| 2025年07月13日(日) |
壁の外側と内側、愚か者の身分 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『壁の外側と内側』 2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞者で中東ジャーナ リスト川上泰徳氏が、2024年7月にイスラエル・ヨルダン川 西岸のパレスチナ自治区に赴き、ペンをiPhoneに持ち替えて 記録したドキュメンタリー。 第2次世界大戦後に建国されたユダヤ人国家イスラエルの国 土には元より暮らすパレスチナ人がおり、彼らはヨルダン川 西岸とガザ地区に定められた自治区に居住している。そんな パレスチナ人とユダヤ人は以前は交流もあったとされる。 しかし2002年にイスラエル政府は西岸地区との境界に全長が 700kmに及ぶ壁を建設する。それはパレスチナ人のテロリス トの侵入を防ぐという名目だが、以来両者の交流には厳しく 制限が設けられることになる。 そんな壁の存在に関しては、今までにもドラマやドキュメン タリーなどで何度も観て来たが。2023年10月7日、ガザ地区 の壁を越えてイスラム組織ハマスが攻撃を仕掛け、それに対 する報復としてイスラエルがガザ攻撃を開始する。 そして本作では、当初はガザ地区の取材も検討されたようだ が、現状ではジャーナリストのガザ地区の取材は困難となっ ており、その代替としてヨルダン川西岸地区が取材されてい る。そこでは戦闘は行われていなかったが…。 映画は延々と続く荒野を写して行く。そこには日陰を作るテ ントのようなものがあり、そこに羊飼いと 400頭という羊が 暮らしていた。そこは彼らが先祖伝来の山羊や羊を飼って生 計を営んでいた場所だ。 そこから進んで行くと住居の残骸が登場する。それはパレス チナ人の住居だったもので、数日前にイスラエル兵士が重機 と共に現れ破壊して行ったのだという。そこは協定によって パレスチナ自治区と定められている場所だ。 さらにその界隈にはイスラエル軍が演習場としている場所も あり、砲弾の飛び交う中でパレスチナ人が暮らしている。そ こは戦場ではないが危険が伴う場所だ。そんな中でもパレス チナ人の暮らしは続けられている。 そんな壁の外側に対して内側では、イスラエル政府を支持す るデモ隊が行きかう中で、パレスチナ自治区に対する攻撃に 疑問を呈するユダヤ人の若者も存在する。しかし彼らの声は 小さい。そんな壁の外側と内側が描かれる。 川上氏は元々取材時の補助としてiPhoneでの撮影を始めたよ うだが、それが映画として上映できる時代になったというこ とだ。従って映像は正に傍観者という感じだが、その距離感 が正しく真実を伝えているという感覚になる。 それは決して迫力のある映像というものではないが、却って それが胸に突き刺さるものにもなっていた。 公開は8月30日より、東京地区は渋谷ユーロスペース他にて 全国順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社きろくびとの招待で試写を観て 投稿するものです。
『愚か者の身分』 2018年大藪春彦新人賞を受賞した西尾潤原作小説を、2016年 10月30日付題名紹介『愚行録』などの向井康介脚本、2007年 『渋谷区円山町』などの永田琴監督で映画化した作品。 舞台は新宿歌舞伎町。若い男2人がじゃれ合うように闊歩し ている。彼らは女性を装ったSNSで標的となる男性の個人 情報を引き出し、パパ活女子を派遣して男性に戸籍の売買な どを持ちかける闇バイトの仕事人だ。 そんな彼らには当然の如く反社会勢力との関りがあり、さら には運転免許証の偽造などもっと危ない組織との繋がりも持 つようだ。しかし彼ら自身は稼いだ金で飲み歩くなど、青春 を謳歌する姿も見せている。 そんな社会の底辺に蠢く彼らだったが、何時かはその境遇を 抜け出し、真っ当に生きることも夢見ていた。それは社会の 闇を見続けての結論でもあった。しかしそんな彼らに試練の 時が訪れる。 出演はNHK連続テレビ小説『あんぱん』などの北村匠海、 同じく『虎に翼』などの林裕太、それに綾野剛。さらに山下 美月、矢本悠馬、木南晴夏。他に松浦祐也、加治将樹、田邊 和也、嶺豪一らが脇を固めている。 映画は、3人の登場人物それぞれの名前の振られた3つのパ ートで進行し、特に前半の2パートは視点を変えることでか なりの緊張感のある展開に仕上げられている。それは映画の 醍醐味とも言えるものだ。 それが第3のパートでは、映像的にはかなり強烈なものなの だが演出は少しテンポも緩めて、コメディではないけど多少 戯画化した感じになっている。この緩急がこの作品では見事 に嵌っている感じがした。 内容的には闇バイトという現代を象徴するような悪事の深刻 な現実を描いているもので、その手口などはリアルで恐怖心 すら覚えるもの。その現実味のある恐怖を映画の前半では見 事に観客に突き付けてくる。 しかしそれを後半ではある種の戯画化することで、前半の恐 怖心をさらに倍加する効果にもなり、全体として物語に潜む 悪徳を鮮明に炙り出している感じもした。それは見事でこれ を作り出した脚本家と監督には拍手を贈るものだ。 これこそが社会派エンターテインメントと呼べる作品だ。 公開は10月24日より全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社 THE SEVEN、ショウゲートの招 待で試写を観て投稿するものです。
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