wakaP〜の好物三昧

2003年12月28日(日) ローランド「D50」

昨年、音楽雑誌に楽器メーカーであるローランド社会長が米国でロック殿堂入りを果たしたと言う記事が載っていた。それだけローランドの楽器は国境を越えて認知されているのだなぁ、と感心した。ハードとしてどんなに優れていても楽器として感性に響かなければ、俺達こそが世界をリードしていると自負する米国のミュージシャン達から認められる訳はない。D50はそんなローランドが87年、世に出した最高傑作(と、僕は信じている)デジタル・シンセサイザーである。そして今以て最も愛用しているシンセなのだ。

ワークステーション型シンセ全盛の時代になんて時代遅れな…と、思われるかも知れないが、ピアノは数百年の歴史を背負っているでしょ。その楽器にしか出せない音があるとすれば、それはいつまでも愛用すべきと思う。

80年代は電子楽器が最も花開いた時代である。それまでのシンセサイザーは「月の光」の富田勲や「スィッチド・オン・バッハ」に代表される高価で難解な「高嶺の花」的存在か、所謂アナログシンセと言う単音からせいぜい数音しか鳴らない電子発音体のどちらかであった。その状況を一変させたのが83年、ヤマハ・デジタルシンセ「DX-7」の発売である。新開発された「FM音源」によるエレピの音は全てのミュージシャン達の耳を奪ったと言って良い。今や当たり前となったMIDIをいち早く装備し同時16発音で20万円台と言う値段は、楽器として使えるシンセを一般人に開放した画期的な存在であった。勿論、僕も買った!

その4年後、D50はDX7に次いでベストセラー・シンセとなる。D50の特徴は「LA音源」と言われるPCM方式とシンセ音源をミックスした発音方式。楽器音は鳴り始めのアタック音が最もその特徴を表すと言われ、また波形も複雑である。そこで鳴り始めをサンプリングしたPCM波形で再生し、その続きをシンセ音源で繋げる方式を採ったのだ。更に音色毎に設定可能なデジタルエフェクターを内蔵し、一台のみでライブ演奏が完結できるようにしたのだ。

でもここまではハードの話。一番の魅力はその音色にある。「ファンタジア」や「OKコーラル」の音をもし聴けば、絶対に「なんかのCDで聴いたことある」と思うはずだ。僕は特に「フルーティッシュ・ブラス」と言う名前のブラス音が大好き。この音は指のアタックでその音色が微妙に変化するので、バックからソロまで、POPSからJAZZまでなんでもイケル便利なサウンドなのだ。実際、僕の場合D50にコルグM3Rと言うM1(これもヒットしましたね!)音源モジュールの音をMIDIでブレンドして使っているのだが、この二台の相性がとても良い。(ブレンドの中身は企業秘密だけど…笑。)

昔の話だが、世界の有名ミュージシャンが度々出演するライブハウスで開催された個人的パーティーでそこに据え置かれているD50を弾く機会があった。そこには歴代の奏者がインプットした宝石のような音色の数々があったのだ。その時僕は自分のメモリーカードが無かったのを死ぬほど悔やんだ。そろそろ新しいシンセが欲しいと時々思うが、D50の音も出て更に新しくて良い音色が入ってるみたいなシンセ、ローランドさん、作ってくれないかな〜。(笑)



2003年12月08日(月) ジョニ・ミッチェル 「シャドウズ&ライト」

「シャドウズ&ライト」はジョニ・ミッチェルが1979年9月、カリフォルニア州サンタ・バーバラ、カウンティ・ボウルで行った「伝説のライブ」を収めたビジュアル作品だ。何しろバックミュージシャンが極上。パット・メセニー(g)、ジャコ・パストリアス(b)、ライル・メイズ(key)、マイケル・ブレッカー(sax)、ドン・アライアス(ds)といった夢のようなメンツが彼女をサポートする。

白状するが僕がこの作品を知ったのは90年代になってからだ。
友人のギタリストに「フュージョンが好きと言うならこれを聴かなければモグリだ」と言われビデオを貸してくれた。ジョニは当初「青春の光と影」等で知られるフォーク・シンガーであり、その後チャーリー・ミンガスのトリビュート・アルバムを発表するなどジャズに傾倒していった事は知っていたが、何となく難しそうなイメージがあったので敬遠していたのだ。

しかしビデオを見て一曲目のタイトル曲からぶっ飛んでしまう。それはシンガー対バックと言う関係でなく、ジョニを軸に集まった超一流のジャズ・ミュージシャン達の個性が絶妙のブレンドで溶け合っている、超贅沢なインタープレイの場であった。

切なく繊細なジョニの旋律は一見滑らかに動いていく様に聞こえるが、コード進行とリズムは複雑に絡み合ってシンコペーションや変拍子が次々に表れては消えていく。その上をパット・メセニーのギターソロが心地よい緊張感をもって展開する。僕は、今までこの作品を知らなかった事を悔やみ、かつ恥じた。

特に、今は無きジャコが素晴らしい。お得意、ディジタル・ディレイ(この時代だとテープ・ディレイ?)を活かした一人多重ベースソロはもちろん、ジョニの唄の世界にジャコの世界を重ね合わせるように絡みつくベース・プレイ、自由一杯に繰り広げるマイケル・ブレッカーとのブルース・ランニング等など、オーディエンスの耳を引き付けて離さない。

ライル・メイズはバックに徹しており、シンセやエレピを多用しているがパットとのデュオになると、今に繋がるパットメセニーグループのサウンドが一杯に繰り広げられる。(一曲、ロックンロールのソロが面白い。…笑。)ライブは日没に向けて、益々盛り上がっていく。ジョニはギター片手に弾き語りをしている風なのだが、全体から涌き出てくるサウンドは紛れも無いジャズ。そしてラストは、黒人コーラスとライルの荘厳なシンセソロで終わる。

ジョニ自らが監督、インサートされた様々なイメージ映像には賛否両論あるが、ここにある宝石のような音の集まりは正に70年代が生んだ「奇跡の音」であると思う。


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