井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2004年10月31日(日) オペラ座の怪人、レディ・ウェポン、砂と霧の家、カンフー・ハッスル、誰にでも秘密がある、ULTRAMAN

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※(今回は東京国際映画祭での特別上映作品を含みます。※
※ なお他の出品作品については別途紹介する予定です)※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『オペラ座の怪人』“The Phantom of the Opera”    
アンドリュー・ロイド=ウェバー作曲による舞台ミュージカ
ルを、作曲者自身の製作で完全映画化。監督は、『バットマ
ン・フォーエバー』などのジョエル・シュマッカー。   
試写会では、上映前にロイド=ウェバーとシュマッカーの挨
拶が行われたが、それによると、ロイド=ウェバーは自分が
描いた世界を永遠に記録しておくため映画化を行ったものだ
そうだ。従ってこの映画には、舞台がほぼそのまま映像化さ
れているということだ。                
僕は舞台は見ていないが、主題歌やマスカレードなどの音楽
は聞き覚えがあるし、地下の水路を船で行くシーンなどは映
像でも見たことがある。それらのシーンが次から次へ登場し
てくる。これらは正しく舞台の完全再現だ。       
しかしこの映画の見所はそれだけではない。シュマッカー監
督はこの作品に、舞台では不可能な、映画にしかできない要
素をふんだんに取り入れているのだ。          
例えば『ウェストサイド物語』の巻頭のニューヨークの街角
で群舞や、『サウンド・オブ・ミュージック』でスイスアル
プスを背景にマリアが歌う開幕の場面は、当時の映画ミュー
ジカルが、舞台にできないことをやってのけた名シーンとい
える。                        
しかしこの映画の舞台は、オペラ座という閉ざされた空間、
屋外野外のシーンは出来ないものだが、ここにシュマッカー
は、最新のディジタルVFXを取り入れて、見事な空間を作
り上げて見せた。これ以上は、これから見る人には説明でき
ないが、この映像を堪能するため、僕は何度もこの映画を見
ることになると思っている。              
出演は、クリスティーヌに弱冠17歳のエモー・ロッサム。ラ
ウルにパトリック・ウィルスン。いずれも映画の出演は数本
で、ほとんど新人と言っていい2人だが、舞台の経験は長い
人たちだそうで、見事な歌唱力で役を演じている。    
それに対して、ファントムを演じた『トゥームレイダー2』
などのジェラルド・バトラーには、正直言って僕はちょっと
歌唱力に物足りなさを感じた。また、カルロッタ役のミニー
・ドライヴァーには吹き替えが使われているようだが、これ
はドライヴァーのコメディエンヌとしての演技力と合わせて
良い効果を上げていたようだ。             
なおドライヴァーは、エンディングロールに流れるロイド=
ウェバーが彼女のために書き下ろした新曲で、自分の歌声も
披露している。                    
さらに本作には、ファントムの生い立ちなど舞台では演じら
れないエピソードも盛り込まれており、舞台を見た人にも新
しい発見が楽しめるようになっている。         
                                     『レディ・ウェポン』“赤裸特工”           
『HERO』『LOVERS』『少林サッカー』などのアク
ション監督で知られるチン・シウトンが監督した女性アクシ
ョン。シウトンは9月に紹介した『沈黙の聖戦』の監督も担
当していたが、元々は『チャイニーズ・ゴースト・ストーリ
ー』などの監督作品で知られていた人だ。        
そして今回の作品は、2002年の製作のものだが、原題の“赤
裸”というのは1992年から続くシリーズだそうで、その最新
作ということでもあるようだ。因にこのシリーズは、題名か
ら想像が付くように、本来はかなりエロティックなものらし
いが、本作に限ってはベッドシーンやヒロインの乳首が出た
りはするが、エロと言うほどではない。         
それよりも見所は、シウトンがその監督も手掛けたアクショ
ンシーンで、ワイアーを駆使したその描き方は、なるほど第
1人者と言われるだけのことはあると言う感じだ。    
特に、それぞれの決めポーズから流れるようにアクションに
入って行く演出が見事だし、またアクションごとにカメラ位
置が絶妙に変ったり、アクションが存分に写されているとい
う点も、見ていて気持ちの良いものだった。       
お話は、特殊訓練を受けたプロの女性暗殺者と、それを追う
CIAというありがちなものだが、ユーモアも適度に利かせ
て、展開も悪くなかった。ただ、CIAがこういう捜査をす
るかというとちょっと違う感じで、これはインターポールに
でもしておいた方が良かったという感じはしたが…    
                           
『砂と霧の家』“House of Sand and Fog”        
一軒の家を巡って、一人の女性と亡命者の男性が繰り広げる
人間ドラマ。                     
主人公の女性は夫に去られ、アルコール依存症を何とか克服
しているが、まだ情緒不安定なところがある。そんな彼女は
無職で無収入だったが、役所の手違いで所得税を課税され、
その確認書の開封を怠ったために、住居が差し押さえられて
しまう。                       
一方、亡命者の男性は、本国から持ち出した資産で食い繋い
でいるが、その資金も乏しくなり、競売物件を安く手に入れ
て転売で金を稼ごうと考えている。そしてその思い通りの家
の競売の案内を見つけ、その家を手に入れる。      
その家は、彼が祖国で栄華を極めていた頃にカスピ海沿岸で
所有していた別荘にそっくりであり、またその転売でかなり
の資金が得られるはずである。しかし、女性の訴えで役所の
手続きのミスが認められ、彼女の弁護士は競売価格での買い
戻しを通告するが…                  
日本でも競売物件の居座りの話が映画化されているが、この
映画の場合はいわゆる居座りとはちょっと違う。ここではあ
くまでも善意の二人が、役所の手違いで争いに巻き込まれて
しまう。ひょっとしたら自分もそんな目に遭うかも知れない
物語だ。                       
自分自身、戸建ての家に住むようになると、この主人公たち
の家に対する愛着は痛いように判る。しかもそれは、単なる
建物の家ではなく、そこに刻まれた記憶であり、そこから生
み出される希望なのだ。そのぶつかり合いは、そうそう後に
引けるものではない。そんな物語が、ジェニファー・コネリ
ーとベン・キングズレーの共演で見事に描かれる。    
一部には後味の悪い作品という評価もされているようだが、
運命という色合いも濃く描かれるので、僕は純粋な悲劇とし
て捉えられる作品になっていると思う。         
なお、監督のヴァディム・パールマンは、この後『タリスマ
ン』の映画化の監督に抜擢されたが、残念ながらキャンセル
されてしまったようだ。                
                           
以下は、東京国際映画祭の特別上映作品です。

『カンフー・ハッスル』“功夫”            
『少林サッカー』のチャウ・シンチー監督・製作・脚本・主
演による2年ぶりの新作。前作同様、痛快なコメディの中に
見事なカンフーアクションが展開する。         
主人公は、幼少の時に「如来神拳」の奥義の本を購入したも
のの、それはインチキで、以来、人間は悪く生きなければい
けないと納得して成長してきた男。文化大革命の陰でワルた
ちが力を付ける中、その中に入りたいと思っているような男
だった。                       
ところがある日、彼と仲間が訪れた街区には、とんでもない
達人たちが住んでいた。そして、住人たちにひどい目に遭っ
たことがワルの集団の目に留まり、威信を掛けたワル集団の
攻撃が始まったのだが…                
このワル集団が黒服の集団で、この風体の男たちが続々と登
場する。ということで、見事なパロディが始まるのだが、こ
のアクションの振り付けをしているのが、本家『マトリック
ス』のユエン・ウーピンという辺りに、この作品の奥深さが
ある。                        
この他にも、パロディ、アクション、コメディが満載だが、
途中にはほろりとさせられる展開なども用意されていて、エ
ンターテインメントとして見事に完成されていた。    
チャウ・シンチーには次回作も期待したい。       
                           
『誰にでも秘密がある』(韓国映画)          
イ・ビョンホン、チェ・ジウ共演によるラヴ・コメディ。 
専業主婦だが倦怠期の長女と、20代後半になっても処女で恋
愛に臆病な次女、そして恋愛には奔放だが意中の男性を見つ
けられない三女。こんな3姉妹のいる家族に、画廊を経営し
資産家らしいが、素性は謎の青年が入り込む。      
この青年を、最初は三女が見つけるのだが、家族とつきあい
出した青年は、長女や次女にも手を出して行く。そして、当
然女性たちのつながりは密な訳で、すれ違いはしょっちゅう
だが、青年はその間を見事に立ち回って、それぞれの関係を
構築して行く。                    
これだけ書くとかなり不道徳なお話に見えるが、映画には見
事な落ちが付いているので、ラヴ・コメディとして気持ち良
く笑える作品になっていた。なお、最近の韓国映画に特有の
激しいベッド・シーンなどはなく、ソフトなセクシャルムー
ヴィの仕上がりだ。                  
さらに、最近の流行りの時間軸を入れ替える展開で、それぞ
れ前のシーンを別角度で見せる手法が取られるが、それも判
りやすく混乱なく見ることができた。          
因に、チェ・ジウは次女の役で見事なコメディエンヌぶりを
発揮している。                    
                           
『ULTRAMAN』                 
円谷プロ製作の人気テレビシリーズの劇場版。劇場作品とし
ては9作目のようだが、今回はテレビシリーズの延長ではな
く、テレビの設定を離れて単独の作品として製作されたもの
ということだ。                    
しかもこの作品で、ウルトラマンに憑依される主人公は妻子
持ち。この設定はシリーズ始まって以来のことのようだが、
というのも今回の作品では、従来のお子様向けに特化したも
のではなく、大人の観客も獲得したいということの現れのよ
うだ。                        
実はこの作品は前評判がかなり良く、こういうときは一般的
に眉唾なのだが、今日上映を見て、あらためてその意気込み
を感じた。展開は大人向けを意識したと言っても、所詮は怪
獣との闘いがメインになる訳だが、今回はその闘いが一味も
二味も違っていた。                  
まず物語の背景が現代で、その主戦場が現在の新宿西口。こ
の場所は、個人的にも普段見慣れている場所なので親しみも
湧くが、それ以上に、現実に見慣れた風景の中に、見事に怪
獣とウルトラマンが描かれている点には感心した。    
他にも、空中戦もスピーディに見事に作られていた。従来、
ウルトラマンの敵役では空を飛べる奴もいろいろいたはずだ
が、ここまで丁寧に空中戦が描かれたのは初めてだろう。し
かもこの空中戦を、さらに上空から地上をバックに描く辺り
のセンスも気に入った。                
先にも書いたように、今回は大人の観客も呼びたいというこ
とのようだが、所詮お子様ランチの認識は簡単には消せない
訳で、大人を動員するためには、これから公開までにかなり
の口込みを仕掛ける必要がある。宣伝広報の努力に期待した
い。                         
なお、例年東京国際映画祭では、11月3日に『ゴジラ』など
の東宝特撮を見るのが慣わしだった。しかし、今年はなぜか
新作の上映が無く、その代りに上映された感もある『ULT
RAMAN』だが、期待以上の作品だった言えそうだ。  



2004年10月15日(金) 第73回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 このホームページも開設から3年が過ぎ、今回から4年目
に入ります。そして、嬉しいことに先日ヒット数が3万を越
えました。年平均1万ヒットです。実際には、最初の1年間
は5千ヒットぐらいだったと記憶しているので、その後に大
幅に増えたことになりますが、最近では毎月千を越えるヒッ
トをいただいて感謝しています。これからも、今まで同様が
んばっていきますので、よろしくお願いいたします。
        *         *
 さて、4年目最初の話題は続報で、前回、前々回も紹介し
たジョージ・A・ロメロ監督の Living Dead(ゾンビ)シリ
ーズ第4作“Land of the Dead”について、この映画に、先
にロメロが希望として挙げていたデニス・ホッパーと共に、
『XxX』のアーシア・アルジェントの出演が発表された。
 このゾンビシリーズは、何度も紹介しているように1968年
の“Night of the Living Dead”の後、1978年に“Dawn of
the Dead”(ゾンビ)が発表されたものだが、実は、この第
2作の完成に大いに力を貸したのが、イタリアのダリオ・ア
ルジェント監督だった。実際、映画のクレジットでは、スク
リプト・コンサルタントとしてダリオの名前がある他、製作
者の中にも、弟でプロデューサーのクラウディオ・アルジェ
ントの名前が記載されている。
 そしてアーシアは、そのダリオ・アルジェントの娘で、実
は彼女の3歳の誕生日は、イタリアで“Dawn of the Dead”
が封切られた日に祝われたとも言われている。そのアーシア
が第4作に主演しているということで、これは多分ロメロの
希望だと思うが、味なことをしてくれたものだし、アーシア
もよくそれに応えてくれたという感じだ。
 なお彼女の役は、“The Ring 2”でナオミ・ワッツの相手
役を務めているサイモン・ベイカーや、舞台出身で1993年の
『スーパーマリオ』でルイージ役を演じたジョン・レグイザ
モらと共に、ゾンビ避けの壁に囲まれた都市の外側で、Dead
Reckoning(フォックスで進められていた当時の題名)と名
付けられた装甲車を使ってゾンビ狩りをする戦闘部隊のメム
バー。因に、デニス・ホッパーは『スーパーマリオ』の敵役
だったが、レグイザモとはそれ以来の顔合せだろうか。
 他には、お決まりのスペシャル・メイクアップ・アーチス
ト=トム・サヴィーニや、前回紹介したパロディ版“Shaun
of the Dead”を、自作自演で発表したサイモン・ペグ(脚
本も)と、エドガー・ライト(脚本、監督も)のコンビも出
演しているようだ。
 本作は、過去のシリーズの流れは汲むものの、新たな展開
の開幕となる作品とも言われているが、以前の3作はシリー
ズとはいっても毎回主人公も異なり、状況に連続性があるだ
けのものだった。今後のシリーズはいったいどのように展開
するのだろうか。また本作の題名は、アメリカでは“Gearge
A.Romero's Land of the Dead”と呼ばれることになったよ
うだ。
        *         *
 お次は、ワーナーが本年度最高額となる200万ドルの契約
金で、オーストラリア人の新人作家グレゴリー・デイヴィッ
ド・ロバーツの小説の映画化権を獲得。ジョニー・デップの
主演で進めることが発表された。
 この小説は“Shantaram”という題名で、1980年代のオー
ストラリアを発端に、窃盗で有罪になった麻薬中毒の男が、
収監された豪州一厳しいと言われた刑務所を脱獄。インドへ
逃れてムンバイのスラム街で医師として活動。さらにアフガ
ニスタンに潜入して当時ソ連と戦っていたゲリラに身を投じ
て活躍するという1000ページに及ぶ大作。
 紹介文では、1973年にスティーヴ・マクィーン、ダスティ
ン・ホフマン共演で映画された“Papillon”とも比較されて
いたが、一部は作者の実体験に基づいた物語ということで、
かなり波乱万丈の面白そうなお話だ。ただしこの原作は、実
はオーストラリアでは03年8月に出版されていたが、その時
は誰も目をくれなかったもの。しかし、今秋アメリカでの出
版が決まって俄然注目を集めるものになったということだ。
 そしてこの作品に惚れ込んだデップが、ワーナー傘下のプ
ロデューサーのブラッド・グレイに映画化権の獲得を依頼。
一方、オーストラリア出身のラッセル・クロウの代理人らも
参加しての争奪戦の結果、グレイが最高額を付けて権利を獲
得したというものだ。なお、契約にはロバーツが脚本を書く
ことも含まれているようだ。
 製作は、グレイとブラッド・ピット、ジェンファー・アニ
ストンが主宰のプランBが担当。また配給は、アメリカ国内
はワーナーが担当するものの、海外は今回の映画化権の獲得
にワーナーと共同で加わったイニシャル・エンターテインメ
ントという会社が扱うようだ。
 因に、デップの作品では、日本では現在『シークレット・
ウインドウ』が公開中だが、すでに“Finding Neverland”
と“The Libertine”の2作が完成して公開待機中。さらに
“Charlie and the Chocolate Factory”の撮影は最終段階
ということで、“Corpse Bride”の声の出演も終了している
と思われる。
 しかしこの後には、来年早々から2作同時で撮影される計
画の“Pirates of the Carribean”の続編が予定されている
他、デップ自ら製作にも乗り出す“Happy Days”や、“The
Diving Bell and the Butterfly”などの計画も発表されて
おり、今回の作品は何時になったら見られるのだろう。
        *         *
 “Spy Kids”シリーズで、お子様映画に新風を吹き込んだ
ロベルト・ロドリゲス監督が、同シリーズの完結を受けて新
たな計画を発表した。
 新作の題名は、“The Adventures of Shark Boy and Lava
Girl in 3-D”。お話は、クラスメートから無視されて夏休
みを1人で過ごさなければならなくなった10歳の少年が、タ
イトルになっている想像上の2人の友達と共に、夢を現実に
できることを証明するためのミッションを続け、それを実現
するというもの。しかも題名にもある通り、“Spy Kids”の
第3作と同じく3Dで撮影される計画のようだ。
 出演は、テイラー・ドゥーリー、テイラー・ロウトナー、
カイデ・ボイドの3人の新人に加えて、ABCテレビで自ら
の名前の付いたショウ番組が放送されている人気者のジョー
ジ・ロペス。撮影は、テキサス州オースチンにあるロドリゲ
ス自前のトラブルメイカースタジオで9月27日に開始され、
全米公開は来年6月10日と、配給元のミラマックス(ディメ
ンション)から発表されている。
 なお、その前の4月1日には、最終的にE・R・バロウズ
原作『火星』シリーズの映画化からの降板などの問題を引き
起こすアメリカ監督協会とのトラブルで、協会脱退の故とな
ったロドリゲス監督の大人向けの新作“Sin City”の公開も
予定されている。
        *         *
 マイク・ニコルズ監督とジュリア・ロバーツのコンビで、
ロマンティックコメディの計画が発表されている。
 作品の題名は“Seven-Year Switch”。この題名は、マリ
リン・モンロー主演作品でも有名なsven-year itch(七年目
の浮気)から採られたものだが、この成句は、「倦怠期」と
いうような意味合いで一般的に使われているものだ。そして
本作では、ロバーツ扮する結婚7年目を迎えた女性が、過去
の人生の節目で別の選択をしていたらどうなっていたかを考
えるという内容で、スーザン・ウォルターという脚本家の作
品を映画化することになっている。
 本作の紹介文を最初に読んだときには、何となく1986年の
フランシス・フォード・コッポラ監督作品“Peggy Sue Got
Married”(ペギー・スーの結婚)を連想した。本作の詳細
は明らかにされていないし、特にファンタシーという紹介は
されていないようだが、ニコルズ監督には『イルカの日』の
ような作品もあるので、ちょっと期待してしまうところだ。
 なお、ニコルズ監督とロバーツでは、ジュード・ロウ、ナ
タリー・ポートマン、クライヴ・オーエン共演の“Closer”
という作品の全米公開が今年末に予定にされており、本作は
それに続けてのコラボレーションということになる。
 しかしニコルズ監督には、テリー・ギリアム監督の1975年
作品“Monty Python and the Holy Grail”を舞台コメディ
化する“Monty Python's Spamalot”の舞台演出や、カール
・ハイアーセン原作の“Skinny Dip”という長編小説の映画
化権を獲得するなど、計画が目白押しで、今回の計画がすぐ
に実現という訳には行かないようだ。
        *         *
 スティーヴン・キング原作で1989年に最初の映画化が行わ
れ、1992年に続編も製作されたホラー作品“Pet Sematary”
(ペット・セメタリー)のリメイクが、パラマウント傘下の
アルファヴィルで計画されている。
 オリジナルは、キング自身の脚色による映画化で、1987年
に公開された“Siesta”(シエスタ)などのメアリ・ランバ
ートが監督、ランバートは続編も監督している。しかしこの
オリジナルは、アメリカで毎年発行されている2つのガイド
ブックでは、一方の評価が★3つ半に対し、他方ではBombと
されるなど、好悪が激しく分かれている。ただし興行的には
第1作は5700万ドルと、まずまずの成績を残したものだ。
 そして今回のリメイクは、ワーナーで“Invasion of the
Body Snatchers”(SFボディ・スナッチャー)、フォーカ
スフィーチャーズで“The Changeling”(チェンジリング)
など、SFホラー系の作品のリメイクを相次いで手掛けてい
るデイヴ・カジャガニッチが脚色を行うもので、新たな観点
での映画化が期待される。
 なお脚本家は、本職が大学の英語の教授という人で、昨年
オリジナル脚本の“Town Creek”という作品をワーナーに売
り込んで以来、一気に高い評価を得ているようだ。
        *         *
 前回は、テレビの『スーパーマン』に主演したジョージ・
リーヴスについての映画の計画を紹介したが、今度は『名犬
リンチンチン』を演じたジャーマン・シェパードに関する映
画の計画が発表された。
 計画しているのは、最近やたらと名前の登場するエメット
/ファーラのコンビで、彼らはすでにオリジナルの権利を所
有する関係者からの許可も受けているようだ。
 因に、初代のRin Tin Tin(リンティ)は、第1次大戦中
にフランスの塹壕の中で生まれたとされ、戦後に飼い主のリ
ー・ダンカンと共にアメリカに渡り、1923年製作のワーナー
映画“Where the North Begins”をデビュー作として、22本
の映画および連続活劇に主演。そしてスター犬となった後、
1932年8月10日に、ダンカンと隣人だった女優のジーン・ハ
ーロウに看取られて亡くなったそうだ。
 またリンティは、4匹の息子を儲け、その内2頭が1954年
から59年に放送されたテレビシリーズ“The Adventures of
Rin Tin Tin”で活躍した犬ということだ。なお、このシリ
ーズでは全部で3頭のジャーマン・シェパードがリンティを
演じているが、残りの1頭もやはり俳優犬の息子でフレイム
Jr.と呼ばれる犬だったそうだ。そして1958年と59年には、
動物タレントに贈られるTVパツィー賞を受賞している。
 因みにこのテレビシリーズは、アパッチ砦などのある西部
劇の世界を舞台としてもので、ガンファイトなどのアクショ
ンや暴力なども表現され、その点がファミリードラマとして
描かれた『名犬ラッシー』とは異なっていた。その後1988年
から93年には現代版の“Rin Tin Tin K-9 Cop”も製作され
ているが、このシリーズでもアクションに彩られたものだっ
たようだ。なおこの現代版シリーズのリンティも、初代の子
孫が演じたそうだ。
 ということで、80年を越えるRin Tin Tinの歴史というこ
とになるが、エメット/ファーラは年齢的には最初のテレビ
シリーズには間に合っていないと思われ、さてどんな点に興
味を持って映画化を進めようとしているのだろうか。
        *         *
 リュック・ベッソン主宰のエウロパコープがラテンアメリ
カに進出し、ブラジルの映画会社との共同製作に乗り出すこ
とが発表された。
 発表された作品は“Federal”という題名で、2001年にブ
ラジルで開催されたサンダンス・スクリーンライター・ラボ
に提出されたエリック・デ・カストロの作品を映画化するも
の。内容は、首都ブラジリアを舞台に麻薬王を追い詰めて行
く警察の姿を描いたものだそうだ。なおカストロは、第2次
大戦でブラジルが演じた役割を描いた2000年製作のドキュメ
ンタリー作品“Hit Them Hard”などを手掛けており、今回
は劇映画監督のデビューも果たすとされている。
 そしてこの映画の製作で、エウロパは総製作費200万ドル
の半額を提供するということだ。出演者には、全てブラジル
人のセルトン・メロ、カルロス・アルベルト・リセリ、エデ
ュアルド・デュセックらが起用され、撮影は来年の半ばごろ
に開始されて、公開は2006年の予定になっている。
 因に、2000年に設立されたエウロパコープは、ヨーロッパ
やアジア、極東地区などで30本の映画を製作し、毎年の収益
は1億ドルに達しているということだ。そして現在は、製作
費8000万ドルを掛けたアニメーション作品の“Arthur”や、
ペネロペ・クルス、サルマ・ハエック共演の“Bandidas”、
ジェット・リー、ボブ・ホスキンス、モーガン・フリーマン
共演で、ルイス・レターリア監督の“Danny the Dog”、ガ
イ・リッチー監督の“Revolver”、トミー・リー・ジョーン
ズが監督デビューする“The Three Burials of Melquiades
Estrada”などの製作が進んでいるそうだ。
        *         *
 “1001 Movies You Must See Before You Die”などの著
作もある映画研究者のスティーヴン・シュナイダーと、脚本
家のデニス・バートックが、ホラー、ファンタシー、SFな
どのジャンル映画のリメイクを専門としたファイブ・ウィン
ドウズというプロダクションの設立を発表し、その製作計画
が公表された。
 それによると、まず1作目に挙げられているのが、1973年
製作のフランスのアニメーション“Fantastic Planet”。ル
ネ・ラルー監督のカンヌ特別審査員賞受賞作を、実写によっ
てリメイクしようとする計画のようだ。
 お次は、1972年イギリス製作の“The Asphyx”。人が死ぬ
瞬間に身体から離れて行く魂を撮影することに成功した男の
物語。なお、このオリジナルではトッドAO35を使用した
撮影を、『アラビアのロレンス』でオスカー受賞のフレディ
・ヤングが担当しており、映像が美しいと評価されていた。
 そしてもう1本は“Blood on Satan's Claw”。1970年の
イギリス映画で、村に住む子供たちが徐々に悪魔の申し子に
なって行くという物語。
 最近CGIが手軽になって、誰でも何かできそうな雰囲気
になっているせいか、往年のファンタシー映画を最新技術で
リメイクしようという動きがいろいろ出てきている。これも
その一つのようだが、それにしても“La Planete Sauvage”
の実写版とは…。実はこのオリジナルには、パリまで行って
見たという個人的な思い入れがあり、またこのアニメーショ
ンには、ローラン・トポルの絵も含めての作品という認識も
あるので、ちょっと複雑な心境というところだ。
        *         *        
 後半は短いニュースをまとめておこう。
 『アラモ』などのビリー・ボブ・ソーントンと、ミラ・ジ
ョヴォヴィッチの共演で、“Fade Out”というスリラー作品
が計画されている。お話は、ソーントン扮する脚本家が、ジ
ョヴォヴィッチ扮する妻が浮気をしているものと信じ込み、
そのため精神的な病に取り付かれてしまう。やがて妻が行方
不明となり、脚本家は抱いている疑惑の全てを脚本にしよう
と執筆を開始するが…、徐々に現実と物語の境が不明瞭にな
って行くというもの。1991年にブライアン・デ・パルマの監
督で映画化された“The Bonfire of the Vanities”(虚栄
のかがり火)などの脚本家としても知られるマイクル・クリ
ストファーが自作の脚本を監督する作品で、撮影は来年の5
月15日からノヴァスコシアのハリファックスで予定されてい
る。しかし、現在のところ配給会社は未定だそうだ。
 8月1日付の第68回で紹介した“The Italian Job”(ミ
ニミニ大作戦)の続編について、パラマウントから、マーク
・ウォルバーグ、シャーリズ・セロン、セス・グリーン、モ
ス・デフに対して、再登場の交渉を行っていることが正式に
発表された。なお、脚本は前回報告した通り、サントロペと
パリ、それにフランスアルプスを舞台にしたものとなるが、
まだ完成されてはいないそうだ。しかし、撮影は来年3月に
開始され、2005年11月の公開が計画されている。また監督に
は、前作を手掛けたF・ゲイリー・グレイが一番手として交
渉されている模様だ。因に、セロンは、同じくパラマウント
製作の“Aeon Flux”の撮影中に首を負傷して、8月31日以
来撮影を中断していたが、9月27日に復帰し、以後の撮影は
滞りなく行われているようだ。
 そのシャーリズ・セロンに、『モンスター』でオスカー獲
得という快挙を成し遂げたメディア8では、次なる商業ベー
スの作品として、コミックブックライターで小説家、ゲーム
ライターでもあるというゲイリー・ウィッターの脚本による
“Reaper”の製作を進めることを発表した。この作品は、ウ
ィッターの書き下ろしで、内容は『ブレード・ランナー』的
なスタイリッシュアクション。ヴァージルという名の私立探
偵が、ディーリアという美しくて神秘的な依頼人に雇われ、
生と死、正と邪が混ざりあう幻想的な世界に迷い込んで行く
という物語だそうで、この通り映画化されたら、かなりのも
のになりそうだ。スタッフ、キャストの発表はないが、来年
2月の撮影開始に向けて準備が進められる。
        *         *
 最後に、1978年から87年に掛けて製作された4本の『スー
パーマン』映画や、『ある日どこかで』などに主演したクリ
ストファー・リーヴの訃報が伝えられた。それまでほとんど
無名だった青年が一躍大スターになり、その後の事故で全身
麻痺になりながらも、アカデミー賞受賞式に登場するなど、
その生き続ける姿で人々に勇気を与えてくれたリーヴだった
が、10月9日に心臓発作を起こして昏睡状態となり、そのま
ま10月10日に妻と三人の子供、それに両親に看取られての最
期だったということだ。
 “Superman”については、ちょうど新作の復活編の準備が
進んでいるときでもあり、何とか新作に登場して欲しいとい
う期待もあったが、先日亡くなった“King Kong”のフェイ
・レイと同様、それは叶わぬことになってしまったようだ。
2人とも復活の開始を見届けての死去のようにも見えるし、
特にリーヴには、彼の事故のせいで他の俳優がやりたがらな
いなどの発言もあったことも思うと、切ない気持ちで一杯に
なる。
 ご冥福をお祈りしたい。



2004年10月14日(木) 僕の彼女を紹介します、CEO、陽のあたる場所から、三人三色、運命を分けたザイル

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『僕の彼女を紹介します』(韓国映画)         
韓国映画史上最高の日本興行を記録した『猟奇的な彼女』の
監督クァク・ジェヨンと女優チョン・ジヒョンが再び組んだ
ラヴ・ストーリー。                  
主人公は、赴任したばかりの女子高校の青年教師と、思い込
みの激しい熱血女性巡査。この2人が、巡査の誤認逮捕で出
会ってから愛し合うようになり、そして…という物語。  
まあ、何しろ思い込みの激しい女性に振り回されながらも、
彼女を暖かく見つめる男の姿が、男の目で見ても気持ち良く
描かれている。                    
実は、前作は見ていないのだが、本作のコミカルでちょっと
切ない感覚が共通のものならば、なるほど大ヒットしたこと
も理解できる。いまさら擦れた大人の目で見てとやかく言う
べきものでもないだろうし、こういう作品がヒットしてくれ
れば、それはそれで嬉しいものだ。           
なお本編は、後半いろいろファンタスティックな展開になっ
ていて、それが多少しつこいくらいに描かれるが、ラヴ・ス
トーリーというのは、これくらい描いてこそ正解だろう。そ
こに挟み込まれるアクションも、アクセントとして様になっ
ていて見事だった。                  
それから、この映画の挿入歌としてX−JapanのTears
という楽曲が使われている。彼らは、一時ワーナーの手で世
界進出が試みられたようにも記憶しているが、今回使われた
のは監督の意向で、その関係ではないようだ。しかし、朝鮮
語のせりふに日本語の歌詞が被るのは新鮮な驚きだった。 
因に、配給会社ではこの作品の題名を、略称で『ぼくかの』
と呼ばせたいようだ。                 
                           
『CEO−最高経営責任者』“首席執行官”       
1984年設立の青島冷蔵庫総廠を前身として、現在では白物家
電の売り上げで世界第6位、アジアの企業では韓国サムスン
に次ぐ第2位のシェアを誇る中国ハイアール社の今日に至る
道程を描いた再現ドラマ。               
同社は初期の段階でドイツ企業の技術を導入し、それを足掛
かりに徹底した品質管理と、中国政府の開放政策の先を行く
経営体制の改革で、世界の一流企業にのし上がって行く。し
かしその道程は、社員の意識改革などいくつもの困難を克服
したものだった。                   
そのドイツ企業の協力を得るまでの涙ぐましい努力や、どう
しても品質の上がらない冷蔵庫76台を工場内の敷地に並べ、
工場長(社長)である主人公自らがハンマーで叩き壊すエピ
ソードなど、本当にフィクションのようなストーリーが繰り
広げられる。                     
もちろん、これらは実話に基づくということだが、ふと今の
日本にこれだけのエピソードを語れる状況があるのかと考え
ると、正直、ほとんど存在しないのではないかと思ってしま
った。日本という国は、それほどに面白くも何ともない国に
なってしまった。                   
また、映画の途中でヘッドハンティングされた元社員が後日
訪ねてきたところで、「昔は自分が主人公のような気分で働
いていた」というせりふが出てきた。僕も30年ほど前にサラ
リーマンを始めた頃は、そんな気分だったような気がする。
しかし、今の日本でそのような気分で働いているサラリーマ
ンがどれだけいることか。               
この映画には、そんな日本の栄光の時代を再現しているよう
な趣もある。その意味では懐かしさも感じるものだが、その
一方で、今の日本は一体どうなってしまったのだと考えさせ
られる作品でもある。                 
なお、試写会の上映後に、監督と脚本家、それにモデルとな
ったハイアール社CEOチャン・ルエミン氏とのQ&Aが行
われ、そこではチャン氏が実名を出すことを非常に嫌がった
ということについて質問が集中した。          
その答えを、チャン氏は明確にしなかったが、代って監督が
2つの諺を挙げた。                  
その一つは日本と同じ「出る杭は打たれる」だったが、もう
一つは、通訳によると「森から突き出した梢は強い風を受け
る」というものだそうだ。どちらも意味は同じことだと思う
が、後者には何か前向きの響きがあり、ちょっと良いなと感
じた。                        
                           
『陽のあたる場所から』“Stormy Weather”       
一種の自閉症と思われる女性と、女性精神科医の交流を描い
たアイスランド映画。                 
数年前の実話で、フランスで保護されて精神病院に収容され
た女性が、実はイギリス人であることが判明したという話が
あり、本作はその実話にインスパイアされた物語。    
主人公の女性精神科医は、勤務先のベルギーの病院で一人の
女性患者と出会う。彼女は口を利かず、身元の知れるものは
何も持っていない。そして何時も一人きりで周囲のものとも
つきあおうともしない。                
そんな彼女が気になる女医は、彼女の話し相手になろうとす
るが、なかなか上手く行かない。しかし徐々に治療が進み始
めたとき、彼女の身元がアイスランド人と判明し、大使館の
手で本国に送還されてしまう。             
そして治療が途中であることを気にした女医は、アイスラン
ドの彼女のもとを訪ねて行くが…。           
人間が生きて行くことの難しさ。そしてそれに救いの手を伸
ばすことの難しさ。果たして救いをさしのべることが正しい
のか、そんなことをいろいろ考えさせられる作品だった。 
なお、アイスランドが舞台の映画というと、数年前に永瀬正
敏が主演した映画を見たことがある。その時は雪ばかりの世
界だったが、今回は雪と共に名物の火山も紹介される。  
アイスランドの火山では、以前に、流れ出したマグマに冷た
い海水を掛けて人家に被害が及ぶのを食い止めたというニュ
ースが紹介されたことがあったが、今回登場するのは正にそ
の火山。記念に残されたという半壊した小屋なども紹介され
ていた。                         
物語は火山と直接関係はないが、厳しい現実の象徴として上
手く使われていた感じだ。               
                           
『三人三色』(韓国映画)               
韓国のチョンジュ映画祭が、ディジタル映像による新しい表
現を求めて始めたアジアの監督による短編映画の競作。2000
年に開始されて5回目になる今回は、韓国のポン・ジュノ、
香港のユー・リクウァイ、日本の石井聰亙がそれぞれ5000万
ウォンの製作費で、各々30分前後の作品を製作している。 
その1本目は、『殺人の追憶』などのポン・ジュノ監督によ
る『インフルエンザ』。                
作品は、ソウル市内の各所にある監視カメラの映像という設
定で、そこに写る1人の男の行状が辿られる。そして、最初
はそこそこだった男が、どんどん崩れて行く姿が見事に写し
出されて行く。                    
もちろんこれらの映像はフェイクだと思うが、なるほどこん
なことになって行くのかという感じで、足を踏み外した男の
姿が見事に表現されていた。上映時間は今回の3本中では一
番短い28分だが、当然テンポも良いし、何しろ笑えるのが良
かった。                       
逆に考えると、この映像で長編は絶対にきつい訳で、その意
味でも見事に短編映画という感じの作品だ。実験映画的な雰
囲気もあるし、企画の意図が最も理解されている作品という
ことができるだろう。                 
これに比べると後の2作品は、どちらももっと長い作品の抜
粋というような感じで、見ていてもどかしさが感じられた。
もっと言いたいことがあるのに、それが表現し切れていない
感じなのだ。                     
もともとが長編映画の監督だから、そのテンポから離れられ
ないのかも知れないが、1本目の作品が見事だっただけに、
よけいに後の2本が物足りなく感じられてしまったようだ。   
                           
『運命を分けたザイル』“Touching the Void”      
1985年、ペルーアンデスの6000m級の山、シウラ・グランデ
峰で起きた実際の遭難事件を再現したドキュメンタリードラ
マ。                         
映画は、その遭難を体験した2人のクライマーと、ベースキ
ャンプの留守番役で参加した男性の本人へのインタヴューで
始まる。従ってこの時点で観客は、どちらが遭難したかは判
らないが、取り敢えず全員が生きて帰還したことは判ってし
まう。    
つまりこの作品は、いわゆるヒーローものの主人公が窮地に
陥るのと同様に、絶対に助かることが判って見ていることに
なるものだが、それが何とも、どうしてこんな状況から生還
できたかという感じで、ヒーローものと同様、正しく手に汗
握る作品だった。      
実際のクライミングの撮影はヨーロッパアルプスで行われた
ようだが、ペルー現地の山岳風景と合さって、その美しさ、
過酷さは見事に表現されている感じだ。僕自身は登山の経験
を持たないので、その嘘は見抜けないが、恐ろしさは充分に
感じられたと思う。                  
なお、主人公の1人は片足を骨折した状態で下山してくるの
だが、本当の意味とは違うけれど文字通りの七転八倒で、僕
が今までに見た映画の中で一番痛そうな映画ではないかとも
思った。                       



2004年10月13日(水) オーバー・ザ・レインボー、ボン・ヴォヤージュ、スカイキャプテン、エメラルド・カウボーイ、エクソシスト・ビギニング

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
次の紹介文には重大なネタばれがあります。読むときはその
つもりで読んでください。反転すると読めます。     
『オーバー・ザ・レインボー』(韓国映画)       
交通事故で部分的記憶喪失になった気象予報士の男が、記憶
の中の女性を求めて自分の過去を検証して行く物語。それに
協力するのは、大学時代のサークルのメンバーで、同じくメ
ンバーだった親友の恋人だった女性。          
しかしいくら調べても記憶の中の女性の正体は判らず、やが
て献身的に協力してくれる女性に好意を感じた主人公は、過
去を探ることをやめ、現実の彼女を愛そうとするが…。その
直後、彼女の職場である地下鉄の遺失物係に重大な手掛かり
が届けられる。                    
主人公が記憶喪失の物語というと、どうしても『心の旅路』
を引き合いに出さない訳に行かない。しかし、ジェームズ・
ヒルトンの原作をマーヴィン・ルロイ監督が映画化した1942
年の作品は、今ではちょっと時代がかったメロドラマという
イメージだ。                     
その点で、この作品の展開は現代的で全く見事としか言いよ
うがない。最初は部分的記憶喪失という現象がちょっと都合
が良すぎるようには感じるが、そこにはちゃんと理由もある
し、最後に辻褄が合って行く様子は見ていて納得でき、気持
ちの良いものだった。                 
なお、試写会では結末の映像に疑問を持っている人がいたよ
うだったが、あれはカメラの目線であって、登場人物の目線
ではないことは理解するべきだろう。こういう手法はよく使
われるものだし、その直前のシーンも同様だから誤解は生じ
ないはずだが…。                   
未来を予想する気象予報士と過去を保管する遺失物係という
主人公たちの人物設定にも上手さを感じるし、過去と現在を
交錯させながら、徐々に謎を解いて行く展開も巧みで見事。
特に韓国では兵役で空白が生じてしまうという事情も上手く
利用されていた。                   
物語に破綻は見当たらなかったし、チョ・ミュンジュの脚本
は実に巧みで、監督のアン・ジヌは新人のようだが、さすが
『シュリ』などのカン・ジェギュ・フィルムの作品という感
じだ。主演のイ・ジョンジェとチャン・ジニョンの雰囲気も
良かった。                      
ただし、劇中劇で主人公が雨の中で踊るシーンでは、踊りは
“Singin' In The Rain”なのに、音楽が“Raindrops Keep
Fallin' On My Head”になっていたのは何故なのだろう。 
このシーンでは、踊りと音楽が妙に一致しているのも不思議
な感じだったが、1952年製作の原作映画の著作権が切れた年
に本作は製作されているものだし、最近このダンスシーンの
パロディ染みた使われ方は結構見ているようにも思うが、わ
ざわざこのようにした理由が思い当たらない。      
因に、本作の主題歌には、題名にもなっている『オズの魔法
使い』の主題歌がストレートに使われているのだが…


『ボン・ヴォヤージュ』“Bon Voyage”         
イザベル・アジャーニの主演で、1940年6月のパリ陥落を背
景にした歴史ロマン。                 
アジャーニは1955年生まれだから来年には50歳になる。その
彼女が2003年製作のこの作品では、見事に可愛い女を演じて
いるのだから、演技力の凄さを感じてしまう。      
1940年のパリ。アジャーニ扮する女優のヴィヴィアンヌは、
主演の新作の試写会を終えた夜、以前からしつこく言い寄っ
ていたパトロン気取りの男を自宅で殺してしまう。そして、
その死体の始末を幼馴染みの作家の男に頼むのだが…。  
やがてパリ陥落が迫り、女優は知遇を得た大臣の力を借りて
ボルドーに脱出。しかしそこには、彼女の罪を被って収監さ
れたが偶然脱獄した作家や、殺された男の遺族。さらには原
爆の材料の重水を抱えてイギリス脱出を願う学者とその助手
なども集まっていた。                 
何しろ多彩な登場人物がしっちゃかめっちゃかな行動を繰り
広げる中、主人公の女優は次々に男を手玉にとって危機を潜
り抜けて行く。これがまたアジャーニの名演技というか、元
来が女優という役だから、それは見事に男を手玉にとって行
くというものだ。                   
この男たちを、重鎮と呼べるジェラール・ドパルデューを始
め、『E.T.』が懐かしいピーター・コヨーテ、さらに新人
のグレゴリ・デランジェールらが演じる。        
脚本、監督はジャン=ポール・ラプノー。彼は、小学生だっ
た当時、実際にパリからボルドーへ逃れた体験を持っている
ということだ。しかし彼は、出来事を深刻に捉えるのではな
く、恐らくは当時の小学生が感じていたままに、ユーモアを
込めて軽快に描いている。               
その監督の想いを見事に表現したのが、アジャーニの演技と
も言えそうだ。                    
他に共演は、ジョニー・デップのゲスト出演も話題になって
いる“Ils se marierent et eurent beucoup d'enfants”の
監督でも知られるイヴァン・アタルや、『8人の女たち』の
ヴィルジニー・ルドワイヤンなど、特に学者の助手に扮した
ルドワイヤンが儲け役で良かった。           
                           
『スカイキャプテン−ワールド・オブ・トゥモロー−』  
       “Sky Captain an the World of Tomorrow”
ジュード・ロウ、グィネス・パルトロー、アンジェリーナ・
ジョリーの共演で、1939年のニューヨークを舞台にした冒険
活劇。                        
1939年、ニューヨーク万博の開かれたこの年のある日、ニュ
ーヨークを始め世界の大都市が突如巨大ロボットの大軍に襲
われる。この事態に、ただちにスカイキャプテンに救援が求
められ、辛くもニューヨークはロボットを撃退するが…。 
ロウ扮するスカイキャプテンは、プレス資料には空軍のエー
スパイロットとあるが、どうもこの空軍は傭兵部隊らしく、
自前の滑走路と整備基地を持っていて、そこでは技術開発も
行われている。                    
一方、ジョリーが扮するのは飛行船の応用で空に浮かぶ空中
空母の女艦長。こちらこそ英国空軍の所属のようにも見えた
が、取り敢えずはこの2人が協力して地球の安全を守ってい
るという設定らしい。                 
そして、この2人にパルトロー扮するスカイキャプテンの元
恋人の新聞記者が絡んでというか、主にはロウとパルトロー
が世界中を股に掛けて、ロボット軍団を操る謎の科学者の陰
謀に立ち向かって行くというお話だ。          
この手の地球を守る個人組織というと、最近ではサンダーバ
ードということになりそうだが、僕の記憶では、子供の頃に
読んだ講談社の全集でアップルトン原作のTom Swiftが好き
だった。1910年代の作品だが、科学と冒険の夢にあふれてい
たものだ。                      
脚本監督のケリー・コンランも、このようなジュヴィナイル
SFにどっぷり漬かって育ったのだろうか。この『スカイキ
ャプテン』にも、そんな子供の頃の夢がぎっしり詰まってい
るような感じがした。                 
なおコンランは全くの新人だが、いきなりこのような大作を
手掛けたもので、次回作にはさらに超大作になるはずのE・
R・バローズ原作『火星』シリーズを任されることになって
いる。本作でもCGI多用の作品を見事にまとめ上げた監督
の手腕に期待したい。                 
                           
『エメラルド・カウボーイ』“Emerald Cowboy”     
南米のコロムビアでエメラルド王と呼ばれるまでになった日
本人、早田英志の自伝を基に作られたセミドキュメンタリー
作品。                        
早田は、この映画の製作総指揮、脚本、共同監督にも名を連
ねていて、功なり名を遂げた男が自画自賛の映画を作ったと
いうところだが、映画ではエメラルド取り引きの実態なども
描かれていて、予想以上に面白い作品だった。      
1940年生まれの早田は、東京教育大学を卒業後にアメリカに
渡り、さらに30代でコロムビアに移住、Esmeralderoと呼ば
れる原石取引業者を振り出しに、現在はエメラルド鉱山、輸
出会社、警備会社なども経営しているということだ。   
しかし常に10人以上のボディガードに周囲を固めさせ、自ら
も9mmの拳銃を腰に挿して、過去には4回ほど身を守るため
に撃ったこともあると言う。中で本人も語っているが、正し
く開拓時代のアメリカ西部。そこに憧れ、そして暮らしてい
る男の物語だ。                    
多分、本当はもっと汚いこともしていたのだろうが、映画で
は比較的きれいごとの部分しか描かれない。その辺の物足り
なさは拭えないが、それは自伝映画では仕方のないこととし
て、全体的には興味深く見られた作品だった。      
                           
『エクソシスト・ビギニング』             
              “Exorcist: The Beginning”
1973年に公開され、センセーションを巻き起こした『エクソ
シスト』から30年経って映画化された、オリジナルの25年前
の物語。                       
30年前の映画の巻頭で、アフリカの砂漠での遺跡発掘のシー
ンが描かれるが、本編では、その発掘現場で起きた物語の全
容が明らかにされる。                 
オリジナルでマックス・フォン・シドーが演じ、本作ではス
テラン・スカルスゲードが演じるメリン神父は、オランダ人
で第2次大戦中のナチの侵攻下、助けを求めてきたユダヤ人
を救えなかったことが原因で信仰を捨てたとされる。   
そして考古学者となって世界の遺跡を発掘して歩く内、ケニ
アで5世紀に建設された教会の発掘に立ち会う。そこへは謎
の男の指示で向かったものだが、歴史的には存在しないはず
の教会は完成直後に埋められたと推定され、怪しげな雰囲気
が漂っていた。                    
この教会に潜む謎を、現地の少年や、『007/ゴールデン
アイ』でロシア人コンピュータ技師を演じたイザベラ・スコ
ルプコ扮する女医らと共に明かして行くというものだ。  
完成直後に埋められた教会という設定は、最近別の映画でも
あったと思うが、邪悪なものを封じ込めておく手段としてキ
リスト教関係ではよくやることなのだろうか。だったら、も
う少し慎重に事を運んでもいいようなものだが…。    
因に、今回公開される作品はレニー・ハーリン監督によるも
のだが、実はこの作品の製作では、ポール・シュレイダー監
督で一旦完成された作品が、衝撃度が足りないとして全面キ
ャンセルされ、ハーリン監督で撮り直された経緯がある。 
このシュレイダー版もアメリカではDVD発表されるという
情報もあり、両監督の作風を比較できる楽しみが期待されて
いるものだが、現状でハーリン版を見ただけの感じでは、ハ
ーリンも余りおどろおどろしさを演出しているようには思え
ず、結構ストレートな物語になっていた。さてシュレーダー
版はどうなのだろうか。                



2004年10月01日(金) 第72回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 前回に続いて、ソニーのMGM買収についてもう少し書か
せてもらう。
 前回、最後で危ない賭けと書いたが、今回の買収劇で一番
気になるのは、その買収資金の調達の仕方だ。
 以前にソニーがコロムビアを買収したときには、その資金
の大半は銀行からの借入金だった。このように銀行から借り
入れの場合には、以後は、その利息分だけ払い続ければ、借
入金の元本が膨らむことはない訳で、実際に、「コロムビア
には利息分だけ稼いでもらえればいい」というような話を、
当時コロムビア買収の中枢にいた人から聞いたことがある。
ただし、後年ソニーはその総額を一括返済しており、現在は
その分の借入金は解消されている。
 ところが今回のMGMの買収では、複数の投資家グループ
との共同で買収したということで、実は、今回の買収額の総
額50億ドル弱の内でソニーが用意したのは3億ドル程度、残
りの40数億ドルはその投資家グループが資金を提供したとさ
れている。これだけで読むと借入金もなく健全そうに見える
のだが、実際の契約では、ソニーは投資家グループの出資金
を順次買い取って、最終的には総額をソニーが支払うという
もので、つまり分割払いの契約を結んでいるものなのだ。
 実際問題として、投資家グループなる人たちが映画会社の
権利を持っていても、その運用ができなければ何の意味もな
い。では何のために資金を出したかといえば、それは、この
分割払いの間の利息を儲けるためのもの。つまりソニーは、
クレジットでMGMを買ったようなもので、そのお金は必ず
返済しなければならないし、その間の利息は、当然銀行から
の借り入れよりも高いものと考えられる。ソニーはそういう
資金に手を出しているということなのだ。
 もちろん、企業の運営において、大きな投資をする場合に
は資金の借り入れは当然のことだし、それが銀行であれ投資
家グループであれ、双方が綿密な調査の上で決定しているこ
とは間違いない。しかし、今回の買収では銀行が動かなかっ
た分だけ、リスクも大きいものだったと考えられる。
 さて、ソニーがそれほどのリスクを負ってまでMGMを買
収する理由だが、これはもうDVDの次期規格を巡る覇権争
い以外には考えられない。実際ソニーの連結決算では、ここ
数年収支の改善が見られないが、実は、本体の電機メーカー
の部分はさらに大幅な赤字で、それを他のゲームや映画、金
融などの黒字で補填している状態なのだ。ここで電機メーカ
ー部分の不振は、ウォークマンなどのようなヒット作が生ま
れないことによるものだが、その電機メーカーとしてヒット
を狙うために必要なのが、DVDの次期規格の覇者となるこ
となのだ。
 現在ソニーは、DVDの次期規格としてブルーレイ・ディ
スクを提唱しているが、今回MGM買収を争ったワーナーは
東芝と提携しており、その東芝は別の規格の陣営に属してい
る。従ってMGMがワーナー傘下に入ると、MGM作品の全
てがその規格でソフト化されることになり、これはブルーレ
イ・ディスクの将来にかなりの脅威となるものだった。
 しかし、ソニーがMGMを買収したことで、ブルーレイ・
ディスクの将来にも明るい展望が開けてくることにはなった
ものだが、まだその覇権が完全に決まったものではなく、こ
れでももし覇権が取れないとなると、それはソニーの浮沈に
も関わってくることになりそうだ。ソニーの危ない賭けは、
まだまだ続いているのだ。
 もっとも、映画会社としては、本社の業績がどうなろうと
あまり関係ない訳で、ここでコロムビアがMGMを買収して
どうなるかを映画会社として見ると、いろいろ面白いことが
起こりそうだ。
 その一つは、前回はあまり冴えないとは書いたものの、や
はり007シリーズで、ここでソニーが一時期に狙っていた
“Thunderball”のリメイクは今更と思うが、実は1967年に
製作された“Casino Royale”が、イアン・フレミングの原
作の中では唯一まともに映画化されていない作品として残っ
ている。この67年作品は、元々が1954年に製作されたテレビ
ドラマ(007の最初の映像化作品)のリメイクなのだが、
007のパロディとして製作された映画は当時コロムビアが
配給し、現在もその権利を所有している。従ってコロムビア
とMGMが統合されたら、この作品の本格的なリメイクは、
かなり実現性が高そうに思えるのだが…。
 以上、ソニーのMGM買収について、自分の考えを書いて
みました。
        *         *
 以下は、いつもの製作ニュースを紹介しよう。
 まずは、ジョナサン・モストウ監督が、2005年の撮影開始
で“Terminator 4”の準備を進めていることが公表された。
 準備の状況は、脚本を『T3』の最終稿を仕上げたジョン
・ブランカートとマイクル・フェリスが担当しているという
もので、前作の結末からの進展が描かれる脚本の準備稿は、
すでに完成されているということだ。
 ただし出演者では、前作主演のニック・スタール、クレア
・デインズに続編の契約がしてなかったという情報もあり、
一方、カリフォルニア州知事となったアーノルド・シュワル
ツェネッガーの出演は?もっともこちらは、クリスタナ・ロ
ーケンが引き継いでくれれば、それもいいと思うのだが…。
 製作は、前作で権利を確立したマリオ・カサール、アンデ
ィ・ヴァイナのC−2プロダクションとインターメディア。
配給はインターメディアが取り仕切るが、前作同様、アメリ
カ地区はワーナー、海外はソニーが担当することで話し合い
が行われるようだ。ただし、海外の一部地域では別の権利が
確立しており、日本は東宝東和が行うことになるようだ。 
 なお、このシリーズは言うまでもなくジェームズ・キャメ
ロン監督が創始したものだが、前作から引き継いだモストウ
が“T4”を完成すると監督本数は2対2となり、名実とも
にモストウのシリーズになってしまいそうだ。
        *         *
 ユニヴァーサルが来年夏の公開を目指しているヴィデオゲ
ームの映画化“Doom”の監督に、ポーランド出身で元撮影監
督のアンジェイ・バートコウィアクの起用が発表され、10月
半ばからの撮影が予定されている。
 この作品は、アクティヴィジョン社から発表されている同
名のゲームシリーズの内、“Doom 3”として発表された作品
に基づくもので、特殊作戦に従事する兵士を主人公にしたア
クション映画になりそうだ。
 そしてこの主演には、ニュージーランド出身で『リディッ
ク』などに出ていたカール・アーバンが抜擢された。また、
女性科学者役で『ダイ・アナザー・デイ』やジョニー・デッ
プ主演の新作“The Libertine”にも出演しているロザムン
ド・パイク、さらにドウェイン“ザ・ロック”ジョンスンの
共演も予定されている。
 なお監督のバートコウィアクは、ジェット・リー主演で昨
年公開された『ブラック・ダイヤモンド』など、アクション
映画の監督で実績を積んでいるが、今回は前任監督の急な降
板を受けての起用で、期待に応えたいところだ。またザ・ロ
ックには、ジョン・ウー監督で同じくヴィデオゲームの映画
化“Spy Hunter”の計画もあったはずだが、どうなっている
のだろう。
        *         *
 昨年春に公開されて、全米で1億ドル突破の大ヒットを記
録したパラマウント映画“How to Lose a Guy in 10 Days”
(10日間で男を上手にフル方法)の続編が計画されている。
 この続編は、前作と同じくミシェル・アレクサンダーとジ
ーニー・ロングが発表したユーモアブックに基づくもので、
本の題名は、“How to Tell He's Not the One in 10 Days
(and Other Warning Signs)”というもの。因に、この危険
信号には、「彼があなたより沢山宝石を付けたとき」とか、
「あなたが行こうとしているどんな場所でも、そこでセック
スをするのが如何に最高かということを、彼が言い始めたと
き」などの事例が挙げられているそうだ。
 そしてこの本の映画化権を、前作を製作したクリスティン
・ピータースが今年初めに獲得し、脚本家が選考されていた
もので、この度この脚色を、元スタンダップ・コメディアン
の女性脚本家グレン・ウェルズに任せることが発表された。
なおウェルズは、先にワーナーで“Diary of a Mad Bride”
や“Boyfriend on a Box”などのコメディ作品の脚本を手掛
けているということだ。
 前作は、ケイト・ハドスンとマシュー・マコノヒーの共演
で製作されたが、今のところ続編の配役は未定のようだ。
        *         *
 “Scary Movie 3”(最‘狂'絶叫計画)では、『サイン』
『ザ・リング』などのパロディで全米1億ドル突破の興行を
達成したデイヴィッド・ズッカー監督が、今度はスーパーヒ
ーローのパロディを計画している。
 この計画は、“Scary Movie 3”と同じく製作ロバート・
K・ワイス、脚本クレイグ・メイジンとのトリオで進められ
るもので、題名は“Superhero!”。今度は、『スパイダーマ
ン2』や“Batman Begins”“Fantastic Four”などが料理
されるようだ。配給も同じくディメンションが担当。
 なおズッカーは、最初は“Scary Movie 4”の計画を練っ
ていたそうだが、そのためには“The Ring 2”のようなキー
となる映画の公開が必要ということで、それらを考えている
内にスーパーヒーローのパロディがやりたくなったそうだ。
製作開始は来年春の予定。それに続けて“Scary Movie 4”
の製作も進める計画になっている。
 ところで“Scary Movie 3”は、前2作を手掛けたウェイ
アンス一家が、金の力でディメンションから他社に移籍して
しまった後を受けて、ズッカー監督が立ち上がったものだっ
たが、この作品では、ウェイアンス一家が他社で進めていた
SF映画のパロディ計画をいち早く先取りして、結果ウェイ
アンス一家の計画を葬ってしまったとも言われている。
 つまりは、ズッカー監督の実力を見せつけた形にもなった
訳だが、元々はジム・エイブラハムや兄弟のジェリー・ズッ
カーと組んでパロディ映画を量産してきたズッカー監督の復
活で、この勢いは当分留まりそうにないようだ。
        *         *
 前回も報告したジョージ・A・ロメロ監督のゾンビシリー
ズの新作“Land of the Dead”の情報で、この作品の、一部
フランス語圏を除く全世界配給権をユニヴァーサルが獲得し
たことが発表された。
 この作品は、当初はフォックスで計画が進められていたも
のだったが、題名を巡るトラブルなどでロメロが契約を解消
し、2カ月ほど前に、製作者のマーク・カントンが新設した
アトモスフィア・エンターテインメントと、パリに本拠を置
くワイルドバンチというプロダクションが資金を提供して、
ロメロが独自に製作を行うことになっていた。しかしその時
点では全世界向けの配給は決まっていなかったものだ。
 また今回の発表に絡めて報告された映画の情報では、今回
の作品は、従来からのロメロのゾンビシリーズの流れを引き
継ぐものではあるが、新たな展開があり、今後に続く新たな
ゾンビシリーズの開幕の作品となるということだ。これで、
Night−Dawn−Dayと続いたシリーズから、題名がLandに変っ
た理由も判る感じだが、この後はやはりContinent−Worldと
続くのだろうか。
 新作の内容は、7月15日付第67回でも紹介したが、地上の
ほとんどがゾンビによって支配され、生き残った人々はゾン
ビの進入防止用の壁に囲まれた都市に住んでいる世界を描く
もので、撮影は10月11日にカナダのトロントで開始される。
出演者は交渉中ということだが、ロメロの希望では、主演に
デニス・ホッパーを迎えたい意向だったようで、その希望は
叶ったのだろうか。
 また、本作の製作費には1500万ドルが用意されているとい
うことだが、このシリーズの第1作は14万ドルの製作費で、
世界中から2000万ドルを稼ぎだし、第2作は120万ドルの製
作費で4000万ドルを稼いだそうだ。
 ところでユニヴァーサルでは、今年の春にはリメイク版の
“Dawn of the Dead”を配給、また9月第4週にはパロディ
版の“Shaun of the Dead”も配給しており、今年に入って
2本のロメロ=ゾンビ関連の作品を配給していた。そして今
回の契約では、ついに本家の作品を手に入れることになった
ものだ。なおリメイク版については、僕はちょっと首を傾げ
る作品だったが、パロディ版の評価はかなり高く、期待でき
るようだ。
        *         *
 『ヴィレッジ』に続いて、ピーター・ジャクスン監督の新
作“King Kong”に出演しているオスカー俳優エイドリアン
・ブロディが、“Truth, Justice and the American Way”
という作品に主演する計画が発表された。
 この題名を見ただけでお判りの方も多いと思うが、これは
テレビ版『スーパーマン』の巻頭のナレーションの一部で、
日本語版では「正義と真実を守るため」としか訳されなかっ
たが、実は原語では、「真実」の後に「American Way=アメ
リカのやり方」という言葉が続いていたものだ。
 そして今回の作品は、このテレビ版『スーパーマン』に主
演した俳優ジョージ・リーヴスにスポットライトを当てたも
ので、特に1959年自殺したリーヴスが、彼自身をスターダム
に押し上げたスーパーヒーローから受けた様々な影響や、彼
が感じていた重圧が検証されることになるようだ。
 ポール・バーンバウムの脚本から、スチーヴン・キング原
作のテレビシリーズ“Golden Years”などを手掛けたアレン
・コウルターが監督する作品で、製作は『0012捕虜収容所』
のスター=ボブ・クレインの後半生を追った“Auto Focus”
(ボブ・クレイン)のフォーカス・フィーチャーズ。
 なおブロディが演じるのは、リーヴスの役ではなく、彼の
自殺事件の捜査に当った刑事の役だそうだ。
        *         *
 粘土を使ったクレイメーションで一時代を築いたウィル・
ヴィントンの流れを汲むアニメーションハウス=ヴィントン
・スタジオに、『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』を手
掛けたヘンリー・セリック監督が参加し、ニール・ゲイマン
原作のヒューゴー賞受賞作“Coraline”の映画化を進めるこ
とが発表された。
 この原作は2002年に発行された児童書で、主人公の少女が
引っ越してきた新しい家の秘密の扉を潜り抜けると、そこに
は別世界が開けていて、その世界で彼女はヒロインになる資
質を備えていたというもの。そしてこの映画化では、当初は
実写での製作が計画されていたが、セリックの参加でアニメ
ーションによる製作が検討され、最終的にその方針に決まっ
たということだ。
 なお、セリックはウェス・アンダースン監督の実写とアニ
メーションの合成作品“The Life Aquatic”のアニメーショ
ン監督を担当し終えたところで、この後には彼自身が監督す
る短編CG作品の“Moongirl”という作品の準備が進められ
ているそうだ。ということは、現在ヴィントン・スタジオで
進められているティム・バートン製作の“Corpse Bride”に
は、セリックの参加はないということだろうか。
        *         *
 古代エジプトの女神イシスが着けていたブレスレットが、
現代アメリカの10代の少女に神秘のパワーをもたらすという
“Legend of Isis”の映画化が、パラマウント傘下のグラム
ネット・プロダクションで進められている。
 この作品は、ダーレン・デイヴィス原作のコミックスシリ
ーズに基づくものだが、実は今年21歳のアリ・ラッセルとい
うUCLAの脚本家クラスを出たばかりの女性が、女性版の
ピーター・パーカーのような物語を探していたところ、この
作品に行き着いたということで、彼女の執筆した脚本は最高
50万ドルでの金額でグラムネットが契約したというものだ。
 物語は、10代の少女がイシスのブレスレットを発見し、そ
のパワーを身に付けるが、それは同時に闇の力も目覚めさせ
てしまうというもの。1984年公開の『ロマンシング・ストー
ン/秘宝の谷』と、テレビの“Buffy the Vampire Slayer”
を合せたような作品と紹介されていた。
 なお、製作はグラムネットで行われるが、同社はパラマウ
ントとは優先契約を結んでおり、この作品ならパラマウント
の配給になりそうだということだ。また、グラムネットでは
この他に“Inner Bitch”と“Honeymoon From Hell”という
コメディ作品を準備中だそうで、後者の題名はちょっと気に
なるところだ。
 それにしても、「女性版ピーター・パーカー」という言葉
は2カ所の記事でいずれも何の注釈なしに使われていたが、
アメリカの読者はこれで判ってしまうということのようだ。
        *         *
 後は短いニュースをまとめておこう。
 パラマウントで、ビーチバレーを題材にした映画が計画さ
れている。この計画は、リサ・アッダリオとジェイ・シラキ
ュースの夫妻脚本家チームが進めているもので、すでに50万
ドル前後の金額で脚本の契約が結ばれているということだ。
なお、夫妻はアテネオリンピックの女子ビーチバレーの試合
中継を見ていて物語を思いついたということだが、内容は、
2人のライヴァルだった選手がチームを組むことになり、勝
利のためにお互いプレイスタイルを理解しようとする、とい
うもので、それなりにビーチバレーの特徴の出た作品になり
そうだ。因に、夫妻はソニー・アニメーションで進められて
いるCGI作品“Surf's Up”や、コロムビアで計画されて
いる“Mai the Psychic Girl”の脚本も担当している。 
 同じくパラマウントで、中断中の“Mission: Impossible
3”の来年再開に向けて動きが出ている。この再開では、監
督をテレビシリーズ“Alias”などのJ・J・エイブラムス
が担当することが発表されているが、そのエイブラムスが、
“Alias”をともに作り上げた脚本家のアレックス・カーツ
マンとロベルト・オーチを呼び入れ、“M:I 3”の準備稿か
ら作り直していることが報告された。従ってこの報告が正し
いなら、すでに紹介されている全ての準備は無に帰すること
になるが、元々ストーリーは発表されていなかったものの、
契約済みの共演者などはどうなるのか。撮影は来年行われ、
公開は2006年夏とされている。
 最後に、ピーター・ジャクスン監督の“King Kong”の製
作がいよいよ開始され、製作費2億ドルをかけた撮影がニュ
ージーランドで進められている。なおその撮影準備では、主
演のナオミ・ワッツやジャック・ブラックにも、VFXを行
うウェタ・スタジオの見学ツアーが用意され、充分な理解の
上で撮影に臨めるよう気が配られたということだ。公開は、
2005年12月14日に全世界一斉で行われることになっている。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二