井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2005年08月31日(水) ランド・オブ・プレンティ、ARAHAN、大停電の夜に、アクメッド王子の冒険、モンドヴィーノ、親切なクムジャさん

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ランド・オブ・プレンティ』“Land of Plenty”    
2001年9月11日以後のアメリカを描いたヴィム・ヴェンダー
ス監督作品。本作は、昨年のヴェネチア映画祭のコペティシ
ョンに出品され、ユネスコ賞を受賞している。      
主人公は、パレスチナから帰米したばかりの20歳の女性と、
その叔父。女性は共産主義者の母親と宣教師の父親の間で育
てられ、アメリカ生まれではあるがアフリカからパレスチナ
までを転々として、2003年9月12日にロサンゼルスに帰って
きた。                        
彼女の帰国の目的は、母親からの手紙を叔父に手渡すこと。
しかしその叔父は、同時多発テロ以降、私設の監視部隊を作
って怪しい行動のアラブ人の動きを見張り続けているという
愛国者で、過去に送られた妹の手紙は全て無視し、姪の彼女
とも会おうとしない。                 
ところが、彼の見張っていたアラブ人が彼女が身を寄せてい
る教会施設の前の路上で射殺されたことから、互いに名乗り
合うことになる。そして彼女はアラブ人の素性を洗い出し、
陰謀の存在を探ろうとする叔父と共に、遺体を親族の許に返
すための旅に出るが…                 
ヴェンダース自身、WTC崩壊の生映像を見ながら「人生が
変わる」と呟いていたそうだが、ドイツ人でありながらアメ
リカで暮らしている彼にとって、その映像は衝撃であると同
時に未来への危惧でもあったのだろう。その危惧は日本で見
ていた僕も感じたものだ。               
そして彼が危惧した通り、アメリカ=アメリカ人は瞬くうち
に変容して行くことになる。この映画ではその変容したアメ
リカ人の代表として叔父の姿がある。ヴェンダースは、この
叔父をかなり戯画化して描くことによって、危惧を訴えてい
る。                         
ヴェンダースはこの映画を、マイクル・ムーアに似ていると
認めている。しかしムーアのように扇情的に声高に訴えるの
ではなく、あくまでも穏やかに、そして映画の中の叔父がそ
うであるように、アメリカ人自身が、自ら気付いてくれるこ
とを望んでいるようだ。                
もちろんそこには、グローバルな視野を持った若い女性を配
することによって、彼自身の意見も代弁させてはいるが、そ
れもあくまでも補助的な描き方に抑えているのは、現在暮ら
しているアメリカへの遠慮と言うよりは、大人の思慮という
感じがした。                     
そしてこの作品がアメリカで、ヴェンダースの最高作と呼ば
れるほどの高い評価を受けているのは、彼の意図が充分にア
メリカ人にも受け取られたということなのだろう。    
なお、撮影はHDで行われたようだ。さすがに走査線が目立
つようなことはなかったが、画質はかなり劣っているシーン
がいくつかあった。使用されたのはパナソニックの機材のよ
うだが、その画質は、映画が素晴らしいだけにちょっと恥ず
かしい気がした。                   
                           
『ARAHAN』“阿羅漢”(韓国映画)        
『SHINOBI』に続いてアルファベットの邦題だが、こ
ちらは韓国性のアクション映画だ。           
因に原題(ハングル)に添えられた漢字題名は、1987年に公
開されたリー・リン・チェイ(後のジェット・リー)主演の
中国映画の邦題と同じだが、中国映画の原題は“南北少林”
だったようで、ちょっとややこしい。          
ただし、その中国映画の解説によると、「阿羅漢」とは最強
絶対の拳技を求めた人というような意味のようだ。これは中
国も韓国も同じなのかな?               
で、本作の舞台は現代の韓国。世情が乱れるとき人々の気を
正しい方向に導いて乱れを抑える七仙と呼ばれる者たちがい
た。一方、主人公は正義感に溢れる交通警官だったが、ある
日、路上のひったくりを追いかけた彼は謎の女性拳士に遭遇
する。
ところが、彼は彼女が誤射した掌風の直撃を受け、彼女の暮
らす道場に担ぎ込まれ、そこで類希な気の持ち主であること
が発覚する。しかし、正義感だけで喧嘩も滅法弱い彼は、言
われたことも判らず道場から飛び出すが…        
実は、七仙の中で現存しているのは5人。1人は掟を破って
倒され、もう1人は世の中を自分だけの力で正そうとして、
そのやり方に反対する他の5人に封印されたのだが…その封
印された仙が復活しようとしていた。そして5人は、新たな
七仙の中心となる人材を探していた。                
映画は、前半は弱虫の男性が強い女性に救われるという、韓
国風ラヴコメの感覚で展開する。この展開が韓国でも日本で
も受けているらしいのだが、どうもこの手が苦手の僕にはち
ょっとたるいと感じてしまうところだ。しかし後半になって
闘いが始まると、これが一変する。           
闘いは復活した最強の仙と、若い2人との対決となるが、基
本は1対1の闘いに絞られ、これが剣などの武器を使った闘
いと素手のアクロバティックな勝負の両面で、見事に展開さ
れる。しかも、敢えて武器を捨てるようなわざとらしい演出
もなく、まさに死闘という感じなのが見事だった。    
脚本・監督は1973年生まれのリュ・スンワン、主演はその弟
のリュ・スンボム。兄弟で作った作品で共にデビューし、そ
の後、それぞれの道を歩んだ2人の再会コラボレーションの
ようだが、さすがに息はピッタリと合っている感じだ。  
また、撮影監督を、『ナチュラル・シティ』『私の頭の中の
消しゴム』などのイ・ジュンギュが担当し、特に後半の武闘
シーンのカメラワークは、客観的シーンと主観的シーンが交
錯し、華麗と言って良いくらいに見事だった。      
ただしVFXでは、CGIと実写との連携がちょっと物足り
なかった。例えば最後の武闘シーンでは床の瓦礫が全部飛び
上がるようなイメージが欲しかったが…見事な武闘シーンの
ワイアーワークの次は、その辺を極めてもらいたいものだ。
昨今は韓流ブームなどと言われ、なよなよしたお涙頂戴のラ
ヴストーリーが持て囃されているようだが、本来の韓国映画
の面白さはそんなものではない。本作は、そんなブームとは
一線を画した本当の映画の楽しさ面白さに出会える作品だ。
                           
『大停電の夜に』                   
クリスマスの夜に、突然首都圏を襲った大停電。その暗闇の
中で、いろいろの物語が交錯して行く。監督は、数多くのド
キュメンタリーやテレビドラマを手掛け、劇場用映画はこれ
が2作目の源孝志、脚本は源とテレビドラマ出身の相沢友子
の共作。                       
去年の12月21日にこの映画の製作記者会見が行われたおり、
僕は2つの質問を、脚本家でもある監督にぶつけている。 
その一つ目は、1968年にドリス・デイの主演で映画化された
『ニューヨークの大停電』という作品を知っているかという
こと。そして、二つ目は映画の形式がオムニバスなのかどう
かということだった。                 
残念ながら最初に質問に関しては、監督はご存じなかったよ
うだが、二つ目の質問に対しては、我が意を得たりという感
じで、オムニバスではなく、『24』のように物語が並行し
て進む形式を採ると回答してくれた。          
実はこの記者会見の時点では、すでに撮影はスタートしてい
たもので、従って脚本も完成していた訳だが、このときの監
督(脚本家)の自信に満ちた回答ぶりは、この作品に大きな
期待を抱かせるものだった。              
しかし一方で、『24』のような脚本が、大した事件も起こ
らない設定で描き切れるのかということには、多少の不安も
感じたものだ。そしてその作品が、ちょうど8カ月を経て完
成され、僕らの前に披露された。            
見終っての感想は、まず脚本の見事な構成に感心した。登場
人物は男女6人ずつ計12人。この12人の物語が時間を追って
語られるのだが、実は独立しているように見える物語が微妙
に絡み合って、その物語がある時点から一点に向かって収斂
して行く。                      
そこには移動する人物と、待っている人物がいて、それらの
人物たちの間を、時間と空間が心地よく流れて行く。その構
成が実にうまい。なるほどこれだけの脚本には、そう滅多に
はお目に掛かれないし、これなら自信が持てただろうという
感じがしたものだ。                  
そして、これを演じるのが、淡島千景、原田知世、寺島しの
ぶ、井川遙、田畑智子、香椎由宇の女優陣と、宇津井健、田
口トモロヲ、吉川晃司、阿部力、豊川悦司、本郷奏多の男優
陣。                         
実は、この演技陣が、結構女優の方が個性を強く描かれてい
て、男優陣が引き気味に感じられる。これは、多分監督の狙
いでもあるのだろうが、特に物語の中心にいるはずの田口の
キャラクターが薄く描かれているお陰で、女性の物語が際立
っている感じがした。                 
また、この映画のためにフランスから帰国したセザール賞受
賞カメラマン永田鉄男の撮影が実に美しく。中でも田畑と豊
川のエピソードで描かれる裏町が、ちょうどハリー・ポッタ
ーのダイアゴン・アレーを思わせる素敵な雰囲気に描かれて
気に入ったものだ。                  
物語は先にも書いたように、大停電を除けば大きな出来事は
起こらない。しかし普通の生活が、停電という事件によって
少しずつ変化して、本当なら起こらなかったはずのことが起
こってしまう。そんなささやかな出来事の積み重ねが素敵に
描かれている。                    
なお、上記の説明では、物語は一点に収斂して行くと書いた
が、物語はその後でちょっとだけ拡がって行く。そんな描き
方も素晴らしく感じられた。              
クリスマスの前に、本当に素敵なプレゼントをもらったとい
う感じの作品だった。                 
                           
『アクメッド王子の冒険』               
         “Die Acenteuer des Prinzen Achmed”
1926年に完成された世界最初期の長編(65分)アニメーショ
ン作品。                       
切り絵を少しずつ動かしながら一駒ずつ撮影して制作された
もので、今回の公開では「影絵アニメーション」と題されて
いるが、いわゆる影絵で上演されたものを撮影しているもの
ではない。                      
物語はアラビアンナイトに材を取ったもので、カリフの息子
=王子が魔法使いに騙されて遠い世界に飛ばされる。そして
魔獣の島で女王を助けたり、中国の魔女に助けられたりの大
冒険を繰り広げ、最後は実の妹を魔法使いの魔手から救出す
るというお話。                    
これを細かな切り絵と、その他さまざまなテクニックを使っ
て描き上げている。                  
なお、一部に登場する砂絵やロウを使った映像には協力者が
いたようだが、主体の切り絵のアニメーションは、クレイア
ニメーションや人形アニメーションと同様、個人作業で作ら
れるもので、ほぼ全編をこれで作り上げた労力は大変なもの
だったと思われる。                  
制作者のロッテ・ライニンガーは1899年の生まれで、パウル
・ウェゲナーの映画に憧れて劇団に参加。そこでアニメーシ
ョン研究者のカール・コッホに紹介されて、彼の協力の許、
1919年に最初の短編作品を発表している。本作はその最高最
大の作品ということだ。                
現代の華麗なアニメーションと見比べると、モノクロの画面
は素朴で動きも滑らかではないが、初期の映画作家たちが、
試行錯誤しながら作り上げていった作品の暖か味や、作り上
げたときの感動が伝わってくるような作品だった。    
なお公開は、『ロッテ・ライニンガーの世界』と題されて、
彼女の初期・中期の短編作品から2本ずつが併映される。僕
はその内の『パパゲーノ』と『カルメン』を見たが、どちら
もちょっとひねった展開が面白く、作者の心情が見えてくる
感じがした。                     
因に、『パパゲーノ』の上映では左端にサウンドトラックが
写り込んでいたが、これは、元々のサイレントサイズでフィ
ルム面の一杯に撮影された画面に、後年そのままサウンドト
ラックを焼き込んだもののようで、その陰に映像があるのに
も歴史が感じられた。                 
                           
『モンドヴィーノ』“Mondovino”            
ワインの現状を描いた上映時間2時間16分のドキュメンタリ
ー作品。                       
発端は、アメリカの大手ワイン会社がフランスのワイン産地
に工場進出を目論んだことに始まる。これに対して地元は賛
成派反対派に分かれるが、結局反対派の共産党系村長が当選
して進出は退けられる。                
このときの論点の一つが、ワインのグローバル化とテロワー
ルと呼ばれる土地の味を守ろうとする運動。そして、グロー
バル化の推進者であるアメリカの会社と、テロワールを守ろ
うとする土地のワイン生産者たちの意見が述べられて行く。
映画制作者の考えは、全体としてグローバル化には反対の立
場のように感じられるが、推進者たちもフランクに意見を述
べているのは取材の仕方のうまさなのか、その辺のバランス
は非常に良い感じの作品だった。            
僕自身は、ナパヴァリーがアメリカのワイン産地であること
ぐらいしか知らない人間だが、それでも興味を持てるように
描かれていたのは見事と言える。中でもワインの評価に関す
る部分は、多少陰謀めいたものも見えて面白かった。   
また、イタリアトスカーナの数百年を誇るワインの歴史と、
一方、フランスのワイン生産者が意外とここ数10年の人が多
いことや、何年も寝かせる必要のあるワインと、速攻飲める
ワインの話なども興味を引かれるものだった。      
とは言え、2時間16分の上映時間はいささか長い。途中には
いろいろな雑多の映像を取り入れて興味を引っ張ろうとして
いるが、多少下品なものもあって、正直うまく行っていると
は思えない部分もあった。               
ただし試写会では、そのような部分でそれなりに笑い声も聞
かれたので、制作者の目論見は成功していると言えるのだろ
う。                         
ワインに興味のある人には、当然見ればいろいろな意見が生
まれるのだろうが、さほど興味のない僕のような人間にも、
見ているうちにそれなりに興味が沸いてくる。そんな感じの
作品だった。                     
                           
『親切なクムジャさん』(韓国映画)          
2000年『JSA』のパク・チャヌク監督が、『JSA』に出
演の女優イ・ヨンエと再び組んだ作品。         
主人公は、幼児誘拐殺人の罪で13年の刑に服し、出所してく
る。刑務所の中での彼女は周りの女囚たちに献身的に接し、
「親切なクムジャさん」という異名を取るほどの模範囚。し
かしそれは、彼女には出所後に遂げるつもりの復讐のための
準備でしかなかった。                 
出所時、皆が食べて新たな人生を誓う白い豆腐も断った彼女
は、先に出所した女囚たちを訪ね歩き、その復讐の準備を進
めて行く。そしてそれを遂げる時が来るのだが…     
イ・ヨンエは、先に主演したテレビシリーズの人気が高いよ
うだが、本作ではその役柄が180度違っているのだそうで、
前の印象で見に来るとかなり衝撃の展開になるようだ。実際
に、後半の復讐を遂げるシーンはテレビドラマでは到底描け
ないものだろう。                   
でもその点を除けば、物語は主人公による復讐の過程を丁寧
に描いたもので、その展開は納得できる作品だった。また最
初と最後のシーンの対比が、その間の心情の変化を見事に描
き出していた。                    
なお映画では、刑務所の中の状景と現在とが交互に描かれ、
特に刑務所内での天使のような主人公と、現在の復讐のため
全てを捨てた女性の姿が際立った対照で描かれる。しかしそ
れが、実の娘と再会する辺りから微妙に変化して行くのも見
事に描かれていた。                  
『JSA』では、ちりばめられた断片がモザイクのように組
み合わされていく構成だったが、本作では徐々に手の内を明
かして行く感じのものでその構成も見事。まあ、テーマが復
讐なので、かなり強烈な場面も登場するが、全体はテンポも
良くうまく描かれている。               
因に、韓国では7月28日の封切では『宇宙戦争』を越える今
年最高のヒットを記録しているということだ。また、本作は
今年のヴェネチア映画祭のコンペティション部門にも招待さ
れているそうだ。                   



2005年08月15日(月) 第93回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回はこの話題から。
 アーノルド・シュワルツェネッガーの主演で計画され、彼
のカリフォルニア州知事への当選によって頓挫したSF作品
“Westworld”のリメイク計画がまた動き始めている。
 この計画については、2002年4月1日付の第12回や2003年
6月15日付第41回でも紹介したが、結局は2003年8月15日付
第45回で紹介したようにシュワルツェネッガーが州知事選挙
に立候補し、当選を果たしたために実現不可能になってしま
ったものだ。
 その計画がまた動き始めているものだが、今回の情報は、
以前から計画を進めていた製作者のジェリー・ワイントロー
ブが新たに監督名を公表したもので、それによると、監督に
は2000年公開のジェニファー・ロペス主演のサスペンス作品
“The Cell”などを手掛けたCF、ミュージックヴィデオ監
督のターセムが起用されることになっている。
 しかしこの計画では、脚本がまだ作られていない。因に、
以前の計画では“Terminator 3: Rise of the Machines”を
手掛けたマイクル・フェリスとジョン・ブランカートのコン
ビの起用が発表されていたものだが、これはシュワルツェネ
ッガーの要請によったもので、彼の出演が無くなった時点で
キャンセルされている。
 一方、ターセムは、インディーズで製作された新作“The
Fall”では、1992年製作の“Freejack”などの脚本家ダン・
ギルロイが執筆したオリジナル脚本から、長年のパートナー
のニコ・ソルタナキスと共に自ら脚本を執筆しているという
ことで、今回もその可能性はありそうだ。
 とは言うものの、いずれにしてもこれから脚本が作られる
ということでは、撮影開始はかなり先になりそうだ。
 ところで、最近の世論調査によると、シュワルツェネッガ
ーの知事としての支持率が急落して、来年秋の選挙での再選
は難しいとの観測も出て来ている。そうなると、州知事の任
期は2007年1月までとなるもので、そこで今回の情報では、
彼の復帰第1作となるのでは?という説も流れているようだ
が…果たしてどうなることか。
 なお、以前の計画でシュワルツェネッガーが演じるのは、
1973年製作のオリジナルでユル・ブリナーが好演し、ターミ
ネーターの原形とも呼ばれた不死身のガンマン役ではなく、
ワールドを訪れてパニックに巻き込まれる観光客の役となっ
ていたものだ。
        *         *
 お次は、ディーン・マーティンの主演で1966年に映画化さ
れた“The Silencers”(サイレンサー/沈黙部隊)などの
退役スパイ=マット・ヘルムを主人公にしたシリーズを、ド
ナルド・ハミルトンの原作に基づいて再映画化する計画が、
ドリームワークスから発表されている。
 オリジナルの映画化は、評価も高く大ヒットした第1作に
続いては、ほぼ毎年1作の割りで“Murderers' Row”(殺人
部隊)、“The Ambushers”(待伏部隊)、そして1969年公
開の“The Wrecking Crew”(破壊部隊)まで全4作が製作
されたものだ。
 そしてこれらの映画化では、いずれもマーティンの軽妙な
演技で、特に第1作はパロディとして大成功したものだが…
元々の原作では、主人公は第2次大戦中の作戦失敗の記憶が
尾を引いているという、比較的シリアスな内容も含む物語と
いうことだ。そこで今回の計画は、原作の路線に戻して再映
画化するというもので、この脚色に、“2 Fast 2 Furious”
(ワイルド・スピード×2)のマイクル・ブラントとデレク
・ハースのコンビが6桁($)後半の契約金でサインしたこ
とも発表されている。
 因に、以前のシリーズはコロムビア製作で、上記の4作の
後には1975年にアンソニー・フランシオーサ主演によるテレ
ビシリーズ化もされたが、それも1クールで終了している。
これに対してハミルトンの原作は、1960年発表された第1作
“Death of a Citizen”以降20作以上も発表されているとい
うことで、成功すればかなりのシリーズになりそうだ。
 ただし、第2次大戦に絡む主人公の設定などは21世紀では
通用し難いもので、脚本家コンビには、その辺の物語の現代
化も求められているものだ。なおこの脚本家コンビは、ユニ
ヴァーサルが来年夏向けに計画していたコミックスの映画化
“Wanted”や、パラマウントでロバート・ロダットが手掛け
たトム・クランシー原作“Red Rabbit”の脚色のリライトな
ども契約している。
 またフランス映画のリメイクで“The Capitalist”という
作品も、ハースの製作によりブラントの監督デビュー作とし
てユニヴァーサス傘下のフォーカス・フィーチャーズで計画
されているようだ。
        *         *
 もう1本ドリームワークスから、トム・クランシーの書き
下ろしによるヴィデオゲーム“Splinter Cell”の映画化の
計画が発表された。
 このゲームは、クランシーが発表しているヴィデオゲーム
シリーズの“Rainbow Six”“Ghost Recon”と並ぶもので、
政府機関のスパイ=サム・フィッシャーを主人公に、国際的
テロ組織とのハイテクを駆使した闘いが描かれる。ゲームで
は、すでに続編の“Pandora Tomorrow”と第3作の“Chaos
Theory”も発表されて、3作合計で1200万本が販売されてい
るということだ。
 そしてこの映画化の計画は、元々はパラマウントで、前回
も登場したピーター・バーグの監督により進められ、バーグ
とゲームライターのJ・T・ペティ、ジョン・J・マクラグ
リンによる脚本も完成していたということだ。しかし、バー
グの出来るだけ早く製作したいという意向と、パラマウント
側の製作時期の考えが合わず、結局バーグが前回も紹介した
“The Kingdom”の計画に参加を表明したために、計画自体
がキャンセルされてしまったものだ。
 その計画がドリームワークスに移されたものだが、同社で
は新たに“The Manchurian Candidate”(クライシス・オブ
・アメリカ)のダニエル・ペインを脚色に招いて映画化を進
めることになっている。
 監督は未定のようで、前回紹介したようにバーグのスケジ
ュールはかなり詰まっているようだし、今回新たに脚本家が
契約されたということは、もはや彼の復帰はないと思うが、
バーグには別の期待作もあることなので、その辺は巧くやっ
てもらいたいものだ。
        *         *
 このサイトでは2002年3月1日付の第10回で初めて紹介し
たニューラインが進めているフィリップ・プルマン原作によ
るファンタシー3部作“His Dark Materials”の映画化で、
第1作の“The Golden Compass”の監督に、イギリス出身の
エイナッド・タッカーの起用が発表された。
 この計画については、2004年6月1日付の第64回で再度紹
介したように、一時は“About a Boy”のクリス・ウェイツ
監督の起用も発表されていたものだが、そのウェイツ監督が
昨年12月に降板を表明、その後、ニューラインでは50人以上
の後任監督をリストアップして、選考を進めていたというこ
とだ。その中には、リドリー・スコットやデイヴィッド・ク
ローネンバーグも含まれていたと報告されている。
 しかしなかなか決定に至らなかったもので、そんな折りに
タッカー監督から20ページに及ぶ概要を含めた、コンセプト
アートやVFXのデモ映像などが提出され、これらを検討し
たニューラインの首脳によってタッカー監督の起用が決定さ
れ、正式発表されたものだ。
 この発表に当ってニューラインの首脳からは、「我々は、
タッカー監督の実績や彼が提出したプレゼンテーションなど
を検討し、その結果、彼がアイデアに溢れた作家であって、
この計画を実現するのに最適な人材であると確信した」との
発言が添えられた。また原作者のプルマンからも、「彼は、
物語の全てを尊重してくれているし、何より映画製作の手順
に精通している」とのコメントが寄せられていた。
 これに対して、約10年前にこの原作に触れて以来、ずっと
この映画化の監督を夢見てきたというタッカー監督からは、
「巨大な映画になるだろうし、多分、そのスケールには誰も
が簡単に圧倒されてしまうような作品になるに違いない。し
かしその中心に描かれるのは、自ら望んでなった訳ではない
英雄が、その責任を果たして行くという物語。この素晴らし
い物語を実現するために、全てのものが導かれている」と、
映画化への意欲が表明されている。
 因にタッカー監督は、1998年に発表された音楽家伝記映画
“Hilary and Jackie”(本当のジャクリーヌ・デュプレ)
の監督でも知られるが、最近スティーヴ・マーティン原作主
演による“Shopgirl”というコメディ作品を撮り終えたとこ
ろだそうだ。またその一方で、スカーレット・ヨハンソン主
演の“Girl with a Pearl Earring”(真珠の耳飾りの少女)
の製作も手掛けており、今回“The Lord of the Rings”の
後を継ぐ超大作の映画化には、その両面からの手腕が期待さ
れているものだ。
 また今回の計画では、まず“The Golden Compass”を単独
の作品として製作し、その成功を見て第2作の“The Subtle
Knife”と第3作の“The Amber Spyglass”を同時に製作す
る方針ということで、3部作の全てが製作されるか否かは、
第1作の出来に掛かるようだ。
 出演者などは未定で、撮影開始の時期も発表されてはいな
いが、第1作の映画化にはウェイツが書き上げた脚本が使用
されるということで、脚本が出来ているということは比較的
早く動くかも知れない。なお、日本配給に関してはギャガが
すでに権利を獲得しているようだ。
        *         *
 ニコール・キッドマンが、ワーナーでジョール・シルヴァ
が製作するSFスリラー“Invasion”に、1600万ドルの出演
料で主演することが発表された。
 この作品については、2003年9月1日付第46回などで紹介
したように、元々は1956年製作のジャック・フィニー原作、
ドン・シーゲル監督の“Invasion of the Body Snatchers”
をリメイクする計画とされていた。ところが2004年4月15日
付第61回で報告したデイヴィッド・カジャニッチ執筆の脚本
が、原作とは違うコンセプトを持つものになったということ
で、現在は独立の作品として進められているものだ。
 因に、カジャニッチの執筆した物語は、人類を絶滅に導く
ような人々の異常な行動が伝染病のように広がり始め、主人
公の精神医学者はその陰に異星人の存在を見い出す。そして
彼女は、その事態を止める鍵を握る息子を守るため、異星人
との闘いを開始するというもの。確かに、オリジナルの物語
の中心にあった人々が徐々にすり替わって行くという設定は
消えているようで、人間そっくりの異星人を生み出す莢も出
てこない、となれば別の物語ということも納得できそうだ。
 そしてこの映画化では、今年のアカデミー賞で外国語映画
部門の候補に挙げられた“Der Untergang”(ヒトラー〜最
後の12日間〜)のオリヴァ・ハーシュビーゲル監督が、ハリ
ウッドデビューを飾ることも発表されている。
 なお、監督はこの作品について、「この物語の言わんとす
るところは、歴史的な出来事の暗喩であり、今この国が直面
していることの暗喩でもある。私は人間を描くスペシャリス
トで、常に薄っぺらでない立体的な人間の姿を描いてきた。
VFXやCGIに負けない人間ドラマを描いてみせる」と抱
負を語っている。
 一方、製作者のシルヴァは、監督について、「彼の作品は
ダークで、無気味で、それでいてスマートで、ちょっと密室
恐怖症に似た感じもある。これらの特徴は、自分がこの映画
に求めている全てのものだ」と期待を述べていた。
 それにしても、子供を守るために異星人の侵略と闘うとい
うのは、最近何処かで聞いたようなお話で、もちろん、侵略
の手口などは全く異なっているものだが、それにしてもこの
元夫婦は…という感じだ。因に2003年3月1日付第34回で紹
介したトム・クルーズ主演の“I Married a Witch”の計画
は消えたようだが。
        *         *
 『シュレック』の原作者として知られる故ウリアム・ステ
イグが1969年に発表した児童書“Sylvester and the Magic
Pebble”をアニメーション映画化する計画がライオンズ・ゲ
イトから発表された。
 物語は、ロバの主人公が望みを叶える小石を発見するが、
誤って自分を岩に変えてしまう。しかも家族の住む場所から
も引き離されてしまい、彼は無事もとの姿になって家族の許
に戻れるか…というもの。この概要だけでもいろいろ冒険が
起きそうなお話だ。なお、映画化の題名は“Sylvester”だ
けになるということだ。
 実は、ライオンズ・ゲイト社では、先にファミリー・エン
ターテインメント部門を設立して、今年2月に、以前から製
作されていた“Foodfight!”という3−Dアニメーション作
品の北米圏配給権を獲得したことが報告されている。そして
この作品の公開が2006年に予定されていて、本作はその部門
からの第2弾になるというものだ。
 因に“Foodfight!”は、キネ旬ではこのサイトを立上げる
前の2000年の夏ごろに紹介しているはずだが、スレッショル
ド・エンターテインメントという会社が5000万ドルの製作費
を掛け、韓国のアニメーションスタジオのナチュラル・イメ
ージなどと協力して製作していたもので、巨大スーパーマー
ケットの食料品売り場を舞台に、陳列棚の商品たちがいろい
ろな闘いを繰り広げるというCGIアニメーション。
 そしてこの映画化では、Mr.クリーン、Mr.プリングルや、
チキータ・バナナ・レディ、チャーリー・ザ・ツナ、トゥイ
ンキー・ザ・キッヅなど著名な食品のイメージキャラクター
がそのままの姿で登場するということで、その使用権を得る
ために1年以上の期間が費やされたとも言われていた。
 スレッショルド社の経営責任者で、『トゥルー・ライズ』
などの製作総指揮も手掛けたラリー・カサノフの原案から、
ブレント・フリードマンが脚本にしたもので、カサノフが監
督も担当しているということだ。
 ということで、ライオンズ・ゲイト社では“Foodfight!”
と“Sylvester”の2作のアニメーションが公開される予定
だが、他社製作の作品の配給のみを担当する“Foodfight!”
とは異なり、今回の“Sylvester”は自社で企画から発表し
たもので、今後の動きが注目される。
 なお、新作の脚本家や監督などは未発表だが、因に『シュ
レック』の原作は1993年に発表されており、本作はそれより
4半世紀ほど前の作品ということになるもので、さてどんな
作品が登場するのだろうか。
        *         *
 お次は、続編の話題を3つまとめて紹介しよう。
 まずは、2000年にオーウェン・ウィルスンとベン・スティ
ラーの初本格共演で話題となり、興行的にも好成績を残した
“Zoolander”の続編が、ウィルスンとスティラーの間で話
し合われているということだ。
 前作は、スティラーの監督作品で、ニューヨークの男性モ
デル業界を背景に、長くトップに君臨していたスティラー扮
するデレク・ズーランダーが、ウィルスン扮する新人モデル
に追い上げられ、起死回生の策に飛びつくが、そこにはアパ
レル業界を陰で操る男の陰謀が隠されていた…というもの。
パロディやアクションも満載で、しかも社会問題も扱ってい
るという、コメディとしては上出来な作品だった。
 そして今回の情報は、新作の“Wedding Crashers”が公開
3週目で全米第1位に輝くなど、底力を見せつけたウィルス
ンが同作のプロモーションで訪れたオーストラリアで語った
もので、企画はかなり進んでいる口振りだったようだ。
 また、ウィルスンはジャッキー・チェンとの共演で、第3
作となる“Shanghai Dawn”と、スティラー共演の“Starsky
and Hutch 2”の計画も語ったということで、何処までが本
気かは判らないが、“Noon”“Knights”に続くチェンとの
第3作には期待したいところだ。
 お次は、この春公開された“Sahara”の続編で、監督のブ
レック・アイスナーが期待を表明している。
 この映画化では、クライヴ・カッスラーの原作は18冊が発
表されていて、そのうち1作は過去に映画化されているが、
取り敢えずは続編の材料には事欠かない。また、前作の興行
成績はまずまずの数字を残しているので続編は可能性大なの
だが、実は主演のスター(複数)は3作の出演契約を結んで
いるのに、監督にはその契約が無いということだ。そこでア
イスナーとしては、何としても続編の監督をやりたいとのア
ピールのようだが、さて製作も担当している主演のマシュー
・マコノヒーの判断は…?
 それにしても、主演のスター(複数)が3作の契約という
ことは、続編にもペネロペ・クルスが出てくるということな
のだろうが、原作ではダーク・ピットガールズと呼ばれて、
毎回ヒロインは変わるという話も聞いており、さて映画化は
どうするのだろうか。
 3本目はヨーロッパから、1967年のルイス・ブニュエル監
督作品“Belle de jour”(昼顔)の続編が、ポルトガルの
マノエル・デ・オリヴェイラ監督によって計画されている。
 オリジナルは、カトリーヌ・ドヌーヴが主演し、上流社会
に暮らす女性の姿を赤裸々に描いたもので、ブニュエル監督
の幻想的な表現も話題となった作品だ。そして、今回続編を
計画しているオリヴェイラ監督は、当年97歳の恐らくは世界
最高齢の映画監督ということで、まずはその製作意欲に敬意
を表したいところだ。
 因に、監督の最新作は“El espelho magico”というもの
で、来月のヴェネチア映画祭のコンペティション部門でワー
ルドプレミアされるというから、間違いなく現役の監督とい
うことだ。
 撮影は来年フランスで行われ、主演にはフランス女優のブ
レ・オギエルが起用されることになっている。なお監督は、
当初はドヌーヴに出演を求めたが、断られたのだそうだ。
        *         *
 最後に、パラマウント傘下のニケロデオンから、タイムト
ラヴェル物のファンタシーの映画化権を獲得したことが発表
されている。
 この作品は、デイル・ペック原作の“Drift House”とい
う児童向けの小説を映画化するもので、物語は、主人公の少
女と2人の弟がカナダの叔父さんの家で未来を描いた壁画を
発見し、それに触れた弟の1人がその未来に行ってしまうと
いうもの。当然、主人公ともう1人の弟がそれを追いかける
のだが…原作は9月に出版予定で、これが3部作の第1巻に
なるということだ。
 3部作ばやりの昨今だが、計画ばかりでなかなか実現しな
い映画化も多くなってきており、この計画も期待半分で待つ
ことにしたい。



2005年08月14日(日) ステルス、SHINOBI、ボム・ザ・システム、あそこの席、@ベイビーメール、TKO HIPHOP、ヘッドハンター

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ステルス』“Stealth”                
『ワイルド・スピード』『トリプルX』のロブ・コーエン監
督の最新作。テロ対策用に組織された3人の精鋭パイロット
で構成されたステルス戦闘機部隊に、AI搭載の無人戦闘機
が配属されたことから始まる近未来ドラマ。       
この3人のパイロットに、ジョッシュ・ルーカス、ジェシカ
・ビール、そして『レイ』でアカデミー賞オスカー主演男優
賞を受賞したばかりのジェイミー・フォックスが扮し、サム
・シェパード、ジョー・モートンらが脇を固める。    
正直に言って評価に苦慮する作品だ。          
何たって物語の中では、テロリストを倒すという名目で東南
アジアの都市を攻撃して高層ビルを倒壊させたり、核弾頭を
隠しているからとタジキスタンの山間の砦を爆撃して麓の村
に死の灰をまき散らしたり、果てはシベリアから北朝鮮にま
で出撃してしまう。                  
これを本気で撮っているとしたら、いくらブッシュ政権下の
アメリカでも無神経過ぎるというものだ。ただしコーエン監
督は、前の作品でも多少そういう傾向はあるから、その可能
性が無いとは言い切れない。が、ここはアンチテーゼの作品
として考えたい。                   
そこでふと思いついたのは、1964年公開の『博士の異常な愛
情』だ。スタンリー・クーブリック監督によるこの作品は、
一人の将軍の妄想によって、当時のソ連に核攻撃を仕掛けて
しまうという内容だったが、明白に軍部批判の思想で作られ
ていたものだ。                    
そこで本作と比較すると、一人の大佐の妄想で繰り広げられ
る顛末は、『博士…』と見事に符合してる。また『博士…』
はイギリス映画だが、実は配給を現在ソニー傘下のコロムビ
アが行ったもので、その意味では、本作はそのリメイクと言
ってもよいものなのだ。                
ということで、物語を納得すれば、後は空中戦から巨大な爆
発シーンまで、ディジタル・ドメインのVFXによって繰り
広げられる映像の見事さと、加えて監督のメカフェチぶりが
今回も発揮されていて、その拘わりにも思わず納得してしま
う作品だった。                    
そんな訳で、七面倒くさいことは出来るだけ考えず、単純に
映像を楽しむ作品という評価にしたい。でもまあ、いろいろ
考えてしまうのが、僕の悪いところなのだが…      
なお、映画の中で無人機に搭載のAIはティン・マンと呼ば
れ、機自身もそう名告るが、これは言うまでもなく『オズの
魔法使い』のブリキマンのこと。それから考えると、3人の
パイロットはドロシーとライオンとカカシということになっ
て、これも符合している。               
そして『オズ』のブリキマンは、エメラルドシティに心を捜
しに行くが、本作では…。そういえば該当のシーンには、魔
法使いも肩書きを変えて登場していたようだ。本作は、この
ようなこともいろいろ楽しめる作品になっていた。    
                           
『SHINOBI』                  
山田風太郎の原作『甲賀忍法帖』から、映画『弟切草』など
の下山天監督がVFXを駆使して映像化した作品。主人公の
伊賀、甲賀それぞれの忍者朧と弦之介を、今一番旬な若手2
人とも呼べる仲間由紀恵とオダギリジョーが演じている。 
下山監督は、先に日台中合作映画の『アバウト・ラブ』でも
評価したばかりだが、1997年の監督デビュー作『CUTE』
も、当時に見て悪くないという印象を持った記憶がある。し
かし、現代劇ばかり撮ってきた監督の初時代劇には、不安も
つきまとうものだ。                  
時代背景は徳川初期。戦国の世が終わり太平の世に向かう中
で、戦国時代に活躍してきた忍者たちの存在は、目の上の瘤
になりつつあった。                  
そこで忍者たちをまとめてきた三代目服部半蔵は、初代半蔵
が取り決めた伊賀甲賀不戦の契りを破棄し、それぞれの精鋭
5人ずつを闘わせて、その勝者により徳川の世継ぎを決める
と宣告する。                     
つまりそれは、伊賀甲賀の忍者を占いの道具とするというこ
とだが、生死を賭けたその戦いの裏には、これにより伊賀甲
賀の精鋭たちを一気に壊滅させる意図も隠されていた。  
一方、伊賀の隠れ里・鍔隠れと甲賀の隠れ里・卍谷は境を接
し、そこではそれぞれの頭領の跡取りと目される朧と弦之介
が密かに愛を育んでいた。そしてそれぞれの精鋭5人の中に
選ばれた2人は、お上の命ずるままに戦いを余儀なくされる
のだったが…                     
他の精鋭忍者たちに、椎名桔平、黒谷友香、沢尻エリカ、虎
牙光揮らが扮し、特殊効果やVFXも織り交ぜた戦いが展開
する。                        
まあ、時代劇といっても忍者ものは、特別に侍の作法などが
出てくる訳ではないから、監督にとってはそれほど難しいも
のではない。                     
それでその分をアクションに力を注げる訳だが、本編全体の
上映時間が100分程度では、そつなく纏められているとは言
うものの、ちょっと物足りなさも残る。この辺は製作予算と
の関係もあるのだろうが、ちょっと悔しい感じもした。  
物語自体は山田風太郎なのだし、元々が講談調で、最近は劇
画化もされているような物語だから、これで良しという感じ
だろう。ここに重厚さなどは求めるつもりはない。    
また、若手俳優たちの演技もそれ相応という感じがした。た
だ、家康や天海などにベテランを配した割りには、若手との
違いを余り感じられなかったのは、ちょっと不満に感じた。
御前披露に始まる両忍法の術の描き方は、それなりに見応え
があったし、隠れ里の景観にも良い雰囲気があった。VFX
でこれだけの表現ができるのなら、忍法ものはもっと作られ
ても良いという感じも持ったものだ。          
                           
『ボム・ザ・システム』“Bomb the System”       
MC、DJ、ブレイクダンスと並び、4大ヒップホップカル
チャーの一つと言われるグラフィティ(市中の落書き)のア
ーティストを主人公にした青春映画。          
ウディ・アレン、ラース・フォン・トリアー、ジム・ジャー
ムッシュ監督らの作品にも起用されているインディーズ系の
若手俳優マーク・ウェバーが、自らの製作・主演で作り上げ
た作品。                       
主人公は、グラフィティ・アーティストの先駆者だった今は
亡き兄を敬愛し、その跡を継いで、今では新聞などでも取り
上げられるようになってきた気鋭のアーティスト。しかしグ
ラフィティは本来法律に触れるものであり、彼の生活は常に
警察との闘いの中にある。               
そして完成された作品は、発見されれば直ちに当局によって
消去され、残るのは名声だけという刹那的な芸術だ。そんな
中で主人公たちは、今日もグラフィティを行う壁を求めて都
会を彷徨する。                    
実は見るまでドキュメンタリーと誤解していたのだが、多分
物語は実話に基づいていると思われ、その物語をドキュメン
タリー調の映像で見事に再現している。またこのドキュメン
タリー調の手法が、見事に作品にマッチしているとも言える
ものだ。                       
内容的にはもちろん違法行為を描いたものだし、ドラッグな
ども頻繁に登場するが、作品として青春映画の手順をしっか
りと踏まえているところは、映画をよく判っている人たちの
作品という感じがした。                
といっても、脚本監督は製作当時23歳のアダム・バラ・ラフ
のデビュー作だし、撮影監督は元ILMのスティール・カメ
ラマン、製作も本作が初作品という顔ぶれだが、いずれもニ
ューヨーク大学の映画科出身、基礎はそこで教え込まれてい
るということのようだ。                
なお、映画の製作には実際のアーティストも多数協力してい
て、映画の中に数多くのグラフィティが納められているのも
見所のようだ。また、主人公の行動に絡んで、ニューヨーク
のいろいろなカルチャーシーンの様子が覗けるのも面白かっ
たし、青春グラフィッティとしても楽しめる作品だった。 
                           
『あそこの席』                    
中高生に絶大な支持を受けているという山田悠介の原作を、
『仄暗い水の底から』などの脚本を担当した中村義洋の監督
で映画化、脚本は『仄暗い水の底から』などを共同で手掛け
た鈴木謙一が担当している。              
元々がレイトショウ用にヴィデオで製作された作品というこ
とで、正直あまり期待しないで見に行ったのだが、予想以上
にしっかりした作品に仕上がっていたのでびっくりしたとい
うか、和製ホラーの水準の高さを再認識した感じだった。 
物語は、とある郊外の共学校が舞台。その一教室には呪われ
た席が在り、そこに座った転校生が次々に不幸に襲われると
いう。そして主人公の女子生徒は、都会の学校からそこに転
校して来て、その席が割り当てられるのだが…という、いわ
ゆる都市伝説ものと言えそうだ。            
これに、担任の男子教師や、エキセントリックな音楽教師、
親切な男子生徒、学級委員長、それにちょっと意味在りげな
男女3人組などが絡む。                
まあ、人物設定などはステレオタイプだし、話もよく在りそ
うなものなのだが、何というか話の盛り上げ方が巧いし、最
後にちょっと余分な仕掛けは在るが、物語の全体にはカタル
シスを感じさせる結末が在ることも良い感じだった。   
生徒たちを演じるのは、いずれも20歳前のCMなどで活躍中
の若手俳優だそうだが、そこそこ自然体で演じており、見て
いて気になるところはなかった。まあ、それより上の年代の
俳優には、ちょっと演技し過ぎの感じも在ったが…    
なお、本作は自殺を想起させるシーンが在るせいかR−12の
指定になっているが、自殺をテーマにしたものではない。 
それから、音楽室からショパンのピアノ曲「別れの曲」の独
奏が流れ、音楽教師を根岸季衣が演じているのは、PFF出
身の中村監督から同じ出身の大先輩・大林宣彦監督へのオマ
ージュのつもりなのだろうか。             
                           
『@ベイビーメール』                 
上記の『あそこの席』と同じ原作、監督、脚本による作品。
製作会社も同じで、2本立てではないが、同様の公開になる
ようだ。                       
女性の携帯電話に呪いのメールが着信し、そのメールを開く
と、その女性は4週間後に腹を引き裂かれた猟奇的な死に見
舞われる。そして主人公の携帯電話にも、そのメールが着信
する…という、これも都市伝説という感じのお話だ。   
なお、映画の中でも「呪いのヴィデオのパクリか」という台
詞が出てくるが、この作品では、ある意味『リング』の設定
を巧妙に利用している。この辺は、中田監督作品の脚本を手
掛けてきた脚本家たちの特権とも言えそうだ。      
そして物語は、VTRが廃れ始めた時代に、新たな情報ツー
ルとしての携帯電話が見事に活用されていた。ちょっと前に
携帯メールを使った和製ホラーは登場しているが、作品の出
来はこちらの方が数段巧いというか、ちゃんと物語になって
いるものだ。                     
上記の作品と同様に主人公は女子学生で、これに担任教師ら
が絡むが、こちらはすでに主演も張っている俳優を配して、
そこそこの布陣で撮られている。因に、主演女優は13歳の時
のデビュー作で新人賞を獲得、相手役は『仮面ライダー』な
どに出演しているそうだ。               
物語のほとんどが校外で進むというのは、上記の作品とのバ
ランスを考えてのことなのだろう。試写は2作連続で行われ
たが、この辺の全体を通してのバランス感覚がちゃんと備わ
っていることにも感心した。              
それなりに見せ場のVFXも在るし、大作という作品ではな
いが、楽しめる作品だった。              
                           
最近のホラー作品は、ヴィジュアル的なショッカーが多くな
ってきている感じがするが、やはり精神的にじわじわと来る
チラーの方が恐いし面白い。しかしチラーの場合はそれなり
に脚本の出来も要求されるもので、その点でこの2作は水準
作だと感じた。                    
ただ、映画館で見るにはヴィデオ製作の画質がちょっと不十
分な感じで、そろそろHDも家庭用が出てきている時代に、
もう少し画質を上げて欲しいという感じもした。と言っても
最近見た他の何本かの作品よりはましではあったが。   
                           
『TKO HIPHOP』               
題名にはAsian Hiphopmovieという冠が付いている。東京渋
谷が舞台で、取り立てて他のアジア諸国の人たちが関る物語
でも無いのに、この冠は何ですかという感じもするが、映画
自体は最近の若者の風俗を捉えて、それなりの作品のように
感じた。                       
主人公は上京したての若者2人。その若者の1人がクラブで
人気MCの女にちょっかいを出し、そのMCにラップバトル
を挑むことになる。そして、もう1人と共にMCとDJの特
訓を始めるのだが。                  
これに、LA生まれでダンサー志望の女性や、オカマ、業界
の悪徳プロデューサー、ごろつきに悪徳刑事らが絡んで物語
が展開する。                     
映画では前半に描かれるMCとDJの特訓のシーンが、それ
ぞれプロを招いての作り込みなのだろうが、いろいろとテク
ニックなども披露されて面白かった。また、主人公の若者役
の1人が本来ダンサーだそうで、女性とのダンスシーンも良
い感じだった。                    
ところが何というか、悪徳プロデューサーやごろつき、悪徳
刑事の話が如何にもステレオタイプで、正直に言ってこれら
の部分はまったく買えなかった。            
これを製作者たちが現実の戯画化だと思っているならそれも
仕方がないが、もっと純粋に若者の姿を描いても、それなり
に素敵な青春グラフィッティが描けたのではないかと思った
ものだ。特に、悪徳刑事の話は映画の中でも浮いているし、
無駄遣いに感じた。                  
それよりも、ラップバトルのシーンやブレイクダンスのシー
ンは、それなりにタレントも揃えている訳だし、もっとじっ
くりと描いて欲しかった感じだ。            
同時期に見た『ボム・ザ・システム』にも悪徳刑事は出てき
たが、あちらはもっと大きな背景を描いていたから様になっ
ていた感じがする。それに比べると本作はもっとこぢんまり
としたもので、その分もっと若者自身に目を向けた物語が欲
しかった。                      
しかし、映画全体はちょっと甘ったるいが良い感じがしたも
のだ。なお、プレス資料に、脚本・監督の谷口則之について
の紹介が無く、またウェブなどで調べても情報が見つからな
かったが、この名前は気にしておきたいと思った。    
                           
『ヘッドハンター』“Pursued”             
クリスチャン・スレーター主演で、実績のある企業戦士を、
収入のアップなどを誘い水にして他企業に斡旋するヘッドハ
ンターの姿を描いた作品。               
日本でも、最近は終身雇用が崩れて、転職が横行してきてい
るが、アメリカでは、さらに企業で実績を上げた人材を引き
抜いて他企業に転職させるヘッドハンターが、すでに認知さ
れた職業になっているようだ。             
そして物語の主人公は、ヴェンチャー企業で画期的な技術開
発をした技術者と、その技術者を大企業に転職させようとす
るヘッドハンター。しかしこのヘッドハンターが、狙った人
間を獲得するためには、殺人をも厭わないというとんでもな
い男だった。                     
ヘッドハンターの実態がこれほどまで凶悪なものとは思わな
いが、ある意味サイコティックなハンターの姿が、スレータ
ーによって巧妙に演じられている。なお、当初スレーターに
は技術者役がオファーされたようだが、本人の希望で変更さ
れたそうで、その意気込みも感じられるところだった。  
ただしその分、技術者役のギル・ベロースはちょっと弱い感
じで、最初はまあ技術者はこんなものかという感じもしてい
たが、それが後半反撃に転じる辺りで、ちょっと演技力の不
足をさらけだした感じだ。これがスレーターだったらという
感じもした。                     
もっとも物語自体は、後半がアクションになってしまうのが
もったいない感じで、ここは後半も心理戦で進めてもらいた
かった感じもしたものだ。そうすれば、これらの配役ももっ
と生きてきたと思うところだ。この辺には、ちょっと脚本家
の力不足も感じられた。                
とは言え、前半のじわじわと相手を追いつめて行くテクニッ
クは巧く描かれていたし、このやり方なら、自分も乗ってし
まうのではないかという気持ちにもさせる。また、それを留
めるのが上司に対する信頼という辺りは、今の日本にも通じ
る感じもするものだ。                 
その意味では、日本人の方がこの作品を評価しやすいかも知
れない。もっとも最近の若い人たちの感覚には、アメリカ人
に近いものも感じるものではあるが。          
他には、エステラ・ウォーレン、マイクル・クラーク=ダン
カンらが共演。なお監督のクリストファー・タボリは、『ダ
ーティ・ハリー』などのアクション映画の名匠ドン・シーゲ
ル監督の息子だそうだ。まさかそのせいで、後半をアクショ
ンにしたのでは無いと思うが。             



2005年08月01日(月) 第92回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回は製作ニュースから、早速始めることにしよう。
 まずは、“Charlie and the Chocolate Factory”(チャ
ーリーとチョコレート工場)が2週連続で全米第1位を記録
し、さらにこの秋には、企画と製作を担当したストップモー
ション・アニメーション作品の“Corpse Bride”(コープス
・ブライド)も公開されるティム・バートン監督の情報で、
ユニヴァーサル傘下のフォーカス・フューチャーズが配給す
る“9”と題されたCGIアニメーションの製作を行うこと
が発表された。
 この作品は、シェーン・アッカーという監督が、今年度の
学生アカデミー賞で受賞を果たした同名の10分の短編作品を
長編化するもので、内容は、人間性が脅威に曝されているパ
ラレルワールドを舞台にした超現実的なファンタジー。映像
はCGIではあるもののストップモーションのような感覚で
作られた作品ということだ。まあバートンと言えばストップ
モーションのイメージだからこれは好適だろう。
 そしてこの長編版の脚本には、『コープス…』を手掛けた
パメラ・ペトラーが参加することも発表されている。
 またこの発表に当ってバートンからは、「短編作品では、
今までに見た映画の中で最も普通でない10分間を体験した」
というコメントが寄せられている。さらに、「シェーンは、
気が遠くなるほど詳細な想像力と、恐ろしいほど美しく、視
覚だけでなく感情の面でも鮮明な宇宙観を持っている」とも
語られているようだ。
 なお、ハリウッド各社がアニメーションに力を入れている
中で、本作はフォーカスからは初の長編アニメーション作品
となるものだが、そこにバートンとは強力な助っ人と言えそ
うだ。因にオリジナルの短編作品には、今年度のアカデミー
賞短編部門の候補の資格もあるそうだ。
        *         *
 お次は“Friday Night Lights”(プライド/栄光の絆)
のピーター・バーグ監督で、1982年にアーノルド・シュワル
ツェネッガーが主演した“Conan the Barbarian”(コナン
・ザ・グレート)などの原作者ロバート・E・ハワードの作
品から、“Bran Mak Morn”と題するシリーズを映画化する
計画が、ユニヴァーサルから発表されている。
 ハワードは、1906年に生まれ、1936年に死去したアメリカ
の作家で、自殺で世を去るまでの最後の10年間に大量の作品
を、主にウィアード・テイルズ誌などのパルプマガジンと呼
ばれる大衆雑誌に発表している。その多くは、『コナン』に
代表される剣と魔法に彩られた冒険小説で、この種の作品の
始祖とも呼ばれている人物だ。
 そして計画されている原作は、紀元5、6世紀のイギリス
を舞台にした歴史に基づく物語で、ローマ帝国や北方からの
脅威の下、題名にもなっているイギリス最初の王となる主人
公の活躍を描いた物語。架空の世界を背景にした『コナン』
とはちょっと違う傾向の作品のようだが、魔法などのファン
タジーの要素も織り込まれていると言われている。
 なお、原作はウイアード誌に発表されたもののようだが、
長く忘れられ、1990年代になって再発見されてまとめられた
ということだ。そして現在は、5作の完成された小説と詩、
それにハワードが執筆した草稿なども公表されているようだ
が、そこからどのような映画化が行われるのか、またシリー
ズ化の期待もありそうだ。
 一方、1998年の“Very Bad Things”に続いて上記の作品
と、普通の作品を撮ってきたバーグには、初めてのファンタ
シー作品ということになるが、「僕は子供の頃からアクショ
ン・ファンタシー、特に『コナン』の大ファンで、筋肉や世
界の見方も知っている」と自信を覗かせているようだ。
 ただしバーグには、同じユニヴァーサルで、マイクル・マ
ン製作による“The Kingdom”という計画が先にあり、それ
に続けて本作を希望しているということだ。脚本は、両作と
もジョン・ロマノが担当することになっている。因にロマノ
は、フィリップ・ロスの原作で、フィル・ノイスが監督する
“American Pastoral”という作品の脚色も担当している。
        *         *
 アルフォンソ・キュアロンの後を継いだシリーズ第4作の
“Harry Potter and the Goblet of Fire”(ハリー・ポッ
ターと炎のゴブレット)が今秋公開されるマイク・ニューウ
ェル監督の次回作として、今年のアカデミー賞作品賞受賞作
『ミリオンダラー・ベイビー』を手掛けたアル・ルディーの
製作による題名未定の西部劇の計画が発表されている。
 この作品は、『ビッグ・ウェンズデー』『コナン・ザ・グ
レート』の脚本監督や『地獄の黙示録』の脚色なども手掛け
たジョン・ミリウスのオリジナル脚本を映画化するもので、
1910−17年のメキシコ革命直後の時代を背景に、アメリカ原
住民で元海兵隊員の賞金稼ぎの主人公が、アメリカ人の資産
家女性の依頼を受けて、行方不明になった馬を捜すというも
の。これだけ読むとロマンティックな話にもなりそうだが、
ミリウスの脚本ということは、かなりハードな大人の物語に
なりそうだ。
 そしてこの計画は、元々はユニヴァーサルで進められてい
たものだが、いろいろな都合で放棄されたもので、それをル
ディーが引き継いで実現を目指すということだ。ただしユニ
ヴァーサルは権利の一部を残していて、アメリカ国内の配給
権は同社が優先権を持っているようだ。
 因に、ミリウスが執筆した元の脚本の題名は、“Wanted:
Dead or Alive”と付けられていたもの(ハードそうだ)だ
が、この題名は故スティーヴ・マックィーン主演の往年のテ
レビシリーズ(拳銃無宿)と同じなので変更が検討されてお
り、そのため現在は題名未定ということだ。
        *         *
 “The Passion of the Christ”(パッション)で昨年度
全米興行成績で第3位を記録、全世界では6億ドルを稼ぎ出
したメル・ギブスンが再び監督する計画で、“Apocalypto”
という作品を今年10月にメキシコで撮影開始、2006年夏に公
開することが発表された。
 そしてこの製作では、『パッション』とほぼ同額(2500万
ドル)と言われる経費は全てギブスン主宰のIconが用意し、
完成された作品の配給権のみをオークションに掛けて争奪戦
が行われたもので、アメリカ国内はディズニーが権利を獲得
したようだ。因に、製作は全部自前で配給権のみ契約すると
いう方式は、過去にはジョージ・ルーカスが“Star Wars”
の前日譚シリーズで行っているだけのものだそうだ。
 なお、争奪戦には他に、フォックス、ワーナー、パラマウ
ントなどが参加した模様で、実際には公開時に各社が行う宣
伝プロモーションの費用などで争われたようだ。またフォッ
クスとワーナーは、さらにギブスンの出演契約なども求めた
ようだが、資金の潤沢なギブスンはそれを排し、『身代金』
や『サイン』で組んだことのあるディック・クックが代表を
務めるディズニー社との間で契約を結んだものだ。
 ということで、来年の夏にはギブスンの新作が全米公開さ
れることになった訳だが、この作品、事前の発表では古代文
明を背景にしたものということで、恐らくは紀元前の古代文
明を描いた作品だろうと言われていた。因に、題名はギリシ
ャ語で、「ベールを取る(unveiling)」または「新たな始
まり(new beginning)」という意味なのだそうだ。 
 ところが実際は、500年前の中米マヤ文明を背景にしたも
ので、しかもギブスンが執筆した脚本の始めには、「以下の
台詞は英語では話されない」と記されている。実は『パッシ
ョン』も、字幕では判らないが古代アラム語の台詞だったも
ので、このやり方はその踏襲ということになるが、それにし
ても古代マヤ語とは…。この言語自体は現代のインディオに
も引き継がれているとは言うものの、この古代の言語はまだ
完全には解読されていなかったような気もするのだが。
 守秘契約が結ばれているということで、作品の具体的な内
容等は一切不明だが、先のクックの発言では、「最近読んだ
脚本の中では、最もオリジナリティに溢れたユニークな内容
の1本で、夏シーズンのスケジュールに入れるのにピッタリ
の作品」ということだ。いずれにしても、マヤ文明を扱った
作品は他にもいろいろ企画されているようだが、それらに先
鞭を付ける作品ということにもなりそうだ。
 因に、ディズニーの来年夏の公開作品では、“Pirates of
the Caribbean”の続編がすでに決定しているものだが、本
作ではそれとは時期をずらした公開が考えられており、実は
M・ナイト・シャマラン監督が『シックス・センス』以来、
初めてディズニーを離れて、ワーナーで監督した“Lady in
the Water”にぶつけることも狙っているようだ。
        *         *
 ブライアン・シンガーの後を継いで“X-Men 3”を撮り始
めたばかりのブレット・ラトナー監督の次回作として、エデ
ィ・マーフィ、クリス・ロック共演による題名未定の盗賊も
ののコメディ作品が、イマジンで計画されている。
 この計画は、イマジンの主宰者で1996年にマーフィ主演の
“The Nutty Professer”(ナッティ・プロフェッサー)な
どを製作したブライアン・グレイザーが、マーフィと話し合
いを持った中から生まれたもので、労働者階級の主人公2人
が完璧な泥棒計画を思いつくというお話、だたしコメディで
演じられるというものだ。そしてこの計画が、話し合いの直
後にロックに伝えられて共演が実現し、さらにマーフィとロ
ックの希望でラトナーの招請が決まったということだ。
 なお、脚本はユニヴァーサルで“Accepted”などのコメデ
ィを手掛けているアダム・クーパーとビル・コラッジのコン
ビに交渉中で、こちらも決まれば、ラトナーが“X-Men 3”
の撮影中に完成させるとしている。
 ラトナーは、2001年の“Rush Hour 2”の後は、2002年の
ハンニバル・レクターが主人公の“Red Dragon”に続いて、
現在はアクション作品の“X-Men 3”と、ちょっと彼本来の
イメージとは違う作品が続いている感じだ。しかし今回の計
画が実現すると、ラトナーには久しぶりのバディ(2人組)
コメディとなりそうで、もちろんマーフィは、この路線を狙
って今回の起用を希望した訳だが、この起用にはマーフィ以
上にファンの期待も高まりそうだ。
        *         *
 またまたシリーズものの計画で、イギリスの作家マーク・
バーネルが1999年から発表している“The Ryythm Section”
というシリーズの映画化がニューラインで進められ、その脚
色に原作者のバーネル自身の起用が発表された。
 この原作は、全6作になる計画のシリーズで、その第4巻
が今年の秋に発行される予定ということだが、内容は、女性
暗殺者ステファニー・パトリックを主人公にした女性版ジェ
イソン・ボーンのようなシリーズと紹介されている。また、
今回映画化が進められている第1巻では、主人公の両親と弟
を巻き込んだ航空機事故の謎を解き明かして行くというもの
で、この時点での彼女の立場がどのようなものか不明だが、
かなり陰謀の匂いがするシリーズの開幕のようだ。
 そしてこの脚色を、原作者自身が担当することになってい
るが、この点についてニューラインの首脳は、「単にシリー
ズの立上げというだけでなく、マーク・バーネルという新た
な才能を見つけだしたことに興奮する。彼はこの脚色を通じ
て、さらに別の普通でない何かを付け加えてくれるだろう」
と彼の才能を評価している。
 因に、ジェイソン・ボーンの原作者ロバート・ラドラムは
元ハリウッドの脚本家で、そこからベストセラー作家になっ
たものだが、今回のケースはそれとは全く逆に、作家から優
秀な脚本家の誕生が期待されているようだ。まだ監督やキャ
スティングも未発表の作品だが、これからの進展を見ていき
たい。
        *         *
 お次もシリーズで、6月15日付の第89回で紹介した“The
Gathering”などの原作者アンソニー・ホロウィッツの作品
“Stormbreaker”の映画化が7月上旬に開始されている。 
 この作品は、14歳の孤児の少年が、彼の守護者でもあった
叔父の謎の死によって、その叔父が英国情報部MI6の協力
者であったことを知り、彼自身もMI6にリクルートされて
活躍を始めるというティーンスパイもの。“Stormbreaker”
はその第1巻で、全6巻のシリーズで発表されている作品と
いうことだ。
 そして今回の映画化に当っては、マン島のフィルムコミッ
ションとイギリスの映画基金が共同で製作費を拠出すること
になっていたものだが、これに加えて“The Gathering”も
配給するウェインスタインCo.が北米配給権を契約し、この
時点で相当額の資金が集められたものだ。
 それで、この資金に誘われた訳でもないのだろうが、この
撮影には、ソフィー・オコネド、アリシア・シルヴァストー
ン、ミッキー・ローク、アンディ・サーキスらのキャスティ
ングが集結し、さらにユアン・マクレガーもカメオ出演する
ことになっている。
 なお主人公のアレックス・ライダーに扮するのは、イギリ
スのティーンスターのアレックス・ペティファー。監督は、
ジョフリー・サックス。因にロークが今回の作品の敵役で、
サーキスはその子分だそうだ。
 イギリス映画お得意のスパイシリーズとなりそうだが、首
尾よくシリーズ化に向かうのだろうか。
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 続いてはゲームの映画化の情報で、昨年8月15日付の第69
回で“BloodRayne”の映画化を紹介したウーワ・ボール監督
が、今度は“Dungeon Siege”というヴィデオゲームの映画
化を、カナダのヴァンクーヴァで開始している。
 この作品は、題名だけで内容は判りそうな感じだが、ジャ
ンルはsword-and-sorceryだそうで、ゲームによくあるパタ
ーンの作品と言えそうだ。
 ところがこの映画化に、『トランスポーター』のジェイソ
ン・ステイザムを始め、『ヘル・ボーイ』のロン・パールマ
ン、『スクービー・ドゥー』のマシュー・リラード、『ロー
ド・オブ・ザ・リング』のジョン・リス=デイヴィス、『ア
ドルフの画集』のリリー・ソビエスキー、『T3』のクリス
ティーナ・ロケン、そしてバート・レイノルズという錚々た
る顔ぶれが集結し、その後も続々とキャスティングが発表さ
れている。
 といっても、まあトップスターという顔ぶれではない訳だ
が、それにしてもジャンルファンにはたまらない名前が並ん
でいるという感じで、これはちょっと面白くなりそうだ。た
だし、これだけの人数の配役で、それぞれにちゃんと出番が
あるのかどうかも心配になりそうだが、多分いろいろな仕掛
けはしてあるのだろう。
 この手の情報を扱っていると、日本で公開されない作品も
数多くあるものだが、この監督の作品ぐらいは何とか日本で
も公開の機会を得てほしいものだ。
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 もう1本ゲームの情報で、ソニー・コンピュータ・エンタ
ーテインメントが今年3月に発表した“God of War”という
ヴィデオゲームの映画化権を、ユニヴァーサルが獲得したこ
とが発表された。
 このゲームは、ギリシャ神話をベースにしたもので、戦士
クラトスがメデューサやサイクロプス、ヒドラなどの怪物と
戦う姿を追ったもので、プレイヤーはクラトスを指示してパ
ンドラの箱を見つけ出し、最後は戦いの神アレスに決戦を挑
むということになるようだ。
 そしてこの映画化権を、『スクービー・ドゥー』や『バッ
トマン・ビギンズ』などの製作を手掛けたモザイク・メディ
アが獲得し、ユニヴァーサルでの製作が契約されたものだ。
 なお、モザイクの代表者チャールズ・ローヴェンは、「3
月に初めてゲームをして以来、このゲームの物語性は、大作
映画として製作するに充分な可能性を持つと確信していた」
ということで、脚本家などはこれから選考されるようだが、
過去に同社が手掛けた作品から見ると、相当の規模の作品が
期待できそうだ。
 それにしても、なぜソニー・ピクチャーズ製作でないのか
は、ちょっと気になるところだ。
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 久々にアイヴァン・ライトマン監督の情報で、多分2001年
の“Evolution”(エボリューション)以来の新作の予定が
発表された。
 この作品は“Super-Ex”と題されているもので、普通の男
性が女性に恋をするのだが、その女性は実はスーパーヒュー
マンで、その事実を知ったとき、彼には悪夢としか言いよう
のない災難が降りかかってくるというもの。まあ、基本的な
設定は、『奥様は魔女』も似たようなものだが、これがライ
トマンの作品だと、災難は本当にとんでもないことになりそ
うだ。脚本は『シンプソンズ』のドン・ペイネ。
 そしてこの計画で、主演の男性役はルーク・ウィルスンが
かなり早くから決まっていたものだが、その相手のスーパー
ヒューマンの女性役に、『キル・ビル』のユマ・サーマンの
出演が発表された。
 サーマンは、『キル・ビル』で復活の後は、“Be Cool”
と、メリル・ストリープ共演のコメディ作品の“Prime”、
さらにニコール・キッドマンの代役で出演したブロードウェ
イ・ミュージカルの映画化“The Producers”が12月21日に
全米公開の予定になっているが、まさにスーパーヒューマン
ばりの活躍という感じだ。
 本作は、秋にニューヨークで撮影の予定になっている。
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 後は続報をまとめておこう。
 7月18日に撮影が開始された“Mission: Impossible 3”
で、11月に中国の上海で撮影を行うことが発表され、映画全
体のクライマックスが当地で撮影されることになった。具体
的な内容は例によって厳重に秘密にされているが、この撮影
のために1000万ドルの予算が組まれ、またアジア系アメリカ
人女優のマギーQがキャストに加わっているということだ。
この製作では、当初はベルリンで重要なシーンの撮影が予定
されていたものだが、ベルリン市側の撮影許可が降りず、そ
れも撮影遅延の理由とされていた。それに替っての上海市と
いうことになりそうだが、噂ではヘリコプター撮影も動員さ
れる大掛かりなアクションが展開されることになりそうだ。
 もう一つ、2001年12月1日付の第4回などで紹介した岩明
均原作『寄生獣』(英名Parasyte)の映画化で、監督に清水
崇の起用が発表された。清水監督は“The Grudge”に続いて
その続編への起用も予定されているが、本作は実写とCGI
の合成も想定されるエイリアンものの大掛かりな作品で、ど
こまで手腕が発揮できることか。なお脚本は“Aeon Flux”
などのフィル・ヘイとマット・マンフレディによるものが用
意されているが、監督の許でさらにリライトが行われるとい
うことだ。製作はニューライン。


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井口健二