井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2026年03月08日(日) チェコ映画傑作選(一口のパン/夜のダイヤ、第五の騎士、火葬人)、炎かがよへ、幕末ヒポクラテスたち、OCHI!-オチ-、四月の余白

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<チェコ映画傑作選>
『一口のパン』“Sousto”
『夜のダイヤモンド』“Démanty noci”
1960年代にチェコ・ヌーヴェルヴァーグと呼ばれた作品群の
旗手ともされた監督ヤン・ニェメツが、1960年に芸術アカデ
ミーの卒業制作で発表した11分の作品と、1964年発表の長編
デビュー作で嚆矢とされた67分の作品の2本立て。
卒業制作の作品では、強制収容所へ向かう列車からの逃亡を
企てる3人の男が、停車中にパンの積まれた貨車から食料を
盗み出す顛末が描かれる。コントのような作品だが時間経過
などが執拗に描かれて、学生映画らしさも満喫される。
そして後者では、逃亡している2人の若者が森の中を疾走し
その挙句に老人ばかりの自警団らしき一団に捕まるのだが。
そこから後が何ともシュールというか…。かなり不思議な雰
囲気の漂う作品になっていた。

この2作は共にチェコの小説家アルノシュト・ルスティクの
原作によるもので、ルスティクは脚本にも関っている。なお
後者のみ過去に日本での上映の記録はあるようだ。

『第五の騎士は恐怖』“A pátý jezdec je Starch”
ナチスドイツ制圧下のチェコを描いたハナ・ベロハドスカ原
作・脚本、ズビニェク・ブリコフ脚本・監督による1965年の
作品。
題名は黙示録の四騎士に準えたもので、チェコでホロコース
ト計画が推し進められる中、負傷したレジスタンスへの非合
法の治療に当たる医師がモルヒネを入手しようとプラハの街
を彷徨う姿が描かれる。
壁一面に張られた処刑者名の一覧と告発を誘う電話番号の掲
示など、この作品も現実を超えたかなりシュールな映像美に
溢れた作品だ。まあそれは現実にもあったものなのかもしれ
ないが…。


『火葬人』“Spalovač mrtvol”
1968年に製作され、1972年のシッチェス映画祭で最優秀作品
賞を受賞したものの、本国では公開後すぐに共産主義による
検閲で上映禁止となり、長く国内での上映が出来なかったと
いう作品。
1930年代のナチス台頭期を背景に、ごく普通の一般人だった
男性が周囲のイデオロギーの変化などに同調し、徐々にモン
スターへと変貌して行く姿が描かれる。正しくファシズムの
恐怖が描き切られた作品と言える。
その上映を禁止した共産政権の思惑、そしてその恐怖は現代
にも通じているものかもしれない。

原作・脚本はラジスラフ・フクス、監督はユライ・ヘルツに
よる。
以上の作品は4月10日から30日まで、東京はヒューマントラ
ストシネマ渋谷にて<チェコ映画傑作選>として公開される。
なおこの紹介文は、配給会社コピアポア・フィルムの招待で
試写を観て投稿するものです。

『炎かがよへ』
戦国から安土桃山に続く戦乱時代の陸奥国を背景に、現在の
福島県会津若松市を中心とした領地を守った大名蘆名盛隆の
生涯を史実に基づき描いた作品。
主人公は須賀川二階堂氏の長男として生まれるも、父親が蘆
名氏との戦いに敗れたために人質として会津に送られた。と
ころが蘆名氏の当主が嫡男を残さずに死去したことからその
未亡人と結婚、蘆名氏の養子となって自ら当主となる。
そんな不規則な形で大名蘆名盛隆となった主人公だが、当時
は越後の国での家督争いなど周囲で騒乱が続き、その一方で
背後からは伊達氏との抗争にも悩んだ盛隆は、天下人徳川家
康に取り入って領地の安定を図ろうとする。
そんな歴史の荒波に翻弄された蘆名盛隆だが、その生涯は予
想外の結末を迎えることになる。

出演は2018年大河『西郷どん』などの荒木飛羽、2021年ドラ
マ『ドクターX』などの元之介、元乃木坂46の樋口日奈、
2019年9月8日付題名紹介『殺さない彼と死なない彼女』な
どのゆうたろう。
さらに劇団☆新感線の吉田メタル、2022年6月紹介『劇場版
ねこ物件』などの松大航也、『ミュージカル・テニスの王子
様』などの杉江大志、2018年ドラマ『花のち晴れ〜花男〜』
などの翔、2024年1月紹介『身代わり忠臣蔵』などの加藤小
夏、元7人制ラグビー日本選抜メムバーの佳久創。
そしてダイアモンド☆ユカイ、timelez原嘉孝、A.B.C-Z戸塚
祥太、京本政樹、中村梅雀ら多彩なメムバーが脇を固めてい
る。
脚本と監督は2019年3月24日付題名紹介『最果てリストラン
テ』などの松田圭太。キャラクターデザインを2019年7月紹
介『超・少年探偵団NEO』などの天野喜孝が手掛けている。
物語の前半は戦国ものとして剣戟シーンなどもあり、結構頑
張っているなと観ていたが、中盤からはあらぬ方向に転がり
始め、結末は正に予想外だった。しかしウィキペディアなど
によると最後は史実の通りのようで…。
その原因などはさすがに俗説とされてはいるものの記述があ
り、確かにこんなことがあったろうと否定はできないものに
なっている。それは正しく現代にも通じる物語だったという
訳だ。その雰囲気を出演者たちが巧みに描き出している。

公開は4月3日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷他にて
全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社S・D・P/shinshinの招待で
試写を観て投稿するものです。

『幕末ヒポクラテスたち』
京都府立医科大学を卒業し、医師国家試験にも合格した異色
の経歴を持つ大森一樹監督が、2022年の母校創立 150周年を
記念して企画したものの同年に他界。監督が遺した最後の企
画とされる幕末期の日本近代医療の夜明けを描いた作品。
どんな病も葛根湯を飲めば治るという中国伝来の漢方医と、
長崎出島で学んだ蘭方医が拮抗していた時代。そんな時代に
蘭方医の主人公は京都の辺境の庶民の中で漢方医と争いなが
らも着実に西洋医学を進めていた。
そんなある日、見た目でガラの悪い若者が主人公の許に駕籠
で乗り付け、豪商の家への往診を依頼する。そんな金では動
かないとする主人公だったが、医術の必要を感じて往診に向
かい、その患者は見事に回復する。ところが…。
迎えの若者は豪商の放蕩息子で賭場の争いで重傷を負い、主
人公の許に転がり込んでくる。そこで主人公は初の開腹手術
を敢行、見事回復した若者は弟子入りを懇願するが、主人公
は本当にやる気なら出島に行けと送り出す。
そして15年後、立派な蘭方医となって戻ってきた若者を迎え
た時、医学上の大事件が勃発する。

出演は2017年1月紹介『3月のライオン』などの佐々木蔵之
介、2018年7月29日付題名紹介『止められるか、俺たちを』
などの藤原季節、2019年9月8日付題名紹介『影踏み』など
の藤野涼子。
さらに2006年4月紹介『ゆれる』などの真木よう子、2026年
2月紹介『今は昔、栄養映画館の旅』などの柄本明、2008年
7月紹介『フレフレ少女』などの内藤剛志。
他に川島鈴遥、堀家一希、諏訪太朗、阿南健治、栗原英雄、
吉岡睦雄、斉藤陽一郎らが脇を固めている。そしてナレーシ
ョンを2025年10月紹介『無明の橋』などの室井滋が担当して
いる。
脚本は大森監督の企画時からの参加で2012年1月紹介『はや
ぶさ 遙かなる帰還』などの西岡琢也。監督は大森監督の許
で助監督などを務め、師と仰ぐ2009年6月紹介『のんちゃん
のり弁』などの緒方明。運命と思っての担当だそうだ。
原作として稲垣浩監督、菊島隆三脚本、森繁久彌主演による
1960年の東宝映画『ふんどし医者』が掲げられ、物語の骨子
はほぼそれに沿っているようだ。ただし大森監督は自身の監
督第2作『ヒポクラテスたち』の続編とも語っている。
そんな物語は正に医療の根幹を描いたものでもあり、それが
『ヒポクラテスたち』に出演した柄本明、内藤剛志や、大森
作品でデビューしたという室井滋など大森監督所縁の俳優に
よって実現されている。これぞ大団円というものだろう。

公開は5月8日より全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ギャガの招待で試写を観て投稿
するものです。

『OCHI!-オチ-』“The Legend of Ochi”
ビヨークのミュージックヴィデオなどを手掛ける映像作家の
アイザイア・サクソンによる初の長編映画監督作品で、多く
の話題作を提供するA24が初めて手掛ける本格ファンタシー
作品。
舞台は少し過去のルーマニア・トランシルヴァニアのカルパ
チア山脈。主人公はその土地に暮らす少女。そこには人間を
襲うとされる-オチ-と呼ばれる生物がいて、人々はその生物
の駆逐に躍起となっていた。
そんな時、-オチ-の出現が伝えられ主人公の父親は娘と息子
を含む地元の少年たちを組織してその討伐に向かう。ところ
がその作戦の中で主人公は傷ついた-オチ-の子供を見付け、
隠して家に連れ帰ってしまう。
こうして主人公と-オチ-は心を通わせるようになるが、ある
切っ掛けから主人公は-オチ-の言葉が判ることに気が付く。
それは小鳥のさえずりにも似た美しい言語だった。そして少
女は-オチ-を親の許に返すべく行動を開始する。

出演はドイツ出身で2019年に演じた作品により同国の映画賞
で史上最年少の主演女優賞に輝いたというヘレナ・ツェンゲ
ルと、俳優、映画監督、ミュージシャンなど多彩に活動する
2019年9月29日付題名紹介『IT イット THE END “それ”が
見えたら、終わり。』などのフィン・ウォルフハード。
そして2025年8月紹介『ブライアン・エプスタイン』などの
エミリー・ワトスンと、2024年9月紹介『ビートルジュース
ビートルジュース』などのウィレム・デフォーが2人の両親
役で登場する。
作品は監督自身がスピルバーグやジブリを挙げている通り、
それらの作品への思いやオマージュに満ちたもので、それは
ファンにとっては嬉しい作品ではある。ただ物語的にはスト
レート過ぎるかな。
親子の問題や夫婦間の問題などいろいろ描いてはいるが、全
体に厚みはない感じがする。でもまあお子様向けのファンタ
シーとしてはこの程度で良いのかな。そこはA24作品への期
待が大き過ぎたのかもしれない。
アナログ技術を活用した造型や操演も巧みだし、映像的には
さすがと思わせるところは多い作品だった。

公開は4月3日より全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ハピネットファントム・スタジ
オの招待で試写を観て投稿するものです。

『四月の余白』
2016年2月紹介『ヒメアノ〜ル』などの𠮷田恵輔監督が、自
身の過去にも向き合って描いたとされる現在の若者を取り巻
く世界を写した作品。
登場するのは身体中に刺青の入った男。元半グレで元受刑者
のその男は、夜更けの街で行き場のない若者たちに声を掛け
続けている。そんな男は自身の体験を基に若者を更生させる
学園「みらいの里」を運営していたが…。
一方、暴力的な生徒のために学級崩壊が起きかけている教室
の女性担任は、矯正教育のシンポジュウムで男と出会う。そ
して藁にも縋る気持ちで男に相談を持ち掛け、生徒の母親と
も相談の上で「みらいの里」への入寮を決めるが…。
男が連れて行く間も暴れまくる生徒は「みらいの里」に着い
ても環境に馴染めず男との対立を続ける。それでも何とか共
同作業を行えるようになるが、そこで事件が起きてしまう。
それは他の寮生たちにも類が及ぶことになる。

出演は2023年3月紹介『ヴィレッジ』などの一ノ瀬ワタルと
2019年12月8日付題名紹介『架空OL日記』などの夏帆、そ
れに2023年Mrs.GREEN APPLE のミュージックヴィデオなどに
出ている上阪隼人。
他に篠原篤、占部房子、山��七海、和田庵、�眦痛�作、松木
大輔、小沢まゆ。さらにパトリック・ハーランらが脇を固め
ている。
映画の結末はちょっと論議を呼んでしまうかな。でもこれが
現実だろうし、ここにきれいごとを描くのは監督の想いでは
ないだろう。そんなかなりシビアな物語が描かれている。で
もこの現実をしっかりと観届けなくてはならない。
そんな想いを新たにする作品だった。
因に監督の次回作は今秋公開予定の『mentor』という題名で
結果的に本作と2部作になるもののようだ。

公開は6月26日より、東京地区は新宿ピカデリー他にて全国
ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社アークエンターテインメントの
招待で試写を観て投稿するものです。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二