井口健二のOn the Production
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2002年02月15日(金) 第9回+ロード・オブ・ザ・リング、自殺サークル、シッピング・ニュース

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 前々回に続いて、またもや記者会見の話題から。今回は自
分でも質問をしてしまったので、責任を持ってその報告から
始めさせてもらうことにしよう。            
 1月30日午前9時から、ロンドンとバンクーバー、それに
日本側は東京と大阪を衛星回線で結び、『オーシャンズ11』
に主演したジョージ・クルーニーとブラッド・ピットに対す
るテレビ記者会見が行われた。             
 今回の会見は、前半はロンドンのピット、後半がバンクー
バーのクルーニーという順番で行われたものだが、ロンドン
とは衛星回線の往復でタイムラグが7秒近くあり、クルーニ
ーはその状況を把握していたのか、自分の番になるとタイム
ラグの間中いろんな仕種をして見せるなど、サーヴィス精神
の旺盛なところを見せていた。ピットもハイテンションで、
この作品の撮影が本当に楽しかったことを伺わせた。   
 それで僕がした質問だが、今回企画の中心にあったクルー
ニーに対して「この作品は、シナトラ一家(Rat Pack)の最
初の結集作品として有名な映画のリメイクだが、今後も同じ
メムバーで映画を作る計画はあるのか。私は“Robin and 7
Hoods”(邦題・7人の愚連隊)が好きなのだが、そのリメ
イクは如何か」と聞いてみた。             
 これに対するクルーニーの答えは、「リメイクというのは
オリジナルの出来が悪いときにやると価値がある。だから彼
らの作品の中で1番出来の悪いこの作品はやり易かったが、
“Robin and 7 Hoods”は出来の良い作品だから難しい。た
だし“Batman and Robin”ならリメイクしたい。そのときの
ロビン役はピットだな。」というもの。実は回答の後半の部
分は、前振りでピットの背が低いことが話題になっていたの
で、それにうまくつながったものだった。        
 実は、僕の質問の前に音楽についてしつこく聞いた人がい
て、クルーニーが「僕は音痴だから」とちょっと嫌そうなそ
ぶりを見せたこともあり、本当はミュージカル仕立ての“Ro
bin and 7 Hoods”について聞くのはちょっと躊躇したのだ
が、うまく切り返してくれたのはうれしかった。     
 それにしても、“Robin and 7 Hoods”から『バットマン
&ロビン』が出てくるとは思いもしなかったが、この作品は
言うまでもなく97年にクルーニーが主演した作品。僕はそれ
ほど出来が悪いとは思わないが、興行的には上首尾とは行か
なかったし、その後シリーズが中断していることへのアピー
ルもあるのかも知れない。それから前半のリメイクの条件に
ついては、アメリカでは同時期公開の『ヴァニラ・スカイ』
に対抗する意味もあったのかも知れない。        
 さらに僕の後には、これからの計画を質問した人もいて、
その回答は「現在はドリュー・バリモアとジュリア・ロバー
ツ共演の作品を監督していて、その次は『オーシャンズ11』
と同じソダーバーグの監督で“Solaris” 、その後にはコー
エン兄弟の作品に出演する」ということだった。なお、クル
ーニーとコーエン兄弟の監督作品については、このホームペ
ージの第2回、第3回、第4回で紹介しているものだ。  
 これに対して、ソダーバーグ監督の作品については今まで
ここでは取り上げて来なかったが、題名から判るようにこれ
はスタニフラフ・レムの原作を、72年にアンドレイ・タルコ
フスキー監督が映画化した『惑星ソラリス』をリメイクする
もの。まあこれもリメイクである訳だが、先のリメイクの条
件に関しては、クルーニーがリメイクであることを知らない
のか、それともハリウッドの映画人にとってはタルコフスキ
ー作品は出来の悪い作品という意味なのだろうか。    
 この他には、ジュリア・ロバーツがやたらはしゃいでいた
というエピソードもクルーニーの口から紹介されたが、実は
ロバーツはこの作品に並行して、『アメリカン・スウィート
ハート』(第6回の試写の感想も見てください)の撮影も行
っており、実際にはそんなことが出来たはずがない訳で、こ
れはやんわりとその方面への質問を封じられた感じがした。
いずれにしてもピット、クルーニー共に見事な回答振りで、
2人にうまく仕切られてしまった感じの記者会見だった。 
         *       *         
 以下はいつものように製作情報で、まずはまたまたシリー
ズものの計画が発表された。              
 今回発表したのはトム・クルーズ。彼が主宰して『ミッシ
ョン・インポッシブル』などを手掛けるC/Wプロダクショ
ンとパラマウントとの共同製作で、“The Lost Regiment”
というタイムトラヴェル物のSFシリーズを映画化する計画
が発表されている。                  
 このシリーズは、ウィリアム・R・フォースチュンという
アメリカのSF作家が発表しているものだが、実はこのフォ
ースチュン、彼の著作リストを見てみると、まず代表作が映
画化もされたヴィデオゲーム“Wing Commander”をノヴェラ
イズしたシリーズ。この他にも、『新スター・トレック』の
オリジナルノヴェルや、カードゲームの小説化なども手掛け
ているという典型的なペーパーバックライター。従ってこの
シリーズは、そのフォースチュンの作品の中では数少ないオ
リジナルの作品ということのようだ。          
 そしてシリーズの内容は、アメリカ南北戦争当時の兵士の
中隊が不思議な力によって未来にタイムワープさせられる。
しかしそこは異星人に支配された中世のような世界で、しか
も人類は家畜のように飼われていた、というもの。この世界
で南北戦争の兵士たちが大暴れするということのようだが、
シリーズは90年から93年に掛けて4作が発表され、一時中断
していたが、96年に再開されて、以後毎年1冊ずつ00年まで
に計9冊が発表されているということだ。        
 舞台が中世のような世界ということは、アーノルド・シュ
ワルツェネッガーの主演で映画化された『コナン・ザ・グレ
ート』に代表されるヒロイック・ファンタシー系の作品のよ
うにも思えるが、この映画化をクルーズが計画するというこ
とは、それなりに勝算があるということなのだろう。なお、
ヒロイック・ファンタシー系の作品ということでは、クルー
ズは以前に、『ターザン』の原作者エドガー・ライス・バロ
ーズの『ジョン・カーター=火星』シリーズの映画化を計画
していたことがあったが、今回の計画が一段落したらそちら
の再検討もしてもらいたいものだ。           
         *       *         
 続いてはファン待望の計画の再開で、クェンティン・タラ
ンティーノ監督が94年の『パルプ・フィクション』以来とな
る自作の脚本を自ら映画化する“Kill Bill”の計画がいよ
いよ本格的に動き出した。               
 この作品については、実は昨年の1月に最初の発表が行わ
れ、その後の5月のカンヌ映画祭では話題の中心になるほど
の関心が集まっていた。ところが7月になって主演に予定さ
れていたユマ・サーマンの妊娠が判明、撮影にはかなりハー
ドなアクションシーンが含まれることから妊娠中のサーマン
の主演は不可能ということになってしまった。      
 ここでタランティーノには、別の女優を起用するか、サー
マンの復帰を待つかという選択肢があった訳だが、このとき
タランティーノは、「この脚本はサーマンのために書いたも
ので、他の女優の起用は考えられない」として、計画を中断
してしまっていた。そして今年の1月16日、サーマンとイー
サン・ホーク夫妻の間にめでたく第2子の誕生が発表され、
この報告を受けたタランティーノは、直ちに製作を再開し、
今年の春からの撮影が発表されたものだ。        
 お話は、街娼の女(サーマン)がその手引きをしていた男
に撃たれ昏睡状態に陥ってしまう。しかし6年後、女は昏睡
から覚め、復讐を誓って男の後を追い始めるというもの。そ
して進められている計画では、主人公に協力しアドヴァイス
を与える殺し屋の役でダリル・ハナが共演する他、ウォーレ
ン・ベイティとルーシー・リューの出演も発表されている。
 タランティーノが半年待ってまで実現したこの作品には、
大いに期待したい。製作はミラマックス。        
         *       *         
 もう一つ、これは続報というか、前回紹介したハワード・
ヒューズの伝記映画の計画で、レオナルド・ディカプリオの
主演で進められていた計画にも動きが出てきた。この映画化
は、『グラディエーター』のジョン・ローガンの脚本で、マ
イクル・マンが監督するというものだったが、最近の情報で
はこの監督をマーティン・スコセッシが行うと話が伝わって
いる。スコセッシは『ギャング・オブ・ニューヨーク』でデ
ィカプリオを起用しているが、その流れでヒューズの伝記映
画の計画が浮上してきているようだ。          
         *       *         
 最後に2月12日に発表されたオスカー候補作の報告をして
おこう。                       
 まず第7回で取り上げた史上初のアニメーション作品賞候
補は、予想通りの『シュレック』『モンスターズ・インク』
と第3の候補にはパラマウント配給の“Jimmy Neuton: Boy
Genius”が選ばれた。                 
 この他、視覚効果賞候補には、『A.I.』『ロード・オブ
・ザ・リング』と『パール・ハーバー』。またメイクアップ
賞候補には、『ビューティフル・マインド』『ロード・オブ
・ザ・リング』と『ムーラン・ルージュ』が選ばれている。
 なお、『ロード・オブ・ザ・リング』については、作品、
監督、脚色、助演男優、撮影、音楽、主題歌、編集、音響、
美術、衣装賞の候補にもなっており、合計13部門は今回の最
多候補数を記録した。また『A.I.』は、音楽賞の候補にも
なっている。一方、『ハリー・ポッターと賢者の石』は、美
術、衣装、音楽の各賞の候補になっている。       
 果たして史上初のアニメーション作品賞はどの作品になる
のか、また『ロード・オブ・ザ・リング』は何個のオスカー
を獲得するか、発表は3月25日だ。           
                           
                           
                           
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを公開に合わせて紹介します。※
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今回は3月封切りの作品から紹介します。        
                           
<3月2日封切り>                  
『ロード・オブ・ザ・リング』             
“The Lord of the Rings: The Fellowship of the Ring”
『指輪物語』の映画化がついに登場した。これから3年間を
掛けて3部作をそのまま映画化する計画の第1作で、原作の
第1巻『旅の仲間』の最初から最後までが描かれている。 
監督のピーター・ジャクスンはニュージーランド出身だが、
原作の大ファンと自認するだけあって、原作を極力変えない
ように努力したことがよく判る。            
製作発表からずっと追ってきた中で、例えばフロド役にイラ
イジャ・ウッドが発表されたときには、普通の若者の成長物
語になってしまうのではないかなど想像したものだったが、
それがちゃんとホビットとして描かれ、しかもほとんどのシ
ーンで普通サイズの人間やエルフたちと共演している。それ
だけでも大変な作業が必要だったはずだが、それをやり遂げ
ているところに、原作に対する思い入れが感じられた。  
この映画の素晴らしさは、何といっても総勢2400人という監
督以下のスタッフが、全員原作を理解して映画化に取り組ん
だということだろう。現場では原作の中の特殊な用語が、そ
のまま普通に使われていたと言うことだ。        
原作に対する共通の理解の元で、その細部に至るまで完璧に
再現しようとした。それが、風景から小道具までの全てに亘
って素晴らしい映像を生み出す源になっている。     
『スター・ウォーズ』の製作が、どちらかと言うとジョージ
・ルーカスの頭の中にだけあるイメージをスタッフたちが手
探りで造り出して行っているのに対して、この作品では原作
というバイブルを、全員の共同作業で造り上げていったとい
う感じがする。それが細部まで行き届いた素晴らしい映像を
生み出している。                   
描かれる風景のほとんどは、原作のファンには長年に亘って
発表されたイラストなどである程度のイメージは作られてい
たが、それらが全て目の前に動く映像で繰り広げられる。そ
れは、それだけでもある種の感動を呼ぶものだ。     
兎にも角にも百聞は一見にしかず、としか言いようのない映
画だ。                        
ただし、物語的にはかなり省略されている部分もあるので、
映画を見た後か前に原作を読むこともお勧めする。そうすれ
ば面白さが倍加すること請け合いだから。        
                           
<3月9日封切り>                  
『自殺サークル』                   
詩人で映画作家の園子温脚本・監督による作品。     
大体、詩人というのはよく判らないし、そういう人たちが作
る映画というのも独り善がりで面白くも何ともない作品が多
く、通常は敬遠してしまうのだが。この作品は偶然、試写の
間の時間が空いたので見てしまった。          
ところがこれが意外と拾い物だったのだから嬉しくなる。 
ある日、新宿駅で54人の女子高生が集団自殺するところから
物語は始まる。やがてそれは連鎖反応的に広がり、集団自殺
が相次ぐようになる。そして当初は事件性はないと思われて
いたこの出来事に、謎のウェブサイトが関係していることが
判明する。                      
物語はあまり整理されていなくて意味不明の部分があったり
もするのだが、ただ集団自殺の意味についてはその掴み所の
無さ故に、かえって現代社会が抱える病を上手く表現してい
る感じがした。また、逆にそれを解決することについては、
ある意味明確な回答というかメッセージがあり、何んとなく
救いのある結末も嬉しかった。             
石橋凌、永瀬正敏、麿赤児らの刑事たちがステレオタイプな
のは計算尽くだろうが、彼らが予告された集団自殺を阻止し
ようとする新宿駅のシーンは緊張感が上手く演出されて良い
感じだった。稚拙さはあるがエンターテインメントとしても
計算されているし。                  
また一人、気になる監督ができてしまった感じだ。    
なお、集団自殺のシーンの映像はかなり強烈なスプラッター
なので、見るときは気をつけてください。        
                           
<3月23日封切り>                  
『シッピング・ニュース』“The Shipping News”     
一昨年の『サイダーハウス・ルール』、昨年の『ショコラ』
に続くラッセ・ハルストレム監督の最新作。原作はE・アニ
ー・プルーの『港湾ニュース』。            
厳格な父親に虐げられた海辺の故郷を捨てて都会に出た主人
公は、やがて結婚に破れ、幼い娘と共にニューファンドラン
ド島の祖先の暮らした村にやってくる。そこで地元新聞に職
を得て、港に出入りする船を記録するシッピング・ニュース
欄を担当することになるのだが…。人々との交流と厳しい自
然の中で、彼は自分自身を再生させて行く。       
それにしてもこれだけ手の込んだ文芸大作を、毎年作り上げ
るこの監督の集中力には物凄いものを感じる。特に今回の舞
台は、厳しい自然が対峙するニューファンドランド。その自
然を見事に表現しながらの演出は、さすがにスウェーデン出
身で、祖先はヴァイキングかも知れないという監督の独壇場
と言えそうだ。                    
雪の閉ざされた岬が、一晩の雨によって雪が消えてしまう変
化の鮮やかさや、吹雪の中、凍結した海の上を大きな屋敷を
曳いて進む人々の姿など、心に残る映像が次々に現れる。そ
んな素晴らしい映像と共に、ユーモアに溢れた素敵なドラマ
が展開するのだ。                   
そして結末がまた素晴らしいのだが、ネタばれになるのでこ
こまでにしておこう。                 
一昨年の作品の主人公は、外から来て重荷を背負わされてし
まう若者。昨年の作品の主人公は、どこからともなく現れて
人々の生活を変えてしまう女性。そして今回の作品の主人公
は、ついに自分の居所を見つけてしまう男性という訳で、何
となくハリウッドでの監督の立場をなぞっているようなとこ
ろも面白い。                     
                           
 この他、                      
2月23日封切りの『うつくしい人生』は第1回、     
 『ヘドウィッグ・アンド・アングリーインチ』は第4回。
3月2日封切りの『ぼくの神様』は第3回、       
        『モンスターズ・インク』、      
        『アメリカンスィートハート』、    
        『タイムリセット』は第6回。     
3月9日封切りの『ヒューマンネイチュア』は東京国際映画
祭の特集。                      
3月16日封切りの『寵愛』は第2回。          
3月30日封切りの『羊のうた』は東京国際映画祭の特集  
にそれぞれ紹介があります。              



2002年02月01日(金) 第8回+無問題2、マリー・アントワネットの首飾り

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずは新たな展開で、前々回紹介した“Sinbad”の記事の
中で挙げていた“The Argonauts”を映画化する計画が発表
された。しかも計画しているのは、前回報告した昨年の全米
興行成績で2億ドル突破の大ヒットを達成した『ハムナプト
ラ2』のスティーヴン・ソマーズ監督という情報だ。   
 といってもこの計画は、ハリーハウゼンの作品をリメイク
するというのではなくて、全く新たな物語を作り出すもの。
しかし前々回の記事でも『ハムナプトラ2』のスコーピオン
キングがハリーハウゼンを髣髴とさせると書いた通り、この
新しい計画でもハリーハウゼンが産み出したようなギリシャ
神話の怪物が大暴れするということで、この計画自体が、ハ
リーハウゼンにオマージュを捧げるものと紹介されている。
 物語は、第2次世界大戦前夜という世界情勢を背景に、ト
レジャーハンターのグループがギリシャ神話のイアソンたち
が乗り組んだアルゴ号の沈没地点を探し当てるところから始
まる。そして彼らは黄金の羊の皮などのアルゴ号に積み込ま
れていたはずの財宝の引き上げ目論むのだが、何時しか彼ら
自身がギリシャ神話の世界に迷い込んで、サイクロプスやミ
ノタウロスなどの怪物と闘っていたというもの。脚本は、ゴ
ールデン・グロウブ賞の候補にもなっている“A Beautiful
Mind”の脚色でアキヴァ・ゴールズマンに協力したというサ
イモン・キンバーグが手掛けたものだ。         
 なお今回の計画では、ソマーズと彼の盟友で映画編集者の
ボブ・デュクセイ、それにソマーズの初期の作品を手掛けて
きたジョン・ボールデッチらが製作を担当するが、元々はソ
マーズとデュクセイがハリーハウゼンタイプの作品を作りた
がっていることを知っていたボールデッチが計画を持ちかけ
たものだということだ。そして当初は、『ザ・メキシカン』
の製作者でもあるボールデッチがドリームワークスと契約し
て計画を進めることになっていたが、最近ソマーズとディク
セイがユニヴァーサルと包括契約を結んだために、最終的に
は2社の共同製作で行われることになるようだ。製作開始が
何時になるかは不明だが、順調に行くと04年の公開で、コロ
ムビア製作、ジョン・シングルトン監督の“Sinbad”とぶつ
かることになるかも知れない。             
 それにしても、立て続けにハリーハウゼン関連の話題が登
場しているが、彼は91年の第64回アカデミー賞で科学技術部
門の特別表彰を受けてはいるものの、彼の往年の作品は候補
にすら挙げられたことはなく(49年の受賞作『猿人ジョー・
ヤング』は実際には彼が手掛けたものだが、一般には『キン
グ・コング』のウィリス・B・オブライエンの作品とされて
ハリーハウゼンは受賞者にはなっていない)、ハリウッドの
表舞台からはほぼ完全に無視され続けていただけに、この突
然の再評価の高まりには長年のファンとして、嬉しさと共に
驚きを感じてしまうところでもある。          
        *         *        
 お次はちょっと奇妙な情報で、“Deathwatch”という全く
同じ題名のホラー映画の計画が2本発表されている。   
 その1本目は、ジョール・シルヴァが主宰する恐怖映画専
門の映画会社ダークキャッスルが製作する作品で、マイクル
・ウェイスという脚本家によるもの。内容は、10代の若者た
ちを主人公に、未来を予言する恐怖のウェブサイトを巡る物
語ということで、『ファイナル・デスティネーション』と、
ドリームワークスでリメイクが行われている日本映画の『リ
ング』を合わせたような作品だそうだ。なおこの計画では、
03年のハロウィン公開を目指して、ダークキャッスルの最優
先計画となっている。                 
 そしてもう1本はイギリスで進められている計画で、『リ
トル・ダンサー』のジェイミー・ベル主演による超常現象を
扱った作品。第1次世界大戦中の戦場の塹壕を舞台に、兵士
たちが見えない怪物に付け回されるという内容のもので、監
督はこれがデビュー作のマイクル・J・バセットが担当して
いる。因にこの作品の当初のタイトルは“Who Goes There”
というものだったようだが、これはSFホラー映画の名作と
言われるクリスチャン・ナイビー監督の51年作品『遊星より
の物体X』(ジョン・カーペンター監督によるリメイク作品
『遊星からの物体X』(82)もある)の原作となった小説の題
名と同じで、それではまずいということになったのだろう。
 先日行われた『アザーズ』のアレハンドロ・アメナーバル
監督の記者会見でも、「当初は“House ”という題名だった
が、別の作品が先にあったので変更した」という発言があっ
たが、今回はほとんど同時に両者の題名が発表されており、
その行方は一体どういうことになるのだろうか。     
        *         *        
 続いては、20世紀の大富豪ハワード・ヒューズを巡る話題
で、まずはヒューズの謎に包まれた生涯を映画化する計画が
本格的になってきそうだ。               
 ヒューズは05年テキサス州ヒューストンに生まれ、17歳の
時に亡父の跡を継いで地元の会社を経営するも、26年には自
己資金を使ってハリウッドに進出、映画製作を開始して48〜
57年にはRKO映画の実質的な経営者となり、ジェーン・ラ
ッセルやジーン・ハーロウらを映画界に送り出している。ま
た、ヒューズ・エアクラフトを設立して自らの操縦でスピー
ド記録に挑戦する傍ら、8機のエンジンを搭載した巨大水上
飛行機などを開発。さらに複数の航空会社やラスヴェガスに
ホテルを所有するなど華やかな暮らしぶりが話題になった。
しかし晩年は人前に姿を現わすことがなくなり、一説には薬
物中毒になっていたとも言われているが、76年にメキシコか
らのテキサスに向かう飛行機の中で亡くなっている。   
 このヒューズの波乱に満ちた生涯を映画化する計画は以前
から幾度も発表されていた。その中には、“Ali ”のマイク
ル・マン監督で、レオナルド・ディカプリオが主演するもの
や、監督のヒューズ兄弟とジョニー・ディップが『フロム・
ヘル』の前に進めていた計画などが報告されたが、なかなか
実現に向かわなかった。                
 その計画がようやく実現できそうになってきたもので、今
回発表されたのはリチャード・ハックが執筆した“Hughes:
The Private Diaries, Letters and Memos”という本を映画
化するもの。この本は、ヒューズの腹心と言われたロベルト
・マヒューが保管していた日記や手紙を基に執筆されたもの
だが、さらにマヒューは映画化に際してはハックの本に使わ
れなかった分の日記なども提供するとされている。    
 そしてこの本の映画化権をキャッスル・ロックが獲得し、
『メメント』で注目のクリストファー・ノーランの脚色、監
督、ジム・キャリーの主演で映画化する計画が発表された。
なおノーランは、現在はアル・パチーノ、ロビン・ウィリア
ムス共演による“Insomnia”という作品を監督中だが、出来
るだけ早く“Hughes”の脚色に取りかかり、早急に映画化を
進める計画だということだ。              
 そしてもう1本、ヒューズが関わった謎の事件の映画化の
計画も発表されている。                
 この計画は、“3 Miles Down”と呼ばれているものだが、
冷戦さ中の68年に、ハワイ北西 760マイルの海域で沈没した
ソ連の原爆ミサイル搭載潜水艦が発見され、この引き上げに
アメリカ海軍とハワード・ヒューズが関ったとされるもの。
しかし引き上げ自体の結果も明らかにされておらず、またこ
の直後からヒューズの隠遁生活が始まったという謎の事件を
巡る物語だ。                     
 そしてこの事件を映画化する計画では、99年にニック・フ
ァラッキとシェリル・ハートンの脚本を、『逃亡者』のアン
ドリュー・デイヴィスが監督するということで、“Cord War
Submarine Project”という仮の題名で発表されたことがあ
ったが、その後音沙汰がなくなっていた。ところが最近にな
ってこの事件を扱った“The Jennifer Project”という本が
クライド・バールスンという作家の手で執筆され、この本の
映画化権を獲得した製作者たちがデイヴィスを招請して再び
映画化が進められることになったというものだ。因に本の題
名は当時のヒューズが呼んでいた作戦の暗号名だそうだ。 
 なおこの計画は、9月11日の事件で延期されていた『コラ
テラル・ダメージ』の公開がようやく始まったデイヴィスの
次回作として急浮上することになりそうだ。       
        *         *        
 後は短いニュースをまとめておこう。         
 まずは続編の情報で、5月3日の全米公開が予定されてい
るソニー=コロムビア映画“Spider-Man”の続編の計画が早
くも発表になっている。これは主演のトビー・マクガイアが
2本の続編の出演契約書にサインしたというもので、その1
本目は03年1月に撮影開始の予定だそうだ。マーヴェル・コ
ミックスのスーパーヒーローの映画化は、これで少なくとも
3部作にはなるということだ。             
 お次も続編で、と言ってもかなり間が開いてしまったが、
82年に史上初の本格的なCG映画として話題になった『トロ
ン』の続編“Tron 2.0”が計画されている。監督は前作と同
じスティーヴン・リスバーガーが担当、すでにリチャード・
ジェフリーズの手になる2つの原案が上がっているというこ
とだ。ただしこの作品は劇場用ではなくて、直接DVDで発
売される模様だが、前作から20年が経って、進化したCGI
は一体どのような世界を見せてくれるのだろうか。    
 最後に前回報告した“Memoirs of A Geisha”の続報で、
監督に予定されていたスティーヴン・スピルバーグの降板が
発表された。理由は別の作品がすでに進行しているためとい
うことで、この進行している作品とはレオナルド・ディカプ
リオ主演の“Catch Me If You Can”のことのようだ。この
ため製作者は、前回報告したキャスティングのやり直しの前
に、まず監督の選考を行わなければならなくなった訳だが、
そのタイムリミットは4〜6週間の内ということだ。   
                           
                           
                           
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを公開に合わせて紹介します。※
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今回は2月封切りの作品から紹介します。        
                           
<2月9日封切り>                  
『無問題2』“無問題2”               
ナイナイ岡村主演の香港映画第2弾。          
2年前の第1作は見ていないのだが、撮影中に骨折などのア
クシデントがあり、岡村本人が不満足だったそうだ。   
その思いを注ぎ込んだ第2弾だが、相手役に往年のクンフー
スター=ユン・ピョウと、現在香港映画で若手人気ナンバー
1といわれるサム・リーを招き、特にユン・ピョウは、現在
はカナダ在住で香港映画への出演はほとんどないというのだ
から、これは注目だ。                 
そして内容は、前作ではアクシデントのためにほとんどでき
なかったというクンフー・アクションがふんだんに盛り込ま
れて、特に中盤から後半に掛けてのアクションシーンはかな
り見られるものになっている。             
といっても岡村がやるのだから限界はあるのだが、『グリー
ン・ディスティニー』のパロディにもなっているワイアー・
ワークのシーンなどは結構様になっていた。       
まあ全体はお笑い映画で、岡村=関西と香港コメディのノリ
でやるのだから、それはかなり疲れる部分もあるが、これは
多分、岡村のファンには堪らないものなのだろう。    
映画のパロディも今更という感じのものも多かったが、中で
修業でペンキ塗りをするシーンがあって、ユン扮するクンフ
ーマスターが「良いものは何処からでも取り入れる。これは
ハリウッド映画からだ」と言ったのには笑えた。今時、『ベ
スト・キッド』を覚えている人なんて…。        
                           
<2月16日封切り>                  
『マリー・アントワネットの首飾り』          
              “Affair of the Necklace”
フランス革命の引き鉄になったと言われる「王妃の首飾り事
件」を描いたコスチュームプレイ。           
この事件のお話は、デュマの『王妃の首飾り』や池田理代子
の『ベルサイユのばら』でも有名だが、これらの作品のよう
にフィクションを交えたものではなく、1786年に高等法院で
判決の下された実際の事件の記録に基づくもの。といっても
この裁判自体が真実を伝えているものかどうかは判らないと
いうことだが…。                   
この物語には、ダルタニアンもオスカルも出てこないが、替
りに登場するのはジャンヌ・ド・ヴァロアという女性。彼女
は王位についたこともあるヴァロア家の末裔と称して(真実
だったらしい)王室に接近して行く。その目的は、生家ヴァ
ロア家を再興すること、そしてその目的のためには手段を選
ばないと決意するジャンヌだったが、その目的とは裏腹に事
件は進行し、やがてそれは革命の引き鉄となって、王妃を断
頭台へと送り出してしまう。              
まあこれだけの事件を2時間弱の作品にまとめてしまってい
るので、背景などはあまり詳細には描かれていないが、それ
でも裏で動き回る宮廷大臣が、結局は民衆の不満を煽り立て
てしまう辺りは、何だか最近のどこかの国の政治のどたばた
を見ているようで面白かった。             
といっても当時の民衆にとっては飛んでもない話な訳で、18
世紀のフランスではこれで革命が起こってしまうのだが。 
                           
 この他、                      
2月2日封切りの『ジェヴォーダンの獣』は第1回、   
        『地獄の黙示録』は第2回、      
        『オーシャンズ11』は第3回、     
        『マルティナは海』は第4回。     
2月9日封切りの『化粧師』は東京国際映画祭の特集、  
        『恋ごころ』は第4回。        
2月16日封切りの『沈み行く女』は第6回。       
2月23日封切りの『ヘドウィク・アンド・アングリー・インチ』は第4回
にそれぞれ紹介があります。              


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井口健二