井口健二のOn the Production
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2025年08月24日(日) 港のひかり、インディセント

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『港のひかり』
2023年3月紹介『Village/ヴィレッジ』などを手掛けたプロ
デューサーで2022年に他界した河村光庸氏が残した企画を、
『ヴィレッジ』などの藤井直人監督で実現した作品。
主人公は能登半島の小さな漁村に住む初老の男性。小さな船
で漁に出ているが漁獲は少ない。そんな主人公には若い猟師
が嘲笑を浴びせるが彼は無頓着だ。そんな主人公には支援者
もいるが…。
そんな主人公が一少年に目を留める。その少年は白杖を突い
ており、聴けば薬物中毒のヤクザが運転する車の事故に巻き
込まれ、両親と視力を失ったのだという。その少年と主人公
は交流して行くが、そこには厳しい声もあった。
そして主人公の背後にはある影が近づいてきていた。

出演は河村企画、藤井監督による2021年『ヤクザと家族 The
Family』にも出演の舘ひろし。相手役に眞栄田郷敦と歌舞伎
役者の尾上眞秀。他に斎藤工、ピエール瀧、一ノ瀬ワタル、
MEGUMI、赤堀雅秋。さらに市村正親、宇崎竜童、笹野高史、
椎名桔平らが脇を固めている。
脚本は藤井監督が手掛けているが、2021年から進められた企
画には河村、舘の意見も取り入れられているそうだ。そして
撮影監督には大ベテランの木村大作。美術監督は2024年3月
紹介『プロミスト・ランド』などの原田滿生という最高の布
陣の作品だ。
物語はチャールズ・チャップリンの1931年作『街の灯』をモ
ティーフにしたとされているが、少年との絡みなどは1921年
作『キッド』も思い浮かぶ。そんな名作に裏打ちされた作品
とも言える。
その一方で本作は、社会派ドラマだった『ヴィレッジ』から
は一転したエンターテインメント性も狙いのようで、ヤクザ
社会を戯画化する点ではなるほど本作が河村氏のスターサン
ズと東映との共同製作という点にも納得した。いやはや登場
する強面の面々には思わず膝も打ったものだ。
まあ結末などは多少緩いと思われる面もあるが、王道のエン
ターテインメント作品には仕上げられている。

公開は11月14日より全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東映、スターサンズの招待で試
写を観て投稿するものです。

『インディセント』“Indecent”
2017年8月紹介『ホリデイ・イン』や2023年12月紹介『ピア
ノ2 PIANOS 4 HANDS』などが上映された「松竹ブロードウェ
イシネマ」から2025年秋公開の3作品が発表され、その内の
1本を鑑賞した。
1907年にポーランドの作家ショーレム・アッシュが発表した
イディッシュ語の戯曲「復讐の神」。それを1923年にブロー
ドウェイで上演した際に巻き起こった論争を基に、アメリカ
の作家ポーラ・フォーゲルが描いた2015年の舞台劇。
物語の背景は第2次大戦前、ナチスが台頭し始めた頃の東欧
の町で「復讐の神」の上演が計画される。しかしその舞台で
はある事情から芝居の眼目である「雨」のシーンが削除され
ることも紹介される。
そのシーンでは女性同士の恋愛が描かれており、当時の世相
ではそれは許されていないものだった。しかしそのシーンが
物語の主題と考える俳優たちはそれに反発し、演者たちと舞
台の主宰者との間で反目が始まる。
その一方で劇場外ではナチスによるユダヤ人狩りが始まり、
舞台への締め付けも激しくなってくる。それでも舞台は演じ
られるのか…。そして演者たちが出した結論は…?

原作と脚本はポーラ・フォーゲル。監督と演出はレベッカ・
タイチマン。出演はリチャード・トポル、カトリーナ・レン
ク、アティナ・ヴァーソン他という舞台を撮影した2017年の
作品だ。
正直に言ってハリウッドが描くユダヤ人迫害の話は、イスラ
エルがガザを攻撃している現在の状況ではある種の虚しさを
感じてしまう。それは元々は戦争の悲劇を描くはずが、現状
と乖離していることにもよるのだろう。
しかしこの作品ではそこにジェンダーの迫害が加味され、そ
れが全ての迫害への抵抗のようにも捉えられて、何か崇高な
作品に昇華していると思えたものだ。それは特に最後の数分
の演出が全ての差別からの解放のようにも見えた。
そんな見事な演出の作品だった。

「松竹ブロードウェイシネマ」2025年秋3作品公開は、1本
目の『エニシング・ゴーズ』が10月31日より、2本目の本作
『インディセント』が11月14日より、3本目の『アイタニッ
ク』が11月28日より、それぞれ1週間(東劇のみ2週間)限定
で全国順次上映となる。
なおこの紹介文は、配給会社松竹の招待で試写を観て投稿す
るものです。


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井口健二