井口健二のOn the Production
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2005年02月28日(月) 最後の恋のはじめ方、フィーメイル、コンスタンティン、ZOO、レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語、ブレイド3、帰郷

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『最後の恋のはじめ方』“Hitch”            
ウィル・スミス主演のロマンティック・コメディ。    
スミスというと、『バッド・ボーイズ』から『アイ,ロボッ
ト』までアクションスターの印象が強いが、元々はグラミー
賞も受賞したラップ歌手でコメディのセンスも良い。従って
そのセンスの活きた『ID4』や『MIB』の人気が高いの
は当然のところだろう。                
しかしロマンティック・コメディという形で主演するのは、
意外と初めてのようだ。                
そのスミスが演じる主人公のヒッチは、他人の恋を成就させ
るデートドクター。口コミで営業する彼は、顧客の一途な恋
心を巧みな演出で相手の女性に伝え、百発百中で恋を成就さ
せてきた。そして今回も、セレブな女性に恋心を抱く証券マ
ンの恋の演出を始めたが…               
一方、タブロイド紙記者のサラは、セレブ達の恋のスキャン
ダルを追う毎日だったが、自分自身の恋にはあきらめの気持
ちが日々増していた。ところが酒場で偶然ヒッチと出会い、
やがてゴシップに絡んで名前の出た彼に会いに行く。彼の本
当の仕事は知らないままに…              
後の話はご想像に任せるが、物語の展開はともかく、特に前
半はヒッチの繰り出す恋を成就させるための手練手管が笑わ
せてくれる。相手の趣味や興味を調べ上げ、それに合わせて
偶然を装った演出を仕掛けるのだが、そのエピソードの積み
上げ方は見事なものだ。                
ただ物語の全体では、ヒッチとサラの恋に至る過程が、ちょ
っとピンと来ない。多分こちらは一目惚れということになる
のだろうが、その辺をもう少し明確にするエピソードが欲し
かった感じもした。                  
ロマンティック・コメディというのはアメリカではかなりの
確率で大ヒットが生まれるが、日本では文化の違いなどでど
うもピンと来ないことが多い。特にアメリカ国内での南北問
題や人種問題などが根底にあると、違和感が大きくなる。 
しかしこの作品ではそういった点は問題なく、どちらかとい
うとヒッチの繰り出す手練手管を見せることが主眼の映画だ
し、それは馬鹿馬鹿しいところも多々あるけれど、判りやす
くて面白い作品だった。                
共演のサラ役は、『レジェンド・オブ・メキシコ』などのエ
ヴァ・メンデス。監督は『メラニーは行く』などのアンディ
・テナント。デートの背景として、ニューヨークの名所旧跡
なども次々に登場し、観光気分にもなれて、気楽に楽しめる
娯楽作というところだ。                
                           
『フィーメイル』                   
姫野カオルコ、室井佑月、唯川恵、乃南アサ、小池真理子と
いう今を代表する女流作家たちが、それぞれ映画化を前提と
して書き下ろしたエロスをテーマにした原作を、篠原哲雄、
廣木隆一、松尾スズキ、西川美和、塚本晋也の監督で映像化
したオムニバス作品。                 
僕は、日本映画は基本的にインディーズのものしか見ていな
いが、偶然にも、『深呼吸の必要』『ヴァイブレータ』『恋
の門』『六月の蛇』と、本作が2作目の西川監督を除く各監
督の近作を見ており、その意味でも興味深い作品だった。ま
た試写会では、松尾監督を除く4氏の舞台挨拶もあり、意外
と饒舌だったりシャイだったりと、監督の人となりを見られ
たのも収穫だった。                  
それで内容は、短編映画なのでストーリーを書くとネタばれ
してしまうことになるが、姫野=篠原作品は、地元を離れた
女性が里帰りで過去を振り返るお話。室井=廣木作品は、男
運のない3人の女性の話。唯川=松尾作品は、婚期を逃した
女性がふと手に入れた神秘の香炉を巡るファンタスティック
な物語。乃南=西川作品は、小学生男子の性の芽生えの話。
小池=塚本作品は、ちょっと意味ありげな男と女のお話とな
っている。                      
この中では、唯川=松尾の作品が自分のテリトリーに一番近
いし、その意味で興味もひかれた。           
そこでこの作品を中心に書くことにするが、まず松尾監督は
前作『恋の門』でも見事に無邪気な演出を見せてくれて感心
したものだ。その演出ぶりは今回も健在で、恐らく、既成の
監督ではここまではできないだろうという演出を見事にやっ
てくれている。                    
お話は、唯川の書いた通りのものだとすると、今回のテーマ
を離れても成立するものとも思えるが、逆に松尾監督は、こ
れをエロスというよりポルノに近い演出で成立させてしまっ
た。それを意図したかどうかは判らないが、これはちょっと
凄い。                        
それにしても主演の高岡早紀は、本当にここまでやっちゃて
良いのかなあ、という感じの熱演。本作のR−18指定は、こ
の一編だけでなったのではないかと思うほどだ。テーマが女
性の妄想だから内容も凄いし、結末もいろいろ想像させる面
白さがあった。                    
他の作品も、少なくとも4人の男性監督の作品は、それぞれ
個性が出ていて面白く見られた。一方、西川監督については
本来の作風は判らないが、本作は女性らしい素敵な感性の作
品として見られた。                  
母体となっているのは、Jam-Filmsという短編映画のシリー
ズ企画で、これは第1作だけ以前に見ているが、それに比べ
ると、本作は中心になるテーマがあるせいか纏まりも良かっ
たし、各編の水準も高く感じられた。こういう企画は今後も
続けて行って欲しいものだ。              
                           
『コンスタンティン』“Constantin”          
DCコミックス刊行のグラフィックノヴェルを原作として、
キアヌ・リーヴスの主演で映画化したアクション作品。  
現世は地獄と天国の境界に位置している。しかし天国の住人
は現世に入ることができず、また地獄の住人も現世には入れ
ない。地獄、天国から現世に入ってこれるのは、ハーフ・ブ
リードだけだ。ところが、そんな現世への地獄からの干渉が
頻繁になり始める。                  
主人公は悪魔を見分ける能力を持ち、その宿命から逃れよう
とたった2分間だけ成功した自殺のために天国へ行くことを
拒否されている男。しかし彼は、同時に見てしまった地獄の
姿に恐怖し、天国へ切符を得るために、神の命じるままに、
地獄からの侵入者を元の場所へ送り戻す任務に着く。   
そんな彼は、優秀な悪魔払い師として神父からの信頼も厚か
ったが、頻繁な喫煙のために肺ガンを患い、余命1年と診断
されていた。そんな彼が、神の目に留まる最後のチャンスを
得るために、地獄からの最大の難敵と戦うことになる。  
近着の海外ニュースによると、ローマ大学に悪魔払いの講座
ができたそうだ。同じ記事では、年間20件程の悪魔払いが現
実に行われているという。それでなくても、現世が地獄の干
渉を受けているという設定は、今の世の中を見ていると妙に
説得力があるものだ。                 
そんな設定の物語だが、現世と地獄を行き来するリーヴス演
じる主人公には、どうしても『マトリックス』のネオのイメ
ージがつきまとう。しかしこの作品は、ある意味でそれも利
用して作られているという感じもするものだ。      
そして本作では、地獄の描写から現世に現れる地獄の使者た
ちの姿までが、満載のVFXで見事に描き出される。その映
像にリーヴスの姿がよく似合っていた。『マトリックス』の
評価は、最後の最後で大幅に下落したと思うが、リーヴスに
はその失地回復の意志も感じられた。          
リーヴス自身は、別段このようなVFXに頼る作品に出続け
る必要はないと思うのだが、その彼が1年足らずで再びこの
ような作品に挑戦してくれた心意気にも感謝をしたい。  
ただ、映画全体が余りに暗いのは気になる。テーマがテーマ
だから仕方ない面はあるが、ワーナーの最近の作品は、『キ
ャットウーマン』にしてもちょっと暗くしすぎている感じが
した。ただし、これは『バットマン』復活への布石と考えれ
ば良いのかもしれない。それなら、次は『スーパーマン』だ
から、それまでには明るくなってくれると思いたい。   
なお、「ハーフ・ブリード」という言葉が、字幕にも片仮名
でそのまま出てくる。一応、日本語の訳語もある言葉だが、
映画では片仮名のままで定着させたい意向らしい。意味が判
った方が、映画も理解しやすいと思うのだが。      
                           
『ZOO』                      
乙一作の同名の短編集から、新鋭監督やCM作家、CGアニ
メーターらが競作したオムニバス作品。         
作品としては、『カザリとヨーコ』『SEVEN ROOMS』『陽だ
まりの詩』『SO-far』『ZOO』の5作が映画化され、前後の
2作ずつが実写、真中の作品がCGアニメーションによる映
像化となっている。                  
内容はそれぞれ、一方が母親に愛され、他方が疎まれている
双子の姉妹の話。7つ並ぶ部屋に閉じ込められ、順番に殺さ
れるのを待つ女性たちの物語。製作者を埋葬するために作ら
れた少女ロボットの話。母親と父親が互いの存在を否定する
家庭で暮らす少年の話。廃園の動物園を訪れたことから始ま
る男女の奇妙な関係を描いたお話、というものだ。    
僕は原作を読んではいないが、特に前半の3作品、CGアニ
メーションまでの作品の感性には心地よいものを感じた。こ
れに対して、後半の2作はちょっと在り来りな感じがした。
これらを不条理劇として面白く感じる人はいるのかも知れな
いが、僕には今更の感じがしたものだ。         
それに比べて前半の3作には、それぞれに物語を伝えようと
する意欲が感じられた。短編映画というのは、どうしても語
り口が舌足らずになりがちだが、この3作はそれを見事に伝
えている。その意味で、僕はこの前半の3作を好ましく思う
ものだ。                       
また、前半の3作がそれぞれ物語として登場キャラクターに
対する愛情が感じられるのに対して、後半の2作にそれが感
じられないことにも違和感を持った。もっとも、これは最近
の一般的な風潮のようにも感じられるものだが。     
                           
『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』     
  “Lemony Snicket's A Series of Unfortunate Events”
原作はすでに11巻刊行され、その全巻が児童書の全米ベスト
セラーリストに登場したという人気シリーズからの映画化。
題名通り、主人公の子供たちは次々に不孝の奈落に突き落と
され、それを克服する。その繰り返しの物語だが、この不孝
が手を替え品を替えて本当にシリーズで襲いかかってくると
共に、それを子供たちが知恵と勇気で見事に克服するのが見
所になっている。                   
そして、その不幸の元凶となるのが、ジム・キャリー扮する
オラフ伯爵。これがまた性懲りもなくいろいろな手を打って
くるのだが、その手立てというのが結構理にかなっていて、
子供だましでないところが凄い。            
もちろん、特異なシチュエーションが前提になっている物語
ではあるが、それぞれがそれなりに説得力のあるものになっ
ているのだ。この辺の手抜きのないところが、原作の人気の
理由なのだろうし、映画はそれをちゃんと映像化している感
じがした。                      
一方、その不幸に襲われる子供たちを演じるのが、『ゴース
トシップ』で少女の霊を演じたエミリー・ブラウニングと、
『ロード・トゥ・パーディション』でトム・ハンクスの息子
役のリアム・エイケン。さらに2002年生まれで、1歳前から
ドラマに出演していたというカラ&シェルビー・ホフマン。
この子役たちが本当にうまい。             
しかもこれに、メリル・ストリープや、ジュード・ロウ(ス
ニケット=ナレーター役)らが加わって、映画を一層盛り上
げているというものだ。                
『ハリー・ポッター』の成功以後、児童書の映画化の計画は
目白押しだが、なかなか実現には至っていないのが実情だ。
その理由は、物語に盛られた豊かなイマジネーションを映像
化すること自体の困難さによるところが大きい。     
実際『ハリ・ポタ』などは、物語をそれなりに追えばいいも
のだし、映像的にもVFXを多用する必要はあるが、それも
判りやすいものだった。ところが本作のような作品では、描
かれているものを映像として納得できるものにすること自体
が難しい。                      
その点でこの映画化は、ブラッド・シルバーリング監督以下
のスタッフが実に良い仕事をしている。次々登場する不思議
な風景は、原作に挿絵が付いていたらきっとこうなのだろう
と思わせるものだし、そこで繰り広げられるアクションも見
事に演出されていた。                 
                           
『ブレイド3』“Blade Trinity”            
ウェズリー・スナイプスの主演で、ヴァンパイアキラーの主
人公の活躍を描いたシリーズの第3弾。         
ブレイドというのは、元々は1972年にマーヴェルコミックス
から刊行された“The Tomb of Dracula”の中に登場したマ
イナーなキャラクターだったということだが、1998年にスナ
イプスの主演で映画化された第1作は、全米で7000万ドルの
スマッシュヒットを記録。そして2002年に続編が製作され、
今回その第3弾が作られたものだ。           
物語的には、第1作では全能の力を得ようとした吸血鬼のリ
ーダーと闘い。第2作は死神族と名告る吸血鬼集団と闘った
ものだったが、本作第3作では、シリア砂漠での太古の眠り
から甦った吸血鬼の始祖との闘いが描かれる。      
この吸血鬼の始祖というのが、純血であるが故に現代の生き
残りの吸血鬼より強大な力を持ち、吸血鬼たちはその力を自
らのものにしようとしている。それを阻止するのがブレイド
の使命だが、吸血鬼たちも有名になったブレイドにいろいろ
な罠を仕掛けてくる。                 
そしてブレイドはその罠に填って、ついにはFBIも敵に廻
すことになるのだが…今回はブレイド側にも強力な助っ人が
現れる。                       
というような展開だが、基本的にこのシリーズは、格闘技で
黒帯5段の実力を持つというスナイプスのアクションを描く
のが目的で、さらにそれにVFXが華麗な彩りを添えるとい
うのが見所の作品だ。従って物語の粗さなどは、多少は目を
つぶることにしよう。                 
なお設定としては、吸血鬼は殺すと灰となって燃え尽き死体
が残らない。従ってブレイドは、吸血鬼を何人殺しても罪に
問えないというもので、これはテレビの『インベーダー』で
も使われた設定だが、その辺はうまく再利用された感じだ。
なお本作は、本シリーズ化の一翼を担った脚本家のデイヴィ
ッド・S・ゴイヤーが監督も担当したもので、これで3部作
の完結というふれこみになっている。          
                           
『帰郷』                       
1998年の『楽園』という作品で芸術祭賞なども受賞している
萩生田宏治監督の作品。                
都会で暮らしている30代半ばの男が、独り身だった母親の再
婚の祝いに呼ばれて帰郷することになるが、そこには初恋や
初体験などの苦い思い出が渦巻いている。しかも初体験の相
手は、バツ一になってその町で暮らしており、彼女は女手一
つで娘を育てていた。                 
そして再会した2人は再び関係を持ち、翌日男は誘われるま
まに彼女の家を訪ねるが、そこには娘だけがいて、母親は蒸
発していた。こうして主人公は、幼い子供と共に母親の行方
を探すことになるのだが…               
別段、自分にこのような体験があるわけではないが、近いと
はいえ故郷を離れて東京で暮らしている身には、主人公の心
情はそれなりに理解できる。故郷で旧交を温めるシーンでの
疎外感なども、うまく描かれていた感じだ。       
ただし本作は、そこから発展して自分探しの旅になって行く
ものだが、その辺の気持ちも判る物語だった。      
ただ撮影のテクニックで、意図的かも知れないが、夜間シー
ンでのハレーションが煩わしく、少し疑問に感じた。充分な
ライティングのできない撮影での難しさはあるかも知れない
が、もう少しなんとかしてもらいたかったものだ。    
それから物語では、主人公が翌日出勤と言い続けながら、出
勤できないとなってからも、その連絡を取るシーンのないこ
とが気になった。まあ些細なことだが、上映時間82分の作品
なのだから、もう1分ぐらい使ってそのシーンを描いたほう
が、安心できると言うものだ。             
なお出演者の中で、娘役の守山玲愛がなかなか良かった。  



2005年02月15日(火) 第81回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回はこの話題から。
 ピアーズ・ブロスナンの降板宣言などで製作の遅れている
007シリーズ第21作について、この新作の題名を“Casino
Royale”とすることが、映画の配給元のMGMから正式に発
表された。
 この題名については、昨年10月1日付の第72回でも触れた
が、本来故イアン・フレミングが執筆した原作シリーズには
長編12作と短編9作があり、過去の映画化では長編タイトル
の内11作分がすでに使用されていた。しかし、1953年に発表
された原作第1作の“Casino Royale”の題名だけは、正式
のシリーズの中では使用されていなかったものだ。
 と言うのも、この第1作は、発表の翌年にアメリカCBS
テレビ放送の“Climax”というアンソロジーシリーズの1篇
として最初の映像化が行われており、この際に発生した映像
化権が、正式のシリーズを手掛けるブロッコッリー一族とは
別の製作者の手に渡っていた。
 そこでこの製作者は、当初は正当な映画化を考えた形跡も
あるようだが、出演を依頼したショーン・コネリーが断った
ためにパロディ化を思いつき、主人公の一度引退した諜報員
サー・ジェームズ・ボンド役にデヴィッド・ニーヴン、敵役
にオースン・ウェルズ、ウッディ・アレンを招き、監督はジ
ョン・ヒューストンら6人、さらに脚本には、クレジットは
されていないが、ベン・ヘクト、テリー・サザーン、ピータ
ー・セラーズ、ビリー・ワイルダー、そしてアレンも参加し
たという超豪華な布陣で映画化を敢行。その作品『カジノ・
ロワイヤル』が1967年、本家では『007は二度死ぬ』が公
開された同じ年に、コロムビアから公開されたものだ。
 ただし、この映画化権はその後に買い戻されたという情報
もあり、題名の使用は可能だったということだが、敢えて使
用は見送られていたようだ。この点の前回の報告は正確では
なかった。ところが、前回報告したソニーによるMGM買収
によって、MGMとコロンビアは共にソニー傘下の会社とな
り、その記念という訳でもないのだろうが、次回作がこの題
名で製作されることになったものだ。
 因に、映画化の題名は、第11作までは上述のように原作の
長編タイトルによっているが、第12作から第15作までは短編
のタイトルに基づいている。そして、その後はオリジナルの
タイトルが使用されてきたものだが、実は第16作の『消され
たライセンス』の後に、短編のタイトルから“The Property
of a Lady”を使用する計画もあったようだ。しかし、当時
主演のティモシー・ダルトンの出演拒否などのゴタゴタもあ
って製作が見送られ、ここでシリーズには6年間の中断が生
じることとなった。
 そして今回、第21作の監督には、その6年間の中断後の最
初の作品、1995年の『ゴールデンアイ』を手掛けたマーティ
ン・キャムベルの再登板がすでに発表されている。キャムベ
ルは、007以後では、1998年の『マスク・オブ・ゾロ』、
2000年の『バーティカル・リミット』、2003年には『すべて
は愛のために』などを監督し、現在は“Legend of Zorro”
を監督中だが、前回の登板はブロスナン=新ボンドの初登場
作品。今回もボンド役の交代が予定されるときには、好適と
考えられているようだ。
 新作の脚本は、ニール・パーヴィスとロバート・ウェイド
が担当し、キャムベルは近々彼らと共に詳細な内容の検討を
開始するとしている。なお、新作では“Casino Royale”の
タイトルは使用するものの、物語は第1作のものを映画化す
るということではなく、オリジナルな物語が展開されること
になる。そして製作される新作は、ソニー傘下のMGMから
2006年の公開が予定されている。
        *         *
 お次は、1987年度のアカデミー賞外国語映画部門にノミネ
ートされたノルウェー映画“Ofelas”(アメリカ公開題名は
Pathfinder)がハリウッドリメイクされることになり、その
監督に、昨年公開された『テキサス・チェーンソー』のリメ
イク版を担当したマーカス・ニスペルの起用が発表されてい
る。
 オリジナルは、古代ノルウェー民族が、外敵の侵略によっ
て戦いに明け暮れる日々を描いたものだったそうだが、リメ
イクでは1000年以上前の北欧ヴァイキングとアメリカ先住民
との交流が物語の中心になるということで。ヴァイキングの
一員として北米大陸に渡った少年が仲間に置き去りにされ、
アメリカ先住民に拾われて、白い肌で金髪を棚引かせる長身
のインディアンに成長して行く姿を描くものになるようだ。
 そしてこの脚本を、公開中のオリヴァ・ストーン監督版の
『アレキサンダー』や、ジェームズ・キャメロン監督の次回
作と言われる“Battle Angel”の脚色も手掛けているリータ
・カログリディスが担当することも発表されている。また、
多分主人公を助ける先住民の役で、渡辺謙にオファーを掛け
ているとの報告もあった。
 製作は、元ソニー・ピクチャーズ首脳のマイク・メダヴォ
イが率いるフェニックス。同社では、1950年度のオスカー作
品賞受賞作“All the King's Men”のリメイクを、スティー
ヴ・ザリアン監督、ショーン・ペン主演で、ソニー傘下のコ
ロンビアの配給で製作中だが、本作の配給に関しては未定と
いうことだ。
 因に、ニスペル監督の『テキサス…』は、全世界で1億ド
ル以上を稼ぎ出している。また監督の次回作には、パラマウ
ントから“Need”というサイコスリラーが予定されている。
        *         *
 ニコール・キッドマンに2003年度のオスカー主演賞をもた
らした『めぐりあう時間たち』の原作者マイクル・カニンハ
ムの未刊行の新作“Specimen Days”の映画化権が、前作の
映画化も手掛けた製作者スコット・ルーディンと契約され、
製作が進められることになった。
 因に前作は、作家ヴァージニア・ウルフの時代と50年代と
現代の時間が見事に交錯するものだったが、今回契約された
小説も、過去と現代と、そして未来が舞台となる三部作で構
成されたもので、19世紀のニューヨークに実在した詩人ウォ
ルト・ホイットマンを中心に、第1部では産業革命を背景に
した幽霊物語、第2部では現代の自爆テロリストの物語、そ
して第3部では150年後のニューヨークを訪れる地球外生物
の逃亡者たちの物語が展開するということだ。
 なお、ルーディンは、前作も今回の作品も個人の資金で契
約を結んでいるもので、前作は元々彼が本拠を置くパラマウ
ントで製作されたが、本作の製作会社は未定ということだ。
また原作は、今年の5月に初版50万部でアメリカの出版社か
ら刊行されることになっている。
        *         *
 マイクロソフト社のX-box用に開発され、2001年に発表さ
れた第1作は1280万本(総売り上げ6億ドル)のベストセラ
ーを記録したというヴィデオゲーム“Halo”を映画化する計
画が発表された。
 ゲームはマルチプレーヤーで行われるものだそうだが、基
本的な内容は、マスター・チーフと呼ばれる戦士が、エイリ
アンのグループと戦うというもの。その人気ぶりは、昨年発
表されたゲームの第2作が640万本(昨年度第2位)を売り
上げた他、インスパイアされた小説もすでに3作が発表され
ているそうだ。そして今回の発表では、この脚色を、レオナ
ルド・ディカプリオ主演で映画化された『ザ・ビーチ』の原
作者で、『28日後...』の脚本でも知られるアレックス・
ガーランドが、7桁($)の契約金で担当することが紹介さ
れている。
 なお、この脚本の契約はマイクロソフト社が直に行ったも
ので、今後は完成された脚本と映画化権をセットにして、製
作会社への売り込みを行う計画だそうだ。つまりマイクロソ
フト社としては、任天堂が権利を売り渡して話をめちゃくち
ゃにされた“Super Mario Bros”と、全部自前で製作して失
敗したスクエアの“Final Fantasy”の轍は踏みたくないと
いう意向だそうで、自分たちの満足のいく脚本を自前で完成
して、それからの映画化は製作会社に任せるという方針を取
ることにしたようだ。
 この方針を定めた裏には、“Final Fantasy”を手掛けた
当時のコロムビア首脳だった人物の陰が見えるとの情報もあ
るようだが、いずれにしても期待の作品が最高の条件で製作
されることを希望したい。ただし、原作となるゲームでは、
登場人物の性格付けなどはほとんど行われていないというこ
とで、ガーランドには大幅な自由が与えられる反面、それが
マイクロソフト社の意向に合うかどうか、かなり難しい挑戦
になるようだ。
 また、ガーランドの計画では、昨年12月1日付の第76回で
“Time Keeper”という作品を紹介しているが、その時は6
桁と言われた契約金が、今回は7桁に上がっているもので、
注目の脚本家になっているようだ。
        *         *
 角野栄子原作、宮崎駿監督で、1989年に製作された『魔女
の宅急便』の英語による映画化をディズニーが行うことにな
り、その脚色に、2002年に公開された『イノセント・ボーイ
ズ』などのジェフ・ストックウェルの起用が発表された。 
 この原作は、アニメ化された物語を第1話としてシリーズ
化がされており、昨年その原作シリーズの第1話が“Kiki's
Delivery Service”の題名で英訳出版された。そして今回
は、そのシリーズ全体を通した物語の映画化がディズニーで
進められるというものだ。
 因に、宮崎監督のアニメ版は、アメリカではキルスティン
・ダンストによるキキ役らの吹き替えによるDVDが1998年
にディズニーから発売されており、そのキャラクターなどの
マーチャンダイジングは、現在も世界中で力を発揮している
ということだ。
 また、今回の製作では、スコットランド出身のスーザン・
モンフォードと、彼女が最近チームを組んだ『リーグ・オブ
・レジェンド』などのドン・マーフィが権利を取得し、マー
フィの盟友マーク・ゴードンを加えた3人で当たることにな
っている。
        *         *
 昨年2月1日付第56回の最後で数行だけ紹介した“Blood
and Chocolate”の製作がようやく進むことになり、春から
の撮影に向けてドイツ出身のカッジャ・フォン=ガーネイア
監督の起用が発表された。
 この作品は、アネット・カーティス・クラウス原作のヤン
グアダルト小説を、『ザ・リング』のリメイクとその続編も
手掛けたアーレン・クルガーが脚色したもので、内容は、東
ヨーロッパを舞台に、自らの血の秘密を隠しながら生きてき
た16歳の狼人間の少女が、ふと出会ったアメリカ人の普通の
人間の少年を好きになったことから、少年への愛と家族の絆
との間で苦悩するという物語。
 実は昨年の紹介では、夏からの撮影が予定されていたもの
だったが、当初予定されていた東洋系の監督が降板し、後任
のユダヤ系の監督も撮影に漕ぎ着けられなかったということ
で、今回ドイツ人の監督がようやく決定したものだ。まあ、
舞台が東ヨーロッパで、原作者も脚本家もドイツ系の名前の
ようにも見受けられるし、これでドイツ人の監督なら丸く納
まりそうな感じだ。
 なお、フォン=ガーネイア監督は、アメリカではHBOで
放送された“Iron Jawed Angels”という作品で知られてい
るということだ。また、現在は同作を手掛けた製作者リディ
ア・ディール・ピルチャーと、脚本家サリー・ロビンスンが
再結集して、ピーター・ジャクスンが次回作に選んだことで
話題を呼んだ“The Lovely Bones”の原作者アリス・ホフマ
ンの別の作品“The Probable Future”の映画化も進めてい
るようだ。
 製作はMGMとレイクショアの共同で行われ、MGMから
は“The Brothers Grimm”を手掛けたダニエル・ボブカーが
製作者として参加。また、脚本家のクルガーは製作総指揮で
も名を連ねている。
        *         *
 2007年5月4日の全米公開が予定されている“Spider-Man
3”に関して、その脚本に第2作の脚本を担当したアルヴィ
ン・サージェントの参加が発表された。
 この脚本については、監督のサム・ライミが、実兄のイヴ
ァンと共に執筆していることが公表されていたが、実は第1
作もクレジット上はデイヴィッド・コープになっているが、
最終的な脚本はサージェントが仕上げたものだそうで、前2
作を通じての迫力ある展開は、どちらもサージェントの腕に
よるものだったようだ。
 そのサージェントが、今回も参加することになったものだ
が、実は、ライミ兄弟はすでにストーリーを完成させている
と言うことで、サージェントの参加は、そこから映像化に向
けての最後の詰めを行うためのようだ。しかしこの詰めのた
めにコロムビアでは7桁($)の契約金を支払うというのだ
から、彼の手腕への期待の大きさが判るというものだ。
 なお、サージェントは『ルート66』などのテレビの脚本
でキャリアをスタートさせ、その後に映画界に進出。すでに
1977年の『ジュリア』と1980年の『普通の人々』で2度のオ
スカーを受賞、また1973年の『ペーパー・ムーン』でノミネ
ートを得ている大ベテランだ。今年4月に74歳になるという
ことだが、それで“Spider-Man”の脚本を書けるのだから、
本当に素晴らしい才能と言うところだろう。
 因に、同様のシリーズと脚本家の関わりでは、“Mission:
Impossible”シリーズの全作を、『チャイナタウン』でオ
スカー受賞のベテラン脚本家ロバート・タウンが見ているそ
うだ。
 また今回の情報で、Variety紙にはサージェントが第4作
のオプション契約も結んだと報じられていたが、以前に報告
したように現時点でそれは考えられない話で、他の情報誌な
どの引用では無視されたようだ。今回は“Specimen Days”
の記事でもテーマとなる詩人の名前が間違っていたし、ちょ
っと気を付けた方が良いようだ。
        *         *
 1982年にディズニーが映画化した史上初のサイバースペー
ス映画“Tron”(トロン)のリメイクが計画されている。
 オリジナルは、後に『風の惑星/スリップストリーム』な
どの作品も発表するスティーヴン・リスバーガーの脚本監督
で製作されたもので、電脳世界に入り込む技術を発明した主
人公が、誤ってコンピューター内に送り込まれ、管理ソフト
などと闘いながら脱出の道を探るというお話。コンピュータ
用語がアレンジされて別の意味で使われるなど、当時のコン
ピュータマニアにはそれなりに面白がられたようだが、物語
自体は単調で面白味に欠けるものだった。
 また、製作にはCGが使われたことになっているが、実際
はコンピュータで打ち出された幾何学的な線画に、台湾で着
色が行われており、基本的にはセルアニメーションにジェフ
・ブリッジス、デイヴィッド・ウォーナーらの俳優の演技を
合成しただけの作品だった。
 ただし前評判はかなり高くて、当時には珍しい日米同時公
開だったこともあり、雑誌記事の執筆などはかなり苦労した
ものだが、郊外の東映撮影所かどこかの保税上屋で通関前の
作品を、大蔵省の特別許可で見せてもらったものの、見終っ
て頭を抱えた記憶もある。
 そういう作品のリメイクだが、時代は変わって今はCGI
も当たり前の世の中だし、そんな今にどのような作品が再提
示されるかには、ちょっと興味を引かれるところだ。また映
像的にも、当時ののっぺりした壁ばかりの背景がどのように
進化するかにも興味が湧く。
 なお今回の報道は、このリメイクの脚本に、ブライアン・
クラグマン、リー・スタンタールという脚本家チームの起用
が決まったというもので、彼らはインターネットが発達した
現代に合った物語を展開したいと抱負を語っていたようだ。
因に、この脚本家チームは、『パッション』などのイコン社
の製作で、ギャヴィン・オコンナーが監督する歴史ドラマの
“Warrior”や、『イレイザー』のチャック・ラッセル監督
によるコミックスの映画化“Black Cat”などの脚本を手掛
けているそうだ。
        *         *
 『ライオンキング』の舞台で2度のトニー賞獲得の偉業を
引っ提げて映画界に進出し、1999年アンソニー・ホプキンス
主演の『タイタス』と、2002年サルマ・ハエック主演の『フ
リーダ』で見事な成功を納めたジュリー・タイマーが、再び
映画に挑む計画が発表された。
 今回の作品はミュージカルで、題名は“All You Need Is
Love”。言うまでもなくビートルズのヒット曲名をタイトル
としたものだが、内容は1960年代のロンドンを舞台に、幸せ
薄い恋人たちの姿を描くということだ。そしてこの物語を、
タイトル曲を始め18曲のビートルズの音楽が彩るとされてい
る。脚本は、『ザ・コミットメンツ』のディック・クレメン
トとイアン・ラ=フレネイスが担当。
 『タイタス』も、『フリーダ』も必ずしも明るい話ではな
かったし、今回も幸せ薄い(star-crossed)と最初から設定
されているものだが、これにビートルズの音楽で、しかもミ
ュージカルというのはちょっと不思議な感じだ。製作会社は
リヴォルーション。製作者はマット・グロスで、これに『メ
メント』や『オースティン・パワーズ』を手掛けたスザンナ
&ジェニファー・トッドのチームトッドが加わっている。
 撮影は今年の9月からで、公開は2006年秋の予定。
        *         *
 最後に短いニュースを2つ。
 まずはディズニーで“Navy Seals”と仮題の付けられた計
画が進められている。この題名、1990年にチャーリー・シー
ンが主演したアクション映画の“Navy SEALS”(ネイビー・
シールズ)と混同されそうだが、実は映画はseal(アシカ)
が登場するもので、アメリカ海軍がイルカやアシカなどの海
洋生物を訓練して、海上に不時着したパイロットの捜索や救
助をさせようという研究に基づくもの。元々は2つのアイデ
アを合体して1本の映画にしようというもののようだが、海
軍が背景の物語でも、ディズニーで動物がテーマならあまり
殺伐としたものにはならないだろう。但し、本作はまだ脚本
家も決まっておらず。実写でやるか、アニメーションにする
かも未定の計画だそうだ。
 若年向けファンタシー作家ダレン・シャンのベストセラー
小説“Cirque du Freak”を映画化する計画が、ユニヴァー
サルで進められている。原作はすでに10冊以上発行されてい
るシリーズのようだが、映画化はその最初の3冊に基づくも
の。そしてこの脚色に、『ROCK YOU!』のブライア
ン・ヘルゲランドが契約したことが報告された。なお、ユニ
ヴァーサルでは、最終的に3部作の映画になることを期待し
ているそうだ。



2005年02月14日(月) クローサー、アナコンダ2、コントロール、シャル・ウィ・ダンス?、さよならさよならハリウッド、オオカミの誘惑

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『クローサー』“Closer”               
『卒業』などの名匠マイク・ニコルズ監督が、ジュリア・ロ
バーツ、ジュード・ロウ、ナタリー・ポートマン、クライヴ
・オーエンを迎えて描いたパトリック・マーバー原作の舞台
劇の映画化。                     
ロンドンの街角で運命的に出会った4人の男女が、互いに愛
し合い、傷つけ合いながら相互の関係を作り、壊して行く姿
を描いたドラマ。すでにポートマンとオーエンはゴールデン
・グローブ賞の助演賞を受賞、アカデミー賞の候補にも挙げ
られている。                     
新聞の死亡記事担当記者のダン(ロウ)は、街角で交通事故
を目撃し、その被害者のアリス(ポートマン)を病院につれ
て行く。やがて小説家として作品を完成したダンは、その裏
表紙に載せる肖像写真を撮るためにアンナ(ロバーツ)のス
タジオを訪れる。                   
一方、インターネットのチャットルームで女性を演じていた
ダンはアンナと名乗り、相手の男ラリー(オーエン)を水族
館に誘い出すが、そこには写真家のアンナが訪れていた。こ
うして4人の関係がスタートする。           
この4人が、最初はダン+アリスとアンナ+ラリーの関係だ
が、互いに別のカップルが生まれ、それぞれが男女の深い関
係を持ち、それを告白して傷つけ合う。         
互いの間では普通に嘘もつくし、相手が別の相手と関係を結
ぶことも容認しているはずなのに、肝心の所で嘘がつけなく
なって、真実を語ることで相手を傷つけてしまう。そんな微
妙なドラマが共感を呼ぶ物語というところだ。      
以下ネタばれがありますのでご注意ください。      
ただ、僕は仕事柄、事前にいろいろな情報を持って試写を見
ることになったのだが、原作の舞台と映画では構成に大きな
違いがある。その最たるものは、原作では登場人物たちがあ
るきっかけで久しぶりに集まり、思い出話を語り合う設定に
なっていることだ。                  
このため物語は、全く脈絡もなく時間が飛ぶし、同じシーン
が別の角度から繰り返されたりもする。この構成が目新しく
面白いのだが、映画ではこの設定と言うかプロローグを大胆
にもカットしているために、最初はちょっと戸惑う感じにも
なってしまった。                   
と言っても本作では、原作者が映画化の台本も執筆している
のだから、観客としてはこの設定変更を認めるしかないのだ
が、これによって、最後のシーンの重要な示唆が見逃されて
しまう恐れがあるようにも感じた。

それはともかくとして、ポートマンのかなり際どい描写も含
めた体当たりの演技は、素晴らしいの一言。これなら以前に
アミダラへのオファーに悩んだという話も理解できる。上記
の受賞も頷けるし、このままオスカーも獲得するのではない
かという予感も生じた。                
                           
『アナコンダ2』                   
     “Anacondas: The Hunt for the Blood Orchid”
1997年に、ジェニファー・ロペスをブレイクさせた『アナコ
ンダ』の続編。と言っても、出演者も舞台も全く異なる作品
で、全く新しい設定の物語が展開される。        
新薬開発で鎬を削る医薬品業界。その一つの研究開発会社に
ある蘭の花が持ち込まれる。その花からは動物の細胞の再生
能力を活性化し、寿命を大幅に伸ばす成分が抽出される。し
かし、その研究開発を完成させるためにはさらに多くの花が
必要とされた。                    
ところが、その蘭の花が咲くのは7年に一度。しかも今回の
花が咲いている期間は、残り2週間。このため急遽、蘭の咲
くボルネオ島に研究者が向かうことになったが…現地は雨季
に入り、蘭の咲く上流に向かう川には濁流と世界最大のアナ
コンダが待ち受けていた。               
出演者には、今まで主に脇役を務めていた顔ぶれが集まり、
人気スターはいなくても手堅い演技を見せる。そして彼らを
まとめる監督は、『ホワイトハウスの陰謀』や『X−ファイ
ル』なども手掛けるドゥワイト・リトルで、これも手堅い。
つまりこういう手堅さが、映画全体の雰囲気をしっかりと保
たせるし、二番煎じの作品とは言っても、不足のない作品を
作り上げている。確かに俳優に華やかさが欠ける部分はある
が、逆にワニから蜘蛛からアナコンダまで、次々繰り出して
くる手際の良さは、まさにエンターテインメントと言う感じ
の作品だ。                      
衛星回線の電話が圏外になるというような、おやおやという
描写はあるけれど、全体的には悪くない感じだった。なおジ
ャングルシーンの撮影は、フィジー島で行われている。  
                           
『コントロール』“Control”              
『ハンニバル』のレイ・リオッタと、『スパイダーマン』の
ウィレム・デフォー。2人のハリウッドを代表する怪優が共
演した心理サスペンス。他に、『S.W.A.T.』のミシ
ェル・ロドリゲス、『クライング・ゲーム』のスティーヴ・
レイらが共演。                    
凶悪犯罪者の凶暴さを鎮め、善人に復帰させる新薬が開発さ
れ、死刑となったはずの殺人犯に投与される。そして法律上
は死者である男には薬の効果が存分に現れ、ついに一般社会
に出られるまでになるが…               
ところが男は監視の目をくぐって奇妙な行動を取り始める。
果たして新薬は効果を挙げているのか、それとも全ては男の
演技なのか、被験者と新薬を開発した研究者との心理戦が始
まる。                        
アメリカが舞台の作品ではあるのだけれど、実は撮影はブル
ガリアで行われていて、製作会社の最後にはGmbHと付いてい
る。と言うことで、いろいろ怪しげな作品なのだが、何と言
うか見ていて気持ちの良い、素敵と言うのも変だがそんな感
じの作品だった。                   
別段、リオッタとデフォーの演技が良いとも思えないし、特
にリオッタの大袈裟な表情、演技には、この人を持ち上げる
連中の気が知れないとも思うのだが…でも今回は、元々が夢
物語のようなお話の中で、それなりにはまっていたようにも
感じた。                       
それよりも、有りがちとは言えここに提示される物語の展開
のうまさと言うか、脚本家の心の中に有る心情への共感みた
いなものが、僕には心地よかったとも言える。特に、何度か
描写される回想シーンの最後の最後の場面に心を引かれた。
脚本は、『ヤング・スーパーマン』なども手掛けているトッ
ド・スラヴキン、ダーレン・スイマー。この名前は記憶に留
めて置きたい。                    
                           
『シャル・ウィ・ダンス?』“Shall We Dance”     
1996年の日本アカデミー賞で、全13部門を総嘗めにした周防
正行監督作品のハリウッド版リメイク。         
日本版では、役所広司、草刈民代、原日出子、竹中直人、渡
辺えり子という面々が演じた役を、リチャード・ギア、ジェ
ニファー・ロペス、スーザン・サランドン、スタンリー・ト
ゥッチ、リサ・アン・ウォルターらが演じる。      
『ザ・リング』の時もそうだったが、この作品も、主人公の
設定などはアメリカ的に直されているものの、主なエピソー
ドなどは、ほとんどが日本版をそのまま再現している。  
確かに、怪獣だけを借りて作った『Godzilla』など
とは違って、物語そのものがリメイクの対象だから、当然と
言えば当然ではあるが、ここまで日本版を尊重して忠実に作
られると、日本人としてはちょっとうれしくなるところだ。
日本版で徳井優が演じたような日本でしか通用しないキャラ
クターは、他のキャラクターに置き換えられてはいるが、展
開上で目立った違いと言ったら、これくらいしか思いつかな
かった。特に日本版の渡辺のキャラクターは、口調まで似せ
ているようにも思えた。                
物語は、日々の仕事に追われ、夢を持てなくなった中年の男
が、ふと目に留めたダンス教室に立ち寄ったことから生き甲
斐を見いだす。しかし、そこには後ろめたさもあり、またそ
れを秘密にしたことから家庭内に波風が立ち始める。   
先にも書いたように物語は日本版の通りだし、それ以上でも
以下でもないが、さすがダンスシーンなどは、元々基礎の入
った人たちが演じるから、日本版以上に見応えのあるシーン
に仕上がっていた。ただそれが良いかと言われると、ちょっ
と悩むところだ。                   
ただしロペスに関しては、ちょっと草刈を意識し過ぎたので
はないかという感じで、印象が薄い。もっとも、草刈は元々
がバレーダンサーで、社交ダンスの先生と言うのはちょっと
辛かったが、その点、ロペスのダンスシーンは見事に演出さ
れていたように見えた。                
なお、原題には「?」が付いておらず、疑問形なのに変に感
じたが、実は1937年製作で、フレッド・アステア、ジンジャ
ー・ロジャース主演の同名の作品があり、その時も「?」は
付されていなかったようだ。因みに、劇中ではアステアのダ
ンスシーンがショウウィンドウのテレビに映されていた。    
またエンドクレジットでは、楽曲‘Shall We Dance’の歌わ
れるミュージカル『王様と私』の作者、ロジャース&ハマー
スタインにも特別の謝辞が掲げられていた。             
                           
『さよならさよならハリウッド』“Hollywood Ending”  
2002年カンヌ映画祭のオープニングを飾ったウッディ・アレ
ン脚本、監督、主演の作品。              
今でも、アメリカでは毎年1作ずつの新作を発表しているア
レンだが、日本での公開は、2001年の『スコルピオンの恋ま
じない』以来、3年ぶりとなる。            
僕は、アレンの作品を脚本も手掛けた1965年の映画デビュー
作『何かいいことないか小猫チャン』の時から見ている。 
その後、72年の『ボギー!俺も男だ』で日本でも知られるよ
うになるが、この時はすでに公開されていた69年の監督デビ
ュー作『泥棒野郎』を探して、場末の3番館まで見に行った
こともある。そして73年の『スリーパー』は試写で見て、記
事も書いたものだ。                  
しかし、77年にアカデミー賞を受賞した『アニー・ホール』
以後は、都会派コメディなどという宣伝文句が性に合わず、
83年の『カメレオンマン』、85年の『カイロの紫のバラ』、
87年の『ラジオデイズ』などのファンタシー系の作品を除い
ては、あまり見なくなっていた。            
つまり僕は、アレンを、元々ちょっと泥くさいコメディアン
として認知していたし、その意味で都会派コメディなどと言
うものに食指が動かなかったものだ。          
それが再び彼の作品を見だしたのは、2000年の『おいしい生
活』からになる。この作品をなぜ見ようと思ったのかは記憶
にないが、強盗を計画しながらクッキー屋になってしまうこ
の作品のどたばたぶりに、久しぶりに嬉しくなったものだ。
そして01年の『スコルピオン…』でも同様のどたばたぶりに
ほっとし、続く本作を待望していた。          
本作は2002年に全米公開されたもので、製作は2001年の秋、
9月11日の前後に行われていたものと思われる。ニューヨー
ク派のアレンにとってその痛みは、02年のアカデミー賞受賞
式にニューヨークを代表して初めて出席したことでも判る通
りだろう。                      
しかしこの作品には、そのような影は落ちてはいない。いや
もしかすると、本当は予定されていたロケーション撮影など
がセットに替えられた可能性はあるが、物語の展開では、そ
れは現れてはいない。ただ、ニューヨークという言葉がいつ
も以上に多く聞かれたように思えたのは気のせいだろうか。
物語は、ニューヨークを題材にした大作映画の企画がハリウ
ッドの映画会社で進められるところから始まる。企画会議で
その題材にベストな監督の名が挙がるのだが、オスカー2度
受賞の経歴を持つ彼は、その天才ぶりが禍してハリウッドか
らは敬遠されていた。                 
しかも企画している映画会社には、監督の元妻がその社長の
許に走ったという曰くもある。だが、彼を最も押しているの
もその元妻だった。そして企画はどうにか通り、当初は渋っ
ていた監督も自分にしかできない企画と悟って、映画製作が
開始されるのだが…                  
実はこの後、クランクインを控えて飛んでもない事態が発生
し、その事態を隠すために撮影現場は大混乱(?)となって
しまう。                       
そしてこの物語の合間に、アレンのハリウッド批判とも取れ
る皮肉たっぷりの台詞や映画会社トップの生活ぶりなどが描
かれ、最後には、これがカンヌで上映されたときの会場の様
子を覗きたくなるような見事なHollywood Endingが用意され
ている。                       
本作の撮影監督はドイツ人だそうだが、このEndingには、F
・W・ムルナウ監督の1924年作品『最後の人』を思い出させ
た。また今回、劇場用の宣伝チラシには、爆笑問題大田光の
コメントが載っているが、この作品にこの人選はピッタリと
いう感じで、実にそういう感じの作品なのだ。今後もアレン
には、この感じで行ってほしいものだ。         
                           
『オオカミの誘惑』(韓国映画)            
2001年に当時16歳の少女がインターネットで発表し、韓国で
大評判になったという原作の映画化。モデル出身で、韓国で
は四天王を凌ぐと言われる、いずれも1981年生まれのチョ・
ハンソン、カン・ドンウォン共演の青春映画。      
大都会ソウル。そこに、見るからに田舎出身の純朴そうな少
女が、大きな鞄を持って降り立つ。彼女は父親を亡くし、離
婚した母親を頼ってソウルにやってきたのだ。しかし地下街
で迷ってうろうろする内に、高校生同士の抗争の場に巻き込
まれてしまう。                    
そこをなんとか脱出した彼女は、母親の家にたどり着き、母
親の再婚相手の連れ子で活発な都会っ子の1歳違いの妹や、
幼い弟に出迎えられる。そして妹と同じソウルの高校で、新
たな学園生活が始まるが…               
町で再び抗争騒ぎに巻き込まれた彼女は、他校のリーダー格
の男子生徒と出会い、そこで出身地を答えた彼女は、何故か
その男子生徒からお姉さんと呼ばれるようになる。一方、彼
女は、自分の通う学校のリーダー格の男子からも慕われるよ
うになり…                      
抗争する2校のリーダーから同時に慕われるという、まあ、
16歳の少女が書いた夢物語という作品。話がうまく行き過ぎ
るところは多々あるが、それなりの出来事も次々起こるし、
厭味なところもなく、正直、見ている間は充分に楽しめた。
いわゆるイケメンの2人の主人公役も、映画出演は1作目、
2作目という新人だが、これを『火山高』などのベテラン、
1960年生まれのキム・テギュン監督がよくまとめている。監
督は脚本も手掛けているようだが、若さ溢れる作品をまとめ
上げた手腕は見事なものだ。それに、こちらも新人の少女役
イ・チョンアもよく頑張っていた。           
日本でも若年女流作家が持て囃されて、昨年はその映画化を
1本見たが、日本の作品が何か物欲的で見ていて感情移入で
きるところがなく、乗れなかったのに対して、この韓国映画
には、見ていて懐かしさと言うか、心に響くものを感じた。
韓国映画に対しては、一時代前の日本映画の再現という言い
方がされ、確かにその一面もあるのだが、この作品に限って
は、単なる過去の映画の再現ではなく、現代の作品の中に、
日本映画が置き忘れてしまったものが見事に描かれている、
そんなようにも感じられた。              
日本公開は3月19日からになるようだ。         



2005年02月01日(火) 第80回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 まずは、1月25日に発表されたアカデミー賞候補の中から
気になる部門の候補作を中心に紹介しておこう。
 最初は前回予備候補を紹介した視覚効果部門だが、これは
ちょっと予想が外れて、“Harry Potter and the Prisoner
of Azkaban”“I, Robot”“Spider-Man 2”という3本の候
補になった。
 この内、僕が一番予想しなかったのは“I, Robot”だが、
実は、この2週間前の1月10日に発表されたVFX専門家集
団Visual Effects Sociatyによる賞の候補選出でも、この作
品はほとんど無視されていたもので、恐らくはアメリカでも
予想外と受け取られたはずだ。ただしこれによってILM、
ディジタル・ドメイン、ソニーの3社揃い踏みになった訳だ
から、それなりの思惑が働いてのことかも知れない。とは言
え、ここで“The Aviator”が候補になれば、候補数12部門
で『王の帰還』を抜く可能性も生まれたものだが、その芽は
最初から摘み取られてしまった訳だ。
 もう一つ気になるメイクアップ賞は、“Lemony Snicket's
A Series of Unfortunate Events”“The Passion of the
Christ”、それに外国語映画賞の候補でもあるスペイン映画
の“The Sea Inside”。実は、ここでも“The Aviator”は
予備候補に挙げられていたが、最終候補にはなれなかったも
ので、最多受賞の敷居はかなり高い感じだ。
 一方、結局予備候補の発表のなかった長編アニメーション
部門の候補は、大方の予想通り“The Incredibles”“Shark
Tale”“Shrek 2”の3本で決まり、今年もディズニー=ピ
クサーvsドリームワークスの対決となった。
 なお、“Harry Potter”は他に作曲賞。“Spider-Man 2”
はサウンドエディティングとサウンドミキシング。“Lemony
Snicket”は作曲、アートディレクション、それにコスチュ
ームデザイン。“The Incredibles”は脚本、サウンドエデ
ィティングとサウンドミキシング。“Shrek 2”はオリジナ
ルソングの候補にもなっている。
 この他のSF/ファンタシー関連の作品では、“Finding
Neverland”が、作品、主演男優(ジョニー・デップ)、脚
色、編集、作曲、アートディレクション、コスチュームデザ
イン。“Eternal Sunshine of the Spotless Mind”が、主
演女優(ケイト・ウィンスレット)、脚本。“The Phantom
of the Opera”が、撮影、オリジナルソング、アートディレ
クション。“The Village”が作曲。そして長編アニメーシ
ョン部門を逃した“The Polar Express”が、オリジナルソ
ング、サウンドエディティング、サウンドミキシングのそれ
ぞれ候補に挙げられている。
 因に、作曲賞部門は、全5候補の内の4作品を上記のよう
にSF/ファンタシー関連の作品(後1作は“The Passion
of the Christ”)が占め、オリジナルソング部門も3候補
(後の2作は“The Motorcycle Diaries”とフランス映画の
“Les Choristes”)を占めており、SF/ファンタシー系
の作品が依然として注目されていることは、こういった辺り
にも現れていると言えそうだ。
 以上が今年の気になった候補作だが、2月27日にはこの中
から一体どの作品が栄冠を勝ち取るのだろうか。
        *         *
 ついでに、上記したVisual Effects Sociatyによる賞の候
補作も紹介しておこう。因にこの賞は、今年で第3回を迎え
ているもので、映画だけでなくテレビやゲームに対する賞も
設けられているようだが、ここでは映画関連の10部門の候補
だけ報告する。
 まずはVFX中心映画におけるVFX賞で、この候補には
“The Day After Tomorrow”“Harry Potter”“Spider-Man
2”が挙げられた。これに対して、VFX中心でない映画で
のサポートVFX賞の候補には、“The Aviator”“Eternal
Sunshine”“Troy”が挙げられている。
 さらに単独のVFXでは、“The Aviator”の映画撮影の
再現シーン、“The Day After Tomorrow”の津波、“Harry
Potter”、“Spider-Man 2”の時計台が候補とされた。なお
“Harry Potter”のシーンは特定されていなかった。
 また、実写映画でのアニメーションキャラクターの演技賞
に“Harry Potter”“Hellboy”“Lemony Snicket”がノミ
ネートされ、アニメーション映画でのキャラクターの演技賞
には、“The Incredibles”“The Polar Express”“Shark
Tale”“Shrek 2”が候補とされている。
 この他VFXに使われた特殊効果として“The Aviator”
“Spider-Man 2”“Van Helsing”。実写映画における環境
創造として、“Bridget Jones: The Edge of Reason”“I,
Robot”“The Phantom of the Opera”“Spider-Man 2”。
またミニチュア及び模型に対して、“The Aviator”“Harry
Potter”“National Treasure”。合成に関して、“Harry
Potter”“The Phantom of the Opera”“Spider-Man 2”が
それぞれ候補になっている。
 そしてもう1部門、VFX映画における俳優の演技賞候補
には“The Aviator”におけるレオナルド・ディカプリオ、
“Sky Captain and the World of Tomorrow”におけるジュ
ード・ロウ、“Spider-Man 2”におけるアルフレッド・モリ
ナが挙げられていた。
 こうしてみると、結構納得のできる候補が選ばれており、
さすが専門家たちが選んでいる感じがする。そしてこれらの
候補に対する最終投票は、実はインターネット上のVESの
サイト(VESawards.com)で1月31日から2月12日まで行わ
れ、その結果は2月16日に開催されるセレモニーで発表され
るということだ。
        *         *
 賞レースの話題はここまでにして、以下は、定例の製作ニ
ュースを紹介しよう。
 まずは今回もこの作品の話題からで、ブライアン・シンガ
ー監督の新“Superman”の配役として、新たにデイリープラ
ネット社の編集長ペリー・ホワイト役に、シンガーが製作総
指揮を務めるテレビシリーズ“House”に出演のヒュー・ロ
ーリーと、ロイス・レーンの恋人のリチャード・ホワイト役
に、『X−メン』の2作でサイクロプスを演じたジェームズ
・マースデンの起用が発表された。
 因に、発表された2役はラストネームが同じだが、血縁関
係の有無は発表されていないとのこと。それにしてもロイス
はスーパーマンの恋人だと思っていたが、どうやら今回は、
恋のライヴァルがいるという設定らしい。一方、ロイスの助
手ジミー・オルセン役には、サム・ハンチントンという俳優
が決まったようで、残る主要キャストは、ゾッド将軍と、そ
れにスーパーマンの父親ジョー=エルだけとなったようだ。
 また、今回の2人はいずれもシンガー縁りの俳優というこ
とだが、特にマースデンは、ついに『X−メン』のキャスト
からの起用となったもので、これで同じ時期の公開が予定さ
れていた“X-Men 3”は絶望的になってしまうようだ。そう
なると、2004年9月1日付の第70回で紹介したパトリック・
スチュアートの出演も現実味を帯びてくるが…いずれにして
も、3月3日までには全て判明することになる。
        *         *
 お次は、キアヌ・リーヴスとサンドラ・ブロックの『スピ
ード』第1作コンビが、11年ぶりに顔を合わせる計画が発表
された。といってもシリーズの再開ではなくて、ワーナーで
計画されている韓国映画『イルマーレ』のアメリカ版リメイ
ク“Il Mare”が、2人の共演で進められることになったも
のだ。
 オリジナルは2000年に発表(日本公開2001年)された作品
で、とある家に引っ越してきた主人公が、郵便受の中に2年
前の住人からの時を越えた手紙を見つけ、文通を続ける内に
恋に落ちて行くというファンタスティックな物語。このオリ
ジナルからピュリッツァー受賞劇作家のデイヴィッド・オウ
バーンが英語版の脚本を執筆し、アルゼンチン出身のアレハ
ンドロ・アグレスティが監督するという計画だ。撮影は3月
にシカゴで開始されることになっている。
 ところでリーヴスに関しては、昨年12月15日付の第77回で
ジェームズ・エルロイ脚本、スパイク・リー監督による別の
計画を紹介したが、今回の報道ではその作品については全く
触れられていなかった。これはすでに計画が頓挫したという
意味か、それともそれまでに撮影が完了するのだろうか。
 なお、リーヴスの次回作は、前回も紹介したようにコミッ
クスの映画化の“Constantine”が2月18日、ブロックの次
回作は、大ヒット作『デンジャラス・ビューティー』の続編
“Miss Congeniality 2: Armed and Fabulous”が3月25日
に、いずれもワーナーから全米公開の予定になっている。
        *         *
 続いてディズニー=ピクサーの提携解消で注目されていた
人気シリーズ『トイ・ストーリー』の第3弾が、ピクサー抜
きで製作されることになった。
 このシリーズに関しては両社が権利を保有しており、提携
解消後も両社で製作する方向も模索されたが、最終的にピク
サーが離脱を表明したもので、その時点からディズニーでは
新たな続編のアイデアを、社内のライティング・プログラム
に所属するメムバーから募集していた。
 これには多数の応募があったということだが、その中から
ジェイリド・スターンという27歳の脚本家のアイデアが採用
され、“Toy Story 3”の製作が進められることになったも
のだ。因にスターンはプログラムに参加して2年目というこ
とだが、すでにワーナーでコメディ映画の脚本などの仕事も
しているということだ。
 ところで、第3弾の内容について詳細は明らかにされてい
ないが、今回もトイたちはアンディの部屋を飛び出して、街
路で活躍することになるようだ。また新たなキャラクターの
登場もあるとされている。さらにディズニーでは、第4弾の
計画も進めているということで、ウッディーとバズ・ライト
イヤーの冒険はまだまだ続きそうだ。
 一方、ピクサー=ディズニーの最後の1本となる“Cars”
は、当初は今年の秋の公開予定だったが、より興行成績の期
待できる夏場の公開を目指して来年に延期されている。その
後のピクサーの計画はまだ発表されていないようだが、一足
お先の“Toy Story 3”の発表で、今後の動向が気になると
ころだ。
        *         *
 1972年に公開されてクリント・イーストウッドの名前を一
躍高めたハードアクション『ダーティハリー』シリーズの大
元になったとも言われる、1966−78年にサンフランシスコ地
区で発生した連続殺人事件の実話に基づく“Zodiac”という
作品を、ワーナーとパラマウントの共同製作、デイヴィッド
・フィンチャーの監督で映画化する計画が発表された。
 この事件は、犯行声明がサンフランシスコ・クロニクル紙
に届けられたり、目撃された犯人の風体が、黒のフード付き
ローブに奇妙なシンボルを描いたものであるなど、その犯行
の異様さが注目されたものだが、上記の年号が示す通り犯行
は映画の公開後も続き、最終的に被害者は37人に及んだとさ
れるものの、結局犯人は逮捕されなかった。
 今回の作品は、当時のクロニクル紙の編集員だったロバー
ト・グレイスミスが1986年に発表し、全米で400万部のベス
トセラーになった同名のドキュメントと、2002年に発表した
その続編“Zodiac Unmasked: The Identity of America's 
Most Elusive Serial Killer Revealed”に基づくもので、
実はグレイスミスは、編集員だったときに見た犯人の手紙か
ら独自の調査を続け、犯人を特定できたと主張している。し
かし訴追に足る証拠が発見できないまま、犯人と思われる人
物は1992年に死去したということだ。
 なお今回の映画化では、脚色を『閉ざされた森』のジェイ
ミー・ヴァンダービルトが担当している。
 因に、フィンチャーとワーナー、パラマウントでは、先に
“The Curious Case of Benjamin Button”という作品の計
画があったが、この作品がVFXの多用で1億5000万ドルの
大型予算に膨らみ、一時中断となってしまった。今回はそれ
に代って発表されたもので、まずはこの作品を手掛けて、再
度挑戦ということになるのだろうか。
        *         *
 一昨年公開の『ラスト・サムライ』では明治初頭の日本を
ファンタスティックに描き出したエド・ズィック監督が、今
度は中世のスペインを舞台に、さらにファンタスティックな
物語を映画化する計画を、ワーナーから発表した。
 この計画は、ガイ・ガヴリエル・カイ原作の“The Lions
of Al-Rassan”という小説を映画化するもので、物語は2人
の戦士の王子と、1人の女性の医者を巡るもの。さらに物語
には魔法使いも登場するなど、本格的なファンタシーが展開
することになるようだ。
 なお、この時代のスペインはムーア人の支配下にあり、そ
こではイスラムとカソリック、それにユダヤ教が宗教の地盤
を築こうと争いを繰り広げていた。その事実を背景とした物
語だが、原作には魔法の要素もかなり多く描かれているとい
うことで、ズィック自身は「そのブレンドの仕方が絶妙で、
これは歴史ドラマを描く上での新たなアプローチとなる」と
語っているが、日本を舞台に架空の戦いを描いた前作以上に
挑戦的な作品になりそうだ。
 脚色は、2000年にペネロペ・クルスのハリウッド進出作と
なった『ウーマン・オン・トップ』を手掛けたヴェラ・ブレ
イシ。因にブレイシはアン・リー監督の『恋人たちの食卓』
をロサンゼルスを舞台にリメイクした“Tortilla Soup”の
脚本を手掛けている他、歴史ものでは映画化は実現していな
いが、キリストの処刑者ポンティウス・ピラトとガリレオの
伝記映画の脚本も書いているそうだ。
        *         *
 USCの映画コースを卒業したバリー・L・レヴィの執筆
による“Vantage Point”という脚本を、6桁($)から最
高100万ドルの契約金でコロムビアが獲得し、『XXX』な
どを手掛けるニール・モリッツの製作で映画化することが発
表された。
 この作品は、アメリカ大統領の暗殺計画を5人の異なる視
点から描くというもので、米誌の報道ではこのような構成を
『羅生門』スタイルと称していた。また、この映画化の監督
に、1998年のIRAのテロ攻撃により29人が殺された事件を
イギリス、アイルランドの共同製作で描いた“Omagh”とい
う作品で、トロント映画祭の受賞を果たしたピート・トラヴ
ィスを起用することも発表されている。
 なお製作のモリッツは、ロブ・コーエン監督によるアクシ
ョン大作“Stealth”が今年の夏ソニーから公開される他、
『XXX』の続編“XXX: State of the Union”の製作も進
めている。
        *         *
 『ポーラー・エクスプレス』で採用した新技術パフォーマ
ンス・キャプチャーに、「新たな可能性を信じる」と語って
いたロバート・ゼメキス監督が、新作の計画を発表した。
 発表された作品の題名は、“Beowulf”。10世紀に完成さ
れた長大な叙事詩に基づく作品で、この脚色を、『もののけ
姫』のアメリカ版なども手掛けている絵本作家のニール・ゲ
イマンと、『パルプ・フィクション』の脚本をクエンティン
・タランティーノと共同で執筆したロジャー・アヴェリーが
共同で執筆し、この映画化権を、ソニーと『ポーラー…』を
手掛けた製作者のスティーヴ・ビングが最高200万ドルの契
約金で獲得、監督をゼメキスが担当するというものだ。
 なお、元になる叙事詩は、JRR・トーキンが大学で研究
していたことでも知られ、“The Lord of the Rings”の発
想の基になったとも言われている作品だが、中ではベーオウ
ルフと名告る北欧の戦士が、グレンデルと呼ばれる巨大な怪
物と戦う姿などが描かれているということだ。
 そして今回の脚本は、ゲイマンとアヴェリーが1997年にゼ
メキス主宰のイメージムーヴァースと契約して、アヴェリー
の監督で進めていたものだが、一旦は計画が放棄され、権利
も脚本家の許に戻されていた。しかし、昨年になってアヴェ
リーが再び計画を提出し、その際にゼメキスが監督すると言
い出したもので、当初は自分で監督を希望していたアヴェリ
ーも折れて、今回の発表となったようだ。
 因に、製作費は7000万ドルが予定され、この製作費はビン
グ主宰のシャングリ=ラが全額出資、ソニーは配給のみを担
当する。そして製作には『ポーラー…』と同じ技術が使われ
るとされている。なお、イメージムーヴァースでは、すでに
パフォーマンス・キャプチャーの第2弾“Monster House”
の製作を、来年7月の公開を目指して進めており、今回の作
品は第3弾となるものだ。
 ところで今回製作に加わったスティーヴ・ビングは、『ポ
ーラー…』が初の大ヒットとなった映画製作者だが、元々が
大金持ちなのだそうで、今回も200万ドルの契約金や、7000
万ドルの製作費を即金で用意できる人物ということだ。また
今回は、以前はワーナー傘下にあったプロダクションを契約
満了にともなってソニー傘下に移したところで、この他にも
アルバート・ブルックス監督によるコメディ作品や、デンマ
ーク映画からのリメイクで、モーガン・フリーマンとアンソ
ニー・ホプキンスが共演する“Harry and the Butler”など
の計画も発表されている。
        *         *
 後は続報で、まずはソニーから、来年5月19日の全米公開
が発表されているトム・ハンクス主演、ロン・ハワード監督
による“The Da Vinci Code”の映画化に、ジャン・レノと
オドレイ・トトゥの出演が発表された。元々フランスが舞台
の作品だからフランスの俳優が登場するのは当然だが、特に
トトゥの出演は、作品にフランス映画の雰囲気を存分に持ち
込んでくれそうだ。なお、トトゥが演じるのはソフィー、物
語の発端となる祖父殺人事件から、ハンクス演じる主人公と
共に世紀の謎を解き明かして行く重要な役どころだ。因みに
トトゥは、スティーヴン・フリアーズ監督の“Dirty Pretty
Thing”などで英語作品への出演経験はあるようだ。一方、
レノはフランス警察の刑事の役が発表されている。撮影は今
年の夏に行われる。
 昨年4月1日付の第60回で紹介した“The Assassination
of Jesse James by the Coward Robert Ford”の映画化が正
式に進められることになった。この計画は、ブラッド・ピッ
トの主演とアンドリュー・ドミニクの監督で、ピット主宰の
プランBとドミニクが所属するスコット・フリーが共同製作
するもの。すでにロアルド・ダール原作“Charlie and the
Chocolate Factory”などの製作を手掛けているプランBだ
が、ピットの主演作はこの作品が初になるようだ。プライヴ
ェートなどでいろいろ揺れているピットだが、今回の発表で
プランBの存続は決まったようで、心機一転頑張ってもらい
たいものだ。


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井口健二