそれを複雑にする要素が加わって
いるということだ。
映画では、被疑者に対する記者会見など、韓国特有の場面も
あって、日本との違いも感じさせてくれるし、母親=オモニ
優先の文化と言われる韓国庶民の姿も丁寧に描かれている。
そんな韓国文化を知るのにも良い作品かも知れない。ただし
HIVに対する無知ぶりは、日本と余り変わらないようだ。
主演はミュージカル俳優でもあるというファン・ジョンミン
と、『初恋のアルバム〜人魚姫のいた島』での1人2役が印
象に残るチョン・ドヨン。特にドヨンは、『初恋…』での少
女役からは打って変わっての役柄だが、いつも初々しい感じ
なのが素晴らしい。
因に、実話は4年前のことになるが、監督のインタヴューに
よると、実在の主人公の2人は、女性も発症を免れており、
現在も元気に生活しているそうだ。



2006年08月15日(火) 第117回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 まずはこの話題から。
 『ブレードランナー』の原作者として知られるアメリカの
SF作家フィリップ・K・ディックの伝記映画が計画され、
その作家役に『シンデレラマン』や“Lady in the Water”
のポール・ギアマッティが交渉されている。
 ディックは1982年、彼の原作『アンドロイドは電気羊の夢
を見るか?』を映画化した『ブレード…』の完成を待たずに
他界したが、その死後になって、大作だけでも『トータル・
リコール』から『マイノリティ・リポート』、そして新作の
“A Scanner Darkly”など、多数の映画化の原作を提供し、
映画ファンにも一躍その名前を轟かせた。
 そのディックの伝記映画が初めて遺族の公認を得て製作さ
れるものだが、作品には、いわゆる伝記映画とはちょっと違
った趣向が凝らされるようで、具体的にはデュックの未完と
なった遺作“The Owl in Daylight”をモティーフにして、
その小説のキャラクターなどが登場して彼の人生が描かれる
ということだ。なお、脚本には作家ハンター・S・トンプソ
ンの半自伝的作品とも言われる“Fear and Loathing in Las
Vegas”(ラスベガスをやっつけろ)などを手掛けたトニー
・グリゾーニが契約している。
 題名や監督は未発表だが、製作は、カンヌで話題になった
『バベル』や、前回紹介した“Case 39”を手掛けるアノニ
マス・コンテントが行っている。因に同社の作品は、基本的
にはパラマウント系の配給になるようだ。またギアマッティ
は、出演が決まると製作者にも名を連ねることになる。
 小説家を描いた作品ということでは、『カポーティ』が、
主演のフィリップ・シーモア・ホフマンにオスカーをもたら
すなど話題になっているが、この後には、2005年10月1日付
第96回などで紹介したベアトリス・ポッターの生涯をルネ・
ゼルウィガーの主演で描く“Miss Potter”の公開も、全米
では年内に予定されており、さらにハンター・S・トンプソ
ンの別の自伝的作品“The Rum Dialy”もジョニー・デップ
の主演で計画されるなど、注目を浴びそうだ。
        *         *
 お次は、2001年以来のシリーズ第3作“Rush Hour 3”の
撮影を9月に控えるブレット・ラトナー監督の次の計画で、
1978年にフランクリン・J・シャフナー監督で映画化された
アイラ・レヴィン原作“The Boys From Brazil”(日本未公
開)のリメイクを行うことが発表された。
 『ローズマリーの赤ちゃん』や『ステップフォードの妻た
ち』の原作者としても知られるレヴィンの原作は、1970年代
を背景に、ナチスの残党が第3帝国復活のため南米で行って
いた恐怖の実験を暴くというもので、当時はまだ研究の端緒
だったクローン技術も背景となっていた。そして1978年の映
画化では、ローレンス・オリヴィエとグレゴリー・ペックと
いう英米の名優の共演も話題となったものだ。
 その現代化リメイクを今回は目指すものだが、原作の物語
は1970年代の時代背景に完璧にフィットしているということ
で、その現代化にはちょっと神経を使う必要がありそうだ。
その脚色は、リチャード・ポッターとマシュー・ストラヴィ
ッツというコンビが担当することになっている。
 ただしラトナーは、「オリジナルは素晴らしい作品、でも
今ならクローンの説明などは不要だね」と語るなど、勝算は
見ているようだ。またラトナーは、“Red Dragon”のような
サスペンス作品のリメイクもそつなくこなした実績があり、
今回のような題材にも不安はない。
 製作はニューライン。なお、“Rush Hour 3”の全米公開
は来年8月10日と発表されており、本作はそれに続けての製
作が期待されている。因に、今年公開の“X-Men 3”を手掛
けたラトナー監督には、ヒュー・ジャックマンが“X-Men”
のスピンオフ作品の監督も期待していたものだが、この分で
はそちらはちょっと難しくなりそうだ。
 一方、今回はパリが舞台となる“Rush Hour 3”に関して
は、ジャッキー・チェンとクリス・タッカーの2人は当地の
中国系シンジケートと闘うことになるようだが、この作品に
ロマン・ポランスキー監督の出演が計画されている。
 この計画は、ポランスキーがパリ在住であることを知った
ラトナーが、ポランスキーのためのキャラクターを創造して
オファーをしたもので、会食したラトナーが直接交渉をして
了解を得たようだ。なお、ポランスキーは1967年の監督作品
“The Fearless Vampire Killers”(吸血鬼)には自ら主演
もしており、ちょっと特異な風貌も含め登場人物としても魅
力がある。ラトナーがどのようなキャラクターを創造したか
も楽しみになりそうだ。
        *         *
 もう1本リメイクの情報で、ボリス&アルカジー・ストル
ガツキー兄弟原作『路傍のピクニック』(英題名“Roadside
Picnic”)の映画化の計画が発表されている。
 この原作は、1979年にアンドレイ・タルコフスキー監督が
英語題名“Stalker”(ストーカー)として映画化した作品
と同じもので、今回はこれを『ステルス』などのアクション
映画でお馴染みのニール・モリッツ製作、2005年9月29日付
で『ダウン・イン・ザ・バレー』という作品を紹介している
デイヴィッド・ヤコブスンの脚色・監督で、リメイクしよう
というものだ。
 1979年の映画化は、宇宙から飛来した謎の物体の着陸によ
り、空間などが歪められた「ゾーン」と呼ばれる禁断の地域
(中心に行くと望みが叶うとの噂もある)を舞台に、その地
域の中を案内するストーカーと呼ばれる男たちと、その地域
を研究しようとする研究者たちの姿を描いていた。その作品
を、今回の紹介文によると、futuristic-crime-story(未来
的犯罪物語)として描くということで、まあタルコフスキー
の映画化でも、ストーカーたちは警備の目を掠めて侵入して
いたのだから犯罪者ではあった訳だが、ちょっと違った方向
性の作品になるのかも知れない。
 因に、タルコフスキー監督のSF作品では、すでに1972年
発表の“Solaris”(ソラリス)がスティーヴン・ソダーバ
ーグ監督によって2002年にリメイクされているが、今回はそ
れに続いてのハリウッドの挑戦ということになりそうだ。
 なお、ヤコブスン監督の前作『ダウン…』に関しては、時
代に立ち向かえない人々の存在に目を向けた作品の印象があ
り、その点ではタルコフスキーの映画化にも通じる部分があ
るようにも感じる。またタルコフスキーの映画化では子供の
存在がキーになっていた記憶もあるが、『ダウン…』でも子
供の描き方には優れていた印象も持つもので、その点でも期
待ができそうだ。
 配給はソニー傘下のコロムビアが担当する。
        *         *
 リメイクの次はシリーズの話題をいくつか紹介しよう。
 まずは、昨年春の大ヒット作『ナショナル・トレジャー』
の続編“National Treasure 2”について、2007年11月29日
の全米公開を目指して、今年の10月から撮影が行われること
が報告された。
 この続編については、前作の公開直後からそれを期待する
声が強く、ジョン・タートルトーブ監督からもそれに関する
発言は幾度となく発せられていたが、今回はついに正式に報
告となったものだ。因にこの報告は、監督がLAデイリー・
ニュースのインタヴューに答えているものだが、ここまで詳
細に報告されれば、正式と考えていいものと言える。
 そのインタヴューによると、監督らはプレプロダクション
を開始したということで、すでにニコラス・ケイジ、ジャス
ティン・バーサ、ダイアン・クルガー、ジョン・ヴォイト、
ハーヴェイ・カイテルの再出演が決まっているようだ。この
再出演は、監督の言によると「死んだり監獄に入っている奴
以外は全部」ということで、それに従うとショーン・ビーン
の再出演はないようだ。
 物語は、主人公たちが再び宝捜しを始めるというもので、
その探索の行程はアメリカ国内だけでなく、世界を巡ること
になるかも知れないとのこと。それ以上の細かいことは言い
たくないが、そこに大統領の巨大彫刻で有名なラシュモア山
が出てきてもおかしくはない…というもののようだ。
 因に、以前に紹介した監督の発言の中では、続編の題名は
“International Treasure”にしたいとか、中国でのプレミ
アの際には「中国を舞台にしたい」などとも言っていたが、
差し当って第2作の宝物はアメリカ国内に在るようだ。しか
し、その宝物の在処を探すために、世界中の歴史的なポイン
トを巡る冒険が繰り広げられる、ということになりそうだ。
 なお全米公開日については、まだ決定したものではない。
        *         *
 お次は、フォックスが1995年公開の前作“Die Hard With
a Vengeance”から12年ぶりとなるシリーズ第4作を、9月
に撮影開始、来年7月4日の週に公開することを発表した。
この作品には、ブルース・ウィリスが不運なニューヨーク警
官ジョン・マクレーンとして再び登場するものだ。
 『ダイ・ハード』シリーズは、1988年にジョン・マクティ
アナン監督による第1作が公開され、1990年にレニー・ハー
リン監督による第2作が公開。そして第3作は再びマクティ
アナンが監督した。そして途切れていたものだが、その後も
第4作の計画は幾度か浮上し、特に2003年にウィリス主演、
アントワン・フークワの監督で映画化された“Tears of the
Sun”は、当初は“Die Hard 4”として企画されたものの、
フォックスが断念したために、ウィリスが企画を買い取って
別の会社で実現したものと言われたりもしたものだ。
 そのシリーズが再び始動したもので、今回はマーク・ボマ
ックの脚本から、『アンダーワールド』のレン・ワイズマン
が監督することになっている。題名は、“Live Free or Die
Hard”となる。
 物語は、合衆国のコンピュータネットワークがサイバーテ
ロに襲われる…というもの。これをいたってアナログ人間の
マクレーンが解決するというのが主題となるものだが、この
ハイテクvs.アナログ警官というのが、『ダイ・ハード』の
基本路線だということだ。なお物語は7月4日の独立記念日
に密接に絡んでいるそうで、このためその日には絶対に上映
されていなくてはならないとのこと。そこで6月29日の公開
日が決定されているようだ。
        *         *
 この他、これも1998年からは9〜10年ぶりとなる“Lethal
Weapon 5”の計画について日本でも報道がされたようだ。
ただしこの情報は、メル・ギブスンの個人的なトラブルに絡
んで出てきたもので、映画会社はワーナーになるものだが、
あまり軽々に進められるというものでもない。また今回の情
報では、リチャード・ドナー監督の名前も出ておらず、かな
り怪しげな情報と言えそうだ。
 また、今秋第21作の“Casino Royale”が公開されるジェ
ームズ・ボンドシリーズは、早くも第22作の公開日が2008年
5月2日と発表されたが、同時に報告されていた監督のロジ
ャー・ミッチェルが創造上の意見の相違を表明し、契約交渉
が止まっているという情報が伝わっている。この計画では、
主演のダニエル・クレイグは決定、脚本もすでに出来上がっ
ているはずで、後は監督だけの問題だが、どうなりますか。
撮影は年末に開始の予定のようだ。
        *         *
 続いては、これもシリーズと言えばシリーズだが、前日譚
の話題で、1985年に第1作と1989年にも続編が作られたグレ
ゴリー・マクドナルド原作の“Fletch”シリーズを再開する
計画が進み始め、テレビで“Friends”や“Spin City”など
の人気シリーズを手掛けてきたビル・ローレンスが、脚本の
執筆と、本作で監督デビューすることが発表された。
 オリジナルの映画化は、マイクル・リッチー監督、チェヴ
ィー・チェイスの主演で製作されたもので、地方紙の記者の
アーウィン・フレッチャーが取材の過程で出くわすいろいろ
な事件が描かれた。特に第1作の“Fletch”(フレッチ/殺
人方程式)では、チェイス主演のコメディでありながら、麻
薬組織と対決して事件を解決するなどミステリーとしても評
価されたものだ。
 しかし、第2作の“Fletch Lives”は、確か南部を舞台に
した遺産相続か何かに絡む話だったと思うが、ちょっとチェ
イスの演技が度を過ぎた面もあるようで、日本公開は見送ら
れてしまった。ただし後日テレビで放映されたのを見たが、
僕には面白く感じられたものだ。もっともアメリカのガイド
本には「俳優のファンにはお勧め」と書かれていた。
 というシリーズの再開だが、今回参加するローレンスは、
元々のマクドナルドの原作のファンということで、今回の計
画ではオリジナルのフレッチャーの物語を自分で作ることが
できるということで参加を決めたそうだ。そして計画されて
いる物語は、フレッチャーが新聞記者に成り立ての頃のエピ
ソードとなり、初めてのスクープをものにするまでのお話に
なるようだ。
 なおこの計画は、最初は2003年頃にミラマックスで立上げ
られたもので、当時は『ジェイ&サイレント・ボブ』などの
ケヴィン・スミスの監督で進められていた。しかし、その後
のワインスタイン兄弟の独立などで消滅。その計画が今回は
ザ・ワインスタインCo.で再開されたもので、題名は2003年
頃の計画と同じ“Fletch Won”になっている。ただし脚本は
ローレンスが書くということだ。
 出演者や製作時期は未定。
        *         *
 お次はちょっと変わった話題で、使い古しの赤いペーパー
クリップからインターネットのトレードサイトでの物々交換
の繰り返しによって、ついに自分の住む家を手に入れた男の
実話が、ドリームワークスで映画化されることになった。
 このお話については、日本のテレビ番組などでも一部紹介
されていたが、カナダ在住の無職のカイル・マクドナルドと
いう男性が、ある日インターネットのトレードサイトに使い
古しの赤いペーパークリップを出品したことから始まる。そ
のクリップは同じカナダ在住の女性の魚の形のペンと交換さ
れ、次にそのペンはシアトルで特注品のドアノブに交換され
る。こうして徐々に高価なものに物々交換され、途中では、
ロック歌手のアリス・クーパーと午後を過ごす権利や、映画
作品の権利などを経て、ついに男性は2階建ての農家を手に
入れることができたというものだ。
 そしてこの実話に目をつけたドリームワークスの製作担当
者ウォルター・パークスは、当初は映画作品にするかテレビ
シリーズで製作するかを迷ったそうだが、男性がランダム・
ハウス社と本の出版契約を結んだことから、映画作品に仕上
げることとし、題名も出版物と同じ“One Red Paper Clip”
として進めることになっている。
 まあ、日本で言えば「藁しべ長者」というところだが、確
か紹介されたテレビ番組の中で男性は、本の出版や映画化を
期待しているようなことも語っていた。しかし、家も手に入
った上に、本当にそうなるとは…というところだろう。
 なお、パークスは、「今のような時代に、こんなことも起
こるのだ、ということを示したい」と、映画化の意図を語っ
ているようだ。
        *         *
 後半は、SF/ファンタシー系作品のニュースを短く纏め
て紹介しよう。
 まずは、ジョージ・A・ロメロ監督が、日本の鈴木光司の
短編小説を原作とする“Solitary Isle”という作品の脚本
と監督を契約したことが発表された。この作品は無人島に探
検にやってきた人々が謎の勢力によって死の恐怖を味わうと
いうもの。製作は角川映画とアメリカのハイドパークが折半
で出資して行うものだが、総製作費は2500万ドル以下に押さ
えられるということだ。まあロメロの作品なら平均的な数字
だろう。なお、アメリカ配給はハイドパークが提携している
フォックスが扱う。
 ソニー傘下のコロムビアから“Moon People”というコメ
ディ作品の計画が発表された。この計画は、テレビの人気シ
ョウ番組“Late Night With Conan O'Brien”などの構成作
家デメトリ・マーティンが、自らの主演を含めた脚本を契約
したもので、内容は、基地建設のために数年を月面で過ごし
た人々が地球に帰還して始まるトラブルを描くというもの。
恐らく月面との重力の違いなどが笑いのネタになりそうだ。
監督には、テレビで“Da Ali G Show”などを担当するジェ
ームズ・ボビンが起用されている。月面もののSFコメディ
では、最近もエディ・マーフィの主演で『プルート・ナッシ
ュ』などが作られているが、月からの帰還者というのはちょ
っと新機軸で面白そうだ。
 ワーナーからは“Benighted”という作品の映画化権を獲
得したことが発表された。この作品は、キット・ウィットフ
ェルドというイギリスの作家が発表したもので、イギリスで
の題名は“Bareback”というそうだ。お話は、人口の90%が
狼人間になってしまった世界を描いており、満月の夜にはい
ろいろなトラブルが発生することになるもののようだが、映
画化権獲得の切っ掛けは、『ナルニア国物語』などを手掛け
るアンドリュー・アダムスン監督が原作の中心にある疎外者
の問題というテーマに惚れ込み、自ら脚色と監督も買って出
て企画を立上げたそうだ。因にアダムスンは『シュレック』
の脚本も手掛けているが、疎外者の問題というのはそこにも
通じる感じだ。
 ただし、アダムスンは、現在は来年1月撮影開始を目指し
て『ナルニア国物語』の第2章“Prince Caspian”の準備を
進めており、また第3章“Voyage of the Dawn Treader”の
脚色監督の契約を結んだことも発表されたもので、今回発表
されたワーナーの計画がいつになるかは、ちょっと定かでな
いようだ。
 ユニヴァーサルでは、『リロ&スティッチ』の脚本監督を
手掛けたディーン・デブロイスの脚本で、“Sightings”と
いう作品の映画化権を契約したことが発表された。この作品
は実写での映画化が予定されているもので、フロリダ・キー
ズを舞台に、子供たちのグループが、人類史上誰も見たこと
のないようなものを発見するというお話。これだけだと何の
ことだかさっぱり判らないが、『リロ…』の監督ならそれな
りのものになるだろう。なお製作は傘下のゲイリー・ロスが
担当するが、彼は“Creature From the Black Lagoon”のリ
メイクなども計画しているものだ。
 そして最後にぎりぎりで飛び込んできた情報で、“Batman
Bigins”のクリストファー・ノーラン監督が、1967年に放
送されたテレビシリーズ“The Prisoner”の映画版の監督に
起用されることがユニヴァーサルから発表された。この計画
は、『ブレードランナー』や『12モンキーズ』の脚本家デイ
ヴィッド・ピープルズと夫人のジャネットが以前から進めて
いたものだが、ついに監督が決定して本格的な始動となるよ
うだ。製作は、来年前半の続編“The Dark Knight”に続け
て行われる予定。なおこの話題については、次回改めて報告
することにします。



2006年08月10日(木) 奇跡の朝、ルイーズに訪れた恋は…、海と夕陽と…、バックダンサーズ、46億年の恋、サンクチュアリ、エリー・パーカー、16ブロック

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『奇跡の朝』“Les Revenants”
死者の甦りを描いた2004年のフランス映画。
ある朝、町の共同墓地からここ10年以内に死んだ人々が甦っ
て出てくる。その人々は、健康状態も良好で、普通の生活を
送れる状態だったが、行動のリズムが少しずれており、夜も
あまり眠らないようだった。そしてそれは、世界中で起きて
いる出来事だった。
こんな異常な状況を、とある町を舞台に描いた作品。
映画の中では甦りの原因は何も説明されず、ただあるが儘の
状況として描かれる。しかもそれへの対応が、国連や赤十字
が難民としての支援を行っていたり、科学者が行動様式の研
究を行ったりと、かなり現実的に描かれている。
そんな中で、主に描かれる3つの家族では、老いて亡くなっ
た妻や、若くして亡くなった恋人、そして幼くして亡くなっ
た子供などの甦りを迎える人々の、戸惑いやいろいろな思い
が描かれて行く。
実は、僕はここ10年間に自分に近い家族を亡くしていないの
で、その意味では冷静に見ることができたが、終映後話しか
けてくれた宣伝担当の方は現実的に見てしまう状況だったよ
うで、その立場からはまた違った感想にもなるようだ。
とは言え、映画のテーマは死者の甦り、その点では、日本映
画からゾンビまでいろいろあるが、本作では、妙な情に流さ
れたりスプラッターにもせず、真摯にテーマを捉えていると
いうことでは画期的な作品と言える。
特に、甦った人々が未練や怨念を持たず客観的に描かれてい
ることから、物語はそれを迎える人々の側だけで明確に描か
れるが、中には、甦っていることを知りながら迎えに行けな
い人もいて、そんな心情も考えさせられるところだ。
しかし本作は、そういった生者の側にもあまり深入りせず、
距離をおいて描いており、その点では題材だけを提示して、
後は観客に考えさせようという意図も感じられる。
スプラッターのゾンビものは別として、死者の甦りを個人的
な感情だけでべたべたと描かれるのは食傷気味だ。しかし、
本作のような形で冷静に描かれると、人の生と死について改
めて考えさせられる思いがした。
そう言えば、ロメロは『ゾンビ』を死者への思い遣りで描い
たと言い、作品の中でも、ゾンビ化した知人を抹殺できず保
護してしまうエピソードもあった気がするが、そんなところ
にも通じる作品だ。

『ルイーズに訪れた恋は…』“P.S.”
主人公は、東海岸の名門コロムビア大学で入学審査部の部長
を務める女性。年齢39歳で、天文学の教授との12年間の結婚
生活に最近終止符を打ったところだ。でもその教授とは、今
も友人としてつきあっている。
そんな主人公の許に1通の入学願書が届けられる。ところが
その志願者の名前は、高校時代に交通事故で死んだ初恋の相
手と同じ名前だった。しかも、その志望先は初恋の相手が目
指していたかも知れない絵画科…
このような状況下で、主人公はその志願者に個人面接を設定
するのだが、果たして現れたのは、初恋の相手の面影を持つ
15歳年下の青年だった。
これだけ書くと、何か超自然的なものを感じさせるが、物語
の主眼はそこではなく、純粋に新しい恋に迷っている女性の
心理を描いたものだ。しかも、新しい恋を始めたことによる
彼女自身と、彼女の周囲のいろいろな変化が描かれて行く。

主演は、『ミスティック・リバー』などのローラ・リニー、
相手役に、来春“Spider-Man 3”での新悪役が控えるトファ
ー・グレイス。他に、ガブリエル・バーン、マーシャ・ゲイ
・ハーディンなど。
脚本監督は、テレビ出身で2002年に監督デビュー作“Roger
Dodger”がヴェネチア映画祭の新人監督賞などを受賞したデ
ィラン・キッドの第2作。原作は、書評家でもあるヘレン・
シュルマンの同名の作品で、彼女は監督と共に共同脚本も手
掛けている。
主人公の周囲のいろいろな登場人物も魅力的で、特に、高校
時代の親友という設定のリニーとハーディン(『ミスティッ
ク…』で共演)による歯に衣着せぬ強烈な言い合いは、見て
いて気持ち良さも感じさせてくれた。
ジャンルとしてはロマンティック・コメディなのだろうが、
結構毒のある会話もあって一筋縄では行かない。僕の見た試
写会ではかなり笑い声も上がったが、生真面目になりすぎる
と内容を見誤ることにもなる。
不真面目ではないが、こんなこともあるのだと思いつつ、心
豊かに楽しみたい作品と言えそうだ。

『海と夕陽と彼女の涙』
交通事故で同級生を失った女子生徒の前に、亡くなった3人
の同級生の幽霊が現れる。しかしその姿を見られるのは主人
公だけ、しかも、幽霊が地上にいられるのは死後48時間と限
定され、その刻限を過ぎると死神が迎えに来る。
そんな条件のもとで、幽霊となった3人が現世に残した思い
が語られる。
実は、主人公と3人は同級生ではあるが友人という訳ではな
く、ただ偶然居合わせて一緒に事故に遭い、3人が死んでし
まった。だから幽霊として現れても、思いが互いにすぐ通じ
合える訳でもなく、うろうろしている間に時間はどんどん過
ぎて行く。
それに残した思いと言っても、死んだのは普通の女子高生だ
から、特別な恨みとかがある訳でもなく、ただちょっとした
思いがあるだけなのだが…

正直に言って、最初はなかなか映画に入って行けなかった。
今の自分からすると、女子高生というのは、多分対極の存在
のように思えるし、そんな彼女たちの現世に残した思いと言
われても、自分からは遠く離れたもののように思えた。
それに最初の内は、いじめなどステレオタイプな展開でもあ
ったのだが…
ところが、映画を見ているうちに、描いている内容がもっと
普遍的な部分にあるように感じ始めた。それは脚本も手掛け
た監督が意図したものであるかどうかは分からないが、この
映画には、そんなささやかではあるが重要なものが描かれて
いる感じがした。
死者が見えるという映画は、『シックス・センス』以降大量
に作られているが、そんな中にあってもこの作品は一歩違っ
た方向性を描いている感じがする。監督はテレビ出身の人の
ようだが、この感覚を大事にして欲しいとも思った。
出演は、佐津川愛美、芳賀優里亜、東亜優、谷村美月。この
内、谷村と芳賀は、それぞれ先に『カナリア』と『マスター
・オブ・サンダー』を見ているが、外の2人もテレビなどで
活躍中のようだ。特に、谷村は『カナリア』でも注目してい
たので嬉しくなった。
なお、撮影には和歌山県熊野古道のフィルムコミッションが
協力しており、大自然の中でオールロケーションされた画面
も美しかった。

『バックダンサーズ』
元スピードのhiroと、平山あや、ソニン、サエコの4人
が主演するダンスムーヴィ。
ダンスが好きでストリートで踊っていた少女が、アイドル歌
手のバックダンサーとなって芸能界に出る。しかし、メイン
の歌手が突然引退を表明。残されたバックダンサーズたちに
は芸能界で生き残る術はほとんどなかった。
そんな、芸能界ではよくありそうなシチュエーションで、そ
れでも頑張り続ける少女たちの姿を描いた作品。
一応、プロダクションと契約しているのでマネージャはつい
ているが、入社2年目の新米マネージャは親父バンドとの掛
け持ちで思うように動けない。しかし、売れないバンドにも
肩入れしてしまうような性格が、やがて彼女たちのファイナ
ルステージを企画するまでになるが…
まあ、ステレオタイプの悪役上司はいるが、ほとんどは善人
で、彼女たちを盛り上げて行く。もちろん夢物語だし、騙さ
れちゃ駄目だよと言いたくもなるが、最近の行き場のない青
少年の姿を見ていると、こんな夢でも持って欲しいとも思っ
てしまう。
目標を持って、それが夢の彼方であっても、それに向かって
努力して行く姿は美しい。特に本作の場合は、ダンスという
肉体パフォーマンスがその目標だから、努力している姿も描
かれるし、実際主演の4人の演じるに当っての頑張りも伝え
られると、その評価もしやすい作品だ。
しかも、脚本監督がテレビで、俗に言う「月9」のトレンデ
ィードラマを多数手掛けてきた人ということでは、演出のつ
ぼも心得ているし、見ていて大船に乗ったような安定感のあ
る作品だった。
テレビ出身の監督も当たり外れがあるが、この辺のクラスに
なるとさすがという感じだ。特に、日本のトップダンスパフ
ォーマーたちを多数動員したダンスシーンはなかなか見事な
もので、そこに主演の彼女たちのダンスを織り込むテクニッ
クも上手いと感じた。
正直に言って、彼女たちのダンスは、頑張った成果はあって
も他のプロダンサーには叶わないものだが、そこを見事に上
手く見せている感じで、その辺でもはらはらもせずに充分に
楽しめる構成になっていた。
70年代がキーワードの一つになっていたりして、団塊世代の
いい年になった大人が、過去の自分の青春時代を振り返って
観るのにも、良い感じの作品に思えた。ただし、若い女性ば
かりが主人公の作品には、気恥ずかしさも伴うが…

『46億年の恋』
正木亜都(梶原一騎/真木日佐夫)による原作『少年Aえれ
じぃ』から、NAKA雅MURAが脚色、三池崇史が監督し
た作品。
同じ日に、共に殺人の罪で収監された2人の若者。一人はゲ
イでひ弱な感じだが、もう一人は粗暴で手当り次第に他人に
襲い掛かる。ところがその粗暴な男が、監房の中ではゲイの
男を守り続ける。しかし、ある日ゲイの男が粗暴な男の首を
絞めているところが発見される。
なぜゲイの男は、自分の保護者であった男を殺さなければな
らなかったのか、警察の捜査が始まるが、周囲の人間たちの
証言は2転3転して行く。果たして監獄の中で何が起きてい
たのか…
という原作はミステリーだったと思われるが、描き出された
映画は全く予想もつかないものだった。例えば監獄の屋上か
らは、一方に巨大なピラミッド、他方に宇宙ロケットの発射
場が見えるなど、シュールとしか言いようのない映像が次々
に展開して行く。
さらに背景となるゲイの世界の描き方も、ダンスがフィーチ
ャーされたり、また舞台となる監房のデザインや、衣装デザ
インなども、とにかく全てが尋常ではない。
しかしそれらが全体として統一感があり、どれとして浮いた
感じがしないのは、さすが監督の手腕というところなのだろ
うか。三池作品は、どちらかというと当たり外れを感じる方
だが、今回は当たりの作品だと思う。といっても、描かれた
世界は普通ではない。
脚本家の名前は記憶にあるものではないが、この世界のどこ
までが彼の執筆によるものかも気になる。監督自身は極めて
多作だから、普通の脚本から一気にこれを作り出せたとも思
えないが、この映像感覚が脚本の指示だとしたらそれも大し
たものだ。
もちろんここには、セット:佐々木尚、衣装:北村道子とい
う2人のデザイナーの仕事も重要なポイントになりそうだ。
三池作品は、いわゆる芸術映画ではないのだから、普通に見
ればいいものだが、本作は観客に向かって挑戦を仕掛けられ
た感じだ。でもこれを芸術と観るのは絶対に間違いだろう。
監督たちは、いい意味の悪ふざけで作っていると考えたい。
そう見ると楽しい作品だ。

『サンクチュアリ』
息子が行方不明になっている女性と、その子供を誘拐し殺し
たのではないかと疑われている女性。そんな2人の女性の関
係を、時間軸を遡りながら描く構成の作品。
監督の瀬々敬久は、元々がピンク映画の監督であり、今まで
にもピンク系で上映された後に、一般映画として公開される
作品の試写を観たことがある。
しかし今回は、最初から一般映画として公開される作品のよ
うだ。といっても、描かれる2人の女性の行動にはかなり際
どい描写もあるし、作品自体もR−15に指定されたものだ。
従って本作も、基本はピンク映画と考えて良いと思われる。
瀬々作品に限らず、最近、何本かピンク映画の試写は観てい
るが、ただ女性の裸さえ出ていればいいものから、それなり
の意識を持ったものまで、この系統の作品もいろいろあるよ
うだ。そんな中で、この作品は作劇にもいろいろ工夫が凝ら
されている。
物語は、現代に始まって現代で終わるが、その間にいくつか
の出来事が時間軸を遡って描かれる。その構成自体は、さほ
ど目新しいものではないが、本作ではそれがかなり丁寧に構
成されている感じがした。
最初に提示されたいくつかのキーワードが、時間軸を遡って
いくことで徐々に真相が明らかになって行く。この構成は、
SFの時間ものと同じで、その間にパラドックスが生じると
おかしなことになる。しかし、その点でこの作品はよく神経
が行き届いている感じがした。
もちろん、事件の真相自体は最初に割れているが、それでも
なおその裏に存在する別の真相が描かれて行く。それは、現
代社会の一種の病巣のような部分でもあるかも知れないし、
今、それを意識して描けるのは、もしかするとピンク系の人
たちだけかも知れないとも思った。
その意味では、普段見慣れている一般映画とは異なるし、こ
んな作品が海外に出て行けば、それなりに観客を驚かせるこ
ともできるのではないかと思ってしまうところだ。

『ナオミ・ワッツ プレイズ エリー・パーカー』
                   “Ellie Parker”
オスカー候補にもなり、大作『キング・コング』のヒロイン
にも上り詰めたナオミ・ワッツ。彼女が最初に注目されたの
は2001年公開の『マルホランド・ドライブ』だが、その同じ
2001年1月のサンダンス映画祭に出品された短編映画がこの
作品の原形になっている。
製作、脚本、監督、撮影(出演も)は、『タンク・ガール』
と『マルホランド…』でワッツと共演しているスコット・コ
フィ。2人はその後も作品を発展させてさらに4本の短編を
製作、それらを繋ぎ合わせて2005年に完成させたのが本作と
いうことだ。
物語は、ハリウッドに暮らす若い女優の卵が、毎日のように
オーディションに挑戦し、挫折を繰り返しながらも、夢を抱
いて進んで行く姿が描かれる。ワッツもオーストラリアから
ハリウッドに夢を抱いてやってきた一人、実際の彼女はかな
り恵まれていたようだが、それでもこの作品には彼女の実体
験に基づく部分もあるようだ。
最初のエピソードでは、一つのオーディション会場から次の
会場までフリーウェイの道中で、車を運転しながら次の役柄
に合わせて化粧を変え着替えもしてしまう。そんなアクロバ
ティックな様子が微笑ましくもあり、これが映画祭で好評を
博した理由もよく判る。
その後も、同棲中の男性の浮気や、女性セラピストとの怪し
げな関係、また「こんなことメリル・ストリープがやったと
思う?」と言いながらも続けるこれまた怪しげな演技の講習
会など、ハリウッドの真実(?)がここに綴られて行く。
もちろん誇張もあるのだろうが、動物園の類人猿の檻の前で
行動を観察しているシーンには『キング・コング』の参考か
と思わせたり、怪しげなホラーのオーディションのシーンに
は『ザ・リング』を想像させるなど、実話とのつながりも上
手く感じさせてくれる。
その一方で、R指定は免れたようだが、かなり際どいシーン
も出てくるし、またキアヌ・リーヴスのカメオ出演や、久し
ぶりのチェビー・チェイスがエージェント会社の幹部を演じ
て、軽妙な演技を見せてくれるなど。いろいろ楽しめる作品
でもある。
作品自体はSDのディタルヴィデオで撮影されたものであり
ながら、内容はかなり凝っているし、それでいてインディー
ズの匂いをたっぷり感じさせてくれる。ワッツは製作も担当
しており、自らのハリウッドへの思いをここに描き込んでい
るようだ。

『16ブロック』“16 Blocks”
『リーサル・ウェポン』のリチャード・ドナー監督、『ダイ
・ハード』のブルース・ウィリス主演によるアクションドラ
マ。
ウィリスは製作も担当し、他に製作者には、アクション専門
のエメット/ファーラも名を連ねている。また、製作会社は
ミレニアム=ヌ・イメージスという、B級映画ファンには堪
えられない名前が並んでいる作品だ。
主人公はニューヨーク市警に勤務する初老の刑事。脚が少し
悪くて出世街道からは外れ、酒浸りで勤務中も飲んでしまう
ような、傍から観てもあまり善良とは言えない男だ。
そんな彼が夜勤明けで帰ろうとしたとき、一人の囚人を16ブ
ロック先の裁判所まで護送する任務が命令される。それは、
本来は別の刑事の仕事だったが、その刑事が渋滞に巻き込ま
れて署に現れず、彼は渋々その任務を引き受けるが…
数ブロック先で謎の男たちが囚人を襲ってくる。そこでは機
転を利かせ、近くの酒場に逃げ込んで応援を呼ぶ主人公だっ
たが、現れた元相棒の刑事からは意外な話を聞かされる。そ
してその任務が、警察組織を敵に回した超ハードなものであ
ることが判り始める。
主人公は、自分の担当地域を熟知しており、追いつめられる
度に抜道や隠れ家などを駆使して、追手を捲いて行く。しか
しそれも、目的地が近づと困難になって行くが…果たして主
人公は、裁判所での証言時間に間に合うように、囚人を送り
届けることができるか。
アクションと言っても、銃撃戦以外は、格闘技系の派手なも
のではない。しかし、主人公が手傷を負いながらも証人の囚
人を守り通そうとする姿には、男のロマンや哀愁のようなも
のも漂わせて、さすが監督主演のベテラン2人のタッグとい
う感じの作品だ。
なお、映画のメインテーマは、人生最悪の日を迎えた警官だ
が、サブテーマとして犯罪者の更正プログラムについて語ら
れる。犯罪者の激増するアメリカでは、刑務所での更正プロ
グラムというのは殆ど行われていないのが実情のようだ。そ
んなアメリカの現実も描いた作品ということだ。



2006年08月01日(火) 第116回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 まずは、アジア発のこの話題から。
 7月20日付で紹介した『グエムル−漢江の怪物−』が韓国
の封切りで新記録を樹立しているポン・ジュノ監督が、今後
の計画を発表。次回作は母親とその息子を描いた低予算作品
を年内に製作した後、来年にも再びビッグスケールのSF映
画に挑戦することを表明した。しかもその原作は、フランス
製のコミックスだということだ。
 発表された原作の題名は“Le transperceneige”(「雪を
貫くもの」というような意味のようだ。因に、英題名はThe
Snowplow Trainとなっている)。この作品は、1980年代にジ
ャーク・ロブ文、ジャン=マルク・ローシェ画によって雑誌
A Suivreに連載されたもので、1984年に単行本として出版さ
れた。また同作は1999年にシリーズの第1巻“L'echappe”
(逃亡者)として再刊され、さらにベンジャミン・レグラー
ン文、ローシェ画によって第2巻“L'arpenteur”(測量士
:1999年)、第3巻“La Traversee”(横断:2000年)と、
書き継がれたそうだ。
 物語は、地球が再び氷河期を迎えた未来を背景に、生き残
りの人々はなぜか運行を続けているtransperceneigeと名付
けられた列車の中で暮らしているというもの。その列車の中
では後部ほど階級の高い権力者が暮らしており、そんな階級
社会の中で、主人公は列車の運行の秘密を探るべく、先頭車
両を目指して進んで行く…というのが第1巻のお話。
 また、第2巻では、同じレールの上を走る第2の列車が発
見されて衝突しそうになり、さらに第3巻では、大洋の反対
側からのメッセージが届き、列車はレールを離れ凍った海を
渡って行くことになるようだ(なお、この情報はSFファン
仲間でフランス通の林さんに調べていただきました)。
 因に、“Le transperceneige”は3部作全体の題名のよう
だが、今回映画化の原作はジャーク・ロブ作となっているも
ので、これが第1巻だけを示すのか、シリーズ全体の映画化
なのかは不明。しかし、いずれにしてもかなり大規模な作品
になることは間違いなさそうだ。またスタッフでは、すでに
『グエムル』の怪物をデザインしたジャン・ヒチュルの参加
が発表されている。
 雪と氷の原野を疾走する列車というのは、実写でも映像化
できないことはないと思うが、デザイナーが早々と参加して
いるということは、ここにも仕掛けが考えられる。その映像
化のために、『グエムル』に参加したオーファネイジ、ウェ
タなどのVFX工房が再結集することもありそうだ。その辺
にも期待したい。
 なお、監督にはハリウッドからの誘いもあるようだが、監
督自身は、一応、今回発表された計画を変えることはないと
している。ということは、来年の撮影で再来年には公開が期
待できそうだ。ただし原作はフランス製、どうせなら一気に
世界を目指す作品にもして欲しいが、キャスティングと言語
はどうするのだろうか。
        *         *
 以下はハリウッドの情報で、まずはワーナーからまたまた
DCコミックスの映画化の計画が発表された。
 発表された作品の題名は“The Doom Patrol”。内容は、
超能力を持ってはいるが社会と相容れないグループが、車椅
子の指導者と共に戦う…というもの。どこかで聞いたような
お話だが、実はマーヴルの“X-Men”とは、同じ1963年6月
にオリジナルシリーズがスタートしているというものだ。た
だし、このオリジナルシリーズは一旦終了していたもので、
その後、1980年代の後半にスコットランド出身のストーリー
作家グラント・モリソンの参加によって、物語に子供の悪夢
のような超現実的な要素が取り入れられ、現在では、特にカ
ルト的な人気を得ているとも紹介されていた。
 その作品の映画化を、映画版“X-Men”が終了した今、満
を持して発表したもので、製作には大作専門のアキヴァ・ゴ
ールズマンが当たることになっている。また脚色には、アダ
ム・ターナーという新人が起用されているが、ゴールズマン
は、「ターナーのユニークな感性は、ちょっとオフビートな
この作品にはピッタリな人材だ」と信頼を表明しているもの
だ。因に、ターナーは先にライオンズゲイトにティーンズ・
ホラーのオリジナル脚本を売ったところだそうだ。
 なお、登場するキャラクターとしては、天才的な戦略家で
もある車椅子のチーフの外、身体を伸縮できる少女エラステ
ィ・ガールや、1分間を限度に自分の身体を離れ純粋エネル
ギーとなって活動できる男ネガティヴマン、脳をロボットに
移植された男ロボットマンなどがいるようだ。また、その後
にもいろいろなメムバーが参加することになっており、メム
バー内でのロマンスや結婚などもあるとのこと。ただし物語
は、“X-Men”よりダークで、ハードなものだそうだ。
        *         *
 次もコミックスの話題で、1940年代にウィル・アイスナー
によって発表された“Spirit”という作品の映画化に、自作
の『シン・シティ』ではロベルト・ロドリゲスとの共同監督
で物議を醸したグラフィック・ノヴェル作家のフランク・ミ
ラーが、今度は単独で挑むことが発表された。
 内容は、セントラル・シティと呼ばれる都会を舞台に、死
んだと信じられている探偵が、仮面のヒーローとなって活躍
するというもの。そしてこの映画化権は、2001年の『ウェデ
ィング・プランナー』などを手掛けたオッド・ロッドという
製作会社が、2004年にアイスナーと契約していたものだが、
超能力も持たず、変身もしないヒーローということで、大手
からは敬遠されていたのだそうだ。しかしミラーの参加で新
たな方向性が生まれたとされている。
 なおアイスナーは昨年亡くなっているが、ミラーは生前に
親交を持ち、共同で物語も創作していたようだ。そのミラー
が脚色と監督を手掛けるものだが、ミラー自身は、最初は自
分にはできないと思っていたそうだ。しかし他人にやらせる
訳にも行かないと考えて参加を決意、「自分は、この物語の
ハートとソウルに完璧に沿った作品を作り上げる。それはノ
スタルジックなものではない。人々が期待しているよりも、
ずっと恐ろしいものになるはずだ」と抱負を述べている。
 しかし、その一方でミラーからは、「自分は、ロドリゲス
が『シン・シティ』のフィーリングを捉えたのと同じやりか
たで、“Spirit”に対するつもりだ。アイスナーが描いたこ
の街にはロマンティックな要素もあるし、楽しい面もある」
との発言もされている。なお情報によると、アイスナーの原
作には、ミステリーからホラー、コメディ、ラヴストーリー
などいろいろなジャンル要素が詰まってということで、全く
一筋縄では行かない作品のようだ。
 また、映画製作には『バットマン・ビギンズ』を手掛けた
バットフィルムが参加しており、ということは、配給はこれ
もワーナーが行うことになりそうだ。因に原作は、DCコミ
ックスから単行本で再刊されているものだ。
 ただしミラー自身は、現在は“Sin City 2”の脚本を執筆
中ということで、本作はその後になる。その“Sin City 2”
の製作は、ロドリゲス+クェンティン・タランティーノ監督
の“Grand House”の撮影完了待ちとのこと、またミラーは
“Sin City 2”のエヴァ役にアンジェリーナ・ジョリーの出
演をまだ希望しているようだ。
        *         *
 続いては、前回1963年の監督作品『鳥』のリメイク(?)の
情報を紹介したアルフレッド・ヒッチコックの関連で、サス
ペンスの巨匠の若き日を描くサスペンス作品が、来年1月の
撮影開始に向けて準備されている。
 作品の題名は“Number Thirteen”。内容は、ヒッチコッ
クの未完成のまま失われた処女作の撮影を巡る物語。物語で
は、監督は映画のスタッフとの間で三角関係となっており、
その内に映画の主演俳優が殺され、映画の編集者が現場にい
た監督の姿を目撃してしまうというもの。この監督役を、ト
ニー賞受賞俳優のダン・フォグラーが演じ、ユアン・マクレ
ガー、ジェフリー・ラッシュが共演することになっている。
 因に、ヒッチコックの初期作品では、イギリス時代の1932
年に“Number Seventeen”という作品があり、また生涯連れ
添った夫人は、元編集者だったものだ。つまり、微妙に現実
と絡み合う話にもなりそうだが、どこまでが真実かというと
ころも面白そうだ。この作品の脚本と監督はチェイス・パル
マーという人が手掛けている。
 製作は、ユニオンスクエアー・エンターテインメントとい
うプロダクションが資金調達している。また、フォグラーは
“Fanboys”“Schook for Scoundrels”“Balls of Fury”
“Good Luck Chuck”などの映画にも出演しているようだ。
        *         *
 メル・ギブスン主宰のイコンプロダクションから、リバ・
ブレイ原作によるヴィクトリア王朝時代のイギリスを舞台に
した3部作の映画化権を獲得したことが発表された。
 物語の全体は、4人の反抗的な10代の子供を主人公に、彼
らが神秘的な世界と交流し、徐々に力をつけて行くというも
の。そして第1作は“A Great and Terrible Beauty”と題
されており、インドの自由な精神を獲得したゲマ・ドイルと
いう少女が母親の死を目撃し、その死を取り巻く陰謀を解き
明かして行くうちに、魔法とペテンの世界に踏み込んで行く
というお話のようだ。
 なお紹介記事ではファンタシーだとは記載されておらず、
魔法というのが、どのくらい超自然的なものかはよく判らな
いが、この作品と続編の“Rebel Angels”は、ニューヨーク
タイムズのベストセラーリストにも掲載されているそうだ。
また第3作は来年出版予定とされている。
 そしてこの3部作の映画化は、テレビ出身で“Gulliver's
Travel”などを手掛け、劇場版の“Lassie”の全米公開が
9月1日に予定されているチャールス・スターリッジが企画
をイコンに持ち込んだもので、スターリッジは3部作の全体
の製作を務めると共に、第1作の脚色と監督も手掛けること
になっている。
 配給会社は未定のようだが、イコンの製作ならそれなりの
規模での製作は行われることになるはずで、映画化には期待
が持てそうだ。
        *         *
 後半は、続報をまとめて紹介しておこう。
 まずは前々回に報告した『バットマン・ビギンズ』の続編
(“The Dark Knight”という題名になるようだ)のキャス
ティングに関して、ジョーカー役にはヒース・レジャーの配
役が公式に発表された。前の報告で挙げた3人はいずれも外
れてしまったものだが、どちらかというと顎の張った俳優に
なった訳で、ウィリアムスは残念だったというところかもし
れない。いずれにしても今回のシリーズでは、若手の俳優が
優先されているというところはあるようだ。
 またこの他に、続編にはペンギンも登場するという情報も
あり、この役には『カポーティ』でオスカーを受賞したフィ
リップ・シーモア・ホフマンが候補になっているようだ。さ
らに、後にトゥー・フェイスとなるハーヴェイ・デントも登
場の噂があって、こちらにはライアン・フィリップ、若しく
はレイヴ・シュライバーの名前が挙がっている。なお、デン
トは、続編ではデントのままで、第3作でトゥー・フェイス
になる予定だそうだ。
 因に、前のシリーズでペンギンは、1992年公開の“Batman
Returns”にキャットウーマンと共に登場したもので、その
ときはダニー・デヴィートが演じていた。また、ハーヴェイ
・デントは1989年の第1作“Batman”に登場してこのときは
ビリー・ディー・ウィリアムスが演じていたが、1995年公開
の“Batman Forever”でトゥー・フェイスになったときには
トミー・リー・ジョーンズが演じていたものだ。
 ジョーカー、ペンギンが一挙に登場ということで、今回も
前のシリーズと同様悪役は2人ずつセットで登場することに
なるようだが、それにしても、コミックスでは多分1、2番
人気のジョーカー、ペンギンのコンビとは、シリーズを一気
に盛り上げることになりそうだ。それに第3作も計画されて
いるようだが、トゥー・フェイスは前のシリーズではリドラ
ーと一緒だったもので、今度は誰と組むことになるのか、新
シリーズにはまだ女性の悪役の噂がないが、そろそろ期待し
たいものだ。
        *         *
 お次は、前回紹介した『ファンタスティック・フォー』の
続編(題名は“Fantastic Four and the Silver Surfer”に
なるようだ)のシルヴァ・サーファー役は『ヘルボーイ』で
エイブ・サピアン役を演じたダグ・ジョーンズに決まった。
これについては、前回もすでに怪しいと書いておいたが、結
局、前回の情報は希望でしかなかったようだ。
 ただし、このキャラクターは、実はほとんどがCGIで作
られるものだそうで、そのための新しいテクノロジーもデザ
インされているとのこと。でも一部は人間の俳優が演じるこ
とになり、その一部のための配役ということだ。別段パフォ
ーマンス・キャプチャーをするということでもなさそうで、
まあ、その程度では、ちょっとヴィン・ディーゼルという訳
には行かなかったのだろう。
        *         *
 3月15日付の第107回で紹介したニューライン製作による
“Hairspray”のミュージカル版の中で、唯一の悪役とも言
える元ミス・ボルティモア、そして物語の舞台にもなるテレ
ビ局のオーナー=ヴェルマ・フォン・タッセル役を、ミシェ
ル・ファイファーが演じることが発表された。
 この作品は、以前にも紹介したように1988年に公開された
同名の青春映画がブロードウェイでミュージカル化され、今
回はさらにそのミュージカル版を映画化するもので、監督に
はアダム・シャンクマンが起用され、すでにジョン・トラヴ
ォルタ、クイーン・ラティファらの出演も発表されている。
また、舞台ではトニー賞にも輝いた主人公のトレイシー役に
は、全米で行われたオーディションの結果、ニッキー・ボロ
ンスキーという新人が選出されている。
 そのミュージカル映画にファイファーの出演が決まったも
のだが、今回の映画化では、舞台の作詞作曲でトニー賞を受
賞したマーク・シャイマンとスコット・ウィットマンによっ
て新たにファイファーのための歌曲も作られるとのことだ。
因にファイファーは、過去には『グリース2』に主演してお
り、また1989年の『恋のゆくえ−ファビュラス・ベイカー・
ボーイズ』でも歌っているものだが、スクリーンで歌うのは
それ以来になるようだ。なおシャンクマン監督は、1992年の
『バットマン・リターンズ』でファイファーが演じたキャッ
トウーマンのような、美味しい悪役に描きたいとしている。
 撮影は、9月5日にボルティモアで開始の予定。また公開
は、当初は2007年夏に予定されていたものだが、来年の夏は
大作が競合するため12月21日に繰り延べされることになって
いる。この新しい公開日はオスカー狙いの作品も登場する時
期だが、その狙いもあるということだろうか。
 なおファイファーは、現在はマシュー・ヴォーン監督で、
ロバート・デ=ニーロ、クレア・デインズ共演によるファン
タシー作品“Stardust”を撮影中とのことだ。
        *         *
 5月1日付第110回で紹介したパラマウント製作、ルネ・
ゼルウィガー主演のホラー作品“Case 39”に、テレビ番組
“Deadwood”が話題のイアン・マクシェーンの共演が発表さ
れ、ドイツ人監督クリスチャン・アルヴァルトの許、カナダ
・ヴァンクーヴァでの撮影が開始された。
 レイ・ライトの脚本で、虐待の報告された子供を保護した
ソーシャルワーカーに襲い掛かる恐怖を描くこの作品では、
マクシェーンは主人公を助ける警官を演じる。なおマクシェ
ーンは、ウディ・アレン監督の新作“Scoop”に出演の他、
ドリームワークス・アニメーションの“Kung Fu Panda”と
“Shrek 3”に連続して声の出演をすることになっている。
 一方、ゼルウィガーの降板で頓挫していた『The Eye』の
リメイクは、製作担当のトム・クルーズ/ポーラ・ワグナー
が権利をパラマウントからライオンズゲイトに移して計画を
継続することとし、新たにジェシカ・アルヴァを主演にした
計画が発表されている。
 因にこちらの監督は、フランス人のダヴィード・モーロウ
とザヴィエイ・パルードが担当する。ただしアルヴァには、
すでに“Fantastic Four”の続編への出演が契約されている
もので、リメイク作品への出演はその後になる。といっても
来年1月には撮影開始となりそうで、パン兄弟の原作は、紆
余曲折の末ようやくリメイクができそうだ。
        *         *
 7月1日付第114回に題名だけ紹介したナタリー・ポート
マン、エリック・バナ共演の歴史ドラマ“The Other Boleyn
Girl”に、スカーレット・ヨハンソンの共演が追加された。
 フィリッパ・グレゴリーの原作により、ヘンリー8世時代
のイギリス王室を舞台に、国王のハートとベッドを争ったメ
アリーとアンのブリン姉妹を描くこの作品では、ポートマン
とヨハンソンが姉妹を演じ、バナが国王を演じるものだ。正
に美人姉妹という感じだが、かなり強力な姉妹の前で、バナ
が演技負けしないことを祈りたい。
 脚色はピーター・モーガン、監督はジャスティン・チャド
ウィックで、撮影は秋にロンドンで開始の予定。また、映画
の配給は、アメリカ国内はコロムビア、海外はフォーカスが
担当する。
 なお、ヨハンソンの出演作品では、7月28日にウディ・ア
レン監督の“Scoop”が全米公開され、続いて9月15日にブ
ライアン・デ=パルマ監督の“The Black Dahlia”、10月27
日にクリス・ノーラン監督の“The Prestige”が公開予定。
さらにザ・ワインスタイン・コープ製作による“The Nanny
Diaries”の撮影が完了しているそうだ。
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 最後は、2003年1月1日付第30回で紹介している“Arthur
Spiderwick's Guide to the Fantastic World Around You”
の映画化が、“The Spiderwick Chronicles”と改題されて
ようやく動き出し、フレディ・ハイモアとサラ・ボルジャー
の主演が発表されている。
 この作品は、以前にも紹介したように、大叔父さんの家を
訪ねた姉と双子の弟が、妖精とゴブリンの棲む異世界を発見
し冒険するというもの。この3人をハイモアとボルジャーが
演じるもので、ハイモアはジャレッドとサイモンという双子
を1人2役で演じることになるようだ。
 ホリー・ブラックとトニー・ディタリジーの原作から、ジ
ョン・セイルズが脚色し、マーク・ウォータースの監督で、
9月12日にカナダのモントリオールで撮影開始されることに
なっている。製作はニッケロデオンとパラマウント。
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 今回は、ちょっと手違いがあって更新が遅れました。心配
をお掛けした人にはお詫びします。映画紹介を月3回に増や
し、できるだけ遅れないようにしたいと思っています。その
ため、製作ニュースの原稿をなかなか進められないのが実情
ですが、頑張りますので今後ともよろしくお願いします。


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井口健二