井口健二のOn the Production
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2003年08月16日(土) サンダーパンツ、死ぬまでに・・、ジョニー・E、ティアーズ・オブ・・、レッド・サイレン、戦場のフォトグラファー、S.W.A.T.

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
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『サンダーパンツ』“Thunderpants”          
91年にキアヌ・リーヴスが主演した『ビルとテッドの地獄旅
行』を監督。この作品は続編だったがオリジナルより高い評
価を受けたピーター・ヒューイットの02年の新作。    
生まれたときからオナラが止まらない小学生と、多分天才だ
が周囲からは浮きまくっている発明家の小学生。この典型的
ないじめ対象の2人が、最後はどでかいことをやってしまう
というキッズムーヴィ。                
パトリックは、激しいオナラのために父親は家出し、母親は
アル中、姉は口も利いてくれない。小学校ではいじめの対象
で、校長までもがそのことをなじる。そんな彼の唯一の親友
は発明家のアラン。実はアランは嗅覚障害者でオナラは平気
なのだ。                       
そんなパトリックの夢は宇宙飛行士。しかしUS宇宙センタ
ーの所長は、宇宙飛行士になるには天賦の才能が必要だと言
っている。パトリックにとってその才能とは?      
ある日、アランは発明の傍らでサンダーパンツを作ってくれ
る。それはオナラを閉じ込めランチボックス風の容器に回収
する装置。それもいじめの対象になってしまうのだが、そこ
から発展してオナラで飛ぶ乗物サンダーパンツ2号が作られ
る。                         
ところがその直後、アランは何者かに連れ去られてしまう。
一方、パトリックは、オナラの発する音がテナーの最高音域
と同じだと気付いた世界2番目のテナー歌手によって、彼の
最高音域の代役として世界ツアーに出る。それはアランを探
す旅でもあった。                   
しかし代役がばれて大変なことになりそうになったとき、ア
ランを連れていったのと同じ男たちが現れる。      
何せテーマがオナラだから、一朝一夕に作られたら見るに耐
えないものになる。しかしこのテーマを完全に物語として消
化しているのだから、これは見事としか言いようがない。も
ちろんギャグとして扱われている部分も有るが、ほとんどは
ドラマになっているのだ。               
主演は、パトリック役に新人のブルース・クックと、アラン
役は『ハリー・ポッター』のロン役のルパート・グリント。
クックの自然体の演技も良いが、さすがにグリントが芸達者
なところを見せる。                  
これを、ネッド・ビーティはじめ大人の演技陣がしっかりと
受けとめる。大人の俳優たちも衒うことなく大まじめで演じ
てくれるところが、イギリス映画の厚さを感じさせる。  
もちろん御都合主義の物語ではあるけれども、監督たちの才
能と、何より映画に対する愛情の感じられる作品だった。な
お、エンドクレジットの最後にSpecial Thanks to としてキ
ーラ・ナイトレイの名前が出ているが、一体何をしたのだろ
う。                         
                           
『死ぬまでにしたい10のこと』“My Life Without Me” 
『トーク・トゥ・ハー』のペドロ・アルモドバル監督が製作
総指揮を勤めたヒューマンドラマ。           
主人公は、23歳の女性。17歳の時に初対面の男性の子供を妊
娠して結婚。その後2人目も誕生し、夫に愛されていること
は判っているが、その夫は現在失業中。そして彼女は大学構
内の夜間の清掃員をして家計を支えている。       
そんな夫に、久々に長期の仕事が見つかる。しかし同時に、
彼女は悪性の腫瘍に蝕まれていることが判明し、余命が2カ
月であると告知される。このとき彼女は、病気のことは夫に
も告げず、最後の2カ月を精一杯生きることを決意する。 
彼女は、死ぬまでにやりたいこととして、今は幼い娘たちが
18歳になるまでの誕生日ごとに贈る言葉を録音することや、
夫以外の男と愛し合うなど10の事柄を決める。      
ほっておけば、お涙頂戴のめろめろになりそうなお話。しか
し脚本家でもある監督のイザベル・コレットは、ニヤリとさ
せるポップシンガーや女優の話題などを配し、愁嘆場を作る
ことなく見事にまとめ上げる。             
特に、夫以外の男と愛し合うという辺りが女性作家らしさと
いう感じで、この男性との関係を通じて、単に死んでしまう
ことだけはでない大きな物語に膨らませて見せる。    
さすが『トーク・トゥ・ハー』の監督が認めた才能だけのこ
とはあるという感じがした。              
                           
『ジョニー・イングリッシュ』“Johnny English”    
『ミスター・ビーン』でお馴染みローワン・アトキンスン主
演のスパイパロディ。                 
『ミスター・ビーン』のお笑いは、はまれば強烈だが、滑る
とどうしようもなくなってしまうかなり際どいものがある。
今回の作品も、すでに何本もある007のパロディで、その
意味ではかなり際どい作品だ。             
ジョン・マルコヴィッチ扮するフランスの富豪は、実は200
年前に本来なら英国王室を継ぐところをフランスに渡ってし
まった一族の末裔。その男が王位を狙っていろいろな計画を
立てる。それをMI−7の見習いスパイのイングリッシュが
阻止するという物語。                 
正直に言って、アトキンスンのベタなギャグの連発だったら
どうしようと心配していたのだが、今回はそういう部分はあ
まりなく、かなり正統な笑いで楽しませてくれた。    
特に、物語の脇を固める部下の男とインターポールの女性捜
査官がかなり優秀な設定で、ある意味主人公のイングリッシ
ュはそれに踊らされているような感じなのが、納得しやすか
ったというか、見ていて引いてしまうところが少なかった。
その一方で、マルコヴィッチが見事な怪演を見せてくれる。
結末はかなりいい怪訝だが、そこをマルコヴィッチが無理矢
理押し切ってしまっている雰囲気もあり、このキャスティン
グはお見事という感じだ。               
アトキンスンであるから、当然臭い一人芝居も連発するが、
それもそれぞれ意味づけがされていて、浮いているようなと
ころがなかった。イギリスの興行成績では連続1位も記録し
たそうだが、なるほどうなずける感じもした。      
                           
『ティアーズ・オブ・ザ・サン』“Tears of the Sun”  
ナイジェリアの内戦を背景に、ジャングルに取り残された女
医の救出に向かったシールズ部隊が、命令違反をしてまで迫
害を受ける恐れのある現地人27名を保護し、国境までの血路
を開く姿を描いたブルース・ウィリス、モニカ・ベルッチ共
演のアクション映画。                 
主人公は、一旦は救出してヘリコプターに載せた女医と共に
戦地に舞い戻る。そして戦乱の激化でヘリコプターの飛行は
不可能になり、残る望みは徒歩で国境までたどり着くことし
かなくなる。しかも背後には、彼らを執拗に追う300人以上
の現地兵が迫っていた。                
実は、元々はウィリス主演の“Die Hard 4”として計画され
たが、シリーズの製作会社が計画を放棄し、設定を多少作り
直して別の会社で映画化したものだそうだ。従って、物語の
中で主人公が行動を起こした動機を聞かれ、「俺にもわから
ん」と答えているのは、それが『ダイハード』だと思えば納
得できるものだ。                   
ということで、この主人公の動機がかなり薄弱なのは確かだ
が、それ以外のお話は結構納得できる展開で、戦闘シーンも
まともに描かれている。しかもちゃんとエンターテインメン
トしているところは良い感じだった。          
ヴェトナムは負け戦を描かなければならないし、中東は政治
がややこしくなりすぎた。その点ナイジェリアは、戦闘の起
きる状況もそれなりにはっきりしているし、これからシール
ズなどが活躍するには格好の場所になりそうだ。     
なお映画では、政治情勢に応じて作戦中の銃器の使用が禁止
されるなど、細かな指示が出されており、勝手に他国内で銃
器の使用を認める法律を作っているどこかの国の国会は、そ
んな認識で良いのかという感じがした。         
                           
『レッド・サイレン』“Red Siren”           
『グランブルー』のジャン=マルク・バールと、『トリプル
X』のアーシア・アルジェント共演によるフランス製アクシ
ョン作品。                      
男性の主人公は、ボスニアの戦乱の中でリヴァティ・ベルと
称する一団のスナイパーとして働いた男。しかしその作戦の
最中、誤って幼い少年を射殺してしまう。        
女性の主人公は、イタリアからフランス警察に出向している
女性刑事だが、仕事に限界を感じ始めている。その女性刑事
の許へ、1枚のDVDを持った少女が保護を求めてくる。そ
のDVDには彼女の母親が殺人を犯す場面が写されていた。
しかし、その母親は政界にも顔の利く実業家で、警察も迂闊
には手が出せない。そして少女の身柄の引き渡しを母親が求
めてきたとき、少女は警察の隙を見て逃亡。偶然遭遇したス
ナイパーだった男性と共に、実の父親が生きているはずのポ
ルトガルを目指す。                  
一方、その様子に母親の犯罪を確信した女性刑事は、少女を
保護するためにポルトガルに向かう。そして母親も、部下た
ちを引き連れてポルトガルに向かっていた。       
実はスナイパーだった男性が、離脱を希望しながらも以前と
同じ組織で活動していて、その組織のバックアップでとてつ
もない銃器を揃えている上に、滅法腕が立つというのが味噌
で、後半はこの男性、対母親の部下軍団の大銃撃戦が展開す
る。これに少女と女性刑事が巻き込まれている図式だ。  
それにしても見事なアクションで、正直に言ってお話自体は
かなり御都合主義だが、そんなことはどうでも良くなってし
まうくらい。実はせりふは英語の作品で、以前英語せりふの
フランスアクションは今いちと書いたが、本作に関しては前
言を撤回する。                    
原作はモーリス・G・ダンテックの“La Sirene Rouge”と
いう作品で、これを監督のオリヴィエ・メガトンを含む4人
が脚色しているが、その筆頭の名前がSF作家でもあるノー
マン・スピンラッドとなっていた。           
                           
『戦場のフォトグラファー』“War Photographer”    
ロバート・キャパ賞を5回受賞しているという写真家ジェー
ムズ・ナクトウェイの活動を追ったドキュメンタリー。  
最近25年間に起きた世界中の全ての戦場に立ったというナク
トウェイの姿を、彼のカメラに装着した小型ヴィデオカメラ
なども駆使して描いた作品。              
彼は戦場だけでなく、貧困問題でも、ジャカルタの鉄道ぞい
のスラムに住む一家や、硫黄鉱山で働く労働者、ごみ捨て場
の少年たちなども追い続けており、それらの姿も克明に描か
れている。                      
現場で撮影されたシーンと彼自身へのインタヴュー、さらに
写真雑誌の編集者や同僚、親友などの証言で構成されるが、
いろいろ考えさせられるところの多い作品だった。    
当然、批判の対象にもなりやすい職業だが、証言の中で、親
友という脚本家の「彼は、最後は善が勝ち、悪は滅びると信
じている」という言葉が、全てを納得させてくれた感じがし
た。                         
まあ、こういう作品を見ていると、戦争アクション映画はど
うなのよ、という感じにもなってしまうのだが、エンターテ
インメントは、それとして見るしかないと言うところだ。 
                           
『S.W.A.T.』“S.W.A.T.”           
ロサンゼルス市警に実在する特別狙撃部隊の活躍を描き、ア
メリカでは1975年から、日本でも76年から放送されたテレビ
シリーズの映画化。                  
実は、放送当時すでに就職していた僕は、帰宅時間の関係で
このシリーズはあまり見ていない。従って思い入れもそれほ
どはないのだが、今回の試写会で予想以上に周りの反応の良
いのに驚いた。                    
正直に言って、『チャーリーズ・エンジェル』より良いくら
いで、多分僕より若い人たちだから、放送当時は学生や子供
というところだろうが、今そこそこの年代になっているこの
人たちが動けば面白くなりそうだ。           
お話は、マフィアの跡目を継ぐ男が仕事のため不法入国し、
ちょっとしたことで捕まってしまう。最初は軽犯罪者と思わ
れていた男は、やがて世界中から指名手配されている重犯罪
者であることが知れる。                
ところがその情報がマスコミに流れ、報道機関が集まったと
ころで男は、自分を救出したら1億ドルを出すと宣言する。
この情報にロス中の危ない連中が警察を襲い始める。そして
マフィアの組織内では、男を救出するための周到な計画が練
られていた。                     
一方、SWAT隊に伝説の隊長ホンドーが復帰してくる。し
かし一癖ある連中を集めたがるホンドーに本部長との間は一
触即発。一つの失敗が、隊そのものの存続も危うくする事態
になっていた。そんな中、SWAT隊に男の護送の任務が下
される。                       
何たって100人で山分けしても1人100万ドルなのだから、本
当に一攫千金の有象無象が大挙して襲ってくる訳で、しかも
この連中がロケット砲まで使ってくるのだからたまったもの
ではない。この設定はかなり上手くできているし、さらにマ
フィアの計画も納得できる展開だった。         
のべつまくなしの事件発生で、その数は多分映画史上でも記
録的ではないかと思うが、それをまた1時間51分の上映時間
内で手際良く解決して行く訳で、テンポも良く面白い。  
なおホンドー隊長は、テレビのスティーヴ・フォレストから
映画はサミュエル・L・ジャクスンに変っているが、そのフ
ォレストが最後にカメオ出演しているのもご愛嬌。またオリ
ジナルのテーマ曲も上手く使われていた。        



2003年08月15日(金) 第45回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 いやはや、シュワルツェネッガーの出馬が本当に決まって
しまった。先月には一時断念したとの噂も流れたようだが、
実際には8月1日に、水曜日の“The Tonight Show”で重要
な発表をするという情報が流され、わざわざ「断念」を公式
に発表することはないだろうという観測になっていた。しか
し、これで当選すると、最近発表された映画製作の企画は全
て、最初の任期が終る2007年以降にせざるを得なくなるよう
だ。 
 なお、現在、発表されている主演の企画は“Westworld”
と“Big Sir”に2本だが、もう1本、ジョン・ミリウスが
監督する予定の“Conan”の続編については、シュワルツェ
ネッガーの推薦でザ・ロックことドゥエイン・ジョンスンが
彼の息子の役で主演の予定で、これも父親役のシュワルツェ
ネッガーの出演が不能だと延期になるようだ。世論調査はす
でに当確のようだが、10月7日の投票結果が注目される。
 また、今後の公開作品では、今秋ジョンスン主演の“The
Rundown”と、来年の夏公開予定のジャッキー・チェン主演
“Around the World in 80 Days”の2本にいずれもカメ
オ出演している。
 因に07年、シュワルツェネッガーは60歳になるそうだ。 
        *         *        
 以下は、いつものように製作情報を紹介しよう。    
 まずは、『レッド・ドラゴン』のブレット・ラトナー監督
の新しい計画が発表されている。といってもこの作品、実は
前任監督の降板で、急遽代打に立つことになったものだ。 
 作品の題名は、“After the Sunset”。前々回の“A Tale
of Two Sisters”の記事の中でも少し紹介したが、ニュー
ライン作品で、ピアーズ・ブロスナンとサルマ・ハエックが
共演、『ブルー・クラッシュ』のジョン・ストックウェルの
監督で、今年10月からの撮影が計画されていた。     
 ところが監督のストックウェルが、MGMで進められてい
る“Into the Blue”という作品への参加を表明。結局「創
造上の意見の相違」という形で降板してしまった。    
 そこでニューラインでは、代役の監督を探していたものだ
が、同社で“Rush Hour 3”を準備中のラトナーが、まだそ
の準備が整っていないということもあって、代役を務めるこ
とになったようだ。因に、ラトナーとニューラインの間では
“Rush Hour 2”の次の作品という形で契約が結ばれている
そうで、今回の監督をするとその契約条件は満たすことにな
るようだが、ラトナーは“Rush Hour 3”についても続けて
やる計画で、その公開は05年を目処としている。     
 なお“After the Sunset”のお話は、ポール・ゼビゼウス
キーのオリジナル脚本を、前々回紹介のクレイグ・ローゼン
バーグがリライトしたもので、カリブ海のリゾート地で優雅
に暮らす元宝石泥棒のブロスナンと、その女友達のハエック
が、泥棒稼業を続けていると睨むFBI捜査官の追求を受け
るという内容。そしてこの捜査官役を、『シン・レッド・ラ
イン』などのウッディ・ハレルスンが演じることも発表され
ている。                       
 因に、ハレルスンは、ジャック・ニコルスン、アダム・サ
ンドラー共演の“Anger Management”(N.Y.式ハッピー・
セラピー)にも小さい役で出ているようだが、最近の主演作
はほとんどインディーズ作品に限られていたということで、
ハリウッド作品で大きな役を演じるのは珍しいそうだ。なお
ニューラインでは、ハレルスンは96年製作の『ラリー・フリ
ント』などに主演している。              
        *         *        
 お次は、またまた往年のテレビシリーズの映画化で、1965
年から70年に掛けて、最初はNBC、後にCBSで放送され
た30分のコメディシリーズ“Get Smart”を映画化する計画
が発表されている。                  
 このオリジナルは、日本では『それ行けスマート』の題名
で、同じく30分シリーズの“Honey West”(ハニーにおまか
せ)とのカプリングで放送されていた。         
 内容はスパイもののパロディで、コメディアンのドン・ア
ダムス扮する合衆国の諜報組織CONTROLのエージェン
ト86号ことマックスウェル・スマートが、革靴の底にダイヤ
ルのある無線電話などのハイテクを駆使して、悪の組織KA
OSと戦う活躍を描いたもの。             
 実は、『ヤングフランケンシュタイン』などの監督のメル
・ブルックスと、『天国から来たチャンピオン』などの脚本
家バック・ヘンリーが協力して作り上げたキャラクターで、
その設定の上手さは群を抜くシリーズだった。      
 なお、80年にはアダムスの主演、クライヴ・ドナーの監督
で映画版“The Nude Bomb”が製作され、さらに89年には、
TVムーヴィ版の“Get Smart Again”も発表されている。
また95年にはマックスがチーフとなり、息子のザック・スマ
ートが活躍する続編シリーズも放送されている。因に、この
ときの無線電話は、スニーカーの底に着いていたそうだ。 
 という人気シリーズの映画化だが、今回これに挑むのは、
『サタデー・ナイト・ライヴ』出身コメディアンのウィル・
フェレル。彼は『SNL』の自演キャラクターを映画化した
98年の“A Night at the Roxbury”に主演した他、現在は、
ドリームワークスで製作中の“Anchor Man: The Legend of
Ron Burgundy”という作品に出演している。      
 製作はワーナーに本拠を置くアンドリュー・ラザーで、彼
は数年前からこの企画と取り組み、ようやく実現に漕ぎ着け
たということだが、フェレルの主演が決まったことで、今ま
でに準備された脚本などは全てキャンセルされ、これからフ
ェレルのキャラクターに合せた新マックスウェル・スマート
を誕生させることになるようだ。          
 因に、日本でカプリングで放送されていた“Honey West”
も、リーズ・ウィザースプーン主演による映画化の計画が、
2年ほど前にミラマックスから発表されていたが、その後ど
うなっているのだろう。                
        *         *        
 上の作品も、80年の作品からのリメイクと言えないことも
ないが、その他のリメイクの計画を少し紹介しておこう。 
 まずは、以前(第16回)に紹介した“Billy Jack”(明日
の壁をぶち破れ)のリメイク計画で、監督にピーター・ケア
の起用が発表された。                 
 ケアは、昨年公開されたジョディ・フォスター製作、キー
ラン・カルキン主演による“The Dangerous Lives of Altar
Boys”で長編監督デビューを果たしたばかりだが、元はミ
ュージックヴィデオの監督で、R.E.M.やティナ・ター
ナーなどの作品を手掛けている。また前作は、『スポーン』
のトッド・マクファーレンが制作したアニメーションが織り
込まれるなど、かなり奇抜な冒険映画だったようだ。   
 なおこの計画では、以前紹介したときにはドリームワーク
スの製作、キアヌ・リーヴスの主演となっていたが、今回の
報道ではインターメディアの製作となっており、状況は変化
しているようだ。また脚本は、“Hidalgo”などのジョン・
フスコが担当している。                
        *         *        
 続いては、1974年にバート・レイノルズ主演で映画化され
た“The Longest Yard”(ロンゲスト・ヤード)のリメイク
が、パラマウントとアダム・サンドラー主宰のハッピー・マ
ディスンから発表されている。因に、サンドラーはソニーを
本拠にしているが、今回はパラマウントに協力するものだ。
 同作からは昨年公開のイギリス映画『ミーン・マシーン』
がインスパイアされた作品であることを名乗っていたが、今
度は本家本元のリメイクが行われることになったもの。脚本
家は未定だが、物語はインターネットを取り入れるなど現代
化されたものになるということで、オリジナルよりコメディ
の要素を強くする計画だそうだ。            
 そしてキャスティングでは、パラマウント傘下のMTVか
ら若手ミュージシャンの起用が検討されている。オリジナル
に主演したレイノルズは、元カレッジフットボールの花形選
手だったし、イギリス作品も主演には元プロサッカー選手の
俳優を起用したものだが、それをミュージシャンの主演で、
さてどうなりますか。なお、本作はサンドラー主演の計画で
はないようだ。                    
        *         *        
 マイクル・ケインの主演で、先日公開された『ミニミニ大
作戦』にもそのワンシーンが登場していた1966年製作のイギ
リス映画“Alfie”(アルフィー)のリメイクがパラマウン
トで進められている。                 
 元々は舞台劇から映画化された作品だが、60年代の性革命
を背景に、奔放な生活を送る主人公が、ふと自分の行動やそ
の将来に疑問を持ってしまう、という内容のロマンティック
コメディ。そしてこの映画化の演技で、ケインはオスカーの
ノミネートも獲得している。              
 この作品のリメイクが、チェールズ・シャイヤーとエレイ
ン・ポープの脚色、シャイヤーの監督で進められているもの
で、主演にはジュード・ロウが先に発表されていた。そして
今回は、彼を取り巻く女性たちの配役で、オスカー女優のス
ーザン・サランドン、マリサ・トメイが登場する他、ニナ・
ロング、シーナ・ミラーらの共演も発表されている。   
 撮影開始は秋の予定になっているが、題名はオリジナルか
らは変更される計画でその新題名は未定ということだ。  
 因にサランドンは、現在ミラマックスで撮影中の日本映画
からのリメイク作品“Shall We Dance ?”に出演、リチャー
ド・ギア、ジェニファー・ロペスらと共演している。   
        *         *        
 1977年にマイクル・ウィナー監督で映画化された都会ホラ
ーの秀作“The Sentinel”(センチネル)のリメイクがユニ
ヴァーサルで計画されている。             
 オリジナルはジェフリー・コンヴィッツのベストセラー小
説を映画化したもので、ブルックリンのアパートに引っ越し
てきたファッションモデルの女性が、同じ建物の住人たちが
悪魔の信奉者で、彼女がその建物に開く地獄の門の次の守護
者であることに気付くというお話。           
 オリジナルでは、主人公をモデル出身のクリスティナ・レ
インズが演じ、その脇をエヴァ・ガードナー、バージェス・
メレディス、アーサー・ケネディ、ジョン・キャラダイン、
クリストファー・ウォーケン、イーライ・ワラック、ジェフ
・ゴールドブラム、マーティン・バルサム、トム・ベレンジ
ャーといった錚々たるメムバーが固めていた。      
 そして今回のリメイクでは、脚本を『コン・エアー』など
のスコット・ローゼンバーグが担当することになっている。
 なお、発表記者会見でローゼンバーグは、「大都会にやっ
てきた若い女性が悪魔の集団に遭遇するという基本の物語は
守るものの、他はほとんどオリジナルで展開させる」という
ことだ。またオリジナルではエロティックな描写が話題を呼
んだと言うことだが、そこに関しては「まだ言うべきときで
ない」という回答だったそうだ。            
        *         *        
 リメイクの最後に、第40回に既報のロアルド・ダール原作
“Charlie and the Chocolate Factory”の2度目の映画化
で、主演にジョニー・デップの名前が挙がっているようだ。
 この計画では、先にティム・バートンの監督が発表されて
いるが、デップファンの意見では、『シザーハンズ』以来、
バートン監督の計画には必ず名前が挙がるということで、期
待は半ばという感じのようだ。しかし今回は、デップには、
『パイレーツ・オブ・カリビアン』の大ヒットを受けての時
期でもあり、製作のワーナー側も決まれば大喜びだろう。 
 ジーン・ワイルダーのオリジナルの演技は原作者の気に入
らなかったようだが、先日の『カリビアン』の製作者ブラッ
カイマーの記者会見でも、デップはかなり真剣に役作りを考
えてくれるということで、これでもしバートン+デップが実
現したら、一体どんなウィリー・ワンカを見せてくれること
だろうか。                      
 撮影は来年以降の予定になっている。         
        *         *        
 お次はSF映画の情報で、アメリカのSF作家アルフレッ
ド・べスターが1953年に発表した“The Demolished Man”の
映画化がパラマウントで進められている。        
 この原作小説は、日本では『破壊された男』または『分解
された男』の邦題で知れられるが、超能力(テレパシー)の
発達で犯罪が未然に防止されるようになった未来社会を舞台
に、殺人の完全犯罪に挑もうとする男の物語。設定は『マイ
ノリティー・リポート』に通じるところがあるが、もちろん
それより前に発表されたものだ。            
 そしてこの原作に対しては、実はかなり以前から映画化の
計画はあり、オリヴァ・ストーンらが計画にタッチしていた
のだが、テレパシーなどの映像表現がネックになって実現が
見送られてきた経緯がある。              
 この計画に今回挑戦するのは、2000年に“Chopper”など
の作品を発表しているオーストラリア出身の監督アンドリュ
ー・ドミニク。彼は脚本家と共に、新たな脚色に挑むとして
いるが、実は、彼の前作には当時スタンダップ・コメディア
ンとして知られていた『ハルク』のエリック・バナが主演し
ており、今回の計画では、バナの主演を視野に入れて脚色を
進めるということだ。                 
 以前、シルヴェスタ・スタローン主演の『デモリションマ
ン』の製作が発表されたときに誤解して、あとでがっかりし
たことがあったが、今回は間違いなくべスターが映画化され
る。確かに、テレパシーによる探査を巧みに逃れるというシ
ーンの映像化はかなり難しそうだが、実現に期待したい。 
        *         *        
 もう1本、SF作家ロバート・シルヴァバーグ原作による
“The Book of Skulls”の映画化が、『エクソシスト』のウ
ィリアム・フリードキンの監督で計画されている。    
 この原作は1972年に発表されたもので、内容は、4人の大
学生が古代の書物の中に、永遠の命の秘密を発見したことか
ら始まる恐怖を描いたもの。そしてこの原作から、昨年ディ
メンションに“Retribution”というオリジナルスリラーの
脚本を契約したばかりのジェフ・デイヴィスが脚色すること
になっている。                    
 なおフリードキンの参加を聞いたデイヴィスは、「フリー
ドキンのためにサイコホラー映画の脚本を書けるなんて…。
彼は、映画史上最高に恐ろしくて、不安感を掻き立てる映画
を監督し、この映画ジャンルを確立した人物だ。脚本家にと
って、これ以上に望めることはない」と語って興奮していた
ようだ。                       
 また製作は、パラマウントに本拠を置くアルファヴィルと
いうプロダクションで行われるが、同社のトップのダニエル
&ジム・ジャックス兄弟は、ユニヴァーサルの『ハムナプト
ラ』シリーズや、先に日本でも公開された『ハンテッド』な
どホラーとスリラーを専門に製作しているチームだそうだ。
        *         *        
 後半は、短いニュースをまとめて紹介しよう。     
 まずは、第38回で紹介したクライヴ・カッスラー原作によ
る“Sahara”の映画化で、スティーヴ・ザーンの共演が発表
されている。この映画化は、主人公のダーク・ピット役をマ
シュー・マコノヒーで進められているものだが、ザーンの役
柄はアルというピットの相棒の役だそうだ。ブレック・アイ
スナーの監督で、撮影は10月からイギリスとモロッコで行わ
れることになっている。なお今回の報道でも、シリーズ初の
映画化となっているようだ。              
 第3作の“Harry Potter and the Prisoner of Azkaban”
が撮影中の『ハリー・ポッター』シリーズで、第4作にして
初めてイギリス人の監督が起用されることになった。撮影中
の第3作は04年6月4日公開が予定されているが、第4作の
“Harry Potter and the Goblet of Fire”は05年に公開さ
れるもので、スケジュール的には第3作に続けて撮影の可能
性もある。そしてその監督に、『フォー・ウェディング』な
どのマイク・ニューウェルの起用が発表された。     
 ニューウェルは、ワーナーが配給するジュリア・ロバーツ
主演の“Mona Lisa Smile”を完成させたところで、それに
続けて交渉されたようだ。確か俳優は全てイギリス人に拘わ
ったはずだが、監督はアメリカ人のクリス・コロンバスに続
いて、メキシコ人のアルフォンソ・キュアロンだった訳で、
ようやくその後を受けてのイギリス人監督の登板となった。
なおニューウェルは、文芸作品では1977年製作の“The Man
in the Iron Mask”(鉄仮面)を手掛けたことがある。  
 もう1本、イギリス製のファンタシーの映画化で、イーデ
ィス・ネズビットが1902年に発表した“Five Children and
It”の撮影がケネス・ブラナーなどの出演で始まっている。
お話は、第1次世界大戦を背景に、ロンドンから海辺の町に
疎開してきた子供たちが、砂丘に住む願いを叶えてくれる妖
精を見つけて、いろいろな冒険をするというもの。日本では
『砂の妖精』の邦題で知られるが、確かBBCでドラマ化さ
れたことがあり、また、NHKが『お願いサミアドン』の題
名でアニメシリーズ化したこともある。         
 最後に、『パイレーツ・オブ・カリビアン』の大ヒットを
受けて、いよいよ海賊映画の企画が出始めてきた。その1本
目は“Devil's Crew”という作品で、1718年を時代背景に、
黒髭と呼ばれた海賊を捕えるために派遣されたロバート・メ
ンバード大尉率いる王立海軍の物語。実話に基づく物語のよ
うだが、かなり過酷な作戦となった航海を描いたもので、ラ
ヴィ・バインズとアレックス・ハラキスの脚本をMGMが取
り上げて映画化を目指すことになっている。企画は、これも
大ヒットとなった“American Wedding”を手掛けたザイド/
ペリー・エンターテインメントが担当している。     



2003年08月02日(土) トランサー、福耳、ゲロッパ、ブラックマスク2、パイレーツ・オブ・カリビアン、SIMONE

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『トランサー−霊幻警察−』“2002異霊霊異”    
『ジェネックス・コップ』のニコラス・ツェー、スティーヴ
ン・フォン、サム・リーが再共演した特撮アクション。  
香港警察2002課。そこに所属するツェー扮する刑事ヤウには
霊魂を見る特殊な能力があり、その能力で、科学では解明で
きない摩訶不思議な事件を解決している。        
実はヤウのそばには、殉職して霊魂となった元同僚のサムが
いて、彼らは強力なコンビネーションで手強い悪霊との戦い
を続けていたのだ。しかし霊魂の活動には輪廻転生までの期
限があり、サムも転生の時を迎えて去っていってしまう。 
そのサムの後釜として、ヤウは彼も霊魂を見ることが出来る
という巡査のフォンと組むことにするのだが、実はヤウには
生涯孤独の相があり、彼と行動を共にしたものには必ず死の
運命が待っているのというのだった。          
このためヤウは、フォンと必要以上に親しくなることを嫌う
のだが、フォンは鍛練と称してヤウの部屋に上がり込んでし
まう。またヤウ自身は恋人を持つこともためらっていたが、
とある老女の霊魂に頼まれて訪れた病院で、一人の女性と巡
り会ってしまう。                   
正直に言って、前半のサム・リーとのコンビはアクションも
テンポがよく楽しめる。しかし彼がいなくなってからは、何
かもたもたして、特に女性が絡み始めると話がめろめろとい
う感じになってしまう。                
まあ、それはそれでいいのかも知れないが、アクション無し
の部分がかなり長く続くのは何か物足りない感じだったし、
結末もちょっと御都合主義に過ぎるという感じがした。  
ただし、後半のプールで水の悪霊と戦いシーンは、よくもこ
こまでやるもんだと思える見事なワイアーアクションを見せ
てくれる。ここでは悪霊役にシドニーオリンピック競泳の香
港代表選手だったアレックス・フォンが登場し、主人公を見
事なバタフライで追いつめる様子は、カメラのポジショニン
グもよく、迫力があった。               

『福耳』                       
『ピンポン』の脚本家でもある宮藤官九郎の主演で、テレビ
版『リング』などの瀧川治水が劇場用映画を初監督したファ
ンタスティックコメディ。               
老人ホームで働き始めたフリーターの男に、その直前に亡く
なった老人(田中邦衛)の霊が取り憑いたことから始まる騒
動が描かれる。                    
実は、老人には思いを寄せていた女性がいて、彼女が他の男
に言い寄られるのを守りたいと言うのだが、フリーターの男
にも、同じホームで働く女性の恋人が出来たことから話がや
やこしくなる。                    
一種の二重人格ものということにもなるが、基本的には宮藤
の演技で、それが徐々に田中邦衛化して行く様子はかなり芸
達者に演じていた。特に女性二人が同席し、その間に挟まれ
た男の性格が交互に入れ代わる辺りは笑わせどころとなる。
一方、取り憑いた田中邦衛は、主に鏡などの反射の中に現れ
るという設定で、手前の宮藤と向こう側の田中が同じ演技を
するという辺りは、まずまず上手くいっていた。特に遊園地
のミラーハウスのシーンは、物語のキーにもなって良い感じ
だった。                       
また、VFXに関しては、『ピンポン』でも最初に一発かま
してくれたが、この作品も巻頭に一発VFXシーンがあり、
そこからがファンタスティックワールドという構成は、この
手の作品の定番となりそうだ。             
田中の他にも、司葉子、宝田明、坂上二郎、谷啓など、老人
パワー満載の作品だが、主人公が宮藤とNHK『さくら』の
高野志穂という若手で、バランスはさほど悪くない。   
ただし、劇中の田中と司及び宮藤と司のダンスシーンはもう
少しちゃんと決めて欲しかった。老人でも矍鑠としたダンス
をする人は多いから、この程度で名手と言われるとちょっと
引いてしまう。                    
『Shall We ダンス』を引き合いに出すまでもなく、やれば
できるはずのものなのだから、この部分の演出にはもう少し
時間を掛けて欲しかった感じだ。            
お話は、ある意味単純だし、ハリウッドリメイク向きだとい
う感じもする。ハリウッドの老人パワーもかなりのものがあ
るし、ホラーばかりでなく、こういう作品の輸出も頑張って
もらいたいものだ。                  
                           
『ゲロッパ!』                    
最近はワイドショーなどでお馴染みの井筒和幸監督の99年以
来の新作。ジェームズ・ブラウンの名曲『セックス・マシー
ン』の一節“Get Up!”に乗せたコメディ作品。      
やくざの親分に5年の実刑が決まり、その収監までの数日間
のお話。                       
20数年前の大阪公演を見て以来のジェームズ・ブラウン(J
B)ファンの親分は、ようやくチケットを手に入れた名古屋
公演が収監後で見に行けないのが心残りだ。       
しかしそれ以外にも、25年前に生き別れた娘に一目会いたい
という気持ちもある。その娘の所在がようやく判明する。親
分はその家に駆けつけるが、娘は物真似プロダクションの社
長を務めて地方興行中。そこには偽JBもアメリカから来日
していた。                      
ところがその偽JBは、アメリカから日本国家の存亡に関わ
るらしい重要な物品を日本に持ち込んでいた。それを取り戻
すため内閣情報局が動き出す。             
一方、親分は組の将来を案じて、子分たちに堅気になること
を勧め、組を解散すると宣言する。その親分を翻意させるに
は、親分をJBに引き合わせ、自分たちの存在を実証するし
かない。こうして、3つ巴、4つ巴の騒動が始まる。   
井筒作品は前々作の『のど自慢』辺りから見ているが、上手
いところを突いていると思う反面、何か泥臭くて、見るまで
の触手がなかなか働かない感じがする。僕自身も試写で見れ
ば、いつも面白く感動してしまうのだが…。       
しかし今回は、主演に西田敏行、常盤貴子を据えて、カメオ
で岡村隆史や藤山直美など、これに監督自身の人気も加われ
ば、ちょっと行けるのではないかという気分だ。見れば面白
いし…。こまっしゃくれた子役も良い感じだったし。   
それから、映画の展開で住基ネットの危険性に言及した部分
があり、エンターテインメントの中にこうした問題を持ち込
むとは、さすがテレビで辛口の評論をしている監督だけのこ
とはあると思った。                  
後は、西田敏行が『セックス・マシーン』を歌い踊るシーン
には感心。脇役の岸部一徳のダンスも良く、役者根性という
感じがした。2人とも伊達に紅白出場歌手ではないという感
じもするが、これがプロフェッショナルと言うものなのだろ
う。                         
                           
『ブラックマスク2』“Blackmask 2: City of Masks”  
96年にジェット・リーの主演で映画化された作品の続編。 
すでにハリウッド進出したリーの出演はなかったが、前作を
製作したツイ・ハークが原案と監督を手掛け、前作の後『マ
トリックス』を手掛けたユエン・ウー・ピンがアクション監
督を担当している。                  
悪の組織によって遺伝子を改造され、超人にされた主人公。
彼は組織から逃亡し、遺伝子を元に戻すことのできる学者を
探している。しかし組織を裏切り、正義のために戦おうとす
る主人公に、組織は同等の能力を持った刺客を送り出す。 
一方、組織とは別に遺伝子操作を開発し、レスラーに凶暴な
動物の遺伝子を植え付けて変身させ興行しているグループが
いた。しかしレベルの低い遺伝子操作は、変身の進行を押さ
えられず、そのままでは彼らに死をもたらす。      
彼らを救う手立ては放射線を使った治療しかないのだが、悪
の組織はそれを逆に利用し、パニックを引き起こして主人公
をおびき出そうとしていた。              
オリジナルは、ウー・ピンが『マトリックス』に抜擢される
切っ掛けになった作品だそうだが、本作にも新作の『マトリ
ックス』を髣髴とさせるシーンがあって、なるほどと思わせ
た。ワイアー・アクション+CGIの合体はなかなか見事な
ものだった。                     
本作は01年の製作のようだが、感情を抑えないと変身が暴走
するという辺りは『ハルク』を思わせるし、さすがに香港映
画は先取りが上手いというところだ。          
お決まりのきゃーきゃー喚きながら時々大活躍するヒロイン
や、父親思いの少年なども脇に配して、典型的なB級娯楽映
画という感じの作品。物語もストレートで、こういう香港映
画が一番面白い。                   
                           
『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』  
“Pirates of the Caribbean:              
            The Curse of the Black Pearl”
ディズニーランドのアトラクションからインスパイアされた
実写映画の第2弾。                  
これを『シュレック』のテッド・エリオットとテリー・ロッ
シオが脚色し、『ザ・リング』のゴア・ヴァビンスキーが監
督。そしてジョニー・デップ、オーランド・ブルーム、ジョ
フリー・ラッシュと、ヒロインに『ベッカムに恋して』キー
ラ・ナイトレイの共演で映画化した。          
舞台は18世紀のカリブ海。アステカの呪いにより全ての感覚
を奪われた上に、死ぬこともできなくなったブラック・パー
ル号の海賊たち。その呪われた黄金のメダルを巡って、海賊
たちとその船の元船長、そしてイギリス海軍の三つ巴の戦い
が繰り広げられる。                  
キーとなるのは黄金のメダルと、呪いの原因となった一族の
血。そのメダルの最後の1枚を持っていたイギリス総督の娘
エリザベスが誘拐され、一族の血を引くウィルと、元船長の
ジャックが救出に向かうことになるのだが…。      
海賊映画というのは、最近とんと見られなくなったジャンル
で、最近では95年にレニー・ハーリン監督が『カットスロー
ト・アイランド』を発表したときに、ちょっとブームが期待
されたのだが、同作の不振で消滅してしまったものだ。  
しかし、元々は『スター・ウォーズ』もその流れを汲むと言
われるほどの、ハリウッドでは大きなジャンルの一つ。そし
て今回、試写会場に隣接の映画館では、元祖『宝島』からイ
ンスパイアされた『トレジャー・プラネット』が上映中で、
ブームの再来も期待させる雰囲気だった。        
海賊映画と言えば見せ場は剣戟シーン。今回は前半と後半で
1回ずつ大きなシーンがあるが、本作ではこれを『ロード・
オブ・ザ・リング』のジョージ・マーシャル・ルージと、エ
ロール・フリンにも教えたというロバート・アンダースンが
振り付けている。                   
まず前半はジャック役のデップ対ウィル役のブルーム。2人
はそれぞれ『ドン・ファン』と『ロード…』でフェンシング
の手解きを受けており、特にデップがブルームを気遣いなが
らの戦いぶりが良い感じだ。              
そして後半は、デップ対現船長役のラッシュ。こちらは、復
讐の思いと、呪いの苦しみが交錯する壮絶な戦いとなってい
る。ここでは他の場所での集団戦と並行して描かれ、しかも
呪いに絡むVFXと共に描かれて、その迫力も見事だ。  
最近のこの手のアクションシーンは、空手を中心とした素手
の戦いがほとんどになっていたが、久し振りの剣戟シーンは
堪能できた。2時間23分の長大作だが、これらのアクション
シーンで飽きさせることはない。            
なお人間ドラマでは、デップは本物の1枚看板で、芝居でい
う2枚目がブルーム。従ってデップはドラマから見せ場、お
笑いまでほとんどを1人で背負っているが、さすがにどこも
上手い。しかも実に楽しそうにやっているのが素晴らしい。
今までの役柄とはちょっとイメージが違うかもしれないが、
この楽しそうな雰囲気は、洋の東西を問わず、男って本当に
チャンバラが好きなのネ、という感じがした。その意味では
微笑ましい作品とも言えるだろう。           
それから、映画はエンドロールの後に1シーンあるから絶対
に席を立たないように。すでに続編の計画も進行しているよ
うだ。                        
                           
『SIMONE』“Simone”              
『ガタカ』『トゥルーマン・ショー』のアンドリュー・ニコ
ルが描いた史上初のヴァーチャル・アクトレス誕生秘話。 
主人公はここ10年ヒット作の出ていない映画監督。撮影中の
新作も女優のわがままのために製作中止寸前に追い込まれて
いる。そんな彼には、元妻で彼が専属契約を結んでいる映画
会社の社長も匙を投げ気味だ。             
その監督の前に一人の男が現れる。男は自分が余命いくばく
もないと語り、1台のハードディスク装置を彼に託す。そこ
には、その男が開発した史上初の完璧なヴァーチャル・アク
トレスのソフトウェアが入っていた。          
監督は、そのソフトウェアを使い、撮影中の新作の女優を全
て彼女にすげ替えて作品を完成させる。それは鍵の掛かった
サウンドステージの中で、監督一人の手で行われた。   
ところがその作品が大ヒット、シモーヌと名付けられた女優
は一躍トップスターになってしまう。そして第2作は、彼女
のシーンは全て別撮りするという条件で製作され、これも大
ヒットしてしまう。                  
絶対に文句を言わない女優、彼女は監督の思う通りに働くは
ずだった。しかし一人で巨大な秘密を背負うことになった監
督は、さらに作品の評判が自分の演出ではなく女優に有ると
気付き、徐々に女優を憎むようになる。そして女優を抹殺し
ようとするのだが…。                 
物語は、これに見事なユーモアを交えて心地良く展開する。
何しろ、シモーヌはテレビの生出演から、ホログラムを利用
した野外コンサートまでこなしてしまうのだが、これが技術
者の夢というか、見事に有りそうなところも素晴らしい。 
正直に言って、『ガタカ』も『トゥルーマン・ショー』も世
間の評判は極めて良いようだが、僕は余り買っていない。 
『ガタカ』は実にうまくできたSFだが、いくつかの描写が
余り好きになれなかったし、『トゥルーマン』は後半が破綻
している。                      
しかし今回は全てが上手くまとまっていて、見事な作品だっ
た。またこの監督役をアル・パチーノが演じているのも作品
の完成度を高めている。映画界のあり方や、スターの人気の
作られ方など、皮肉がたっぷりなところも面白かった。  
なおこの作品も、エンドロールの後に重要なシーンが有るの
で、絶対に席を立たないように。            



2003年08月01日(金) 第44回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 最初に記者会見の報告から。             
 アン・リー監督とILMのクリエーターを招いての『ハル
ク』と、監督出演者勢揃いの『HERO』、それに製作者、
監督による『パイレーツ・オブ・カリビアン』の記者会見が
行われた。                      
 まず『ハルク』では、ILMのプレゼンテーションは以前
にも1回見せてもらっているが、今回は内容もかなり追加さ
れて充実していた。また今回は監督も同席したため、一部の
ハルクの動きを、監督自身がモーション・キャプチャー用の
スーツを着て演じているという話が出て来て興味深かった。
確かに、キャラクターの動きなどは監督が一番判っている訳
で、その動きをそのまま取り込めるとなれば、これは他の監
督も興味を引かれるところだろう。           
 次に『HERO』の会見では、僕としては過去の作品歴か
ら違和感のあったチャン・イーモウ監督が、「元々子供の頃
から武侠小説のファンだった。一度やると病みつきになると
言われたが、そうなりそうだ」ということで納得した。次の
作品が楽しみだ。                   
 そして『パイレーツ』に関しては、実はすでに続編の噂が
拡がっているのだが、時間切れで確認の質問をすることがで
きなかった。しかし製作者のブラッカイマーが、監督のヴァ
ビンスキーについて語ったときに、彼とは今後も一緒に仕事
をしたいという趣旨の発言があり、これは続編のことを語っ
ているという印象を受けた。こちらの勝手な思い込みかも知
れないが。                      
 ということで、以下はいつもの製作情報を紹介しよう。 
        *         *        
 まずはちょっと面白い話で、この秋に公開予定のクェンテ
ィン・タランティーノ監督の新作“Kill Bill”が、前後編
の2部作になりそうだという情報だ。          
 この作品は、元々タランティーノ監督が、『パルプ・フィ
クション』に起用した女優のユマ・サーマンのために執筆し
た脚本を映画化したもので、実は最初に撮影を開始しようと
したときにサーマンの妊娠が発覚して、代役を立てるかどう
かの議論の末、彼女の出産回復の待つために撮影を延期した
という作品だ。                    
 従って、監督にも特に思い入れが強いものとも言えるが、
実はその撮影中から上映時間がかなり長くなりそうだという
ことになり、最初はジョークとして2部作にしたらどうかと
いう話も出ていたそうだ。そしてタランティーノが編集を始
めたところ、上映時間が3時間以上になることが判明。  
 一方、配給元のミラマックスのトップのハーヴェイ・ウェ
インスタインは、以前から映画作家たちに上映時間を短縮さ
せることの理不尽さを感じており、この作品については、思
い切って2部作にすることを決断したということだ。   
 つまり3時間を超える1作品ではなく、90分クラスの作品
が2本になる訳だが、多分タランティーノのファンなら2倍
の入場料も払ってくれると踏んだということで、興行的にも
得になる計算にはなるようだ。そしてタランティーノは、す
でにその方針で編集を進めているそうだ。        
 ところが問題は興行体制で、第1部は当初の公開日の10月
10日の劇場が確保されているが、第2部に関しては今からで
はその手当をすることができず、年末の大作攻勢も絡んで年
内の公開は無理。早くて04年初旬ということになるようだ。
 このためファンは第1部の後、第2部公開まで数ヶ月を待
たなければならなくなる訳だが、さらに問題なのはオスカー
レースで、年度内公開の第1部だけで作品の評価を得られる
かということ。しかし、もし候補になればちょうどいい時期
に第2部の公開ということにもなる。          
 ということで、いろいろな思惑が絡む話になりそうだが、
他にも俳優の出演契約が1作品で交わされていることから、
その契約の変更も問題になりそうだということだ。    
        *         *        
 お次は、政界入りも本格的に取り沙汰されるようになって
きたアーノルド・シュワルツェネッガーの新作の情報で、ニ
ューラインが計画している“Big Sir”というコメディ作品
に主演することが発表されている。           
 この作品は、ニューラインの製作トップのクリス・ゴシッ
クとマーク・カウフマンのアイデアに基づくもので、再婚を
間近にした男性が、その将来の義理の息子たちとの理解を深
めるために大陸横断の旅に出るのだが、そこに男性の過去に
まつわる余り芳しくない登場人物たちが現れ、彼らに追い回
されるというもの。                  
 シュワルツェネッガーのコメディーセンスは、過去に『キ
ンダガートン・コップ』や『ツインズ』で実証済みだが、最
近はアクション作品が続いていたシュワツェネッガーにとっ
ては、久し振りのコメディ作品への出演となる。また、子供
を守りながらのアクションもありそうで、シュワルツェネッ
ガーには最適のお話と言えそうだ。           
 そしてこの脚本を、ディズニーチャンネルで『トイストー
リー』からインスパイアされた“Buzz Lightyear”シリーズ
などを手掛けるボブ・スクーリーとマーク・マッコークルが
担当することが発表されている。因に、この脚本家のコンビ
は“Disney's Hercules”のシリーズも手掛けているという
ことで、『超人ヘラクレス』で映画デビューしたシュワルツ
ェネッガーにはピッタリと言えるのかな?        
 とは言え、まだ監督その他のスタッフキャストは未定で、
シュワルツェネッガーの計画では、他にも第41回で紹介した
“Westworld”などもある訳だが、この先、カリフォルニア
州知事選挙への出馬が決まったら、一体どうなってしまうの
だろうか。                      
        *         *        
 『K−19』で劇映画に進出したナショナル・ジオグラフィ
ックから、ロバート・レッドフォード主演による“Aloft”
という作品の計画が発表された。            
 この作品は『K−19』と同じく実話に基づくもので、アラ
ン・テナントという男性と、彼の友人の短気で運に見放され
たパイロットが、国境を超えた北米ハヤブサの飛翔経路を、
アメリカ軍のハイテク機材を利用して、今までにないやり方
で解明するというもの。                
 これだけ書くとかなり科学的なお話のようだが、実はこの
主人公たちが、アメリカ陸軍、カナダの山岳警察隊、南米の
麻薬組織、さらにはメキシコの盗賊団からも追われていると
いうもので、まさに「事実は小説より奇なり」を地で行くよ
うな物語のようだ。                  
 そしてこの2人組冒険物語(buddy adventure tale)で、
レッドフォードはパイロット役を演じる計画になっている。
 なお監督は未定だが、製作者の中には『シン・レッド・ラ
イン』のテレンス・マリックの名前も見える。他にマリック
の『地獄の逃避行』を手掛けたエド・プレスマンも製作者に
名を連ねているが、元々はプレスマンがマリックに原作を紹
介し、2人でレッドフォードに参加を呼びかけたそうだ。 
 因に、ナショナル・ジグラフィックでは、先にリチャード
・ギア主演で南極を舞台にした“Emperor Zehnder”という
作品の計画を発表しており、この作品はハイドパークとの共
同製作で秋から撮影の予定。また、ウォルフガング・ペータ
ーゼン監督の“Endurance”と、ジョアン・チェンの監督に
よる“The Unwanted”という作品の計画も発表されている。
        *         *        
 『グリーン・マイル』などの脚本家のフランク・ダラボン
が、アメリカの劇画雑誌Heavy Metalに掲載された人気キャ
ラクターで、1981年の同誌を原作にしたオムニバスアニメー
ション『ヘビー・メタル』にも登場したキャプテン・スター
ンの映像化権を獲得し、劇場用のCGアニメーションなどを
製作する計画が発表された。              
 この計画は、ダラボンのダークウッズプロダクションと、
バーニー・ライトスンのハイマーニ・オリジナルが共同で進
めるもので、因にライトスンは、『バットマン』などの映画
化に協力した他、『ゴーストバスターズ』や『ギャラクシー
・クェスト』『スパイダーマン』などのコンセプトアートも
手掛けた人物だそうだ。                
 また、ハイマーニ・オリジナルは、傘下に『X−メン2』
や“League of Extraordinary Gentlemen”などを手掛けた
f/x部門を持っているということで、その部門でのCGア
ニメーションの製作となるようだ。さらに、この計画には、
『クロウ』などを手掛けた脚本家のデイヴィッド・J・スコ
ウの参加も発表されている。              
 内容は、宇宙を股に掛けた詐欺師の物語で、前作アニメー
ションのストーリーはよく憶えていないが、いずれにしても
自由な発想で新たな物語を作り出せそうだ。       
 なお、契約は劇場用長編だけでなく、テレビシリーズやヴ
ィデオゲーム、新たなコミックスなど多岐に渡っており、ダ
ラボンの手腕でヒーローの復活が目指されるようだ。   
        *         *        
 何度か紹介しているジャッキー・チェン主演によるリメイ
ク版“Around the World in 80 Days”で、新たにヴァージ
ン・グループの総師リチャード・ブロンスンのカメオ出演が
発表された。                     
 ブロンスンは熱気球による世界一周を成功させた冒険家と
しても知られるが、本編での出演はその熱気球の操縦士役。
気球によるアルプス越えは1956年の映画化でも有名な場面だ
が、今回はそれを熱気球で再現することになるようだ。  
 そして今回の映画化では、ルーク&オーウェン・ウィルス
ン兄弟がライト兄弟の役で出演することも発表されており、
飛行機と気球の対決という見せ場にもなるようだ。    
 この他、本作のカメオ出演者では、ヴィアトリス女王役の
キャシー・ベイツを始め、アーノルド・シュワルツェネッガ
ー、ジョニー・ノックスヴィル、ロブ・シュナイダー、ジョ
ン・クリース、サモ・ハン・キンポー、それにベルギー俳優
のセシル・デ・フランス、さらにドイツ監督のヴィム・ヴェ
ンダースの出演も発表されている。           
 チェンの他に、スティーヴ・クーガン、ジム&ダニエル・
ウーが共演する撮影は、タイでのロケーションの後、4月に
ベルリンのバベルスバーグ撮影所に移動して3カ月の撮影が
すでに完了したはずだが、まだアメリカ配給は決まっていな
いようだ。                      
        *         *        
 続いてはキャスティングの情報で、まずはユニヴァーサル
=ミラマックスの共同製作で計画されているラッセル・クロ
ウ主演、ロン・ハワード監督作品の“Cinderella Man”に、
ルネ(レニー)・ゼルウィガーの共演が発表されている。 
 この作品は、1935年にヘヴィ級タイトルマッチに挑み、15
回の激しい戦いの末に勝利して、一躍大恐慌時代のヒーロー
になったボクサー、ジム・ブラドックの姿を描いたもので、
クロウがブラドック役、そしてゼルウィガーは彼の妻を演じ
ることになっている。                 
 またこの作品では、当初はラッセ・ハルストロームの監督
が予定されていたが、その後ハワード監督に交代になった時
点で脚本家にアキヴァ・ゴールズマンを招請しており、製作
のブライアン・グレイザーも併せて『ビューティフル・マイ
ンド』のクァルテットが再結集することになるようだ。  
 一方、ゼルウィガーについては、ハルストローム監督の時
にすでに候補に挙がっていたものだが、その後に『シカゴ』
でゴールデン・グローブを受賞して決定的になったというこ
と。とは言え彼女の出演料もうなぎ登りで、結局、もう1本
ユニヴァーサル=ミラマックスでの共同製作が決まっている
『ブリジット・ジョーンズの日記』の続編と併せて、2100万
ドルの契約が交わされたようだ。            
 製作は、続編の“Bridget Jones: The Edge of Reason”
は11月からの撮影開始と発表されているが、クロウとの共演
作のスケジュールは未定、以前に紹介したジャニス・ジョプ
リンの伝記の計画などもあり、少し先になりそうだ。   
 なお、ゼルウィガーの次回作には、アンソニー・ミンゲラ
監督、ニコール・キッドマン、ジュード・ロウ共演のミラマ
ックス作品“Cold Mountain”がすでに撮影完了している。
        *         *        
 お次は、すでに何度か紹介したオリヴァ・ストーン監督の
“Alexander”で、キャスティングがかなり決まってきた。
 まず、主人公アレキザンダー大王役には、以前に紹介した
と思うが『マイノリティ・リポート』のコリン・ファレル、
また以前から出演が発表されていたアンソニー・ホプキンス
はアレキサンドリアの天文学者プトレマイオス役。さらに大
王の母親役にアンジェリーナ・ジョリー。また大王の妻役に
『プルート・ナッシュ』などのロサリオ・ドースン。大王軍
の将軍役に『パニック・ルーム』などのジャレッド・リトー
の配役が発表されている。               
 因に、リトーが扮する将軍役は、いろいろな趣味を持った
大王の一面での恋人役でもあるということで、映画全体の中
でも重要なプロットを任される役。レオナルド・ディカプリ
オが主演するバズ・ラーマン監督版でも配役に困難を極めて
いる部分ということだが、リトーのこの配役は、かなりの大
抜擢のようだ。                    
 このストーン版の撮影は9月1日開始が発表されている。
 一方、ラーマン版の“Alexander the Great”の方は、一
時発表された撮影地のオーストラリアからモロッコへの変更
は準備が整わずキャンセルとなり、結局当初の予定通りオー
ストラリアでの撮影が行われることになったが、これも準備
にかなりの時間が掛かりそうで、現状では撮影の目処が立た
なくなっているようだ。                
        *         *        
 もう1本、以前に紹介したM・ナイト・シャマラン監督の
新作“The Woods”にシゴウニー・ウィヴァーの出演が発表
されている。                     
 この作品では、すでにウィリアム・ハート、ジョアキン・
フェニックス、ブライス・ダラス・ハワードの出演が発表さ
れているが、ウィヴァーの役柄はフェニックスの母親のアリ
スという役だそうだ。                 
        *         *        
 後はSF映画の情報で、まずはニューラインから、コミッ
クス作家のロブ・レイフィールドの脚本で“Planet Terry”
という作品が発表されている。これは中年の家庭人の男が、
突然尋常でない状況に放り込まれるというもので、ジム・キ
ャリー主演の『ライヤー・ライヤー』のような傾向の作品と
いうことだ。                     
 なおレイフィールドの作品では、先にオンラインで発表中
の“Shrink!”という作品がジェニファー・ロペスの製作主
演でコロムビアで進められている他、“The Mark”という作
品がウィル・スミスの主演でパラマウントで計画され、さら
に“Galaxy Girl”という作品もパラマウントと契約されて
いるそうだ。                     
 お次は,『デッド・コースター』のデイヴィッド・エリス
監督が、パラマウントで計画中の“Confrontation”という
作品に起用されることになった。この作品は、異星人の宇宙
船がアメリカ軍によって撃墜され、その乗組員を救出に来た
異星の軍隊と対峙する事態になるというもの。同時にパラマ
ウントでは、アート・マーカム、マット・ハロウェイの脚本
家チームと契約して脚本の完成を任せたということだ。  
 そしてもう1本は、“Where or When”という作品がハイ
ドパークで計画されている。この作品はジョー・リッチマン
という作家の未発表の原作に基づくもので、幽霊の存在を信
じる若い女性が精神的な力で過去に行き、100年前の犯罪を
食い止めるというもの。映画化された『いつかどこかで』や
ジャック・フィニー原作の『ふりだしに戻る』の傾向の作品
のようだが、すでにジャック・ロビンスンによる脚色も進め
られているということだ。               
        *         *        
 最後にちょっと変な情報で、日本は夏に公開が予定されて
いるダニー・ボイル監督の『28日後...』(28 Days Later)
で、6月に封切られたアメリカ公開の29日目から新たな結末
が追加されたということだ。              
 この新たな結末は、情報によるとエンドロールの後に登場
するもので、“What if...”というタイトルに続いてかなり
血みどろのシーンが展開するようだ。          
 一応、この作品の試写は見せてもらっているが、僕にはそ
のような血みどろの結末を見た記憶はない。それで僕は6月
16日にも書いたように、「皮肉な結末が良い」というような
評価をしたのだが、監督はこの追加の結末について「純粋な
ホラー映画ファンは特に楽しんでもらえるはず」とコメント
しているということで、これはちょっと評価が変わる可能性
もあるようだ。                    
 結末が変えられてしまうのは、無声映画時代のF・W・ム
ルナウ監督の『最後の人』から、最近ではテリー・ギリアム
監督の『ブラジル』までいろいろ先例はあるが、その両方が
公開される点では、今回はちょっと特異と言えそうだ。日本
公開も29日目から結末が変わるのだろうか。       


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井口健二