Movin'on without you
mako



 蜘蛛の糸。

もうダメだ、と、
ハッキリと気がついたのは
たしか、真夜中の出来事。

おなかの真ん中らへんの
いちばん、芯みたいな部分が
はっきりと自己主張してくる瞬間が
あたしの人生には数度だけ、あって、
懐かしすぎる痛みに
絶望すらしました。

こうなるともう、
自力で止めることなんてできない。
いや、今なら、
もしかして今なら、止められるの?

こうは、なりたくなかったんです。
なることなんて
どうなったって無いと思っていた。

誰がどう見たって
魅力的すぎるあなたの
殻の外側に、ほんの少し触れたって
重力に逆らえないとか
単純すぎやしませんか。

蜘蛛の糸みたいに
天上から垂れ下がってきた一筋の糸を
掴んでしまうなんて
安直すぎやしませんか。

2023年03月29日(水)



 握った腕の感触だけ。

最後に一度だけ、抱いてあげる。
そう言ったひとは、ほんとうに一度だけ
あたしを抱きました。

永い永い時間が経って
あたしが覚えているのは、
背中に手を回したときの
ザラザラとした触感だけです。

一度だけしか抱かれないことが
あんなに辛いと知ったとき、
でも、後悔はまったくしなかったとき、
もう、二度目を約束できないセックスは
しないでおこうと、思いました。

天から人間界に降りてきた
そのひとの、腕を握ったときの感触だけが、
どうしても忘れられない自分に
気がついた時に
もうこれは、
踏み越えてしまったのだと
悟ってパニックになって
心が動いた自分を
今、じんわりと受け止めています。

会えない時間と距離しか
忘れる方法はないこと。
だから、大丈夫なこと。
全部、ずっとずっと前に経験したから。

人をもし殺めたと聞いても
一緒に逃げようと思えた人は
方程式がぶっ壊れた人は
人生にひとりだけだと思っていたのに、

愛することだけ長けてしまって
あたしは、愛される勇気がありません。

忘れられない腕の感触を
泣いて泣いて泣いて落ち着いた頃に
思い出して、これはいつまで
続く記憶なんだろうと
人間界に降りてきてしまった瞬間に
気がついたあの時に
もう止まらないんだろうと

とりとめのないことを、
ただただ、思います。

春が、来ます。





2023年03月27日(月)
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