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re-invention



 読売教師力セミナー

9月始めに申し込んだ読売教師力セミナー。
返事がないので,駄目だと思ってあきらめていたら,
思いがけず,先週あたりにはがきが届く。
2週間前にも名古屋に行ったので迷ったが,
迷うなら行くべきだと思い,いろいろ算段して名古屋へ。
星ヶ丘は車では何度も通った道だけど,
歩いてみると風景がずいぶん違う。
椙山女学園大学は思ったよりも新しい大学のよう。

読売新聞社からいただいたいくつかの資料は,なかなか魅力的。
思いがけず,数検の藤井さんにもお会いする。

さすがに役者がそろっていると安心感がある。
まずは和田先生の小学生への模擬授業。
動物園の便所掃除を16歳の少年の心情の変化を追う中で,
働くということを考えさせていくもの。
二台のカメラでプロのカメラマンが舞台上をとらえて,
それを舞台のスクリーンに投影している。
模擬授業でありながら,
子どもの表情をリアルタイムに映像で見せてくれるという仕掛が,
実はすごい。
いつも教師が見ている子どもの表情をとらえる映像と、
生徒から見た教師の姿に切り替わり映し出される。
だからリアルなやりとりが伝わってくる。
舞台で行われている仮想教室ながら,
そこに生まれているリアルな真実の風景が確かに見えてくる。
こういう仕掛けは今までに見たことがないもの。
生徒の座席も教師の立ち位置もきちんと計算されている。

一人一人の児童から聞き出すときの,
和田先生の立ち位置がいい。
うん,うん,といううなずきが,子どもの心を和らげ,
舞台の上ながら,隣に寄り添って思いを引き出していく。
言葉が足りない生徒には,何で?誰が?と問いかけ切り返す。
わずかな時間の授業ながら,
何を学んだのか,何が変わったのかを聞き出そうとするのは,
授業の目的がはっきりしているから。
ぶれない姿勢がここにも見える。
「働くということを,これまで自分のこととして考えたことがなかった。」
という本音は,ある意味衝撃的。
子どもを大事にしているようでいて,
子どもを単なる子どもとしてしか扱っていない
今の社会(大人達)の姿が見えてくる。

続いて中学生に向けての伊藤先生の授業。
教科を引き合いに出して,生徒に語らせる。
まずは「好きな教科は?」
次に「社会に出たときに,最も重要な教科はなんだと思う?」
そして「教科以外で大事だと思うものは?」
最初は語りやすい発問で緊張をほぐし,
次に本気で問いかける発問で真に迫るといったところだろうが,
とちらもなか難しい。
舞台の上では難しいのだけれど,
何のためにそれを言うのかといった,必然性のようなものが
生徒には感じられないからか。
人の授業を見ていると,生徒の気持ちが少しだけわかるもの。
「君たちは学校に行っている。いろんな教科を学んでいるのだけれど,この教科は将来役に立つと思うものは?」「役に立たないと思うものは?」
といった質問をダイレクトにぶつけるのも,面白いのではと思った。
生徒の学びに対する価値観が,ストレートに見えてくるのではないか。
そして,フロアーの方に
「今から思うと,あれが大事だったと思うものをきいてごらん」
これは面白い!フロアーにも自分にも緊張が走る。
さらに情報アシスタントの方を招いて,
バレーボールからアフリカに関わっていき,今本当にやりたいことは,バレーを教えることじゃなくて・・・というユニークな生き様にふれさせる。

パネルディスカッションは,前半は志水先生の問いかけで,
授業者がさりげなく行っていた基礎的なテクニックを紹介。
授業の組み立てや授業者の判断については大西先生が上手に引き出す。
鈴木先生と和田先生のここでの発言が,
この会のテーマに対して最も印象的だった。
鈴木:「数学で身につけるのは計算力」と生徒に言われたら,やっぱり「がくっ」としてしまうだろう。「社会は知識量だ」と言った生徒がいた。それって教科の敗北ではないか。この教科では,この力を付けるのだということが,キャリア教育のスタートだろう。もっと言うのなら,家庭かもしれない。家庭の中では,お父さんお母さんが話をすることが大事だと思う。生徒の問題ではなく,大人の問題だと思う。
和田:一番知りたかったのは,今日の授業で,働くことをどう考えたのか。職業に就く手段,アナウンサーになりたいなら,それにはこういう学校に行く・・・それは小学生でも知っている。でも,「働くってどういうこと?」と聞くと声が出なかった。そのことについて「今まで考えたことがなかった,聞かれたこともなかった。家で話したこともなかった。どういう過程でその職業に就いたのかを聞いたことはあったが,今どんな気持ちなのかを聞いたことがなかった。夜疲れて帰ってきても,次の日には現場の人のためにがんばるぞと言って笑顔で出て行く意味がやっとわかった」と子どもは言っていた。考えるきっかけになることが学校の中でなかったんだと思った。人ごとじゃないんだなと。
フロアーからの質問を受け付けると,製造業の方から刺激的な発言。
理科教育を進めるために小学校にも関わっている。最近円高で,製造ラインが海外にどんどん行っている。ものすごく厳しい状況に日本はある。小学校の理科授業に行っているが,この苦しい状況を伝えられない。日本では物を製造できない。プリウスもタイで作っている。今の小学校教育では,海外に行ってやろうと考えると全然駄目だ。自分の考えを,道徳じゃなく,世界で戦えるために自分たちがどうあるべきかを考えないと。ヨーロッパへ行ったら歴史。美術,音楽から入るが,そこで語れない人は,尊敬もされない。世界を見据えてほしい。
想定外ながら,真に迫る発言が出る。これを中学生にも聞かせたいもの。
評価についての質問は、なるほど。
いろいろなことが、効果があったかどうかで測られる方向に向かっている。
必要なことだが、チャレンジする気持ちを削がないようにしたいもの。

それを受けての玉置先生の授業は,フロアーに生徒を全員派遣して,
「働いていての喜びは,どんなものがありますか?」を10分間取材させる。
これは実に面白い企画。
残念だったのは,語る側にできるだけ短く・・といったこと。
この注意が,フロアーからのリアルで具体的な体験を語れなくし,
結果として生徒は,
「働く喜び」についてのキーワードを聞き取る作業になっていたのではないかということ。
だからその後、班で集約しても,それを説明せよと言われても,
出てくるのは実態のないキーワードのみ。
短時間ながら中学生に新たな出会いを創出できる機会だっただけに,
ちょっぴり残念。
とはいえ、今の立場にありながら、
授業にこだわり、挑戦される玉置先生の姿を見て、
授業できる今の自分の幸せを、もっと感じなければとも。

「これまで大切にしてきたことをきちんとやればいいのだ」ということや,
「大人が語ることが何より大事だ」というメッセージが十分伝わってきた。
大上段に構えなくてもいいのだ。
身近なところに、できることはあるのだということ。
アイディアと勇気をいただいて帰宅。


2007年10月23日(火) 借り物をそのまま拝借して
2006年10月23日(月) 生徒が出来る授業を目指して
2005年10月23日(日) 秋晴れの一日も原稿書き
2004年10月23日(土) 生徒の研究にワクワク


2010年10月23日(土)
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