井口健二のOn the Production
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2004年04月30日(金) ウォルター少年と…、風の痛み、バレエ・カンパニー、ワイルド・レンジ、花咲ける騎士団、シュレック2、セイブ・ザ・W、機関車先生

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ウォルター少年と夏の休日』“Secondhand Lions”   
ハーレイ・ジョエル・オスメントとマイクル・ケイン、ロバ
ート・デュヴォルが共演した不良老年と少年の成長ドラマ。
オスメント扮するウォルター少年は、無責任な母親によって
夏休みの2カ月を2人の大叔父と一緒に過ごすことになる。
大叔父たちは、40年近く行方不明だった後に突然帰ってきた
ものだが、なぜか大金を隠しているという噂がある。そして
少年には、その金の隠し場所を探ることも命じられている。
こうして、お互いつき合い方の判らない少年と老人たちは、
ぎくしゃくした生活を始めるのだが…。そんな中、少年は古
い旅行トランクの底に、乾いた砂に埋もれて隠された女性の
写真を発見する。そして老人たちは少しずつ昔話を始める。
それは驚異に満ちた一大冒険物語だった。        
老人の思い出話と現実が交錯する展開は、先の『ビッグ・フ
ィッシュ』にも通じるところがあるが、『ビッグ…』がファ
ンタシーなのに対して、こちらはアドヴェンチャー。特に、
アラブ世界を背景にした外人部隊での活躍というのは、実に
微笑ましい。そしてこの2人の老人を、ひょうひょうとした
ケインと、無骨なデュヴォルが見事に演じている。    
一方、オスメントは、撮影当時14,5歳のはずだが、今までの
子供っぽさから、少し青年らしさが出てきた感じで、良い味
を出すようになってきた。ただ前半、今までのイメージで幼
さを強調している辺りが、ちょっとやり過ぎにも感じるとこ
ろで、この辺りはもう少し年長の感じに演出しても良かった
のではないかと思った。                
結局物語は、今なお破天荒な生活を続ける不良老人たちと、
少年との交流に移って行くのだが、その中ではオスメントと
ケインが、ディヴォルを見守っている雰囲気が実に良く、こ
の配役は見事としか言いようがない。そして、結末で見事に
カタルシスを感じさせてくれるところも素晴らしかった。 
時代のせいか、最近、元気の良い老人の話が多くなってきて
いるようにも感じるが、その中で本編は、老人が老人である
ことを素直に描いたもので、見る方も素直な気持ちで見るこ
とのできる作品のように感じた。            
                           
『風の痛み』“Brucio nel vento”           
ハンガリー出身でスイスに住む亡命作家アゴタ・クリストフ
の『昨日』という小説を、イタリアのシルヴィオ・ソルディ
ーニ監督が映画化した作品。              
東欧の小国からスイスに亡命してきた男性と、異母妹の女性
との関係を描いた物語。この物語の本筋は、屈折した恋愛物
なのだが、その中には、亡命者ゆえの苦しみや彼らの生活の
現実が描かれている。                 
主人公は、東欧の小国のさらに小さな村で、娼婦の母親によ
って父親も知らぬまま成長した。しかしある日、父親が誰で
あるかを知り、その父親が教育援助と称して彼を寄宿学校に
入学させようとしたことから、その父親をナイフで刺して逃
亡する。                       
そしてスイスにやってきた主人公は、小説家になることを夢
見て言葉を覚えつつ、現実には時計工場の労働者として働き
ながら10数年が過ぎる。しかし今なお独身の彼は、幼いころ
に机を並べた異母妹の面影を追っていた。そしてその異母妹
が思わぬ形で彼の前に現れる。             
せりふのほとんどは主人公の母国の言葉で、イタリアでの上
映時にも字幕付きで公開されたということだ。実際、配役に
はチェコ出身の俳優が起用されており、イタリア映画なのに
全く違った雰囲気の作品になっている。         
僕はイタリア語も、主人公たちの言葉も理解はできないが、
それでもその雰囲気が伝わってくるのは見事だった。   
                           
『バレエ・カンパニー』“The Company”         
『スクリーム』シリーズ3作に出演のネーヴ・キャンベル、
『スパイダーマン』シリーズ2作に出演のジェームズ・フラ
ンコ、それに怪優マルカム・マクダウェルの共演。しかもロ
バート・アルトマン監督で、バレエ界の内幕を描いた作品。
ほとんどジャンル映画というか、僕の興味を引く作品に多く
出演している俳優たちの共演で、それだけでも楽しみだった
が、しかもアルトマン監督。それにしても、この顔ぶれでこ
の題材というのは、ちょっと意外な感じもするが…。   
実はキャンベルは、元々はバレエをやっていたが、その裏側
の確執などに疲れてノイローゼになり、モデルを経て俳優に
転身したのだそうで、そのキャンベルが、バレエへの思いを
込めて、原案から製作も兼ねて作られた作品ということだ。
だから、バレエへの怨みつらみを描いた作品かというと、そ
うではなく、「ま、いろいろあるけどがんばりましょう」と
いうような映画に仕上がっていた。その辺は、自分の叶わな
かった夢への純粋な思いという感じで、気持ち良かった。 
撮影は、ジョフリー・バレエ・オブ・シカゴというアメリカ
有数のバレイ団の全面協力で行われており、キャンベル以外
のダンサーは、バレエ団のメムバー達が演じている。このバ
レエ団には、過去にシャーリーズ・セロンやパトリック・ス
ウェイジらも在籍していたそうだ。           
また、その演目の演出シーンには、それぞれの演出家本人も
登場しているそうだ。                 
アルトマンは、最近の作品では、『ゴスフォード・パーク』
などのアンサンブル作品で観客を集めている。従ってこの作
品にも、そのような期待も持ったが、本作はいたってシンプ
ルに、キャンベル演じるブレイク直前という感じの女性の生
き方を描いている。                  
その辺でアルトマン作品としては、ちょっと物足りない感じ
もしないでもないが、元々が他人の企画に乗り込んでの演出
だし、上映時間1時間52分ではこんなものだろう。    
それより、上記の演出家本人も映画に登場しているという舞
台面のシーンが、普段バレエを見慣れていない僕には興味を
引かれた。キャンベルのバレエの実力がどれくらいのものか
も、僕には判断できないが、いくつか演じられる舞台のシー
ンは面白かった。                   
主演の3人は、キャンベル、フランコは順当だが、この中で
は、やはりマクダウェルが一枚上で、彼が演じたちょっと奇
矯なところもあるバレエ団々長の役は、お見事としか言いよ
うがない。その痩身の体型といい、この役にはピッタリとい
う感じだった。                    
なお、撮影はHDヴィデオシステムで行われている。   
それにしても、この企画にアルトマンが関わった経緯も知り
たいところだ。                    
                           
『ワイルド・レンジ』“Open Range”          
ケヴィン・コスナー製作・監督・主演による西部劇。西部劇
小説の大家と呼ばれ、本作の製作開始直前の2001年12月に亡
くなった作家ローレン・ペインの原作の映画化。     
1882年、南北戦争も終って10年以上が経ち、人々が定住を始
めた時代。広大な西部を行き来しながら放牧された牛を追う
Open Rangeは、法律で認められた権利ではあったが、各地に
成立し始めた牧場主たちからは攻撃の的となっていた。  
物語の中心は、そのOpen Rangeで生計を得ている4人。一行
は、ベテランのボスの下、長年行動を共にしてきたチャーリ
ーと、新人料理人のモーズ、そしてボスが町で拾ったメキシ
コ人少年のバトン。                  
荒野で自由気ままな生活を送る彼らだったが、ある日、人里
のない本物の荒野に入る前に買い出しに行った町で、モーズ
が襲われる。そして、何故か留置所に入れられたモーズを受
け出しに行ったボスとチャーリーは、居合わせた牧場主から
怪しい雰囲気を感じ取る。               
負傷したモーズを医者の許に置き、酒場を訪れたボスとチャ
ーリーは、その町が牧場主によって支配され、その横暴さに
町の人たちも困っていることを知る。しかし、その場は荒野
に戻ったボス達だったが…。              
主人公のボスを演じるロバート・デュヴォルが、『ウォルタ
ー少年と夏の休日』に続いて、無骨だが人情に厚い西部男を
見事に演じてみせる。チャーリー役がコスナー。それに、僕
としては久しぶりのアネット・ベニングが良い感じの大人の
女性を演じていた。                  
他に『天国の口、終りの楽園』のディエゴ・ルナ、『ER』
のアブラハム・ベンルビ、『ハリー・ポッターとアズカバン
の囚人』で新ダンブルドア先生役のマイクル・ガンボンらが
共演。                        
上映時間2時間20分、適度なユーモアとアクション、さらに
後半には約20分の決闘シーンなどもあり、長さは感じさせな
かった。                       
                           
『花咲ける騎士道』“Fanfan la Tulipe”        
1952年に、ジェラール・フィリップ、ジーナ・ロロブリジダ
の共演で映画化された作品のリメイク。オリジナルの映画公
開50周年を記念して、ヴァンサン・ペレーズとペネロペ・ク
ルスの共演で再製作された。              
時代は18世紀。ルイ15世が治めるフランスは、周辺の国々と
の間で名声と「余興」のための戦争に明け暮れていた。そん
な夢も希望もない世の中で、主人公のファンファンは女性相
手の生活に生き甲斐を見つけていた。          
ところがある日、1人の女性の親から無理矢理娘との結婚を
させられそうになったファンファンは、居合わせた女占い師
の予言に従い、結婚を逃れるために軍隊に入隊する。実はそ
の予言は徴兵のために仕組まれた罠だったのだが…。何故か
その予言が当たり始める。
こうして、ルイ15世やポンパドゥール夫人をも巻き込んで、
フランスの命運を賭けたファンファンの大活躍が始まる。
オリジナルは、昔テレビで見たはずだがよく覚えていない。
従って僕には両者を比較することができないのだが、プレス
によると、オリジナルは、特に前半ロマンティックコメディ
の色彩濃く描かれていたということだ。         
これに対して、リメイクではアクション中心の構成になって
いるが、この構成が実に巧い。アクションは剣戟中心だが、
巻頭から結末までのべつ幕無しに、しかもシチュエーション
を変えながら展開するのは見事だった。         
全体はクラシックな雰囲気をよく出している一方で、現代風
の味付けもあり、楽しめる。脚本は今年80歳のジャン・コス
モスとリュック・ベッソンの共同ということだが、実際はど
うなのだろう。なお、物語の展開も後半で現代風にいじられ
ているようだ。                    
因に、ベッソンは製作も担当しているが、こういう記念映画
を製作するということは、本格的にフランス映画の顔として
認められたということの現れだろうか。なお、本作は昨年の
カンヌ映画祭のオープニングを飾っている。       
                           
『シュレック2』(特別映像)             
前作でアカデミー賞長編アニメーション部門の初代受賞に輝
き、5月開催のカンヌ映画祭でワールドプレミアされるシリ
ーズ第2作の特別映像が、来日した監督の解説付きで上映さ
れた。                        
上映されたのは、全体で約30分の動画映像の途中にスライド
による解説を挟んだもので、説明によると、物語の前半が紹
介されたということだが、これでもまだ前半?と思うくらい
に盛りだくさんの展開だった。             
前作は、おとぎ話の世界を根底からひっくり返すような展開
で、いろいろ登場するキャラクターのパロディも面白かった
が、今回もその基本姿勢は変わっていないようだ。    
特に、新登場の「長靴をはいた猫」はいろいろな働きをする
ようだし、今回の上映にはなかったが、ピノキオも活躍する
らしい。この他、妖精のゴッドマザーが裏でいろいろ糸を引
いているようだったり…。               
上映後の記者会見で、製作者のカツェンバーグが「ディズニ
ーがユーモアを理解してくれることを祈っている」と言うく
らいの内容になっているようだ。            
ストーリーは、本編を見るまで紹介できないが、映像に関し
ては、前作以上に緻密に描かれていて、前作から3年間の技
術の進歩を目の当りにした感じだった。特に、今回はフィオ
ナ姫の両親を訪ねるという展開で、人間のキャラクターも見
事に描かれていた。                  
なお記者会見では、『シュレック3』についての発言もあっ
たが、それについては、5月1日付の第62回の方で報告する
ことにしたい。                 
                           
『セイブ・ザ・ワールド』“The In-Laws”        
1979年にアラン・アーキン、ピーター・フォーク共演で映画
化された『あきれたあきれた大作戦』を、マイクル・ダグラ
ス、アルバート・ブルックスの共演でリメイクした作品。 
ダグラス扮するCIAエージェントが、ブルックス演じる息
子の婚約者の父親を、自分が作戦展開中の国際的な陰謀事件
に巻き込んでしまうというアクションコメディ。     
CIAエージェントのスティーヴは、ゼロックスのセールス
マンを隠蓑に、世界中を飛び歩き、現在は武器密売に絡む国
際組織の撲滅作戦を展開中。しかし、一人息子の結婚式が迫
り、今まで任務に追われて親らしいことをしてこれなかった
スティーヴは、今度こそ親の責任を果たそうとしている。 
そんな彼を、FBIは任務とは知らずにマークし、スティー
ヴと接触した婚約者一家にも捜査の手が伸びる。しかも行き
がかり上、スティーヴは婚約者の父親を、自分の相棒として
組織との交渉の席に連れていかなければならなくなる。それ
でもスティーヴは、自分の作戦と息子の結婚式を両立させよ
うと、最後まで努力を続けるのだが…。         
ダグラスにとっては久しぶりのコメディということだが、映
画の中でダグラスはもっぱらアクションに専念していて、コ
メディの方はブルックスにお任せという感じだ。そして、こ
のブルックスのコミックぶりが、オーソドックスなハリウッ
ドコメディという感じで、最近のどぎつい笑いではなく楽し
めた。                        
それに本作では、音楽も良いギャグになっていて、スティー
ヴの作戦実行中は、ポール・マッカートニーの『007/死
ぬのは奴らだ』が流れたり、舞台がフランスに移ると『男と
女』のテーマが流れるといった具合。この音楽が、最後には
とんでもない展開の前触れになるのも笑わせてくれた。  
なおクロード・ルルーシュが、『男と女』の次に撮った『パ
リのめぐりあい』に出演のキャンディス・バーゲンが、本作
ではスティーヴの元妻役で登場。『男と女』が使われている
のは、その辺の絡みもあるのかも知れない。その他にも、ス
タンダード音楽の名曲がいろいろ楽しめる作品だった。  
それにしても、ウェストポーチがあんなに笑いに種にされる
ものとは知らなかった。                
                           
『機関車先生』                    
伊集院静の柴田錬三郎賞受賞作の映画化。同じ原作からは、
1997年にアニメーションによる映画化があるが、今回は、坂
口憲二の主演(映画では初だそうだ)、『ヴァイヴレータ』
の廣木隆一監督による実写映画化。           
瀬戸内海に浮かぶ小さな島の小学校を舞台に、臨時教員とし
てやってきた口の利けない青年教師と、教え子の小学生や漁
民中心の島民たちとの交流を描く。実は、その島は主人公の
母親の故郷であり、そこにはいろいろな確執もある。   
そして主人公の口が利けないのは、事故による後天的なもの
であり、彼はその小学校を最後に教職を止めようと考えてい
た。そんな教師と、子供たちと、島民の成長も描かれる。 
物語の舞台というか、ロケ地に使われている本島は香川県丸
亀市にあるが、この丸亀には家内の実家があり、以前は毎年
のように夏休みに帰省し、本島にも何度か海水浴に行ったこ
とがある。実際のロケの場所は知らないが、海の風景には懐
かしいものがあった。                 
設定が昭和30年代ということで、海岸の護岸工事などは違う
かなと思うものもあるが、その再現は概ね良くやっている。
僕はその時代背景にもノスタルジーを感じてしまう訳で、映
画全体の雰囲気が、僕には懐かしさでいっぱいという感じの
作品だった。                     
前作で大人の男女を描いた廣木監督からは、かなり趣の違っ
た作品だが、描かれている子供たちの自然体の演技は、学芸
会的な子役の演技の多い日本映画の中では良くできている方
に思えた。                      
大人の俳優は、堺正章、倍賞美津子、大塚寧々、伊武雅刀な
ど、イメージそのままの配役で、演技云々より安心感があっ
た。それと、場所を特定しない不思議な方言のせりふも、逆
に違和感がなくて、良い感じだった。          
基本的には泣かせる感動作だろうが、敢えてそういう手法を
取っていないのは見ていて気持ちが良かった。上映時間2時
間3分は少し長めだが、緩急のバランスが良いためか、長さ
が気になることはなかった。              



2004年04月15日(木) 第61回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずは、前回記事を書いているときにも、多少気にはなっ
ていたのだが、まさかここまでこじれるとは思わなかった話
題で、“Sin City”での共同監督の問題に絡んでアメリカ監
督協会(DGA)からの脱退を表明したロベルト・ロドリゲ
スが、その影響で前々回報告した“A Princess of Mars”の
監督契約を履行できないという事態に追い込まれた。
 前回の記事では、“Sin City”の映画化に際して原作者の
フランク・ミラーを共同監督として起用しようとしたロドリ
ゲスが、1作品1監督を決まりとするDGAの注意を受け、
すでにミラーの共同監督を条件として映画化権を契約してい
たロドリゲスは、契約を優先させるためにDGAからの脱退
を表明したものだ。
 ところが“A Princess of Mars”の映画化を進めるパラマ
ウント社は、DGAに所属する監督以外とは契約しないとい
う取り決めを結んでおり、このためDGAを脱退したロドリ
ゲスには映画を作らせることができなくなってしまったとい
うもの。この事態に同社とロドリゲスの間で話し合いは持た
れているものの、監督がDGAへの復帰を拒む意思は固く、
このままでは来年早々の撮影は、ロドリゲス監督の下では不
可能ということになるようだ。
 なおDGAの言い分は、「創造上の決定やヴィジョン、主
導権、政策上の問題などで、共同監督というのは現実的に有
り得ない」というもの。しかしその一方でDGAは、全米公
開中の『レディ・キラーズ』ではコーエン兄弟の共同監督を
認めている訳で、その矛盾を指摘する声も上がっている。い
ずれにしても監督協会が、本来なら協会員であるはずの監督
の仕事を妨害してどうするの?という感じだが、この先の展
開はかなり不透明度が高いようだ。
 因に、“Sin City”の撮影は、3月29日にジョッシュ・ハ
ートネット、マーリー・シェルトン、ブルース・ウィリス、
ミッキー・ローク、イライジャ・ウッド、カーラ・ギグノの
出演で、テキサス州オースティンにあるロドリゲスの自前の
スタジオで開始されており、この作品には、他にジョニー・
デップ、スティーヴ・ブシェミ、マイクル・ダグラス、レオ
ナルド・ディカプリオらの出演も予定されている。
 なお、製作のディメンションと親会社のミラマックスは、
DGAとの取り決めを結んでいないそうだ。
        *         *
 続いても続報で、前回最後に紹介したスカーレット・ヨハ
ンセンの企画、主演による“Napoleon and Betsy”と同じ、
ナポレオン・ボナパルトとイギリス人少女の物語が、アル・
パチーノの主演でも作られることになり、“Alexander” に
続く競作となることが報告された。しかもこの競作、舞台裏
がかなり複雑になっているようだ。
 新たに報告された計画は、ステイトン・ラビンが発表した
“The Monster of Longwood”という歴史小説を、マイクル
・トーキンとポール・オースターが脚色、『王妃マルゴ』の
パトリス・シェローの監督で映画化するというもので、プロ
デューサーのハワード・ローゼンマンが企画、すでに大方の
出資者も決定して、後は海外配給権の契約で残りの製作費を
調達する段階ということだ。
 ところがこの計画では、当初パチーノの共演者にヨハンセ
ンが予定され、昨年の秋には一緒に脚本の読み合わせもして
いたというのだ。しかも、ヨハンセンの計画で脚本を担当し
ているレベッカ・B・ケネディは、実はローゼンマンの計画
で脚本の第1稿を担当していたということだ。
 さらに、スカーレットの母親のメラニー・ヨハンセンは、
ローゼンマンの計画でアソシエートプロデューサー、また、
メラニーと共に“Napoleon and Betsy”のプロデューサーに
名を連ねるギレス・アロンドウは、ローゼンマンの計画のプ
ロダクションデザイナーだったという。
 つまり、単純に考えてこの競作は、ローゼンマンの計画が
分裂したということのようだが、ここでケネディの役割を考
えると、彼女が執筆した第1稿ではヨハンセンの気に入る物
語の展開だったものが、その後の脚本ではヨハンセンの意に
沿わなかったということは大いに有り得そうだ。
 通常この手の競作では、まず企画の合体が検討されるもの
だが、今回の経緯ではその可能性は低くなりそうだ。しかし
この題材で2作品は共倒れになる恐れも高く、この際は、先
に手を挙げてライオンズ・ゲイトの製作も決ったヨハンセン
の計画がこのまま実現に漕ぎ着け、他方ローゼンマンの計画
は、ちょっと難しい事態のようにも感じるが、一体どうなる
ことだろうか。よりを戻すというのも一手なのだが。
 因に、『アレキサンダー』映画の競作では、オリバー・ス
トーン監督の“Alexander”はすでに撮影も完了して今年11
月5日の全米公開が発表されているが、バズ・ラーマン監督
の“Alexander the Great”は、未だに撮影の目途も立って
いない状態で、ストーンの勝ちはほぼ決りのようだ。しかし
ラーマン監督の計画を進めている製作者のディノ・デ・ラウ
レンティスはまだ諦めてないと発言しており、1年くらい先
の公開を目指すということだが、さてどうなるだろうか。
        *         *
 ついでに後2件、競作の話題を紹介しておこう。
 まずは、2003年7月1日付の第42回で紹介した歌手ジャニ
ス・ジョプリンの伝記映画で、パラマウントがルネ・ゼルウ
ィガー主演で進めている“Piece of My Heart”の計画に対
抗して、“The Gospel According to Janis”の計画が復活
してきた。
 この競作問題では、前回の報告のときには、ゼルウィガー
の主演が決定してパラマウントでの映画化が一気に進むかと
思われたものだが、実はこの企画では、ゼルウィガーが同郷
のジャニス役を演じることを熱望していて、パラマウントが
その熱意に動かされているという面はあったようだ。
 そしてこの計画では、その後の進展が見られず、現状では
アン・メレディスの脚本は完成しているものの、監督も決定
されていない。また前回は、パラマウントがジャニスの歌声
の独占使用権を獲得していて、歌唱シーンはすべてジャニス
本人の声で吹き替えるという企画も注目を集めたものだが、
その後その独占使用権も解除されてしまったようだ。
 これに対して、復活してきた“The Gospel…”は、元々は
ジョプリンの遺族が参加した企画で、言わば本家本元の企画
と言えるもの、そして今回はこの計画に、歌手ピンクとして
も知られるアリシア・ムーアの主演が発表された。つまりこ
の企画では、歌唱シーンは歌手であるムーアが自分で歌うと
いうもので、しかもこのムーアが生前のジャニスと同じレコ
ード会社に所属しているために、ジャニスの楽曲の使用権も
要望すれば与えられるという状況になっているようだ。
 またこの計画では、脚本監督をペネロピー・スフィーリア
が担当、すでに監督はムーアを起用した歌唱シーンを含むス
クリーンテストも行っており、その結果は、監督の映画キャ
リアの中でも最高の出来だったということだ。また、ムーア
が年齢的にも、ジャニスが19歳でロサンゼルスに来てから27
歳で亡くなるまでを描くにはベストの時ということで、製作
資金が集まりしだい撮影を開始したい意向のようだ。
 なお、スフィーリア監督は発言の中で、2つの企画は内容
的にかなり隔たりがあり、両方作られても問題はないとして
いるようだが、こちらも2本をヒットさせるほどの力がある
ようには思えず、どちらかが先行すれば他方は難しくなりそ
うで、この決着どうなることか気になるところだ。
        *         *
 もう1本は、ちょっと競作と言って良いものかどうか判ら
ないが、『エクソシスト』の前日譚を描く“Exorcist: The
Beginning”で、ポール・シュレイダー版とレニー・ハーリ
ン版の2つのヴァージョンを、DVDで発売する計画が公表
された。
 この企画は、ワーナー傘下のモーガン・クリークが進めて
いたもので、ピーター・ベンチュリー原作脚本、ウィリアム
・フリードキン監督による1973年の大ヒット作で、巻頭部分
に描かれたマーリン神父と悪魔の最初の闘いを、本格的に1
本の作品として映画化するというもの。
 そしてこの映画化は、ウィリアム・ウィッシャー、カレブ
・カーが脚本を執筆、元々はジョン・フランケンハイマーの
監督だったが、監督が死去したために『タクシー・ドライバ
ー』などの脚本家で、『キャット・ピープル』の1982年リメ
イクの監督でも知られるシュレイダー監督が引き継ぎ、一昨
年の秋からローマのチネチッタスタジオを使って撮影が行わ
れた。しかも昨年の夏前にはその撮影も終了、当初は今年2
月の公開を目指してポストプロダクションが進められていた
のだが…。
 昨年の9月になって、監督とモーガン・クリーク側の創造
上の意見の相違が発覚。実はこの時、ポストプロダクション
もほぼ完了して、映画は完成していたと言うのだが、シュレ
イダーは監督を降板することになってしまった。
 この事態に、モーガン・クリーク側は、救援監督としてレ
ニー・ハーリンを招請、当初は6週間の予定で再撮影が開始
された。ところがシュレイダー版に出演した俳優の中に、再
撮影への参加を拒否するものが現れ、結局ハーリンは、ほぼ
全編を取り直すことになってしまった。
 そこでアレクセイ・ハウリーという脚本家が招かれ、脚本
の一部修正と、キャスティングの変更、さらに一部キャラク
ターの役名の変更が行われた。
 因に変更されたのは、シュレイダー(S)版でガブリエル
・マンが演じていたフランシス神父役は、ハーリン(H)版
ではジェームズ・ダーシーに配役変更。またS版でクララ・
ベラが演じたレイチェルという役は、H版では役名がサラに
変更されてイザベル・スコルピオが演じ、さらにS版でポッ
プ歌手のビリー・クロフォードが演じていたチェチェという
役は、H版ではジョセフとなってレミー・スウィニーが演じ
ているそうだ。
 そしてハーリン版は、製作費5200万ドルを掛けて完成し、
ワーナーから、今年8月20日に全米公開のスケジュールも発
表された。
 ということで、映画“Exorcist: The Beginning”は完成
されたのだが、ここで問題なのはシュレイダー版の扱いとい
うことになる。実はこの作品は、当初の話し合いでオリジナ
ルのようなどぎつい描写を排した、ショッキングホラーでは
ない作品として検討されたということで、製作費も3200万ド
ルで製作されている。そしてシュレイダー自身、「ハーリン
版も良くできていると思うが、自分の作品にも自信がある」
と発言しており、すでにモーガン・クリークが公式に試写を
行うことも認めている。
 そこで出てきたのが、DVDでの発売というアイデアで、
2つの版を同梱にするか別売にするかは未定だが、何しろシ
ュレイダー版も一般の目に触れる状態にするということだ。
 経緯から考えて、シュレイダー版はじっくり物語を描き、
ハーリン版は派手目にアクションで描いていると予想される
が、ファンサイドから見れば、2人の監督の演出の違いを楽
しめる訳で、滅多にない機会とも言える。日本でもハーリン
版の劇場公開は決っていると思うが、是非ともシュレイダー
版のDVD発売もお願いしたいものだ。
        *         *
 お次はシリーズからのスピンオフの計画で、昨年公開され
た『トータル・フィアーズ』に、ジャック・ライアンの助っ
人として登場したCIAエージェント=ジョン・クラークを
主人公にしたシリーズを、パラマウントの製作で映画化する
計画が正式に発表された。
 この計画については、2002年12月15日付第29回などでたび
たび報告してきたが、ジャック・ライアンシリーズと同じく
トム・クランシーの原作を映画化するもので、製作が予定さ
れているのは“With Remorse”と“Rainbow Six”。特に前
者は、元ネイヴィSEALのクラークが、なぜCIAエージ
ェントになったかを描くシリーズ開幕の物語となる。
 そして今回発表された情報では、この2作の脚本を、コロ
ムビアで“Six Shooters”という南北戦争を背景にした作品
が進められているジョン・エンボンと、トム・クルーズの主
演、マイクル・マン監督でドリームワークス/パラマウント
で製作が進められている“Collateral”などのスチュアート
・ビーティが、それぞれ独立に担当するということだ。なお
ビーティは、『パイレーツ・オブ・カリビアン』のストーリ
ーでもクレジットされているそうだ。
 因に、『トータル…』に登場したクラークはレイヴ・シュ
ライバーが演じていたが、実はクラークはその前の『今そこ
にある危機』にも登場しており、その時の配役はウィレム・
デフォーだった。今度は誰が演じるのだろうか。
 また、パラマウントでは、ジャック・ライアンシリーズの
次回作として“Red Rabbit”の計画も進めているが、こちら
は『プライベート・ライアン』などのロバート・ロダットが
脚色に契約されている。
        *         *
 続いては、リメイクの話題をまとめて紹介しておこう。
 まずは極めつけ、ピーター・ジャクスン監督による“King
Kong”がいよいよ始動し、主なキャスティングが報告されて
いる。この配役では、先にコングに捕われる女優アン・ダー
ロウ役にナオミ・ワッツが発表されていたが、新たにコング
をニューヨークに連れてくる興行師カール・デンハム役に、
『スクール・オブ・ロック』のジャック・ブラック。そして
ダーロウの恋人で元戦闘機パイロットのジャック・ドリスコ
ル役に、『戦場のピアニスト』でオスカー主演男優賞獲得の
エイドリアン・ブロディが報告された。なお、ブラックは、
今年のゴールデン・グローブ賞でコメディ部門主演男優賞に
ノミネートされたが、ジャクスンは、「『ハイ・フィディリ
ティ』に出演していた時から注目しており、デンハムのキャ
ラクターにリアリティを与えてくれる役者だ」と期待を寄せ
ている。映画は今年の夏に撮影を開始し、2005年12月14日に
全米公開される。
 お次は、昨年9月1日付の第46回で報告したワーナー製作
“Body Snatchers”のリメイクで、脚色にデイヴ・カジャニ
ッチの起用が発表された。このリメイクは、1993年にアベル
・フェレイラが監督したワーナー作品に基づくもので、監督
には2001年公開の『ジーパーズ・クリーパーズ』を手掛けた
ヴィクター・サルヴァの起用も発表されている。なおカジャ
ニッチは、フォーカスで進められている1979年カナダ製作の
ホラー映画『チェンジリング』の現代版リメイクの脚本も担
当しているそうだ。
 1959年にサンドラ・ディー主演で映画化されたカリフォル
ニアが舞台の青春映画“Gidget”のリメイクが、コロムビア
傘下のレッド・ワゴンで進められ、その脚本にエリカ・ビー
ニイの起用が発表されている。この原作は、1965年放送のサ
リー・フィールド主演によるテレビシリーズも知られるが、
オリジナルは、フレデリック・コーナーの原作からポール・
ウェンドコスが監督、後に『タイム・トンネル』で活躍する
ジェームズ・ダーレンが何故かレギュラーで、ギジェット役
は毎回変わるという映画シリーズ。少なくとも3作公開され
ている。なお、リメイクの脚本を担当するビーニイは、やは
りテレビシリーズの“Project Greenlight”をミラマックス
で映画化する“The Battle of Shaker Heights”や、ニュー
ラインで映画化される学園ものの“New Sensation”などを
手掛けている。
        *         *
 後半は短いニュースをまとめておこう。
 『K−19』を製作したナショナル・ジェオグラフィックか
らまたまた史実に基づく映画化で、1883年に大噴火した火山
島を描く“Krakatoa”という計画が発表された。この噴火で
は、その後3年にわたって世界中が冷害に見舞われ、海洋大
国だったオランダ王国の没落や、イスラム教の台頭などの切
っ掛けになったという説もあるが、今回の映画化ではそれら
の歴史的事実も含めて、『タイタニック』のような冒険とラ
ヴロマンスを絡めた作品にするということだ。そしてその脚
本を、1998年公開のジョー・ダンテ監督作品『スモール・ソ
ルジャーズ』や、アーシュラ・K・ルグイン原作のテレビシ
リーズ“Earthsea”などを手掛けるギャヴィン・スコットが
担当することも発表されている。因に、同噴火を題材にした
作品では、1969年にシネラマで『ジャワの東』が製作されて
いるが、実は島はジャワの西に位置していたそうで、今回の
映画化ではその誤りも正したいそうだ。
 ロビン・ウィリアムスの話題で、しばらく続いていたシリ
アス路線からコメディに復帰する計画が発表された。作品の
題名は、“The Big White”。内容はアラスカで旅行会社を
営む男が、ごみ箱の中に冷凍された死体を発見し、それを行
方不明の兄の遺体に仕立てて生命保険をせしめようとすると
いう、かなりダークなコメディ。これを昨年『アリ・G』が
公開されたマーク・マイロッド監督で映画化するものだ。そ
してこの計画に、ホリー・ハンター、ジェームズ・ウッズ、
ジョヴァンニ・リビシ、アリスン・ローマン、ティム・ブレ
イク・ネルスンらの共演が発表されている。なお製作は、イ
ギリスとドイツの資本参加によりインディーで行われるが、
ウィリアムスは元々アーチザンで計画されていた当初から関
わり、同社が断念した後も計画を見守っていたそうだ。
        *         *
 最後に、映画紹介の方でも触れた話題で、嘘か誠かクェン
ティン・タランティーノが、“Kill Bill vol.3”の構想を
発表している。
 それによると、“vol.3”は、“vol.1”の巻頭で殺される
ヴァーニタ・グリーンの娘ニッキーを主人公にしたもので、
ジュリー・ドレフュスが演じたソフィー・フェイタルが手引
きして、ニッキーにザ・ブライドへの復讐を遂げさせるべく
育て上げるというもの。確かに“vol.1”で、ザ・ブライド
はヴァニータを倒した後、ニッキーに向かって「大きくなっ
たら倒しにおいで」と話しており、物語はそれを起点に始め
られるということのようだ。
 ただし、監督の構想でニッキー役は、“vol.1”に出演し
たアムブロサ・ケリーに演じてもらいたいのだそうで、その
ためには、彼女が大人になる10年か15年先まで実現はできな
いとのこと。しかしその間にも撮影は続けて、彼女の成長物
語にしたいということだ。
 時期的に言って、エイプリルフール向けの発言という感じ
がしないでもないが、このような遠大な計画は映画監督には
夢の一つであるような気もするし、今のタランティーノなら
実現できる可能性はある。とは言え、10〜15年も一つの役で
縛るのは、特に相手が子役では、その間の精神的なケアも必
要になると思われるし、これは大変な事業になりそうだ。



2004年04月14日(水) 白いカラス、父と暮らせば、あなたにも書ける恋愛小説、ジャンプ、キル・ビルvol.2

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『白いカラス』“The Human Stain”           
『さよならコロンバス』の原作者フィリップ・ロスが2000年
に発表した小説の映画化。               
人種差別発言をしたために大学を追われた老教授と、家庭内
暴力に苦しむ34歳の女性との最後の恋を描いた物語。この老
教授をアンソニー・ホプキンスが演じ、女性をニコール・キ
ッドマンが演じている。                
原作を知る人には言わずもがなだろうが、老教授には人生を
賭けた秘密があり、その秘密を守り続けた人生が並行して描
かれる。原作にはもっといろいろな要素が描かれているよう
だが、映画はほぼこの1点に絞り込んで108分の作品に仕上
げている。                      
しかし、エド・ハリス扮する女性の夫のヴェトナム帰還兵の
後遺症の問題など、現代のアメリカが抱え続ける問題は明確
に描かれている。また人種差別発言の問題は、逆に言葉狩り
の問題としても捉えられ、見事な時代風刺にもなっている。
それにしても、ホプキンス、キッドマンの名演を余すところ
なく見せながら、テーマ性を失わず、しかもこの時間に納め
たのは見事としか言いようがない。3時間を超えても長くな
い映画もあるが、この作品はこの長さで充分に堪能できる。
ニコラス・メイヤーの脚色、ロバート・ベントンの監督、そ
してカナダ人の編集者クリストファー・テレフセンの見事な
仕事というところだろう。               
なお、作者の分身的存在の役でゲイリー・シニーズが共演。
普段は存在感がありすぎて、僕はいつも出しゃばり過ぎのよ
うな印象を受ける俳優だが、さすがに今回はホプキンスを前
に置いて、存分の演技を見せる。その嬉々とした感じも心地
よかった。                      
キッドマンはかなりの汚れ役ではあるが、先週『コールド・
マウンテン』で深窓の令嬢から徐々に変身して行く姿を見た
後には、ちょうど良い感じだ。これで体当たりの演技と言わ
れると彼女も面はゆいだろうが、ホプキンスとの絡みも良い
雰囲気だった。                    
                           
『父と暮らせば』                   
井上ひさしの舞台劇を、黒木和雄監督が映画化した作品。 
1948年夏、原爆投下から3年目の広島。主人公は、その廃虚
の町に一人で住む若い女性。その女性の前に、突然原爆で死
んだはずの父親が現れる。しかし彼女は動揺しない。それは
亡霊と言うよりは、彼女自身の心の代弁者のようでもある。
一方、図書館に勤める彼女の前に一人の青年が現れる。原爆
の資料を捜しに来たという青年は彼女に好意を持ち、彼女も
彼に引かれる。だが彼女には、原爆の惨禍を一人だけ生き延
びてしまった自分が、幸せになることへの後ろめたさがあっ
た。                         
基本的に外国映画を専門としている僕は、日本映画を見る機
会が少ない。黒木監督の作品を見るのも、多分、昔ATGで
『祭りの準備』を見て以来ではないかと思う。従って今回の
作品が3部作の完結編と言われても、僕は前の2作に言及す
ることはできない。                  
しかしこの作品が、単独でも素晴らしい作品だということは
間違いなく言えることだ。               
試写の前に監督の挨拶があり、そこでは映画化に至る経緯と
して、原作の舞台を見て感動したことと、映画化の許可を得
る際に原作者から、「舞台は見る人の数が限られるから、映
画化して世界中の人に見せてほしい」と励まされたことが紹
介された。                      
そして映画を見て感じることは、監督が原作の舞台をものす
ごく大切なものとして扱っていることだ。僕はその舞台も見
てはいないが、映画がほぼ舞台を完全にフィルムに写し替え
ていることは感じられる。それは一つの台詞も揺るがさない
という感じだ。                    
舞台劇らしい長台詞と広島弁の微妙な言い回し、これらは恐
らく舞台でも評判を呼んだものだろうが、それらを映画でも
忠実に再現している。それを成し遂げた主演の宮沢りえと原
田芳雄にも拍手を贈りたいところだ。          
しかもそこに、映画でしか表現しえないものが見事に取り入
れられている。                    
それは、原爆投下の数日後に撮られた有名な白黒写真の中に
行き交う人々の姿があったり、3年後のまだ廃虚の町並の中
を登場人物の載ったオート三輪が走ったり、というようなも
のだが、それらのVFX映像が、違和感無く取り込まれてい
るのも素晴らしかった。                
原爆投下と、その後に続く恐怖を見事に描き切った作品。こ
の映画が、原作者の希望通り世界中で上映されることを願っ
て止まない。                     
                           
『あなたにも書ける恋愛小説』“Alex & Emma”      
『恋人たちの予感』のロブ・ライナー監督が、『10日間で
男を上手にフル方法』のケイト・ハドスンを主演に招いて撮
ったラヴ・コメディ。                 
デビュー作は成功したものの2作目でスランプに陥った作家
が、30日間で第2作を完成させなくてはならなくなり、その
ために口述速記者を雇うのだが…。この作家をルーク・ウィ
ルスン、口述速記者をハドスンが演じる。        
映画では、作家の口述する物語が劇中劇となり、そこではソ
フィ・マルソー演じるフランス人女性と、ウィルスン演じる
家庭教師の道ならぬ恋が描かれる。しかし、その物語の一部
は作者の実体験であることが判ってくる。        
その物語に、最初はスウェーデン人、次はドイツ人、さらに
スペイン人、アメリカ人のメイドとしてハドスンが登場して
くる。そして物語は、彼女を含む三角関係へと発展、つまり
作家は徐々に速記者に引かれ始めて行くのだが…。    
ハドスンはこれらのいろいろな国籍の役を、誇張を交えてコ
ミカルに演じている。何しろ劇中劇の設定なので誇張はかな
り強烈だが、一方、ハドスンの芸達者なところも見せてもら
える寸法で、なるほどこの映画の狙いがどこにあるかはよく
判ったという感じだ。                 
ゴールディ・ホーンの娘のハドスンは、見るからにハリウッ
ドのサラブレッドという感じで、どんな役も嫌み無くこなし
てみせる。                      
今回は、上記の作品でメグ・ライアンをブレイクさせた監督
とのコラボレーションだが、ハドスンは、すでに『あの頃ペ
ニー・レインと』で鮮烈な印象を残し、『10日間…』では
1億ドル突破のメガヒットも記録している。その彼女が、次
に何を演じるかも楽しみだ。              
                           
『ジャンプ』                     
佐藤正午の原作で、2000年の「本の雑誌」ベスト10で第1位
に輝いた小説の映画化。突然失踪した恋人の謎を追う男性の
姿を、ネプチューン原田泰造の主演で描く。       
監督の竹下昌男はこれがデビュー作のようだが、フリーの助
監督として大林宣彦監督や根岸吉太郎監督に師事してきたと
いうことで、しっかりした映画作りはさすが現場を数多く踏
んできた人という感じだ。               
原田の主演だが、本作はコメディではない。突然理由も告げ
ず去っていった恋人を、ぼろぼろになりながら捜し回る主人
公をかなりシリアスに描いている。そこに原田自身が醸し出
すユーモアが救いのように入ってくるところが、配役の妙と
言うところだ。                    
共演は、東京出身だが韓国で活躍しているという笛木優子と
牧瀬里穂。牧瀬はいつもながらの存在感を見せる。    
物語の展開で、東京蒲田から、天竜川沿い、博多、能古島、
伊万里へとロケーションが行われ、スケール感というほどで
はないが、いい味わいを出している。          
なお、鑑賞した試写室で前の作品が『犬と歩けば』だった。
そこで、終了を待ちながら宣伝担当の方を雑談したのだが、
『犬と歩けば』の田中直樹も、この作品の原田泰造もテレビ
のキャラクターに近い線でいい味を出しているということに
なった。                       
テレビタレントの起用では、昔、黒澤明監督が所ジョージを
うまく使いこなせなかったことが印象としてあるが、さすが
に今の監督は、テレビタレントでもそのキャラクターをうま
く引き出している。その辺も良い感じの作品だった。   
因みに、『犬と…』のキャスティングは、監督が使いたいと
思ったタレントをリストアップして交渉したら、ほぼ全員が
二つ返事で出てくれたのだそうだ。
                           
『レディキラーズ』“The Ladykillers”         
アレック・ギネス主演の1955年作品、『マダムと泥棒』を、
トム・ハンクスの主演、ジョエル&イーサン・コーエン兄弟
の脚本監督でリメイクした作品。            
オリジナルはロンドンの下町が舞台だったようだが、リメイ
クではアメリカ南部の町を舞台に、黒人の老女を家主とし、
教会でのゴスペルコーラスなどをふんだんに取り入れて、物
語は軽快に進められる。といってもコーエン兄弟の作品、物
語には毒もふんだんに盛られている。          
ミシシッピー川沿いの静かな町。川には陸上では営業禁止の
カジノ船が浮かび、その川には沖合の島に塵芥を運ぶ船も行
き来している。そして川から程近い住宅地の家に、髭を貯え
た教授と自称する男が現れる。             
男は、その家に住む一人暮しの未亡人の黒人女性に、下宿の
申し込みと、古代音楽の練習のために地下室を貸してくれと
頼むのだが…。実は男の狙いは、その地下室から川岸にある
カジノの会計室までトンネルを掘り、資金を盗み出そうとい
うものだった。                    
そして男は仲間を呼び寄せ、地下室で音楽の練習を装いなが
ら、トンネル掘りなどの計画を着々と進めて行くのだが、家
主の女性の親切心とお節介から、計画は徐々に破綻を見せ始
める。                        
実は、物語では仲間喧嘩や神経性腸炎などの、普通の映画で
は無意味で嫌になるような展開もあるのだが、これがコーエ
ン作品だと、妙に填ってしまうところが面白い。殺人や事故
死なども出てくるが、これもなぜか納得できてしまう。この
辺がコーエン作品の魅力というところなのだろう。    
『オー・ブラザー!』を気に入るまで、コーエン兄弟の作品
には何か違和感があったが、以後の作品はどれも面白い。僕
が開眼したのか、兄弟が変わったのか。今回はそれなりに以
前の作品のムードのようにも思ったのだが、それでも違和感
は解消していた。                   
                           
『キル・ビルvol.2』“Kill Bill vol.2”      
昨秋公開されたvol.1に続く完結編。ザ・ブライドの復讐の
旅がクライマックスを迎える。             
一言で言えば面白かった。上映時間は2時間18分もあるが、
その間に手を替え品を替えて主人公を次々窮地に陥れては脱
出させ、さらに一対一の対決シーンなど見せ場も満載で、観
客を飽きさせることが無い。正しくエンターテインメントと
いう感じがした。                   
しかも舞台は中国からメキシコまで、その目先の変化の付け
方も見事だった。                   
元々1本で作られるはずを2本にしたということだが、本作
だけでも2時間を超える上映時間は、本当に1本だったのか
と疑いたくなる。しかしエンディングで、vol.1からの出演
者を登場場面付きで見せる辺りは、元が1本だったことを主
張しているようだ。                  
ただし、予告編で主人公自身が「映画を見た人にはやり過ぎ
と言われ」と述懐していた影響なのか、vol.2では、vol.1
のような血の川が流れるほどの描写は無い。僕自身は血の川
を拒否はしないが、その手の描写が苦手の人にも勧められる
作品にはなっている。                 
また、vol.2では、もっとマカロニウェスタン調になるので
はないかと予想していたのだが、思いのほか最後までチャン
バラとカンフーに拘わってたところは、やはり元が1本の映
画だったことの現れかもしれない。           
ただし、ガンファイトもしっかりと描かれていて、特に銃で
撃たれる瞬間を撃たれる側の目線で描く辺りは、マカロニウ
ェスタンの色調も感じられる。もっともこのシーンの撮影で
は高価なレンズを2本お釈迦にしたそうで、さすがタランテ
ィーノというところだ。                
宣伝コピーにもなっているからご存じの方も多いだろうが、
後半にはあっと驚く展開も用意されている。実は僕自身、前
半の展開の勢いに押されて、後半にこの展開があることすっ
かり忘れてしまい、本当に驚くというか、直前にああそうだ
ったと思い出す始末だった。              
そのくらいに全体の構成がバランスよく計算されていたとい
うことなのだろう。なお、この展開については、エンディン
グのクレジットでそれを反映した記載がされているのも嬉し
かったし、それが一種のカタルシスになっているのも見事だ
った。                        
それにしても、この後半の展開の中で主人公が見るヴィデオ
は、そのナレーションが丁寧に流されることからいって、主
人公のその後の姿を示唆しているのだろうか。      
なお、嘘か誠かvol.3の情報もあるようだが、それについて
は明日付で更新予定の第61回を見てください。      



2004年04月01日(木) 第60回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回もアカデミー賞効果と言えそうなSF/ファンタシー
映画の話題から紹介しよう。なおこの情報は、前回の更新直
後に届いたものだ。
 2002年6月1日付の第16回で紹介したトム・クルーズ主演
によるH・G・ウェルズ原作“The War of the Worlds”の
映画化に、スティーヴン・スピルバーグの参加が発表され、
2005年後半に撮影の計画が公表された。
 この計画では、元々は『ジョーズ』などを手掛けた製作者
のデイヴィッド・ブラウンが、パラマウントにアンソニー・
バージェスの手になる脚本を持ち込んだのが最初とされる。
 バージェスは、1971年にスタンリー・クーブリックが映画
化した『時計じかけのオレンジ』の原作者としても知られる
イギリスの作家と思われるが、彼は1993年に亡くなっている
ので、この話は少なくとも1990年代前半ということになる。
そしてこの脚本では、物語の舞台を、原作通りの19世紀末の
ヴィクトリア朝ロンドンに設定していたということだ。
 しかしこの計画はなかなか実現せず、ブラウンは一旦この
企画をパラマウントから引き上げ、ドリームワークスに持ち
込んでいる。このときドリームワークスでは、『ディープ・
インパクト』を計画中ということだから、これは1998年より
前の話ということになる。だが、ドリームワークスでも、こ
の企画は実現しなかった。
 因に、『ディープ…』は1951年パラマウント配給、ジョー
ジ・パル製作の『地球最後の日』のリメイクとされるが、そ
の大元にはウェルズ原作の短編小説が存在する。この短編は
1964年の東宝映画『妖星ゴラス』の元になったとも言われる
ものだ。特に、『ディープ…』で人類が地球を脱出しない設
定なのは、ウェルズの作品に近い。
 ということで、今回の計画には、最初からパラマウントと
ドリームワークスは絡んでいたことになる。そしてこの計画
が改めて動き出したのは、第16回で紹介した2002年5月のこ
とだ。ただしこのときは、パラマウントとクルーズ/ワグナ
ーの計画として発表されている。また脚色には、最近クライ
ヴ・カッスラー原作の“Sahara”などを手掛けているジョッ
シュ・フリードマンの名前が上げられていた。そしてこの計
画もなかなか実現されないまま、2年近くが経過していた。
 このようにこの計画は、点いては消え、消えては点きだっ
た訳だが、今回スピルバーグの監督が決まったのには、上記
の経緯もさることながら、前回の発表がちょうど『マイノリ
ティ・リポート』の製作時期に重なっていたのも要因と考え
られそうだ。恐らくは、この時期に顔を合わせる機会の多か
ったクルーズとスピルバーグの間で、この計画も話し合われ
ていたのだろう。
 そしてスピルバーグの関係で、『ジュラシック・パーク』
の最初の2作を手掛けたデイヴィッド・コープが脚色のリラ
イトを担当することも決定し、ここに強力なトリオが実現す
ることになったものだ。因に、クルーズとスピルバーグは、
彼らが気に入る脚本が出来次第、直ちに製作に取り掛かる意
向とされている。
 ただし、スピルバーグは、現在トム・ハンクス、キャサリ
ン・ゼタ=ジョーンズ共演の“The Terminal”を監督中で、
その後には“Indiana Jones”の第4作と、19世紀の演劇界
を描く“The Rivals”という作品も予定されている。この内
“Indy 4”については、ちょっと難しくなってきてる感じも
するが、取り敢えずは2作済ませてからの2005年後半という
ことのようだ。
 また、クルーズは、パラマウント=ドリームワークス共同
製作による“Collateral”の撮影は完了したようだが、続い
ては、パラマウント=クルーズ/ワグナー共同製作、ジョー
・カーナハン監督の“Mission: Impossible 3”の撮影が今
年の夏に控えており、こちらも2005年後半までのスケジュー
ルはタイトなようだ。
 一方、コープは、自ら脚色と監督も手掛けたスティーヴン
・キング原作、ジョニー・デップ主演の“Secret Window”
が全米公開されたところで、この他では、『ジュマンジ』の
続編と位置づけられるクリス・ヴァン=オールズバーグ原作
“Zathura”の脚色を担当することが発表されている。第1
作を大ヒットに導き、第2作では上記の監督のため原案のみ
担当した“Spider-Man”の第3作をどうするかは不明だが、
当面は2002年後半までに、クルーズとスピルバーグの気に入
る脚本を提供できるかということになるようだ。
        *         *
 前の記事で題名が出たついでに、“Indiana Jones”の関
連の話題を一つ紹介しておこう。
 パラマウント所属の製作者スコット・ルーディンが、『レ
イダース/失われた聖櫃』に感動した子供たちによって作ら
れた映画“Raiders of the Lost Ark: The Adaptation”の
製作と彼らの人生を映画化する権利を、6桁($)半ばの契
約金で獲得したことが発表されている。
 この作品は、1981年に公開された映画を見たクリス・スト
ロンポロス、エリック・ザラ、ジェイスン・ラムの3人が、
映画と同じものを自分たちで作ろうと考え、1982年の夏休み
に撮影を開始、その後7年を掛けて完成させたというもの。
 切っ掛けは、主人公を演じる当時10歳ストロンポロスが、
スクールバスの中でザラにアイデアを話したことに始まり、
ザラは映画全体の649シーンに及ぶストーリーボードを描き
元々ホラー映画のファンだったというラムがカメラマンを勤
めている。その総製作費は、5000から8000ドルくらい掛かっ
たということだ。
 なお、作品では、巨大な石のボールが転がってくるシーン
や、生きた蛇のシーン、トラックに引き摺られるシーンなど
が再現されている。ただし、猿が登場するシーンは犬で代用
されたりもしているとのこと。また、成長期の少年が演じる
主人公は、当然のことながらどんどん大人になってしまうの
だそうだ。
 そして完成された作品は、一般に公開されることもなく保
管されていたが、2年前に映画作家のエリー・ロスによって
発見され、2002年12月にテキサス州オースティンで開かれた
映画祭で上映されて話題を呼んでいた。
 その顛末が、本家本元のパラマウントで映画化されること
になったもので、同社では過去に、“Star Trek”ファンの
行動を描いたドキュメンタリー作品“The Trekkies”を製作
したことがあるが、このような形で映画に絡む作品が作られ
るのは珍しいことだ。それにしても、子供時代の遊びが単純
計算で100倍くらいの価値を生み出したことになる。
 2月15日付の第57回でも書いたように、“Indy 4”の実現
についてはかなり厳しい印象を持つが、その代わりとしては
かなり良い感じの作品になりそうだ。
        *         *
 お次は、またまたテレビシリーズからの映画化の話題を紹
介しよう。といっても今回は、ちょっと他の作品とは経緯が
異なるものだ。
 映画化される作品は、“Serenity”という題名。この作品
のテレビシリーズ時の題名は“Firefly”というそうだが、
実はこのシリーズ、2002年にアメリカのフォックス・ネット
ワークで放送され、11エピソードでキャンセルされてしまっ
たものなのだ。
 シリーズの内容は、500年ほどの未来の宇宙空間を舞台に
したもので、基本的には西部劇の宇宙版というようなお話。
高潔な無法者や、掻き回し屋の神父、現実主義の売春婦など
がドラマを繰り広げるというものだ。
 ところが2002年秋開始の放送は、金曜8時台という時間帯
で、野球中継や特別番組などによってたびたび飛ばされ、結
局は安定した視聴率も稼げないままクリスマス前に打ち切り
が決定されてしまった。しかし、シリーズ製作者のジョス・
ウェドンは、物語が中途半端に終ったことに我慢できず、製
作プロダクションの首脳やエージェントなどと、他局での継
続やミニシリーズ化などの方策を検討、その結論として映画
化を目指すことにしたということだ。
 一方、番組のファンたちは、放送打ち切り後もインターネ
ット上のファンサイトなどで継続的に番組を取り上げ、その
結果、昨年12月に発売されたDVDは20万セットを売り上げ
る驚異的なヒット作になってしまった。そしてこの反響にユ
ニヴァーサルが応えることになったもので、映画化を目指す
ウェドンとの契約に踏み切ったということだ。因に、ウェド
ンはテレビシリーズの製作に関してはフォックスと契約を結
んでいたが、映画に関しての契約はなかったそうだ。
 といってもこの作品、映画化の脚本と監督はウェドン自身
が担当するが、彼は劇場用映画は初めてということで、その
契約金は微々たるもの。また、出演者もテレビシリーズのア
ダム・ボールドウィン、モレナ・バッカリン、ショーン・マ
ハーらがそのまま主演するが、彼らも映画界では新人。
 さらに撮影は、主にユニヴァーサルスタジオのセットと、
ロサンゼルス周辺のちょっとしたロケーションのみ。このた
め、総製作費は4000万ドル以下で済みそうだということで、
これでDVDを買ったファンの動員があれば、ほとんどノー
リスクというおいしい話になりそうだ。
 なお、ウェドンは“Buffy the Vampire Slayer”のクリエ
イターとしても知られるが、この作品は、彼が脚本家として
参加した同名の1992年の映画作品をテレビ化したもの。この
映画はヒットしなかったが、テレビ化で大成功を納めたもの
で、今回はその逆を狙うということだ。
 因に、テレビの短命に終ったシリーズから映画化された作
品では、6エピソードで打ち切られた後に映画でシリーズ化
された“Naked Gun”(裸の銃を持つ男:テレビシリーズ名
“Police Squad”)や、テレビではパイロット版の製作のみ
で放送もされなかった“Mulholland Dr.”(マルホランド・
ドライブ)などの先例があるようだ。
        *         *
 続いては、ちょっとトラブルの話題で、前回“A Princess
of Mars”の監督契約を紹介したロベルト・ロドリゲスが、
アメリカ監督協会(DGA)を脱退することが表明された。
 このトラブル、実は3月29日に撮影が開始されたディメン
ション作品“Sin City”を巡って発生したものだが、ロドリ
ゲスはこの作品で、原作者のフランク・ミラーを共同監督と
してクレジットしようとしたところ、DGAが定めた「1作
品1監督の規約」に違反すると注意を受けたというものだ。
 ところがこの作品の映画化に当っては、ミラーを共同監督
とすることが契約の条件とされており、このためロドリゲス
には、DGAを脱退するか、映画化を諦めるかの二者択一と
なって、前者の手段を取ることになったものだ。なお、この
選択についてロドリゲス本人は、「この作品の全てを把握し
ているのは原作者のミラーだけであり、この映画化は彼の協
力抜きには考えられない。従ってこの選択は全く容易なこと
だった」と語っている。
 さらにロドリゲスは、映画の一部をクエンティン・タラン
ティーノに監督してもらうことも希望しており、このため、
‘special guest director’というクレジットも用意してい
るそうだ。
 なお、ロドリゲスは原作者との交渉のために、ジョッシュ
・ハートネットとマーリー・シェルトンの出演で、自費で巻
頭のシーンを製作しており、本編でも多分この2人が主演す
るものと思われるが、実は、その他の出演者は交渉中で、そ
の交渉相手にはレオナルド・ディカプリオ、ジョニー・デッ
プ、ブルース・ウィリス、スティーヴ・ブシェミ、ブリタニ
ー・マーフィ、クリストファー・ウォーケン、マイクル・ダ
グラスらがリストアップされているそうだ。
 また、『レジェンド・オブ・メキシコ』にも出演したミッ
キー・ロークは、物語全体のまとめ役としての出演が予定さ
れ、この部分は先行して撮影が行われているということだ。
 という製作状況だが、実はこれが撮影開始1週間前の情報
で、こんな状態でまともな撮影が可能なのか心配にもなる。
しかし『レジェンド…』でも、ジョニー・デップは契約では
カメオの扱いで、撮影期間も9日足らずだったが、完成した
らほぼ主役だったという話もあり、このようなトリッキーな
映画製作はロドリゲスの得意という説もある。
 まあ、大手のパラマウントの製作で、総製作費に1億ドル
が計上されている次回作では、このような状況には余りして
欲しくない気もするが、ロドリゲス自身は、「自分の映画で
は、1人で20以上の仕事を同時にこなすこともある」と自信
のほどを語っており、彼に任せた以上はこれも覚悟しなけれ
ばいけないことのようだ。
 因にフランク・ミラーは、“Batman”や“Daredevil”の
グラフィックノヴェルでも知られるが、後者で彼が創造した
エレクトラのキャラクターは、映画で演じたジェニファー・
ガーナーの主演で傍系版の映画製作が決まるなど、その才能
は高く評価されているようだ。
 それにしてもDGAの規定は、昨年も問題になっていたよ
うに記憶しているが、以前には1961年の『ウェスト・サイド
物語』ではロバート・ワイズとジェローム・ロビンスが共同
でアカデミー監督賞を受賞しており、また昨年の『マトリッ
クス・リローデッド』でもウォシャウスキー兄弟として共同
でクレジットされている訳で、この規定がどのように運用さ
れているのか、全く訳の分からない話だ。
 なお、最近ではタランティーノと、ジョージ・ルーカスも
DGAを脱退しているそうだ。
        *         *
 後半は、短いニュースをまとめておこう。
 まずは、昨年『マトリックス・リローデッド』のラージフ
ォーマットを上映するなど、協力関係を強めているワーナー
とImaxで、今年はすでに“Harry Potter and the Prisoner
of Azkaban”の上映計画が発表されているが、それに続いて
“Catwoman”を一般上映と同時公開することが発表された。
 因にこの上映フィルムは、Imaxがカナダに所有するラボラ
トリーでのディジタル・リマスタリング処理により、35ミリ
フィルムから70ミリフォーマットに変換するもので、本来の
Imaxではないものの、大型スクリーンの効果は充分に得られ
るということだ。
 そしてさらに年末公開される“The Polar Express”と、
来年公開される“Charlie and the Chocolate Factory”で
は、何とImax-3Dでの上映も計画されている。
 ここで、主演のトム・ハンクスも含めた全てがCGIで製
作される前者については、撮影後に3D化することも可能だ
し、高画質化もできるものだが、実写の後者の場合は撮影時
から3Dで撮影されることが必要になる。これには、ティム
・バートン監督の協力も不可欠となるものだが、実現の可能
性はどれくらいなのだろうか。
        *         *
 次は配役の紹介で、すでに何度か報告しているニコール・
キッドマン主演の劇場版“Bewitched”(奥様は魔女)で、
主人公サマンサの母親エンドラ役にシャーリー・マクレーン
と、父親モーリス役にマイクル・ケインが発表された。
 因にテレビシリーズでエンドラ役は、『市民ケーン』など
にも出演していたアグネス・ムーアヘッド、モーリスは滅多
に登場しなかったが、『猿の惑星』などのモーリス・エヴァ
ンスが演じていた。なお、セミレギュラーのエンドラは、普
通の人間を馬鹿にし、夫の会社の上司や隣人などに魔法を掛
けて、人間関係を掻き廻す役柄だったが、ここにマクレーン
とケインを持ってくるということは、今回はかなり重要な役
になりそうだ。
 また今回の映画化では、夫のダーリン役を“Elf”が評判
のウィル・フェレルが演じる他、キッドマンの2役でサマン
サの妹セレーナの登場もあるということだ。『めぐり逢えた
ら』などのノラ・エフロンの監督で、脚本はノラと妹のダリ
ア・エフロンが執筆、コロムビアの製作で、撮影は7月開始
の予定になっている。
        *         *
 ブラッド・ピットの情報で、西部の荒くれ者ジェシー・ジ
ェイムズを演じる計画が発表されている。
 ジェシーは、一部では義賊という説もあるようだが、今回
の計画は、ロバート・ハンセン原作の“The Assassination
of Jesse James by the Coward Robert Ford”という小説を
映画化するもの。題名中のフォードは、西部一の早撃ちと呼
ばれた男で、彼はジェシーが率いた盗賊団の一員だったが、
ジェシーを背後から撃って殺したとされている。
 そして映画化は、オーストラリア出身で、リドリー&トニ
ーのスコット・フリーに所属するCF監督アンドリュー・ド
ミニクの監督で行われるものだが、実はこの計画は、ドミニ
クが別の作品の調査中に原作を見付け、自ら準備を進めてい
たというもの。一方、ドミニクが先に監督した“Chopper”
という作品がピットの目に留まり、何か一緒にできないかと
いうことになって、今回の計画に発展したということだ。 
 ワーナーの配給で、製作はピットのプランBと、スコット
・フリーの共同で行われる。
 因にドミニクが調査していた別の作品とは、アルフレッド
・ベスター原作の“The Demorished Man”だったそうだ。 
        *         *
 『真珠の耳飾りの少女』や“Lost in Translation”での
演技が話題のスカーレット・ヨハンセンの計画で、彼女自身
が企画にも加わった“Napoleon and Betsy”という作品を、
ライオンズ・ゲイトで製作することが発表された。
 この計画は、ヨハンセンと脚本家のレベッカ・B・ケネデ
ィが進めているもので、内容は、皇帝ナポレオン・ボナパル
トの最後の1年を、ボナパルトとの友情を結んだイギリス人
少女の目を通して描くというもの。彼は最初は脱出して地位
を奪い返すことを企てるが、結局は宿命に身を委ねることに
なるということだ。
 そして、この少女役は当然ヨハンセンが演じることになる
が、彼女とケネディはすでにボナパルト役も選考を進めてい
るということだ。監督は未定だが、撮影は今秋開始すること
になっている。
 なおヨハンセンは、現在ユニヴァーサルでデニス・クェイ
ド共演の“Synergy”という作品を撮影中で、その後には、
ジョッシュ・ハートネット、マーク・ウォルバーグ共演で、
ブライアン・デ=パルマ監督によるジェームス・エルロイ原
作の“The Black Dahlia”に出演することになっている。そ
して今回の作品は、このデ=パルマ作品の後に製作される計
画ということだ。


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井口健二