井口健二のOn the Production
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2026年02月22日(日) 嵐が丘、今は昔、栄養映画館の旅、ARCO/アルコ

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『嵐が丘』“Wuthering Heights”
1847年に出版され、『リア王』『白鯨』と並んで「英米文学
三大悲劇」の一つとも称される女流作家エミリー・ブロンテ
が遺した唯一の小説を、2018年3月11日付題名紹介『アイ,
トーニャ 史上最大のスキャンダル』などのマーゴ・ロビー
製作、主演で映画化した作品。
舞台は19世紀初頭のイギリス・ヨークシャー。その高台に建
つ家には経済的に破綻した父親と令嬢が暮らしていた。そん
な父親が街から1人の孤児を連れてくる。やがて若者となっ
た孤児と令嬢は相思相愛となって行くが…。
その高台に建つもう一軒の家に商売で成り上がったと思われ
る一家が引っ越してくる。そしてその豪勢な暮らしぶりを目
の当たりにした令嬢はその家の主に憧れ、その求愛を受け入
れてしまう。その一方で若者は秘かに家を離れて行った。
それから数年後。

共演はジェイコブ・エロルディ、ホン・チャウ、シャザト・
ラティフ。他にアリソン・オリバー、マーティン・クルーン
ズ、ユアン・ミッチェル、オーウェン・クーパーらが脇を固
めている。
脚本と監督は2013年1月紹介『アンナ・カレーニナ』などに
出演の女優で、2020年『プロミシング・ヤング・ウーマン』
にて長編映画監督デビュー、同作でアカデミー賞® 脚本賞を
受賞したエメラルド・フェネル。なお同作はロビーの製作に
よるものだ。
物語は男性の目で見ていると何ともはやという感じだが、海
外の映画データベースによると過去に30本近くの映画化があ
るようで、映画の歴史が 120年とすると4年に1本程度の頻
度での映画化となるものだ。
まあそれほどに愛されている原作ということだが、元文学少
女の家内によると「まあ若い女性の願望小説ね」という評価
で、つまりは「ハーレクイン・ロマンス」やラノベといった
類の嚆矢と言える作品だろう。
僕自身は1939年のウィリアム・ワイラー監督版は観ているも
のだが、もう少しは文学的に描いていた感じがする。それに
比べると本作は正にハーレクイン作品で、それは現代的であ
ると同時に原作の本質を突いたものとも言えそうだ。

公開は全米でも2月13日に公開されたばかりの作品が、日本
では2月27日より全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東和ピクチャーズの招待で試写
を観て投稿するものです。

『今は昔、栄養映画館の旅』
劇団「東京乾電池」主宰の柄本明が朗読劇「今は昔、栄養映
画館」(竹内銃一郎原作)を引っ提げ、2025年5月の一か月間
に全国24都市の映画館で行った公演旅のドキュメンタリー。
原作は、映画監督と助監督の2人が完成披露の上映を前にし
た焦燥を描くもので、上映が迫るのに観客は0という状態か
ら突然先輩筋の来訪が伝えられ、座席の確保などのドタバタ
がある種の不条理劇として書かれたもののようだ。
そんな原作戯曲を柄本は「東京乾電池」のアトリエで朗読、
さらに2014年11月に劇団員の西本竜樹と2人の朗読劇として
公演。それを観に来た井上淳一から全国の映画館での上演が
提案されたということだ。
こうして井上が選んだ南は高知、西は広島から、北は新潟、
東は茨城までの映画館24館を巡る公演旅が行われた。そして
本作ではその公演のハイライトと共に、各映画館での館主ら
との交流や同行した劇団員の様子などが描かれている。

監督・撮影・編集は、本作の企画を担当した荒井晴彦監督に
よる2023年9月紹介『花腐し』などで助監督を務めていた竹
田正明の長編デビュー作。監督は元々柄本とも交流があった
ようで、そんな監督が正に懐に入って撮影をしている。
出演はいずれも「東京乾電池」の西本竜樹、古橋航也、柴田
鷹雄、鹿野祥平、松沢真祐美、鈴木寛奈。そして各映画館の
館主や関係者。さらに柄本佑や佐藤B作など柄本明所縁の演
劇人たちが数多登場して様々な関りを語ってくれる。
柄本関連のドキュメンタリーでは2019年3月31日付題名紹介
『柄本家のゴドー』が演技論などを戦わせて見応えのある作
品だったが、それに比べると本作はかなり軽い感じの作品に
仕上がっている。
そこにはある意味映画館を巡る珍道中のような趣もあって、
気楽に楽しめる作品とも言える。そこに柄本明の人生観みた
いなものも鏤められるが、それとてもあまり深く語られるも
のではなく、エピソード的な描き方だ。
それはまあ、実際の朗読劇が背景にあるという今回のシチュ
エーションでは止む終えないところでもあるし、そんな軽め
の描き方が本作の成立としては正しいものだろう。ここに深
いものを期待しても仕方がない。
その一方で本作は、全国に現存する映画館のカタログのよう
な観方もできるもので、そこにはシネコンにはない風情も描
かれていた。勿論それには存続のための苦労なども語られる
が、全体として映画館の楽しさが顕著に描かれていた。
演劇に興味のある人だけでなく、映画という文化を残すため
にも全ての映画ファンに観て貰いたい作品だ。

公開は公演の24都市に含まれなかった東京で3月14日に池袋
の新文芸坐、3月20日にシネマヴェーラ渋谷、4月4日に早
稲田松竹にて朗読劇「今は昔、栄養映画館」をセットにした
特別企画イヴェントが行われ、新文芸坐と早稲田松竹ではそ
の翌日から映画のみの上映も行われる。
なおこの紹介文は、配給会社マジックアワーの招待で試写を
観て投稿するものです。

『ARCO/アルコ』“Arco”
ナタリー・ポートマンが製作に関与し、アメリカ公開版の声
優も務めているというフランス製のSFアニメーション。
プロローグは大空に広がる世界に暮らす幼い少年。姉と両親
の家族は時空を超えるスーツで旅に明け暮れているが、12歳
以下の少年にはその機会が与えられていない。しかし出来心
から姉のスーツを借用し、冒険を始めるが…。
物語の主な背景は2075年の近未来社会。そこに暮らす少女は
少し生きづらい気持ちも持っていたが、そんな少女の前に未
来から来た少年が現れる。しかしそれは災害を引き起こし、
未来に帰りたい少年との冒険が始まる。

脚本と監督は作家でアニメーターのウーゴ・ビアンヴニュ。
ただし監督が書いたのは物語の概要と詳細な絵コンテまでの
ようで、実際の脚本は2015年の映画『EDENエデン』などの主
演俳優で本作の製作も務めるフェリックス・ド・ジヴリが手
掛けている。
また米国版にはポートマンが出演と書いた声優には、日本版
でも多彩な演者が登場しているようだが、そこは情報解禁前
となっている。ただフランス語版の試写を観ていてある登場
人物の声には、日本版の配役が想像できたものだ。
それにしても何とも可愛らしいアニメーションが作られたも
のだ。「空から降ってきたのは、虹色の少年…」という惹句
にはジブリ作品も連想させるが、本作の製作意図もその方向
を目指しているようだ。
ただし物語は『E.T.』を踏襲しているもので、展開にもそ
の影響は観られる。主人公に関って空に掛かる虹の映像も、
確か『E.T.』にもそんなヴィジュアルがあったような…。
そんな感覚の作品だ。
物語の背景は2075年とさらに遠い未来(2932年)という設定だ
が、2075年がレトロ未来風に描かれているのもSFファンに
は魅力的な作品といえる。そして結末には哀愁もあって、そ
の辺が突き刺さってくる作品にもなっている。
特に傷ついたロボットの顛末は感動的で、見事という他にな
い作品だった。正に人の血の通ったSFアニメーションと言
える作品だ。素晴らしい作品をありがとう。

公開は4月24日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷他にて
全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社AMGエンタテインメント/ハ
ークの招待で試写を観て投稿するものです。


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井口健二