井口健二のOn the Production
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2003年09月16日(火) 龍城恋歌、アイデンティティー、ネレ&キャプテン、フレディVSジェイソン、マッチスティック・メン、しあわせな孤独、MUSA、NCW

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
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『龍城恋歌』“龍城正月”               
『HERO』のチャン・イーモウ監督が製作総指揮を手掛け
た96年の作品。監督には、オスカー候補になった90年の『菊
豆』でイーモウと共同監督を手掛けたヤン・フォンリャンが
単独でクレジットされている。             
舞台は19世紀か20世紀初頭の中国。婚礼の日に起きた一族虐
殺の中を偶然に難を逃れた花嫁と、腕利きの刺客であるが為
に女に裏切られた男。その日まで人に恋することのなかった
2人が、女の望む仇討ちという目的のために巡り合い、その
過程で愛に目覚めて行く。               
しかしその仇討ちを成就するためには、2人には過酷な試練
が待ち構えていた。                  
2つの家の抗争を巡る因果の物語は、一種の武侠物語にも通
じるところがあると思うが、この作品ではその物語に男女の
愛を織り込んで、イーモウ作品らしい素敵な物語に仕上げて
いる。そして映像では、これまたイーモウ作品らしい色彩表
現に溢れている。                   
製作総指揮とは言いながら、これは間違いなくチャン・イー
モウの作品と言えそうだ。               
テーマや展開はクラシッカルだが、ストーリー展開にも無理
がなく、またぎこちなく愛を確かめ合って行く2人の描き方
も見事で、1時間半の上映時間を充分に楽しめた。    
                           
『“アイデンティティー”』“Identity”        
『17歳のカルテ』で精神病医学の盲点を突いたジェームズ・
マンゴールド監督と、脚本は『キラー・スノーマン』のマイ
クル・クーニー。この2人が仕掛けたのは、連続殺人を犯し
た精神病患者を背景に置く、見事な心理サスペンスだった。
死刑が翌日に迫った男の再審請求が受理される。男の犯した
罪はアパートでの大量虐殺。再審の審議のために嵐の中を深
夜に呼び出された判事達はいらだっている。しかし弁護士が
同席を要求した死刑囚の到着が遅れている。       
一方、嵐の中、人里離れたモーテルに閉じ込められた10人の
男女。そこには、娼婦や女優や家族づれ、そして犯罪者を護
送中の刑事など、性別や年齢、経歴もまちまちな男女が集ま
っていた。そしてその中の1人1人が死んで行く。    
それは殺人だけでなく、明らかな事故死もあったのだが、そ
の死体のそばには、ナンバーのカウントダウンするモーテル
のルームキーが置かれていた。             
実は大きなトリックがあるのだが、それはここでは明かせな
い。結局、こういう物語の展開というか、トリックは、見る
側がそれに同調できるかどうかが鍵になると思うが、僕は気
に入っている。上に書いた監督の前作と比較するとかなり面
白いとも感じた。                   
映画は巻頭で、フラッシュバックを上手く利用して観客を映
画の舞台に引き摺り込んで行く。しかも嵐という設定が違和
感を消し、その世界に入って行くことを助けているようだ。
この演出とシナリオの巧みさがアメリカでナンバーワンヒッ
トに輝いた理由だろう。                
かなりグロテスクなシーンはあるが、いわゆるスラッシャー
(と最近は呼ぶらしい)ムーヴィほどではなく、映画の手法
を最大限に活かした見事な作品といえる。        
                           
『ネレ&キャプテン』“Wie Feuer und Flamme”     
1989年のベルリンの壁崩壊以前の東西ベルリンを舞台にした
青春ドラマ。                     
ネレは、東ドイツを脱出した父親を持ち西ベルリンに暮らす
少女。ある日、東ベルリンで行われる祖母の葬儀のため初め
て東側を訪問する。                  
そこには西側で聞かされていたような暗いイメージはなく、
とある遊園地でパンクロックの音楽で遊ぶ若者たちまで見か
けてしまう。しかし当局からは、すでに白い目で見られてい
るらしい彼らに、彼女は興味を引かれて行く。      
その後、何度か東側を訪ねたネレは、キャプテンと自称する
ヴォーカルが率いるバンドと親交を持って行く。そして当局
の締め付けが厳しくなって行く現状に、彼らの窮状を西側に
知らせるべく、映像を西側に持ち出すなどの行動を起こすの
だが…。                       
主人公の2人はフィクションだが、描かれるエピソードはす
べて現実にあった話だということだ。実に馬鹿ばかしいやり
方の当局の締め付けが描かれるが、これが現実だったという
ことだ。                       
東側のパンクロックの話は、以前にどこかで聞いたことはあ
ったが、こういうエピソードを見せられると考えさせられる
ところも多い。ちょっと政治的な部分の描かれ方が強いよう
な感じもするが、興味は引かれる物語だった。      
                           
『フレディVSジェイソン』“Freddy vs Jason”     
『エルム街の悪夢』のフレディ・クルーガーと『13日の金曜
日』のジェイソン・ボーヒーズという2大殺人鬼が一緒に登
場する恐怖映画。                   
84年にニューラインでスタートした『エルム街』は、94年ま
でに7作が製作されている。              
一方、元々はパラマウントで80年にスタートした『13金』の
シリーズだが、10年ほど前にその権利がニューラインに売却
され、93年の『ジェイソンの命日』からはニューラインで再
スタートが切られたものだが、昨年の『ジェイソンX』まで
新作は途切れていた。                 
その2シリーズの合体という訳だが、この企画に関しては、
実際には『命日』の最後でアナウンスメントが行われていた
もので、それから10年掛けてようやく実現となったものだ。
その実現までに、練りに練ったシナリオということだろう。
物語は、フレディの最後の事件から4年後という設定で、惨
劇のあったオハイオ州スプリングウッドの町では、事件その
ものの記録を封じることで、子供たちを恐怖心から遠ざけ、
フレディの名前も忘れ去られようとしていた。      
この事態にフレディは、子供たちの恐怖心が消えたことで力
が弱まり、危機感を覚えていた。そして子供たちの恐怖心を
蘇らせるために、ニュージャージー州クリスタルレイクのジ
ェイソンを復活させ、スプリングウッドへと呼び寄せる。 
そしてジェイソンが起こす惨劇は人々に恐怖心を呼び戻し、
フレディの力も復活し始めるのだが…。ジェイソンは、フレ
ディの獲物だった子供たちも襲い始めてしまう。こうしてフ
レディVSジェイソンの闘いが始まることになる。    
一方、事態を分析した主人公たちは、2人の特性を利用して
反撃を試みるのだが…。                
どちらも長く続いたシリーズだから設定もいろいろとある訳
で、今回はその設定をかなり巧みに利用しており、その意味
では納得できるお話だった。製作は、『13金』のショーン・
S・カンニンガムだが、結構フレディに花を持たせた感じな
のも好感が持てた。                  
なお、試写会では、2人の好きな方に投票するというイヴェ
ントがあり、僕はフレディ派なのだが、結果はジェイソンの
勝ちだった。劇場前売り券も2種類が作られ、その売り上げ
で人気が競われることになっているようだ。       
                           
『マッチスティック・メン』“Matchstick Men”     
リドリー・スコット監督とニコラス・ケイジが手を組んだコ
ン(詐欺師)ムーヴィ。                
スコットと言えば、『エイリアン』『ブレードランナー』に
始まって、『グディエーター』『ブラックホーク・ダウン』
などアクション主体の作品のイメージを持つが、本作は意外
にも父娘の関係を中心にした詐欺師物語。アクションはほと
んどなく、新境地開拓と言うところだ。         
父娘を中心にした詐欺師物語と言えば、どうしたって『ペー
パー・ムーン』が頭に浮かんでしまうが、本作はそれに負け
ず劣らずの心に暖かいものを残してくれる見事な作品だ。 
異常なまでの潔癖症の中年の詐欺師と、14歳の彼の娘。長く
離れ離れだった娘の出現で、彼の潔癖症も納まり始めるが、
父親譲りの詐欺の才能を発揮する娘を、ふと大仕事に巻き込
んだために、事態は思わぬ方向に進んでしまう。     
実は映画を見終ったときに、最初はこれでいいのかと思った
のだが、これが見事なハッピーエンドであることに後から気
がついた。つまり僕も映画の術中に見事に填められていたと
いうこと。脚本の上手さと演出の上手さ、そして俳優の見事
な演技が重なってすばらしい作品に仕上がっている。   
特に、14歳の娘を演じるアリソン・ローマンは、今年初めに
『ホワイト・オランダー』を見ているが、その時にも見せた
彼女の演技には今更ながらに舌を巻く。次はティム・バート
ン監督の“Big Fish”が控えているが、今度はどんな演技を
見せてくれるか楽しみだ。               
考えてみればスコットは、『エイリアン』『ハンニバル』な
ど、女性を主人公にした作品にも見事な手腕を見せてくれて
いるのだった。                    
                           
『しあわせな孤独』“Elsker dig for evigt”      
結婚を控えた幸せな生活を突然破壊した交通事故。その事故
で首から下が不随になった男の婚約者。これに対する事故の
加害者の夫で男が入院した病院の医師が、同情からやがて抜
き差しならない関係になって行く姿を描いたドラマ。   
デンマークの映画ムーヴメント、ドグマグループの作品で、
デンマークでは国民の8人に1人が見たと言われ、今年の同
国のアカデミー賞では3部門で受賞している。      
事故で幸せな生活が一瞬のうちに奪われた女と、それに同情
した男。突然自分の身にも降りかかるかも知れないシチュエ
ーションが観客の共感を呼ぶ。僕は男性として、主人公の医
師の行動には、馬鹿だなあと思う反面、自分はこの誘惑に抗
し切れるかという考えも湧く。             
不道徳な物語だが、そんな現実味が迫ってくる。ドグマの作
品は、全編手持ちカメラで、人工照明も使用しないという決
まりがあるが、この作品の現実味は、その撮影方法にも効果
があるように感じた。                 
画質を変えて登場人物の心理を描く表現手法も、映画の流れ
の中で良いアクセントになっていた。          
                           
『MUSA』“武士”                 
中国大陸1万キロにおよぶ大ロケーションを敢行したという
韓国製チャンバラ時代劇。読みがこうなら原題は『武者』か
と思ったら、韓国語の発音では違うようだ。       
時代は14世紀。明との関係が悪化しつつある高麗の派遣した
使節団が、明と蒙古との闘いに巻き込まれる。しかも行きが
かりで蒙古軍に捕えられていた明の姫を救出したことから、
砂漠の中を蒙古軍に追い立てられ、過酷な運命に翻弄される
ことになる。                     
一旦救出した姫君を要求され、彼女を差し出せは助かること
が解かっていながら、それをすることが出来なくなってしま
う。英雄物語にはよくある展開だが、三角関係を想像させる
部分もあって納得できる展開になっていた。       
そして後半は、砦に立て籠った主人公たちを襲う蒙古軍とい
う戦闘アクションで、そこには民間人もいるという図式は、
まるで『アラモ』という感じ。これもまた見ていて納得とい
う感じのものだった。                 
使節団のメムバーやその他の周囲の人々の個々のドラマもさ
りげなく挿入され、2時間を超える上映時間を飽きさせない
のは見事。また、明の姫君をチャン・ツィイーが客演してい
て、あまりアクションはないが、気の強いお姫様の雰囲気が
良かった。                      
なお、台詞は中国語と朝鮮語が入り混じっているらしいのだ
が、字幕が同じで区別が付かなかった。相互に理解できてい
るのか、いないのかという辺りが、重要になる部分もあった
ような感じもしたのだが。               
                           
 最後に、ニュー・シネマ・ワークショップ主催の『Movies
-High 4』というイヴェントを見せたもらった。      
 このイヴェントには昨年も招待されて見に行ったが、昨年
の作品は、正直に言って学生映画というか、アマチュアの作
品という感じだったが、1年経った今年は格段に上手くなっ
ているのには驚かされた。出演者にもプロの俳優や劇団の子
役を起用しているものが多く、下手なプロ作品よりしっかり
している感じのものもあった。             
 中でも、映画祭での入賞も果たしている『雨と冒険』は、
その感性の瑞々しさと懐かしさで、思わず胸が熱くなった。
この監督の次回作はぜひ見たいところだ。        
 ただ、これは去年も感じたが、全体的に大人しすぎる雰囲
気があり、何か4畳半的なこじんまりとしたまとまり方で、
弾けるような感覚に乏しいことが気になった。来年はもっと
弾けた感じの実験的な作品も期待したい。そろそろそういう
作品が現れても良い時期だろう。            
 後は、殆どの作品に共通して暗転の使い方がちょっとくど
い感じがした。多分指導者の考えなのだろうが、最近の映像
で暗転の使用は減ってきていると思うので気になった。  
 昨年は、会場の設備の影響もあって、多少見るのに努力が
必要だった面もあるが、今年の調子なら今後も見続けたいと
いう思いがした。いつの日かここから映画監督が育つことも
期待したい。                     



2003年09月15日(月) 第47回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 まずは訂正というか、続報から。           
 前回、イギリス人俳優抜擢の噂を紹介した“Batman 5”の
計画で、ワーナーから公式に、次回作の主演俳優決定の発表
があった。発表されたのは、クリスチャン・ベイル。来年ク
リストファー・ノーラン監督で撮影される第5作の主演は、
イギリス出身で、30歳以下の俳優では現在最も注目を浴びて
いるというアイドルスターの起用に決まったようだ。   
 ベイルは、今春公開された『サラマンダー』にも主演して
いたが、元々はスティーヴン・スピルバーグ監督の87年作品
『太陽の帝国』の主演に13歳で抜擢されて脚光を浴び、賛否
両論の巻き起こった00年の『アメリカンサイコ』では陰影の
ある演技で高い評価を受けている。           
 そして今回の起用でも、主人公ブルース・ウェインの明る
い面と陰の面をバランスよく演じられる俳優として期待され
ているものだ。なお監督のノーランは、「クリスチャンの中
にブルースの具現化を見た」と期待の度合いを語っている。
 この役柄は、映画シリーズでは過去に、マイクル・キート
ン、ヴァル・キルマー、ジョージ・クルーニーが配役されて
いるが、いずれも30代後半の頃に演じており、来年30歳のベ
イルはかなり若いことになる。そこに二面性のある演技とい
うのだから、これはかなり期待されているし、また自信もあ
るということだろう。                 
 デイヴィッド・ゴイヤーの脚本、ノーランの監督で、撮影
は来年早期に開始され、公開は05年の予定になっている。 
        *         *        
 お次は、前回“The Last Samurai”の記者会見を報告した
トム・クルーズの新たな計画が発表されている。     
 今回発表されたのは“The Few”という題名で、第2次世
界大戦の中で最初に撃墜死したアメリカ人パイロットを史実
に基づいて描くもの。クルーズにとっては『トップ・ガン』
以来のパイロット役への挑戦となるものだ。       
 物語の主人公はビリー・フィスク。オリンピック代表選手
で、アメリカ軍の戦闘機パイロットでもあった彼は、一方で
アメリカ人とイギリス人のハーフという血筋もあり、1940年
のチャーチルの呼びかけに応えて、若いパイロットのグルー
プを率い義友軍としてイギリスに渡る。それはまだアメリカ
が参戦を決意する前の出来事だった。          
 監督は、現在クルーズと10月撮影開始の“Collateral”を
準備中のマイクル・マン、脚本は、“The Last Samurai”お
よびマン監督で製作中の“The Aviator”も手掛けているジ
ョン・ローガン。ただし戦史作家のアレックス・カーショウ
が執筆する原作はまだ未完成で、実現するのは少し先のこと
になりそうだ。またローガンも“Gladiator 2”の次に取り
掛かりたいとしている。                
 製作は、マン監督主宰のフォワード・プレスとクルーズ−
ワグナー(C−W)、配給はC−Wと優先契約を結んでいる
パラマウントが予定されている。            
        *         *        
 ところで、C−Wとパラマウントの間では、この発表に先
立ってもう1本、第2次世界大戦を描いた作品の契約が結ば
れている。                      
 その作品は“The War Magician”という題名で、第2次大
戦中の北アフリカを舞台に、ロンメル将軍と対峙するイギリ
ス戦闘部隊が、そこに現れた愛国心に溢れる手品師ジャスパ
ー・マスカリンのイリュージョンマジックによって戦果を納
めるというもの。                   
 史実に基づく物語ではないようだが、デイヴィッド・フィ
ッシャーの原作から『ジュラシック・パーク3』のピーター
・バックマンが脚色し、オーストラリア出身のピーター・ウ
ィアーが監督することになっている。          
 因に、C−Wでは数年前からこの原作の映画化権を所有し
てチャンスを狙っていたが、『ガリポリ』などの戦記ものの
実績のあるウィアー監督の参加でようやく実現できたという
ことだ。また本作は、元の計画ではクルーズの主演が予定さ
れていたが、現状では困難ということで、クルーズは製作だ
けの参加となっている。                
 なお、20世紀初頭に、ジョン・ネヴィル・マスカリンとい
う脱出とイリュージョンマジックを得意としたイギリス人の
マジシャンがいたようだが、彼は1917年に死去しており、こ
の物語とは関係ないようだ。              
        *         *        
 もう1つクルーズ関連の情報で、来年1月に撮影開始予定
の“Mission: Impossible 3”に登場する新たな女性キャラ
クターのプロフィールが紹介されている。        
 それによると、名前はリーア・クイント、アメリカ人のI
MF訓練生で天賦の上品さがあり、暖かさと弱さもあるとい
うことだが、同時に同じ年代の他の人間では経験できない体
験をしてしまうというもの。また思慮深いが、一旦ことが決
まると、鉄の意志とタフさを持った人物に変身する、という
ものだそうだ。                    
 このプロフィールに合せて24歳から36歳のアメリカ人のア
クセントの話せる女優が選考されるということだが、エマニ
ュエル・ベアール、タンディ・ニュートンに続く相手役は、
一体誰になるのだろうか。               
        *         *        
 『戦場のピアニスト』で今年のオスカーを獲得したロマン
・ポランスキー監督が次回作として、来年の夏にヨーロッパ
で、イギリス人キャストによるチェールズ・ディケンズ原作
“Oliver Twist”に挑戦する計画が発表された。     
 この計画では、456ページの原作を2時間の映画に凝縮し
て描くというもので、ポランスキーは自分の10歳と5歳の子
供たちを見ていて映画化を思いついたとのこと。自ら「ファ
ミリー・ムーヴィに仕上げたい」と抱負を述べている。  
 なお、同じ原作の映画化は、1912年の映画化から1ダース
以上を数えるということだが、最新の実写の映画化は68年の
キャロル・リード監督によるイギリス作品の『オリバー!』
ということで、この作品は舞台ミュージカルの映画化だった
が翌年アカデミー賞で作品、監督など4部門に輝いている。
 それにしてもポランスキーの口からファミリー・ムーヴィ
とは、今までの作品からは考えられない発言だが、まあそう
いうことを言える自信があるということなのだろう。なお、
製作費の調達は、『戦場のピアニスト』と同じメムバーで行
うが、配給は映画が完成してから決めるということだ。  
        *         *        
 一方、同じく『戦場のピアニスト』でオスカーを受賞した
主演男優のエイドリアン・ブロディの計画で、『パイレーツ
・オブ・カリビアン』のキーラ・ナイトレイとの共演が発表
されている。                     
 この作品は“The Jacket”という題名で、ブロディが演じ
るのは殺人を犯して精神鑑定に掛けられている兵士。しかし
そのために入院した精神病院で彼は、時間を越える旅をした
と言い始める。そしてナイトレイが演じるのは、彼が時間旅
行の中で子供時代を見たという女性。彼女は、彼が本当に殺
人を犯したかを探究する手助けをするというものだ。   
 『12モンキーズ』に通じるところもあると言われる脚本の
執筆は、マーク・ロッコとマッシー・テイジェディン。監督
は、98年に坂本龍一が音楽を担当した『愛の悪魔』の脚本監
督を手掛けたジョン・メイベリーが担当。製作は、ピーター
・グーバーのマンダレイとジョージ・クルーニー、スティー
ヴン・ソダーバーグのセクション8で、アメリカ配給はワー
ナーが手掛けることになっている。           
 因にこの計画では、元はマーク・ウォルバーグの主演で進
められていたようだが、彼の降板で製作が滞っていた。しか
しブロディ、ナイトレイという今最も話題の2人を主演に迎
えて、今後は一気に最高の注目作ということになりそうだ。
        *         *        
 続いては、女性主演のコメディ映画の話題をいくつか紹介
しよう。                       
 まずは、ジェニファー・ロペス主演で“Monster-In-Law”
という作品がニューラインで計画されている。      
 この作品は、元フォックス傘下のデイヴィス・エンターテ
インメントで製作担当重役を勤めていたアニヤ・ココフとい
う女流脚本家(今まではペンネームを使っていたそうだ)が
手掛けた脚本に基づくもので、この脚本に関しては、今年の
2月に争奪戦の結果130万ドルでニューラインが獲得したこ
とでも話題になっていた。               
 お話は、恋愛運に恵まれない女性がようやく巡り会った理
想の男性。しかし将来の義理の母親(mother-in-law)は、
悪夢に登場するmonsterのような史上最悪の母親だったとい
うもの。もちろんコメディ作品だが、この義理の母親役をジ
ェーン・フォンダが演じることでも話題になっている。  
 そしてこの作品の監督を、『キューティ・ブロンド』のロ
バート・ルケティックが次回作として手掛けることも発表さ
れている。因にルケティックは、現在はドリームワークスが
来年初に公開する“Win a Date With Tad Hamilton!!!”と
いう作品のポストプロダクションに入っており、今回の計画
はその次の作品となるようだ。             
        *         *        
 もう1本は、キム・ベイジンガー主演で“Elvis Has Left
the Bilding”が、9月15日にニューメキシコで撮影開始さ
れている。                      
 この作品は、『マイ・ビッグ・ファット・ウェディング』
のジョエル・ズィック監督が進めているもので、ベイジンガ
ーが演じるのはエルヴィスのコンサート中に誕生したことか
ら、全てのことにエリヴィスとの繋がりを感じてしまうとい
う化粧品のセールスウーマン。             
 ところが彼女の客だったエルヴィスの物まね芸人が相次い
で死んでしまったことから、彼女はFBIの手配を受けるこ
とになってしまう。一方、彼女に興味を持つ広告会社の重役
が現れて・・・。物語のクライマックスは、ラス・ヴェガス
で開催されるエルヴィス・コンヴェンションの会場が舞台に
なるということだ。                  
 そしてこの作品のベイジンガーの相手役に、『ビッグ・フ
ァット』にも出演したジョン・コーベットの共演が発表され
ている。因に彼は、ゲイリー・マーシャル監督、ケイト・ハ
ドスン共演の“Lucky”という作品を撮り終えたところだそ
うだ。                        
 脚本は、アダム−マイクル・ガーバーとミッチェル・ゲイ
ネム。ロンドンに本拠を置くキャピトル・フィルムスの製作
で、同社が全世界の配給権を保有している。因に同社は、第
45回で紹介したケネス・ブラナー出演のネズビットの映画化
“Five Chilren and It”の映画化も行っている。     
        *         *        
 女性主演映画の流れで、この秋公開されるユマ・サーマン
主演“Kill Bill”の第2部の公開日が決定した。     
 この作品の公開が前後編の2部作になることは第44回で紹
介したが、それぞれ“Volume One”“Volume Two”と名付け
られた内の03年10月10日アメリカ公開の第1部に続いて、第
2部のアメリカ公開が、04年2月20日に行われることになっ
た。結局年内の2部作の公開は出来なかった訳だが、これで
賞レースへの影響がどう出るかにも興味が集まっている。 
 今回のケースでは当然“Volume One”は今年の対象作品、
“Volume Two”は来年ということになるのだが、このまま行
くと、ちょうど“Volume One”の賞キャンペーンの期間に、
“Volume Two”の宣伝が始まる訳で、上手くすると相乗効果
が狙えるし、逆に混乱を招く恐れもある。いずれにしても宣
伝にはかなり気を使うことになりそうだ。        
 因に、“Matrix Reloaded”と“Matrix Revolutions”の
2作は、両作とも今年中に公開されることになるが、ワーナ
ーでは賞レースのキャンペーンについては“Revolutions”
に集中し“Reloaded”では行わない方針ということで、混乱
が生じないようにしているようだ。           
        *         *        
 第41回に既報、9月23日に撮影開始される『ブレイド』シ
リーズの第3作“Blade: Trinity”(という題名になった)
で、新たに登場する女性ヴァンパイア・ハンター役としてジ
ェシカ・ビールの出演が発表されている。        
 この役は、クリス・クリストファースン演じるエイブラハ
ム・ウィスラーの娘という設定もので、原作コミックスでは
ブレイドとコンビだったハンニバル・キング(ライアン・レ
イノルズが演じる)というキャラクターとチームを組んで、
ヴァンパイアハンティングを続けているというもの。   
 デイヴィッド・ゴイヤーの脚本で、ゴイヤー本人が監督も
務める第3作では、地上の命運を掛けたヴァンパイアとの最
終決戦が描かれるということだが、実は製作会社のニューラ
インでは、彼女とハンニバルのチームを主人公にした新シリ
ーズの展開も狙っているという情報もあるようだ。    
 因にビールは、98年製作“I'll Be Home for Christmas”
というPG作品に準主役で出演している他、ニューライン製
作で近日公開の“The Texas Chainsaw Massacre”のリメイ
クにも出演している。                 
        *         *        
 ドリームワークス傘下のロバート・ゼメキスのプロダクシ
ョン、イメージムーヴァースから昨年大学を卒業したばかり
の新人監督の企画を進めることが発表されている。    
 この企画は“Monster House”という題名で、3人の子供
が隣の家が生きたモンスターであることを発見するが大人は
信じてくれない。そこで彼らだけで悪魔の企みに対抗しよう
とする冒険物語。                   
 計画の中心となる新人のジル・ケナンは、昨年UCLAの
映画プログラムを卒業したということだが、その卒業製作の
10分の作品がディジタルヴィデオとストップモーションアニ
メーションの混合で、映画各社から注目を浴びていたという
ことだ。そして今回彼の企画が実現に向かうことになったも
ので、未だ脚本家などは決まっていないが、いきなりドリー
ムワークスでの監督デビューが決まったものだ。     
 なおイメージムーヴァースでは、現在ゼメキスの監督で、
トム・ハンクスがCGIの中のいろいろな登場人物を演じる
“Polar Express”の製作を進めているが、この作品の撮影
ではソニー・イメージワークスが開発した最新型のモーショ
ンキャプチャー・システムが使用されているということで、
今回の“Monster House”でもその機材が活用されることに
なるようだ。                     
        *         *        
 M・ナイト・シャマランの監督で、10月14日にフィラデル
フィアで撮影開始される“The Woods”にいろいろな俳優が
集まり始めている。                  
 この作品では、最初にアシュトン・カッチャー、ジョアキ
ン・フェニックス、ブライス・ダラス・ハワードの主演が発
表されていたが、この内カッチャーは降板して、替りに上の
記事にも登場した今年のオスカー主演男優賞エイドリアン・
ブロディの出演が決まっている。            
 さらに以前に紹介したシゴウニー・ウィヴァーに続いて、
85年のオスカー受賞者のウィリアム・ハート。そして今度は
今年のトニー賞にノミネートされた舞台女優のジェイン・ア
トキンスンの出演が発表された。因に、彼女の役柄は、ハー
トの妻役だそうだ。                  
 とまあ、19世紀を舞台に、森に棲む謎のクリーチャーとの
交流を描いた作品には、シャマランの人気もあって錚々たる
顔ぶれが揃う訳だが、実はここに来てちょっと心配なことが
持ち上がっている。というのも“The Woods”という全く同
じ題名の作品の撮影計画がユナイトから発表されたのだ。 
 こちらはデイヴィッド・ロスの脚本、ラッキー・マッキー
という監督の作品で、これにパトリシア・クラークスンとア
グネス・ブラックナーの主演が発表され、9月15日からモン
トリオールで撮影開始されているのだ。         
 内容は、親元を離れて森の奥に寄宿学校に入れられた少女
が、クラスメイトの失踪事件から、森に潜む謎の存在に気づ
くというサイコホラー作品。ところがこの映画の計画は、多
分シャマランの計画より先に発表されていたものなのだ。 
 実は、僕もシャマランの計画が発表されたときには多少気
になっていたのだが、その後の音沙汰がなかったし、まさか
この時期にぶつけてくるとは思わなかった。ということで、
このまま行くと、ユナイト作品に題名の優先権があるようだ
が、さてどうなりますか。               
 なお、ユナイト作品に主演のクラークスンは、ラース・フ
ォン・トリアー監督の新作“Dogville”に出演しており、マ
タブラックナーは、昨年公開されたサンドラ・ブロック主演
の『完全犯罪クラブ』に出演していたそうだ。      
        *         *        
 最後は、続報をまとめて紹介しておこう。       
 まずは、前回紹介した“The Body Snatchers”のリメイク
計画で、監督に『ジーパーズ・クリーパーズ』のヴィクター
・サルヴァの起用が発表されている。なお、サルヴァは会見
の席で、「アベル・フェレイラの作品も、フィル・カウフマ
ンの作品も、もちろんオリジナルも大好きだ。一つのものか
らそれぞれの作家たちが、様々な視点でいろいろな作品を生
み出している。このやり方は素晴らしいと思う」と語ったと
いうことで、彼の視点の映画化がどうなるか楽しみだ。  
 第45回で紹介したクライヴ・カッスラー原作“Shara”の
映画化で、ヒロインにペネロペ・クルスが発表されている。
マシュー・マコノヒーが主人公のダーク・ピット、スティー
ヴ・ザーンがその相棒を演じるこの作品で、クルスが演じる
のは国連が派遣した医師団の科学者。北アフリカで発生した
謎の疫病を調査して、海洋汚染の危険をいち早く察知すると
いう役柄で、そのために命を狙われるというものだ。ブレッ
ク・アイスナーの監督で、今秋撮影が開始される。



2003年09月02日(火) 息子のまなざし、エヴァとステファンとすてきな家族、バッドボーイズ2、女はみんな生きている、スパイキッズ3−D

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『息子のまなざし』“Le Fils”             
少年犯罪とその被害者の親とを巡るベルギー製作の人間ドラ
マ。                         
主人公は、職業訓練施設で大工の仕事を教えている中年の男
性。その男の許へ、一人の若者が訓練を受けたいと現れる。
その若者は少年院を退所してきたばかりで、その若者の履歴
書を見た男は、一旦は断るのだが、やがて自分のクラスへ招
き入れる。                      
男の離婚した元妻は、別の男の子供を妊娠し、再婚するつも
りだと男に告げる。男は了解するが、彼にもとへ若者が来る
ことを告げる。2人の間の幼かった子供を殺した少年が…。
その言葉に元妻は激しい怒りを見せる。         
日本でも社会問題となっている少年犯罪。特に、幼い子供が
被害者となっているときの親の心情は察するに余りある。 
多分、日本では犯罪者と犯罪被害者がこんなに近くに暮らす
ことはないだろうし、このようなシチュエーションは起こら
ないと思うが、果たして人は、このような許しを若者に与え
なければいけないのだろうか。             
映画はその理由を語らない。こうなることもあるかも知れな
いという示唆をしているだけだ。ただし主人公も、決して若
者を許していないことは判るし、一方的に怒る元妻を描くこ
とで、そんな微妙なところを、この作品は見事に描き出して
いる。
                           
『エヴァとステファンとすてきな家族』“Tillsammans”  
70年代の反体制運動を背景にしたスウェーデン製作のファミ
リードラマ。                     
エヴァとステファン姉弟の母親は、夫の暴力に耐え兼ねて、
郊外の家に住む弟の許へやってくる。そこではフリーセック
スの信奉者や、共産主義者、ゲイやレズビアンの人たちが共
同生活をしていた。                  
そんな生活環境の激変に馴染めない姉弟は、父親のもとを訪
れたり、家の前に停車したバンに閉じ篭もったりもするのだ
が、徐々に周囲の人たちの信条も理解して行く。     
確かに生活用品などは今より貧しいし、共産主義者の声高な
演説などはいまさらなのだけれど、それでも何か懐かしいよ
うで、現在が失ってしまったものがここにはあるような感じ
がしてくる。                     
ノスタルジーに逃げるのは姑息な手かも知れないが、現代の
若者にこのような自由があるのだろうか、というようなこと
も考えさせられてしまった。人間はもっと自由にあるべきだ
ということを、この映画の作者は言いたいのだろう。その意
見には僕も賛同する。                 
                           
『バッドボーイズ2バッド』“Bad Boyd 2 Bad”     
『アルマゲドン』『パール・ハーバー』のマイクル・ベイ監
督と製作者ジェリー・ブラッカイマーが最初に手を組んだ、
1995年作品『バッドボーイズ』の続編。しかも主演のウィル
・スミスとマーティン・ローレンスも戻ってきた。    
主人公はフロリダ・マイアミで麻薬捜査の一翼を担う2人組
の刑事マイクとマーカス。               
この2人の許にオランダからの大量のエクスタシー錠剤の密
輸入の情報が伝わってくる。しかし大がかりな作戦で押収し
たのは2つの小袋だけ。事件の黒幕には、キューバに繋がる
男とロシアマフィアがいるらしい。           
一方、マイクはマーカスの妹と恋仲になっていたが、兄に告
げることをためらっている。そんな時、麻薬捜査局で事務整
理をしているはずの妹が、マイアミに現れ、やがて彼女は、
潜入捜査に従事していることが判明するのだが…。    
果たしてこの3人の活躍で、麻薬組織は撲滅できるのか。 
麻薬捜査というのは、アメリカでは最も何でもありというこ
とで、囮捜査や潜入捜査は当然のお話。したがって映画化の
アクションも何をやってもOKということで、とにかく物量
から行動地域まで、思わずオイオイといいたくなる展開が繰
り広げられる。                    
それを何しろ最後まで突っ走ってしまう勢いの良さがこの作
品の魅力だろう。特に後半などは、これだけで1本の映画が
できそうな大掛かりな作戦が、一つのエピソードとして描か
れてしまうのだ。                   
まあ、人もたくさん死ぬし、かなりグロいシーンもあるが、
その辺りは多少目をつぶるとして、製作者から監督、出演者
まで作り手たちのサーヴィス精神は間違いなく堪能できる作
品。それと主人公の周囲を縦横に動く、目の廻るようなカメ
ラワークも秀逸だった。                
                           
『女はみんな生きている』“Chaos”           
ハリウッドリメイクされた『赤ちゃんに乾杯』の女性監督コ
リーヌ・セローの新作。                
専業ではないけれど、いつも家事や夫と息子の世話に追いま
くられていた平凡な主婦が、偶然知り合った娼婦を助けるた
めに、売春組織を敵に回して大活躍する女性映画。    
主人公のエレーヌは、もはや夫婦仲も冷え切った夫と、ぐう
たらな息子の世話に明け暮れている。そんな夫婦でディナー
に行った帰り道、夫の車の前に血みどろの女性が助けを求め
てくる。しかし夫は車のドアにロックをし、見て見ぬ振りを
決め込んでしまう。                  
その場は夫の車で立ち去ったエレーヌだったが、翌日救急病
院を探し当て集中治療室に横たわる女性を見舞うと、彼女の
看病に没頭するようになる。このため顧みられなくなった家
庭は大混乱。しかし彼女は看病を続ける。        
その看病の甲斐もあって彼女は奇跡的に回復し始めるが、そ
こに怪しげな男たちがつきまとうようになる。実はノエミと
名乗るその女性は、売春組織で仕事をしていたが、とある老
人の莫大な遺産を手に入れて隠し、そのため組織の追求を受
けていたのだ。                    
この事態にエレーヌは、いろいろな機転を利かし、フランス
・スイスを股に掛けて、組織との闘いを始めるのだが…。 
いやまあ、何しろ女性が頭が良いし、強くて痛快きわまりな
い。『ファム・ファタール』の主人公も男性を手玉にとった
が、今回のお話は主人公が主婦というのが味噌で、デ=パル
マほどファッショナブルではないけれど、逆に誰にでも起こ
りそうな話で面白い。                 
それにしてもこの夫と息子が馬鹿丸出しというのが、男性に
はかなりきついかも知れないが、男は所詮こんなものという
ことも自覚できるところでもあった。          
                           
『スパイキッズ3−D:ゲームオーバー』        
              “Spy Kids 3-D: Game Over”
ロベルト・ロドリゲス製作、脚本、監督のシリーズ第3作に
して最終章は、昔懐かしい赤青の立体映画で登場した。  
前2作で活躍したスパイキッズ姉弟の弟ジュニは、組織の裏
切りに愛想を尽かし、引退して私立探偵を開業している。そ
こに元長官の現大統領から特別指令が届く。それは世界征服
を目論む男が開発したゲーム世界で行方不明になった姉カル
メンの救出作戦。                   
実は、秘密諜報組織OSSのヴァーチャル牢獄に捕えられて
いたトイメーカーという男が新しいヴィデオゲームを開発。
それは、ゲームに夢中になった子供たちを洗脳してしまうと
いうもので、これによって世界を征服しようと企んでいたの
だ。                         
そこでジュニに与えられた使命は、ヴァーチャル世界に入り
込み、姉カルメンを救出するとともに、ゲーム世界を破壊す
るというもの。しかしその際に、トイメーカーが開放される
ことは防がなくてはいけないのだ。           
こうしてヴァーチャル世界に入り込んだジュニは、β版テス
ターたちやグランパの力を借りて、姉の捕えられたレヴェル
4と、トイメーカーの潜むレヴェル5を目指すのだが。その
過程では、格闘技やレースなどいろいろなゲームをクリアし
なければならなかった。                
まあ、ここまで徹底的に子供にサーヴィスした作品というの
も凄い。このシリーズは第1作からそうだったが、最終章に
至ってそのテンションはぎりぎりまで高められたという感じ
だ。何しろいろいろなゲームが立体映像で体感できてしまう
のだ。                        
試写会は小学生以下の子供同伴が認められるとあって、お子
様がかなりいたが、字幕だというのに最後まで食い入るよう
に見ていたのが、ロドリゲスの狙い通りという感じで、お見
事と言うしかない状況だった。             
サルマ・ハエックやスティーヴ・ブシェミ、アラン・カミン
グスらの前作までの登場人物も総出演。そして敵役のトイメ
ーカーには、意外にも悪役は初めてというシルヴェスタ・ス
タローン、さらにイライジャ・ウッドまでカメオ出演してい
る。                         
なお、赤青の立体映画はテレビでも再現可能だが、実際には
放送法との関係で放送することはできない。DVDなら可能
だが、この立体感は大画面の映画館で見るしかないようだ。
とは言え、赤青の立体は偏光板以上に目が疲れる。本作でも
疲労の蓄積を防ぐため、途中何度かメガネを掛けたり外した
りするようにされているが、劇中の主人公たちと共にメガネ
を外すと、主人公たちも目をしばたかせて目が疲れたと言っ
ているのには笑えた。                 



2003年09月01日(月) 第46回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 最初は記者会見の報告から、12月に日米同時公開されるワ
ーナー作品“The Last Samurai”のプロモーションで、主演
のトム・クルーズとエドワード・ズウィック監督が来日し、
世界初公開の映像も含めた記者会見が行われた。     
 初公開された映像は4シーン、全体で20分程度が上映され
たが、特に力が入っていそうな殺陣では、最初はフェンシン
グスタイルで剣を片手持ちで構えていたクルーズが、徐々に
両手持ちの日本刀の構えになって行く変遷が描かれているよ
うで、面白そうだった。                
 ただ、英語の台詞でGeneral Hasegawaに「長谷川将軍」と
いう字幕は、ここだけ見るとかなり奇異に感じた。確かに、
軍事用語でGeneralは「将軍」と訳せるが、この時代の日本
で「将軍」というのは「征夷大将軍」を指してしまう。ひょ
っとしてアメリカ人の書いた原作が、徳川を長谷川と言い換
えているのかも知れないが、だとしたら、字幕は「将軍長谷
川」の方が良いような感じもする。いずれにしても日本語の
字幕には細心の注意が必要と感じた。          
 また会見では、日本側出演者の渡辺謙、真田広之、小雪を
加え、「武士道」の意味などにかなり真剣な発言が聞かれて
面白かったが、途中でフランス人記者の「日本文化をアメリ
カナイズしてしまったことに罪の意識は感じないか」という
質問で、guiltyという単語を使ったためにクルーズがちょっ
と気色ばむ場面があった。この状況でこの単語は、ニュアン
ス的に僕でも使わないだろうという感じのもので、フランス
人の英語力も大したことはないという感じだった。映画とは
関係のない話だが。                  
        *         *        
 以下は、いつものように製作ニュースを紹介しよう。  
 まずは続報で、前回も紹介したロアルド・ダール原作によ
る“Charlie and the Chocolate Factory”の2度目の映画
化に、ジョニー・デップの主演が正式に発表された。   
 この役には、先の情報では『バットマン』のマイクル・キ
ートンや、本年度のオスカー受賞者で『バットマン・リター
ンズ』では陰の支配者マックス・シュレックを演じたクリス
トファー・ウォーケンといった、いずれもティム・バートン
監督ゆかりの俳優の名前が挙がっていたが、最終的にこの夏
の実写で最高のヒット作『パイレーツ・オブ・カリビアン』
に主演したデップとの、『シザーハンズ』『エド・ウッド』
『スリーピー・ホロー』に続く4回目のコラヴォレーション
が実現することになったようだ。            
 また、撮影は来年行われる予定になっているが、この作品
は、どちらかというとクリスマスシーズン向きの内容のよう
に感じるもので、上手くすると公開は04年末という可能性も
ありそうだ。                     
 一方、本作の脚本は、すでにスコット・フランクやグィン
・ルーリーらが手掛けているが、このほどその脚本にパメラ
・ペトラーという脚本家の契約も発表されている。ペトラー
はバートンが製作するストップモーション・アニメーション
作品の“The Corpse Bride”の脚本も手掛けており、同作は
バートンが脚本を気に入って映画化を進めたということで、
監督が認めた才能で、新たなチョコレート工場が作られるこ
とになるようだ。                   
        *         *        
 次は、前の記事にも出てきた『バットマン・リターンズ』
に登場した“Catwoman”の映画化が、ハル・ベリーの主演で
9月に撮影開始されているが、この新作でゲストキャラクタ
ーのローレルという役に、シャロン・ストーンの起用の情報
が流れている。                    
 この役柄は、昼は化粧品会社の女社長、夜は悪の首謀者の
というもので、『バットマン』からスピンオフして誕生する
キャットウーマンの最初の敵役ということになる。なお、そ
の他の配役では、キャットウーマンを追うローン刑事役で、
『ハルク』で恋敵のグレン・タルボット役を演じたジョッシ
ュ・ルーカスの名前も挙がっているようだ。       
 監督は、『ヴィドック』を手掛けたフランス人のピトフ。
脚本は、人気アクションテレビシリーズ“Birds of Prey”
で製作脚本を手掛けるリータ・カログリディスが担当。因に
彼女は、同じくワーナーでジョール・シルヴァが進めている
“Wonder Woman”の脚本も担当しているそうだ。     
 一方、オリジナルの“Batman”のシリーズ第5作について
も少し動きが出てきたようだ。             
 この計画では、今年1月に『メメント』『インソムニア』
のクリストファー・ノーラン監督の起用が発表されたまま、
その後の情報が跡絶えていたが、ここにきて主演俳優決定の
噂が広まっている。                  
 噂に上がっているのはイギリス出身のヒュー・ダンシーと
いう俳優で、この配役にはアメリカの情報誌でも‘who?’と
書かれていたが、2000年にイギリスで製作されたチャールズ
・ディケンズ原作の“David Copperfield”の映画化では主
人公のコパーフィールド役を演じており、他にもイギリス製
作の“King Arther”では、ガルハラド役を演じているそう
だ。因に、“Copperfield”はダニエル・ラドクリフの主演
で話題になった1999年作品とは別の作品だ。       
 ということで、ワーナーが進めているバットマン・ファミ
リーの映画化では、まず“Catwoman”に続いて“Batman 5”
が先に動きそうな気配だが、これに対して、ウォルガング・
ペーターゼン監督で進められていた“Batman vs.Superman”
の計画では、アンドリュー・ケヴィン・ウォーカーの脚本は
すでに完成しているものの、監督が“Troy”に走ったために
中断。一方、次世代の物語を描く“Batman: Year One”の計
画は、ダレン・アロノフスキー監督とフランク・スタックの
手で脚色が進められており、こちらはまだ進行中のようだ。
        *         *        
 前の記事にラドクリフの名前が出てきたのに絡めて、『ハ
リー・ポッター』シリーズの情報を紹介しておこう。   
 第3作の“Harry Potter and the Prisoner of Azkaban”
(ハリー・ポッターとアズカバンの囚人)の撮影は2月24日
に開始されて、今だに進行中のようだが、それに続く第4作
の“Harry Potter and the Goblet of Fire”(炎のゴブレ
ット)の計画が発表された。              
 それによると、すでに発表されている監督のマイク・ニュ
ーウェルと共に、出演者にはダニエル・ラドクリフ、ルパー
ト・グリント、エマ・ワトスンの名前が挙がっている。つま
り前3作の主演トリオが第4作にも出演するということだ。
 この配役については、特にポッター役のラドクリフは、本
人の成長との兼ね合いで第3作でおしまいという情報もあっ
たものだが、結局第4作にも続けて主演することになってい
る。その後の計画は不明だが、現在の製作状況では、物語は
1年ごとの話に対して、映画化は今後は1年半ごとというこ
とにもなりそうで、そうなると予定されている最終話の第7
作では、物語の主人公は17歳、演じる俳優は20歳ということ
にもなってしまう。                  
 この状況について製作者側は、その程度なら大丈夫という
判断に傾きつつあるようだが、先日発売された原作の第5巻
“The Order of the Phoenix”は第4巻との関係が密接で、
ここで主演の交代はありそうもなく、このまま最終話まで行
く可能性は高そうだ。                 
 なお、第4作の撮影開始は04年4月となっており、脚本は
第3作と同じスティーヴ・クローヴスが担当している。この
スケジュールでは、公開は05年夏も可能のようだが、どうな
るのだろうか。                    
        *         *        
 今回はワーナーの話題が続いているが、あと2つ。   
 まずは、またまたファンタシー3部作の映画化で、フィリ
ップ・アルダー原作で、エディ・ディケンズトリロジーとし
て知られるファミリー・アドヴェンチャーシリーズの映画化
権をワーナーが契約し、その第1作“A House Called Awful
End”の脚色をマシュー・ホフマンが手掛けることが発表さ
れた。                        
 この第1作では、11歳のイギリス人の少年が両親の病気の
ために家族から離され、ちょっと行動の異常な叔父夫妻に預
けられるところから始まる。やがて彼は孤児院に預けられた
りもするのだが・・・。この概要だけだとファンタスティッ
クな感じはしないが、実は原作本の表紙には、登場人物の顔
が描かれており、これが鳥みたいなのや狐みたいなものもい
たりして、何とも不思議な雰囲気なのだ。        
 因に、原作は元々はイギリスで出版されたもので、昨年9
月にアメリカに紹介されたということだ。        
        *         *        
 もう一つは、往年のSF映画のリメイクの計画で、56年ド
ン・シーゲル監督作品“Invasion of the Body Snatchers”
の再々々映画化の計画が発表された。          
 この作品は、『ふりだしに戻る』などの作品で知られるア
メリカの幻想小説作家ジャック・フィニーが55年に発表した
長編“The Body Snatchers”(邦題:盗まれた町)を映画化
したもので、アメリカ中西部の小さな町の住人が、空から降
って来た莢に潜む異星人に複製され、徐々に取って変られる
様子を描いた侵略ものの古典。そして56年の映画化では、そ
の知的で無気味な展開が、現在もカルトムーヴィとして評価
されている作品だ。また、その後の78年と93年にもそれぞれ
リメイクが行われるほどの高い評価を受けている。    
 なお、78年のリメイクではシーゲルと同じ題名を用いて、
舞台をサンフランシスコに移して大規模な侵略を描いたが、
93年作では題名を原作と同じ“The Body Snatchers”として
軍事基地を舞台にした作品としていた。そしてこの93年作を
製作したワーナーが、現在の映画化権を保有しているという
ことだ。                       
 そのため、今回はその4回目の映画化がワーナーで計画さ
れているもので、製作者には、ドリームワークスで『ザ・リ
ング』のハリウッドリメイクなどを手掛けたダグ・デイヴィ
スンとロイ・リーの参加が発表されている。発表では、物語
を現代版にするということで、脚本家など詳細は未定だが、
製作者の手腕にも期待が集まっているようだ。      
        *         *        
 ワーナーの話題は一先ず置いて、続いてはまたまたCGI
とライヴアクション合成映画の計画が発表されている。  
 まずは、『スチュアート・リトル』を手掛け、この秋公開
の新作“Haunted Mansion”にもCGIが多用されていると
いうロブ・ミンコフの製作で、“Get Fuzzy”というCGI
+ライヴアクション合成映画が計画されている。     
 この作品は、ロサンゼルス・タイムスなど400紙以上で掲
載されているコミックストリップを映画化するもので、原作
のコンセプトは、「ペットと暮らす独身生活者の皮肉なポー
トレイト」というもの。独身で広告会社の重役という男性と
暮らしている2匹のペット、自然に生きようとする犬のサト
シェルと、パンツを履いた猫バッキーを主人公に、ミンコフ
の言葉によると「ファミリーピクチャーに仕上げるには最高
の潜在能力を持った作品」ということだ。        
 因にこの原作は、今年5月に行われた全米漫画家協会の選
考で、Comicstrip of the Yearを受賞している。     
 なお、今回の計画ではミンコフは製作のみ担当し、監督に
は、ミンコフが『ライオン・キング』を監督したときの協力
者で、その後『美女と野獣』や『ノートルダムの鐘』を手掛
けたアニメーション監督のカーク・ワイズが、初めての実写
を監督することになっている。             
 また脚本は、ワイズと原作コミックスの作家のダービー・
コンリーが手掛けているが、ワイズは、「豊かなキャラクタ
ーと鋭いユーモアで、他の面白いだけの作品とは一線を画す
る作品になる」と脚本の意図を語っている。製作は、ミンコ
フが本拠を置くソニーで行われる。           
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 もう1本のCGI+ライヴアクション合成映画はアルコン
というプロダクションの製作で、“Racing Stripes”という
作品。                        
 こちらは9月15日から南アフリカでライヴシーンの撮影が
始まるというものだが、デイヴィッド・シュミット、カーク
・デ・ミコ、マイク・サモネックの脚本で、アニメーション
作品“Quest for Camelot”のフレデリック・デュ・シャウ
が監督を担当している。                
 お話は、アフリカの荒野で親から見捨てられた幼いシマウ
マの主人公が、競馬馬と一緒に育てられ、自分を競馬馬だと
思い込んでしまうというもの。             
 そしてこの主人公のシマウマの声をフランキー・ミニッツ
が担当し、この他の動物たちの声優で、ダスティン・ホフマ
ン、ウーピー・ゴールドバーグ、ジョー・パントリアーノ、
マンディ・モーア、パトリック・ステュアート、ジョシュア
・ジャジュスン、マイクル・ローゼンバウム、スティーヴ・
ハーヴェイ、デイヴィッド・スペイド、マイクル・クラーク
・ダンカン、ジェフ・フォックスワーシーといった錚々たる
メムバーが集まっている。               
 一方、ライヴの出演者では、ケヴィン・コスナー主演のキ
ューバ危機映画『13デイズ』でJFKを演じたブルース・グ
リーンウッドと、ジョデイ・フォスター主演の『パニック・
ルーム』などに出演していたハイデン・パネッティエリが発
表されている。                    
 アメリカ公開は05年1月14日(マーティン・ルーサー・キ
ング・デイ)の予定、海外配給権はサミットが担当している
ようだ。                       
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 後半は短いニュースを紹介しよう。          
 まずは続報、前回紹介したブレット・ラトナー監督が急き
ょ“After the Sunset”の監督をすることになった影響で、
第41回で紹介したジョン・トラヴォルタ主演の『ゲット・シ
ョーティ』の続編“Be Cool”の監督はキャンセルされるこ
とになった。そしてその監督の後釜に、今春のヒット作『ミ
ニミニ大作戦』を手掛けたF・ゲイリー・グレイの起用が発
表されている。                    
 この監督の選考は、ラトナーの降板を請けたトラヴォルタ
が直ちに決めたもので、彼は96年の『交渉人』などで見せた
緊張感の中にウィットを挿入するグレイの手腕に注目したと
いうことだ。トラヴォルタ扮するチリ・パルマーが、今回は
ロシアン・マフィアと対決する続編は、MGMとジャージー
・フィルムの製作で、11月からの撮影が予定されている。 
 なお、大元になったジョン・ストックゥエル監督の“Into
the Blue”もMGM製作で、因果は巡るという感じだが、
この作品には『ワイルド・スピード』2作に主演したポール
・ウォーカーの主演が発表されている。お話は、スキューヴ
ァダイヴァーのチームが宝捜しのつもりで潜り込んだ沈没船
で、大量の麻薬を発見してしまうというもの。それを麻薬王
に知られてという展開のようだが、同じテーマでは、過去に
『ザ・ディープ』などの作品もあり、手腕が試されそうだ。
本作の撮影は10月に開始の予定になっている。      
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 もう一つリメイク情報で、これも以前に紹介していると思
うが、1975年にアメリカン・インターナショナル(AIP)
で製作された“The Reincarnation of Peter Proud”(リイ
ンカーネーション)の再映画化の脚本に、『インソムニア』
を手掛けたヒラリー・セイツの起用が発表されている。  
 このリメイクは、パラマウントに本拠を置くスコット・ル
ーディンが最低70万ドル、最高220万ドルの契約金でAIP
の持つ映画化権を獲得したもので、一昨年来準備が進められ
ており、一時は監督にデイヴィッド・フィンチャーの名前も
挙がっていた。その後しばらく音沙汰がなかったが、今回の
脚本家の決定で、一気に実現へ向かえるかというところだ。


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井口健二