航宙日誌
『革命戦記』と輝&Ark☆の珍道中?

2002年06月08日(土) シリーズとしての『雪風』

 夏発売に向けて、公式HPがスタートしたわけだが、スタッフ・コメントなども披露されていたりする。正確にはアニメ・スタッフには入らないハズだが、生みの親=原作者・神林長平氏のコメントもあった。
 そこで明かされたのは、まず、「決して『雪風』はシリーズ構想ではなかった」ということだった。・・・つまり、「当初から漠然とでも、構想されていたのでは?」という輝の所感は正しく勝手なものだったわけで──読んだ時点で既にシリーズとして存在していたが故の思いこみ、刷りこみにすぎなかったというところか。

 『戦闘妖精・雪風』は正に“雪風”の物語であり、“雪風”自身は存在としても完結していた。だが、彼女に身をすり合せるようにして生きてきたパイロット、即ち深井零の存在は希薄になる一方だった。万事が「俺には関係ない」という零の全ては“雪風”だが、彼女がどのように零なるパイロットの存在を受けとめているかは、彼女の視点が書かれるわけでもないので、その行動から類推するしかない。
 時にパイロットの意志に反して動くのは高度な知性を具えた戦闘機ならでは──しかも、絶対帰還命令を受けるが故に機械であろうと、“生存”本能を持ち合わせている──だが、零にとっては自己を見失いかねない瞬間だ。相棒とも信じていた“雪風”にパイロットとしてすら必要ないと判断されれば、彼の世界は終わる。第一作の『戦闘妖精・雪風』は正しく、そのような終焉を見た。
“雪風”はスーパーシルフの機体に拘ることなく、自身そのものたるデータを別の機体へと転移させて、あまつさえ脱ぎ捨てたカラの如く、かつての自らの機体を破壊してしまう。ただ、パイロットの零を放っておかずに射出したのは、全く無視していたのではないということか? 或いは未だ、終結を見ないJAMとの戦いの中で、零が必要となるだろうとの予兆を垣間見せたとも考えられる。
 続く『グッドラック 戦闘妖精・雪風』冒頭では零は自己を閉ざしていた。“雪風”に捨てられたと、何をも無視し、何にも傷つかないハズのブーメラン戦士が深く傷ついていた。彼がその世界に戻り、己を取り戻すのも──新たな機体を得た“雪風”ら機械知性体に必要なのだと、目覚めよと呼ばれた時だった。それも依存だろうか。
 そして、零は、ただ相棒なのだと無条件に、縋るように信じていた“雪風”との関係を今一度、見直していく。それは同時に、機械や人間とは分けない“他者”の存在を認識ることへの第一歩となる。
 ここからが『グッドラック 戦闘妖精・雪風』の物語、深井零の物語の始まりといえるだろう。これは作者の視点の変化にもよるとはコメントからも明らかだ。“雪風”を始めとした機械から、零たち人間へと・・・。その関わりあい方へと。
 この物語の始まりは“異星体ジャム”の設定にもある。作者は戦闘機“雪風”の矛先を人間に、生命には向けたくなかったという。それが全く人間とは異なる存在、理解不能どころか、認識不可能な存在とのコミュニケートへの問題提起を生んだ。これは翻れば、人間同士のコミュニケーションを考えることにも通じる。人間の味方であるハズの地球側機械知性体との関わり方にしても同様だ。
 『雪風』の世界において、フェアリイではジャムとの戦いは続いているが、南極の通路のこちら側・地球でも相もかわらず、人類は闘争をくり返し、続けている。人類間のコミュニケートすら難しい状況で、“わけのわからない異星体”と理解などできるハズがない──で済ませるのは簡単だが・・・。
 『グッドラック』でもジャムが“人間に理解できない存在”という前提は生きているが、変化もある。ジャム自身が自らに近い存在と認めつつも、やはり理解できないと、深い関心を示してきたのが“雪風”と零を含む特殊戦──ブーメラン戦隊だった。
 『グッドラック』の終焉で、ブーメラン戦隊を知ろうとするための、ジャムによるFAFへの総攻撃に対し、つるむハズのないブーメラン戦士たちが、内心はどうあれ、自己と自己の所属する特殊戦を守るために戦う。夫々がたまたま同じ判断を下しただけとしても、彼らは一致団結していた。そして、“雪風”と零も又、その只中に出撃していくシーンで終わる。
 その戦いそのものが如何なる決着を迎えるのか。彼らは何を知るのか。何を見るのか。
 ジャムも又、特殊戦を理解できるのか。できたとして、その後には何を求めるのか。できなければ?
 はたして、双方が歩み寄ることなどあるのか。更なる泥沼が待っているのか。
 そして、地球は──・・・。

 その答は続くシリーズとして、書かれる可能性もあるが、読者の各々が考えてみることもできる。“他者”とのコミュニケートというものの難しさを。といって、放棄する虚しさも・・・。

 自分とは別の存在である“他者”とのコミュニケートの奥底に眠る感情についても又、見直せるハズだろう。


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輝−Hikaru− [MAIL] [HOMEPAGE]

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