TOM's Diary
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教習所ではじめての実技教習はAT車でコース内を回ることだった。 S氏のハンドルさばきはなかなかのものであった。 教官からも褒められるほどだった。
それもそのはずである。 S氏は自宅の庭でさんざん新車を乗り回していたのだ。
S氏はいままでクルマの運転には全く興味がなかった。 そのためエンジンのかけ方すら知らなかった。
納車された新車の運転席に座ったS氏は目の前に広がる光景に唖然とした。 見慣れた光景なのだが、なにも知らないことを思い知らされたのだ。 ハンドルを回すとクルマが曲がるくらいは判るが、メーターがなにを 意味しているのか?ハンドルの両側から出ている角がなんなのか、 さっぱり判らない。 まずはエンジンをかけようと思うのだが、それらしきスイッチが見つからない。
説明書を探そう。 クルマを置いていったディーラーマンが確か「これが説明書です」と言っていた 本があったはずだが、さて、どこにあるのか? 「ここにしまっておきます」と言っていたように記憶しているが、納車の喜びで どこにしまったのかはっきりと覚えていない。助手席の前の入れ物に気が付くまで 5分ほど社内のあちこちを触りまくった。説明書を見るとエンジンのかけ方が 載っていない。エンジンのかけ方くらい一番最初のページに載っていそうなものだが 注意事項などが永遠と100ページ近くに渡って書かれている。 生真面目なS氏はそれらを全て読み、大事そうなところには付箋紙を貼っていく。 ようやく注意事項が終わると、こんどは「操作早わかり」が続く。ドアの開け方や シートの動かし方、シフトレバーの動かし方が100ページ近く続く。 ついに日が暮れてしまった。 S氏はあきらめて部屋にもどり続きを読むことにする。
お茶をわかしたS氏は、もう一度説明書の目次を眺めてみる。 なんとエンジンのかけ方は280ページに載っていた。 「エンジンスイッチ」の説明のあと、エンジンのかけ方が載っていた。 ブレーキを踏み、シフトレバーがPに入っていることを確認して、 スイッチをひねれば良いのだな。 S氏は暗闇の中懐中電灯を片手にクルマに戻った。 カギを開けて、ポケットにしまい運転席に座る。 さて、エンジンスイッチの場所側から無い。 いったい、どうなっているんだ、このクルマは。 だいたい説明書にどうしてエンジンスイッチの場所が載っていないのだ?
S氏は持ってきたお茶を一口すすり落ち着いて考えることにする。 説明書の最初の方にイラスト付きで各部の名称が書かれたページがあった。 運転席周りのイラストのページを開く。 ハンドルの陰に隠れた場所にエンジンスイッチがあるようだ。 S氏はハンドルの陰をのぞき込むと果たしてそこにはイラストに描かれた通りの スイッチをようやく見つけた。
しかし、問題はそれだけでは解決しなかった。 スイッチをひねろうにも、手で掴むような場所がないのだ。 よく見ると真ん中に四角く穴が空いている。 S氏は爪の先をつっこんで回してみるが爪が割れてしまいそうだ。 きっとここにはノブが付いていたに違いない。それがなにかの弾みで 取れてしまったのだろう。S氏はフロアを探したがそれらしき物は 見あたらない。 仕方がないのでドライバーを突き刺して回してみることにした。 だがいくらやっても回らない。 S氏はスイッチを壊しそうになったところでようやくあきらめた。
ディーラーにさっそくクレームを付けてやろう。 エンジンがかからないのではお話しにならないではないか!
部屋に戻ったS氏が何気なく説明書をひらくとそこには盗難防止の イモビライザーの説明が書かれていた。 なんと、エンジンスイッチにカギが刺さっているではないか!
そうS氏はディーラーに渡されたカギはドアの施錠にだけ使うものだと 思っていたのだった・・・
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