井口健二のOn the Production
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2002年10月31日(木) 東京国際映画祭(前)

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※このページでは、東京国際映画祭の上映映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
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(コンペティション部門)               
『風の中の鳥』(スリランカ)“Sulang Kirilli”    
縫製工場で働く若い女性を主人公にした実話に基づく社会派
ドラマ。                       
主人公は兵士の男と関係し、妊娠してしまう。しかし男には
妻がおり、不倫だったことが判明する。男は中絶を要求し金
も用意するが、法律はそれを許さない。しかもその時すでに
妊娠7カ月、胎児は動きだし、彼女には胎児への愛情が芽生
えていた。                      
法学部に学んだという女性監督の作品で、ティーチインでの
「これは、普通に起こり得る話か、それとも特別な女性の物
語か」という僕の質問に対して、「スリランカでは性教育が
タブー視されている現状から、通常起こる話だ」という回答
だった。                       
映画は、男の目で見ると男の身勝手さみたいなものが印象に
残るが、映画の訴えたいところは、それより女性の自覚、自
立の問題のようだ。現在も内戦やテロが続く中での、社会の
厳しさが鮮明に描かれていたようにも感じた。      
                           
『ベンデラ−旗−』(インドネシア)“Bendera”     
1枚の国旗を巡って、インドネシアという国を寓意的に描い
た作品。                       
スラム街で隣同士に暮らす小学生の男女が、月曜日の朝礼で
国旗を掲揚する役に選ばれ、ちょっと汚れた国旗を洗濯して
くるように命じられる。ところが、一生懸命洗った国旗はち
ょっと目を離した隙に行方不明となり、その国旗を追って2
人の冒険が始まる。                  
最初、余りにも偶然が重なって国旗が移動してしまうので、
ちょっと物語的にどうかと思ったのだが、全てが寓意という
ことだと納得できる。特に途中で西欧の国旗を背負ったパン
ク調の若者がちょっかいを出す辺りはなるほどと思わせる部
分だ。                        
民俗音楽からポップスまで音楽を多用したり、かなりポップ
な感じの作品だが、監督は昨年12月に紹介した『囁く砂』の
監督ということで、その作風の違いに驚かされた。しかし,
ティーチインでの「今後はどっちの方向に進むのか」という
僕の質問に対しては、「まだいろいろ実験をしているところ
で、第3作はまた違った作品になる」ということだった。 
因に、国旗について歌った主題歌は、6週間以上ヒットを続
け、第2の国歌になりそうな勢いだそうだ。しかしその主題
歌の歌詞に字幕がないのが残念、何度も「インドネシア」と
いう言葉が出てきたのは判ったが。           
                           
『卒業』(日本)                   
内山理名の主演で、ちょっとファンタスティックの雰囲気も
ある恋愛ドラマ。                   
とある大学で教鞭を取る、冴えない心理学の教授・真山。彼
には将来を誓った女性がいるのだが、約束の時間には必ず遅
れるなどのルーズな面がある。そんな彼に一人の女子生徒が
接近してくる。そして彼女が差し出した1本の傘が、いろい
ろな波紋を呼ぶ中で、徐々に彼自身が変って行く。    
内山の演じる女子生徒が、意図してあるいは意図せずに行う
行動が、真山を迷わせ、振り回されても行くのだが、内山と
同じ年代の娘を持ち、かつ真山よりは年上だが、たぶん同じ
ような性格の自分としては、見ていてある意味で填められて
しまった。                      
脚本はちょっと回りくどいところもあるが、日本映画にして
はどろどろしたところや、嫌みな感じもなく、良くできた作
品だと思う。                     
この題名を見るとどうしてもマイク・ニコルズの名作が思い
浮かぶ。映画の後半でよく似たシーンが登場するのは、たぶ
ん意図してのことだろう。それもまた巧みに感じられた。 
                           
『バーグラーズ 最後の賭け』(ドイツ)“Sass”    
1920年代に実在した銀行強盗ザス兄弟を描いた歴史ドラマ。
兄弟はベルリンで自動車の修理工場を営業していたが、厳し
い税金の取り立てに怒り、税務署を襲って現金を盗み出す。
それはガスバーナーで金庫を破るという最新の手口で、その
素早い犯行は警察の手配も間に合わない。        
そして証拠も全く残さないために、警察は彼らの仕業と決め
つけるのだが、逮捕には踏み切れない。そんな彼らに民衆も
味方し、ナチス台頭が暗い影を落とす中で人々のヒーローと
なって行く。                     
ニュースリールの挿入などもあるが、当時の風俗を再現した
シーンは、すばらしく見応えもあった。徐々に忍び寄るナチ
スの陰などもはっきりと描かれ、ネオナチの台頭という最近
のドイツの国情に照らしても、今描くべき作品だったのだろ
う。                         
                           
『希望の大地』(南アフリカ)“Promised Land”     
アパルトヘイト脱却後の郊外の白人コミュニティーを背景に
したサイコ・スリラー。                
主人公は、25年前に両親と共にイギリスに渡った青年。30代
になり、母親が死んだことをきっかけに南アフリカの故郷の
牧場を訪れる。その牧場は水脈の上にあり、叔父が管理して
いるはずだったのだが。                
来る早々道に迷った主人公は、とある農場の家に泊めてもら
うのだが、その一家は彼の両親や叔父のことは覚えているも
のの、詳しい状況を語ろうとしない。しかも25年前は肥沃だ
ったはずの土地は、旱魃で不毛の地になろうとしていた。 
南アフリカでは、アパルトヘイト脱却後、白人の農場を政府
が買い上げ、黒人に売り渡す政策が行われたようだ。しかし
そんな政策を白人の農場主たちが容認するはずはなく、政府
の政策に賛成した一部の白人は疎外され、かえって白人至上
主義を煽る結果になった。               
そんな背景を踏まえての作品で、不毛の地に暮らす白人コミ
ュニティーの、何とも持って行き場のない不満や焦りが、よ
そ者である主人公に向けられて行く。          
最初は社会派ドラマかと思って見始めたが、たぶんフィクシ
ョンを強調するために、サイコ・スリラーの描き方になって
いる。しかし現実はどうなのだろうか、という辺りでかなり
強いアピールになっている感じがした。         
なお撮影は、『エピソード2』などのディジタルヴィデオシ
ステム・シネアルタで行われている。          
                           
『藍色大門』(台湾)“藍色大門”           
台北の高校に通う17歳の男女を描いた青春ドラマ。    
主人公の女子生徒は、女友達に頼まれて夜のプールで泳ぐ男
子生徒に声を掛ける。しかしシャイな女友達は姿を消し、男
子生徒は主人公自身が自分に曳かれているのだと思い込んで
しまう。そして主人公は板挟みになり…。        
監督はテレビやコマーシャルフィルムなどで高校生ものに実
績のある人だそうで、ティーチインでは「物語はオリジナル
だが、その長年のリサーチが活かされているのではないか」
と語っていた。                    
主人公と男子生徒の役には、実際に台北の渋谷みたいなとこ
ろでスカウトしたということだが、撮影開始前に1カ月のト
レーニングを行ったということで、素人とは思えない見事な
演技だった。                     
物語自体も、素朴で、どこにでもありそうな話で、そんな自
然さが出演者たちの自然な演技と結びついて、何かノスタル
ジアを感じさせる。ちょっと前の大林のような感じの作品だ
った。                        
なおこの作品は、当初コンペティションに選ばれたが、先に
別の映画祭への出品が判明したため、映画祭規約により選外
となっている。                    
                           
『ホテル・ハイビスカス』(日本)           
京都出身で、琉球大学に進学したまま沖縄に居着いてしまっ
たという中江祐司監督の沖縄を舞台にした作品。     
米軍キャンプの近くに建つ、客室一つの小さなホテル・ハイ
ビスカス。そこに暮らすのは、婆ちゃんと、かあちゃんと、
とおちゃんと、黒人の血を引く長男と、白人の血を引く長女
と、沖縄人の血を引く美恵子。             
美恵子は、小学3年生だが、いつも男子を従えて遊んでいる
やんちゃな子。こんな美恵子の周囲で起こるいろいろな出来
事を連作短編のような形で描いた作品だ。        
そしてこの美恵子を演じた子役が、何しろ元気が良くて見て
いて本当に楽しい。                  
物語は、この一家の唯一の客としてやまとんちゅの若者が現
れたところから始まるが、といってもこの若者は何する訳で
なく、つまりこの若者はやまとんちゅである我々観客の代表
というところだ。                   
そしていろいろ綴られるエピソードでは、長男の父親の米兵
が移動の途中でキャンプ地に来て長男に会いたいと伝えてき
たり、キャンプ地の中に住む猫食いと噂される女性の話、2
日間の出稼ぎに行ったとうちゃんを訪ねて行くときに美恵子
が精霊に会う話、お盆で幼くして死んだ叔母さんが帰ってく
る話などが語られる。                 
こんな沖縄の現実と素朴さが、三線(さんしん)の音に載せ
て素敵に描かれている。                
しかし物語の前半では、射撃訓練であろう大砲や機関砲や、
ヘリやジェット機の音がバックに流れ続ける。これも沖縄の
現実だと言わんばかりに。そのメッセージは強烈だ。   
                           
『わが故郷の歌』(イラン)“Marooned in Iraq”    
イラン・イラク国境のクルディスタン地方を舞台に、クルド
難民の姿を描いた作品。                
主人公は、クルド人の元歌手の父親とやはりミュージシャン
の2人の息子。ある日、父親に昔しバンドのメムバーと共に
別れて行った妻から、救援の要請が来たとの話が伝わる。そ
してその要請の手紙の持ち主を探す内、親子は徐々に国境へ
と近づいて行く。                   
最初イランの砂漠で始まる物語は、空爆の音が途切れなく続
く山岳地帯に進み、ついには雪に閉ざされたイラク側の難民
キャンプへと至る。                  
その物語の途中では、イラン側の日干し煉瓦工場や村を上げ
ての結婚式などが描写され、ロードムーヴィ風に進むが、や
がて国境が近づくに連れ、両親の殺された子供だけの難民キ
ャンプや、虐殺された人々の集団墓地、男たちが皆殺しにさ
れ女だけになってしまった町など、想像を超えた世界が展開
する。                        
しかもそれぞれの場所の、子供たちや女性の人数の多さに驚
かされる。もしかするとこれらは、演技や演出ではない、現
実の風景なのかもしれない。              
それでも、それらの場所に着く度に、親子3人の音楽が演奏
され、歌と踊りが始まる。そんなシーンに人々のヴァイタリ
ティを感じる。特に子供たちの快活さには、驚きと同時に感
動を覚えた。                     
なおこの作品も、先に別の映画祭への出品が判明したため、
映画祭規約により選外となっている。          
                           
(特別招待作品)                   
『ザ・リング』“The Ring”              
この作品も、内容を紹介する必要はないだろう。一種の社会
現象にまでなった和製ホラー映画のハリウッドリメイク版。
ホラー映画だから驚かされるのは当然だが、この映画で一番
驚いたのは、何と言っても物語が日本版映画とそっくりだっ
たということだ。もちろん貞子の設定などは違うのだが、ク
ライマックスの貞子(ハリウッド版はサマラ)の登場シーン
などはほとんど丸写しに近い。             
このシーンには、当初の情報ではモンスターが出てくるとい
う話で写真もあったのだが、完成版ではそんなものはまるで
なし、アメリカ公開が2カ月遅れたのは、これを撮り直して
いたのではないかと勘繰りたくなる程だ。        
実際、アメリカでもいろいろな試みはしたが、結局日本版を
超える映像は作れなかったということかもしれない。確かに
日本版のあのシーンは出色の出来だから、それも仕方のない
ことだろう。小手先の小細工をしなかっただけ、かえって潔
さを感じた。                     
実は、上映の前に記者会見があって、そこでの「なぜ日本映
画をリメイクしようと思ったのか」という問いに対して、製
作者のウォルター・F・パークスが、「ハリウッドでの日本
映画のリメイクには伝統がある。60年代にハリウッドの西部
劇が確立したのは、黒沢監督の作品のおかげだ」と答えてい
たのも嬉しかった。                  
もちろんハリウッド映画であるから、VFXを始め、いろい
ろな部分でたっぷりとお金の掛かったシーンが繰り広げられ
て、その緻密さは日本版超えている。日本版を見ていない人
はもちろんだが、見ている人でも一見の価値があるし、見て
損はないと思う。           



2002年10月16日(水) フレイルティー−妄執、パープルストーム、白と黒の恋人たち、スパイダー・パニック、オールド・ルーキー、裸足の1500マイル

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
※一部はアルク社のメールマガジンにも転載してもらって※
※いますので、併せてご覧ください。         ※
※(http://www.alc.co.jp/mlng/wnew/mmg/movie/) ※
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『フレイルティー−妄執』“Frailty”          
『アポロ13』などの俳優ビル・パクストンが初めてメガホン
を取った2001年作品。アメリカではインディペンデント系の
映画会社が配給したが、公開後に大きな反響を呼び、世界配
給をハリウッド大手のパラマウントが手掛けることになった
というものだ。                    
「神の手」と名乗る連続殺人犯が全米を恐怖に陥れていた。
それを追うFBI捜査官の元にある夜、犯人を知っていると
いう男が現れる。男は、犯人は自分の弟だと語り、子供の頃
からの恐ろしい体験を語り始める。           
それは、幼い兄弟と父親の父子家庭ではあったが、暖かかっ
た一家を突然襲った出来事。ある夜、父親が天使を見たと言
い出し、神の与えた斧と鉄パイプ、そして手袋によって、神
が示したというリストに載っている人々を、悪魔だと称して
殺し始めたのだ。                   
兄弟の兄は父親の話を信じられず反発するが、弟は父親の行
動を認めてしまう。この時、兄は家出を考えるが、幼い弟を
置いて自分だけが家を出て行くことはできない。こうして兄
の地獄のような葛藤が始まるのだが…。         
スティーヴン・キングやジェームズ・キャメロン、サム・ラ
イミらが、こぞって恐いという評価を寄せているが、それは
多分信仰に根差した部分が大きいせいで、日本人の感覚とし
てはそういう意味での恐さは少なかった。        
それよりも脚本の巧みさが見事で、結末には全く唸ってしま
った。脚本家もこれが第1作ということだが、この後の作品
が楽しみだ。                     
キャスティングでは、幼い兄弟の兄を『スパイ・キッズ2』
のマット・オリアリーが演じている。また、弟を演じたジェ
レミー・サムプターについてはプレス資料には何も書かれて
いなかったが、実は現在撮影中の実写版“Peter Pan”でピ
ーター・パンに抜擢されており、その意味でも注目される。
                           
『パープルストーム』“紫雨風暴”           
99年の製作で、香港と台湾のアカデミー賞と呼ばれる金像奨
と金馬奨をそれぞれ5部門と4部門受賞したというアクショ
ン大作。                       
クメール・ルージュの流れを引くテロリストの集団が香港に
上陸。貨物船からコンテナを陸揚げしようとしたところを香
港警察が阻止し、その銃撃戦で1人のテロリストの男が負傷
して逮捕される。                   
その男は首謀者ソンの息子と目され、対テロリスト部隊のチ
ーフ・馬は、記憶喪失となっていた男に、潜入捜査官だった
という偽の情報を与えて組織に送り返す。しかし男にはフラ
ッシュバックのように過去の記憶が蘇り、やがてテロ決行の
日がやってくる。                   
香港映画でアクションというと、どうしてもジャッキー・チ
ェンが思い浮かぶ。この映画もそのチェンのバックアップで
作られたものなのだが、本作はチェン映画からは想像もでき
ないリアルさで、なかなか見応えのある作品だった。   
物語の背景となるテロ計画が、人が触れただけで死に至ると
いう化学薬品を、爆発によって空中に散布するという、かな
り荒唐無稽のようにも聞こえる計画なのだが、今や去年の9
/11のことを思うと、どんなに無謀な計画も無いとは言えな
い感じだ。                      
しかも本作では、アクションも香港映画らしく見事だが、そ
れに加えて記憶が蘇り始めた男の葛藤の様なものも丁寧に描
かれて面白かった。特にこのシーンでは、最近は監督として
も評価の高い国際女優のジョアン・チェンが精神科医を演じ
て全体を引き締めている。               
ビルの爆破シーンなどのVFXも上出来だし、香港映画にし
ては長い1時間53分の上映時間も短く感じられた。    
                           
『白と黒の恋人たち』“Sauvage Innocence”       
昨年、カトリーヌ・ドヌーヴ主演の『夜風の匂い』が公開さ
れたフィリップ・ガレル監督の01年作品。        
ガレルは、実生活では元ウォーホルと一緒に行動していたニ
コという女性歌手と結ばれ、彼女の主演で70年代に7本の映
画を制作しているが、88年に彼女が突然世を去ってから彼女
への思いを込めた作品を何本か作っている。本作もその流れ
を継ぐ作品のようだ。                 
本作の主人公は映画監督と、彼が見初めた新人女優。監督は
それ以前に同棲していた女性が麻薬がもとで死んだことを背
景に、麻薬の恐ろしさを描いた作品を作ろうとしている。そ
してその主演に新人女優を抜擢したのだが…。      
映画製作の資金がなかなか調達できず、人伝に頼った先は、
麻薬の売人。こんな矛盾を孕んで撮影は開始される。しかも
監督は撮影の途中でも資金調達のための運び屋をやらされ、
女優は役作りに悩んだ挙げ句、麻薬に手を出してしまう。 
そして監督が過去の女性への思いを断ち切れていないと知っ
た女優は…。                     
何とも切ない物語が、モノクロームの画面の中で極めてドラ
イに描かれる。つまり映像で白と黒とが際立たされるのと同
様に、監督と女優の心のすれ違いが厳しく描かれ、ここまで
主人公たちを冷たく見放していいのだろうかとさえ感じてし
まった。                       
切ない物語のはずが、主人公たちへの共感よりも、厳しい現
実を突きつけられる。『夜風の匂い』もそんな作品だったと
記憶しているが、べたべたした物語よりずっと心に残る作品
になっている。                    
                           
『スパイダー・パニック』“Eight Legged Freaks”    
『GODZILLA』などのローランド・エメリッヒとディ
ーン・デブリンが製作を担当した巨大蜘蛛がぞろぞろ出てく
るパニック映画。                   
科学薬品の作用で、雌は四輪駆動車並、雄でも人間の大人よ
り大きいサイズに巨大化した蜘蛛がテキサスの寂れた町を襲
う。それに立ち向かう女保安官は、住民たちを過去の遺物の
ような大型ショッピングモールに避難させるが。その厚い入
り口のシャッターも、巨大な雌蜘蛛の前にはダンボールハウ
スの壁のようでしかなかった。             
一時期流行った巨大生物ものが、またぞろという感じではあ
るが、さすが手慣れてきたもので、恐怖というよりは、これ
でもかとぶち撒けるVFXの物量とスピード感で見せ切って
しまおうという意識が徹底している。          
恐怖感なら、別に巨大化しなくても普通の蜘蛛が大量に出て
くるだけで充分な訳で、それを巨大化させてしまったら…。
しかし、デイヴィッド・アークエットや『アナコンダ』のカ
ーリ・ワーラーらの出演者が頑張っているので、結構面白い
作品になった。                    
それにしても、巨大化したハエトリグモが、ジャンプしなが
ら追ってくるシーンは、普段小さい奴は見ているだけにかな
りの迫力だった。                   
                           
『オールド・ルーキー』“The Rookie”         
1999年9月18日、35歳で初めてメイジャーリーグのマウンド
に立ち、史上最年長ルーキーと呼ばれたジム・モリスの実話
に基づく物語。                    
64年生まれのモリスは、子供の頃から野球選手に憧れていた
が、厳格な軍人だった父親の影響もあって容易にその道に進
むことはできなかった。それでもハイスクール卒業後、一旦
はアマチュアドラフトの指名を受けてプロになるが、マイナ
ーリーグ在籍中の89年に肩の故障で続行を断念。その後は大
学を出て故郷の高校の化学の教師となっていた。     
ところがそこで野球部の監督を引き受けたことから、野球へ
の情熱が甦り始める。しかも練習を続けていた肩は、時速98
マイルを超える豪速球を生み出していた。そして弱小チーム
の士気を鼓舞するために、地区優勝したらプロテストを受け
ると約束し、見事優勝を果たした教え子の後押しでプロテス
トを受け、プロの道に戻ることになる。         
しかしマイナーリーグ選手の生活は厳しく、ついには再びそ
の道を断念しようとするのだが…。           
本来ならマイナーリーグの生活がもっと厳しく描かれてもい
いような気もしたが、映画の本筋はアメリカン・ドリームな
訳だし、実際に彼は3カ月でメイジャーに上がったというか
らこんなものなのだろう。               
それにしてもメイジャーリーグというのは奥が深い。   
                           
『裸足の1500マイル』“Rabbit-Proof Fence”      
『パトリオット・ゲーム』などのフィリップ・ノイス監督が
母国オーストラリアに戻って監督したアボリジニ迫害政策を
巡る物語。                      
舞台は、1931年、西オーストラリア州。オーストラリア政府
は19世紀末頃からアボリジニ同化政策を進めており、その一
環として白人との混血の子供たちを隔離し、白人の文化を植
え付ける施策を繰り広げていた。            
西オーストラリア・ギブソン砂漠の端にあるアボリジニの村
ジンガロング。ウサギ避けフェンス沿いにあるその村で暮ら
していた14歳の少女モリーは、8歳の妹と10歳の従兄弟と共
に“保護”され、ムーアリバー居留地に連れて行かれる。 
そこではアボリジニの言葉は禁止され、英語だけでハウスキ
ーピングなどの躾が教えられていた。その目的は、彼らをメ
イドやハウスキーパーとして白人の家に引き取らせ、特に女
子には白人との混血を進めて人種的にも同化させようとして
いたのだ。                      
しかし母親と共に暮らしたいモリーは、妹と従兄弟の手を引
いて居留地から逃亡し、ウサギ避けフェンス沿いに砂漠を越
えて故郷の村を目指す。その後をアボリジニの凄腕の追跡者
と、保護局の命を受けた警察が追ったが…。       
どんな国にも暗い過去はあるのだろうが、オーストラリアの
ような若い国にも過去の過ちはあったということだ。この物
語は実話に基づいているが、実際にこの施策は1970年代の初
めまで続けられていたということで、その間の隔離されたア
ボリジニたちには文化の断絶が生じ、「盗まれた世代」と呼
ばれているそうだ。                  
先日のシドニー・オリンピックでは、アボリジニ文化が前面
に演出されたが、いまだに彼らに対する政府からの公式の謝
罪はされていないという。               
この物語を、すでにハリウッドでの地位も確立しているノイ
スが製作を買って出てまで監督し、撮影監督には、やはりオ
ーストラリア出身でウォン・カーウァイ監督の諸作など香港
で活躍するクリストファー・ドイルを招いて、万全の体制で
制作した作品と言える。                
つまりそれだけ思いの込められた作品ということだろう。 
配役にはアボリジニの素人の少女3人を起用し、他にも要所
にアボリジニの出演者を配している。対する白人役では、保
護官役をケネス・ブラナーが演じて、こちらは二言目には保
護という言葉を口にするいやらしいイギリス人を見事に演じ
ている。                       
撮影はカメラ位置を低くし、広角レンズを多用するなど、子
供たちの目線を意識した画面と、全体を白っぽく配色した映
像で子供たちの不安感を見事に表わしていた。これが撮影テ
クニックというものだ。                
因に、原題のウサギ避けフェンスは、やはり西オーストラリ
アで、入植したイギリス人がウサギ狩りをするために放った
ウサギが大繁殖し、入植地を荒らされるのを防ぐために作ら
れたもので、移動性のウサギがその前に数10万羽群れている
という記録映像を見たことがあるが、これも白人の横暴の象
徴のようなものだ。                  



2002年10月15日(火) 第25回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回はリメイクの話題から紹介しよう。        
 まず1本目は、79年にウォルター・ヒルの脚本、監督で発
表されたアクション映画“The Warriors”(ウォリアーズ)
のリメイクが、『スパイゲーム』などのトニー・スコットの
監督で計画されていることが報告された。        
 オリジナルの物語は、抗争を繰り広げるニューヨークのス
トリートギャング団が、和平を進めていた大ボスが殺された
ことから抗争を激化させる。その中を、主人公たちのグルー
プが自分たちのシマを目指して突破して行くもので、次から
次へと襲ってくる敵ギャング団を、いろいろな策略や正面切
った対決などで打ち倒して行くというものだ。      
 今から考えて見ればこの構成は、アクションゲームそのも
のという感じでもあり、その意味では時代を先取りしていた
というところでもあるが、当時はマンガチックな構成などと
批評されながらも、その見事なアクション演出と過激なヴァ
イオレンス表現で、後のアクション映画の方向付けをしたと
も言われている作品だ。                
 因に、脚本家出身のヒルは、75年に自らの脚本による“St
reetfighter”(ストリートファイター)で監督デビューし
ているが、この作品は同じ名前のヴィデオゲームの基になっ
たとも言えるものだ。それから79年といえば、ヒルが製作を
担当し、トニーの兄のリドリー・スコットが監督した『エイ
リアン』が公開された年でもある。           
 そして今回発表された計画では、79年のヒル作品を、21世
紀にマッチしたものに現代化して再映画化するということだ
が、その準備状況としては、先にジョン・グレンとトラヴィ
ス・ライトという脚本家に脚本が依頼されて、香港製マーシ
ャルアート映画のような脚本の第1稿がすでに完成している
そうだ。またスコット自身はこの計画について、「自分の最
も好きな映画の舞台を再訪できることを楽しみにしている」
と語っている。製作はパラマウント。          
 ただしスコットは、その前に、来年早々にリジェンシーで
“Man on Fire”という作品が予定されており、さらにユニ
ヴァーサルで“American Caesar”と、インターメディアで
“Pancho Villa”という作品の予定もあり、今回のリメイク
がいつ実現するかは予断を許さないようだ。       
        *         *        
 お次は往年のテレビシリーズからで、アメリカでは75〜79
年にABCで放送された“Starsky & Hutch”(刑事スタス
キー&ハッチ)の劇場版リメイクが計画されている。   
 このシリーズは、日本でも『スタ・ハチ』の愛称で人気の
あったものだが、型破り刑事2人組が活躍するアクションコ
メディ・シリーズで、オリジナルは、後に『バトル・ランナ
ー』などの監督となるポール・マイクル・グレイザーと、デ
イヴィッド・ソウルが主演。ジーパンに皮ジャンという当時
としては斬新なスタイルと、2人の絶妙のコンビネーション
で、特に若い世代に絶大な人気を博していた。      
 そして今回発表されたのは、このシリーズを、『ズーラン
ダー』『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』と共演作の続くベ
ン・スティラーとオーウェン・ウィルスンのコンビで劇場版
リメイクしようという計画だ。なお、スティラーとウィルス
ンは『ミート・ザ・ペアレンツ』でも顔を合わせているが、
特に『ズランダー』での掛け合いは、日頃でも付き合いの深
いことを伺わせていた。その2人が、いよいよ本格的なコン
ビで主演するという訳だ。               
 因に、この計画は、今年度オスカーを受賞した脚本家のア
キヴァ・ゴールズマンの製作で進められ、以前からスティラ
ーの主演は決まっていたが、今回その相手役にウィルスンの
参加が発表されたものだ。なお配役は、スティラーがグレイ
ザーの演じていたスタスキー役、ウィルスンがソウルの演じ
ていたハッチ役となっている。             
 監督はトッド・フィリップス。フィリップスはパートナー
のスコット・アームストロングと共に脚本も手掛けており、
すでに第1稿が完成しているそうだ。なお、フィリップス=
アームストロングのコンビでは、00年製作の“Road Trip”
という作品の評価が高いようだ。製作はワーナー。    
        *         *        
 もう1本は、アレック・ギネスの主演で55年に製作された
イギリス映画“The Ladykillers”(マダムと泥棒)を、ジ
ョエル&イーサン・コーエン兄弟の監督、トム・ハンクスの
主演でリメイクする計画が発表されている。       
 オリジナルのお話は、ロンドンのキングズ・クロス駅近く
で下宿屋を営む老婦人のもとに教授と名乗る男が現れ、男は
絃楽五重奏を練習すると称して4人の仲間を引き入れるが、
実は彼らは現金輸送車強奪を計画していた、というもの。レ
コードを掛けて絃楽五重奏の練習をしているように見せかけ
て、その陰で計画を進めるなど、ちょっとブラックなコメデ
ィ仕立ての作品で、オリジナルには、ピーター・セラーズや
ハーバート・ロム、セシル・パーカーらが共演していた。
 そして今回のリメイクは、バリー・ソネンフェルドの製作
でタッチストーンでの映画化が進められているが、すでにコ
ーエン兄弟が舞台をアメリカ南部に移した脚本を書き上げて
いるようだ。しかしリメイクでは、兄弟の作品らしくブラッ
クの度合いも高まっているようで、老婦人の純真さに振り回
される男たちが、遂には老婦人を始末しようと試みるが…、
という展開になっているそうだ。            
 なおハンクスは、以前から紹介しているロバート・ゼメキ
ス監督のCGI+実写合成作品“Poler Express”に主演の
後に、この作品に取りかかる予定。一方のコーエン兄弟は、
ジョージ・クルーニー、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ共演
の“Intolerable Cruelty”という作品が先に予定されてい
るということで、このリメイクは来年のことになりそうだ。
        *         *        
 この他のリメイクの計画では、            
 イギリスで1950年代後半に「怒れる若者たち」と呼ばれた
作家の一人、キングズレー・エイミス原作の“Lucky Jim”
のリメイクがユニヴァーサルで計画されている。この原作は
エイミスが54年に発表した処女長編小説だが、既成の秩序や
風習を強烈に風刺し、彼の名前を一躍有名にしたもの。そし
てこの原作は57年にイギリスのジョン・ボールティング監督
によって映画化(日本未公開)されており、今回はそのリメ
イクがユニヴァーサル傘下のストライク・エンターテインメ
ントと契約されたものだ。因にストライク社は、現在ザ・ロ
ック主演の“Helldorado”を製作中の会社だ。      
 66年に俳優監督のコーネル・ワイルドの監督主演で製作さ
れた“The Naked Prey”(裸のジャングル)のリメイクが、
パラマウントで計画されている。オリジナルは、19世紀のア
フリカを舞台に、ジャングルに迷い込んだ主人公がズールー
族の襲撃の中を生き延びるというものだったが、計画されて
いるリメイクでは、陸軍士官学校の生徒たちが春休みに訪れ
たニカラグアのジャングルで地元民との抗争に巻き込まれる
というものになるようだ。つまり机上の作戦しか知らない生
徒たちがいきなり実戦に立ち向かわなくてはならなくなると
いうもので、『ブラック・ホーク・ダウン』と『脱出』を合
わせたような作品と紹介されていた。なお脚本は、ワーナー
でクライヴ・バーカーのために“Damnation Game”の脚色
なども手掛けているジョン・ヘファーナンが担当している。 
 99年に『グロリア』のリメイクを監督したシドニー・ルメ
ットが、今度は49年のRKO作品“The Set-Up”(罠)のリ
メイクを脚色し、自ら監督する計画が発表された。オリジナ
ルはロバート・ワイズ監督、ロバート・ライアンの主演で、
35歳の全盛期を過ぎたプロボクサーが金のために再びリング
に立つ。しかし八百長を指示されて…、というもの。リメイ
クでは、この主人公を『デンジャラス・ビューティー』のベ
ンジャミン・ブラットが演じ、彼の長年のガールフレンド役
にハル・ベリー、また彼女に思いを寄せるホテルマネージャ
ーに『ザ・メキシカン』のジェームズ・ガンドルフィーニと
いう顔ぶれが発表されている。なお、ブラットはすでにボク
シングのトレーニングを始めているそうだ。製作はRKO。
       *         *         
 リメイクに続いては、これもリメイクと言えば全部そうな
ってしまうが、歴史ものの計画を2本紹介しよう。    
 まず最初は、メル・ギブスンの監督で、イエス・キリスト
が処刑されるまでの12時間を描く“The Passion”という作
品が準備されている。                 
 この作品は、ギブスンがオスカーを受賞した95年の『ブレ
イブハート』以来の監督に復帰するもので、前の2作の監督
作品では主演も兼ねたが、今回は監督に専念する計画。そし
てこの計画では、全台詞をラテン語とキリストが用いたとさ
れる古代アラム語で行い、しかもギブスンはこの作品を字幕
なしで公開したいとしている。             
 このことについてはギブスン自身が、「周りからは頭がお
かしくなったんじゃないかと言われているが、自分でもそう
かもしれないと思う。でも僕は天才かもしれないから…」と
語っているそうで、出来るだけ映像のみで理解できる作品に
したいということだ。ただし本人も、「うまく行かなかった
ら、字幕をつけることもある」とは言っているようだ。  
 なお脚本は、ギブスンとベン・フィッツジェラルドという
脚本家がいろいろな文献を参考にして書き上げたもので、こ
れをロサンゼルスに本拠のあるイエズス会の語学研究者ビル
・フルコ教授が、ラテン語と古代アラム語に翻訳。教授は撮
影にも立ち会ってダイアローグコーチを勤めるそうだ。撮影
は11月4日から10週間のスケジュールで、イタリアのチネチ
ッタスタジオで行われることになっている。       
 配役は、キリストに『シン・レッド・ライン』のジム・カ
ヴィエゼルを起用。またマグダラのマリア役は、モニカ・ベ
ルッチが演じることになっている。この他、脇役のほとんど
はイタリア人で固められているようだ。なお、カヴィエゼル
はアメリカ人だが、デビュー作ではイタリア人と偽って役を
得たというエピソードも伝えられており、これは適役という
ところだろう。それにしても台詞が古代語というのは大変な
ことになりそうだ。                  
 製作費はギブスン主宰のイコン・プロが全額出資し、アメ
リカ配給は未定。イコン・プロは、現在は本拠をフォックス
に置いているがどうなるのだろうか。          
 因に、キリストを描いた作品では、マーチン・スコセッシ
監督、ウイレム・デフォー主演の“The Last Temptation
of Christ”(最後の誘惑)や、ジョージ・スティーヴンス
監督、マックス・フォン=シドー主演の“The Greatest
Story Ever Told”(偉大な生涯の物語)などが作られてい
るが、今回の製作に当ってギブスンは、カソリックの総本山
ヴァチカンの高位の担当者と入念な打ち合わせをし、充分な
コンサルティングを受けているということで、宗教的な裏づ
けのある本格的な作品が作られるようだ。           
        *         *        
 もう1本は、ロン・ハワードの監督で、メキシコのアズテ
カ文明の最後を描く計画が発表されている。       
 計画されているのは“The Serpent and the Eagle”とい
う題名で、ハンス・ベイムラーとロバート・ウォルフという
脚本家が執筆した作品。アズテカ文明は、15世紀に侵略した
スペインの軍人ヘルナンド・コルテスによって滅亡させられ
たが、この脚本では、アズテカの王女から奴隷にされた女性
を主人公に、その全貌を描いているということだ。    
 なおこの女性は、最初はコルテスのもとへ平和の使者とし
て送られたが奴隷にされてしまう。しかし彼女がスペイン語
とアズテカ語を喋ることができたために、やがてコルテスの
通訳となり、恋人、そしてパートナーとなって、コルテスの
富の略奪を助けたということだ。            
 コルテスのアズテカ侵略は、富の略奪や人々の虐殺など、
残虐な面の印象が強く、なかなか映画になりにくい雰囲気が
ある。しかし今回は女性を主人公にすることで、それなりに
ドラマティックなものになっているようだが、結局のところ
彼女が略奪に手を貸したということは、かなり強烈な物語に
なりそうだ。                     
 因にハワードは、先にメキシコとアメリカとの対決を描い
た“The Alamo”からの降板が発表されたばかりで、それで
もメキシコを離れることはできなかったようだ。なお“The
Alamo”については、ジョン・リー・ハンコックが監督を引
き継いで映画化が進められている。           
 “The Serpent and the Eagle”と“The Alamo”に2
作は共に、イマジン=ユニヴァーサルで製作される。    
        *         *        
 お次は、女性が主人公のアクション映画の話題を、これも
2本まとめて紹介しよう。               
 まず1本目は、ディズニー製作で“Fate of the Blade”
というアクション・コメディの計画が発表されている。この
作品は、ドリームウェイヴから出版されているコミックスを
原作とするもので、この原作から脚色されたアナリサ・ラビ
アーノのシナリオが6桁($)で契約されたということだ。
 物語は、日本の侍一族の血を引く唯一人の末裔で、アメリ
カの中流階級の一家に引き取られて西海岸で成長した10代の
少女が、自分が古代の悪魔に命を狙われていることを知り、
自らの能力に目覚めて行くというもの。監督や出演者は未定
だが、特に主人公となる女優には注目したいところだ。女性
のアクションということで、『グリーン・デスティニー』の
線が考えられているようで、報道でもアジア系アメリカ人の
少女と書かれていたが、ここはやはり日本の女優にも頑張っ
てもらいたいものだ。                 
 もう1本は、これもコミックスから映像化される作品がユ
ニヴァーサルから発表されている。こちらの題名は“Beauti
ful Killer”で、原作の出版はブラックブル・コミックス。
 物語は、若い女性がスパイ戦に巻き込まれて殺された両親
の復讐のために駆り立てられるというもの。そしてこの主人
公に、テレビの『ダーク・エンジェル』でブレイクしたジェ
シカ・アルバの起用が発表されている。物語の展開には『ニ
キータ』との共通点が指摘されているようだが、これをアル
ダを主演とすることで、彼女のテレビでの実績が重なるよう
な作品にしたいということだ。またアルダ自身も「このよう
な物語と主人公に出会えることは、女優としてすばらしいこ
と」と抱負を語っている。計画はアルダの次の作品として脚
本を依頼中ということだ。               
        *         *        
 後半は短いニュースをまとめておこう。        
 まずは続報で、前回セットで火災が発生したことを紹介し
た“Pirates of the Caribbean”は、幸い大事には至らな
かったようで、撮影は10月9日に開始されている。公開は来
年の秋に予定されているようだ。             
 また、ブラッド・ピット主演の“Troy”では、敵役のトロ
イアの王子ヘクター役にエリック・バナの起用が発表されて
いる。なおバナは、ユニヴァーサルで製作中の“Hulk”の主
演に抜擢されて話題になったが、変身したハルクはCGIで
描かれるということで、彼自身は普通の体型の持ち主だ。 
 69年に公開された“Easy Rider”(イージー・ライダー)
の続編が計画されている。この計画は、オリジナルを製作し
たコロムビア=ソニーに本拠を置くロイド・エンターテイン
メントという製作プロダクションが進めているもので、題名
は“Easy Rider A.D.”。物語は、前作でピーター・フォン
ダが扮した主人公キャプテン・アメリカが、前作での殺人の
罪で服役しているところから始まる。やがて彼は出所し、新
たな登場人物と共に、アメリカを探す旅に再び出発するとい
うものだ。製作費3,000万ドルで来年春の撮影が予定されて
いる。                        
 最後に新しい情報で、人間クローンの実験を巡るスリラー
を、ロバート・デ=ニーロの主演で映画化する計画が発表さ
れた。題名は“Godsend”。マーク・ボンベックという脚本
家の作品で、グレッグ・キニアとレベッカ・ロミジン=ステ
イモス扮する夫婦が、8歳で死んだ息子を取り戻すために、
デ=ニーロ扮する細胞クローンの権威の元を訪ねるというも
の。ニック・ハムの監督で、撮影は11月の半ばにトロントで
開始の予定だが、デ=ニーロが扮する科学者というのは、か
なり迫力があって恐そうだ。製作はライオンズ・ゲート。 



2002年10月02日(水) ガール・フロム・リオ、K-19、ショウ・タイム、マイ・ラブリー・フィアンセ、夜を賭けて

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
※一部はアルク社のメールマガジンにも転載してもらって※
※いますので、併せてご覧ください。         ※
※(http://www.alc.co.jp/mlng/wnew/mmg/movie/) ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ガール・フロム・リオ』“Girl from Rio”       
ロンドンとリオデジャネイロを舞台にしたイギリス、スペイ
ン合作のコメディ。                  
主人公はシティの銀行マン。彼は支店次長の地位には居るも
のの支店長昇進の望みはなく、唯一の楽しみはと言えば、妻
に内緒で主宰するカルチャーセンターのサンバ教室。そして
夢は、サンバ雑誌の表紙を飾る女性と一緒に踊ること。  
しかしクリスマスを3日後に控えた日、彼は妻の裏切りを知
り、傷心のままクリスマス休暇前の閉店の確認をして金庫室
に入った彼は、思わず目の前の札束の山をゴミ袋につめ、持
ち出してしまう。そして大金をつかんだ彼が目指すのは、リ
オデジャネイロ。                   
リオに着いた主人公は、最高級ホテルのスウィートに宿泊、
憧れの女性探しを始める。そして女性は意外と簡単に見つか
るのだが…。これに怪しげなタクシー運転手やスラム街の顏
役らが絡んで、てんやわんやの騒動が巻き起こる。    
夢と言えば夢物語で、こんなに話が上手く行けば…という感
じだが、日本もイギリスも不況から抜け出す道も見つからず
どん詰まりで、たまにはこんな景気の良い話も良いじゃない
かという感じ。他愛もない話だが、見る方もこんな夢物語を
期待しているのだ。                  
主演のヒュー・ローリーは『ステュアート・リトル』のお父
さん役で知られるが、同作のアメリカンファミリーのパパ振
りに対する本作のイギリスの銀行マンらしさは見事だし、ち
ゃんとサンバのステップを踏んで見せるあたりはさすがのも
のだ。                        
リオのスラム街でサンバというと、何といっても『黒いオル
フェ』が印象に残るが、それにも登場する路面電車がちゃん
と写るあたりは、監督も良く判っている感じがした。   
                           
『K−19』“K-19: The Widowmaker”          
ドキュメンタリー作品では実績を築いているナショナルジェ
オグラフィックが、初めて劇映画に進出した実録ドラマ。 
1961年。冷戦下のソ連が就航させた最初の原子力潜水艦は、
建造中から数多くの事故死亡者を出し、ウイドウメーカーと
いう異名をとっていた。                
そのK−19号潜水艦の初航海は、テスト航海であると同時に
実戦配備で、北極海でミサイルの発射実験を行った後は、そ
のままアメリカ東海岸のワシントンとニューヨークをミサイ
ルの射程に納められる場所を目指すことになっていた。  
しかし大西洋北部を航行中に原子炉の冷却水循環パイプに亀
裂が発生、原子炉は暴走を始める。そしてそのパイプを原子
炉の中に入って修理しなければ、やがて原子炉は爆発し、そ
れは、一触即発の緊張状態にある米ソの直接対決の引き金と
なる可能性をも孕んでいた。              
この事態の中で乗組員たちは、高放射能レベルの原子炉の中
でパイプの交換修理を実行、多数の死者を出しながらもつい
にそれをやり遂げる。しかしこの英雄的行為に対して当時の
ソ連政府は事故そのものを隠蔽し、ましてや艦長を査問にま
で掛けたという物語だ。                
この出来事自体は、ソ連崩壊後に公にされ、ナショナルジェ
オグラフィック製作のテレビ番組としても先に公開されてい
るが、今回はハリスン・フォードとリーアム・ニースンを主
役に迎えて、よりドラマティックに劇映画として製作されて
いる。                        
アメリカでは7月に公開されあまり芳しい成績を残せなかっ
た作品だが、作品の出来はかなり良い。僕は元の実話の方も
知っていたので、余計に判り易かったのかも知れないが、放
射能の恐ろしさと、その中での乗組員たちの献身的な行為が
判り易く描かれていた。                
もちろん人間ドラマが中心になる劇映画だが、事実に基づい
たものだけに、そこに描かれた内容の重さには大きなものが
ある。実は、試写の翌日に、東京電力が福島第2原子力発電
所で冷却水循環パイプの亀裂を隠していたことが報道され、
そのタイミングの良さにも驚いた。           
                           
『ショウタイム』“Showtime”             
エディ・マーフィとロバート・デ=ニーロの初共演による警
官コメディ。                     
デ=ニーロ扮する堅物刑事とマーフィ扮する軽薄警官が、実
物の警官を主人公にしたセミドキュメンタリー番組で主人公
コンビを組まされることになる。しかも彼らが追う事件は、
麻薬取り引きを発端に、劣化ウラン弾装填の超強力武器を扱
う組織が絡んで、LAPD開設以来の大アクションに発展し
てしまう。                      
アメリカでは残念ながら芳しい成績を残せなかった作品だ。
その理由は多分マーフィのミスキャストだろう。『ビバリー
ヒルズ・コップ』で大人気となったマーフィだが、いまさら
軽薄な警官という年代ではないし、観客はその辺に敏感だっ
たというところだ。                  
実際、僕も見るかどうかはスケジュール次第だった。そして
そのスケジュールが合って見た訳だが、確かに最初にマーフ
ィが登場するシーンではちょっと引いてしまう。しかしそん
なことは、ものの1分もしないで映画に引き込まれてしまう
のは大したものだ。                  
映画自体は間違いなく面白い。             
この2人にレネ・ルッソ扮する番組プロデューサーとウィリ
アム・シャトナーが絡むのだが、特にシャトナーは、元警官
ものの主人公を演じた俳優で監督という役柄、中では“T.J.
Hooker”(パトカー・アダム30)という言葉が頻出して、
つまりシャトナー本人の役なのだ。クレジットもHimselfと
ある。                        
シャトナーは『スター・トレック』のカーク船長役で有名だ
が、その役に関しては、他社ではそれを思わせる役柄は演じ
ないという契約が、数100万ドルでパラマウントと結ばれて
いるという噂もある。しかし警官役は問題ないらしく、パロ
ディとも付かない珍妙な役を楽しそうに演じている。   
また、主人公の車のダッシュボードにCCDカメラが仕掛け
られていたり、カーチェイスにカメラマンが同乗したり、そ
れを中継車が追走したりと、ある意味で技術スタッフの夢み
たいな所もあって、僕は結構楽しめた。         
しかし観客が付かなかったのは、やはりマーフィのミスキャ
ストだろう。これは演技の問題ではなくイメージの問題だ。
本来なら、製作総指揮を務めるウィル・スミスが演じるべき
だろうが、彼は『MIB2』で忙しかったのだろうか。  
それなら、ルッソも出ているということで、同じワーナーの
『リーサル・ウェポン4』で売り出したクリス・ロック辺り
が適役だったような気もしたのだが…。         
警官もののパロディというか、業界の内幕ばらしというか、
その辺りは映画ファンやテレビの警官ものファンには絶対に
面白い作品だと思う。                 
                           
『マイ・ラブリー・フィアンセ』“Just Visiting”    
93年製作の“Les Visiteurs”(おかしなおかしな訪問者)
のアメリカ版リメイク。                
と言っても、共同製作としてハリウッド・ピクチャーズの名
前は入っているが、製作主体はフランスの映画会社のゴーモ
ンで、コピーライトもゴーモンになっていたから、これはれ
っきとしたフランス映画だろう。            
主演はオリジナルと同じジャン・レノとクリスチャン・クラ
ヴィエ。監督はオリジナルのジャン=マレー・ポアレからジ
ャン=マレー・ゴーベールに代っているが、実はゴーベール
はクラヴィエと共にオリジナルの脚本を手掛けた人物だ。な
お今回のアメリカ版の脚本には『ホーム・アローン』などの
ジョン・ヒューズも参加しているようだ。        
物語は12世紀のイギリスから始まる。そのとある領地にフラ
ンス人伯爵の主人公が到着、その地の姫と結婚することにな
っていたのだが、それを良しとしないイギリス人伯爵の奸計
で、主人公は婚礼の席上で姫を刺殺、捕えられた主人公は魔
術によって時間を遡り、姫を救うはずだったのだが…、手違
いで従者と共に現代のシカゴに来てしまう。       
そこではちょうど12世紀のヨーロッパ展が開かれており、そ
こにイギリス貴族の血を引く女性が祖先の遺品を展示してい
たのだ。現場に居合わせた女性は、現れた主人公のただなら
ぬ様子に、彼を自宅につれて行くのだが…。       
一方、彼女は婚約者と共同で祖先伝来の土地を売る計画を立
てていたが、その婚約者は詐欺で彼女の土地を奪おうとして
いたのだった。                    
今年の春には19世紀のイギリス貴族が現代のニューヨークに
現れるロマンティック・コメディがあったばかりだが、本作
は01年の製作で先に作られたものだ。しかも相手の女性は子
孫なのだから男女の関係とは行かず、それだけ健全と言えば
健全な物語だ。                    
従って主眼はコメディということになるが、その点はクラヴ
ィエ、ゴーベールのコンビということで、実に健全に楽しめ
る作品になっている。特に伝統に生きる主人公と、どんどん
現代に順応して行く従者との対比は上手く描かれている。し
かも追ってきたイギリス人魔術師がもっと順応してしまうの
は笑える所だ。                    
クライマックスには、乗馬のまま環状線に乗り込んだり、シ
カゴの町を走り抜けるシーンが有ったりして、かなり爽快。
タイムパラドックスは、まあこんなのも有りかな、というと
ころで、楽しめる作品だった。             
                           
『夜を賭けて』                    
梁石日原作の映画化。                 
一応日本映画の扱いになるが、在日韓国人の監督の手によっ
て、韓国に壮大なオープンセットを建設して撮影された。製
作資金も日韓で折半ということなので、実際には日韓共同製
作の作品と言える。                  
SFファンには小松左京の『日本アパッチ族』でお馴染みの
大阪の鉄屑窃盗団を描いた物語だが、実はその真の姿はその
地域に住んでいた在日韓国人であり、彼らの青春を賭けた物
語が群像劇のように描かれる。             
舞台は1958年。大阪城の近くに作られた大阪造兵廠は36万坪
の敷地を有し、戦時中は東洋一の兵器廠と呼ばれていた。し
かし終戦の前日の大空襲で破壊、戦後は米軍が管理した後、
日本国に返還されたが、長く廃虚のままだった。     
その廃虚から平野川を挟んで在日韓国人が住むスラム街が在
った。そして彼らは夜になると廃虚に忍び込み、屑鉄を回収
しては業者に売り捌くことで現金を得ていた。しかしそれは
国家財産の窃盗であり、警察の取り締まるところとなったの
だが。                        
監督は、劇団・新宿梁山泊を率いる金守珍。今回が初監督だ
が、多少のアクシデントも乗り越えて演出する力強さは舞台
で培った賜物と言えそうだ。特にクライマックスのスラム街
の炎上シーンは一発勝負の迫力に溢れている。      
途中の日本警察の描き方には、日本人としてはかなり辛い部
分もあるが、戦前の警察機構を引き継ぐ当時の警察が、多分
こうだっただろうというのは想像される範囲だ。     
それにしても、映画は最近の韓国映画の良さをそのまま受け
継いでいる感じで、そのエネルギーに溢れた描き方がすばら
しい。ちょっと暴力過多という意見はあるだろうが、一部の
日本映画の無意味な暴力よりはずっと理が通っているし、何
より主人公たちが常に前向きなのが良かった。      




2002年10月01日(火) 第24回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 またまた続報で、前回報告したウォルフガング・ペーター
ゼン監督の“Troy”に関連してワーナーでは、先に発表され
ていたペーターゼン監督の“Batman vs.Superman”の計画
を断念、替えて「スーパーマン」復活の物語を製作すること
が報告された。                     
 しかもこの監督を、当初予定されていた『チャーリーズ・
エンジェル』のMcGではなく、ユニヴァーサルで『レッド・
ドラゴン』を撮り終えたばかりのブレット・ラトナーが行う
というものだ。前回報告した“Troy”の製作発表では、元々
ペーターゼンのスケジュールが無理ではないかという話もあ
ったが、裏ではちゃんと根回しが進んでいたようだ。   
 そしてラトナーは、「子供の頃に見た映画の第1作の思い
出を大事にして、その思い出を今の子供たちにも持ってもら
えるような作品にしたい」と抱負を語っている。因に、ラト
ナーは『ラッシュアワー』に関しても、「昔のエディ・マー
フィのイメージでクリス・タッカーに演じてもらった」とい
うことで、そういう言回しの好きな人のようだ。     
 なお脚本は、J・J・エイブラムスによるものがすでに完
成しているということで、そこにはスーパーマンの父親ジョ
ー=エルも登場していると言われている。そしてその配役を
ラトナーは、『レッド・ドラゴン』の主演アンソニー・ホプ
キンスに交渉しているという噂もあるようだ。      
 この役は、前の第1作ではマーロン・ブランドが、1週間
程度の撮影で当時の史上最高の出演料を取り、しかも同時に
撮影したシーンを、契約を盾に第2作に使用させなかったな
どの話題を撒いたものだが、ホプキンスならそんな駄々を捏
ねることはないだろう。                
 となると、残る問題はクラーク・ケントとロイス・レーン
の配役だが、ラトナーの発言ではそれらは今のところ未定。
ただし主演にニコラス・ケイジを使うつもりはないとしてい
る。またこれによって、『ラッシュアワー』の続編の計画は
ちょっと先に延ばすしかないということだ。       
        *         *        
 次もスーパーヒーローの話題で、今年度の最大のヒット作
となりそうな『スパイダーマン』の関連で、来年1月の撮影
開始が予定されている続編の脚本を、ピュリツァー賞受賞作
家のマイクル・シェイボンが担当することが発表された。 
 この続編は“The Amazing Spider-Man”という題名で製
作されることが決まったようだが、この脚本については第1
作を手掛けたデイヴィッド・コープが最初のドラフトは書い
たものの自らの監督デビューのスケジュールが決まって脚本
は断念。その後、『シャンハイ・ヌーン』などを手掛けるア
ルフレッド・ゴーズとマイルズ・ミラーが引き継ぐことが発
表されていた。しかしこのほど、その脚本をシェイボンが担
当することが公式に発表されたものだ。ただしシェイボンは、
今回の脚本の執筆に当って他人のドラフトは使用せず、自分
の物語で執筆するとしているそうだ。          
 なおシェイボンは、上にも書いたようにピュリツァー賞の
受賞作家だが、その作品“Amazing Adventures of Kavalier
& Clay”は、ユダヤ人の画家が自らの夢を託したスーパー
ヒーローのコミックスで成功を納めるというもので、コミッ
クスの事情には精通している。また96年には当時フォックス
が製作していた『X−メン』の脚本に招請されたが、この時
は彼が提案したアイデアは採用されなかったということだ。
 しかしコミックスをこよなく愛する作家であることは間違
いないようで、しかもピュリツァー賞受賞作家が次の“The
Amazing Spider-Man”の脚本を手掛けるという訳だ。   
 この続編には、主演のトビー・マクガイアとキルスティン
・ダンスト、それに監督のスティーヴン・マイナーが再び顔
を揃え、来年1月の撮影開始で、公開は04年の5月7日に決
定されている。                    
 因に、上記のシェイボンの受賞作は、すでにスコット・ル
ーディンの製作で映画化が進められており、また彼が執筆し
た子供向けの小説の“Summerland”という作品は、最近のユ
ースファンタシーの映画化ブームの1本として、ミラマック
スでの映画化が計画されている。            
        *         *        
 続いては『オースティン・パワーズ』のジェイ・ローチ監
督の計画で、マニア的なファンの多いSFの中でも、特に熱
狂的なファンが多いと言われる“The Hitchhikers Guide
to the Galaxy”の映画化を進めることが正式に発表された。
 この作品のオリジナルは、ダグラス・アダムスというイギ
リスの放送作家が78−80年にBBCで発表したラジオドラマ
で、物語は、宇宙航路建設のために地球が破壊され、その唯
一人の生き残りの主人公が、変な異星人やロボットと共に、
銀河中を旅して歩くというもの。            
 これにSFの常套句などのパロディが満載されたコメディ
シリーズで、ちょうど『スター・ウォーズ』の第1作や『未
知との遭遇』の公開で巻き起こったSFブームの中で大人気
となり、その後にアダムス自身による小説化が行われた他、
テレビ化や最近ではヴィデオゲームにもなっているというも
のだ。                        
 そしてこの映画化についても80年代から計画され、当初か
らBBCとディズニーによる契約が結ばれて、ローチもかな
り早い時点から監督として参加することが発表されていた。
ところが、脚本を執筆していた原作者のアダムスが昨年5月
に他界、その時点で脚本はドラフト完成という段階だったそ
うだが、その後を引き継ぐものが居なくなっていた。   
 今回は、その後を『チキン・ラン』や『ジャイアント・ピ
ーチ』などの脚本家ケアリー・カークパトリックが引き継ぐ
ことが発表されたもので、同時にローチは監督だけでなく、
製作も担当することが発表されている。なお実際の製作業務
は、ディズニーとの関係が深く、『シックスセンス』や『シ
ャンハイ・ヌーン』を手掛けたスパイグラスが行うようだ。
 ということで“The Hitchhikers Guide to the Galaxy”
の映画化が実現されることになった訳だが、実はこの発表が
あったのが9月12日で、僕は17日付のDaily Variety紙で確
認したものだが、その時点でインターネット上では一斉に、
このニュースを伝えるサイトが立ち上がっており、その関心
の高さを裏付けている感じだった。ローチとしてはプレッシ
ャーも大きいことになるとは思うが、頑張って良い作品を完
成させてもらいたいものだ。              
 なおローチ監督は、『オースティン・パワーズ』だけでな
く、『ミート・ザ・ペアレンツ』の成功で、ストレートなコ
メディの手腕も高く評価されている。          
        *         *        
 ブライアン・デ・パルマが87年に監督し、ショーン・コネ
リーにアカデミー賞助演男優賞をもたらした『アンタッチャ
ブル』の脚本を手掛けたデイヴィッド・マメットが、再びギ
ャングを描く映画の脚本を手掛けることが発表された。  
 今回の作品の主人公は、John Dillinger。1930年代にア
メリカ中西部を荒らし回り、FBI指定の「公衆の敵No.1」
と呼ばれた男の生涯を描くものだ。            
 なおデリンジャーは1903年6月22日の生まれ、21歳の時に
働いた強盗事件で逮捕されて9年の刑に服している。しかし
出所後には拳銃を使った銀行強盗のやり方を考案。犯行を重
ねて、その間に2度逮捕されるがいずれも脱獄。そして1934
年7月22日、映画館を出たところを、密告により待ち伏せし
ていたFBIによって、31歳で射殺されている。     
 つまり、出所してから1年ほどの間に「公衆の敵No.1」と
呼ばれるほどの犯罪を犯している訳で、その犯罪の激しさが
判るというものだ。また、最後は射殺されたことになってい
るが、このときそこに居たのは別人で、デリンジャー本人は
逃走したという説もあるようだ。            
 そして今回の映画化は、元々は『ボーイズ・ドント・クラ
イ』のキンバリー・ピアース監督が長年企画していたものだ
が、なかなか製作会社が見つからないでいた。それをジョー
ジ・クルーニーとスティーヴン・ソダーバーグが主宰するプ
ロダクションのセクション8が取り上げ、ワーナーに持ち込
んだもので、ワーナーの意向でマメットとの契約が結ばれた
ということだ。                    
 ただしマメットは、現在は『ジキル博士とハイド氏』を下
敷きにした自作脚本による“Dairy of a Young London Phy-
sician”という映画を、ジュウド・ロウ、ペネロペ・クルス
共演で監督するなど、近年は監督業に忙しく。一方のピアー
スも、現在はアーサー・C・クラーク原作の“Childhood's
End”の映画化の準備をユニヴァーサルで進めている最中と
いうことで、今回の計画が実現するのは少し先のことになる
ようだ。                       
 なお、同じ題材では73年に、ジョン・ミリアスが自作の脚
本を初監督した作品“Dillinger”(邦題:デリンジャー)
が発表されている他、数本の作品がある。        
        *         *        
 コネリーがオスカーを受賞したのと同じ年の作品賞に輝い
た『ラスト・エンペラー』に出演し、『ツイン・ピークス』
などへの出演や、『オータム・イン・ニューヨーク』の監督
としても知られる女優ジョアン・チェンの次の監督作品の計
画が発表されている。                 
 この計画は、日本では12月14日からの正月公開が予定され
ている『K−19』(別掲の映画紹介も見てください)を製作
したNational Geographic Feature Films(NGFF)の
新たな製作計画の1本として発表されたもので、題名は“The
Unwanted”。共産主義国家ヴィエトナムで育ったアメリカ系
アジア人の少年カイエン・ヌグエンの自伝に基づいて、幼く
して激動する社会の中を生き抜かなければならなかった子供
の姿を描くもので、チェンの監督デビュー作の『シュウシュ
ウの季節』にも通じる物語だ。             
 そしてこの作品の脚本を、チェンと、『シュウシュウ…』
の原作者で映画化にも協力したヤン・ゲリンが共同で執筆す
ることになっている。彼女自身が文化大革命の中で育ったチ
ェンにとって、この種の題材は特に身近なもののようだが、
チェンは、「いつも前向きに生きるパワフルな少年の物語を
スクリーンに表現したい」と抱負を語っている。     
 また、今回発表されたNGFFの製作計画では、この他に
アメリカ・アイダホ州での野生狼の保護活動を描く“Wolf
B35”という作品も発表されている。この題名は95年に保護
された66頭の群れの中の1匹の雌の狼に由来したもので、こ
の群れを保護地区に移すまでの保護に携わった人たちと、地
元民との確執などが描かれたものだそうだ。        
 元々はNYタイムズ・マガジンに発表されたサラ・コーベ
ットという記者の記事に基づくもので、ドキュメンタリー映
画作家のマーク・ルイスがその記事から脚色し、自らの劇映
画初監督作品として計画されている。なおルイスは、アメリ
カの公共放送PBSで放送された“The National History 
of the Chicken”という作品が、2001年のサンダンス映画
祭で上映された他、この年のNYタイムズが選出した10ベス
トテレビ番組にも選ばれたということだ。         
        *         *        
 ここでキャスティングの情報を3つ紹介しておこう。  
 まずは、第18回で紹介したワーナー製作、ジョー・ダンテ
監督による実写とアニメーション合成作品“Looney Tunes:
Back in Action”の人間側の出演者で、主人公を演じるブレ
ンダン・フレーザーに加えて、ティモシー・ダルトン、ジェ
ナ・エルフマン、ビル・ゴールドバーグ、ヘザー・ロックレ
アの出演が発表された他、カメオ出演で映画プロデューサー
のロジャー・コーマンの名前が挙がっている。今回は実写側
が舞台で、主なストーリーは、フレーザー扮する主人公の行
方不明になっている父親と神秘のブルーダイアモンドを、主
人公とルーニーの面々が捜すということだが、この出演者で
一体どんな展開になるのだろうか。公開は来年の11月の予定
になっている。                    
 前回紹介したオーウェン・ウィルスン、モーガン・フリー
マン共演の“The Big Bounce”で、ゲイリー・シニージと
サラ・フォスターの出演が発表されている。『ミッション・
トゥ・マーズ』などのシニージの役柄はハワイ出身のホテル
デベロッパーということで、物語的には悪役のようだ。一方、
新人のフォスターは前回も紹介した主人公が見初める理想の
女性の役ということだが、彼女はテレビ番組と「バックスト
リートボーイズ」のプロモーションヴィデオなどに出演して
いる程度の本当の新人のようだ。なお本作は、89年にケリー
・マクギリス主演で映画化された『キャット・チェイサー』
などのエルモア・レナード原作の小説の映画化だそうだ。 
 もう1本は、第19回で紹介した“Peter Pan”の実写によ
るリメイクで、ピーター役のジェレミー・サムプター、フッ
ク船長役のジェイスン・アイザックスに加えて、ティンカー
・ベル役に第22回の時に紹介したフランス映画『8人の女た
ち』で末娘を演じていたリュディヴィーヌ・サニエ、またウ
ェンディら子供たちの母親役で『シックス・センス』で主人
公の妻を演じていたオリヴィア・ウィリアムスの出演が発表
されている。なお撮影は9月30日にオーストラリアで開始さ
れ、公開は03年のクリスマスに予定されている。     
        *         *        
 後半は短いニュースをまとめておこう。        
 最初は、ちょっと前の記事にも関連するけれど、以前に紹
介したフィリップ・K・ディック原作“Paycheck”の映画化
について新しい情報が入ってきた。パラマウントで進行中の
この計画は、以前の報道では監督をブレット・ラトナーに交
渉中ということだったが、今回、新たに『K−19』のキャス
リン・ビグロー監督が検討していることが報道されている。
まあラトナーに関しては上の記事でも書いた通りスケジュー
ルは満杯で、とうていできそうもない状況だった訳だが、逆
に前作で骨太の男性ドラマを作り上げた女性監督に期待した
いところだ。なお原作の物語は、政府と企業との対立が深ま
った未来社会を背景に、2年間企業への潜入調査を行ってい
た政府機関のエージェントが、その2年間の記憶を消去され
て戻ってくる。政府機関は当然、その記憶を取り戻させよう
とするのだが…。そこにタイムトラヴェラーが絡むものと紹
介されている。                    
 テレビのミニシリーズで好評を博した『リッチマン・プア
マン』(原題:富めるもの貧しきもの)などの作家、劇作家
として数多くの作品で知られるアーウィン・ショーの短編小
説を映画化する計画がユニヴァーサルから発表されている。
映画化されるのは“Whispers in Bedlam”という作品で、
内容は、その年限りの引退を決意したフットボール選手が実
験的な外科手術を受け、これが予想外の効果を上げて彼の能
力を回復させてしまう。このため彼は一躍スーパースターに
なるのだが、彼の競技場の外での人生も変えていってしまう
というもの。かなり皮肉っぽい物語のようにも感じるが、会
社側の説明ではヒューマニズムに溢れた物語ということで、
今回はファンタスティックコメディとして映画化が考えられ
ているようだ。なお脚色には、先にアーチザンと“The Prom”
というオリジナル作品を契約したばかりのスティーヴン・フ
ォークという脚本家の抜擢が発表されている。      
 『ロード・オブ・ザ・リング』でレゴラスを演じるオーラ
ンド・ブルームが、今度は海賊と戦うことが発表された。こ
れはディズニーが製作する“Pirates of the Caribbean”
への出演が決まったもので、彼が演じるのは、ジョニー・デ
ップ扮する船長と共に、海賊に誘拐された地方長官の娘の救
出に向かうウィル・ターナーという役。映画にはこの他に、
ジェフリー・ラッシュ、トム・ウィルキンスンらの共演が発
表されている。ディズニーランドのアトラクションからイン
スパイアされたこの映画は、ジェイ・ウォルパート脚本、ゴ
ア・ヴァビンスキー監督で、10月9日に撮影開始の予定にな
っているが、先日のバーバンクのディズニー撮影所の火災で
セットの一部が消失、ちょっとどうなるか心配な事態になっ
ているようだ。それから『ロード…』の2本の続編の撮影は、
一度に通しで行われたはずだが、今だに時々追加撮影が行わ
れているようだ。                   
 ジョナサン・モストウの監督で行われていた“T3: Rise
of the Machine”の撮影が、9月9日にビヴァリー・ヒル
ズの繁華街ロディオ・ドライヴでの夜間ロケーションで完了
した。4月から5カ月におよぶ撮影は全てロサンゼルスで行
われ、完全にスケジュール通りに進められたということだが、
実は最後に撮影されたのは、今回の敵役の女性型ターミネー
ターの未来からの登場シーンで、ファンはご承知の通りこの
シーンはオールヌードで現れるというもの。このためか当日
はかなりの観衆が集まったということだが、ターミネーター
役のクリスターナ・ロケンは立派にその演技をして見せたと
いうことだ。これからポストプロダクションが行われて、全
米公開は03年7月2日、日本公開は12日と発表されている。
        *         *        
 最後に訂正を一つ、前回、レニー・ハーリン監督の“Land
of Legend”の記事の中で紹介したマーク・メドフ監督の 
“Children on Their Birthdays”という作品はすでに完
成し、この秋にアーチザンから公開されるというものだった。
情報のチェックが足りなかったので訂正しておきます。  


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井口健二