メーコの芋ちゃん日記

2003年05月30日(金) 2度目の検診

連日辞書と格闘しながらも、なぁ〜んの学習結果も得られないまま2週間を過ごしてしまったメーコは、メーコの余りの自覚の無さに危機感を抱いてしまったらしい面持ちのダーリンに付き添われ、2度目の検診へと向かった。
今回は、ベイビーの心音を聞いたり、例の花市場ならぬ子宮ガンの検査もするという話。
看護婦さんの話によると、今回から妊娠7ヶ月(27週)までが月に一回、その後28週から35週までが2週に一回、そして36週以降出産までが週に一回のペースで検診を受けるといい、
どーやらこれは日本と同じようである。

受付を済ませたメーコは、前回同様中の個室に通され、まずは体重と血圧を測る。
その後、採尿を済ませ、待つこと十数分。 今日は「薄緑のおねーさん」が登場してメーコを別の部屋に案内してくれた。
今回の部屋は、前回よりもグッっと「それらしい」雰囲気である。 
壁には、女性器の説明や胎児が成長していく過程のポスターなどが貼られ、細々とした検査器具なども置かれている。
が、以前メーコが日本で見たような、「これが産婦人科じゃい!」と言わんばかりのカーテン付きの内診用ベッドは見当たらない。 その代わり、フツーの椅子が一脚と、美容院や理髪店にあるような肘掛け付きの椅子が一脚置いてある。 「ここでどーやって診察するんかいな?」と、クビをかしげていたメーコであったが、そのギモンは数分後に解明された。

美容院まがいのその椅子は、ボタン一つで高さや角度が調節できる、「変幻自在診察マシーン」であったのだ。
「それじゃあ、まずは子宮ガンの検査からね」、の看護婦さんの言葉と同時にその椅子はぐぃぃぃ〜ん、と音をたてて傾き、あっ!っと言う間に内診台に早変わり。 メーコは思わず、「おぉ〜っ!」っと叫んでしまった。
日本の内診台は、カーテンで仕切りがされていて、その向こう側で何が行われているか分からず何となく不安な気分になってしまうが、この変幻自在診察マシーンだと、一応ひざから下に風呂敷より一回り大きな紙のシーツをかけて覆いはされているものの、看護婦さんが顔を上げればスグ見えるようになっており、なかなかどーしてスグレものである。
が、しかし、ご丁寧に「はい、それじゃーこの器具を入れますからね〜」だの、「こーゆー器具で細胞を取るんですよ〜」だのと、一回一回怪しげな器具を見せて説明してくれるので、怖がりの人には日本式の方が向いているのではなかろうか、とも思う。

そんなこんなで悩んでいるうちに、5分も経たずに子宮ガンの検査は終わってしまった。
すると次は、「じゃあ、いよいよベイビーの心音を聞くわね」、と言われ、下半身はそのままの状態で、背もたれだけが水平に傾けられた。
メーコは、自分でもどーしてこういう突飛な発想が浮かぶのか良く分からないが、この瞬間、「♪赤上げて、白下げて、赤下げないで白上げる♪」の旗揚げ体操の選手権をやらせたら、間違いなくこの機械が優勝するであろうと確信し、是が非でも出場させたい衝動に駆られてしまった・・・。 芋ちゃんが、こーゆーメーコの血を受け継がずに成長してほしいと願う気持ちは、メーコだけのものではないハズだ・・・。

そんなメーコの不安には気づくハズもなく(気づかれたら却ってコワイが)、看護婦さんと薄緑のおねーさんは、着々と心音検診の準備を進めていた。
仰向けになったメーコの下腹部にゼリー状の薬を塗り、ハンディカラオケのマイクのような機械をお腹にあてる。 すると、「ドクドクドクドク・・・」と、かなり早いペースの、でもしっかりとした心臓の音がスピーカーから流れてきた。
「おぉ〜っっ!!」、と、またしてもメーコは声を挙げてしまった。 
カンドーである。
まだ、姿もカタチも見たことのない芋ちゃんの心音。
タバコを吸い、酒を飲み、ありとあらゆる不摂生をし続けたメーコが、「ホントーに元気な赤ちゃんに育ってくれているのだろうか?」と、いつも抱いていた不安を打ち消すかのような力強い心音。 看護婦さんの、「とっても元気なベイビーね」の言葉とともに、メーコは思わず、うるうるとナミダを流してしまった。
その様子に気づいた薄緑のおねーさんが、「ハズバンドにも聞かせてあげなくちゃね」と、待合室にいるダーリンを呼びに行ってくれた。

暫くしてダーリンが登場し、二人でカンドーを分かち合ったのだが、なぜかダーリンは、感動よりも驚きの方が大きい様子。
フシギに思ったメーコは、検診を終え家に向かう車の中でダーリンに聞いてみた。
「ねーねー、芋の心音聞いてカンドーしなかったのー? メーコなんてさー、思わずうるうるして泣いちゃったのにー」と、少々責めるように尋ねたメーコに、ダーリンも苛立たしげにこう答えた。
「いきなり名前呼ばれて、手〜引っ張られてヘンな部屋に連れてかれたと思ったら、目の前に女の人の足おっぴろげた姿があって、その横で看護婦さんがニコニコしてるじゃないですか!
良く見たらメーコさんで、ヘンな機械から心臓の音が聞こえてたからようやく分かったけど、ビックリした方が大きくって、カンドーしているどころじゃなかったんですよ!」と。

「そりゃそーだ」と、納得したメーコは、アメリカでは、妊婦に対する説明はこと細かで丁寧だが、妊婦のダンナに対しては説明が不十分であるということを悟って2度目の検診を終えたのであった・・・。
メーコもダーリンも、驚くことがいっぱいだぁ!   ・・・つづく。



2003年05月23日(金) 初検診の後で

初検診後のメーコの日々は、辞書との格闘に明け暮れた。
看護婦さんが渡してくれた雑誌は全部で5冊。 それに加えて、出産までのスケジュール・妊娠中の諸症状に対する対応策や万が一の時の緊急連絡先・及び各種検査の概要などが書かれたファイルが1冊。 これらが全て日本語で書かれているのであれば、「ちょちょいのチョイ」の量であるが、ぜぇ〜んぶ英語、しかも普段使わないような医学用語グッチャリとなるとそうはいかない。 一行読んでは辞書を引き〜、また一行進んでは辞書を引く〜、といった作業が延々と繰り返されるのだ。 堪え性のないメーコにとってはまさにゴーモン。 が、しかし、芋ちゃんのためとあっては致し方ないので、気合いを入れて取り掛かることにしてみた。

まずは、スケジュールなどが入ったファイルを開いてみる。
一目見たところ、難易度は「86」くらいかと思われる。(何を基準に難易度を出したのか分からんが) 5行目くらいまでは辞書なしで何とかクリアー。 「なぁ〜んだ。メーコってば頭いいじゃん」といー気になったのもつかの間、6行目から「魔界の呪文」が続々登場。 日本を出る前にパパちゃんに強請って買ってもらった電子辞書に登場願うが、一般用語でないため敢え無く敗退。 なんかクヤシイ。 仕方がないので、厚さ8センチはあろうかというダーリンの「講談社英和中辞典」を引っ張り出し、本格的に戦闘開始。 ちなみに、本筋には全く関係ないが、メーコは個人的に、辞書は「三省堂」が好きだ。(これまた、別にワイロは貰ってまへん)

戦闘開始から2時間15分。 ようやく1枚のスケジュール表が読み終わった。
言うまでもなく、メーコはこれだけでもうグッタリである。
が、「魔界の呪文」の解読にはどうにか成功した。
「パップスメアー」は、「アールスメーアの花市場」ではなく、「子宮ガン検査」のことであった。
日本ではどーだか分からんが、こちらでは最初の検診の時に必ずやるらしい。
「エーエフピーテスト」は、味の素ギフトフーズであろうはずもなく、妊婦の血中タンパク値を調べ、胎児に器官障害などがないかを調べる検査のことだそーだ。
「トリプルスクリーン」も、この「AFPテスト」を含む同様の検査の総称で、血中タンパク値からダウン症や脊髄障害の有無を調べるらしい。 ・・・同じ内容の検査だったら、わざわざ別称で呼ぶな、っちゅーモンだ。
「ウルトラサウンド」は、そのまま訳して「超音波」。 ちょっと考えれば分かったことだったのに、魔界の呪文に惑わされてしまった自分が嘆かわしい。
これは、病院により実施の時期はまちまちらしいが、メーコが検診を受ける病院では、費用がかかることもあって余り初期段階ではやってくれないらしい。・・・ケチだ。
最後の「アムニオセンティーセス」は、怪獣の名前ではなく「羊水検査」であることが判明した。 日本では、人権問題だとか何だとかで余り一般的でないという話を聞いたが、こちらでは、先に出たAFPテストやトリプルスクリーンで異常が見られた場合、より詳しく調べるためにこの検査を実施するそーだ。 特に、メーコのように、悔しいが世界保健機構規約上「高齢出産(35歳以上での初産)」に当たる人間に対しては、どこの病院も羊水検査を勧めているらしい。 「自称26歳」のメーコとしては、何としても避けて通りたい検査である。

その後も、電子辞書・英和中辞典・タースケが送ってくれた日本語の妊娠手引書を駆使しての格闘が連日続いたが、どー頑張っても「1日2ページ」が関の山。 しかも、おバカなメーコは一度調べた単語をすぐ忘れてしまい、何度も何度も探し直しては「この前出てきたじゃんよー」と、一人でイライラ。 その上、「講談社英和中辞典」が、「中辞典」と謳っているくせに載っていない単語が多くてますますイライラ。 やっぱり、辞書は「三省堂」がいいのだ。

5冊の雑誌が、出産までの心構えや月を追っての体の変化、妊娠中にありがちな諸症状の説明や安産のすすめなどが書かれている「であろう」というところまでは分かったが、詳しい内容はさぁ〜っぱり、のまま2度目の検診の日が近づいてきてしまった。
心配そうに、「メーコさん、勉強の成果はあがりましたか?」と尋ねるダーリンに、「書いてあることは良くわかんないけど、全部の雑誌を読み終わる前に間違いなく出産日を迎えることだけはわかったよー。 あとねー、講談社の辞書は使えないことも良くわかったー」、とノー天気に答えたメーコを見て、「オマエが母親として使えないことも良く分かったぞ・・・」と、ダーリンが心の中で呟いたであろうことも分かったような気がしたメーコであった。

・・・でも、誰が何と言っても、辞書は「三省堂」だ!



2003年05月17日(土) 初検診

いよいよ、待ちに待った初検診の日が来た。
今日は、ダーリンも休みを取ってメーコに同行。
こんな時だけは、アメリカ嫌いのメーコも「いや〜っ、アメリカってホントにいいですねぇ〜」と、水野晴夫さんになってしまう。
何しろこちらでは、何処へ行くにも「夫婦一緒」が当たり前。 それに、「男性は入ってこないでよ」的な場所も女子トイレを除いてほとんど無いからして、女性用の下着専門店で男の人が一人で買い物している姿を見たって誰も「あの人アヤシイわね」とは思わない。 なのでダーリンも、「それが当たり前」の如く休みを取って同行してくれるつもりになったらしーのだが、そんなダーリンも産婦人科は初体験(ま、そう何度も経験されてたら嬉しくはないが)。 病院に来たところまでは良かったのだが、車を降りる段階になって「女の人ばっかりだったらどーしよう?」と、チョット尻込み。 「ダイジョーブですよ。 心配ないから早く来てくさい」と、手を引っ張ってドアを開けたら、正に「女の人ばっかり」。 メーコも一瞬「ヤバイ!」と思ったが、ダーリンが「ほら〜」と言葉を発する前に、「今日はたまたまですよ」と言い切り、中に連れ込んでしまった。 ・・・自分だって初めて来たくせに、「今日はたまたまです」と言い切ってしまう、「ママちゃん方の血」がなせるズーズーしさが、芋ちゃんには遺伝しないことをメーコは願う・・・。

中に入ってまずは受付。 事前に郵送されてきた問診票やら受付票を提出し、順番を待つ。
待合室を見回すと、「ここは産婦人科の待合室だからして、“多分”妊婦さんであろう」と思われる女性が数名。 なぜ「多分」なのかというと、みぃ〜んな超デブで、子供がいるからお腹が出ているのか単に太っているだけなのか識別不能なのだ。 メーコは一瞬、自分が間違ってエステサロンに来てしまったのではないかと不安になったが、名前を呼ばれて中に入ると、どーやらエステサロンではないらしかったので安心した(当たり前だってか?)。
とは言っても、メーコが想像していた「病院」という雰囲気からもほど遠い様子である。
チラッと見渡した限りだと、「ロの字」にぐるっと廊下があり、その廊下に沿って小さな部屋が点在し、どーやら名前を呼ばれた妊婦さんたちはそれぞれ個室に入って検診を受けるらしい。 個人のプライバシーを重んじるお国柄のせいかただ単にこの病院を作った人の好みなのかは分からんが、ともかく半信半疑のままメーコもその中の一室に通された。

部屋の中は、書類が山積みにされた大きな机が一つと椅子が2つ。一応壁に赤ちゃんの写真などは貼ってあるものの医療器具といったものは一切なく、「やっぱりここはエステのカウンセリングルームか??」と、再びギワクが浮かび上がる中、白衣のワンピースならぬピンクの上下に身を包んだおねーさん登場。 「ピンクの上下」がますますエステっぽいのだが、公私合わせたメーコの経験上、アメリカで日本のような白衣のワンピースを着た看護婦さんにはお目にかかったことがないので(断定はできないけど、多分存在しないと思われる)これにはさほど驚かず。 おねーさんは手短に自己紹介を済ますと、抱えてきたファイルに目を通しながら問診に入り、続いて検尿・採血をするようメーコに指示した。

検尿と採血が終わると、再び「エステのカウンセリングルームもどき」の部屋に戻され、今度は出産までの検診のスケジュールについての説明を受ける。
「次回はね、パップスメアーのテストをするわ。 それから・・・アナタは出産時年齢が35を超えるから、エーエフピーテストも受けた方がいいわね。あ、希望があればトリプルスクリーンも受けられるわよ。 それと・・・20週くらいでウルトラサウンドね。 あと、場合によってはアムニオセンティーセスもするかもしれないわ。」
と、おねーさんの口からは次から次へと魔界の呪文のような言葉が飛び出してきたのだが、全くもってメーコには理解不可能。
「アールスメーア」だったら知ってるぞ。オランダの有名な花市場だかんね。でも、どー考えても出産には関係なさそーだ。「エーエフピー?」AGF=味の素ギフトフーズなら分かるんだけど? それから何だ?「トリプルスクリーン?」 子供の頃大好きだった「トリプルファイター」の親戚だろうか? 「ウルトラ何とか」とか「何たらザウルス」も出てくるみたいだからそーかもしれないね。 ・・・あ、そう言えば「トリプルファイター」の始まりの方の曲の出だしは、どんなんだったっけ??

・・・と、まぁ〜ったく検査とは関係のないことでメーコが悩んでいるうちに、おねーさんは説明を終えてしまった。
「大体こんな感じだけど、何か質問はある?」と聞かれたが、「○○とは何ですか?」の「○○」の部分の魔界の呪文が繰り返せず、ついつい「いいえ、何もありません」と答えてしまった・・・。 世界をマタにかけていたツアコンも、4ヶ月過ぎれば「ただの日本人」なのである・・・。 くっそ〜。
その後おねーさんは、山ほどの雑誌をメーコに渡し、「できるだけ早い時期に読んでおいてね。 それじゃあ今日はこれでおしまい。 次の検診は2週間後だから、予約センターで予約を入れて帰ってね☆」と明るく言い残して部屋を出て行ってしまった。 
「え?? 検診は?? 変ちくりんな台に乗ったりとか、赤ちゃんの写真とか撮ったりしないの?? 本に書いてあった通り、ちゃ〜んとフレアーのスカートはいてきたのに??」と、メーコは呆気にとられてしまったが、仕方がないので言われた通り次の予約を取って帰ることにした。

待合室に戻ると、予想通り待ちくたびれたダーリンから「どうだった?どうだった?赤ちゃんの写真撮った?」と、矢継ぎ早の質問が浴びせられた。
「う〜ん。 ウルトラマンとかトリプルファイターとか出てくるみたいだけど良く分かんない。ともかく、2週間後にまた来て下さいって。 あとねー、この雑誌、値段がついてるから売り物みたいだけどタダでくれたよー。これも診察代に込まれてるのかねー? でもさー、今日いた女の人たち、妊娠前からあんなに太ってたのかなー?それとも妊娠してから太ったのかなー? フシギじゃなーい??」
・・・と、答えるメーコに注がれるダーリンの眼差しが、「オマエの思考回路の方がよっぽどフシギだぞ」と物語っていたことは言うまでもない・・・。

こうして、何一つ理解しないままメーコの初検診は終わったのであ〜る。
・・・こんなんでいいんかいな??と思いつつ2度目の検診へ☆



2003年05月09日(金) メーコの不安

初めて妊娠した人は誰でも、大なり小なり色々なことが不安になって落ち込んだりイライラしたりすると言うが、メーコもどうやら人の子だったらしく(チョット安心した)、芋ちゃんの誕生が確認されてからというもの、あれやこれやと色んなことが不安になってきた。
高齢(自分ではそうは思ってないのだが)+外国での出産に始まり、「元気な姿で産まれてきてくれるだろうか?」「お酒やタバコの影響はないだろうか?」、はたまた「育児制度も良く分からない環境で、きちんと育てていくことができるだろうか?」と、行き当たり人生まっしぐらだったメーコからは考えもつかなかったような、先の先のことまでが不安に思えてくる。
「ねー、大丈夫かなぁ?」「本当に平気かなぁ?」と、顔を見る度に口にするメーコに、ダーリンは「俺とメーコの子なんだから心配しなくて大丈夫ですよ」と、優しく答えてくれるが、その、「俺とメーコの子だから」ということが一番メーコを不安にさせているということに彼は気づいていないのである・・・。

そう。何を隠そう芋ちゃんは、メーコ顔負けの負けず嫌いさとせっかちさを持って誕生した。
「自分が初孫を産むんだ!」という、メーコが長年密かに抱いていた夢と使命感を、「僕たちン所には子供は期待しないで下さ〜い」などと公言しておきながら、ねーさんに匹敵する身勝手さでタースケに打ち砕かれてから僅か2週間、「ジージとバーバの愛情をふくちゃんだけに渡してなるものか!」と言わんばかりのスピードで、芋ちゃんは誕生したのだ。
メーコはマジでビビった。 正直言って、嬉しさよりもビビりの方が大きかった。 「陽性」をクッキリと示す妊娠検査薬を眺めながら、「なんつー子だ」と思わず口走ってしまったほどビビってしまったのだ。

それからというもの、初めての妊娠・出産に対する不安よりも、芋ちゃんがどんな子になるのだろう?という不安の方が、大きく大きくメーコの頭の中を駆け巡った。
真夜中に突然、くわえタバコに一升瓶を抱えて産まれてくる芋ちゃんの姿を夢に見て飛び起きたこともある。
「いつまでもこんなトコに閉じ込めておくんじゃねーぞー」と、バシバシ腹を蹴りそうな子になりそうで、枕をお腹に抱えて寝るようになった。
が、しかし、それよりも何よりもメーコを不安にさせたのが、「隔世遺伝」の四文字である。
ねーちゃん・ママちゃん・バーちゃんという、「最強身勝手三官女(?)」の遺伝子が混入し、予定日もへったくれもなく産まれてきてはしないだろうか?
「屁理屈たれ男」のパパちゃんと、「何事もカタチから」のタースケの遺伝子が混じりこみ、「産道を抜けるにはこの角度とこのカタチから」などと考え込む胎児になってはしまわんだろうか?
あるいは、産まれてくるなりメーコに説教をたれる可能性も考えられる。
それよりもっと怖いのは、ダーパパ(「ダーリンのパパ」の意)・ダーママの遺伝子を受け継ぎ、「さしずめアレだな、腹ん中っちゅーのはトンネルみたいなモンだな」とか何とか言いながら、山ほどの薬を抱えて産まれてくるような子供になってしまったらどーしよう?
あー、不安だー。 どーしたらいいのだー?

・・・が、そんなメーコの不安も、ダーリンには一笑されてしまった。
「そーんなあれこれ心配しなくたって、元気ないい子に産まれてくるから大丈夫ですよ。
俺の赤ちゃんなんだから、モリモリ何でも食べて、大きい子で産まれてくるに決まってるでしょー」と。
・・・この瞬間、メーコは自分がもっとも身近な遺伝子を忘れていたことに気がついた。
「肉食怪獣・でかベビー」が産まれてくる可能性があるということを。

この日の夜、メーコは「はじめ人間ギャートルズ」に出てくる骨付きマンモスの肉を、バリバリと食べあさりながら産まれてくる芋ちゃんの姿を夢に見た・・・。
胎教に悪いのは、アメリカの医療制度ではなくメーコ自身とメーコの身内のようだということに気づき始めたメーコは、暗〜い面持ちで初検診の日を待つのであった・・・。 つづく



2003年05月01日(木) アメリカはキライだ・2 〜そしてねーさんもキライだ〜

今に始まったことではないが、またしてもねーさんにやられた。
先日、メーコは「世界をタマに駆ける添乗員のつぶやき」と題した原稿(←っつーほど大したモンではないが)をねーさんに送った。 なぜならば、メーコは結婚をしてオーランドに引っ越したとは言え仕事はあくまでも「休職」扱いになっており、移民局からの渡航許可が下りたら即座に日本に帰り、再び添乗の仕事をする予定だったのだ。 なので、それまでのツナギとして原稿を送ったつもりだったのに、世界でもトップクラスを誇る自分勝手なセーカクのねーさんは、本人になぁ〜んの伺いも立てずに「芋ちゃん日記」なる新コーナーを作ってしまった。
何たる暴挙。何と言う自己中なヤツ。 メーコは時々、真剣に「ブッシュとフセインとビンラディンとねーさんでは、誰が一番自分勝手だろうか??」と考えることがあるが、「そりゃ〜メーちゃんでしょ」という、選択肢に入っていないメーコの名前が挙がりそうな気がして、未だに怖くて誰にも聞けない・・・。

ま、それはさておき。
勝手にねーさんに公表されてしまったが、その通り、メーコとダーリンの間に「芋ちゃん」が授かった。 近年まれに見る、めでたいことである。 だが、実は芋ちゃんの誕生は、メーコのような母親に宿ってしまった芋ちゃん自身もさることながら、メーコにとってもものすご〜い苦難の始まりだったのである・・・。 そして、芋ちゃんのその誕生が確認されるまでにかかった驚くほど長い道のりの中で、メーコはますますアメリカがキライになってしまったのであ〜る。
それではまず、病院に辿り着くまでの長〜い道のりから・・・。

メーコの最初のムカッ!は、アメリカと日本の保険制度の違いから。
日本では、社会保険なり国民健康保険なりに加入さえしていれば、基本的にどこの病院・医院でも診察が受けられるが(←だよね?)、アメリカでは何種類もの保険会社が、それぞれ契約している病院・医院でないと診察が受けられない。 しかも、保険が使えないとそれこそ目が飛び出るような高い代金を払わなくてはならないため、まずは自分が加入している保険会社が、どこの病院・医院と契約しているのかを調べることから始めなくてはならないのだ。

メーコの場合は、幸いダーリンが加入している会社の保険に、「扶養家族」で入れてもらってあったため、「診療費貧乏」になることだけは免れた。
が、その保険会社がどの病院と契約しているかは自分で調べるしかなく、メーコは連日、インターネットの画面と地図を照らし合わせながら、自宅の近くにある医者を探す作業に追われるハメとなった。
そしてようやく、自宅から車で5分ほどの所にある総合医を見つけ、ダーリンに付き添ってもらってまずは血液検査を受けに行った。 ・・・ちなみに、家庭用の妊娠検査薬で妊娠の可能性が分かってからここに至るまで、かかった日数は3日である。

ところが、ようやく探し当てた総合医の門をくぐり、「妊娠の血液検査を受けたいのですが・・・」と申し出たところ「予約がないと検査は受けられない」とのこと。 一日も早く確かな結果を知りたかったメーコは、翌日の朝一番に予約を入れてもらい再度出直し。 ・・・これで、さらに一日追加である。
んで、翌日眠たい目をこすりながら8時半に医者に行き、「いよいよ検査だ!」と思いきや「検査は別の病院で行うのでそっちへ行ってくれ」との指示。 医療に限らず、アメリカでは何でもかんでも細分化され過ぎていてムカッ。
まぁ、そうは言っても仕方がないと自分を宥め、言われた通り別の病院に行って血液検査。 しかしここでも、1時間近く待たされたのに検査は3分で終わり、またまたムカッ。 その上、「結果は総合医の方に送るから、2日後に取りに行ってくれ」と言われ、されにムカッ。 ・・・この日、もし血圧も測ってくれていたとしたら、メーコ史上かつて例を見ない高血圧が記録されていただろうことは間違いないであろう。

で、最初に総合医の門をくぐってからようやく4日後、検査の結果を受け取りに。
ここまでで既に、累計ムカ数は10ちかくになっている。 なのにまた、この日も散々待たされた挙句にメーコに渡されたのは1枚の紙切れと「コングラッチュレーションズ!(=おめでとう!)」の一言。 これだけムカついた状態で聞いた「おめでとう!」も、メーコ史上初めてであった。 ・・・アメリカの医療制度は、胎教には良くないと思われる。 ・・・ムカッ。

そして、この次がいよいよ産婦人科である。
メーコは、再びインターネットの画面と地図とにらめっこする作業を繰り返し、知り合いやダーリンの友達からも話を聞き、やっとの思いで「あそこの病院ならおススメだよ」と言われる総合病院の産婦人科を見つけ、予約を取る段階にまでこぎつけた。 ・・・うるうるうる。 ここまで来るのに、何と長い道のりだったことか。 でも、もうここまで来たらダイジョーブだよね。 後は予約を取って、先生に診てもらうだけだもん。
・・・と、思ったメーコが甘かった。 ようやく「ムカ地獄」から解放されると信じていたメーコは、病院からの回答を聞いて卒倒しそうになった。
最初の検診が、一ヶ月後だと言うのである。
「そんなハズはないだろう??」と、メーコは何度も自分に問いただした。
「聞き間違いか?」とも思い、看護婦さんに何度も何度も聞き直したが、何度聞いても言われたその日に間違いはないらしい。
不安になったメーコは、アメリカで出産したことのある知り合いや友達に電話をかけまくって様子を聞いたが、なんとアメリカでは、特別な場合を除き妊娠10週を過ぎないと医師に診察してもらえないというのが「フツー」なのだそーである。
・・・いや、それでも解せない。 ぜぇ〜ったいに解せない。
いくらお国柄が違うとは言え、赤ちゃんの発育に何の違いもないだろう。 
一般的に、「妊娠は初期が一番大事」と言われているのに、一ヶ月も放っておかれるなんてぜぇ〜ったい解せないぞー。
どーしても納得できなかったメーコは、「在米生活20数年・二人の子持ち」という知り合いのモーさんに電話をして怒りと不安をぶちまけた。
「モーさんさー、いくらこれが“フツー”って言われたって、やっぱり解せないよー。 第一さー、そーんなに放っておかれて芋ちゃん可哀想じゃーん。 もしその間に芋ちゃんに何かあったらさ、どーすりゃいいワケ?? アタシ、やっぱりアメリカは好きになれないよー。 あ〜ん、アタシも芋ちゃんも不幸だぁー」

・・・と、息つく間もなくまくし立てたメーコに対してモーさんは、優しく且つ冷静に、メーコの怒りと不安に答えてくれた。
妊娠10週目以降でないと医師に診てもらえないのは一般的だが、つわりが激しかったり出血があったりなどの非常時には「緊急扱い」でちゃんと検診してもらえること。
アメリカでは、日本ほど「至れりつくせり」で面倒は見てもらえないため、自分でも勉強したり積極的に医師に質問したりする心構えを持たなくてはならないこと。
言葉の問題や環境の違いは大きいけれど、アメリカでは出産も保険が適応されるので、悪いことばかりではないこと。
・・・等々を聞かされ、大分気持ちも落ち着いてきたメーコにモーさんは一言言った。
「ところでさぁ、メーちゃん。 さっきっから出てくるその“芋ちゃん”ってなーに?」と。
「ああ、“芋ちゃん”? メーコのねーさんがね、つけてくれた赤ちゃんのあだ名なの。 弟んところが“ふくちゃん”で、ウチが“芋ちゃん”なんだってさ」
と、答えたメーコにモーさんはすかさず言った。
「“ふくちゃん”は可愛いけどさー、“芋ちゃん”ってダサくない?? お姉さん、弟さんの時は一生懸命考えたんだろうけど、アナタん時は手抜きしたわねー、きっと」と。

メーコは、アメリカもキライだがねーさんのことはもっとキライになった・・・。(←って言いながら、本人は結構気に入っているのだ) 

さぁ! いよいよ「初検診」だー! ・・・つづく。


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