京のいけず日記

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2005年07月30日(土) 通勤絵日記 地面を這う蝉

木曜日だったかな。
次の仕事場への移動中、幅3メートルほどの道をセミが横断していた。

あぶらゼミ危うく踏みつけそうになって
慌てて足を止めた。

そしたら、そいつも
ピタリと身をすくめた。

しばらく見ていると安心したのか
また地面を這い始める。

向こう側まで渡る気なのか。
まだ道路の真ん中あたり。

このままだと、人や、自転車に
轢かれてしまうかもしれない。

そっと持ち上げて
草の上に置いてやろうか。

あぁ。でもやめておこう。
力尽きて、飛べなくなってしまったセミだ。

今更、どこへ行こうとしているのか。
最期まで自分の行きたいところへ向かえばいい。
道の半ばで踏み潰されるのも運命だ。

通り過ぎて仕事先の建物の階段を上がる。
教室の扉を開ける。

拾いあげてやれば良かったな。
今から見に行こうか。セミ。

授業開始5分前。
ぐだぐだと思いめぐらしている内に人が入って来た。
もう遅い。

午後10時。教室の鍵を閉める。
駅へ向かう帰りの道、先のところで暗がりを探したら、
向かい側の敷石の上にセミのひっくり返った死骸が転がっていた。

…死んじまった。
轢かれもせず、奴がそのままの姿で辿り着いたことに安堵する。
あとは蟻が弔ってくれるさ。


優しい人間なら、
蟻のように道端の真ん中を這っていたセミを拾い上げただろうか。

虫などに何の興味もない人間なら、
奴の存在に気づきもしなかったかもしれない。

ただ、消えていくのをじっと見ている。
小さな虫一つ救えやしない。

何て中途半端な人間なんだろ。


Sako