井口健二のOn the Production
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2004年03月31日(水) スパイダーマン2、MAY、クリムゾンR2、dot the i、ミッシング、エージェントC、ヴェロニカG、キッチンS、深呼吸、コールドM

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『スパイダーマン2』(特別映像
7月10日公開予定作品のDirector's Previewと称する12分の
映像が上映された。実はこれが、本編映像としては世界初公
開で、しかもこの後は世界中どこでも公開の予定がないとい
うまさに特別映像だ
この種の特別映像というのも今までいろいろ見せてもらった
が、昨年の『ハルク』でPC出力をスクリーンに映しながら
ILMの担当者による解説を受けたのを除くと、実際は長め
の予告編といった感じものがほとんどだった。
ところが今回上映されたのは、多分映画の前半の見せ場とな
るシークェンスを丸々一つ。しかもこれが全くの未完成で、
CGのラッピングはされていないは、吊りのワイヤーは消さ
れていないは、バトルはまだアニメーションでキャラクター
にもなっていない。
つまり、これから7月の公開までに追い込みで作られて行く
VFX映像の大元のものが上映されたという代物だ。しかし
映像的には未完成といっても、動きなどの編集はすでにされ
ているもので、その迫力は充分に伝わってきた。
具体的な内容は、暴走する高架鉄道を舞台に、今回の敵役ド
ク・オクとの死闘が描かれたもので、しかもこの作品ではお
定まりのヒーローが一般市民に助けられる様子も描かれると
いう、作品中では最も重要なシーンと言えるもの。
こんなものを惜しげもなくという感じだが、逆に言えば、こ
ういう重要なシーンを未完成の状態で見せて、完成したらど
うなるのだろうと想像させるのも狙いなのかも知れない。
それにしても凄いものを見たという印象で、取り敢えずは完
成が待ち遠しくなった。

『MAY−メイ−』“May”
USCの映画脚本課を卒業したラッキー・マイキーという監
督が、学生時代の仲間と作り上げた自主製作映画。本作は昨
年の東京を始め各地のファンタスティック映画祭を席巻し、
監督は、すでに“The Woods”という作品でプロデビューも
果たしている。
子供の頃から抑圧されて育った少女が、ある日その発露を見
出すという『キャリー』タイプの作品。         
主人公のメイは動物病院で看護婦として働いている。今まで
ボーイフレンドを持ったことのない彼女は、ある日、町の自
動車修理工場で働く手のきれいな男性に恋をする。しかし男
性とのつき合い方の分からない彼女は、やがて彼に疎まれる
ようになってしまう。                 
そして彼女は、一部がきれいで好きになった相手でも、全部
になると嫌いになってしまうことに気がつく。さらに彼女は
首のきれいな女性や脚のきれいな女性、肩のタトゥーがきれ
いなパンク少年らを目に留める。
となれば、後はご想像の通りのスプラッターとなるのだが、
これがやるせなさ、切なさというか、メイの気持ちが巧く表
現されていて、スプラッター自体もさほどどぎつくもなく、
全体として巧くまとまった作品になっていた。この監督には
ちょっと注目だ。
なおメイを演じるのは、ゼフィレッリ監督作品やテレビでの
主演(TV版『キャリー』)もあるアンジェラ・ベティスと
いうプロの女優で、彼女の演技力というか存在感がこの作品
の完成度を高めているとも言えそうな作品だった。

『クリムゾン・リバー2−黙示録の天使たち』
  “Les Rivieres Pourpres--Les Anges de Apocalypse”
2001年にジャン・レノ、ヴァンサン・カッセル共演で日本公
開された作品の続編。
前作はジャン=クリストフ・グランジェ原作の映画化だが、
今回はリュック・ベッソンがキャラクターを借りて作り上げ
たオリジナル脚本によるもので、主演のジャン・レノは同じ
配役だが、相手役にはブノア・マジメルが起用されている。
フランス北部の修道院で、壁に十字架の形で埋め込まれた死
体が発見される。その事件の捜査に当るのはニーマンス刑事
(レノ)。一方、そのニーマンスが訓練学校の教官だったと
きに指導したレダ刑事(マジメル)は、別の殺人事件を追っ
ていた。そしてその2人が遭遇する。
別々の事件がまとまって2人の刑事が揃うという展開は前作
と全く同じ。この辺の手順の踏み方は、さすがリュック・ベ
ッソンらしいが、この展開は、今後シリーズ化された場合に
は踏襲されることになるのだろうか
そして今回の事件は、第1次大戦後にドイツ国境に作られた
巨大要塞マジノ線を舞台に、またまたナチスの亡霊が絡む事
件へと発展する
前作の雪の閉ざされた大学というのも雰囲気があったが、今
回のマジノ線というのは地下に設けられた巨大迷路のような
要塞で、いろいろの仕掛けも施されて、これまた奇っ怪な雰
囲気を醸し出している。
ただ前作は、この雰囲気が全体として落ち着いた流れになっ
ていたが、今回はこれに超人的なアクションを見せる謎の集
団が登場して、思い切り加速した展開になっている。
そしてまあ、この連中が走りに走るし、壁を乗り越えたり、
飛び降りたりのパフォーマンスが見事。これを追いかけるマ
ジメルのパフォーマンスも良かったが、全体にスピード、し
かも人間が出すスピードの限界という辺りを見事に描いてい
た。前作とはちょっと違った雰囲気かも知れないが、これは
これで面白い。
なお、『王の帰還』では出演シーンをすべてカットされたク
リストファー・リーが、本作では堂々と敵役を演じている。

『ドット・ジ・アイ』“dot the i”
2人の男と1人の女の三角関係を、ちょっと捻った角度で描
いたラヴサスペンス。
女性は、ストーカーから逃れるために母国スペインを離れて
ロンドンにやって来た。そこで彼女は、自分に尽くしてくれ
る裕福な男性と巡り会う。そして彼と結婚することになるの
だが、その独身時代に別れを告げるパーティで1人の男性と
出会ってしまう。
2人の男性の間で揺れ動く恋心、彼女はその気持ちを押さえ
最初の男と結婚するのだが、彼女の所在を突き止めたパーテ
ィの男との蓬瀬を重ねてしまう。しかも彼女の周辺には、ス
トーカーの影が見え隠れし始める。
かなり捻った展開で、最初のうちはちょっとやり過ぎの感じ
もしたが、その捻り具合が度を過ごす辺りから面白くはなっ
てくる。しかし、正直に言ってやり過ぎの感は最後まで強く
残り、その感じが消えないのは、やはり演出が未熟なのだと
思われる。
脚本監督は、詩人で、作家で、大学の先生でもあるというマ
シュー・パークヒル。短編映画の監督はしているようだが、
映画はもっと単純なもので充分なのに、今回はちょっと頭の
良さが出過ぎたと言うところだろうか。同じ題材で、例えば
ブライアン・デ=パルマが撮ったら、多分もっと気持ち良く
見られる作品になったことだろう。
とは言え、映画の展開自体は見るべきところはあるし、サン
ダンス映画祭で観客が熱狂したというのも判る。恐らくは、
日本の若い映画ファンも熱狂させることになりそうだ。

『ミッシング』“The Missing” 
ロン・ハワード監督が、ディズニーの大作“The Alamo”を
降板してまで撮ったトミー・リー・ジョーンズ、ケイト・ブ
ランシェット共演の西部劇
ブランシェットが演じるのは荒野に在する牧場で、治療師を
しながら女手一つで二人の娘を育て上げた気丈な女性。ある
日その牧場に一人の初老の男が訪ねてくる。彼は、女性が幼
い頃に、母と彼女を捨てて家を出ていった父親だった。
父親の行動が許せない彼女はけんもほろろに彼を追い出す。
しかしその日、町に出かけた娘たちが行方不明となり、よう
やく見つけ出した下の娘から、上の娘が人身売買の誘拐団に
さらわれたことを告げられる。
そして保安官や騎兵隊の協力も得られないと判ったとき、彼
女に残された道は誘拐団の素性も知る父親の協力を仰ぐこと
だった。こうして、母親の後を追うと言って聞かない下の娘
も含めた親子3代の追跡劇が始まる。
ジョーンズとブランシェットが、確執を持った親子を見事に
演じ切る。そこにユーモアやアクション、さらに超自然のイ
ンディアンの呪術までも織り込んで、とにかく2時間17分の
上映時間を一気に見せ切ってしまう。その巧さはまさに一級
のエンターテインメント、ハワード監督の手腕も光る作品と
いうところだ。
それに、下の娘を演じたジェナ・ボイドが良い。1993年生ま
れだから撮影時10歳ということになるが、馬は見事に乗りこ
なすし、ジョーンズ、ブランシェットを向こうに廻して引け
を取らない演技力もある。いやはや末恐ろしいことだ。

『エージェント・コーディ』“Agent Cody Banks” 
昨年3月14日の週末に第2位で初登場し、以後4週に亙って
ベスト10入りして、最終的には4700万ドル余りの興行成績を
記録した若年向けスパイコメディ。
スパイ物の雑誌が好きだったり、スパイグッズを購入しただ
けでCIAにスカウトされた少年が、サマーキャンプを装っ
た訓練プログラムで、スパイとして一通りのテクニックをマ
スターし、国家の危機を救うべく大活躍するというお話。
昨年公開された『コンフェッション』や、正月公開の『リク
ルート』でも、一般人を徴用してスパイを養成する話が出て
きたが、こう立て続けに見せられると、こういうお話が、唯
の作り話ではないような感じがしてきた。
それはさて置き、高校生の主人公は、学校ではいじめられっ
子的存在だが、実は空手やドライヴィングテクニックも抜群
で、そのことを周囲には隠している。それが一旦ことが起こ
ると、その能力を発揮して大活躍するのだから、これは典型
的な願望充足型の物語。
この手のスパイコメディもいろいろ公開されたが、本作は、
『スパイキッズ』ほどのお子様ランチではなく、『オーステ
ィン・パワーズ』ほどアダルトでもない。その中庸さ加減が
興行成績に現れているとも言えるが、まさにティーンズ狙い
というところだろう。
しかし大人向けには、いろいろな映画のパロディがこの作品
でも楽しめる。特にはセットの造形が凝っていて、007を
始めいろいろ登場してくるが、ヒロインが閉じ込められる場
所が『スローターハウス5』にインスパイアされているとは
思わなかった。
他にも、主人公のメンター役の女性が往年のラクウェル・ウ
ェルチ張りの容姿で、当時の彼女を思わせるジャンプスーツ
で登場したり、着信音が『電撃フリント』(これは定番にな
りつつあるようだ)だったり、映画ファンにはその発見もお
楽しみだ。
アメリカではちょうど続編が公開中だが、この続編はちょっ
といろいろな作品に囲まれて興行は苦戦中のようだ。でも、
できれば上の2作同様のトリロジーになることを期待したい
くらいに、楽しめる作品だった。

『ヴェロニカ・ゲリン』“Veronica Guerin” 
1990年代のアイルランドで、麻薬組織に敢然と立ち向かった
女性ジャーナリストの姿を、ケイト・ブランシェットの主演
で描いた実録物語。
ゲリンはフリージャーナリストから出発し、その後にサンデ
ー・インディペンデント紙の記者となったとあるが、この経
歴のせいか常に単独行動で、それが彼女一人に名声を与える
と同時に、組織の恨みも集中させてしまう。
それにしても、ここまで彼女は単独でやったのだろうかとい
うことには疑問も沸く。映画の巻頭には、事実に基づきフィ
クションも織り交ぜたと書かれていたようにも思ったが、そ
れは何を意味しているのだろうか。
しかし彼女の行動によって、麻薬組織撲滅のため国を挙げて
の行動となり、最終的には犯罪発生率を15%も低下させたと
いう実績は真実なのだろう。1時間38分のこの映画は、その
事実を、余分の描写を極力廃して純粋に描いている。
主演のブランシェットは、先に『ミッシング』を見たばかり
だが、本作でも子を持つ母親でありながら、自分の使命に立
ち向かって行く女性を見事に演じている。
そしてその子役が、今回は本当に幼い男の子でほとんどのシ
ーンは遊んでいるだけだが、1回だけ凄い演技をして見せる
のも見事な演出だった。
その他の配役では、ブランシェット以外は全員がアイルラン
ドの俳優で固められている。また、ダブリンの下町などロケ
ーション撮影はすべて現地で行われたということだ。
なお、もとスポーツ少女で女子サッカー選手だったこともあ
るという主人公が、子供とサッカーに興じるシーンなどで、
SHARPロゴ入りの赤のマンUのユニファームを着ている。こ
れが一種の時代の示唆のような扱いで興味深かった。

『キッチン・ストーリー』“Salmer fra kjøkkenet” 
1950年代にスウェーデンで実施された台所での行動調査とい
う実話に基づく物語。
映画の舞台はノルウェー。そのとある村にスウェーデンから
調査隊が訪れる。それは独身男性の台所行動を調査するとい
うもの。そして台所に調査用の足場が持ち込まれ、調査員が
被験者の行動を線図に記録することになる。
被験者は公募だったが、主人公は馬が貰えると騙され(実は
人形)て応募したもの。従って最初から行き違いが生じ、調
査には応じたものの非協力的。しかも、被験者と調査員は一
切の会話をしてはならないなど、厳格なルールが定められて
いた。
如何にも1950年代にありそうな(実際にあった)、頭でっか
ちで非人間的な調査の模様が描かれる。しかしことは人間同
士、徐々に交流が始まってしまうという物語だ。この物語を
48歳にして長編3作目というベント・ハーメル監督は、暖か
い目で描いている。
それにしても、スウェーデンとノルウェーの間でこんなにも
確執があったとは…。取り立てて対立がある訳ではないのだ
が、会話の端々などにそういう話題が出てくるところも面白
かった。因に、監督はノルウェーの人だ。
なお物語は、スウェーデンが左側通行だった時代もので、国
境での車線変更の様子なども描かれるが、中に登場するレト
ロなスウェーデン車がすべて左ハンドルというのはなぜなの
だろう。この方が安全だという台詞もあったようだが。

『深呼吸の必要』
沖縄で今も行われているキビ刈り隊を描いた青春ドラマ。35
日間で7万本のサトウキビを収穫するために本州から公募で
集まった7人の若者たちの行動が描かれる。
若者たちは、いろいろな思いを胸にここに集まってくる。中
には、観光気分で来ている者もいるが、ほとんどの思いは自
分自身の再発見というところだろう。そんな思いがぶつかり
合いドラマが生まれる
ということなのだが、日本映画のこの手の作品はどうしても
話が甘い。最近紹介した中ではアメリカ映画の『キャンプ』
が内容的に近く、あの作品だって十分に甘いものだったが、
それでももう少しは現実に近づいていたように思える。
とは言っても、これが日本映画の現状だから仕方がない。と
いうことでこの作品を見直すと、それなりにありそうという
か、それぞれ立場はここまで際立っていなくても、それぞれ
の登場人物は、ある意味で現代の若者たちが直面している問
題を象徴しているとも言えそうだ。
物語はかなり御都合主義ではあるが、それぞれの問題を際立
たせるためには、これもテクニックかとも感じた。逆に言え
ば、これくらいやらないと、最近の観客に作者の思いが届か
ないかもしれないという感じは持つ
サトウキビ刈りというと、1968年公開の『怒りのキューバ』
を思い出す。モノクロ映画で刈り取られるサトウキビの色は
分からなかったが、乾燥したキビを刈るカーンという金属の
ような音は記憶に残った。
今回は、撮影の都合で未成熟のキビだということで、結局成
熟したキビの色は分からないのだが、頭梢の部分が青々とし
たキビは暑さも象徴しているようで判りやすかった。

『コールド マウンテン』“Cold Mountain” 
『イングリッシュ・ペイシェント』でオスカー受賞のアンソ
ニー・ミンゲラ脚本、監督による南北戦争を背景にしたドラ
マ。本作で、ルネ・ゼルウィガーがオスカー助演女優賞を獲
得した。
南北戦争末期、敗色濃厚のヴァージニア州ピータースバーグ
=クレーターの戦いとも呼ばれた戦場から、ノースカロライ
ナ州はアパラチア山脈の山懐にある故郷まで、650キロを徒
歩で帰還した男と、彼の帰りを待ち続けた女の物語。
男は、チェロキー族の言葉で「寒い山」と呼ばれる山間の村
で、大工と狩りと農家の手伝いで暮らしを立てていた。その
村に、大都会チャールストンから牧師が赴任する。その牧師
に寄進される教会を立ってていた男の前に、洗練された容姿
の牧師の娘が現れる。
一目で心を通じ合う2人、しかし折しも戦争が勃発し、1回
のキスを交わしただけで男は出征する。そして3年、音信も
ないまま男を待ち続ける女は、庇護してくれた牧師の父親を
亡くし、生活の術もなくして困窮してしまう。
ミンゲラは、オスカー受賞作でも反戦の思想を見事に描いて
見せたが、本作でもその姿勢は変わらない。巻頭で悲惨な戦
場を描き、その後も戦争の愚かさを描き切る。しかもそこに
男女の物語を織り込むことで、それをより鮮やかなものに仕
上げている。
さらに本作では、ここにゼルウィガー扮する男性の行動に批
判的な女性を配し、彼女に監督の思いを代弁させている。主
人公の女性を助けつつも自らも主張するこの役柄は、儲け役
でオスカーには最適の役柄と言えそうだ。
主演のジュード・ロウ、ニコール・キッドマンに加えて、ド
ナルド・サザーランド、ナタリー・ポートマンらが共演。
それにしても、巻頭描かれる戦場での愚行は、多くの反戦映
画が戦場を見た目よく描いてしまうジレンマを見事に解消し
ている。さすがにミンゲラというところだ。



2004年03月15日(月) 第59回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずはアカデミー賞の講評を簡単に書いておこう。
 今回のオスカーは、すでにご承知のように“The Lord of
the Rings”の11部門(候補になった全部門)での受賞とい
う圧勝に終った訳だが、永年SF/ファンタシー映画を追い
続けてきた者にとっては、こんなに嬉しいことはなかった。
実際、翌日の試写室で「今年は予想通りで詰まらなかった」
などと話している連中を見たときには、「お前らは本当に映
画が判っているのか、過去の経緯を心得ているのか」と聞き
返したくなったほどだ。
 思えば、1978年3月の受賞式に、1977年度の作品賞候補と
して『スター・ウォーズ』が挙げられて以来、81年度の『レ
イダース/失われた聖櫃』、82年度の『E.T.』と続いて、
特に82年度は受賞間違いなしと思っていたものが、見事に裏
切られた(受賞作は『ガンジー』)ときには、アカデミー賞
の存在自体を呪いたくなったものだ。それは94年度の『フォ
レスト・ガンプ』、97年度の『タイタニック』で比較的近い
作品が受賞を果たしても変わることはなかった。
 だから今回は、2001年度から3年連続の候補で、直前のゴ
ールデン・グローブ賞などを総嘗めにしても、最後の最後ま
で緊張は解けなかった。確かに、3年連続の労い賞だとか、
良く頑張ったで賞とか言われてもいるが、Variety紙の記事
でも何かほっとしたような論調なのは、永年このジャンルの
作品を無視し続けたことへの後ろめたさのようにも感じた。
実際その記事の中でも、これでハリウッドが変わると予言ま
でしている。本当にそうあって欲しいものだ。
 ということで、以下は定例の製作ニュースを紹介しよう。
        *         *
 といっても、最初はアカデミー賞の効果と言って良さそう
な話題だが、永年滞っていた待望の計画がついに動き出すこ
とになりそうだ。
 2002年5月1日の第14回で紹介したパラマウントの計画、
“A Princess of Mars”に始まるエドガー・ライス・バロー
ズ原作「火星」シリーズの映画化に、『スパイ・キッズ』、
『レジェンド・オブ・メキシコ』のロベルト・ロドリゲス監
督の契約が発表された。
 この計画は、ユニヴァーサル配給の『ハムナプトラ』シリ
ーズなどを手掛けたアルファヴィル・プロダクションが進め
ているもので、同社の要請でパラマウントは、2002年にコロ
ムビアなどとの争奪戦の末に、最低30万ドルから最高200万
ドルの契約金で、バローズの遺族から映画化権を獲得してい
たものだ。
 そしてすでに、『ザ・セル』などのマーク・プロトセヴィ
ッチによる脚本も完成しているということで、ロドリゲスは
来年早々の撮影開始という線で計画を進めるとされている。
従ってこの計画通りなら、2006年の夏〜クリスマスシーズン
には、映画版のジョン・カーターとデジャー・ソリスに会う
ことができそうだ。
 なお、撮影はロドリゲスが本拠を置くテキサス州オーステ
ィンを中心に行われるということで、これは“The Lord…”
でのピーター・ジャクスンのやり方に倣うということだが、
実はロドリゲスは、すでにオースティンにスタジオと特撮工
房を構えており、これはおそらく『スパイ・キッズ』の製作
用に作られたものと思われるが、その設備を駆使して製作が
行われることになりそうだ。
 またロドリゲスは、このシリーズについて、「“The Lord
…”の後に残された映画化されていない作品の中で、最も有
名なファンタシーの古典と言える作品だ。今までは技術が追
いついてくるまで実現が不可能だった」と語ったそうだが、
正直に言って、JRRトーキンの“The Lord…”の原作は、
文学的にも優れた作品だが、バローズの作品は決してそのよ
うなものではない。ロドリゲスにはその辺を勘違いしないで
映画化を実現してもらいたいものだ。
 まあ、簡単に言えば、ロドリゲスの今までの作品の乗りで
やってもらえればファンも満足する作品になると考える。間
違っても、「火星」シリーズで『グレイストーク』は作らな
いで欲しいというところだ。
 キャスティングは未発表だが、カーター、ソリスの配役は
もとより、6本脚の馬や、身長12フィートの怪人をどのよう
に映像化するかにも興味は集まる。『スパイ・キッズ』でも
VFXはかなり頑張ってはいるが、今回スケールや質の点で
は“The Lord…”に匹敵するものが要求されることになる訳
で、スタッフにはその辺の一層の頑張りを期待したい。
 なお、ロドリゲスは、今後はすでに撮影開始された“Sin
City”(ジョッシュ・ハートネット、メアリー・シェルトン
共演によるフランク・ミラー原作のグラフィックノヴェルの
映画化)の監督に並行して、本シリーズの準備を進めること
になるようだ。
        *         *
 お次もファンタシーシリーズの話題で、2002年7月15日の
第19回で紹介したC・S・ルイス原作“The Chronicles of
Narnia”の映画化について、前回紹介したウォルデン・メデ
ィアに加えて、ディズニーが共同製作の形で参加することが
発表された。
 この計画については、2001年12月にウォルデンが映画化権
を獲得し、独自に準備を進めていたもので、すでに『シュレ
ック』を手掛けたアンドリュー・アダムスンの監督も発表さ
れ、アダムスンとクリストファー・マーカス、スティーヴン
・マクフィリーの草案から、アン・ピーコックによる脚本も
執筆されているようだ。そして本年6月末か7月初めから、
ニュージーランドとチェコスロヴァキアでの撮影も準備され
ており、公開は2005年クリスマスを目指すとされている。
 この計画にディズニーが参加する訳だが、両社は50/50で
製作費を負担することになっており、これによりディズニー
は、全世界マーケットでのヴィデオ、ライセンシング、マー
チャンダイズなどの権利も獲得するということだ。
 なお、映画化はシリーズで最初に書かれた“The Lion,the
Witch and the Wardrobe”から開始されることになってい
るが、実は物語的にはこの作品は第2部に当るもので、この
前の話として“The Magician's Nephew”という作品が書か
れている。一方、今回の計画では当初から“The Chronicles
of Narnia”と銘打たれており、シリーズの全7作の映画化
が想定されているもので、時間の流れをどう説明するか、今
後の映画化が進むとその辺の調整も注目されそうだ。
 因に、ウォルデンとディズニーの関係は、ディズニーがア
メリカ国内の配給権を契約して、すでにIMAX作品の『タイタ
ニックの秘密』や、ジャッキー・チェン主演でリメイクされ
た“Around the World in 80 Days”のアメリカ配給なども
手掛け、その契約も2年間更新されたようだが、今回の共同
製作はそれとは別の契約で行われるということだ。
 キャスティングは未発表だが、ウォルデン代表のキャリー
・グラナットは、「“The Lord of the Rings”ではゴラム
という素晴らしいキャラクターが生み出されたが、我々は同
様のキャラクターを5体作り上げなければならない」と、そ
の目標を掲げている。なおシリーズは、上記の2作と“The
Horse and His Boy”“Prince Caspian”“The Voyage
of the Dawn Treader”“The Silver Chair”“The Last
Battle”で構成される。
        *         *
 続いては、今年主演女優賞を受賞したシャーリズ・セロン
の話題で、次回作としてレイクショア=パラマウント製作の
“Aeon Flux”という作品に主演することが発表された。
 この作品は、元々はパラマウント傘下のMTVで放送され
ているアニメーションシリーズを実写映画化するもので、物
語は、400年後の未来が舞台。地球人類は謎の病原菌によっ
てほぼ全滅させられ、人々は病原菌を除去するドームに包ま
れた都市の中でかろうじて生き長らえている。そして主人公
は、その世界での政治的なリーダーを殺すことを命じられた
アクロバティックなスーパーヒロイン、このスーパーヒロイ
ンをセロンが演じるというものだ。
 オスカー受賞の直後にしては風変わりな作品を選んだもの
だが、実はこの発表は、受賞式直前の2月26日に行われたも
ので、渡辺謙のラーズ・オル・グールと同様、箔が付いてし
まう前に契約を結んでしまおうというもののようにも感じら
れる。といっても、先日のハリー・ベリーもオスカーで仕事
を選ぶことはないと言っていたように、セロンもこういう役
柄を演じて見たかったのかも知れない。実際、“Monster”
の公開以後に殺到した出演交渉の中からこの作品が選ばれて
いる訳で、彼女自身が選んだ役柄であることに変わりはない
ということだ。
 なお映画化は、ゲイル・アン・ハードのワルハラ・プロダ
クションが進めるもので、ハードは10年以上前からこの企画
を温めていたそうだ。そして監督は、2000年に話題になった
『ガールファイト』のケイリン・クサマで、監督も1年近く
この計画に関わっているようだ。脚本はフィル・ヘイとマッ
ト・マンフレディが執筆。撮影は、本年6月にベルリン郊外
で開始されることになっている。
        *         *
 話のついでに、渡辺謙のラーズ・オル・グールが登場する
“Batman Begins”の情報で、シリーズのレギュラーとなる
ゴッサムシティ警察のゴードン本部長(署長ではなかった)
役に、“Harry Potter and the Prisoner of Azkaban”には
タイトルロールのシリウス・ブラック役で登場するゲイリー
・オールドマンの登場が発表された。なおこの配役は、以前
の紹介ではデニス・クウェイドが報告されていたものだが変
更になったようだ。
 因にゴードン本部長役は、前のシリーズではパット・ヒン
グルという俳優が演じていたが、大元の設定では前作『バッ
トマン&ロビン』に登場したバットガールの父親というもの
(その後の設定変更では叔父、ただし映画版のバットガール
は執事アルフレッドの姪ということになっていた)。今回の
設定がこの先どうなるかは判らないが、ましてオールドマン
が演じるとなれば、かなり重要な登場人物になりそうだ。
 なお、本編の撮影はアイスランドで開始されたようだ。 
        *         *
 続いてはSF映画のリメイクの情報で、1976年にMGMで
映画化されたウィリアム・F・ノーラン、ジョージ・クレイ
トン・ジョンスン共作の“Logan's Run”(2300年未来
への旅)を、『X−メン』のブライアン・シンガーの監督、
『マトリックス』のジョール・シルヴァ製作で、ワーナーで
再映画化する計画が発表された。
 オリジナルの映画化は、1956年のオスカー作品賞を受賞し
た『80日間世界一周』などのマイクル・アンダースンが監督
し、マイクル・ヨークとジェニー・アガターが主演、ファラ
・フォーセットの出演などでも話題になったものだ。
 物語は、2274年の舞台設定で、ドーム都市の中でユートピ
ア社会が構築された世界。しかし都市の人口増加を押さえる
ため、住民は30歳になると儀式によって死ななくてはならな
い。そして主人公は、死を免れようとする住民を取り締まる
警官だったのだが、ある日、逃亡の手段を見つけてしまう。
 オリジナルの映画化では、巨大な未来都市のミニチュアセ
ットの中をシュノーケルカメラが縦横に動き回るなど、当時
としては最新の技術が駆使されたもので、内容自体はさほど
優れたものとは思わなかったが、映画の評価はガイドブック
で星3つなどと高めになっている。また、映画公開後にはテ
レビシリーズ化もされた。
 その作品をシンガーの監督でリメイクするものだが、シン
ガーはすでに『X−メン2』のプロダクションデザインを手
掛けたジー・ダイアスとの作業を開始しており、「皆さんが
今まで見たこともないような世界をご覧にいれる」と抱負を
語っている。またシンガーは、イーサン・グロス、ポール・
トゥディスコと共に、脚本の執筆も開始しており、キャステ
ィングや撮影時期は未定だが、ワーナー側は2005年中の公開
を期待しているということだ。因に、この脚本で住民は21歳
で死ぬことになるそうだ。
 なお、シンガーはフォックスと包括契約を結んでおり、こ
の契約では“X-Men”シリーズの続編が期待されているもの
だが、本作はその前に製作されることになる計画だそうだ。
 また原作者のノーランは、本作に続けて、ローガンとジェ
シカの冒険を描いた“Logan's World”“Logan's Search”
の2作の続編を発表しているそうだが、今回のリメイクがそ
こまでの製作を考慮したものか否かは定かではない。
        *         *
 前の話題は3部作になるかも知れないが、次はシリーズ第
3作の話題を2つ紹介しよう。
 まずは今年7月に第2弾が公開される“Spider-Man”で、
早くも“Spider-Man 3”の計画が発表された。この発表は、
原作コミックスを出版するマーヴル・コミックス側が行った
もので、それによると第3作の公開時期は2007年、これは早
めれば06年も可能だが、安全を考えて07年に設定していると
いうことだ。
 そしてこの計画は、すでに監督のサム・ライミとも話し合
われており、また主演のトビー・マクガイアのエージェント
及びマネージャーとは、予定される撮影期間に他の作品の撮
影がぶつからないかどうか調整を行っているということだ。
 これに対して映画を製作配給するソニーは、“Spider-Man
3”の計画が進行中であることは認めたものの、その詳細は
回答できないとしている。なおソニーとマーヴルの間では、
昨年“Spider-Man”のキャラクターの使用を巡って裁判沙汰
にまで発展したが、結局映画シリーズを続けるためには両社
の協力がなければできない訳で、その辺は割り切って計画は
進められているようだ。
        *         *
 そしてもう1本の第3作は、昨年第2弾の『ワイルド・ス
ピード2』が公開された“The Fast and the Furious”のシ
リーズの続編で、ヴィン・ディーゼルを呼び戻す計画が進め
られている。
 このシリーズでは、2001年公開の第1作でディーゼルの売
り出しに大いに貢献したが、第2作ではディーゼルの出演は
なく、第1作に続いてポール・ウォーカーが演じた潜入捜査
官ブライアン・オコナーを主人公にして、タイリーズ演じる
別のキャラクターが彼のパートナーとなっていた。そしてこ
のときは、第1作の監督ロブ・コーエンも降板し、ジョン・
シングルトンが監督を勤めたものだ。
 とは言え、この第2作の興行成績は、アメリカ国内は第1
作よりわずかに下がったものの1億ドルを突破、全世界では
第1作を上回る数字を残し、物語自体が世界中で受け入れら
れたことを示していた。
 ということで第3作の計画が注目された訳だが、製作会社
のユニヴァーサルは敢えてディーゼル演じるドミニク・トレ
ットのキャラクターを選択。『S.W.A.T.』のリライトな
どを手掛けたクリス・モーガンを雇ってメキシコに逃れたト
レットの新たな物語を作らせた。そしてその脚本では、何と
トレットは東京に現れ、最近のストリートレースのメッカと
言われるこの街で、ギャング団とのトラブルに巻き込まれた
友人を救うためにレースに挑むということだ。
 なお、ディーゼル本人はシリーズの第3作への出演を希望
しているということだが、その前に脚本の確認が必要という
ことで、現在は脚本の完成待ちの状態のようだ。一方、監督
のコーエンも、ディーゼルが出演するなら席に戻る可能性が
あるということで、シリーズ第1作と2002年の『XXX』を
作り上げた最強のコンビが復活することもあるようだ。
 とまあ、期待のシリーズ第3弾というところだが、それに
しても今回の脚本で、東京の警察はすんなりとOKを出して
くれるのだろうか。主演と監督が戻っても、その辺がちょっ
と気がかりなところもある。
 因に、本作の公開は2005年の夏に予定されているが、この
夏のユニヴァーサル映画には、ドウェイン“ザ・ロック”ジ
ョンスン主演の“Spy Hunter”しか決まっておらず、ユニヴ
ァーサルとしてはぜひとも実現したい計画のようだ。
        *         *
 続いては企画復活の情報で、2002年9月15日の第23回で計
画延期を報告したダーレン・アロノフスキー監督のSF大作
“The Foutain”が、ヒュー・ジャックマンの主演で復活す
る可能性が出てきた。
 この計画は、アロノフスキーとアリ・ハンデルの脚本を映
画化するもので、物語は、現代を中心とした前後500年ずつ
の過去と未来を結ぶ不滅の愛を描くもの。そして凍結前の計
画では、ブラッド・ピットとケイト・ブランシェットの共演
が予定され、この2人が500年前のスペインの南米制服と、
現代と、500年後の宇宙船を背景に、ブランシェットはそれ
ぞれ違う人物、対するピットは同一の人物として登場すると
いうものだった。
 そしてこのときは7500万ドルの予算が組まれ、すでにオー
ストラリアに一部セットの建設も始まっていた。しかしブラ
ンシェットの妊娠などで計画が遅れ、結局ピットが“Troy”
への出演を決めた時点で製作会社のワーナーから延期が発表
されたものだ。
 その計画が復活する気配になったものだが、主演がピット
からジャックマンに変更になったことで、製作予算は一気に
3500〜4000万ドルになってしまったということ。しかもこの
計画では、前回の延期発表までに投入された1800万ドルが別
に負債として残っているということで、製作会社側としては
かなり厳しい条件に見舞われることになるようだ。
 従って、実現までにはまだ前途多難なようだが、アロノフ
スキーとしてはかなり気合いを入れた作品だっただけに、何
とか実現してもらいたいものだ。
 なお、アロノフスキーの計画では、前々回紹介した“Song
of Kali”が進められている他、日本の侍コミックスを実写
映画化する“Lone Wolf and Cub”(子連れ狼)の計画も進
んでいるようだ。
        *         *
 最後に続報で、3月30日からの撮影が予定されているハリ
ウッド版“The Ring 2”の監督に、急遽日本版『リング』を
手掛けた中田秀夫の起用が発表された。
 この続編の計画では、CF出身のノアン・モロという監督
の起用が予定されていたが、3月上旬に製作者のウォルター
・F・パークスとの間で創造上の意見の相違が発覚。降板が
表明されて、その後をオリジナルの監督が継ぐことになった
ものだ。因に中田監督は日本版の『リング2』も監督してい
るが、今回のハリウッド版はリメイク版“The Ring”の続編
ではあるものの、内容は日本版とは全く異なるそうだ。



2004年03月14日(日) オーシャン・オブ・ファイヤー、キャンプ、犬と歩けば、永遠のモータウン、ホーンテッド・マンション、フォーチュン・クッキー

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『オーシャン・オブ・ファイヤー』“Hidalgo”      
実話に基づく物語。                  
イエメンのアデンからシリアのダマスカスまで、全長3000マ
イル(4800km)を走破する砂漠の競馬レース。1890年、アラ
ブ馬の純血種だけで1000年に亙って競われてきたそのレース
に、ヒダルゴという名の1頭のマスタングとアメリカ人の騎
手が挑戦した。                    
主人公のホプキンスは、アメリカ1番のクロスカントリー競
馬の乗手と呼ばれた男。しかし平生は騎兵隊の伝令としての
仕事も引き受ける彼は、ある日、第7騎兵隊への命令書を届
け、それによってウーンデッド・ニーの惨劇が引き起こされ
るのを目撃してしまう。                
その罪の意識から生活が荒み、ウェスタンショウへの出演な
どで、その日暮らしの生活をしていた彼に、ある日アラブ人
の使者が現れ、砂漠のレースへの参加が招待される。   
その賞金は10万ドル。その金があれば、荒野のマスタングの
群れを守り、インディアンたちの生活を救うことができる。
彼は命を掛けた過酷なレースに参加を決意する。     
しかしそのレースは、自然との戦いだけでなく、参加者たち
の陰謀とも戦わなければならないものだった。      
『ロード・オブ・ザ・リングス』でアラゴルン役を好演した
ヴィゴ・モーテンセンがホプキンスを演じ、他にオマー・シ
ャリフらが共演。監督は、『ジュマンジ』などのジョー・ジ
ョンストン。                     
『ラスト・サムライ』と同じ頃の話ということになるが、こ
の作品でも、インディアンたちの言葉や、アラビア語が字幕
付きで描かれるのは気持ちが良い。また、ショウの舞台裏で
はアニー・オークレイが出てくるなどのくすぐりもある。 
そして舞台がアラビア半島に移り、そこからの画面を彩るの
は、壁のように襲いかかる砂嵐や、解き放たれた豹が馬を襲
うなどのVFXの数々。ジョンストンは、元々がILMの特
撮マンだからこの辺の映像との絡みはお手のものだ。   
正直に言って、もっと人間を描ける監督だったら違う雰囲気
になったかも知れないが、見せ場たっぷりの映像は、それは
それで良しと言うところだろう。            
                           
『キャンプ』“Camp”                 
アメリカで、芸能界に向かう登竜門の一つとも言われるミュ
ージックキャンプに挑戦する素人の若者たちを描いた作品。
製作、脚本、監督(デビュー作)のトッド・グラフは、『ア
ビス』などに出演した俳優でもあるようだが、自らミュージ
ックキャンプの出身者ということで、監督自身が落ちこぼれ
の集まりと自称する彼らの姿を愛情を込めて描いている。 
芸能界を夢見る若者たちが集まるミュージックキャンプ。そ
こは、ゲイや、自分はもてないと思い込んでいる少女や、親
の言いなりになっている自分から逃げたい子供など、世間か
らはちょっと変わり者と思われているような連中の寄り集ま
りだ。                        
このキャンプで彼らは、普段の生活を離れて、自分自身を再
発見するチャンスを得ることになる。そんなキャンプに、今
年は一人の青年が参加する。ギターや歌も巧く、一見完璧に
見える青年は、少女やゲイたちの憧れの的となるのだが…。
『ウエスト・サイド・ストーリー』の作詞家スティーヴン・
ソンドハイムが、自らカメオ出演もするなどの協力で、往年
のミュージカルスの楽曲もふんだんに登場。『フェーム』の
音楽スタッフによる新曲も披露されるなど音楽ファンにはか
なりのもののようだ。                 
展開に多少あざといところはあるけれど、タップダンスや歌
唱など、出てくる若者たちの見事なパフォーマンスを見せら
れると、そんなことはどうでも良くなってしまう。それに何
より彼らに向けられる目の暖かさが素敵、そんな感じの作品
だった。                       
                           
『犬と歩けば』                    
ココリコの田中直樹の主演で、恋人に振られた若者と、捨て
犬との交流を描いた作品。               
これに共演がりょう、ラーメンズ片桐仁、Puffy吉村由美、
さらに嶋田久作、寺島進、ガダルカナル・タカ、はなわなど
と来ると、なかなか見に行く食指が動かないという感じの作
品だ。だって、どう考えてもまともな映画が作れる体制では
ない。                        
しかし監督の篠崎誠は、前作『忘れられない人々』が気に入
っているので見に行った。               
そこで映画は、もちろん田中主演のドラマではあるのだけれ
ど、主眼は動物介在療法(アニマルセラピー)の活動を描い
たもので、その支援活動を続けているミュージシャンの大木
トオル氏も特別出演して、その訓練から実践までが手際良く
描かれている。                    
これが、自分で犬を飼っている身としては実に分かり易すく
描かれているし、また田中直樹が飼い主の視点でそれを演じ
ていてくれるのも良い感じだった。           
監督は、前作でも、戦争から老人問題、そして現代の社会悪
までも手際良くまとめてみせてくれたが、今回は前作ほどテ
ーマの数を盛り込んでいないから判りやすい反面、言いたい
ことがもろに出過ぎた感じはする。でもこのテーマなら仕方
ないかなという感じだ。                
なお出演者の演技は、多少臭い部分もあるが概ね悪くはなか
った。ただ、映画の宣伝は、もっとセラピードックを前面に
出してもいいのではないかと思うが、どうだろう。    
                           
『永遠のモータウン』                 
         “Standing in the Shadows of Motown”
1959年、デトロイトに誕生したモータウンレコード。   
スティーヴィー・ワンダーからダイアナ・ロス、テンプテー
ションズ、そしてマイクル・ジャクスンまでも育てた伝説の
レコード会社を、陰で支えたスタジオミュージシャンたち。
彼らの名はファンク・ブラザース。            
「歌手は誰でも良かった。彼らのサウンドがあったからこそ
モータウンはヒット曲を連発できた」とまで言われるファン
ク・ブラザースだが、今まで彼らの存在が語られることはほ
とんどなかった。そのファンク・ブラザースにスポットを当
てたドキュメンタリー。                
といっても、本作の製作も、元になる同名の書籍が1989年に
発表されてから14年もかかっているのだから、本当に幻に終
ってしまうところだったようだ。実際に映像では1990年代に
撮影されたものも多く登場するが、その内の何人かはすでに
亡き人なのだ。                    
しかしようやく完成されたこのドキュメンタリーがきっかけ
で、ファンク・ブラザースは復活。英米でのコンサートを成
功させ、今年のグラミー賞で功労賞が授与されたという。 
映画は、その復活コンサートを中心に、参加した若手ミュー
ジシャンとの交流や、すでに亡くなった人を含むメムバーへ
のインタヴュー、思い出話しに、その再現映像などで綴られ
る。まあ、ミュージシャンにありがちな思い出話しだが、人
種を超えたグループだっただけに、キング牧師暗殺やデトロ
イトの暴動の時のエピソードには感銘を受けた。     
それにしても、「マイガール」や「プリーズ・ミスター・ポ
ストマン」など、聞き覚えのある曲の数々が、みな彼らの作
品だったというのには感動した。しかも、最初の数小節だけ
があって、そこからほとんど即興で曲が作られる。2時間も
あれば2、3曲は作れたという話しも、このドキュメンタリ
ーを見ていると真実と理解できた。           
                           
『ホーンテッド・マンション』“The Haunted Mansion”  
ディズニーランドのアトラクションにインスパイアされた作
品の第3弾。お馴染みの幽霊屋敷の成立までの経緯が、ここ
に明らかにされる。                  
不動産業を営んで、夕食にも帰らずに仕事に精出す主人公。
妻は諦め気味で、姉弟2人の子供の内、姉は反抗的、弟は父
親との接触が少ないためか内向的に育っている。     
そんな状況を打破しようと、主人公は、親子関係を取り戻す
ために週末をリゾート地の湖で過ごすことを決めるのだが、
ちょうどその日、古い屋敷の売却の話しが舞い込んでくる。
そして湖に向かう途中、全員でその屋敷を訪れた一家は…。
まあ、お話は他愛もないものではあるが、アトラクションの
内容なども巧く取り込んで、1時間28分の上映時間は満足で
きる。特に、くすぐりの部分がほとんどそれに拠っているの
は、アトラクションのファンにはたまらないところだ。  
監督は、『ライオン・キング』『スチュアート・リトル』の
ロブ・ミンコフ。さすがディズニー出身者は、その精神みた
いなものもよく判っているし、VFXの使用にも慣れている
から、この作品にはピッタリの人材と言える。      
そして主演には、エディ・マーフィが、最近板に着いてきた
父親役を本作でも調子良く演じている。他にテレンス・スタ
ンプが執事役で登場、貫禄を見せる。          
VFXは、『スチュアート…』などのソニー・イメージワー
クス。また、久々のリック・ベーカーが、ゴーストやゾンビ
などの特殊メイクを担当している。           
昨年春の『カントリー・ベア』に続く、夏の『パイレーツ・
オブ・カリビアン』の大ヒットのお陰で、日本での前売鑑賞
券の売り上げは、『ファインディング・ニモ』の1.5倍に
なっているそうだ。                  
                           
『フォーチュン・クッキー』“Freaky Friday”      
お互いを理解できない母親と娘が、中華料理店で渡されたフ
ォーチュンクッキーの魔法で身体が入れ替わり、すったもん
だの末に理解できるようになるという、ディズニーお得意の
ちょっとファンタスティックなファミリー・コメディ。  
アナはロックに熱中する高校生。バンドを結成してガレージ
で練習することは認められているが、母親で精神科医のテス
は口うるさく、お互いの関係はかなりぎくしゃくしている。
しかもテスの再婚の日が近づき、新しい父親にも馴染めてい
ない。                         
そんな状況でアナは学校でもいらいらのし通し。しかしバン
ドがオーディション出場のチャンスを掴み、前が開けたと思
ったのだが、その日はテスの結婚式のリハーサルで、アナは
花嫁の介添え役をしなければならなかった。             
親子の身体が入れ替わる話というと、1987年公開の『ハモン
ド家の秘密』を思い出すが、実は本作は、1976年製作のジョ
ディ・フォスター主演作品のリメイクで、さらに1972年に発
表された小説の映画化ということだから、こちらの方が断然
先に作られたお話だ。                     
そしてこのお話を、今回はジェイミー・リー・カーティスと
リンゼイ・ローハンという16歳の女優の共演で映画化してい
るが、このローハンが何しろ巧い。カーティスは、最後の方
に見せ場は用意されているものの、ほとんどローハンのため
の作品という感じで、さすがフォスターの跡を継いだという
ところだ。                      
なおローハンはCMとテレビの出身で、1998年製作の『罠に
かかったパパとママ』のリメイク版『ファミリー・ゲーム』
で、1人で双子を演じて映画デビュー。1億ドル突破の本作
に続く主演作の“Confession of a Teenage Drama Queen”
は、2月に全米公開されて初登場第2位。さらに次回作には
『ラブ・バッグ』の新作への主演も予定されている。   
まあ、基本的にはプログラム・ピクチャーで超大作ではない
が、1時間37分の上映時間は充分に楽しめる。なお、劇中の
主人公が歌う歌はローハンが自分で吹き込んでいるようだ。
また、騒動のきっかけとなる中華料理店の女将の役で、ロザ
リンド・チャオが出演している。                     



2004年03月01日(月) 第58回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は、僕も思わず喝采したこのニュースから。
 すでに一般マスコミでも報道されているが、『ラスト・サ
ムライ』で好演した渡辺謙が、3月にロンドンで撮影開始さ
れるクリストファー・ノーラン監督の“Batman 5”に、敵役
のラーズ・オル・グール役で出演することが発表された。
 この敵役については、2003年12月15日付の第53回でも紹介
しているが、このときは『28日後...』のキリアン・マーフ
ィが配役されたというものだった。それがいきなり渡辺謙と
なった訳だが、実は、最新のVariety紙の製作リストでも、
マーフィの名前は後の方に掲載されており、結局、彼はDr.
ジョナサン・クレインこと、今回はサブの敵役のスケアクロ
ウ役だったようだ。
 それにしてもこの製作リストでは、ブルース・ウェイン=
バットマン役のクリスチャン・ベイルに続く出演者の2番目
にKEN WATANABEと記され、しかもその後に、マイクル・ケイ
ン(執事アルフレッド役)、リーアム・ニースン(助言者デ
ュカード役)、ケイティ・ホームズ(恋人レイチェル役)、
モーガン・フリーマン(ウェイン社・会長役)、デニス・ク
ェイド(ゴードン署長役)らの名前が並んでいるのには感動
する。何と言っても、オスカー受賞者のケイン、ニースン、
それにハリウッドの黒人スターの重鎮とも言えるフリーマン
の前に渡辺の名前があるのだ。過去にこれほど厚遇された日
本人俳優がいただろうか。
 しかし、それほどの快挙だと言うのに日本のマスコミの扱
いの小ささには少なからずショックを受けた。同じ日にゴシ
ップの報道が出たのは偶然かも知れないが、それとこれのど
ちらがより重要な話題なのか。実際に海外では、『ラスト・
サムライ』での好演ということもあって、かなり大きく報じ
ていたところもあった訳で、少しは世界に目を向けてほしい
と感じたものだ。まあ、日本でも映画ファンサイトがかなり
盛り上がったということでは、多少ほっとしたが…。
 因に、ラーズ・オル・グールは、1971年6月に初登場とい
うことで、バットマンに登場する敵役の中では比較的新しい
キャラクターだが、実は彼には娘がいて、タリアという名前
のこの娘は、バットマンの中では数少ないブルース・ウェイ
ンとバットマン両方の恋人ということになっている。ここで
父親が日本人なら、娘も日本人の配役を期待したいところだ
が、実は今回ホームズの演じているレイチェルが、タリアの
隠蓑という説もあり、期待通りには行きそうにない。
 ただしラーズとタリアは、最近のコミックスでは、バット
マンのシリーズを離れてスーパーマンのシリーズの方で主に
活躍しているという情報もあり、これでもし渡辺=ラーズが
評判になれば、製作が行き詰まっている“Superman”の映画
化にも登場の可能性が考えられる。そうなると、一時ジム・
キャリーが狙っていた両シリーズへの敵役での登場を、渡辺
が実現してしまうことになる訳で、これも大変な出来事とい
えるのだ。こんな夢の実現を、本当に期待したいものだ。
 なお、“Batman 5”の正式題名が“Batman Begins”に決
定したという情報もあるようだが、この題名が何を意味する
かという辺りも気になるところだ。また、配役は未定(ガイ
・ピアースにオファーされているという情報もある)だが、
1995年の『バットマン・フォーエバー』でトミー・リー・ジ
ョーンズが演じたハーヴェイ・デントが、トゥー・フェイス
になる前の姿で登場するという話もあるようだ。
        *         *
 次は、ちょっとショッキングなニュースで、イギリス映画
の振興を支えてきた映画基金の税法上の優遇処置が2月中旬
に突然打ち切られ、これらの基金の大半が打ち止めになって
しまった。実際この基金では、アメリカのインディペンデン
ト系の作品などもかなり恩恵を被っていたようだが、結局放
漫経営などで資金の流れが不明朗になっていたことが、今回
の優遇処置打ち切りの根底にもあったようだ。
 そしてこの影響をもろに受けたのが、1月15日付の第55回
で紹介したジョニー・デップ、ジョン・マルコヴィッチ共演
の“The Libertine”で、2200万ドルとされた製作費の30%
程度がこの基金に依っていたために、前回紹介した2月23日
からの撮影予定は実行不能になってしまった。実際、これ以
前に撮影が開始されていた作品では、イギリス政府の援助が
与えられて生き延びた作品もあったようだが、本作は撮影前
ということで、その対象にもならなかったものだ。
 ということで大変な事態になってしまった訳だが、さすが
デップ、マルコヴィッチ共演という注目の作品には、直ちに
別の資金提供者が現れ、多少の製作体制に変更は生じたもの
の、3月3日に撮影が開始されることが発表された。
 その変更というのは、不足する資金の提供をイギリス本土
とアイルランドの間に浮かぶマン島の映画基金が行うという
もので、その代わりに、当初ロンドンのスタジオで行う予定
だったセット撮影を、マン島のスタジオで行うということに
なったものだ。
 因にマン島では、マルコヴィッチが故スタンリー・クーブ
リック監督にオマージュを捧げたと言われる前作“Color Me
Kubrick”を撮影していたということもあり、話し合いは順
調に進められたようで、最終的にイギリス政府の援助が得ら
れるか否かは微妙なところもあったようだが、一気に思い切
ったというところのようだ。
 と言っても、デップ、マルコヴィッチの共演ともなれば、
インディ作品であっても世界中から引き合いは間違いない。
しかもその作品には、昨年度実写ナンバー1のヒット作に主
演したデップが、以前にも紹介したように破格に安い出演料
で出ている訳で、資金を提供する側にとってはこんなに美味
しい話は滅多にないと言えるもの。マン島側も、実に良い選
択をしたと言えそうだ。
 なおマン島は、24時間のオートバイレースが行われること
などでも有名だが、イギリスの一部でありながら、イギリス
連合王国の正式名称をGreat Britain and Man Isleと名乗ら
せたり、貨幣や郵便切手も独自に発行するなど、自治性はか
なり高い土地ということだ。
        *         *
 続けてジョニー・デップの情報で、ユニヴァーサルが進め
ている元Elle Franceの編集者だったジャン=ドミニーク・
ボウビイの自伝“The Diving Bell and the Butterfly”の
映画化にデップの主演が交渉されている。
 この作品は、1995年、当時43歳の現役編集者だったボウビ
イが突然脳溢血で倒れ、全身麻痺に陥って、かろうじて左目
の瞬きだけができるという状態になったというもの。原題の
Diving Bellというのは、こういう状態になったことを指す
医学用語ということだ。
 そしてボウビイは、左目の瞬きだけで、アルファベットを
一文字ずつ指示して、彼自身の思い出や夢を綴った自伝を作
り上げたということで、彼はこの自伝が出版された2日後に
亡くなっている。
 一方、映画化については、1997年に作品が紹介された直後
からソニーとドリームワークス共同で、ロン・バスの脚色、
スコット・ヒックスの監督による計画が進められたが、結局
バスの脚色が完成せず、計画放棄の発表がされていた。
 その計画をユニヴァーサルが引き継ぎ、今度は『戦場のピ
アニスト』のロナルド・ハーウッドの脚色、『バスキア』の
ジュリアン・シュナベル監督で進めることになったものだ。
 なお、実際の契約はハーウッドと結ばれているだけのよう
だが、彼の脚色には数多くの監督が映画化を希望したという
ことで、その中からシュナベルが選考されたということだ。
またデップは、監督の第2作の『夜になるまえに』に出演し
ており、その線で交渉が進められているようだ。
 同じような物語では、ダルトン・トランボが1971年に自作
の小説を映画化した『ジョニーは戦場に行った』が思い出さ
れるが、今回は実話の映画化ということで、特に伝記の映画
化で評価の高いシュナベルが、どのような作品に描き出すか
楽しみだ。
        *         *
 リメイクの情報で、1972年に製作され、デザスター映画ブ
ームの発端になったと言われる“The Poseidon Adventure”
(ポセイドン・アドベンチャー)をリメイクする計画がワー
ナーから発表されている。
 この作品のオリジナルはフォックスが配給したものだが、
製作したのは当時テレビシリーズの製作者として有名だった
アーウィン・アレンのプロダクションで、この後アレンはワ
ーナーに籍を移したために、アレンの所有していた権利は、
現在はワーナーが管理しているようだ。
 そして今回この計画を進めているのは、アレンと同じくテ
レビシリーズ製作者のマイク・フライスと、それにウルフガ
ング・ペーターゼンが加わることになっている。
 ペーターゼンは、現在は“Troy”の仕上げも終った頃のよ
うだが、ドイツ時代に手掛けた『Uボート』や、近作では海
洋デザスター作品とも呼べる『パーフェクト・ストーム』を
監督しており、今回のリメイクには最適と言える。ただし、
今回の計画では、ペーターゼン自身の監督は考えられていな
いということで、製作者の立場から映画製作を見守ることに
なりそうだ。
 とは言うものの、ペーターゼンは、『パーフェクト・スト
ーム』で描いた大波のシーンには相当の自信があるようで、
「素晴らしいテクノロジーの進歩によって、今こそが“The
Poseidon Adventure”のリメイクに最適の時だ」と語ってお
り、「我々はこの作品を、最高の恐怖と、そして数多くの楽
しさに満ちた作品に仕上げることができる」と抱負を語った
ということだ。
 確かに30年前の作品では、横波を受けた大型客船が転覆す
るシーンはミニチュアで撮影されたもので、当時としては大
掛かりで良くできていたとは言うものの、やはり現実感には
乏しいものだった。それが現在の技術でどこまで迫真のもの
となるか、ペーターゼンは相当の自信がありそうだが、その
辺も楽しみな作品となりそうだ。
 なお、フライスは『テキサス・チェーンソー』の製作にも
名を連ねており、またこの夏公開のユニヴァーサル作品では
監督デビューもしているようだが、彼も本作の監督は担当し
ないということだ。となると、これから選考される監督にも
注目が集まることになりそうだ。
 因に、1972年のオリジナルは、アカデミー賞の助演女優賞
(シェリー・ウィンタース)を始め、撮影賞、美術賞、音響
賞、編集賞、作曲賞、衣装デザイン賞にノミネートされ、主
題歌賞と視覚効果賞(特別賞)を受賞している。
        *         *
 お次も、製作会社の変更に関連する話題で、2001年12月15
日付の第5回で紹介したようにユニヴァーサルからミラマッ
クスに移管された“The Green Hornet”の映画化の計画が、
いよいよ本格的になってきた。
 この計画は、ユニヴァーサルではジョージ・クルーニーと
ジェット・リーの共演が予定され、『ユージアル・サスペク
ツ』のクリストファー・マカリーの脚本なども用意されてい
たものだったが、結局、最も出演を希望していたリーのスケ
ジュールの都合などで実行に至らず、すでに1000万ドルを費
やしたといわれる映画製作の権利を、300万ドルでミラマッ
クスに売り渡したものだった。
 しかし、ミラマックス側もこれに直ちには着手せず、タイ
ミングを見ていたもので、今回はこの計画の脚本と監督に、
昨年日本公開された『ジェイ&サイレント・ボブ 帝国への
逆襲』を手掛けたケヴィン・スミスの起用を発表している。
 因にスミスは、ミラマックスとは専属契約を結んでおり、
3月には新作の“Jersey Girl”という作品が公開されるこ
とになっているが、今回はミラマックストップのハーヴェイ
・ワインスタインが、長編6作目となる彼に、高額のテント
ポール作品の監督を任せることを承認したというものだ。
 なおスミスは、元々コミックスの大ファンだったというこ
とだが、1994年に監督デビュー作の『クラークス』を製作す
るためにそれまでに集めたコレクションを売り払ったことも
あるそうだ。ただし、現在はニュー・ジャージーで自らコミ
ックスの専門店も経営しているということだが、実は、彼自
身はコミックスの映画化は希望していなかったそうだ。
 その彼が“The Green Hornet”を作りたいと考えたのは、
テレビなどのお陰でホーネットやカトーの名前は有名だが、
彼らの本質は理解されていないと考えてのこと。もちろん、
ホーネットには大きなファン組織なども存在して、彼らを満
足させるのは大変だが、それに挑戦したいということだ。
 そして彼は、ワインスタインに、これを実現できるのは自
分しかいないと訴えたということだ。まあかなりの入れ込み
ようというところだが、こうなった以上は、彼の思い通りの
期待に叶う作品を作ってもらいたいものだ。また、配役に関
しては未定だが、スミス自身は、ユニヴァーサルが計画した
2人についても興味を引かれると語っているそうだ。
        *         *
 続いてもテレビシリーズの映画化で、1965〜70年に放送さ
れて日本でも人気の高かった“I Dream of Jeannie”(かわ
いい魔女ジニー)の映画版の監督に、『ベッカムに恋して』
のグリンダ・チャーダの名前が挙げられている。
 オリジナルはバーバラ・イーデンの主演で、2000年前のペ
ルシャの王女がさまざまな理由で魔法の壺に閉じ込められ、
海に流される。それが2000年後、とある南の島に不時着した
NASAの宇宙パイロットに拾われ、ヒューストンに来てし
まうというもの。つまり古代の魔法と最先端の宇宙科学が共
存する面白さを売り物にしたコメディ作品だった。
 そしてこの計画も、ソニー傘下のコロムビアで立上げられ
てからかなり経つが、これがようやく少し目処が立ってきた
というところのようだ。ただアジアから見ると、ペルシャの
王女の話をインド人の監督というのには、ちょっと違和感も
あるが、ハリウッドはお構いなしというところだろう。
 なお、脚本はコーマック&マリアニー・ウィバリーのもの
がすでに用意されているということだが、実はチャーダには
別にフォックスで“Tucker Times”という作品も予定されて
おり、どちらが先になるかは判らないとのこと。ただし、企
画が進行した場合には、『ベッカム…』に出演してブレイク
したキーラ・ナイトレイの主演も期待されているそうだ。
        *         *
 またまたCGIアニメーションの話題で、今度はソニー・
ピクチャー・アニメーション(SPA)からその第1作の計
画が発表された。
 この作品は“Open Season”と題されているもので、狩猟
シーズンを迎えた北米の森林を舞台に、体重900ポンドのグ
リズリーベアのボーグと、痩せこけて角が1本しかない牡鹿
のエリオットと、そしてボーグを子供の頃に育てた女性森林
レンジャーのベスを巡る物語。元々は新聞漫画家のスティー
ヴ・モウアという人のアイデアに基づくものだそうで、原作
者は製作総指揮も担当している。
 そしてこのアイデアから、ジル・カールトンがアニメーシ
ョンの監督をすることになっているが、カールトンは、『モ
ンスターズ・インク』のストーリーでクレジットされている
他、『バグズ・ライフ』や『トイ・ストーリー1、2』のス
トーリーにも関わっていたということで、かなり期待の膨ら
みそうな計画だ。
 因にアニメーションの製作は、『スパイダー・マン』など
のVFXを手掛けたソニー・イメージワークスが担当。そし
て声の出演者には、ボーグ役にマーティン・ローレンス、エ
リオット役にアシュトン・カッチャー、ベス役にデブラ・メ
シングなども発表されている。またこの作品の公開は2006年
に予定されているが、その後SPAでは、12〜18カ月に1作
の割合で新作を発表することも希望しているということだ。
        *         *
 後は、監督のニュースを2つ。
 最初は、2001年12月1日付の第4回で紹介したクリス・ヴ
ァン=オールズバーグ原作“Zathura”の映画化について、
コロムビア=ワーナー共同製作の『恋愛適齢期』には俳優と
して出ていたジョン・ファヴロウの監督起用が発表された。
ファヴロウは、アメリカで年末に公開されたニューライン配
給の“Elf”に監督主演して、1億7000万ドルの大ヒットを
記録するなど好調に実績を挙げているが、1995年のヒット作
『ジュマンジ』の続編という形を取る今回の作品にもその手
腕が期待される。なお脚本は、『スパイダーマン』のデイヴ
ィッド・コープがすでに書き上げており、今回の監督の決定
で長く期待されていた作品の実現に向けて一気に加速される
ことになりそうだ。
 もう1本はシリーズで、1968年製作のディズニーのヒット
コメディ『ラブ・バッグ』の新作“Herbie: Fully Loaded”
の監督に、サンダンス・フェスティヴァルで人気を呼んだ短
編コメディ“D.E.B.S.”のアンジェラ・ロビンスンの起用が
発表されている。因に、ロビンスンは話題作の長編版をソニ
ー傘下のスクリーン・ジェムズで監督してプロデビューして
いるが、300万ドルの製作費から一気に5000万ドル映画を手
掛けることになるようだ。なお物語は、知性を持ったフォル
クスワーゲンがNASCARのカーレースの挑戦するという
もので、主演には『フォーチュン・クッキー』のリンゼイ・
ローハンの出演も検討されている。
        *         *
 最後に、記者会見の報告で、『ゴシカ』の公開前日の2月
27日に主演のハル(会場ではハリーと呼ばれていたようだ)
・べリーの来日記者会見が行われた。今回は、自分でも質問
をしたので、そのことを報告しておこう。
 僕が行った質問は、オスカー受賞以後、ジャンルムーヴィ
への出演が続いているように思うが、特別な意味はあるかと
いうことだった。
 それに対するべリーの答えは、自分は女性のキャラクター
の強い作品を選んでいるだけで、特にジャンルへのこだわり
はない。オスカー女優というブランドで作品を選びたくは無
いが、オスカーを取ったことで選べる作品が増えたことは感
謝している、ということだった。
 結局、ジャンルに対する思い入れみたいなものは否定され
たが、後の質問で超自然現象を信じるかという問いには、そ
れを信じられる大きな心を持ちたいと答えたり、好きなホラ
ー作品という問いには、『シャイニング』『エクソシスト』
『ハロウィン』と即答するなど、かなりの理解は示してくれ
た感じだった。もっとも、ホラー作品の最初に2本がともに
ワーナー作品と言うのは出来過ぎの感じもするが。
 いずれにしても、次回作が“Catwman”のベリーには今後
も注目したい。


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井口健二