『天使』 - 2002年08月30日(金) 朝起きると、背中に羽が生えていた。 翼。天使とかに生えている、あれ。 触ってみると、柔らかい。バトミントンのいいシャトルに付いてるようにちゃんとした羽が、流れにそって一枚一枚付いている。中々にリアルだ。 でも、感覚はない。一本抜いてみたけれど、髪の毛を抜くような痛みもなかった。 これの所為でなんだか寝苦しかったのか、と納得。寝返りもうてないわけだ。おまけに羽毛なので暑い。冬ならいいけど、今は夏だ。 抜けないかなと思って引っ張ってみたけどさすがに付け根には感覚があった。髪を抜かれるよりずっと痛い。 「どうしよう」 独り言を言ってみたところで、その翼が無くなるわけでもなく、私は途方にくれた。 こういう時は、どうするべきなんだろうか。病院?警察? さすがに今まで羽が生えたと言う人の話を聞いたことがないので、どうすればいいのか全く見当が付かない。 でも取りあえず、これじゃあ今日は学校にはいけないなぁ、と私は少し嬉しかった。熱はあるけど、他は全く元気な風邪で学校を休める時のような気分。 翼が生えちゃったら、仕方ないよね、学校行ってる場合じゃない。と、自分を納得させて、私はごろごろと横になった。 でも、寝づらい。翼があるので仰向けには寝れないし、横向きも少し辛い。かといってうつ伏せは、苦しい。 仕方ないので、起きて散歩にでも出ようかと思った。 けれど、またここでも問題が起きた。 服が着れないのだ。 あんなでっかい翼を通す穴が私の服に開いてるわけもなく。というか、翼を通せる服って言うのはどう言う構造になるんだか想像も付かない。 あるとしたら背中は取りあえず丸出しになる服だよなぁ。……金太郎の赤いやつみたいなのだろうか。そんな服はあったとしても着て人前に出れない。 困った。相談しようにも、今の時間は授業中だし、私には友達がそう多くはない。相談したところで、彼らにこの問題がどうにかできるものなんだろうか。 取りあえず、服が着れないことには外にも出れない。大問題だ。 羽が消えるまで、私はこの部屋に引きこもるしかないのだろうか。さっきの少し得したお休み気分は、切羽詰まった兵糧攻め気分に変わってしまった。 こんなに天気もいいのに。 綺麗に晴れた空を見て、ため息を吐く。 私はこの家で翼を抱えたままぼーっとしてるしかないのだ。 翼が生えるって、もっとファンタジックでわくわくするようなことじゃなかったっけ。こんな、しょうもない気分にさせる出来事じゃあないはずなんだけど。少なくとも、お話や宗教画の天使たちは服も着ていて、取り澄ましていた。 ヤツらの服はどうなってるんだよ−。とひとり呟く。 生まれた時から着ていたのか、皮膚の一部なのか。脱げないじゃん。 それとも、あの羽はこんなふうにしっかりした重いものじゃなかったんだろうか。 象徴としての、実体ではない翼。 飛べるんだよって事をあらわす記号。 本当は彼らは羽はなくても飛べたのかも知れない。 「なんだ」 そう思ったら急に体が軽くなって、背中の翼が消えていた。 羽が無くなって、軽くなるなんて変な話だけど。 もう二度と、羽が生えることはなかった。 ときどきちょっと残念に思う。一度くらい、飛んでみれば良かったかな。 ほんとうに、時々なんだけど。 相変わらず、発作的に何か言葉で埋めたくなる。半年ぶりくらいの発作。進歩していないなぁ。 でも、書くと楽になる。絶対人には言えないことや相談出来ないことをここで吐き出してみて、取りあえず脳みそを正常に戻す。 -
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埃の積もった本棚 |